説明

壁面の補修構造

【課題】
壁面全体としての耐久性、仕上げ面の外観を向上し、工数の増加及び工期の短縮を図るようにした壁面の補修構造を提供すること。さらには、亀裂部分の補修において、U又はVカットを無くして、生活環境への影響を無くした壁面の補修構造を提供すること。
【解決手段】
壁面の補修構造において、壁面の亀裂部8に接着強度低下層(12)を有する亀裂補修層(9,17,12)を形成し、該亀裂補修層の上に浮き補修層(13〜15)を形成したことを特徴とする。
好ましくは、該接着強度低下層は、第1ネット12と、該第1ネットの少なくとも一部のネット開口を塞ぐためのテープ又は粘着剤とを有する。
更に好ましくは、該浮き補修層は、該亀裂補修層の上にモルタル層13を形成し、該モルタル層の上に第2ネット14を貼着し、該第2ネットをピン7で固定するものであることを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面に発生した亀裂部から、水分が侵入するのを防止すると共に、この水分の浸入に起因して壁面が剥離(浮き)及び脱落するのを防止した、壁面の補修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート壁、モルタル壁或はタイルやレンガ等の壁面(以下これらを総称して、単に壁面という)には、亀裂が発生する。この亀裂発生の原因の一つは、壁面内部に発生する内部応力が挙げられる。
この内部応力が発生する要因としては、壁面は、太陽熱にさらされる部分と、日陰部分や樹木の陰の部分等との間で温度差が生じ、この温度差により、壁面の内部に内部応力が生じる。
また、他の要因としては、壁面の施行時における乾燥収縮や地震等が挙げられる。
【0003】
そして、この亀裂部分から、例えば雨水が浸透した場合には、壁材を劣化させたり、鉄筋コンクリートの場合には、鉄筋を腐食させたりする。
また、浸透した水分が、太陽熱等により熱膨張した場合には、壁面が浮き上がり、所謂壁面が剥離し脱落する。
このように、壁面の亀裂と壁面の浮きには、互いに密接な関係がある。また、通常の壁面は、下地層の上に壁面表面の美観を保つための仕上げ層を塗付している。
【0004】
従って、仕上げ層と下地層との間の温度差(熱膨張差)及び仕上げ層の日陰部分と日当たり部分との間の熱膨張差が有機的に関係して、仕上げ層が剥離する。即ち、仕上げ層のひび割れが目視できなくても、仕上げ層に浮きが発生していることがある。
【0005】
技術用語として剥離(浮き)は、剥がれ落ち(浮き上がり)を意味するが、この技術において、剥離(浮き)とは、両者が一体化していない状態を言い、密着は、剥離(浮き)が生じているということである。
従って、目視により確認ができない、鏡面と鏡面とを合わせたような場合でも、両者は一体化していないので、剥離(浮き)が生じているということになる。
【0006】
従来では、壁面の亀裂と、壁面の浮きは、それぞれ別の技術的な原因であると捉えて、壁面の補修をするよにしていた。
即ち、壁面の浮きに対しては、図7に示すように、壁面1に、フィラー2を塗布してタイル3を固定し、このタイル3の表面にネット5を貼着するための下地材4を塗布して、このネット5をピン7で押えるようにしていた。
そして、ピン7の頭が見えなくするために、仕上げ層6を塗布していた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2796696号公報
【0007】
また、亀裂からの水分の浸入を防止するための工法としては、図8に示すように、亀裂部分8にシーリング材9を塗布し、このシーリング材9の上にネット5を貼着するためのフィラー10を塗布してネット5を埋設した補修複合層を形成したものがある。
このシール工法の趣旨は、次の通りである。
即ち、壁面は、太陽熱によって熱膨張及び収縮する。或は、乾燥収縮や地震によって、収縮する。これによって、亀裂部分8の亀裂幅は、変化する。この亀裂幅の変化によって、シーリング材9及び補修複合層には、引っ張り及び圧縮の繰り返し応力が発生し、シーリング材9及び補修複合層自体にも亀裂が生じる。
そこで、この補修工法は、ネット5を埋設した補修複合層の強度によって、このシーリング材9及び補修複合層の亀裂の発生を強制的に阻止するようにしたものである。
【0008】
然しながら、この従来の補修工法は、次のような改良すべき問題がある。
即ち、熱膨張又は収縮によって亀裂を発生させる引っ張り及び圧縮力は、補修複合層の引っ張り及び圧縮強度よりも大きいので、補修複合層自体に亀裂が伝播するという問題がある。
また、補修複合層の強度を十分に大きくするためには、補修複合層の層厚を厚くしなければならない。然しながら、補修複合層の層厚を厚くした場合には、補修複合層が部分的に盛り上がり、仕上げ面の外観が損なわれるという問題がある。
【0009】
また、他の従来例としては、図8において、亀裂した壁面を、亀裂部分8に沿ってU又はVカット11し、このカット部にシーリング材9を充填する。そして、この上にポリエステル不織布(ネット5に相当)をポリマーセメントモルタル(フィラー10に相当)で貼り付け、更にその上に、高引張り強度のガラス繊維ネットを張って、ポリマーセメント10’を塗布するものが開示されている(特許文献2)。
【特許文献2】特開平8−28063号公報
【0010】
後者の従来例も前記従来例と同様に、ネットを埋設した補修複合層を使用し、亀裂を強制的に抑制するようにしているので、同様の改良すべき問題がある。
また、後者の従来例においては、亀裂した壁面を、亀裂に沿ってU又はVカットするので、次のような問題がある。
即ち、亀裂した壁面を、亀裂に沿ってU又はVカットした場合には、多くの塵埃が発生すると共に、騒音も発生し、作業環境が悪いという問題がある。また、多くの場合、壁面の補修を行う建築物は、生活環境内にある。従って、塵埃及び騒音の発生は、生活環境に悪影響を与えるという問題がある。
また、亀裂した壁面を、亀裂に沿ってU又はVカットする工程が必要であるので、補修する工期が長くなるという問題がある。
【0011】
このように従来にあっては、亀裂と浮きの補修を別個に行っていたので、次のような改良すべき問題がある。
先ず、亀裂の補修に関する第一の問題点として、亀裂の発生は、自然現象的に発生するので、目視により亀裂を確認できる現段階ではよいが、将来発生する可能性が多分にあり、その都度補修をしなければならず、壁面全体としての耐久性の点で問題がある。
第二の問題点として、図8に示す亀裂の補修は、補修した層が部分的に盛り上がり、仕上げ面の外観が損なわれるという問題がある。
第三の問題点として、この部分的な盛り上がりを少しでも軽減するために、はけ引きという工程が必要になり、補修のための工数が掛かるという問題がある。
第四の問題として、熱膨張又は収縮によって亀裂を発生させる引っ張り及び圧縮力は、補修複合層の引っ張り及び圧縮強度よりも大きいので、補修複合層自体に亀裂が伝播し、補修複合層自体に亀裂が発生し、壁面全体としての耐久性の点で問題がある。
【0012】
次に、浮きに関する第一の問題点として、この壁面の浮きも自然現象的に発生するので、例えば、亀裂の補修部分を含んで浮きが発生した場合は、亀裂部分の補修が損なわれることがあり、再度亀裂部分の補修を行って、図7に示す浮きに対する補修をする必要がある。
この亀裂部分の再補修は、先ず図8に示す補修部分を除去(はつり工程)し、その後に補修する必要があるので、余分な工程が掛かるという問題がある。第二の問題は、上記はつり工程において、壁面が浮いていることから、はつり工程での衝撃により浮いている壁面が脱落する可能性がある。もしも、壁面が脱落した場合には、補修工事が大掛かりになり、工期が長くなると共に、経済的な損失が大きくなるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、壁面全体としての耐久性、仕上げ面の外観を向上し、工数の増加及び工期の短縮を図るようにした壁面の補修構造を提供することを目的とする。
また、亀裂部分の補修において、U又はVカットを無くして、生活環境への影響を無くすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、壁面の補修構造において、壁面の亀裂部に接着強度低下層を有する亀裂補修層を形成し、該亀裂補修層の上に浮き補修層を形成したことを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の壁面の補修構造において、該接着強度低下層は、第1ネットと、該第1ネットの少なくとも一部のネット開口を塞ぐためのテープ又は粘着剤とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の壁面の補修構造において、該接着強度低下層は、第1ネットの周囲にテープ又は粘着剤を有しない耳部を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の壁面の補修構造において、該亀裂補修層は、ポリマーセメントを有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の壁面の補修構造において、該亀裂補修層の該亀裂部側にはシーリング材が配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の壁面の補修構造において、該浮き補修層は、該亀裂補修層の上にモルタル層を形成し、該モルタル層の上に第2ネットを貼着し、該第2ネットをピンで固定するものであることを特徴する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明により、壁面の補修構造において、壁面の亀裂部に接着強度低下層を有する亀裂補修層を形成し、該亀裂補修層の上に浮き補修層を形成しているため、亀裂補修層内の接着強度低下層により、亀裂部から亀裂補修層内を伝播する亀裂を遮断するため、亀裂が浮き補修層まで伝播することを抑制でき、浮き補修層に亀裂が形成されることを防止し、外部からの水分の浸入等を防止することができる。
【0021】
しかも、接着強度低下層を有する亀裂補修層により亀裂が生じにくくなるため、亀裂補修層による水の進入防止を確実にできると共に、この亀裂補修層の上に浮き補修層を形成することで、より一層、水の浸入による壁面の浮き等を未然に防止することができる。
さらに、自然現象的に将来発生する可能性がある微細な亀裂は、浮き補修層によって保護することができるので、壁面全体としての耐久性を向上することができる。
【0022】
また、亀裂補修層の上に浮き補修層を形成するようにしたので、亀裂補修層が部分的に盛り上がっても、浮き補修層によってその盛り上がり部分が覆われて平滑面に仕上げることができるので、仕上げ面の外観が損なわれることはなく、更に、この部分的な盛り上がりを少しでも軽減するための、はけ引きという工程が不必要になり、工数を削減することができる。
【0023】
さらに、接着強度低下層を介在して亀裂補修層を形成したので、自然現象的に亀裂の補修部分を含んで浮きが発生しても、亀裂部と接着強度低下層との間で剥離し、浮きに対して、例えば亀裂部に配置されたシーリング材などが保護されるため、亀裂部分の再補修の必要がなくなり、従来のような補修部分を除去(はつり工程)する工程、及びこの工程に伴う壁面の脱落もなく、補修工事の工期を短縮すると共に、経済的な損失もない。
【0024】
請求項2に係る発明により、接着強度低下層は、第1ネットと、該第1ネットの少なくとも一部のネット開口を塞ぐためのテープ又は粘着剤とを有するため、簡単な構成で接着強度低下層を挟む両側の層間の接着力を容易に遮断することができ、一方側から他方側に亀裂が伝播すること阻止することが可能となる。また、接着強度低下層の施工も極めて簡便に行うことが可能となる。
【0025】
請求項3に係る発明により、接着強度低下層は、第1ネットの周囲にテープ又は粘着剤を有しない耳部を有するため、耳部の接着強度をより高くして、テープ部分又は粘着剤塗布部分を集中的に引っ張る様に構成することで、テープ部分又は粘着剤塗布部分とこれらを挟む各層(亀裂補修層の他の部分又は亀裂補修層に接する他の層)との間の剥離を積極的に促すことが可能となる。そして、亀裂発生時に亀裂補修層に働く力を緩和して、壁面の亀裂に対する亀裂補修層の追従性を向上したので、亀裂補修層の亀裂を無くすことができ、壁面に発生した亀裂部のシールを確実に行うことができる。また、亀裂発生時に亀裂補修層に働く力を緩和するため、亀裂補修層を薄くすることができ、補修後の壁面の外観をよくすることができる。
【0026】
請求項4に係る発明により、亀裂補修層は、ポリマーセメントを有するため、ポリマーセメント自体が弾力性を有し、接着強度低下層の少なくとも一方側に塗付することで、接着強度低下層による亀裂発生時に亀裂補修層に働く力の緩和効果と相俟って、壁面の亀裂に対する亀裂補修層の追従性を向上することが可能となる。また、これにより亀裂補修層の亀裂を無くすことができ、壁面に発生した亀裂部のシールを確実に行うことができる。そして、亀裂発生時に亀裂補修層に働く力を緩和するので、亀裂補修層を薄くすることができ、補修後の壁面の外観をよくすることができる。
【0027】
請求項5に係る発明により、亀裂補修層の亀裂部側にはシーリング材が配置されているため、亀裂部における水の浸入防止をより高めることが可能となる。また、仮に、シーリング材での亀裂が発生しても、亀裂補修層により亀裂が浮き補修層まで伝播せず、浮き補修層による水の浸入を防止することができる。このような構成のため、シーリング材の強度は要求されず、補修時の亀裂部をU又はVカットの整形する作業などを省略することができる。
【0028】
請求項6に係る発明により、浮き補修層は、亀裂補修層の上にモルタル層を形成し、該モルタル層の上に第2ネットを貼着し、該第2ネットをピンで固定するため、浮き補修層を強固に構成でき、自然現象的に将来発生する可能性がある微細な亀裂は、浮き補修層によって保護することができ、壁面全体としての耐久性、仕上げ面の外観を向上し、工数の増加及び工期の短縮を図ると共に、余分な材料の使用をなくして、経済的な損失を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る壁面の補修構造について詳細に説明する。
本発明は、壁面の補修構造において、壁面の亀裂部に接着強度低下層を有する亀裂補修層を形成し、該亀裂補修層の上に浮き補修層を形成したことを特徴とする。
図1及び図2に示すように、壁面1の亀裂部8にシーリング材9を充填し、このシーリング材9の上にフィラー17を塗布し、このフィラー17に接着強度低下層の機能を有する第1ネット12を貼着して、亀裂補修層を形成している。
この第1ネット12の上に、浮き補修層として、フィラー13を塗布して平らな面を形成し、この平らな面に第2ネット14を貼り、この第2ネット14をピン7によって押えるようにする。そして、必要に応じて、このピン7の頭が隠れるように、仕上げ材15を塗布する。
ここでフィラーとは、モルタル、セメント、水、骨材(砂)に樹脂を混入した樹脂混入モルタル或はポリマーセメントである。
【0030】
図3に示す実施例は、図2に示した実施例の仕上げ材15を省略した工法であり、第2ネット14をフィラー13に埋設している。
これにより、仕上げ材15を塗布する工程を無くし、補修施行工期の短縮及び材料を少なくすることができる。
また、図4に示す実施例は、図2及び図3に示した実施例のフィラー17を省略し、第1ネット12をシーリング材9に直接貼着するようにして、補修施行工期の短縮及び材料の節減を図るようにしたものである。
【0031】
上記図2〜図4に示した実施例において、第1ネット12は、接着強度低下層の機能を有している。具体的には、図5に示すように、両面テープ16が第1ネット12の片面に貼られている。そして、図2及び図3に示す実施例では、このテープ16が、フィラー17の表面に当たるように、第1ネット12を貼着する。このように、テープ16がフィラー17の表面に当たるように、第1ネット12をセットし、フィラー17で固定することにより、シーリング材9とフィラー17とが固化した時に、テープ16とフィラー17との間の一体的な固着を無くし(両者間の接着強度を小さくする)、例えシーリング材9及びフィラー17に亀裂8が伝播しても、フィラー13まで伝播しないようにしている。また、図4に示す実施例では、このテープ16が、シーリング材9の表面に当たるように、第1ネット12を貼着する。このように、テープ16がシーリング材9の表面に当たるように、第1ネット12をセットし、フィラー13で固定することにより、シーリング材9とフィラー13とが固化した時に、テープ16とシーリング材9との間の一体的な固着を無くし(両者間の接着強度を小さくする)、例えシーリング材9に亀裂が発生しても、フィラー13まで伝播しないようにしている。
【0032】
また、接着強度低下層は、図5に示すように、幅W1の第1ネット12に、幅W2のテープ16を貼着したものである。この幅は亀裂部に相当する部分に貼り付け、効果を発揮するものであることから、ある程度の幅が必要である。
つまり発生した亀裂部は通常は直線ではないため、この上にテープ16を貼り付けようとするとある程度の幅が必要である。したがってこの幅W1及びW2は、亀裂部の状況によって決定する。また、テープ16の幅が狭いと、ひび割れ追従性が低下し、逆に幅が広いと亀裂部に相当する部分の上に確実に貼ることが出来るが、テープ16によるフィラーやシーリング材との接着面積が広くなり、接着強度低下層全体の接着強度が低くなり過ぎ、亀裂補修層の強度が低下する。また、幅W1,W2が広くなるとコストが高くなる。従って、幅W1及びW2は、ひび割れ追従性、亀裂補修層の接着強度及びコストなどを総合的に考慮して設定することが好ましい。一例としては、幅W1=10cm、W2=5cmが最適である。然しながら、W1=W2であっても、テープ16としての機能を得ることができる。図5では、不織布などの第1ネット12にテープ16を貼着したものを示しているが、テープ16の代わりに、不織布にアクリル系粘着剤を直に塗布してもよい。要するに、フィラーなどの塗材が透過しなければよく、テープ16又はアクリル系粘着剤に限定されない。
【0033】
ここで、ひび割れ追従性とは、壁面が太陽熱によって膨張収縮し、亀裂部の隙間が変化して、亀裂補修層や浮き補修層など補修部分に発生する引っ張り圧縮の応力を緩和することを言う。
接着強度(付着強さ)とは、材料の凝集破壊、界面剥離、界面簿層剥離などをいい、例えば、図1又は2のように、接着強度低下層(12を含む)と下地材であるフィラー17、又は接着強度低下層(12を含む)とフィラー13との間の界面剥離、界面簿層剥離するときの強さである。そして、ひび割れ追従性は、接着強度低下層を構成するテープの界面剥離又は界面簿層剥離によって達成される。
【0034】
図5に示すように、幅W1の第1ネット12に幅W2(W2<W1)のテープ16を貼着(又は粘着剤を塗付)することにより、第1ネットの周囲にテープ(又は粘着剤)のない耳部を形成する。即ち、耳部を下地材であるフィラー17に埋設することにより、テープ16の付着強さは、弱められた状態で下地材に装着することができる。即ち、下地材が固化していない状態では、下地材が耳部の網目を透過する。これにより、耳部は、下地材に埋設された状態になる。一方、テープ16が貼着されている部分は、下地材の透過はない。従って、テープ16の付着強さは、耳部の付着強さよりも弱い状態で、テープ16は、下地材であるフィラー17に装着される。テープ16の装着範囲は、図2に示すように、亀裂部8に相当する部分を覆う範囲であればよい。図2の実施例では、シーリング材9の部分である。テープ16の材料としては、塗材を透過しない物を使用するのが好ましい。
【0035】
上記実施例において、シーリング材9の上に下地材であるフィラー17を塗布し、次にその上に耳部を形成したテープを介在させるようにしたが、シーリング材9の上に耳部を形成した第1ネットを被せ、その上から下地材であるフィラーを塗布してもよい。これにより、下地材は、耳部の部分を透過して、耳部が埋設された状態で、テープが壁面に固着される。そして、テープの部分は、下地材が透過しないので、テープとシーリング材との間及び下地材とテープとの間の接着強さが弱く、下地材と耳部との間の接着強さを強くした状態で、テープを亀裂部に相当する部分に介在させることができる。シーリング材を塗布しない場合には、綺麗にした壁面に下地材であるフィラーを直に塗布し、その上に耳部を形成したテープを被せるようにする。このようにしても、下地材とテープとの間の接着強さが弱く、下地材と耳部との間の接着強さを強くした状態で、テープを亀裂部に相当する部分に介在させることができる。
【0036】
また、上記実施例では、テープを第1ネット12の上面に配置した状態で、テープを介在させるようにしているが、テープを第1ネット12の裏面には位置した状態で、テープを介在させるようにしてもよい。これによっても、下地材であるフィラーは、耳部の部分を透過し、テープの部分は透過しないので、下地材とテープとの間の接着強さが弱く、下地材と耳部との間の接着強さを強くした状態で、テープを亀裂部8に相当する部分に介在させることができる。
【0037】
次に、浮き補修層について説明する。
フィラー13の塗布厚さは、亀裂補修層の盛り上がりが見えない厚さとし、平滑面になるように仕上げる。そして、図2に示す実施例では、このフィラー13の平滑面に、第2ネット14を貼着し、この第2ネット14をピン7にて固定する。そして、このピン7の頭が隠れるまで、仕上げ材15を塗布する。
また、図3及び図4に示す実施例では、フィラー13の塗布厚さは、亀裂補修層の盛り上がりが見えない厚さに塗布した後、フィラー13が硬化する前にネット14を貼着し、ピン7を打ち込んで、ピン7の頭部が見えないように仕上げ塗布する。このピン7は、壁面1まで強固に打ち込む。このフィラー13とネット14及びピン7を総称して、浮き補修層という。又、ピン7の打ち込み間隔は、壁面の構成によって一定ではないが、一例を示せば、一平方メートル当たり四本程度である。
【0038】
亀裂補修層や浮き補修層で使用される塗材としては、モルタルなどのフィラーが利用され、特に好ましくは、弾性に優れたもの、例えば、ポリマーセメント(系)材料であるポリマーセメント系塗膜防水材を使用する。通常エマルジョン樹脂とセメント(ポルトランド、アルミナ等)を含んだ骨材を混合し、塗布する事により、下地調整材や防水塗膜等として使用する。エマルジョン樹脂の種類及び量、セメント、骨材の種類及び量により、かなり広範囲の特性(弾性)のものが出来る。
亀裂補修層では、ひび割れ追従性を改善するため、特に、ポリマーセメントが好適に利用される。さらに、亀裂補修層などで用いる塗材として、粉材に対するエマルジョンの樹脂量が10〜100%のポリマーセメント系塗材であることがより好ましい。
【0039】
本発明の壁面の補修構造の作用及び効果について説明する。
亀裂8は、太陽熱等により日影部分と日当たり部分で温度差が生じることにより、壁面1に内部応力が発生し、この内部応力によって亀裂が発生する。また、この亀裂8は、内部応力が集中する部分に発生し、一旦亀裂8が発生すると、壁面1の内部応力が亀裂8によって吸収されて減少し、壁面1全体の内部応力が均一化される。従って、建築物の周囲の環境が変わらない限り、日影部分と日当たり部分での温度差の条件は変わらず、将来にかけて他の部分への大きな亀裂の発生は起こらないと考えられる。また、乾燥収縮の場合も同様である。即ち、一定の期間が過ぎれば、亀裂8の発生はそれ以上起らず、安定した状態になる。
【0040】
そこで先ず、目視可能な亀裂8にシーリング材9を充填する。亀裂8の発生が安定した状態では、目視により確認できる亀裂8以外に亀裂が発生しないと考える。また、他の部分に亀裂が発生したとしても、それは極めて微小であり、この微小亀裂は、フィラー13がネット14及びピン7を介して、壁面1に密着しているので、浮き補修層にて保護することができ、この微小亀裂からの水分の浸入を防止することができる。
【0041】
図6は、図2及び図3に示した実施例において、内部応力の解析を模式的に示した図である。図において、亀裂8の深い部分の内部応力Aは小さく、壁面1の表面に近い内部応力Bは大きい。そして、内部応力Bは、シール部材9に内部応力Cとして伝播される。又、内部応力が安定した状態では、シーリング材9に伝播される内部応力Cは、ほぼ零である。今仮に、内部応力Bの伝播により、シーリング材9が収縮し、フィラー17に伝播したとしても、フィラー17とネット12に貼着されたテープ16は、異種材料の性質上一体結合はなく、両者の間で滑りを生じ、フィラー17の収縮はフィラー13にまで伝播されない。従って、フィラー13には、シーリング材9の内部応力Cに起因する亀裂の発生はない。図4に示す実施例も、同様の作用及び効果がある。
【0042】
一方において、亀裂補修層は、浮きの力Dに対して、第2ネット14及びピン7にてフィラー13を強固に壁面1に圧着した浮き補修層にて補強された状態になっているので、亀裂補修層の上記機能を維持することができる。仕上げ材15(図2)やフィラー13に亀裂が発生したとしても、亀裂8への水分の浸入はない。また、テープ16に非透水性のものを使用した場合には、亀裂8への水分の浸入はない。また、亀裂8を含む部分に浮きが発生しても、浮き補修層にて亀裂補修層が保護されて、亀裂補修層の上記機能が維持されるので、亀裂8への水の浸入はない。
【0043】
壁面の補修工事において、亀裂補修層は、フィラー13にて覆われるので、シーリング材9の盛り上がりを低くするためのはけ引き工程が不要であり、補修工数を削減し、且つ、工期を短縮することができる。また、亀裂補修層の上に浮き補修層を重ねて施行するので、従来のような浮き補修層の脱落はなく、工数を低減することができる。
そして、テープ16を介在することによって、シーリング材9の亀裂を許容することができるので、従来のように、亀裂補修層の強度でシーリング材9の亀裂を防止するのとは異なり、従来のようなU又はVカットを不要にし、騒音や塵埃の発生を無くして、生活環境への影響を無くすことができる。
さらに、テープによって応力の伝播が緩和されるので、亀裂補修層や浮き補修層などを構成するシーリング材,下地材,テープ固定部分、上塗及び仕上げ塗りなどは、従来のような強度を必要とせず、これらの層を薄くすることができ、補修個所の盛り上がりを低くして、補修後の壁面の外観を損なうことはない。更に、下地材、テープ固定部分,上塗及び仕上げ塗りの端部については、壁面との間の段差を無くすように構成する場合には、補修後の壁面の外観を損なうことはない。
特に、耳部を有する第1ネット及び第2ネットを埋設した所謂ダブルネット構造にし、補修部分の引張り強さを強くしたので、補修後の亀裂発生を防止し、補修後の壁面の外観を損なうこともない。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の壁面の補修構造の特徴である、接着強度低下層を含む亀裂補修層によるひび割れ追従性についての試験例を示す。なお、以下の試験例は、本発明者らによる先の出願(特許文献3)にも開示されているものである。
試験に供した試験体を、図9及び図10に示す。図9に示す試験体は、シーリング材を塗布したもの、図10の試験体は、シーリング材を塗布しないものである。図9に示す試験体は、厚さ3mmのスレート板を突き合わせ、突合せ部にシーリング材を塗布し、シーリング材の上に下地材、接着強度低下層となる耳つきテープ、ネット固定層、ネット、上塗を施したものである。図10に示す試験体は、シーリング材を塗布しない以外は、図9に示す試験体と同じである。
【特許文献3】特願2006−135529号(出願日:平成18年5月15日)
【0045】
(表中の用語の説明)
シーリング材には一成分形ポリウレタンシーリング材を使用し、下地材、ネット固定層、上塗には、エマルジヨン液材(エチレン酢酸ビニル系樹脂53%)、セメント骨材(アルミナセメント、珪砂等)及び水の配合割合を変えた二種類の塗材を使用した。表中において、配合割合は、エマルジヨン液材:セメント骨材:水を14:9:1.5とした塗材を配合〔1〕で示し、21:9:3.0とした塗材を配合〔2〕で示す。
【0046】
表中において、処理クロス複合ネットとは、図5に示した耳部を有するテープ、所謂、耳つきテープのことである。
またネット〔5〕とは、5mm×5mmの網目のネットであり、このネットにテープを貼着したものである。同様にネット〔3〕とは、3mm×3mmの網目のネットであり、このネットにテープを貼着したものである。
【0047】
(ひび割れ追従試験)
図9(シーリング材を塗布したもの)及び図10(シーリング材を塗布しないもの)に示す二つの試験体は、次のようにして作製した。先ず、図9に示す試験体は、二枚のスレート板を付き合わせ、裏面に布テープを貼り付けて二枚のスレート板を固定する。次に、スレート板の突合せ部に、厚さ2mm幅20mmのウレタン(シーリング材)を塗布する。次に、シーリング材が硬化後、その上に塗材を塗布する。その上に耳つきテープを貼り付け、塗材を塗布する。そして、放置して乾燥後、更に塗材を塗布した。この塗材は、配合〔1〕と配合〔2〕の二種類である。従って、このシーリング材を塗布した試験体は、塗材の異なる二種類を作製したことになる。
【0048】
一方、図10に示す試験体は、二枚のスレート板を付き合わせ、裏面に布テープを貼り付けて二枚のスレート板を固定する。次に、スレートの突合せ部に塗材を塗布する。その上に耳つきテープを貼り付け、塗材を塗布する。そして、放置して乾燥後、更に塗材を塗布した。この塗材は、配合〔1〕と配合〔2〕の二種類である。従って、このシーリング材を塗布しない試験体は、塗材の異なる二種類を作製したことになる。上記図9及び図10に示した試験体の硬化養生は、恒温室(20℃、65%RH)の条件に放置して、14日間硬化養生をした。
【0049】
ひび割れ追従性の測定は、上記試験体を引っ張り試験機に装着して行った。装着は、スレート板の突合せ部が中心になるように引っ張り試験機のチャックに把持させた。そのチャック間隔は、24cmとした。そして、5mm/分の速度で引っ張り、塗材の表面にひび割れが生じたときのスレート板の突合せ部の開き寸法を測定した。
【0050】
(付着強さ試験)
コンクリート板(300×300×30mm)の表面のレイタンスをサンドペーパで除去して清浄な面とする。その上にクラック(ひび割れ)を想定した線を引く。この線を中心に幅2cmより広い目にシーリング材のプライマーを塗布し、この上に−成分形ポリウレタンシーリング材を、厚さ2〜3mm、幅約2cmの広さに処理し硬化させる。又、シーリング材を処理しないコンクリート板も用意する。シーリング材を処理したコンクリート板及び処理無しのコンクリート板に、混合〔1〕又は混合〔2〕の塗材を線を中心に10cm幅程度に塗布し、未硬化のままでこの上から耳つきテープを直接貼り付ける。この耳つきテープの上に混合〔1〕又は混合〔2〕の塗材を塗布し、暫く放置して乾燥硬化させる。さらにその上に同じ塗材を塗布し、試験体とする。硬化養生は、恒温室(20℃、65%RH)の条件に放置して14日間硬化養生を行った。
【0051】
付着強さの測定は、建研式引張試験機を用いて接着試験を実施し、次の付着強さを夫々確認した。接着試験を実施した個所は、(1)塗材のみを塗工している個所、(2)塗材とネットを複合している個所、(3)塗材、ネット、不織布を複合している個所、(4)塗材、ネット、不織布にテープを貼着を複合している個所、(5)塗材、不織布にテープを貼着、シーリング材を複合した個所である.
【0052】
次に、試験の結果について解説をする。表1〜表3は、接着強度低下層である耳つきテープを使用した場合の、シーリング材の有無及び温度と、ひび割れ追従性との関係を示している。表1〜表3の試験No.1,2を見た場合に、ひび割れ追従性は殆ど同じであり、各温度に対して良好な追従性を示している。また、各温度において、シーリング材の処理が無いほうが、追従性が良好である。また、表1〜表3において、試験No.1,2と、3,4対比した場合に、配合〔l〕のほうが配合〔2〕よりも追従性が良好であり、塗材の配合が追従性に影響していることがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
次に、表4について見ると、処理クロスの欄で、有り(A)は、塗材に関係なく付着強さが極度に弱くなっている。この表中で、(A)は不織布にテープを貼着したもの、(B)は、不織布のみでテープを貼着していないものを示す。
【0057】
【表4】

【0058】
(総合的評価)
表1〜表3において、シーリング材の有無及び塗材の配合に多少の影響はあるが、接着強度低下層である耳つきテープを使用することにより、温度に関係なくひび割れ追従性が約4mmと大きな値を示しており耳つきテープの効果を確認することができる。そして、これを裏付けるように、表4では、耳つきテープの使用により、付着強さを極端に低くすることができる。即ち、表1〜表3と表4から言えることは、付着強度をテープの部分で部分的に低くすることにより、ひび割れ追従性が良好になると言うことができる。
また、表1〜表4の結果から、シーリング材を塗布した場合よりも、シーリング材が無い方がひび割れ追従性が良好であり、同様の作用及び効果も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明によれば、壁面全体としての耐久性、仕上げ面の外観を向上し、工数の増加及び工期の短縮を図るようにした壁面の補修構造を提供することができる。
また、亀裂部分の補修において、U又はVカットを無くして、生活環境への影響を無くした壁面の補修構造を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の縦断面図である。
【図3】他の実施例を示す縦断面図である。
【図4】他の実施例を示す縦断面図である。
【図5】テープ付きネットの平面図である。
【図6】亀裂部における内部応力を解析した模式図である。
【図7】従来例の縦断面図である。
【図8】他の従来例の縦断面図である。
【図9】試験体(シーリング処理有り)を示す図である。
【図10】試験体(シーリング処理無し)を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 壁面
2 フィラー
3 タイル
4 下地材
5 ネット
6 仕上げ材
7 ピン
8 亀裂
9 シーリング材
10 フィラー
11 Vカット部
12 ネット
13 フィラー
14 ネット
15 仕上げ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面の補修構造において、
壁面の亀裂部に接着強度低下層を有する亀裂補修層を形成し、
該亀裂補修層の上に浮き補修層を形成したことを特徴とする壁面の補修構造。
【請求項2】
請求項1に記載の壁面の補修構造において、該接着強度低下層は、第1ネットと、該第1ネットの少なくとも一部のネット開口を塞ぐためのテープ又は粘着剤とを有することを特徴とする壁面の補修構造。
【請求項3】
請求項2に記載の壁面の補修構造において、該接着強度低下層は、第1ネットの周囲にテープ又は粘着剤を有しない耳部を有することを特徴とする壁面の補修構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の壁面の補修構造において、該亀裂補修層は、ポリマーセメントを有することを特徴とする壁面の補修構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の壁面の補修構造において、該亀裂補修層の該亀裂部側にはシーリング材が配置されていることを特徴とする壁面の補修構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の壁面の補修構造において、該浮き補修層は、該亀裂補修層の上にモルタル層を形成し、該モルタル層の上に第2ネットを貼着し、該第2ネットをピンで固定するものであることを特徴する壁面の補修構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−97251(P2009−97251A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270725(P2007−270725)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(504237049)株式会社サンゼオン (5)
【Fターム(参考)】