説明

変速機の試験装置

【課題】変速機の試験時、及び試験終了時に取り付けられる水冷カバー、オイルパンは、外形は比較的大きく、且つ相当の重量となって取り付け、取り外しが困難となっている。
【解決手段】試験機に取り付けられる変速機の下部位置にジャッキを配設する。
このジャッキの可動ロッド線上に下部水冷カバーを可動自在に連接し手変速機の下部位置に移動させ、所定位置となったとき上部水冷カバーを取り付ける。
また、試験後の変速機からの油抜きも、常時固定側に収納されたオイルパンを変速機の下部に移動させて固定することで可能となり、油の付着したオイルパンの取り付け、取外しも短時間で簡単に可能となるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の試験装置に係り、特に変速機を試験するときの水冷カバーとオイルパンを備えた変速機の試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の部品試験の一つである変速機の試験装置としては、特許文献1や特許文献2が公知となっている。
変速機の試験装置には、被試験装置である変速機の両側に回転軸を介してダイナモメータが連結されるか、或いは、特許文献1の図1で示すように、変速機の他方側には駆動用エンジン、及び連結軸を介して等速機が連結される等の構成となっている。
また、特許文献2には、変速機を環境試験器の収納し、変速機内の油は、試験される温度環境に対応するようにオイルパンを介して油タンクに落下収集することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3982179号公報
【特許文献2】特許第3879798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機の試験としては、性能試験や環境試験等の他に耐強度試験がある。耐強度試験は、変速機に与えるトルクを大きくしてギヤの強度試験を目的としたものであるが、特に近年、ギヤを含めた機械的な強度試験としては過酷なトルク状態下での試験が実施されている。その場合、変速機の機械的な損傷発生以前に、熱発生による損傷が発生する虞が生じ、これを防止するために、試験には変速機の外周から水冷することが行われ、変速機の外周には試験中における水の飛沫を防止するために水冷カバーが設けられる。この水冷カバーは、変速機の外周を覆うように設けられることから外形は大きく相当の重量となって取り付け、取り外しが困難となっている。
また、変速機試験時には、中空状に形成された連結軸を介して変速機内にトルコン油が注入されるが、試験終了時には変速機の下部に人力でオイルパンを配置して油抜きを行っている。このため、オイルパンの取り付け、取り外しも困難となっている。
【0005】
本発明が目的とするとこは、水冷カバーとオイルパンを簡単に取り付け、取り外しを可能とした変速機の試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、架台上に設置された試験機に、入力中間軸と出力中間軸を介して変速機を取り付け試験する試験装置において、
試験機に取り付けられる変速機下部位置にジャッキを配設し、このジャッキの可動ロッド線上に、一端が固定体によって固定された中空状の支持部を設け、この支持部の他端にはカバー部が載置される受け部を固着すると共に、
前記受け部は、上部水冷カバーと下部水冷カバーとに分割構成され、上部水冷カバーに冷却水の供給口を設け、下部水冷カバーの底部に孔を穿設して排水口を有する排水筒を連結し、この排水筒を前記支持部の中空部に可動自在に挿入して前記可動ロッドと係合するよう構成したことを特徴としたものである。
【0007】
本発明の請求項2は、ジャッキは足踏み操作部付きの油圧ジャッキとし、可動ロッドの先端部にバネを取り付けたことを特徴としたものである。
【0008】
本発明の請求項3は、架台とギャッキとの間に複数の支柱を立設して各支柱間にレールバーを固着し、このレールバーに移動、並びに回動自在にオイルパンを取り付け、このオイルパンを油回収時にレールバーを介し変速機取り付け位置下部に移動させて表面を水平状態に固定し、油回収終了時には収納位置に移動してオイルパンの表面を垂直状態に維持するよう構成したことを特徴としたものである。
【0009】
本発明の請求項4は、オイルパンの移動線上に、位置決め用のインデックスプランジャーを設けたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のとおり、本発明によれば、変速機の取り付けられる下部位置にジャッキを配設し、このジャッキの可動ロッド線上に下部水冷カバーを可動自在に連接し手変速機の下部位置に移動させ、所定位置となったとき上部水冷カバーを取り付けるようにしたものである。これにより、重量のある水冷カバー装置の取り付け、取外しが短時間で簡単に可能となるものである。
また、試験後の変速機からの油抜きも、常時固定側に収納されたオイルパンを変速機の下部に移動させて固定することで可能となり、油の付着したオイルパンの取り付け、取外しも短時間で簡単に可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、変速機試験装置の要部正面図である。1は被試験機である変速機で、その出力軸側には、出力側中間軸2、及びトルクメータ3を介して図示省略の動力計が接続される。また、変速機1の入力側には、入力側中間軸4を介して図示省略の動力計が接続される。出力側中間軸2、及び入力側中間軸4は、それぞれ架台5,6によって回動自在に支承される。架台5,6は、定盤などの固定側において固定される。10は水冷カバー装置で、この水冷カバー装置10は図2で示すように、円筒状に形成されたカバー部11とジャッキ20より構成されている。カバー部11は上下2分割となる構成にされ、上部水冷カバー11aと下部水冷カバー11bはボルトなどの固定部材14によって固定される。
【0012】
上部水冷カバー11aには複数の給水口12が設けられ、この給水口12からカバー部11の内部に給水装置を介して冷却水が供給される。
下部水冷カバー11bには、その底部の略中心位置には配水用の孔15が穿設されて、この孔15には排水筒16が連設される。排水筒16の他端側には、排水口となる排水管16aが直角状に固着されている。また、下部水冷カバー11bには、底部側から半円方向に沿って複数の区画壁13が設けられている。各区画壁13には連絡流路が形成され、カバー部に溜まった冷却水は連絡流路、及び孔15、排水筒16、及び排水口16aを通ってカバー部外に排水される。このため、排水筒16は有底状となっている。17は受け部で、カバー部11を載置するために湾曲状に形成され、下部中心部には孔が穿設されてその孔と連通する中空状の支持部18が固着されており、支持部18の他端は固定体23に固定されている。そして、下部水冷カバー11bに固定された排水筒16は、支持部18の中空内上下方向に可動自在挿入される。
【0013】
ジャッキ20は、ここでは油圧式が用いられ、その可動ロッド20aの先端には緩衝用のバネ21が取り付けられる。ジャッキ20の油圧操作部22として足踏み式か手動式が用いられ、操作部22を操作することによって可動ロッド20aが上下動する。このジャッキ20は、直接か、又は固定体23を介して定盤などの固定側にボルト等を介して固定される。つまり、下部水冷カバー11bは、受け部17、支持部18、及び固定体23を介して、試験装置に取り付けられた変速機1の下部位置に配設され、且つジャッキの可動ロッド20aは排水筒16の下部位置となるように配設される。
【0014】
30はオイルパンで、水冷カバー装置10と中間軸を支える架台との間に配設され、この実施例では架台5と支持部23間に配設されている。オイルパン30は図3(a)で示すように底部中心位置には排水用ホース取付け口30aを有し、且つ変速機1を取り外すときに流出するトルコン油が回収しやすいように傾斜が
設けられた格納式となっている。
図3において、31は支柱で、ここでは31a、31b、及び31cの3本が、図1の図面奥行きに向かって垂立固定され、各支柱31a、31b、及び31c間の頂部には円状のレールバー32が架設される。34は取付け具で、この取付け具34は断面コ字状に形成され、その一方の曲面側にはオイルパン30がボルトによって固着され、また、他方の曲面側の先端には更に内側に屈曲されてレールバー32を掴むように爪部34aが設けられる。したがって、オイルパン30は取付け具34を介してレールバー32に遊嵌状態で取り付けられ、レールバー上を摺動、及び回動可能な構成となっている。
【0015】
図3(a)はオイルパン30を格納するときの状態を表し、図3(b)はオイルパン30の移動状態を示すもので、収納位置におけるオイルパン30は取付け具34を介してレールバー32を回動し、支柱31の配列位置と直列状態に収納される。35は支柱31に固定されたストッパーで、オイルパン30が折りたたまれて収納するときのストッパーとなる。36はレールバー線上に配置されたインデックスプランジャーで、試験終了に伴うトルコン油回収後にオイルパン30を収納位置に移動したとき正しい位置にセットできるよう位置決めピンが設けられ、また、そのセット時の衝撃緩和のためにマグネット式のクッションが挿入されている。
【0016】
以上のように構成された試験装置において、水冷カバー装置10とオイルパン25のセット手順について説明する。
試験に当たり、変速機1の出力軸は出力側中間軸2に結合され、また、変速機1のタービン部は入力側中間軸4に連結される。変速機1の設置下部に配設される上部水冷カバー11aは分離された状態となっており、且つ下部水冷カバー11bは、一体的に形成された排水筒16を支持部18に挿入して受け部17に載置された状態なっている。
【0017】
変速機1の試験装置への取り付け完了によって油圧操作部22を足踏み操作し、可動ロッド20aを上昇させる。その際、バネ21の先端は排水筒16の下部に当接し、且つ徐々に圧縮されながら排水筒16を介して下部水冷カバー11bを上方に押上げる。作業者は位置を目視しながらその位置が所定位置となるまで下部水冷カバー11bを上昇させ、所定位置となったときに下部水冷カバー11bの上方向から上部水冷カバー11aを被せ、固定部材14によって固定することで、水冷カバー装置10の取り付けが終了する。
【0018】
試験時には、水冷カバー装置10の給水口12から冷却水が供給されて変速機1を冷却する。冷却水は区画壁13により形成された各区画に溜まった後、孔15、排水筒16、及び排水口16aを通って排出される。
試験終了時には、固定部材14、上部水冷カバー11aを取り外した後、ジャッキの操作部22を操作することで下部水冷カバー11bを降下させ、変速機取外しに伴うその後の作業の邪魔にならない位置に退避させる。
なお、この冷却時において、水冷カバー11内に冷却水を一旦溜めて試験を実行してもよく、試験中冷却水を循環させてもよいことは勿論である。
【0019】
次に、試験機からの変速機取外しに先立って、オイルパン30を変速機取付け位置の下部に配置してトルコン油の排出を行う。オイルパン30は、通常、図1で示す位置で表面(油受け面)を垂直状態にして収納されている。そのオイルパン30を、取手30bを持って略90°回動、或いはレールバー32に吊り下げた状態で変速機1の下部位置にまで移動させ、固定部材介して表面を水平状態に固定する。固定後は、ホース取付け口30aにホースを取り付けて油の回収作業を行ない、終了後は再度収納位置にまで移動させて90°折り畳んだ状態でレールバー32に吊り下げ収納する。したがって、通常は、コンパクトに収納され、試験や他の作業に対する邪魔にはならない状態となっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示す変速機試験装置の要部正面図。
【図2】水冷カバー装置の構成図で、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図3】オイルパン装置の構成図で、(a)は使用状態を示す正面図、(b)上面図、(c)側面図。
【符号の説明】
【0021】
1… 変速機
2… 出力側中間軸
3… トルクメータ
4… 入力側中間軸
10… 水冷カバー装置
11… 水冷カバー
16… 排水筒
17… 受け部
18… 支持部
20… ジャッキ
30… オイルパン
31…支柱
32…ガイドバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台上に設置された試験機に、入力中間軸と出力中間軸を介して変速機を取り付け試験する試験装置において、
試験機に取り付けられる変速機下部位置にジャッキを配設し、このジャッキの可動ロッド線上に、一端が固定体によって固定された中空状の支持部を設け、この支持部の他端にはカバー部が載置される受け部を固着すると共に、
前記受け部は、上部水冷カバーと下部水冷カバーとに分割構成され、上部水冷カバーに冷却水の供給口を設け、下部水冷カバーの底部に孔を穿設して排水口を有する排水筒を連結し、この排水筒を前記支持部の中空部に可動自在に挿入して前記可動ロッドと係合するよう構成したことを特徴とした変速機の試験装置。
【請求項2】
前記ジャッキは足踏み操作部付きの油圧ジャッキとし、可動ロッドの先端部にバネを取り付けたことを特徴とした請求項1記載の変速機の試験装置。
【請求項3】
前記架台とギャッキとの間に複数の支柱を立設して各支柱間にレールバーを固着し、このレールバーに移動、並びに回動自在にオイルパンを取り付け、このオイルパンを油回収時にレールバーを介し変速機取り付け位置下部に移動させて表面を水平状態に固定し、油回収終了時には収納位置に移動してオイルパンの表面を垂直状態に維持するよう構成したことを特徴とした請求項1又は2記載の変速機の試験装置。
【請求項4】
前記オイルパンの移動線上に、位置決め用のインデックスプランジャーを設けたことを特徴とした請求項3記載の変速機の試験装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−217122(P2010−217122A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67174(P2009−67174)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】