説明

壁用目地カバー装置

【課題】中央カバー板と、左右の端部カバー板とを、地震のない常態で前面が略面一となるように配設することにより、美観に優れたものとするとともに、中央カバー板の前後方向の揺動を抑制し得る壁用目地カバー装置を提供する。
【解決手段】目地sを介して隣接する左右の建造物A,Bに固定した左右の固定枠2,2に複数対の支持杆10,10の各一端を夫々枢結し、支持杆10,10の他端を複数の摺動基体5の左右方向の摺動路6,6に夫々摺動可能に嵌挿することによって各摺動基体5を保持し、各摺動基体5に挿通された前後方向の支持軸18の前端に中央カバー板20を支持させるとともに、中央カバー板20を各支持軸18に装着された圧縮ばね19によって後方向に付勢する一方、前面が中央カバー板20の前面と略面一となる状態で配設した左右の端部カバー板29,29の外側縁を左右の固定枠2,2に夫々枢結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する建造物の壁相互間の目地を覆う壁用目地カバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の目地カバー装置にあって、基部ホルダーによって目地の中央に支持された中央カバー板と、該中央カバー板の両外側縁に内側縁を夫々重ね合わせた状態で左右方向に摺動可能に配設された左右一対の中間カバー板と、該両中間カバー板の各外側縁に内側縁を夫々重ね合わせて配設された左右一対の端部カバー板とを備えたものが、本願出願人によって先に提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、目地を介して隣接する左右の建造物の側壁面に、両端部がヒンジ部材を介して枢支された複数のパンタグラフ状の伸縮リンクによって、中央カバー板と左右一対の中間カバー板及び左右一対の端部カバー板を支持するようにしたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−218499号公報
【特許文献2】特開2006−322132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された構成にあっては、目地の中央に支持された中央カバー板と、該中央カバー板の両外側縁に内側縁を夫々重ね合わせた左右一対の端部カバー板との三枚のカバー板によって目地を覆うものに比して、左右方向の移動許容量を大幅に拡大し得る利点がある反面、中央カバー板の両外側縁の前面に左右の中間カバー板の内側縁が重ね合わせられ、また、中間カバー板の外側縁の前面に左右の端部カバー板の内側縁が重ね合わせられているため、端部カバー板に対して中間カバー板が、また該中間カバー板に対して中央カバー板が順に奥方に窪む状態となっている。このため、各カバー板の前面が面一とならず、見た目が悪いという問題点があった。
【0006】
また、特許文献2に開示された構成にあっては、背面側に配設された伸縮リンクによる前後方向の支持強度が比較的弱いため、中央カバー板を前方から押圧すると前後方向に揺動し易いものであった。
【0007】
本発明は、かかる問題点を解消するためになされたものであり、目地を覆う中央カバー板と、その左右両側の端部カバー板とを、地震のない常態で前面が略面一となるように配設することにより、美観に優れたものとし得るとともに、前後方向の支持強度が比較的強く、中央カバー板の前後方向の揺動を抑制し得る壁用目地カバー装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、目地を介して隣接する左右の建造物の側壁面に夫々固定されて、上下方向に延在する左右の固定枠と、左右方向の摺動路が上下に対設された複数の摺動基体と、各摺動基体の両摺動路に一端が夫々摺動可能に嵌挿され、他端が夫々前記左右の固定枠に枢結された複数対の支持杆と、目地の略中央で上下方向に延在し、前記各摺動基体に前後方向に挿通された支持軸の前端に支持されて、支持軸に装着された圧縮ばねによって後方向に付勢され、両外側縁に中央寄り斜め後方に向けて傾斜する傾斜受面が形成された中央カバー板と、目地の側部で上下方向に延在し、外側縁が前記左右の固定枠に夫々枢結され、その前面が前記中央カバー板の前面と略面一となる状態で配設されて、内側縁に前記中央カバー板の傾斜受面と同方向に傾斜する押圧傾斜面が形成された左右一対の端部カバー板と、該端部カバー板の背面に外側縁がスライド機構を介して左右方向に摺動可能に連結され、内側縁が前記中央カバー板の背面側に位置して抜け出し不能に保持された左右一対の中間カバー板と、各摺動基体に一端が夫々連結され、他端が左右の固定枠に夫々連結されて、中央カバー板を目地の略中央位置に保持する複数対の引張バネとを備えてなることを特徴とする壁用目地カバー装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上述したように、目地の略中央で上下方向に延在する中央カバー板と、該中央カバー板の左右両側で上下方向に延在する端部カバー板とを、その前面が略面一となる状態で配設することができるので、優れた美観を得ることができる。
【0010】
また、中央カバー板を前端で支持する支持軸を備えた各摺動基体を、各摺動基体の上下の両摺動路に一端が夫々摺動可能に嵌挿されて、他端が夫々左右の固定枠に枢結された複数対の支持杆によって支持させるようにしたことにより、中央カバー板の前後方向の支持強度が従来構成の伸縮リンクに比して格段に向上し、該中央カバー板の前後方向の揺動を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる壁用目地カバー装置1の施工状態を示す横断面図である。
【図2】同上の壁用目地カバー装置1を構成する左右の固定枠2,2と複数の摺動基体5との組み付け状態を示す正面図である。
【図3】図2におけるC−C線拡大断面図である。
【図4】端部カバー板29部分の拡大横断面図である。
【図5】中央カバー板20部分の拡大横断面図である。
【図6】中央カバー板20の一部切欠正面図である。
【図7】端部カバー板29と中間カバー板31の一部切欠正面図である。
【図8】図7におけるD−D線拡大断面図である。
【図9】(A)は建造物A,Bが近接方向に相対変位したときの壁用目地カバー装置1の作用説明図、(B)は建造物A,Bが離隔方向に相対変位したときの壁用目地カバー装置1の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施例を、図1〜図9に基づいて説明する。
本発明にかかる壁用目地カバー装置1は、図1に示すように、目地sを介して隣接する左右の建造物A,B間に配設されて、両建造物A,Bの側壁面x,x間の目地sを遮蔽するものである。
【0013】
建造物A,Bの対向する両側壁面x,xには、壁用目地カバー装置1を構成する左右の固定枠2,2が上下方向に延在させて夫々配設されている。該固定枠2,2は、側壁面x,xに当接される主片部2a(図4参照)と該主片部2aの後端から内方に突出する係合片部2bとを備えた断面L形に形成されており、各主片部2aが、側壁面x,xから突出された複数のアンカーボルト3と各アンカーボルト3に螺合されたナット4とによって両側壁面x,xに夫々固定されている。
【0014】
目地sの略中央部には、図2に示すように、複数の摺動基体5が上下方向に所定間隔で配設されている。尚、図2には三個の摺動基体5が図示されているが、二個またはさらに多くの摺動基体5を配設することも可能である。各摺動基体5は、上下に対設された左右方向の摺動路6,6を備えている。ここで、各摺動基体5は、図3に示すように、背面及び上下両面を覆う支持基板7と、該支持基板7の前面に固定された上下一対の型材8,8とからなり、各型材8に形成された上下で対向する凹溝9,9によって摺動基体5の各摺動路6が構成されている。
【0015】
各摺動基体5の摺動路6,6には、図2に示すように、左右一対をなす二本の支持杆10,10の一端が夫々摺動可能に嵌挿されており、各支持杆10,10の他端は、前記左右の固定枠2,2に配設されたヒンジ11,11に支持部材12,12を介して夫々前後方向に回動可能に枢結されている。ここで、各支持部材12は、図4に示すように、断面略コ字形に曲成された上下方向に長い帯板材からなり、その中間部12aがヒンジ11の回動片11aにボルト13とナット14によって固定されている。そして、該支持部材12の後部側の突出端12bに前記支持杆10の端部が固定されており、前部側の突出端12cは後述する端部カバー板29に配設されるスライド機構32の案内レール33の外端に嵌挿されている。
【0016】
また、各摺動基体5の背面側には上下方向に延在するバネ受け部材15が配設されている。該バネ受け部材15は、図5に示すように、各摺動基体5の背面に当接される主片部15aと、該主片部15aから斜め後方に拡開して突出する左右の係合片部15b,15bを備えている。主片部15aには、各摺動基体5に夫々対応する高さ位置から複数のガイド筒16が前方に突設されており、各ガイド筒16は、各摺動基体5の中央部に形成された前後方向の挿通孔17に後方から夫々嵌入されている。これによって、バネ受け部材15が各摺動基体5に取り付けられており、該バネ受け部材15によって各摺動基体5の相互間隔が保持されている。各ガイド筒16には、夫々前端が後述する中央カバー板20に固定される支持軸18が前後方向に進退可能に挿通されている。また、各支持軸18の後端は各摺動基体5の背面側に突出されており、その突出部に装着された圧縮ばね19の弾発力によって、各支持軸18が後方向に付勢されている。
【0017】
目地sの略中央部には、図1,図5に示すように、前記各摺動基体5の前面側に位置させて上下方向に延在する中央カバー板20が配設されている。該中央カバー板20は、目地幅の略3分の1の横幅寸法で縦長矩形状に形成されており、その背面側に補強フレーム21を備えている。該補強フレーム21は、左右両側に配設された断面クランク形の縦枠22,22と、該縦枠22,22に左右両端部が固定された複数の横枠23とにより、図6に示すように、正面視において略梯子状に形成されている。各横枠23は前記各摺動基体5に夫々対応する高さに位置しており、図3に鎖線で示すように、後壁部23aが前壁部23bに対して後方に離隔した型材によって構成されている。そして、図5に示すように、各横枠23の後壁部23aの中央部に形成された挿通孔25に前記各支持軸18が前方から夫々挿通され、該支持軸18の半球状頭部18aを後壁部23aの前面に当接させた状態で、背面側から支持軸18に螺合されたナット24の緊締作用を介して各支持軸18の前端に各横枠23が夫々固定されている。
【0018】
前記補強フレーム21の前面側には中央カバー板20が宛われ、該中央カバー板20がネジ止め等の固定手段を介して補強フレーム21に接合されている。これにより、中央カバー板20は、補強フレーム21を介して各支持軸18の前端に支持されており、図5に示すように、各支持軸18の後部に配設された圧縮ばね19の弾発力によって後方向に付勢されている。また、中央カバー板20の左右両側縁には、中央寄り斜め後方に向けて傾斜する傾斜受面26,26が上下方向に沿って形成されている。さらに、中央カバー板20の背面には、図6に示すように、補強を兼ねた左右方向の位置決め杆27a,27bが上下一対で固着されている。ここで、上部の位置決め杆27aは、補強フレーム21の最上部の横枠23の下部位置に対応させて配設されており、下部の位置決め杆27bは、補強フレーム21の最下部の横枠23の上部位置に対応させて配設されている。これにより、補強フレーム21に対する中央カバー板20の取り付け時に、該中央カバー板20の上下方向の位置決めが容易となるようにしている。
【0019】
また、各摺動基体5に取り付けられたバネ受け部材15の係合片部15b,15b(図5参照)には、左右一対をなす複数対の引張バネ28,28の一端が各摺動基体5に対応する高さ位置に夫々係合されており、各引張バネ28,28の他端は建造物A,Bの両側壁面x,xに配設された固定枠2,2の係合片部2b,2b(図4参照)に係合されている。そして、この複数対の引張バネ28,28の左右方向からの引張力によって中央カバー板20が目地sの略中央位置に保持されている。
【0020】
目地sの左右の側部には、上下方向に延在する端部カバー板29,29が左右一対で配設されている(図1参照)。該端部カバー板29,29は、図7に示すように、夫々目地幅の略5分の1の横幅寸法で縦長矩形状に形成されており、その各外側縁が前記左右の固定枠2,2にヒンジ11,11(図4参照)を介して夫々前後方向に回動可能に枢結されている。また、該端部カバー板29,29は、地震のない常態において、その前面が前記中央カバー板20の前面と略面一となる状態で配設されており、その各内側縁には前記中央カバー板20の傾斜受面26,26と同方向に傾斜する押圧傾斜面30,30(図4,図5参照)が形成されている。該押圧傾斜面30,30は傾斜受面26,26の背面側に位置しており、地震時に目地sの幅が狭くなると、押圧傾斜面30,30が傾斜受面26,26を外側方から押圧することによって中央カバー板20が前方に押し出されるようになっている。
【0021】
端部カバー板29,29の背面側には、上下方向に延在する中間カバー板31,31が左右一対で配設されている(図1参照)。各中間カバー板31,31は、図7に示すように、夫々目地幅の略5分の1の横幅寸法で縦長矩形状に形成されており、その各外側縁が夫々端部カバー板29,29の背面にスライド機構32,32を介して左右方向に摺動可能に連結されている。各スライド機構32は、各端部カバー板29の背面に上下方向に所定間隔を置いて固着された左右方向の複数の案内レール33と、中間カバー板31の外側縁の前面に固着されて、前記各案内レール33に夫々摺動可能に嵌合される複数の摺動部材34とによって構成されている(図8参照)。また、各中間カバー板31,31の内側縁は、図5に示すように、中央カバー板20の背面側に位置しており、その端部に前方突成された抜け止め縁35,35を中央カバー板20に内側方から当接させることによって抜け出し不能に保持されるようにしている。
【0022】
かかる構成にあって、地震時に、建造物A,Bが近接する方向に相対変位すると、端部カバー板29,29の各内側縁の押圧傾斜面30,30によって中央カバー板20の両外側縁の傾斜受面26,26が外側方から押圧されて、中央カバー板20が圧縮ばね19の弾発力に抗して前方に押し出されるとともに、端部カバー板29,29の内端側が中央カバー板20の背面側に進入することにより、図9(A)に示すように、その近接方向の相対変位に追従する。また、この状態から建造物A,Bが離隔する方向に相対変位すると、端部カバー板29,29の内端側が中央カバー板20の背面側から抜け出すとともに、中央カバー板20が圧縮ばね19の弾発力によって後方に引き戻されて、図1に示す常態に戻る。
【0023】
一方、図1に示す常態から建造物A,Bが離隔する方向に相対変位すると、図9(B)に示すように、該建造物A,Bとともに端部カバー板29,29が夫々外側方に移動して、その離隔方向の相対変位に追従する。この時、中間カバー板31,31は、その各内側縁が中央カバー板20の背面側に位置して抜け出し不能に保持されていることにより、中間カバー板31,31の各外側縁が、端部カバー板29,29の外側方への移動に伴い、スライド機構32,32を介して相対的に内側方に摺動する。これにより、中央カバー板20と端部カバー板29,29との間に生じる隙間を中間カバー板31,31によって遮蔽することができる。
【0024】
また、上記のような建造物A,Bの近接または離隔方向の相対変位に加えて、建造物A,Bが前後方向に相対変位すると、端部カバー板29,29の両外側縁及び各支持杆10の外端部が固定枠2,2に対してヒンジ11,11を介して前後方向に回動可能に枢結されていることにより、壁用目地カバー装置1全体が前後方向に傾斜して、建造物A,Bの前後方向の相対変位に追従する。
【0025】
そして、本発明によれば、目地sの略中央で上下方向に延在する中央カバー板20と、該中央カバー板20の左右両側で上下方向に延在する端部カバー板29,29とを、その前面が略面一となる状態で配設することができるので、優れた美観を得ることができる。
【0026】
また、中央カバー板20を前端で支持する支持軸18を備えた各摺動基体5を、各摺動基体5に設けられた左右方向の両摺動路6,6に一端が夫々摺動可能に嵌挿されて、他端が夫々左右の固定枠2,2に枢結された複数対の支持杆10,10によって支持させるようにしたことにより、中央カバー板20の前後方向の支持強度が従来構成の伸縮リンクに比して格段に向上し、該中央カバー板20の前後方向の揺動を確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0027】
A 建造物
B 建造物
s 目地
x 側壁面
1 壁用目地カバー装置
2 固定枠
4 摺動基体
5 摺動路
10 支持杆
18 支持軸
19 圧縮ばね
20 中央カバー板
25 傾斜受面
27 引張バネ
28 端部カバー板
29 押圧傾斜面
30 中間カバー板
31 スライド機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目地を介して隣接する左右の建造物の側壁面に夫々固定されて、上下方向に延在する左右の固定枠と、
左右方向の摺動路が上下に対設された複数の摺動基体と、
各摺動基体の両摺動路に一端が夫々摺動可能に嵌挿され、他端が夫々前記左右の固定枠に枢結された複数対の支持杆と、
目地の略中央で上下方向に延在し、前記各摺動基体に前後方向に挿通された支持軸の前端に支持されて、支持軸に装着された圧縮ばねによって後方向に付勢され、両外側縁に中央寄り斜め後方に向けて傾斜する傾斜受面が形成された中央カバー板と、
目地の側部で上下方向に延在し、外側縁が前記左右の固定枠に夫々枢結され、その前面が前記中央カバー板の前面と略面一となる状態で配設されて、内側縁に前記中央カバー板の傾斜受面と同方向に傾斜する押圧傾斜面が形成された左右一対の端部カバー板と、
該端部カバー板の背面に外側縁がスライド機構を介して左右方向に摺動可能に連結され、内側縁が前記中央カバー板の背面側に位置して抜け出し不能に保持された左右一対の中間カバー板と、
各摺動基体に一端が夫々連結され、他端が左右の固定枠に夫々連結されて、中央カバー板を目地の略中央位置に保持する複数対の引張バネと
を備えてなることを特徴とする壁用目地カバー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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