説明

変性ジエン系ゴム及びその製造方法、並びにゴム組成物

【課題】粘弾性を制御し、特にタイヤに用いた場合に低燃費性とウェットスキッド性を改善する。
【解決手段】エポキシ化天然ゴムのエポキシ基の少なくとも一部をラテックス中でジイミド又はその誘導体により還元することで水酸基化して得られ、式(1)及び/又は式(2)で表される構成単位を有する変性ジエン系ゴムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸基を導入した変性ジエン系ゴム、及びその製造方法、並びに、該変性ジエン系ゴムを配合したゴム組成物、更には、該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム状構造を持つジエン系ゴムや、不飽和脂肪酸などの二重結合を持った構造の中には、その一部もしくは全てがエポキシ基となっている構造のものがある。その中でも、主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を有するジエン系ゴム、特にエポキシ化天然ゴムなどは、タイヤ用ゴム組成物におけるゴム成分として一般的に使用されている。
【0003】
空気入りタイヤにおいては、低燃費性(転がり抵抗性能)とともに、湿潤路面において滑りにくいこと、即ちウェットスキッド性を向上することが求められている。しかしながら、一般に両性能は二律背反の関係にあり、低燃費性とウェットスキッド性の2つの特性を同時に満足させることは困難である。例えば、上記エポキシ化天然ゴムは、ヒステリシスロスが大きく、ウェットスキッド性には優れている反面、低燃費性が不十分であるという欠点がある。
【0004】
かかる欠点を解消するべく、下記特許文献1,2には、タイヤトレッド用ゴム組成物において、エポキシ化天然ゴムをルイス酸、アミン化合物、チオール化合物、アミド化合物またはイミダゾール化合物と反応させてエポキシ基の開環を行うことにより得られた改質天然ゴムを用いることが開示されている。該改質天然ゴムとして、具体的には、ルイス酸としてフェノールを用いてエポキシ基を開環させた改質天然ゴムが開示されており、この場合、水酸基とともにフェノキシ基が天然ゴムの主鎖に導入されてしまう。このように、ルイス酸等に由来する置換基が導入されることで、シリカ等のフィラーとの結合ないし反応性が損なわれるおそれがある。
【0005】
また、下記特許文献3,4には、タイヤに用いられるゴム組成物において、天然ゴムの主鎖に水酸基が直接結合した改質天然ゴムを用いることが開示されている。この文献では、天然ゴムやエポキシ化天然ゴムを有機溶媒に溶解させた後、酸触媒及び水を所定量加えて、エポキシ基に水酸基を導入するものであり、天然ゴムの二重結合部分に対して2つの水酸基が導入されたジオール構造を有している。このようなジオール構造では、シリカ等のフィラーとの結合ないし反応性の向上効果が必ずしも十分とは言えず、低燃費性とウェットスキッド性の更なる改善が求められる。また、有機溶媒への溶解によって、分子量の低下や、分子の絡み合いの低下、ゴムの取り出しに手間がかかるなどの問題があり、天然ゴム本来の物性を保持することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−359773号公報
【特許文献2】特開2005−041960号公報
【特許文献3】特開2010−106250号公報
【特許文献4】特許第4538533号公報
【特許文献5】特開2004−359716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、タイヤに用いた場合の低燃費性とウェットスキッド性の向上を図ることを目的とする。あるいはまた、天然ゴム等の元のジエン系ゴム本来の特性を損なうことなく、水酸基化により性質を改良することができる変性ジエン系ゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る変性ジエン系ゴムの製造方法は、主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を有するジエン系ゴムに対し、前記エポキシ基の少なくとも一部をラテックス中でジイミド又はその誘導体により還元することで水酸基化するものである。
【0009】
該第1の態様においては、ジエン系ゴムの主鎖の二重結合部分をラテックス中でエポキシ化し、生成したエポキシ基の少なくとも一部を更に該ラテックス中で前記ジイミド又はその誘導体により還元することで水酸基化してもよい。また、前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムであることが好ましい。
【0010】
本発明の第2の態様に係る変性ジエン系ゴムは、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるジエン系ゴムを変性してなる変性ジエン系ゴムであって、前記ジエン系ゴムの主鎖における二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基の少なくとも一部を還元することにより得られた下記式(1)で表される構成単位と下記式(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有するものである。
【化1】

【0011】
該第2の態様に係る変性ジエン系ゴムは、下記式(3)で表される構成単位を更に有してもよい。
【化2】

【0012】
本発明の第3の態様に係るゴム組成物は、上記いずれかの変性ジエン系ゴムを含むものである。この場合、前記変性ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対してシリカを10〜120質量部含有することが好ましい。また、更にシランカップリング剤を、前記シリカ100質量部に対して2〜12質量部含有してもよい。
【0013】
本発明の第4の態様に係る空気入りタイヤは、上記いずれかのゴム組成物を用いてなるトレッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主鎖にエポキシ基を持つジエン系ゴムに対して該エポキシ基を還元することで水酸基化したことにより、主鎖の二重結合部分に対して1つの水酸基が導入されたモノオール構造の変性ジエン系ゴムが得られる。このように水酸基を導入することで、ガラス転移温度の変化による粘弾性制御が可能であり、特にタイヤに用いた場合に、フィラー等との結合ないし反応性を向上することができ、低燃費性(転がり抵抗性能)とウェットスキッド性を改良することができる。
【0015】
また、ラテックス中でジエン系ゴムのエポキシ基を還元して水酸基を導入する態様であると、元のジエン系ゴム本来の特性を損なうことなく、水酸基化により性質を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係る変性ジエン系ゴムの製造方法は、主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を有するジエン系ゴムに対し、その少なくとも一部のエポキシ基をラテックス中でジイミド又はその誘導体により還元することで水酸基化するものである。
【0018】
変性対象となるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられるが、イソプレンユニットを有するものが好ましく、より好ましくは、天然ゴム及び/合成イソプレンゴムである。天然ゴムとしては、特に限定されず、RSS3号やTSR20などが挙げられる。合成イソプレンゴムとしては、天然ゴムの代替として一般に用いられている1,4−シス−ポリイソプレン(即ち、シス1,4−結合が90%以上のポリイソプレン)を用いることができる。なお、以下、好ましい態様として天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴム、とりわけ天然ゴムを中心に説明する。
【0019】
ジエン系ゴムをエポキシ化する方法としては、特に限定されず、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシ法、過酸法などの公知の種々の方法を用いて行うことができる。好ましくは、ジエン系ゴムの主鎖の二重結合部分をラテックス中でエポキシ化することである。一例として、天然ゴムラテックスに過酸化物と酸を反応させることによりエポキシ化天然ゴムを得ることができる。また、市販のエポキシ化天然ゴムを用いてもよい。
【0020】
得られたエポキシ化ジエン系ゴムにおいて、エポキシ基の含有量は、特に限定されないが、ジエンユニット(天然ゴムや合成イソプレンゴムの場合はイソプレンユニット。以下「イソプレンユニット」と称するが、天然ゴムや合成イソプレンゴム以外の場合はジエンユニットを意味する。)に対して5〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは10〜30モル%である。ここで、エポキシ基の含有量(エポキシ化率)は、イソプレンユニットのモル数に対するエポキシ基のモル数の比率であり、従って、10モル%とは、全イソプレンユニット数を100個としたとき、その内のエポキシ基が導入されたイソプレンユニットの数が10個であることを意味する。
【0021】
次いで、得られたエポキシ化ジエン系ゴムに対し、そのエポキシ基の一部又は全てを、ラテックス中で、ジイミド又はその誘導体により還元する。ラテックス中で還元することにより、上記従来のようにエポキシ化天然ゴムを有機溶媒中で水酸基化する場合に比べて、分子量の低下など、元のジエン系ゴム本来の特性を損なう可能性を低減することができる。特には、上記のようにラテックス中でエポキシ化した後、そのままラテックス中で還元による水酸基化を行うことが好ましい。このようにラテックス中で、エポキシ化及び水酸基化という一連の反応を行うことにより、元のジエン系ゴム(特には天然ゴム)本来の特性を損なうおそれをより一層低減しつつ、性質を改良した変性ジエン系ゴムを得ることができる。
【0022】
本実施形態では、エポキシ基を還元して水酸基化するための還元剤として、ジイミド(H−N=N−H)又はその誘導体を用いる。ジイミド又はその誘導体を用いたジイミド還元によりエポキシ基を還元することにより、従来の酸によるエポキシ基への水付加の場合におけるジオール構造とは異なり、主鎖の二重結合部分に1つの水酸基が付加した構造(モノオール構造)となる。より詳細には、ジイミドとエポキシ基の反応では、ジイミド(N−N=N−H)の両端にある2個の水素原子がエポキシ基を攻撃して水素付加が起こり、残った2個の窒素原子が窒素ガス(N)として遊離する。そのため、上記式(3)で表されるエポキシ基を含む構成単位に2個の水素原子が付加することでモノオール構造となる。従って、上記特許文献1,2のようにフェノキシ基等の他の置換基が導入されることもない。このようにモノオール構造が形成されることにより、1分子中の水酸基量がジオール構造と同量であっても、水酸基を有するイソプレンユニット数としてはジオール構造の2倍となるので、分子鎖内により均一に水酸基を分散させることができる。また、ジイミド又はその誘導体を用いた還元法であると、副反応としてジエン系ゴムの主鎖の二重結合も還元することができるので、ゴムとして特性を損なわない範囲で耐劣化性を改良することができる。
【0023】
上記ジイミドの誘導体としては、ラテックス中での反応時にジイミドを生成することができるジイミド前駆体が用いられ、例えば、ヒドラジン水和物(HNNH・HO)、ヒドラジド化合物などが挙げられる。ヒドラジン水和物は、酸素(例えば、過酸)と反応することによりジイミドを生成することができる。ヒドラジド化合物は、オキソ酸の水酸基(ヒドロキシル基)をヒドラジノ基(−NH−NH)で置換した構造を持つ化合物であり、分解することでジイミドを生成することができる。ヒドラジド化合物としては、例えば、p−トルエンスルホニルヒドラジド(熱分解によりp−トルエンスルホン酸とジイミドを生成する。)、トリイソプロピルベンゼンスルホン酸ヒドラジド、ベンゼンスルホン酸ヒドラジド、3−フルオロ−3−オキソ−1−プロパンスルホン酸ヒドラジドなどのスルホン酸ヒドラジド(RSONHNH、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、酢酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、ペンタン酸ヒドラジド、シクロヘキサンカルボン酸ヒドラジド、ヒドラジンカルボン酸などのカルボヒドラジド(RCONHNH、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、ベンゼンカルボチオ酸ヒドラジドなどのチオ酸ヒドラジド(RCSNHNH、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、ペンタノヒドラジドイミドなどのヒドラジドイミド(R(=NH)NHNH、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、ベンゼンカルボヒドラゾン酸ヒドラジドなどのヒドラジドヒドラゾン(R(=NNH)NHNH、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)などが挙げられる。これらジイミド及びその誘導体は、いずれか1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ジイミド又はその誘導体を用いてラテックス中で還元する方法としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化ジエン系ゴムのラテックスに、ジイミド又はその誘導体を添加し加熱しながら攪拌することにより、これらジエン系ゴムのエポキシ基を還元することができる。
【0025】
上記のようにエポキシ化した天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムのエポキシ基を還元することにより、上記式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有する変性ジエン系ゴムが得られる。これらの構成単位を、エポキシ基を持つ構成単位に代えて導入することにより、ガラス転移温度の変化による粘弾性制御が可能となり、特にタイヤに使用した場合に、低燃費性とウェットスキッド性を改良することができる。また、水酸基を持つことにより、水素結合や水酸基の反応性による分子間相互作用から相溶性の改良や、ポリマー同士、ポリマーとフィラー等との反応性が向上するものと考えられ、物性を改良することができ、低燃費性やウェットスキッド性等の改善に寄与することができる。また、該変性ジエン系ゴムであると、天然ゴム又は合成イソプレンゴムの二重結合部分に水酸基が1つ付加したモノオール構造となっている。上記のようにモノオール構造であると、ジオール構造に比べて、仮に1分子中の水酸基量が同量であっても、分子鎖内により均一に水酸基を分散させて導入することができる。そのため、シリカ等のフィラーとの結合ないし反応性を向上させることができ、低燃費性とウェットスキッド性の更なる改善を図ることができる。なお、上記還元により通常は式(1)の構成単位が主として形成されるが、式(1)の構成単位と式(2)の構成単位は、これらの効果との関係上区別する実益はなく、従って、式(1)の構成単位のみ有するものであっても、式(2)の構成単位のみ有するものであっても、式(1)の構成単位と式(2)の構成単位が一分子中に混在するものであってもよい。
【0026】
上記変性ジエン系ゴムは、上記式(3)で表される主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を含む構成単位を更に有してもよい。すなわち、エポキシ化ジエン系ゴムに含まれる全てのエポキシ基を還元してもよいが、好ましくは、その一部を還元することであり、従って、変性ジエン系ゴムは、主鎖に直接結合された水酸基とともにエポキシ基を有することが好ましい。なお、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムの場合には、更に下記式(4)で表される未変性の構成単位も含まれる。
【化3】

【0027】
上記変性ジエン系ゴムにおいて、式(1)及び/又は式(2)で表される水酸基を含む構成単位の含有量(水酸基化率)は、特に限定されないが、イソプレンユニットに対して1〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは2〜15モル%であり、更に好ましくは5〜10モル%である。水酸基化率を1モル%以上にすることにより、ポリマー同士やフィラー等との反応性の向上等により、低燃費性の向上効果を高めることができる。一方、水酸基化率が20モル%を超えると、変性ジエン系ゴムのガラス転移温度が上がって、低燃費性の改善効果が小さくなる。ここで、水酸基化率は、全イソプレンユニットのモル数に対する水酸基が導入されたイソプレンユニットのモル数の比率である。
【0028】
上記変性ジエン系ゴムにおいて、式(3)で表されるエポキシ基を含む構成単位の含有量(エポキシ化率)も、特に限定されないが、イソプレンユニットに対して2〜40モル%であることが好ましく、より好ましくは3〜20モル%であり、更に好ましくは5〜15モル%である。エポキシ化率を2モル%以上とすることにより、変性ジエン系ゴムのガラス転移温度の上昇し、ウェットスキッド性の向上効果を高めることができる。一方、エポキシ化率が40モル%を超えると、変性ジエン系ゴムのガラス転移温度が高くなりすぎて、低燃費性の改善効果が低減するおそれがある。
【0029】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記変性ジエン系ゴムをゴム成分として含有するものである。ゴム成分としては、上記変性ジエン系ゴム単独でもよく、また他のジエン系ゴムとブレンドして用いてもよい。ブレンドする他のジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、未変性の天然ゴム(NR)、未変性の合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM)などが挙げられ、これらはいずれか1種、又は2種以上組み合わせてもよい。他のジエン系ゴムとブレンドする場合、ゴム成分は、上記変性ジエン系ゴムを5質量%以上含むことが好ましく、従って、ゴム成分100質量部は、上記変性ジエン系ゴムを5〜100質量部含有するものであることが好ましい。より好ましくは、ゴム成分は、上記変性ジエン系ゴムを30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上含むことである。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物には、フィラーとしてシリカを配合することが好ましい。シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性としては特に限定されないが、例えば、窒素吸着比表面積(BET)が100〜300m/gであることが好ましい。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に記載の方法に準拠し測定される。シリカの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して10〜120質量部であることが好ましく、より好ましくは下限が20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、また、上限が100質量部以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係るゴム組成物には、フィラーとしてカーボンブラックを配合してもよい。カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として使用されているSAF(N100番台)、ISAF(N200番台)、HAF(N300番台)、FEF(N500番台)、GPF(N600番台)等の各種カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましい。
【0032】
また、フィラーとしては、上記シリカやカーボンブラックの他に、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを配合してもよい。好ましくは、シリカ及び/又はカーボンブラックを配合することであり、より好ましくはシリカ単独で用いることである。なお、シリカとカーボンブラックを併用する場合、合計の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して、15〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜120質量部である。
【0033】
本実施形態に係るゴム組成物においては、フィラーとしてシリカを配合する場合、更にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランなどが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜12質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。
【0034】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0035】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物は、例えば、トレッドやサイドウォール、ベルトやプライのトッピングゴム、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができるが、好ましくは、空気入りタイヤに用いることである。特には、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、トレッド部を形成することができる。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、好ましい態様として接地面を構成するゴムに用いる場合、単層構造のものであれば、トレッド部の全体が上記ゴム組成物からなることが好ましく、また2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
[変性ジエン系ゴムの合成]
・合成例1:変性ジエン系ゴムA(比較例)
DRC(Dry Rubber Content)30質量%に調節した天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「LA−NR」)100gに乳化剤:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.9gを加えて乳化状態を安定化させ、100rpmで撹拌しながら、30質量%過酸化水素水10.6g、ギ酸4.06gを滴下し、50℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより、変性ジエン系ゴムAとしてエポキシ化天然ゴムを得た。得られた変性ジエン系ゴムAのエポキシ化率は20モル%であった。
【0038】
・合成例2:変性ジエン系ゴムB(比較例)
合成例1で得られた変性ジエン系ゴムA100gをTHF(テトラヒドロフラン)2250mlに溶解し、200rpmで攪拌しながら、6規定硫酸11.7mlと水2.52gを滴下して室温で2時間反応させた後、水を大量に加え、貧溶媒にしてゴムを析出させた。これを乾燥させることにより変性ジエン系ゴムBとしてエポキシ化率15モル%、水酸基化率5モル%のエポキシ水酸基化天然ゴムを得た。
【0039】
・合成例3:変性ジエン系ゴムC(実施例)
合成例1で得られる変性ジエン系ゴムAを凝固させる前のラテックス200gに水600gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド7.82gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより変性ジエン系ゴムCとしてエポキシ化率15モル%、水酸基化率5モル%のエポキシ水酸基化天然ゴムを得た。下記のH−NMRにより、合成例1の変性ジエン系ゴムAとの間でスペクトルを対比して、水酸基以外の官能基が導入されていないことを確認した。
【0040】
・合成例4:変性ジエン系ゴムD(実施例)
パラトルエンスルホニルヒドラジドの添加量を15.6gに変更し、その他は合成例3と同様にして、変性ジエン系ゴムDとしてエポキシ化率10モル%、水酸基化率10モル%のエポキシ水酸基化天然ゴムを得た。
【0041】
・合成例5:変性ジエン系ゴムE(実施例)
合成例1と同様の手法でエポキシ化率を10モル%に調節したエポキシ化天然ゴムを、凝固させる前のラテックス200gに水600gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド8.03gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより変性ジエン系ゴムEとしてエポキシ化率5モル%、水酸基化率5モル%のエポキシ水酸基化天然ゴムを得た。
【0042】
・合成例6:変性ジエン系ゴムF(実施例)
合成例1と同様の手法でエポキシ化率を15モル%に調節したエポキシ化天然ゴムを、凝固させる前のラテックス200gに水600gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド7.96gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより変性ジエン系ゴムFとしてエポキシ化率10モル%、水酸基化率5モル%のエポキシ水酸基化天然ゴムを得た。
【0043】
・合成例7:変性ジエン系ゴムG(実施例)
合成例1と同様の手法でエポキシ化率を25モル%に調節したエポキシ化天然ゴムを、凝固させる前のラテックス200gに水600gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド15.5gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより変性ジエン系ゴムGとしてエポキシ化率15モル%、水酸基化率10モル%のエポキシ水酸基化天然ゴムを得た。
【0044】
[エポキシ化率及び水酸基化率の測定]
合成して得られたゴムをCDCl(重クロロホルム)に溶解させ、H−NMR(BRUKER社製「400ULTRASHIELD」)のスペクトルより、イソプレンユニットの二重結合部のプロトンピーク5.2ppmと、エポキシ基結合部のプロトンピーク2.7ppmと、水酸基結合部のプロトンピーク3.4ppm又は1.4〜1.6ppmの各面積強度から、エポキシ化率と水酸基化率を算出した。上記プロトンピークは、いずれも、メチル基が結合した炭素とは反対側の炭素に結合したHのピークである。なお、水酸基の場合、2モル付加体、又は該反対側の炭素に水酸基が結合した1モル付加体の場合、該プロトンピークは3.4ppmであり、メチル基が結合した炭素に水酸基が結合した1モル付加体の場合、該プロトンピークは1.4〜1.6ppmである。また、二重結合部が水添されたイソプレンユニットについては、二重結合部に隣接する炭素に結合したプロトンに、水添に対応したピークが現れるので、その面積強度から水添されたイソプレンユニットの比率を求めて、全イソプレンユニット数の算出の際に考慮した。
【0045】
[粘度平均分子量の測定]
粘度測定はLAUDA社製「粘度測定器PVS1」を用いて行った。標準試料として1,4−ポリイソプレン(分子量:600、1500、7500、21000、80000、210000、750000、1000000の8種類)を用い、粘度法による[η]=KMαの係数K、αを算出し、その係数を用いて、式から各試料の粘度平均分子量Mを求めた。
【0046】
[ガラス転移温度の測定]
メトラートレド社製「示差走査熱量測定DSC822」を用いて、DSCにより測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、変性ジエン系ゴムBでは、有機溶媒系で酸触媒を使用して水を付加させたものであるため、分子量の低下がみられた。これに対し、変性ジエン系ゴムC〜Gでは、分子量の低下はほとんどなく、水酸基化によりガラス転移温度を変化させることができた。
【0049】
[ゴム組成物の調製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。上記ゴムを除く、表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0050】
・天然ゴム:レヂテックス社製「LA−NR」(DRC(Dry=60質量%))を凝固乾燥して得られた天然ゴム
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=200m/g)
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
【0051】
各ゴム組成物について、未加硫ゴムを160℃で20分間加硫して加硫ゴム片を作成し、各加硫ゴム片について、低燃費性、ウェットスキッド性能、耐劣化性、引張り強度を評価した。結果を表2に示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0052】
・低燃費性:株式会社上島製作所製「粘弾性試験機VR−7110」を用いて、静歪み2%、動歪み5%、周波数10Hzにて、60℃でのtanδを測定し、測定値の逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数の大きいほど、tanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低燃費性に優れることを意味する。
【0053】
・ウェットスキッド性能:株式会社上島製作所製「粘弾性試験機VR−7110」を用いて、静歪み2%、動歪み5%、周波数10Hzにて、0℃でのtanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数の大きいほど、tanδが大きく、ウェットスキッド性能に優れることを意味する。
【0054】
・耐劣化性:JIS K6257−1993に準拠した空気加熱老化試験(ノーマルオーブン法)により100℃、168時間経過前後の引張強度の変化率により耐熱劣化性を評価した。変化率の逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、変化率が小さく、耐劣化性に優れることを意味する。
【0055】
・引張強度:JIS K6251に準拠した引張試験により測定(ダンベル状3号形)し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、引張強度が大きいことを意味する。
【0056】
【表2】

【0057】
結果は表2に示す通りであり、比較例1に係る未変性の天然ゴムに代えて、エポキシ化天然ゴムを用いた比較例2では、ウェットスキッド性は大幅に向上したものの、低燃費性が悪化しており、両性能のバランスが不十分であった。比較例3では、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基の一部を水酸基化したものであったが、ジオール構造であったため、低燃費性とウェットスキッド性能の向上効果が不十分であった。また、ポリマーの分子量の低下により、引張強度が低下していた。
【0058】
これに対し、実施例1〜5であると、エポキシ基の一部を還元してモノオール構造の水酸基を含む構成単位を導入したことにより、ガラス転移温度の変化による粘弾性制御が可能となり、また、シリカとの結合性が改善されたためか、低燃費性とウェットスキッド性のバランスが顕著に改善されており、比較例3に対しても向上効果が認められた。また、還元剤により天然ゴム分子鎖中の二重結合が副反応により還元されたためか、耐劣化性の改善効果も認められた。更に、物性(引張強度)の低下もみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る変性ジエン系ゴムは、空気入りタイヤ用のゴム組成物に配合するものとして好適に用いることができ、より詳細には、空気入りタイヤのトレッドゴムを構成するゴム組成物に特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を有するジエン系ゴムに対し、前記エポキシ基の少なくとも一部をラテックス中でジイミド又はその誘導体により還元することで水酸基化することを特徴とする変性ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項2】
ジエン系ゴムの主鎖の二重結合部分をラテックス中でエポキシ化し、生成したエポキシ基の少なくとも一部を更に該ラテックス中で前記ジイミド又はその誘導体により還元することで水酸基化することを特徴とする請求項1記載の変性ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムが天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムであることを特徴とする請求項1又は2記載の変性ジエン系ゴムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で得られた変性ジエン系ゴム。
【請求項5】
天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムからなるジエン系ゴムを変性してなる変性ジエン系ゴムであって、前記ジエン系ゴムの主鎖における二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基の少なくとも一部を還元することにより得られた下記式(1)で表される構成単位と下記式(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有することを特徴とする変性ジエン系ゴム。
【化1】

【請求項6】
下記式(3)で表される構成単位を更に有することを特徴とする請求項5記載の変性ジエン系ゴム。
【化2】

【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の変性ジエン系ゴムを含むゴム組成物。
【請求項8】
前記変性ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対してシリカを10〜120質量部含有する請求項7記載のゴム組成物。
【請求項9】
更にシランカップリング剤を、前記シリカ100質量部に対して2〜12質量部含有する請求項8記載のゴム組成物。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−10871(P2013−10871A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144731(P2011−144731)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】