説明

壁用伸縮継手装置

【課題】 目地プレート構造体の部品点数の削減と構造の簡略化で、円滑な拡縮作動を実現して故障の発生を抑え、拡大時の内部側からの見栄え低下を避け、縮小作動時の通行者の安全を確保し、かつ現場での組立作業および据付施工が容易である壁用伸縮継手装置を提供する。
【解決手段】 建物15,16の近接・離反する相対変位追従して中央枢支部4tが空隙14の中央部に位置して拡縮するリンク機構からなる補強構造体4と、補強構造体4の拡縮に追従して拡縮する目地プレート構造体5とを有し、目地プレート構造体5は、連結部材24を介して補強構造体4の中央枢支部4tに連結される中央目地プレート19と、基端部20a,20bが補強連結材6,7に連結されて補強構造体4の拡縮に追従して進退し、かつ中央目地プレート19の内外に重なる部分を有して配置される一対の可動目地プレート20,21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する2つの建物の相対変位を許容し、各建物間の空隙を塞ぐ壁用伸縮継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図11に示す集合住宅、商用多目的ビル、病院、養護施設および学校などの高層ビルディングにおいて、相互に隣接する2つの建物100,101間には、目地の介在によって空隙102が存在する。このような空隙102には、内部103との間での空気の流通やごみなどが侵入することを防止するために、各建物100,101の壁面100a,101a間に略鉛直にのびる壁用伸縮継手装置104が設置される。
【0003】
この壁用伸縮継手装置104は、各建物100,101の壁面100a,101aにビス105によってそれぞれ固定される一対のヒンジ部材106と、長手方向一端部が各ヒンジ部材106の2つのヒンジ片のうち可動片106aに固定される一対の固定目地プレート107,108と、各固定目地プレート107,108にその長手方向に変位自在に空隙102に臨む裏側に配置される一対の可動目地プレート109,110および長手方向両端部が各固定目地プレート107,108の長手方向他端部と重なり合うように表側から覆う中央目地プレート111とを備えた目地プレート構造体112と、目地プレート構造体112の空隙102に臨む裏側に配置され、複数のリンク部材をパンタグラフ状に角変位自在に枢支したリンク機構を構成して各建物100,101寄りの長手方向両端部が各ヒンジ部材106の可動片106aに回動自在に連結される補強構造体113と、目地プレート構造体112と補強構造体113の間でこれら両者の長手方向中央部に配置されて目地プレート構造体112の中央目地プレート111を補強構造体113に連結固定する支持台114a,角パイプ製の支柱114bおよび枢支ピン114cとからなる連結機構114と、各固定目地プレート107,108と各可動目地プレート109,110との長手方向の相対変位に追従して伸縮する水平なスライド構造体115,116とを備えている。
【0004】
一方のスライド構造体115は、長手方向の中央部が溶接によって角パイプ製の支柱114bの内部103に臨む表面に固定されたリップ付き溝形鋼製の支持レール115aと、複数個のローラ115bの転動により支持レール115aに挿脱自在に挿入されるとともに、一方の可動目地プレート109に固定されたスライド体115cとを有し、他方のスライド構造体116は、長手方向の中央部が一方のスライド構造体115の下側で溶接によって角パイプ製の支柱114bの内部103に臨む表面に固定されたリップ付き溝形鋼製の支持レール116aと、複数個のローラ116bの転動により支持レール116aに挿脱自在に挿入されるとともに、他方の可動目地プレート110に固定されたスライド体116cとを有している。各建物100,101それぞれの壁面100a,101aと各固定目地プレート107,108の長手方向一端部との間には、内部103側から弾性シーリング材117が打設され、この弾性シーリング材117の接着効果によって各固定目地プレート107,108の長手方向一端部を各建物100,101それぞれの壁面100a,101aに接着することで、各固定目地プレート107,108の支持形態を維持している。
【0005】
前記構成の壁用伸縮継手装置104は、各建物100,101が地震などによって相互に近接および離反する左右方向、ならびにこの左右方向に仮想水平面上で垂直な前後方向に相対変位を生じても、補強構造体113と各スライド構造体115,116および目地プレート構造体112の長手方向への伸縮と、一対のヒンジ部材106の回動との複合作動によって、これらの相対変位を許容し追従できるので空隙102を塞いだ気密状態が維持できるとされている(たとえば特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−220550号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載されている壁用伸縮継手装置104では、左右一対の固定目地プレート107,108と、左右一対の可動目地プレート109,110および1つの中央目地プレート111の合計5部品によって目地プレート構造体112が構成されている。つまり、目地プレート構造体112は部品点数が多く、したがって構造が複雑である。そのため、円滑な拡縮作動が妨げられて故障発生の原因になる。また、現場での組立作業および据付施工が困難である欠点を有する。
【0008】
一方、図12のように、各建物100,101が相互に離反する左右方向に相対変位して、目地プレート構造体112が拡大した場合には、中央目地プレート111の左右両端部と左右一対の固定目地プレート107,108それぞれの長手方向他端部の係合片107a,108aとの間に、長手方向の寸法Lと奥行きhとからなる開口部118が形成される。このように開口部118が形成されることで、常時は内部103側からは目視不能な左右一対の可動目地プレート109,110が中央目地プレート111の左右両サイドの奥部に現れて目視できることになるので見栄えが悪い。しかも、各建物100,101が図12の状態から図11の状態に相互に近接する方向に相対変位することで、目地プレート構造体112が図12の拡大状態から図11の通常状態に向けて縮小作動すると、前記開口部118が塞がれることになるので、内部103側の通行者にとって危険である問題を有している。
【0009】
すなわち、前記特許文献1に記載されている壁用伸縮継手装置104は、目地プレート構造体112の構造が複雑であるため、円滑な拡縮作動が妨げられて故障発生の原因になるばかりか、目地プレート構造体112の拡大時に開口部118が形成されることで、目地プレート構造体112拡大時の内部103側からの見栄えが低下するとともに、目地プレート構造体112が拡大状態から縮小作動する際に、開口部118が塞がれるので通行者にとって危険であり、しかも、現場での組立作業および据付施工が困難であるなどの欠点を有する。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するものであって、その目的とするところは、 目地プレート構造体の部品点数を削減して構造を簡略化することにより、円滑な拡縮作動を実現して故障の発生を抑え、また、目地プレート構造体拡大時の内部側からの見栄え低下を避け、目地プレート構造体縮小作動時の通行者の安全を確保するとともに、現場での組立作業および据付施工が容易である壁用伸縮継手装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、空隙を隔てて相互に隣接する2つの建物にそれぞれ固定される鉛直な軸線を有する一対のヒンジ部材と、
複数のリンク部材がリンクピンによって角変位自在に連結され、前記各建物寄りの長手方向両端部が一対の補強連結材を介して前記各ヒンジ部材に回動自在に連結されるとともに、各建物の近接および離反する相対変位による空隙の拡縮に追従して中央枢支部が空隙の中央部に位置して拡縮するパンタグラフ状のリンク機構からなる補強構造体と、
該補強構造体の内側に配置されて補強構造体の拡縮に追従して拡縮する目地プレート構造体とを有し、
この目地プレート構造体は、連結部材を介して補強構造体の中央枢支部に連結される中央目地プレートと、基端部が前記一対の補強連結材に連結されて前記補強構造体の拡縮に追従して進退するとともに、前記中央目地プレートの内側と外側に重なる部分を有して配置される一対の可動目地プレートとからなることを特徴とする壁用伸縮継手装置である。
【0012】
これによれば、目地プレート構造体は、中央目地プレートと、この中央目地プレートの内側と外側に重なる部分を有して配置される一対の可動目地プレートとの3部品によって構成される。つまり、目地プレート構造体の部品点数を削減して構造を簡略化することにより、円滑な拡縮作動を実現して故障の発生を抑えることができる。また、各建物が相互に離反する左右方向に相対変位した場合には、補強構造体の拡大に追従して一対の可動目地プレートが中央目地プレートの左右両端部から左右方向に延出することになるので、前記特許文献1に記載の技術のように内部側に開口部が形成されることはない。したがって、目地プレート構造体拡大時の内部側からの見栄えは低下しない。しかも、開口部が形成されないことで、目地プレート構造体縮小作動時の通行者の安全を確保することができるとともに、部品点数の削減により構造が簡略化されることで、現場での組立作業および据付施工を容易に行うことができる。
【0013】
本発明は、前記中央目地プレートと一対の可動目地プレートは、水平方向にのびる軌道と、この軌道に組み込まれて転動する転動体とを備えた直動転がり案内を介して水平方向の相対移動を可能に互いに連結されていることを特徴としている。これによると、各建物の地震などによる相互に近接および離反する左右方向への相対変位と補強構造体の拡縮に追従して、目地プレート構造体をスムーズに拡縮させることができる。
【0014】
本発明は、前記直動転がり案内の軌道はリップ付き溝形断面のレールからなり、転動体はローラ軸に回転自在に支持されて前記レール内で転動するローラからなることを特徴としている。これによると、各建物の地震などによる相互に近接および離反する左右方向への相対変位と補強構造体の拡縮に追従して、目地プレート構造体をより一層スムーズに拡縮させることができるとともに、軌道によって目地プレート構造体の撓みを防止して、剛性を維持するのに寄与する。また、軌道とローラの分離は軌道のリップに各ローラが干渉することによって防止されるので、中央目地プレートと一対の可動目地プレートの分離を抑えて、目地プレート構造体の形態を正常に保持するように働く。
【0015】
本発明は、前記中央目地プレートの外面に取付けた前記レールが中央目地プレートの外側に配置される一方の可動目地プレートの内面に転動自在に取付けたローラに支持され、中央目地プレートの内面に転動自在に取付けたローラが中央目地プレートの内側に配置される他方の可動目地プレートの外面に取付けたレールに支持されていることを特徴としている。これによると、中央目地プレートは、一方の可動目地プレートにぶら下がり状態で支持され、他方の可動目地プレートに下から支えられた状態で支持されることになる。その結果、中央目地プレートの重量は、一方の可動目地プレートと他方の可動目地プレートとで分担して支持し、目地プレート構造体の重量が補強構造体に負荷されるのを回避できる。そのため、補強構造体の重量負担が軽減されるので、各建物が相互に離反する左右方向への相対変位に追従して、補強構造体が伸長することによって梁剛性が低下しても変形することはない。しかも、補強構造体の長手方向の両端部は補強連結材に強固に保持されているので、伸長時の梁剛性低下がさらに抑えられて補強構造体の円滑な伸縮を維持できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、目地プレート構造体の部品点数を削減して構造を簡略化することにより、円滑な拡縮作動を実現して故障の発生を抑えることができる。また、各建物が相互に離反する左右方向に相対変位した場合には、補強構造体の拡大に追従して一対の可動目地プレートが中央目地プレートの左右両端部から左右方向に延出することになるので、前記特許文献1に記載の技術のように内部側に開口部が形成されることはない。したがって、目地プレート構造体拡大時の内部側からの見栄えは低下しない。しかも、開口部が形成されないことで、目地プレート構造体縮小作動時の通行者の安全を確保することができるとともに、部品点数の削減により構造が簡略化されることで、現場での組立作業および据付施工を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る壁用伸縮継手装置の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る壁用伸縮継手装置の一実施形態を示す平面図、図2は、図1のII−II線に沿う横断平面図、図3は、目地プレート構造体および補強構造体の左右方向中央部の拡大平面図、図4は、中央目地プレートの右端部と連結体との関係を示す拡大平面図、図5は、左側の可動目地プレートおよび補強構造体の左端部と左側の建物との関係を示す拡大平面図、図6は、右側の可動目地プレートおよび補強構造体の右端部と右側の建物との関係を示す拡大平面図である。
【0018】
図1〜図6において、本実施形態の壁用伸縮継手装置1は、左右一対のヒンジ部材2,3と、補強構造体4と、目地プレート構造体5と、左右一対の補強連結材6,7と、左右一対のアンカー8,9とを備える。
【0019】
図2において、左右一対のヒンジ部材2,3は、ステンレス鋼製のもので、略鉛直な軸線を有するヒンジピン10,11と、このヒンジピン10,11に前記略鉛直な軸線まわりに回動自在に設けられる2つのヒンジ片とを有し、前記2つのヒンジ片のうちの一方のヒンジ片が長尺の山形鋼などの構造用鋼材からなる下地材12,13を介して前記アンカー8,9にそれぞれ固定される。各アンカー8,9は、相互に空隙14をあけて隣接する2つの建物15,16にそれぞれ埋設して固定される長尺の山形鋼などの構造用鋼材からなる。
【0020】
各建物15,16は、集合住宅、商用多目的ビル、病院、養護施設および学校などとして用いられるコンクリート製の高層ビルディングであって、目地として介在する前記空隙14を介して対向し、図2の紙面に垂直な略鉛直方向にのびる対向壁面17,18間に壁用伸縮継手装置1が設けられる。
【0021】
図2,図5,図6に示す左右一対の補強連結材6,7において、図2,図5に示す左側の補強連結材6は、鉛直方向に長尺の鋼板製の略F字形鋼材からなり、前記ヒンジ部材2の2つのヒンジ片のうちの他方のヒンジ片に固定される。また、図2,図6に示す右の側の補強連結材7は、左側の補強連結材6と合同な鉛直方向に長尺の鋼板製の略逆F字形鋼材からなり、前記ヒンジ部材3の2つのヒンジ片のうちの他方のヒンジ片に固定される。
【0022】
目地プレート構造体5は、中央目地プレート19と、左右一対の可動目地プレート20,21とからなり、左側の可動目地プレート20は中央目地プレート19の空隙14寄り、つまり中央目地プレート19の外側に配置され、右側の可動目地プレート21は中央目地プレート19の内部22寄り、つまり中央目地プレート19の内側に配置されるとともに、左側の可動目地プレート20の基端部20aはストッパ23を介して左側の補強連結材6に固着され、右側の可動目地プレート21の基端部21aは右側の補強連結材7に固着される。
【0023】
中央目地プレート19および左右一対の可動目地プレート20,21は、アルミニウム合金の板材によって構成されており、中央目地プレート19の左端部には左側の可動目地プレート20に近接する折り曲げ片19aが設けられ、右端部には補強構造体4に向けて延出する延出片19bを設けてある。また、左側の可動目地プレート20の先端部(右端部)に補強構造体4に向けて折り曲げた折り曲げ片20bを設けるとともに、右側の可動目地プレート21の先端部(左端部)には中央目地プレート19に近接する折り曲げ片21bを設けてある。
【0024】
図1,図2において、補強構造体4は、目地プレート構造体5の空隙14に臨む外側に上下に分離して一対配置され、各補強構造体4は、複数のリンク部材をパンタグラフ状に角変位自在に枢支したリンク機構を構成し、各建物15,16寄りの長手方向両端部は各補強連結材6,7に回動自在に連結される。
【0025】
前記各補強構造体4は、四角筒状の構造用鋼材からなる複数のリンク部材4a〜4hおよびリンク部材4cと4eとの掛け渡される基準リンク部材4iと、各リンク部材4a〜4hを枢支する複数のリンクピン4j〜4sと、基準リンク部材4iをリンク部材4cと4eに枢支するリンクピン4t,4uとを有する。各リンクピン4j〜4uはボルトおよびナットの対偶からなり、特に中央部のリンクピン4xは、後述のように補強構造体4および目地プレート構造体5が拡縮しても、常時、空隙14の中央部に位置する中央枢支部として機能する。
【0026】
各補強構造体4の左端部は、図5のようにリンクピン4jを介して左側の補強連結材6に回動自在に連結され、補強構造体4の右端部は、図6のようにリンクピン4sを介して右側の補強連結材7に回動自在に連結される。
【0027】
図1,図2,図4において、中央目地プレート19における右端部の延出片19bは、連結部材24を介して各補強構造体4の中央部のリンクピン(中央枢支部)4xに連結される。連結部材24は、第1連結部材24aと、第1連結部材24aの上下両端部に水平に接続される上下一対の第2連結部材24bとを備え、第1連結部材24aは鉛直方向にのびるL形鋼からなり、一方の辺が中央目地プレート19における右端部の延出片19bの内面にビス25によって固着され、他方の辺の内面に帯鋼からなる各第2連結部材24bの先端部がビス26によって固着されるとともに、各第2連結部材24bの基端部は、各補強構造体4の中央部のリンクピン(中央枢支部)4xに連結される。
【0028】
図1において、目地プレート構造体5における中央目地プレート19と左側の可動目地プレート20および中央目地プレート19と右側の可動目地プレート21は、それぞれ上下方向の間隔をあけた3位置で水平に配置した直動転がり案内27を介して水平方向の相対移動を可能、かつ前後方向(図1の紙面方向)の分離を不能に互いに連結される。
【0029】
直動転がり案内27は、図2,図3,図4,図5,図6および図7に示すように、中央目地プレート19と左側の可動目地プレート20の間に介在して両者19,20を水平方向の相対移動を可能に互いに連結する第1直動転がり案内27Aと、中央目地プレート19と右側の可動目地プレート21の間に介在して両者19,21を水平方向の相対移動を可能に互いに連結する第2直動転がり案内27Bとからなる。
【0030】
第1直動転がり案内27Aは、中央目地プレート19の裏面(外面)に水平に取付けた軌道27a1と、左側の可動目地プレート20を貫通して取付けられて中央目地プレート19側に突出するローラ軸27a2と、このローラ軸27a2に回転自在に軸支されたローラ27a3とを備え、軌道27a1は、アルミニウム合金の押出し形材からなり、互いに対向する一対のリップ27dを備えたリップ付き溝形断面のレールによって構成され、この軌道27a1内でローラ27a3が転動する。
【0031】
第2直動転がり案内27Bは、右側の可動目地プレート21の裏面に水平に取付けた軌道27b1と、中央目地プレート19を貫通して取付けられて右側の可動目地プレート21側に突出するローラ軸27b2と、このローラ軸27b2に回転自在に支持されたローラ27b3とを備え、軌道27b1は、アルミニウム合金の押出し形材からなり、互いに対向する一対のリップ27dを備えたリップ付き溝形断面のレールによって構成され、この軌道27b1内でローラ27b3が転動する。
【0032】
すなわち、図7で明らかなように、中央目地プレート19の外面に取付けた軌道27a1の上辺が中央目地プレート19の外側に配置される左側の可動目地プレート20の内面に転動自在に取付けたローラ27a3に支持され、中央目地プレート19の内面に転動自在に取付けたローラ27b3が中央目地プレート19の内側に配置される右側の可動目地プレート21の外面に取付けた軌道27b1の下辺に転動自在に支持されることになる。これにより、中央目地プレート19は、左側の可動目地プレート20にぶら下がり状態で支持され、右側の可動目地プレート21に下から支えられた状態で支持されることになる。その結果、中央目地プレート19の重量は、左側の可動目地プレート20と右側の可動目地プレート21とで分担して支持し、目地プレート構造体5の重量が補強構造体4に負荷されるのを回避できる。そのため、補強構造体4の重量負担が軽減されるので、各建物16,17が相互に離反する左右方向への相対変位に追従して、補強構造体4が伸長することによって梁剛性が低下しても変形することはない。しかも、補強構造体4の左右方向(長手方向)の両端部は補強連結材6,6に強固に保持されているので、伸長時の梁剛性低下がさらに抑えられて補強構造体4の円滑な伸縮を維持できる。
【0033】
図1,図7において、目地プレート構造体5を構成する中央目地プレート19,左側の可動目地プレート20および右側の可動目地プレート21それぞれの上端と天井材28との間は、目地プレート構造体5の上端に取付けたゴム製のパッキン29によって気密に塞がれ、中央目地プレート19,左側の可動目地プレート20および右側の可動目地プレート21それぞれの下端と床材30との間は、目地プレート構造体5の下端に取付けたゴム製のパッキン29によって気密に塞がれる。これにより、目地プレート構造体5の上下両端と天井材28および床材30との間の気密が確保される。
【0034】
図1,図2,図5において、左の建物15の壁面17と、目地プレート構造体5における左側の可動目地プレート20の基端部20aが取付けられているストッパ23の間は、見切り材32を挟んでストッパ23側に配置されるゴム製のパッキン31aと、壁面17側に配置されるシ−ル材31bとからなるシール構造31により気密に塞がれる。また、図1,図2,図6において、右の建物16の壁面18と、目地プレート構造体5における右側の可動目地プレート21の基端部21aの間は、見切り材32を挟んで基端部21a側に配置されるゴム製のパッキン31aと、壁面18側に配置されるシ−ル材31bとからなるシール構造31により気密に塞がれる。これにより、目地プレート構造体5と2つの建物15,16の相互に対向する壁面17,18との間の気密を確保することができる。
【0035】
つぎに、前記構成の壁用伸縮継手装置1の動作について説明する。
【0036】
図1,図2は、各建物15,16が相互に近接および離反する方向である左右方向、ならびにこの左右方向に仮想水平面上で前後方向(図1の紙面に垂直な方向、図2の矢印Y方向)に相対変位していない通常状態が示されており、この通常状態では、目地プレート構造体5と、ゴム製のパッキン29およびシール構造31によって内部22と空隙14とを遮断し、空隙14と内部22との間での空気の流通やごみなどの侵入を防止する。
【0037】
地震などによって、各建物15,16が相互に近接する方向(矢印X1方向)に相対変位すると、図8に示すように、右側の可動目地プレート21の先端部折り曲げ片21bがストッパ23に当接し、中央目地プレート19の内外両側に左右一対の可動目地プレート20,21が押し込まれて三者19,20,21が略重なり合った状態になって、目地プレート構造体5の左右方向の全長が縮小されるとともに、補強構造体4が縮小して左右方向の全長が短くなることで、建物15,16の相互に近接する方向(矢印X1方向)への相対変位を吸収する。
【0038】
一方、図2の通常状態の各建物15,16が、地震などによって相互に離反する方向(矢印X2方向)に相対変位すると、図9に示すように、中央目地プレート19の左右端部から一対の可動目地プレート20,21が左右両側へ引き出された状態になって、目地プレート構造体5の左右方向の全長が拡大されるとともに、補強構造体4が拡大して左右方向の全長が長くなることで、建物15,16の相互に離反する方向(矢印X2方向)への相対変位を吸収する。
【0039】
他方、図2の通常状態の各建物15,16が、地震などによって前記近接および離反する方向に仮想水平面上で前後方向(図1の紙面に垂直な方向、図2の矢印Y方向)に相対変位すると、図10に示すように、ヒンジピン10,11を回動中心にして各ヒンジ部材2,3のヒンジ片が回動することによって、各建物15,16の互いに異なる前後方向の相対変位を吸収する。
【0040】
前記構成の壁用伸縮継手装置1では、目地プレート構造体5が、中央目地プレート19と、この中央目地プレート19の内側と外側に重なる部分を有して配置される左右一対の可動目地プレート20,21との3部品によって構成される。つまり、目地プレート構造体5の部品点数を削減して構造を簡略化することにより、円滑な拡縮作動を実現して故障の発生を抑えることができる。また、各建物15,16が相互に離反する左右方向(図2の矢印X2方向)に相対変位した場合には、図9のように、補強構造体4の拡大に追従して一対の可動目地プレート20,21が中央目地プレート19の左右両端部から左右方向に延出することになるので、図12で説明した前記特許文献1に記載の技術のように内部側に開口部118が形成されることはない。したがって、目地プレート構造体5拡大時の内部側からの見栄えは低下しない。しかも、前記開口部118が形成されないことで、目地プレート構造体5縮小作動時の通行者の安全を確保することができるとともに、部品点数の削減により構造が簡略化されることで、現場での組立作業および据付施工を容易に行うことができる。
【0041】
また、中央目地プレート19と一対の可動目地プレート20,21は、水平方向にのびる軌道27a1,27b1と、この軌道27a1,27b1に組み込まれて転動するローラ27a3,27b3とを備えたる第1,第2直動転がり案内27A,27Bからなる直動転がり案内27を介して水平方向の相対移動を可能に互いに連結されているので、各建物15,16の地震などによる相互に近接および離反する左右方向(図2の矢印X1,X2方向)への相対変位と補強構造体4の拡縮に追従して、目地プレート構造体5をスムーズに拡縮させることができる。
【0042】
さらに、直動転がり案内27を構成している第1,第2直動転がり案内27A,27Bの軌道27a1,27b1を、リップ27dを備えたリップ付き溝形断面のレールによって実現し、ローラ軸27a2,27b2に回転自在に支持されたローラからなる転動体27a3,27b3を、前記リップ付き溝形断面のレール(軌道27a1,27b1)内で転動させるようにしているので、各建物15,16の地震などによる相互に近接および離反する左右方向(図2の矢印X1,X2方向)への相対変位と補強構造体4の拡縮に追従して、目地プレート構造体5をより一層スムーズに拡縮させることができるとともに、軌道27a1,27b1によって中央目地プレート19と右側の可動目地プレート21の撓みを防止して、剛性を維持するのに寄与する。また、図7において、軌道27a1,27b1とローラ(転動体27a3,27b3)との矢印Y方向への分離は、軌道27a1,27b1のリップ27dに各ローラ(転動体27a3,27b3)が干渉することによって防止されるので、中央目地プレート19と一対の可動目地プレート20,21の分離を抑えて、目地プレート構造体5の形態を正常に保持するように働く。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る壁用伸縮継手装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う横断平面図である。
【図3】目地プレート構造体および補強構造体の左右方向中央部の拡大平面図である。
【図4】中央目地プレートの右端部と連結体との関係を示す拡大平面図である。
【図5】左側の可動目地プレートおよび補強構造体の左端部と左側の建物との関係を示す拡大平面図である。
【図6】右側の可動目地プレートおよび補強構造体の右端部と右側の建物との関係を示す拡大平面図である。
【図7】目地プレート構造体と直動転がり案内との関係を示す縦断側面図である。
【図8】各建物の相互近接により空隙が最も縮小した時の壁用伸縮継手装置を示す平面図である。
【図9】各建物の相互離反により空隙が最も拡大した時の壁用伸縮継手装置を示す平面図である。
【図10】各建物が互いに異なる前後方向に相対変位した時の壁用伸縮継手装置を示す平面図である。
【図11】従来の壁用伸縮継手装置の一例を示す平面図である。
【図12】各建物の相互近接により空隙が最も拡大した時の従来の壁用伸縮継手装置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 壁用伸縮継手装置
2 左側のヒンジ部材
3 右側のヒンジ部材建物
4 補強構造体
4a〜4i リンク部材
4j〜4t リンクピン
4x リンクピン(中央枢支部)
5 目地プレート構造体
6 左側の補強連結材
7 右側の補強連結材
10 鉛直軸線を有する左側のヒンジピン
11 鉛直軸線を有する右側のヒンジピン
14 空隙
15 左の建物
16 右の建物
17 左の壁面
18 右の壁面
19 中央目地プレート
20 左側の可動目地プレート
20a 左側の可動目地プレートの基端部
21 右側の可動目地プレート
21a 右側の可動目地プレートの基端部
22 内部(内側)
24 連結部材
27 直動転がり案内
27a1 軌道(レール)
27a2 ローラ軸
27a3 ローラ(転動体)
27b1 軌道(レール)
27b2 ローラ軸
27b3 ローラ(転動体)
27d リップ
31 シール構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙を隔てて相互に隣接する2つの建物にそれぞれ固定される鉛直な軸線を有する一対のヒンジ部材と、
複数のリンク部材がリンクピンによって角変位自在に連結され、前記各建物寄りの長手方向両端部が一対の補強連結材を介して前記各ヒンジ部材に回動自在に連結されるとともに、各建物の近接および離反する相対変位による空隙の拡縮に追従して中央枢支部が空隙の中央部に位置して拡縮するパンタグラフ状のリンク機構からなる補強構造体と、
該補強構造体の内側に配置されて補強構造体の拡縮に追従して拡縮する目地プレート構造体とを有し、
この目地プレート構造体は、連結部材を介して補強構造体の中央枢支部に連結される中央目地プレートと、基端部が前記一対の補強連結材に連結されて前記補強構造体の拡縮に追従して進退するとともに、前記中央目地プレートの内側と外側に重なる部分を有して配置される一対の可動目地プレートとからなることを特徴とする壁用伸縮継手装置。
【請求項2】
請求項1に記載の壁用伸縮継手装置において、
前記中央目地プレートと一対の可動目地プレートは、水平方向にのびる軌道と、この軌道に組み込まれて転動する転動体とを備えた直動転がり案内を介して水平方向の相対移動を可能に互いに連結されていることを特徴とする壁用伸縮継手装置。
【請求項3】
請求項2に記載の壁用伸縮継手装置において、
前記直動転がり案内の軌道はリップ付き溝形断面のレールからなり、転動体はローラ軸に回転自在に支持されて前記レール内で転動するローラからなることを特徴とする壁用伸縮継手装置。
【請求項4】
請求項1,請求項2または請求項3に記載の壁用伸縮継手装置において、
前記中央目地プレートの外面に取付けた前記レールが中央目地プレートの外側に配置される一方の可動目地プレートの内面に転動自在に取付けたローラに支持され、中央目地プレートの内面に転動自在に取付けたローラが中央目地プレートの内側に配置される他方の可動目地プレートの外面に取付けたレールに支持されていることを特徴とする壁用伸縮継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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