説明

塩素発生用電極

【課題】塩素発生用の電極であって、塩素過電圧が低く、耐久性にも優れた電極を提供する。
【解決手段】バルブ金属からなる電極基材と、該電極基材を被覆する被覆層とからなる塩素発生用電極であって、前記被覆層は、金属白金をマトリックスとし、前記マトリックスにイリジウム又はルテニウム若しくはこれらの酸化物のいずれかよりなる分散粒子が分散してなるものである電極である。この分散粒子の含有率は、重量基準で0.5〜80%とするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生分野等で使用される塩素ガス、殺菌水等を電解により製造するために用いられる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療等の衛生分野や化学合成等で使用される塩素ガス、塩素化合物、及び殺菌水等は、食塩水、海水等を電解質とした電解法により製造されている。これら塩素発生のための電解において使用される電極としては、チタン、タンタル等のバルブ金属を電極基材とし、これに電極触媒活性を有する白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の貴金属、又は、貴金属酸化物を含む被覆層を設けた電極が知られるようになっている。
【0003】
これらの被覆層を備える塩素発生用の電極は、被覆層の形成方法により分類できる。被覆層の形成方法として一般的なものとしては、焼成法、めっき法がある。
【特許文献1】特公昭48−3954号公報
【特許文献2】特開平8−85893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
めっき法は、製造工程が比較的単純であり、被覆層の厚さを自由に制御することができるという利点がある。しかし、めっき法により製造される電極(以下、めっき電極と称する。)は、被覆層が純金属の形態であるものが殆どであり、塩素発生過電圧が高いものが多く電解効率に劣る面がある。また、めっき皮膜は、電解条件によっては消耗速度が早い場合があり、使用領域が限定される場合がある。
【0005】
一方、焼成法により製造される電極(以下、焼成電極と称する)は、被覆層がイリジウム酸化物等、触媒活性に優れる貴金属酸化物よりなり、電極の塩素発生過電圧が低減され良好な電極特性を有する。しかしながら、焼成電極は耐久性に乏しいという欠点がある。耐久性の問題については、食塩電解等では、電極のクリーニング及び効率的な使用を図るため周期的に極性反転を行なって電解することがあるが、焼成電極はこの極性反転を伴う電解において耐久性が乏しく、特に、陰極側での電解時には被覆層が剥離することがある。
【0006】
以上のように、塩素発生用電極にあっては、めっき電極及び焼成電極、共に一長一短があるのが現実である。そして、塩素発生効率が高く、且つ、耐久性に優れた電極の開発が望まれる。
【0007】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、電解により塩素を発生させるための電極であって、塩素過電圧が低く、耐久性にも優れた電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、めっき法による被覆層の利点(耐久性)と、焼成法による被覆層の利点(塩素発生効率)の双方を充足する電極として、白金からなるマトリックス(母相)に、貴金属又は貴金属酸化物粒子を分散させてなる複合材料を被覆層として備える電極を見出した。そして、かかる構成が、上記課題を解決することができるとして本発明に想到した。
【0009】
即ち、本発明は、バルブ金属からなる電極基材と、該電極基材を被覆する被覆層とからなる塩素発生用電極であって、前記被覆層は、金属白金をマトリックスとし、前記マトリックスにイリジウム又はルテニウム若しくこれらの酸化物のいずれかよりなる分散粒子が分散してなるものである電極である。
【0010】
本発明に係る電極の被覆層は、耐久性、とりわけ極性反転を伴う電解における耐久性に特に優れる金属白金をマトリックスとし、これに塩素発生効率向上のため、触媒活性を有する貴金属粒子又は貴金属酸化物粒子を分散させたものである。かかる構成により電解中の被覆層の剥離を抑制すると共に、塩素発生効率を確保している。
【0011】
分散粒子である貴金属又は貴金属酸化物は、イリジウム又はルテニウム若しくこれらの酸化物である。これらの貴金属、貴金属酸化物は、塩素発生効率を向上させる電極触媒として有用だからである。これら分散粒子は、平均粒径が0.01〜10μmのものが好ましく、粒径が小さい程、高分散の皮膜を得ることができる。また、その含有量は、被覆層に対する重量基準で0.5〜80%とするのが好ましい。かかる範囲において高い塩素発生効率、高耐久の被覆層となるからである。
【0012】
マトリックスを構成する白金は、「金属」白金と示したように、純度が高いものであり、具体的には98%以上の純度の白金が好ましい。そして、マトリックスである白金層の厚さ、即ち、本発明に係る電極の被覆層の厚さは、0.1〜100μmとするのが好ましく、より好ましくは0.5〜10μm、更に好ましくは、0.5〜5μmである。
【0013】
基材としては、バルブ金属が用いられ、チタン、ニオブ及びタンタルの適用が好ましい。特に好ましいのは、安価で加工が容易なチタンである。
【0014】
本発明に係る電解用電極は、貴金属又は貴金属酸化物の粉末が懸濁する白金めっき液を用いた電解めっき法により製造可能である。この方法は、基本的にめっき法に属するものであり、白金からなるめっき層がマトリックスとして形成されるが、その形成過程でめっき液中に懸濁している酸化物粒子が巻き込まれ、その結果、白金マトリックスに酸化物粒子が分散する被覆層が形成される。そして、この方法は、基本的にめっき法であることから、被覆層の厚さ制御が容易であり、また、マトリックスである白金について高純度で緻密なものが形成できる。
【0015】
本発明に係る方法で使用されめっき液としては、通常、白金めっき液として適用可能な白金塩の溶液を広く適用できる。例えば、ジニトロジアンミン白金(Pt(NH(NO:通称Pt−Pソルト)、ヘキサヒドロオクソ白金酸塩、塩化白金酸塩等が適用可能である。めっき液中の白金塩濃度としては、安定的な析出を得るため5〜25g/Lとするのが好ましい。
【0016】
一方、白金めっき液に懸濁させる貴金属、貴金属酸化物粒子は、電極の被覆層とする際に予定する粒径のイリジウム粒子を懸濁させるのが好ましく、また、その含有率は、予定する被覆層中の含有率と略同じくするのが好ましい。尚、粉砕方法は特に限定はないが、機械的粉砕が好ましく、アルミナボール、ジルコニアボール、メノーボール等を粉砕媒体とするボールミル等の粉砕装置による粉砕が好ましい。
【0017】
そして、以上の貴金属、貴金属酸化物粉末が懸濁するめっき液に、電極基材を浸漬し。通電を行うことで被覆層が形成される。この際のめっき条件としては、液温40〜90℃、通電条件は、電流密度0.1〜5A/dmとするのが好ましい。また、被覆層の厚さはめっき時間により制御することができるが、1分間〜1時間とするのが好ましい。更に、めっき中はめっき液を強攪拌しながらめっきするのが好ましい。液中の粉末を均一に分散させ、被覆層への分散性を確保するためである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電解用電極は、極性変換を伴う電解で使用しても被覆層の剥離が生じ難く耐久性に優れた電極である。そして、分散粒子による触媒活性により塩素発生効率も良好である。
【0019】
本発明に係る電解用電極は、めっき液に粉末を懸濁させた複合めっきにより製造することができる。この方法は基本的にめっき法であるため、被覆層の厚さを自由に調整することができる。また、めっき法により形成された白金層は、純度が高く基材の保護作用が高い上に、使用後のリサイクルが可能であり、資源の有効利用にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0021】
第1実施形態:まず、ヘキサヒドロオクソ白金酸塩を含む市販の白金めっき液(商品名:プラチナート 日本エレクトロエンジニヤース(株)製)に、酸化イリジウム粉末を懸濁させ、以下の組成のめっき液を調整した。
【0022】
プラチナート 白金量で20g/L
酸化イリジウム粉末(平均粒径0.7μm) 10g/L
【0023】
そして、このめっき液中に基材として脱脂、洗浄処理をしたチタン基板を浸漬し、めっきを攪拌しつつ下記条件でめっき処理をした。
【0024】
液温 85℃
めっき液pH 14
電流密度 3A/dm
めっき時間 6分
【0025】
めっき処理の結果、チタン基板上に、厚さ1μmの被覆層が形成された。この被覆層は、白金をマトリックスとし、これに酸化イリジウムが微細に分散する構造を呈していた。
【0026】
第2実施形態:ここでは第1実施形態の酸化イリジウム粉末に替えて、酸化ルテニウム粉末(粒径0.1μm)10g/Lを白金めっき液に懸濁させ、チタン基板にめっきした。めっき条件等は第1実施形態と同様とした。そして、めっき処理の結果、第1実施形態と同様の組織を有する被覆層が形成できた。
【0027】
比較例1:比較のため、酸化イリジウムを被覆層とする焼成電極を製造した。チタン基板に、塩化イリジウム酸とバインダーとして有機チタン化合物をブタノールに溶解した溶液を塗布し、乾燥後450℃で1時間焼成し、この塗布及び焼成を10回繰返して酸化イリジウムからなる被覆層を形成した。この被覆層の膜厚は8μmであった。
【0028】
比較例2:ここでは、めっき法により、チタン基板上に白金よりなる被覆層を形成した。めっき液は、上記第1実施形態で使用しためっき液の貴金属粉末を混合しないものを用いた。めっき条件は、第1実施形態と同様とした。そして、めっき処理により、膜厚1μmの白金からなる被覆層が形成された。
【0029】
比較例3:めっき法により、チタン基板上にイリジウムよりなる被覆層を形成した。めっき液は、ヘキサブロモイリジウム(III)酸ナトリウムとシュウ酸とからなる液(イリジウム濃度10g/L)を用いた。めっき条件は、液温85℃、電流密度0.2A/dm、めっき時間40分とした。そして、めっき処理により、膜厚1μmのイリジウムからなる被覆層が形成された。
【0030】
以上、製造した第1、第2実施形態及び比較例1〜3の電極について、塩化ナトリウムを電解質とする電解試験を行い、これらの性能、耐久性について、比較、検討した。
【0031】
電解試験1:1Lの1%NaCl溶液中で、各電極を陽極として電流密度1A/dm、時間5分間の条件で電解を行い、電解による塩素発生量を測定した。尚、ここでは電極にマスキングをして電解面積が10mm×10mmとなるようにしている。
【0032】
電解試験2:3%NaCl溶液中、各電極を陽極として電流密度50A/dm、時間100時間の条件で電解を行い、電解後の被覆層の減少量を測定した。
【0033】
電解試験3:3%NaCl溶液中、電流密度50A/dm、時間100時間の条件下、極性反転(1min−1min)させながら電解を行い、電解後の被覆層の減少量を測定した。
【0034】
以上の内容の各電解試験の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1からわかるように、比較例1の焼成電極は、塩素発生量は優れるものの、極性反転を伴う電解における被覆層の消耗が激しい。逆に、比較例2、比較例3のめっきにより形成された白金、イリジウムからなる被覆層は、耐久性については焼成電極より優れるものの、塩素発生効率が低い。これらに対し、第1、第2実施形態に係る電極は、塩素発生量と消耗量とのバランスに優れ、長期間、良好な塩素発生効率を維持し得ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ金属からなる電極基材と、該電極基材を被覆する被覆層とからなる塩素発生用電極であって、
前記被覆層は、金属白金をマトリックスとし、前記マトリックスにイリジウム又はルテニウム若しくこれらの酸化物のいずれかよりなる分散粒子が分散してなるものである電極。
【請求項2】
被覆層中の分散粒子の含有率は、重量基準で0.5〜80%である請求項1記載の塩素発生用電極。
【請求項3】
バルブ金属からなる電極基材は、チタン、ニオブ、タンタルのいずれかよりなる請求項1又は請求項2記載の塩素発生用電極。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の塩素発生用電極の製造方法であって、
白金塩を含む溶液に、イリジウム又はルテニウム若しくこれらの酸化物からなる粉末を懸濁させてなるめっき液に基材を浸漬し、
前記基材を通電することにより、基材表面に白金を析出させつつ、分散粒子を白金中に分散させて被覆層を形成する電極の製造方法。

【公開番号】特開2008−127649(P2008−127649A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315775(P2006−315775)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】