説明

変性ポリケトン成形体、及び熱変性ポリケトン成形体

【課題】ポリケトン成形体に水に対する優れた親和性を付与するので、水の濡れ性、含浸性の優れた変性ポリケトンフィルム、微多孔フィルムを提供する。また、高温における耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池の電解液に対する高温耐性を有する熱変性ポリケトン成形体、とくに熱変性ポリケトン微多孔フィルムを提供する。
【解決手段】ポリケトン成形体をそのカルボニル基と化学反応する反応剤で処理し、変性ポリケトン成形体を得る。変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加え、熱変性ポリケトン成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリケトンのカルボニル基と化学反応する反応剤で処理した変性ポリケトン成形体に関する。また、変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えた熱変性ポリケトン成形体に関する。
詳しくは、水に濡れやすい変性ポリケトンフィルム、および変性ポリケトン微多孔フィルムに関する。また、耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池等の電解液に対する高温耐性に優れた熱変性ポリケトンフィルム、または熱変性ポリケトン微多孔フィルムに関する。
【0002】
近年、ポリケトンを用いた成形体は新規材料として注目され、種々提案されている。該成形体としてはフィルム、微多孔フィルム、およびそれらの複合体などが挙げられる。
例えば、ポリケトンを用いた微多孔フィルムは特許文献1〜3に開示されている。ポリケトンは耐熱性に優れ、高強度であるので、透気、通液性のある微多孔フィルムは、電池用セパレーターや分離膜など多くの用途に検討されている。
【0003】
しかし、特許文献1〜3において微多孔フィルムはまだ満足できるものとは十分言えない。例えば、ポリケトンは比較的親水性のカルボニル基を有しているが、それでも例えば水酸基ほどの親水性はなく、電解液が水溶液の場合、微多孔フィルムへの含浸はかなり難しい。また、ポリケトン微多孔フィルムは、そのままでは高温における耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池等の電解質を含む高温の電解液、とりわけリチウムイオンを含む水系および有機系電解液には高温で溶解して、コンデンサー又は電池用セパレーターの重要な機能である電極絶縁性を消失する。
【0004】
【特許文献1】特開2000−198866号公報
【特許文献2】特開2004−267833号公報
【特許文献3】特開2006−027024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来技術に見られる上記問題点を解決するものである。即ち本発明は、ポリケトン成形体へ水に対する優れた親和性を付与した変性ポリケトン成形体(特に成形体の形状、構造には何ら制限はない。)の提供を目的にする。とくに、水系電解液の濡れ性、含浸性が優れた変性ポリケトンフィルム、および変性ポリケトン微多孔フィルムの提供を目的とする。
また、高温における耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池の電解液に対する高温耐性を有する熱変性ポリケトン成形体(特に成形体の形状、構造には何ら制限はない。)、とくに熱変性ポリケトンフィルム、および熱変性ポリケトン微多孔フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため、ポリケトン成形体のカルボニル基に着目して鋭意検討した結果、該カルボニル基と化学反応する反応剤で処理した変性ポリケトン成形体が水に対する優れた親和性を有することを見出し、本発明に至った。
また、上述の化学反応処理と併せ、得られた変性ポリケトン成形体を熱処理することで、高温における耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池などの電解液に対する高温耐性が向上できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明の第1は、ポリケトン成形体をそのカルボニル基と化学反応する反応剤で
処理したことを特徴とする変性ポリケトン成形体である。本発明の第2は、ポリケトン成形体のカルボニル基と化学反応する反応剤が、アミン、ヒドロキシルアミン類、ヒドラジン類、ヒドラジド、セミカルバジド類、還元剤から選択される1種以上であることを特徴とする本発明第1の変性ポリケトン成形体である。本発明の第3は、還元剤が、テトラヒドロほう酸ナトリウムであることを特徴とする本発明第2に記載の変性ポリケトン成形体である。本発明の第4は、ポリケトン成形体のカルボニル基と化学反応する反応剤の反応量が、ポリケトン成形体の全カルボニル基の0.05〜10モル%であることを特徴とする本発明第1〜3のいずれかの変性ポリケトン成形体である。本発明の第5は、ポリケトンが脂肪族ポリケトンであることを特徴とする本発明第1〜4のいずれかの変性ポリケトン成形体である。本発明の第6は、ポリケトンが下記式(1)で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリケトンであることを特徴とする本発明第1〜5のいずれかの変性ポリケトン成形体である。
−CH−CH−CO− (1)
本発明の第7は、本発明の第1〜6のいずれかの変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体である。
【0008】
本発明の第8はポリケトン成形体がポリケトンフィルムであることを特徴とする本発明第1〜6のいずれかの変性ポリケトン成形体である。本発明の第9は本発明第8の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体である。本発明の第10はポリケトン成形体がポリケトン微多孔フィルムであることを特徴とする本発明1〜6のいずれかの変性ポリケトン成形体である。本発明の第11は本発明第10の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体である。
本発明の第12はポリケトン成形体がポリケトンフィルムおよびポリケトン微多孔フィルムを組み合わせた複合体であることを特徴とする本発明第1〜6のいずれかの変性ポリケトン成形体である。本発明の第13は、本発明第12の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変性ポリケトン成形体は、水に対する優れた親和性を有することができる。したがって、変性ポリケトンフィルムの水に対する濡れ性を向上し、変性ポリケトン微多孔フィルムへの水系電解液の含浸性が優れ、キャパシタや電池などに応用したときの充液性に優れる。
本発明の熱変性ポリケトン成形体は、高温における優れた耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池の水系および有機系電解液に対する従来にない顕著な高温耐性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の変性ポリケトン成形体は、ポリケトン成形体のカルボニル基の一部が反応剤と化学反応してカルボニル基以外の親水性基に変化したものである。すなわち、本発明の変性ポリケトン成形体の「変性」とはポリケトンのカルボニル基の一部が反応剤と化学反応してカルボニル基以外の親水性基に変化したことをいい、化学変性を指す。カルボニル基以外の親水性基に変化したことによってポリケトン成形体が水に対する優れた親和性を有することができる。
【0011】
本発明に用いるポリケトン成形体のポリケトンは、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、あるいは他のポリケトンでもよい。
芳香族ポリケトンは、エーテル基及びカルボニル基を介してフェニレン基が連結されている構造を有する高分子化合物で、ポリ(エーテルケトン)、ポリ(エーテルエーテルケトン)、ポリ(アリールエーテルケトン)、ポリ(エーテルケトンケトン)、ポリ(エー
テルエーテルエーテルケトン)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)等が挙げられる。
【0012】
脂肪族ポリケトンは、一酸化炭素と共重合する単量体としてエチレン性不飽和二重結合含有オレフィンとの共重合体が一般的であるが、他に、スチレン、ジエンとの共重合体も含む。
エチレン性不飽和二重結合含有オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、シクロペンテン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等が挙げられる。一酸化炭素とエチレン性不飽和二重結合含有オレフィンは交互共重合して共重合体となる。エチレン性不飽和二重結合含有オレフィンは1種類でも複数種類含んでも良いが、1種類の場合は結晶性が高く、好ましい。一酸化炭素とエチレンの共重合体はとくに結晶性が高く、ポリケトン成形体に高強度、高弾性、高耐熱性を付与できるので、さらに好ましい。
ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0013】
他のポリケトンは、一酸化炭素と共重合可能な他の単量体との共重合体である。部分的に一酸化炭素由来のカルボニル基同士、他の単量体由来のアルキレン基同士が繋がっていてもよいが、90%以上がカルボニル基と他の単量体の完全交互共重合体、即ち、他の単量体由来のアルキレン基の次にはカルボニル基が結合し、カルボニル基の次には他の単量体由来のアルキレン基が結合するポリケトンであることが、変性ポリケトン成形体の高強度、高弾性、高耐熱性を得るために好ましい。また、ポリケトン成形体中にカルボニル基の存在が多くなり、本発明における化学反応処理が進行しやすく、親水性を付与しやすくなる。ポリケトン中のカルボニル基と他の単量体が完全交互共重合した部分の含有率は高ければ高いほどよく、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。
共重合可能な他の単量体としては、ビニルエステル、脂肪族不飽和カルボン酸、その塩及びそのエステル等が挙げられる。
【0014】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が、挙げられる。
脂肪族不飽和カルボン酸、その塩及びそのエステルとしては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、ウンデセン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル(これらのエステルとしてはメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル等)、アクリル酸塩、マレイン酸塩、イタコン酸塩(これらの塩としては1価又は2価の金属塩等)等が挙げられる。
共重合可能な他の単量体として、更にN−ビニルピロリドン、スルホニルスルホン酸、ノルボルネン系化合物、ジエチルビニルフォスフォネート等も挙げることができる。共重合する単量体は、1種のみでも、2種以上でもよい。
【0015】
本発明で用いるポリケトンは、カルボニル基の反応性の点から脂肪族ポリケトンが好ましく、特に、下記式(1)で示される1−オキソトリメチレンの繰り返し単位を含む脂肪族ポリケトンが結晶性も高く、より好ましい。
−CH−CH−CO− (1)
繰り返し単位の90%以上が一酸化炭素とエチレンとの交互共重合体であるポリケトンが本発明において好ましく用いられる。この場合、ポリケトンを構成するエチレンと一酸
化炭素の交互共重合単位に、10モル%以下、好ましくは4〜8モル%の、一酸化炭素とエチレン以外のオレフィン(以下、他のオレフィンという)との交互共重合単位が混在していてもよい。他のオレフィンとしては、プロピレンが好ましい。
本発明で用いるポリケトンの製造方法としては、公知の方法、例えば、特許文献4〜15等に記載されている方法が挙げられるが、特にそれに限定されるものではない。
【0016】
(特許文献4) 米国特許第2,495,286号公報
(特許文献5) 特開昭53−128690号公報
(特許文献6) 特開昭59−197427号公報
(特許文献7) 特開昭61−91226号公報
(特許文献8) 特開昭62−232434号公報
(特許文献9) 特開昭62−53332号公報
(特許文献10) 特開昭63−3025号公報
(特許文献11) 特開昭63−105031号公報
(特許文献12) 特開昭63−154737号公報
(特許文献13) 特開平1−149829号公報
(特許文献14) 特開平1−201333号公報
(特許文献15) 特開平2−67319号公報
【0017】
本発明に用いるポリケトン成形体の製造方法としては以下の例があるが、本発明はそれらの例に何ら限定されない。
本発明に用いるポリケトンフィルム、ポリケトン微多孔フィルムの製造方法としては、溶融押出し法、溶液流延法など公知の方法ならばどんな方法でも良い。
溶融押し出し法では、ポリケトンを押し出し機で加熱溶融し、環状ダイあるいはTダイなどから押し出して原反を得て、その後所定の厚さにするため延伸する方法がある。押し出し機を1台用いて単層フィルムを製造する方法や、押し出し機を複数台用いて一つのダイから押し出し、複層フィルムを製造する方法などがある。薄膜化、高強度、高弾性などの特性をフィルムに付与する延伸方法としては、1軸延伸、2軸延伸、逐次延伸、同時延伸、熱延伸、冷間延伸などがある。また、ポリケトン微多孔フィルムの製造方法の一例としては、ポリケトンに不活性な有機液状物質、あるいは固体粒子状物質を加えて混練りしてから、押し出し、フィルム化してから有機液状物質、あるいは固体粒子状物質を溶解抽出する製造方法などがある。
【0018】
溶液流延法では、ポリケトンを亜鉛塩、カルシウム塩、リチウム塩、イソシアネート塩等の水系、あるいは有機系電解液などに溶解させたポリケトン溶液を剥離性のある基材にブレードコーター、エアナイフコーター、バーコーター、スピンコーターなどで塗布、あるいは流延し、乾燥するか、あるいはポリケトン溶液を不溶性の溶媒中に押出した後乾燥してフィルムを製造する方法などがある。
本発明に用いるポリケトン成形体のカルボニル基と化学反応する反応剤は、アミン、ヒドロキシルアミン類、ヒドラジン類、ヒドラジド、セミカルバジド類、還元剤から選択される1種以上であることが好ましい。
【0019】
アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ベンジルアミン、2−アミノピリジン、エタノールアミン等の脂肪族、芳香族の一級アミンが挙げられる。一級アミンであれば、4−ブロモ−3−ピリジンアミン、2−ブロモベンジルアミン等のようにハロゲン等で置換されていてもよい。また、1,4−ブタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、N−アセチルエチレンジアミン等のように、一級アミンを含めばジアミン、トリアミン、テトラアミン等でもよい。更に、上記アミンのフリー体のみならず、塩酸2−アダマンタンアミンのような塩酸塩、硫酸o−クロロ−p−フェニレンジアミンのような硫酸塩等の塩でもよい。
ヒドロキシルアミン類としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸、ダプゾンヒドロキシルアミン、O−ベンジルヒドロキシルアミン等が挙げられ、これらの水溶液や、O−メチルヒドロキシルアミン塩酸塩、O−(4−ニトロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩、O−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩等の塩酸塩、硫酸ヒドロキシルアミン等の硫酸塩も挙げられる。
【0020】
ヒドラジン類としては、ヒドラジン、一置換ヒドラジン、N,N−二置換ヒドラジン等が挙げられ、これらの一水和物、一臭化水素酸塩、一塩酸塩、二塩酸塩、硫酸塩、二ヒドラジン一硫酸塩、一しゅう酸塩、炭酸塩、抱水ヒドラジン、二臭化水素酸ヒドラジン二水和物、及び上記化合物の水溶液等も含まれる。置換基としては、メチル、エチル、ブチル、アリル、2−シアノエチル、フェニル、ベンジル、トリル、2−ピリジル等が挙げられ、N,N−二置換の場合は、二つの置換基が同一でもよいし、異なっていてもよい。また、置換基のフェニル基は、更にアルキル、アルキロキシ、ハロゲン、ニトロ、シアノ、カルボキシ、スルホン酸等の置換基により1〜5置換されていてもよい。これらには、1−エチル−1−(4−メチルフェニル)ヒドラジン、3−メトキシフェニルヒドラジン塩酸塩、4−ブロモ−2−ニトロフェニルヒドラジン、4−ブロモテトラフルオロフェニルヒドラジン、p−(トリフルオロメチル)フェニルヒドラジン、4−シアノフェニルヒドラジン塩酸塩、p−カルボキシフェニルヒドラジン、フェニルヒドラジン−4−スルホン酸等が挙げられる。
【0021】
ヒドラジドとしては、モノカルボン酸からヒドラジンとの反応で誘導されるモノヒドラジド、同様にジカルボン酸、トリカルボン酸、及びテトラカルボン酸から誘導されるジヒドラジド、トリヒドラジド、及びテトラヒドラジド等、有機酸から誘導されるあらゆる酸ヒドラジド等を挙げることができる。上記モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等の有機酸は、直鎖でもよいし、枝分れがあってもよい。ギ酸ヒドラジド、酢酸ヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、酪酸ヒドラジド、イソ酪酸ヒドラジド、アクリル酸ヒドラジド、クロトン酸ヒドラジド、イソクロトン酸ヒドラジド、オレイン酸ヒドラジド、エライジン酸ヒドラジド、リノール酸ヒドラジド、リノレン酸ヒドラジド、ベンゾヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等を挙げることができる。これらは、アルキル、アルキロキシ、ハロゲン、アミノ、ジアルキルアミノ、シアノ、ヒドロキシ、ニトロ等の置換基で1つ又は2つ以上置換されていてもよい。
【0022】
セミカルバジド類としては、セミカルバジド、チオセミカルバジドが挙げられ、4位のアミノ基(カルボニル基又はチオカルボニル基に結合しているアミノ基)は、1〜2置換していてもよい。置換基は、アルキル、シクロアルキル、アリル、フェニル、ベンジル、1−アダマンチル等で、フェニル、ベンジル基には更に、ハロゲン、アルキル、ハロゲノアルキル等が置換していてもよい。また、特許文献16〜22に記載されているセミカルバジドも用いることができる。上記セミカルバジドの塩酸塩、一水和物も使用することができる。
【0023】
(特許文献16) WO96−01252号公報
(特許文献17) 特開平08−245878号公報
(特許文献18) 特開平09−323969号公報
(特許文献19) 特開平10−298158号公報
(特許文献20) 特開平2003−252847号公報
(特許文献21) 特開2000−034270号公報
(特許文献22) 特開2001−055372号公報
【0024】
還元剤としては、テトラヒドロアルミン酸リチウム、テトラヒドロほう酸リチウム、テトラヒドロほう酸カリウム、テトラヒドロほう酸ナトリウム、テトラヒドロほう酸テトラエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムトリアセトキシボロヒドリド、トリ−s−ブチルボロハイドライドカリウム、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド等が挙げられる。還元剤としては、とくにテトラヒドロほう酸ナトリウムであることが好ましい。
【0025】
ポリケトン成形体とこれらの反応剤との反応は、反応剤溶液にポリケトン成形体を浸漬させることにより行う。フィルムを連続的に浸漬する方法、微多孔フィルムにニップをかけながら、あるいは減圧しながら浸漬する方法、あるいはバッチ式に浸漬する方法等が用いられる。適当な溶媒に適量の反応剤を溶解させ、適当な温度で、適当な時間浸漬又は攪拌させる。反応に使用する溶媒は、ポリケトン成形体を溶解せず、反応剤を溶解し、反応剤と反応しない、又はしにくい溶媒を、使用するポリケトン及び反応剤ごとに水及び有機溶媒等から選択する。2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。多くの場合、水を用いるのが好ましい。浸漬させるポリケトン成形体の濃度は、0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜10%がより好ましい。反応剤量、反応剤濃度、反応温度、攪拌強度、及び浸漬・攪拌時間は、ポリケトン成形体の構造、反応剤の構造、反応方法、目標とする反応量等により、適宜調整して行う。バッチ式浸漬の場合の反応剤量は、通常、反応のコントロールのしやすさと未反応の反応剤の除去のしやすさから、ポリケトン成形体の全カルボニル基の0.05〜100モル%であることが好ましい。反応温度は、通常、室温から溶媒の沸点までであるが、水溶液の場合、目安として10〜90℃が好ましい。反応剤濃度も目安として0.01〜20質量%、浸漬・攪拌時間は1秒〜5時間が好ましい。
反応終了後は、ポリケトン成形体を反応に使用した溶媒等で洗浄することが好ましい。
【0026】
本発明の変性ポリケトン成形体の反応量は、ポリケトン成形体の全カルボニル基に対して0.05〜10モル%が好ましい。0.05モル%以上で水に対する成形体の親和性が向上し、10モル%以下でポリケトン成形体の持つ特質を低下させること無く、水親和性を付与することができる。より好ましくは0.1〜7モル%で、更に好ましくは0.2〜5モル%である。
反応量は、反応液中の未反応の反応剤の定量により求めるか、得られた変性ポリケトン成形体の元素分析等の分析により求める。ポリケトンと反応剤の構造により適当な方法を選択することができるが、本発明においては、後者の元素分析により求めた。ポリケトンのカルボニル炭素は該反応剤と反応して水に親和性の強い窒素原子又は水酸基と結合することになるので、ポリケトン成形体を水に濡らす際に速やかに親和し、長時間の保水が可能となる。
【0027】
本発明の熱変性ポリケトン成形体は、変性ポリケトン成形体に熱処理を加えることで製造できる。変性ポリケトン成形体に熱処理を加えることで、該成形体に高温における優れた耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池の水系および有機系電解液に対する従来にない顕著な高温耐性を発現することができる。熱処理条件は、変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えるだけでよい。熱処理により変性ポリケトン成形体に架橋反応等が進行する。熱処理は110℃以上で、強度及び高温における耐溶剤性、特にコンデンサー又は電池の電解液に対する高温耐性が向上し、270℃以下で熱分解を抑えることができる。熱処理温度は150〜260℃が好ましく、200〜250℃がより好ましい。本発明において、変性ポリケトンフィルムおよび変性ポリケトン微多孔フィルムに110〜270℃の熱処理を加えたものを、特に熱変性ポリケトン成形体と呼ぶ。
【0028】
熱処理方法は、オーブン、乾燥器等のヒーター、赤外線等による加熱、および/または熱風加熱、油浴中での加熱、熱ロール、熱プレス等による加熱などが挙げられる。これら
は連続式であってもバッチ式であってもよい。また、窒素雰囲気下で行う方法が好ましいが、空気中でもよい。熱処理時間は、0.1秒〜60分が好ましく、10秒〜20分がより好ましい。加圧熱処理において熱プレス時のプレス線圧は、1〜200kN/mが好ましく、プレス面圧は0.5〜50MN/mが好ましい。
【0029】
本発明の変性ポリケトン成形体、及び熱変性ポリケトン成形体は、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂等の高分子樹脂を塗布、貼り合わせ、共押出し又は含浸などの方法で強度を更に高めたり、加工性や高分子樹脂特有の別の機能を付与することができる。また、本発明の変性ポリケトン成形体、及び熱変性ポリケトン成形体は、織布、不織布、あるいは繊維と複合化して強度を更に高めたり、加工性や織布、不織布、あるいは繊維特有の別の機能を付与することができる。さらに、変性ポリケトン成形体、及び熱変性ポリケトン成形体に特定の機能を付与するために機能付与剤を添加することもできる。これらの機能付与剤には、防炎剤、撥水剤、撥水・撥油剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0030】
本発明の変性ポリケトン成形体及び熱変性ポリケトン成形体が、フィルム、微多孔フィルムである場合の厚さは1〜200μmであることが好ましい。該厚さは1μm以上で成形体の強度を維持することができ、200μm以下で柔軟性、加工性が良い。とくに微多孔フィルムの場合、気体、液体の浸入、透過が優れるので、コンデンサー又は電池用等の内部抵抗の低い優れたセパレーターとして提供できる。上記の厚さは3〜100μmがより好ましく、5〜50μmが更に好ましい。
本発明の変性ポリケトン成形体及び熱変性ポリケトン成形体が、とくに微多孔フィルムの場合、成形体空隙率は30〜90%であることが好ましい。該空隙率が30%以上とすることで、軽量性、多孔性、含浸性が得られ、90%以下とすることで加工性、強度が得られる。該空隙率が30〜80%が更に好ましい。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明する。
フィルム、微多孔フィルムの評価は下記の方法で行った。
[厚さ、厚さムラ]
マイクロメーターにより任意の10点を測定し、その平均値を厚さとした。また、厚さムラは下記式により算出された変化率が10%未満の場合○、10〜20%の場合△、20%以上の場合×とした。
変化率=(測定厚さの最大値−測定厚さの最小値)/測定厚さの平均値×100
[空隙率]
フィルムの総質量、構成する樹脂の密度、フィルムの厚さ、及びフィルムの面積より下記式により算出する。
空隙率(%)=(1−(フィルムの総質量/構成する樹脂の密度/(フィルムの厚さ×フィルムの面積))×100
[透気度]
JIS P8117(1998)に基づいて測定したガーレー値である。
【0032】
[変性ポリケトンの反応量(元素分析)]
変性ポリケトンを酸素気流中で燃焼させ、燃焼ガスをNCH−21型装置(住化分析センター製)にかけてTCD検出方式でC,H,Nを定量した。また、該変性ポリケトンを不活性ガス中で加熱分解させ、分解ガスを高温炭素反応させてEMGA−2800装置(堀場製作所製)にかけNDIR方式でOを定量した。一方、変性前のポリケトンも上述の方法で元素分析して全カルボニル基構成割合を求め、変性前後の元素分析値の差から、変性ポリケトンの反応量を求めた。
【0033】
[電解液高温耐性]
冷却管と温度計を取り付けた50mlフラスコにリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドの炭酸プロピレン溶液(1モル濃度)15mlと質量(前)を測定した2×12cmのフィルムを入れ、200℃で30分加熱した。冷却後フィルムを取り出し、炭酸プロピレン浸漬洗浄、メタノール置換を経て乾燥し、質量(後)を測定した。次式により、質量変化率(%)を求めた。
質量変化率(%)=(質量(後)−質量(前))/質量(前)×100
【0034】
[実施例1]
エチレン47モル%、プロピレン3モル%、一酸化炭素50モル%の共重合ポリケトンを用いて形成した厚さ30μm、空隙率45体積%、透気度が250秒/100ccのポリケトン微多孔フィルムを、60℃の塩酸ヒドロキシルアミンの0.5%水溶液(ポリケトンの全カルボニル基の2.0モル%相当量の塩酸ヒドロキシルアミン含有)中でニップロールに通して浸漬した。数回、同様の操作を繰り返し、合計1時間浸漬した。浸漬後、純水中でニップロールに通して洗浄する操作を数回繰り返した後、90℃で乾燥し、変性ポリケトン微多孔フィルムを得た。反応量は該変性フィルムの全カルボニル基に対する該反応剤の反応した割合(モル%)を示し、1.3モル%と算出された。
【0035】
該変性微多孔フィルムに純水を滴下すると瞬時に吸収した。変性していない微多孔フィルム(以降、未変性微多孔フィルムという)は吸収に時間がかかった。
該変性微多孔フィルムに外枠を付け収縮しないようにしてから200℃の熱風で15分間、熱処理をして熱変性微多孔フィルムを得た。
該熱変性微多孔フィルムの電解液高温耐性における質量変化率は0%で、形状の変化はなかった。熱処理していない変性微多孔フィルムの場合は27%の質量減少率で、形状は保持せず崩れた。未変性微多孔フィルムは溶解した。
【0036】
[実施例2]
エチレン52モル%に一酸化炭素48モル%の共重合ポリケトンを用いて形成した厚さ25μm、空隙率50体積%、透気度が120秒/100ccのポリケトン微多孔フィルムを50℃の塩酸ヒドロキシルアミンの0.5%水溶液(ポリケトンの全カルボニル基の1.0モル%相当量の塩酸ヒドロキシルアミン含有)中でニップロールに通して浸漬した。数回、同様の操作を繰り返し、合計1時間浸漬した。浸漬後、純水中でニップロールに通して洗浄する操作を数回繰り返した後、90℃で乾燥し、変性ポリケトン微多孔フィルムを得た。反応量は、0.75モル%と算出された。
【0037】
該変性微多孔フィルムに純水を滴下すると瞬時に吸収した。未変性微多孔フィルムでは吸収に時間がかかった。
該変性微多孔フィルムに外枠を付け収縮しないようにしてから230℃の熱風で10分間、熱処理をして熱変性微多孔フィルムを得た。
該熱変性微多孔フィルムの電解液高温耐性における質量変化率は5%で、形状の変化はなかった。熱処理していない変性微多孔フィルムの場合は33%の質量減少率で、形状は保持せず崩れた。未変性微多孔フィルムは溶解した。
【0038】
[実施例3〜11]
実施例1で使用したポリケトン微多孔フィルムを用いて表1に示す条件で、実施例1と同様にしてニップロールに通しながら浸漬し変性した。変性した微多孔フィルムの洗浄方法および乾燥方法は実施例1と同様にした。表中の反応剤量は、水溶液中の該フィルムの全カルボニル基に対する反応剤の量の割合(モル%)で、反応量は表1に示した。
該変性微多孔フィルムに純水を滴下し、吸収速度を未変性微多孔フィルムを基準に比較した。非常に早いを◎、早いを○で表1に記した。
該変性微多孔フィルムを200℃、15分間熱処理して熱変性微多孔フィルムを得た。
該変性および熱変性微多孔フィルムの電解液高温耐性は表1の質量変化率で示した。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の変性ポリケトン成形体は水に対する優れた親和性を有する。本発明の変性ポリケトンフィルムおよび変性微多孔フィルムは水系電解コンデンサーあるいは水系電解液電池等のセパレーター等に有用である。また、本発明の熱変性ポリケトン成形体は耐溶剤性、及びコンデンサーや電池の電解液に対する高温耐性等に優れる。本発明の熱変性ポリケトン微多孔フィルム等は、耐溶剤性、及びコンデンサーや電池の電解液に対する高温耐性等に優れ、コンデンサーや電池等のセパレーター等として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリケトン成形体をそのカルボニル基と化学反応する反応剤で処理したことを特徴とする変性ポリケトン成形体。
【請求項2】
ポリケトン成形体のカルボニル基と化学反応する反応剤が、アミン、ヒドロキシルアミン類、ヒドラジン類、ヒドラジド、セミカルバジド類、還元剤から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項3】
還元剤が、テトラヒドロほう酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項4】
ポリケトン成形体のカルボニル基と化学反応する反応剤の反応量が、ポリケトン成形体の全カルボニル基の0.05〜10モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項5】
ポリケトンが脂肪族ポリケトンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項6】
ポリケトンが下記式(1)で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリケトンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体。
−CH−CH−CO− (1)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体。
【請求項8】
ポリケトン成形体がポリケトンフィルムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体。
【請求項10】
ポリケトン成形体がポリケトン微多孔フィルムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項11】
請求項10に記載の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体。
【請求項12】
ポリケトン成形体がポリケトンフィルムとポリケトン微多孔フィルムを組み合わせた複合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ポリケトン成形体。
【請求項13】
請求項12に記載の変性ポリケトン成形体に110〜270℃の熱処理を加えたことを特徴とする熱変性ポリケトン成形体。

【公開番号】特開2009−286820(P2009−286820A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137716(P2008−137716)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】