説明

増殖性疾患における治療標的としてのSHCタンパク質

本発明は、増殖性障害を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、p46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する、又は前記被験者におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤を投与することを備える。また、本発明は、薬剤がp46 Shcまたはp52 Shcのリン酸化を阻害する;具備しているp66 Shcの脱リン酸化を阻害する;又は薬剤がShc A タンパク質と前記Shc Aタンパク質が細胞中でその増殖機能を実行するために結合しなければならないタンパク質との結合を阻害するかどうかを決定するための方法を提供する。また、本発明は、被験者における増殖性障害の治療に使用する製品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本明細書に記載される発明は、国防総省 乳癌助成金番号(Breast Cancer Grant Numbers)BC980415およびDAMD17-99-1-9363の基になされた研究の過程で創作された。従って、米国政府は、本発明に特定の権利を有している。
【0002】
[発明の背景]
細胞のシグナル伝達およびタンパク質チロシンキナーゼ/タンパク質チロシンホスファターゼ
広く多様な細胞のシグナル伝達経路は、細胞の細胞外および細胞内環境における変化を感知及び応答し、しばしば増殖、遊走、分化又は自己破壊(アポトーシスと称される)するとの細胞の決定を制御する。過度に活性化された又は異常に制御されたシグナル伝達経路は、増殖性疾患(最も顕著なものは癌)に通常出現し、またその重要な駆動力である。これら経路の多くの重要なコンポーネントは、タンパク質チロシンキナーゼ(PTKs)およびタンパク質チロシンホスファターゼ(PTPases)である。PTKsは、選択されたチロシンヒドロキシル基を共有結合性に連結されるホスフェート基で置換することによって、細胞タンパク質を修飾する酵素である。PTPasesは逆の機能を実施する酵素であり、タンパク質チロシン残基からホスフェート基を除去し、チロシン環構造上にヒドロキシル基をリフォーミング(reforming)する。何百の細胞性PTKsは、2つのクラスに広く分類される:上皮成長因子レセプター(EGFR)、Her2/neu-ErbB 2、およびc-Metなどの成長因子レセプターによって例示されるレセプターチロシンキナーゼ、およびSrcファミリーのPTKsによって例示される非レセプターチロシンキナーゼ(1)。レセプターチロシンキナーゼ(RTKs)は、彼等が彼等の成長因子リガンドに結合する又は二量体化する際に活性化される。一度活性化されると、RTKは自身が特異的なチロシン残基でリン酸化され、それは次に多くの二次メッセンジャータンパク質のSH2およびホスホチロシン結合(PTB)ドメインに対するドッキング部位として機能する。それらのタンパク質の幾つかは、次に彼ら自身がチロシンリン酸化され、これによって細胞内のシグナル伝達カスケードが活性化され、伝搬される(2-4)。それらの二次メッセンジャーの1つは、アダプタータンパク質 Shcであり、これはチロシンリン酸化された際に、幾つかの異なる経路にシグナル伝達する能力を有すると思われる(以下でさらに議論する)(5, 6)。おそらく最も特性が調べられたカスケードにおいて、チロシンリン酸化(PY)Shcは、Grb2-SOS複合体によって認識される。結果として、SOSは、細胞膜に移動(translocated)し、このことによりRasを活性化する能力を促進する(7-14)。Rasは、次にRafおよびMEKキナーゼを通じ、MAPキナーゼ(ERK-1および2)への高度に制御されたカスケードを活性化する。次に活性化Erk-1/2が、DNA合成および細胞増殖の開始に要求される、いくつかの経路をアップレギュレートする(34,35)。
【0003】
増殖性疾患において異常に活性化したPTKs
増殖性疾患(例えば、乾癬および癌)は、頻繁に異常に高いレベルのPTK活性を有する。癌細胞において、PTK活性は、時々は正常なPTKの総量(gross)の過剰発現に依存し(この一例は、浸潤性の乳癌を有する女性の20%から30%におけるHer2の過剰発現である)、時々はPTK遺伝子の遺伝的な変化を活性化することに依存し(点突然変異、調節性のドメインの欠失、または染色体転座に起因する融合タンパク質の形成、この一例は慢性骨髄性白血におけるBcr-Abl PTKである)、そして別の機会では自己分泌またはパラ分泌活性化またはトランス活性化(transactivation)に依存する。多数の齧歯類腫瘍モデルにおいて、異常に活性化したPTKsは、腫瘍形成(tumorigenesis)、腫瘍形成性(tumorgenicity)、および腫瘍の悪性表現型に重要な役割を担うことが示されている。慢性骨髄性白血病において、齧歯類モデルでの試験から次の事項が明らかである。その事項とは、Bcr-Abl PTKが、疾患の発生及びその新生物特性(neoplastic properties)の維持の双方に原因することである。この事項と矛盾なく、Gleevec(Bcr-Abl PTKを標的とするPTKインヒビター)は、本疾患の慢性期のヒト患者に劇的な治療効果を有している。しかしながら、大抵の癌は、単一の異常に活性なPTKによって、そう単純に特徴づけることはできず、それによって駆動(driven)されることもない。この事項は、おそらく浸潤性の乳癌によって最もよく例示され、おおよそアメリカで200,000の女性および世界で1,000,000の女性が本疾患であると毎年診断されている(15)。多数の成長因子及びそれらのレセプターが、乳癌の発生(development)および攻撃性(aggressiveness)に関係している(16-22)。これらには、Her-2/neu、EGFレセプターファミリーの他のメンバー;肝細胞成長因子(HGF)及びそのレセプター、c-Met; IGF-1、IGF-IIおよびIGF-1レセプター;FGFs及びそれらのレセプター;乳腺由来成長因子(MDGF-1及びそのレセプター);および非レセプターチロシンキナーゼc-SrcおよびBrkが含まれる(23に総説が記載されている、24,25-27も参照されたい)。
【0004】
分子治療標的に基づくより広く適用可能な機構の必要性
現行の治療は回避無しの生存(relapse-free survival)を明らかに改善したが、U.S.単独で約20%の患者は彼らの疾患に屈し、この割合は世界では更に高い(15)。治療を改善する試みにおいて、主な努力は、特異的な成長因子レセプターを直接的に標的とすることに費やされている。ある程度成功している最初のアプローチの1つは、Herceptinを使用しており、これはHer2に特異的なヒト化されたモノクローナル抗体である。しかしながら、その費用だけでなく、その有用性は、Her2を過剰発現する乳癌の20%のサブセットに制限される。多くの乳癌は、それらが依存する他の異常に活性化したPTKsを有する可能性がある。しかしながら、各個体のレセプターおよび非レセプターPTKに対し、単独で又は組合わせて、単一の患者の腫瘍に寄与する特異的なインヒビターを開発すること、これらのPTKsの何れが個体の腫瘍の伝統的な治療に対する難治性(refractoriness)に寄与するとおもわれるかを決定すること、そして結果的に彼らが治療されることは、困難であろう。
【0005】
広く有用な分子標的を規定する判定基準
しかしながら、代替的な広く適用可能な戦略は、多くの異なるPTKsに共通の下流のシグナル伝達タンパク質を標的とするであろう。理想的には、このシグナル伝達タンパク質は、異常に調節されるであろうものであり及び伝統的な外科、放射線療法、およびアジュバント治療を回避する攻撃的な腫瘍(換言すれば、予後不良の患者の腫瘍における)において決定的な役割を担うものである。
【0006】
候補分子の治療上の標的
レセプターPTKs、非レセプターPTKs、およびこれら双方の下流に無数の候補標的シグナル伝達タンパク質が存在し、このタンパク質には、Shc, Grb2, SOS, Ras, Raf, MEK, Erk1,2として知られるMAPキナーゼのみならず、ホスファチジルイノシトール3'キナーゼ、プロテインキナーゼC、ホスホリパーゼC、SHP2、FRS2、Cbl、Ship-1およびShip-2、Grb10、Gab-1、およびGab-2、crk、rasGAP、およびp190racGAPも含まれる。現在、これらの第2のシグナル伝達分子(もしあれば)のうち何れが、広く有用な分子標的に関する上記で記載された要件を満たすかは知られていない。
【0007】
Shcタンパク質
アダプタータンパク質(Shc)は、全てのこれらのレセプターからの、非レセプターチロシンキナーゼからの、多くのGタンパク質共役レセプターからのシグナル伝達に応答して、および、細胞外マトリックスとの細胞相互作用に応答して、チロシンリン酸化(PY)される(6、また29, 30, 31も参照されたい)。Shcは、細胞増殖、侵襲(invasion)、運動性(motility)、および足場非依存性成長のコントロールを活性化させる刺激への応答に関与する(4、32-43)。更に、Shcに対する抗体の微量注射、Shcアンチセンス、および様々なShcドミナントネガティブ構築物を用いた幾つかの研究は、EGFレセプター、Her2/Neu、IGF-1およびHGFからのシグナル伝達が機能的なShcに依存することを示している(5, 25, 44-46)。
【0008】
ヒトにおける単一のShc遺伝子がユビキタスにコード化する。
Shc Aタンパク質、および2つの他の関連した遺伝子はニューロン起源の細胞で見つけられるShcBおよびCタンパク質をコード化する。Shc A 遺伝子は、p52およびp46 Shcアイソフォーム(4、6、および47)および3番目のアイソフォーム(p66)を生じ、それはp52またはp46 Shcに見つけられないユニークなN末端ドメイン(CH2)を含有する。p66 Shcの合成は、分離したプロモーター(a separate promoter)から駆動される(6,48)。Shcのp52およびp46 アイソフォームのチロシンリン酸化はこれらの反応を前方に駆動するように思われるにもかかわらず、p66 Shcはこれらのプロセスの幾つかを阻害するように思われる(49, 50);さらに、p66 Shcは、酸化ストレスに対するアポトーシス感作物質である(51, 52)。係るストレスは、成長因子経路の慢性活性化によって、好中球およびマクロファージの浸透によって、及び低酸素症腫瘍(hypoxic tumors)の血管新生(neo-vascularization)によって生じえる。
【0009】
癌におけるShcに関する広範な役割に関する証拠
豊富な証拠によって、乳癌マウスモデルと同様にヒト乳癌および前立腺癌の双方で、Shcタンパク質の関与が示されている。ポリオーマウイルスミドルT抗原または発癌性ErbB2の何れかを発現しているトランスジェニックマウス中での多病巣性で攻撃的な腫瘍の出現は、ShcとそれぞれmTおよびErbB2との相互作用を必要とする(55,56)。以前に次の事項が認識された、その事項とは、攻撃的なヒト乳癌から分離された大抵の細胞株が、異常に多量の活性化PY-Shc(p52およびp46 Shc)を含有しているが、しかし、少量の平衡的な(counterpoised)p66 Shcを発現していたことである(57)。更に、組織培養においてヒト乳癌細胞の成長を鈍らせるPTKインヒビターもまた、Shcチロシンリン酸化を急速に阻害することが示されている(57-59)。ドミナントネガティブShc(Y 317F)点突然変異の発現は、高レベルのPY-Shcを通常有する乳癌細胞株の成長を阻害するが、しかし、通常の乳癌上皮細胞株の成長を阻害しない(60)。同様に、PC-3前立腺癌細胞は、彼らのIGF-1レセプターの彼らのEGFRsをトランス活性化(transactivate)する能力がドミナントネガティブShc(Y317F)点変異体を用いてブロックされる場合、もはや腫瘍形成的(tumorgenic)ではないことが最近見つけられた(以下61を参照)。
【0010】
[発明の概要]
本発明は、増殖性障害(proliferative disorder)を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤を投与することを備える。更に、本発明は、増殖性障害を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤を投与することを備える。更に、本発明は、増殖性障害を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるリン酸化p66 Shc(phosphorylated p66 Shc)のレベルを増加させる薬剤を投与することを備える。更に、本発明は、細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害するための方法を提供し、該方法は、前記細胞に前記細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤を送達(delivering)することを備える。更に、本発明は、細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害するための方法を提供し、該方法は、前記細胞に前記細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤を送達することを備える。
【0011】
更に、本発明は、細胞におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させるための方法を提供し、該方法は、前記細胞に、前記細胞におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤を送達することを備える。
【0012】
更に、本発明は、薬剤がp46 Shcまたはp52 Shcのリン酸化を阻害するかどうかを決定するための方法を提供し、該方法は:
(a)p46 Shcまたはp52 Shcを、前記薬剤の非存在下でそのリン酸化を許容するだろう条件下で前記薬剤と接触させることと;
(b)前記p46 Shcまたはp52 Shcがリン酸化される程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定したリン酸化の程度と前記薬剤の非存在下で測定したリン酸化の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下でのリン酸化の程度がより大きいことが前記薬剤がp46またはp52 Shcのリン酸化を阻害することを示す。
【0013】
更に、本発明は、薬剤がp66 Shcの脱リン酸化を阻害するかどうかを決定するための方法を提供し、該方法は:
(a)リン酸化p66 Shcを、前記薬剤の非存在下でその脱リン酸化を許容するだろう条件下で前記薬剤と接触させることと;
(b)p66 Shcが脱リン酸化される程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定した脱リン酸化の程度と前記薬剤の非存在下で測定した脱リン酸化の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下での脱リン酸化の程度がより大きいことが前記薬剤がp66 Shcの脱リン酸化を阻害することを示す。
【0014】
さらに本発明は、薬剤がShc A タンパク質と前記Shc Aタンパク質が細胞中でその増殖機能を実行するために結合しなければならないタンパク質との結合を阻害するかどうかを決定するための方法を提供し、該方法は:
(a)Shc Aタンパク質が結合するタンパク質又はそのShc A-結合部分(i)とShc A又はその適切な部分(ii)とを、前記薬剤の非存在下で結合を認容する条件下で前記薬剤を存在させて、接触させることと;
(b)結合の程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定した結合の程度と前記薬剤の非存在下で測定した結合の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下での結合の程度がより大きいことが前記薬剤が前記Shc A タンパク質とそれが細胞中で結合しなければならないタンパク質との間の結合を阻害することを示す。
【0015】
更に本発明は製品(an article of manufacture)を提供し、該製品は以下を具備する、
(a)被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング物質(a packaging material)と;および
(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルである。
【0016】
最後に、本発明は製品を提供し、該製品は以下を具備する、
(a)被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング物質と;および
(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルである。
【0017】
[発明の詳細記載]
定義:
「p52」、「p46」および「p66」は、それぞれ約52-kDa、46-kDa、および66-kDaのShc Aタンパク質を意味する。「p52」、「p52 Shc」、および「p52 Shc A」の用語は、同等(equivalently)に使用される。同様に、「p46」、「p46 Shc」、および「p46 Shc A」は、同等に使用される。また、「p66」、「p66 Shc」、および「p66 Shc A」は、同等に使用される。「薬剤または因子(Agent)」は、任意の有機または無機のケミカル(chemical)を含む。薬剤の例には、アミノ酸、アミノ酸オリゴマー、アミノ酸ポリマー、天然または合成のポリペプチド又はその合成アナログ〔ホスホミメティック誘導体(phosphomimetic derivatives)及びそのデホスホミメティック誘導体(dephosphomimetic derivatives thereof)を含む〕;任意のタンパク質(天然または組換え型またはヒト化された抗体またはポリペプチドまたは他のリガンド又はそのアナログを含む)であって、細胞表面PTKsと結合するもの又はPTKsを活性化する細胞表面レセプターと結合するもの;任意の天然物又はその化学的又は酵素的な誘導体(derivative)又はアナログ;および任意の脂質またはリン脂質;薬または薬用の化合物が含まれる。更に、例には、チロシンキナーゼの酵素機能を阻害するチロシンキナーゼインヒビターが含まれ、これにはGleevec (ST1571, Imatinab, cgp57148B), OSI-774, PP1, PP2, SU6656, SU4984, SU9518, SU5416, Genistein, Herbamycin A., PKC412, トリホスチン(tyrphostins)(これにはCI-1033, PD168393, PD513032, AG126, AG1478, AG879, AG957, ZM39923, ZM449829, Iressa, ZD1839, Gefitinib, Emodin, Erbstatin, B46, Quinazolones, および他のものが含まれる)、およびタンパク質におけるチロシンホスフェートからホスフェート部分を特異的に切断するチロシンホスファターゼの能力を阻害するチロシンホスファターゼインヒビターが含まれるが、これらに限定されない。更に、例には、p66 Shcに関するmRNAの転写を制御する遺伝的プロモータ領域の脱メチル化を促進する薬剤が含まれる。「抗増殖薬剤(Anti-proliferative agent)」には、腫瘍、腫瘍細胞、別の増殖性疾患、又はそれに関連する細胞の任意の悪性特性(malignant property)を減弱する任意の薬剤が含まれる。「抗増殖薬剤」は、腫瘍細胞の成長を阻害しても又はしなくてもよい。細胞成長の代わりに(又はそれに加えて)、(a)それはアポトーシス死を生じている腫瘍細胞の尤度(likelihood)を増加させてもよい、(b)それは遊走する、侵入(invade)する又は転移(metastasize)する腫瘍細胞の能力を阻害してもよい、(c)それは、その宿主が腫瘍に新しい脈管構造(vasculature)を分布させることを奨励(encourage)させる腫瘍細胞の能力を阻害してもよい、(d)それは宿主組織を傷害及び再造形(remodel)する腫瘍の能力を、細胞外分解酵素(extra-cellular degradative enzymes)の同化作用(elaboration)および/または活性化を阻害することによって鈍らせてもよい、並びに(e)それは、腫瘍細胞の免疫原性を増加させて、これによって宿主の免疫系による腫瘍細胞破壊を活性化させてもよい。「PY-Shc」は、ヒトp52 Shc中のY239、Y240、およびY317と番号がつけられたチロシン残基の及びp46およびp66 Shc中の対応する(corresponding)チロシン残基の任意又は全てがリン酸化されたShc Aタンパク質を含む。「被験者(Subject)」は、任意の動物(例えば、哺乳類)を意味し、マウスおよびヒトを含むが限定されない。
【0018】
[発明の態様]
豊富な実験の証拠は、乳房、前立腺、および他の癌における、高レベルのチロシンリン酸化した(PY)、p52およびp46のShc Aタンパク質および低発現のp66 Shc Aタンパク質に関する決定的な役割を示している。これらのShcタンパク質が臨床的な乳癌および前立腺癌に非常に強い予後的な能力を有しているとの発見と考え合わせると;チロシン-リン酸化Shcおよびp66 Shcは、広く有用な分子機構に基いた治療標的に関する基準を満たす。予定外のShc活性化およびタンパク質−チロシンキナーゼ(PTK)活性化が多くの増殖性疾患で発生することから、次の事項が期待される。その事項とは、Shcタンパク質のターゲティングが、乳癌および前立腺癌においてのみならず、多くの他の癌及び増殖性疾患(例えば、乾癬)でも有用であろうことである。本明細書で記載される本発明は、p46、p52、および/またはp66 Shc Aタンパク質の機能(functioning)または量に干渉する分子薬剤(molecular agents)を開発および同定するための、組成物および方法を含む。さらに本発明は、p46、p52、および/またはp66 Shc A タンパク質の機能または量に干渉(interfere)する薬剤の使用を含み、該使用は乳癌、前立腺癌、他の癌、および増殖性疾患(例えば、乾癬)を患う患者の治療上の処置のためである。特に、本発明は、増殖性障害を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤を投与することを備える。更に、本発明は、増殖性障害を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤を投与することを備える。更に、本発明は、増殖性障害を患う被験者を治療するための方法を提供し、該方法は、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤を投与することを備える。更に、本発明は、細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害するための方法を提供し、該方法は、前記細胞に前記細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤を送達することを備える。更に、本発明は、細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害するための方法を提供し、該方法は、前記細胞に前記細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤を送達することを備える。更に、本発明は、細胞におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させるための方法を提供し、該方法は、前記細胞に、前記細胞におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤を送達することを備える。
【0019】
本方法の一態様において、前記薬剤は、siRNA、リボザイム、またはDNAzymeからなる群から選択される。本発明において、Shcの発現または機能を変更させるための分子生物学的方法には、当業者に周知のsiRNAアプローチを用いて、p46および/またはp52 Shc発現を減少させること;Shc Aタンパク質の又はShc Aタンパク質の分離された小領域(sub-regions)または小領域の誘導体またはアナログの「ドミナントネガティブ(dominant negative)」突然変異体を構築し、発現させること;Shc Aタンパク質(特に、p66 Shc)の又はShc Aタンパク質の分離された小領域または小領域の誘導体またはアナログの「ドミナントアクティブ(dominant active)」突然変異体を構築し、発現させることが含まれるが、これらに限定されない。本方法の別の態様において、前記薬剤は、被験者におけるリン酸化p66 ShcのSer36残基の脱リン酸化を特異的に阻害する。本方法の別の態様において、前記薬剤は、p66 Shcコード化発現ベクター(p66 Shc-encoding expression vector)である。本方法の別の態様において、前記被験者はヒトである。本方法の一態様において、前記増殖性疾患は、前立腺癌、卵巣癌、または乳癌である。本方法の別の態様において、前記細胞は、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、または乳癌細胞である。本発明において、薬剤の投与は、当業者に既知の任意の様々な方法および送達システムを用いて、達成および実施することができる。前記投与は、例えば、静脈内に、経口的に、経鼻的に(nasally)、移植物を介して(via implant)、経粘膜的に(transmucosally)、経皮的に、および皮下的に実施することができる。以下の送達システム(いくつかの日常的に使用される薬学的担体を使用する)は、本発明において薬剤を投与するために想定(envisioned)される多くの態様の単なる代表である。注射可能な薬物配送システムは、溶液、懸濁液、ゲル、ミクロスフェアおよびポリマー性の注射可能物質(polymeric injectables)を含み、また溶解性変更薬剤(solubility-altering agents)(例えば、エタノール、プロピレン・グリコールおよびスクロース)およびポリマー〔例えば、ポリカプリルアクトン(polycaprylactones)およびPLGA's〕などの賦形剤を含むことができる。移植可能なシステムは、ロッド(rods)およびディスク(discs)を含み、またPLGAおよびポリカプリルアクトンなどの賦形剤を含有することができる。経口送達システムは、錠剤およびカプセル剤を含む。これらは、結合剤〔例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、他のセルロース系材料(cellulosic materials)およびスターチ〕、希釈剤〔例えば、ラクトースおよび他の糖類、スターチ、リン酸二カルシウム(dicalcium phosphate)およびセルロース系材料〕、崩壊剤(例えば、スターチポリマーおよびセルロース系材料)および潤滑剤(例えば、ステアレートおよびタルク)などの賦形剤を含有してもよい。経粘膜的な送達システムは、パッチ(patches)、錠剤、座剤、ペッサリー(pessaries)、ゲルおよびクリームを含み、溶解剤および増強剤(例えば、プロピレン・グリコール、胆汁酸塩およびアミノ酸)などの賦形剤、並びに他のビヒクル(例えば、ポリエチレン・グリコール、脂肪酸エステルおよび誘導体、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒアルロン酸などの親水性ポリマー)を含有することができる。
【0020】
経皮的な送達システムは、例えば、水溶性および非水溶性のゲル、クリーム、複合乳剤(multiple emulsions)、ミクロ乳剤(microemulsions)、リポソーム、軟膏、水溶性および非水溶性の溶液、ローション(lotions)、エアロゾル(aerosols)、ハイドロカーボン基材および粉末(hydrocarbon bases and powders)を含み、且つそれは溶解剤(solubilizers)、浸透増強剤(permeation enhancers)(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコールおよびアミノ酸)、および親水性のポリマー(例えば、ポリカルボフィルおよびポリビニールピロリドン)などの賦形剤を含有することが可能である。一態様において、薬学的に許容される担体は、リポソームまたは経皮的な増強剤(transdermal enhancer)である。再構成可能(reconstitutable)な送達システムのための溶液、懸濁液、粉剤には、懸濁剤〔例えば、ガム、ザンタン(zanthans)、セルロース系(cellulosics)および糖〕、保湿剤(例えば、ソルビトール)、溶解剤(例えば、エタノール、水、PEGおよびプロピレングリコール)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、Spans、Tweens、およびセチルピリジン)、保存剤および抗酸化剤(例えば、パラベン(parabens)、ビタミンEおよびC、およびアスコルビン酸)、抗固化剤(anti-caking agents)、コーティング剤、およびキレート化剤(例えば、EDTA)などのビヒクルが含まれる。本発明に使用するために効果的な量の薬剤を決定することは、ルーチンの計算方法(computational methods)を用い動物データに基いて実施できる。
【0021】
更に、本発明は、薬剤がp46 Shcまたはp52 Shcのリン酸化を阻害するかどうかを決定するための方法を提供し、該方法は:
(a)p46 Shcまたはp52 Shcを、前記薬剤の非存在下でそのリン酸化を許容するだろう条件下で前記薬剤と接触させることと;
(b)前記p46 Shcまたはp52 Shcがリン酸化される程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定したリン酸化の程度と前記薬剤の非存在下で測定したリン酸化の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下でのリン酸化の程度がより大きいことが前記薬剤がp46またはp52 Shcのリン酸化を阻害することを示す。
【0022】
更に、本発明は、薬剤がp66 Shcの脱リン酸化を阻害するかどうかを決定するための方法を提供し、該方法は:
(a)リン酸化p66 Shcを、前記薬剤の非存在下でその脱リン酸化を許容するだろう条件下で前記薬剤と接触させることと;
(b)p66 Shcが脱リン酸化される程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定した脱リン酸化の程度と前記薬剤の非存在下で測定した脱リン酸化の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下での脱リン酸化の程度がより大きいことが前記薬剤がp66 Shcの脱リン酸化を阻害することを示す。
【0023】
さらに本発明は、薬剤がShc A タンパク質と前記Shc Aタンパク質が細胞中でその増殖機能を実行するために結合しなければならないタンパク質との結合を阻害するかどうかを決定するための方法を提供し、該方法は:
(a)Shc Aタンパク質が結合するタンパク質又はそのShc A-結合部分(i)とShc A又はその適切な部分(ii)とを、前記薬剤の非存在下で結合を認容する条件下で前記薬剤を存在させて、接触させることと;
(b)結合の程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定した結合の程度と前記薬剤の非存在下で測定した結合の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下での結合の程度がより大きいことが前記薬剤が前記Shc A タンパク質とそれが細胞中で結合しなければならないタンパク質との間の結合を阻害することを示す。
【0024】
更に本発明は製品を提供し、該製品は以下を具備する、
(a)被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング物質(a packaging material)と;および
(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルである。
【0025】
更に本発明は製品を提供し、該製品は以下を具備する、
(a)被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング物質と;および
(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルである。
【0026】
最後に、本発明は製品を提供し、該製品は以下を具備する、即ち、
(a)被験者におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤をその中に有するパッケージング物質と;および
(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルである。
【0027】
本発明は、以下の実施例で説明される。この実施例は、本発明の理解を助けるために記載される。しかし、本願の特許請求の範囲の請求項に記載される本発明は、限定されることを意図していない、また限定されると解釈されるべきではない。
【0028】
[例]
イントロダクション
本発明は、乳癌または前立腺癌の患者の原発性腫瘍における新規発見に基づくものであり、その発見とは、本明細書中でp46およびp52 Shcと称される高レベルのチロシンリン酸化(PY) Shc Aタンパク質(p66 Shcも、チロシンリン酸化されうるのであるが)および本明細書中でp66 Shcと称される低発現の阻害性のShc Aアイソフォームによって、一次療法を失敗する尤度が高い患者が同定されることである。この新規の臨床所見(浸潤性の腫瘍と関連する多くの細胞プロセスにおいて、Shcタンパク質の機構的な関与に関する実験的な証拠を備えることと関連して)は、浸潤性の乳癌、前立腺癌における同様に多くの他のタイプの癌および増殖性疾患(例えば、乾癬)における広範に効果的な治療上の標的であるべき候補分子標的に関する判定基準を満たす。本発明は、増殖性疾患において広範に有用な標的である適切な(likely)ものとして、p42、p56、およびp66 Shc Aタンパク質を同定する。さらに本発明は、増殖性疾患:浸潤性の乳癌、前立腺癌、および多くの他の癌(卵巣癌、胃腸管の癌、頭部および頸部癌、甲状腺癌、グリア芽細胞腫、メラノーマ、および基底細胞癌を含むが、これらに限定されない);および増殖性疾患(乾癬を含むが、これらに限定されない)において広範に有用な標的である適切なものとして、p42、p56、およびp66 Shc Aタンパク質を同定する。
【0029】
本明細書で記載される本発明は、細胞においてp46、p52、および/またはp66 Shc A タンパク質の機能(functioning)または量に干渉する分子薬剤(molecular agents)を開発および同定するための、組成物および方法を含む。さらに本発明は、p46、p52、および/またはp66 Shc A タンパク質の機能または量に干渉する薬剤の使用を含み、該使用は乳癌、前立腺癌、他の癌、および増殖性疾患(例えば、乾癬)を患う患者の治療上の処置のためである。
【0030】
例1:実験
p66 Shcは、乳癌細胞の足場非依存性成長を阻害する。
以前に、p66 Shcの僅か低いレベルは、高レベルのPY-Shcを発現する乳癌細胞で検出され、このことは新生物性の表現型の様々な側面に関するPY-Shcシグナル伝達に依存するようにおもわれる。この事項は、p66 Shcが通常は腫瘍発生を抑制し、p66 Shc発現のロスが腫瘍細胞に選択的な利点を与える(convey)だろうことを示唆する。本見解を試験するために、SKBR-3およびMDA-MB-5453乳癌細胞株(たとえあるとしても非常に少ないp66 Shcを発現する)を利用した。これらの細胞をp66-Shc発現ベクターでトランスフェクトすることによって、正常レベルのp66-Shcを再発現するSKBR-3およびMDA-MB-453の幾つかの独立クローンを作出した。これらの細胞は組織培養で良好に成長するが、彼らはソフトアガー中でコロニーを形成する能力を損失している;腫瘍形成性(tumorgenicity)と相関する、伝統的な接着非依存性成長試験(図1)。
【0031】
特に、ポテンシャルは可能性のある機構に関連し、これによって活性化Shcを有する腫瘍細胞のみが外科医のメスをかわすことができるようにおもわれる(以下のデータ、および28を参照されたい);活性化Shcは、細胞移動(cell migration)に重要な役割を担い(42,43,62)、そのベータ4-インテグリンとの相互作用は、ベータ4-インテグリンおよびc-Met-媒介性の細胞侵入(cell invasion)に必要とされる。さらに、PTEN(カウデン病を有する患者における乳癌の高発生率に関与する)が、脱リン酸化され、これによってShcが不活性化される(43, 64, 65)。
【0032】
乳癌におけるPY-Shcおよびp66 Shcの予後値(Prognostic value)
合わせて考えると、この情報の全ては、PY-Shcの66-kDa Shcと比較した高い量が浸潤性の新生物のマーカーとして貢献するだろうことを示唆する。PY-Shc およびp66 Shcの半定量的な免疫組織化学的な分析が、116女性から保存された原発性乳癌試料に関して実施された;その患者中で17は、回帰(relapse)を経験した〔非回帰患者の6.1年あまりの追跡調査(6.1 years median follow-up)〕。我々の仮説と一致して、染色強度は、増加量のPY-Shc(P=0.01)およびp66-Shcタンパク質の減少発現(P=0.028)が疾患の再発と相関(correlated)することを実証した。PY-Shcのp66 Shcに対する比率としてモデル化されるShc比率は、節状態(P=0.003)、腫瘍ステージ(P=0.0025)および疾患状態(P=0.002)と強く相関し、そして続いて回帰する患者の原発性腫瘍において2倍高かった(P<0.001)。回帰無しの生存者(relapse-free survival)の一変量のCox比例ハザード分析(Univariate Cox proportional hazards analysis)は、Shc比率に関して10の危険率(HR)を有する連続変数(continuous variables)として、PY-Shc (P=0.01)、p66-Shc (P=0.04)の予後値およびShc比率(P=0.004)を実証した。<0.35 および>0.65のShc比切点(Shc Ratio cut points)が同定された、そして陰性適中率(negative predictive value)および陽性適中率(positive predictive value)を最大にするために独立に確認された。低Shc比(n=36)を有する患者は、高Shc比を有する患者と比較して0.08 HRの回帰(P=0.007)を有していた〔それぞれ8年蓄積値2.9%と55%回帰危険性(relapse hazard)を、全体コホートにおいて22%回帰危険性と比較して経験している〕。Shc比は、疾患特異的生存に関して、類似する予後値を有していた。多変量モデルにおいて、Shc比(連続的な変数として及び切点分類変数として)は、全ての測定された共変量(covariates)とは独立であった(これには節状態、腫瘍ステージ、疾患ステージ、グレード、エストロゲンレセプター状態およびアジュバント治療が含まれる)、また、節状態(nodal status)以外の全てのものよりも強い予後マーカーであった。全ての回帰した節陽性(node-positive)の患者は、非常に高いShc比(>0.80, P=0.006)を彼らの原発性腫瘍において有していた。
【0033】
さらに、Shc比は、結陰性患者(79患者、10再発)において、0.086 (P=0.03)のHRを有する、強い独立した予後指標(prognostic indicator)であった;また、それは臨床マーカーおよびアジュバント療法と独立であった。低い及び高いShc比を有する患者は、トータルの節陰性コホートにおける20%と比較して、それぞれ3.6%および64%の回帰危険性を経験した。
【0034】
Shc比: 予後または予測(prognostic or predictive)?治療の効果。
低度、中等度、または高度のShc比群(P=0.53)において、患者が受けた療法に有意差は存在しなかった。本事項は、療法の差異がShc変数の予後値の評価を混乱(confound)させなかったことを示唆している。この事項と一貫して、Shc変数はそれらの完全に独立の予後値を保持し、二変量Cox比例ハザードモデルまたは階層化モデル(stratified model)において及び多変量モデルにおいて療法に関して調整された場合、療法は有意に近づくが、しかし分類的(categorical)な又は連続的な変数としてのShc比の予後値は変更されなかった。有用なマーカーは、療法とは予後的に独立、療法に対する応答に予測的(predictive)、または両者の混合でありえる(66)。乳癌に関して、次の事項を知ることは重要であろう。その事項とは、マーカーが、原発性腫瘍の除去が唯一の治療である患者にリスクを正確に割り当てることが可能かどうかである:小さいコホート(cohort)の25患者が、この判定基準に合致した。これらの患者のShc比は非常に均等に分布していたが(9の低度、8の中等度、および8の高度)、回帰した全3患者は高いShc比を有していた;全てはステージIの疾患を有していた。log順位分析によって、分類上のShc比は回帰の有意な予知因子(predictor)であった(P=0.018)。また、Cox回帰の尤度比(LR;likelihood ratio)分析によって、連続変数としてのShc比は有意な予後強度(prognostic strength)を有していた(X2=4.74, 自由度(d.f.)=1, P=0.029)。Nelson-Aalen分析による、高いShc比を有する患者の7年蓄積回帰危険性は0.77だった。従って、これは非常に小さい患者のグループであるにもかかわらず、それらのデータは次の事項を強く示唆している;その事項とは、全身性のアジュバンド療法が存在しない条件下でShc比が予後値を有することである。しかしながら、大多数の患者(81患者;11回帰)は、全身性のアジュバント治療を受けた。再び、Shc比は均等に分布したが (24低度、23中等度、および34高度)、11回帰のうち9は高いShc比を有する患者中で発生した;低いShc比を有する患者では無し(分類的な変数としてのShc比に関して、Cox回帰 LR X2=11.87, d.f.=2, P=0.0027;連続的な変数としてのShc比に関して、 P= 0.004; LR X2= 5.78, d.f.=l, P= 0.016)(28)。従って、Shc比は、同様に全身性のアジュバント処理の存在下で明白に予後的(prognostic)であった。しかしながら、高いShc比を有するアジュバント処理患者に関して、Nelson-Aalen分析による7年蓄積の回帰危険性は僅か0.33であり、外科的療法のみを受けた小さいコホートにおいて認められた0.77よりも顕著に低いものであった。この差が大規模な良好にコントロールされた試験において維持される場合、高いShc比が全身性のアジュバント療法に良好に反応する患者を同定することを示唆するだろう。
【0035】
表1. 乳癌におけるShc変数に関するRFSおよびDSSのCox比例ハザード分析
【表1】

a PY-Shcにおける又はPY-Shcのp66 Shcに対する比における増加に関する又はp66 Shcにおける減少に関するHR、各々は、これらの連続的な変数の完全に観察されたスコアリングレンジ(the full observed scoring range)と等しい。低度および中等度のShc比群が、高Shc比亜群と比較して計算された。低Shc比群と比較した高い群に関するHRは、高いHRに対する低い群の逆数であり、RFSに関して12.8である。P<0.05に対するWald-検査値は、太字で示される。
b 二変数Cox分析は、共変量(covariates)としてPY-Shcおよびp66-Shcに関して互いに調整された。
c Shc比の切点:低度, <0.35; 中等度, >0.35 および<0.65; 高度, >0.65。
【0036】
PY-Shcおよびp66 Shcに関して相互に調整された二変数CoxモデルのLR分析によって、回帰したが、生存した患者を同定することに関して高値のPY-Shcは第一に信頼されるものであった(LR ΔX2=7.31,Δd.f.=1,P=0.0068(p66 LRと比較して)ΔX2=1.21,Δd.f.=1,P=0.27)。
【0037】
対照的に、低値のp66 Shcは、疾患から死に至る回帰を予測した(表1におけるWald-検定のP値を比較)。顕著なことに(Strikingly)、第一のアジュバント療法を受けず且つ彼らの疾患で死亡した全ての患者の原発性腫瘍は、高レベルのp66 Shcを発現した、他方で第一のアジュバント療法を受け且つ彼らの疾患で死亡した患者の原発性腫瘍は、低レベルのp66 Shcを発現した(図2)。
【0038】
アジュバント処理患者のCox比例ハザード分析によって、低発現のp66 Shcは、彼らの疾患が死へ至ることの非常に強い予知因子であった(HR 585, LR X2=13.56, Δd.f.=1, P=0.0002)。アジュバント治療に関する選択バイアスに対して議論すると、非回帰性の患者のp66レベルにおいて、全身性のアジュバントを受けた患者とそれを受けなかった患者とを比較して差はなかった(それぞれ、0.57±0.02 SEおよび0.62±0.03 SEの平均, P=0.2)。この観察(provocative observation)はさらに、PY-Shcおよびp66 Shcの双方を治療的にターゲッティングすることが特に有効であろうことを示唆している。
【0039】
前立腺癌進行における活性化Shcの役割に関する証拠。
Shcの前立腺癌における機能的役割を示すため、Shcのレセプター活性化を、アンドロゲン感受性LnCaP細胞およびアンドロゲン非感受性DU-145、およびPC-3を含む幾つかの前立腺癌細胞株の免疫沈降/イムノブロット分析によって以前に評価した。以前の報告(67)と矛盾することなく、PY-ShcはEGFでの外部刺激に応じて3つ全ての細胞株において検出された。並行して、我々のチロシン残基317上のShcリン酸化に特異的なウサギポリクローナル抗体(抗-PY-Shc)を用いたDU145およびPC-3の免疫細胞化学分析は、EGF刺激の存在下で抗体―免疫ラベリングの劇的な増加を実証した。次に、PC-3細胞を安定的にトランスフェクションして、野生型(wt)Shc(p52)またはドミナントネガティブ(dn)突然変異体p52 Shc(Y317F-Shc)を構成的に発現させた。このドミナントネガティブ(dn)突然変異体p52 Shc(Y317F-Shc)は、Tyr317をフェニルアラニンへと変異させており、これによって本部位でのチロシンリン酸化を阻止し、これによってGrb2との相互作用を阻害する。wtShcおよびdnShcの発現がこれらの細胞において確認された;期待したとおり、EGFはdn-Shcタンパク質のチロシンリン酸化を若干刺激した(おそらく、残基239、240での他のチロシンリン酸化部位のみにおいて)(図3)。血清フリー培地での成長に関して、自己分泌IGF-1レセプター刺激へのPC-3細胞の依存性が報告されていたので(68)、また、IGF-1シグナル伝達が3T3L-1前脂肪細胞においてShcに依存すること(69)が最近実証されたので、図3に示されるwtShc細胞およびdnShc細胞も血清フリー培地中で増殖する彼等の能力に関して検査された。予測したとおり、dnShc細胞は、親PC-3細胞およびwtShc細胞と比較して、血清フリー培地中で増殖することができなかった。pEBGベクターを含有しているwtShc細胞、dnShc細胞、およびPC-3細胞が雄の重症複合免疫不全(SCID)ベージュマウスへと移植された際、wtShc腫瘍およびベクター腫瘍(vector tumors)は匹敵する成長を示したが、dnShc腫瘍は強く増殖阻害された(図4)。
【0040】
マウス中で60日間成長させたこれらの腫瘍からのShcタンパク質の免疫沈降は、腫瘍細胞がインビボでwtShcまたはdnShcを連続的に発現することを実証した(示さず)。wtShc細胞およびdnShc細胞がErk-1/2の下流の活性化を刺激する成長因子の能力に関して検査された際、dnShc細胞は、親細胞およびwtShc細胞と比較して、EGF、FGF、およびIGFに応答する減弱したシグナル伝達を示した。これらを考えあわせると、これらの所見は、我々のリン酸化Shcを前立腺癌の進行の生物学的マーカーとして評価することの理論的根拠(rationale)を強めるものである。
【0041】
前立腺癌の予備的な免疫組織化学的な評価。
染色強度に関する現行の視覚的な評価システムは、0, 20, 40, 60, 80, 100 スケールを使用する(図5)。0〜100染色強度は、各染色レベルで染色された標本全体中での腫瘍の割合(fraction)で拡大(multiplied)される。これらは、次に合算され、切片中の全ての腫瘍組織に関する染色のトータル平均強度(0〜100 スケール)が得られる。
【0042】
表2. 前立腺バイオプシー標本でのPY-Shcおよびphospho-Erkに関する免疫組織化学染色。
【表2】

【0043】
最初に、最近前立腺癌と診断された10患者のバイオプシー標本と、同様に病状(pathology)を示していない幾つかの標本とを、抗-PY-Shcおよび抗-phospho-Erkでの染色に関して評価し、これらの値をPSAレベルおよびGleason評点と比較した(図6および表2の例を参照されたい)。特に次の事項に注意すべきである、その事項とは、患者#5、および著しくはないが、患者#2が、強いPY-Shc染色を示したが、しかし、phospho-Erk染色は非存在であるか又は相対的に弱かったことである。この観察は驚くことではない、というのも成長因子レセプターおよびShcが活性化されるが、Erk-1/2が活性化されない多くの例が存在するからである(33, 70, 71)。6および7に限定したGleason評点を有する、この小さいサンプルでさえもPY-Shcの広範囲の強度および密度は、次の事項を実証した;その事項とは、提案された試験が、技術的に可能であり、明瞭な結果を生じさせるために適切(likely)であることである。
【0044】
初期ステージの器官限定性の前立腺癌(organ-confined prostate cancer)における予後マーカーとしての、Shc比試験の予備的評価。
初期ステージ前立腺癌を有する22名の以前未治療の患者から保管された原発腫瘍標本を、次に分析した。近接する(Vicinal)腫瘍含有切片を、PY-Shcおよびp66 Shcに関して免疫染色し、評点をつけ(患者アイデンティティー、臨床特性および転帰に関してブラインドされる)、>0.6のPY-Shcのp66-Shcに対する比率を有するもの(高Shc比)と、<=0.6のPY-Shcのp66-Shcに対する比率を有するもの(低Shc比)とに2分した(図7における例を参照されたい)(乳癌で成功裏に使用された同じShc比カットオフ)。22患者のうち6患者は、再発性疾患(recurrent disease)を経験した:全6患者は、高Shc比を有していた。低Shc比を有する8患者は、再発性疾患を経験しなかった(図8を参照されたい)。乳癌(breast cancer)に関して、Nelson-Aalen累積危険関数は、高Shc比患者のほぼ全ての14患者で最終的な疾患の再発と矛盾しない。この非常に小さい予備的なグループにおいてさえも、二分化された(dichotomized)Shc比は、Cox比例ハザード分析で有意な予後値を有していた(P=0.03)。Fisher's Exact(両側)検定は、p=0.05で統計的な有意性を推定した。小さいサイズのグループにもかかわらず、これらの予備的なデータの臨床的な有意性および意味(implication)は著しいものである(striking)。再発疾患(recurring disease)を有する患者には、1例の1AJCCステージ1(Gleason 6)、1例の1AJCC ステージ1(Gleason 8)、および4例のAJCCステージ2疾患(5, 6, 6, および 7のGleason評点)が含まれていた。追跡の平均は、非再発患者に関して5.8年であった(この際の再発患者での疾患再発に対する平均時間は4.2年)。これらのデータは、遺伝子発現プロファイリングを前立腺癌の予後指標として用いた最近の予備的な報告(72)と好都合に比較される(特に前記報告に進行ステージおよび高Gleason評点を有する患者が含まれることを考慮して)。
【0045】
概要(Synopsis)
要約すると、上記で記載し、詳細に説明した全ての実験的な証拠は、乳癌および前立腺癌でのShcタンパク質の関与を意味づける(implicate)ものである。Shcタンパク質が臨床的な乳癌および前立腺癌に非常に強い予後的な能力を有しているとの我々の新規発見と考え合わせると;PY-Shcおよびp66 Shcは、広く有用な分子機構に基いた治療標的に関する基準を満たす。予定外のPTK活性化が多くの増殖性疾患で発生することから、次の事項が期待される、その事項とは、Shcタンパク質のターゲティングが、乳癌および前立腺癌においてのみならず、多くの他の癌及び増殖性疾患(例えば、乾癬)でも有用であろうことである。
【0046】
p46, p52, および p66 Shc A タンパク質の機能的構造。
p46およびp52 Shcタンパク質は、それぞれ約 46 kDa および 52 kDaである。彼らは、N末端のホスホチロシン結合ドメイン(PTB)、中心のCH1ドメインおよびC末端のSH2ドメイン(図9に、N末端に付加されたグルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合タグと共に示される)から構成される。p46 Shc(p52 Shc mRNA上の別の翻訳開始部位から合成される)は、p52 ShcS[29]がリン酸化される際にPEST PTPaseと相互作用する短いN末端配列を欠いている(28)。また、本領域は、特異的なチロシンリン酸化モチーフに対するPTPドメインの親和性を著明に増加させるように思われる(29)。PTBドメインは、数例を挙げると、EGFレセプター、Her2/ErbB2、インシュリンレセプター、ポリオーマミドルT抗原(polyoma middle T antigen)における特定のホスホチロシル残基に結合することができる。また、PTBドメインは、プレクストリンと相同的な親油性領域(lipophilic region)を含有し、Shcの亜集団を細胞膜へと局在化させることを援助するよう機能すると思われる。SH2ドメインは、PTBドメインと異なるホスホチロシルモチーフを認識する(図9を参照されたい)。Shc SH2ドメインは、EGFレセプター、PDGFレセプター、および他の細胞タンパク質上の他の特定のホスホチロシル残基に結合する。CH1ドメインは、Y [239] Y [240] および Y [317] チロシンリン酸化部位を含有する。Y[239]、Y[240]部位は非レセプターSrcファミリーのPTKsによって優先的にリン酸化されるが、Y[317]はレセプター-型PTKsによって優先的に標的とされるように思われる。Y[239]および Y[240]部位の双方はGrb2との高親和性ドッキング部位として機能するが、少なくとも幾つかの系でY[239]部位はErksではなくMycにシグナルを送ると思われる。Y[317]は、PI3キナーゼへのシグナル伝達においてGrb-2-Gab2 複合体と相互作用すると報告されている。また、CH1ドメインも、PxxPモチーフ(a.a. 301-307)を含有しており、これはSH3タンパク質ドメインと特徴的(characteristica
lly)に相互作用する。CH1ドメイン中の本モチーフは、なかでもSrcファミリーのPTKs、PLC、rasGAPおよびEPS8のSH3ドメインと結合すると報告されている。また、Shcタンパク質は、生存シグナルを供給し、Bcl-2をアップレギュレートすることができる。また、Shcは、細胞外基質および細胞骨格との細胞相互作用に重要な役割を担っており、接着斑キナーゼ(FAK;focal-adhesion kinase)、インテグリンおよびCEA-CAMと相互作用する。p66 Shc mRNA転写は、代替のプロモーター(alternative promoter)により駆動される。また、p52およびp46翻訳開始部位をコード化することにくわえ、p66 mRNAはCH2と命名された付加的な110アミノ酸N末端ドメインをコード化する(図9)。p52およびp46は相対的に不変量(invariant amounts)で発現されるが、p66 Shc発現は造血系統の多くの細胞で及び浸潤性の乳癌および前立腺癌(上記で詳細に記載)で、および同様に他の癌でダウンレギュレートされているようにみえる。p66 Shcのダウンレギュレートした発現は、66 Shcの独特のプロモーターのハイパーメチレーション(hypermethylation)に部分的によるものであると思われる。CH2ドメイン中のセリン[36]はMEK活性化に応答してリン酸化され、これによってGrb2と非増殖性の様式(少なくともRas活性化に関して)で複合体化し、酸化ストレスに応答して非MEK依存的な様式でリン酸化もされる。結果として、Akt/PKBが活性化され、次にForkhead転写制御因子をリン酸化し、それが核に進入することを阻止する。この特定のForkhead転写制御因子は、カタラーゼmRNA産生を別に刺激し、細胞のカタラーゼをアップレギュレートし、これは次に反応性の過酸化水素種と反応するだろう。従って、p66 Shcは、酸化ストレスに反応する本保護的応答をブロックし、これによってアポトーシス感作物質(apoptotic sensitizer)として作用する。
【0047】
例2:付加的な態様
増殖性のアッセイ
本発明の方法の一態様は、Shc A タンパク質の機能または細胞レベルを変更させる能力に基づいて、抗増殖薬剤を同定する。本方法の1バージョン(one version)において、候補薬剤は、組織培養において1以上の指標細胞株と、前記薬剤が前記細胞に作用すること及びShc機能を変更することを認容するのに十分な時間で接触させられる;この細胞株には、SKBR3, BT474, MDA-MB-453, MDA-MB-468, MDA-MB-361, ZR-75-1, T47-D, および MCF-7として知られる乳癌細胞株を含み得るが、これらに限定されない。Shcの機能およびレベルの変更は、当業者に知られる任意の幾つかの方法によって検出および定量することができる。これらの方法には、以下の方法が含まれるが、これらに限定されない:
【0048】
(a)Shc A タンパク質中のリン酸化チロシン239、240、および/または317のレベルが、下記の事項によって半定量的に決定することができること、つまり:
【0049】
(a)(i)細胞をホルマリン中で固定し、固定された細胞を、それぞれPY[239]-Shc、PY[240]-Shc、PY[239, 240]-ShcおよびPY[317]-Shcに特異的な抗体と反応させ、次に非結合抗体を洗浄し、結合抗体を当業者に知られた任意の幾つかの方法を用いて検出する、このような方法は我々の印刷中の文献(28)に記載にされており、直接的、間接的な抗体システムを用いて、1以上の検出コンポーネントが、放射線トレーサー又はフルオロフォア、又はアルカリフォスファターゼ又はホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素で標識される;ここで、結合したアルカリフォスファターゼ又はホースラディッシュペルオキシダーゼの存在が、沈殿する又は可溶性の色素生産性(chromogenic)または蛍光生産性(fluorogenic)の基質によって、直接的に又はチラミドに基づくシステムなどの増幅システムによる何れかで検出される。結合した放射性ラベルの存在は、当業者に既知の幾つかの手段によって検出および定量することができる;可溶性の発色団は、分光光度法で定量することができる;可溶性の蛍光団は、蛍光光度計で定量することができる;沈殿させた発色団および蛍光団は、それぞれ光学および蛍光顕微鏡を用いて検出および半定量することができる。
【0050】
(a)(ii)細胞を、Laemmliサンプル緩衝剤などの界面活性剤カクテル中で抽出し、抽出されたタンパク質を還元性のSDS PAGEで分離し、分離されたタンパク質をニトロセルロースフィルターなどの支持性のマトリックスへと直接的に転写し、次にPY-Shcタンパク質の存在を前記フィルターに、上述のPY-Shc特異的抗体の各々(組合わせ又は別々に)でプローブすることによって検出し、結合した抗体の量を放射ラベル又はアルカリホスファターゼ又はホースラディッシュペルオキシダーゼ結合体を用いて定量し、結合した抗体を当業者に既知の技術(ケミルミネッセンスを含む)によって定量する。
【0051】
(a)(iii)細胞を、界面活性剤緩衝剤カクテルであって、1% Triton X-100、キナーゼのインヒビター、ホスファターゼ、およびリン酸またはTrisなどの若干塩基性の緩衝剤(pH7.4付近で)を含有しているカクテル(57を参照されたい)で、または界面活性剤緩衝剤カクテルであって、0.1% SDSおよび0.5%デオキシコール酸ナトリウムなどの強い界面活性剤を含有しているカクテルで抽出し;次に、Shcタンパク質を、上述のPY-Shcに特異的な抗体、PYに対する抗体、又はShcタンパク質構造に対する抗体を用いて免疫沈降し;次に、免疫沈降させたタンパク質をSDS PAGE上で分離し、分離したタンパク質をフィルターに転写し、次に必要に応じてPY、PY-Shc、又はShcタンパク質構造に対する抗体でプローブ(probing)し、上記の(a)(ii)に記載のように検出する。
【0052】
(a)(iv)細胞を(a)(iii)でのように抽出する、但し、固相に共有結合で連結させた抗Shcタンパク質または抗PY-Shcの何れかによるサンドイッチタイプのELISAを用いてPY-Shcを定量する、抽出物を固相と接触させ、次に相補的な抗体(それぞれ抗PY-Shcまたは抗Shcタンパク質)でプローブし、次に結合したプローブ抗体を(a)(ii)でのように定量する、但し、固相およびプローブ抗体(probing antibody)は別々に検出可能なように十分に異なっている(例えば、マウスおよびウサギ)か、又はプローブ抗体は検出酵素で又はビオチンで又は適切な抗体、他のタンパク質、又は試薬で特異的に認識することができる別の類似する部分(moiety)で直接的にタグを付されている必要がある。
【0053】
(b)Shcタンパク質のレベルは、(a)に記載のアッセイに相似するアッセイを用いて、抗Shcタンパク質(全てのShc Aアイソフォーム、例えば、前記アイソフォームの全てによって共有されるドメイン又は領域に対する;又はCH2ドメインにユニークなエピトープのみに反応性の抗体、これはp66 Shc Aに対してユニークである)を用いて定量することができる。
【0054】
(c)p66 ShcS[36P]のレベルは、パラグラフ1.1に記載されたPY-Shcのアッセイと相似(analogously)のp66 ShcS[36P]特異的抗体を用いて定量することができる。
【0055】
結合アッセイ
本発明の方法の別の態様は、次の事項に干渉する能力に基づいて抗増殖薬剤を同定する;その事項とは、Shc Aタンパク質またはPY- She Aタンパク質またはp66 ShcS[36P]タンパク質又はそれらのコンポーネントドメインまたはポリペプチド領域又はその合成のアナログと、レセプターPTKs、非-レセプターPTKs、PTPases、または下流の細胞エフェクタータンパク質との直接的または間接的な結合であり、これらの各々は本出願の背景に記載され、これにはPTP-PEST、SHIP-1、SHIP-2、Cbl、SHP2、Grb2、EPS8、PLC、ポリオーマミドルT抗原、アダプチン(adaptins)、F-アクチン、接着斑キナーゼキナーゼ、インテグリン、CEA-CAM、E-カドヘリン、Gab2、ホスファチジルイノシトール3'キナーゼ、PTEN、PP2A、低比重リポタンパク質-1、アミロイド前駆体タンパク質、SOS、およびその他のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
(d)係るアッセイは、組換え型の又は合成のタンパク質又はその断片を用いて、インビトロ(細胞の外側)で実施される、ここで1コンポーネント(例えば、Shc SH2ドメインと相互作用するPY-ペプチド、又はShc PTBドメインと相互作用する別のPY-ペプチド)は、固体マトリックス(例えば、 ELISAプレートに物理的に吸着させた又はセファロースビーズまたは磁性粒子に共有結合性に連結させたもの)上に固定化され、残りの非特異的な吸着部位を1%ウシ血清アルブミンをPBS中に含有する溶液などのタンパク質溶液を用いてブロックし、次にShc rPTB又はrSH2ドメインを有する薬剤の混合物を添加する。これを約1hrの適切な時間で反応させた後、非結合のPTBまたはSH2ドメインが洗浄除去され、結合したPTBまたはSH2ドメインは、以下の何れかで定量される、即ち:
i)タグを導入し(例えば、FLAGをrSH2またはrPTBドメインに)、抗FLAGおよび(a)に記載のものと相似する適切な読取システム(readout system)で検出する;
ii)rPTBまたはrSH2ドメインを、放射ラベルまたは他の検出可能なタグ(例えば、ビオチン)で内因性(intrinsically)または外因性(extrinsically)にラベルする;
iii)Shc SH2ドメインまたはShc PTBドメインに特異的な抗体と反応させ、次に(a)と相似的に結合抗体を定量する。
PTBおよびSH2ドメインは、例としてのみ使用される:相似するアッセイは、Shcの相互作用領域または全体のShc分子の各々と、p46、p52、又はp66 Shcと相互作用する細胞タンパク質(又はその領域又はドメイン又は合成アナログ)の各々とに関して設計することができる。
【0057】
(e)係るアッセイは、生細胞の内側で、組換え型又は合成タンパク質又はその断片と、操作されて(manipulated)又は遺伝的に設計されて(genetically engineered)又は何も処置されずに、1以上の活性なPTKsまたはPTPasesを有する細胞と、操作されて又は遺伝的に設計されて、検査されるコンポーネントの結合を検知(sensing)する能力を有するレポーターシステムを含有する細胞とを用いて実施される。
【0058】
(e)(i)細胞が、例えば、ShcのrSH2と及びShc rSH2によって認識される自己リン酸化チロシンドッキング部位を保持している活性化されたPTKと接着するFRET適合性部分を含有する(e)のようなアッセイ。
【0059】
(e)(ii)酵母「二重ハイブリッド(two-hybrid)」細胞が遺伝的に設計されて、「ベイト(bait)」としてrSH2及び「プレイ(prey)」としてShc rSH2によって認識される自己リン酸化チロシンドッキング部位を保持している構成的に活性化されたPTKの双方を含有し、Shc rSH2およびPY-PTK複合体の効果的な破壊者(disrupters)が酵母の成長を阻害するであろう、(e)のようなアッセイ。
【0060】
療法学(Therapeutics)
本発明の別の態様は、任意のShc A アイソフォームの機能または細胞量(cellular amounts)を変更させる薬剤、或いは上記の前記態様にリストされたような乳癌、前立腺癌、他の癌を有している患者の治療のための、薬剤、その化学的誘導体(chemical derivatives)、又はその合成アナログの使用に関する。
【0061】
投与される薬剤が適切な薬学的特性に関して修飾され、送達促進薬剤と組合わせられる処置。例えば、第一に細胞内標的を有する薬剤は、化学的に修飾して、彼らを細胞膜を通過するように親油性(lipophilic)にする必要があるだろう。或いは、彼らは、リポソームに導入されて、薬剤が細胞膜を横切って輸送されることを促進しえる。
【参考文献】
【0062】










【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、p66 Shcの強制的な再発現がソフトアガーでのコロニー形成を阻害することを示す。乳癌細胞株(SKBR-3およびMDA-453)は、p66-Shc発現プラスミドでトランスフェクトされた。また、各々の複数の安定クローンは、抗生物質選択によって取得された。各々の幾つかのクローンは、彼らのソフトアガーでコロニー形成する能力に関して検査された。親のSKBR-3およびMDA-MB-453細胞および空ベクタークローンは、強健で大きなコロニーを形成し、他方でp66-Shcを再発現しているSKBR-3またはMDA-453細胞のコロニーは、微小コロニーを形成したか又は全く成長できなかった。代表的な親の453およびp66-クローンは、本明細書中に示される。
【図2】図2は、回帰および生存をp66レベルおよびアジュバント治療の相関(function)として示す。患者の原発性腫瘍におけるp66 Shcレベルの散乱ヒストグラム(Scatter histogram)を、最後の追跡でのバイタル(vital)および疾患の状態の相関として示す。患者の初期の治療は、なされていないか(左のパネル)又はなされていた(右のパネル)、これには全身性のアジュバントが含まれる。
【図3】図3は、安定的にトランスフェクションされたPC-3クローンにおける、野生型のp52 Shc-Gst融合タンパク質またはドミナントネガティブ突然変異体p52 ShcY317F-Gst融合タンパク質の構成的な発現を示す。phosphoチロシン免疫ブロットのチロシンリン酸化の阻害は顕著であるが(上部パネル)、同等のトータルタンパク質がトータルRaShc免疫ブロットに存在している(下部パネル)。
【図4】図4は、ドミナントネガティブShcがSCIDベージュマウスにおける腫瘍形成性PC-3クローンを阻害することを示す。8週齡の雄性SCID-ベージュマウスは、PC-3/wtShc、PC-3/dnShc、またはpEBGベクターを保持しているPC-3の何れかを右側後腹部(right rear flanks)の皮下に移植された(107細胞/マウス)。腫瘍成長を、外部のキャリパー測定でモニターした(n=4 マウス/群;Bars,SEM)。
【図5】図5は、PY-Shcおよびp66 Shcの免疫組織化学染色強度を定量するための評点システム(Scoring system)を示す。
【図6】図6は、表2にリストされる前立腺癌標本の免疫組織化学的な染色を示す。切片を、phospho-Shc特異的抗体(抗-PY Shc)またはphospho-Erk特異的抗体(抗-phospho-Erk)で染色し、ヘマトキシリンで対比染色した。PY-Shcおよびphospho-Erk評点が、患者#4で非常に高いことが注目される。しかしながら、我々の仮説と一致して、患者#5でPY-Shc評点は中等度に高く、phospho-Erk評点はゼロである。
【図7】図7は、低Shc比、非再発前立腺腫瘍(Non-recurring Prostate Tumor)における、および高Shc比、再発腫瘍における、PY-Shcおよびp66 Shcの免疫組織化学染色を示す。
【図8】図8は、Shc比アッセイが、早期ステージ前立腺癌患者を、再発性疾患の高リスク患者とリスクなし患者とに効果的に二分化することを示す。
【図9】図9は、hGST-Shc A(p52)およびhShc A(p66)のマップ(Maps)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖性障害を患う被験者を治療するための方法であって、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤を投与することを備える方法。
【請求項2】
増殖性障害を患う被験者を治療するための方法であって、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤を投与することを備える方法。
【請求項3】
増殖性障害を患う被験者を治療するための方法であって、前記被験者に治療上効果的な量の、前記被験者におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤を投与することを備える方法。
【請求項4】
細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害するための方法であって、前記細胞に、前記細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤を送達することを備える方法。
【請求項5】
細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害するための方法であって、前記細胞に、前記細胞におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤を送達することを備える方法。
【請求項6】
細胞におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させるための方法であって、前記細胞に、前記細胞におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤を送達することを備える方法。
【請求項7】
請求項1または4に記載の方法であって、前記薬剤はsiRNA、リボザイム、またはDNAzymeからなる群から選択される方法。
【請求項8】
請求項3または6に記載の方法であって、前記薬剤は、被験者におけるリン酸化p66 ShcのSer36残基の脱リン酸化を特異的に阻害する方法。
【請求項9】
請求項3または6に記載の方法であって、前記薬剤はp66 Shcコード化発現ベクターである方法。
【請求項10】
請求項1、2、または3に記載の方法であって、前記被験者がヒトである方法。
【請求項11】
請求項1、2、または3に記載の方法であって、前記増殖性疾患は、前立腺癌、卵巣癌、または乳癌である方法。
【請求項12】
請求項4、5、または6に記載の方法であって、前記細胞は前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、または乳癌細胞である方法。
【請求項13】
薬剤がp46 Shcまたはp52 Shcのリン酸化を阻害するかどうかを決定するための方法であって:
(a)p46 Shcまたはp52 Shcを、前記薬剤の非存在下でそのリン酸化を許容するだろう条件下で前記薬剤と接触させることと;
(b)前記p46 Shcまたはp52 Shcがリン酸化される程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定したリン酸化の程度と前記薬剤の非存在下で測定したリン酸化の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下でのリン酸化の程度がより大きいことが、前記薬剤がp46またはp52 Shcのリン酸化を阻害することを示す方法。
【請求項14】
薬剤がp66 Shcの脱リン酸化を阻害するかどうかを決定するための方法であって:
(a)リン酸化p66 Shcを、前記薬剤の非存在下でその脱リン酸化を許容するだろう条件下で前記薬剤と接触させることと;
(b)p66 Shcが脱リン酸化される程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定した脱リン酸化の程度と前記薬剤の非存在下で測定した脱リン酸化の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下での脱リン酸化の程度がより大きいことが、前記薬剤がp66 Shcの脱リン酸化を阻害することを示す方法。
【請求項15】
薬剤が、Shc Aタンパク質と前記Shc Aタンパク質が細胞中でその増殖機能を実行するために結合しなければならないタンパク質との結合を阻害するかどうかを決定するための方法であって:
(a)Shc Aタンパク質が結合するタンパク質又はそのShc A-結合部分(i)とShc A又はその適切な部分(ii)とを、前記薬剤の非存在下で結合を認容する条件下で前記薬剤を存在させて、接触させることと;
(b)結合の程度を決定することと;および
(c)工程(b)で測定した結合の程度と前記薬剤の非存在下で測定した結合の程度とを比較することとを備え、
前記薬剤の非存在下での結合の程度がより大きいことが、前記薬剤が前記Shc A タンパク質とそれが細胞中で結合しなければならないタンパク質との間の結合を阻害することを示す方法。
【請求項16】
(a)被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの発現を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング物質と;(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルとを具備する製品。
【請求項17】
(a)被験者におけるp46 Shcおよび/またはp52 Shcの活性を阻害する薬剤をその中に有するパッケージング物質と;(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルとを具備する製品。
【請求項18】
(a)被験者におけるリン酸化p66 Shcのレベルを増加させる薬剤をその中に有するパッケージング物質と;(b)被験者における増殖性障害の治療に前記薬剤を使用することを示しているラベルとを具備する製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2007−511471(P2007−511471A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535413(P2006−535413)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/034430
【国際公開番号】WO2005/038005
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(504332366)
【Fターム(参考)】