説明

変性金属錯体及びその用途

【課題】レドックス触媒として高反応活性であり、熱安定性にも優れる、変性金属錯体を提供する。
【解決手段】分子内に、含窒素芳香族複素環及びフェノール環を1つずつ有し、さらにフェノール環、チオフェノール環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を1つまたは2つ有する有機化合物を配位子とする単核錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率を1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒として好適な変性金属錯体に関する。さらに本発明は、該変性金属錯体を含む触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒(レドックス触媒)として作用し、有機化合物又は高分子化合物の製造に使用されている。さらに、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料等、種々の用途にも使用されている。該金属錯体は、酸素還元触媒や、過酸化水素分解触媒として優れた反応活性を有することが知られている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0003】
しかし、上記のような金属錯体をレドックス触媒として用いた場合、当該錯体の熱安定性、および化学的安定性が不十分であり、酸存在下や加熱下で反応を行う場合において、この触媒を使用するには問題があった。このように金属錯体触媒を適用する反応において、酸の存在または加熱に対する安定性を向上させることが切望されていた。
【0004】
金属錯体の安定性を向上させる方法としては、金属錯体を加熱処理する方法が非特許文献3に記載されている。しかし、非特許文献3に記載されているような触媒の反応活性は、実用レベルで使用するには不十分であり、更なる反応活性の向上が望まれていた。
【0005】
【非特許文献1】Z.Liu,F.C.Anson,Inorganic Chemistry,40,1329(2001).
【非特許文献2】M.D.Godbole他,Europian Journal of Inorganic Chemistry,305(2005).
【非特許文献3】Tatsuhiro Okada,et.al.,Journal of Inorganic and Organometallic Polymers,9,199,(1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、レドックス触媒として高反応活性であり、熱安定性にも優れる、変性金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、とりわけ高い反応活性を示すレドックス触媒を見出すべく、鋭意検討した。芳香族骨格からなる単核錯体は、これまで開示されている脂肪族骨格からなる単核錯体と比較して、特に熱や酸に対して優れた安定性を示すことを見い出し、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の[1]〜[10]に示す、変性金属錯体及び触媒を提供する。
[1]分子内に、含窒素芳香族複素環及びフェノール環を1つずつ有し、さらにフェノール環、チオフェノール環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を1つまたは2つ有する有機化合物を配位子とする単核錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率を1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
[2]分子内にフェノール環を2つと、含窒素芳香族複素環を1つまたは2つ有する有機化合物を配位子とする単核錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理のいずれかの変性処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下となるまで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上とした変性金属錯体。
[3]前記単核錯体が、周期表の第4周期から第6周期に属する遷移金属原子を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の変性金属錯体。
[4]前記配位子が、下記一般式(I)または(II)で示される配位子であることを特徴とする[1]〜[3]の何れかに記載の変性金属錯体。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は、水素原子または置換基であり、隣り合う2つのR1は互いに連結していてもよく、複数あるR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Qは1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、Zは1つまたは2つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基である。T1は含窒素芳香族複素環を表す。W1は、窒素を含まない一価の芳香族置換基あるいは水素原子であり、W1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、電荷は省略してある。)
[5]前記単核錯体が、窒素原子及び酸素原子を配位原子とすることを特徴とする前記[1]〜[4]の何れかに記載の変性金属錯体。
[6]前記単核錯体を250℃以上1200℃以下で加熱処理したものである前記[1]〜[5]の何れかに記載の変性金属錯体。
[7][1]又は[2]で用いる単核錯体と、カーボン担体と、沸点あるいは融点が250℃以上の有機化合物、又は熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物から選ばれる少なくとも1種の有機化合物と、からなる混合物を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下まで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上とした変性金属錯体。
[8][1]又は[2]で用いる金属錯体と、カーボン担体及び/または導電性高分子とを含む組成物を加熱、放射、照射もしくは放電処理してなる変性金属錯体。
[9][1]〜[8]の何れかに記載の変性金属錯体からなる触媒。
[10][1]〜[8]の何れかに記載の変性金属錯体からなる電極触媒。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、単核錯体を変性処理することにより、レドックス触媒として高反応活性であり、熱安定性にも優れる、変性金属錯体を提供することができる。
【0012】
本発明によれば、過酸化物分解反応、酸化物分解反応、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、電極反応等の電子移動を伴うレドックス反応の触媒として、酸の存在下や加熱下であっても高反応活性を有する触媒が得られ、該触媒は、有機化合物、高分子化合物の合成用途や、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料用途に公的に用いることができ、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に適用する単核錯体の配位子は、含窒素芳香族複素環及びフェノール環を1つずつ有し、さらにフェノール環、チオフェノール環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を1つまたは2つ有する有機化合物である。該有機化合物の具体的な構造を下記式(a)〜(c)に例示する。なお、電荷は省略してある。
【0014】
【化2】

【0015】
ここで含窒素芳香族複素環とは、少なくとも1つの窒素原子を環内に含む芳香族複素環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基である。該環系を構成する原子としては、炭素と窒素の他に、酸素原子や硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。含窒素芳香族複素環の具体例としては、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、ピロール、トリアゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、フェナントロリン、カルバゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ベンゾジアジンなどを基本骨格とする基を挙げることができる。なお、フェナントロリンは、含窒素芳香族複素環を2つ有していると数える。
さらに前記の配位子としての有機化合物が、フェノール環が2個であると好ましい。前記構造を有した配位子を用いることで、錯体の安定性が向上する。
また、フェノール環とは、少なくとも1つのヒドロキシ基(OH)が結合したベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基であり、チオフェノール環とは、少なくとも1つのスルフヒドリル基(SH)が結合したベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基である。また、ヒドロキシ基(OH)及びスルフヒドリル基(SH)からプロトンを1つ以上放出していてもよい。
ベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基として、具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、インデン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ペンタセン、テトラフェニレン、ヘキサセン、コロネン等の芳香族炭化水素、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、キサンテン等の酸素、硫黄元素を含む縮合複素環化合物を基本骨格とする基が挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素の基であり、より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、インデン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナントレンより得られる基である。
【0016】
本発明に用いる配位子としては、より好ましくは、下記一般式(I)または(II)で表される有機化合物を挙げることができる。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1は、水素原子または置換基であり、隣り合う2つのR1は互いに連結していてもよく、複数あるR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Qは1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、Zは1つまたは2つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基である。T1は含窒素芳香族複素環を表す。W1は、窒素を含まない一価の芳香族置換基あるいは水素原子であり、W1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、電荷は省略してある。)
【0019】
前記一般式(I)または前記一般式(II)中のR1が置換基のときは、該置換基としては、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ホルミル基、ヒドロキシスルホニル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基(置換されていてもよい炭化水素オキシ基)、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基(即ち、置換されていてもよい炭化水素二置換アミノ基)、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基(置換されていてもよい炭化水素メルカプト基)、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基(置換されていてもよい炭化水素カルボニル基)、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基(置換されていてもよい炭化水素オキシカルボニル基)、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノカルボニル基(即ち、置換されていてもよい炭化水素二置換アミノカルボニル基)、又は置換されていてもよいヒドロカルビルオキシスルホニル基(置換されていてもよい炭化水素スルホニル基)が好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基がより好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基がより好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基がさらに好ましい。これらの基において、水素原子の結合した窒素原子は、1価の炭化水素基で置換されていることが好ましい。また、R1で表される基が複数の置換基を有する場合には、2個の置換基が連結して環を形成してもよい。
【0020】
上記R1で表される1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の炭素数1〜50程度の、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基等の炭素数3〜50の、好ましくは炭素数3〜20の環状飽和炭化水素基;エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の炭素数2〜50の、好ましくは炭素数2〜20のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−アダマンチルフェニル基、4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜50程度の、好ましくは6〜20のアリール基;フェニルメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニル−2−プロピル基、3−フェニル−1−プロピル基、4−フェニル−1−ブチル基、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基等の炭素数7〜50の、好ましくは7〜20のアラルキル基が挙げられる。
【0021】
1で表される1価の炭化水素基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、炭素数1〜12のものがより好ましく、炭素数2〜12のものがより好ましく、炭素数1〜10のものがより好ましく、炭素数3〜10のものがさらに好ましく、炭素数3〜10のアルキル基が特に好ましい。
【0022】
1で表されるヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルメルカプト基、ヒドロカルビルカルボニル基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基、ヒドロカルビルスルホニル基は、それぞれ、オキシ基、メルカプト基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルホニル基に、前記の1価の炭化水素基が1個結合してなる基である。
【0023】
1で表される"非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基"、"非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノカルボニル基"は、それぞれ、アミノ基、アミノカルボニル基(即ち、−C(=O)−NH2)中の2個の水素原子が前記の1価の炭化水素基に置換された基である。これらに含まれる1価の炭化水素基の具体例及び好ましい例は、前記のR1で表される1価の炭化水素基と同じである。
【0024】
1で表される1価の炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルメルカプト基、ヒドロカルビルカルボニル基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基、ヒドロカルビルスルホニル基は、これらの基に含まれる水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルスルホニル基等で置換されていてもよい。
【0025】
前記R1の中でも、特に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、メチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基である。
【0026】
前記一般式(I)のQは、1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、具体的な例としては、ピリジレン基、ピラジレン基、ピリミジレン基、ピリダジレン基、ピロリレン基、チアゾリレン基、イミダゾリレン基、オキサゾリレン基、トリアゾリレン基、インドリレン基、ベンゾイミダゾリレン基、ベンゾフリレン基、ベンゾチエニレン基、キノリレン基、イソキノリレン基、シンノリレン基、フタラジレン基、キナゾリレン基、キノキサリレン基、ベンゾジアジレン基が挙げられ、好ましくは、ピリジレン基、ピラジレン基、ピリミジレン基、ピリダジレン基、ピロリレン基であり、さらに好ましくは、ピリジレン基である。
一般式(II)のZは、1つまたは2つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、具体的な例としては、前記Qに記載の有機基に加え、1,10−フェナントロリレン基、2,2’−ビピリジレン基、2,2’−ビピローレン基、2,2’−ビチアゾリレン基、2,2’−ビピリミジレン基、2,2’−ビピリダジレン基、2,2’−ビイミダゾリレン基が挙げられ、好ましくは、1,10−フェナントロリレン基、2,2’−ビピリジレン基、2,2’−ビピローレン基、2,2’−ビチアゾリレン基、2,2’−ビピリミジレン基、2,2’−ビピリダジレン基、2,2’−ビイミダゾリレン基であり、さらに好ましくは、1,10−フェナントロリレン基、2,2’−ビピリジレン基、2,2’−ビピローレン基、2,2’−ビチアゾリレン基、2,2’−ビイミダゾリレン基である。
また、これらの基は、水素原子が前記R1に記載の置換基で置換されてもよい。
【0027】
前記一般式(I)のT1は含窒素芳香族複素環を表し、具体例として、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ベンゾジアジンが挙げられ、好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、インドール、ベンゾイミダゾールであり、さらに好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾールである。これらの基は、さらに前記R1における置換基で置換されてもよい。
【0028】
前記一般式(I)又は(II)のW1は、窒素を含まない一価の芳香族置換基あるいは水素原子であり、W1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。具体的な例としては、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、シロリル基、ベンゾシロリル基、ジベンゾシロリル基、水素原子、及び前記R1における置換基などが挙げられる。
好ましくは、チエニル基、ベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、水素原子、及び前記R1における置換基である。
また、これらの基は、さらに前記R1中に記載の炭化水素基で置換されてもよい。
【0029】
前記一般式(I)または(II)に示される配位子としては、下記式(III)の構造を有する配位子で特に好ましい。なお、電荷は省略してある。
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、R2は、下記一般式(I)または(II)のR1と同義であり、隣合う2つの原子に結合している2つのR2は、互いに連結していてもよく、複数あるR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)Y1及びY2は、それぞれ独立に
【0032】
【化5】

【0033】
(R3は水素原子または炭素数が1〜4の炭化水素基である。)
を表す。P1は、Y1とY1の隣接位の2つの炭素原子と一体となって芳香族複素環を形成するために必要な原子群であり、P2は、Y2とY2の隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群である。P1とP2は、互いにさらに結合して環を形成しても良い。W2は、前記一般式(I)のW1と同義である。)
【0034】
1とP2は、互いにさらに結合して環を形成しても良い。含窒素芳香族複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソキノリン、キナゾリンが挙げられ、これらは前記R1で置換されてもよい。好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾールであり、さらに好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、イミダゾールである。これらの基は、さらに前記R1における置換基で置換されてもよい。
【0035】
前記のようにP1とP2骨格が互いに結合して新たに環を形成しても良いが例えば以下のような(III−1)〜(III−6)の構造をもつものが好ましい。さらに好ましくは、(III−1)〜(III−3)の構造をもつ。
【0036】
【化6】

【0037】
(式中のR4は、一般式(I)のR1と同義であり、複数あるR4は、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。R5は水素原子または炭素数が1〜20で表される炭化水素基を表し、複数あるR5は、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。
【0038】
前記単核錯体における配位子としては、金属原子と配位結合で結合しうる配位原子を3〜15個有すると好ましい。ここで配位原子とは、久保亮五他編「岩波 理化学辞典 第4版」(1991年1月10日発行、岩波書店)966頁に記載の通り、該金属原子の空軌道に電子を供与する非共有電子対を有し、金属原子と配位結合で結合する原子を示す。
該配位子中の配位原子の総数は、好ましくは3〜10個であり、より好ましくは3〜8個であり、特に好ましくは4〜6個である。また、該配位原子は電気的に中性であっても、荷電したイオンであってもよい。
【0039】
該配位原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子から選ばれ、複数ある配位原子は互いに同一でも異なっていてもよい。より好ましくは窒素原子および酸素原子である。
【0040】
ここで前記一般式(III)の構造を有する配位子の具体的な構造を下記式(IV−1)〜(IV−7)に例示する。このうち、好ましくは、式(IV−1)〜(IV−5)であり、特に好ましくは、式(IV−1)〜(IV−4)である。なお、電荷は省略してある。(なお式中tBuはtert−ブチルを示す。)
【0041】
【化7】

【0042】
また、本発明に適用する単核錯体に含まれる金属原子は、無電荷でも、荷電しているイオンであってもよい。本発明に用いる金属錯体としての好ましい配位形態としては、第4周期に属する遷移金属から選ばれる遷移金属と前記式(IV−1)〜(IV−7)に記載の配位子のいずれかを反応させて得られる金属錯体であり、さらに好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅から選ばれる遷移金属と前記式(IV−1)〜(IV−4)に記載の配位子のいずれかを反応させて得られる単核錯体である。
【0043】
前記の金属原子としては、元素の周期表の第4周期〜第6周期に属する遷移金属原子であると好ましい。
具体的には、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金からなる群から選ばれる金属原子が例示される。
これらの中で好ましくはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル及びタングステンからなる群から選ばれる金属原子であり、さらに好ましくはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル及びタングステンからなる群から選ばれる金属原子である。
これらの中でも、とりわけ、第4周期の遷移金属であるバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群から選ばれる金属原子であると好ましく、特に好ましくは、前記で例示したマンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群から選ばれる金属原子である。
【0044】
本発明に用いられる単核錯体は、前記配位子に加え、他の配位子を有していてもよい。他の配位子としてはイオン性でも電気的に中性の化合物でもよく、このような他の配位子を複数有する場合、これらの他の配位子は互いに同一でも異なっていてもよい。
前記他の配位子における電気的に中性の化合物としては、アンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4−トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、チアゾール、イソチアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o−アミノフェノールなどの窒素原子含有化合物;水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、2−メトキシエタノール、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、2,2’−ビナフトール等の酸素含有化合物;ジメチルスルホキシド、尿素等の硫黄含有化合物;1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−フェニレンビス(ジメチルホスフィン)等のリン含有化合物等が例示される。
これらの中で好ましいものとしてアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4−トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o−アミノフェノール、水、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、2,2’−ビナフトールが挙げられ、より好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4−トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、o−アミノフェノール、フェノール、カテコール、サリチル酸、フタル酸、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、2,2’−ビナフトールが挙げられる。
さらに、上記の例示した中でも、これらの中でも、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、インドール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、フェニレンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、o−アミノフェノール、フェノールがさらに好ましい。
【0045】
また、アニオン性を有する配位子としては、水酸化物イオン、ペルオキシド、スーパーオキシド、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオンなどのテトラアリールボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸化物イオン、金属酸化物イオン、メトキサイドイオン、エトキサイドイオン等が挙げられる。
これらの中で水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが好ましく、さらに水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが特に好ましい。
【0046】
さらに、前記アニオン性を有する配位子として例示したイオンは、本発明に用いられる単核錯体自体を電気的に中和する対イオンとして有していてもよい。
【0047】
また、本発明に用いられる単核錯体は、電気的中性を保たせるようなカチオン性を有する対イオンを持つ場合がある。カチオン性を有する対イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンなどのテトラアリールホスホニウムイオン等が例示され、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、より好ましくはテトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンが挙げられる。
これらの中でも、カチオン性を有する対イオンとして、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンが好ましい。
【0048】
次に本発明に適用する単核錯体の合成法について説明する。本発明の単核錯体は、配位子を有機化学的に合成し、金属原子を付与する反応剤(以下、「金属付与剤」と呼ぶ)と混合することにより得ることができる。ここで、金属付与剤は、前記記載の金属原子Mと対イオンXの組み合わせからなる金属塩であり、金属原子Mの好ましい具体的例示として、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が挙げられ、対イオンXの好ましい具体的例示として、酢酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオンが挙げられ、これら金属原子Mと対イオンXの組み合わせからなる金属塩が好ましい。
【0049】
配位子の合成は、非特許文献Tetrahedron.,1999,55,8377.に記載されているように、有機金属反応剤の複素環化合物への付加反応及び酸化をおこない、ハロゲン化反応、次いで遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応を行うことによって合成することができる。
また、ハロゲン化された芳香族複素環化合物を用いた多段階のクロスカップリング反応を行うことによって合成することも可能である。
【0050】
前記のとおり、本発明に用いられる単核錯体は、配位子及び金属付与剤を適当な反応溶媒の存在下で混合させることで得ることができる。具体的には、反応溶媒としては、水、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、が挙げられ、これらを2種以上混合してなる反応溶媒を用いてもよいが、配位子及び金属付与剤が溶解し得るものが好ましい。反応温度としては通常−10〜200℃、好ましくは0〜150℃、特に好ましくは0〜100℃、反応時間としては通常1分〜1週間、好ましくは5分〜24時間、特に好ましくは1時間〜12時間で実施することができる。なお、反応温度および反応時間についても、配位子及び金属付与剤の種類によって適宜最適化できる。
反応後の反応溶液から、生成した単核錯体を単離精製する手段としては、公知の再結晶法、再沈殿法あるいはクロマトグラフィー法から適宜最適な手段を選択して用いることができ、これらの手段を組み合わせてもよい。
なお、前記反応溶媒の種類によっては、生成した単核錯体が析出する場合があり、析出した単核錯体を濾別等で分離し、必要に応じて洗浄操作や乾燥操作を行うことでも、単核錯体を単離精製することもできる。
【0051】
次に、本発明における、単核錯体の変性処理の条件について詳述する。
変性処理に用いる単核錯体は、1種の単核錯体のみを用いてもよく、2種以上の単核錯体を用いることもできる。
該単核錯体は、変性処理を施す前処理として、15℃以上200℃以下の温度、10Torr以下の減圧下において6時間以上乾燥させておくと特に好ましい。該前処理としては、真空乾燥機等を用いることができる。
【0052】
単核錯体の加熱処理を行う際に用いる雰囲気は、水素、一酸化炭素などの還元雰囲気、酸素、炭酸ガス、水蒸気などの酸化雰囲気、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス雰囲気、アンモニア、アセトニトリルなどの含窒素化合物のガスまたは蒸気、並びにこれらの混合ガスの存在下であることが好ましい。より好ましくは、還元雰囲気であれば、水素、および水素と前記不活性ガスとの混合雰囲気、酸化雰囲気であれば、酸素、および酸素と前記不活性ガスとの混合雰囲気、また、不活性ガス雰囲気であれば、窒素、ネオン、アルゴン、並びにこれらのガスの混合雰囲気である。
また、加熱処理に係る圧力は、特に限定されるものではないが、0.5〜1.5気圧程度の常圧付近であると好ましい。
【0053】
該単核錯体を加熱処理する際の温度は該加熱処理の前後において、質量減少率を1質量%以上にできる温度であれば、特に限定されない。
該加熱処理の処理温度としては、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上、特に好ましくは500℃以上である。また、焼成処理にかかる温度の上限も、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下になり、且つ処理後の変性物の炭素含有率が5質量%以上にできるものであれば、特に限定されないが、好ましくは1200℃以下であり、より好ましくは1000℃以下である。
【0054】
加熱処理にかかる処理時間は、前記の使用ガスや温度等により適宜設定できるが、上記ガスの密閉あるいは通気させた状態において、室温から徐々に温度を上昇させ目的温度到達後、すぐに降温してもよい。中でも、目的温度に到達後、温度を維持することで、徐々に単核錯体を加熱することが、耐久性をより向上させることができるため好ましい。目的とする温度到達後の保持時間は、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下になり、且つ処理後の変性物の炭素含有率が5質量%以上にできるものであれば、特に限定されないが、好ましくは1〜100時間であり、より好ましくは1〜40時間であり、さらに好ましくは2時間〜10時間であり、特に好ましくは2〜3時間である。
【0055】
加熱処理を行う装置も、特に限定されるものではなく、オーブン、ファーネス、IHホットプレート等が例示される。また、加熱処理を行う単核錯体が数十mg程度であれば、通常熱分析に使用される熱分析計のファーネスを適用することもできる。熱分析計の中でも熱質量分析計を用いると、質量減少率を確認しながら所望の熱質量減少率が得られた段階で加熱処理を停止できるため、簡便に本発明の加熱処理を実施することができる。
【0056】
本発明の変性金属錯体は、配位子が芳香族化合物からなるので、加熱処理による金属原子周辺の構造が保持されやすくなり、配位構造が安定しているものと考えられる。該加熱処理に代わる、変性処理においても、質量減少率を前記の範囲にできる処理において、同等の効果が得られるものと考えられる。
【0057】
加熱処理に代わる変性処理としては、α線、β線、中性子線、電子線、γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、電波、レーザー等の電磁波又は粒子線等から選ばれる何れかの放射線を照射する方法、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理(低温プラズマ処理を含む)等の放電処理から選択することができる。
これらの中でも、好ましい変性処理としては、X線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波及びレーザーから選ばれる放射線を照射する処理又は低温プラズマ処理が挙げられる。より好ましくは、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、レーザーから選ばれる放射線を照射する方法である。
これらの方法は、通常高分子フィルムの表面改質処理に用いられる機器、処理方法に準じて行うことが可能であり、例えば文献(日本接着学会編、「表面解析・改質の化学」、日刊工業新聞社、2003年12月19日発行)等に記載された方法を用いることができる。
【0058】
ここで、前記の放射線照射処理又は放電処理を行う際に、該単核錯体が、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下になり、且つ処理後の変性物の炭素含有率が5質量%以上にできるよう、変成できる条件を任意に設定することができるが、好ましい処理時間としては10時間以内、より好ましくは3時間以内、さらに好ましくは1時間以内、特に好ましくは30分以内である。
【0059】
前記のようにして加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理を施し、質量減少率が1質量%以上、好ましくは2質量%以上変性処理を行って本発明の変性金属錯体が得られる。
【0060】
一方、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の際に、大幅に質量減少する場合は錯体の構造の分解が顕著となるため好ましくない。質量減少率の上限として好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、とりわけ好ましくは60質量%以下である。
【0061】
さらに、本発明の変性金属錯体は元素分析における炭素含有率が5質量%以上である。
該炭素含有率が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、40〜98質量%であることがとりわけ好ましい。
本発明の変性金属錯体は、前記記載の処理により得ることができるが、該処理後において、未反応の金属錯体や、金属錯体が分解することで生成した金属微粒子や金属酸化物を含んでいる場合がある。このような場合、酸処理等により、金属微粒子や金属酸化物を取り除いたものが変性金属錯体であるが、変性金属錯体としての機能を妨げない限りにおいて、そのまま触媒として使用することができる。
本発明において「変性金属錯体」とは、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下となるまで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上である金属錯体をいう。該質量減少は、主に金属錯体からの低分子脱離に起因するものであり、このような低分子の脱離は、変性処理にて生成するガス成分を質量分析装置などを用いて確認することができる。また、金属錯体構造は、X線吸収微細構造(EXAFS)分析法,赤外分光法,ラマン分光法などにより、金属原子と配位原子との結合に帰属されるスペクトルから確認することができる。
【0062】
次に、本発明の変性金属錯体における別の実施形態について説明する。
前記に記載したような(a)単核錯体と、(b)カーボン担体、沸点あるいは融点が250℃以上の有機化合物、又は熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物とを、含む単核錯体混合物を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理を施し、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下まで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上である変性金属錯体である。ここで、質量減少率は、単核錯体混合物におけると、(a)と(b)の合計質量に対して求める。
【0063】
該単核錯体混合物における(a)と(b)の混合比率は、(a)と(b)の合計重質量に対し、(a)の含有量が、1〜70質量%になるように設定することが好ましい。2〜60質量%であると、より好ましく、3〜50質量%であると、特に好ましい。
【0064】
前記カーボン担体の例としては、ノーリット(NORIT社製)、ケッチェンブラック(Lion社製)、バルカン(Cabot社製)、ブラックパール(Cabot社製)、アセチレンブラック(Chevron社製)(いずれも商品名)等のカーボン粒子、C60やC70等のフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボン繊維等が挙げられる。
【0065】
沸点あるいは融点が250℃以上である有機化合物の例としては、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、二無水ピロメリット酸などの芳香族系化合物カルボン酸誘導体などが挙げられる。ここで、沸点又は融点は、公知の方法を用いて測定することが可能であり、測定された値から選択することが可能であるが、文献等に記載されている値を用いて選択されることもできる。
また、計算機シミュレーション等で求められた計算値でもよく、例えば、Chemical Abstract Serviceから提供されるソフトウェアであるSciFinderに登録されている沸点あるいは融点の計算値を用いても選んでも良い。下記に示す化合物において沸点(b.p.)にある「calc」の表記は、前記SciFinderに登録されている計算値である。
【0066】
【化8】

【0067】
また、250℃以下で熱重合を開始する化合物は、芳香族環の他に二重結合または三重結合を有する有機化合物であり、例えばアセナフチレンやビニルナフタレンなどの有機化合物が例示される。下記に示す化合物に記載の数値は、各有機化合物の重合開始温度である。なお、該数値は「炭素化工学の基礎」(第1版第2刷、昭和57年、オーム社)に記載されている。
【0068】
【化9】

【0069】
この実施形態は上記のように(a)成分に加えて(b)成分として用いる以外、その変性処理方法、処理条件、変性処理(安定化処理)による質量減少率、処理後の単核錯体の炭素含有率等については、第1の実施形態と同様である。
本発明の第2の実施形態として、前記記載の単核錯体を、カーボン担体、沸点あるいは融点が250℃以上の有機化合物、および熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物と共に前記処理する方法が挙げられるが、該処理後において、単核錯体が分解することで生成する金属微粒子や金属酸化物を含んでいる場合がある。このような場合、金属微粒子や金属酸化物を取り除いたものが第2の実施形態の変性金属錯体である。一方、第2の実施形態において、前記カーボン担体、前記有機化合物の未反応成分、前記有機化合物の分解成分が混ざっている場合がある。このような場合、溶媒による洗浄、カラム分離、溶媒抽出操作等により、未反応成分や分解成分を取り除くことが好ましいが、変性金属錯体としての機能を妨げない限りにおいては、そのまま触媒として使用することができる。
また、本発明の第3の実施形態として、前記記載の単核錯体を、カーボン担体及び/または導電性高分子とを含む組成物を用いる以外、処理条件、変性処理(安定化処理)による質量減少率、処理後の単核錯体の炭素含有率等については、第1の実施形態と同様の処理を行うことで、変性金属錯体が得られる。該カーボン担体としては、前記例示したカーボン担体を用いることができる。また、導電性高分子としては、「導電性ポリマー」(吉村進一著、共立出版)や「導電性高分子の最新応用技術」(小林征男監修、シーエムシー出版)に記載されているような、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリパラフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリカルバゾール及びその誘導体、ポリインドール及びその誘導体、ならびに前記導電性高分子の共重合体などを挙げることができる。
【0070】
本発明の変性金属錯体は、種々の用途に応じて、種々の担体、添加剤等を併用することや、その形状を加工することができる。用途として、燃料電池用の電極触媒や膜劣化防止剤、芳香族化合物の酸化カップリング触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサーなどの用途が挙げられる。
【0071】
また、本発明の変性金属錯体は、触媒として使用する際に、カーボン担体及び/又は導電性高分子とを含む組成物として用いることもできる。このようにすると、金属錯体変性物の安定性が増したり、触媒活性が向上したりする等の観点から有用である。なお、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等を挙げることができる。また、カーボン担体の具体例は前記と同等である。また、このような組成物としては、本発明の変性金属錯体を複数混合して使用することもできるし、カーボン担体又は導電性高分子を複数使用することもできるし、カーボン担体と導電性高分子を組合わせて使用することもできる。
【0072】
以下に、本発明の変性金属錯体の好ましい用途について説明する。
固体高分子型燃料電池に該変性金属錯体を用いると好ましく、この用途において、該変性金属錯体を電解質、電極、および電解質/電極界面等に導入して用いることができる。固体高分子型燃料電池は、通常、水素あるいはメタノールなど含む燃料が導入される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と該燃料極と該酸素極との間に挟装された電解質膜からなる電解質膜電極接合体がセパレーターを介して複数個積層されて構成される。好ましい導入部位としては、酸素極、燃料極および電解質/各電極界面である。該触媒を電解質や、電極、および電解質/電極界面等に導入する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、該変性金属錯体をフッ素系イオン交換樹脂(ナフィオン(登録商標、デュポン社製)など)などの電解質溶液に分散させたものを作成し、これを膜状に成型して電解質膜として用いる方法、あるいはこの分散液を電解質膜に塗布、乾燥させたものを電極として用いる方法、該変性物を分散させた溶液を電極に塗布し乾燥させここに電解質膜を接合することで電解質‐電極界面に過酸化物分解触媒層を導入する方法等が挙げられる。
【0073】
また、本発明の変性金属錯体は芳香族化合物の酸化カップリング触媒としても好適であり、この用途である場合、例えば、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネートなどのポリマー製造に関わる触媒として使用することができる。使用形態としては、前記変性物を反応溶液に直接添加する方法や、該変性物をゼオライトやシリカなどに担持させる方法などが挙げられる。
【0074】
本発明の変性金属錯体は、各種工場や自動車からの排ガス中に含有されている硫黄酸化物や窒素酸化物を硫酸やアンモニアへ転換するための脱硫・脱硝触媒としても使用できる。工場からの排ガスが通気する塔に充填する方法や、自動車のマフラーに充填する方法などが挙げられる。
【0075】
さらに、本発明の変性金属錯体は、改質水素中のCOを変成させる触媒として使用することもできる。改質水素中にはCOなどが含まれており、改質水素を燃料電池として使用する場合、燃料極がCOの被毒を受けることが問題であり、COの濃度を極力低減することが望まれる。具体的な使用形態については、例えば、Chemical Communication,3385(2005)に記載の方法等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を、実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
【0077】
合成例1[金属錯体(A)の合成]
金属錯体(A)を以下の反応式に従って配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだエタノールを混合、反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0078】
【化10】

【0079】
窒素雰囲気下において、0.300gの該配位子と0.149gの酢酸コバルト4水和物を含んだ4mlのエタノールを25mlのナスフラスコに入れ、80℃にて1時間攪拌した。生成した褐色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、乾燥することで金属錯体(A)を得た(収量0.197g)。元素分析値(%):C3234CoN24として、計算値;C,67.48;H,6.02;N,4.92;実測値:C,68.29;H,5.83;N,4.35.ESI−MS[M+・]:533.1。また、金属錯体(A)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(B)を調製した。
【0080】
金属錯体(E)を以下の反応式に従い、化合物(C)、配位子(D)を経由して合成した。
合成例2[化合物(C)の合成]
【0081】
【化11】

【0082】
アルゴン雰囲気下で、0.662gの2,9-ジ(3’-ブロモ-5’-tert-ブチル-2’-メトキシフェニル)-1,10-フェナントロリン、0.320gの2-チエニルボロン酸、0.090gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム、0.160gの2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル、0.920gのリン酸カリウムを30mLのジオキサンと5mLの水の混合溶媒に溶解し、80℃にて12時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得た。これを、シリカゲルカラムを用いて精製したのち、再結晶により化合物(C)を得た。1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ1.42(s,18H),3.48(s,6H),7.12(dd,2H),7.38(d,J=5.0Hz,2H),7.52(d,J=2.9Hz,2H),7.73(s,2H),7.87(s,2H),7.98(s,2H),8.28(d,J=8.6Hz,2H),8.30(d,J=8.6Hz,2H).
【0083】
合成例3[配位子(D)の合成]
【0084】
【化12】

【0085】
窒素雰囲気下で0.134gの化合物(C)を5mLの酢酸に溶解させた。48%臭化水素酸0.337gを滴下し、120℃で攪拌させた。20時間後、反応溶液を0℃まで冷却させ、水を加えたのち、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルカラムで精製し、配位子(D)を得た。1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ1.40(s,18H),6.25(m,2H),6.44(m,2H),6.74(m,2H),7.84(s,2H),7.89(s,2H),7.92(s,2H),8.35(d,J=8.4Hz,2H),8.46(d,J=8.4Hz,2H),10.61(s,2H),15.88(s,2H).
【0086】
合成例4[金属錯体(E)の合成]
【0087】
【化13】

【0088】
窒素雰囲気下において、0.062gの配位子(D)と0.025gの酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム2mlとエタノール6mlの混合溶液を25mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら2時間攪拌し、褐色固体が生成した。この固体を濾取し、さらにエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(E)を得た(収量0.034g)。ESI−MS[M+・]:697.0。また、金属錯体(E)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(F)を調製した。
【0089】
金属錯体(I)を以下の反応式に従い、化合物(G)、配位子(H)を経由して合成した。
合成例5[化合物(G)の合成]
【0090】
【化14】

【0091】
アルゴン雰囲気下で、0.528gの2,9-ジ(3’-ブロモ-5’-tert-ブチル-2’-メトキシフェニル)-1,10-フェナントロリン、0.356gの4-tert-ブチルフェニルボロン酸、0.184gのテトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム、1.042gの炭酸セシウムを20mLのジオキサンに混合し、100℃にて13時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、シリカゲルカラムを用いて精製して化合物(G)を得た。1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ1.39(s,18H),1.40(s,18H),3.31(s,6H),7.44(s,2H),7.46(d,J=7.0Hz,4H),7.55(d,J=7.0Hz,4H),7.86(s,2H),7.99(s,2H),8.23(d,J=8.0Hz,2H),8.29(d,J=8.4Hz,2H).
【0092】
合成例6[配位子(H)の合成]
【0093】
【化15】

【0094】
窒素雰囲気下で0.242gの化合物(G)を10mLの無水ジクロロメタンに溶解させた。ジクロロメタン溶液をドライアイス/アセトンバスで-78℃に冷却しながら、2.4mLの三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液)をゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌させた後、ドライアイス/アセトンバスを取り除き、室温まで攪拌させながら放置した。2時間後、飽和NaHCO3水溶液を加えて中和し、クロロホルムを加えて3回抽出した。得られた有機層を濃縮して、得られた残渣をシリカゲルで精製し、配位子(H)を得た。1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ1.34(s,18H),1.43(s,18H),7.39(d,J=7.3Hz,4H),7.55(s,2H),7.72(d,J=7.3Hz,4H),7.92(s,2H),8.27(d,J=8.4Hz,2H),8.38(d,J=8.4Hz,2H),14.81(s,2H).
【0095】
合成例7[金属錯体(I)の合成]
【0096】
【化16】

【0097】
窒素雰囲気下において、0.085gの配位子(H)と0.031gの酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム10mlとメタノール4mlの混合溶液を100mlのナスフラスコに入れ、70℃に加熱しながら9時間攪拌した。溶液を濃縮し、析出した固体をクロロホルム5mlに溶解させた。この溶液を、ジエチルエーテル50mlの三角フラスコに滴下した。析出した固体を濾取し、さらにジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(I)を得た(収量0.018g)。ESI−MS[M+・]:799.3また、金属錯体(I)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(J)を調製した。
【0098】
合成例8[金属錯体(K)の合成]
錯体の原料となるシッフ塩基配位子及び金属錯体(K)をA Chemistry,European Journal,1999,5,1460記載の方法に従い合成した。
【0099】
【化17】

【0100】
窒素雰囲気下において0.303gのo−フェニレンジアミンと1.00gの4−tert−ブチル−2−ホルミルフェノールを含んだ10mlエタノール溶液を50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて3時間攪拌した。析出した橙色沈殿を濾過し、洗浄及び乾燥をおこない、シッフ塩基配位子を得た。(収量0.838g:収率70%)。1H−NMR;δ:12.83(s,2H),8.64(s,2H),7.41(d,8.7Hz,2H),7.36-7.32(m,4H),7.25-7.21(m,4H),6.99(d:8.7Hz,2H),1.32(s,18H)。
続いて、金属錯体(K)を前記シッフ塩基配位子を含んだクロロホルムと酢酸コバルト4水和物を含んだエタノールを混合、反応させることにより合成した。
【0101】
【化18】

【0102】
0.214gの前記シッフ塩基配位子を含んだ3mlのクロロホルム溶液の入った25mlナスフラスコへ0.125gの酢酸コバルト4水和物を含んだ7mlのエタノールを攪拌しながら加え、室温下で6時間攪拌した。析出した褐色沈殿を濾過してエタノールで洗浄した後、真空乾燥させて金属錯体(K)を得た。(収量0.138g)。元素分析値(%):C2834CoN24として、計算値;C,64.49;H,6.57;N,5.37.実測値:C,64.92;H,6.13;N,5.06.ESI−MS[M+・]:485.1。また、金属錯体(K)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(L)を調製した。
【0103】
実施例1、2、3及び4
上記で調製した金属錯体混合物(B)、について、熱質量分析結果を元に、熱処理時の質量減少率が1質量%以上となるように熱処理を行った。すなわち、単核錯体混合物(B)を管状炉を用いて、窒素雰囲気下において目的温度で2時間熱処理を行った。
熱処理に用いた管状炉および熱処理条件を以下に示す。
管状炉:プログラム制御開閉式管状炉EPKRO−14R、いすゞ製作所
熱処理雰囲気:窒素ガスフロー(200ml/min)
昇温速度および降温速度:200℃/h
表1に使用した金属錯体混合物、熱処理温度を示し、処理後に得られた変性金属錯体の質量減少率を示す。また、熱処理後の炭素含有量(元素分析値)を併記する。
【0104】
【表1】

【0105】
ここで、上記の金属錯体混合物(B)、(F)及び(J)の熱処理により得られた変性金属錯体を、それぞれ変性金属錯体(B−1)、変性金属錯体(B−2)、変性金属錯体(F−1)及び変性金属錯体(J−1)とする。
【0106】
参考例1
実施例1で得られた変性金属錯体(B−1)を0.1mol/Lの塩酸水溶液に浸漬し、室温にて15分間超音波処理を行った。試料に含まれる金属量をICP発光分析法により定量し、金属維持率を下記の算出式を用いて算出した。
金属維持率(%)=(酸処理後の金属量)/(酸処理前の金属量)
表2に、変性金属錯体(B−1)の金属維持率を示す。
【0107】
また、比較参考例として、合成例8で調製した金属錯体混合物(L)を実施例1に記載の方法に従い、450℃にて熱処理を行うことで金属錯体組成物(L−1)を得た。得られた金属錯体組成物(L−1)の金属維持率を上記方法に従い算出した。結果を表2に示す。含窒素芳香族複素環構造を有していない金属錯体組成物(L−1)は、変性金属錯体(B−1)と比較して、金属維持能力の劣るものであった。
【0108】
【表2】

【0109】
実施例5、6及び7
[電極の作成]
電極には、ディスク部がグラッシーカーボン(4.0mmφ)、リング部がPt(リング内径5.0mm、リング外径7.0mm)とするリングディスク電極を用いた。
変性金属錯体(B−2)2mgを入れたサンプル瓶へ、水0.6mL、エタノール0.4mL、ナフィオン溶液(Aldrich、5wt%溶液)20μLを加えた後、超音波で分散処理を行った。得られた懸濁液4.4μLを上記電極のディスク部に滴下した後、室温にて12時間乾燥することにより、測定用電極を得た。
[回転リングディスク電極による酸素還元能の評価]
前記で作成した電極を回転させることにより、その時の酸素還元反応の電流置を評価した。測定は室温において窒素雰囲気下および酸素雰囲気下で行い、酸素雰囲気下での測定で得られた電流値から、窒素雰囲気下での測定で得られた電流値を引いた値を酸素還元の電流値とした。測定装置および測定条件は、以下の通りである。
測定装置
ビー・エー・エス株式会社製
RRDE−2回転リングディスク電極装置
ALSモデル701Cデュアル電気化学アナライザー
測定条件
セル溶液:0.05mol/L硫酸水溶液(酸素飽和)
溶液温度:25℃
参照電極:銀/塩化銀電極(飽和KCl)
カウンター電極:白金ワイヤー
掃引速度:5mV/s
電極回転速度:600rpm
【0110】
変性金属錯体(B−2)、変性金属錯体(F−1)及び変性金属錯体(J−1)の酸素還元の触媒活性を表3に示す。なお、触媒活性は、可逆水素電極に対して0.6Vにおける電流値を電極面積で割った電流密度の値で示している。
【0111】
比較例1
前記で作成した金属錯体組成物(L−1)について、実施例5に記載の方法に従い評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0112】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、含窒素芳香族複素環及びフェノール環を1つずつ有し、さらにフェノール環、チオフェノール環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を1つまたは2つ有する有機化合物を配位子とする単核錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率を1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
【請求項2】
分子内にフェノール環を2つと、含窒素芳香族複素環を1つまたは2つ有する有機化合物を配位子とする単核錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理のいずれかの変性処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下となるまで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上とした変性金属錯体。
【請求項3】
前記単核錯体が、周期表の第4周期から第6周期に属する遷移金属原子を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の変性金属錯体。
【請求項4】
前記配位子が、下記一般式(I)または(II)で示される配位子であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の変性金属錯体。
【化1】

(式中、R1は、水素原子または置換基であり、隣り合う2つのR1は互いに連結していてもよく、複数あるR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Qは1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、Zは1つまたは2つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基である。T1は含窒素芳香族複素環を表す。W1は、窒素を含まない一価の芳香族置換基あるいは水素原子であり、W1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項5】
前記単核錯体が、窒素原子及び酸素原子を配位原子とすることを特徴とする前記請求項1〜4の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項6】
前記単核錯体を250℃以上1200℃以下で加熱処理したものである前記請求項1〜5の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項7】
請求項1又は2で用いる単核錯体と、カーボン担体と、沸点あるいは融点が250℃以上の有機化合物、又は熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物から選ばれる少なくとも1種の有機化合物と、からなる混合物を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下まで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上とした変性金属錯体。
【請求項8】
請求項1又は2で用いる単核錯体と、カーボン担体及び/または導電性高分子とを含む組成物を加熱、放射、照射もしくは放電処理してなる変性金属錯体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の変性金属錯体からなる触媒。
【請求項10】
請求項1〜8の何れかに記載の変性金属錯体からなる電極触媒。

【公開番号】特開2009−234918(P2009−234918A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60467(P2008−60467)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】