説明

増加した活性を有する修飾されたヒト酸性スフィンゴミエリナーゼおよびその製造方法

酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の酵素活性の欠損は、ニーマン-ピック病をもたらす。ASMのC末端システイン残基の遊離チオール基の活性を除去する様々の修飾は、いずれもこの酵素の比活性を実質的に増加させる。この残基の活性を変化させるために用いられる方法には、この残基を除去または変化させるための部位特異的変異導入、この残基を除去するためのASMの酵素的分解、銅により促進されるASMの(末端システイン残基を介した)二量体化、およびこの残基の遊離チオール基の化学的修飾が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
酸性スフィンゴミエリナーゼ、E.C. 3.1.4.12 (ASM)は、脳、肝臓、肺、脾臓およびリンパ節で見いだされるリン脂質貯蔵物質であるスフィンゴミエリンを、セラミドとホスホコリンに加水分解する、リソソームのホスホジエステラーゼ酵素である。ASM活性の欠損は、生体のスフィンゴミエリン分解不能をもたらし、ニーマン-ピック病と称されるリソソーム蓄積症の一形態を引き起こす。
【0002】
ニーマン-ピック病は、遺伝性の常染色体劣性の脂質蓄積疾患で、マクロファージや神経細胞などの細胞のリソソームに、スフィンゴミエリンが過剰に蓄積して正常な細胞機能が損なわれることを特徴とする。ニーマン-ピック病A型は、乳幼児において急速に進行する神経変性疾患であり、典型的には年齢2-3歳までに死に至る。ニーマン-ピック病B型は、肝臓及び脾臓の肥大、ならびに呼吸困難をもたらし、結果として一般に成人期初期までに死に至る。他の型のニーマン-ピック病、例えばC型はASM遺伝子の変異を伴わず、ASMの機能に直接起因しない。
【0003】
酵素置換療法は、リソソーム蓄積症の既知の治療法である。酵素置換療法は、欠損した酵素活性への外部から供給される酵素の補給を試みる。ニーマン-ピック病における酵素置換療法のケースでは、目的は、罹患した個体がスフィンゴミエリンを処理し、リソソーム中にそれが蓄積することを回避できるようにすることであろう。効果的であるためには、そのような治療法は最初に、蓄積されたスフィンゴミエリンを分解するのに十分な量の酵素、ならびにスフィンゴミエリンのさらなる蓄積を回避するため、置換酵素の連続的投与を必要とするであろう。
【0004】
ASMは、アミノ酸配列(Schuchmann, E.H. et al., (1991) J. Biol. Chem., Vol.266, 8531-8539)によってコードされる6つの潜在的なNグリコシル化部位を有する糖タンパク質である。部位特的変異導入研究から、6つのうち少なくとも5つは利用されていることが示されている(Ferlinz, K., et al., (1997) Eur. J. Biochem. Vol.243, 511-517)。この研究では、N末端に最も近い4つの除去により、リソソームへのターゲティング、プロセシング、または酵素活性は妨害されないことも示された。しかしながら、C末端の2つのNグリコシル化部位の除去により、一次翻訳産物の急速な切断、または不活性なASM前駆体の形成がもたらされることが示された(Ferlinz, K., et al., (1997) Eur. J. Biochem. Vol.243, 511-517)。
【0005】
種々の形態のASMがヒトにおいて活性であり、これらの形態は分子量の違いとグリコシル化のパターンの違いによって特徴づけられることが、一般に受け入れられている。ASMは、循環中で見いだされる分泌型、および細胞内のリソソーム型があり、いずれも同じ遺伝子に由来するとされてきた(Schissel, S.L., et al. (1998) J. Biol. Chem. Vol.273, 18250-18259)。ウシ胎仔血清(Spence, M.W., et al (1989) J. Biol. Chem. Vol.264, 5358-5363)または種々の培養細胞(Schissel, S.L., et al. (1996) J. Biol. Chem. Vol.271, 18431-18436)から得られる分泌型は、亜鉛存在下で増加した比活性を示す。Bartelsenらは、昆虫のsf21細胞から分泌された組換えASMについても銅依存的な活性化を観察した(Bartelsen, O., et al. (1998) J. Biotechnol. Vol.63, 29-40)。しかしながら、リソソーム型のASMは、活性化に外来性の亜鉛を必要とせず、「陽イオン非依存性」と言われている(Schissel, S.L., et al. (1996) J. Biol. Chem. Vol.271, 18431-18436; Levade, T. (1986) J. Clin. Chem. Clin. Biochem. Vol.24, 205-220)。Schisselらは、リソソーム型と分泌型はいずれも、亜鉛特異的キレート剤である1,10-フェナントロリンによって不活性化され得ることを報告し、それ故両型とも酵素活性に亜鉛を必要とすると結論づけた(Schissel, S.L., et al. (1998) J. Biol. Chem. Vol.273, 18250-18259)。このことは、亜鉛が既に「陽イオン非依存性」リソソーム型と強固に結合しており、最大活性に外来性の亜鉛が不要であることを示唆している。
【0006】
ASMのリソソーム型と分泌型は、N末端の差異と同様に、グリコシル化にも差異があることが示されている(Schissel, S.L., et al. (1998) J. Biol. Chem. Vol.273, 18250-18259)。これら二つの型の翻訳後修飾に関しては、ASMのリソソーム型は、リン酸化とリソソームターゲティングに必要な高マンノース型オリゴ糖を有しており、一方分泌型は複合型N結合オリゴ糖を含んでいる。この二つの型の輸送経路の違いは、細胞内亜鉛への曝露の違いおよび亜鉛感受性の違いの理由として提唱されてきた(Schissel, S.L., et al. (1998) J. Biol. Chem. Vol.273, 18250-18259)。この二つの型のN末端は、リソソーム型のタンパク質分解酵素によるプロセシングによって異なることが示された。この二つの型のC末端に差異が存在するか否かについては未だ決定されていないが、C末端のプロセシングは、酸性グルコシダーゼ(Wisselaar, H.A., et al. (1993) J. Biol. Chem. Vol.268, 16504-16511)およびカテプシンD(Yonezawa, S., et al. (1988) J. Biol. Chem. Vol.263, 2223-2231; Lloyd, J.B., et al. (1996) Subcellular Biochemistry (Harris, J.R., ed) Vol.27, Plenum Publishing Corp., New York)を含むいくつかの他のリソソーム酵素について報告されている。
【0007】
ヒスチジンとグルタミン酸残基がASM中の金属結合部位に関与している可能性が提唱され、ASMの一次配列と既知の亜鉛金属タンパク質との比較から、7つもの潜在的な亜鉛結合部位が示唆されている(Ferlinz, K., et al., (1997) Eur. J. Biochem. Vol.243, 511-517)。亜鉛結合の実際の化学量論およびASM中での金属イオンの配位を担う特定のアミノ酸は、未定である。ASM中の17のシステイン残基は、ジスルフィド結合と遊離システイン残基の数に関して、十分に特徴付けされてはいない。ジチオスレイトール(DTT)はASMの酵素活性を濃度依存的に阻害するが、還元型グルタチオンは阻害しない(Lloyd, J.B., et al. (1996) Subcellular Biochemistry (Harris, J.R., ed) Vol.27, Plenum Publishing Corp., New York)。しかしながら、この不活性化のメカニズムは未だ解明されていない。DTTのタンパク質活性への影響がジスルフィドの還元と関連していないことが報告されているので(Lansmann, S., et al. (2003) Eur. J. Biochem. Vol.270, 1076-1088)、この不活性化は単純にジスルフィドの還元によるものではないかもしれない。このASM不活性化とは対照的に、リソソームの脂質とスフィンゴ脂質活性化タンパク質SAP-CはASM活性を促進することが示されている(Liu, B., et al. (1997) J. Biol. Chem. Vol.272, 16281-16287)。
【0008】
上述のように、酵素置換療法は一部のリソソーム蓄積症の有効な治療手段であることが証明されている。ASMに関しては、CHO細胞で発現させた本酵素の組換え型は、酸性至適pH、スルフヒドリル還元試薬に対する感受性、および亜鉛特異的キレート剤による阻害を含め、非組換え型の酵素と一致する特徴を有することが示されている(Schuchmann, E.H., et al. (1992) Genomics Vol.12, 197-205)。精製した組換えヒトASM(rhASM)タンパク質の生化学的特徴付けの過程で、本発明者らは予想外にも本タンパク質の比活性が細胞回収物を-20℃で数週間保存した際に増加することを見いだした。この予期せぬ活性化は同定され、本明細書に記載したように、ヒトASMの多くの活性型に存在する、ASMのC末端システイン残基を伴うすることが明らかとなった。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、ASMの活性、特にスフィンゴミエリンを加水分解する活性を増加させる方法と、その方法によって生成される増加した活性を有するASMに関する。本出願人らは、ASMにおける遊離システインの修飾が、スフィンゴミエリン活性に向けたASM活性を実質的に増加させることを発見した。本明細書に記載したように、そのようなASMを得るための様々の方法が、タンパク質化学分野の当業者には利用可能である。
【0010】
本発明の一局面は、C末端のシステインアミノ酸残基を修飾する段階を含む、ASMのスフィンゴミエリン加水分解活性を増加させる方法に関する。代替的な態様では、修飾はC末端のシステインアミノ酸残基の欠失、C末端のシステインアミノ酸残基の置換、またはASMの二量体化を含む。遊離チオール基の活性が消失すると、ASMの比活性が増加する。チオエーテル、チオエステル、または非対称ジスルフィドなどのチオール保護基は、付着化合物を形成してもよい。付着化合物は、可逆的な、またはマレイミドのような不可逆的な修飾剤(modifier)でありうる。C末端のシステインアミノ酸残基の置換は、セリンとの置換のような同類置換でありうる。二量体化は、スルフィド結合での架橋によって達成されうる。
【0011】
本発明のもう一つの局面は、C末端のシステイン残基が修飾されるASM、特にヒトASMおよびrhASMの修飾型に向けられている。本明細書により詳細に記載されているように、このような修飾は、(a)C末端システイン残基の欠失、および任意でC末端からのさらなるアミノ酸残基の欠失、(b)このシステインアミノ酸残基と少なくとも一つの別のアミノ酸残基との置換、(c)このシステイン残基の化学的修飾、特にその遊離チオール基の修飾、および(d)これらの末端システイン残基の遊離チオール基間でのジスルフィド結合の形成を介した、ASMタンパク質の二量体化を含んでいてもよい。修飾されたASMは、配列番号:2または配列番号:3でありうる。好ましくは、このような修飾は、この残基の遊離スルフヒドリル(チオール)基の活性を消失させる。本発明にかかるこれらのASMの修飾型は、非修飾型または野生型ASMと比較して増加した比活性を示す。
【0012】
本発明のもう一つの局面は、これらの修飾されたASMをコードする核酸分子に関する。本発明のこの局面は、そのようなコード核酸、ならびにそれらを含む発現ベクターおよびこれらのASMの修飾型を発現する細胞および細胞株を含む。
【0013】
もう一つの局面において、本発明は、本発明にかかる修飾されたASMの有効量を投与する段階を含む、ASM関連症候群を有する対象を治療するための方法を対象としている。この修飾されたASMは、配列番号:2または配列番号:3であってもよい。症候群は、脂質ヒストサイトーシスまたはニーマン-ピック病であってもよい。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、ASMの活性、典型的にはそのスフィンゴミエリン加水分解活性を増加させる方法、および本方法によって生成される、増加した活性を有するASMに関する。本出願人らは、ASMのC末端システインアミノ酸残基の修飾が、ASMのスフィンゴミエリン加水分解に向けた活性を実質的に増加させることを見いだした。増加した活性を有するASMを生成するためのこのような方法の使用は、様々の型のニーマン-ピック病の治療において有利である。
【0015】
この発見に基づいて、本発明ではASMの活性、典型的にはそのスフィンゴミエリン加水分解に向けた活性を増加させる方法を提供する。この加水分解活性は、C末端システインを、例えば欠失、置換、誘導体化または二量体化により修飾することで増加させることができる。本明細書で使用される「ASM」は、スフィンゴミエリンを加水分解するリソソームのホスホジエステラーゼ酵素である。
【0016】
ASMは、種々の由来のものが精製されており、様々に特徴付けがなされている。ヒトの尿から精製されたASMの一形態は、酸性の至適pHを有する70kDの糖タンパク質であることが示されている(Quintern, L.E., et al. Biochim. Biophys. Acta 922:323-336)。
【0017】
ヒトASMの一つの対立遺伝子は、GENBANKアクセッション番号NP_000534から入手可能であり、本明細書において配列番号:1として再現されている。このヒトASMのいわゆる「全長」版は、629アミノ酸残基からなり、本明細書でCYS629とよぶシステイン残基で終結している。しかしながら、細胞内において翻訳されたタンパク質は著しいタンパク質分解プロセシングを受けると信じられている。ASMの生合成研究から、75 kDaのプレプロタンパク質が72 kDaの中間体形態へと、小胞体(ER)/ゴルジ装置内部で段階的にプロセシングを受けることが示されている。この72 kDa形態は、70 kDaの成熟したリソソーム酵素へとさらにプロセシングされる。より分子量の小さな形態も、ゴルジとリソソームで検出されている。加えて、活性なヒトASMの様々の多形型が、インビボで存在するかもしれないと信じられている。かくして、「ASM」という用語は、配列番号:1のすべての変形と対立遺伝子を含むものである。
【0018】
ASMの一つの活性形態は、組換えによって生成されており、配列番号:1の「全長」ヒトASMのC末端570アミノ酸残基からなるポリペプチドからなる。このいわゆる「rhASM」は、N末端がHis-Pro-Leu-Ser-Pro-で始まり、これは全長ヒトASMの配列がHis60で始まるのと一致している(配列番号:4)。明確にするために、本明細書の特定のアミノ酸残基に関するすべての引用は、全長ヒトASMタンパク質、配列番号:1の残基に対応した位置番号を使用する。かくして、rhASM のC末端のシステイン残基は、それでもなおCys629とよぶ。
【0019】
本発明は、ASM分子のCys629残基またはそのペンダント活性チオール基を、修飾または除去する(物理的にまたは機能的に)ための任意の特定の方法もしくは技法にも制限されない。例えば、本明細書により詳細に記述されているように、ASM二量体が2分子のASMの末端システイン残基間でのジスルフィド結合の形成を介して生成されうる。このような二量体化は、もはや存在しない遊離のチオール基の化学的活性を効果的に修飾する。または、末端システイン残基の遊離チオールは、MMTS(これはチオール残基の可逆的変化をもたらす)およびOregon Green(登録商標)マレイミド(OGM)(これは不可逆的変化を与える)を含む様々の試薬のいずれかで化学的に修飾されてもよい。または、このシステイン残基は酵素的に除去されてもよい。組換え修飾されたASMの有意な量の生成のためには、対応するcDNAの配列を、生成産物において遊離チオール基を有するC末端のシステインの存在を排除するように設計してもよい。例えば、この残基を修飾する(例えばセリンのような他のアミノ酸残基に変異させる)か、または欠失させる(終止コドンでの置換によって)ように、部位特異的変異導入を行ってもよい。このシステイン残基またはチオール基の変化または欠失を生じ、望ましいASM比活性の増加をもたらす任意の方法または技法が、潜在的に使用可能である。
【0020】
第一の態様において、ASMの活性を増加させる方法は、C末端システインアミノ酸残基の欠失を含む。ASMと共に用いられる「C末端システイン」という用語は、スフィンゴミエリナーゼ活性を示す任意のASMポリペプチドまたはその断片のC末端のシステインアミノ酸残基で、特に遊離チオール基を有するようなシステイン残基を指す。C末端アミノ酸残基が欠失したASMは、配列番号:2に例示されている。本明細書に記載したように、この欠失は翻訳後、またはC末端システイン残基をコードする部分が修飾されたASMタンパク質の組換え型の翻訳によって得ることができる。
【0021】
第二の態様において、ASMの活性を増加させる方法は、C末端アミノ酸残基の置換を含む。この置換は、セリン、スレオニン、またはアラニンとの置換のような同類置換であってもよい。C末端アミノ酸残基が欠失したASMは、配列番号:3に例示されている。
【0022】
「同類置換」とは、あるアミノ酸と、同じ正味電荷とほぼ同じサイズと形態を有する別のアミノ酸との置換である。脂肪族または置換脂肪族アミノ酸側鎖を有するアミノ酸は、側鎖の炭素と複素原子の総数が約4以下の違いである場合は、おおよそ同じサイズである。側鎖の分枝の数が1以下の違いである場合は、それらはおおよそ同じ形態を有する。側鎖中にフェニルまたは置換フェニル基を有するアミノ酸は、おおよそ同じサイズと形態を有すると考えられている。
【0023】
「高度同類置換」とは、あるアミノ酸と、側鎖に同じ官能基を持ちほとんど同じサイズと形態を有する別のアミノ酸との置換である。脂肪族または置換脂肪族アミノ酸側鎖を有するアミノ酸は、側鎖の炭素と複素原子の総数が2以下の違いである場合は、ほとんど同じサイズを有する。側鎖の分枝の数が同じ場合は、それらはほとんど同じ形態を有する。高度同類置換の例としては、ロイシンとバリン、セリンとスレオニン、グルタミン酸とアスパラギン酸、およびフェニルアラニンとフェニルグリシンが含まれる。
【0024】
第三の態様において、ASMの活性を増加させる方法は、ASMの二量体化を含む。好ましくは、このASM二量体は個々のASMのC末端システイン残基間で架橋されている。より好ましくは、このASM二量体はジスルフィド結合で架橋されている。
【0025】
第四の態様において、ASMの活性を増加させる方法は、C末端システインの誘導体化を含む。典型的には、この誘導体化は、C末端システイン残基への化合物の結合を含む。その化合物は、チオール保護基かを含みうる。チオール保護基の付加は、S保護システインを形成する。好ましくは、このチオール保護基はチオエーテル、チオエステル、または非対称ジスルフィドからなる群より選択される。その化合物はまた、システインの修飾剤を含んでもよい。この修飾剤は、システインの可逆的または不可逆的修飾剤であってもよい。好ましくは、修飾剤はC末端システインと混合ジスルフィドを生じる。可逆的修飾剤は、例えば5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)(エルマン試薬、DTNB)およびメチルメタンジスルホネート(MMTS)を含む。不可逆的修飾剤は、例えばNエチルマレイミド(NEM)またはOREGON GREEN(登録商標)488マレイミド(OGM)を含む。
【0026】
「S保護システイン」という用語は、チオール部分である-SHの反応性が保護基でブロックされているシステイン残基を含む。適切な保護基は、当技術分野で公知であり、例えばT.W. Green and P.G.M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, John Wiley & Sons, (1999), pp.454-493に開示されており、その教示内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。適切な保護基は、無毒で、薬学的製剤中で安定であり、かつ最小の追加的機能性を有する。遊離チオールは、チオエーテル、チオエステル、または非対称ジスルフィドに酸化された形で保護されてもよい。典型的には、このチオールはチオエーテルとして保護される。適切なチオエーテルは、S-アルキルチオエーテル類(例えばC1-C5アルキル)およびS-ベンジルチオエーテル類(例えばシステイン-S-S-t-Bu)を含むが、それらに限定されない。最も典型的には、保護基はアルキルチオエーテルであるか、またはS保護システインはS-メチルシステインである。
【0027】
本発明はさらに、本発明の方法で産生できる修飾されたASMに関する。「修飾されたASM」という用語は、本発明の方法に従って修飾された任意のASMを含むものである。修飾されたASMは、修飾された全長の野生型ASM、またはその部分を含む。そのようなASMは、適切な供給源から精製された野生型ASMを修飾することにより生成してもよい。または、そのようなASMは、本発明の方法に従って修飾された核酸の発現生成物として生成されてもよい。修飾されたASMは、合成的に生成されてもよく、修飾は合成の前か後のいずれかに行うことができる。典型的には、ASMはヒト由来、またはヒト由来のものと類似した配列を有するが、マウス、ウシ、ウサギ、ラット、ヤギおよびウマを含むがこれらに限定されない他の種からのASMも意図されている。修飾されたASMは、任意の対立遺伝子または変異体を基礎としたものを含む。
【0028】
本発明はさらに、修飾されたASMをコードするヌクレオチド配列を有する、単離された核酸分子またはポリヌクレオチドに関する。
【0029】
単離された核酸分子またはヌクレオチド配列は、化学的、または組換え手段によって合成された核酸分子またはヌクレオチド配列を含むことができる。また、単離された核酸分子は、部分的または実質的に精製された溶液中のDNA分子と同様、異種の宿主細胞中の組換えDNA分子を含むことができる。本発明の核酸分子は、他のコーディング配列または調節配列と融合してもよく、それでも単離されたとみなされる。かくして、ベクター中の組換えDNAは、本明細書で使用する「単離された」の定義に含まれる。
【0030】
本発明はさらに、機能的に調節領域に連結された、本発明の単離された核酸分子を含むベクター、ならびにそのベクターを含む組換え宿主細胞に関する。本発明はまた、本明細書に記載の単離された核酸分子によりコードされるポリペプチド(修飾されたASMポリペプチド)を調製する方法であって、該核酸分子の発現に適した条件下で本発明の組換え宿主細胞を培養する段階を含む方法を提供する。
【0031】
本発明のもう一つの局面は、本明細書に記載の核酸分子を含む、核酸構築物に関連する。この構築物は、本発明の配列がセンスまたはアンチセンスの方向で挿入されたベクター(例えば発現ベクター)を含む。本明細書で使用されているように、「ベクター」または 「構築物」という用語は、それに連結されている別の核酸を運搬する能力のある核酸分子を指す。ベクターの一つのタイプは「プラスミド」であり、追加のDNA断片を連結することができる環状二本鎖DNAループを指す。もう一つのタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNA部分をウイルスゲノムに連結することができる。ある種のベクターは、導入された宿主細胞中で自律的に複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を持つ細菌ベクターおよびエピソーム性の哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム性の哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入に伴い宿主細胞のゲノムに組み込まれ、その結果宿主のゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクター、発現ベクターは、機能的に連結された遺伝子の発現を導くことができる。一般に、組換えDNA技法で有用な発現ベクターは、プラスミドの形態である場合が多い。しかしながら、本発明では、等価の機能を果たすウイルスベクター(例えば複製不全のレトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターも含むことが意図されている。
【0032】
本発明の好ましい組換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸分子の発現に適した形態の本発明の核酸分子を含む。これは、組換え発現ベクターが、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択され、発現されるべき核酸配列に機能的に連結された、一つまたは複数の調節配列を含むことを意味している。組換え発現ベクター中では、「機能的に連結された」とは、対象となるヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現が可能な様式で(例えば、インビトロ転写/翻訳システム中、または宿主細胞にベクターが導入される場合には宿主細胞中で)、調節配列に連結されていることを意味するよう意図されている。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、および他の発現制御エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)を含むよう意図されている。このような調節配列は、例えばGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。調節配列は、多くのタイプの宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を導くもの、および特定の宿主細胞でのみヌクレオチド配列の発現を導くものを含む。
【0033】
発現ベクターの設計は、形質転換する宿主細胞および望ましいポリペプチドの発現レベルの選択のような要因に依存することは、当業者に当然認識される。本発明の発現ベクターは、本明細書に記載された核酸分子でコードされる融合タンパク質を含むポリペプチドを生成するために、宿主細胞に導入されうる。
【0034】
本発明はさらに、本明細書に記載したベクターでトランスフェクションした、単離された宿主細胞に関する。「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」という用語は、本明細書で互換的に用いられる。これらの用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫または潜在的な子孫も指すと理解される。ある改変は、変異または環境的な影響によって後継世代で生じる可能性があるので、そのような子孫は、実際には親細胞と同一ではない可能性もあるが、本明細書で用いられる用語の範囲内に含まれる。
【0035】
宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であってよい。例えば、本発明の核酸分子は、細菌細胞(例えば大腸菌(E. coli))、昆虫細胞、酵母、または哺乳類細胞(例えば、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞、ヒト239T細胞、Hela細胞、またはNIH3T3)中で発現されてもよい。他の適切な宿主細胞は、当業者に公知である。ベクターDNAは、通常の形質転換またはトランスフェクション技法によって原核細胞または真核細胞に導入されうる。
【0036】
本発明はさらに、「ASM関連症候群」についての治療が必要な対象を治療する方法に関する。ASM関連症候群は、例えばニーマン-ピック病A型およびB型のようなリソソーム蓄積疾患である、ASMの加水分解能力に関連する任意の状態を含む。この治療方法は、対象に、治療上有効量の修飾されたASMを投与する段階を含む。典型的には、修飾されたASMは、増加したスフィンゴミエリナーゼ活性を有するものである。
【0037】
「対象」は、典型的にはヒトであるが、修飾されたASMでの治療を必要とする動物であってもよい(例えば愛玩動物(例えばイヌ、ネコなど)、家畜(例えばウシ、ブタ、ウマなど)、および実験動物(例えばラット、マウス、モルモットなど)。
【0038】
修飾されたASMを用いた「治療を必要とする」対象とは、有益な治療的および/または予防的結果が得られるように、修飾されたASMで治療しうる症候群、疾患、および/または状態を有する対象である。有益な結果には、症状の重篤度の低下もしくは症状発症の遅延、寿命の増加、および/または疾患もしくは状態のより迅速なまたはより完璧な解消が含まれる。
【0039】
「有効量」とは、処置を受けない場合と比べて、修飾されたASMで処置を受けている状態の臨床結果の改善をもたらす、修飾されたASMの量である。投与される修飾されたASMの量は、疾患または状態の程度、重篤度、およびタイプ、望ましい治療の量、ならびに薬学的製剤の放出特性に依存する。それはまた、対象の健康、サイズ、体重、年齢、性別および薬剤に対する耐容性に依存する。酵素置換療法の分野の当業者は、望ましい治療効果を得るのに十分な期間、修飾されたASMを投与するための用量プロトコールを設計することができる。例えば、この修飾されたASMは、約0.1 mg/kgから約100 mg/kgの用量範囲で、好ましくは約0.1 mg/kgから約10 mg/kgの用量範囲で、より好ましくは約0.1 mg/kgから約2 mg/kgの用量範囲で投与してもよい。修飾されたASMは、例えば毎日、週二回、週一回、二週間に一回または月一回輸液法で投与されてもよい。
【0040】
修飾されたASMは、薬学的組成物の一部として薬学的に許容される担体とともに対象に投与することができる。この薬学的組成物の製剤は、選択される投与経路によって変化する。適切な薬学的担体は、化合物と相互作用しない、不活性な成分を含んでもよい。この担体は、生物適合性、すなわち無毒で、非炎症性、非免疫原性、かつ投与部位で望ましくない他の反応を引き起こさないものであるべきである。薬学的に許容される担体の例には、例えば、生理食塩水、エアロゾル類、市販の不活性ゲル、またはアルブミン、メチルセルロース、もしくはコラーゲンマトリクスが補充される液体などが含まれる。Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Eaton, PAに記載されているものなどの標準的な薬学的製剤法を使用することができる。
【0041】
注射用送達製剤は、静脈内投与、または処置の必要な部位に直接投与してもよい。注射用の担体は、粘性溶液またはゲルであってよい。送達処方製剤は、生理的食塩水、静菌生理食塩水(約0.9% mg/mLのベンジルアルコールを含む生理食塩水)、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス液、乳酸リンゲル液、またはアルブミン、メチルセルロース、もしくはヒアルロン酸を添加した溶液を含む。注射用マトリクスは、ポリエチレンオキシドのポリマー、およびエチレンとプロピレンオキシドとのコポリマーを含む(Cao et al., J. Biomater. Sci. 9:475 (1998)およびSims et al., Plast Reconstr. Surg. 98:843 (1996)を参照のこと)。リソソーム蓄積症の治療のための組換え酵素の注射用製剤は、当技術分野で公知である。
【0042】
実施例1
rhASMの生成
組換えヒトASMタンパク質(rhASM)は、IMAGE Consortium (GenBank アクセッション番号AI587087) から入手した全長ヒトASM cDNAを含むベクターでトランスフェクションした、チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて生成した。PCR産物を、DHFR選択可能な哺乳類発現ベクターにクローニングした。プラスミドは、意図した配列の忠実度を保証するために、オープンリーディングフレーム全体について配列決定した。DHFR欠損CHO-DXB11細胞は、リポフェクタミン(Invitrogen)を用いてトランスフェクションし、選択は10%透析済FBSと0.2μMメトトレキセート(CalBiochem)を添加したヌクレオチドを含まない培地中で行った。rhASM発現レベルは、クローニングしていないプールにおいて、メトトレキセート濃度を漸増させることによりさらに押し上げられた。このプロセスによって、メトトレキセートを取り除いても高いrhASM発現レベルを維持するいくつかのクローニングしていないプールが生じた。タンパク質は、CHO調整培地から、疎水性相互作用およびイオン交換段階を含む従来の直交の(orthogonal)クロマトグラフィー手法によって精製された。精製されたrhASMタンパク質は、N末端がHis-Pro-Leu-Ser-Pro-(配列番号:4)で始まり、公表されているヒトASM配列(Quintern, L.E., et al. Biochim. Biophys. Acta Vol.922, 323-336)のAla 59とHis 60の間でシグナルペプチドが切断された570アミノ酸の成熟タンパク質に対応することが示された。このN末端の配列は、昆虫のsf21細胞(He, X., et al., (1999) Biochim. Biophys. Acta Vol.1432, 251-264)およびCHO細胞(Ferlinz, K., et al., (1997) Eur. J. Biochem. Vol.243, 511-517)から生成されたASMタンパク質の組換え型と同一である。
【0043】
実施例2
インビトロの活性検定
rhASMは、安定的にトランスフェクションされた組換えCHO細胞株で発現された。分泌されたタンパク質を回収した後、調整培地中のrhASMの活性が一定の保存条件下で増加することが観察された。3種類の保存温度でのインキュベーションによる活性の変化をモニターするための研究が行われた。回収した培地を-80℃で保存した場合には、rhASM活性は安定であり、160日間にわたって変化が認められないことがわかった。しかしながら、回収した培地を-20℃で保存した場合には、rhASM活性の大きな増加がみられた。培地を4℃で保存した場合には、ほんの僅かな活性増加しかみられなかった。
【0044】
-20℃での活性の増加が、rhASM自体の比活性の変化によるのか、あるいは他の分子との相互作用に(例えば、活性化因子との結合または阻害因子の消失)起因するのかを明らかにするため、rhASMが回収培地から均一になるまで精製された。第一の調製物は、新鮮な回収培地から作られ(rhASMの「低活性型」とよぶ)、第二の調製物は-20℃で3ヶ月間保存された培地から作られた(rhASMの「高活性型」とよぶ)。二つの調製物からの精製rhASMの活性測定から、両者の間に実質的な比活性の差が存在することが示された:すなわち新鮮な回収培地からの調製物で17.3 U/mgであるのに対し、-20℃で保存された回収培地からの調製物では80.2 U/mgであった。このように、-20℃で保存された回収培地からの精製酵素は、新鮮な回収培地から精製された酵素より約5倍高い比活性を有している。
【0045】
rhASMの二つの「型」の動力学的解析が行われた。組換えヒトASM(rhASM)は、0.1 mM酢酸亜鉛、0.25 mg/mL BSAおよび0.15% Tween 20を含む250 mM酢酸ナトリウム pH 5.5中で、過剰量(12.5 mM)の2-(Nヘキサデカノイルアミノ)-4-ニトロフェニルホスホリルコリン(CalBiochem、サンディエゴ、カリフォルニア)と共に37℃でインキュベーションされた。37℃で30分間のインキュベーション後、50%エタノールを含む0.2 Mグリシン-NaOHを反応停止のため添加した。活性は、反応中に生成した切断された基質(2-(Nヘキサデカノイルアミノ)-4-ニトロフェノレート)の量を計算することにより決定された(ε415=15.0 mM-1cm-1)。金属イオン依存性を決定するための活性検定において、rhASMは金属イオンを含まない同じ緩衝液で希釈された。その後、種々の量の二価金属イオンが、金属を含まない緩衝液中で調製された2-(Nヘキサデカノイルアミノ)-4-ニトロフェニルホスホリルコリン基質を添加する前に、37℃で30分間プレインキュベーションするために試料に添加された。動力学パラメータは、0.1 mM酢酸亜鉛、0.25 mg/mL BSAおよび0.15% Tween 20を含む250 mM酢酸ナトリウム pH 5.5中で、基質、2-(Nヘキサデカノイルアミノ)-4-ニトロフェニルホスホリルコリンの濃度を変化させて、415nmで評価された。動力学パラメータは得られたデータのイーディ-ホフステープロットから決定した。
【0046】
(表1)高活性および低活性ASMタンパク質の動力学的解析

【0047】
実施例3
DTNB活性検定
rhASMの低活性型および高活性型の試料は、まず20 mMクエン酸ナトリウム、150 mM塩化ナトリウム pH 6.0中で濃縮された。遊離チオール含量は、未変性および変性緩衝液中0.8mg〜1.2 mgのrhASMと0.5 mM DTNBを用い、吸光度値を読む前に室温で10分間インキュベーションして412nmで評価された。結果は、システインの標準曲線と比較された。得られた結果は、低活性型rhASMが一つの遊離チオールを含むのに対し、高活性型は遊離チオールを含まないことを立証した。
【0048】
実施例4
メチルメタンチオスルホネート(MMTS)およびOregon Green(登録商標)マレイミド(OGM)を用いた、rhASMの遊離チオールの化学的修飾
遊離システインの消失が、高活性型および低活性型調製物に基づいて、増加した活性と関連するようなので、rhASMの活性化が低活性型の遊離システイン残基のチオール基を化学的にブロックすることにより達成されうるかを検証するための実験を実施した。チオールの低分子量修飾剤、MMTSは、システインを修飾して、混合ジスルフィド結合(S-S-CH3)を生成する。サイズが小さいため、これはタンパク質構造機能研究のために利用可能なシステイン修飾試薬の中でも最も撹乱作用の少ないものである。低活性型ASMは、MMTSによる修飾に供され、引き続きその活性が標準の活性検定を用いて測定された(図1参照)。図1に示されているように、MMTSの濃度の増加に伴い(かつそれにより修飾の度合いが増すに従い)、rhASMの比活性が、最大約5倍増加した。
【0049】
OGMもまた、低活性型rhASMの遊離システインの修飾のために用いられた。OGMは、MMTS修飾とは異なり、不可逆的で、それより大きな分子量の修飾剤を表す。それはまた、修飾を追跡するための蛍光タグとしても働く。OGM修飾は、MMTS修飾で観察されたものと極めてよく似たrhASMの比活性への増加をもたらした。このことは、修飾の性質と修飾剤のサイズに有意な柔軟性があることを示している。
【0050】
この活性化に関与するrhASM中の遊離システインの位置を同定するために、ペプチドマッピングと特徴付けのため、0.5 mgのOGM修飾rhASMが調製された。その論理的根拠は、ペプチドマップ中でシステイン標識ペプチドを同定するために、Oregon Green(登録商標)488の吸光/蛍光性質を利用することである。トリプシン消化由来のペプチドは、C4逆相HPLCカラムで分離され、OGM標識ペプチドの溶出が495nmでの吸光度によりモニターされた。このペプチドマップ中でただ一つの主要ピークがこの波長で検出され、本タンパク質中にただ一つの遊離システインが存在することを示しているDTNBの結果と一致した。このピークは回収され、MALDI-TOF質量分析法により分析された。この結果は、rhASMのC末端トリプシンペプチド中にその遊離システインが存在することを示していた。修飾されたのがこのC末端ペプチドであることをさらに確認するため、ポストソース分解(PSD)による断片化が、MALDI-TOFのターゲット上で標識されたペプチドピークについて行われた。この結果により、OGMによって修飾される遊離システインがC末端のシステインであると明確に同定された。
【0051】
実施例5
銅により促進される二量体形成
上記のように調製されたrhASMタンパク質は、透析され、20 mMトリス-塩酸、150 mM NaCl、pH 7.0で最終濃度0.5 mg/mLに希釈された。CuSO4(特に示さない限り0.1 mM)が添加され、その混合物は37℃で30分間 または氷上で1時間インキュベーションされた。二量体の分裂を研究するよう計画された実験では、100 mM DTTまたは20 mM EDTAが銅処理に続いてタンパク質に添加され、インキュベーションがさらに37℃で30分間続けられた。インキュベーションした試料は、4%〜20%のプレキャストトリス-グリシンゲル(Novax)とクーマシーブルー染色により分析された。
【0052】
銅依存的な活性の増加を理解するために、rhASMの二つの型を0.1 mM硫酸銅とインキュベーションし、非還元条件下での4%〜20%のSDS-PAGEゲル上で検討した。低活性型の銅とのインキュベーションは、rhASMの二量体のサイズ(130-140 kDa)に相当する高分子量のバンドの出現をもたらした。単量体から二量体への変換は、銅とインキュベーションした高活性型では起こらなかった。それ故、銅は低活性型の二量体形成を促進するが、高活性型は促進しない。この様式で形成された二量体は、DTTがローディングバッファー中に含まれていると消失することから、DTTに感受性である。このことは、二量体中にジスルフィド結合が関与し、銅が分子間のジスルフィド結合形成を促進することを示唆している。これは、銅イオンが分子間のジスルフィド結合形成を促進するために添加される、タンパク質のリフォールディング実験で一般的な慣例と一致する。rhASMの二量体形成に必要とされる銅の最小濃度は、〜10 mMであった。
【0053】
実施例6
カルボキシペプチダーゼY処理
カルボキシペプチダーゼY(CPY、Roche Molecular Biochemicalsから入手)が、rhASMタンパク質のC末端からアミノ酸を切断するのに用いられた。種々のCPY対rhASM比(1:1から1:260,000)で両者を20 mMクエン酸塩、200 mM NaCl、200 mM塩化ナトリウム、pH 6.0中で混合し、氷上で8時間インキュベーションした。その後試料は、活性検定と、残存する遊離システインを測定するためのOGMによる蛍光標識に供された。標識されたrhASMは、4%〜20%のゲル上でSDS-PAGEにより分析され、バンドの強度を定量するために蛍光リーダー(GLYKO, incのFACE imager)で可視化された。CPY反応はまた、溶液消化の結果を確認するために、固定化されたCPYビーズ(Pierce)を用いて行われた。簡単に述べると、1 mg/mL rhASM(0.1 mL)のアリコットが、0.45μmスピンフィルター(MilliporeのUltrafree-MC)上で10μLのCPYビーズと混合された。消化されたタンパク質は、固定化されたCPYを除去するために種々の時点でフィルターを通して遠心され、ろ液はその後ASM活性について検定された。
【0054】
カルボキシペプチダーゼY(CPY)は、タンパク質のC末端からアミノ酸を順次切断する。上記の標識実験の結果は、rhASMの活性化を担うのがC末端の遊離システインであることを示しているので、C末端のシステインの除去がrhASMの活性化をもたらすか否かを調べるために、CPY処理を行った。rhASMの低活性型が、異なった酵素対タンパク質比でCPYとインキュベーションされ、各反応について活性がモニターされた。C末端のシステインの消失は、本実験ではタンパク質のOGM標識への感受性によりモニターされた。CPY消化された試料は、OGM標識の度合いを決定するために4%〜20%のSDS-PAGEにローディングする前にOGMとインキュベーションされた。各反応について蛍光バンドの強度が、実験方法(図2A)に記載したように定量された。明らかに、CPY濃度が増加するに従ってrhASMはOGMで標識される能力を徐々に失い、C末端の遊離システインの消失を反映していた。活性測定は、rhASM活性が、インキュベーションにおいて多くのCPYが使用されるほど増加することを示していた(図2B)。可溶性CPYを用いたこの消化と平行して、固定化したCPYを用いたインキュベーションの経時変化も検討され、類似のrhASM活性化パターンが観察された(データは示さず)。これらの結果は、C末端のシステインの酵素的欠失がrhASMタンパク質の活性化をもたらすことを示しており、チオール修飾のデータからの結論と一致する。
【0055】
実施例7
CYS629の置換
ASMのcDNAは、IMAGE Consortium (GenBank アクセッション番号AI587087) から入手した。そのオープンリーディングフレーム全体は、末端のシステインのコドンCTGが欠失されるかまたはTCC(セリン)に変異される、リバースプライマーを用いたPCRにより増幅された。PCR産物は、DHFR選択マーカーを含んだ哺乳類発現ベクター中にクローニングされた。プラスミドは、望ましい変異のみが存在することを確認するために、オープンリーディングフレーム全体について配列決定された。DHFR欠損CHO-DXB11細胞は、リポフェクタミン(Gibco)を用いてトランスフェクションし、選択は10%透析済FBSと0.2 FMメトトレキセート(CalBiochem)を添加したヌクレオチドを含まない培地中で行った。組換えASMの発現レベルは、クローニングしていないプールに対して、メトトレキセート濃度を漸増させることによりさらに押し上げられた。
【0056】
上記のデータから、C末端システインの修飾または欠失のいずれかにより、rhASM活性の実質的な増加がもたらされるようである。この活性化におけるC末端システインの役割を確認するために、C末端システイン(Cys629)が停止コドン(Cys670del)との置換により除去されるか、またはセリンへ変異されている(Cys629→Ser)ASM変異体を生じるように、部位特異的変異導入が実行された。変異タンパク質は、安定にトランスフェクションされたCHO細胞で過剰発現され、精製された。精製された変異型の比活性が測定され、野生型の全長rhASMタンパク質と比較された(表2)。両変異体とも全長の野生型に比べ平均で約5倍増加した比活性を示した。これらの結果は、C末端システインのチオール基の修飾または欠失がASMの活性化をもたらすとの結論を裏付けるものである。
【0057】
(表2)野生型(WT)および変異型rhASMタンパク質の活性

【0058】
本発明は、とりわけその好ましい態様を参照して示しかつ記載されているが、当業者には、実施形態および詳細における様々な変化は、本発明の範囲から逸脱することなく行ってもよいことは理解される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】チオール修飾されたrhASMの比活性を、メチルメタンチオスルホネート(MMTS)の濃度の関数として示したグラフである。試料は、標準的なASM活性検定に供した。
【図2】AとBは、カルボキシペプチダーゼY(CPY)処置によるASMの活性化を示したグラフである。ASMは、種々の濃度のCPYで処理され、その結果のC末端システインの消失がOregon Green(登録商標)マレイミド(OGM)での標識によりモニターされた。Aは、SDS-PAGEで分析したOGM処理試料のバンドから検出された蛍光のレベルを示している。Bは、溶液反応についてのCPY処理試料のASM活性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)のC末端システインアミノ酸残基を修飾する段階を含む、ヒトASMの活性を増加させる方法。
【請求項2】
ASMがrhASMである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ASMが配列番号:1のアミノ酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
修飾がC末端システインアミノ酸残基の欠失を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
修飾がC末端システインアミノ酸残基の別のアミノ酸残基との置換を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
置換が同類置換である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
C末端システインアミノ酸残基がセリンアミノ酸残基と置換される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
修飾がASMの二量体化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ASM二量体がジスルフィド結合で架橋されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
修飾が化合物のC末端システインアミノ酸残基への結合を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
化合物がチオール保護基を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
チオール保護基が、チオエーテル、チオエステル、および非対称ジスルフィドからなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
化合物がシステインの修飾剤(modifier)を含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
システインの修飾剤が不可逆的修飾剤である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
不可逆的修飾剤がマレイミドである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ヒトASMのC末端システインアミノ酸残基を修飾する段階を含む、ヒトASMの酸性スフィンゴミエリン活性を増加させる方法であって、該修飾が
(a)C末端システインアミノ酸残基の欠失;
(b)C末端システインアミノ酸残基と別のアミノ酸残基との置換;
(c)ASMの二量体化;および
(d)化合物のC末端システインアミノ酸残基への結合、
からなる群より選択され、該修飾がシステイン残基の遊離チオール基の活性を消失させることにより該ASMの酸性スフィンゴミエリン活性を増加させる方法。
【請求項17】
ASMがrhASMである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ASMが配列番号:1を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
C末端システインアミノ酸残基が欠失したヒトASMを含み、増加したスフィンゴミエリン活性を示す、修飾されたASM。
【請求項20】
C末端システインアミノ酸残基の置換を有するヒトASMを含む、増加したスフィンゴミエリン活性を示す、修飾されたASM。
【請求項21】
置換が同類置換である、請求項20記載の修飾されたASM。
【請求項22】
C末端システインアミノ酸残基がセリンアミノ酸残基と置換される、請求項20記載の修飾されたASM。
【請求項23】
二量体を有するヒトASMを含む、増加したスフィンゴミエリン活性を示す修飾されたASM。
【請求項24】
ASM二量体がジスルフィド結合で架橋されている、請求項23記載の修飾されたASM。
【請求項25】
C末端システインアミノ酸残基に結合している化合物を有するヒトASMを含む、増加したスフィンゴミエリン活性を示す修飾されたASM。
【請求項26】
化合物がチオール保護基を含む、請求項25記載の修飾されたASM。
【請求項27】
チオール保護基が、チオエーテル、チオエステル、および非対称ジスルフィドからなる群より選択される、請求項26記載の修飾されたASM。
【請求項28】
化合物がシステインの修飾剤を含む、請求項25記載の修飾されたASM。
【請求項29】
システインの修飾剤が不可逆的修飾剤である、請求項28記載の修飾されたASM。
【請求項30】
不可逆的修飾剤がマレイミドである、請求項29記載の修飾されたASM。
【請求項31】
配列番号:2及び配列番号:3からなる群より選択されるアミノ酸をコードする、単離された核酸。
【請求項32】
請求項19、20、23または25のいずれか一項記載の修飾されたASMの有効量を投与する段階を含む、ASM関連症候群を有するヒト対象を治療するための方法。
【請求項33】
症候群がニーマン-ピック病である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
症候群が脂質ヒスチサイトーシスである、請求項32記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−518396(P2007−518396A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533700(P2006−533700)
【出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/018515
【国際公開番号】WO2004/111198
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(504275694)ジェンザイム・コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】