説明

変速機

【課題】 入力軸に偏心して接続されたコネクティングロッドの揺動運動をワンウェイクラッチを介して出力軸の間欠回転に変換する変速機において、コネクティングロッドの荷重が加わる支点を廃止して大容量のベアリングやブッシュを不要にする。
【解決手段】 変速アクチュエータで入力軸11の軸線L1に対する偏心ディスク17の偏心量を変化させると、コネクティングロッド18の揺動角が変化して揺動部材20の往復回転角が増減することで、入力軸11および出力軸12間の変速比を変化させることができる。コネクティングロッド18のガイド軸18bを揺動部材20のガイド孔20aに摺動自在に係合させたので、コネクティングロッド18を支点で駆動部材22に連結する必要がなくなり、支点に集中する荷重を支持するための大容量のベアリングやブッシュが不要になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸により偏心回転するコネクティングロッドで駆動部材を往復回転させ、駆動部材の往復回転をワンウェイクラッチで出力軸の間欠回転として取り出す変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる変速機は下記特許文献1により公知である。この変速機の偏心量可変機構は、エンジンに接続されて回転する入力軸の内部に、該入力軸の軸線に対して偏心したリングギヤを形成し、リングギヤの内部に回転自在に嵌合するピニオンホルダの外周部に円形のピニオン収納凹部を形成し、該ピニオン収納凹部に回転自在に支持されたピニオンを前記リングギヤに噛合させて構成される。ピニオンを電動モータで回転させると、リングギヤに噛合するピニオンがピニオンホルダと共に該リングギヤに沿って移動し、入力軸の軸線に対するピニオンの軸線の偏心量が増減する。従って、ピニオンの軸線に一端を接続したコネクティングロッドの他端をワンウェイクラッチを介して出力軸に接続することで、コネクティングロッドの往復動に伴って出力軸が間欠回転する。
【特許文献1】特開2005−502543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来のものは、コネクティングロッドの先端がワンウェイクラッチの外レースに支点となるピンを介して結合されているため、そのピンの部分に加わる大きな荷重を支持すべく、大容量のベアリングやブッシュが必要となる問題があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、入力軸に偏心して接続されたコネクティングロッドの揺動運動をワンウェイクラッチを介して出力軸の間欠回転に変換する変速機において、コネクティングロッドの荷重が加わる支点を廃止して大容量のベアリングやブッシュを不要にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続されて回転する入力軸と、前記入力軸の回転に連動して偏心回転する偏心ディスクと、前記入力軸に対する前記偏心ディスクの偏心量を変化させる変速アクチュエータと、前記偏心ディスクの外周に相対回転自在に嵌合するコネクティングロッドと、前記コネクティングロッドに摺動自在に嵌合して往復回転する揺動部材と、前記揺動部材にギヤ結合されて往復回転する駆動部材と、前記駆動部材にワンウェイクラッチを介して接続された出力軸とを備えることを特徴とする変速機が提案される。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の構成によれば、駆動源に接続された入力軸の回転に連動して偏心ディスクを偏心回転させると、偏心ディスクの外周に相対回転自在に嵌合するコネクティングロッドに摺動自在に嵌合する揺動部材が往復回転し、揺動部材にギヤ結合された駆動部材にワンウェイクラッチを介して接続された出力軸が間欠的に回転する。このとき、変速アクチュエータで入力軸に対する偏心ディスクの偏心量を変化させると、駆動部材の往復回転角が増減することで、入力軸および出力軸間の変速比を変化させることができる。コネクティングロッドを支点で駆動部材に連結する必要がないので、支点に集中する荷重を支持するための大容量のベアリングやブッシュが不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0008】
図1〜図6は本発明の実施の形態を示すもので、図1は変速機の全体側面図(TOP状態)、図2は変速機の全体側面図(LO状態)、図3は図1の3−3線断面図、図4はTOP状態およびLO状態を比較する図、図5はTOP状態での作用説明図、図6はLO状態での作用説明図である。
【0009】
図1および図3に示すように、本実施の形態の無段変速機Tは、平行に配置された入力軸11および出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に間欠的に伝達される。エンジンのような駆動源13に接続されて回転する入力軸11は、インナーロータ型の電動モータのような変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aの内部を貫通し、その先端にピニオン15が設けられる。変速アクチュエータ14のロータ14bは回転軸14aに固定されており、ステータ14cはハウジングに固定される。また変速アクチュエータ14の回転軸14aは、駆動源13の入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。変速アクチュエータ14の回転軸14aには、三日月形のクランク部材16が固定される。
【0010】
クランク部材16にはピニオン15が相対回転自在に嵌合する円形のピニオン収納孔16aが形成されており、ピニオン収納孔16aがクランク部材16の外周面に開口する部分に、ピニオン15の歯先が露出する。従って、ピニオン15の歯先は、クランク部材16の外周面の開口から露出する部分を除き、ピニオン収納孔16aの内周面に摺接する。またクランク部材16の回転中心である変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aは、入力軸11(つまりピニオン15の中心)と同軸であるため、変速アクチュエータ14を駆動するとクランク部材16はピニオン15を中心として偏心回転する。
【0011】
クランク部材16がピニオン15を中心として偏心回転する過程で、入力軸11の軸線L1に対する偏心ディスク17の偏心量が最大になるときがTOP状態(図1および図4(A)参照)であり、偏心ディスク17の偏心量が最小(実施の形態では偏心量=0)になるときがLO状態(図2および図4(B)参照)である。
【0012】
円板形の部材の内部に偏心してリングギヤ17aを形成した偏心ディスク17が、前記リングギヤ17aをクランク部材16の外周に嵌合させ、かつピニオン15に噛合させた状態で設けられる。クランク部材16の外周面は、偏心ディスク17のリングギヤ17aの歯先に摺接する。偏心ディスク17の外周面に、コネクティングロッド18の一端に設けたリング部18aがボールベアリング19を介して相対回転自在に嵌合する。
【0013】
図示せぬハウジングに揺動部材20が往復回転可能に支持されており、揺動部材20に軸直角方向に形成したガイド孔20aに、前記コネクティングロッド18のガイド軸18bが摺動自在に嵌合する。揺動部材20の軸線L3は、入力軸11の軸線L1および出力軸12の軸線L2を結ぶ基準線L0上に位置している。
【0014】
出力軸12の外周にワンウェイクラッチ21を介してリング状の駆動部材22が支持されており、駆動部材22の外周に設けたドリブンギヤ22aが、揺動部材20の外周に設けたセクタギヤよりなるドライブギヤ20bに噛合する。ワンウェイクラッチ21は出力軸12に固定したボス部材23を備えており、ボス部材23の外周に前記駆動部材22が相対回転自在に嵌合する。ボス部材23の外周には複数個(例えば4個)の切欠き23a…が形成されており、これらの切欠き23a…と駆動部材22の内周面との間に形成された楔状の空間に、スプリング24…で付勢されたボール25…が配置される。
【0015】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0016】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを駆動源13の入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにクランク部材16が回転する。このとき、クランク部材16のピニオン収納孔16aはピニオン15の歯先を摺動し、それに伴って偏心ディスク17は、クランク部材16の外周面にリングギヤ17aの歯先を摺動させながら、かつリングギヤ17aとピニオン15との噛合関係を維持しながら位置を変化させる。
【0017】
図4(A)は、軸線L1に対する偏心ディスク17の偏心量が最大になる状態を示しており、このとき変速機TのレシオはTOP状態になる。図4(B)は、軸線L1に対する偏心ディスク17の偏心量が最小になる状態を示しており、このとき変速機TのレシオはLO状態になる。
【0018】
図5は、TOP状態で変速機Tを運転するときの作用を示すものである。
【0019】
上述したように、TOP状態では、軸線L1に対する偏心ディスク17の偏心量が最大になる。この状態で駆動源13で入力軸11を駆動するとともに、駆動源13の入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、クランク部材16および偏心ディスク17が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(A)から図5(B)を経て図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク17の外周にリング部18aをボールベアリング19を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド18は、そのガイド軸18bをガイド孔20aに摺動自在に嵌合させた揺動部材20を時計方向(矢印B参照)に揺動させる。図5(A)および図5(C)は、揺動部材20の前記矢印B方向の揺動の両端を示している。
【0020】
このようにして揺動部材20が矢印B方向に揺動すると、揺動部材20に設けたドライブギヤ20bにドリブンギヤ22aを噛合させた駆動部材22が反時計方向(矢印C参照)に回転する。このとき、駆動部材22とボス部材23との間の楔状の切欠き23a…にワンウェイクラッチ21のボール25…が挟み込まれ、駆動部材22の回転がボス部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印D参照)に回転する。
【0021】
ピニオン15が更に回転すると、ピニオン15にリングギヤ17aを噛合させた偏心ディスク17が、クランク部材16の外周面に案内されて反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(C)から図5(D)を経て図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク17の外周にリング部18aをボールベアリング19を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド18は、そのガイド軸18bをガイド孔20aに摺動自在に嵌合させた揺動部材20を反時計方向(矢印B′参照)に揺動させる。図5(C)および図5(A)は、揺動部材20の前記矢印B′方向の揺動の両端を示している。
【0022】
このようにして揺動部材20が矢印B′方向に揺動すると、揺動部材20に設けたドライブギヤ20bにドリブンギヤ22aを噛合させた駆動部材22が時計方向(矢印C′参照)に回転する。このとき、駆動部材22とボス部材23との間の楔状の切欠き23a…からワンウェイクラッチ21のボール25…がスプリング24…を圧縮しながら押し出されることで、駆動部材20がボス部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0023】
以上のように、揺動部材20が往復回転するのに伴って駆動部材22が往復回転したとき、駆動部材22の回転方向が反時計方向(矢印C参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印D参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0024】
図6は、LO状態で変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の軸線L1は偏心ディスク17の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク17の偏心量はゼロになる。この状態で駆動源13で入力軸11を駆動するとともに、駆動源13の入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、クランク部材16および偏心ディスク17が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に回転する。しかしながら、偏心ディスク17の偏心量がゼロであるため、コネクティングロッド18の揺動角もゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0025】
従って、変速アクチュエータ14を駆動してクランク部材16の位置を図4(A)のTOP状態と図4(B)のLO状態との間に設定すれば、ゼロレシオおよび所定レシオ間の任意のレシオでの運転が可能になる。
【0026】
以上のように、コネクティングロッド18を揺動部材20、ドライブギヤ20bおよびドリブンギヤ22aを介して駆動部材22に連結したので、コネクティングロッド18を支点を介して駆動部材22に連結する必要がなくなり、支点に集中する荷重を支持するための大容量のベアリングやブッシュが不要になる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0028】
例えば、実施の形態の変速機Tは出力軸12が間欠回転するが、複数個の変速機Tを、入力軸11および出力軸12を共有し、かつクランク部材16の位相が円周方向にずれるようにして並置すれば、出力軸12の間欠回転のピッチを減少させて滑らかに回転させることができる。
【0029】
また実施の形態では、コネクティングロッド18側にガイド軸18bを設け、揺動部材20側にガイド孔20aを設けているが、ガイド孔およびガイド孔の関係を逆にすることができる。
【0030】
また実施の形態では駆動源13の入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させているが、変速アクチュエータ14のロータ14bを駆動源13の入力軸11にクラッチ等で機械的に結合しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】変速機の全体側面図(TOP状態)
【図2】変速機の全体側面図(LO状態)
【図3】図1の3−3線断面図
【図4】TOP状態およびLO状態を比較する図
【図5】TOP状態での作用説明図
【図6】LO状態での作用説明図
【符号の説明】
【0032】
11 入力軸
12 出力軸
13 駆動源
14 変速アクチュエータ
17 偏心ディスク
18 コネクティングロッド
20 揺動部材
21 ワンウェイクラッチ
22 駆動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(13)に接続されて回転する入力軸(11)と、
前記入力軸(11)の回転に連動して偏心回転する偏心ディスク(17)と、
前記入力軸(11)に対する前記偏心ディスク(17)の偏心量を変化させる変速アクチュエータ(14)と、
前記偏心ディスク(17)の外周に相対回転自在に嵌合するコネクティングロッド(18)と、
前記コネクティングロッド(18)に摺動自在に嵌合して往復回転する揺動部材(20)と、
前記揺動部材(20)にギヤ結合されて往復回転する駆動部材(22)と、
前記駆動部材(22)にワンウェイクラッチ(21)を介して接続された出力軸(12)と、
を備えることを特徴とする変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−25324(P2010−25324A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191262(P2008−191262)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】