説明

増強した細胞結合性を有するRGDエンリッチゼラチン様タンパク質

本発明は、天然ゼラチンと比較してRGD配列の均等な分布を有し、最低限レベルのRGD配列を有するRGDエンリッチゼラチンを含むセルサポートに関する。具体的には、アミノ酸総数に対するRGD配列の割合が少なくとも0.4であり、RGDエンリッチゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合には、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含む。好ましくは、RGDエンリッチゼラチンは、組換え技術によって調製され、ヒトゼラチン又はコラーゲンアミノ酸配列に由来する配列を有する。本発明は、インテグリンの付着に使用されるRGDエンリッチゼラチンにも関する。特に、本発明のRGDエンリッチゼラチンは、アンカー依存細胞を増殖するための細胞培養サポートをコーティングするのに適している。さらに、本発明のRGDエンリッチゼラチンは、医学的な適用、特に、インプラント又は移植材料のコーティングやドラッグデリバリーシステムの構成要素として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インテグリンへの結合に用いられるRGDエンリッチゼラチンに関する。本発明はさらにRGDエンリッチゼラチンでコーティングされたセルサポートにも関する。かかるセルサポートは、細胞培養の研究に使用されたり、アンカー依存細胞の細胞培養や、広い範囲の医薬用途に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
動物細胞、特に哺乳類の細胞の培養は、ワクチン、酵素、ホルモン、抗体等の重要な(遺伝子組換えによる)生物材料の生産にとって重要である。動物細胞の大部分は、足場依存的(anchorage-dependent)であり、細胞が生存、増殖するには、ある表面に結合することが必要である。
【0003】
足場依存的な細胞は、日常的に例えば組織培養用フラスコやローラーボトルの壁面で培養されてきた。いくつかの抗ウイルスワクチン、遺伝子改変したタンパク質及び他の細胞由来の製品を大量に提供することが必要になったため、細胞を大量に生産する新しいシステムを開発させるための改善が行われた。
【0004】
かかる改善は、1967年にVan Wezel (Van Wezel, A. L. Nature 216:64-65 (1967))によるマイクロキャリアの開発から始まった。Van Wezelは、三級アミノ基(DEAE)をチャージした、クロスリンクしたデキストランビーズからなるマイクロキャリアを製造した。Van Wezelは、攪拌した容器内の培養培地に懸濁した、かかる正電荷を有するDEAE−デキストランビーズ上への細胞の付着と増殖を立証した。したがって、マイクロキャリアにおける細胞培養では、細胞は懸濁された小さな球に単層として増殖する。マイクロキャリアを使用することにより、1ミリリットルあたり数百万個の細胞といった収率を達成することができる。長年にわたって、様々なタイプのマイクロキャリアが開発されてきた。例えば、ガラスビーズやポリスチレンビーズが記載されている。初期のマイクロキャリアのようなクロスリンクしたデキストランは、依然として一番人気のあるビーズ材料である。
【0005】
他の大量の培養方法と比較した、マイクロキャリア培養の利点として、以下のものが挙げられる。
i)容積に対する表面積の高い割合。これは、マイクロキャリアの密度を変化させることにより、変動可能であり、単位容積あたり高い細胞密度となり、高密度の細胞製品を得られる可能性がある。ii)多数の低生産性容器を使用せずに、単一の高生産性容器で細胞を伝播することができる。その結果、培地を有効に使用することができ、著しく節約することができる。iii)マイクロキャリア培養はよく混合されているため、pH、pO、pCO等の様々な環境条件を容易にモニター、制御することができる。iv)細胞のサンプリングを容易に行うことができる。v)ビーズを容易に設置できるので、細胞の回収及び製品のダウンストリーム処理を容易に行うことができる。vi)適切に改善された例えば醗酵槽等の従来の装置使用して、マイクロキャリア培養を比較的容易にスケールアップすることができる。
【0006】
さらなる改善を行うときに、最適なマイクロキャリアは以下の要件をみたさなければならない。
i)ビーズの表面の特性は、細胞が迅速に付着し、増殖できなくてはならない。外形は均等であることが好ましい。ii)容易に単離できるように、ビーズの密度は、培養培地より若干高くなければならない。従来の天然の培養培地は水性であり、密度は1.03〜1.09g/ccである。しかし、密度は、1.03〜1.045g/mlである適切な範囲を一定以上超えてはならない。剪断に感受性を有する細胞を傷つけないような緩やかな攪拌で、懸濁状態を維持することができ、ビーズが配置された場合には、細胞の増殖が抑制される。iii)ビーズのサイズの分布は、全てのマイクロキャリアの懸濁が達成され、細胞が同時にコンフルエントになるように、小さくなければならない。さらに、溶液内のマイクロキャリアのクラスター形成を防止しなければならない。iv) 光学特性は、顕微鏡で、容易に観察できなければならない。v)細胞の生存と増殖のためだけでなく、獣医学的又は臨床目的で使用される細胞培養製品のためにも、毒性であってはならない。vi)ビーズのマトリックスは、培養の攪拌中に起きる衝突が、ビーズを断片化しないようなものでなければならない。
【0007】
改善されたマイクロキャリアにおける重要な変更としては、コア粒子がコラーゲンでコーティングされたことである。コラーゲンの利点は、コラーゲンが細胞の付着と、細胞の増殖両方のプロモーターである点である。さらに、タンパク分解酵素で細胞を容易に剥離することができる。また、細胞付着プロモーターであるフィブロネクチンでコーティングされたマイクロキャリアについても記載されている。
【0008】
結合に関与する細胞表面レセプターは、インテグリンとして同定されている。20以上のインテグリンが知られており、それぞれ異なるリガンド特性を有する。多くのインテグリンは、アミノ酸配列RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)を認識することができる。RGD配列を含むことが知られているタンパク質の数は限定されており、およそ400個と推測されている。また、発生するすべてのRGD配列が結合機能に関与している訳ではない。特に、RGDSは細胞付着に関与していることが知られている。天然の未変性コラーゲンが、アミノ酸配列RGDを含むことは知られている。具体的な例としては、マウスCOL1A1−1、COL1A1−2、COL1A1−3、ラットCOL3A1、ヒトCOL1A−1、COL2A−1及びCOL1A1−2が挙げられる。細胞が、コラーゲンに対する特異的な親和性を有するタンパク質フィブロネクチンを分泌するので、細胞のコラーゲンへの付着は、非常に特異的な機構を持つ。コラーゲンへの付着直後、フィブロネクチンは、細胞内のインテグリンタンパク質に結合する。
【0009】
ゼラチンは、コラーゲンの分解産物であり、かかる用語は、5,000〜400,000ダルトン超の分子量(MW)を有するタンパク質とペプチドとの不均一な混合物に関する。これらのゼラチンポリマーのいくつかの断片は、RGDモチーフ(RGD motive)を含むが、加水分解された分子のいくつかの断片はこのようなRGDモチーフ(RGD motif)を含まない。
【0010】
Burgess 及びMylesは、ペプチドからタイプIコラーゲンを含むRGDの化学共役について記載しており、かかる方法は、複雑で、標的物質に不純物を導入し、変更の自由が制限されている(Ann Biomed Eng 2000 Jan; 28(1):110-118)。
【0011】
米国特許第5,512,474号は、細胞培養サポートの表面に細胞付着因子と、正電荷を有する分子を組み合わせることによって、良好な細胞付着を得ることを目的としている。フィブロネクチンは、細胞付着の中間物質として同定されている。
【0012】
米国特許第5,514,581号は、DNAの化学合成の自動化法と、遺伝子組換技術とを組み合わせた、実質的に新しいポリペプチドの製造に関している。かかる特許は、既知で、天然発生のポリペプチドは適切でない、業務用に適用することができる非天然ポリペプチドに関して記載している。人工タンパク質が、RGD配列を含むことがあるとはいえ、結果として生じるバイオポリマーは、天然発生タンパク質とあまり類似していないので、医学的な適用の際には、免疫学的な問題を起こすであろう。
【0013】
細胞付着は、創傷治療(人工皮膚材料を含む)、骨や軟骨の成長(再生)、移植、人工血液材料等の医学的な適用にも重要な役割を演じている。したがって、医学的な適用においては、細胞付着の観点からは、物質が生体適合性のあるコーティングを有することがしばしば要求される。通常、コラーゲンが、米国特許第5,514,581号に記載されているものと比べて、構造的に好ましい。なぜなら、コラーゲンは抗原性が低く、皮膚及び骨又は軟骨の両方に存在しているからである。ゼラチンでコーティングされたマイクロキャリアが使用されているが、コラーゲンの多孔性マトリックスも使用されている。一例としては、ケラチノサイトを増殖するコラーゲンでコーティングしたビーズがあり、ケラチノサイトを含むビーズの移植が、創傷の治癒を早めることは、米国特許第5,972,332号に記載されている。細胞付着に関連した他の関心領域としては、細胞の付着レセプターのブロッキングである。例えば、付着レセプターをブロッキングすることにより、ガンの転移に影響又はそれを阻害することができる。RGD配列を有する、より小さいペプチドが、細胞上の結合部位をブロックするために使用され、例えば欧州特許第0,628,571号に記載される凝集や凝固のような好ましくない相互作用を予防している。
【0014】
しかしながら、細胞付着に関する適用の際に使用される物質のさらなる改善が、早急に必要である。フィブロネクチンが媒介する細胞付着メカニズムは、細胞を天然ゼラチンに付着させるために用いられる。しかし、天然ゼラチンは、プリオンやウイルス等の不純物の点から、安全ではない。細胞付着のRGD媒介メカニズムには、化学的又は遺伝子組換え技術によって産出される複数の人工バイオポリマーを用いる。しかし、これらの物質は、非天然の配列を有し、深刻な医学的問題を引き起こす免疫学的反応を引き起こす可能性がある。
【0015】
「コラーゲン(collagen)」、「コラーゲンが関与する(collagen-related)」、「コラーゲン由来(collagen-derived)」等の用語は、当該技術でも使用され、「ゼラチン(gelatine)」、「ゼラチン様(gelatine-like)」タンパク質なる用語は、本明細書を通して使用される。天然ゼラチンは、5,000〜400,000ダルトン超の分子量(MW)を有する個別ポリマーの混合物である。細胞付着(cell adhesion)と細胞接着(cell attachment)なる用語は、同義的に使用される。また、RGD配列(RGD sequence)とRGDモチーフ(RGD motif)なる用語も、同義的に使用される。
【特許文献1】米国特許第5,512,474号
【特許文献2】米国特許第5,514,581号
【特許文献3】米国特許第5,972,332号
【特許文献4】欧州特許第0,628,571号
【非特許文献1】Van Wezel, A. L. Nature 216:64-65 (1967)
【非特許文献2】Ann Biomed Eng 2000 Jan; 28(1):110-118
【発明の開示】
【0016】
本発明の目的は、改善された、好ましくは高度の細胞結合能力と選択性を有するポリペプチド又はペプチドを提供することである。本発明のさらなる目的は、ウイルスや他の病原菌による感染、又はプリオン等健康に有害な物質の危険性のない、細胞結合ペプチド又はポリペプチドを提供することである。また、ヒトの免疫系と直接若しくは間接的に接触したときに免疫応答を誘引しないペプチド又はポリペプチドを提供することも、本発明の目的である。
【0017】
驚くことに、これら全ての目的は、天然のゼラチンよりもRGD配列の均等な分布を有し、最低限レベルのRGD配列を有する、RGDエンリッチゼラチンによって達成された。RGD配列レベルは、百分率で表す。この百分率は、RGDモチーフの数を、アミノ酸の総数で割り、商を100倍して算出される。RGDモチーフの最大比率、すなわち、RGDモチーフのみで構成されるゼラチンにおいては、33.33である。また、RGDモチーフの数は、1、2、3・・・に始まる整数である。
【0018】
本発明のRGDエンリッチゼラチンは、足場依存性の細胞タイプを増殖する細胞培養サポート(cell culture support)をコーティングするのに非常に適している。したがって、本発明は、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合が少なくとも0.4であり、RGDエンリッチゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合、350のアミノ酸の各ストレッチは少なくとも1つのモチーフを含むRGDエンリッチゼラチンを含む細胞培養サポートに関する。
【0019】
本発明は、インテグリンに結合するためのRGDエンリッチゼラチンで、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合が、少なくとも0.4であり、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのモチーフを含み、かかるゼラチンが、1又は複数の未変性ヒトコラーゲン配列の少なくとも80%からなり、未変性コラーゲン配列のかかる部分が少なくとも30アミノ酸の長さを有している、RGDエンリッチゼラチンを提供する。
【0020】
さらに、本発明は、本発明のRGDエンリッチゼラチンの、組織工学用の足場、又はインプラント若しくは移植材料のコーティング剤としての使用に関する。
【0021】
さらに、本発明のRGDエンリッチゼラチンは、特に、インプラント若しくは移植材料、又はドラッグデリバリーシステムの組成物、ガン転移の抑制剤、血小板の凝集予防剤、アンチトロンビン剤(antithrombic agent)としての使用、組織接着剤としての使用、歯科製品、人工皮膚マトリックス材料としての使用、及び手術後の組織接着予防剤としての使用等、医学的用途にデザインされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、細胞接着に非常に適している、医学的、生命工学的に適用できるペプチドポリペプチド又はタンパク質、特に、ゼラチン又はゼラチン様タンパク質に関している。さらに具体的に、本発明は、抗原性が低く、ウイルス、プリオン等の病原菌を伝達する危険性がなく使用できる細胞結合ペプチド又はポリペプチドに関している。
【0023】
驚くことに、優れた細胞付着特性を有し、RGDエンリッチゼラチンの製造により、健康に関する危険性を示さないペプチド又はポリペプチドで、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合が少なくとも0.4であるペプチド又はポリペプチドを得ることができることを見い出した。RGDエンリッチゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合、350のアミノ酸の各ストレッチは、少なくとも1つのRGDモチーフを含む。RGDモチーフの割合は、好ましくは、少なくとも0.6であり、より好ましくは少なくとも0.8、さらに好ましくは少なくとも1.0、さらに好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.5である。かかる(組換え)ゼラチンは、生命工学的処理又は医学的用途に用いることができる細胞培養サポートをコーティングするのに、非常に適している。本発明に記載される「セルサポート(cell support)」は、細胞にその増殖や繁殖に対するサポートを与える物質である。
【0024】
RGDモチーフの0.4という割合は、250のアミノ酸あたり、少なくとも1つのRGD配列に対応する。RGDモチーフの数は整数であるので、0.4%の特徴を満たすには、251のアミノ酸からなるゼラチンは、少なくとも2つのRGD配列を含まなければならない。好ましくは、本発明のRGDエンリッチ組換えゼラチンは、250のアミノ酸あたり、少なくとも2つのRGD配列を含み、より好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも3つのRGD配列を含み、さらに好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも4つのRGD配列を含む。本発明のRGDエンリッチゼラチンのさらなる態様としては、少なくとも4つのRGDモチーフ、好ましくは6つ、より好ましくは8つ、さらに好ましくは12以上16以下のRGDモチーフを含む。
【0025】
本発明に使用される「RGDエンリッチゼラチン」なる用語は、本発明のゼラチンが、1分子あたりのアミノ酸総数の割合として算出されたRGDモチーフを一定レベル含み、天然ゼラチンと比べてアミノ酸鎖におけるRGD配列がより均等に分布されていることを意味する。現在までに、ヒトにおいて、タンパク質又はDNA配列情報から、26の明確に区別できるコラーゲンの種類が見い出されている(K. Gelse et al, Collagens-structure, function and byosynthesis, Advanced Drug Delivery reviews 55 (2003) 1531-1546参照)。ヒト由来、非ヒト由来両方の天然ゼラチンの配列が、スイスプロット(Swiss-Prot)のタンパク質データベースに記載されている。以下に、適切なヒト天然配列を列挙する。それらは、スイスプロットのデータベースでエントリー名と最初のアクセッション番号で同定されており、本発明のRGDエンリッチゼラチンに含まれる天然配列の一部の起源として用いることができる。
【0026】
CA11_HUMAN(P02452)コラーゲンα1(I)鎖前駆物質{遺伝子:COL1A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA12_HUMAN(P02458)コラーゲンα1(II)鎖前駆物質[コンドロカルシンを含む]{遺伝子:COL2A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA13_HUMAN(P02461)コラーゲンα1(III)鎖前駆物質{遺伝子:COL3A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA14_HUMAN(P02462)コラーゲンα1(IV)鎖前駆物質{遺伝子:COL4A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA15_HUMAN(P20908)コラーゲンα1(V)鎖前駆物質{遺伝子:COL5A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA16_HUMAN(P12109)コラーゲンα1(VI)鎖前駆物質{遺伝子:COL6A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA17_HUMAN(Q02388)コラーゲンα1(VII)鎖前駆物質(長鎖コラーゲン)(LCコラーゲン){遺伝子:COL7A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA18_HUMAN(P27658)コラーゲンα1(VIII)鎖前駆物質(内皮コラーゲン){遺伝子:COL8A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA19_HUMAN(P20849)コラーゲンα1(IX)鎖前駆物質{遺伝子:COL9A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1A_HUMAN(Q03692)コラーゲンα1(X)鎖前駆物質{遺伝子:COL10A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1B_HUMAN(P12107)コラーゲンα1(XI)鎖前駆物質{遺伝子:COL11A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1C_HUMAN(Q99715)コラーゲンα1(XII)鎖前駆物質{遺伝子:COL12A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1E_HUMAN(P39059)コラーゲンα1(XV)鎖前駆物質{遺伝子:COL15A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1F_HUMAN(Q07092)コラーゲンα1(XVI)鎖前駆物質{遺伝子:COL16A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1G_HUMAN(Q9UMD9)コラーゲンα1(XVII)鎖(類天疱瘡抗原2)(180kDa類天疱瘡抗原2){遺伝子:COL17A1又はBPAG2又はBP180}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1H_HUMAN(P39060)コラーゲンα1(XVIII)鎖前駆物質(エンドスタチンを含む){遺伝子:COL18A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA1I_HUMAN(Q14993)コラーゲンα1(IXI)鎖前駆物質(コラーゲンα1(Y)鎖){遺伝子:COL19A1}−ホモサピエンス(ヒト)
CA21_HUMAN(P08123)コラーゲンα2(I)鎖前駆物質{遺伝子:COL1A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA24_HUMAN(P08572)コラーゲンα2(IV)鎖前駆物質{遺伝子:COL4A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA25_HUMAN(P05997)コラーゲンα2(V)鎖前駆物質{遺伝子:COL5A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA26_HUMAN(P12110)コラーゲンα2(VI)鎖前駆物質{遺伝子:COL6A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA28_HUMAN(P25067)コラーゲンα2(VIII)鎖前駆物質(内皮コラーゲン){遺伝子:COL8A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA29_HUMAN(Q14055)コラーゲンα2(IV)鎖前駆物質{遺伝子:COL9A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA2B_HUMAN(P13942)コラーゲンα2(XI)鎖前駆物質{遺伝子:COL11A2}−ホモサピエンス(ヒト)
CA34_HUMAN(Q01955)コラーゲンα3(IV)鎖前駆物質(グットパスチャー抗原){遺伝子:COL4A3}−ホモサピエンス(ヒト)
CA35_HUMAN(P25940)コラーゲンα3(V)鎖前駆物質{遺伝子:COL5A3}−ホモサピエンス(ヒト)
CA36_HUMAN(P12111)コラーゲンα3(VI)鎖前駆物質{遺伝子:COL6A3}−ホモサピエンス(ヒト)
CA39_HUMAN(Q14050)コラーゲンα3(IX)鎖前駆物質{遺伝子:COL9A3}−ホモサピエンス(ヒト)
CA44_HUMAN(P53420)コラーゲンα4(IV)鎖前駆物質{遺伝子:COL4A4}−ホモサピエンス(ヒト)
CA54_HUMAN(P29400)コラーゲンα5(IV)鎖前駆物質{遺伝子:COL4A5}−ホモサピエンス(ヒト)
CA64_HUMAN(Q14031)コラーゲンα6(IV)鎖前駆物質{遺伝子:COL4A6}−ホモサピエンス(ヒト)
EMD2_HUMAN(Q96A83)コラーゲンα1(XXVI)鎖前駆物質(タンパク質2を含むEMI領域)(Emu2タンパク質)(タンパク質2を含むエミリン(emilin)及びマルチメリン(multimerin)領域){遺伝子:EMID2又はCOL26A1又はEMU2}−ホモサピエンス(ヒト)
【0027】
天然ゼラチンが、RGD配列を含むことは知られている。しかし、ゼラチン分子がRGDモチーフの存在しない大きな部分を含まないことが重要である。RGD配列の存在しない大きすぎる部分は、かかるゼラチンが例えばマイクロキャリアのコーティングとして用いられている場合に、細胞が付着する可能性を低くする。一見したところ、ゼラチンの全てのRGD配列は、どのような状況においても細胞付着が可能なわけではない。本発明のゼラチンは、350以上のアミノ酸のストレッチを有する、RGD配列を含まないゼラチンと比較して、細胞付着が著しく改善していることを見い出した。350以下のアミノ酸のゼラチンにとって、RGD配列の割合が、少なくとも0.4であれば十分である。つまり、251〜350のアミノ酸のゼラチンでは、少なくとも2つのRGDモチーフが存在することを意味する。
【0028】
より好ましい態様では、RGDエンリッチゼラチンは、遺伝子組換え技術によって調製される。本発明の組換えゼラチンは、好ましくはコラーゲン性配列に由来する。コラーゲンをコードする核酸配列は、当該技術において一般的に報告されている(Fuller and Boedtker (1981) Biochemistry 20: 996-1006; Sandell et al. (1984) J Biol Chem 259: 7826-34; Kohno et al. (1984) J Biol Chem 259: 13668-13673; French et al. (1985) Gene 39: 311-312; Metsaranta et al. (1991) J Biol Chem 266: 16862-16869; Metsaranta et al. (1991) Biochim Biophys Acta 1089:241-243; Wood et al. (1987) Gene 61: 225-230; Glumoff et al. (1994) Biochim Biophys Acta 1217: 41-48; Shirai et al. (1998) Matrix Biology 17: 85-88; Tromp et al. (1988) Biochem J 253: 919-912; Kuivaniemi et al. (1988) Biochem J 252: 633640; Ala-Kokko et al. (1989) Biochem J 260: 509-516参照のこと)。
【0029】
薬学的、医学的用途には、天然ヒトコラーゲンのアミノ酸に関連若しくはそれと同一のアミノ酸配列を有する組換えゼラチンが好ましい。より好ましくは、本発明のゼラチンのアミノ酸は、ヒトコラーゲンの選択されたアミノ酸配列を繰り返し使用して、デザインされている。RGDモチーフを含む天然コラーゲン配列の一部が選択されている。このような選択された配列のRGDモチーフの割合は、選択される配列の選択される長さに依存する。短い配列を選択すると、RGDの割合が高くなる。選択されるアミノ酸配列を繰り返し使用すると、高分子量で、(天然ゼラチン又はコラーゲンと比較し)抗原性がなく、RGDモチーフの数が増加したゼラチンとなる。天然の非ヒトの起源としては、ウシ、ブタやウマなどの非ヒト哺乳動物や、トリ、マウス、ラット及びサカナ等の他の動物が含まれる。
【0030】
したがって、より好ましい態様では本発明のRGDエンリッチゼラチンは、未変性ヒトコラーゲン配列の一部を含む。好ましくは、RGDエンリッチゼラチンは、1又は複数の未変性ヒトコラーゲン配列の1又は複数の部分を少なくとも80%含む。ヒトコラーゲン配列のかかる部分はそれぞれ、少なくとも30アミノ酸の長さ、より好ましくは45のアミノ酸、さらに好ましくは60のアミノ酸、例えば240以下、好ましくは150以下、最も好ましくは120以下のアミノ酸の長さを有し、好ましくはそれぞれが1又は複数のRGD配列を含む。RGDエンリッチゼラチンは、好ましくは1又は複数の未変性ヒトコラーゲン配列の1又は複数の部分からなる。
【0031】
本発明のゼラチンの適切な起源の1つの例として、ヒトCOL1A1−1が挙げられる。RGD配列を含む250のアミノ酸の一部は、配列番号1に示される。
【0032】
ゼラチンのRGD配列は、インテグリンと呼ばれる細胞壁の特異的レセプターに付着することができる。これらのインテグリンは、細胞結合アミノ酸配列を認識する上で、その特異性により区別される。天然ゼラチンと、例えばフィブロネクチンとの両方ともに、RGD配列を含むことができるが、ゼラチンは、フィブロネクチンに結合しない細胞に結合することができ、その逆もありうる。したがって、RGD配列を含むフィブロネクチンは、細胞付着を目的として常にゼラチンの代わりになるものではない。
【0033】
組換えによって産出されたゼラチンは、ゼラチンが由来する動物の病原菌で汚染されるという不利な点はない。
【0034】
細胞培養サポートとして、またはそれと組み合わせて使用されるときには、ゼラチンは、細胞結合ポリペプチドとして機能する。その上で増殖する細胞によって代謝されうるという点で他のポリペプチドと比べて利点がある。さらなる利点は、容易な酵素的処理ができ、ほぼ100%の収率で細胞を回収できることである。組換えによって産出されたゼラチンのさらなる利点は、分子量(MW)を一定に保てることである。製造方法にもよるが、天然ゼラチンは、分子量が5,000kDより小さいペプチドから、400,000kDより大きいポリマーまで、幅広い範囲の分子量を不可避的に有する。特に、細胞培養サポートとして、マイクロキャリアコアビーズと組み合わせたときの、小さいペプチドの不利な点は、細胞が到達できないマイクロキャリアの細い孔内に付着し、その結果添加したゼラチンの一部分が使用されないことである。組換えによる製造方法では、ゼラチンを、所望の分子量でデザインすることができ、望まない物質の損失を防ぐことができる。
【0035】
本発明のゼラチンはさらなる態様では、マイクロキャリアとして細胞培養サポートとなるコアビーズをコーティングするために、約30kDa〜約200kDaの分子量を有する。
【0036】
RGD配列の存在に加えて、ゼラチンの分子量の範囲は、際立った利点を与え、さらに有利な特性を持つマイクロキャリアを提供する。マイクロキャリアコアビーズのコーティング処理における主要な問題は、ビーズの凝集である。特に、かかる凝集は、細胞付着が可能な表面積を減少させ、マイクロキャリアのサイズ分布を損ない、使用を不可能にする。
【0037】
1つの天然ゼラチンバッチにおける高分子量のゼラチンポリマー分子の比較的小さい断片は、マイクロキャリア製造処理中のビーズの凝集に対して大いに関与している。このような高分子量のゼラチンポリマーがコアビーズに付着する場合、ペプチド鎖の一部がコアビーズの表面から離脱(point away)し、他のビーズの足場となり、その結果凝集が起きる可能性がある。
【0038】
つまり、本発明にしたがって、200kDa以下、より好ましくは150kDaの分子量を有するゼラチンでコアビーズをコーティングすることが好ましい。
【0039】
さらに、天然ゼラチンの分子量の低い断片が、好ましくないマイクロキャリアのコーティング特性を示すことが見い出された。かかる低分子量の断片は、マイクロキャリアビーズに対し低い付着力を示したので、付着しない場合には、化学的クロスリンク段階後のマイクロキャリア凝集を促進する。さらに、凝集を予防するためにマイクロキャリアのコーティング処理において低濃度のゼラチンを用いる場合には、低分子量の断片は、先ずマイクロキャリアに付着するが、マイクロキャリアの多孔性コアビーズの小さな孔に入るという好ましくない特性を有する。その結果、細胞培養段階において、マイクロキャリアへの細胞の付着に寄与しない。したがって、ゼラチンの分子量は、コアビーズの凝集を防ぎ、ゼラチンの損失を防ぐ効果的なコーティングを効率的に行うために、十分に高くなければならない。したがって、ゼラチンの分子量は、30kDa以上、好ましくは60kDa以上、最も好ましくは70kDa以上である。
【0040】
ゼラチン又はゼラチン様タンパク質の分子量は均一であることが好ましい。75%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは95%以上、さらには少なくとも98%のゼラチン又はゼラチン様タンパク質が、選択された分子量の20%以内の均一な分子量を有することが好ましい。
【0041】
上記の具体的範囲から分子量を選択することにより、コーティング処理中のゼラチン又はゼラチン様タンパク質コーティング溶液の粘着性を正確に制御することができる。できるだけ高いゼラチンの濃度を選択することにより、かかるゼラチン溶液の完全な、又はさらに重要なことには、部分的なジェル化(gelling)を防止することができる。
【0042】
均一なゼラチンにより、等しくコーティングされたマイクロキャリアの処理が確実となる。均一なコーティング処理は、ゼラチンの最小量の使用、ゼラチンコーティング溶液の最小量の使用を可能にする。これら全ては、当該技術で知られているよりも、非常に効果的なコーティング処理を導く。
【0043】
本発明の1つの態様では、非多孔性のコアビーズを、本発明のビーズでコーティングする。適切な非多孔性のコアビーズは、ポリスチレン又はガラス製である。他の適切な非多孔性の材料は、当該技術で既知のものである。
【0044】
特に好ましい態様は、修飾したデキストラン又はクロスリンクしたセルロース、(多孔性)ポリスチレン、特にDEAEデキストラン等由来のビーズ等の多孔性コアビーズが本発明のゼラチンでコーティングされている、本発明の処理である。他の適切な多孔性物質は、当該技術で既知であり、例えば、他の化学的に修飾された、又は修飾されていない多糖類を含む。分子量の下限は、ゼラチン又はゼラチン用タンパク質が多孔性のコアビーズに入ることを防止し、その結果効果的でないビーズのコーティングや、ゼラチン又はゼラチン様タンパク質が不必要な損失を防ぐ。
【0045】
ビーズのサイズは、50μm〜100μmの範囲内である。典型的な平均ビーズのサイズは、生理食塩水内で約100、約150、又は約200μmである。ビーズの少なくとも90%のサイズの範囲は、80〜120μm、100〜150μm、125〜175μm、又は150〜200μmの範囲内で変動できる。
【0046】
広範囲の細胞を、マイクロキャリア上で培養することができる。例えば、無脊椎動物、魚、鳥の細胞及び哺乳動物の細胞を、マイクロキャリア上で培養することができる。形質転換した細胞株、並びに通常の細胞株、繊維細胞及び上皮細胞、さらに遺伝的操作を行った細胞でさえも、インターフェロン、インターロイキン、成長因子等の免疫学的要素(immunologicals)の産出等の生化学的な適用のために、マイクロキャリア上で培養することができる。さらに、マイクロキャリア上で培養された細胞は、口蹄疫又は狂犬病等のワクチンとして使用される各種ウイルスの宿主として用いることもできる。
【0047】
マイクロキャリア培養は、大量培養以外にも多くの用途がある。マイクロキャリア上で増殖した細胞は、細胞間又は細胞基層間相互作用等の細胞生物学の様々な特徴を研究するための優れた道具として用いることができる。細胞の分化及び成熟、代謝研究もマイクロキャリアを使用して行うことができる。かかる細胞は、電子顕微鏡による研究や、細胞膜等の細胞小器官の分離等にも用いることもできる。また、このシステム三次元のシステムであり、優れた3Dモデルとして役立つ。同様に、このシステムを用いることにより、細胞の共培養も行うことができる。したがって、その用途には、細胞、ウイルス及び細胞製品(例えば、インターフェロン、酵素、核酸、ホルモン)の大量生産、細胞接着、分化及び細胞機能に関する研究、灌流カラム培養システム、顕微鏡観察、有糸分裂細胞の回収、細胞の単離、膜の研究、細胞の保存及び輸送、細胞伝達に関する分析及び標識化合物の取り込みに関する研究、が含まれる。
【0048】
マイクロキャリアは、脾臓細胞群からのマクロファージの欠乏にも用いることができる。DEAE−デキストランマイクロキャリアは、コンカナバリンA(con A)によるリンパ球の刺激を可能にする。同種腫瘍細胞(allogenic tumour cell)とコンフルエントなマイクロキャリアビーズをマウスに注入し、液性及び細胞媒介免疫を増加することができる。植物プロトプラストは、DEAD−デキストランマイクロキャリア上で固定することができる。
【0049】
マイクロキャリアによる容積に対する表面積の高い割合の結果、研究所規模の様々な生物学的生産や、例えば4000リットル以上の工業規模にも成功裏に適用することができる。
【0050】
発現物質の大規模な産出は、ゼラチンでコーティングしたマイクロキャリアによって達成することができる。生産規模バイオリアクターのマイクロキャリアの負荷(loading)は、通常20g/lであるが、40g/lまで増加することができる。マイクロキャリアは、バッチで、還流システム、攪拌培養(stirred cultures)やウェーブバイオリアクター(wave bioreactor)に用いることができ、定常単層(stationary monolayer)とローラー培養の表面積を増加するために用いることができる。
【0051】
さらに好ましい態様では、ゼラチン又はゼラチン様タンパク質は、ヒドロキシポリン残基を含まない。ヒドロキシル化は、コラーゲンの三重螺旋の形成に必要であり、ゼラチンのゲル化に重要な役割を演じている。特に組換えゼラチンのアミノ酸残基に含まれるヒドロキシプロリンは10%未満、より好ましくは5%未満であり、好ましくは、組換えゼラチンは、組換えゼラチンのゲル化能力が好ましくない場所に使用する際にはヒドロキシプロリンを含まない。ヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンは、より高い濃度で用いることができ、溶液の粘性が少なくなり、激しい攪拌の必要がなくなり、その結果培養した細胞の剪断力(shear force)が少なくなる。WO02/070000A1に記載されているように、主としてヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンは、天然ゼラチンとは対照的にIgEに対して免疫反応を示さない。
【0052】
コラーゲンでコーティングしたマイクロキャリアの調製方法は、米国特許第4,994,388号に記載されている。要約すると、コアビーズへのコラーゲンでのコーティングには、2つのステップ、すなわちコーティングと固定とが含まれる。コアビーズを酸性の水性コラーゲン溶液(0.01〜0.1Nの酢酸)に懸濁し、溶液が乾燥するまで蒸発させる。乾燥した、コラーゲンでコーティングされたビーズはその後グルタルアルデヒド等のタンパク質クロスリンク剤を含む溶液に懸濁し、その結果コラーゲンコーティングがクロスリンクされる。または、コラーゲン溶液で湿らせたコアビーズは、固定化ステップの開始前に完全に乾燥されていない。コーティング条件の変化及びコーティング処理の代替案は、当業者の能力の範囲内である。
【0053】
組換構造を、米国特許第5,512,474号のように、追加的なアルギニン、リシン又はヒスチジンを組入れることによって、追加的な、正電荷を有する群を組み込むようにデザインすることもできる。ゼラチンの組換え生産は、生産されたタンパク質内の、正電荷を有するアミノ酸、すなわち細胞培養のpHでの正電荷を有するアミノ酸の数を操作しやすくしている。特に、アルギニン、リシン及びヒスチジンは正電荷を有する。所望の特別な細胞培養のpHで正味の正電荷を有するゼラチンをデザインすることは、当業者の能力の範囲内である。細胞は、通常pH7〜7.5で培養される。したがって、本発明のさらなる態様において使用されるゼラチン又はゼラチン様タンパク質は、pH7〜7.5で正味の正電荷を有する。好ましくは、正味の正電荷は、+2、+3、+4、+5、+10又はそれ以上である。したがって、さらなる態様においては、本発明は、pH7〜7.5で正味の正電荷を有するゼラチンに関する。好ましくは、正味の正電荷は+2、+3、+4、+5、+10又はそれ以上である。
【0054】
さらなる態様では、本発明は、最大10kDa、好ましくは最大5kDaであるRGDエンリッチゼラチンに関する。少なくとも1つのRGD配列を含むこのようなRGDゼラチンは、細胞上の表面レセプターをブロックするために用いることができる。細胞のレセプターのブロッキングは、例えば血管新成を阻害したり、心臓繊維芽細胞上のインテグリンをブロックしたりするのに用いられる。
【0055】
その上で細胞が増殖した、本発明の組換えゼラチンでコーティングしたセルサポートは、例えば皮膚移植、創傷治癒又は骨若しくは軟骨の成長(再生)を増強するときに用いることができる。移植を促進する細胞を付着するためにインプラント材料を本発明の組換えゼラチンでコーティングすることもできる。
【0056】
したがって、特別な態様は、本発明のセルサポートであり、かかるセルサポートはマイクロキャリアである。
【0057】
他の特別な態様は、RGDエンリッチでコーティングされたインプラント又は移植材料、RGDエンリッチでコーティングした組織工学用の足場、歯科製品(一部)、創傷治癒用製品(一部)、人工皮膚マトリックス材料(一部)及び組織接着剤(一部)からなる群から選択されるセルサポートである。
【0058】
一次アミノ酸配列の天然ゼラチン分子は、基本的にGXYトリプレットの繰り返しからなり、したがって、アミノ酸総数の約3分の1はグリシンである。ゼラチンの分子量は、典型的に大きく、分子量は10,000〜300,000ダルトン内で変動するか、それ以上である。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、グリコシル化していないRGDエンリッチゼラチンに関する。グリコシル化は、アミノ酸AsN(N−グリコシド構造)又はSer若しくはThr(O−グリコシド構造)で起こる。グリコシル化は、免疫応答が望ましくない場所での使用の際には防止することが好ましい。一次配列においてAsn、Ser、Thrアミノ酸を欠如させることは、例えば酵母細胞培養を用いた生命工学的な生産システムにおけるグリコシル化を防止するのに有効な手段である。
【0060】
さらに、ゼラチンの特徴はプロリン残基の著しい高含量である。さらなる特徴としては、天然ゼラチンにおいて、多くのプロリン残基はヒドロキシル化されている。ヒドロキシル化が最も顕著な部位は、通常ではないアミノ酸4−ヒドロキシプロリンのゼラチン分子が存在する時の4番目の位置である。トリプレット4−ヒドロキシプロリンは常にY位置に存在する。ヒドロキシプロリン残基の存在は、ゼラチン分子が二次構造が螺旋構造を適用できることに寄与している。したがって、ゲル化が好ましくない適用に用いられる本発明のゼラチンが、ヒドロキシプロリン残基を5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満しか含まないことが望ましい。
【0061】
本発明において、ゼラチン様タンパク質は、GXYトリプレット又はGXYトリプレットのストレッチが1又は複数のアミノ酸で分離されているタンパク質であるとして理解される。
【0062】
本発明のRGDエンリッチゼラチンは、EP−A−0926543、EP−A−1014176又はWO01/34646で開示されている組換方法によって生産することができる。本発明のゼラチンの生産及び生成の実施可能性については、EP−A−0926543及びEP−A−1014176の実施例を参照されたい。
【0063】
RGDアミノ酸配列を含むコラーゲンタンパク質の一部をコードする天然核酸配列からRGDエンリッチゼラチンを生産する方法が好ましい。この配列を繰り返すことにより、RGDエンリッチゼラチンを得ることができる。
【0064】
X−RGD−Yが、天然コラーゲンアミノ酸配列の一部であれば、RGDアミノ酸配列を3つ有するゼラチン(一部)の構造は、−X−RGD−Y−(GXYG)n−X−RGD−Y−(GXYG)n−X−RGD−Yとなるだろう。かかる構造では、nは0から始まる整数である。nを変動させることにより、アミノ酸総数のおけるRGD配列の数を制御することができる。この方法の明らかな利点は、アミノ酸配列はおおむね天然として保持され、臨床適用した際に免疫応答を誘導する危険性が最も少ないことである。
【0065】
コラーゲン(の一部)をコードする天然核酸配列から開始し、RGD配列をコードする配列を産出するために、点変異を適用できる。既知のコドンに基づいて、変異後にRGX配列がRGD配列を産出するためにポイント変異を行ってもよく、又はYGD配列がRGD配列を産出するために変異するために行ってもよい。さらに、YGX配列がRGD配列を産出するために、変異を2つ行ってもよい。さらに、所望のRGD配列を産出するように、1又は複数のヌクレオチドを挿入、或いは1又は複数のヌクレオチドを削除することができる。
【0066】
したがって、ゼラチン様タンパク質は、適切な微生物により、かかるポリペプチドをコードする核酸配列の発現によって産出することができる。かかる処理は、菌細胞又は酵母細胞を用いて適切に行うことができる。宿主細胞は、好ましくは、ハンゼヌラ(hansenula)、トリコデルマ(Trichoderma)、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)、サッカロミセス(Saccharromyces)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ニューロスポラ(Neurospora)、ピキア(Pichia)等の発現率が高い宿主細胞である。菌細胞及び酵母細胞の、繰り返し配列の不適切な発現に対する感受性が、細菌より少ないので、細菌より好ましい。宿主は、発現するコラーゲン構造を攻撃するプロテアーゼを高いレベルでは含まないことがさらに好ましい。この点に関して、ピキア又はハンゼヌラは、非常に適切な発現システムの例を提供している。発現システムにピキア・パストリス(Pichia pastoris)を使用することは、EP−A−0926543及びEP−A−1014176に開示されている。一つの態様において、微生物は、プロリンのヒドロキシル化やリシンのヒドロキスル化等の活動的な転写後の処理メカニズムを有さない。他の態様において、宿主システムは、組換えゼラチンが非常に効率的にヒドロキシル化されている、内在性プロリンヒドロキシル化活性を有する。当業者であれば、本発明の組成物に適切な組換えゼラチン様タンパク質を適切に発現させるための本明細書中に記載されている必要なパラメーターと、宿主細胞に関する知識と、発現される配列とを組み合わせて、菌性宿主細胞を産出する既知の工業用酵素、特に酵母細胞の中から適切な宿主細胞を選択することができるであろう。
【実施例1】
【0067】
RGDエンリッチゼラチンを、ヒトCOL1A1−1のゼラチンアミノ酸配列の一部をコードする核酸配列から産出した。EP−A−0926543、EP−A−1014176及びWO01/34646に開示されている方法を用いた。本発明のかかるRGDエンリッチゼラチンの配列は配列番号2に示されている。分子に合計4つのRGD配列が存在し、250のアミノ酸あたり4つのRGD配列に相当する。同様に、250のアミノ酸あたり1及び2のRGD配列を有するゼラチンを作製した。
【実施例2】
【0068】
マイクロキャリアビーズの調製
平均直径が100マイクロメートルのポリスチレンビーズを用いた。ポリスチレンビーズ上にゼラチンをコバレントに固定するためにヘテロ二機能性クロスリンク剤であるBBA−EAC−NOSを用いた。BBA−EAC−NOSをポリスチレンビーズに添加し、吸着させる。次に、ゼラチンを添加し、NOS合成ポリマーと反応させ、スペーサーにコバレントなカップリングを産出した。スペーサー(及びコバレントにカップリングしたゼラチン)をコバレントにポリスチレンビーズに固定するために、感光(320nm)した。最後に、接着の弱いゼラチンを、リン酸緩衝液(pH7.2)内で弱い漂白剤Tween 20で一晩洗浄して取り除いた。
【0069】
細胞の種類及び培養条件
【0070】
ミドリザル腎臓(Vero)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、正常ラット腎臓繊維芽(NRK−49F)細胞、コッカスパニエル雌犬腎臓(MDCK)細胞はATCCから購入した。4種類全ての種類をパッセージさせ、75cm@2フラスコに、37℃で5%CO環境下で維持した。Vero細胞及びNRK49F細胞は、ダベルコ変法イーグル培地 (DMEM)内で培養し、CHO細胞は、Ham’s F−12 栄養混合培地で培養し、MDCK細胞は最小必須培地(MEM)内でアール塩(Earle’s salt)と共に培養した。
【0071】
Vero細胞及びCHO細胞には、培地に10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、20mMのHEPES緩衝液、1mMのピルビン酸ナトリウム、100ug/mlのストレプトマイシン及び100ユニット/mlのペニシリン(最終pH7.1)を添加した。NRK−49F細胞には、DMEMに5%のFBS、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸(各0.1mM)、100ug/mlのストレプトマイシン、100ユニット/mlのペニシリン及び0.25ug/mlのアムホテリシンB(最終pH7.1)を添加した。MDCK細胞には、MEMに10%のFBS、2mMのL−グルタミン、非必須アミノ酸(各0.1mM)、及び100ug/mlのストレプトマイシン、100ユニット/mlのペニシリン及び0.25ug/mlのアムホテリシンB(最終pH7.1)を添加した。
【0072】
それぞれの実験の前に細胞を生理的に標準化するために、マイクロキャリアビーズの播種の2〜3日前に細胞を150cm@2フラスコ内に通過させた。細胞をフラスコから取り除くために、トリプシン処理(PBS内0.05%のトリプシン、0.53mMのEDTA)を行った。マイクロキャリアの実験用に、トリプシン培地を除去するために細胞を遠心分離し、培養培地内に1×10@6細胞/mlで再懸濁した。生細胞の密度は、トリパン色素排除(0.4%トリパンブルー、0.9%サリン内)で測定した。
【0073】
細胞培養及び、スピナフラスコ内分析
【0074】
細胞付着分析には、コーティングしたポリスチレンビーズ20mg/mlを使用し、細胞密度は、それぞれの細胞の種類で、1.5×10@5細胞/mlであった。マイクロキャリアを、250mlのスピナ容器に維持された100mlの培養物と培養し、懸濁した磁気インペラー(50 rpm)で攪拌した。
【0075】
細胞付着の運動を、上清細胞密度の低下として分析した。サンプルを除去するために、攪拌を一時的に停止し(約30秒)、その間、設置したマイクロキャリア及び上清サンプルを、下記の細胞定量化のために除去した。
細胞数の計数には、細胞を、0.1Mのクエン酸内にクリスタルバイオレット(0.1%w/w)を等量混合して染色し、血球計数器で計数した。培地からの細胞の減少は、ビーズに付着した細胞の指標として用いた。
【0076】
培地から除去した細胞がマイクロキャリアに(溶解せずに)付着していることを確認するために、マイクロキャリアに付着した細胞の数を、各細胞付着分析後に定量化した。よく攪拌した媒体培地の1mlの分割量を除去し、マイクロキャリアを配置し、配置したマイクロキャリアを、上記のクリスタルバイオレット/クエン酸に再懸濁した。1時間37℃でインキュベートした後、血球計数器で定量化した核酸を開放するために、懸濁液をパスツールピペットから出し入れして除去した。
【0077】
異なるRGD含量のゼラチンを、前記処理にしたがって、マイクロキャリアコーティングのコーティングに使用した。250のアミノ酸あたり、0、1、2及び4のRGD配列を有する組換えゼラチンを検査した。RGD部位の数と細胞付着との間に、明らかな相関関係を見い出した。250のアミノ酸あたり4つのRGD部位のレベルの時に最もよい結果が得られた。
【実施例3】
【0078】
RGDエンリッチゼラチンを、ヒトCOL5A2のゼラチン配列の一部をコードする核酸配列から産出した。EP−A−0926543、EP−A−1014176及びWO01/34646に開示されている方法を用いた。本発明のかかるRGDエンリッチゼラチンの配列は配列番号3に示されている。この配列内のRGDモチーフの割合は0.8であり、RGD配列を含まない435のアミノ酸のストレッチが存在する。
【0079】
上記ゼラチンを、実施例2の行程に従って、マイクロコーティングのコーティングとして用いた。このゼラチンの細胞接着と、実施例1に記載された250のアミノ酸あたり2つのRGDモチーフを有するゼラチンとを比較した。両方のゼラチン内のRGDモチーフの割合は同一(0.8%)であったが、実施例1のゼラチンの方が明らかに優れた細胞付着を示した。これは、RGDモチーフをさらに均一な分配を行ったことによる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合が少なくとも0.4であり、RGDエンリッチゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合に、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含むRGDエンリッチゼラチンを含むセルサポート。
【請求項2】
RGDエンリッチゼラチン内の割合が、少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.8、さらに好ましくは少なくとも1.0、さらに好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.5であることを特徴とする、請求項1記載のセルサポート。
【請求項3】
RGDエンリッチゼラチン内のRGDモチーフの数が、250のアミノ酸あたり少なくとも4であることを特徴とする、請求項1又は2記載のセルサポート。
【請求項4】
RGDエンリッチゼラチンが、RGDモチーフを少なくとも4、好ましくは6、さらに好ましくは8、より好ましくは12以上16以下含むことを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載のセルサポート。
【請求項5】
RGDエンリッチゼラチンの分子量が約30kDa〜約200kDaであることを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載のセルサポート。
【請求項6】
RGDエンリッチゼラチンの分子量が、60kDa超、好ましくは70kDa超であることを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載のセルサポート。
【請求項7】
RGDエンリッチゼラチンの分子量が、約150kDa未満であることを特徴とする、請求項1〜6いずれかに記載のセルサポート。
【請求項8】
RGDエンリッチゼラチンが、5%未満、好ましくは3%未満のヒドロキシプロリン残基を含むことを特徴とする、請求項1〜7いずれかに記載のセルサポート。
【請求項9】
RGDエンリッチゼラチンが、pH7〜7.5において正味の正電荷を有することを特徴とする、請求項1〜8いずれかに記載のセルサポート。
【請求項10】
RGDエンリッチゼラチンの少なくとも80%が、天然ヒトコラーゲン配列の1又は複数の部分からなり、該天然ヒトコラーゲン配列が少なくとも30のアミノ酸の長さを有することを特徴とする、請求項1〜9いずれかに記載のセルサポート。
【請求項11】
RGDエンリッチゼラチンが、天然ヒトコラーゲン配列の1又は複数の部分からなることを特徴とする、請求項10記載のセルサポート。
【請求項12】
アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合が少なくとも0.4であり、RGDエンリッチゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合に、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含み、かつ、該ゼラチンの少なくとも80%が、天然ヒトコラーゲン配列の1又は複数の部分からなり、該天然ヒトコラーゲン配列が、少なくとも30のアミノ酸の長さを有することを特徴とする、RGDエンリッチゼラチン。
【請求項13】
RGDエンリッチゼラチンの分子量が、最大10kDa、好ましくは最大5kDaであることを特徴とする、請求項12記載のRGDエンリッチゼラチン。
【請求項14】
セルサポートがマイクロキャリアであることを特徴とする、請求項1〜11いずれかに記載のセルサポート、又はクレーム12記載のRGDエンリッチゼラチンを含むセルサポート。
【請求項15】
セルサポートが、RGDエンリッチでコーティングしたインプラント又は移植材料、RGDエンリッチでコーティングした組織工学用の足場、歯科製品(一部)、創傷治癒用製品(一部)、人工皮膚マトリックス材料(一部)及び組織接着剤(一部)からなる群から選択されることを特徴とする、クレーム1〜11いずれかに記載のセルサポート、又はクレーム12又は13記載のRGDエンリッチゼラチンを含むサポート。
【請求項16】
クレーム12記載のRGDエンリッチゼラチンの、トラッグデリバリーシステム成分としての使用。
【請求項17】
クレーム13記載のRGDエンリッチゼラチンの、ガン転移抑制剤としての使用。
【請求項18】
クレーム12又は13記載のRGDエンリッチゼラチンの、血小板凝集予防剤としての使用。
【請求項19】
クレーム13記載のRGDエンリッチゼラチンの、手術後の組織接着予防剤としての使用。

【公表番号】特表2007−528699(P2007−528699A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507859(P2006−507859)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000208
【国際公開番号】WO2004/085473
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505232782)フジフィルム マニュファクチャリング ユーロプ ビー.ブイ. (50)
【Fターム(参考)】