説明

壁体構造

【課題】杭部材と矢板壁とを備える壁体構造における杭部材に取り付ける杭継手の固着位置について、矢板壁から作用する本体管の外周面の接線に対して水平方向に働くせん断力のみに対抗できれば十分となるように設計することを可能とする。
【解決手段】本体鋼管10と本体鋼管10の外周面10aに固着された杭継手11とを有し、地盤に打設された鋼管矢板15と、地盤に壁状に打設された少なくとも1枚以上の鋼矢板20を有し、その壁幅方向端部の矢板継手21aが鋼管矢板15の杭継手11に連結された鋼矢板壁25とを備え、鋼管矢板15と鋼矢板壁25とは、本体鋼管10に対する杭継手11の固着位置を通る本体鋼管10の外周面10aの接線と、その壁幅方向端部の矢板継手21aを先端部に有する鋼矢板20のフランジ部21とが略平行となるように連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野において構造部材として用いられる壁体構造に係り、特に、護岸壁として用いられるのに好適な杭部材と矢板壁とを備える壁体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、杭部材と矢板壁とを備える壁体構造は、港湾、河川の護岸壁や、道路擁壁とすることを目的として用いられ、主に護岸壁としては、鋼製の壁体構造を用いることが一般的である。この壁体構造は、間隔を空けて地盤に打設された複数の杭部材と、これらの杭部材を連結するようにして地盤に打設された矢板壁とを備える。
【0003】
杭部材は、略円形断面の本体鋼管と、その本体鋼管の外周面に溶接によって固着された杭継手とを有する鋼管矢板を用いることがある。また、矢板壁は、ハット形断面、Z字形断面、U字形断面等の鋼矢板を有する鋼矢板壁を用いることが一般的である。ここで、ハット形断面の鋼矢板とは、ウェブ部の両端に一対のフランジ部が設けられ、さらに、そのフランジ部の一端にアーム部が設けられるとともに、そのアーム部の先端に矢板継手が設けられたものをいう。また、Z字形断面の鋼矢板とは、ハット形断面の鋼矢板の片方のフランジ部に相当する部分の一端に、同じくハット形断面の鋼矢板のアーム部に相当する部分が設けられるとともに、他端にハット形断面の鋼矢板のウェブ部に相当する部分の略半分の幅となるウェブ部が設けられ、そのアーム部及びウェブ部の先端に矢板継手が設けられたものをいう。また、U字形断面の鋼矢板とは、ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部の先端に矢板継手が設けられたものをいう。
【0004】
経済性を考慮して壁体構造を構築する場合は、鋼管矢板よりも鋼矢板の方が安価に打設することができるため、隣り合う鋼管矢板の間隔を大きく空けて地盤に打設される。鋼矢板壁は、それら隣り合う鋼管矢板を複数の鋼矢板で連結するように地盤に打設される。このとき、鋼矢板壁よりも剛性の高い鋼管矢板が地盤の土圧に対抗することとなり、剛性の低い鋼矢板壁は、専ら土砂の流出を防止するための膜構造として機能することとなる。また、鋼管矢板の本体鋼管が小口径である場合は、鋼管矢板と鋼矢板との剛性差が小さくなり、鋼管矢板よりも剛性の低い鋼矢板壁も土圧に対抗する構造として機能することとなる。
【0005】
このような壁体構造としては、例えば、非特許文献1に開示される構造が提案されている。図9に示すように、非特許文献1に開示される壁体構造70は、複数の鋼管矢板85が有する杭継手81に、U字形断面の鋼矢板90の、矢板継手91aを連結することにより構築される。図10に示すように、非特許文献1に開示される鋼管矢板85は、複数の鋼管矢板85の中立軸との同一線上に杭継手81が設けられる。
【0006】
非特許文献1に開示される壁体構造70は、護岸壁として用いる場合、図11に示すように土圧が作用することとなる。このとき、図11に示すX部分を拡大した図12に示すように、鋼矢板90に作用する土圧は、杭継手81に連結する矢板継手91aを有するフランジ部91を介して、引張力Aとして矢板継手91aから杭継手81に作用する。
【0007】
図12に示すように、杭継手81は、鋼管の外周面80aに溶接によって固着され、この溶接は、隅肉溶接を用いることが一般的である。また、引張力Aは、杭継手81の固着位置を通る外周面80aの接線に対して、垂直方向に働く引張分力a1と水平方向に働くせん断分力a2の合力として捉えることができる。したがって、この溶接部分82は、この引張分力a1及びせん断分力a2に対抗することができるように設計される必要がある。
【0008】
また、杭部材と矢板壁とを備える構造体としては、例えば、特許文献1に開示される構造体が提案されている。特許文献1に開示される構造体は、複数の鋼管矢板を、ウェブ部の両端に一対のフランジ部が設けられ、さらに、そのフランジ部の一端にアーム部が設けられるとともに、そのアーム部の先端に矢板継手が設けられたハット形断面の複数の鋼矢板で連結するものである。
【0009】
特許文献1に開示される構造体は、基礎構造体として用いられることを前提とし、杭継手の固着位置を通る外周面の接線に対して、杭継手に連結された矢板継手を先端に有するアーム部が略平行となるように、杭部材と矢板壁とが連結される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ArcelorMittal (Intermediary sheet piles:triple PU18)<URL:http://www.arcelormittal.com/sheetpiling/page/index/name/tubular-piles>
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−303099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、一般的に隅肉溶接は、日本道路協会が発行する道路橋示方書・同解説(鋼橋編)にも示されるように、水平に働くせん断力に対する耐力のみが想定されており、垂直に働く引張力に対する耐力が想定されていないのが現状である。
【0013】
したがって、非特許文献1に開示される壁体構造70は、隅肉溶接によって設けられた溶接部分82について、引張力が作用した場合に溶接部分での応力伝達が不明瞭であり、この引張分力a1に対抗するために必要となるのど厚等を適切に設計することができないという問題点があった。
【0014】
このため、図11に示す土圧が大きくなったり、壁体方向で隣り合う本管の距離が長くなり矢板壁で一旦受ける土圧荷重が大きくなったりすることで、引張力Aが大きくなり、これに伴って引張分力a1が大きくなった場合、この引張分力a1は、溶接部分82において設計上期待することのできない事実上の引張耐力を卓越し、溶接部分82が引張破壊することとなる。このとき、矢板継手91aを連結させた状態で杭継手81が外周面80aから分離することとなり、図9に示す壁体構造70は、常に崩壊する危険性を有することとなるという問題点があった。
【0015】
また、特許文献1に開示される矢板壁は、鋼矢板のウェブ部とアーム部とが略平行となるハット形断面の鋼矢板を有する。このため、特許文献1に開示される構造体は、断面が多角形となる基礎構造を形成する鋼管の外周最外縁で接続する必要があり、壁体に適用した場合に壁体の壁厚が大きくなり、前面側又は背面側の地盤にスペース制約があるときは適用することができない。また、特許文献1に開示される構造体は、護岸壁として用いた場合に、上述した接線とアーム部とを略平行とするためには、水際線となる法線に沿って鋼矢板を打設することが必要となる。したがって、特許文献1に開示される構造体は、護岸壁として用いた場合に、杭継手の固着位置が図11に示す法線上となり、鋼矢板壁を法線の内側に収めることが困難となるという問題点があった。
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、特に、鋼管矢板と鋼矢板壁とを備える壁体構造において、溶接部分が引張破壊することによって杭継手が本体管の外周面から分離することを防止し、崩壊の危険性を確実に取り除くことを可能とした、設計の信頼性が高い壁体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の壁体構造を発明した。
【0018】
第1発明に係る壁体構造は、本体管と、前記本体管の外周面に固着された杭継手とを有し、地盤に打設された杭部材と、地盤に壁状に打設された少なくとも1枚以上の矢板を有し、その壁幅方向端部の矢板継手が前記杭部材の杭継手に連結された矢板壁とを備え、前記杭部材と前記矢板壁とは、前記本体管に対する前記杭継手の固着位置を通る当該本体管の外周面の接線と、前記壁幅方向端部の矢板継手を先端部に有する前記矢板のフランジ部とが略平行となるように連結されていることを特徴とする。
【0019】
第2発明に係る壁体構造は、第1発明において、前記矢板壁は、互いの矢板継手を介して連結された状態で地盤に壁状に打設された複数の矢板を有することを特徴とする。
【0020】
第3発明に係る壁体構造は、第1発明又は第2発明において、前記杭部材は、互いに間隔を空けて地盤に複数打設され、前記矢板壁は、その壁幅方向両端部の矢板継手が互いに隣り合う前記複数の杭部材の杭継手に連結されていることを特徴とする。
【0021】
第4発明に係る壁体構造は、第1発明〜第3発明の何れか1つの発明において、前記杭継手は、前記本体管の断面における中心点と前記杭継手の固着位置とを結ぶ直線と、前記本体管の中立軸と一致する中立軸線との平面視でなす角度が、前記中立軸線と前記外周面との前記矢板壁が打設される側における交点を基準として、0°より大きく、90°より小さくなるように、前記本体管の外周面に固着されることを特徴とする。
【0022】
第5発明に係る壁体構造は、第1発明〜第4発明の何れか1つの発明において、前記本体管は、断面略円形状の鋼管であり、前記矢板は、ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部の先端に矢板継手が設けられた断面略U字形の鋼矢板であることを特徴とする。
【0023】
第6発明に関わる壁体構造は、第1発明〜第5発明の何れか1つの発明において、前記杭継手は、溶接によって前記本体管の外周面に固着されることを特徴とする。
【0024】
第7発明に係る壁体構造は、第1発明〜第6発明の何れか1つの発明において、前記杭継手は、前記本体管の中立軸に対して、前記本体管の裏込めされた地盤がある背面側に固着されることを特徴とする。
【0025】
第8発明に係る壁体構造は、第1発明〜第6発明の何れか1つの発明において、前記杭継手は、前記本体管の裏込めされた地盤よりも、前記本体管の中立軸を介して前面側に固着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
第1発明〜第3発明によれば、本発明を適用した壁体構造は、杭継手の固着位置において、本体管の外周面の接線に対して垂直方向に働く引張力がほとんど作用しないため、この接線に対して水平方向に働くせん断力のみに対抗することができるように、適切な設計を行うことが可能となり、設計の信頼性を向上させることが可能となる。
【0027】
特に、第4発明によれば、本発明を適用した壁体構造は、第1発明〜第3発明の効果に加えて、壁体方向に沿って隣り合う本管の壁厚方向外周面よりも内側に矢板壁を配置することができるため、壁厚のスペース制約がある場合でも適用することが可能となる。
【0028】
さらに、第5、第6発明によれば、本発明を適用した壁体構造は、第1発明〜第4発明の効果に加えて、適切な設計を行うことが可能となることで、適切な溶接量を設定することが可能となり、無駄に多くの溶接を行い、材料費や加工手間が増えたり、過度に溶接して本管本体の熱変形を引き起こしたりすることを防止することが可能となる。
【0029】
第7発明によれば、本発明を適用した壁体構造は、第1発明〜第6発明の効果に加えて、矢板が地盤側に打設されるため、水際線となる法線との同一直線上で、隣り合う本体管の外周面を通る接線によって形成される基準面の内側に矢板壁を収めることが可能となり、水際線となる法線を適切に確保して護岸壁を構築することが可能となる。
【0030】
第8発明によれば、本発明を適用した壁体構造は、第1発明〜第6発明の効果に加えて、矢板継手が杭継手に押し込まれるため、矢板継手がC形状断面の杭継手のスリットから離脱してしまうことを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】護岸壁として用いられる本発明を適用した壁体構造の側面図である。
【図2】本発明を適用した壁体構造の斜視図である。
【図3】本発明を適用した壁体構造の平面図である。
【図4】本発明を適用した壁体構造に対する土圧の作用方向を示す平面図である。
【図5】本発明を適用した壁体構造の拡大平面図である。
【図6】本発明を適用した壁体構造の他の実施形態の平面図である。
【図7】本発明を適用した壁体構造の他の実施形態に対する土圧の作用方向を示す平面図である。
【図8】本発明を適用した壁体構造の他の実施形態の拡大平面図である。
【図9】非特許文献1に開示された壁体構造の斜視図である。
【図10】非特許文献1に開示された壁体構造の平面図である。
【図11】非特許文献1に開示された壁体構造に対する土圧の作用方向を示す平面図である。
【図12】非特許文献1に開示された壁体構造の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を適用した壁体構造について、図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図1に示すように、本発明を適用した壁体構造1は、地盤と海又は河川との境界に護岸壁として打設されることが多い。図2に示すように、本発明を適用した壁体構造1は、地盤に打設された杭部材としての鋼管矢板15と、地盤に打設された矢板壁としての鋼矢板壁25とを備える。
【0034】
鋼管矢板15は、本体管として略円形断面の本体鋼管10と、本体鋼管10の外周面10aに隅肉溶接によって固着されたC形状断面の杭継手11とを有する。本体鋼管10の背面側には、図1に示すように裏込め地盤がある。杭継手11は、本体鋼管10の外周面10aに隅肉溶接によって固着する際に、本体鋼管10が熱によって変形することを防ぐため、隅肉溶接の入熱量をできるだけ少なくすることが望ましく、1パスで隅肉溶接されることが望ましい。
【0035】
鋼管矢板15は、本体鋼管10の代わりに、コンクリート製等の杭を用いてもよい。また、杭継手11は、C形状断面のものに限られず、矢板継手21aと連結することができれば、如何なる形状の断面であってもよい。杭継手11の固着方法は、隅肉溶接に限られない。
【0036】
鋼矢板壁25は、複数の鋼矢板20を有し、隣接する鋼矢板20の矢板継手21aを互いに連結した状態で地盤に打設される。鋼矢板20は、ウェブ部22とフランジ部21とによってU字形断面をなしており、ウェブ部22の両端に設けられた一対のフランジ部21の先端に矢板継手21aを有する。
【0037】
図3に示すように、鋼管矢板15に連結される鋼矢板20は、その一方の矢板継手21aを、本体鋼管10の上方から杭継手11にスライドさせつつ地盤に打設される。また、鋼管矢板15に連結される鋼矢板20の他方の矢板継手21aには、隣接する鋼矢板20の一方の矢板継手21aが、同じく上方からスライドして連結される、
【0038】
図4は、本発明を適用した壁体構造1を護岸壁として用いた場合に、壁体構造1に対して作用する土圧の主たる方向を示す平面図である。図3に示す杭継手11は、複数の本体鋼管10によって形成される中立軸に対して、図4に示す地盤側となる背面側に固着される。
【0039】
図3に示すように、本発明において、本体鋼管10の中心点と杭継手11の固着位置とを結ぶ直線と、中立軸と一致する中立軸線とがなす角度αは、鋼矢板壁25が打設される側における中立軸線と外周面10aとの交点を基準として、0°より大きく、90°より小さくなるように、杭継手11が固着される。図5は、図4のY部分の拡大平面図である。本発明では、本体鋼管10に対する杭継手11の固着位置を通る当該本体鋼管10の外周面10aの接線は、本体鋼管10の中心点と当該固着位置とを結ぶ直線に対して直交する。杭継手11は、この接線とフランジ部21とが略平行となる位置で、本体鋼管10の外周面10aに隅肉溶接によって固着される。なお、この接線とフランジ部21とがなす角度は、例えば、±6°以内の誤差であれば、通常の鋼矢板20の許容回転角度以下であり、許容される。
【0040】
本発明を適用した壁体構造1は、この実施形態において、護岸壁として用いる場合、図4に示すように土圧が作用することとなる。このとき、図5に示すように、鋼矢板20に作用する土圧は、フランジ部21を介して、引張力Bとして矢板継手21aから杭継手11に作用する。
【0041】
図5に示すように、引張力Bは、杭継手11の固着位置を通る外周面10aの接線に対して、水平方向に働くせん断力として作用する。このため、隅肉溶接された溶接部分12は、このせん断力として作用する引張力Bのみに対抗できれば十分となるように、のど厚等の設計をすることが可能となる。
【0042】
したがって、本発明を適用した壁体構造1は、溶接部分12において、上述の接線に対して垂直方向に働く引張力がほとんど作用しない。よって、本発明を適用した壁体構造1は、図9に示す従来技術のように設計上期待することのできない事実上の引張耐力によらずに、せん断力のみに対抗することができるように溶接部分12の隅肉溶接の設計を行うことが可能となる。これにより、本発明を適用した壁体構造1は、溶接部分12が引張破壊することによって杭継手11が外周面10aから分離することを防止することができ、設計の信頼性を向上させることができることから、壁体構造1の崩壊の危険性を確実に取り除くことが可能となる。
【0043】
また、図3に示すように、本発明を適用した壁体構造1の一つの実施形態として、杭継手11は、複数の本体鋼管10によって形成される中立軸に対して、図4に示す地盤側となる背面側に固着される。このとき、鋼矢板壁25は、上述の背面側において地盤に打設された鋼矢板20を有することとなる。このため、この実施形態においては、水際線となる法線との同一直線上で、隣り合う本体鋼管10の外周面10aを通る接線によって形成される基準面の内側に鋼矢板壁25を収めることが可能となり、水際線となる法線を適切に確保して護岸壁を構築することができる。
【0044】
図6は、本発明を適用した壁体構造1について、他の実施形態を示す平面図である。図7は、この実施形態において、本発明を適用した壁体構造1を護岸壁として用いた場合に、壁体構造1に対して作用する土圧の主たる方向を示す平面図である。図6に示すように、この実施形態において、杭継手11は、複数の本体鋼管10によって形成される中立軸に対して、図7に示す海、河川側となる前面側に固着される。
【0045】
図6に示すように、この実施形態において、本体鋼管10の中心点と杭継手11の固着位置とを結ぶ直線と、中立軸と一致する中立軸線とがなす角度αは、鋼矢板壁25が打設される側における中立軸線と外周面10aとの交点を基準として、0°より大きく、90°より小さくなるように、杭継手11が固着される。図8は、図7のZ部分の拡大平面図である。本発明では、本体鋼管10に対する杭継手11の固着位置を通る当該本体鋼管10の外周面10aの接線は、本体鋼管10の中心点と当該固着位置とを結ぶ直線に対して直交する。杭継手11は、この接線とフランジ部21とが略平行となる位置で、本体鋼管10の外周面10aに隅肉溶接によって固着される。なお、この接線とフランジ部21とがなす角度は、例えば、±6°以内の誤差であれば、通常の鋼矢板20の許容回転角度以下であり、許容される。
【0046】
この実施形態において、本発明を適用した壁体構造1は、護岸壁として用いる場合、図7に示す方向から土圧が作用することとなる。このとき、図8に示すように、鋼矢板20に作用する土圧は、フランジ部21を介して、押込力Cとして矢板継手21aから杭継手11に作用する。
【0047】
図8に示すように、押込力Cは、杭継手11の固着位置を通る外周面10aの接線に対して、水平方向に働くせん断力として作用する。このため、隅肉溶接された溶接部分12は、このせん断力として作用する押込力Cに対抗できれば十分となるように、のど厚等の設計をすることが可能となる。
【0048】
したがって、この実施形態において、本発明を適用した壁体構造1は、溶接部分12において、上述の接線に対して垂直方向に働く引張力がほとんど作用しない。よって、この実施形態において、本発明を適用した壁体構造1は、図9に示す従来技術のように設計上期待することのできない事実上の引張耐力によらずに、せん断力のみに対抗することができるように溶接部分12の隅肉溶接の設計を行うことが可能となる。これにより、この実施形態において、本発明を適用した壁体構造1は、溶接部分12が引張破壊することによって杭継手11が外周面10aから分離することを防止することができ、設計の信頼性を向上させることができることから、壁体構造1の崩壊の危険性を確実に取り除くことが可能となる。
【0049】
また、この実施形態において、矢板継手21aは、押込力Cによって杭継手11に押し込まれる。このため、本発明を適用した壁体構造1は、この実施形態において、矢板継手21aがC形状断面の杭継手11のスリットから離脱してしまうことを防止することができ、壁体構造1の崩壊の危険性を確実に取り除くことが可能となる。なお、図6に示すフランジ部21は、この実施形態において、押込力Cによって座屈しないように板厚の設計がなされる。
【0050】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0051】
例えば、本発明を適用した壁体構造1は、港湾、河川の護岸壁や、道路擁壁として用いることができる。また、壁体としてだけではなく、基礎構造として用いる場合においても、同様の構成により鋼管矢板15と鋼矢板壁25とを用いることができる。
【0052】
特に、本発明を適用した壁体構造1は、1個の鋼管矢板15に複数の鋼矢板20を連結させることもできるし、鋼矢板20を1枚のみ用いて鋼矢板壁25とすることもできる。1個の鋼管矢板15に鋼矢板壁25の一端を連結させた場合、鋼管矢板15に連結されていない鋼矢板壁25の他端は、何ら拘束されない構造とすることもできるし、他の構造物の基礎に連結させる構造とすることもできる。
【0053】
なお、本発明を適用した壁体構造1は、上述した前面側又は背面側において、隣り合う本体鋼管10の外周面10aを通る接線によって形成される基準面よりも中立軸側に鋼矢板壁25を収めることが可能となるように、フランジ部21の長さ及びウェブ部22とフランジ部21とが形成する角度を設計することが望ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 :壁体構造
10 :本体鋼管
10a :外周面
11 :杭継手
12 :溶接部分
15 :鋼管矢板
20 :鋼矢板
21 :フランジ部
21a :矢板継手
22 :ウェブ部
25 :鋼矢板壁
B :引張力
C :押込力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体管と、前記本体管の外周面に固着された杭継手とを有し、地盤に打設された杭部材と、
地盤に壁状に打設された少なくとも1枚以上の矢板を有し、その壁幅方向端部の矢板継手が前記杭部材の杭継手に連結された矢板壁とを備え、
前記杭部材と前記矢板壁とは、前記本体管に対する前記杭継手の固着位置を通る当該本体管の外周面の接線と、前記壁幅方向端部の矢板継手を先端部に有する前記矢板のフランジ部とが略平行となるように連結されていること
を特徴とする壁体構造。
【請求項2】
前記矢板壁は、互いの矢板継手を介して連結された状態で地盤に壁状に打設された複数の矢板を有すること
を特徴とする請求項1に記載の壁体構造。
【請求項3】
前記杭部材は、互いに間隔を空けて地盤に複数打設され、
前記矢板壁は、その壁幅方向両端部の矢板継手が互いに隣り合う前記複数の杭部材の杭継手に連結されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の壁体構造。
【請求項4】
前記杭継手は、前記本体管の断面における中心点と前記杭継手の固着位置とを結ぶ直線と、前記本体管の中立軸と一致する中立軸線との平面視でなす角度が、前記中立軸線と前記外周面との前記矢板壁が打設される側における交点を基準として、0°より大きく、90°より小さくなるように、前記本体管の外周面に固着されること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の壁体構造。
【請求項5】
前記本体管は、断面略円形状の鋼管であり、
前記矢板は、ウェブ部の両端に設けられた一対のフランジ部の先端に矢板継手が設けられた断面略U字形の鋼矢板であること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の壁体構造。
【請求項6】
前記杭継手は、溶接によって前記本体管の外周面に固着されること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の壁体構造
【請求項7】
前記杭継手は、前記本体管の中立軸に対して、前記本体管の裏込めされた地盤がある背面側に固着されること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の壁体構造。
【請求項8】
前記杭継手は、前記本体管の裏込めされた地盤よりも、前記本体管の中立軸を介して前面側に固着されること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の壁体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112982(P2013−112982A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259414(P2011−259414)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】