説明

変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんの治療

本発明は、対象におけるがんを治療する方法を提供し、がんは変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含む。該方法は、有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを対象に投与するステップを含み、ここで、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
出願情報
本出願は、2009年11月5日出願の米国特許出願第61/258518号および2010年9月13日出願の豪州特許出願第2010904107号に関連し、かつこれらからの優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、対象におけるがんを治療する方法に関し、ここで、がんは変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含む。該方法は、対象への抗体またはその抗原結合性フラグメントの投与を含む。本発明は、患者のKRASまたはBRAFの状態の決定を含む、がんの治療の方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
炭水化物構造は、腫瘍特異抗原または腫瘍関連抗原となりえ、したがって、抗体を作製する多くの免疫戦略の焦点である。しかし、抗炭水化物特異的抗体には特異性、親和性がないかまたはIgMクラスのみの場合もあるので(Christensenら、2009)、これらを作製することは難しい課題である。さらに、がん細胞を死滅させる能力を有するヒト化抗炭水化物抗体を作製することは難しい課題であり、この事実は、こうした抗体についての報告のまれな数に反映されている。ヒト化に成功した抗糖脂質抗体の例が1つだけある;その抗体は、ガングリオシドGM2を認識し、in vitroおよびin vivoでヒト腫瘍細胞を死滅させる(米国特許6,423,511および6,872,392)。ヒト化されてはいないが、ヒトに投与するために改変された炭水化物結合抗体の例が他に2つある。第1に、抗炭水化物抗体RAV-12は、ヒト結腸がん細胞に対してin vitroおよびin vivoでの効力を示すキメラなマウス-ヒトIgG1である(Looら、2007)。第2に、抗炭水化物抗体HMMC-1は、ヒト卵巣がんに対してin vitroでの効力を示している。HMMC-Iは、外来染色体導入(transchromosomal) KMマウスによって作製される完全ヒト抗体である(Nozawaら、2004)。
【0004】
国際特許出願第WO 2005/108430号には、SC104と呼ばれる抗がんマウスモノクローナル抗体が開示されている。この抗体のCDR配列をTable 1(表2)に示している。この出願の開示は、参照により本明細書に組み込まれている。SC104が結合する抗原の正確な性質は明らかではないが、WO 2005/108430により、該抗原は、シアリルテトラオシル炭水化物であることが示唆されている。また、SC104が、免疫エフェクター細胞を必要とすることなく、細胞死を直接的に誘導することができることも開示されている。同時係属中の国際特許出願第WO 2010/105290号に記載されているように、いくつかのヒト化型のSC104が開発されている。この出願の開示も、参照により本明細書に組み込まれている。
【0005】
ヒトのがんの治療は難しく、かつ、場合によっては、治療結果に関連した分子バイオマーカーによって増強されうる。例えば、遺伝子KRAS(あるいは、ki-rasまたはk-rasと呼ばれる)またはBRAFにおける変異は、変更されたシグナル伝達特性を有するタンパク質を腫瘍細胞内に生じさせる。これらのバイオマーカーにおける変異は、上皮成長因子受容体を標的とする治療用抗体、例えば、セツキシマブまたはパニツムマブを使用するがん治療における不成功の結果と相関することが知られている(Amado、Wolfら 2008;Karapetis、Khambata-Fordら 2008;Di Nicolantonio、Martiniら 2008;Loupakis、Ruzzoら 2009;Lievre、Bachetら 2006)。KRAS変異は、大腸がん患者のうちの35%〜45%において生じているので、医学上特に重要である;BRAF変異は、15%未満に生じている(Siena、Sartore-Bianchiら 2009)。さらに、KRAS変異は、膵癌組織のうちの70%〜95%において認められる(Saifら 2007)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許6,423,511
【特許文献2】米国特許6,872,392
【特許文献3】国際特許出願第WO 2005/108430号
【特許文献4】国際特許出願第WO 2010/105290号
【特許文献5】WO 00/34317
【特許文献6】WO 98/52976
【特許文献7】WO 02/079415
【特許文献8】WO 02/012899
【特許文献9】WO 02/069232
【特許文献10】WO 92/10755
【特許文献11】WO 91/09968
【特許文献12】米国特許第6,407,213号
【特許文献13】米国特許6,180,370
【特許文献14】米国特許5,225,539
【特許文献15】WO 2008/006554
【特許文献16】米国特許第6,277,375号
【特許文献17】米国特許第6,821,505号
【特許文献18】米国特許第7,083,784号
【特許文献19】米国特許第7,217,797号
【特許文献20】WO 2000/42072
【特許文献21】米国特許出願第20090142340号
【特許文献22】米国特許出願第20090068175号
【特許文献23】米国特許出願第20090092599号
【特許文献24】米国特許第6,602,684号
【特許文献25】米国特許第7,326,681号
【特許文献26】米国特許第7,388,081号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shinkawa T.ら、2003(J Biol Chem 278:3466〜73)
【非特許文献2】Konishiら、2007 Cancer Research 67:8460〜8467
【非特許文献3】Songら、2000 Neoplasia 2:261〜272
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、対象におけるがんを治療する方法を提供し、ここで、がんは変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含み、方法は、有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを対象に投与するステップを含み、ここで、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、対象におけるがんを治療する方法を提供し、該方法は、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子の存在についてがんを試験するステップと、がんが変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含む対象に有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを投与するステップとを含み、ここで、抗体またはその抗原結合性フラグメントはヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんを治療するための医薬品の調製における、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を提供する。
【0011】
第4の態様において、本発明は、対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんを治療する際に、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)は、変異型および野生型のKRAS遺伝子を有するヒト消化管がんに結合することを示した図である。図1に示しているのは、1パネルのドナー腫瘍試料に対する個別および平均の免疫組織化学結合強度である(n=ドナーの数);Mann-Whitney検定によって決定されたように、それぞれの腫瘍型の野生型または変異型の各群の間の染色強度における統計的有意差はなかった。
【図2】免疫組織化学によって決定されるように、ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号94)は、変異型および野生型のKRAS遺伝子を有するヒト結腸がん細胞に結合することを示した図である。
【図3】SC104抗原陽性のヒト結腸がん細胞系C170を用いたLDH放出アッセイによって決定されるように、1U6Aフレームワーク(VL/VH 配列番号7/配列番号50および配列番号7/配列番号25)を組み込んでいるヒト化SC104抗体異型および1QLRフレームワーク(VL/VH 配列番号8/配列番号38および配列番号8/配列番号26)を組み込んでいるヒト化SC104抗体異型は、強力な抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有することを示した図である。キメラSC104抗体(配列番号4/配列番号2)は、コンパラトールとして示されており、ヒトIgG1アイソタイプは、陰性対照として使用されている。各点は、複製した3つの試料の平均±SDを示している。
【図4】SC104抗原陽性のヒト結腸がん細胞系Colo205を用いた細胞生存率アッセイによって決定されるように、1U6Aフレームワーク(VL/VH 配列番号7/配列番号50および配列番号7/配列番号25)を組み込んでいるヒト化SC104抗体異型および1QLRフレームワーク(VL/VH 配列番号8/配列番号38および配列番号8/配列番号26)を組み込んでいるヒト化SC104抗体異型は、強力な補体依存性細胞傷害性を有することを示した図である。キメラSC104抗体(配列番号4/配列番号2)は、コンパラトールとして、ヒトIgG1アイソタイプの陰性対照と共に示されている。各点は、複製した3つの試料の平均±SDを示している。
【図5】LDH放出アッセイによって評価されるように、ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)は、ヒト結腸がん細胞系DLD-1(KRAS変異型)に対して、強力な抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有することを示した図である。ヒトIgG1アイソタイプは、陰性対照として使用されている。各点は、複製した3つの試料の平均±SDを示している。
【図6】LDH放出アッセイによって評価されるように、ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)は、ヒト結腸がん細胞系Colo201(A)、Colo205(B)、WiDr(C)およびHT-29(BRAF変異型)(D)に対して、強力な抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有することを示した図である。ヒトIgG1アイソタイプは、Colo201の陰性対照として使用されている。各点は、複製した3つの試料の平均±SDを示している。
【図7】SC104抗原陽性のWiDrヒト結腸がん細胞系を用いたLDH放出アッセイによって評価されるように、キフネンシン処理したヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)は、未処理の抗体と比較して、より高い抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有することを示した図である。各点は、複製した3つの試料の平均±SDを示している。
【図8】HT29異種移植腫瘍を有するマウスをヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)で処理することにより、ビヒクル対照処理と比較して、結果として腫瘍量の有意な減少が導かれることを示した図である。A:6〜10匹のマウスの群における平均±SEMの腫瘍体積。アスタリスクは、処理群間の有意差、p<0.05 Mann-Whitney検定、を示す。B:試験の終了時の平均および個別の腫瘍重量。P値はMann-Whitney検定によって決定される。
【図9】抗原陽性細胞系Colo205を用いたフローサイトメトリーによって評価されるように、競合抗体(配列番号7/配列番号50(-▲-))により、蛍光標識マウスSC104抗体(A-1μg/ml;B-10μg/ml)の結合が著しく減少されるが、ヒトアイソタイプ対照抗体(-○-)ではされないことを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、がんを治療する方法に関し、ここで、がんはKRAS遺伝子またはBRAF遺伝子のいずれかに変異を含む。該方法は、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を含む。多様な実施形態において、本発明は、KRASまたはBRAF遺伝子のいずれかに変異を含むがんの治療におけるSC104、SC104キメラ、ヒト化SC104、脱免疫化(deimmunised)SC104またはこれらの抗原結合性フラグメントの使用に関する。該抗体は、SC104でないことが好ましい。
【0014】
第1の態様において、本発明は、対象におけるがんを治療する方法を提供し、ここで、がんは変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含み、方法は、有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを対象に投与するステップを含み、ここで、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する。
【0015】
第2の態様において、本発明は、対象におけるがんを治療する方法を提供し、該方法は、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子の存在についてがんを試験するステップと、がんが変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含む対象に有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを投与するステップとを含み、ここで、抗体またはその抗原結合性フラグメントはヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する。
【0016】
第3の態様において、本発明は、対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんを治療するための医薬品の調製における、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を提供する。
【0017】
第4の態様において、本発明は、対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんを治療する際に、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「競合する」とは、その抗体またはその抗原結合性フラグメントが、SC104と同じ濃度で使用されたときに、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対するSC104の結合を少なくとも10%減少させることを意味する。Colo205に対するSC104の結合のレベルは、当業者に知られている、フローサイトメトリーに基づく結合アッセイにおいて評価することができる。こうしたアッセイでは、多様な希釈率の競合抗体の存在下で、Colo205に対する蛍光色素標識SC104抗体の結合シグナルを測定する。SC104の蛍光色素標識化は、直接的な結合または、例えば、SC104ビオチン/ストレプトアビジン-蛍光色素、もしくはSC104を検出するが競合抗体は検出しない蛍光色素結合型二次抗体などの間接的な検出法によって達成されうる。
【0019】
理解されるであろうように、がんのKRASおよび/またはBRAFの状態は、療法前に決定されることが好ましい。細胞が変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むかどうかを決定する方法は、当技術分野においてよく知られている。これらの方法としては、(Lievre、Bachetら 2006)および(Seth、Crookら 2009)に記載されているものなどが挙げられる。
【0020】
本発明の多様な形態において、抗体はマウスSC104(一覧表の配列番号3/配列番号1に記載の可変領域)またはSC104キメラである。理解されるであろうように、キメラは、ネズミ科動物の定常領域がヒトまたは霊長類の定常領域で置換されている抗体である。こうしたキメラの例は、配列番号4/配列番号2に示している。上述のように、ヒトにおけるヒト抗マウス抗体(HAMA)反応を避けるために、該抗体は、SC104でないことが好ましい。
【0021】
本発明の他の形態において、抗体は、脱免疫化型のSC104またはその抗原結合性フラグメントである。抗体の脱免疫化(deimmunisation)は、当技術分野でよく理解されている方法である。例えば、ネズミ科動物の抗体などの抗体の脱免疫化による免疫原性の低下については、WO 00/34317、WO 98/52976、WO 02/079415、WO 02/012899およびWO 02/069232に記載されている(これらの開示は、相互参照により本明細書に組み込まれている)。一般に、脱免疫化は、潜在的なT細胞エピトープ内でアミノ酸の置換を行うことを必要とする。このような方法で、細胞内タンパク質プロセッシングによって所与の配列がT細胞エピトープに生じる可能性が低下される。さらに、WO 92/10755には、タンパク質上の抗原決定基を改変するアプローチが記載されている。詳細には、タンパク質をエピトープマッピングし、そのアミノ酸配列を遺伝子改変によって変更している。
【0022】
他の実施形態において、抗体は、ヒト化型のSC104である。一般に、ヒト化は、例えば、CDR-移植の場合のように、ヒト以外の抗体の配列を対応するヒトの配列に置換することを必要とするこのアプローチの例は、WO 91/09968および米国特許第6,407,213号に記載されている。上述のように、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合するいくつかのヒト化型のSC104が開発されている。これらのヒト化抗体は、同時係属中の国際特許出願第WO 2010/105290号に記載されている。
【0023】
これに関して、本発明の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号7、配列番号8、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号62、配列番号69、配列番号70、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、および配列番号94からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む。
【0024】
さらに好ましい一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号7/配列番号25、配列番号7/配列番号50、配列番号7/配列番号94、配列番号8/配列番号26および配列番号8/配列番号38からなる群から選択される軽鎖と重鎖との組合せを含む。
【0025】
理解されるであろうように、本発明に記載の配列は、例えば、親和性成熟によって、結合を増加させるために、または予測されるMHCクラスII-結合モチーフを除去することによって免疫原性を減少させるために、当技術分野においてよく知られている方法を使用して改変されてもよい。本明細書に展開および記載の配列の治療的有用性は、その機能的特性、例えば、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、補体依存性細胞傷害性(CDC)、血清半減期、体内分布およびFc受容体への結合またはこれらのあらゆる組合せなどを調節することによって、さらに高めることができる。この調節は、タンパク質改変、糖鎖改変または化学的方法によって達成することができる。必要とされる治療的用途によっては、これらのいずれかの活性を増大または減少させることが有利となりうる。
【0026】
糖鎖改変の例は、Shinkawa T.ら、2003(J Biol Chem 278:3466〜73)に記載されているように、Potelligent(登録商標)法を使用したものである。ヒト化抗体異型の可変軽鎖領域および可変重鎖領域は、標準的な定常領域主鎖上のIgG1として発現された。定常重鎖の配列はGenBankアクセッション番号P01857.1であって、定常軽鎖の配列はNCBIアクセッション番号P01834であった。
【0027】
抗体の親和性成熟のための多数の方法が当技術分野において知られている。これらのうちの多くは、親和性の改良のための変異誘発およびその後の選択および/またはスクリーニングによって異型タンパク質のパネルまたはライブラリーを作製する一般的な戦略に基づくものである。変異誘発は、例えば、エラープローンPCR(Thie、Voedischら 2009)によって、遺伝子シャフリング(KolkmanおよびStemmer 2001)によって、変異誘発性化学物質もしくは照射を使用することによって、エラーを起こしやすい複製機構を有する「変異誘発」株(Greener 1996)を使用することによって、または天然の親和性成熟機構を利用する体細胞超変異のアプローチ(Peled、Kuangら 2008)によって、DNAレベルで行われることが多い。また、変異誘発は、例えば、QPレプリカーゼ(Kopsidas、Robertsら 2006)を使用することによって、RNAレベルでも行うことができる。改良された異型タンパク質のスクリーニングを可能にする、ライブラリーに基づく方法は、ファージ、酵母、リボソーム、細菌または哺乳類の細胞などの多様なディスプレイ技術に基づいていてもよく、当技術分野においてよく知られている(Benhar 2007)。親和性成熟は、より方向性のある/予測的な方法によって、例えば、3Dタンパク質モデル化からの知見によって導かれる部位特異的変異導入法または遺伝子合成(例えば、Queen、Schneiderら 1989または米国特許6,180,370もしくは米国特許5,225,539を参照されたい)によって、達成することもできる。
【0028】
ADCCを増大させる方法は、Ferrara、Brunkerら 2006;Li、Sethuramanら 2006;Stavenhagen、Gorlatovら 2007;Shields、Namenukら 2001;Shinkawa、Nakamuraら 2003;およびWO 2008/006554によって記載されている。
【0029】
CDCを増大させる方法は、Idusogie、Wongら 2001;Dall'Acqua、Cookら 2006;Michaelsen、Aaseら 1990;Brekke、Bremnesら 1993;Tan、Shopesら 1990;およびNorderhaug、Brekkeら 1991によって記載されている。
【0030】
ADCCおよびCDCを増大させる方法を記載している参考文献としては、Natsume、Inら 2008などが挙げられる。これらの参考文献のそれぞれの開示は、相互参照により本明細書に含まれている。
【0031】
抗体の血清半減期および体内分布を調節するいくつかの方法は、IgGを異化から保護し、かつ高い血清抗体濃度を維持するのに重要な役割を有する受容体である、新生児Fc受容体(FcRn)と抗体との間の相互作用を変更することに基づいている。Dall'Acquaらは、FcRnへの結合親和性を増強し、このことにより、血清半減期を増加させる、IgG1のFc領域における置換を記載しており(Dall'Acqua、Woodsら 2002)、さらに、M252Y/S254T/T256Eの3つの置換での生物学的利用能の増強およびADCC活性の調節を実証している(Dall'Acqua、Kienerら 2006)。米国特許第6,277,375号;第6,821,505号;および第7,083,784号も参照されたい。Hintonらは、in vivoでの半減期を増加させる、部位250および428における定常領域アミノ酸置換を記載している(Hinton、Johlfsら 2004)。(Hinton、Xiongら 2006)。米国特許第7,217,797号も参照されたい。Petkovaらは、in vivoでの半減期を増加させる、部位307、380および434における定常領域アミノ酸置換を記載している(Petkova、Akileshら 2006)。Shieldsら 2001およびWO 2000/42072も参照されたい。Fc受容体への結合、およびこの受容体によって媒介される、FcRn結合および血清半減期を含む、その後の機能を調節する定常領域アミノ酸置換の他の例は、米国特許出願第20090142340号;第20090068175号;および第20090092599号に記載されている。
【0032】
抗体分子に結合されたグリカンは、Fc受容体およびグリカン受容体との抗体の相互作用に影響し、かつこのことにより、血清半減期を含む、抗体活性に影響することが知られている(Kaneko、Nimmerjahnら 2006;Jones、Papacら 2007;およびKanda、Yamadaら 2007)。したがって、望ましい抗体活性を調節する特定のグリコフォームは、治療的利点を与えうる。改変グリコフォームを作製する方法は、当技術分野において知られており、米国特許第6,602,684号;第7,326,681号;第7,388,081号;およびWO 2008/006554に記載されているものなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
ポリエチレングリコール(PEG)の添加による半減期の延長は、例えばFishburn 2008により、総説されているように、タンパク質の血清半減期を延長するために広く使用されている。
【0034】
理解されるであろうように、本発明の配列内で保存的アミノ酸置換をすることが可能である。「保存的置換」とは、同様の特性を有するアミノ酸を意味する。本明細書中で使用される場合、以下の群のアミノ酸は保存的置換とみなされる:
H、RおよびK;
D,E,NおよびQ;
V、IおよびL;
CおよびM;
S、T、P、AおよびG;ならびに
F、YおよびW。
【0035】
本明細書の全体にわたり、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変形は、他のあらゆる要素、整数もしくはステップ、または、要素、整数もしくはステップの群の除外を意味するものではなく、一定の要素、整数もしくはステップ、または、要素、整数もしくはステップの群の包含を意味するものであることが理解されるであろう。
【0036】
本明細書中で言及しているすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれている。本明細書中に含まれている文書、行為、材料、装置、論文などについてのあらゆる説明は、単に本発明の背景を提供するためのものである。これらは、これらの事項のいずれかもしくはすべてが、本出願の各請求項の優先権主張日前にオーストラリアまたは他の場所に存在したからといって、従来技術の基礎の一部を形成していることまたは本発明に関連する当分野における共通一般知識であったことを認めるものとしてみなされるべきではない。
【0037】
本発明の性質がよりよく理解されうるように、以下の実施例を参照することにより、その好ましい形態をこれから説明していく。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
免疫組織化学プロトコル
免疫組織化学を用いて、異なるドナーからの一範囲の腫瘍型の試料を含有する多腫瘍ヒト組織マイクロアレイを、ビオチン化されたヒト化SC104抗体異型に対する結合についてスクリーニングした。ビオチン化されたヒトIgG1アイソタイプを陰性対照染色に使用した。該抗体による免疫反応性を、染色強度および陽性細胞の百分率に基づいた4段階スケールの目視検査によって等級分けした。
【0039】
ヒト化SC104抗体異型は、多様なヒトがん型に結合する
異なるヒト患者からのいくつかの異なるがん型を、ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)との結合について解析した。該ヒト化SC104抗体はヒト結腸がん組織に結合したが、ヒトアイソタイプ対照は結合せず、用いた結合条件の特異性が実証された(データは示していない)。Table2(表3)により、結腸がんにおいて陽性膜染色が最高75%まで認められたことが要約される。驚くべきことに、膵がんにおいて最高95%までの高頻度の陽性染色が認められ、他の固形腫瘍ではより低い程度であった。これに対して、消化管間質腫瘍では、染色は認められなかった。これらの結果により、該ヒト化SC104抗体は、結腸直腸、膵臓、卵巣および肺の悪性腫瘍の指標において、腫瘍診断に有用であることが示唆される。さらに、該ヒト化SC104抗体は、ヒトにおける結腸直腸、膵臓、卵巣および肺のがんの治療に有用であることが予想されうる。こうしたin vivoでの抗腫瘍効力は、マウス腫瘍異種移植モデルにおいて評価することもできる。
【0040】
さらなる組織マイクロアレイを、異種移植としてヌードマウスに継代された原発性のヒトの結腸腫瘍および胃腫瘍から構築した。抗体プレ複合体形成(precomplexing)法およびHRP可視化を用いて、腫瘍試料を、ヒト化SC104抗体に対する結合についてスクリーニングした。ヒト化SC104抗体を、抗ヒトFab-FITCと予め複合体形成させ、過剰なヒトIgGでブロッキングし、続いて、この複合体を、組織マイクロアレイ上でインキュベートされる一次抗体試薬として利用した。陰性対照染色では、ヒト化SC104抗体をヒトIgG1アイソタイプ対照に換えた。該抗体による免疫反応性を、以下の5段階スケールの目視検査によって等級分けした:0=染色なし、1=わずかな染色斑、2=一様な陽性染色、3=>50%の陽性染色、4=飽和された染色。染色データを、3切片の平均として表し、図1に示している。
【0041】
KRAS遺伝子の状態の解析
マウス異種移植として継代した原発性ヒト腫瘍のゲノムDNAを、KRAS遺伝子のエキソン1およびエキソン2において解析した。ヌクレオチドシーケンシング解析により、KRASタンパク質においてエキソンが正常にコードされているかまたは変異を活性化しているかどうかが明らかにされた。変異型KRAS試料の大部分は、異種接合であった。
【0042】
ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)は、免疫組織化学的解析を用いて、変異型および正常なKRAS遺伝子状態を有するヒト消化管がん組織に結合する(図1)。
【0043】
ヒト化してPotelligent(登録商標)で改変したSC104抗体(配列番号7/配列番号94)も、ヒト結腸がん細胞を変異型または野生型のKRAS遺伝子と結びつけることが組織化学により示された(図2)。
【0044】
[実施例2]
フローサイトメトリーに基づく結合アッセイ
生存可能な腫瘍細胞および対照細胞(2x105、トリパンブルー排出によって決定される)を、96V-ウェルプレート(Eppendorf)中の100μlの緩衝液(PBSに加えて1%FCS)中、多様な濃度のマウスSC104、キメラSC104またはヒト化異型の三通り、およびヒトIgG1アイソタイプ(Sigma-Aldrich(登録商標))と共に、氷上、暗所で20分間インキュベートした。細胞を緩衝液で2回洗浄し、その後、キメラまたはマウスの抗体を検出するために、それぞれヤギ抗ヒトIgG(Fc-特異的、Sigma-Aldrich(登録商標)、FITCに結合されている)またはヤギ抗マウスIgG(Fc-特異的、Sigma-Aldrich(登録商標)、FITCに結合されている)を含有する100μlの緩衝液中で20分間インキュベートした。洗浄後、細胞を緩衝液に再懸濁し、Cell Lab Quanta(商標) SC MPL(Beckman Coulter)上でのフローサイトメトリーによってElectronic Volume(EV)、側方散乱光およびFL-1ゲートを使用して抗体結合について解析した;取得中、96-ウェルプレート中の細胞を、下に敷いた冷却パック(Eppendorf)によって冷却した。結果を平均蛍光強度(MFI)として示した;曲線勾配値は、GraphPad Prism(登録商標)ソフトウェアによる非線形回帰分析を使用して算出した。
【0045】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)アッセイ
Lymphoprep(商標)を製造業者のプロトコル(Axis-Shield PoC AS)に従って使用して、(Australian Red Cross Blood Servicesによって提供される)正常ヒトドナーのバフィーコート調製物からエフェクター(末梢血単核)細胞を精製した。生存可能なエフェクター細胞(5x106/ml)を、10%FCSを加えたRPMI1640(Gibco(登録商標))中、37℃、10%CO2で一晩インキュベートした。腫瘍標的細胞およびエフェクター細胞を、PBS中で洗浄し、その後、培地(RPMI1640 フェノールレッド不含、Gibco(登録商標)、0.5%FCS添加)中で洗浄して、培地に再懸濁し、96-ウェルUウェルプレート(Corning(登録商標))中の以下の最終濃度からなる200μlのアッセイ中、多様な濃度の抗体(キメラSC104、ヒト化SC104またはヒトIgG1アイソタイプ、Sigma-Aldrich(登録商標)、#I5154)と共に三通りでインキュベートした:標的細胞、1x105細胞/ml;エフェクター細胞、2.5x106細胞/ml;抗体範囲10から0.001μg/ml。対照としては、標的細胞のみを、1%Triton(登録商標)-X(Sigma-Aldrich(登録商標))の非存在下(最小標的)または存在下(最大標的)でインキュベートし、標的細胞およびエフェクター細胞(バックグラウンド)を、抗体の非存在下でインキュベートした。プレートを、160xgで2分間遠心処理して、加湿したCO2雰囲気中、37℃で4時間インキュベートした。乳酸デヒドロゲナーゼ放出アッセイを使用して細胞死を測定した。簡単に説明すると、プレートを250xgで5分間遠心処理し、Cytotoxicity Detection Kit(Roche)を製造業者の指針に従って使用して、100μlの細胞上清を乳酸デヒドロゲナーゼ放出について試験した。細胞の持ち越しの混入を最小限に抑えるために、該上清を、96-ウェルの0.2ミクロンAcroPrep(商標)プレート(Pall)に通して濾過した。LDH放出は、492nmにおける吸光度を読み取ることによって定量し、百分率の細胞傷害性は、以下の式を使用して算出した:100x[試料-平均(バックグラウンド)]/平均(最大標的-最小標的);EC50値は、GraphPad Prism(登録商標)ソフトウェアによる非線形回帰分析を使用して算出した。
【0046】
補体依存性細胞傷害性(CDC)アッセイ
生存可能な腫瘍標的細胞を、96-ウェル平ウェルプレート(Corning(登録商標))中の以下の最終濃度からなる150μlのアッセイ中、ヒト補体血清(Sigma-Aldrich(登録商標) #S1764)、および多様な濃度の抗体(キメラSC104、ヒト化SC104またはヒトIgG1アイソタイプ、Sigma-Aldrich(登録商標)、#I5154)を三通りで含む、培地(RPMI1640 フェノールレッド不含、Gibco(登録商標)、5%FCS添加)中でインキュベートした:標的細胞、13.3x104細胞/ml;補体、15%;抗体範囲10から0.01μg/ml。対照としては、標的細胞のみを、補体の非存在下(標的バックグラウンド)または存在下(標的および補体のバックグラウンド)でインキュベートし、補体(補体バックグラウンド)を、培地のみの中でインキュベートした。プレートを、160xgで2分間遠心処理して、加湿したCO2雰囲気中、37℃で2〜3時間インキュベートした。CellTiter 96(登録商標)キット(Promega(登録商標))を、3〜4時間のさらなるインキュベート時間を含む、製造業者の指針に従って使用して、細胞死を測定した。標的細胞の死は、492nmにおける吸光度を読み取ることによって定量し、百分率の細胞傷害性は、以下の式を使用して算出した:100x[試料-平均(標的および補体のバックグラウンド)]/[平均(補体のバックグラウンド)-平均(標的および補体のバックグラウンド)];EC50値は、GraphPad Prism(登録商標)ソフトウェアによる非線形回帰分析を使用して算出した。
【0047】
新規ヒト化SC104抗体異型は、ヒト結腸腫瘍細胞に対する強力な細胞傷害性を有する
結腸腫瘍細胞に対するヒト化SC104異型の細胞傷害性を、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性アッセイおよび補体依存性細胞傷害性アッセイにおいて試験した。該ヒト化SC104抗体異型および該キメラSC104抗体は、正常ヒトドナーの末梢血単核細胞を使用して、C170腫瘍細胞に対する強力な抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有したが、ヒトアイソタイプ対照は有さなかった(図3)。他のヒトドナーからの末梢血単核細胞を使用しても同様の結果が得られた(データは示していない)。図4により、同一パネルのヒト化SC104抗体異型および該キメラSC104抗体は、ヒト補体を使用して、Colo205腫瘍細胞に対する強力な補体依存性細胞傷害性を有したが、ヒトアイソタイプ対照は有さなかったことが示される。Table 3(表4)に該ヒト化SC104抗体異型についての結合活性および殺滅活性をまとめている。
【0048】
[実施例3]
フローサイトメトリーに基づく直接殺滅アッセイ
生存可能な腫瘍細胞(2x105、トリパンブルー排出によって判定される)を、96V-ウェルプレート(Eppendorf)中の80μlの緩衝液(PBSに加えて1%FCS)中、多様な濃度のマウスSC104、キメラSC104またはヒト化異型の三通り、およびヒトIgG1アイソタイプ(Sigma-Aldrich(登録商標))と共に、室温、暗所で2.5から3時間インキュベートした。各ウェルに、20μlの緩衝液中、0.15gの7AAD(BD(登録商標) Biosciences)を添加して、細胞をさらに20分間インキュベートし、その後、Cell Lab Quanta(商標) SC MPL(Beckman Coulter)上でのフローサイトメトリーによってElectronic Volume(EV)、側方散乱光およびFL-3ゲートを使用して細胞生存率を試験した;取得中、96-ウェルプレート中の細胞を、下に敷いた冷却パック(Eppendorf)によって冷却した。結果を7AAD+細胞の百分率として示した;曲線勾配値は、GraphPad Prism(登録商標)ソフトウェアによる非線形回帰分析を使用して算出した。
【0049】
ヒト膵細胞系に対する結合活性および殺滅活性
フローサイトメトリーアッセイにおいて測定されるように、ヒト化してPotelligent(登録商標)で改変したSC104抗体(配列番号7/配列番号94)は、KRAS変異を有するかまたは有さないヒト膵腫瘍細胞系に結合してこれを直接的に殺滅する。
【0050】
【表1】

【0051】
[実施例4]
アッセイに使用されるヒト結腸がん細胞系
DLD-1(ATCCアクセッション番号CCL-221;KRAS変異体;BRAF野生型)、Colo201(ATCCアクセッション番号CCL-224;KRAS野生型;BRAF変異体)、Colo205(ATCCアクセッション番号CCL-222;KRAS野生型;BRAF変異体)、WiDr(ATCCアクセッション番号CCL-218;KRAS野生型;BRAF変異体)およびHT-29(ATCCアクセッション番号HTB-38;KRAS野生型;BRAF変異体)。これらの細胞系は、そのKRASまたはBRAF遺伝子内に変異を有することが知られている((Seth、Crookら 2009);(Davies、Logieら 2007))。
【0052】
ヒト化SC104抗体は、KRASまたはBRAF遺伝子内に変異を有するヒト結腸腫瘍細胞に対する強力な殺滅活性を有する
ヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)は、正常ヒトドナーの末梢血単核細胞を使用して、KRASまたはBRAFの変異を有する1パネルのヒト結腸がん細胞系に対する強力な抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有したが、ヒトアイソタイプ対照は有さなかった。図5は、変異型のKRAS遺伝子を有するがBRAF遺伝子は野生型であることが知られている細胞系DLD-1の殺滅を示している。図6は、変異型のBRAF遺伝子を有するがKRAS遺伝子は野生型であることが知られている細胞系Colo201、Colo205、WiDrおよびHT-29の殺滅を示している。これらの細胞系および他のヒトドナー由来の末梢血単核細胞を使用して、同様の結果が得られた。ADCC作用は、実施例2に記載のように測定した。
【0053】
[実施例5]
SC104抗体のエフェクター機能の増強
抗体のエフェクター機能は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性もしくは補体依存性細胞傷害性を増大させることによって、または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性と補体依存性細胞傷害性との組合せによって増強することができる。
【0054】
ADCCの増強
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)活性の増強のために、抗体のFc領域に標準的な改変を用いて、SC104抗体異型およびキメラSC104を改変した。標準的な方法としては、例えば、抗体のFc領域のタンパク質改変または糖鎖改変などが挙げられる。
【0055】
糖鎖改変の一実施例として、Zhouらに従って、ヒト化SC104抗体異型またはキメラSC104抗体を産生しているCHO細胞を、キフネンシン(0.25μg/ml)と共に8〜10日間インキュベートした(Zhou、Shankaraら 2008)。続いて、抗体を精製して、実施例2に記載のようにADCC作用を測定した。
【0056】
タンパク質改変の一実施例として、Lazarら、2006によって記載されているように、定常重鎖配列内に変異を生成させた(Lazar、Dangら 2006)。特に、S122D、S181A、I215Eの変異は、Fc配列の配列番号52に導入され、配列番号53を形成した。増強されたFc領域配列番号53を有するいくつかのヒト化抗体を、キメラ抗体と共に、CHO細胞におけるこれらの発現およびプロテインAクロマトグラフィーによる精製後に、ADCCアッセイにおいて試験した。ADCC作用は、実施例2に記載のように測定した。
【0057】
糖鎖改変のもう1つの実施例は、Shinkawa T.ら、2003(J Biol Chem 278:3466〜73)に記載されているようなPotelligent(登録商標)法を使用したものである。該ヒト化抗体異型の可変軽鎖および重鎖領域を、標準的な定常領域主鎖上のIgG1として発現させた。定常重鎖の配列は、GenBank P01857.1であり、定常軽鎖の配列は、NCBIアクセッション番号P01834であった。ADCC作用は、実施例2に記載のように測定した。
【0058】
エフェクター増強されたSC104ヒト化抗体異型およびキメラSC104抗体は、増大された抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を有する
一連の試験において、キメラSC104抗体およびSC104ヒト化抗体異型の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を増大させるために、タンパク質改変または糖鎖改変を適用した。未改変の抗体と比較して、Fcを改変した(配列番号53)またはキフネンシン処理したSC104ヒト化抗体異型およびキメラSC104抗体は、Colo205腫瘍細胞に対して増大された抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性を示した。図7は、キフネンシン処理したヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)による、ヒト結腸がん細胞WiDr(ATCCアクセッション番号CCL-218)の著しく増加した殺滅の例を示している。
【0059】
[実施例6]
マウス異種移植腫瘍モデル
2x106個のヒト結腸がんHT-29細胞(ATCCアクセッション番号HTB-38)を、雌のBALB/cヌードマウスに皮下接種した。腫瘍細胞の接種(0日目)と同じ日に、マウスを、体重に基づいて2つの処理群に無作為化した(1群あたりn=10)。各群を、ビヒクル対照(PBS、10ml/kg)またはヒト化SC104抗体(10mg/kg)のいずれかで腹膜内に処理した。ビヒクル対照およびヒト化SC104抗体を、週2回、4週間投与した。以下の式を用いて、腫瘍体積を週3回算出した:体積(mm3)=長さx直径2xπ/6。
【0060】
試験の過程で、過度の体重減少のために数匹のマウスを除外しなければならなかったので、結果として、ビヒクル対照(n=6)および抗体(n=9)処理群のマウス数が減少した。試験の終了時に(27日目)、腫瘍をすべてのマウスから死後に摘出して、表皮の洗浄をして計量した。
【0061】
in vivoでのヒト化SC104抗体の強力な抗腫瘍効力
腫瘍を有するマウスをヒト化SC104抗体(配列番号7/配列番号50)で処理することにより、結果として、ビヒクル対照処理と比較して、腫瘍体積および腫瘍重量が有意に減少した(図8)。ヒト化SC104抗体異型は、単独療法または他の治療用抗腫瘍剤、例えば、化学療法、小分子または生物との併用のいずれとしても、ヒトにおける大腸がんの治療に有用であると予想することができる。こうした併用療法のin vivoでの効力は、マウス腫瘍異種移植モデルにおいて評価されうる。
【0062】
[実施例7]
競合アッセイ
SC104抗原陽性結腸がん細胞(Colo205;ホルムアルデヒド固定した細胞)を多様な濃度で競合抗体(ヒト化SC104異型 配列番号7/配列番号50または対照ヒトIgG1アイソタイプ)と共にインキュベートし、その後、固定の濃度(1μg/ml、上方パネル;10μg/ml、下方パネル)のFITC結合型マウスSC104抗体とインキュベートした;その後のシグナル解析は、フローサイトメトリー解析によって行った。
【0063】
図9に示しているように、競合抗体とのインキュベートにより、マウスSC104の結合が、用量依存的様式で(対照アイソタイプ抗体とのインキュベートに対して)特異的に減少した;等しい濃度レベルのマウス抗体および競合抗体において、マウスSC104の結合は、アイソタイプ対照抗体と比較して、約23%(上方パネル)または約32%(下方パネル)減少した。各点は、複製した3つの試料の平均±SDを示している。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
[参考文献]




【0068】
配列表の概要
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんを治療する方法であって、ここで、前記方法が有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを対象に投与するステップを含み、抗体またはその抗原結合性フラグメントがヒト結腸癌がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する方法。
【請求項2】
対象におけるがんを治療する方法であって、前記方法が、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子の存在についてがんを試験するステップと、がんが変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含む対象に有効量の抗体またはその抗原結合性フラグメントを投与するステップとを含み、抗体またはその抗原結合性フラグメントがヒト結腸癌がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する方法。
【請求項3】
がんが、結腸がん、膵がんおよび胃がんからなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗体がSC104キメラである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
キメラが配列番号4/配列番号2である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗体が脱免疫化SC104抗体またはその抗原結合性フラグメントである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
抗体がヒト化SC104抗体またはその抗原結合性フラグメントである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ヒト化抗体または抗原結合性フラグメントが、配列番号7、配列番号8、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号62、配列番号69、配列番号70、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、および配列番号94からなる群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ヒト化抗体または抗原結合性フラグメントが、配列番号7/配列番号25、配列番号7/配列番号50、配列番号7/配列番号94、配列番号8/配列番号26および配列番号8/配列番号38からなる群から選択される軽鎖と重鎖との組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんを治療するための医薬品の調製における、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用。
【請求項11】
がんが、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子の存在について試験されている、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
対象における、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子を含むがんの治療における、ヒト結腸がん細胞系Colo205に対する結合でSC104と競合する抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項13】
がんが、変異型のKRASまたはBRAF遺伝子の存在について試験されている、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−509451(P2013−509451A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537262(P2012−537262)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001446
【国際公開番号】WO2011/054030
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(500468537)セファロン・オーストラリア・ピーティーワイ・リミテッド (16)
【Fターム(参考)】