説明

変異サイクリンG1タンパク質

【課題】サイクリンG1タンパク質の機能を阻害することによる異常細胞増殖を伴う病的状態および疾患の処置であって、動物において増殖中の上記細胞に突然変異体サイクリンG1タンパク質を投与することによる処置を提供すること。
【解決手段】動物に変異サイクリンG1タンパク質を投与することによる、腫瘍の処置、癌の予防、および過形成、再狭窄、角膜の濁りおよび白内障の処置のための方法。変異サイクリンG1タンパク質は、動物に、変異サイクリンG1タンパク質をコードする遺伝子構築物を含むレトロウイルスベクターのような発現媒体を投与することにより投与し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
この発明は、突然変異サイクリンG1タンパク質を罹患動物に提供することに
より天然サイクリンG1タンパク質の機能を阻害することによる、異常な細胞増
殖を伴う病状および疾患、例えば腫瘍、癌、再狭窄、過形成、角膜混濁および白
内障の処置に関するものである。さらに具体的には、この発明は、突然変異サイ
クリンG1タンパク質をコード化するポリヌクレオチドを含む、発現ビークル(
伝達体)、例えばレトロウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターを動物
に投与することによる上記病状および疾患の処置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
サイクリン類として知られている新種のタンパク質をコード化する遺伝子は、
新種のプロトオンコジーンとして同定されており、サイクリン依存的キナーゼ(
またはCdk)阻害剤が腫瘍サプレッサーとして同定されている結果、細胞形質転
換および腫瘍発生の分子機構が細胞周期制御をつかさどる酵素学と結びつけられ
た。(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。特異的サイクリン類の逐次発現および特異的Cdk複合体の本質的機能については既に特定されているため(Wuら、Int.J.Oncol.、第3巻、859−867頁(1993)、Pinesら、New Biologist、第2巻、389−401頁(1990)、Pines、Cell Growth and Differentiation、第2巻、305−310頁(1991)、Reed、Ann.Rev.Cell Biol.、第8巻、529−561頁(1992)、Sherr、Cell、第79巻、551−555頁(1994))、DNA複製、転写、修復、遺伝子不安定性およびアポトーシスの基本機構との直接的関連づけが行なわれた。(D'Ursoら、Science、第250巻、786−791(1990)、Wuら、Oncogene、第9巻、2089−2096頁(1994)、Roy、Cell、第79巻、1093−1101頁(1994)、Meikrantzら、Proc.Nat.Acad.Sci.、第91巻
、3754−3758頁(1994))。
【0003】
転移性癌腫は、悪い結果を伴う疾患であるため、遺伝子療法にとっては重要な
標的である。例えば、結腸直腸癌は、合衆国では肺癌に次ぐ癌死の第2の主要原
因であり、乳癌および膵臓癌がこれに続く(Silberbergら、Cancer Clin.、
第40巻、9−26頁(1990))。これらの癌腫のうち、膵臓癌の予後は最悪
である。転移性膵臓癌患者の生存中央値は3〜6ヶ月であり、事実上患者は総べ
て1年以内に死亡している(Merrickら、Gastrenterol.Clin.N.Amer.、第1
9巻、935−962頁(1990))。患者の約40%は、診断時点で肝臓また
は腹腔またはその両方への転移性癌を呈する。転移性癌に対する化学療法は、多
モード療法にも拘わらず有効ではない。このため、転移性癌に対する別の治療法
が要望され得る。
【0004】
Wuら(Oncol.Reports、第1巻、705−711頁(1994))は、ヒトサイ
クリンG1タンパク質に関する推定アミノ酸配列およびcDNA配列を開示して
いる。Wuらはまた、正常な二倍体ヒト線維芽細胞における場合よりも高いサイ
クリンG1発現レベルが骨肉腫細胞およびユーイング肉腫細胞から見出されたこ
とを開示している。Wuらは、ヒト骨肉腫細胞におけるサイクリンG1タンパク
質の過剰発現が癌への潜在的関連性をもたらすと主張しているが、Wuらは、癌
細胞におけるサイクリンG1タンパク質の機能に干渉またはそれを阻害すること
による癌の処置について開示してはいない。
【0005】
心筋および脳の両梗塞の主原因であるアテローム性硬化症は、合衆国およびヨ
ーロッパにおける全死亡数の〜50%に関与している(Ross、Nature、第36
2巻、801−809頁(1993)、MurrayおよびLopez、The Global B
urden of Disease、ハーバード・ユニバーシティー・プレス、ケンブリッジ
、マサチューセッツ(1996))。バイパス移植および動脈内膜切除に加えて、
経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)は、血管狭窄症に対する標準的処置となっ
ている(Fitz Gibbonら、Can.J.Cardiol.、第12巻、893−900頁(
1996))。初回PTCAの成功率は90%を優に越える程度まで増加している
が、この方法の長期有効性は、患者の〜30−50%における新生内膜過形成お
よび再狭窄の起こり得る発生により制限されており(Glagov、Circulation、第
89巻、2888−2891頁(1994)、Schwartzら、Am.Coll.Cardiol.
、第17巻、1284−1293頁(1992)、Myersら、Wound Healing
Responses in Cardiovascular Disease、Weber編、フツーラ・パブリッ
シング・カンパニー、マウント・キスコ、ニューヨーク、137−150頁(1
995)、Chenら、J.Clin.Invest.、第99巻、2334−2341頁(19
97))、第2のPTCAが必要となるような程度に至ることも多い(Kirchengas
tら、Cardiovasc.Res.、第39巻、550−555頁(1998))。現在まで
のところ、広範囲に及ぶその用途を保証するのに充分有効な薬理学的戦略は無い
(Herrmanら、Drugs、第46巻、18−52頁(1993)、De Meyerおよび
Bult、Vascul.Med.、第2巻、179−189頁(1997))。すなわち、新
生内膜形成の制御は、血管生物学における最新研究の主目標(Schwartzら、The
Intima,Circulation Res.、第77巻、445−465頁(1995))およ
び新規分子医薬の開発用モデルシステム(Gibbonsら、Science、272巻、6
89−693頁(1996))を代表する。
【0006】
成長因子シグナル伝達経路における高度の複雑度および重複性により、新規静
細胞療法の設計において保存された細胞周期制御経路の試験が促進された(Barr
およびLeiden、Trends Cardiovasc.Med.、第4巻、57頁(1994)、An
dres、Int.J.Molecular,Med.、第2巻、81−84頁(1998)、Braun−
Dullaeusら、Circulation、第98巻、82−89頁(1998))。従って、S
MC増殖および新生内膜形成を阻止するための若干の新規遺伝子治療方法は、サ
イクリン依存的プロテインキナーゼ(CDK)サブユニットのアンチセンス構築物
を代表するオリゴデオキシヌクレオチド(Morishitaら、Proc.Nat.Acad.Sci
.、第90巻、8474−8478頁(1993)、Morishitaら、J.Clin.Inv
est.、第93巻、1458−1464頁(1994)、Abe、1994)、Cdk阻
害剤を担うアデノウイルスベクター(Changら、Science、第267巻、518
−522頁(1995)、Chenら、1997)またはRbタンパク質の構成的活性
形態を担うベクター(Changら、J.Clin.Invest.、第96巻、2260−22
68頁(1995)、Smithら、Exp.Cell Res.、第230巻、61−68頁(
1997))を含む、特異的細胞周期制御エレメントに集中している。他の試験は
、多細胞周期制御遺伝子の誘導を調節する、転写因子E2Fに対して向けられた
分子「おとり」オリゴデオキシヌクレオチド戦略を採用している(Morishitaら
、Proc.Nat.Acad.Sci.、第92巻、5855−5859頁(1995))。こ
れらの実験的方法の報告された効力は、新生内膜病変で選択的にアップレギュレ
ーションされている細胞周期制御エレメントが戦略的治療標的を表すという概念
を裏付けしている。
最近の研究は、げっ歯動物(Zhuら、2000、提示)および非ヒト霊長類(Ka
ijin Wuら、1999、提示)におけるバルーンカテーテル創傷後の、誘導可能
な細胞周期制御エレメントである、サイクリンG1のアップレギュレーションを
特徴としている(Tamuraら、Oncogene、第8巻、2113−2118頁(199
3)、Wuら、1994、Homeら、J.Biol.Chem.、第271巻、6050−6
061頁(1996)、Morishitaら、1995)。インビトロでのトランスフェ
クション細胞におけるサイクリンG1の強制発現により、細胞周期は加速され、
クローン伸展は促進され(Smithら、Exp.Cell,Res.、第230巻、61−6
8頁(1997))、そしてアンチセンス戦略によるサイクリンG1発現の遮断に
より、細胞性塞栓および細胞崩壊が誘導される(Skotzkoら、Cancer Res.、
55巻、61−68頁(1995)、Chenら、Hum.Gene Ther.、第8巻、1
667−1674頁(1997)、Hungら、Int.J.Pediatr.Hematol.Oncol.
、第4巻、317−325頁(1997))。SMC増殖に関連して、(i)充分に高
い力価(10cfu/ml)に濃縮されたアンチセンスサイクリンG1レトロウイル
スベクターは、形質導入ラット(Zhuら、Circulation、第46巻、628−6
35頁(1997))および霊長類血管SMCの生存および増殖を阻害すること(観
察結果は未発表)、および(ii)バルーン創傷ラット頚動脈におけるこの濃縮アン
チセンスサイクリンG1ベクターの管内送達により、インビボ新生内膜形成の顕
著な縮小が誘発されること(Zhuら、1997)が示された。従って、サイクリン
G1は、血管再狭窄の治療技術における治療的介入にとって適切かつ有利な座で
あると思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hallら、Curr.Opin.Cell Biol.、第3巻、176−184頁(1991)
【非特許文献2】Hunterら、Cell、第79巻、573−582頁(1994)
【非特許文献3】Elledgeら、Curr.Opin.Cell.Biol.、第6巻、874−878頁(1994)
【非特許文献4】Peterら、Cell、第79巻、181−184頁(1994)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要約)
出願者らは、癌細胞におけるサイクリンG1タンパク質の機能に干渉および/
またはこれを阻害することにより、上記癌細胞の増殖および/または生存が阻止
、予防または破壊され得ることを発見した。すなわち、本発明は、サイクリンG
1タンパク質の機能を阻害することによる異常細胞増殖を伴う病的状態および疾
患の処置であって、動物において増殖中の上記細胞に突然変異体サイクリンG1
タンパク質を投与することによる処置に関するものである。上記病的状態および
疾患には、癌、腫瘍、過形成、再狭窄、角膜混濁および白内障があるが、これら
に限定されるわけではない。好ましい態様では、突然変異体または変異体サイク
リンG1タンパク質は、突然変異サイクリンG1タンパク質をコード化するポリ
ヌクレオチドを含む発現ビークルの送達により罹患動物に投与される。上記発現
ビークルには、ウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターおよびアデノ
ウイルスベクター、および合成ベクターがあるが、これらに限定されるわけでは
ない。本発明方法により有効に処置され得る動物には、哺乳類、例えばヒトおよ
び非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシおよびヒツジがあるが、これらに限定
されるわけではない。
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1) 動物における異常細胞増殖が関与する病理学的状態または疾
患を処置または予防する方法であり、該動物に変異サイクリンG1タンパク質を
投与し、該変異サイクリンG1タンパク質は、該病理学的状態または疾患を処置
または予防するのに有効な量で投与される、方法。
(項目2) 該変異サイクリンG1タンパク質が、該動物に、該変異サイ
クリンG1タンパク質をコードする遺伝子構築物を含む発現媒体を送達させるこ
とにより投与される、項目1に記載の方法。
(項目3) 該変異サイクリンG1タンパク質が、該動物に、該動物の異
常増殖細胞に、該変異サイクリンG1タンパク質をコードする遺伝子構築物を含
む発現媒体を形質導入することにより投与される、項目1に記載の方法。
(項目4) 該発現媒体がレトロウイルスベクターである、項目2に記
載の方法。
(項目5) 該発現媒体がマトリックス−標的化レトロウイルスベクター
である、項目4に記載の方法。
(項目6) 該マトリックス標的化レトロウイルスベクターを、動物に全
身的に投与する、項目5に記載の方法。
(項目7) 該発現媒体がアデノウイルスベクターである、項目2に記
載の方法。
(項目8) 該変異サイクリンG1タンパク質が、アミノ末端切断サイク
リンG1タンパク質を含む、項目1に記載の方法。
(項目9) 該変異サイクリンG1タンパク質が、ヒトサイクリンG1タ
ンパク質のアミノ酸残基41から249に対応するサイクリンG1タンパク質の
アミノ酸残基を含む、項目8に記載の方法。
(項目10) 該変異サイクリンG1タンパク質が、ヒトサイクリンG1
タンパク質のアミノ酸残基41から249を含む、項目9に記載の方法。
(項目11) 該変異サイクリンG1タンパク質が、少なくとも一つのア
ミノ酸置換を有するサイクリンG1タンパク質を含む、項目1に記載の方法。
(項目12) 該置換がヒトサイクリンG1タンパク質の残基61に対応
する残基においてである、項目11に記載の方法。
(項目13) 該変異サイクリンG1タンパク質がヒトサイクリンG1タ
ンパク質である、項目11に記載の方法。
(項目14) 該置換がアラニンである、項目12に記載の方法。
(項目15) 該病理学的状態または疾患が、腫瘍、癌、過形成、再狭窄
、角膜の濁りおよび白内障からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目16) 該病理学的状態または疾患が、腫瘍および癌からなる群か
ら選択される、項目15に記載の方法。
(項目17) 動物がヒトである、項目1に記載の方法。
(項目18) 変異サイクリンG1タンパク質をコードする、遺伝子構築
物。
(項目19) 変異サイクリンG1が野生型サイクリンG1の優勢な陰性
阻害剤である、項目18に記載の遺伝子構築物。
(項目20) 該変異サイクリンG1タンパク質が、野生型サイクリンG
1のサイクリンボックスに欠失を含む、項目18に記載の遺伝子構築物。
(項目21) 該変異サイクリンG1タンパク質が、アミノ末端切断サイ
クリンG1タンパク質を含む、項目18に記載の遺伝子構築物。
(項目22) 該変異サイクリンG1タンパク質が、ヒトサイクリンG1
タンパク質の残基41から249に対応するサイクリンG1タンパク質のアミノ
酸残基を含む、項目21に記載の遺伝子構築物。
(項目23) 該変異サイクリンG1タンパク質が、ヒトサイクリンG1
タンパク質の残基41から249を含む、項目22に記載の遺伝子構築物。
(項目24) 該変異サイクリンG1タンパク質が、少なくとも一つのア
ミノ酸置換を有するサイクリンG1タンパク質を含む、項目18に記載の遺伝
子構築物。
(項目25) 該置換がヒトサイクリンG1タンパク質の残基61に対応
する残基においてである、項目24に記載の遺伝子構築物。
(項目26) 該変異サイクリンG1タンパク質がヒトサイクリンG1タ
ンパク質である、項目25に記載の遺伝子構築物。
(項目27) 該置換がアラニンである、項目26に記載の遺伝子構築
物。
(項目28) 項目18に記載の遺伝子構築物を含む、発現媒体。
(項目29) 該発現媒体がウイルスベクターである、項目28に記載
の発現媒体。
(項目30) 該発現媒体がレトロウイルスベクターである、項目29
に記載の発現媒体。
(項目31) 該発現媒体がアデノウイルスベクターである、項目29
に記載の発現媒体。
(項目32) 細胞に変異サイクリンG1タンパク質を投与し、該変異サ
イクリンG1タンパク質が細胞分割を防止するのに有効な量で投与される、細胞
の分割を防止する方法。
(項目33) 該変異サイクリンG1タンパク質が、該細胞に、該変異サ
イクリンG1タンパク質をコードする遺伝子構築物を含む発現媒体を送達させる
ことにより投与される、項目32に記載の方法。
(項目34) 該変異サイクリンG1タンパク質が、該細胞に、該細胞を
該変異サイクリンG1タンパク質をコードする遺伝子構築物を含む発現媒体を形
質導入することにより投与される、項目32に記載の方法。
(項目35) 該発現媒体がレトロウイルスベクターである、項目33
に記載の方法。
(項目36) 該発現媒体がアデノウイルスベクターである、項目33
に記載の方法。
(項目37) 該変異サイクリンG1タンパク質が、アミノ末端切断サイ
クリンG1タンパク質を含む、項目32に記載の方法。
(項目38) 該変異サイクリンG1タンパク質が、ヒトサイクリンG1
タンパク質のアミノ酸残基41から249に対応するサイクリンG1タンパク質
のアミノ酸残基を含む、項目37に記載の方法。
(項目39) 該変異サイクリンG1タンパク質が、ヒトサイクリンG1
タンパク質のアミノ酸残基41から249を含む、項目38に記載の方法。
(項目40) 該変異サイクリンG1タンパク質が、少なくとも一つのア
ミノ酸置換を有するサイクリンG1タンパク質を含む、項目32に記載の方法

(項目41) 該置換がヒトサイクリンG1タンパク質の残基61に対応
する残基においてである、項目40に記載の方法。
(項目42) 該変異サイクリンG1タンパク質がヒトサイクリンG1タ
ンパク質である、項目40に記載の方法。
(項目43) 該置換がアラニンである、項目41に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】MiaPaca2細胞におけるマトリックス標的レトロウイルスベクターの形質導入効率。β−ガラクトシダーゼ発現性細胞は、青色染色核により示されている。
【図1B】MiaPaca癌細胞における突然変異体サイクリンG1構築物を担うマトリックス標的レトロウイルスベクターの細胞増殖抑制効果。縦軸でプロットされた1ウェル当たりの細胞数は、横軸でプロットされた時間(形質導入後の日数)の関数として表されている。D10培地対照、neor遺伝子のみを担うヌルベクター、アンチセンスサイクリンG1構築物を担うAS587およびAS693ベクター、DNT41〜249、またはヒトサイクリンG1のN末端に欠失をもつdnG1ベクター。
【図1C】G418選択を伴わないdnG1ベクター‐対ヌルベクター‐形質導入癌細胞におけるヒトサイクリンG1タンパク質発現のウエスタン分析。免疫反応性dnG1(サイクリンG1 DN41)は、20kDaの領域における明染色バンドとして検出され(レーン2)、内在性サイクリンG1タンパク質は、〜30kDaの領域における強染色バンドとして見られる(レーン1−3)。
【図2】転移性腫瘍病巣におけるヒトサイクリンG1タンパク質発現。抗ヒトサイクリンG1抗体との免疫反応性サイクリンG1(褐色染色物質)の強度染色により証明されているPBS処置動物の腫瘍病巣(A;t)および低用量dnG1ベクター処置動物の残留腫瘍病巣(B;矢印)における高レベルヒトサイクリンG1タンパク質発現。
【図3−1】肝臓の組織断片のヘマトキシリン‐エオシン染色は、PBS対照群(A&C、40Xおよび100X)およびdnG1ベクター処置動物(B&D、40Xおよび100X)からの腫瘍病巣を表す。PBS対照群(E、100X)およびdnG1ベクター処置動物(F&H:100Xおよび200X;矢印)の腫瘍病巣におけるアポトーシスは、ApopTagPlusペルオキシダーゼ原位置(in situ)アポトーシス検定において帯赤褐色免疫染色物質として描かれている。(G)末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼTdT酵素を伴わない負の染色対照、t=腫瘍病巣、h=肝臓実質における肝細胞。
【図3−2】肝臓の組織断片のヘマトキシリン‐エオシン染色は、PBS対照群(A&C、40Xおよび100X)およびdnG1ベクター処置動物(B&D、40Xおよび100X)からの腫瘍病巣を表す。PBS対照群(E、100X)およびdnG1ベクター処置動物(F&H:100Xおよび200X;矢印)の腫瘍病巣におけるアポトーシスは、ApopTagPlusペルオキシダーゼ原位置(in situ)アポトーシス検定において帯赤褐色免疫染色物質として描かれている。(G)末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼTdT酵素を伴わない負の染色対照、t=腫瘍病巣、h=肝臓実質における肝細胞。
【図4】ヒトサイクリンG1配列は、ヒトサイクリンI、ヒトサイクリンAおよびS.PomCig1の場合と比較して示されている。保存領域は灰色四角により示されている。
【図5】pREXレトロウイルス発現ベクターへのヒトサイクリンG1cDNAのクローニング。図は、pG1PM61/REXへの点突然変異体サイクリンG1(PM61)の段階クローニングを示す。
【図6】pREX、アンチセンスおよび突然変異体サイクリンG1構築物の概略図。(A)pREXレトロウイルス発現ベクターの地図および制限クローニング部位(B)アンチセンスサイクリンG1フラグメントの概略図(C)突然変異体サイクリンG1フラグメントの概略図。
【図7】マーカー遺伝子および突然変異体サイクリンG1構築物をもつマトリックス標的レトロウイルスベクターによるラットA10およびサルSMCのプラスミドDNAトランスフェクション、形質導入効率および形質導入のインビトロ試験。(A)突然変異体サイクリンG1プラスミドDNA構築物によりトランスフェクションされたラットA10 SMCの増殖。縦軸でプロットされた細胞数は、横軸でプロットされた時間、すなわち形質導入後の日数の関数として表されている。(B)核標的β−ガラクトシダーゼ遺伝子をもつマトリックス標的VSVG偽類型レトロウイルスベクターを用いた単一2時間形質導入後のラットA10細胞培養物における形質導入効率。形質導入効率%は、感染多重度の関数(logMOI)として表されている、(C)突然変異体サイクリンG1レトロウイルスベクターにより形質導入されたヒトMiaPaca細胞の増殖、(D)突然変異体サイクリンG1レトロウイルスベクターにより形質導入されたサルSMCの増殖。
【図8】二重エンベロープ立体配置でマトリックス‐ターゲッティングモチーフおよびVSVGタンパク質を表すアンチセンスおよび突然変異体サイクリンG1ベクターの一時的トランスフェクション計画およびビリオン組込み。(A)各々CMVプロモーターから発現された、パッケージング成分gag‐pol、マトリックス標的(CBD)env、融合誘導性VSVGenv、およびサイクリンG1構築物をもつレトロウイルスベクターが別々のプラスミドに配置されており、各々SV40複製起点を含んでいる、一時的4プラスミド同時トランスフェクションシステム(Soneokaら、1995)を用いてレトロウイルスストックが作製された。(B)ウエスタン分析は、〜70kDaの領域、〜64kDaでのVSVGタンパク質、および36および50kDa間のウイルスgag(CA)タンパク質対照へ移動する免疫反応性バンドとしてMLVベースのgp70envタンパク質を示す。モック(模擬)=エンベロープ対照無し、CAE109対照=WT MLVenvを伴う非標的ヌルベクター、Hs2+VSVG109対照=二重env立体配置でコラーゲン結合性モチーフおよびVSVGタンパク質を表すMLVenvを伴うマトリックス標的ヌルベクター、CAE587=WTenvを伴う非標的アンチセンスサイクリンG1−587ベクター、Hs2+VSVG587=マトリックス標的VSVG偽類型アンチセンスサイクリンG1−587、CAE693=WTenvを伴う非標的アンチセンスサイクリンG1−693ベクター、Hs2+VSVG693=マトリックス標的VSVG偽類型アンチセンスサイクリンG1−693、CAE D/N(41−249)=WTenvを伴う非標的突然変異体D/N(41−249)ベクター、Hs2+VSVG D/N(41−249)=マトリックス標的VSVG偽類型突然変異体D/N(41−249)ベクター。
【図9】アンチセンスおよび突然変異体サイクリンG1レトロウイルスベクターによる形質導入後のラットA10細胞培養物におけるシンシチウム形成。光学顕微鏡写真は、形質導入されたラットA10細胞の形態学的外見を表し、(A&B)ヌルベクター、(C&D)アンチセンスサイクリンG1−693ベクター、(D&E)突然変異体サイクリンG1(dnG1)ベクターによる場合である。シンシチウムは矢印により示されている。
【図10】突然変異体サイクリンG1ベクターにより形質導入されたサルおよびラットA10細胞におけるサイクリンG1発現のウェスタンブロット分析。形質導入の12、24および48時間後における形質導入細胞の細胞性タンパク質を、ヌル対照ベクターにより形質導入された細胞の場合と比較した。(A)ヌルベクター(「ベクター」)による場合と比較した、アンチセンスサイクリンG1−693レトロウイルスベクターにより形質導入されたサルSMC培養物における免疫反応性ヒトサイクリンG1タンパク質の発現減少(B)対照ベクター(「ベクター」)により形質導入された細胞には存在しなかった、dnG1レトロウイルスベクターによる形質導入の24および48時間後のラットA10細胞培養物における20kDaでの免疫反応性突然変異体ヒトサイクリンG1(p20突然変異体)の外観。
【図11】バルーン創傷ラット動脈におけるラットサイクリンG1タンパク質の免疫組織化学的染色。(A)ヌルベクター‐(B)PBSおよび(D)dnG1ベクター‐処理動脈切片の新生内膜細胞におけるサイクリンG1核免疫反応性増強(帯赤褐色核染色により示されている)。(C)アンチセンスサイクリンG1−693処理動脈切片におけるサイクリンG1免疫反応性の強度減少。
【図12】マトリックス標的VSVG偽類型dnG1ベクターを用いた1ヶ月インビボ効率試験。(A)PBS対照、(B)食塩水、(C)ヌルベクターおよび(D)dnG1ベクターのバルーン創傷および管内滴中の1ヶ月後に採取されたラット頚動脈からのエラスチン染色組織断片。
【図13】Mx−dnG1ベクターの一(7日)処理周期による腫瘍増殖の抑止。細胞致死性ベクターを合計7日間毎日尾部静脈へ直接注射した。ノギスを用いて腫瘍体積の測定結果を得た後、8日目に動物を殺した。ただし、図13Aにおける動物の処理開始時における腫瘍体積は、図13Bにおける場合よりもかなり大きかった。しかしながら、両実験とも、Mx−dnG1ベクターによる処理の4日目までに腫瘍サイズのかなりの減少が観察され(n=6)、腫瘍サイズの漸進的増加が対照Mx−nBgベクターにより処理された動物で認められた(n=4)。腫瘍体積(mm;縦軸でプロットされている)は、時間(日数;横軸でプロットされている)の関数として表された。
【図14】(A)Mx−dnG1ベクターを用いた長期効率試験。確立された腫瘍異種移植片(腫瘍体積〜50mm)をもつマウスに対し無作為に偽薬(PBS;n=3)、非標的CAE−dnG1ベクター(n=4)またはマトリックス標的Mx−dnG1ベクター(n=4)を投与した。200μlベクター(ベクター用量:8×10cfu)または等量の偽薬を、10服用期間(1処理周期)(偽薬群)または2処理周期間(CAE−dnG1またはMx−dnG1群)毎日または隔日に末梢(背側尾部)静脈に直接注射し、合間に2週間休止期間をおいた。腫瘍体積(mm、縦軸でプロットされている)は、時間(日数、横軸でプロットされている)の関数として表されている。(B)Mx−dnG1ベクター処理マウスにおけるカプラン‐マイヤー生存試験。(A)では動物のカプラン‐マイヤー生存曲線(終点として腫瘍が4倍になるまでの時間を表す)が示されている。偽薬群は連続線により表され、CAE−dnG1群は短い点線により表され、Mx−dnG1群は長い点線により表されている。生存フラクション(4倍にはなっていない腫瘍を伴う動物を表す;縦軸でプロットされている)は、時間(日数;横軸でプロットされている)の関数として表されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(図面の簡単な記載)
以下、図面に関して本発明を説明する。
図1 (A) MiaPaca2細胞におけるマトリックス標的レトロウイルスベク
ターの形質導入効率。β−ガラクトシダーゼ発現性細胞は、青色染色核により示
されている。(B)MiaPaca癌細胞における突然変異体サイクリンG1構築物を
担うマトリックス標的レトロウイルスベクターの細胞増殖抑制効果。縦軸でプロ
ットされた1ウェル当たりの細胞数は、横軸でプロットされた時間(形質導入後
の日数)の関数として表されている。D10培地対照、neor遺伝子のみを担うヌ
ルベクター、アンチセンスサイクリンG1構築物を担うAS587およびAS6
93ベクター、DNT41〜249、またはヒトサイクリンG1のN末端に欠失
をもつdnG1ベクター。(C)G418選択を伴わないdnG1ベクター‐対ヌルベ
クター‐形質導入癌細胞におけるヒトサイクリンG1タンパク質発現のウエスタ
ン分析。免疫反応性dnG1(サイクリンG1 DN41)は、20kDaの領域にお
ける明染色バンドとして検出され(レーン2)、内在性サイクリンG1タンパク質
は、〜30kDaの領域における強染色バンドとして見られる(レーン1−3)。
図2 転移性腫瘍病巣におけるヒトサイクリンG1タンパク質発現。抗ヒトサ
イクリンG1抗体との免疫反応性サイクリンG1(褐色染色物質)の強度染色によ
り証明されているPBS処置動物の腫瘍病巣(A;t)および低用量dnG1ベクタ
ー処置動物の残留腫瘍病巣(B;矢印)における高レベルヒトサイクリンG1タン
パク質発現。
【0011】
図3 肝臓の組織断片のヘマトキシリン‐エオシン染色は、PBS対照群(A
&C、40Xおよび100X)およびdnG1ベクター処置動物(B&D、40Xお
よび100X)からの腫瘍病巣を表す。PBS対照群(E、100X)およびdnG
1ベクター処置動物(F&H:100Xおよび200X;矢印)の腫瘍病巣におけ
るアポトーシスは、ApopTagPlusペルオキシダーゼ原位置(in situ)アポトー
シス検定において帯赤褐色免疫染色物質として描かれている。(G)末端デオキシ
ヌクレオチジルトランスフェラーゼTdT酵素を伴わない負の染色対照、t=腫瘍
病巣、h=肝臓実質における肝細胞。
【0012】
図4 ヒトサイクリンG1配列は、ヒトサイクリンI、ヒトサイクリンAおよ
びS.PomCig1の場合と比較して示されている。保存領域は灰色四角により示
されている。
【0013】
図5 pREXレトロウイルス発現ベクターへのヒトサイクリンG1cDNAの
クローニング。図は、pG1PM61/REXへの点突然変異体サイクリンG
1(PM61)の段階クローニングを示す。
【0014】
図6 pREX、アンチセンスおよび突然変異体サイクリンG1構築物の概略
図。(A)pREXレトロウイルス発現ベクターの地図および制限クローニング部
位(B)アンチセンスサイクリンG1フラグメントの概略図(C)突然変異体サイク
リンG1フラグメントの概略図。
【0015】
図7 マーカー遺伝子および突然変異体サイクリンG1構築物をもつマトリッ
クス標的レトロウイルスベクターによるラットA10およびサルSMCのプラス
ミドDNAトランスフェクション、形質導入効率および形質導入のインビトロ試
験。(A)突然変異体サイクリンG1プラスミドDNA構築物によりトランスフェ
クションされたラットA10 SMCの増殖。縦軸でプロットされた細胞数は、
横軸でプロットされた時間、すなわち形質導入後の日数の関数として表されてい
る。(B)核標的β−ガラクトシダーゼ遺伝子をもつマトリックス標的VSVG偽
類型レトロウイルスベクターを用いた単一2時間形質導入後のラットA10細胞
培養物における形質導入効率。形質導入効率%は、感染多重度の関数(logMOI
)として表されている、(C)突然変異体サイクリンG1レトロウイルスベクター
により形質導入されたヒトMiaPaca細胞の増殖、(D)突然変異体サイクリンG
1レトロウイルスベクターにより形質導入されたサルSMCの増殖。
【0016】
図8 二重エンベロープ立体配置でマトリックス‐ターゲッティングモチーフ
およびVSVGタンパク質を表すアンチセンスおよび突然変異体サイクリンG1
ベクターの一時的トランスフェクション計画およびビリオン組込み。(A)各々C
MVプロモーターから発現された、パッケージング成分gag‐pol、マトリックス
標的(CBD)env、融合誘導性VSVGenv、およびサイクリンG1構築物をもつ
レトロウイルスベクターが別々のプラスミドに配置されており、各々SV40複
製起点を含んでいる、一時的4プラスミド同時トランスフェクションシステム(
Soneokaら、1995)を用いてレトロウイルスストックが作製された。(B)ウ
エスタン分析は、〜70kDaの領域、〜64kDaでのVSVGタンパク質、およ
び36および50kDa間のウイルスgag(CA)タンパク質対照へ移動する免疫反
応性バンドとしてMLVベースのgp70envタンパク質を示す。モック(模擬)=
エンベロープ対照無し、CAE109対照=WT MLVenvを伴う非標的ヌル
ベクター、Hs2+VSVG109対照=二重env立体配置でコラーゲン結合性モ
チーフおよびVSVGタンパク質を表すMLVenvを伴うマトリックス標的ヌル
ベクター、CAE587=WTenvを伴う非標的アンチセンスサイクリンG1−
587ベクター、Hs2+VSVG587=マトリックス標的VSVG偽類型ア
ンチセンスサイクリンG1−587、CAE693=WTenvを伴う非標的アン
チセンスサイクリンG1−693ベクター、Hs2+VSVG693=マトリッ
クス標的VSVG偽類型アンチセンスサイクリンG1−693、CAE D/N
(41−249)=WTenvを伴う非標的突然変異体D/N(41−249)ベクタ
ー、Hs2+VSVG D/N(41−249)=マトリックス標的VSVG偽類
型突然変異体D/N(41−249)ベクター。
【0017】
図9 アンチセンスおよび突然変異体サイクリンG1レトロウイルスベクター
による形質導入後のラットA10細胞培養物におけるシンシチウム形成。光学顕
微鏡写真は、形質導入されたラットA10細胞の形態学的外見を表し、(A&B)
ヌルベクター、(C&D)アンチセンスサイクリンG1−693ベクター、(D&
E)突然変異体サイクリンG1(dnG1)ベクターによる場合である。シンシチウ
ムは矢印により示されている。
【0018】
図10 突然変異体サイクリンG1ベクターにより形質導入されたサルおよび
ラットA10細胞におけるサイクリンG1発現のウェスタンブロット分析。形質
導入の12、24および48時間後における形質導入細胞の細胞性タンパク質を
、ヌル対照ベクターにより形質導入された細胞の場合と比較した。(A)ヌルベク
ター(「ベクター」)による場合と比較した、アンチセンスサイクリンG1−69
3レトロウイルスベクターにより形質導入されたサルSMC培養物における免疫
反応性ヒトサイクリンG1タンパク質の発現減少(B)対照ベクター(「ベクター
」)により形質導入された細胞には存在しなかった、dnG1レトロウイルスベク
ターによる形質導入の24および48時間後のラットA10細胞培養物における
20kDaでの免疫反応性突然変異体ヒトサイクリンG1(p20突然変異体)の外
観。
【0019】
図11 バルーン創傷ラット動脈におけるラットサイクリンG1タンパク質の
免疫組織化学的染色。(A)ヌルベクター‐(B)PBSおよび(D)dnG1ベクター
‐処理動脈切片の新生内膜細胞におけるサイクリンG1核免疫反応性増強(帯赤
褐色核染色により示されている)。(C)アンチセンスサイクリンG1−693処
理動脈切片におけるサイクリンG1免疫反応性の強度減少。
【0020】
図12 マトリックス標的VSVG偽類型dnG1ベクターを用いた1ヶ月イン
ビボ効率試験。(A)PBS対照、(B)食塩水、(C)ヌルベクターおよび(D)dnG
1ベクターのバルーン創傷および管内滴中の1ヶ月後に採取されたラット頚動脈
からのエラスチン染色組織断片。
【0021】
図13 Mx−dnG1ベクターの一(7日)処理周期による腫瘍増殖の抑止。細
胞致死性ベクターを合計7日間毎日尾部静脈へ直接注射した。ノギスを用いて腫
瘍体積の測定結果を得た後、8日目に動物を殺した。ただし、図13Aにおける
動物の処理開始時における腫瘍体積は、図13Bにおける場合よりもかなり大き
かった。しかしながら、両実験とも、Mx−dnG1ベクターによる処理の4日目
までに腫瘍サイズのかなりの減少が観察され(n=6)、腫瘍サイズの漸進的増加
が対照Mx−nBgベクターにより処理された動物で認められた(n=4)。腫瘍体積
(mm;縦軸でプロットされている)は、時間(日数;横軸でプロットされている)
の関数として表された。
【0022】
図14 (A)Mx−dnG1ベクターを用いた長期効率試験。確立された腫瘍異
種移植片(腫瘍体積〜50mm)をもつマウスに対し無作為に偽薬(PBS;n=3
)、非標的CAE−dnG1ベクター(n=4)またはマトリックス標的Mx−dnG1
ベクター(n=4)を投与した。200μlベクター(ベクター用量:8×10cfu
)または等量の偽薬を、10服用期間(1処理周期)(偽薬群)または2処理周期間(
CAE−dnG1またはMx−dnG1群)毎日または隔日に末梢(背側尾部)静脈に直
接注射し、合間に2週間休止期間をおいた。腫瘍体積(mm、縦軸でプロットさ
れている)は、時間(日数、横軸でプロットされている)の関数として表されてい
る。(B)Mx−dnG1ベクター処理マウスにおけるカプラン‐マイヤー生存試験
。(A)では動物のカプラン‐マイヤー生存曲線(終点として腫瘍が4倍になるま
での時間を表す)が示されている。偽薬群は連続線により表され、CAE−dnG
1群は短い点線により表され、Mx−dnG1群は長い点線により表されている。
生存フラクション(4倍にはなっていない腫瘍を伴う動物を表す;縦軸でプロッ
トされている)は、時間(日数;横軸でプロットされている)の関数として表され
ている。
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明の一態様によると、異常な細胞増殖を伴う病的状態または疾患に罹患し
た動物の処置方法が提供される。上記状態および疾患には、腫瘍、癌、過形成、
再狭窄、角膜混濁および白内障が含まれる。この方法は、突然変異サイクリンG
1タンパク質を動物または動物における病的細胞、組織または臓器に投与するこ
とを含む。突然変異サイクリンG1タンパク質は、異常な細胞増殖を低減化また
は阻害するかまたは病状もしくは疾患を改善、治癒または予防するのに有効な量
で投与される。好ましい態様において、本発明方法は、特に腫瘍および癌の処置
に関するものである。
【0024】
ここで使用されている「腫瘍または癌を処置する」の語は、腫瘍または癌細胞
の増殖の阻止、予防または破壊がもたらされることを意味する。本発明方法によ
り有益に処置され得る腫瘍および癌には、リンパ腫、白血病、肉腫および癌腫が
あるが、これらに限定されるわけではない。
【0025】
ここで使用されている「過形成」の語は、組織または臓器における細胞の異常
増殖を伴う非腫瘍性病的状態または疾患を意味する。本発明方法により有益に処
置され得る過形成には、脈管濾胞性縦隔リンパ節増殖症、木村病、血管類リンパ
組織増殖症、非定型メラニン細胞過形成、基底細胞過形成、キャッスルマン病、
セメント質肥大、先天性副腎過形成、先天性脂腺増生症、先天性男性化副腎過形
成、嚢胞性増殖症、線維筋過形成、ヘック病、血管内乳頭状内皮過形成、神経過
形成、扁平上皮過形成およびゆうぜい性肥厚があるがこれらに限定されるわけで
はない。
【0026】
ここで使用されている「突然変異サイクリンG1タンパク質」の語は、真核生
物体からの天然サイクリンG1タンパク質を意味するが、1個またはそれ以上の
アミノ酸欠失、置換、付加、および/またはそれらの組合わせを伴う。ある種の
態様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は動物に由来する。好ましい
態様において、サイクリンG1タンパク質は処置されている動物と密接に関連し
た動物種に由来する(例、突然変異チンパンジーサイクリンG1タンパク質がヒ
トの処置に使用されている)。最も好ましい態様において、突然変異サイクリン
G1タンパク質は、処置されている動物と同じ動物種に由来する。
【0027】
ヒトサイクリンG1タンパク質のアミノ酸配列は、図4に示されている。一態
様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は、アミノ末端先端切除サイク
リンG1タンパク質を含む。一態様において、サイクリンG1タンパク質のN−
末端における初めの117までのアミノ酸残基が欠失され得る。好ましい態様に
おいて、突然変異サイクリンG1タンパク質は、アミノ酸残基40を含むそれ以
下のN−末端欠失を含むサイクリンG1タンパク質である。最も好ましい態様に
おいて、突然変異サイクリンG1タンパク質は、アミノ酸残基1から40までの
N−末端欠失を含むヒトサイクリンG1タンパク質である。実施態様において、
突然変異サイクリンG1タンパク質は、ヒトサイクリンG1タンパク質のアミノ
酸残基41〜249により構成される。
【0028】
他の態様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は、ヒトサイクリンG
1タンパク質の残基61に対応するアミノ酸残基にアミノ酸置換を含む完全長ま
たは先端切除サイクリンG1タンパク質である。好ましい態様において、突然変
異サイクリンG1タンパク質は、その残基にアラニン置換を有する。実施態様に
おいて、突然変異サイクリンG1タンパク質は、残基61にリシンまたはアラニ
ン置換を有する完全長または先端切除ヒトサイクリンG1タンパク質である。
【0029】
突然変異サイクリンG1タンパク質は、当業界における熟練者には公知の技術
により製造され得る。例えば、突然変異サイクリンG1タンパク質は、自動ペプ
チドまたはタンパク質合成装置により製造され得る。別法として、突然変異サイ
クリンG1タンパク質は、遺伝子工学技術により製造され得る。
【0030】
一態様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は、突然変異サイクリン
G1タンパク質をコード化する遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドの送達によ
り、病的状態または疾患を発現している動物または細胞、組織または臓器に直接
投与される。好ましくは、ポリヌクレオチドは、適当な発現ビークルを含む。
【0031】
ここで使用されている「ポリヌクレオチド」の語は、あらゆる長さのヌクレオ
チドのポリマー形態を意味し、リボヌクレオチド類およびデオキシリボヌクレオ
チド類を包含する。上記の語はまた、1本および2本鎖DNA、並びに1本およ
び2本鎖RNAを包含する。この語はまた、修飾ポリヌクレオチド、例えばメチ
ル化またはキャップポリヌクレオチド類を包含する。
【0032】
突然変異サイクリンG1タンパク質をコード化する遺伝子構築物は、適当なプ
ロモーターを機能し得るように随伴した突然変異サイクリンG1タンパク質をコ
ード化する配列を含む。本発明によると、適当なプロモーターは、処置動物にお
いて活性を示すものであればいずれのものでもよい。好ましい態様において、プ
ロモーターは、異常増殖している細胞において高い活性を呈するか、および/ま
たはそれに特異的なものである。しかしながら、本発明の範囲は特異的プロモー
ターに限定されるわけではないものと理解すべきである。一実施態様においては
、プロモーターはサイクリンG1プロモーターである。突然変異サイクリンG1
タンパク質をコード化する配列は、所望の突然変異(複数も可)を有する天然サイ
クリンG1遺伝子配列または突然変異サイクリンG1タンパク質をコード化する
合成配列を含み得る。
【0033】
好ましい態様において、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌク
レオチドは、異常増殖している細胞へ形質導入されている適当な発現ビークルに
含まれている。上記発現ビークルには、プラスミド、真核生物ベクター、原核生
物ベクター(例えば、細菌性ベクター)およびウイルス性ベクターがあるが、これ
らに限定されるわけではない。
【0034】
一態様において、ベクターはウイルス性ベクターである。使用され得るウイル
ス性ベクターには、RNAウイルスベクター(例えばレトロウイルスベクター)お
よびDNAウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウ
イルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクタ
ー)が含まれる。ベクターの構築においてRNAウイルスベクターが使用される
とき、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドはRNAの
形態である。ベクターの構築においてDNAウイルスベクターが使用されるとき
、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドはDNAの形態
である。
【0035】
一態様において、ウイルスベクターはレトロウイルスベクターである。使用さ
れ得るレトロウイルスベクターの例には、モロニーネズミ白血病ウイルス、脾臓
壊死ウイルス、およびレトロウイルス、例えばラウス肉腫ウイルス、ハーヴェイ
肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルスおよび乳腺癌ウイ
ルスから誘導されたベクターがあるが、これらに限定されるわけではない。ベク
ターは一般的に複製能の無いレトロウイルス粒子である。本発明の意味の中に含
まれるレトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、例えばHIVウイ
ルスまたは動物レンチウイルスに基いたベクター、例えばBIVベースのベクタ
ーを包含する。レンチウイルスベクターの構築は、特に米国特許番号56655
777、5994136および6013516に開示されており、出典明示によ
り本明細書の一部とする。
【0036】
一態様において、レトロウイルスベクターは、モロニーネズミ白血病ウイルス
から誘導され、LN系列のベクターに属するレトロウイルスプラスミドベクター
から作製され得、これらについてはBenderら、J.Virol.、第61巻、163
9−649頁(1987)およびMillerら、Biotechniques、第7巻、980−
990頁(1989)にさらに記載されている。上記ベクターは、マウス肉腫ウイ
ルスから誘導されたパッケージングシグナルの一部および突然変異gag開始コド
ンを有する。ここで使用されている「突然変異」の語は、gagタンパク質または
そのフラグメントまたは先端切除形態が発現されないようにgag開始コドンが欠
失または改変されていることを意味する。
【0037】
別の態様において、レトロウイルスプラスミドベクターは、少なくとも4つの
クローニングまたは制限酵素認識部位を含み得、部位の少なくとも2つは真核生
物遺伝子における平均出現頻度が10000塩基対において1回未満である、す
なわち制限産物は少なくとも10000塩基対の平均DNAサイズを有する。好
ましいクローニング部位は、NotI、SnaBI、SalIおよびXhoIから成る群
から選択される。好ましい態様において、レトロウイルスプラスミドベクターは
、これらのクローニング部位の各々を含む。上記ベクターについては、米国特許
第5672510号にさらに記載されており、出典明示により本明細書の一部と
する。
【0038】
上記クローニング部位を含むレトロウイルスプラスミドベクターを使用すると
き、レトロウイルスプラスミドベクターにあるNotI、SnaBI、SalIおよび
XhoIから成る群から選択された少なくとも2つのクローニング部位と適合し得
る少なくとも2つのクローニング部位を含むシャトルクローニングベクターが提
供され得る。シャトルクローニングベクターはまた、シャトルクローニングベク
ターからレトロウイルスプラスミドベクターへ移入され得る突然変異体サイクリ
ンG1タンパク質をコード化するポリヌクレオチドを含む。
【0039】
シャトルクローニングベクターは、クローニングまたは制限酵素認識部位を含
む1個またはそれ以上のリンカーに連結されている基本的「バックボーン」ベク
ターまたはフラグメントから構築され得る。上述された適合性または相補的クロ
ーニング部位もクローニング部位に含まれる。突然変異サイクリンG1タンパク
質をコード化するポリヌクレオチドおよび/またはシャトルベクターの制限部位
に対応する末端を有するプロモーターは、当業界公知の技術を通じてシャトルベ
クターへ連結され得る。
【0040】
シャトルクローニングベクターは、原核生物系におけるDNA配列の増幅に使
用され得る。シャトルクローニングベクターは、原核生物系および特に細菌で常
用されるプラスミドから製造され得る。すなわち、例えば、シャトルクローニン
グベクターは、プラスミド、例えばpBR322、pUC18などから誘導され得
る。
【0041】
レトロウイルスプラスミドベクターは、突然変異サイクリンG1タンパク質コ
ーディング配列を発現させるためのプロモーターを含み得る。使用され得る適当
なプロモーターには、レトロウイルスLTR、SV40プロモーター、およびM
illerら、Biotechniques、第7巻、9号、980−990(1989)に記載さ
れたヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、または他のいずれかのプ
ロモーター(例、細胞性プロモーター、例えば真核生物細胞性プロモーター、例
えば限定されるわけではないが、ヒストン、polIII、サイクリンG1、およびβ
−アクチンプロモーター)があるが、これらに限定されるわけではない。使用さ
れ得る他のウイルスプロモーターには、アデノウイルスプロモーター、TKプロ
モーター、およびB19パルボウイルスプロモーターがあるが、これらに限定さ
れるわけではない。適当なプロモーターの選択は、本明細書に含まれている教示
内容から当業界の熟練者には明白なものである。
【0042】
突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドを含むレトロウ
イルスプラスミドベクターは、gag、polおよびenvレトロウイルスタンパク質を
コード化する核酸配列を含むパッケージングセルラインへ形質導入される。上記
パッケージングセルラインの例としては、PE501、PA317(ATCC番
号CRL9078)、Ψ−2、Ψ−AM、PA12、T19−14X、VT−1
9−17−H2、ΨCRE、ΨCRIP、GP+E−86、GP+envAm12お
よびDANセルライン(Miller、Human Gene Therapy、第1巻、5−14
頁(1990)に記載、出典明示により本明細書の一部とする)、または293T
セルライン(米国特許第5952225号)があるが、これらに限定されるわけで
はない。ベクターは、当業界公知のいずれかの手段を通じてパッケージング細胞
に形質導入し得る。上記手段には、電気穿孔、リポソームの使用およびCaPO
沈澱があるが、これらに限定されるわけではない。上記プロデューサー細胞は
、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドを含む感染性レ
トロウイルスベクター粒子を生成する。
【0043】
別法として、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチド、
非レトロウイルスペプチド不含有の第1レトロウイルスエンベロープタンパク質
(一態様では、野生型レトロウイルスエンベロープタンパク質であり得る)、およ
び修飾レトロウイルスエンベロープタンパク質、または野生型レトロウイルスエ
ンベロープタンパク質のアミノ酸残基が除去され、所望の分子に結合するターゲ
ッティングタンパク質またはペプチド、例えば細胞性受容体または細胞外成分、
例えば細胞外マトリックス成分により置換された「エスコート」タンパク質を含
むレトロウイルスベクター粒子が生成され得る。ターゲッティングタンパク質ま
たはポリペプチドが結合し得る細胞外マトリックス成分の例には、コラーゲンが
あるがこれに限定されるわけではない。
【0044】
かかるレトロウイルスベクター粒子は、突然変異サイクリンG1タンパク質を
コード化するポリヌクレオチドを含むレトロウイルスプラスミドベクター、およ
び修飾レトロウイルスエンベロープペプチドをコード化するポリヌクレオチドを
含む、適当な発現ビークル、例えばプラスミドによりパッケージング細胞、例え
ば上記のものへ形質導入することにより生成され得る。次いで、生成したプロデ
ューサー細胞は、非レトロウイルスペプチド不含有の第1レトロウイルスエンベ
ロープタンパク質、修飾レトロウイルスエンベロープタンパク質、および突然変
異サイクリンG1タンパク質をコード化するポリヌクレオチドを含む感染性レト
ロウイルスベクター粒子を生産する。
【0045】
別の方法では、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチド
を含むレトロウイルスプラスミドベクターは、gagおよびpolレトロウイルスタン
パク質をコード化するポリヌクレオチド、非レトロウイルスペプチド不含有の第
1レトロウイルスエンベロープタンパク質をコード化するポリヌクレオチド、お
よび修飾レトロウイルスエンベロープタンパク質をコード化するポリヌクレオチ
ドを含むパッケージング細胞へ形質導入される。生成したプロデューサー細胞は
、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチド、非レトロウイ
ルスペプチド不含有の第1レトロウイルスエンベロープタンパク質および修飾レ
トロウイルスエンベロープタンパク質を含むレトロウイルスベクター粒子を生産
する。
【0046】
レトロウイルスベクター粒子は、異常増殖している細胞を阻害、防止または破
壊するのに有効な量で罹患動物に投与される。本発明の範囲は理論的推論に限定
されるわけではないが、突然変異サイクリンG1タンパク質が天然サイクリンG
1タンパク質とそのサイクリン依存的キナーゼ結合相手に関して競争することに
より、細胞分裂の推進における天然サイクリンG1タンパク質の機能が阻止され
ると考えられる。レトロウイルスベクター粒子の投与は、全身投与により、例え
ば静脈内、動脈内または腹腔内投与により、または腫瘍でのレトロウイルスベク
ターの直接注射により行われ得る。一般的に、レトロウイルスベクターは、少な
くとも10cfu/mlの量で投与され、一般に上記の量は1011cfu/mlを越え
ない。好ましくは、レトロウイルスベクターは、約10cfu/ml〜約10cfu
/mlの量で投与される。投与すべき正確な用量は、処置される動物または患者の
年齢、体重および性別、並びに処置されている病的組織(腫瘍または臓器)のサイ
ズおよび重症度を含む様々な因子により変化する。
【0047】
レトロウイルスベクターはまた、許容し得る医薬用担体、例えば食塩水溶液、
プロタミンスルフェート(エルキンス‐シン、インコーポレイテッド、チェリー
・ヒル、ニュージャージー)、水、水性緩衝液、例えば燐酸緩衝液およびトリス
緩衝液、またはポリブレン(シグマ・ケミカル、セントルイス、ミズーリ)と共に
投与され得る。適当な医薬用担体の選択は、本明細書に含まれている教示内容か
ら当業界の熟練者にとっては明白なものであると思われる。
【0048】
従って、本発明はまた、特に腫瘍および癌の処置を目的とする、突然変異サイ
クリンG1タンパク質の医薬における用途、突然変異サイクリンG1タンパク質
をコード化する遺伝子構築物の用途および本発明の上記遺伝子構築物を含む発現
ビークルの用途を提供する。
【0049】
さらに、疾患、例えば腫瘍および癌処置用医薬の製造を目的とする、突然変異
サイクリンG1タンパク質の用途、突然変異サイクリンG1タンパク質をコード
化する遺伝子構築物の用途および本発明の上記遺伝子構築物を含む発現ビークル
の用途が、本発明により提供される。
【0050】
別の態様において、上記レトロウイルスベクター、または突然変異サイクリン
G1タンパク質をコード化するポリヌクレオチドは、リポソーム内に封入され得
る。レトロウイルスベクターまたは突然変異サイクリンG1タンパク質をコード
化するポリヌクレオチドを封入しているリポソームは、上記の医薬用担体と共に
宿主に投与され得る。
【0051】
別の態様において、突然変異サイクリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオ
チドを含む、レトロウイルスプロデューサー細胞、例えば上記のパッケージング
セルラインに由来するものは、動物に投与され得る。上記プロデューサー細胞は
、一態様において、病的組織または臓器に極めて近位の箇所で全身的に(例、静
脈内または動脈内により)投与され得るか、またはプロデューサー細胞は病的組
織または臓器に直接投与され得る。次いで、プロデューサーセルラインは、イン
ビボで突然変異G1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドを含むレトロウイルス
ベクターを生産し、次いでその結果上記レトロウイルスベクターは病的組織また
は臓器の異常増殖中の細胞へ形質導入する。
【0052】
本発明に従い処置され得る病的状態および疾患には、非悪性および悪性または
癌性腫瘍が含まれる。処置され得る癌性腫瘍には、骨原性肉腫およびユーイング
肉腫およびサイクリンG1が発現される他の腫瘍性疾患、例えば神経膠芽細胞腫
、神経芽細胞腫、乳癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫(ホジキンおよび非ホジキ
ンリンパ腫を含む)、線維肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、肝癌、例えば肝
細胞癌および腺癌があるが、これらに限定はされない。
【0053】
上記腫瘍処置はまた、腫瘍の他の処置、例えば(i)放射線、(ii)化学療法、ま
たは(iii)負の選択マーカー、例えばウイルス性チミジンキナーゼ遺伝子をコー
ド化するポリヌクレオチドによる腫瘍細胞の形質導入後の、相互作用剤、例えば
負の選択マーカーをコード化するポリヌクレオチドにより形質導入された細胞を
殺すガンシクロビルの投与と組合わせて使用され得る。
【0054】
一態様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は、上記方法の一つに従
い宿主に投与される。薬剤を含む腫瘍細胞の増殖は阻害、防止または破壊される
。さらに、腫瘍細胞は、負の選択マーカーまたは「自殺」遺伝子をコード化する
ポリヌクレオチドにより形質導入される。負の選択マーカーをコード化するポリ
ヌクレオチドは、発現ビークル、例えば上記のものに含まれ得る。一旦腫瘍細胞
が負の選択マーカーをコード化するポリヌクレオチドにより形質導入されると、
相互作用剤が宿主に投与され、そこで相互作用剤が負の選択マーカーと相互作用
することにより、腫瘍細胞の増殖が阻害、防止または破壊され得る。
【0055】
使用され得る負の選択マーカーには、チミジンキナーゼ、例えば単純疱疹ウイ
ルスチミジンキナーゼ、サイトメガロウイルスチミジンキナーゼ、および水痘−
帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ、およびシトシンデアミナーゼがあるが、こ
れらに限定されるわけではない。
【0056】
一態様において、負の選択マーカーは、単純疱疹チミジンキナーゼ、サイトメ
ガロウイルスチミジンキナーゼ、および水痘−帯状疱疹ウイルスチミジンキナー
ゼから成る群から選択されたウイルス性チミジンキナーゼである。上記ウイルス
性チミジンキナーゼが使用されるとき、相互作用または化学療法薬剤は、好まし
くはヌクレオシド類似体、例えばガンシクロビル、アシクロビルおよび1−2−
デオキシ−2−フルオロ−β−D−アラビノフラノシル−5−ヨードウラシル(
FIAU)から成る群から選択されるものである。上記相互作用剤は、基質とし
てウイルス性チミジンキナーゼにより有効に利用され、すなわち上記相互作用剤
がウイルス性チミジンキナーゼを発現する腫瘍細胞のDNAへ致死的に組込まれ
ることにより、腫瘍細胞の死が誘発される。
【0057】
別の態様において、負の選択マーカーは、シトシンデアミナーゼである。シト
シンデアミナーゼが負の選択マーカーであるとき、好ましい相互作用剤は5−フ
ルオロシトシンである。シトシンデアミナーゼは、5−フルオロシトシンを高度
細胞傷害性の5−フルオロウラシルに変換する。すなわち、シトシンデアミナー
ゼ遺伝子を発現する腫瘍細胞は5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシルに
変換し、殺される。
【0058】
相互作用剤は、形質導入腫瘍細胞の増殖を阻害、防止または破壊するのに有効
な量で投与される。例えば、相互作用剤は、患者に対する全体的毒性により、5
mg〜10mg/kg(体重)の量で投与され得る。相互作用剤は、好ましくは全身投与
、例えば静脈内投与、非経口投与、腹腔内投与または筋肉内投与される。
【0059】
負の選択マーカーを含む発現ビークル、例えば上述のものが腫瘍細胞に投与さ
れるとき、「傍観者効果」が誘発され得る、すなわち、もともと負の選択マーカ
ーをコード化する核酸配列により形質導入されてはいない腫瘍細胞は相互作用剤
投与後に殺され得る。出願者らはいかなる理論的推論にも制限されるつもりは無
いが、形質導入腫瘍細胞は、相互作用剤に対して細胞外で作用するか、または隣
接する非形質導入腫瘍細胞に吸収され、次いで相互作用剤の作用に対して感受性
になる負の選択マーカーの拡散性形態を生産することになり得る。また、負の選
択マーカーおよび相互作用剤の一方または両方が腫瘍細胞間で通じ合うことも可
能である。
【0060】
突然変異サイクリンG1タンパク質はまた、侵襲性血管手術、例えば血管形成
術、血管移植、例えば動脈移植、または冠動脈バイパス手術後の血管再狭窄の予
防に使用され得る。すなわち、本発明の別の態様によると、動物、または侵襲性
血管手術または血管病変部位に突然変異サイクリンG1タンパク質を投与するこ
とを含む再狭窄の予防方法が提供される。突然変異サイクリンG1タンパク質は
、動物において再狭窄を予防するのに有効な量で投与される。突然変異サイクリ
ンG1タンパク質は、侵襲性血管手術中または後に投与され得る。ここで使用さ
れている「侵襲性血管手術」の語は、限定的ではないが動脈および静脈を含む血
管系の一部の修復、切除、置換および/または再血管方向づけ(例、バイパスま
たはシャント)を含むあらゆる手術を包含する。上記手術には、血管形成術、血
管移植、例えば動脈移植、血餅の除去、動脈または静脈の一部切除、および冠動
脈バイパス手術があるが、これらに限定されるわけではない。
【0061】
好ましい態様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は、突然変異サイ
クリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドにより侵襲性血管手術または血
管病変部位の血管細胞へ形質導入することにより動物に投与される。上記ポリヌ
クレオチドは、上記の通り適当な発現ビークルに含まれ得、侵襲性血管手術また
は血管病変部位の細胞へ形質導入される。一態様において、発現ビークルは、ウ
イルス性ベクター、例えば上述のものである。一態様において、ウイルス性ベク
ターは、レトロウイルスベクターであり、上記と同様であり得る。
【0062】
レトロウイルスベクターが使用されるとき、上記レトロウイルスベクターは、
上記の量で投与され、血管内投与される。一態様において、レトロウイルスベク
ターは、侵襲性血管手術または血管病変部位に投与される。ベクターが侵襲性血
管手術または血管病変部位の血管細胞へ形質導入することにより、突然変異サイ
クリンG1タンパク質が上記細胞で生産され、それによって天然サイクリンG1
タンパク質の機能が阻害されるため、上記細胞の増殖を阻止することにより再狭
窄が予防される。
【0063】
この方法は、限定するわけではないが、心臓血管形成術、動脈移植および冠動
脈バイパス手術を含む様々な侵襲性血管手術後における再狭窄の阻止および処置
並びに血管病変の阻止または処置に適用可能である。この方法はまた、限定する
わけではないが、大腿、頚または腎動脈、特に腎臓透析フィステルに伴う腎動脈
の病変を含む、血管病変の阻止および処置に適用される。
【0064】
突然変異サイクリンG1タンパク質はまた、多くの場合角膜実質細胞の増殖に
より誘発される、角膜ヘーズ(曇り)または角膜混濁の予防および/または処置、
並びに白内障の処置および/または予防で使用され得る。すなわち、本発明の別
の態様によると、角膜ヘーズおよび/または白内障の予防または処置方法であっ
て、突然変異サイクリンG1タンパク質を罹患動物または患部の目に直接投与す
ることを含む方法が提供される。突然変異サイクリンG1タンパク質は、動物に
おける角膜ヘーズまたは白内障の予防または処置に有効な量で投与される。
【0065】
好ましい態様において、突然変異サイクリンG1タンパク質は、突然変異サイ
クリンG1遺伝子構築物を含むポリヌクレオチドによる眼の細胞の形質導入によ
り、動物に投与される。上記ポリヌクレオチドは、上記の通り適当な発現ビーク
ルに含まれ得る。発現ビークルは、眼の細胞へ形質導入される。一態様において
、発現ビークルは、上記のウイルス性ベクターである。一態様において、ウイル
ス性ベクターはレトロウイルスベクターであり、上記のものと同じであり得る。
【0066】
レトロウイルスベクターが使用されるとき、上記レトロウイルスベクターは、
体重70kgまたはそれ以上の成人の場合一用量当たり血液量の約10%、または
約500ml〜約1000mlの量で全身(静脈内または動脈内)投与され得る。レト
ロウイルスベクターはまた、例えば点眼液形態で眼に局所投与され得る。レトロ
ウイルスベクターはまた眼内投与され得る。ベクターは、眼の細胞、例えば角膜
実質細胞および/または水晶体上皮細胞へ形質導入することにより、天然サイク
リンG1タンパク質の機能を阻害し、そうして角膜実質細胞または水晶体上皮細
胞の増殖を阻止することにより角膜ヘーズまたは白内障を予防または処置する。
【実施例】
【0067】
(実施例)
実施例に関して本発明の記載を行うが、本発明の範囲はそれによって制限され
るわけではないものとする。
実施例1:癌細胞における突然変異サイクリンG1タンパク質の殺細胞および
細胞増殖抑制(cystostatic)効果。
(材料および方法)
細胞、細胞培養条件、マーカーおよび細胞周期制御遺伝子を担うプラスミドお
よびベクター。NIH3T3、293Tおよびヒト膵臓癌MiaPaca2細胞はA
TCCにより供給された。NIH3T3および293T細胞は、10%胎児ウシ
血清(D10;バイオウィッテイカー)を補ったダルベッコ修飾イーグル培地で維
持された。ウイルス性gag pol遺伝子を含むプラスミドpcgp、および核標的β−ガラクトシダーゼ構築物を発現するレトロウイルスベクターpcnBgは、それぞれパウラ・キャノン(Paula Cannon)およびリン・リー(Ling Li)両博士のご厚意により提供された(USCジーン・セラピー・ラボラトリーズ、ロスアンゼルス、カリフォルニア)。水疱性口内炎ウイルスG(VSVG)envタンパク質を含むプラスミドは、テオドア・フリードマン(Theodore Friedmann)博士のご厚意により提供された(ユニバーシティー・オブ・カリフォルニア、サンディエゴ、カリフォルニア)。先端切除(a.a.41−249)サイクリンG1(dnG1)構築物は、レトロウイルス発現ベクターpREXにクローン化された。
【0068】
突然変異体サイクリンG1構築物を担うマトリックス標的レトロウイルスベク
ターの製造。パッケージング成分gag−pol、およびCMVプロモーターから発現
されたフォンビルブラント因子誘導コラーゲン結合性(マトリックス−ターゲッ
ティング)モチーフを担うキメラMLVベースのenvが別々のプラスミドに配置さ
れ、各々SV40複製起点を含む、一時的3または4プラスミド同時トランスフ
ェクションシステム(Soneokaら、Nucl.Acids Res.、628−633頁(1
995))を用いて、高力価ベクターを製造した。WTenvを伴わずに発現された
ベクターは、Bv1またはHs2と命名された(Bv=ウシvWFに由来、Hs=ヒト
vWFに由来、LFまたは1=天然vWF配列から誘導されたリンカー;LSまた
は2=標準リンカー)。ウイルス力価をさらに高めるため、融合誘導性VSVGe
nvタンパク質(Yeeら、Methods Cell Biol.、第43巻、99−112頁(
1994))が、4プラスミド同時トランスフェクションプロトコルにおいてBv
1またはHs2envタンパク質と共に発現された。
【0069】
ネズミNIH3T3細胞におけるウイルス力価は、β−ガラクトシダーゼまた
はネオマイシンホスホトランスフェラーゼ耐性、neor遺伝子の発現に基き前記要
領で測定された(Skotzkoら、Cancer Res.、第55巻、5493−5498(
1995))。ウイルス力価は、G418耐性コロニー形成単位(cfu)/mlの数と
して表され、トランスフェクションプロトコルで使用されたプラスミドDNAの
性質および量により、10〜10cfu/mlの範囲で変化した。
【0070】
インビトロ効率試験。dnG1ベクターの殺細胞/細胞増殖抑制効果を評価する
ため、G418選択を伴わない形質導入後連続間隔(4日以下)で各培養において
生存できる細胞の数を数えることにより、増殖可能性について形質導入細胞を評
価した。内在性および突然変異体サイクリンG1タンパク質発現のウエスタン分
析は、前記要領(Skotzkoら、1995)で遂行された。
【0071】
インビボ効率試験は、ユニバーシティー・オブ・サザーンカリフォルニア・イ
ンスティテューション・アニマル・ケア・アンド・ユース・コミッティーにより
是認されたプロトコルに従って行なわれた。インビボでのdnG1ベクター処置の
抗腫瘍効果に基いた標的遺伝子送達の効率を評価するため、ヒト結腸癌の転移経
路をシミュレーションする肝臓転移モデルをヌードマウスで確立した。簡単に述
べると、14日間定位置に設置した内在型カテーテルにより、7×10腫瘍細
胞をゆっくりと門脈へ注入した。低または高用量dnG1ベクター(力価:200
μl/日で3×10または9×10cfu/ml)または等量の燐酸緩衝食塩水(P
BS、pH7.4)のカテーテル内注入を3日後に開始し、全部で9日間続行した
。処置完了の1日後頚部脱臼によりマウスを殺した。
【0072】
組織学的および形態計測分析。肝臓葉を切除し、10%ホルマリンに固定し、
右および尾状葉にはA、左葉にはBおよび中葉にはCと標識し、別々に処理して
、パラフィンブロックに埋封した。dnG1ベクター処置の抗腫瘍効果は、次の要
領で評価された。HおよびE染色組織薄片を光学顕微鏡により調べ、代表的肝臓
部分およびA、BおよびC葉からの腫瘍フォーカスの表面領域を、オプティマス
画像分析システムを用いた形態計測分析により測定した。レトロウイルスの安全
性の評価は、肝臓構造の完全性の評価、肝細胞腫大または壊死、炎症性浸潤、胆
汁うっ滞および/または血栓症の存在に関する検査を含んでいた。また、組織薄
片をサイトケラチン、ヒトサイクリンG1、アポトーシス、PAS、ビメンチン
およびCD68に関して免疫染色した。
【0073】
統計分析。インビボ効率試験のために、3処置群を比較した:低用量Bv1/d
nG1(力価:3×10cfu/ml)、高用量Hs2/VSVG/dnG1(力価:9.
5×10cfu/ml)およびPBS対照。ヌルベクターは、インビトロ殺細胞活性
の不存在に基いたインビボ試験については使用されず、その後ヌルベクターは結
局臨床試験でも使用されない。最初に、8匹のマウスを試験した。4匹を高用量
dnG1ベクターで処置し、そして4匹をPBSで処置した。それに続いて、4匹
の追加マウスを低用量dnG1ベクターで処置した。応答変数、肝臓の総表面積(
S.A.)、腫瘍の総S.A.、腫瘍S.A.対肝臓S.A.比、および平均S.A.腫瘍
フォーカスを、形式分析前に対数変換した。反復測定因子として葉を用いた反復
測定分析を用いて、この処置が応答変数の各々に対する効果を有したか否かを測
定した。また、ペアワイズ比較をアウトカム変数に関して遂行し、群間では全体
的p−値<0.05であった。
【0074】
(結果)
突然変異体ヒトサイクリンG1(dnG1)は、サイクリンボックスにおける欠失
、Cdk活性化を誘導するサイクリン−Cdk結合を部分的に決定するサイクリン間
の保存領域により作製された。予備試験は、dnG1が血管平滑筋細胞において抗
増殖特性を呈することを立証した。それらの発見は、dnG1が野生型サイクリン
G1の機能を阻害すべく、または標的Cdk分子との不活性複合体を形成すべく作
用し得ることを示唆している。このため、一連の殺細胞性突然変異体サイクリン
G1構築物の性能をインビトロで試験することにより、さらなるインビボ試験に
最適な構築物を決定した。
【0075】
膵臓に由来するヒト未分化癌セルラインを、転移性胃腸癌の始原型として選択
した。これらの癌細胞におけるレトロウイルス形質導入効率は優秀であり、感染
多重度により26%〜85%の範囲に及んだ(それぞれ4および250、図1A)
。最適な治療遺伝子を選択するため、様々なサイクリンG1構築物を担うベクタ
ーを用いて細胞増殖試験を形質導入細胞で行った。図1Bは、形質導入癌細胞に
おける突然変異体およびアンチセンスサイクリンG1レトロウイルスベクターの
殺細胞/細胞増殖抑制効果を示す。標準条件下では、dnG1ベクターは、一貫し
て最大の抗増殖効果を呈し、dnG1タンパク質を表す20kDa領域における免疫
反応性サイクリンG1の出現を伴った(図1C)。これらの結果に基づき、dnG1
ベクターは、後続のインビボ効率試験用に選択された。
【0076】
PBSまたは低用量dnG1ベクターで処置されたマウスからの転移性腫瘍フォ
ーカスの組織学的および免疫細胞化学的評価を遂行し、オプティマスイメージン
グシステムにより評価した。PBS処置動物(図2A)、およびdnG1ベクター処
置動物の残留腫瘍フォーカス(図2B)での高いサイクリンG1核免疫反応性(褐
色染色物質)により証明されたように、図2は、ヒトサイクリンG1タンパク質
が転移性腫瘍フォーカスで高度発現されることを示す。対照動物からの肝臓薄片
の組織学的試験は、血管形成および支質形成の付随領域を伴うかなりの腫瘍フォ
ーカスを表しており(図3AおよびC)、上皮成分はサイトケラチンについて陽性
染色し、付随した腫瘍支質/内皮細胞はビメンチンおよびFLK受容体について
陽性染色した(図示せず)。対照的に、低用量dnG1処置動物における腫瘍フォー
カスの平均サイズはPBS対照と比べて顕著に低減化され(図3BおよびD、矢
印により示されている、p=0.001)、同時にPBS対照群(図3E)と比べて
アポトーシス核の密度における焦点増加を表した(図3FおよびH、矢印により
示されている)。さらに、PAS+、CD68+およびヘモシデリン‐積載マク
ロファージによる浸潤(図3D、矢印により示されている)が、dnG1ベクター処
置動物の残留腫瘍フォーカスで観察されたことから、肝臓細網内皮系による変性
している腫瘍細胞および腫瘍屑の能動的クリアランスが示唆された。
【0077】
腫瘍フォーカスの形態計測分析は、高用量マトリックス標的dnG1ベクターの
門脈注入(内在型カテーテルによる)が、全応答変数に基いた対照動物の場合と比
べたとき腫瘍フォーカスサイズの劇的な低減化を誘発する(p<.005、表1)と
いう点で、治療遺伝子送達に関するターゲッティング戦略が有効であることを確
認した。3アウトカム変数に関するペアワイズ比較では、dnG1ベクター処置に
対する用量依存的腫瘍応答が明白であり、腫瘍縮小対腫瘍フォーカスの完全消滅
に関して様々なベクター用量に対するより良い腫瘍応答性を測定し、I/II期遺
伝子療法試験において所望の腫瘍応答を達成し得る最少有効ベクター用量を予測
するための追加試験は現在進行中である。重要なことに、肝細胞損傷、壊死、血
栓症または胆汁うっ滞の証拠は、dnG1ベクター処置動物からの組織薄片からは
全く検出されなかったことから、マトリックス標的dnG1ベクター(累積用量:
10〜10cfu)が広く余裕のある安全性を有し得ることが示された。
【0078】
(検討)
インビボ効率および安全性試験は、肝臓転移の特有なヌードマウスモデルで行
われ、(i)対照動物の場合と比べてdnG1ベクター処置マウスにおける腫瘍フォ
ーカスサイズの統計的に有意な低減化により証明されたように、治療遺伝子送達
が、殺細胞性突然変異体サイクリンG1構築物を担うマトリックス標的レトロウ
イルスベクターの反復門脈注入(内在型カテーテルによる)により達成され得るこ
と、および(ii)付随する肝細胞壊死、血栓症または胆汁うっ滞の不存在により示
されたように、マトリックス標的dnG1ベクターが広く余裕のある安全性を伴っ
て全身投与され得るという原理の証拠を確立した。まとめて考え合わせると、こ
れらの発見は、転移性癌に対する標的注射可能遺伝子治療ベクターの開発に向け
た明確な進歩を表している。
【0079】
実施例2 細胞致死性サイクリンG1構築物を有するマトリックス・ターゲッ
テッド・レトロウイルスベクターの内腔内注入による、バルーン損傷ラット動脈
における新生内膜形成の長期阻害
この実施例はラット血管再狭窄モデルにおける変異サイクリンG1タンパク質
による新生内膜形成の阻害を証明する。
【0080】
材料および方法
細胞および細胞培養条件 ラット大動脈平滑筋A10細胞(ATCC CRL1
476)を、密集前の単層として20%ウシ胎児血清(FBS)を添加した血清ダ
ルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco BRL)中で維持した。マウス胚
NIH 3T3細胞(ATC CRL 1658)、ヒト293T細胞胎児腎臓2
93細胞(厚意により、Dr. Michele Galos,Stanford University, Pa
lo Alto, CAから提供)をSV40大型T抗原で形質転換し、ヒト膵臓腫瘍M
iaPaca2細胞(ATCC CRL 1420)を、10%FBS、ペニシリン、
およびストレプトマイシンを添加したDMEM中で同様に維持した。サル平滑筋
一次細胞を、バルーン損傷後7日に回収した左総頚動脈から、30%FBSを添
加したWilliams E培地(Gibco BRL)中の2mm動脈切片を培養することで
調製した。細胞が移動して組織培養ディッシュで接着単層細胞として増殖した後
に動脈切片を除去し、細胞をさらにWilliams E培地−20%FBS中で維持
した。マウスモノクローナル抗ヒトα平滑筋アクチン(DAKO)での免疫染色で
は、一次培養から回収した細胞の95%が平滑筋αアクチンに対して陽性であっ
た、これはその起源を示すものである。
【0081】
プラスミド構築物 アミノ酸41〜249をコードするサイクリンG1 cDN
Aの630bp C末端断片(ヌクレオチド121〜750)(Wu et al.,19
94)をはじめとするサイクリンG1変異構築物(図5参照)をPCRにより作製
し、TAベクター(Invitrogen)へクローニングし、シーケンシングにより確認
し、pG1XSvNaレトロウイルスベクター(Skotzko et al.,1995)に再
びクローニングした。pG1XsvNaおよび挿入サイクリンC1 cDNAからな
る成分配列をパッケージングするレトロウイルスを含む得られた構築物を消化す
ることでKpnI断片を得、pRV109(Soneoka,et al, 1995)ヘクロー
ニングしてSV40起源の複製物(ori)およびCMVプロモーターを含んだレト
ロウイルス発現プラスミドpG1DNT41〜249/REXを得た。
【0082】
gag、pol、envおよびb−ガラクトシダーゼタンパク質の発現プラスミド pcgpは
、MLV gagおよびpolを発現するCMV由来プラスミドである。pcnBgは、H
an, et al., J. Virol.,Vol. 71, pgs. 8103−8108 (19
77)に記載されているpG1XsvNa、次いでpRV109中での段階的構築によ
り作製したpREXレトロウイルスベクター中のβ−gal発現構築物である。pcgp
およびpcnBgは双方とも厚意によりDr. Paula Cannon (USC Gene
Therapy Laboratories,Los Angeles CA)から提供されたものであった
。プラスミドpCVGは、pCEE+のEcoRI断片(MacKrell,et al., J.
Virol,. Vol. 70,pgs. 1768−1779 (1996))を、VSV
−GをコードするcDNA(Yee,et a., 1994)を含有するpHCMV−Gの
EcoRI断片(Theodore Friedman,U. C. San Diegoから譲渡)で置換
して作出した水疱性口内炎ウイルスG糖タンパク質(VSV−G)を発現するCM
V由来プラスミドである。CAEPはマトリックス標的(すなわち、コラーゲン
結合ドメイン、CBD)モチーフを含む両種性4070A (CAE) MLV g
p70を発現するCMV由来プラスミドである。CAEPは、ヒト・フォン・ヴ
ィレブランド因子(Takagi,et al., J. Biol. Chem., Vol.266, pgs
, 5575−5579 (1991))由来の最小コラーゲン結合ドメイン(WRE
PGR[M]ELN)を、レトロウイルス外被タンパク質の、成熟タンパク質のN
末端ドメインへ導入した特有のPstIクローニング部位へ挿入して作製した。メ
チオニン残基(M)を最少CBD内の野生型システイン残基(C)の場所へ保存的に
挿入した(そうしなければ、キメラ外被タンパク質内の分子内ジスルフィド結合
の適切な形成が妨げられる)(データは示されていない)。
【0083】
レトロウイルスベクターの作製 ヒト293T細胞をトランスフェクションの前
日に3x10細胞/ディッシュの密度で10cm細胞培養ディッシュにプレーテ
ィングした。pcgp 15mg、pCVG 10mg、CAEP 5mgおよびpcnBgま
たはpG1DNT41〜249/REXのいずれか15mgを用い、リン酸カルシ
ウム/DNA共沈殿法(Soneoka, et al., 1995)によって一時的同時トラ
ンスフェクションを行った。トランスフェクション細胞を37℃で16時間イン
キュベートし、10mM酪酸ナトリウムを含有する培地6mlに移してウイルス粒
子の形成を促進させた。約10〜12時間後、産生細胞培養培地を新鮮培地8.
5mlと交換し、さらに24時間インキュベートしてベクター産生を行った。得ら
れたレトロウイルスの上清を回収し、0.45mMフィルターで濾過し、アリコー
トに分け、使用まで70℃で保存した。
【0084】
レトロウイルスベクター力価の決定 NIH 3T3細胞を形質導入の前日に2
.5x10細胞/ウェルの密度で6ウェル培養プレートにプレーティングした。
細胞の形質導入のため、8μg/mLポリブレンを含むレトロウイルス上清の連続
希釈物を細胞培養物に加えた後、37℃で2時間インキュベートし、新鮮培地2
mlを添加した。24時間後、細胞を800μg/mL G418を含有する新鮮培
地と交換し、この培地を3日毎に交換した。形質導入後10日目に10%ホルマ
リンで固定し、100%メタノール中の1%メチレンブルーで染色してG418
耐性コロニーを計数した。レトロウイルスベクターの力価は、生存コロニー総数
に個々の細胞培養に用いたレトロウイルス上清の希釈倍率を掛けることで求めた

【0085】
ラットA10細胞における形質導入効率の決定 A10 SMCを形質導入の前
日に3x10細胞/ウェルの密度で6ウェル培養プレートにプレーティングし
た。β−gal発現構築物および8mg/mLポリブレンを含むレトロウイルス上清の
連続希釈物を細胞に加えた。72時間後、細胞を2%ホルムアルデヒド、0.2
%グルタルアルデヒド中で固定し、4mMフェリシアン化カリウム、4mMフェロ
シアン化物、2mM MgClおよび400mg/mL X−galで染色した。青く
染まった核を示す細胞の割合によって形質導入効率を求めた。
【0086】
ベクターにより形質導入した細胞培養物における細胞増殖アッセイ A10細胞
を1.4x10細胞/ウェルの密度で12ウェル培養ディッシュにプレーティン
グした。接着させ、一晩インキュベートした後、8μg/mLポリブレンを含むレ
トロウイルス上清それぞれ0.5ml中、37℃で2時間、細胞をインキュベート
し、次いで新鮮培地1mLを加えた。細胞の形質導入後連日、各処置群(3反復で
調製)の生存細胞数を測定した。サルSMCおよびMiaPaca2細胞を、3x10
細胞/ウェルの密度で24ウェル培養プレートに同様にプレーティングした。
上記の通り、細胞を8μg/mLポリブレンを含むレトロウイルス上清0.2mlと
ともにインキュベートし、2時間後、新鮮培地0.5mlを加え、連日、細胞培養
物を回収して生存細胞数を測定した。
【0087】
抗体の作製および精製 特異的抗サイクリンG1抗体を作製するため、ヒトサイ
クリンG1のC末端の端にある18残基を表す合成ペプチド([C]KHSYYR
ITHLPTIPEMVP)を合成し、キーホールリンペットヘモシアニン(KL
H)と共役させ、ウサギで免疫原として用いてポリクローナル抗体を作製した。
システイン残基[C]をペプチドのN末端に付加してKLHとの単一部位の結合容
易にした。免疫ウサギ血清由来のポリクローナル抗サイクリンG1抗体を以下の
ようにアフィニティークロマトグラフィーでさらに精製した:濾過したウサギ血
清を、サイクリンG1免疫ペプチドを共有結合的させたAffi−Gel 10カラ
ム(Bio−Rad)に添加した。十分洗浄した後、結合抗体を溶出バッファー(0.1
mMグリシン、pH2.7)から回収し、PBS中1M Tris HCl(pH8.0)で
1:10希釈することで中和した。アフィニティー精製された抗サイクリンG1
抗体を含有するピーク画分をプールし、使用まで−70℃で保存した。
【0088】
ウェスタンブロット解析 形質導入細胞由来の界面活性剤溶解物として得た約1
5mgの可溶性タンパク質をSDS−PAGEにより分離した。次いでこのゲルを
Tris−グリシンバッファー系(25mM Tris HCl、pH8.3、192mMグ
リシン、15%メタノール)を用いて、フッ化ポリビニリデン(PVDF)メンブ
ラン(Millipore)に室温にて120mAで1.5時間移した。このメンブランをP
BS中3%ウシアルブミンでブロックし、1時間後に、ウェスタンブロット法バ
ッファー(1%BSA、PBS中0.05%TWEEN−20、pH7.4)中に希
釈した一次抗体とともに30分間インキュベートした。メンブランをPBSで3
回洗浄した後、アルカリ性ホスファターゼ共役2次抗体とともに30分間インキ
ュベートした。さらにPBSで3回洗浄した後、不溶性の反応生成物を、基質バ
ッファー(100mM Tris HCl pH9.5、100mM NaClおよび5mM
MgCl)中の0.25mg/mL 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリ
ン酸(BCIP)および0.5mg/mLニトロブルーテトラゾリウム(NBT)の存在
下で顕色させた。
【0089】
血管再狭窄のラット頚動脈損傷モデルにおけるサイクリンG1変異構築物のレト
ロウイルスを介した導入 全身麻酔(ケタミン100mg/Kg、ロンプン 10mg
/Kg)下で、USC Institutional Animal Care and Use Committe
e(LACUC)により承認された遺伝子療法プロトコールに従い、2F Intima
x動脈塞栓摘出用カテーテル(Applied Medical Resources Corp)を用いて
350〜450gのウィスターラットの頚動脈内皮を剥いだ。末端を結紮した頚
動脈ヘカテーテルを挿入し、総頸動脈へ通した。バルーンを直径〜7ユニット(
カテーテルはフレンチスケール)まで膨らませて、頚動脈に沿って3回通した。
バルーン損傷後、塞栓摘出用カテーテルを除去し、頚動脈を一次的にクランプし
、レトロウイルスベクターに30分間曝した。ラット群に生理食塩水(n=6)、
変異サイクリンG1構築物を有するレトロウイルスベクター(n=9)、または対
照ベクター(n=8)のいずれか〜30mlを注入し、さらに実験対照として非処理
ラット群(n=7)を用意した。ちょうど4週間後にラットを過剰量のペントバル
ビタールナトリウム(120mg/Kg IM)で犠牲にした。ホルマリンで固定し
た非処理頚動脈およびベクターで処理した頚動脈の双方の切片をVerhoeffのエ
ラスチン染色剤で染色し、組織学的切片を光学顕微鏡で調査し、Optimas画像解
析システムを用いて培地表面域に対する新生内膜の形態計測評価を行なった。脈
管内膜の肥厚程度をI:M比で表す。非処理動脈、PBS処理動脈およびベクタ
ー処理動脈の間のI:M比の有意差を両側 t検定で求めた。
【0090】
結論
サイクリンG1構築物の設計および操作 ヒトサイクリンG1配列由来の数個の
アンチセンス断片(図4)を、全長および/または上流配列の組み込みを変化させ
て構築した(図5)。さらに、一連の変異サイクリンG1発現構築物に操作を加え
、ドミナントネガティブ様式で機能する可能性を評価した。図5Cで模式的に示
すように、これらの発現構築物は、サイクリンとCDKとの結合に関与する保存
された「サイクリンボックス」ドメインを包含する領域において変異したか、ま
たは末端切断されたものであった(Lees and Harlow, Mol. Cell Biol.
, vol. 13, pgs. 1194−1201 (1993))。PM 61K/Aお
よびPM 92E/Aでそれぞれ示された2つの点突然変異体は、サイクリンA
−CDK2との接触に重要であると予測され(Brown et al., J. Biol.
Chen., vol. 267,pgs. 4625−4630 (1992);Jeffrey et
al., Nature,Vol. 376, pgs. 313−320 (1995))、ヒトサ
イクリンG1内で保存されている(Wu et al., 1994)残基の改変を示して
いる。
【0091】
複雑な(8段階)クローニング戦略を用い(図6参照)、(NotI/SalIにフラ
ンクされた)PCR産物として製造した種々のアンチセンスおよび変異サイクリ
ンG1構築物を、pBSKII(Stratagene)のNotI/SalI部位へクローニング
してpG1/BSKII構築物を作出し、次ぎに、これらを切り出し、これらのク
ローニング部位で、線状化したpG1XSvNaレトロウイルスベクター(Genetic
Therapy,Inc)へ連結してpG1G1SvNa構築物を作出した。これらのpG
1G1SvNa発現プラスミドをKpnIで消化し(2箇所)、LTRプロモーターと
Psi包膜配列でフランクされた実験用のサイクリンG1構築物をはじめ、得られ
たpG1G1SvNaセグメントをpRV109レトロウイルスベクター(Soneoka
et al., 1995)に連結して合成レトロウイルス発現ベクターpG1/RE
Xを作出した。得られたpG1/REXベクターは、SV40ori配列および抗生
物質耐性遺伝子に加えて、治療遺伝子を駆動する強力なハイブリッド5'CMV
/LTRプロモーターを含み、これがベクター産生を促進する。代表的なサイク
リンG1点突然変異体であるPM61 K/AのpREXへのクローニングが図
6に示されている。
【0092】
サイクリンG1構築物の細胞増殖抑効力の比較 平滑筋の細胞増殖に対する種々
のアンチセンスおよび変異G1構築物の相対的効力を調べるため、個々のDNA
断片の各々をpREXレトロウイルス発現ベクターに適当な配向でクローニング
し(上記参照)、これをスクリーニング研究のトランスフェクト可能なプラスミド
として最初に用いた。リン酸カルシウムトランスフェクション実験をラットA1
0平滑筋細胞培養物で3回行なって次の動物実験で用いるのに最適なサイクリン
G1ノックアウト構築物を決定した。これらの実験では、AS587およびAS
693(図7A参照)で示される適度な長さのアンチセンス構築物が、それより短
いAS423構築物よりも大きな細胞致死活性を示した。これまでの(pG1aG
1SvNaプラスミドを用いた)研究では、アンチセンス方向のヒトサイクリンG
1全長コード配列は比較的効果がないことが示されていない(データは示されて
いない)。これらの比較評価に基くと、AS587(既に動物実験で用いられてい
る:Skotzko Et al.,1995, Zhu et al., Circulation, Vol. 9
6, pgs. 628−635 (1997))と同じコード領域にわたってなお、さ
らに5'配列を含む構築物であるAS693が最も有効なアンチセンスデザイン
であると考えられた。試験した変異サイクリンG1構築物のうちで、ある特定の
変異構築物DNT41〜249、および点突然変異構築物であるPM 61K/
Aが、平滑筋細胞の増殖抑制において少なくともアンチセンス構築物と同程度の
効力があることがわかった。点突然変異体PM 61K/Aの効力には、このア
ミノ酸Lys−61が推定されるサイクリンG1会合キナーゼとの物理的結合に重
要であるとことが示唆されることから関心が持たれている(Smith et al., E
xp. Cell Res. Vol. 230,pgs. 61−68 (1997))。これら
の比較スクリーニング研究を基に、DNT41−249およびPM 61K/A
もまた、さらなる研究対象として選択された。
【0093】
選択されたサイクリンG1構築物を有するマトリックス・ターゲッテッド・レト
ロウイルスベクターの同定 それぞれCMVプロモーターによって駆動されるパ
ッケージング成分のgag−pol、マトリックス・ターゲッテッド(CBD)−env、
融合誘導VSVG env、および指定のサイクリンG1構築物を有するレトロウ
イルスベクターを個別のプラスミドに配置した(図8A)、一時的4プラスミド同
時トランスフェクション系(Soneoka et al., 1995より採用)を用いてヒ
ト293T細胞上清からレトロウイルスの保存株を作製した。ウエスタン解析は
、MLV gp70envおよびVSV−Gタンパク質免疫反応性の状態を精製ベク
ター調製物中のレトロウイルスgagタンパク質に対してノーマライズしたもので
示されるように、レトロウイルス産生細胞中で2つの外被タンパク質の均一な発
現およびウイルス粒子への安定した組み込み(図8B)を証明した。
【0094】
この外被構造を用いて、ネオマイシン耐性(サイクリンG1構築物)またはβ−
ガラクトシダーゼマーカー遺伝子の発現により求められる、感染力のある力価1
を常に達成した。ラットA10 SMC中のマトリックス・ターゲッテッド
・VSVG偽型レトロウイルスベクターの形質導入効率を決定するため、細胞を
種々のMOI(0.005〜500の範囲)で形質導入したところ、著しい濃度依
存を示し(図8参照)、SMCの75%〜96%がこれらのマトリックス・ターゲ
ッテッド・ベクターによりそれぞれ50(力価=3×10cfu/ml)から500(
力価=3×10cfu/ml)までのMOIで形質導入されたことを示した。
【0095】
サイクリンG1構築物の細胞傷害性と作用機構 これまでのレトロウイルスに媒
介されるアンチセンスサイクリンG1(すなわちAS587)の細胞傷害性の研究
では、細胞周期の休止(Chen, et al., Hum. Gene Ther., Vol. 8, pg
s. 1667−1674(1997))および明白なアポトーシス(Zhu,et al.,
1997)に加えて、形質導入された細胞におけるシンシチウム形成が記載され
ている。注目すべきことに、変異サイクリンG1構築物の細胞増殖抑制性効力に
もまた、pG1DNT41〜249/REXベクターによる形質導入後t=48時
間で見られるラットA10細胞培養物におけるシンシチウム形成が伴い(図9)、
アンチセンス(AS587およびAS693)構築物で見られたものと形態学上類
似する大型の多核細胞を呈した。これに対して、対照とする形質導入法でもヌル
ベクター(pREX)でもラットA10細胞でシンシチウム形成を誘導することは
なく(図9A−B)、これは変異体およびアンチセンス構築物が同様に細胞の生存
力に影響していることを示唆する。サイクリンG1ノックアウト構築物の抗増殖
作用はヒト膵臓癌細胞(図8C)およびサルSMC(図8D)で確認し、ここでもD
NT41−249発現変異体の相対的効力がほとんどの強力なアンチセンス構築
物よりも大きいことが分かった。
【0096】
個々のサイクリンG1構築物の作用機構を実証するため、サイクリンG1タン
パク質発現のダウンレギュレーションを、AS693/REXアンチセンスベク
ターにより形質導入した平滑筋細胞のウエスタン解析により証明した。図10A
に示す通り、サイクリンG1発現のダウンレギュレーションは、対照ベクターに
比べてアンチセンスベクターにより形質導入されたサルSMC培養物で観察され
、最大阻害は形質導入後t=48時間で見られた。逆に、変異発現ベクターによ
る形質導入後24時間および48時間に見られる形質導入細胞培養物中の、適宜
、〜20kDaの免疫応答バンドの出現により示されるように、サイクリンG1変
異構築物の強制発現が、ベクターによって形質導入されたA10細胞において確
認された(図10B)。タンパク質発現を指示するという点ではベクターの性能の
証明は有意義であるが、ある時点における(細胞死の前)推定(細胞傷害性の)表現
型を一時的に発現する細胞の割合は小さいであろう。インビボでのバルーン損傷
動脈についての急性研究では、サイクリンG1タンパク質発現のアップレギュレ
ーションが新生内膜SMCで見られる。この特徴的なサイクリンG1タンパク質
発現のアップレギュレーションはヌルベクター(図11A)、PBS対照(図11
B)、または変異発現ベクター(図8D)のいずれかで処理したバルーン損傷動脈
では減退しなかった。これに対して、アンチセンスサイクリンG1(AS693
/REX)ベクターで処理した動脈においては、サイクリンG1発現の著しいダ
ウンレギュレーションが明白であった。これらを総合すると、これらのデータは
サイクリンG1構築物の細胞致死作用が形質導入細胞でのサイクリンG1発現の
直接調節によるものであることを示す。
【0097】
ラット動脈再狭窄モデルにおけるpDNTG1/REXの評価 最後に、制御下
の2つの1ヶ月のインビボ効力研究において、サイクリンG1(DNT41−2
49/REX)のN末端欠失変異を有するマトリックス・ターゲッテッド・VS
VG偽型ベクターの、バルーン損傷ラット動脈内への内腔内注入が、ヌルベクタ
ー、生理食塩水対照、および損傷/未処理群と比較した場合、新生内膜損傷の形
成を阻害した(図12)。脈管に大量の傷および変形を生じる(この知見は未発表)
細胞傷害性HStkベクター(ガンシクロビルを含む)戦略とは違い、DNT41−
249/REXベクター処理された動脈で動脈壁の壊死、繊維形成または変形の
証拠はなく、このアプローチが比較的安全であることを証明している。さらに、
長期(30日)の効力データ(表1および2)は、DNT41−249/REXベク
ター処理された動物において新生内膜損傷内でSMC増殖の「巻き返し」がほと
んど発生しなかったことを示し、活性化SMCにおける標的形質導入および細胞
致死性サイクリンG1変異タンパク質の発現が動脈再狭窄の後遺症の原因である
細胞力学にかなりの影響力を持つであろうと示唆される。
【0098】
【表1】


対照群(損傷のみ、生理食塩水およびヌルベクター)の脈管内膜:媒体比に有意
な差はなかった。
dnG1ベクター処理群を3つの対照群と比較した。結果の変数に関して両側検
定を行った(脈管内膜:媒体比)。
【0099】
【表2】


対照群(損傷のみ、生理食塩水およびヌルベクター)の脈管内膜:媒体比に有意
な差はなかった。
dnG1ベクター処理群を3つの対照群と比較した。結果の変数に関して両側検
定を行った(脈管内膜:媒体比)
【0100】
考察
本開示は、変異サイクリンG1タンパク質を用いて優性様式でその正規の対応
部分の機能を阻害することの有用性を証明する。かかる変異タンパク質の適用に
は、密接に関連する(縮重)エレメントの機能をブロックし、かつ、検出可能な遺
伝子産物を産生するという2重の利点がある(図10参照)。ここで、サイクリン
G1の欠失変異体および点突然変異体は明白な抗増殖特性を示し、これは最も強
力なアンチセンスサイクリンG1構築物と少なくとも同程度の作用であった。選
択した変異サイクリンG1構築物(DNT41−249)を含むマトリックス・タ
ーゲッテッド・レトロウイルスベクターをまずインビトロで試験したところ、細
胞増殖の著しい阻害が見られた。アンチセンスサイクリンG1構築物(Zhu et
al., 1997)に匹敵する様式で、ドミナントネガティブサイクリンG1構築
物は形質導入されたSMCにおいてシンシチア形成およびプログラムされていな
いアポトーシスを引き起こし、機構上の類似性を示唆した。
【0101】
治療用遺伝子構築物に加え、ベクターのバイオアベイラビリティの向上に役立
つウイルス粒子へのマトリックス・テーゲッティング技術(以下参照)の組み込み
により、レトロウイルスを媒介とする損傷動脈への遺伝子送達効率に著しい改良
がなされた。レトロウイルスベクター・ターゲッティング技術における最近の進
展は、フォン・ヴィレブランド因子の一次構造に内在する生理学的監視機能(Mo
ntgomery et al.,Hemophilia and von Willebrand Disease, Chapte
r 44, pgs. 1631−1675,W. B. Saunders Co., Philadelp
hia (1998);Ginsburg,D, et al., Proc. Nat. Asal. Sci.
Vol. 86,pgs. 3723−3727 (1989);Ruggeri & Zimmer
man, Blood, Vol. 70,pgs. 895−904 (1987))をマトリック
ス・ターゲッテッド・レトロウイルスベクターの開発に採用し得ることが証明さ
れている(Hall,et al. Human Gene Therapy, Vol. 8, pgs. 21
83−2192 (1997);Anderson,Nature, Vol. 392 (Suppl.)
, pgs. 25−30 (1998))。vWF由来マトリックス・ターゲッティング
(すなわちコラーゲン結合)モチーフの操作およびレトロウイルス外被への挿入は
、都合のよい機能獲得表現型、すなわちバルーンカテーテル損傷に曝された細胞
外マトリックス成分との高親和性結合を有するMLVに基づくベクターを利用す
ることによって、インビボでの遺伝子送達を向上させる。これらの研究に用いた
マトリックス・ターゲッテッド両種性外被(Hall et al., 2000参照)は、
2週間のアンチセンスサイクリンG1の効力研究(Zhu et al., 2000;提
示)において血管損傷部位に集積すること(Hall et al.,1997)と内在S
MCの効果的な形質導入を可能にすることがこれまでに示されている本来のエコ
トロピック(齧歯類特異的)ベクターに取って代わる。損傷後1時間以内に平均的
なSMCの活性化および増殖が始まる限り、新生内膜への移動は4日目までに起
こり(Clowes et al. Lab. Invest.,Vol. 49, pgs. 327−37
3 (1983),Clowes et al., Circ Res., Vol. 56, pgs. 13
9−145 (1985))、複製は次の2週間にわたり著しく増加し(Schwartz
et al., 1995;DeMeyer and Blut,1997)、ベクター浸潤およ
び細胞の形質導入は、(i)バルーン損傷時(Zhu et al., 1997)および(ii)
新生内膜内でのSMCの移動および増殖が最大となる血管形成後7日(Hall
et al., 2000)の時点でのマトリックス・ターゲッテッド両種性ベクターの
内腔内注入によってさらに至適化される。
【0102】
本開示では、Soneoka et al.,1995から採用した一時的トランスフェ
クション系を用いて高力価レトロウイルスベクターを作製したが、ここでは、パ
ッケージング成分ならびに治療遺伝子の発現は強力なCMVプロモーターによっ
て駆動し、各構築物がヒト293T産生細胞におけるプラスミド発現を助ける働
きをするSV40複製起点(ori)を含む。これらの試薬を用いて3x10〜3x
10cfu/mlの範囲のウイルス力価を常に達成した。さらに、融合誘導VSV
G envタンパク質の同時発現(Iida,et al., J. Virol., Vol. 70, p
gs. 6054−6059 (1996);Laitinen,et al., Hum. Gene
Ther., Vol. 8,pgs. 1645−1659 (1997);Yu, et al.,
Gene Therapy,Vol. 6, pgs. 1876−1883 (1999))が、ベ
クターをさらに濃縮せずともウイルス力価をさらに向上させた(9x10cfu/m
lまで)ことから、ベクター作製および予測治療構築物の同定が容易となった。
【0103】
総合すると、レトロウイルスベクターの設計、操作、および展開におけるこれ
らの改良点により、至適化された遺伝子療法プロトコールの開発およびバルーン
血管形成ラットモデルでの新生内膜形成の阻害における長期作用の達成が可能と
なった(表1参照)。2例の制御下の1ヵ月の効力研究において、マトリックス・
ターゲッテッドdnG1レトロウイルスベクターのバルーン損傷ラット頚動脈への
内腔内送達は、他の唯一の薬剤であるタンパク質キナーゼC阻害剤(Prescott,
et al., Ann. N.Y. Acad. Sci.,Vol. 878, pgs. 179−19
0 (1990))および一酸化窒素シンターゼ構築物を有するアデノウイルスベ
クター(Shears,et al., J. Am. Coll. Surg., Vol. 187, pgs.
295−306 (1999))により誘導される応答の大きさとしての、SM
C増殖の「巻き返し」と混同することなく新生内膜損傷形成の〜50%阻害を生
じた。動脈組織学を都合悪く歪曲させる(ガンシクロビル投与後の)HStKベク
ターとは異なり(Nabel,Nature Vol. 362, pgs. 844−846 (1
993))、dnG1ベクター処理された動脈で動脈壁の壊死、繊維形成または変形
は明らかに存在せず(図12参照)、インビボ臨床使用におけるこのアプローチの
安全性を証明している。結論として、この研究は、血管再狭窄の治療のための細
胞致死性遺伝子療法の有用性を拡大するため、治療サイクリンG1構築物におけ
る著しい改良とマトリックス・ターゲッティング技術、ベクター作製方法、およ
び点滴注入法プロトコールにおける進歩とを組み合わせたものである。
【0104】
実施例3 マトリックス・ターゲッテッド・レトロウイルスベクターの全身投与
はマウスにおける癌遺伝子療法に有効である
材料および方法
細胞、細胞培養条件、マーカーを含むプラスミドおよびベクター、ならびに細胞
周期制御遺伝子 NIH3T3、293Tおよびヒト膵臓癌MiaPaca2細胞を
ATCCから入手した。NIH3T3および293T細胞を、10%ウシ胎児血
清(D10;Biowhittaker,Walkersville, MD, USA)を添加したダルベッ
コ改変イーグル培地で維持した。ウイルスgag pol遺伝子を含むプラスミドpcgp
、および核ターゲッテッドb−ガラクトシダーゼ構築物を発現するレトロウイル
スベクターpcnBgは厚意によりそれぞれDrs. Paula CannonおよびLing
Liより提供されたものであった(USC Gene Therapy Laboratories,L
os Angeles, CA)。末端切断した(a.a. 41−249)サイクリンG1(dnG
1)構築物を、G1XSvNa(Genetic Therapy,Inc., Gaithersburg, MD
, USAから譲渡)のレトロウイルスパッケージング成分配列を含むようにpHI
T109(Soneoka et al.,Nucl. Acid Res. 23, 628−633,
1995)を改変したレトロウイルス発現ベクターpREXへクローニングした。
【0105】
変異サイクリンG1構築物を有するマトリックス・ターゲッテッド・レトロウイ
ルスベクターの作製 パッケージング成分gag−pol、およびCMVプロモーター
から発現したフォン・ヴィレブランド因子由来のコラーゲン結合(マトリックス
・ターゲッティング)モチーフを有するキメラ両種性モロニーネズミ白血病ウイ
ルス(MulV)に基づくenv、およびレトロウイルスベクターを、各々SV40複
製起点を有する個々のプラスミドに配置した、3または4プラスミドの一時的同
時トランスフェクション系(Soneoka et al., Nucl. Acid Res. 23,
628−633, 1995)を用いて高力価ベクターを作製した。ベクターは、
用いる特定の外被を表すMx−nBg、Mx−dnG1、およびCAE−dnG1と呼び
、遺伝子発現構築物を各ベクターに組み込んだ。Mx−nBgはその外被にマトリ
ックス・ターゲッティングモチーフおよび核ターゲッテッドb−ガラクトシダー
ゼ遺伝子を有するMuLVに基づく改変型ベクターである。Mx−dnG1はN末端
欠失変異サイクリンG1構築物を有するマトリックス・ターゲッテッド細胞致死
性ベクターである(Gordon et al.,Cancer Res. 60, 3343−33
47. 2000)。CAE−dnG1は野生型の両種性MulVに基づく外被(Morg
an et al., J. Viol. 67,4712−4721. 1993)およびMx
−dnG1と同じ細胞致死性サイクリンG1構築物を有する非ターゲッテッドベク
ターである。
【0106】
ウイルス力価 ネズミNIH3T3細胞中のウイルス力価は、βガラクトシダー
ゼまたはネオマイシンホスホトランスフェラーゼ耐性、neor遺伝子の発現を基に
、これまでに記載されたようにして求めた(Skotzko et al., Cancer Res.
55, 5493−5498,1995)。ウイルス力価はG418耐性コロニ
ー形成単位の数(cfu)/mlとして表し、10ないし10cfu/mlの範囲であっ
た。
【0107】
インビボ効力研究 これらの研究は、the University of Southern Cali
fornia Institution Animal Care and Use Committeeに承認された
プロトコールに従って行った。インビボ Mx−dnG1ベクター治療の抗腫瘍作
用に基づいた標的遺伝子送達効率を評価するため、1〜9x10のヒトMiaPa
ca2癌細胞を胸腺欠損nu/nuマウスに皮下移植することで皮下腫瘍異種移植を行
なった。腫瘍が〜50mmの大きさに達したところで、Mx−dnG1ベクター(力
価:8x10cfu/25gmマウス)、同様の力価のMx−nBg対照ベクター、非タ
ーゲッテッドCAE−dnG1ベクター、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS、p
H7.4)プラセボ対照のいずれか200μlを尾の静脈に7〜10日間毎日直接
注射した(1治療周期)。腫瘍の大きさをノギスで2〜4日ごとに測定し、楕円対
象物の容積を算出する公式:腫瘍体積、mm=4/3 p r r rを用い
た。マウスをそれぞれ、1または2治療周期が終わった翌日または1週間後に頸
椎脱臼により犠牲にした。
【0108】
アポトーシスアッセイ 腫瘍小節由来の組織片を、Apoptagキット(Intergen,
Purchase,NY, USA)を用いてアポトーシスの誘導について評価した。急速
凍結した腫瘍小節をパラホルムアルデヒドで固定し、膜をエタノールおよび酢酸
で透過処理した。TdT酵素を加えた後、抗ジドキシゲニン(didoxygenin)ペルオ
キシダーゼコンジュゲートを加えた。次いでこれらの組織片をペルオキシダーゼ
基質で染色し、メチルグリーンで対比染色した。
【0109】
統計分析 (i)経時的な腫瘍容積の変化(腫瘍増殖率)を簡約するため、最少二乗
直線を対数変換値に当てはめた。すなわち、各マウスについて、最初の経時的な
5回の測定値を用いて傾きを推定した。計算したこれらの傾きを真数を用いて元
の倍率に変換し直し、一日あたりの平均腫瘍増殖率(%)とする。3回の実験の各
々の中で異なるベクターを比較するには、分散の荷重分析を独立変数として推定
した傾きとともに用いた。各マウスに対し、加重は傾きの推定値(最初の最少二
乗直線分析で計算したもの)の標準誤差の和の逆数に3回全ての実験に基づく傾
き間の分散の推定値を加えたものである。実験I およびII に関しては、分散
分析に基づくF検定を用いてMx−nBgおよびMx−dnG1ベクターを比較し、実
験IIIに関しては、F検定の後に多重比較の最少有意差法を用いてMx−dnG1と
CAE−dnG1ベクターおよびプラセボ処置を比較した。解析したデータを組み
合わせた結果を表3に示す。(ii)カプラン・マイヤー・プロダクト・リミット法
(Kaplan−Meier product limit method)(Kaplan & Meier J. Ame
r. Statist. Assoc. 53,457, 1958)を用いて腫瘍が4倍になる
確率を時間(日数)の関数として推定した。(iii)傾向に関するタロン検定(ログラ
ンク検定に基づく;Tarone, Biometrika 62, 679,1975)を用いてプ
ラセボ(PBS)−処置群、非ターゲッテッドCAE−dnG1ベクター処置群、お
よびマトリックス・ターゲッテッドMx−dnG1ベクター処置群が4倍になる時
間を比較した。
【0110】
結果
短期の効力研究では、Mx−nBg対照ベクター、非ターゲッテッドCAE−dn
G1ベクターまたはMx−dnG1細胞致死性ベクター(各ベクター=〜8x10c
fu/用量)、かまたは同量のPBSプラセボのいずれかの静注を1〜9x10
ヒトMiaPaca2膵臓癌細胞の移植後6日目に開始し、マウスの部分集合に総計
7ベクターの注入を毎日継続した。Mx−nBgベクター(図13)、非ターゲッテ
ッドCAE−dnG1ベクターおよびプラセボPBSで処置したマウスでは、腫瘍
サイズに進行性の増殖が見られた(表3)。これに対して、Mx−dnG1ベクター
で処置した動物では腫瘍退縮が見られた(図13;表3)。免疫組織化学染色では
、対照ベクター処置マウスの大型腫瘍で発現したヒトサイクリンG1タンパク質
に対する核の強い免疫反応性が明らかとなったが、一方でMx−dnG1ベクター
で処置した動物の残存腫瘍にサイクリンG1発現の減少が認められた。
【0111】
マトリックス・ターゲッテッド・レトロウイルスベクターによる固形腫瘍への
遺伝子送達の効率を評価するため、7種のベクター用量を投与した後に2群の動
物の部分集合を犠牲にした(図13)。ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した
、Mx−nBg対照ベクターで処置した動物から得た腫瘍組織切片の組織病理学検
査により、腫瘍小節が腫瘍および腫瘍関連細胞、すなわち薄い結合組織被膜に囲
まれた活性脈管形成介在域を持ち比較的分裂速度の速い優勢な悪性類上皮細胞集
団からなることが明らかとなった。これに対して、Mx−dnG1ベクターで処置
した動物から得た腫瘍小節では、大量の腫瘍破壊、残存腫瘍細胞内でのアポトー
シスの多発、および反応性間質の肥厚化の形跡が見られた。多くの腫瘍小節が、
大きな中央壊死域、活性腫瘍の中間域、および多数のアポトーシス細胞を含む末
梢域を示した。消散している他の腫瘍小節はほぼ完全に緻密な結合組織に囲まれ
ているが、これにより、かなりの割合の残存腫瘍が明白なアポトーシス細胞の小
領域を示し、また、急性および慢性炎症の程度が多様であることが説明される。
【0112】
形質導入効率は、b−ガラクトシダーゼ抗原(GAL−40,Sigma, St. L
ouis MO, USA)に対するマウスモノクローナル抗体を用いる腫瘍小節の免
疫組織化学染色と、その後のOptimas画像解析システム(Optimas Corporatio
n, Bothell, Washington,USA)を用いる解析により求めた。腫瘍小節あた
り3つの高電場でb−ガラクトシダーゼ陽性細胞の数を計数し、細胞総数で割っ
て×100倍することで形質導入効率(%で表す)を求めた。高レベルの細胞の形
質導入(35.7±1.4%;表4)がMx−nBgベクターで処置した動物の腫瘍小
節のいたるところで認められた。
【0113】
この腫瘍小節に見られた高い形質導入効率をさらに調べるため、犠牲にする1
時間前および24時間前にMx−nBgベクターを静注してベクター分布試験を行
なった。83A25ラットモノクローナル抗体を用いるレトロウイルス外被タン
パク質の免疫組織化学染色は、1時間では、ベクター粒子の集積は腫瘍小節全体
に絡み合う脈管形成域において顕著であったが、24時間では、ベクター粒子の
免疫反応は見られず、このことは腫瘍および腫瘍関連細胞へのウイルスの侵入が
起こったことを示している。腫瘍小節のマッソン・トリクローム染色は、脈管形
成血管床が内皮細胞に完全には覆われていないことから、細胞外マトリックス成
分は循環血液成分に曝されていることを明らかにした。考えうるところでは、透
過性の腫瘍脈管構造内でのコラーゲンが露出していることがマトリックス・ター
ゲッテッド・レトロウイルス粒子の局所濃度を高め、それが腫瘍小節内で見られ
た高い分裂指数とあいまって、腫瘍細胞および関連する脈管構造の効果的な形質
導入を促進した。マッソン・トリクローム染色で、豊富なコラーゲン沈着を含む
活発な繊維形成が、実際の腫瘍塊に対してかなりの割合の残存小節を構成してい
たことが確認された。
【0114】
アポトーシスは腫瘍性細胞(Skotzko et al., Cancer Res. 55, 54
93−5498, 1995)においても増殖性の血管細胞(Zhu et al.,Circ
ulation 96, 628−635. 1997)においても、サイクリンG1阻害
の結果であることが知られている。従って、Mx−dnG1ベクターで処置した腫
瘍の免疫組織化学染色では、対照ベクターで処置した動物のものと比較した場合
、TUNEL陽性アポトーシス細胞の発生率が著しく増加することが明らかにな
った。アポトーシスは対照ベクターで処置したマウスの脈管形成の血管では認め
られなかった。これに対して、間質コンパートメントと同様に脈管形成域の内皮
細胞の多数のアポトーシス(36±5%)がMx−dnG1ベクターで処置した動物
において見られた。特に、アポトーシス発生の増加は、腫瘍小節の周辺表層に限
らず、腫瘍小節の奥深くの多くの細胞層にまで及んでいた。Mx−dnG1ベクタ
ーの腫瘍小節への浸透能は、コラーゲン沈着および/または露出、ならびに固形
腫瘍の中心部内の血管浸透性によって明らかに促進された。この観点はベクター
粒子の集積が脈管形成域で最も顕著であることを示した免疫組織化学研究結果と
一致する。さらに、認められた増殖性内皮細胞および間質細胞の破壊はそれ自身
、血管供給の枯渇により(Folkman, Nature Med. 1, 27−3.1995;
Hanahan & Folkman,Cell 86, 353−364, 1996;Fidler,
J. Natl. Cancer Inst. 87,1588−1592. 1995)または
増殖因子の刺激により(Fukumura et al., Cell 94, 715−725.1
998)、不均衡な量の腫瘍細胞死を誘発し得るものであった。
【0115】
Mx−dnG1ベクター(ベクター用量:1x10cfu)、同等の用量の非ターゲ
ッテッドCAE−dnG1ベクター、または等量のPBSプラセボを用いる、休止
期を挟んで2回(10日)の治療サイクルからなる長期効力研究で、治療効率が両
種性MLV外被タンパク質の一次構造内に組み込まれたコラーゲン・ターゲッテ
ィングペプチドモチーフに依存していることが確認された(図14Aおよび14
B)。プラセボ処置したマウスでは腫瘍サイズの急速な増大が見られたが、非タ
ーゲッテッドCAE−dnG1ベクター処置した動物では、PBS対照と比較した
場合に腫瘍増殖の下限阻害が認められた(p=0.10;表3)。これに対して、非
ターゲッテッドCAE−dnG1ベクター処置マウス(p=0.014)、対照ターゲ
ッテッドMx−nBgベクター処置マウス(p=0.004)、およびPBS処置マウ
ス(p=0.001;表3)と比較すると、Mx−dnG1ベクター処置マウスにおけ
る腫瘍増殖は有意に阻害された。さらに、Mx−dnG1ベクター処置マウスにお
ける腫瘍増殖率は、〜7週間の追跡期間を通して非ターゲッテッドCAE−dnG
1ベクター処置動物(図14A)のものより常に低く維持されていた。
【0116】
カプラン・マイヤー生存研究は、PBSプラセボ、非ターゲッテッドCAE−
dnG1ベクターまたはマトリックス・ターゲッテッドMx−dnG1ベクターで処
置したマウスで行った(図14B)。倫理上の理由から、実際に動物を死亡させる
ではなく、生存のエンドポイントを実際の対象の死亡の代わりに、腫瘍が4倍に
なった時点と定めた(まず、腫瘍負荷が最初の基準よりも4倍大きくなったと認
められたときに記録)。もし腫瘍容積が47日で4倍に増えなかった場合、その
動物を犠牲にし、4倍増殖時間を47日で打ち切った。カプラン・マイヤー・プ
ロダクト・リミット法(Kaplan & Meier J. Amer. Statist. Assoc
. 53, 457, 1958)を用いて腫瘍が4倍になる確率を時間(日数)の関数
として推定した。傾向に関するタロン検定(ログランク検定に基づく;Tarone,
Biometrika 62,679,1975)を用いてプラセボ(PBS)−処置群、非
ターゲッテッドCAE−dnG1ベクター処置群、およびマトリックス・ターゲッ
テッドMx−dnG1ベクター処置群の4倍増殖時間を比較した。ログランク検定
を用いると、3つ全ての群を同時に比較する総合的なP値は0.003であり、
傾向を含めるとその有意水準は0.004であった。これらのデータは、長期の
腫瘍増殖制御の可能性は、非ターゲッテッドCAE−dnG1ベクターまたはPB
Sプラセボよりもマトリックス・ターゲッテッドMx−dnG1ベクターを用いる
方が有意に高いことを示している。
【0117】
マトリックス・ターゲッテッド・ベクターの潜在的毒性を評価するため、1ま
たは2回の治療サイクルの終了時に非標的臓器を回収した(累積のベクター用量
はそれぞれ8×10または1.6×10cfu)。血清化学プロフィールは正常
で、骨髄、肺、心臓、脳、肝臓、腎臓、精巣、結腸および皮膚の組織検査では臓
器損傷の形跡はなかった。これらの結果はMx−dnG1レトロウイルスベクター
の静注が広範囲の安全性を持つようであるとの考え(Gordon et al., Cancer
Res. 60,3343−3347, 2000)をさらに裏付けるものである。
【0118】
【表3】


注:3つの別々の実験の結果を合わせた。3つの実験中の異なるベクターを比較
するために、分散の重量分析を、独立分散としての概算した傾斜と共に使用した
。実験IおよびIIに関して、分散の分析に基づいたF検定を使用して、Mx−nB
gおよびMx−dnG1ベクターを比較し、実験IIIに関して、F検定、続く複数の
比較の最小有意差法を使用して、Mx−dnG1を、CAE−dnG1ベクターおよ
びプラセボ処置と比較した。分析データの合わせた結果を上記に示す。
【0119】
【表4】


注:Mx−nBgレトロウイルスベクターによる固体腫瘍内への遺伝子送達の効果
を、7種のベクター投与量を投与した後に二つのサブセットの動物で評価した(
図13も参照)。形質導入効率は、腫瘍小瘤の免疫組織化学的染色により、b−ガ
ラクトシダーゼ抗原に対するマウスモノクローナル抗体、続くOptimas造影シス
テムを使用して測定した。形質導入効率(%で示す)は、腫瘍小瘤当たりの3つの
ハイパワー場におけるb−ガラクトシダーゼ陽性細胞を計数し、細胞の総数で割
り、100を掛けて測定した。
【0120】
考察
実施例3の結果は、末端静脈注射により分散させたマトリックス標的化レトロ
ウイルスベクターが、(i)1時間以内に血管形成性腫瘍血管構造に蓄積される、(
ii)腫瘍細胞が高レベルの効率で形質導入される、そして(iii)目に見える毒性を
誘発することなく、治療的遺伝子送達および長期効果を促進することを証明する
。一緒にして、これらの結果は、末梢静脈に直接注射したマトリックス標的化レ
トロウイルスベクターが、固体腫瘍内への治療的遺伝子送達を改善するという原
則の最初の決定的証拠を提供する。
【0121】
全ての特許、刊行物(公開特許出願も含む)、データベース受け入れ番号および
受託所受け入れ番号の記載は、各特許、刊行物、データベース受け入れ番号およ
び受託所受け入れ番号が個々に特記され、個々に出展明示により本明細書に包含
されるのと同程度に出展明示により本明細書に包含させる。
【0122】
しかし、本発明の範囲は、上記の具体的実施態様に限定されないことは理解す
べきである。本発明は、特別に記載されているのと異なって実施し得、まだ特許
請求の範囲の範囲内である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−160815(P2011−160815A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−120566(P2011−120566)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【分割の表示】特願2001−564353(P2001−564353)の分割
【原出願日】平成13年3月1日(2001.3.1)
【出願人】(592048844)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】