説明

変換器、変換器の制御方法および変換器の制御プログラム

【課題】Y結線部分の間の直流の制御を行う。
【解決手段】電力変換部20の2重のY結線回路23の各相の電圧および電流を検出し、電力変換部20の2重のY結線回路23の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を、直流回路を含む等価回路で示した場合の当該直流回路の電圧および電流との関係を示す関係情報に基づいて、検出結果から導出される直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように電力変換部20のスイッチング素子25を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換器、変換器の制御方法および変換器の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自励式素子の性能向上が急速に進み、自励式のスイッチング素子を用いた自励式の変換器が提案されている。この自励式の変換器は、連携する交流系統に依存することなく任意の有効・無効電力を供給できるなど、サイリスタ等の他励式のスイッチング素子を用いた他励式の変換器にはない多数のメリットを有する。
【0003】
自励式の変換器には、チョッパもしくは単相インバータのセル(cell)と呼ばれる回路モジュールを電力系統の各相に多段接続した、所謂、MMC(Modular Multilevel Converter)方式の回路構成のものが実用化されている。MMC方式の変換器は、セルの段数分の合成電圧が交流電圧として出力されるので、スイッチング素子の直列接続数を減らしつつ、高い交流電圧を出力できる。MMC方式の中でも有効電力を扱える回路方式として、セルを多段接続した各相の回路をY結線したY結線回路を2重に設けた2重Y結線MMC方式がある。非特許文献1には、2重Y結線MMCの2つのY結線部分に直流電源を接続してモータドライブ回路において、2重Y結線MMCの各相の回路に流れる電流を循環電流と交流電流に分解し取り扱う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤田 英明ら、“MMCC−DSCCの直流コンデンサ電圧の解析と制御”、平成22年電気学会産業応用部門大会講演論文集、2010年8月、P259−264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、2重Y結線MMCのY結線部分の間に直流電源を設けており、Y結線部分の間の直流を制御していない。このため、直流電圧を安定化させる装置(直流電源やコンデンサなど)なしにBTB(Back To Back)システムや直流送電などの直流システムに用いることができなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、直流線路の電圧、又は電流の制御を行うことができる変換器、変換器の制御方法および変換器の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の変換器は、自励式のスイッチング素子および当該スイッチング素子のオン、オフに応じて電力を蓄積、放出するコンデンサを含み3相交流の電力系統の各相毎に設けられた回路をY結線したY結線回路が2重に設けられ、電力変換を行う電力変換部と、前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流を検出する検出部と、前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を、直流回路を含む等価回路で示した場合の当該直流回路の電圧および電流との関係を示す関係情報を記憶した記憶部と、前記記憶部に記憶された関係情報に基づいて前記検出部による検出結果から導出される前記直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように前記電力変換部の前記スイッチング素子を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力変換部の2重のY結線回路を等価回路として示した直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように電力変換部のスイッチング素子を制御することにより、直流線路の電圧、又は電流の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施例にかかる変換器を含む電力系統の概念的な構成の一例を示す図である。
【図2】図2は、搬送波と変調波の一例を示す図である。
【図3】図3は、変換器を含む電力系統の等価回路の一例を示す図である。
【図4】図4は、等価回路の各アームの各アーム電流、アーム電圧を示す図である。
【図5A】図5Aは、交流回路の電流、電圧を示す図である。
【図5B】図5Bは、相間循環回路の電流、電圧を示す図である。
【図5C】図5Cは、直流回路の電流、電圧を示す図である。
【図5D】図5Dは、循環回路の電流、電圧を示す図である。
【図6】図6は、交流回路の経路(A)、(B)を示す図である。
【図7】図7は、循環回路の経路(C)、(D)を示す図である。
【図8】図8は、直流回路の経路(E)、(F)、(G)を示す図である。
【図9A】図9Aは、交流回路を示す図である。
【図9B】図9Bは、循環回路を示す図である。
【図9C】図9Cは、直流回路を示す図である。
【図10】図10は、変換器を制御する制御系の概略的な構成の一例を示す図である。
【図11】図11は、制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図12】図12は、シミュレーションに使用したBTBシステムの概略的な構成を示す図である。
【図13】図13は、シミュレーションを行ったBTBシステムの主な仕様を示す図である。
【図14A】図14Aは、R相の上側アームと下側アームの電流波形を示す図である。
【図14B】図14Bは、3相の交流電流の電流波形を示す図である。
【図14C】図14Cは、上側アームと下側アームの回路モジュールでの電圧波形を示す図である。
【図14D】図14Dは、変換器の各相の電圧波形を示す図である。
【図14E】図14Eは、直流電流の電流波形を示す図である。
【図14F】図14Fは、3相の循環電流の電流波形を示す図である。
【図15】図15は、制御プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる変換器の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本実施例にかかる変換器を含む電力系統の概念的な構成の一例を示す図である。図1に示す例では、電力系統12の末端に変換器10が接続されている。なお、本実施例では、変換器10がY−Δ変圧器13を介して電力系統12と接続されているものとする。変換器10は、電力系統12の何れかに設けられていればよく、必ずしも末端に設ける必要はない。
【0012】
電力系統12には、上位系統から3相交流の電力が供給される。変換器10は、自励式半導体素子を使って電力系統12との間で高速かつ連続的に有効電力、無効電力の授受が可能な機器である。
【0013】
変換器10は、電力変換部20を有する。電力変換部20は、電力系統12との間で電力の授受を行う。電力変換部20は、電力系統12の各相毎にセル(Cell)と呼ばれる回路モジュール21を直列に3段接続した直列回路22をY結線したY結線回路23を2重に設けた、所謂、2重Y結線MMCの回路構成とされている。以下では、Y結線回路23の各相の直列回路22をアームとも言う。また、以下では、図1の上側のY結線回路23のアームを上側アームとも言い、図1の下側のY結線回路23のアームを下側アームとも言う。回路モジュール21は、例えば、コンデンサ24に対して、2つのスイッチング素子25を直列接続した2つの直列回路26がそれぞれ並列に接続された所謂、インバータセルタイプの回路構成としてもよい。また、例えば、コンデンサ24に対して、2つのスイッチング素子25を直列接続した、所謂、チョッパセルタイプの回路構成としてもよい。回路モジュール21の各スイッチング素子25には両端を接続するダイオード27が設けられている。
【0014】
各回路モジュール21は、入力される搬送波と変調波を比較してスイッチング素子25のオン、オフするPWM(pulse width modulation)制御を行っている。図2は、搬送波と変調波の一例を示す図である。素子を有効利用するため、通常、変調波は、ピークが1付近になるように波形が定められる。しかし、電力変換部20は、ピークが1付近になるように変調波の波形を定めた場合、後述するように変調波全体の電圧レベルを上げたことにより変調波の大きさが1を上回るようになった場合、正常なPWM制御が行えなくなる。このため、本実施例にかかる変調波は、ある程度の大きさに抑えられている。
【0015】
ここで、本実施例に係る変換器10の制御について説明する。2重Y結線MMCの回路構成は、理想的には図3に示すような等価回路で置き換えることができる。図3に示す等価回路では、2重Y結線MMCの各アームの3つの回路モジュール21を交流電圧源30として示している。各アームは、それぞれインピーダンスLを有する。2重Y結線MMCの各アームは、Y−Δ変圧器13の漏れインピーダンスLTFを介して、電力系統12を模擬的に示した電圧源31と接続される。図3に示す等価回路では、2重Y結線MMCの2つのY結線部分を結ぶ直流回路側に直流電圧Vdcの直流電圧源が存在するものとして示している。この直流電圧Vdcは、BTBシステムや直流送電などの直流システムにおいて、出力する直流電圧を表している。
【0016】
この図3に示す等価回路を用いて2重Y結線MMCの電圧、電流を解析する。図3に示す等価回路では、Y−Δ変圧器13のΔ結線を等価回路上でY結線に置き換えている。図3に示す等価回路において、以下の式(1)を満たす点を仮想中性点32とする。
+e+e=0 (1)
【0017】
また、図4に示すように、RST相の各上側アームを流れる電流をipr、ips、iptと表し、RST相の各上側アームの電圧をvpr、vps、vptと表す。また、RST相の各下側アームを流れる電流をinr、ins、intと表し、RST相の各下側アームの電圧をvnr、vns、vntと表し、それぞれアーム電流、アーム電圧と呼ぶ。
【0018】
ここで、変換器10の状態をあらわす電流状態量として、以下の式(2−1)〜(2−6)に示す各変数を定義する。
=ipr−inr (2−1)
=ips−ins (2−2)
=ipt−int (2−3)
=1/2×(ipr+ips+ipt+inrr+ins+int) (2−4)
Crs=1/3×(ipr+inr)−1/6
×(ips+ipt+ins+int) (2−5)
Cst=−1/3×(ipt+int)−1/6
×(ipr+ips+inr+ins) (2−6)
【0019】
そして、図5Aに示すように、式(2−1)〜(2−3)に示したi、i、iを交流回路に出力されるRST相の各交流電流と定義する。また、図5Bに示すように、式(2−5)、(2−6)に示したiCrs、iCstをRS相、ST相の間の相間循環回路を流れる相間循環電流と定義する。また、図5Cに示すように、式(2−4)に示したiを直流回路に出力される直流電流として定義する。ここで、本実施例では、交流側を非接地としているため、以下の式(3)に示す関係が成り立つ。iは、実際に直流線路を流れる電流と一致する。
+i+i=0 (3)
【0020】
電流と同様にして、変換器10の状態をあらわす電圧状態量として、以下の式(4−1)〜(4−6)に示す各変数を定義する。
=1/2×(−vpr+vnr) (4−1)
=1/2×(−vps+vns) (4−2)
=1/2×(−vpt+vnt) (4−3)
=1/3×(vpr+vps+vpt+vnr+vns+vnt) (4−4)
Crs=2/3×(vpr+vnr)−1/3
×(vps+vpt+vns+vnt) (4−5)
Cst=−2/3×(vpt+vnt)+1/3
×(vpr+vps+vnr+vns) (4−6)
【0021】
そして、図5Aに示すように、式(4−1)〜(4−3)に示したv、v、vを交流回路に出力されるRST相の各交流電圧と定義する。また、図5Bに示すように、式(4−5)、(4−6)に示したvCrs、vCstをRS相、ST相の間の相間循環回路の相間循環電圧と定義する。また、図5Cに示すように、式(4−4)に示したvを直流回路に出力される直流電流として定義する。
【0022】
上述の定義では、相間循環電流iCrs、iCst、相間循環電圧vCrs、vCstは、3相対称になっていない。対称性を持たせるため、iCrs、iCst、vCrs、vCstの4つの変数を用いて、図5Dに示すiLr、iLs、iLt、vLr、vLs、vLtを以下の式(5)〜(10)のように定める。
Lr=iCrs
=1/3×(ipr+inr)−1/6
×(ips+ipt+ins+int) (5)
Ls=−iCrs+iCst
=1/3×(ips+ins)−1/6
×(ipt+ipr+int+inr) (6)
Lt=−iCst
=1/3×(ipt+int)−1/6
×(ipr+ips+inr+ins) (7)
Lr=2/3×(vpr+vnr)−1/3
×(vps+vpt+vns+vnt) (8)
Ls=2/3×(vps+vns)−1/3
×(vpt+vpr+vnt+vnr) (9)
Lt=2/3×(vpt+vnt)−1/3
×(vpr+vps+vnr+vns) (10)
【0023】
そして、式(5)〜(7)に示したiLr、iLs、iLtを循環電流と定義する。また、式(8)〜(10)に示したvLr、vLs、vLtを循環電圧と定義する。この循環電流および相間循環電圧には、以下の式(11)(12)に示す関係が成り立つ。
Lr+iLs+iLt=0 (11)
Lr+vLs+vLt=0 (12)
【0024】
以上より、各変数を導出するための式は、変換行列を用いて、以下の式(13)(14)のように表現できる。
【数1】

【0025】
よって、交流回路、循環回路、直流回路の各状態量は、以下の式(15)(16)に示すように、上側アームの各アーム電流ipr、ips、ipt、各アーム電圧vpr、vps、vpt、および下側アームの各アーム電流inr、ins、int、各アーム電圧vnr、vns、vntに復元することができる。
【数2】

【0026】
ここで、式(13)は、6×7の行列を用いて6個の変数を7個に変換しており、変換の前後で次数が上昇している。これは3相の対称性を保つために、相間循環電流iCrs、iCstの2つの変数を式(11)の拘束条件のもとに循環電流iLr、iLs、iLtの3変数に展開したことによるものである。循環電流iLr、iLs、iLtに関して3相2相変換を行い、以下の式(17)のように表現することも可能である。
【数3】

【0027】
この式(17)の場合、変換の前後で次数は上がらないが、行列が3相対称とならない。式(14)に示す行列についても同様に3相2相変換を行って表現することが可能である。
【0028】
次に、交流回路の状態方程式について説明する。図6に示すように等価回路において、交流回路を構成する(A)、(B)の経路にそれぞれキルヒホッフの法則を適用すると、以下の式(18)(19)に示す関係が成り立つ。
【数4】

【0029】
式(18)から式(19)の差分を求めた場合、以下の式(20)のように表される。
【数5】

【0030】
また、式(20)から3相の対称性により以下の式(21)(22)が求まる。
【数6】

【0031】
そして、式(1)、(3)、(20)、(22)から以下の式(23)も求まる。
【数7】

【0032】
ここで、Lac=L/2+LTFとし、v+v+v=3Vとすると、以下の式(24)のように表される。
【数8】

【0033】
また、式(24)から3相の対称性により以下の式(25)(26)も求まる。
【数9】

【0034】
この式(24)〜(26)は、非接地系統における3相インバータの一般式であり、2重Y結線MMCでもDQ変換による非干渉制御が行えることを示している。なお、上記は、図1に示すように変換器10が系統にY-Δ変圧器13で連系されており、非接地であるものとした場合である。接地されている場合は、接地による影響を加味することにより、同様に扱うことができる。
【0035】
次に、循環回路の状態方程式について説明する。図7に示すように等価回路において、循環回路を構成する(C)、(D)の経路にそれぞれキルヒホッフの法則を適用すると、以下の式(27)(28)に示す関係が成り立つ。
【数10】

【0036】
式(27)から式(28)の差分を求めた場合、以下の式(29)のように表される。
【数11】

【0037】
ここで、2・L=Lとすると、以下の式(30)のように表される。
【数12】

【0038】
また、式(30)から3相の対称性により、S相、T相についても以下の式(31)(32)のように求まる。
【数13】

【0039】
次に、直流回路の状態方程式について説明する。図8に示すように等価回路において、直流回路を構成する(E)、(F)、(G)の経路にそれぞれキルヒホッフの法則を適用すると、以下の式(33)に示す関係が成り立つ。
【数14】

【0040】
式(33)に示した3つの式を足して整理すると以下の式(34)のように表される。
【数15】

【0041】
ここで、L=2/3×Lとすると、以下の式(35)のように表される。
【数16】

【0042】
このように、二重Y結線MMCの状態方程式は、式(24)〜(26)、(30)〜(32)、(35)で表すことができる。このことは、2重Y結線MMCの回路構成は、式(13)、(14)の変数変換を行うことにより、回路の状態方程式を、図9A〜図9Cに示すように、1つの直流回路と、3つの循環回路と、3つの交流回路の合計7つの回路に分けて考えることができ、また直流回路、循環回路、交流回路が独立に制御できることを示している。交流回路、循環回路、直流回路は、独立であるので、交流回路や循環回路の制御が直流回路に影響を与えることはない。直流送電やBTBシステムなどの直流システムを行う場合、変換器10は、直流回路の電流、電圧を一定に保つ必要があるが、交流回路や循環回路の様々な制御を行いつつ直流電流、電圧を一定に保つことが可能である。
【0043】
次に、本実施例に係る変換器10を制御する制御系の構成ついて説明する。図10は、変換器を制御する制御系の概略的な構成の一例を示す図である。図10に示す例では、変換器10は、検出部41と、記憶部42と、制御部43と、信号生成部44とを有する。
【0044】
検出部41は、電力変換部20の各相の電流および各相毎に接続された回路モジュール21全体でのコンデンサ電圧を検出する。
【0045】
記憶部42は、電力変換部20の回路構成を直流回路、循環回路、交流回路に分けて等価回路で示した場合の当該直流回路、循環回路、交流回路の電圧および電流と、電力変換部20の2重のY結線回路23の各相の電圧および電流との関係を示す関係情報を記憶している。例えば、記憶部42は、関係情報として、式(13)(14)に示す情報、および式(15)(16)に示す情報を記憶する。
【0046】
制御部43は、検出部41による検出結果から記憶部42に記憶された関係情報に基づいて、直流回路、循環回路、交流回路の電圧および電流がそれぞれ所定の条件を満たすように、電力変換部20の各回路モジュール21のスイッチング素子を制御する。具体的には、制御部43は、検出部41による検出結果から電力変換部20の各相のアーム毎に、アーム電流およびアーム電圧を求め、式(13)(14)を用いて相毎の交流電流および交流電圧、相毎の循環電流および循環電圧、直流電圧および直流電流を導出する。制御部43は、導出された相毎の交流電流および交流電圧、相毎の循環電流および循環電圧、直流電圧、直流電流がそれぞれ所定の条件を満たすか判定する。制御部43は、条件を満たさない電圧、電流がある場合、式(15)(16)を用いて、条件を満たさない電圧、電流に影響を与えるアーム電圧を特定し、条件を満たすように特定したアーム電圧の変更を指示する。例えば、制御部43は、直流電圧が所定の条件とされた電圧より低い場合、全てのアーム電圧あるいはいずれかのアーム電圧を所定量だけ上昇させる指示を行い、直流電圧が所定の条件とされた電圧より高い場合、全てのアーム電圧あるいはいずれかのアーム電圧を所定量だけ低下させる指示を行う。なお、制御部43は、相毎の交流電流および交流電圧、相毎の循環電流および循環電圧、直流電圧、直流電流の何れかが条件を満たしている場合、条件を満たした電圧、電流が極力変動しないようにアーム電圧を変更する。例えば、いずれかの相で交流電流や交流電圧が所定の条件を満たしており、直流電圧を上昇させる場合、式(15)(16)を用いて、交流電流や交流電圧が条件を満たす相に影響を与えるアーム電圧と影響を与えないアーム電圧を特定し、影響を与えないアーム電圧を上昇させる指示を行う。また、例えば、いずれかの相で循環電流や循環電圧が所定の条件を満たしており、直流電圧を上昇させる場合、式(15)(16)を用いて、各アーム電圧の変化による循環電流や循環電圧の変化度合いと直流電圧の上昇度合いを求め、循環電流や循環電圧の変化が相殺され、直流電圧が上昇するようにアーム電圧を変化させる指示を行う。また、例えば、直流電圧が条件を満たしており、交流電流や交流電圧、循環電流や循環電圧を変化させる場合、直流電圧の変化が相殺され、交流電流や交流電圧、循環電流や循環電圧が変化するようにアーム電圧を変化させる指示を行う。
【0047】
信号生成部44は、電力変換部20の各相の各アームの回路モジュール21に対して搬送波と変調波を供給しており、制御部43からの指示に応じて、供給する変調波に重畳させる定電圧の電圧レベルを変更して変調波全体の電圧レベルを上下させる。これにより、電力変換部20では、各相のアーム毎に、回路モジュール21のスイッチング素子25のオン、オフの期間を変更することにより、各相のアーム毎にアーム電圧が変化する。
【0048】
制御部43は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路を用いた回路構成により制御を実現してもよい。また、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などの電子回路とプログラムを記憶した記憶部を設け、電子回路によりプログラムの処理を実行することにより制御を実現してもよい。
【0049】
次に、本実施例に係る制御部43による制御処理の流れを説明する。図11は、制御処理の手順を示すフローチャートである。この制御処理は、制御部43が起動した後、常時実行される。
【0050】
図11に示すように、制御部43は、検出部41による検出結果から電力変換部20の各相のアーム毎に、アーム電流およびアーム電圧を求め、相毎の交流電流および交流電圧、相毎の循環電流および循環電圧、直流電圧および直流電流を導出する(ステップS100)。制御部43は、導出された相毎の交流電流および交流電圧、相毎の循環電流および循環電圧、直流電圧、直流電流がそれぞれ所定の条件を満たすように、アーム電圧を変化させる指示を行う(ステップS101)。例えば、制御部43は、所定の条件を満たさない電圧、電流が存在する場合、条件を満たす電圧、電流を極力変動させず、条件を満たさない電圧、電流が所定の条件を満たすように、アーム電圧を変化させる指示を行う。
【0051】
これにより、信号生成部44は、制御部43からの指示に応じて、変調波に重畳させる定電圧の電圧レベルを変更して電力変換部20の各相のアームの回路モジュール21に搬送波と変調波を供給する。これにより、電力変換部20では、各相のアーム毎にアーム電圧が変化する。
【0052】
制御部43は、変換器10全体を制御する他の制御部などから動作停止が指示されたか否かを判定する(ステップS102)。制御部43は、動作停止が指示された場合(ステップS102肯定)、処理を終了する。一方、制御部43は、動作停止が指示されていない場合(ステップS102否定)、ステップS100へ移行する。
【0053】
次に、本実施例にかかる変換器10を用いてBTBシステム50を構築した場合の動作をシミュレーションした結果について説明する。図12は、シミュレーションに使用したBTBシステムの概略的な構成を示す図である。図13は、シミュレーションを行ったBTBシステムの主な仕様を示している。
【0054】
図12に示すBTBシステム50は、送電側と受電側が同じ回路構成とされており、受電端と送電端にそれぞれ変換器10が設けられている。変換器10は、それぞれY−Δ変圧器13によりそれぞれ別の交流系統と接続されている。変換器10は、1つのアームあたりの回路モジュール21の段数を3つとし、インバータセルタイプの回路モジュール21を採用したものとする。
【0055】
2つの変換器10の間の直流回路は、一方が直接接地されており、電源やコンデンサなど直流電圧を固定するような回路素子は入っていないものとする。
【0056】
シミュレーションでは、受電側の変換器10が直流電圧vの一定制御を行い、送電側の変換器10が直流電流iの一定制御を行う。図14A〜図14Fには、送電側の変換器の各波形を示す。
【0057】
図14Aは、R相の上側アームと下側アームの電流波形を示しており、図14Bは、3相の交流電流の電流波形を示している。また、図14Cは、上側アームと下側アームの回路モジュール21での電圧波形を示しており、図14Dは、変換器の各相の電圧波形を示している。シミュレーションの結果、BTBシステム50は、安定的な運転を可能であることが示されている。
【0058】
図14Eは、直流電流の電流波形を示しており、図14Fは、3相の循環電流の電流波形を示している。シミュレーションの結果、BTBシステム50は、定常状態において直流電圧、直流電流は1.0p.uになっており正常に電力が送電されている。定常状態では、循環電流を0に設定しており、循環電流は流れない。
【0059】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る変換器10は、自励式のスイッチング素子23および当該スイッチング素子23のオン、オフに応じて電力を蓄積、放出するコンデンサ24を含み3相交流の電力系統の各相毎に設けられた回路をY結線したY結線回路23が電力変換部20に2重に設けられており、電力変換部20により電力変換を行う。また、変換器10は、検出部41により、電力変換部20の2重のY結線回路23の各相の電圧および電流を検出する。変換器10は、電力変換部20の2重のY結線回路23の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を、直流回路を含む等価回路で示した場合の当該直流回路の電圧および電流との関係を示す関係情報を記憶部42に記憶する。そして、変換器10は、制御部43により、記憶部42に記憶された関係情報に基づいて検出部41による検出結果から導出される直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように電力変換部20のスイッチング素子25を制御する。これにより、本実施例に係る変換器10は、Y結線部分の間の直流の制御を行うことができる。これにより、本実施例に係る変換器10は、BTBシステムや直流送電などの直流システムに用いて、直流制御を行うことができる。
【0060】
また、本実施例では、2重Y結線MMCの各アームの電流、電圧を交流分と直流分と循環分に分解して取り扱う理論を開示した。この理論によれば、交流回路と直流回路と循環回路がそれぞれ独立に制御できる。これにより、本実施例に係る変換器10は、各回路が独立に制御できるため、交流電流や循環電流を制御しつつも直流電圧、直流電流を一定に保つことができ、2重Y結線MMCによる直流送電やBTBシステムの制御が容易に行える。例えば、本実施例に係る変換器10では、関係情報が、電力変換部20の2重のY結線回路23の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路23を等価回路として交流回路および循環回路で示した場合の当該交流回路の電圧および電流、当該循環回路の電圧および電流との関係を示す情報をさらに含んでいる。そして、変換器10は、制御手段により、記憶部42に記憶された関係情報に基づいて、直流回路の電圧および電流の少なくとも一方を一定に維持しつつ、交流回路および循環回路の電圧および電流がそれぞれ所定の条件を満たすように、電力変換部20のスイッチング素子25を制御する。これにより、本実施例に係る変換器10は、交流電圧や交流電流、循環電圧、循環電流の制御を行いつつ、Y結線部分の間の直流の制御を行うことができる。
【実施例2】
【0061】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0062】
また、上記の実施例では、電力変換部20を、図1に示すように、電力系統12の各相毎に回路モジュール21を直列に3段接続した回路構成とした場合について例示したが開示の装置はこれに限定されない。例えば、各相毎に回路モジュール21を1つ設けた回路構成としてもよい。また、各相毎に回路モジュール21を直列に2段または4段以上接続した回路構成としてもよい。また、変換器10がY−Δ変圧器13を介して電力系統12と接続されているものとして例示したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、Y−Y変圧器を介して電力系統12と接続されたり、電力系統12と直接接続されたりすることも適切な制御を行うことで可能である。
【0063】
また、各種の負荷や使用状況などに応じて、実施例において説明した各処理の各ステップでの処理を任意に細かく分けたり、あるいはまとめたり、処理順序を入れ替えてもよい。
【0064】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的状態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、図10に示す制御部43をさらに細かい処理部に分けてもよい。
【0065】
[制御プログラム]
また、上記の実施例で説明した制御部43の各種の処理は、あらかじめ用意されたプログラムをコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。そこで、以下では、図15を用いて、上記の実施例で説明した制御部43と同様の機能を有する制御プログラムを実行するコンピュータの一例を説明する。図15は、制御プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【0066】
図15に示すように、コンピュータ300は、CPU(Central Processing Unit)310、ROM(Read Only Memory)320、RAM(Random Access Memory)340を有する。これら300〜340の各部は、バス400を介して接続される。
【0067】
ROM320には、上記の実施例1に示す制御部43と同様の機能を発揮する制御プログラム320aが予め記憶される。すなわち、ROM320には、図15に示すように、制御プログラム320aが記憶される。なお、制御プログラム320aについては、適宜分離しても良い。
【0068】
HDD330には、各種の関係情報が記憶される。関係情報は、図10に示した記憶部42に記憶された関係情報に対応する。
【0069】
そして、CPU310は、関係情報を読み出してRAM340に格納する。CPU310は、RAM340に格納された関係情報を用いて、制御プログラム320aを実行する。なお、RAM340に格納される各データは、常に全てのデータがRAM340に格納される必要はなく、処理に必要なデータのみがRAM340に格納されれば良い。
【0070】
なお、上記した制御プログラム320aについては、必ずしも最初からROM320に記憶させておく必要はない。
【0071】
例えば、コンピュータ300に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」にプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【0072】
さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ300に接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などにプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 変換器
12 電力系統
20 電力変換部
21 回路モジュール
23 Y結線回路
24 コンデンサ
25 スイッチング素子
41 検出部
42 記憶部
43 制御部
44 信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自励式のスイッチング素子および当該スイッチング素子のオン、オフに応じて電力を蓄積、放出するコンデンサを含み3相交流の電力系統の各相毎に設けられた回路をY結線したY結線回路が2重に設けられ、電力変換を行う電力変換部と、
前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流を検出する検出部と、
前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を、直流回路を含む等価回路で示した場合の当該直流回路の電圧および電流との関係を示す関係情報を記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された関係情報に基づいて前記検出部による検出結果から導出される前記直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように前記電力変換部の前記スイッチング素子を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする変換器。
【請求項2】
前記関係情報は、前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を前記等価回路として交流回路および循環回路で示した場合の当該交流回路の電圧および電流、当該循環回路の電圧および電流との関係を示す情報をさらに含み、
前記制御手段は、前記記憶部に記憶された関係情報に基づいて、前記直流回路の電圧および電流の少なくとも一方を一定に維持しつつ、交流回路および循環回路の電圧および電流がそれぞれ所定の条件を満たすように、前記電力変換部の前記スイッチング素子を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の変換器。
【請求項3】
自励式のスイッチング素子および当該スイッチング素子のオン、オフに応じて電力を蓄積、放出するコンデンサを含み3相交流の電力系統の各相毎に設けられた回路をY結線したY結線回路が2重に設けられ、電力変換を行う電力変換部を有する変換器の制御方法であって、
前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流を検出し、
前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を、直流回路を含む等価回路で示した場合の当該直流回路の電圧および電流との関係を示す関係情報を記憶した記憶部に記憶された関係情報に基づいて、検出結果から導出される前記直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように前記電力変換部の前記スイッチング素子を制御する
ことを特徴とする変換器の制御方法。
【請求項4】
自励式のスイッチング素子および当該スイッチング素子のオン、オフに応じて電力を蓄積、放出するコンデンサを含み3相交流の電力系統の各相毎に設けられた回路をY結線したY結線回路が2重に設けられ、電力変換を行う電力変換部を有する変換器の制御プログラムであって、
前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流を検出する検出部により、各相の電圧および電流を検出し、
前記電力変換部の2重のY結線回路の各相の電圧および電流と、当該2重のY結線回路を、直流回路を含む等価回路で示した場合の当該直流回路の電圧および電流との関係を示す関係情報を記憶した記憶部に記憶された関係情報に基づいて前記検出部による検出結果から導出される前記直流回路の電圧および電流の少なくとも一方が一定となるように前記電力変換部の前記スイッチング素子を制御する
各処理を実行させることを特徴とする変換器の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図14F】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−51798(P2013−51798A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187995(P2011−187995)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】