説明

塵芥収集車及びその故障診断支援システム

【課題】故障診断のために行う塵芥収集車の動作再現にあたり、周囲の者に対する安全性を向上する。
【解決手段】塵芥収集車1の操作入力装置4に、塵芥積込機構の動作及び塵芥排出機構の動作のうちいずれか一方を許可し他方を禁止する選択手段(メインスイッチ4a)が含まれ、塵芥収集車のコントローラは、塵芥収集車の記憶装置に記憶された過去の出力信号のデータに基づく動作再現の指令の入力を外部コンピュータから受け、塵芥積込機構及び塵芥排出機構のうち選択手段により選択されている方の動作再現を実行させ、他方を停止状態に維持する。またコントローラは、塵芥積込機構及び塵芥排出機構のアクチュエータの動力源となる原動機の出力を制御し、動作再現を実行させる時は、正規の制御プログラムに基づき機構を動作させる時に制御する当該原動機の出力よりも低出力に当該原動機の出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障診断のために行われる塵芥収集車の動作再現に関する。
【背景技術】
【0002】
塵芥収集車は、塵芥収容箱と、塵芥収容箱の後端開口に連結された塵芥投入箱と、塵芥投入箱内に構成された塵芥積込装置とを備え、塵芥投入箱に投入された塵芥を塵芥積込装置の塵芥積込動作により塵芥収容箱に収容する。
また、塵芥収集車は塵芥収容箱に収容された塵芥を排出するために、塵芥投入箱(テールゲート)の上昇動作や、塵芥収容箱内に装備された排出板による塵芥押出動作等の塵芥排出動作を行う。
塵芥収集車は、これらの各機構の動作を検出するための各種センサ・スイッチ類(近接スイッチ・接触スイッチ等)の入力信号に応じて、コントローラが各機構を駆動する各アクチュエータを作動させる為の出力信号を出力する。
一般に、このコントローラの入出力信号はその場その場の処理に留まり、記録されない。
【0003】
塵芥積込装置に限らず、コントローラを有する全ての装置において、使用時に予期しない異常動作(いわゆる故障)が起こった場合に、正常動作に戻ってしまうことが多く、その異常動作状況を維持する事が困難であり、連絡を受けてかけつけた修理者がその故障状態を再現して故障診断に当たれるケースが極めて少ない。
したがって、修理者は正常に作動する車両において、故障箇所を見出さなければならない為、修理に手間と時間がかかる他、故障箇所を発見できないケースも存在する。
【0004】
従来、特許文献1記載の発明にあっては、故障が起こったときのコントローラの入力信号と出力信号とをコントローラのメモリに記憶させ、このメモリのデータを外部からコンピュータと繋いで読み出せるようにしておき、外部コンピュータで処理して正常な状態を示す値と比較して異常動作の有無を判断させるとともに画面上に示すこととしている。
また、異常動作を再現するものとしては特許文献2〜4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-320134号公報
【特許文献2】特開2006-273112号公報
【特許文献3】特開2008-175617号公報
【特許文献4】特開平03-246440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、以上の従来技術にあっては次のような問題があった。
記憶された過去の出力信号のデータに基づき動作を再現するにあっては、異常な動作を再現する可能性があるから、安全性が問題となる。
例えば、再現動作を観察する修理者等が、塵芥積込動作が行われるのか、塵芥排出動作が行われるのかを予め認識できない場合、これらの者に危険を与えるおそれがある。
また、異常な動作を含む可能性がある場合に、通常のアクチュエータの出力で実行してよいか否か不安がある。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、故障診断のために行う塵芥収集車の動作再現にあたり、周囲の者に対する安全性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、塵芥収容箱と、
前記塵芥収容箱に塵芥を積み込む塵芥積込機構と、
前記塵芥積込機構を動作させるアクチュエータと、
前記塵芥収容箱から塵芥を排出する塵芥排出機構と、
前記塵芥排出機構を動作させるアクチュエータと、
前記塵芥積込機構及び前記塵芥排出機構の動作を検出するセンサと、
操作入力装置と、
前記センサの検出信号及び前記操作入力装置の操作信号を入力信号として受け、前記機構を動作させる正規の制御プログラムに基づき前記アクチュエータを動作させる動作信号を出力信号として出力するコントローラと、
前記コントローラの入出力信号のデータを記憶する記憶装置と、
を備え、
前記操作入力装置に、前記塵芥積込機構の動作及び前記塵芥排出機構の動作のうちいずれか一方を許可し他方を禁止する選択手段が含まれ、
前記コントローラは、前記記憶装置に記憶された出力信号のデータに基づく動作再現の指令の入力を受け、前記塵芥積込機構及び前記塵芥排出機構のうち前記選択手段により選択されている方の動作再現を実行させ、他方を停止状態に維持する塵芥収集車である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記コントローラは、前記アクチュエータの動力源となる原動機の出力を制御し、前記動作再現を実行させる時は、前記正規の制御プログラムに基づき前記機構を動作させる時に制御する当該原動機の出力よりも低出力に当該原動機の出力を制御する請求項1に記載の塵芥収集車である。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に塵芥収集車の故障診断支援システムであって、
前記記憶装置から前記入出力信号のデータを読み出し、前記コントローラに前記動作再現の指令を出力し、前記入出力信号のデータのうち少なくとも前記動作再現に係る出力信号に対応する入力信号のデータを表示出力するコンピュータを備える塵芥収集車の故障診断支援システムである。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記コンピュータは、前記記憶装置から読み出した前記入出力信号のデータと、正常動作に係る入出力信号のデータとを比較して正常か否か判断し、その判断結果を、判断対象に係る入出力信号のデータとともに表示出力する請求項3に記載の塵芥収集車の故障診断支援システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、故障診断のために行う塵芥収集車の動作再現にあたり、塵芥収集車の周囲で再現動作を観察する修理者等が、選択手段の選択を確認することによって塵芥積込動作が行われるのか、塵芥排出動作が行われるのかを予め認識することができるとともに、その選択に従った一方しか動作しないから、周囲の者に対する安全性が向上するという効果があり、修理者等が安全に故障診断を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る塵芥収集車のキャビン内に設置される操作入力装置の正面図(a)及び側面図(b)である。
【図2】本発明の一実施形態に係る塵芥収集車の背面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る記憶装置に記憶された入出力信号の履歴データの一例を示す表である。
【図4】本発明の一実施形態に係る各入出力信号の内容を説明した表である。
【図5】本発明の一実施形態に係る故障診断支援システムの故障診断支援用のコンピュータが表示出力する表示画面例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る塵芥収集車の動作再現に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0015】
本実施形態に係る塵芥収集車1は、塵芥収容箱2と、塵芥収容箱2に塵芥を積み込む塵芥積込機構と、塵芥積込機構を動作させるアクチュエータと、塵芥収容箱2から塵芥を排出する塵芥排出機構と、塵芥排出機構を動作させるアクチュエータと、塵芥積込機構及び塵芥排出機構の動作を検出するセンサと、操作入力装置と、コントローラと、コントローラの入出力信号のデータを記憶する記憶装置とを備える。
【0016】
塵芥収集車1は操作入力装置としてキャビン内に設置された図1に示す操作入力装置4のほか、図2に示す車両後部に設置された操作入力装置5、6,7を備える。
図1に示すように操作入力装置4には、メインスイッチ4aが含まれている。このメインスイッチ4aは、塵芥積込機構の動作及び塵芥排出機構の動作のうちいずれか一方を許可し他方を禁止する選択手段を構成する。図1(b)に示しようにメインスイッチ4aはトグルスイッチでレバーを一方(図中「上」)へ倒すと塵芥積込機構の動作が許可されるとともに塵芥排出機構の動作が禁止され、他方(図中「下」)へ倒すと塵芥排出機構の動作が許可されるとともに塵芥積込機構の動作が禁止され、中立位置で塵芥積込機構の動作及び塵芥排出機構の動作の双方が禁止される。操作入力装置5には、自動積込サイクル動作の起動ボタン5a、塵芥積込機構の手動操作ボタン5b,5c,5d、緊急停止ボタン5eが設けられている。操作入力装置6には、緊急停止ボタン6aが設けられている。操作入力装置7はバー状で、これを下げることによって緊急停止信号としての操作信号がコントローラに入力される。
これらの操作入力装置4、5、6,7は何れも再現動作を観察する修理者などによって操作されるスイッチであり、それらスイッチの傾倒位置や押下状況が操作信号としてコントローラに入力される。
【0017】
本実施形態における塵芥積込機構としては、塵芥投入箱3内で昇降及び回動する掻き込み板による機構を採用する。塵芥投入箱3に投入された塵芥を掻き込み板の塵芥積込動作により塵芥収容箱2に収容する。
本実施形態における塵芥排出機構としては、塵芥収容箱2の後端開口を開けるための塵芥投入箱(テールゲート)3の昇降機構、及び塵芥収容箱2内に装備され塵芥を押し出す排出板による機構を採用する。
本実施形態においてこれらの機構を動作させるアクチュエータは、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータである。油圧アクチュエータに圧油を給送する油圧ポンプが内燃機関エンジン又は電動モータの回転動力によって駆動される。
上記各機構には、その動作を検出するためのセンサとして磁気スイッチ及び近接スイッチが付設されている。
【0018】
コントローラは、これらセンサの検出信号(X0〜X21)及び操作入力装置4,5,6,7の操作信号(X22〜X2F)を示す入力信号の入力を受け、上記機構を動作させる正規の制御プログラムに基づきアクチュエータを動作させるための動作信号(Y0〜YF)を示す出力信号を出力するとともに、上記アクチュエータの動力源となる原動機、すなわち、内燃機関エンジン又は電動モータの出力を制御する。
【0019】
コントローラの制御に基づき、塵芥積込機構又は塵芥排出機構が動作すると、コントローラの入出力信号のデータが図3に示すように履歴として過去1000件まで記憶装置に記憶される。入力信号が切替わる度に一つの履歴として保存される。
【0020】
以上の構成の塵芥収集車1の点検・修理要請を受けた修理者は、故障診断支援用のコンピュータを携行して、塵芥収集車1のコントローラに当該コンピュータを接続する。本コンピュータは、例えばノート型コンピュータ等であり表示装置を備える。
本コンピュータは、修理者のオペレーションに従って塵芥収集車1の記憶装置から入出力信号の履歴データを読み出し、図5に示すように表示装置の表示画面8に表示出力する。図5に示す表示画面8において、8aは入出力信号のデータ表示領域、8bは履歴番号、8cは正常表示ランプ、8dは履歴順送りボタン、8eは履歴逆送りボタン、8fは動作再現ボタンである。
【0021】
入出力信号の表示は、「0」でOFF、「1」でONであることを示す。本実施形態において履歴番号は、「000」〜「999」まで用意されており、小さい番号ほど最新の履歴であり、大きい番号ほど遡る。履歴順送りボタン8dによって履歴番号を小さく、すなわち、より新しい履歴に切り替えることができ、履歴逆送りボタン8eによって履歴番号を大きく、すなわち、より古い履歴に切り替えることができる。もちろん、履歴順送りボタン8dと履歴逆送りボタン8eの画面上の配置は逆でもよい。
本コンピュータは、想定される正常動作に係る入出力信号のデータを保持しており、塵芥収集車1の記憶装置から読み出した入出力信号のデータと、正常動作に係る入出力信号のデータとを比較して正常か否か判断する。本コンピュータは、その判断結果を正常表示ランプ8cにより表示する。すなわち、入出力信号のデータ表示領域8aに表示されている履歴データに対する判断結果が正常であれば正常表示ランプ8cを点灯させ、正常でなければ正常表示ランプ8cを消灯する。
【0022】
本コンピュータは、動作再現ボタン8fが押下されると、目下表示されている履歴番号及び動作再現の指令を塵芥収集車1のコントローラに出力する。
動作再現の指令の入力を受けたコントローラは、正規の制御プログラムに基づき機構を動作させる時に制御する原動機の出力よりも低出力に原動機の出力を制御した上で、動作再現を実行させる。このとき、図6のフローチャートにも示すように、コントローラは、塵芥積込機構及び塵芥排出機構のうちメインスイッチ4aにより選択されている方の動作再現を実行させ、他方を停止状態に維持する。メインスイッチ4aが中立の場合は、どちらも実行せず停止状態に維持する。
【0023】
メインスイッチ4aの選択が塵芥積込動作であって、動作再現の指令とともにコントローラに入力された履歴番号が塵芥積込動作に係るものである場合、コントローラは当該履歴番号に係る出力信号を始めとして履歴番号を一つずつ小さくしながら塵芥積込機構のアクチュエータに出力信号を順次出力する。
修理者が接続したコンピュータは、これに同期して目下実行されている動作再現に係る出力信号に対応する入力信号のデータ及びその履歴番号を表示画面8に表示出力する。本実施形態においては、実行されている出力信号及びこれに対応する入力信号の双方を表示画面8に表示する。
コントローラは、緊急停止信号の入力、塵芥積込動作に係る履歴データの終了のいずれかが到来するまで動作再現を実行させる。
メインスイッチ4aの選択が塵芥排出動作であって、動作再現の指令とともにコントローラに入力された履歴番号が塵芥排出動作に係るものである場合も、以上と同様に塵芥排出に係る動作再現を実行させる。
【0024】
以上のように故障診断支援システムが構成されるので、故障を診断する修理者は、入出力信号のデータ表示領域8aに表示されている履歴データや、正常表示ランプ8cの表示を頼りに、故障原因を特定し、さらに、以上の動作再現を塵芥収集車1に実行させながら、データ表示領域8aの特に入力信号データを参照することによって故障原因を特定することができる。
【0025】
なお、以上の実施形態に拘わらず、塵芥収集車1のコントローラに接続される故障診断支援用のコンピュータは、塵芥収集車1に常時搭載されているものであっても良い。
【符号の説明】
【0026】
1 塵芥収集車
2 塵芥収容箱
3 塵芥投入箱
4,5,6,7操作入力装置
4a メインスイッチ(選択手段)
8 表示画面
8a 出入力信号のデータ表示領域
8c 正常表示ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塵芥収容箱と、
前記塵芥収容箱に塵芥を積み込む塵芥積込機構と、
前記塵芥積込機構を動作させるアクチュエータと、
前記塵芥収容箱から塵芥を排出する塵芥排出機構と、
前記塵芥排出機構を動作させるアクチュエータと、
前記塵芥積込機構及び前記塵芥排出機構の動作を検出するセンサと、
操作入力装置と、
前記センサの検出信号及び前記操作入力装置の操作信号を入力信号として受け、前記機構を動作させる正規の制御プログラムに基づき前記アクチュエータを動作させる動作信号を出力信号として出力するコントローラと、
前記コントローラの入出力信号のデータを記憶する記憶装置と、
を備え、
前記操作入力装置に、前記塵芥積込機構の動作及び前記塵芥排出機構の動作のうちいずれか一方を許可し他方を禁止する選択手段が含まれ、
前記コントローラは、前記記憶装置に記憶された出力信号のデータに基づく動作再現の指令の入力を受け、前記塵芥積込機構及び前記塵芥排出機構のうち前記選択手段により選択されている方の動作再現を実行させ、他方を停止状態に維持する塵芥収集車。
【請求項2】
前記コントローラは、前記アクチュエータの動力源となる原動機の出力を制御し、前記動作再現を実行させる時は、前記正規の制御プログラムに基づき前記機構を動作させる時に制御する当該原動機の出力よりも低出力に当該原動機の出力を制御する請求項1に記載の塵芥収集車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に塵芥収集車の故障診断支援システムであって、
前記記憶装置から前記入出力信号のデータを読み出し、前記コントローラに前記動作再現の指令を出力し、前記入出力信号のデータのうち少なくとも前記動作再現に係る出力信号に対応する入力信号のデータを表示出力するコンピュータを備える塵芥収集車の故障診断支援システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、前記記憶装置から読み出した前記入出力信号のデータと、正常動作に係る入出力信号のデータとを比較して正常か否か判断し、その判断結果を、判断対象に係る入出力信号のデータとともに表示出力する請求項3に記載の塵芥収集車の故障診断支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−148557(P2011−148557A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8702(P2010−8702)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】