説明

塩酸サルポグレラートの結晶形及びその製造方法

【課題】固形製剤の製剤化に適した結晶形の塩酸サルポグレラートを提供すること、及び再現性よく、より簡単な操作で、高い収率でその結晶形のものを製造する方法を提供すること。
【解決手段】図1と実質的に同一に示される粉末X線回折スペクトルを有する塩酸サルポグレラートのB形結晶を、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれた一種の溶媒若しくは二種以上の混合溶媒又はそれらの溶媒と水との混合溶媒から再結晶する方法により製造し、提供する。
前記溶媒の中でも含水アセトン又は含水アセトニトリルが好ましく、特に含水比率が1〜10重量%の含水アセトン又は含水比率が1〜7重量%の含水アセトニトリルが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、((±)−2−(ジメチルアミノ)−1−[[o−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ]メチル]エチルハイドロゲンスクシネート ハイドロクロライド、すなわち塩酸サルポグレラート(一般的名称)の結晶形及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸サルポグレラートは、優れた5−HT拮抗作用を有する化合物として見出され、慢性動脈閉塞症に伴なう潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善に有効な医薬として臨床で繁用されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭63−13427号公報
【非特許文献1】「ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(J. Med. Chem.)」、第33巻(第6号)、1818−1823頁(1990年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、塩酸サルポグレラートの原薬を製剤化検討に供するため、公知の方法(前記の特許文献1及び非特許文献1)により塩酸サルポグレラートの製造を試みた。その収率向上や精製効率向上のための条件検討中に、得られた結晶の粉末X線回折の測定結果や熱分析をしたところ、結晶多形が存在することを見出した。
特許文献1に記載の範囲内で条件を変えて追試をしたところ、2種の結晶形の混合物として得られ易く、その混合比率が一定しないこと、2種の結晶形のうちの1種が市販の製剤に使用されており公知であること、他の1種は未だ開示されていないことが判った。
結晶形の相違によって物性が異なる場合、その相違が温度や湿度等に対する結晶の安定性に影響を及ぼし、一定品質の製剤を得るための製造条件の設定を困難にする例は稀ではない。したがって結晶多形が存在する場合は、より好ましい結晶形のもののみを再現性よく選択的に製造することができれば、その製剤の工業的製造において有利であるが、塩酸サルポグレラートの結晶に関する詳しい情報は、未だ開示されていない。
そこで本発明者は、塩酸サルポグレラートの結晶について、工業的に有利な物性をもつ結晶を、再現性よく、実質的に純粋に取り出す方法を見出すことを課題として研究した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、塩酸サルポグレラートの2種の結晶形のうち、市販の錠剤に使用されている既知の結晶形(以下、A形結晶という。)のものと、新規である他の1種(以下、B形結晶という。)とをそれぞれ再現性良く高収率で製造する方法を見出し、本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち本発明によれば、次の(1)の結晶形並びにその結晶形の製造に関する(2)、(3)及び(4)の方法を、それぞれ提供することができる。
(1)図1と実質的に同一に示される粉末X線回折スペクトルを有する塩酸サルポグレラートのB形結晶。
(2)塩酸サルポグレラートを、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれた一種の溶媒若しくは二種以上の混合溶媒又はそれらの溶媒と水との混合溶媒から再結晶することを特徴とする、図1と実質的に同一に示される粉末X線回折スペクトルを有する塩酸サルポグレラートのB形結晶の製造方法。
(3)混合溶媒が含水アセトン又は含水アセトニトリルである請求項2に記載の方法。
(4)含水アセトンが1〜10重量%の水を含むアセトン又は含水アセトニトリルが1〜7重量%の水を含むアセトニトリルである請求項3に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶多形を有する塩酸サルポグレラートに関し、製剤化し易い実質単一形態(B形結晶)のものを、再現性よく、より簡単な操作で、高い収率で製造でき、供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る塩酸サルポグレラートのB形結晶は、含水の極性溶媒から再結晶することにより、製造し得るが、選択的に得ることができる溶媒としては、例えばアセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれた一種の溶媒若しくは二種以上の混合溶媒又はそれらの溶媒と水との混合溶媒等を挙げることができる。その中でも含水アセトン又は含水アセトニトリルが好ましく、その含水率は含水アセトンの場合1〜10重量%程度が好ましく、より好ましくは2〜8重量%程度であり、含水アセトニトリルの場合1〜7重量%程度が好ましく、より好ましくは2〜5重量%程度である。
塩酸サルポグレラートの粗結晶を、例えば含水アセトン又は含水アセトニトリルに溶解させる場合、溶媒の種類と含水比率により異なるが、概ね前記溶質1重量部に対して3〜10倍容量の当該溶媒を使用し、50℃〜70℃まで加温下に撹拌しながら行う。この溶液を撹拌下に1時間から24時間以内で、好ましくは3時間から8時間をかけて徐々に室温ないしそれ以下の温度まで冷却することにより、目的の塩酸サルポグレラートのB形結晶が高収率で得られる。
因みに一方の結晶形であるA形結晶(粉末X線回折パターン:図2)は、1〜9重量%の含水メチルエチルケトンを用いて、前記と同様に操作することにより、高収率で得られる。
【実施例】
【0009】
以下の実施例で使用した塩酸サルポグレラートの粗結晶は、前記の特許文献1に記載の方法(最後の再結晶工程を除く)に準拠して製造した。
【0010】
[実施例1] 塩酸サルポグレラートの粗結晶4gを5%含水アセトン30mlに加え、加温下で溶解させ、50℃で晶析させ、室温まで冷却させた。析出した結晶を濾取し、少量のアセトンで洗浄後、乾燥させて塩酸サルポグレラートのB形結晶3.5gを得た。
融点:150〜151℃
FAB−MS(m/z):430(M+1)
IR(cm−1;KBr):698、758、1245、1404、1495、1742、2936
粉末X線回折(使用機器:ブルカー・エイエックスエス社製D8 DISCOVER with
GADDS CS. 測定条件:管球Cu 管電圧45KV 管電流40mA):
【表1】

なお、粉末X線回折スペクトルを図1に示した。
【0011】
[実施例2] 塩酸サルポグレラートの粗結晶4gを3%含水アセトニトリル30mlに加え、加温下で溶解させ、徐々に室温まで冷却させた。析出した結晶を濾取し、少量のアセトニトリルで洗浄後、乾燥させて塩酸サルポグレラートのB形結晶3.7gを得た。融点、IR、粉末X線回折スペクトルのデータは、実施例1の各データにそれぞれ実質的に一致した。
【0012】
以下の参考例で使用した塩酸サルポグレラートの粗結晶は、前記の特許文献1に記載の方法(最後の再結晶工程を除く)に準拠して製造した。
[参考例1] 塩酸サルポグレラートの粗結晶200gを6%含水メチルエチルケトン1000mlに加え、65℃で溶解させた。溶液を60℃まで放冷後A型結晶2gを加えて晶析させ、撹拌しながら徐々に液温を下げ、室温にて5時間撹拌した。析出した結晶を濾取し、メチルエチルケトンで洗浄後、乾燥させて塩酸サルポグレラートのA形結晶157.5gを得た。
融点:154〜155℃
FAB−MS(m/z):430(M+1)
IR(cm−1;KBr):698、758、793、1163、1246、1406、1464、1497、1603、1742、2937
粉末X線回折(使用機器:ブルカー・エイエックスエス社製D8 DISCOVER with GADDS CS. 測定条件:管球Cu 管電圧45KV 管電流40mA):
【表2】

なお、粉末X線回折スペクトルを図2に示した。
【0013】
[参考例2] 塩酸サルポグレラートの粗結晶200gを4%含水メチルエチルケトン1000mlに加え、65℃で溶解させた。溶液を60℃まで放冷後A型結晶2gを加え晶析させ、液温が50℃になったところで50℃のメチルエチルケトン1000mlを加えた。その後液温を徐々に下げ、室温にて一夜撹拌した。析出した結晶を濾取し、メチルエチルケトンで洗浄後、乾燥させて塩酸サルポグレラートのA形結晶185.4gを得た。融点、IR、粉末X線回折スペクトルのデータは、参考例1の各データにそれぞれ実質的に一致した。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、塩酸サルポグレラートの製剤化に適した結晶形の原薬を工業的に製造する場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】塩酸サルポグレラートB型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図2】塩酸サルポグレラートA型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1と実質的に同一に示される粉末X線回折スペクトルを有する塩酸サルポグレラートのB形結晶。
【請求項2】
塩酸サルポグレラートを、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれた一種の溶媒若しくは二種以上の混合溶媒又はそれらの溶媒と水との混合溶媒から再結晶することを特徴とする、図1と実質的に同一に示される粉末X線回折スペクトルを有する塩酸サルポグレラートのB形結晶の製造方法。
【請求項3】
混合溶媒が含水アセトン又は含水アセトニトリルである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
含水アセトンが1〜10重量%の水を含むアセトン又は含水アセトニトリルが1〜7重量%の水を含むアセトニトリルである請求項3に記載の方法。

















【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−217333(P2007−217333A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39167(P2006−39167)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】