説明

壁柱の支持構造及び方法

【課題】架構を構成する壁柱の面内方向の水平力に対する曲げ変形性能を確保し、壁柱に要求される保有水平耐力を低減する。
【解決手段】壁柱20の支持構造は、架構を構成する壁柱20を支持する杭48が、壁柱20の幅方向の中間部の下に設けられていることを特徴とする。壁柱20は、集合住宅10の戸境壁を構成し、さらに、戸境壁の幅方向の中央部を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架構を構成する壁柱の支持構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンション等の集合住宅として、各階の廊下とバルコニーとの間に複数の住戸を連なるように配した板状集合住宅が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。また、特許文献1、2に記載の板状集合住宅では、住戸の戸境壁を、複数階に亘る連層耐震壁とすることで、耐震性能を確保しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−013848号公報
【特許文献2】特開2005−314882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載の板状集合住宅では、連層耐震壁たる壁柱の幅方向両端の柱の直下に杭を打設している。このため、張間方向(住戸の配列方向と直交する方向)の水平力(地震力や風荷重等)が住宅に作用して、該水平力により壁柱に曲げモーメントが生じた場合、杭に引抜力または圧縮力が作用するが、杭はこの引抜力及び圧縮力に対して抵抗する。
【0005】
ここで、杭の引抜及び圧縮に対する耐力を推定することは難しいため、杭が引抜かれないケースを想定して、壁柱の破壊耐力を設定している。そして、壁柱は、その幅方向(面内方向)の水平力に対して、壁の破壊モードがせん断破壊になり易い。このため、壁柱に要求される保有水平耐力が大きくなり、壁の厚みを大きくすることを要していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、架構を構成する壁柱の面内方向の水平力に対する崩壊モードを,変形性能が高いものにすることが可能となり、壁柱に要求される保有水平耐力を低減することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る壁柱の支持構造は、架構を構成する壁柱を支持する杭が前記壁柱の幅方向の中間部の下に設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記壁柱の支持構造において、前記壁柱は、集合住宅の戸境壁を構成してもよい。
【0009】
前記壁柱の支持構造において、前記壁柱は、前記戸境壁の幅方向の一部を構成してもよい。
【0010】
また、壁柱の支持方法は、架構を構成する壁柱を支持する杭を前記壁柱の幅方向の中間部の下に設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、架構を構成する壁柱の面内方向の水平力に対する崩壊モードを,変形性能が高いものにすることが可能となり、壁柱に要求される保有水平耐力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係る板状中高層の集合住宅の架構を示す斜視図である。
【図2】集合住宅の一部の住戸の架構を拡大して示す斜視図である。
【図3】集合住宅の住戸区画(平面計画)を示す図である。
【図4】住戸の概略平面図である。
【図5】集合住宅の一部の住戸を示す透視図である。
【図6】集合住宅の最下階(1階)の区画を示す図である。
【図7】集合住宅の架構を示す伏図である。
【図8】集合住宅の基礎の伏図である。
【図9】図8の9−9線上の軸組図である。
【図10】図9の10−10線上の軸組図である。
【図11】比較例に係る壁柱の支持構造を示す図である。
【図12】本比較例における壁柱の破壊モードを示す破壊モード図である。
【図13】本実施形態における壁柱の破壊モードを示す破壊モード図である。
【図14】変形例に係る壁柱を備える住戸を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る板状中高層の集合住宅10のRC造の架構11を示す斜視図であり、図2は、集合住宅10の一部の住戸12の架構を拡大して示す斜視図である。これらの図に示すように、架構11は、集合住宅10の外周に建て込まれたRC造の柱14と、桁行方向(住戸の配列方向)に配列された柱14の間に建て込まれた梁16と、桁行方向両側の張間方向(住戸の配列方向と直交する方向)に並んだ一対の柱14の間に建て込まれた梁18と、住戸12の戸境壁の一部(張間方向の中央部)を構成する壁柱20とを備えている。柱14は、各住戸12の四隅に建て込まれ、梁16は、各住戸12の張間方向の両側に建て込まれている。また、架構11は、桁行方向に配された壁柱20の間に建て込まれた梁26と、壁柱20とその張間方向両側の柱14との間に建て込まれた梁28とを備えている。なお、梁28を設けることは必須ではない。
【0014】
また、集合住宅10の架構は、桁行方向両側にそれぞれ配された一対の壁柱30、一対の壁梁32、及び上下一対の耐震壁34、36を備えている。各壁柱30は、集合住宅10の外壁から桁行方向に突出するように構築され、一対の壁柱30は、張間方向に並べて配されている。また、各壁梁32は、集合住宅10の屋上階から上方に突出するように構築され、一対の壁梁32は、張間方向に並べて配されている。また、各壁柱30は屋上階まで延びており、その上端に壁梁32が一体化されている。また、耐震壁34は、最下階の桁行方向両側の外壁全体を構成し、耐震壁36は、最上階の桁行方向両側の外壁全体を構成している。
【0015】
図3は、集合住宅10の住戸区画(平面計画)を示す図である。この図に示すように、集合住宅10では、桁行方向に配列された複数の住戸12の張間方向の一方側に廊下13が区画され、他方側にバルコニー15が区画されている。また、各住戸12の張間方向中央部には台所やユニットバス等が設置された水廻りゾーン12Aが区画され、張間方向の両側に居室ゾーン12B、12Cが区画されている。
【0016】
ここで、各階において複数の住戸12の水廻りゾーン12Aは、桁行方向に一列に配列されており、隣設された住戸12の水廻りゾーン12Aの間に壁柱20が設けられている。即ち、複数の壁柱20は、桁行方向に一列に配列されている。また、壁柱30と、壁柱20の幅方向両端との張間方向の位置が一致している。
【0017】
図4は、住戸12の概略平面図である。この図に示すように、壁柱20は、水廻りゾーン12Aの張間方向両端にそれぞれ建て込まれたRC造の柱22と、張間方向に並んだ一対の柱22の間に設けられたRC造の耐震壁24とを備えている。また、柱22と柱14との間には、乾式遮音壁38が設けられており、隣設の住戸12の居室ゾーン12B同士、および居室ゾーン12C同士が、乾式遮音壁38により区画されている。
【0018】
ここで、壁柱20の耐震壁24は、複数階(例えば、図1に示すように、最下階から最上階まで)に亘る連層耐震壁である。これに対して、乾式遮音壁38は、各住戸12の居室ゾーン12B、12C毎に構築された、石膏ボードやグラスウール等からなる壁であり、耐震壁ではなく取り外しが可能な壁である。
【0019】
図5は、集合住宅10の一部の住戸12を示す透視図である。この図に示すように、水廻りゾーン12Aのスラブ40は、居室ゾーン12B、12Cのスラブ42よりも低く設定されており、台所や風呂等の床とスラブ40との高低差により形成される空間に、排水管等の排水設備が設置されている。ここで、桁行方向に並んだ壁柱20の柱22の間には梁26が建て込まれているが、この梁26は、スラブ40とスラブ42との段差部に設けられている。
【0020】
図6は、集合住宅10の最下階(1階)の区画を示す図である。この図に示すように、集合住宅10の最下階には、住戸12の他に、エントランス等の共用部19が設けられている。ここで、共用部19の上階には、桁行方向に並んだ三戸の住戸12が設けられており、最下階から最上階まで連続する壁柱20が、この共用部19にも存在する。一方、乾式遮音壁38は、共用部19には設けられていない。
【0021】
また、共用部19の張間方向の一方側では、壁柱20と柱14との間に桁行方向に往来可能な通路19Aが形成されているのに対し、共用部19の張間方向の他方側では、壁柱20と柱14との間にトイレや事務所等のゾーン19Bが区画されている。
【0022】
ここで、本実施形態に係る集合住宅10では、戸境壁の張間方向の全体ではなく一部(中央部)のみを連層耐震壁たる壁柱20で構成したことにより、壁柱20を最下階の共用部19まで連続させた場合でも、桁行方向への通路19Aを形成でき、共用部19を桁行方向に往来可能な一空間とすることができる。従って、集合住宅10をピロティ形式の建物ではない耐震性能に優れた建物に構成すると共に、最下階の平面計画の自由度を高めることができる。
【0023】
図7は、集合住宅10の架構11を示す伏図である。この図に示すように、集合住宅10の架構11には、それぞれ桁行方向に平行な4構面A1〜A4が形成されている。構面A1は、廊下13側の柱14、梁16により構成され、構面A4は、バルコニー15側の柱14、梁16により構成されている。また、構面A2は、水廻りゾーン12Aと廊下13側の居室ゾーン12Cとの間の柱22、梁26により構成され、構面A3は、水廻りゾーン12Aとバルコニー15側の居室ゾーン12Bとの間の柱22、梁26により構成されている。
【0024】
ここで、本実施形態に係る集合住宅10では、廊下13側とバルコニー15側の2構面A1、A4のみならず、それらの間の2構面A2、A3によっても、桁行方向(図中X方向)の地震力が負担される。これにより、廊下13側とバルコニー15側の2構面A1、A4を構成する柱14、梁16に要求される保有水平耐力が低減されるため、2構面A1、A4を構成する柱14、梁16の断面寸法を縮小でき、以って、住戸12の室内空間を拡大できる。
【0025】
また、壁柱20は、一対の柱22とそれらの間の耐震壁24とで構成されており、一対の柱22を連結する梁は設けられていない。このため、水廻りゾーン12Aにおいて戸境壁から梁が突出することがないことから、ユニットバス等の設備を戸境壁に近づけて設置することができ、以って、住戸12内の空間を有効に利用できる。
【0026】
また、スラブ40、42の段差部に梁26を架設して該梁26と柱22とのラーメン架構を構成したことにより、スラブ40、42を支持する構面を柱22、26により構成できる。従って、スラブ40、42に要求される曲げ耐力を低減でき、以って、スラブ40、42の厚さを低減できる。
【0027】
また、水廻りゾーン12Aは、排水設備を設置するための居室ゾーン12B、12Cよりも床高さを低くすることを要するところ、それにより生じるスラブ40、42の段差部に梁26を設けたことにより、住戸12の室内空間を犠牲にすることなく、構面A2、A3を形成することができる。
【0028】
ここで、連層耐震壁の張間方向(住戸の配列方向と直交する方向)の長さが長くなるほど、コンクリートの乾燥収縮が増大し、コンクリートにひび割れが生じ易くなる。そして、戸境壁のコンクリートにひび割れが生じた場合には、住戸間の遮音性能が低下したり、戸境壁の仕上げに支障をきたしたりする。これに対して、本実施形態に係る集合住宅10では、戸境壁の張間方向の全体ではなく一部(中央部)のみを連層耐震壁たる壁柱20を構成し、連層耐震壁の張間方向の長さをより短くしている。また、耐震壁24を張間方向の両側から柱22で拘束している。これにより、コンクリートの乾燥収縮を抑制し、コンクリートにひび割れが生じ難いようにすることができ、以って、住戸間の遮音性能を確保し、戸境壁の仕上げに支障がないようにすることができる。
【0029】
図8は、集合住宅10の基礎の伏図であり、図9は、図8の9−9線上の軸組図であり、図10は、図9の10−10線上の軸組図である。これらの図に示すように、集合住宅10の架構11の下には、基礎44が構築され、基礎44の下には杭46、48が打設されている。また、杭46、48の頭部にはフーチング50が構築されている。
【0030】
杭46は、架構11の柱14の直下に打設されており、該柱14を支持する。一方、杭48は、壁柱20の幅方向(張間方向)の中央部の直下に打設されており、壁柱20を支持する。ここで、壁柱20の柱22の直下に杭は打設されておらず、壁柱20の直下に打設されている杭は、杭48のみである。
【0031】
図11は、比較例に係る壁柱20の支持構造を示す図である。この図に示すように、壁柱20の柱22の直下に杭48を打設した場合には、地震力や風荷重等の水平力が張間方向(壁柱20の幅方向)に作用すると、壁柱20に曲げモーメントが生じ、一方の杭48に引抜力が作用し、他方の杭48に圧縮力が作用する。このため、一方の杭48は、引抜力に対して抵抗し、他方の杭48は、圧縮力に対して抵抗する。ここで、杭48の引抜及び圧縮に対する耐力を推定することは難しいため、杭48が引抜かれないケースを想定して、壁柱20の破壊耐力を設定している。
【0032】
図12は、本比較例における壁柱20の破壊モードを示す破壊モード図であり、図13は、本実施形態における壁柱20の破壊モードを示す破壊モード図である。図12に示すように、本比較例では、壁柱20の幅方向の一方側で杭48が引抜き力に対して抵抗し、他方側で杭48が圧縮力に対して抵抗することにより、壁柱20の脚部の面内方向への曲げ変形が拘束される。このため、壁柱20は、幅方向(面内方向)の水平力に対して、破壊モードが、脚部のせん断破壊(曲げ破壊)が梁28の曲げ降伏に先行して起こる全体破壊になり易い。従って、壁柱20に要求される保有水平耐力が大きくなり、壁柱20の厚みを大きくすることを要する。
【0033】
これに対して、図13に示すように、本実施形態では、壁柱20の幅方向の両側ではなく中央部に杭48が設けられていることから、壁柱20の脚部の面内方向への曲げ変形が杭48により拘束されることがない。このため、壁柱20は、幅方向(面内方向)の水平力に対して、破壊モードが、梁28の曲げ降伏が壁柱20に先行して起こる変形性能が高い全体崩壊形になり易い。従って、上記比較例と比して、壁柱20に要求される保有水平耐力を低減でき、壁柱20の厚みを小さくすることができる。
【0034】
また、上記比較例と比して、壁柱20を支持する杭48の本数を半減させることができるため、壁柱20の厚みを小さくできることと相俟って大きなコスト低減効果を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、連層耐震壁たる壁柱20を戸境壁の幅方向の全体ではなく一部としたことにより、戸境の耐震壁の曲げ変形性能を高めることができ、戸境の耐震壁に要求される保有水平耐力を低減できる。従って、壁柱20の厚みをより一層縮小できる。ここで、壁柱20の厚みを縮小できることにより、住戸12の室内空間を拡大できる。
【0036】
図14は、壁柱20の変形例に係る壁柱120を備える住戸112を示す概略平面図である。この図に示すように、壁柱120は、耐震壁のみからなり、その壁厚寸法は、上述の壁柱20の柱22の断面寸法と同一である。
【0037】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、板状集合住宅を例に挙げて本発明を説明したが、他の集合住宅やオフィスビル等の他の建築物にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0038】
10 集合住宅、12 住戸、12A 水廻りゾーン、12B、12C 居室ゾーン、13 廊下、14 柱、15 バルコニー、16、18 梁、19 共用部、19A 通路、19B ゾーン、20 壁柱、21 住戸、21A 通路、21B 外部空間、22 耐震壁、23 住戸、24 柱、25 住戸、25A 光庭、27 住戸、27C 居室ゾーン、26、28 梁、29 住戸、29C 居室ゾーン、30 壁柱、31 住戸、32 壁梁、34、36 耐震壁、38 乾式遮音壁、40、42 スラブ、44 基礎、46、48 杭、50 フーチング、112 住戸、120 壁柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構を構成する壁柱を支持する杭が前記壁柱の幅方向の中間部の下に設けられていることを特徴とする壁柱の支持構造。
【請求項2】
前記壁柱は、集合住宅の戸境壁を構成することを特徴とする請求項1に記載の壁柱の支持構造。
【請求項3】
前記壁柱は、前記戸境壁の幅方向の一部を構成することを特徴とする請求項2に記載の壁柱の支持構造。
【請求項4】
架構を構成する壁柱を支持する杭を前記壁柱の幅方向の中間部の下に設けることを特徴とする壁柱の支持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−225023(P2012−225023A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92277(P2011−92277)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】