変位制御材の最適剛性設定方法
【課題】軟弱地盤の沈下や水平変形を制御し抑止するための変位制御材の最適剛性を容易に設定する。
【解決手段】原地盤の面積に対する変位制御材の設置面積の比である面積改良率aと、原地盤の剛性Esに対する変位制御材(沈下制御杭)の剛性Epとの比Ep/Esとの関係を、変位制御材を設置した後における原地盤の許容変位量(正規化沈下量B)をパラメータとして予め解析により求めておき、該関係に基づいて変位制御材の最適剛性を面積改良率ごとに設定する。変位制御材としての沈下制御杭を設置した後における原地盤の許容沈下量を、沈下制御杭の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量に基づいて設定する。沈下制御杭の最適剛性を予め決定した回帰式およびチャートにより設定する。
【解決手段】原地盤の面積に対する変位制御材の設置面積の比である面積改良率aと、原地盤の剛性Esに対する変位制御材(沈下制御杭)の剛性Epとの比Ep/Esとの関係を、変位制御材を設置した後における原地盤の許容変位量(正規化沈下量B)をパラメータとして予め解析により求めておき、該関係に基づいて変位制御材の最適剛性を面積改良率ごとに設定する。変位制御材としての沈下制御杭を設置した後における原地盤の許容沈下量を、沈下制御杭の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量に基づいて設定する。沈下制御杭の最適剛性を予め決定した回帰式およびチャートにより設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟弱地盤の沈下や水平方向の地盤変位を抑止するための変位制御材を軟弱地盤中に設置するに際して、その変位制御材の剛性を最適に設定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、軟弱地盤の沈下や水平方向の地盤変位を制御し抑止するために、各種の杭体や杭状ないし壁状の地盤改良体を変位制御材として軟弱地盤中に設置する技術が知られている(たとえば特許文献1〜4参照)。
【0003】
これは、軟弱地盤上に建物や構造物を設置するに際し、あるいは軟弱地盤中に山留め壁等の地中構造物を施工するに際し、たとえば図21〜図22に模式的に示すように、軟弱層としての原地盤1中に変位制御材2としての各種の杭体や地盤改良体を形成することによって原地盤1の沈下や水平変位を抑止するものである。
この場合、変位制御材2としては各種材質の杭体の他、たとえばセメント系地盤改良材や薬液の注入による地盤改良体が採用されることも多い。
また、変位制御材2を杭の形態で設置する場合には、その断面形状はたとえば図22(a)に示すような中実円形断面や(b)に示すような中空管状断面、あるいは(c)に示すような中実角形断面等、任意の形状とされ、そのような変位制御材2を水平2方向に適宜の間隔で配列するとともに、図21に示すように原地盤1の下層に安定な良質層3がある場合には変位制御材2の先端を良質層3に根入れすることが通常である。さらに、図示は省略したが壁状の変位制御材を2方向に格子状に組んだ形態で設けることもある。なお、図21における符号4は原地盤1上に設けたスラブである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−196378号公報
【特許文献2】特開2008−297802号公報
【特許文献3】特開2009−150075号公報
【特許文献4】特開2001−355237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような変位制御材2により原地盤1の沈下や水平変位を抑止する場合、変位制御材2による変位抑止効果を確実かつ効率的に得るためには変位制御材2の剛性を最適に設定する必要があるが、従来においてはそのための有効適切な手法は確立されていないのが実状である。
そのため、この種の変位制御材2の設計に当たっては熟練設計者の経験に頼らざるを得ないし、それによっても必要以上の安全率を見込んでしまって過剰品質となりコスト高となることが多い。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は軟弱地盤の沈下や水平変位を制御し抑止するための変位制御材の最適剛性を容易に設定し得る有効適切な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、軟弱な原地盤中に該原地盤の変位を制御するための変位制御材を設置するに際して該変位制御材の最適剛性を設定するための方法であって、原地盤の面積に対する変位制御材の設置面積の比である面積改良率と、原地盤の剛性に対する変位制御材の剛性比との関係を、変位制御材を設置した後における原地盤の許容変位量をパラメータとして予め解析により求めておき、該関係に基づいて変位制御材の最適剛性を面積改良率ごとに設定することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材としての沈下制御杭を設置した後における原地盤の許容沈下量を、沈下制御杭の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量に基づいて設定することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持される沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(340〜1453)×a-0.79
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持されない沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(163〜684)×a-0.57
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を良質層に支持される格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(318〜1204)×a-0.82
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を良質層に支持されない格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(105〜458)×a-0.69
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変位制御材と原地盤との剛性比と面積改良率との関係を利用することにより、ある面積改良率のときの最適な剛性比を面積改良率ごとに容易にかつ合理的に求めることができる。また、設計与条件として原地盤の剛性と変位制御材の剛性が与えられた場合には、それらの条件から変位量を許容範囲内に抑止するために必要な面積改良率を直ちに決定することができる。したがって、本発明により変位制御材の最適設計を容易にかつ効率的に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第1実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図2】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図3】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図4】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図5】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図6】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第2実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図7】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図8】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図9】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図10】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図11】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第3実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図12】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図13】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図14】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図15】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図16】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第4実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図17】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図18】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図19】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図20】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図21】従来の軟弱地盤に対する変位制御手法の一例を示す図である。
【図22】同、沈下制御杭の設置パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「第1実施形態」
本発明の第1実施形態を図1〜図5を参照して説明する。
図1は軟弱層としての原地盤1上に厚さ0.2mのスラブ4を介して鉛直荷重を作用させた場合に、沈下制御のために図22(c)のパターンで設置した変位制御材2(以下、これを沈下制御杭2と言い換える)による沈下抑止効果を検証するための解析条件を示す。
原地盤1は地表からGL-12mまでが軟弱層であってそのせん断波速度杭Vs=120m/s、それ以深は良質層3であってVs=300m/sと仮定した。
載荷する鉛直荷重は40kN/m2とした。
沈下制御杭2は良質層3に到達してそれにより支持されるように杭長を12mとし、面積改良率aは(b)に示すように0.3%〜64%の8ケース(杭断面Lおよび杭間隔sをそれぞれ図中に示すように3ケースずつとした場合の全9ケースのうち8ケース)とした。
【0016】
本解析では、沈下制御杭2の剛性Epを原地盤1の剛性Esの1倍〜4096倍(212倍)に変化させ、地表面に設置したスラブ4を介して上記の鉛直荷重を作用させたときのスラブ4の沈下量(沈下制御杭2の位置での沈下量)を3次元FEM弾性解析により検討した。
剛性比Ep/Esの最大値である4096倍は、上記の軟弱層1(Vs=120m/s)に対して沈下制御杭2として高強度コンクリート杭を採用した場合に相当し、この種の沈下制御を行う場合における現実的な限界条件である。
【0017】
上記解析により得られたスラブ4の沈下量δを、沈下制御杭2が無いときの沈下量δ1で除した正規化沈下量Aとして図2に示す。正規化沈下量Aとは
A=δ/δ1
δ:沈下制御杭の位置でのスラブの沈下量
δ1:沈下制御杭がないときのスラブの沈下量
として規定した指標である。
【0018】
図2から、沈下制御杭と原地盤の剛性比Ep/Esが大きくなるのにしたがって正規化沈下量Aが小さくなる傾向があり、また沈下量が同じ場合には面積改良率aが大きいほど剛性比が小さくなることが分かる。
【0019】
次に、上記の正規化沈下量Aに代わる指標として、沈下制御杭の剛性を最大とした場合(原地盤と沈下制御杭の剛性比Ep/Esを最大(本解析では4096倍)とした場合)を基準とする正規化沈下量Bを用いて解析を行い、その場合の結果を図3に示す。
図3は、沈下制御杭の剛性が任意の場合における沈下量δと沈下制御杭の剛性が最大のときの沈下量δmaxとの差を、沈下制御杭がないときの沈下量δ1と剛性が最大のときの沈下量δmaxとの差で正規化した正規化沈下量Bを示すものである。すなわち、正規化沈下量Bは
B=(δ−δmax)/(δ1−δmax)
δ:任意の剛性の沈下制御杭の場合におけるスラブの沈下量
δmax:沈下制御杭の剛性を最大(本解析では原地盤の4096倍)としたときのスラブ の沈下量
δ1:沈下制御杭がないときのスラブの沈下量
として規定した指標であり、このような正規化沈下量Bを指標とすることにより、ある面積改良率aにおける純粋な沈下制御杭の性能を評価することが可能である。
【0020】
図3から、沈下制御杭と原地盤の剛性比Ep/Esが大きくなるのにしたがって正規化沈下量Bが小さくなる傾向があることが分かる。また、面積改良率aごとに固有の曲線を描いており、同じ正規化沈下量Bでは面積改良率aが小さいほど剛性比が大きくなることが分かる。
すなわち、これはある沈下制御杭の沈下制御性能を満足させるために必要となる沈下制御杭と原地盤の剛性比Ep/Esが面積改良率aごとに異なるということを示している。
そして、いずれの面積改良率aにおいても、正規化沈下量B=0.05未満の領域では剛性比Ep/Esが増加しても正規化沈下量Bはほとんど変化がなく、剛性比Ep/Esのそれ以上の増加が正規化沈下量Bの減少に殆ど寄与しないことが分かる。
【0021】
図4(a)は、面積改良率aと剛性比Ep/Esとの関係を正規化沈下量Bをパラメータとして示したものである。図中のプロットは解析結果を示し、曲線は解析結果の回帰曲線を示す。図4(a)からたとえば正規化沈下量B=0.05のときの回帰式は
Ep/Es=1453×a-0.79 (0.3%≦a≦100%)
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
として与えられる。
【0022】
また、正規化沈下量B=0.02〜0.40のときの回帰式は
Ep/Es=1453×γ×a-0.79
γ=0.04×(B+0.0065)-1.12
として与えられる。γは正規化沈下量Bで表される係数(図4(b)参照)である。
【0023】
図4(a)から、正規化沈下量B=0.05未満の領域では剛性比Ep/Esが増加しても正規化沈下量Bは殆ど変化せず、剛性比Ep/Esの増加が正規化沈下量Bの減少に殆ど寄与しない、つまりB<0.05であるとさらに剛性比Ep/Esを大きくしても正規化沈下量Bを低減する効果が殆ど増大しないことが分かる。このことから、正規化沈下量Bが0.05〜0.20の範囲を満足するような沈下制御杭の剛性が最適剛性であると考えて良い。
【0024】
以上の知見に基づき、本第1実施形態では沈下制御杭2を設置した後における原地盤1の許容沈下量を上記の正規化沈下量Bを指標としてB=0.05〜0.20の範囲となるように沈下制御杭2の最適剛性を設定することとする。そして、許容沈下量が上記の範囲となるような沈下制御杭2の最適な剛性範囲を、上記の回帰式に基づいて面積改良率aの関数として下記の(1)式により設定することとする。また、(1)式および図4(a)に基づいて図5に示すようなチャートを作成し、このチャートによって面積改良率aから最適な剛性比の範囲を直ちに求めることもできる。
Ep/Es=(340〜1453)×a-0.79 ・・・(1)
【0025】
上式あるいは図5から、たとえば面積改良率a=1%のときの最適な剛性比Ep/Esは340〜1453倍の範囲であり、面積改良率a=20%のときの最適な剛性比は30〜140倍の範囲であることが分かる。
【0026】
このように、本発明によれば、沈下制御杭2と原地盤1との剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係を利用することにより、ある面積改良率aのときの最適な剛性比Ep/Esを容易にかつ合理的に求めることができるし、設計与条件として原地盤1の剛性Esと沈下制御杭2の剛性Epが与えられた場合にはそれらの条件から正規化沈下量Bを許容範囲内に抑止するために必要な面積改良率aを直ちに決定することができ、したがって本発明により沈下制御杭2の最適設計を容易にかつ効率的に実施することが可能となる。
【0027】
特に、沈下制御杭2を設置した後における原地盤1の許容沈下量を、沈下制御杭2の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量Bに基づいて設定することにより、ある面積改良率aにおける純粋な沈下制御杭2の性能を評価することが可能である。
【0028】
以上で本発明の第1実施形態について説明したが、以下に他の実施形態について説明する。
上記第1実施形態は水平2方向に所定間隔をおいて配列されて良質層3に支持される沈下制御杭2を変位制御材としたものであるが、本発明における変位制御材はそのような沈下制御杭2に限るものではなく、所望の面積改良率を確保できる限りにおいては様々な材質や形態の変位制御材を様々なパターンで設置すれば良く、各パターンに対応する解析を予め行って各パターンに対応する回帰式を決定しチャートを作成しておけば良い。
そこで、変位制御材を良質層に支持されない沈下制御杭として水平2方向に所定間隔で配列する場合、変位制御材を良質層に支持される格子状の沈下制御杭とする場合、変位制御材を良質層に支持されない格子状の沈下制御杭とする場合について、それぞれ第2実施形態〜第4実施形態として以下に説明する。
以下の各解析は特記している事項以外は上記第1実施形態と同様の条件で行ったものである。
【0029】
「第2実施形態」(図6〜図10参照)
図6は変位制御材としての沈下制御杭2の杭長を良質層3に到達し得ない6mとして、その沈下制御杭2が良質層3によっては支持されない場合の例である。解析ケースは(b)に示す6ケースとした。
この場合も図7〜図8に示すように剛性比Ep/Esと正規化沈下量Aおよび正規化沈下量Bとの関係は第1実施形態と同様の傾向を示し、剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係およびその回帰式は図9に示すものとなる。
このことから、本第2実施形態では、第1実施形態の場合と同様に許容沈下量を正規化沈下量Bを指標としてB=0.05〜0.20の範囲に制限するために必要となる沈下制御杭2の最適剛性は、下記の回帰式(2)および図10に示すチャートにより直ちに求めることができる。
Ep/Es=(163〜684)×a-0.57 ・・・(2)
【0030】
「第3実施形態」(図11〜図15参照)
図11は変位制御材として良質層3に支持される格子状の沈下制御杭2とした場合の例である。その格子状の沈下制御杭2のピッチは10mとし、杭長は良質層に達する12mとし、杭幅および面積改良率aを(b)に示す8ケースとした。
この場合の剛性比Ep/Esと正規化沈下量Aおよび正規化沈下量Bとの関係を図12〜図13に示し、剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係およびその回帰式を図14に示す。
このことから、本第3実施形態では、許容沈下量をB=0.05〜0.20の範囲に制限するために必要となる沈下制御杭2の最適剛性は、下記の回帰式(3)および図15に示すチャートにより直ちに求めることができる。
Ep/Es=(318〜1204)×a-0.82 ・・・(3)
【0031】
「第4実施形態」(図16〜図20参照)
図16は変位制御材として良質層3に支持されない格子状の沈下制御杭2とした場合の例である。その格子状の沈下制御杭2は第3実施形態の場合と同様にピッチを10mとし、杭長は良質層3に達しない6mとし、解析ケースは第3実施形態と同様の8ケースとした。
この場合の剛性比Ep/Esと正規化沈下量Aおよび正規化沈下量Bとの関係を図17〜図18に示し、剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係およびその回帰式を図19に示す。
このことから、本第4実施形態では、許容沈下量をB=0.05〜0.20の範囲に制限するために必要となる沈下制御杭の最適剛性は、下記の回帰式(4)および図20に示すチャートにより直ちに求めることができる。
Ep/Es=(105〜458)×a-0.69 ・・・(4)
【0032】
以上で本発明の第1〜第4実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されることなく、さらにたとえば以下に列挙するような変形や応用が可能である。
【0033】
上記各実施形態はいずれも原地盤の沈下(つまり鉛直方向下方への変位)の抑止を目的とする沈下制御杭を対象としてその鉛直方向の最適剛性を設定する場合の適用例であるが、本発明は上記実施形態のような沈下制御杭のみならず、原地盤の水平方向の変位(さらに一般化すれば任意の方向への変位)を抑止するための各種の変位制御材(たとえばバットレス型地盤改良併用山留め壁など)を対象としてその水平方向の最適剛性を設定する場合にも広く適用することができる。
その場合には、上記実施形態において指標とした正規化沈下量Bに相当する指標としてそれと同様の概念による水平方向の正規化変位量を用いれば良い。
つまり、任意の剛性の変位制御材を設置した場合の水平変位量(上記のδに相当)と変位制御材の剛性を最大(たとえば上記実施形態のように原地盤に対して4096倍)としたときの水平変位量(上記のδmaxに相当)との差を、変位制御材がないときの水平変位量(上記のδ1に相当)と剛性が最大のときの水平変位量との差で正規化した正規化変位量を指標として用いれば良く、その指標を用いて上記実施形態と同様の解析を行えば良い。
そして、そのような解析に基づいて、変位制御材を設置した後における水平変位量が許容範囲となるような面積改良率と剛性比との関係を回帰式として求め、それに基づき許容変位量をパラメータとするチャートを作成しておけば良い。
【0034】
また、沈下の抑止に代えて、あるいはそれに加えて、水平変位の抑止あるいはさらに他の目的で変位制御材を施工する場合には、原地盤の状況や変位制御材の設置目的その他の要求条件を考慮して変位制御材の構造や形態、断面形状、材質その他の諸元を最適に設計すれば良い。特に、変位制御材の材質についてはセメント系地盤改良体や薬液注入による地盤改良体を始めとして、コンクリート、鉄筋コンクリート、木、ゴム、樹脂、採石、締め固め砂、鋼材など、どのようなものでも良い。また、変位制御材の形態についても、杭体のみならず柱列壁や連続壁、バットレス付き壁体、格子壁等その他の任意の形態とすることができる。
【0035】
さらに、変位制御材の剛性と制御対象の原地盤の剛性比の設定においては、剛性の拘束圧依存性やひずみ依存性を考慮することも考えられる。
勿論、解析に際しての具体的な解析条件、特に変位量の指標として用いる正規化変位量(上記実施形態における正規化沈下量Bに相当)や、その基準となる変位制御材の剛性の最大値(上記実施形態では原地盤に対する4096倍)の設定その他の様々な解析条件については、原地盤の状況や設計しようとする変位制御材の構造や形態その他の諸条件を考慮して適切に設定すれば良い。
【符号の説明】
【0036】
1 原地盤(軟弱層)
2 沈下制御杭(変位制御材)
3 良質層
4 スラブ
【技術分野】
【0001】
本発明は軟弱地盤の沈下や水平方向の地盤変位を抑止するための変位制御材を軟弱地盤中に設置するに際して、その変位制御材の剛性を最適に設定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、軟弱地盤の沈下や水平方向の地盤変位を制御し抑止するために、各種の杭体や杭状ないし壁状の地盤改良体を変位制御材として軟弱地盤中に設置する技術が知られている(たとえば特許文献1〜4参照)。
【0003】
これは、軟弱地盤上に建物や構造物を設置するに際し、あるいは軟弱地盤中に山留め壁等の地中構造物を施工するに際し、たとえば図21〜図22に模式的に示すように、軟弱層としての原地盤1中に変位制御材2としての各種の杭体や地盤改良体を形成することによって原地盤1の沈下や水平変位を抑止するものである。
この場合、変位制御材2としては各種材質の杭体の他、たとえばセメント系地盤改良材や薬液の注入による地盤改良体が採用されることも多い。
また、変位制御材2を杭の形態で設置する場合には、その断面形状はたとえば図22(a)に示すような中実円形断面や(b)に示すような中空管状断面、あるいは(c)に示すような中実角形断面等、任意の形状とされ、そのような変位制御材2を水平2方向に適宜の間隔で配列するとともに、図21に示すように原地盤1の下層に安定な良質層3がある場合には変位制御材2の先端を良質層3に根入れすることが通常である。さらに、図示は省略したが壁状の変位制御材を2方向に格子状に組んだ形態で設けることもある。なお、図21における符号4は原地盤1上に設けたスラブである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−196378号公報
【特許文献2】特開2008−297802号公報
【特許文献3】特開2009−150075号公報
【特許文献4】特開2001−355237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような変位制御材2により原地盤1の沈下や水平変位を抑止する場合、変位制御材2による変位抑止効果を確実かつ効率的に得るためには変位制御材2の剛性を最適に設定する必要があるが、従来においてはそのための有効適切な手法は確立されていないのが実状である。
そのため、この種の変位制御材2の設計に当たっては熟練設計者の経験に頼らざるを得ないし、それによっても必要以上の安全率を見込んでしまって過剰品質となりコスト高となることが多い。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は軟弱地盤の沈下や水平変位を制御し抑止するための変位制御材の最適剛性を容易に設定し得る有効適切な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、軟弱な原地盤中に該原地盤の変位を制御するための変位制御材を設置するに際して該変位制御材の最適剛性を設定するための方法であって、原地盤の面積に対する変位制御材の設置面積の比である面積改良率と、原地盤の剛性に対する変位制御材の剛性比との関係を、変位制御材を設置した後における原地盤の許容変位量をパラメータとして予め解析により求めておき、該関係に基づいて変位制御材の最適剛性を面積改良率ごとに設定することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材としての沈下制御杭を設置した後における原地盤の許容沈下量を、沈下制御杭の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量に基づいて設定することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持される沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(340〜1453)×a-0.79
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持されない沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(163〜684)×a-0.57
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を良質層に支持される格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(318〜1204)×a-0.82
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、変位制御材を良質層に支持されない格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする。
Ep/Es=(105〜458)×a-0.69
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変位制御材と原地盤との剛性比と面積改良率との関係を利用することにより、ある面積改良率のときの最適な剛性比を面積改良率ごとに容易にかつ合理的に求めることができる。また、設計与条件として原地盤の剛性と変位制御材の剛性が与えられた場合には、それらの条件から変位量を許容範囲内に抑止するために必要な面積改良率を直ちに決定することができる。したがって、本発明により変位制御材の最適設計を容易にかつ効率的に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第1実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図2】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図3】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図4】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図5】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図6】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第2実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図7】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図8】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図9】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図10】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図11】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第3実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図12】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図13】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図14】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図15】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図16】本発明により沈下制御杭の最適剛性を設定する場合の第4実施形態を示す図であり、最適剛性を設定するための解析条件を示す図である。
【図17】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Aと剛性比の関係を示す図)である。
【図18】同、解析結果を示す図(正規化沈下量Bと剛性比の関係を示す図)である。
【図19】同、解析結果を示す図(面積改良率aと剛性比の関係を示す図)である。
【図20】同、最適剛性を設定するためのチャート図である。
【図21】従来の軟弱地盤に対する変位制御手法の一例を示す図である。
【図22】同、沈下制御杭の設置パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「第1実施形態」
本発明の第1実施形態を図1〜図5を参照して説明する。
図1は軟弱層としての原地盤1上に厚さ0.2mのスラブ4を介して鉛直荷重を作用させた場合に、沈下制御のために図22(c)のパターンで設置した変位制御材2(以下、これを沈下制御杭2と言い換える)による沈下抑止効果を検証するための解析条件を示す。
原地盤1は地表からGL-12mまでが軟弱層であってそのせん断波速度杭Vs=120m/s、それ以深は良質層3であってVs=300m/sと仮定した。
載荷する鉛直荷重は40kN/m2とした。
沈下制御杭2は良質層3に到達してそれにより支持されるように杭長を12mとし、面積改良率aは(b)に示すように0.3%〜64%の8ケース(杭断面Lおよび杭間隔sをそれぞれ図中に示すように3ケースずつとした場合の全9ケースのうち8ケース)とした。
【0016】
本解析では、沈下制御杭2の剛性Epを原地盤1の剛性Esの1倍〜4096倍(212倍)に変化させ、地表面に設置したスラブ4を介して上記の鉛直荷重を作用させたときのスラブ4の沈下量(沈下制御杭2の位置での沈下量)を3次元FEM弾性解析により検討した。
剛性比Ep/Esの最大値である4096倍は、上記の軟弱層1(Vs=120m/s)に対して沈下制御杭2として高強度コンクリート杭を採用した場合に相当し、この種の沈下制御を行う場合における現実的な限界条件である。
【0017】
上記解析により得られたスラブ4の沈下量δを、沈下制御杭2が無いときの沈下量δ1で除した正規化沈下量Aとして図2に示す。正規化沈下量Aとは
A=δ/δ1
δ:沈下制御杭の位置でのスラブの沈下量
δ1:沈下制御杭がないときのスラブの沈下量
として規定した指標である。
【0018】
図2から、沈下制御杭と原地盤の剛性比Ep/Esが大きくなるのにしたがって正規化沈下量Aが小さくなる傾向があり、また沈下量が同じ場合には面積改良率aが大きいほど剛性比が小さくなることが分かる。
【0019】
次に、上記の正規化沈下量Aに代わる指標として、沈下制御杭の剛性を最大とした場合(原地盤と沈下制御杭の剛性比Ep/Esを最大(本解析では4096倍)とした場合)を基準とする正規化沈下量Bを用いて解析を行い、その場合の結果を図3に示す。
図3は、沈下制御杭の剛性が任意の場合における沈下量δと沈下制御杭の剛性が最大のときの沈下量δmaxとの差を、沈下制御杭がないときの沈下量δ1と剛性が最大のときの沈下量δmaxとの差で正規化した正規化沈下量Bを示すものである。すなわち、正規化沈下量Bは
B=(δ−δmax)/(δ1−δmax)
δ:任意の剛性の沈下制御杭の場合におけるスラブの沈下量
δmax:沈下制御杭の剛性を最大(本解析では原地盤の4096倍)としたときのスラブ の沈下量
δ1:沈下制御杭がないときのスラブの沈下量
として規定した指標であり、このような正規化沈下量Bを指標とすることにより、ある面積改良率aにおける純粋な沈下制御杭の性能を評価することが可能である。
【0020】
図3から、沈下制御杭と原地盤の剛性比Ep/Esが大きくなるのにしたがって正規化沈下量Bが小さくなる傾向があることが分かる。また、面積改良率aごとに固有の曲線を描いており、同じ正規化沈下量Bでは面積改良率aが小さいほど剛性比が大きくなることが分かる。
すなわち、これはある沈下制御杭の沈下制御性能を満足させるために必要となる沈下制御杭と原地盤の剛性比Ep/Esが面積改良率aごとに異なるということを示している。
そして、いずれの面積改良率aにおいても、正規化沈下量B=0.05未満の領域では剛性比Ep/Esが増加しても正規化沈下量Bはほとんど変化がなく、剛性比Ep/Esのそれ以上の増加が正規化沈下量Bの減少に殆ど寄与しないことが分かる。
【0021】
図4(a)は、面積改良率aと剛性比Ep/Esとの関係を正規化沈下量Bをパラメータとして示したものである。図中のプロットは解析結果を示し、曲線は解析結果の回帰曲線を示す。図4(a)からたとえば正規化沈下量B=0.05のときの回帰式は
Ep/Es=1453×a-0.79 (0.3%≦a≦100%)
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
として与えられる。
【0022】
また、正規化沈下量B=0.02〜0.40のときの回帰式は
Ep/Es=1453×γ×a-0.79
γ=0.04×(B+0.0065)-1.12
として与えられる。γは正規化沈下量Bで表される係数(図4(b)参照)である。
【0023】
図4(a)から、正規化沈下量B=0.05未満の領域では剛性比Ep/Esが増加しても正規化沈下量Bは殆ど変化せず、剛性比Ep/Esの増加が正規化沈下量Bの減少に殆ど寄与しない、つまりB<0.05であるとさらに剛性比Ep/Esを大きくしても正規化沈下量Bを低減する効果が殆ど増大しないことが分かる。このことから、正規化沈下量Bが0.05〜0.20の範囲を満足するような沈下制御杭の剛性が最適剛性であると考えて良い。
【0024】
以上の知見に基づき、本第1実施形態では沈下制御杭2を設置した後における原地盤1の許容沈下量を上記の正規化沈下量Bを指標としてB=0.05〜0.20の範囲となるように沈下制御杭2の最適剛性を設定することとする。そして、許容沈下量が上記の範囲となるような沈下制御杭2の最適な剛性範囲を、上記の回帰式に基づいて面積改良率aの関数として下記の(1)式により設定することとする。また、(1)式および図4(a)に基づいて図5に示すようなチャートを作成し、このチャートによって面積改良率aから最適な剛性比の範囲を直ちに求めることもできる。
Ep/Es=(340〜1453)×a-0.79 ・・・(1)
【0025】
上式あるいは図5から、たとえば面積改良率a=1%のときの最適な剛性比Ep/Esは340〜1453倍の範囲であり、面積改良率a=20%のときの最適な剛性比は30〜140倍の範囲であることが分かる。
【0026】
このように、本発明によれば、沈下制御杭2と原地盤1との剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係を利用することにより、ある面積改良率aのときの最適な剛性比Ep/Esを容易にかつ合理的に求めることができるし、設計与条件として原地盤1の剛性Esと沈下制御杭2の剛性Epが与えられた場合にはそれらの条件から正規化沈下量Bを許容範囲内に抑止するために必要な面積改良率aを直ちに決定することができ、したがって本発明により沈下制御杭2の最適設計を容易にかつ効率的に実施することが可能となる。
【0027】
特に、沈下制御杭2を設置した後における原地盤1の許容沈下量を、沈下制御杭2の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量Bに基づいて設定することにより、ある面積改良率aにおける純粋な沈下制御杭2の性能を評価することが可能である。
【0028】
以上で本発明の第1実施形態について説明したが、以下に他の実施形態について説明する。
上記第1実施形態は水平2方向に所定間隔をおいて配列されて良質層3に支持される沈下制御杭2を変位制御材としたものであるが、本発明における変位制御材はそのような沈下制御杭2に限るものではなく、所望の面積改良率を確保できる限りにおいては様々な材質や形態の変位制御材を様々なパターンで設置すれば良く、各パターンに対応する解析を予め行って各パターンに対応する回帰式を決定しチャートを作成しておけば良い。
そこで、変位制御材を良質層に支持されない沈下制御杭として水平2方向に所定間隔で配列する場合、変位制御材を良質層に支持される格子状の沈下制御杭とする場合、変位制御材を良質層に支持されない格子状の沈下制御杭とする場合について、それぞれ第2実施形態〜第4実施形態として以下に説明する。
以下の各解析は特記している事項以外は上記第1実施形態と同様の条件で行ったものである。
【0029】
「第2実施形態」(図6〜図10参照)
図6は変位制御材としての沈下制御杭2の杭長を良質層3に到達し得ない6mとして、その沈下制御杭2が良質層3によっては支持されない場合の例である。解析ケースは(b)に示す6ケースとした。
この場合も図7〜図8に示すように剛性比Ep/Esと正規化沈下量Aおよび正規化沈下量Bとの関係は第1実施形態と同様の傾向を示し、剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係およびその回帰式は図9に示すものとなる。
このことから、本第2実施形態では、第1実施形態の場合と同様に許容沈下量を正規化沈下量Bを指標としてB=0.05〜0.20の範囲に制限するために必要となる沈下制御杭2の最適剛性は、下記の回帰式(2)および図10に示すチャートにより直ちに求めることができる。
Ep/Es=(163〜684)×a-0.57 ・・・(2)
【0030】
「第3実施形態」(図11〜図15参照)
図11は変位制御材として良質層3に支持される格子状の沈下制御杭2とした場合の例である。その格子状の沈下制御杭2のピッチは10mとし、杭長は良質層に達する12mとし、杭幅および面積改良率aを(b)に示す8ケースとした。
この場合の剛性比Ep/Esと正規化沈下量Aおよび正規化沈下量Bとの関係を図12〜図13に示し、剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係およびその回帰式を図14に示す。
このことから、本第3実施形態では、許容沈下量をB=0.05〜0.20の範囲に制限するために必要となる沈下制御杭2の最適剛性は、下記の回帰式(3)および図15に示すチャートにより直ちに求めることができる。
Ep/Es=(318〜1204)×a-0.82 ・・・(3)
【0031】
「第4実施形態」(図16〜図20参照)
図16は変位制御材として良質層3に支持されない格子状の沈下制御杭2とした場合の例である。その格子状の沈下制御杭2は第3実施形態の場合と同様にピッチを10mとし、杭長は良質層3に達しない6mとし、解析ケースは第3実施形態と同様の8ケースとした。
この場合の剛性比Ep/Esと正規化沈下量Aおよび正規化沈下量Bとの関係を図17〜図18に示し、剛性比Ep/Esと面積改良率aとの関係およびその回帰式を図19に示す。
このことから、本第4実施形態では、許容沈下量をB=0.05〜0.20の範囲に制限するために必要となる沈下制御杭の最適剛性は、下記の回帰式(4)および図20に示すチャートにより直ちに求めることができる。
Ep/Es=(105〜458)×a-0.69 ・・・(4)
【0032】
以上で本発明の第1〜第4実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されることなく、さらにたとえば以下に列挙するような変形や応用が可能である。
【0033】
上記各実施形態はいずれも原地盤の沈下(つまり鉛直方向下方への変位)の抑止を目的とする沈下制御杭を対象としてその鉛直方向の最適剛性を設定する場合の適用例であるが、本発明は上記実施形態のような沈下制御杭のみならず、原地盤の水平方向の変位(さらに一般化すれば任意の方向への変位)を抑止するための各種の変位制御材(たとえばバットレス型地盤改良併用山留め壁など)を対象としてその水平方向の最適剛性を設定する場合にも広く適用することができる。
その場合には、上記実施形態において指標とした正規化沈下量Bに相当する指標としてそれと同様の概念による水平方向の正規化変位量を用いれば良い。
つまり、任意の剛性の変位制御材を設置した場合の水平変位量(上記のδに相当)と変位制御材の剛性を最大(たとえば上記実施形態のように原地盤に対して4096倍)としたときの水平変位量(上記のδmaxに相当)との差を、変位制御材がないときの水平変位量(上記のδ1に相当)と剛性が最大のときの水平変位量との差で正規化した正規化変位量を指標として用いれば良く、その指標を用いて上記実施形態と同様の解析を行えば良い。
そして、そのような解析に基づいて、変位制御材を設置した後における水平変位量が許容範囲となるような面積改良率と剛性比との関係を回帰式として求め、それに基づき許容変位量をパラメータとするチャートを作成しておけば良い。
【0034】
また、沈下の抑止に代えて、あるいはそれに加えて、水平変位の抑止あるいはさらに他の目的で変位制御材を施工する場合には、原地盤の状況や変位制御材の設置目的その他の要求条件を考慮して変位制御材の構造や形態、断面形状、材質その他の諸元を最適に設計すれば良い。特に、変位制御材の材質についてはセメント系地盤改良体や薬液注入による地盤改良体を始めとして、コンクリート、鉄筋コンクリート、木、ゴム、樹脂、採石、締め固め砂、鋼材など、どのようなものでも良い。また、変位制御材の形態についても、杭体のみならず柱列壁や連続壁、バットレス付き壁体、格子壁等その他の任意の形態とすることができる。
【0035】
さらに、変位制御材の剛性と制御対象の原地盤の剛性比の設定においては、剛性の拘束圧依存性やひずみ依存性を考慮することも考えられる。
勿論、解析に際しての具体的な解析条件、特に変位量の指標として用いる正規化変位量(上記実施形態における正規化沈下量Bに相当)や、その基準となる変位制御材の剛性の最大値(上記実施形態では原地盤に対する4096倍)の設定その他の様々な解析条件については、原地盤の状況や設計しようとする変位制御材の構造や形態その他の諸条件を考慮して適切に設定すれば良い。
【符号の説明】
【0036】
1 原地盤(軟弱層)
2 沈下制御杭(変位制御材)
3 良質層
4 スラブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱な原地盤中に該原地盤の変位を制御するための変位制御材を設置するに際して該変位制御材の最適剛性を設定するための方法であって、
原地盤の面積に対する変位制御材の設置面積の比である面積改良率と、原地盤の剛性に対する変位制御材の剛性比との関係を、変位制御材を設置した後における原地盤の許容変位量をパラメータとして予め解析により求めておき、該関係に基づいて変位制御材の最適剛性を面積改良率ごとに設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
【請求項2】
請求項1記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材としての沈下制御杭を設置した後における原地盤の許容沈下量を、沈下制御杭の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
【請求項3】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持される沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(340〜1453)×a-0.79
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項4】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持されない沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(163〜684)×a-0.57
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項5】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を良質層に支持される格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(318〜1204)×a-0.82
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項6】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を良質層に支持されない格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(105〜458)×a-0.69
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項1】
軟弱な原地盤中に該原地盤の変位を制御するための変位制御材を設置するに際して該変位制御材の最適剛性を設定するための方法であって、
原地盤の面積に対する変位制御材の設置面積の比である面積改良率と、原地盤の剛性に対する変位制御材の剛性比との関係を、変位制御材を設置した後における原地盤の許容変位量をパラメータとして予め解析により求めておき、該関係に基づいて変位制御材の最適剛性を面積改良率ごとに設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
【請求項2】
請求項1記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材としての沈下制御杭を設置した後における原地盤の許容沈下量を、沈下制御杭の剛性を最大にした場合における沈下量を基準として正規化した指標である正規化沈下量に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
【請求項3】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持される沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(340〜1453)×a-0.79
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項4】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を水平2方向に間隔をおいて配列されて良質層に支持されない沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(163〜684)×a-0.57
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項5】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を良質層に支持される格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(318〜1204)×a-0.82
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【請求項6】
請求項2記載の変位制御材の最適剛性設定方法であって、
変位制御材を良質層に支持されない格子状の沈下制御杭として、該沈下制御杭の剛性を、解析により回帰式として決定した次式の関係に基づいて設定することを特徴とする変位制御材の最適剛性設定方法。
Ep/Es=(105〜458)×a-0.69
Ep:沈下制御杭の剛性(kN/m2)
Es:原地盤の剛性(kN/m2)
a:面積改良率(%)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−144968(P2012−144968A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76971(P2011−76971)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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