説明

変速機ケース

【課題】変速機ケースに内歯ギアを安定して強固に接合する。
【解決手段】太陽ギア31や遊星ギア32の周囲を囲む第1ケース部材10と、太陽ギア31と回転軸Aを一致させた状態で第1ケース部材10の内側に固定される円筒状の内歯ギア33とを含む。内歯ギア33の一端に、歯の先端よりも内側に張り出す環状のリング板が設けられている。内歯ギア33の外周面には凸凹な滑止部が設けられている。第1ケース部材10はダイカスト成形されていて、内歯ギア33が第1ケース部材10にインサート成形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯車が設けられている変速機ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、減速機など、変速手段に遊星歯車機構を用いた変速機が広く知られている。遊星歯車機構は、一般に、太陽ギアや複数の遊星ギア、キャリア、内歯ギアなどで構成されている。
【0003】
例えば、減速機であれば、各遊星ギアは、出力軸に接続されるキャリアに回転自在に支持されていて、太陽ギアと噛み合うようにその周りに配置されている。内歯ギアは、これら遊星ギアと噛み合うようにその周りに回転不能に配置されている。太陽ギアが回転駆動されることによって、各遊星ギアが太陽ギアの回りを公転する。遊星ギアの公転に伴ってキャリアが減速されて回転し、その回転動力が出力軸を通じて出力される。
【0004】
通常、内歯ギアは、変速機ケースの内側に嵌め込まれており、例えば、双方に形成されたピン孔にピンを差し込むこと等により変速機ケースに固定されている。
【0005】
本発明に関し、歯車の製造方法(特許文献1)やインサート用歯車(特許文献2)が開示されている。
【0006】
特許文献1には、本体部が樹脂成形品またはダイカスト品の歯車の製造方法が開示されている。具体的には、帯状の鋼板にローラ成形を施して平歯状の歯部を形成し、その歯部を円形に丸めて歯部環を形成する。型を用いてその歯部環の内側に溶融した合成樹脂や合金を注入し、固化させることにより歯車を一体に成形している。
【0007】
特許文献2には、歯車をダイカスト成形する際に、溶融した合成樹脂等が歯溝に流入するのを防止できるようにした歯車が開示されている。具体的には、その歯車は略円筒形状をしており、外周面に歯溝が形成されている。そして、その歯車の一方の側面の周縁に、成形材料の流入を阻止するつば部が一体に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−125088号公報
【特許文献2】実開昭51−158961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
遊星歯車機構では内歯ギアに大きなトルクが加わるので、内歯ギアがピン止めされる従来の変速機ケースの場合、接合が不十分であると位置ずれやがたつき等を招くおそれがある。そのため、両者に高度な成形精度や組み付け精度が求められ、生産性や生産コストを向上させるうえで障害となっている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、変速機ケースに内歯ギアを安定して強固に接合することができ、生産性や生産コストを向上させることができる変速機ケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、内歯ギアの形状を工夫したうえで、その内歯ギアをケース部材にインサート成形した。
【0012】
具体的には、本発明の変速機ケースは、太陽ギア及び遊星ギアの周囲を囲むケース部材と、前記太陽ギアと回転軸を一致させた状態で前記ケース部材の内側に固定される円筒状の内歯ギアとを含む変速機ケースである。
【0013】
前記内歯ギアの一端には、歯の先端よりも内側に張り出す環状の流入規制部が設けられている。前記内歯ギアの外周面には、1以上の凸部又は凹部が形成された滑止部が設けられている。そして、前記ケース部材はダイカスト成形されていて、前記内歯ギアが前記ケース部材にインサート成形されている。
【0014】
このような構成の変速機ケースによれば、歯の先端よりも内側に張り出す環状の流入規制部が一端に設けられた内歯ギアが、ダイカスト成形されるケース部材にインサート成形されているので、内歯ギアを金型のコアに装着する際に、流入規制部がコアに接するようにすれば、キャビティ内に位置する内歯ギアの歯の部分(環状歯)をコアと流入規制部とで密閉することができる。
【0015】
従って、溶融したアルミ合金等の成形材料が環状歯に入り込むのを防ぐことができ、環状歯の品質を損なわずに済むし、溶融屑の除去等、余計な作業を省略することができる。
【0016】
内歯ギアはケース部材にインサート成形されているので、従来のピン止め等のように高度な成形精度や組み付け精度を確保しなくても、内歯ギアをより安定して強固に接合することができる。ピン止め等の作業も不要になるので、生産性や生産コストに有利である。しかも、内歯ギアの外周面には、1以上の凸部又は凹部が形成された滑止部が設けられているので、内歯ギアとケース部材との接合面積が増え、よりいっそう強固に接合することができる。
【0017】
前記流入規制部は、前記内歯ギアと別に形成された円環状の部材からなり、前記内歯ギアに後付けされているようにするのが好ましい。
【0018】
そうすれば、環状歯の部分をブローチ加工によって形成することができるので、内歯ギアを容易に量産することができ、生産性や生産コストに優れる。
【0019】
また、前記滑止部は、回転軸と略平行な線状の凹凸構造で構成するのが好ましい。
【0020】
そうすれば、滑止部で、使用時に内歯ギアに加わる大きなトルクを効果的に受け止めることができるので、内歯ギアの位置ずれやがたつきをより安定して防止できる。
【0021】
更に、前記ケース部材が、前記内歯ギアが固定されている部分の外側に、回転軸方向に延びて断面が突出する角形状部を有している場合には、鋳抜穴とともに所定の容積を占める歪み防止部を設けるのが好ましい。
【0022】
ケース部材にこのような角形状部がある場合には、部位によって成形材料の量が偏るため、成形材料が固化する時の冷却速度がばらついてケース部材に歪みが生じる。その結果、偏った歪力が内歯ギアに加わるため、内歯ギアの真円度が低下する。
【0023】
それに対し、鋳抜穴を設けることで、ある程度の偏りは解消できるが、鋳抜穴は型抜きの関係上、その長さや形状は金型のスライド方向等によって大きく制限される。そのため、鋳抜穴だけであると、成形されるケース部材の形状によっては成形材料の分布に偏りが生じる場合がある。そこで、鋳抜穴とは別に歪み防止部を設けることで、鋳抜穴だけでは補えない部分を補完することができる。その結果、内歯ギアの周囲におけるアルミ合金の分布を均一化できるので、内歯ギアに偏った歪力が加わるのを抑制することができ、内歯ギアの真円度を高めることができる。
【0024】
例えば、前記鋳抜穴が回転軸方向に延びている場合には、前記鋳抜穴の先端よりも奥に、前記歪み防止部を設けるようにするとよい。そうすれば、鋳抜穴の先端側に肉厚部が存在する場合であっても、歪み防止部によって肉厚部の成形材料の量の調整ができるので、成形材料の分布の偏りを抑制することができる。
【0025】
前記歪み防止部は、前記内歯ギアと一体に設けることができる。
【0026】
そうすれば、歪み防止部によっても滑止部と同様の効果が得られるため、よりいっそうケース部材に内歯ギアを安定して強固に接合することができる。また、歪み防止部によって内歯ギアを構造的に強化することができ、内歯ギアの真円度をよりいっそう高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
ピン止め等によって内歯ギアが固定されていた従来の変速機ケースに比べて、変速機ケースに内歯ギアを安定して強固に固定することができる。高度な成形精度や組み付け精度が不要になるので、生産性や生産コストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態の変速機を示す概略斜視図である。内部を示すために、変速機の一部を切り欠いてある。
【図2】図1におけるX−X線でのケース部材の概略断面図である。環状歯の部分は一部のみ図示している。
【図3】図2における矢印Y方向から見たケース部材の概略図である。
【図4】内歯ギア部材を示す概略斜視図である。環状歯及び滑止部の部分は一部のみ図示している。
【図5】内歯ギア部材の概略平面図である。
【図6】第1ケース部材の成形過程を示す概略図である。
【図7】第1ケース部材の成形過程を示す概略図である。
【図8】比較例における内歯ギアの真円度の測定結果を示す概略図である。
【図9】実施例における内歯ギアの真円度の測定結果を示す概略図である。
【図10】内歯ギア部材の変形例を示す概略斜視図である。環状歯及び滑止部の部分は一部のみ図示している。
【図11】(a)、(b)は変速機ケースの変形例を示す概略正面図である。
【図12】変速機ケースの変形例を示す概略断面図である。
【図13】変速機ケースの変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0030】
図1に、本発明を適用した減速機(変速機)を示す。減速機には、ケース1(変速機ケース)や入力部2、遊星歯車機構3、出力シャフト4などが備えられている。この減速機では、モータの駆動軸等が入力部2に連結されることにより、入力部2から減速機に回転駆動力が入力される。遊星歯車機構3でその回転速度が減速され、トルクの高まった回転駆動力が出力シャフト4を通じて出力される。
【0031】
遊星歯車機構3は、太陽ギア31や複数の遊星ギア32、内歯ギア33、キャリア34などで構成されている。太陽ギア31は、ケース1に回転自在に支持されており、入力部2から入力される回転駆動力によって回転軸Aを中心に回転する。各遊星ギア32は、太陽ギア31と噛み合うようにその周囲に配置されている。各遊星ギア32はキャリア34に回転自在に支持されている。キャリア34は、一対のベアリング35a,35bを介してケース1に回転自在に支持されている。本実施形態では、出力シャフト4はキャリア34と一体に設けられている。
【0032】
内歯ギア33は、歯が内側に形成されているギアである。キャリア34の側面に形成された窓部34aから露出する各遊星ギア32と噛み合うように、内歯ギア33は、太陽ギア31と回転軸Aを一致させた状態でこれらの周囲に配置されている。内歯ギア33は、ケース1の内側に回転不能に配置されている。従って、太陽ギア31の回転に伴って各遊星ギア32は自転するとともに太陽ギア31の回りを公転し、それに伴ってキャリア34(出力シャフト4)は所定の減速比で回転軸Aを中心に回転する。なお、内歯ギア33の詳細については別途後述する。
【0033】
本実施形態のケース1は、互いに突き合わせて一体化される第1ケース部材10(ケース部材)と、第2ケース部材20とで構成されている。入力部2は第2ケース部材20側に収容され、内歯ギア33を含め、遊星歯車機構3や出力シャフト4は第1ケース部材10側に収容されている。これら第1ケース部材10等は、アルミ合金等の成形材料を用いてダイカスト成形されている。
【0034】
図2及び図3に、第1ケース部材10の詳細を示す。第1ケース部材10は、外側が断面四角形状に形成された周壁部11と、周壁部11の一端を塞ぐ端壁部12とを有している。太陽ギア31や遊星ギア32を含む遊星歯車機構3の周囲は周壁部11によって囲まれている。
【0035】
端壁部12の中央部分には、円筒状に突出したベアリング保持部13が形成されている。そのベアリング保持部13の内側に上述したベアリング35aが嵌め込まれて固定されている。そして、ベアリング保持部13の中央に開口する軸孔14を通じて出力シャフト4の先端部分がケース1の外に突出している。
【0036】
周壁部11における各角の部分(角形状部11a)には、第2ケース部材20に締結するためのボルト孔15が回転軸A方向に貫通している(4箇所)。更に、各角形状部11aには鋳抜穴16が形成されている。
【0037】
本実施形態の鋳抜穴16は、開口側(端壁部12の反対側)から回転軸A方向に延びており、その内周面は、断面弧状の弧状面16aと、弧状面16aから外方に連続し、ボルト孔15を避けて断面W字状に形成されたW字状面16bとで構成されている。本実施形態の鋳抜穴16は、先端に向かって断面が次第に小さくなる先細り形状に形成されている(抜け勾配)。なお、抜け勾配は鋳抜穴16に必須ではなく、先端側が基端側と比べて大きくなければよい。
【0038】
周壁部11の内側には、ベアリング保持部13に連通し、ベアリング保持部13よりも内径の大きい大径穴部17が、開口側から端壁部12に向かって形成されている。大径穴部17の深さは周壁部11の長さ(図2において符号tで示す)よりも小さく形成されており、周壁部11における端壁部12との接続部分には、周壁部11におけるその他の部分よりも厚みの大きな肉厚部18が存在している。大径穴部17の奥方(底の部分)には、インサート成形により、内歯ギア部材50が一体に固定されている。
【0039】
図4に、内歯ギア部材50の詳細を示す。内歯ギア部材50は、鋼鉄製の部材であり、円筒状のギア部51と、ギア部51と一体に形成された歪み防止部52と、リング板53(流入規制部)とを有している。ギア部51は、内歯ギア33を構成する部位である。ギア部51の内周面には、ブローチ加工により、各遊星ギア32と噛み合う一群の歯が環状に形成されている(環状歯51a)。
【0040】
リング板53は、ギア部51や歪み防止部52とは別に、金属板から切り出して形成された円環状の部材であり、ギア部51等に後付けされている。リング板53は、ギア部51における歪み防止部52側の一端に溶接等により固定され、環状歯51aの一端に密着している。リング板53は、その内周縁が各歯の先端よりも内側に張り出すように設定されている。
【0041】
ギア部51の外周面には、滑止部54が全周にわたって形成されている。本実施形態の滑止部54は、回転軸Aと略平行に延びる複数の線状の凹凸形状で構成されている。滑止部54の断面は鋭利な折れ線形状に形成されている。
【0042】
このような滑止部54をギア部51の外周面に設けることで、内歯ギア部材50を第1ケース部材10にインサート成形したときに、両者の接合面積が増えるため、より強固に接合することができる。しかも、滑止部54を回転軸Aと略平行に延びる複数の線状の凹凸形状で構成することで、環状歯51aに加わる大きなトルクを効果的に受け止めることができるので、ギア部51の位置ずれやがたつきを防止できる。
【0043】
歪み防止部52は、ギア部51の一端に連続して延びる円筒状の延出部52aと、延出部52aの先端から全周にわたって半径方向外側に張り出すフランジ部52bとを有している。図5に示すように、フランジ部52bは、周壁部11の辺の部分(辺部)と対向する部位は周壁部11と略平行に形成され、周壁部11の各角形状部11aと対向する部位は円弧状に形成されている。辺部側よりも角形状部11a側の方がより大きく張り出している。
【0044】
内歯ギア部材50は、リング板53側を端壁部12に向けた状態で第1ケース部材10にインサート成形されており、歪み防止部52は肉厚部18に埋設されている。図2や図5に示すように、特に角形状部11aでは、フランジ部52bが鋳抜穴16の先端の奥(下側)に入り込んで所定の容積を占めている。詳しくは、内歯ギア部材50の周囲の部分における辺部と角形状部11aとで、アルミ合金の部分の占める容積が極力等しくなるようにフランジ部52bと鋳抜穴16とで調整が行われている。
【0045】
型抜きの関係上、鋳抜穴16はその先端側を大きくすることができないため、金型にもよるが、鋳抜穴16だけで肉厚部18で十分な容積を確保するのは容易でない。特に、成形に一方向にのみ相対的にスライドする一対の型で構成された簡素な金型を用いる場合には難しい。そこで、鋳抜穴16とは別に歪み防止部52を設けることで、その容積の不足分を歪み防止部52によって補完している。このように、内歯ギア部材50の周囲におけるアルミ合金の分布を均一化することで、ギア部51の歪みを効果的に抑制できる。
【0046】
次に、図6、図7を参照して、第1ケース部材10の一般的な成形過程について説明する。図6に示すように、第1ケース部材10は、例えば、固定型61(メス型)及び可動型62(オス型)からなる一対の金型を用い、ダイカスト成形によって形成される。その際、内歯ギア部材50は金型のキャビティ(空洞)に挿入されて一体成形される(インサート成形)。
【0047】
固定型61には、周壁部11の外面側を形成する第1穴部61aやベアリング保持部13の外面側を形成する第2穴部61bなどが設けられている。固定型61は固定されており、その固定型61に対し、可動型62は金型の中心線Sの方向にスライド変位する。なお、金型の中心線Sは回転軸Aと一致している。
【0048】
可動型62には、センターコア62aや、ボルト孔15の内面側を形成する柱状コア62b、鋳抜穴16の内面側を形成する鋳抜コア62cなどが設けられている。センターコア62aの基部は、ギア部51が装着できるように、ギア部51の内径よりも外形が僅かに小さく形成されている。センターコア62aの基部の上端には、リング板53に接するように、リング板53の内径と略同一の外径に形成された接触部63が設けられている。更にセンターコア62aの先端側には、軸孔14やベアリング保持部13の内面側を形成する部分なども設けられている。
【0049】
内歯ギア部材50は、リング板53側を固定型61の底方に向けた状態で可動型62のセンターコア62aの基部に装着される。そうすることでギア部51の環状歯51aの部分はリング板53と可動型62とによって塞がれる。そして、矢印で示すように、可動型62は固定型61に入れ込まれ、図7に示すように両者は一体に接合される。これにより、金型内部に所定形状のキャビティが形成される。
【0050】
そうして、固定型61に設けられた注入口(図示せず)から溶融した高温のアルミ合金が圧入され、キャビティ内に噴射される。このとき、環状歯51aの部分はリング板53等によって塞がれているため、アルミ合金が環状歯51aの部分に入り込むのを防ぐことができる。
【0051】
キャビティ内に十分なアルミ合金が注入された後は、アルミ合金を固化させるために、自然放冷による冷却処理が行われる。このとき、鋳抜コア62cと歪み防止部52とにより、内歯ギア部材50の周囲の部分におけるキャビティの容積については概ね均一になるように調整されているので、辺部や角形状部11a、肉厚部18など、総容積の異なる部位における内歯ギア部材50の周囲でのアルミ合金の冷却速度はほぼ同じになっている。その結果、アルミ合金の歪みが小さくなって内歯ギア部材50に加わる歪力の偏りが軽減されるので、ギア部51(環状歯51a)の真円度を向上させることができる。
【0052】
(実施例)
歪み防止部による効果を確認するために、歪み防止部の無い内歯ギア部材を用いたケース部材(比較例)と、歪み防止部の有る内歯ギア部材を用いたケース部材(実施例)とを作製し、両者の環状歯の真円度の比較を行った。
【0053】
比較に用いたケース部材や内歯ギア部材は、歪み防止部の有無を除き、上述した実施形態の第1ケース部材10や内歯ギア部材50と形状や成形方法は同じである。真円度の測定は、同じ条件の下で、実施例品と比較例品とについて、回転軸方向の上部(開口側)、中央部及び下部(端壁部側)の所定の3箇所において、環状歯のピッチ円直径(PCD)を全周にわたって測定した。
【0054】
図8に、比較例のPCDの測定結果を示す。同図中、符号Sの曲線は、インサート成形前(未処理)のPCDの分布を表している。また、符号10の仮想線は、PCDの測定部位に対応したケース部材の外郭線を表している。同図に示すように、成形後は処理前に比べてPCDが小さくなり、その分布は、底側に向かうほどばらつきが大きくなっていた。特に、辺部側が角部側に比べてPCDが小さくなる傾向が認められた。
【0055】
図9に、実施例のPCDの測定結果を示す。同図中、符号Sの曲線は未処理のPCD分布であり、比較例とほぼ同じ値である。実施例の場合、比較例と比べて成形前後でのPCDの差が小さくなっていた。また、成形後での部位別のPCDのばらつきも小さくなっており、比較例に比べて真円度の大幅な向上が認められた。
【0056】
(その他)
本発明にかかる変速機ケースは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0057】
例えば、ケース部材が円形断面である場合など、ギア部51(内歯ギア33)の周囲においてアルミ合金が占める容積に大きな差がない場合には、図10に示すように、内歯ギア部材50に歪み防止部52を設けなくてもよい。
【0058】
ケース部材の断面形状は四角形に限らない。例えば、図11の(a)に示すように、第1ケース部材10(周壁部11)の断面形状は5角形等であってもよいし、同図の(b)に示すように、一部の断面が円形状で、一部に角形状部が設けられていてもよい。また、図示はしないが、回転軸Aはケース部材に対して偏って配置されていてもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、第1ケース部材10が周壁部11とその一端を塞ぐ端壁部12とで一体に成形される場合を示したが、周壁部11に相当する部材と端壁部12に相当する部材とを別々に形成し、これらを組み合わせて第1ケース部材10を構成するようにしもよい(図12参照)。なお、この場合のケース部材は筒状となる。
【0060】
上述した実施形態では可動型が1パーツで構成されている場合を示したが、可動型は複数のパーツで構成されていてもよい。その場合には、各パーツのスライド方向に対応して鋳抜コアが設けられるので、鋳抜穴16の延びる方向は中心線Sの方向に限らない。例えば、鋳抜穴16は中心線Sと直交する方向や中心線Sと傾斜する方向に延びていても良い。
【0061】
そうすれば、鋳抜穴16は、図12や図13に示すように周壁部11の側方から窪むように形成することもできる。
【0062】
滑止面は、複数の点状突起や1以上の線状突起で構成することもできる。鋳抜穴や歪み防止部の形状は、ケース部材の形状等に合わせて適宜形成することができる。歪み防止部もリング板と同様に、内歯ギアに後付けしてあってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 ケース(変速機ケース)
2 入力部
3 遊星歯車機構
4 出力シャフト
10 第1ケース部材(ケース部材)
11 周壁部
11a 角形状部
12 端壁部
16 鋳抜穴
18 肉厚部
31 太陽ギア
32 遊星ギア
33 内歯ギア
34 キャリア
50 内歯ギア部材
51 ギア部
51a 環状歯
52 歪み防止部
53 リング板(流入規制部)
54 滑止部
A 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽ギア及び遊星ギアの周囲を囲むケース部材と、
前記太陽ギアと回転軸を一致させた状態で前記ケース部材の内側に固定される円筒状の内歯ギアと、
を含む変速機ケースであって、
前記内歯ギアの一端に、歯の先端よりも内側に張り出す環状の流入規制部が設けられ、
前記内歯ギアの外周面に、1以上の凸部又は凹部が形成された滑止部が設けられ、
前記ケース部材はダイカスト成形されていて、前記内歯ギアが前記ケース部材にインサート成形されている変速機ケース。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機ケースにおいて、
前記流入規制部は、前記内歯ギアと別に形成された円環状の部材からなり、前記内歯ギアに後付けされている変速機ケース。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の変速機ケースにおいて、
前記滑止部は、回転軸と略平行な線状の凹凸構造で構成されている変速機ケース。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の変速機ケースにおいて、
前記ケース部材は、前記内歯ギアが固定されている部分の外側に、回転軸方向に延びて断面が突出する角形状部を有し、
前記角形状部に、鋳抜穴と所定の容積を占める歪み防止部とが設けられている変速機ケース。
【請求項5】
請求項4に記載の変速機ケースにおいて、
前記鋳抜穴は回転軸方向に延びていて、
前記鋳抜穴の先端よりも奥に、前記歪み防止部が設けられている変速機ケース。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の変速機ケースにおいて、
前記歪み防止部が、前記内歯ギアと一体に設けられている変速機ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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