説明

増幅器電源電圧制御装置

【課題】増幅器2の電源電圧を制御する増幅器電源電圧制御装置を改良した。
【解決手段】増幅器の電源電圧を制御するために誤差電流を供給する誤差増幅回路21、22及び直流の電流(又は直流と低周波成分の電流)を供給する直流供給回路22〜25を有する電源電圧制御回路、増幅器による増幅対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の高周波成分を抽出する高周波成分抽出手段12、14、15、抽出された高周波成分の信号に対してピーク保持処理を行うピーク保持手段16、増幅器による増幅対象となる信号に関する包絡線の検出結果に基づく信号とピーク保持処理の結果の信号とを加算して加算結果の信号を電源電圧制御回路に入力させる加算手段13を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンベロープ(包絡線)・トラッキング方式の増幅器電源電圧制御装置に関し、特に、高効率を維持しつつ、電力増幅器に必要な電源電圧を供給することができ、電力増幅器の線形性を確保することが可能な増幅器電源電圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のディジタル無線通信システムでは、伝送速度を高速化するために信号の平均電力とピーク電力が大きく異なる多値変調方式が用いられることが多い。
従来の電力増幅システムでは、このような信号を取り扱うとき、ピーク電力を出力することができるような一定電圧を電力増幅器に供給することで線形性を確保していた。
しかしながら、ピーク電力を出力している時間はごくわずかであり、結果として、増幅器の電源効率を低下させていた。
この問題を解決するための技術として、エンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムが知られている。
【0003】
図6には、従来のエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの構成例を示してある。
本例の電力増幅システムは、包絡線検波器(Envelope Detector)101、誤差増幅器(Error Amplifier)21、抵抗器(R)22、パルス幅変調器(Pulse Width Modulator)23、パルス増幅器(Pulse Amplifier)24、コイル(L)25、遅延回路(Delay)1、電力増幅器(Power Amplifier)2を備えている。
なお、説明の便宜上から、図6では、後述する実施例で参照される図1に示されるのと同様な処理部については同一の符号を付してあるが、本発明を不要に限定する意図は無い。
【0004】
本例の電力増幅システムにおいて行われる動作の一例を示す。
遅延回路1は、入力された変調信号を電力増幅器2までの処理過程で所定の時間遅延させる。電力増幅器2は、遅延回路1を経由してきた入力信号を増幅して出力する。
また、前記した変調信号は包絡線検波器101にも入力され、包絡線検波器101は当該変調信号の包絡線を検出して誤差増幅器21へ出力する。
検出された包絡線は誤差増幅器21に入力され、誤差増幅器21は当該包絡線と電力増幅器2の電源電圧との誤差を所定の利得で増幅して出力する。
【0005】
誤差増幅器21の出力と電力増幅器2の電源電圧端子とは抵抗器22で接続されており、パルス幅変調器23は抵抗器22の両端の電位差に応じてパルス幅変調信号を発生させてパルス増幅器24へ出力する。
パルス増幅器24はパルス幅変調器23から入力されたパルス幅変調信号を増幅してコイル25へ出力する。
コイル25は、パルス増幅器24からの出力と電力増幅器2の電源電圧端子とを接続する。
【0006】
本例の回路構成では、入力された変調信号の包絡線に追従して電力増幅器2に印加する電源電圧を変化させるとともに、直流を含む低周波成分の電流については高効率なパルス増幅器24から供給し、高周波成分の電流については誤差増幅器21から供給して、電力増幅器2の効率を向上させている。
【0007】
図7(A)、(B)を参照して、従来例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの動作原理を説明する。
図7(A)では、縦軸に誤差増幅器21から出力される電流を表しており、横軸に時間の経過を表している。図7(B)では、縦軸にパルス増幅器24から出力される電流を表しており、横軸に時間の経過を表している。
【0008】
初めに、包絡線検波器101から直流成分が誤差増幅器21に入力された場合について説明する。
まず、包絡線検波器101から直流電圧が入力された場合、誤差増幅器21は、入力を所定の利得で増幅した電圧を出力するため、電力増幅器2へ電流を供給する(図7における時点a)。
これにより、抵抗器22の両端の電位差が大きくなり、パルス幅変調器23はパルス増幅器24をオンにする。パルス増幅器24がオンになると、コイル25から電力増幅器2へ電流が供給されるようになり、誤差増幅器21から供給される電流が減少していく(図7における区間b)。
【0009】
すると、誤差増幅器21から供給する電流が減ることにより、抵抗器22の両端の電位差が小さくなり、所定の電位差まで小さくなると、パルス幅変調器23はパルス増幅器24をオフにする(図7における区間c)。
パルス増幅器24がオフになると、コイル25から電力増幅器2へ供給する電流が減少して、誤差増幅器21から供給する電流が増加し、所定の電位差になると、パルス幅変調器23は再びパルス増幅器24をオンにする(図7における区間d)
以上の動作を繰り返すことで、電力増幅器2に必要な電流が供給される。
【0010】
ここで、直流電圧が入力された場合には、電流は主にパルス増幅器24から供給されるが、パルス増幅器24が出力する信号のうち、コイル25で除去しきれない高周波成分については誤差増幅器21が補償することになる。
なお、図7の例では、パルス増幅器24がオンになる抵抗器22の両端の電位差と、オフになる抵抗器22の両端の電位差とで、ヒステリシス(Hysterisis)を持たせている。
【0011】
次に、包絡線検波器101から交流電圧が誤差増幅器21に入力された場合について説明する。
パルス幅変調器23の発振周波数は、ヒステリシスの幅やコイルの値で決まり、パルス幅変調器23が追従することが可能な周波数に関しては、直流電圧の場合と同じ原理で動作する。
そして、パルス幅変調器23では追従することができない周波数成分については全て、誤差増幅器21から電流が供給されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−092518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図6に示されるような従来のエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムでは、図7を参照して上記で説明したように動作することから、例えば、高電圧な電力増幅器2や、広帯域な包絡線を取り扱うような場合には、誤差増幅器21には広帯域、高スルーレートの性能が要求されるが、これを一般的な半導体で実現することは困難であった。このため、電力増幅器2に必要な電源電圧を供給することができず、電力増幅器2の線形性が失われてしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、このような従来の事情に鑑み為されたもので、例えば、高効率を維持しつつ、電力増幅器に必要な電源電圧を供給することができ、電力増幅器の線形性を確保することが可能なエンベロープ・トラッキング方式の増幅器電源電圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明では、増幅器の電源電圧を制御する増幅器電源電圧制御装置において、次のような構成とした。
すなわち、前記増幅器の電源電圧を制御するために誤差電流を供給する誤差増幅回路と、前記増幅器の電源電圧を制御するために直流の電流(又は、直流と低周波成分の電流)を供給する直流供給回路と、を有する電源電圧制御回路を備えた。
そして、高周波成分抽出手段が、前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の高周波成分を抽出する。ピーク保持手段が、前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波成分の信号に対してピーク保持処理を行う。加算手段が、前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果に基づく信号と前記ピーク保持手段によるピーク保持処理の結果の信号とを加算して、当該加算結果の信号を前記電源電圧制御回路に入力させる。
【0016】
従って、増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果に基づく信号に、増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の高周波成分の信号に対するピーク保持処理の結果の信号が加算されて、当該加算結果の信号により電源電圧制御回路が動作させられることにより、例えば、エンベロープ・トラッキング方式の増幅器電源電圧制御装置において、高効率を維持しつつ、増幅器(例えば、電力増幅器)に必要な電源電圧を供給することができ、増幅器(例えば、電力増幅器)の線形性を確保することが可能となる。
【0017】
ここで、電源電圧制御回路が有する誤差増幅回路は、例えば、直流供給回路と比べて、高い周波数の電流を供給することが可能である。
また、電源電圧制御回路が有する直流供給回路は、例えば、誤差増幅回路と比べて、高効率を実現することが可能である。
また、電源電圧制御回路が有する誤差増幅回路や直流供給回路としては、それぞれ、種々な構成のものが用いられてもよい。
具体例として、直流供給回路としては、パルス増幅を用いた回路や、或いは、一定の電圧(或いは、一定の電流)を供給する回路、などを用いることができる。
【0018】
また、高周波成分抽出手段としては、例えば、電源電圧制御回路(電源電圧制御回路が有する誤差増幅回路)により供給することができないような高い周波数成分を抽出するものが用いられる。
また、高周波成分抽出手段により抽出する所定の高周波成分の周波数特性としては、例えば、予め設定される。
また、高周波成分抽出手段としては、例えば、低域ろ波手段と減算手段を用いて構成することや、或いは、高域ろ波手段を用いて構成することができる。
また、ピーク保持処理としては、種々なものが用いられてもよい。
【0019】
また、増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線としては、例えば、当該信号の包絡線が用いられてもよく、或いは、当該信号に対してディジタルとアナログという形式や中間周波数や無線周波数など、1つ以上が異なるような信号の包絡線が用いられてもよい。
また、増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果に基づく信号としては、例えば、当該包絡線の検出結果の信号に所定の処理を施した信号が用いられてもよく、或いは、当該包絡線の検出結果の信号が用いられてもよい。
【0020】
本発明に係る増幅器電源電圧制御装置では、一構成例として、次のような構成とした。
すなわち、低域ろ波手段が、前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の低周波成分を通過させる(つまり、所定の低周波成分を抽出する)。
前記加算手段は、前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果に基づく信号として、前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号が前記低域ろ波手段を通過した後の信号(つまり、抽出された所定の低周波成分の信号)を加算する。
【0021】
従って、増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の低周波成分の信号(低域ろ波手段の通過信号)に、増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の高周波成分の信号に対するピーク保持処理の結果の信号が加算されて、当該加算結果の信号により電源電圧制御回路が動作させられることにより、例えば、エンベロープ・トラッキング方式の増幅器電源電圧制御装置において、高効率を維持しつつ、増幅器(例えば、電力増幅器)に必要な電源電圧を供給することができ、増幅器(例えば、電力増幅器)の線形性を確保することが可能となる。
【0022】
ここで、低域ろ波手段が通過させる所定の低周波成分の周波数特性としては、例えば、予め設定される。
また、低域ろ波手段が通過させる所定の低周波成分と、高周波成分抽出手段により抽出する所定の高周波成分としては、例えば、互いに補完するような態様を用いることができ、具体的には、所定の低周波数成分を決める境界の周波数と所定の高周波成分を決める境界の周波数が同一である(又は、近似する)ような態様を用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によると、例えば、エンベロープ・トラッキング方式の増幅器電源電圧制御装置において、高効率を維持しつつ、増幅器(例えば、電力増幅器)に必要な電源電圧を供給することができ、増幅器(例えば、電力増幅器)の線形性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例に係る電力増幅システムの構成例を示す図である。
【図2】本発明の第2実施例に係る電力増幅システムの構成例を示す図である。
【図3】本発明の第3実施例に係る電力増幅システムの構成例を示す図である。
【図4】本発明の第4実施例に係る電力増幅システムの構成例を示す図である。
【図5】包絡線、低域ろ波器出力、加算器出力の時間波形の一例を示す図である。
【図6】従来例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの構成例を示す図である。
【図7】(A)及び(B)は従来例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの動作原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る実施例を図面を参照して説明する。
本実施例に係る電力増幅システムは、例えば、ディジタルの無線通信システムにおいて、電力増幅器の電源電圧が高い基地局装置や中継局装置に適用するのに好適なものであり、また、他の種々なものに適用されてもよい。
本実施例に係る電力増幅システムでは、例えば、送信対象となる信号を入力して増幅して出力し、この信号は(例えば、電力増幅システムの外部の)アンテナにより無線送信される。
【実施例1】
【0026】
本発明の第1実施例を説明する。
図1には、本発明の一実施例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの構成例を示してある。
本例の電力増幅システムは、包絡線検波器11、低域ろ波器(LPF)12、加算器13、包絡線遅延回路(Delay)14、減算器(Substract)15、ピーク保持回路(Peak Hold)16、誤差増幅器21、抵抗器22、パルス幅変調器23、パルス増幅器24、コイル25、遅延回路1、電力増幅器2を備えている。
【0027】
ここで、遅延回路1と包絡線検波器11には、同じ信号が入力されるが、例えば、ディジタル/アナログや、周波数が異なっていてもよい。具体的には、例えば、両方にアナログ信号として入力される態様(図1、図3、図4の例)や、或いは、遅延回路1にはアナログ信号として入力されて包絡線検波器11にはディジタル信号として入力される態様(図2の例)が用いられてもよく、また、例えば、両方に無線周波数(RF:Radio Frequency)信号として入力される態様や、或いは、遅延回路1には無線周波数信号として入力されて包絡線検波器11には中間周波数(IF:Intermediate Frequency)信号として入力される態様が用いられてもよい。
また、必要に応じて、遅延回路1と電力増幅器2との間に、D/A(Digital to Analog)変換器や、周波数変換器や、ろ波器や、増幅器などが配置されてもよい。
【0028】
本例の電力増幅システムにおいて行われる動作の一例を示す。
遅延回路1は、入力された変調信号を電力増幅器2までの処理過程で所定の時間遅延させる。電力増幅器2は、遅延回路1を経由してきた入力信号を増幅して出力する。
【0029】
また、前記した変調信号は包絡線検波器11にも入力され、包絡線検波器11は、当該変調信号の包絡線を検出して、検出した包絡線を低域ろ波器12及び包絡線遅延回路14へ出力する。
低域ろ波器12は、包絡線検波器11から入力された包絡線の信号の低周波成分のみを抽出して、加算器13及び減算器15へ出力する。
【0030】
包絡線遅延回路14は、包絡線検波器11から入力された包絡線の信号を所定の時間だけ遅延させて、減算器15へ出力する。ここで、包絡線遅延回路14における遅延量は、低域ろ波器12における遅延量と等しくなるように設定されており、つまり、減算器15への入力タイミングが一致するように調整されている。
減算器15は、包絡線遅延回路14から入力された信号から、低域ろ波器12から入力された信号(低周波成分の信号)を減算して、高周波成分のみを抽出して、ピーク保持回路16へ出力する。
【0031】
ピーク保持回路16は、減算器15から入力される信号(高周波成分の信号)のピークを保持して、加算器13へ出力する。このピークの保持により、包絡線の高周波成分が直流や低周波成分へ変換される。
加算器13は、低域ろ波器12から入力された信号とピーク保持回路16から入力された信号とを加算して、その結果を誤差増幅器21へ出力する。
【0032】
誤差増幅器21は、加算器13から入力された信号の電圧と電力増幅器2の電源電圧との誤差を所定の利得で増幅して、抵抗器22へ出力する。
抵抗器22は、誤差増幅器21の出力(出力端子)と電力増幅器2の電源電圧端子とを接続する。
パルス幅変調器23は、抵抗器22の両端の電位差に応じてパルス幅変調信号を発生させてパルス増幅器24へ出力する。
パルス増幅器24は、パルス幅変調器23から入力されたパルス幅変調信号を増幅して、コイル25へ出力する。
コイル25は、パルス増幅器24からの出力と電力増幅器2の電源電圧端子とを接続する。
【0033】
以上のように、本例では、入力された変調信号の包絡線に追従して電力増幅器2に印加する電源電圧を変化させるエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムにおいて、入力された信号を増幅する電力増幅器2と、入力された変調信号を電力増幅器2までの処理過程で所定の時間遅延させる遅延回路1と、変調信号の包絡線を検出する包絡線検波器11と、包絡線検波器11の出力から低周波成分のみを抽出する低域ろ波器12と、包絡線検波器11の出力を遅延させる包絡線遅延回路14と、包絡線遅延回路14の出力から低域ろ波器12の出力を減算して高周波成分を抽出する減算器15と、減算器15の出力のピーク信号を保持するピーク保持回路16と、低域ろ波器12の出力とピーク保持回路16の出力を加算する加算器13と、加算器13の出力と電力増幅器2の電源電圧との誤差を所定の利得で増幅する誤差増幅器21と、誤差増幅器21の出力と電力増幅器2の電源電圧端子を接続する抵抗器22と、抵抗器22の両端の電位差に応じてパルス幅変調信号を発生させるパルス幅変調器23と、パルス幅変調器23が出力するパルス幅変調信号を増幅するパルス増幅器24と、パルス増幅器24の出力と電力増幅器2の電源電圧端子を接続するコイル25と、から構成される。
【0034】
そして、本例のエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムでは、入力された変調信号の包絡線に追従して電力増幅器2に印加する電源電圧を変化させるとともに、直流を含む低周波成分の電流については高効率なパルス幅変調器23から電力増幅器2へ供給し、高周波成分の電流については誤差増幅器21から電力増幅器2へ供給し、また、誤差増幅器21で供給することができない包絡線の高周波成分については、ピーク保持回路16にて直流又は低周波成分に変換することにより、電力増幅器2に必要な電源電圧を確保することができる。
【0035】
従って、本例のエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムでは、誤差増幅器21では追従することができない包絡線の高周波成分を直流成分や低周波成分へ変換することにより、例えば、電力増幅器2の高効率を維持しつつ、電力増幅器2に必要な電源電圧を供給することができるため、電力増幅器2の線形性を確保することが可能になり、低歪且つ高効率な電力増幅システムを実現することができる。
【0036】
ここで、本例では、ピーク保持回路16は、一定時間ピークを保持する単純な構成としたが、他の構成例として、時定数を持たせてピーク信号の振幅を減少させていくピーク保持回路など、様々な種類のピーク保持回路が用いられてもよい。
【0037】
なお、本例の電力増幅システムでは、包絡線検波器11と遅延回路1と電力増幅器2以外の処理部から増幅器電源電圧制御装置が構成されており、誤差増幅器21や抵抗器22により電源電圧制御回路の誤差増幅回路が構成されており、抵抗器22やパルス幅変調器23やパルス増幅器24やコイル25により電源電圧制御回路の直流(低周波成分を含んでもよい)供給回路が構成されており、低域ろ波器12の機能により低域ろ波手段が構成されており、低域ろ波器12や包絡線遅延回路14や減算器15の機能により高周波成分抽出手段が構成されており、ピーク保持回路16の機能によりピーク保持手段が構成されており、加算器13の機能により加算手段が構成されている。
また、本例では、電力増幅器2が電源電圧を制御する対象となっており、包絡線検波器11の機能により包絡線検波手段が構成されている。
【実施例2】
【0038】
本発明の第2実施例を説明する。
図2には、本発明の一実施例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの構成例を示してある。
本例の電力増幅システムは、包絡線検波器11、低域ろ波器12、加算器13、包絡線遅延回路14、減算器15、ピーク保持回路16、誤差増幅器21、抵抗器22、パルス幅変調器23、パルス増幅器24、コイル25、遅延回路1、電力増幅器2、ディジタル信号をアナログ信号へ変換するD/A変換器31を備えている。
【0039】
ここで、本例の電力増幅システムの構成や動作は、加算器13と誤差増幅器21との間にD/A変換器31が備えられている点を除いては、図1に示されるものと同様であり、同様な部分については詳しい説明を省略する。また、説明の便宜上から、図2では、図1に示されるものと同様な処理部については同一の符号を付してある。
【0040】
本例では、包絡線検波器11、低域ろ波器12、包絡線遅延回路14、減算器15、ピーク保持回路16、加算器13をディジタルで処理する構成としてあり、D/A変換器31が加算器13から出力される信号を入力してディジタル信号からアナログ信号へ変換して誤差増幅器21に入力する。
本例の動作原理は、図1に示されるものと同様であるが、上記の機能をディジタル化することにより、回路の調整が不要になるため、実現が容易になるという利点がある。
【実施例3】
【0041】
本発明の第3実施例を説明する。
図3には、本発明の一実施例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの構成例を示してある。
本例の電力増幅システムは、包絡線検波器41、低域ろ波器42、加算器43、高域ろ波器(HPF)44、ピーク保持回路45、誤差増幅器21、抵抗器22、パルス幅変調器23、パルス増幅器24、コイル25、遅延回路1、電力増幅器2を備えている。
【0042】
ここで、本例の電力増幅システムの構成や動作は、包絡線検波器41、低域ろ波器42、加算器43、高域ろ波器44、ピーク保持回路45といった部分を除いては、図1に示されるものと同様であり、同様な部分については詳しい説明を省略する。また、説明の便宜上から、図3では、図1に示されるものと同様な処理部については同一の符号を付してある。
具体的には、図1や図2に示される構成では、包絡線の高周波成分を抽出するために、包絡線遅延回路14の出力から低域ろ波器12の出力を減算していたのに対して、本例の構成では、高域ろ波器44を用いて包絡線の高周波成分の抽出を実現している。
なお、図3に示される回路は、図1や図2に示される回路と等価である。
【0043】
本例では、包絡線検波器41は、入力された変調信号の包絡線を検出して、検出した包絡線を低域ろ波器42及び高域ろ波器44へ出力する。
低域ろ波器42は、包絡線検波器41から入力された包絡線の信号の低周波成分のみを抽出して、加算器43へ出力する。
高域ろ波器44は、包絡線検波器41から入力された包絡線の信号の高周波成分のみを抽出して、ピーク保持回路45へ出力する。
【0044】
ピーク保持回路45は、高域ろ波器44から入力される信号(高周波成分の信号)のピークを保持して、加算器43へ出力する。
加算器43は、低域ろ波器42から入力された信号とピーク保持回路45から入力された信号とを加算して、その結果を誤差増幅器21へ出力する。
【0045】
ここで、本例の構成においても、図1や図2に示される構成と同じ原理で動作する。
なお、例えば、低域ろ波器42の遅延量と高域ろ波器44の遅延量とが異なる場合には、遅延量が小さい方に、両者の遅延量が等しくなるような遅延回路を挿入することが必要となる。
【0046】
なお、本例の電力増幅システムにおける増幅器電源電圧制御装置では、図1に示されるものとは異なる符号を付した部分に関して、低域ろ波器42の機能により低域ろ波手段が構成されており、高域ろ波器44の機能により高周波成分抽出手段が構成されており、ピーク保持回路45の機能によりピーク保持手段が構成されており、加算器43の機能により加算手段が構成されている。
【実施例4】
【0047】
本発明の第4実施例を説明する。
図4には、本発明の一実施例に係るエンベロープ・トラッキング方式の電力増幅システムの構成例を示してある。
本例の電力増幅システムは、包絡線検波器51、包絡線遅延回路52、加算器53、低域ろ波器54、減算器55、ピーク保持回路56、誤差増幅器21、抵抗器22、パルス幅変調器23、パルス増幅器24、コイル25、遅延回路1、電力増幅器2を備えている。
【0048】
ここで、本例の電力増幅システムの構成や動作は、包絡線検波器51、包絡線遅延回路52、加算器53、低域ろ波器54、減算器55、ピーク保持回路56といった部分を除いては、図1に示されるものと同様であり、同様な部分については詳しい説明を省略する。また、説明の便宜上から、図4では、図1に示されるものと同様な処理部については同一の符号を付してある。
【0049】
包絡線検波器51は、入力された変調信号の包絡線を検出して、検出した包絡線を包絡線遅延回路52及び低域ろ波器54へ出力する。
低域ろ波器54は、包絡線検波器51から入力された包絡線の信号の低周波成分のみを抽出して、減算器55へ出力する。
【0050】
包絡線遅延回路52は、包絡線検波器51から入力された包絡線の信号を所定の時間だけ遅延させて、減算器55及び加算器53へ出力する。ここで、包絡線遅延回路52における遅延量は、低域ろ波器54における遅延量と等しくなるように設定されており、つまり、減算器55への入力タイミングが一致するように調整されている。
減算器55は、包絡線遅延回路52から入力された信号から、低域ろ波器54から入力された信号(低周波成分の信号)を減算して、高周波成分のみを抽出して、ピーク保持回路56へ出力する。
【0051】
ピーク保持回路56は、減算器55から入力される信号(高周波成分の信号)のピークを保持して、加算器53へ出力する。このピークの保持により、包絡線の高周波成分が直流や低周波成分へ変換される。
加算器53は、包絡線遅延回路52から入力された信号とピーク保持回路56から入力された信号とを加算して、その結果を誤差増幅器21へ出力する。
【0052】
ここで、図1〜図3に示される構成では、包絡線の低周波成分にその高周波成分のピーク保持結果を加算したが、本例では、包絡線にその高周波成分のピーク保持結果を加算している。本例の加算結果は、図1〜図3の場合と比べて大きくなると考えられるが、例えば、電力増幅器2に必要な電源電圧を供給するという点では、実用上で有効であると考えられる。
【0053】
なお、本例の電力増幅システムにおける増幅器電源電圧制御装置では、図1に示されるものとは異なる符号を付した部分に関して、包絡線遅延回路52と低域ろ波器54と減算器55の機能により高周波成分抽出手段が構成されており、ピーク保持回路56の機能によりピーク保持手段が構成されており、加算器53の機能により加算手段が構成されている。
【実施例5】
【0054】
本発明の第5実施例を説明する。
本例では、図1に示される電力増幅システムを例として、具体的に、効果を説明する。なお、図2や図3に示される構成においても、同様な効果が得られる。
本例では、実際のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号を例として、低域ろ波器12、包絡線遅延回路14、減算器15、ピーク保持回路16、加算器13による処理を説明する。
【0055】
図5には、包絡線(a)、低域ろ波器12の出力(b)、加算器13の出力(c)について、それぞれの時間波形の一例を示してある。横軸はサンプル数によって正規化された時間を表しており、縦軸は最大出力電圧によって正規化された振幅を表している。
なお、図5に示される時間波形は、基本的には図3に示される構成を想定して計算したものであるが、図1や図2に示される構成の場合においても、適用することが可能である。
【0056】
本例で使用したOFDM信号の包絡線の時間波形は、図5(a)のように示される。
また、この包絡線から低域ろ波器12で低周波成分のみを抽出したものの時間波形は、図5(b)のように示される。
更に、包絡線遅延回路14、減算器15、ピーク保持回路16、加算器13までの処理を行った結果の時間波形は、図5(c)のように示される。
【0057】
本例では、低域ろ波器12は、正規化された周波数0.03125以上を十分に減衰させる特性としてある。
また、本例では、ピーク保持回路16は、正規化された時間0.0625だけピークが保持されるように構成してあり、正規化された時間0.0625までの過渡的な応答は図には表されていない。
【0058】
また、図5に示される時間波形について考えると、低域ろ波器12によって高周波成分を減衰させた低域ろ波器出力(b)は、入力された包絡線(a)と比較して、出力電圧が小さくなってしまう部分がある。つまり、電力増幅器2に必要な電源電圧が出力されない時間が存在することになる。
これに対して、包絡線遅延回路14、減算器15、ピーク保持回路16、加算器13までの処理を行った加算器出力(c)では、入力された包絡線(a)と等しいかそれ以上の電圧が出力されている。つまり、包絡線のレベル(例えば、電圧)に応じたレベル以上のレベルをいずれのところ(例えば、高い周波数のところ)においても供給することができる。
従って、本例では、高効率を維持しつつ、電力増幅器2に必要な電源電圧を供給することができるため、電力増幅器2の線形性を確保することが可能になる。
【0059】
ここで、本発明に係るシステムや装置などの構成としては、必ずしも以上に示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法或いは方式や、このような方法や方式を実現するためのプログラムや当該プログラムを記録する記録媒体などとして提供することも可能であり、また、種々なシステムや装置として提供することも可能である。
また、本発明の適用分野としては、必ずしも以上に示したものに限られず、本発明は、種々な分野に適用することが可能なものである。
また、本発明に係るシステムや装置などにおいて行われる各種の処理としては、例えばプロセッサやメモリ等を備えたハードウエア資源においてプロセッサがROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成が用いられてもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウエア回路として構成されてもよい。
また、本発明は上記の制御プログラムを格納したフロッピー(登録商標)ディスクやCD(Compact Disc)−ROM等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体や当該プログラム(自体)として把握することもでき、当該制御プログラムを当該記録媒体からコンピュータに入力してプロセッサに実行させることにより、本発明に係る処理を遂行させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1・・遅延回路、 2・・電力増幅器、 11、41、51、101・・包絡線検波器、 12、42、54・・低域ろ波器、 13、43、53・・加算器、 14、52・・包絡線遅延回路、 15、55・・減算器、 16、45、56・・ピーク保持回路、 21・・誤差増幅器、 22・・抵抗器、 23・・パルス幅変調器、 24・・パルス増幅器、 25・・コイル、 31・・D/A変換器、 44・・高域ろ波器、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅器の電源電圧を制御する増幅器電源電圧制御装置において、
前記増幅器の電源電圧を制御するために誤差電流を供給する誤差増幅回路と、前記増幅器の電源電圧を制御するために直流の電流又は直流と低周波成分の電流を供給する直流供給回路と、を有する電源電圧制御回路と、
前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の高周波成分を抽出する高周波成分抽出手段と、
前記高周波成分抽出手段により抽出された高周波成分の信号に対してピーク保持処理を行うピーク保持手段と、
前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果に基づく信号と前記ピーク保持手段によるピーク保持処理の結果の信号とを加算して、当該加算結果の信号を前記電源電圧制御回路に入力させる加算手段と、
を備えたことを特徴とする増幅器電源電圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の増幅器電源電圧制御装置において、
前記増幅器により増幅される対象となる信号に関する包絡線の検出結果の信号に含まれる所定の低周波成分を通過させる低域ろ波手段を備え、
前記加算手段は、前記低域ろ波手段を通過した後の信号と前記ピーク保持手段によるピーク保持処理の結果の信号とを加算する、
ことを特徴とする増幅器電源電圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−49754(P2011−49754A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195505(P2009−195505)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】