説明

増幅装置及び振幅周波数特性調整方法

【課題】周波数特性の過度の補正により、チャンネル間の位相のずれ、SN比の低下、出力信号の歪みが原因となり、ノイズ発生や音質低下や聴感上の違和感が生じる。
【解決手段】増幅装置において、スピーカから出力された測定用信号をマイクロフォンで収音し、収音信号に基づいてスピーカから出力された出力信号の周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、信号処理部は、前記収音信号から得た測定周波数特性と目標周波数特性を比較し、測定周波数特性と目標周波数特性との差分を低減させる周波数特性補正値を求め、当該周波数特性補正値による周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、周波数特性補正値と演算補正値とを用いて特性周波数特性の補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号を増幅して出力すると共にスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置、および、スピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な振幅周波数特性調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホームシアターシステム等のマルチチャンネルオーディオ再生システムが普及してきている。このマルチチャンネルオーディオ再生システムは、記録媒体に記録されているオーディオ信号を再生装置が再生し、再生装置が再生したオーディオ信号を複数チャンネルのオーディオ信号に変換し、増幅し、複数のスピーカに出力する増幅装置を備える。
【0003】
当該増幅装置において、高品位な音質によりオーディオ信号を再生するためには、各チャンネル間のオーディオ信号の位相、各チャンネルの出力信号のロールオフ(カットオフ)周波数、各チャンネルの出力信号全体の音圧レベル、リスニングポイントとスピーカとの距離、各チャンネルの出力信号の音圧レベルの周波数特性などの音響特性に関する各種のパラメータの値を適切な値に設定する必要がある。従来、それらのパラメータの値を聴取者が手動により設定していたが、近年、自動的にこれらのパラメータの値を設定する自動音場補正機能を備えた装置が出現してきた。以下、オーディオ信号の振幅周波数特性を単に「周波数特性」という。
【0004】
自動音場補正機能は、測定用信号を各スピーカから出力し、各スピーカから出力された音をリスニングポイントに設置されたマイクロフォンで収音し、収音したオーディオ信号の周波数特性、オーディオ信号全体の音圧レベル、各チャンネルのオーディオ信号の遅延時間等と、予め設定されている周波数特性、音圧レベル、遅延時間等とを比較し、その差分を除去するように各チャンネルのオーディオ信号の周波数特性、オーディオ信号全体の音圧レベル、各チャンネルのオーディオ信号の遅延時間を補正する。これによりリスニングポイントにおいて最適なオーディオ信号を復元することができる。このような自動音場補正機能を備えた装置が特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されているマルチチャンネルオーディオ再生装置や特許文献2に開示されている自動音場補正システムでは、各スピーカから出力された測定用信号を収音し、測定した結果に基づいて収音したオーディオ信号の周波数特性を求め、当該周波数特性が予め設定されている目標周波数特性に一致するように演算によりイコライザの係数を自動的に求め、演算により求めた係数が設定されたイコライザを形成し、当該イコライザを介してオーディオ信号を出力することにより、自動的に音場を補正する。
【0006】
また、自動音場補正機能によりリスニングポイントにおいて最適なオーディオ信号の復元をする場合に、1箇所のリスニングポイントで収音した各特性に基づいて演算により、当該リスニングポイントの周辺で聴取した場合でも当該リスニングポイントで聴取した場合と同じ再生特性が得られるように、各スピーカから出力するオーディオ信号のディレイやレベルを補正する技術が特許公報3に開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−354300
【特許文献2】特開2001−224092
【特許文献3】特開2000−59898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているマルチチャンネルオーディオ再生装置や特許文献2に開示されている自動音場補正システムにおけるオーディオ信号の周波数特性の補正は、測定により求めた周波数特性が予め設定された目標周波数特性に一致するように、演算により求めた係数を用いて補正する。
【0009】
自動音場補正機能による音響特性の測定において、スピーカから出力された音は、直接、または、部屋の壁に反射してマイクロフォンに入力するため、マイクロフォンで収音されたオーディオ信号の周波数特性には、急激にレベルが変化するピーク(信号レベルが高くなっている凸部)及びディップ(信号レベルが低くなっている凹部)、或いは、非常にレベルが大きなピーク及びディップが多く発生する。これらのピーク或いはディップを自動音場補正の演算により自動的に周波数特性の補正を行うことができるが、測定により求めた周波数特性が予め設定された目標周波数特性に一致するように補正することにより、オーディオ信号のチャンネル間の位相にずれが発生したり、SN(Signal Noise)比が低下したり、出力信号に歪みが発生することがある。
【0010】
具体的には、急激にレベルが変化するピーク及びディップを有する周波数特性、すなわち、人間が知覚できない狭い周波数帯域にピークとディップが存在する周波数特性を補正する場合、演算上では、目標周波数特性に一致するように正確にピーク及びディップを補正する。しかし、ピークとディップとの周波数帯域が狭い周波数特性を補正するために用いるイコライザは、ピーク及びディップの部分で鋭いカーブ(急激に信号レベルが低く又は高くなる)を有する周波数特性となり、ピーク及びディップの部分の位相が極端に変化するため、この位相の変化によりチャンネル間の位相関係にずれが生じる。
【0011】
また、非常にレベルが大きなピーク及びディップを有する周波数特性を補正する場合、演算上では、目標周波数特性に一致するように正確にピーク及びディップを補正する。この補正のための演算においては、ヘッドルームを確保しなければならない。ヘッドルームとは、それぞれの音響機器の動作レベルに対してどれだけ大きなレベルの信号を扱えるかという「余裕の度合い」を示し、音響機器が歪むレベルと実際に音響機器から出力される音のレベルとの差を示す。例えば、デジタルレコーダーでは20dB、ミキシングコンソールのヘッドアンプで30dB程度のヘッドルームを必要とし、最大信号レベルを0dBとした場合、デジタルレコーダーでは−20dBまでが当該機器で扱える最大信号レベルとなり、ミキシングコンソールのヘッドアンプでは−30dBまでが当該機器で扱える最大信号レベルとなる。
【0012】
周波数特性を補正する演算においてヘッドルーム(例えば、30dB)を確保するため、周波数特性を補正する演算処理をデジタル的に行う信号処理手段(例えば、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor))の前段で周波数特性のアナログ信号レベル(利得)を所定レベル低くする処理を行い、当該信号処理手段(DSP)の後段の信号(例えば、デジタルアナログ変換した後のアナログ信号)に対し、信号レベルを所定レベル高くする処理を行う。このことにより、ヘッドルームが確保され、レベルの大きいピークを有する周波数特性の場合でも、レベルが高い部分が飽和することなく周波数特性を補正することができる。しかし、周波数特性の信号レベルを低くすることにより、ダイナミックレンジが狭くなり、微小レベルの信号がノイズ成分に埋もれるため、SN比が低下し、音質が劣化する。
【0013】
また、ヘッドルームを確保するために周波数特性の信号レベルを低くした分、後段で信号レベルを高くする必要があるため、回路規模が大きくなる。また、もともとヘッドルームを確保する必要がない周波数特性の場合は、周波数特性の信号レベルを低くする必要がない。こりような場合、ヘッドルームの確保のために周波数特性の利得を所定レベル低くした後、後段のアナログ回路で利得を高くする処理を行う装置において、周波数特性の利得を低くした場合と周波数特性の利得を低くしない場合とを判別する手段、また、その判別に基づいて周波数特性の利得を低くするか否かを切り換える手段が必要になり、回路構成が複雑になり回路規模か大きくなる。
【0014】
また、スピーカの中には、可聴帯域内の一部の帯域にディップが存在する周波数特性を有するスピーカがある。このようなディップは、スピーカ自体が有する周波数特性であるため、ディップの部分の信号レベル以上の信号は出力されない。周波数特性の補正により当該ディップの部分の信号レベルを上げるように補正すると、信号レベルを上げた周波数の信号波形がクリップするなどにより、スピーカからの出力信号に歪みが発生する。
【0015】
このように、測定により得られた周波数特性には、急激にレベルが変化するピーク及びディップ或いは非常にレベルが大きなピーク及びディップが存在したり、一部の帯域にディップが存在することがある。これらのピーク或いはディップを自動音場補正の演算により測定により得られた周波数特性が目標周波数特性に一致するように自動的に周波数特性の補正を行った場合、オーディオ信号のチャンネル間の位相のずれが原因となり音場が正常な位置からずれ聴感上の違和感が生じたり、SN比の低下が原因となりオーディオ信号のノイズ成分が増大して聞こえたり、出力信号の歪みやダイナミックレンジが狭くすることが原因となりオーディオ信号の音質が劣化することがある。
【0016】
また、特許文献3に開示されている聴取位置補正装置においては、1箇所のリスニングポイントで収音した各特性に基づいて、当該リスニングポイントの周辺の聴取領域を9個の領域に分割し、それぞれの各領域の中心を聴取位置と仮定し、演算により各聴取位置での最適な再生条件を求め、スピーカから出力するオーディオ信号のディレイやレベル等を補正している。しかし、リスニングポイントの周辺の聴取領域が実際の聴取位置より広すぎる場合、或いは、狭すぎる場合には、実際の聴取位置で最適な再生条件が得られない。
【0017】
本発明は、回路構成を複雑にすることなく回路規模を小さくし、オーディオ信号の振幅周波数特性を補正する際に、測定により得られた周波数特性が目標周波数特性に一致するように補正することにより生じる聴感上の違和感やノイズ成分の増大や音質の低下を低減することができる増幅装置および振幅周波数特性調整方法を提供することを目的とする。また、聴取位置を移動した場合であっても、最適な再生条件を得ることができる増幅装置および振幅周波数特性調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の発明は、オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、前記収音信号から得た測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較し、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求め、当該周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、前記周波数特性補正値と前記演算補正値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うことを特徴とする。
【0019】
本願の発明は、オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性とに基づいて前記測定周波数特性におけるピーク或いはディップを検出し、信号レベルが最小のディップを検出し、当該最小ディップの信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルと一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、前記ピーク或いはディップに対応するフィルタ係数からなる周波数特性補正値と前記ピーク或いはディップに対応する前記フィルタ係数に乗算する補正値からなる演算補正値とを求め、前記周波数特性補正値と前記演算補正値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うことを特徴とする。
【0020】
本願の発明は、前述した増幅装置において、前記信号処理部は、前記演算補正値を、前記ピーク或いはディップの特性と前記フィルタ係数に基づく特性とのレベル差率および前記フィルタ係数に基づく特性におけるオーディオ信号の歪み率とに基づいて前記前記フィルタ係数に対応する補正値を決定し、前記補正値に基づいて演算補正値を求めることを特徴とする。
【0021】
本願の発明は、オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な振幅周波数特性調整方法において、スピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生するステップと、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号から測定周波数特性を取得するステップと、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較するステップと、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加するステップと、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求めるステップと、当該周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求めるステップと、前記周波数特性補正値と前記演算補正値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うステップとを備えることを特徴とする。
【0022】
本願の発明は、オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、複数の測定位置でマイクロフォンが収音したそれぞれの収音信号から得た各測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較し、、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、各測定周波数特性について測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求め、求めた各周波数特性補正値について周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、求めた複数の周波数特性補正値の平均値と複数の演算補正値の平均値を求め、前記周波数特性補正値の平均値と前記演算補正値の平均値を用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うことを特徴とする。
【0023】
本願の発明は、オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な振幅周波数特性調整方法において、スピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生するステップと、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより複数の測定位置で収音された収音信号から複数の測定周波数特性を取得するステップと、前記複数の測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較するステップと、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加するステップと、前記複数の測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求めるステップと、求めた複数の周波数特性補正値について各周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求めるステップと、求めた複数の周波数特性補正値の平均値と複数の演算補正値の平均値を求めるステップと、前記周波数特性補正値の平均値と前記演算補正値の平均値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うステップとを備えることを特徴とする。
【0024】
本願の発明は、オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカからマイクロフォンまでのオーディオ信号の到達時間を測定すると共にスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、複数の測定位置でマイクロフォンが収音したそれぞれの収音信号から得た各測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較し、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、各測定周波数特性について測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求め、求めた各周波数特性補正値について周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、求めた複数の周波数特性補正値の平均値と複数の演算補正値の平均値を求め、前記周波数特性補正値の平均値と前記演算補正値の平均値を用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うと共に、各スピーカから複数の測定位置でのマイクロフォンが収音した収音信号から得たスピーカからマイクロフォンまでのオーディオ信号の到達時間に基づいて各スピーカの配置を判別し、スピーカの位置と当該スピーカに出力するチャンネルのオーディオ信号が一致してない場合に前記出力部により当該スピーカに適合したチャンネルのオーディオ信号に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、回路構成を複雑にすることなく回路規模を小さくし、周波数特性を補正することが可能な増幅装置或いは振幅周波数特性調整方法において、オーディオ信号の振幅周波数特性を補正する際に、測定により得られた周波数特性が目標周波数特性に一致するように補正することにより生じる聴感上の違和感やノイズの増大や音質の低下を低減することができる。また、聴取位置を移動した場合であっても、最適な再生条件を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の増幅装置の第1実施例の構成を示す図である。
図1において、増幅装置は、信号処理部1、出力部2、測定用信号発生部3、収音信号入力部4、操作部5、制御部6を備える。
【0027】
信号処理部1は、例えば、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)であり、外部機器から入力されるオーディオ信号に対しデコードや遅延等の信号処理を行う。デコード処理は、例えば、2チャンネルのオーディオ信号を6チャンネルのオーディオ信号に変換する処理、圧縮されたオーディオ信号を伸長する処理などである。遅延処理は、複数のスピーカからオーディオ信号を出力した際に聴取者に臨場感などを与えるため、デコードされた各チャンネルのオーディオ信号に対してそれぞれ遅延時間を加える処理である。
【0028】
信号処理部1は、後述する制御部6の制御により、収音信号入力部4から入力される収音信号に基づいて、複数のスピーカを配置した空間でオーディオ信号を聴取する環境において聴取者のリスニングポイントで最適な音響効果が得られるように、各チャンネルのオーディオ信号の周波数特性、遅延時間、音圧レベル等の音響特性の各種パラメータの値を自動的に補正する。この設定を行う動作を自動音場補正処理という。
【0029】
信号処理部1は、自動音場補正処理において、測定により得られた周波数特性を目標周波数特性に補正する際に、これらの周波数特性を比較して差分を求め、測定により得られた周波数特性を目標周波数特性に一致させるための周波数特性補正値を求める。そして、当該周波数特性補正値に基づいて、演算により補正の度合いを決定する後述する演算補正値を求め、周波数特性補正値及び演算補正値を用いて周波数特性の補正を行う。
【0030】
ここで、信号処理部1は、測定により求められた周波数特性、目標周波数特性、周波数特性補正値、演算補正値を用いて演算により、オーディオ信号の周波数特性の補正を行う。この補正は、信号処理部1内の演算プログラム上においてパラメトリック・イコライザを形成し、このパラメトリック・イコライザを構成する周波数や信号レベルの値等を演算により変更することにより補正を行う。パラメトリツク・イコライザは、グラフィック・イコライザ(可聴帯域を分割し帯域毎にレベルを調整する)の1つの帯域分の周波数特性におけるピーク或いはディップの中から任意のピーク又はディップの周波数を中心周波数に設定し、周波数特性を変更する。
【0031】
信号処理部1は、メモリ1aを備え、自動音場補正処理により設定したパラメータの値をメモリ1aに記憶する。オーディオ信号は、聴取者が操作部5を用いて聴取者が希望する周波数特性になるようにパラメータの値を変更する、或いは、自動音場補正処理によりパラメータの値が変更されるまでメモリ1aに記憶された値に基づいて信号処理が施され出力される。
【0032】
出力部2は、デジタルアナログ変換部(図示せず)、増幅部(図示せず)を備え、信号処理部1から入力される複数チャンネルのデジタルオーディオ信号をデジタルアナログ変換し、アナログ信号に変換されたオーディオ信号を増幅し、出力部2に接続されているフロントレフトチャンネルスピーカ(以下、「FLスピーカ」という。)7a、フロントライトチャンネルスピーカ(以下、「FRスピーカ」という。)7b、センターチャンネルスピーカ(以下、「Cスピーカ」という。)7c、サラウンドレフトチャンネルスピーカ(以下、「SLスピーカ」という。)7d、サラウンドライトチャンネルスピーカ(以下、「SRスピーカ」という。)7e、サブウーハーチャンネルスピーカ(以下、「SWスピーカ」という。)7fにそれぞれ出力する。
【0033】
出力部2は、制御部6の制御により、自動音場補正処理の時、或いは、自動音場補正処理後に聴取者が希望する周波数特性になるように周波数特性の変更を行う際に聴取者が操作部5を用いて指示した時、測定用信号発生部3が発生した測定用信号を各チャンネルのスピーカ7a〜7fに出力する。
【0034】
測定用信号発生部3は、制御部6の制御により、自動音場補正処理において周波数特性の自動補正を行う際に、各種パラメータの値を測定するための測定用信号を発生する。測定用信号は、可聴帯域より広い周波数帯域を有する信号であり、例えば、インパルス、タイムストレッチトパルス、ホワイトノイズなどである。
【0035】
収音信号入力部4は、制御部6の制御により、自動音場補正処理において収音信号入力部4に接続されているマイクロフォン8から入力される収音信号の入力を受け、信号処理部1に出力する。
【0036】
操作部5は、自動音場測定処理のオン・オフの切り換えのための操作ボタン、音響特性の各種パラメータの設定を入力又は変更するための操作ボタン等を備える。操作部5は、聴取者が操作ボタンを押下すると、押下された操作ボタンに対応する指示信号を制御部6に出力する。
【0037】
制御部6は、増幅装置全体を総合的に制御する。制御部6は、信号処理部1において、外部機器から入力されるオーディオ信号に対しデコード処理や遅延処理等を施し、出力部2からオーディオ信号を出力させる制御を行う。
【0038】
制御部6は、操作部5から自動音場補正処理がオンの指示信号が入力された場合、測定用信号発生部3に測定用信号を発生させ、当該測定用信号を信号処理部1を介して出力部2から各スピーカに出力させる制御を行う。スピーカから出力された測定用信号は、マイクロフォン8により収音され、収音信号入力部4に入力される。そして、制御部6は、収音信号入力部4から入力される収音信号に基づいて、信号処理部1に音響特性の各種パラメータの値を演算により求めさせ、求めた値をメモリ1aに記憶させ、その値を音響特性の各種パラメータの値として設定し、音響特性を補正させる制御を行う。
【0039】
第1実施例の増幅装置における自動音場補正処理について説明する。
図1に示すように6本のスピーカ7a〜7fを備えるホームシアターシステムなどのようなマルチチャンネル再生システムでは、部屋の音響特性、使用するスピーカの周波数特性、各チャンネルの位相特性、スピーカからオーディオ信号を出力し聴取者がオーディオ信号を聴取するまでの伝送経路の伝達特性、使用するスピーカの種類や数、スピーカの設置位置、リスニングポイントと各スピーカとの配置などにより、リスニングポイントにおいて各チャンネルのスピーカ7a〜7fから届くオーディオ信号の位相特性、ロールオフ周波数、オーディオ信号全体の音圧レベル、リスニングポイントから各スピーカまでの距離、オーディオ信号の振幅周波数特性が変わるため、聴取者が同じ音源のオーディオ信号を聴取する場合であっても、前記の位相特性、ロールオフ周波数、音圧レベル、距離、周波数特性の違いにより音色、音場、臨場感などが異なって聞こえる。
【0040】
外部機器で再生され増幅装置に入力されるオーディオ信号は、当該オーディオ信号を聴取する環境が適切であることを前提としている。例えば、各チャンネルの出力信号の音圧レベルが等しく、各スピーカ7a〜7f間の距離、各スピーカの周波数特性が適正であり、スピーカ構成として適切な種類のスピーカが用いられている環境で聴取することを前提としているため、当該増幅装置から出力されるオーディオ信号を最適な音で再現するためには、適切な環境を整備しなければならない。
【0041】
増幅装置から出力されるオーディオ信号を最適な音で再現するために、自動音場補正処理において、部屋の音響特性、使用するスピーカの特性、伝送経路の伝達特性等の測定、測定結果に基づくオーディオ信号に対する補正を行う。自動音場補正処理は、測定処理と補正処理とからなり、最初に測定処理が実行される。
【0042】
測定処理は、リスニングポイントにおける現在の音響特性を測定する処理である。オーディオ信号が出力されるスピーカ7a〜7fは、図1に示すように配置され、測定用のマイクロフォン8は、リスニングポイントに配置される。
【0043】
測定処理では、制御部6は、測定用信号発生部3に測定用信号を発生させ、信号処理部1を介し測定用信号を出力部2から各スピーカ7a〜7fに順番に出力させる。各スピーカ7a〜7fから出力された測定用信号は、マイクロフォン8で収音される。マイクロフォン8から出力された収音信号は、収音信号入力部4に入力され、信号処理部1に入力される。信号処理部1は、測定用信号発生部3が発生した測定用信号と収音信号入力部4に入力した収音信号とに基づいてインパルス応答を演算により求める。増幅装置から出力された信号が各スピーカ7a〜7fから出力され、その信号がマイクロフォン8で収音されるまでの伝達特性が、ここで得られたインパルス応答である。
【0044】
このインパルス応答に基づいて、各チャンネルの出力信号の音圧レベルやピークレベル等を演算により求め、FFT(Fast Fourier Transform)解析することにより、スピーカ構成(スピーカの有無、スピーカサイズ)、スピーカ間の位相関係、各スピーカ間の距離、リスニングポイントから各スピーカまでの距離、各スピーカからの出力信号の音圧レベルや周波数特性が得られる。
【0045】
そして、補正処理に移行する。
補正処理は、測定処理で得られた測定結果に基づいて各種パラメータの補正を行う。
【0046】
信号処理部1は、測定処理で得られた測定結果により、スピーカの有無に基づくスピーカの個数の設定、スピーカ間の距離又はリスニングポイントから各スピーカまでの距離に基づく各チャンネル間の遅延時間の補正、各スピーカの出力信号の音圧レベルに基づく各チャンネル間の出力信号の音圧レベルの差の補正、各スピーカの出力信号の周波数特性に基づく各チャンネルの出力信号の周波数特性の補正などをするための係数を演算により求める。
【0047】
演算により求めた係数は、メモリ1aに記憶され、外部機器から入力されるオーディオ信号を出力する際には、メモリ1aに記憶された係数を用いて当該オーディオ信号に対して周波数特性の補正、位相の補正、音圧レベルの補正、出力時間の遅延等の信号処理が行われ出力される。
【0048】
増幅装置は、演算により求めた値を信号処理部1の各種パラメータ(スピーカのサイズ、スピーカの個数、スピーカ間の距離、リスニングポイントから各スピーカまでの距離、各チャンネルの遅延時間、各チャンネルの音圧レベル、各チャンネルの周波数特性など)の値として設定し、自動音場補正の結果、どのような設定になっているかを聴取者が確認できるように、増幅装置の表示部(図示せず)或いは増幅装置に接続されているモニタ(図示せず)に表示し、自動音場補正処理は完了する。
【0049】
次に、自動音場補正処理における周波数特性の補正について説明する。
信号処理部1は、予め複数の目標周波数特性を示す情報(目標周波数特性を示す値)を備えており、これらの目標周波数特性は、自動音場補正処理の測定処理の前までに聴取者が操作部5を用いて選択することが可能である。自動音場補正処理の補正処理では、測定結果から得られた周波数特性を目標周波数特性に一致させるための周波数特性補正値を求め、当該周波数特性補正値に基づいて演算補正値を求め、それらの値を用いて演算により周波数特性の補正を行う。そして、信号処理部1は、補正した周波数特性のオーディオ信号を出力する。
【0050】
図2は、第1実施例の増幅装置における自動音場補正処理の補正処理を説明する図である。
図3は、第1実施例の増幅装置におけるフィルタ係数Qに関する演算を説明するための図である。
図4は、第1実施例の増幅装置における演算補正値Rに関する演算を説明する図である。
自動音場補正処理において、制御部5は、測定用信号発生部3に測定用信号を発生させ、各スピーカの周波数特性を測定する。測定した結果、図2(a)に示す周波数特性Aが得られたものとする。
【0051】
図2(a)における周波数特性Aは、信号処理部1により、測定により得られた周波数特性を、1/3オクターブ或いは1/6オクターブなどのオクターブ帯域毎に平滑化した周波数特性である。これは、測定により得られる周波数特性は、スピーカの周波数特性、部屋の音響特性、スピーカの配置、室内にある物体による反射の影響等により、レベルが大きく且つ複雑なピークやディップを含む周波数特性となる。
【0052】
このような周波数特性の全てのピーク及びディップを補正するために、それぞれのピーク及びディップにパラメトリック・イコライザを割り当てることは、演算処理が複雑になると共に演算時間がかかるため困難である。このため、測定により得られた周波数特性を平滑化し、平滑化した周波数特性Aに対し周波数特性の補正を行う。
【0053】
図2(b)は、目標周波数特性Tの一例である。自動音場補正処理における周波数特性の補正は、図2(a)に示す周波数特性Aが図2(b)に示す目標周波数特性Tに近づくように補正を行う。ここで、図2(b)に示す目標周波数特性Tは、例えば、最大信号レベル(0dB)に対し、ヘッドルームを確保するため予め定めた信号レベルを低くしたレベル(−30dB)の信号レベルを有する。
【0054】
制御部6は、ユーザが操作部5を用いて再生するオーディオ信号源の機器の選択をすると、選択された機器に対応するヘッドルームを確保するための値(信号レベル)を自動的に決定する。ヘッドルームを確保するための値(信号レベル)は、図示しないメモリに予め機器の種類と共に記憶され、制御部6は、当該メモリに記憶された情報を参照してヘッドルームを確保するための値(信号レベル)を決定する。目標周波数特性Tの信号レベルは、制御部6により、接続された機器に応じて自動的にヘッドルームに対応する信号レベルに設定される。
【0055】
制御部6は、信号処理部1を制御し、最初に、図2(a)に示す周波数特性Aにおいて、周波数特性のディップ部であり、最も信号レベルが低い部分の周波数を検出し、当該基準周波数f(n)とする。また、当該基準周波数f(n)における信号レベルx(n)を検出する。次に、図2(b)に示す目標周波数特性Tにおいて、基準周波数f(n)における信号レベルx’(n)を検出する。
【0056】
基準周波数f(n)は、人間の音声の帯域に含まれる聴感上最も信号レベルの変化に敏感な周波数帯域(例えば、500Hz〜5kHz)の周波数とする。それは、従来の自動音場補正処理による周波数特性の補正では、測定により得た周波数特性を目標周波数特性に正確に一致させるため、位相のずれによる聴感上の違和感、ノイズの増大、音質の低下が生じる。
【0057】
本実施例の自動音場補正処理では、これらの位相のずれによる聴感上の違和感、ノイズ成分の増大、音質の低下を低減するため、ある周波数帯域では測定により得た周波数特性を目標周波数特性に正確に一致させる補正を行い、他の周波数帯域ではピークやディップの部分における補正の度合いを低くくし、位相のずれによる聴感上の違和感、ノイズ成分の増大、音質の低下を低減するように測定により得た周波数特性を目標周波数特性に近づける補正を行う。
【0058】
第1実施例の周波数特性の補正では、測定により得た周波数特性と目標周波数特性との差分が大きいピーク或いはディップの部分において、測定により得た周波数特性と目標周波数特性とが正確に一致しなくなる部分が発生する。この測定により得た周波数特性と目標周波数特性とが正確に一致しなくなる部分が聴感上最も信号レベルの変化に敏感な周波数帯域の周波数である場合、当該部分における周波数特性が聴感上あまり補正されていないように聴取者に知覚される。
【0059】
このため、本実施例における周波数特性の補正では、周波数特性の補正をするための基準周波数を人間の聴感上最も信号レベルの変化に敏感な周波数帯域の周波数にすることにより、当該周波数では測定により得た周波数特性と目標周波数特性が一致するため、聴取者に周波数特性があまり補正されていないように知覚されることがなくなる。
【0060】
図2(a)に示す周波数特性Aにおける基準周波数f(n)の信号レベルx(n)が、図2(b)に示す目標周波数特性Tにおける基準周波数f(n)の信号レベルx’(n)に一致するように、周波数特性Aの全体の信号レベルを増加させる。この結果、図2(a)に示す周波数特性Aは、図2(c)に示す周波数特性A’となる。
【0061】
図2(c)に示すように、周波数特性A’は、目標周波数特性Tの信号レベルより高くなるため、後述する周波数特性Aを補正する場合に用いる周波数特性は、目標周波数特性Tに対し常に負(マイナス側)の周波数特性となり、補正された周波数特性も目標周波数特性Tの信号レベルより低くなる。すなわち、補正された周波数特性が、ヘッドルームを確保するための信号レベル(本実施例では、−30dB)より低くなる。このことにより、補正後の周波数特性は、ヘッドルームが確保され、且つ、目標周波数特性Tに近い周波数特性となるように補正される。
【0062】
次に、図2(c)に示す周波数特性A’において、周波数毎に、目標周波数特性Tの信号レベルと周波数特性A’の信号レベルとを比較し、目標周波数特性Tの信号レベルより高い信号レベルの部分(ピーク部)における目標周波数特性Tの信号レベルに対する信号レベル差gの絶対値を検出する。図2(c)においては、周波数fc1の信号レベル差g1の絶対値が最も大きく、次に周波数fc2の信号レベル差g2の絶対値が大きく、周波数fc3の信号レベル差g3の絶対値がこれらの中で最も小さく検出されたものとする。
【0063】
信号レベル差gの絶対値が最大である信号レベル差g1のピーク部を検出すると、当該信号レベル差g1の周波数fc1をパラメトリック・イコライザの中心周波数として設定し、信号レベル差g1をパラメトリック・イコライザにおける周波数特性の補正のレベルとして設定する。
【0064】
そして、図2(d)に示すように、周波数fc1において信号レベル差g1の特性P1のピーク部について、当該特性P1のピーク部を目標周波数特性Tに近づけるためのフィルタ係数Q及び補正値Rを求める。フィルタ係数Qは、理想的には、当該特性P1のピーク部と対称な特性を得ることができる値である。また、補正値Rは、フィルタ係数Qを用いたパラメトリック・イコライザによる当該特性P1のピーク部における周波数特性の補正の度合いを決定する値である。
【0065】
フィルタ係数Qの求め方は、信号処理部1が予め複数(例えば、10個など)のフィルタ候補係数q(n)をテーブルとして備え、当該特性P1のピーク部の信号レベル差g1及び周波数fc1とそれぞれのフィルタ候補係数q(n)とに基づいてフィルタを構成し、当該フィルタを用いたパラメトリック・イコライザを形成する。このパラメトリック・イコライザの周波数特性と特性P1とを当該特性P1のピーク部の周波数帯域内の各周波数毎に信号レベルを比較して差分を算出し、このレベル差が最も小さいフィルタ候補係数q(n)を当該特性P1のピーク部のフィルタ係数Q1とする。
【0066】
具体的には、図3(a)に示すように、特性P1のピーク部に対し、演算により、予め備えられた複数のフィルタ候補係数qa〜qjのそれぞれを用いてパラメトリック・イコライザを形成し、各フィルタ候補係数qa〜qj毎に、パラメトリック・イコライザによる周波数特性と特性P1とを当該特性P1のピーク部の周波数帯域内の各周波数毎にレベルを比較し、各周波数のレベル差の総和(差分)を算出する。その結果、各フィルタ候補係数qa〜qjのそれぞれについて、各フィルタ候補係数qa〜qjを用いたパラメトリック・イコライザの周波数特性と特性P1との信号レベルの差分が求まる。
【0067】
その各フィルタ候補係数qa〜qjを用いたパラメトリック・イコライザの周波数特性と特性P1との信号レベルの差分は、図3(b)に示すようになり、パラメトリック・イコライザにより求めた周波数特性と特性P1との差分が最も小さいフィルタ候補係数qgをフィルタ係数Qgとする。
【0068】
次に、求めたフィルタ係数Qgについて、当該フィルタ係数Qgを用いたパラメトリック・イコライザによる周波数特性の補正の度合いを決定する補正値Rを求める。ディップ部における周波数特性の補正の度合いは、フィルタ係数Qgに基づく特性のピークレベルにより変化する。例えば、前記フィルタ係数Qgに基づく特性のピークレベルが低いほど補正の度合いは低く、前記フィルタ係数Qgに基づく特性のピークレベルが高いほど補正の度合いは高くなる。当該フィルタ係数Qgに補正値Rを乗算することにより、補正の度合いが決定する。
【0069】
補正値Rは、特性P1のピーク部の信号レベル差g1に基づいて求めた複数の補正候補値r(n)の中から1つの補正値Rが選択される。この選択方法は後述する。
【0070】
各補正候補値r(n)は、特性P1のピーク部の信号レベル差g1を予め定めた数(例えば、10個など)で等分して求め、等分したそれぞれのレベルがピークレベルとなるフィルタ係数Qgに基づく特性を示すものである。例えば、補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性は、それぞれ図4(a)に示すような特性となり、フィルタ係数Qgに算補正候補値ra〜rjに乗算することにより求める。
【0071】
補正候補値r(n)の取りうる値は、例えば0.1〜1である。複数の補正候補値r(n)から選択された補正値Rが0.1の場合は、フィルタ係数Qgを用いたパラメトリック・イコライザによる周波数特性の補正を10%行い(補正10%:図4(a)では、補正候補値ra)、複数の補正候補値r(n)から選択された補正値Rが1の場合は、フィルタ係数Qgを用いたパラメトリック・イコライザによる周波数特性の補正を100%行う(補正100%:図4(a)では、補正候補値rj)。補正値Rを0とした場合は、フィルタ係数Qgを用いたパラメトリック・イコライザによる周波数特性の補正を全く行わないため(補正0%)、補正候補値r(n)から0の値は除く。
【0072】
例えば、ピーク部の中心周波数fc(n)が500Hzであり、周波数500Hzの信号レベル(ピークレベル)が目標周波数特性の信号レベルより10dB低い場合、フィルタ係数Qgを用いたパラメトリック・イコライザによる周波数特性において、周波数500Hzの信号レベルを増幅する補正のイコライザを構成する。この場合、補正候補値r(n)は、+1dBの補正ならばr=0.1(補正10%)、+2dBの補正ならばr=0.2(補正20%)、・・・+10dBの補正ならばr=1(補正100%)となる。これらの値の中から後述する演算により適切な補正候補値r(n)が特性P1のピーク部の周波数特性の補正に用いる補正値Rとして選択される。
【0073】
各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性(図4(a))のパラメトリック・イコライザを形成し、特性P1と各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性とのレベル差率と、各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性におけるオーディオ信号の歪み率を求める。
【0074】
最初に、特性P1と各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性とのレベル差率について説明する。
レベル差率は、特性P1の各周波数の信号レベルの絶対値の総和Xaを算出し、各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性の各周波数の信号レベルの絶対値の総和Xbを算出し、総和Xbを総和Xaで除算しレベル差率を算出する。
【0075】
総和Xaは、目標周波数特性Tの信号レベルを基準値とし、特性P1のピーク部の周波数帯域内の各周波数において、その基準値に対する特性P1の信号レベルを求め、求めた信号レベルの絶対値を総和Xbとして算出する。また、総和Xbは、それぞれの補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性について、フィルタ係数Qgの特性における信号レベルが平坦な部分の信号レベルを基準値とし、特性P1のディップ部の周波数帯域内に対応する周波数帯域の各周波数において、その基準値に対する各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性の信号レベルを求め、求めた信号レベルの絶対値を総和Xaとして算出する。
【0076】
レベル差率は、例えば、図4(b)に示すような特性図となる。補正候補値raの場合、図4(a)に示すようにフィルタ係数Qgの特性のピークレベルが低いため、当該補正候補値raに基づくフィルタ係数Qgの特性における総和Xbが小さくなる。この結果、補正候補値raの場合、当該総和Xbと特性P1の総和Xaとのレベル差率は、図4(b)に示すように高くなる。つまり、この補正候補値raに基づくフィルタ係数Qgの特性では、周波数特性の補正の度合いが低いことを示す。
【0077】
また、補正候補値rjの場合、図4(a)に示すようにフィルタ係数Qgの特性のピークレベルが高いため、当該補正候補値rjに基づくフィルタ係数Qgの特性における総和Xbが大きくなる。この結果、補正候補値rjの場合、当該総和Xbと特性P1の総和Xaとのレベル差率は、図4(b)に示すように低くなる。つまり、この補正候補値raに基づくフィルタ係数Qgの特性では、周波数特性の補正の度合いが高いことを示す。
【0078】
そうすると、図4(b)に示すように、特性P1と各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性におけるレベル差率は、補正候補値raから補正候補値rjに向かうにしたがって、ほぼ直線的に低くなる特性となる。
【0079】
このように特性P1と補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性とのレベル差率は、図4(b)に示すように、補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性が特性P1の対称な特性からずれるほど高く、補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性が特性P1の対称な特性に近くなるほどレベル差率が低くなる。
【0080】
次に、補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性におけるオーディオ信号の歪み率について説明する。
歪み率は、補正候補値ra〜rjのそれぞれについて各補正候補値ra〜rjのピークレベルを有し、特性P1におけるピーク部の中心周波数(図2(d)に示すfc1)のサイン波をスピーカから出力し、その音をマイクロフォンにより収音し、収音信号の高調波成分の実効値の総和の相乗平均値とを求め、当該相乗平均値と出力信号の基本波の実効値との比率により求める。
【0081】
特性P1のピーク部を有する周波数特性において、周波数特性の補正により当該ピーク部のレベル以上にスピーカから出力されるオーディオ信号のレベルを上げるように補正すると、レベルを上げた周波数の信号波形がクリップし、スピーカからの出力信号に歪み(高調波成分)が発生する。このような歪みを、補正候補値ra〜rjのそれぞれについて、スピーカから出力する信号とマイクロフォンで収音した信号を用いて歪み率を求める。
【0082】
具体的には、補正候補値raのピークレベルを有するサイン波をスピーカから出力し、その音をマイクロフォンにより収音し、収音信号の高調波成分の実効値の総和の相乗平均値を求め、当該相乗平均値と出力信号の基本波の実効値との比率を求める。次に、補正候補値rbのピークレベルを有するサイン波をスピーカから出力し、その音をマイクロフォンにより収音し、収音信号の高調波成分の実効値の総和の相乗平均値を求め、当該相乗平均値と出力信号の基本波の実効値との比率を求める。この動作を繰り返し行い、補正候補値ra〜rjのそれぞれにおける歪み率を求める。
【0083】
そうすると、オーディオ信号の歪み率は、例えば図4(c)に示すような特性図になる。なお、後述する歪み率閾値を説明する上で1%以下の値も視認できるように図4(c)では縦軸の歪み率を対数として表す。図4(c)において、補正候補値ra〜rdの場合は歪み率が低く、補正候補値reの場合から歪み率が徐々に高くなり、補正候補値rjの場合が最も歪み率が高くなる。
【0084】
このようにして求めた補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性におけるオーディオ信号の歪み率と前述したレベル差率とから、歪み率が予め定めた歪み率(歪み率閾値)より低い歪み率であり、且つ、レベル差率が最も低い補正候補値r(n)を求める。予め定めた歪み率は、例えば、一般的なオーディオ機器の歪み率である0.01%とする。
【0085】
例えば、図4(c)に示す特性図の場合、補正候補値rgは、歪み率が歪み率閾値(0.01%)より低く、且つ、レベル差率が低い値である。つまり、特性P1のディップ部の周波数特性を補正する度合いが高く、且つ、オーディオ信号の歪み率が低い補正候補値rgであり、当該補正候補値rgを補正値R1とする。
【0086】
なお、第1実施例において、特性P1と補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性とのレベル差率及び各補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性におけるオーディオ信号の歪み率は、最初、補正候補値raについてレベル差率及び歪み率を求め、次に、補正候補値rbについてレベル差率及び歪み率を求めるように、補正候補値ra〜rjの値を順次変えてそれぞれについてレベル差率及び歪み率を求めるが、歪み率が歪み率閾値を越えた補正候補値r(n)が求まった時点で演算を中止し、それまでの演算結果により補正値Rを決定するようにしてもよい。このことにより補正値Rを求めるまでにかかる演算時間を短縮することができる。
【0087】
これらの演算の結果、信号レベル差g1で中心周波数fc1の特性P1のピーク部について、当該ピーク部を補正するためのパラメトリック・イコライザに用いるフィルタ係数Qg及び補正値R1が決定する。これらの値に基づいてパラメトリック・イコライザを形成すると、当該ピーク部を補正する特性として図2(e)に示す特性S1が得られる。当該パラメトリック・イコライザにより信号レベル差g1で中心周波数fc1の特性P1のピーク部を補正すると、図2(f)に示すようになる。
【0088】
特性P1のピーク部を補正するフィルタ係数Qg及び補正値R1が決定した後、次に、図2(c)に示す周波数特性A’において、信号レベル差gの絶対値が最大である信号レベル差g2のピーク部について、前述した同様の演算により信号レベル差g2のピーク部を補正する特性S2となるフィルタ係数Q及び補正値R2を決定する。この処理の繰り返しにより、周波数特性A’のそれぞれのピーク部に対するフィルタ係数Q及び補正値Rを求める。
【0089】
このようにして周波数特性A’のそれぞれのピークについて求めた全てのフィルタ係数Qからなる特性を示す値が周波数特性補正値である。また、周波数特性A’のそれぞれのピークについて求めた全ての補正値Rからなる値が前記周波数特性補正値に乗算する演算補正値である。これらの周波数特性補正値及び演算補正値を用いて図2(g)に示す周波数特性Cを有するパラメトリック・イコライザを形成し、当該パラメトリック・イコライザを用いてオーディオ信号の周波数特性の補正を行う。
【0090】
図2(g)に示す周波数特性Cを用いて、図2(a)に示す周波数特性Aを補正すると、図2(h)に示す周波数特性Dとなる。この図2(h)に示す周波数特性Dのように、周波数特性が目標周波数特性Tに一致するように補正されると共に、ヘッドルームが確保される。
【0091】
以上のように、周波数特性の補正において、ピーク又はディップの部分を補正する際に、取得した周波数特性の信号レベルの最小値の周波数を基準周波数として、当該基準周波数における信号レベルが目標周波数特性の信号レベルと一致するよう周波数特性特性の信号レベルを増加し、取得した周波数特性と目標周波数特性との差分が小さくなる周波数特性補正値及び演算補正値を用いて周波数特性の補正を行う。このため、測定により得た周波数特性を目標周波数特性に一致させるように周波数特性を補正することにより発生するオーディオ信号の位相のずれ、SN比の低下、出力信号の歪みの発生を抑制し、聴感上の違和感やノイズ発生や音質低下を低減することができる。また、当該周波数特性の補正処理の前段でヘッドルームを確保するための周波数特性の信号レベルを増加させる処理と、周波数特性の補正の処理後にデジタルアナログ変換された信号に対し、ヘッドルームを確保するために信号レベルを増加した分、信号レベルを減少させる処理を行う必要がない。
【0092】
前述した第1実施例では、自動音場補正処理において周波数特性の補正を行うものとしたが、自動音場補正処理の後に、聴取者が更に手動で周波数特性を調整した場合にも行うようにしてもよい。
【0093】
また、第1実施例では、補正値Rを、特性P1と補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性とのレベル差率、および、補正候補値ra〜rjに基づくフィルタ係数Qgの特性におけるオーディオ信号の歪み率に基づいて自動的に決定するとものしたが、聴取者がスピーカから出力されるオーディオ信号を聴取し、操作部5を用いて、聴感上オーディオ信号に歪みが生じないと判断した値を補正値Rとして決定するようにしてもよい。
【0094】
また、第1実施例では、オーディオ信号を増幅して出力すると共にスピーカから出力されるオーディオ信号の周波数特性を調整することが可能な増幅装置について説明したが、外部から入力するオーディオ信号の周波数特性を調整することが可能なイコライザにも適用することもできる。
【0095】
前述した第1実施例では、自動音場補正処理においてスピーカからの出力信号を測定する測定ポイントを1箇所のリスニングポイントとしていたが、それに限定されず、複数箇所で測定した結果に基づいて自動音場補正処理を行うようにしてもよい。前述した自動音場補正処理においては、測定を行ったポイントが最適なリスニングポイントとなるが、聴取者が測定位置から少しずれた位置で聴取した場合、或いは、複数の聴取者がいる場合は、最適なリスニングポイントから外れて聴取することになる。次に、第2実施例として、前述した第1実施例の自動音場補正処理において、複数箇所で測定を行い、その測定結果に基づいて音場補正を行う処理について説明する。
【0096】
第2実施例における増幅装置は、図1に示す構成と同じであるため、詳細な説明は省略する。第2実施例は、第1実施例の増幅装置に対し制御部と信号処理部の処理が異なる。
【0097】
第2実施例においては、まず、聴取者が一人の場合のリスニングポイント(複数のスピーカのほぼ中心となる位置)において、周波数特性の測定を行い、周波数特性補正値及び演算補正値を算出する。当該周波数特性補正値及び演算補正値を用いて図2(g)に示す補正用の周波数特性Cを求める。
【0098】
第1実施例においては、聴取者1人に対して1点のみの測定しか行わないため、補正用の周波数特性Cは1つしか得ることができない。この特性は、聴取者が測定用マイクロホンを設置した場所にいると限定された場合の特性であるため、厳密に言えば、その場所から少しでも聴取者が移動した場所では補正が反映されない。また、測定位置で得た補正用の周波数特性Cに基づいてパラメトリック・イコライザを形成して周波数特性の補正を行った場合、その測定位置から離れた場所においては周波数特性の補正効果が薄れるだけではなく、逆に補正により聴感的に音質を悪化させる場合もある。
【0099】
第2実施例においては、測定ポイントをリスニングポイントの他に、リスニングポイントの近傍の数箇所に増やす。本実施例では、リスニングポイントに加えて測定ポイントを4箇所増やし、合計5箇所で測定する。このことにより、リスニングポイント近傍の音響的特性の特徴を把握し、その特性に基づいて自動音場補正を行うことで、リスニングポイント近傍の比較的広い範囲を考慮した音響補正を行うことができる。
【0100】
1箇所の測定ポイントにより得られる複数のスピーカとマイクロホンとの間の周波数特性は、当該測定ポイントから少し移動した位置でも異なる特性となる。しかし、測定ポイント近傍の複数個所で測定した複数の周波数特性を統計的に解析をすると、周波数特性に類似する部分が存在する。この類似する部分は、測定位置に左右されない特性、つまり、スピーカ自体の周波数特性やリスニングポイントから外れた測定ポイントでの音響特性になる。
【0101】
第2実施例では、演算時間の削減や増幅装置の小型化も考慮に入れ、一番簡単な統計解析手法として測定と演算により得た5つの補正用の周波数特性を周波数ごとに平均化する。この平均化処理により各測定ポイント固有の周波数特性を目立たなくさせる。また、各測定ポイント共通の周波数特性を平均化することにより抽出し、複数のスピーカ本来の特性や聴取に用いる部屋の全体的空間特性だけを抽出することができる。
【0102】
図5は、本発明の第2実施例の増幅装置の自動音場補正処理における周波数特性の測定を説明する図である。
図6は、第2実施例の増幅装置の自動音場補正処理における補正用周波数特性を求める処理を説明する図である。
図5(a)において、リスニングルームには、モニターが設置され、当該モニターを前方とし、リスニングポイントの左右前方に2個のフロントスピーカが設置され、リスニングポイントの左右後方に2個のリアスピーカが設置されているとする。
【0103】
周波数特性の測定ポイントは、聴取者が一人の場合の聴取ポイント(リスニングポイント)P1と、リスニングポイントP1の左側のポイントP2、リスニングポイントP1の右側のポイントP3、リスニングポイントP1の前方のポイントP4、リスニングポイントP1の後方のポイントP5とする。
【0104】
各ポイントでの周波数特性の測定には、図5(b)に示すようなマイクロフォン装置を用いる。当該マイクロフォン装置は、各マイクロフォンでそれぞれのスピーカから出力される信号を収音する。当該マイクロフォン装置を用いることにより、マイクロフォンを測定位置に移動させる必要がなく周波数特性の測定ができるため、測定時間を短縮することができる。
【0105】
増幅装置の信号処理部1は、ポイントP1から順に測定・演算を行う。まず最初に、ポイントP1に設置されたマイクロフォンにより、ポイントP1における各スピーカの周波数特性を測定し、その測定結果に基づいて第1実施例で説明した補正処理により補正用周波数特性Cp1を求める。
【0106】
次に、ポイントP2に設置されたマイクロフォンにより、ポイントP2における各スピーカの周波数特性を測定し、その測定結果に基づいて第1実施例で説明した補正処理により補正用周波数特性Cp2を求める。同様に、ポイントP3、P4、P5に設置されたマイクロフォンにより、ポイントにP3、P4、P5における各スピーカの周波数特性を測定し、その測定結果に基づいて補正用周波数特性Cp3、Cp4、Cp5を求める。求めた補正用周波数特性Cp1〜Cp5を図6に示す。
【0107】
増幅装置の信号処理部1は、補正用周波数特性Cp1〜Cp5を求めた後、次に、図6に示す5箇所の測定ポイントで求めた補正用周波数特性について、各周波数毎に平均値を求める。平均した結果得られた補正用周波数特性Cavに基づいてパラメトリック・イコライザを形成し、周波数特性の補正を行う。
【0108】
このことにより、ポイントP1を中心としてポイントP2〜P5で囲まれた範囲において最適な周波数特性に補正することができる。したがって、聴取者が少しリスニングポイントを移動した場合でも、聴取者は、最適な周波数特性によりオーディオ信号を聴取することができる。
【0109】
第2実施例では、図5(b)に示す測定装置を用いるものとしたが、1個のマイクロフォンを用い、各ポイントにおいて周波数特性の測定及び補正用周波数特性の演算を行った後に、次の測定ポイントに聴取者がマイクロフォンを移動させるようにしてもよい。
【0110】
ホームシアターシステムなどのマルチチャンネルオーディオ再生システムで用いられる増幅装置(AVアンプ)は、複数の機器やスピーカを接続しなければならない。そのため、増幅装置のケーブル接続用の端子は数多く備えられる。聴取者は、それらの端子とスピーカとを対応させてケーブルで配線するが、スピーカの設置場所を間違えたり、端子とスピーカとの接続を間違えることが多く、接続した時点で接続ミスに気づかず、誤って接続されたスピーカによりオーディオ信号を聴取することがある。そうすると、最適なサラウンド効果が得られず、また聴取者はケーブル配線をし直さなければならず手間がかかる。
【0111】
第2実施例の増幅装置においては、聴取者が1人の場合のリスニングポイントの周辺5箇所で周波数特性を測定するため、その測定結果を利用して複数のスピーカの接続や設置が適切であるかどうかを自動的に判断することができる。このことにより、スピーカと端子の接続ミスやスピーカの設置誤りをなくし、ユーザが適切な状態でオーディオ信号を聴取する環境を容易に構築することができる。
【0112】
図7は、第2実施例において測定ポイントと各スピーカの配置を説明する図である。
第2実施例における各スピーカからの出力信号の周波数特性の測定においては、各測定ポイントにおける各スピーカとの距離を算出する。図7に示すように、スピーカSP1〜SP8を配置する。
【0113】
ポイントP1において測定した場合は、ポイントP1と各スピーカSP1〜SP8との距離は、インパルス応答測定により可能である。しかし、ポイントP1に対して各スピーカSP1〜SP8が左右前後どの方向に位置しているかを判別することができない。
【0114】
ポイントP1に続きポイントP2で測定した場合、それぞれのスピーカからの測定用信号の到達時間の差から各スピーカSP1〜SP8がポイントP1(リスニングポイント)に対しX軸方向の左右どちらに位置するかを判別できる。
【0115】
例えば、ポイントP1での測定結果において、ポイントP1とスピーカSP1との距離Ls1p1、ポイントP1とスピーカSP3の距離Ls3p1が、測定ポイントP1において同じであったとする(Ls1p1 = Ls3p1)。ポイントP2の測定結果において、ポイントP2とスピーカSP1との距離Ls1p2、ポイントP2とスピーカSP3の距離Ls3p2は、スピーカLP3よりスピーカSP1のほうが短くなる(Ls1p2 < Ls3p2)。つまり、スピーカSP1がポイントP1に対して左に位置し、スピーカSP3は、ポイントP1に対して右に位置するということが判定できる。
【0116】
同様に、ポイントP3で測定することにより、ポイントP1、P2で測定結果から得た各スピーカの配置関係はより明確なものとなる。例えば、スピーカSP2がポイントP1の真正面に設置してあったとする。先ほどの測定ではスピーカSP2の位置は、スピーカSP1に対してX軸方向の右側としか判定されない。しかし、ポイントP3での測定結果により、スピーカSP2が少なくともスピーカSP1とSP3との間に位置するということが判定できる。また、ポイントP1に対してポイントP2とポイントP3の距離が等しい場合、各2点の測定ポイントの測定結果から各スピーカの位置が三角法により明確になり、スピーカSP2がポイントP1に対してY軸方向の正面もしくは背面に存在するということを判定できる。
【0117】
更に、ポイントP4での測定結果から、各スピーカSP1〜SP8がポイントP1に対しY軸方向の前後どちらに位置するかが明確になる。同様に、ポイントP5での測定結果から、各スピーカの配置がより明確なものとなる。
【0118】
これら測定ポイントP1〜P5で得られた各スピーカからマイクロホンまでの距離に基づいて、スピーカSP1〜SP8がポイントP1に対して前後左右どの方向に位置しているかが把握できる。この測定結果に基づいて、スピーカの接続ミスもしくは適切な場所にスピーカが設置されていなかった場合、聴取者に対してモニターや機器本体に内蔵されている表示装置を用いて警告を表示することができる。このことにより、聴取者が一度オーディオ信号を再生し、配線ミスを気付いた後にケーブルを配線し直すことによる手間又は時間を低減することができる。
【0119】
また、測定結果に基づいてケーブル配線が正しくないと判断した場合に、増幅装置内部の出力部で自動的に出力するオーディオ信号のチャンネルを入れ替えることにより、ケーブルの配線ミスがあった場合でも、聴取者が配線し直す必要がなく、映画や音楽を観賞することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の増幅装置の一実施例の構成を示す図。
【図2】本実施例の増幅装置における自動音場補正処理の補正処理を説明する図。
【図3】本実施例の増幅装置におけるフィルタ係数Qに関する演算を説明するための図。
【図4】本実施例の増幅装置における補正値Rに関する演算を説明する図。
【図5】本発明の第2実施例の増幅装置の自動音場補正処理における測定ポイントを説明する図。
【図6】第2実施例の増幅装置の自動音場補正処理における補正用周波数特性を求める処理を説明する図。
【図7】第2実施例において測定ポイントと各スピーカの配置を説明する図。
【符号の説明】
【0121】
1・・・信号処理部、1a・・・メモリ、2・・・出力部、3・・・測定用信号発生部、4・・・収音入力部、5・・・操作部、6・・・制御部、7・・・スピーカ、7a・・・フロントレフトスピーカ(FL)、7b・・・フロントライトスピーカ(FR)、7c・・・センタースピーカ(C)、7d・・・サラウンドレフトスピーカ(SL)、7e・・・サラウンドライトスピーカ(SR)、7f・・・サブウーハースピーカ(SW)、8・・・マイクロフォン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、前記収音信号から得た測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較し、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求め、当該周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、前記周波数特性補正値と前記演算補正値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うことを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性とに基づいて前記測定周波数特性におけるピーク或いはディップを検出し、信号レベルが最小のディップを検出し、当該最小ディップの信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルと一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、前記ピーク或いはディップに対応するフィルタ係数からなる周波数特性補正値と前記ピーク或いはディップに対応する前記フィルタ係数に乗算する補正値からなる演算補正値とを求め、前記周波数特性補正値と前記演算補正値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うことを特徴とする増幅装置。
【請求項3】
請求項2記載の増幅装置において、前記信号処理部は、前記演算補正値を、前記ピーク或いはディップの特性と前記フィルタ係数に基づく特性とのレベル差率および前記フィルタ係数に基づく特性におけるオーディオ信号の歪み率とに基づいて前記前記フィルタ係数に対応する補正値を決定し、前記補正値に基づいて演算補正値を求めることを特徴とする増幅装置。
【請求項4】
オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な振幅周波数特性調整方法において、スピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生するステップと、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号から測定周波数特性を取得するステップと、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較するステップと、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加するステップと、前記測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求めるステップと、当該周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求めるステップと、前記周波数特性補正値と前記演算補正値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うステップとを備えることを特徴とする振幅周波数特性調整方法。
【請求項5】
オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、複数の測定位置でマイクロフォンが収音したそれぞれの収音信号から得た各測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較し、、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、各測定周波数特性について測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求め、求めた各周波数特性補正値について周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、求めた複数の周波数特性補正値の平均値と複数の演算補正値の平均値を求め、前記周波数特性補正値の平均値と前記演算補正値の平均値を用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うことを特徴とする増幅装置。
【請求項6】
オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な振幅周波数特性調整方法において、スピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生するステップと、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより複数の測定位置で収音された収音信号から複数の測定周波数特性を取得するステップと、前記複数の測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較するステップと、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加するステップと、前記複数の測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求めるステップと、求めた複数の周波数特性補正値について各周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求めるステップと、求めた複数の周波数特性補正値の平均値と複数の演算補正値の平均値を求めるステップと、前記周波数特性補正値の平均値と前記演算補正値の平均値とを用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うステップとを備えることを特徴とする振幅周波数特性調整方法。
【請求項7】
オーディオ信号を増幅して出力すると共に当該オーディオ信号の振幅周波数特性を調整することが可能な増幅装置において、当該増幅装置に接続されたスピーカから出力された信号の振幅周波数特性を測定するための測定用信号を発生する測定用信号発生部と、前記測定用信号発生部が発生した測定用信号を出力する出力部と、スピーカから出力された前記測定用信号を収音するマイクロフォンにより収音された収音信号が入力される収音信号入力部と、前記収音信号に基づいてスピーカからマイクロフォンまでのオーディオ信号の到達時間を測定すると共にスピーカから出力されるオーディオ信号の振幅周波数特性を予め定められた目標周波数特性に補正する信号処理部とを備え、前記信号処理部は、複数の測定位置でマイクロフォンが収音したそれぞれの収音信号から得た各測定周波数特性について各測定周波数特性と前記目標周波数特性を比較し、前記測定周波数特性の最小信号レベルが前記目標周波数特性の信号レベルに一致するように前記測定周波数特性の信号レベルを増加し、各測定周波数特性について測定周波数特性と前記目標周波数特性との差分が最も小さい周波数特性補正値を求め、求めた各周波数特性補正値について周波数特性補正値における周波数特性の補正の度合いを決定する演算補正値を求め、求めた複数の周波数特性補正値の平均値と複数の演算補正値の平均値を求め、前記周波数特性補正値の平均値と前記演算補正値の平均値を用いてオーディオ信号の振幅周波数特性の補正を行うと共に、各スピーカから複数の測定位置でのマイクロフォンが収音した収音信号から得たスピーカからマイクロフォンまでのオーディオ信号の到達時間に基づいて各スピーカの配置を判別し、スピーカの位置と当該スピーカに出力するチャンネルのオーディオ信号が一致してない場合に前記出力部により当該スピーカに適合したチャンネルのオーディオ信号に切り替えることを特徴とする増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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