説明

変速機のシフト操作部材

【課題】スリーブに係合する2つの爪部における剛性がバランスして偏摩耗などの弊害が発生せず、小形軽量でコスト低廉な変速機のシフト操作部材を提供する。
【解決手段】取付部21及び、取付部21から両側に湾曲して延在する2つの腕部及び、各腕部の先端に形成されて略環状のスリーブの外周溝に係合する爪部24、25を有するシフトフォーク2と、シフトフォーク2の取付部21に結合してスリーブの軸線AX方向に移動可能なフォークシャフト3とを備え、スリーブを軸線AX方向にシフト操作する変速機のシフト操作部材1であって、シフトフォーク2の2つの腕部は、長さが異なる長腕部22及び短腕部23であり、フォークシャフト3の軸線AXと直交する断面の剛性に異方性があり、最も剛性の強い方向に延びる中心線CLと長腕部23の先端の爪部25との距離Rxが、中心線CLと短腕部24の先端の爪部25との距離Lxよりも小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機内の同期装置などに用いられるスリーブをシフト操作するシフト操作部材に関し、より詳細にはシフト操作部材の剛性バランスの改善に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の歯車対を常時噛合遊転させ、同期装置を用いて歯車対のひとつを選択的に噛合結合して所望する変速比を得る常時噛合歯車式変速機において、同期装置のスリーブをシフト操作するためにシフト操作部材が用いられる。シフト操作部材は、スリーブに係合するシフトフォークと、シフトフォークをスリーブの軸線方向に押動操作するフォークシャフトとにより構成されるのが一般的である。シフトフォークは、取付部から両側に湾曲して延在する2つの腕部と、腕部の先端に形成されて略環状のスリーブの外周溝に係合する爪部とを有している。フォークシャフトは、シフトフォークの取付部に結合してスリーブの軸線方向に移動するようになっている。この種のシフト操作部材の先行技術の例が特許文献1及び2に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示される車両用手動変速機のシフトフォークは、取付部と、取付部から半円状に湾曲して延設された腕部と、腕部の両端部に形成された一対の爪部とを備え、腕部に複数の摺接突部が設けられている。これにより、シフトフォークにかけられる荷重に対して段階的に摺接突部が摺接し、シフト効率の低下を低減させることができるとされている。また、特許文献2に開示されるシフトフォークの潤滑構造は、シフトフォークの両側先端部の爪部が潤滑油供給機構を備えている。これにより、スリーブと爪部の間の油膜切れを防止でき、焼付き及び摩耗を回避できるとされている。なお、両文献で、フォークシャフト(シフトシャフト)には丸棒形状が例示されている。
【0004】
特許文献1及び2に例示されるシフトフォークを用いたとき、同期装置のスリーブに傾きが発生した状態で押動操作すると、シンクロナイザリングのコーン面の面圧に偏りが発生して、偏摩耗が生じてしまう。このため、スリーブを押動操作するシフトフォークの2つの腕部及び爪部の剛性が等しく、同じだけたわんで同じだけの荷重を発生させることが要求される。しかしながら、シフトフォークの形状は、変速ギヤや回転軸などの周辺部材との干渉を避けるために、左右非対称形状となる場合が多い。このため、従来技術では左右の腕部の長さを調節したり、補強用のリブを適宜設けたりして左右の剛性バランスを保つようにしている。リブなどを有する比較的複雑な形状のシフトフォークは、鋳造加工により製造されるのが一般的になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−32166号公報
【特許文献2】特開2009−204031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シフト操作部材の小形軽量化および低コスト化を志向したとき、左右非対称形状のシフトフォークの剛性バランスが低下して、左右の腕部の変位量のアンバランスや爪部の荷重のアンバランスが顕著になるという問題点が生じる。例えば、シフトフォークの腕部をスリム化して軽量化しかつ鋳造でなく安価なプレス成型加工で製造しようとすると、大きなリブを形成して補強することが難しくなる。これにより、2つの腕部における変位量は、腕部の長さに依存してアンバランスする。また、フォークシャフトを軽量化すれば、フォークシャフトのたわみ(変形)も左右のアンバランスに影響する。したがって、シフトフォーク及びフォークシャフトを含んだシフト操作部材全体で、剛性バランスの改善を図ることが望ましい。
【0007】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、スリーブに係合する2つの爪部における剛性がバランスして偏摩耗などの弊害が発生せず、小形軽量でコスト低廉な変速機のシフト操作部材を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する変速機のシフト操作部材の発明は、取付部及び、前記取付部から両側に湾曲して延在する2つの腕部及び、各腕部の先端に形成されて略環状のスリーブの外周溝に係合する爪部を有するシフトフォークと、前記シフトフォークの前記取付部に結合して前記スリーブの軸線方向に移動可能なフォークシャフトとを備え、前記スリーブを前記軸線方向にシフト操作する変速機のシフト操作部材であって、前記シフトフォークの前記2つの腕部は、長さが異なる長腕部及び短腕部であり、前記フォークシャフトの前記軸線と直交する断面の剛性に異方性があり、最も剛性の強い方向に延びる中心線と前記長腕部の先端の爪部との距離が、前記中心線と前記短腕部の先端の爪部との距離よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
さらに、前記フォークシャフトは、前記軸線と直交する断面が長方形断面であって、最も剛性の強い方向に延びる前記中心線が前記長方形断面の長辺に平行していることが好ましい。
【0010】
また、前記シフトフォークをプレス成型加工により製造してもよい。
【発明の効果】
【0011】
変速機のシフト操作部材の発明では、シフトフォークは長さが異なる長腕部及び短腕部を有し、フォークシャフトの断面の剛性に異方向性があり、最も剛性の強い方向に延びる中心線と長腕部の先端の爪部との距離が、中心線と短腕部の先端の爪部との距離よりも小さい。この構成でスリーブを軸線方向に押動操作するとき、スリーブから長腕部側爪部及び短腕部側爪部に等しい荷重が作用している場合を想定する。すると、シフトフォーク単独で考えたときのたわみ量(変形量)は腕部の長さに依存するモーメントで定まるので、長腕部側爪部のたわみ量が大きく、短腕部側爪部のたわみ量が小さくなる。
【0012】
また、爪部に作用する荷重はフォークシャフトまで伝わりフォークシャフトをたわませる。このとき、フォークシャフトの剛性の強い方向のたわみ量はわずかで、剛性の弱い方向のたわみ量が顕著になる。したがって、フォークシャフトは、中心線と直交する方向に顕著に曲がり、中心線からの距離が大きくモーメントが大きくなる短腕部側に曲がる。フォークシャフトの曲がりは、爪部に軸線方向の変位量を発生させ、2つの爪部で変位の方向が逆になる。この変位量は、長腕部側爪部ではシフトフォーク単独で考えたときのたわみ量から減算され、短腕部側爪部ではシフトフォーク単独で考えたときのたわみ量に加算される。つまり、長腕部側爪部では大きなたわみ量から変位量が減算され、短腕部側爪部では小さなたわみ量に変位量が加算される。これにより、シフト操作部材全体としてみたときの長腕部側爪部及び短腕部側爪部の変位量が均等化され、剛性バランスが良好になる。したがって、左右の腕部の変位量や爪部の荷重のアンバランスが抑制され、シンクロナイザリングのコーン面の偏摩耗などの弊害は生じない。
【0013】
また、この技術的思想を採用することで、シフト操作部材の小形軽量化および低コスト化を達成できる。特に、フォークシャフトが長方形断面とされる態様では、従来の丸棒形状よりも軽量の板形状のフォークシャフトを用いることができ、小形軽量化の効果が顕著になる。また、シフトフォークをプレス成型加工により製造する態様では、従来の鋳造よりも安価に製造でき、低コスト化の効果が顕著になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】変速機内の同期装置およびシフト操作部材の一般的な構成を説明する部分断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の変速機のシフト操作部材を模式的に説明する図であり、(1)は軸線と直交する部分断面図、(2)は(1)のX方向視図、(3)は(1)のY方向視図である。
【図3】第1実施形態のシフト操作部材の作用を模式的に誇張して説明する図であり、(1)はシフトフォーク単独で考えたときのたわみ量(変形量)を示すY方向視図、(2)はフォークシャフトの曲がりの影響を示すY方向視図である。
【図4】第2実施形態のシフト操作部材を模式的に説明する軸線と直交する部分断面図ある。
【図5】第3実施形態のシフト操作部材を模式的に説明する軸線と直交する部分断面図ある。
【図6】第4実施形態のシフト操作部材を模式的に説明する図であり、(1)は軸線と直交する部分断面図、(2)は参考形態の部分断面図である。
【図7】従来のシフト操作部材を示し、(1)は軸線延長方向から見た図、(2)は側面方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための第1実施形態を、図1〜図3を参考にして説明する。図1は、変速機内の同期装置8およびシフト操作部材9の一般的な構成を説明する部分断面図である。同期装置8は、回転軸81に遊嵌された2つの変速ギヤ82、83のうちの一方を選択的に回転軸81に結合する装置であり、クラッチハブ84、スリーブ85、シンクロナイザリング86、87などにより、軸線AXを中心にして概ね軸対称に構成されている。クラッチハブ84は、回転軸81の外周に突設されて一体的に回転する環状の部位であり、その外周に外歯841を有している。スリーブ85は円筒状の部材であり、内周面にはクラッチハブ84の外歯841とスプライン嵌合する内歯851を有している。スリーブ85は、クラッチハブ84の外側で軸線方向に摺動するようになっている。スリーブ85の外周面には、外周溝852が全周に形成されている。
【0016】
2つの変速ギヤ82、83及びシンクロナイザリング86、87は、クラッチハブ84を挟んで類似の構造を有しており、一方を例にして説明する。変速ギヤ82は、ニードルベアリング821を介して回転軸81に遊転自在に軸支されている。変速ギヤ82は外周に歯822を有している。歯822は、回転軸81に平行に配置される別の回転軸(図示略)と一体回転するギヤ(図示略)の歯と常時噛合している。また、変速ギヤ82には、一体的に回転するギヤピース823が設けられている。ギヤピース823は、外周にスリーブ85の内歯851とスプライン嵌合する外歯824を有し、さらにクラッチハブ84側の側面にテーパー状に突出する外周コーン面825を有している。
【0017】
変速ギヤ82のギヤピース823とクラッチハブ84との間に、シンクロナイザリング86が配置されている。シンクロナイザリング86は、外周にスリーブ84の内歯841とスプライン嵌合する外歯861を有し、さらに内周にギヤピース823の外周コーン面825に摩擦係合可能な内周コーン面862を有している。
【0018】
スリーブ85が軸線方向(図1では左方向)に押動操作されると、まず、シンクロナイザリング86の内周コーン面862がギヤピース823の外周コーン面825に押圧されて摩擦係合し、回転軸81と変速ギヤ82との速度差が減少する。そして、同期が近づくとスリーブ85の内歯851がシンクロナイザリング88の外歯881に嵌合する。次いで、スリーブ85の内歯851がギヤピース823の外歯824に嵌合して同期が達成される。これにより、回転軸81と変速ギヤ82が同期回転する。スリーブ85を軸線方向に押動操作する部材として、シフトフォーク91およびフォークシャフト92からなるシフト操作部材9が用いられる。
【0019】
図2は、本発明の第1実施形態の変速機のシフト操作部材1を模式的に説明する図であり、(1)は軸線AXと直交する部分断面図、(2)は(1)のX方向視図、(3)は(1)のY方向視図である。第1実施形態のシフト操作部材1は、図1に示された同期装置8のスリーブ85を軸線方向に押動操作するものであり、シフトフォーク2およびフォークシャフト3で構成されている。
【0020】
シフトフォーク2は、断面が略矩形で、略円弧状に湾曲して延在する部材である。シフトフォーク2の円弧状の長さ方向の中央から偏移した位置に取付部21が形成されている。取付部21から円弧状の先端までの長さが長い側(図では右側)が長腕部22になり、短い側(図では左側)が短腕部23になる。長腕部22の先端には長腕部側爪部24が形成され、短腕部23側の先端には短腕部側爪部25が形成されている。長腕部側爪部24および短腕部側爪部25は、実際には或る接触面積を有してスリーブ85の外周溝852に係合するが、説明を簡易にするために模式的に点で示すこととする。長腕部側爪部24および短腕部側爪部25は、軸線AXを挟んで対称な位置に配置されている。
【0021】
フォークシャフト3は、シフトフォーク2の取付部21に結合している。結合方法としては、一方の部材に凸部を設け他方の部材に凹部を設けて嵌合させる方法や、溶接結合する方法を用いることができる。フォークシャフト3は、図略の変速機ハウジングに支持され、図略の操作機構により軸線AX方向に駆動されるように構成されている。フォークシャフト3は、軸線AXと直交する断面が長方形断面であって、軸線AX方向に延在している。長方形断面では、剛性に異方性があり、最も剛性の強い方向は長辺に平行している。したがって、剛性の強い長辺方向のたわみ量はわずかで、剛性の弱い短辺方向のたわみ量が顕著になる。つまり、図2(1)において、フォークシャフト3は上下に曲がりにくく、左右に曲がりやすい。
【0022】
また、図2(1)に示されるように、フォークシャフト3は、シフトフォーク2の外周円弧面に対し垂直でなく傾斜して結合されている。これにより、長方形断面の中心Cを通り長辺に平行する中心線CLは、軸線AXよりも長腕部側爪部24側に偏っている。また、中心線CLと長腕部側爪部24との距離Rxは、中心線CLと短腕部側爪部25との距離Lxよりも小さくなっている(Rx<Lx)。一方、中心Cと長腕部側爪部24との中心線CLに平行した距離Ryは、中心Cと短腕部側爪部25との中心線CLに平行した距離Lyよりも大きくなっている(Ry>Ly)。
【0023】
次に、上述のように構成された第1実施形態のシフト操作部材1の作用について説明する。図3は、第1実施形態のシフト操作部材1の作用を模式的に誇張して説明する図であり、(1)はシフトフォーク2単独で考えたときのたわみ量(変形量)Ra、Laを示すY方向視図、(2)はフォークシャフト3の曲がりの影響を示すY方向視図である。
【0024】
まず、スリーブ85を軸線AX方向に押動操作するとき、スリーブ85から長腕部側爪部24及び短腕部側爪部25に等しい荷重Fが図2(1)の紙面表側から裏側に向けて作用している場合を想定する。すると、シフトフォーク2単独で考えたときのたわみ量(変形量)Ra、Laは長腕部22および短腕部23の長さに依存するモーメントで定まり不均等になる。つまり、取付部21を支持するフォークシャフト3の中心Cをたわみの基準点と考えることができ、図3(1)に示されるように、距離Ryが大きな長腕部側爪部24のモーメントが大きくなってたわみ量Raが大きくなる。一方、距離Lyが小さな短腕部側爪部22のモーメントが小さくなってたわみ量Laが小さくなる。
【0025】
次に、両爪部24、25に作用する荷重Fによって生じるフォークシャフト3のたわみを考える。このとき、剛性の強い方向の曲がりはわずかであるので考慮せず、剛性の弱い短辺方向(中心線CLと直交する方向)の曲がりを考える。すると、短腕部側爪部25の中心線CLからの距離Lxは長腕部側爪部24の距離Rxよりも大きくモーメントが大きくなるので、図3(2)に示されるように、フォークシャフト3は短腕部23側に曲がる。このフォークシャフト3の曲がりは、短腕部側爪部25に軸線方向の変位量+Lbを発生させ、長腕部側爪部24に軸線方向の変位量−Rbを発生させる。2つの爪部の変位量+Lb、−Rbは異符号であり、変位の方向は逆になる。
【0026】
ここで、実際にはシフトフォーク2のたわみとフォークシャフト3のたわみは同時に発生する。このため、シフト操作部材1全体としてみたときの長腕部側爪部24及び短腕部側爪部25の実際の変位量ΔR、ΔLは、図3の(1)及び(2)を合算したものとなる。長腕部側爪部24では、変位量−Rbはシフトフォーク単独で考えたときのたわみ量Raから減算され、長腕部側爪部24の変位量ΔR(=Ra−Rb)が求められる。短腕部側爪部25では、変位量+Lbはシフトフォーク単独で考えたときのたわみ量Laに加算され、短腕部側爪部25の変位量ΔL(=La+Lb)が求められる。つまり、長腕部側爪部24では、大きなたわみ量Raから変位量−Rbが減算され、短腕部側爪部25では小さなたわみ量Laに変位量Lbが加算される。これにより、シフト操作部材1全体としてみたときの長腕部側爪部24及び短腕部側爪部25の変位量ΔR、ΔLが均等化され、剛性バランスが良好になる。
【0027】
次に、第1実施形態のシフト操作部材1の効果について、従来技術と比較して説明する。図7は、従来のシフト操作部材7を示し、(1)は軸線延長方向から見た図、(2)は側面方向から見た図である。従来のシフト操作部材7も、シフトフォーク71及びフォークシャフト72で構成される点は、本発明と同様である。しかしながら、従来のシフトフォーク71は、長腕部712及び短腕部713を構成する円弧状の部分と取付部711の間を面状の結合部716で結合している。さらに、結合部716の両縁には、取付部711から長腕部側爪部714および短腕部側爪部715に至る補強リブ717、718が設けられている。このように、従来のシフトフォーク71は、複雑な形状であり、鋳造加工により製作されている。また、従来のフォークシャフト72には、等方性でいずれの方向に対しても剛性の強い丸棒が用いられている。従来のシフト操作部材7では、たわみを抑制するだけの強い剛性を得るために、シフトフォーク71及びフォークシャフト72それぞれで剛性が強められており、結果として重量の増加およびコストの上昇を招いていた。
【0028】
これに対し、第1実施形態のシフト操作部材1では、シフトフォーク2は簡易な形状とされ、フォークシャフト3は従来の丸棒より軽量化されているが、全体としての剛性バランスが良好になっている。これにより、左右の腕部212,213の変位量のアンバランスや爪部214、215の荷重のアンバランスが抑制され、シンクロナイザリング86の内周コーン面862の偏摩耗などの弊害は生じない。
【0029】
特に、断面積の小さな長方形断面のフォークシャフト3を用いて剛性の低い方向における曲がりを利用してフォークシャフト3のたわみを打ち消すようにしており、加えて簡素な形状のシフトフォーク2を用いることで、小形軽量化の効果が顕著になっている。また、簡素な形状のシフトフォーク2は、プレス成型加工により製造できるので従来の鋳造よりも安価となり、低コスト化の効果が顕著になっている。
【0030】
次に、第2実施形態のシフト操作部材1Aについて説明する。図4は、第2実施形態のシフト操作部材1Aを模式的に説明する軸線AXと直交する部分断面図である。図4を図2と比較すればわかるように、第2実施形態ではシフトフォーク2Aおよびフォークシャフト3Aの形状は第1実施形態と概ね同様であるが、フォークシャフト3Aの中心線CLの位置が異なる。すなわち、フォークシャフト3Aの長方形断面の中心Cを通り長辺に平行する中心線CLは長腕部側爪部24を通っている(Rx=0)。この構成は、シフトフォーク2の取付部21におけるフォークシャフト3Aの結合の傾斜角度を変更することで実現できる。
【0031】
さらに、第3実施形態のシフト操作部材1Bについて説明する。図5は、第3実施形態のシフト操作部材1Bを模式的に説明する軸線AXと直交する部分断面図である。図5を図2と比較すればわかるように、第3実施形態ではシフトフォーク2Bおよびフォークシャフト3Bの形状は第1実施形態と概ね同様であるが、フォークシャフト3Bの中心線CLの位置が異なる。すなわち、フォークシャフト3Aの長方形断面の中心Cを通り長辺に平行する中心線CLは長腕部側爪部24の外側を通っている(Rx=−Rx1(負値))。換言すれば、軸線AX、短腕部側爪部25、および長腕部側爪部24の三者が、中心線CLの同じ側(図5では左側)に配置される。この構成は、シフトフォーク2の取付部21におけるフォークシャフト3Aの結合の傾斜角度を変更することで実現できる。
【0032】
第2実施形態では、中心線CL上にある長腕部側爪部24に作用する荷重Fは、フォークシャフト3Aの短辺方向(中心線CLと直交する方向)の曲がりに殆ど関与しない。そして、主に短腕部側爪部25に作用する荷重Fにより、フォークシャフト3Aが第1実施形態と同じ方向に(図3の(2)に示されるように)曲がる。また、第3実施形態では、短腕部側爪部25および長腕部側爪部24に作用する荷重Fによってフォークシャフト3Bに発生するモーメントは同方向となる。したがって、フォークシャフト3Bは、第1実施形態と同じ方向に顕著に曲がる。
【0033】
ここで、第2および第3実施形態におけるシフトフォーク2A、2B単独のたわみの作用は第1実施形態と概ね同様である。このため、中心線CLを軸線AXから長腕部側爪部24側に偏らせて第1〜第3のいずれかの実施形態とし、フォークシャフト3(3A、3B)の断面寸法を適宜選択することで、長腕部側爪部24及び短腕部側爪部25の変位量ΔR、ΔLを等しくすることができる。したがって、シフトフォーク2(2A、2B)およびフォークシャフト3(3A、3B)の寸法及び形状と剛性に関する特性、想定される荷重Fなどを考慮して、中心線CLを偏らせる傾斜角度を決定することが好ましい。
【0034】
なお、第1〜第3実施形態において、仮に両側の変位量ΔR、ΔLを等しくできなくとも、その差分量が低減され、剛性バランスが改善される効果は同様である。
【0035】
次に、第4実施形態のシフト操作部材1Cについて説明する。図6は、第4実施形態のシフト操作部材1Cを模式的に説明する図であり、(1)は軸線AXと直交する部分断面図、(2)は参考形態の部分断面図である。図6(2)の参考形態では、フォークシャフト3Xの長方形断面の中心線CLが軸線AXを通過している。また、中心線CLと長腕部側爪部24との距離Rxは、中心線CLと短腕部側爪部25との距離Lxに略一致している(Rx≒Lx)。このため、フォークシャフト3Xの曲がりに関して長腕部22側と短腕部23側とでモーメントが略一致し、フォークシャフト3Xは殆ど曲がらない。したがって、シフトフォーク2Xおよびフォークシャフト3Xのたわみを加算した左右の変位量ΔR、ΔLが均等化されない。これを改善した形態が図6(1)の第4実施形態である。
【0036】
第4実施形態では、図6(2)の参考形態からシフトフォーク2Cの取付部21の位置を長腕部22側にずらし、フォークシャフト3Cの傾斜角度を変更せずに中心線CLを平行移動して結合している。結果的に、第4実施形態のシフト操作部材1Cの構成は、第1実施形態に略一致する。また、作用および効果も第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0037】
なお、フォークシャフト3は長方形断面に限定されず、シフトフォーク2の略矩形断面も限定されない。本発明は、その他さまざまな変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1、1A、1B、1C:シフト操作部材
2、2A、2B、2C:シフトフォーク
21:取付部 22:長腕部 23:短腕部
24:長腕部側爪部 25:短腕部側爪部
3、3A、3B、3C:フォークシャフト
7:従来のシフト操作部材
71:シフトフォーク
711:取付部 712:長腕部 713:短腕部
714:長腕部側爪部 715:短腕部側爪部
716:結合部 717、718:補強リブ
72:フォークシャフト
8:同期装置
81:回転軸 82、83:変速ギヤ 84:クラッチハブ
85:スリーブ 86、87:シンクロナイザリング
9:一般的なシフト操作部材
AX:軸線 CL:中心線 Rx、Lx、Ry、Ly:距離
Ra、La:たわみ量(変形量) +Lb、−Rb:変位量
ΔR:長腕部側爪部の変位量 ΔL:短腕部側爪部の変位量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付部及び、前記取付部から両側に湾曲して延在する2つの腕部及び、各腕部の先端に形成されて略環状のスリーブの外周溝に係合する爪部を有するシフトフォークと、前記シフトフォークの前記取付部に結合して前記スリーブの軸線方向に移動可能なフォークシャフトとを備え、前記スリーブを前記軸線方向にシフト操作する変速機のシフト操作部材であって、
前記シフトフォークの前記2つの腕部は、長さが異なる長腕部及び短腕部であり、
前記フォークシャフトの前記軸線と直交する断面の剛性に異方性があり、最も剛性の強い方向に延びる中心線と前記長腕部の先端の爪部との距離が、前記中心線と前記短腕部の先端の爪部との距離よりも小さいことを特徴とする変速機のシフト操作部材。
【請求項2】
前記フォークシャフトは、前記軸線と直交する断面が長方形断面であって、最も剛性の強い方向に延びる前記中心線が前記長方形断面の長辺に平行している請求項1に記載の変速機のシフト操作部材。
【請求項3】
前記シフトフォークをプレス成型加工により製造した請求項1または2に記載の変速機のシフト操作部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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