説明

変速機

【課題】オイルシールを用いずにグリース漏れが抑制できる変速機を提供する。
【解決手段】回転自在な第1連結部1及び第2連結部2、複数の第2遊星ギア36を有する変速部3、これらを収容する筐体4を含み、変速部3にグリースが注入されている変速機である。第2連結部2は、筐体4に第2ベアリング9を介して回転自在に支持される入力部21や第2遊星ギア36に係合する太陽ギア38を備える。第2太陽ギア38と第2ベアリング9との間に、全周にわたって筐体4から入力部21に向かって張り出す第1規制壁部45と第2規制壁部51とが回転軸方向に互いに離れて設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機等の変速機に関し、特にグリース漏れの防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機では、一般に、ギアの噛み合わせ部分にグリースが注入されている。そして、そのグリースが漏れ出すのを防止するために、回転するシャフトのまわりにはリング状のオイルシールが設置されている。
【0003】
オイルシールによってシャフトの周囲の隙間を塞ぐことができるので、グリース漏れを安定して防ぐことができる。しかし、オイルシールは、シャフトに接するため、回転抵抗を生じ、機械効率の面では好ましくはない。また、オイルシールは比較的高価な部品であるため、材料コストの面でも不利がある。
【0004】
それに対し、オイルシールを用いないグリース封止構造を備えた変速機が提案されている(特許文献1)。
【0005】
この変速機には、下方突出軸16や出力軸24、これらの間に設けられる変速機構部12、これらを収容するケース部材14等が備えられている(符号は同文献に基づく)。下方突出軸16はケース部材14から下方に突出し、出力軸24はケース部材14から上方に突出していて、この変速機は回転軸が鉛直方向に向くように設置されている(縦置き)。下方突出軸16は、モータの出力軸30aに嵌合され、モータの軸受で出力軸と共に回転自在に支持されている。
【0006】
そして、変速機構部12から落下、飛散するグリースがケース部材14の下側から流出するのを防止するために、ケース部材14と下方突出軸16との間の部分にグリース封止構造18が設けられている。
【0007】
詳しくは、ケース部材14と下方突出軸16との間は0.5mm程度の微小寸法に設定されている(隙間部32)。この隙間部32に隣接して、ケース部材14及び下方突出軸16の双方に、上方に突出する円環部34,36がそれぞれ同軸的に設けられている。下方突出軸16の円環部36は、ケース部材14の円環部34よりも上方に突出している。
【0008】
そして、ケース部材14における円環部34の外周側の下側部分と、下方突出軸16における円環部36の内周側の下側部分とにそれぞれグリース溜まり38,40が形成されている。各円環部34,36の上面等には、グリースをグリース溜まり38,40に導くように勾配面が形成されている。変速機構部12から落下等するグリースは、円環部34,36により、グリース溜まり38,40に導かれて貯留される。
【0009】
一方、グリースは、半固体状の性状を呈する流動性の低い潤滑油である。グリースは、非ニュートン流体であり、外力の有無によってその性状が変化する。例えば変速機が駆動されてグリースにせん断力が作用すると、グリースは液状化して流動性が高まる。変速機が停止してせん断力の作用が無くなると、グリースは流動性が低下して元の半固体状の性状に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−213621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のグリース封止構造の場合、変速機は縦置きが前提となっているため、汎用性に欠ける。例えば、横置きにした場合、グリース溜まり38,40も横向きになってグリースを貯留し難くなる。また、円環部36は、グリースをグリース溜まり38に導くうえでかえって邪魔になる。円環部34,36とキャリア20との間の隙間でグリースが固まると、更にグリースをグリース溜まり38に導き難くなるため、流動性が低下したグリースが円環部34,36を伝って隙間部32に入り込み易くなり、グリースの流出を招くおそれがある。また、円環部36の加工が困難な不利もある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、簡単な構造でありながら、オイルシールを用いることなくグリースの漏れ出しが抑制でき、汎用性にも優れた変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明では、流動性が高い状態で変速部から漏れ出すグリースを軸周りに凹む空間に遠心力で飛ばして、そこで固まらせるようにした。
【0014】
具体的には、本発明の変速機は、回転自在に支持された第1連結部及び第2連結部と、前記第1連結部と前記第2連結部との間に介在し、複数の遊星ギアを有する変速部と、前記第1連結部、前記第2連結部及び前記変速部を収容する筐体とを含み、前記変速部にグリースが注入されている。
【0015】
前記第2連結部は、前記筐体にベアリングを介して回転自在に支持される回転体と、前記回転体と同軸に設けられ、前記遊星ギアに係合する太陽ギアとを備える。そして、前記太陽ギアと前記ベアリングとの間に、全周にわたって前記筐体から前記回転体に向かって張り出す第1規制壁部と第2規制壁部とが回転軸方向に互いに離れて設けられている。
【0016】
すなわち、この変速機では、変速部と第2連結部との間が第1規制壁部によって区画されていて、第1規制壁部の中央の開口から変速部側に遊星ギアが突出している。そして、第1規制壁部から回転軸方向に離れて第2規制壁部が設けられているので、筐体の第2連結部側の領域には、第1規制壁部と第2規制壁部とで区画され、半径方向外側から回転体の前端部分に臨む空間(環状空間)が形成されている。この環状空間は、第1規制壁部の開口を通じて変速部の領域と連通している。
【0017】
変速部に注入されるグリースは、変速機の駆動によって流動性が高まると、開口を通じて第2連結部側に漏れ出し易くなる。回転体は高速で回転しているので、回転体を伝って漏れ出すグリースは、第2規制壁部を越える前に、その遠心力によって環状空間内に飛ばされる。環状空間では、駆動時にもせん断力は作用しないため、そこに溜まるグリースは固まって不動化する。従って、変速機の向きを選ばずに効率よくグリースの漏れ出しを防ぐことができる。
【0018】
更には、前記回転体が、前記太陽ギアに連続する小径部と、段差部を介して前記小径部に連続し、これよりも大きな直径の大径部と、を有し、軸方向における第1規制壁部と第2規制壁部との間に前記段差部が位置しているようにするのが好ましい。
【0019】
そうすれば、小径部よりも大径部の方が遠心力が大きくなるので、回転体を伝って漏れ出すグリースを安定して環状空間に飛ばすことができる。
【0020】
更に具体的には、前記変速部は、前記回転体と同軸に設けられて回転自在に支持されたキャリアを備える。前記キャリアは、回転軸に直交して前記第2連結部側に面する第1支持面と、前記第1支持面の周辺部から垂直に突出する複数の支持ピンとを有している。前記筐体は、前記第1連結部側を収容する第1筐体部と、前記第2連結部側を収容し、前記第1筐体部に組み付けられる第2筐体部とを備える。
【0021】
前記第2筐体部に前記第1規制壁部が設けられる。前記第1規制壁部の前記第1連結部側には、前記第1支持面と平行な第2支持面が設けられる。そして、前記遊星ギアが、前記支持ピンに挿入されて前記第1支持面と前記第2支持面との間に挟んで支持されている。
【0022】
変速機をこのように構成すれば、第1規制壁部を利用してキャリアと筐体との間に遊星ギアを挟み込むことができ、キャリアは回転軸を中心に回転自在に支持し、各遊星ギアは回転軸を中心に公転自在に支持することができる。従って、キャリアに遊星ギアが組み込まれた従来品と比べてキャリアの構造を簡素にできるし、組み付けも容易にできる。
【0023】
更には、前記筐体とは別に形成される組付部材を含み、前記組付部材によって前記第2規制壁部が構成されるようにすることもできる。
【0024】
上述した環状空間は穴の内側をくり抜くような構造であるため、筐体に一体に形成するのは難しい。しかし、筐体に別部材の組付部材を組み付けて第2規制壁部を構成すれば、容易に形成できる。
【0025】
例えば、前記第2筐体部に、前記第1筐体部の反対側に開口する嵌入穴を形成する。前記組付部材は、前記ベアリングと略同一の外径寸法を有する円環形状に形成する。前記ベアリング、前記組付部材を、開口側からこの順に前記嵌入穴内に嵌め入れて前記第2筐体部に取り付ける。そして、前記第2規制壁部における前記回転体側の部分は、前記ベアリングから離れているようにする。
【0026】
そうすれば、嵌入穴に組付部材とベアリングとを順に嵌め入れて取り付けるだけで簡単に環状空間を形成することができる。組付部材とベアリングとの間で回転抵抗が生じるのも防ぐことができる。
【0027】
特に、前記グリースには、ちょう度が1以上のグリースを用いるのが好ましい。
【0028】
そうすれば、例えば、変速機を横置きや逆さ置きしても、環状空間に溜まるグリースを環状空間内に安定して保持できる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、簡素な構造でありながら、オイルシールを用いずにグリースの漏れ出しを効果的に抑制することができるので、汎用性や生産性に優れた変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態の変速機の概略を表す斜視図である。内部構造を表すために、筐体の一部を除いてある。
【図2】変速機の概略断面図である。
【図3】変速機の一部の組み付け状態を説明するための分解斜視図である。
【図4】組付部材の概略を表す斜視図である。
【図5】変速機の要部を示す概略断面図である。
【図6】別実施例の変速機を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0032】
図1及び図2に、本発明を適用した減速機(変速機)を示す。この減速機は、回転軸Aを中心に回転する第1連結部1や第2連結部2、これらの間に介在する減速部3(変速部)、そして、第1連結部1、第2連結部2、減速部3を収容する筐体4などで構成されている。なお、本実施形態の減速機は2段型減速機であり、変速部には2段のギア機構3a、3bが設けられている。
【0033】
筐体4は、中空円柱ブロック状の金属加工品であり、第1連結部1側を収容する第1筐体部41と、第2連結部2側を収容する第2筐体部42とで構成されている。第1筐体部41と第2筐体部42は、互いに前後に突き合わせて一体に組み付けられている。便宜上、必要に応じて回転軸A方向における第1連結部1側を前、第2連結部2側を後として説明する。
【0034】
第1筐体部41は、円筒状の第1周壁部41aと、第1周壁部41aの前側の開口を塞ぐ端壁部41bとを有し、端壁部41bの中央部には軸孔41cが開口している。
【0035】
第1連結部1は、出力シャフト1aと、出力シャフト1aからその軸方向に連続して設けられるシャフト基部1bとを有している。出力シャフト1aは軸孔41cから外方に突出し、シャフト基部1bは第1筐体部41に第1ベアリング5を介して回転自在に支持されている。第1連結部1と軸孔41cとの間にはオイルシール6が設けられている。
【0036】
減速部3は、前段の第1ギア機構3aと、後段の第2ギア機構3bとで構成されている。減速部3には、潤滑油としてグリースが注入されている(グリースの詳細については別途後述する)。
【0037】
第1ギア機構3aは、第1連結部1のシャフト基部1bと一体に設けられる中空リング状の第1キャリア31と、第1キャリア31の周辺部において周方向に均等に配置される3個の第1遊星ギア32,32,32と、第1キャリア31の半径方向外側に配置され、各第1遊星ギア32と噛み合うリング状の第1内歯ギア33とを有している。なお、第1キャリア31の基本構造は従来品と同じである。
【0038】
各第1遊星ギア32は、第1キャリア31に両端を支持された第1支持ピン31aを介して第1キャリア31に回転自在に支持されていて、回転軸Aを中心に自在に公転することができる。各第1遊星ギア32は、第1キャリア31の内部に収容されていて、第1キャリア31の周面に開口する3箇所の各窓部31bから、その一部が外方に露出している。第1キャリア31の後端部(隅の部分)は、中間ベアリング7を介して筐体4に回転自在に支持されている。また、第1キャリア31の後端部(中央の部分)には、回転軸Aに直交する平滑な軸受面31cが形成されている。
【0039】
第1内歯ギア33は、第1筐体部41に嵌め込まれて回転不能に支持されている。そして、第1キャリア31の半径方向内側には、各第1遊星ギア32と噛み合うように、第2ギア機構3bの第1太陽ギア34が配置されている。
【0040】
図3にも示すように、第2ギア機構3bは、第1太陽ギア34の他にも、第1太陽ギア34と一体に設けられる略円盤状の第2キャリア35(キャリア)と、第2キャリア35の周辺部において周方向に均等に配置される3個の第2遊星ギア36,36,36と、第2キャリア35の半径方向外側に配置され、各第2遊星ギア36と噛み合うリング状の第2内歯ギア37とを有している。
【0041】
第2キャリア35の前側の部分には、回転軸Aと直交する平滑な軸受面35aが設けられている。この軸受面35aが、間にリング板状のスラスト軸受8aを介して第1キャリア31の軸受面31cに受け止められている。また、第2キャリア35の後側の部分には、回転軸Aと直交する平滑な第1支持面35bが設けられている。第1支持面35bの周辺部からは、各第2遊星ギア36を回転自在に片持ち支持する第2支持ピン35cが第1支持面35bと垂直に突出している。
【0042】
第2内歯ギア37は、第2筐体部42に嵌め込まれて回転不能に支持されている。第2内歯ギア37と第1内歯ギア33との間に中間ベアリング7が挟持されている。そして、第2キャリア35の半径方向内側には、各第2遊星ギア36と噛み合うように、第2連結部2の第2太陽ギア38が配置されている。
【0043】
第2連結部2は、第2太陽ギア38の他にも、第2太陽ギア38の後方に一体に設けられる多段円柱状の入力部21(回転体)を有している。具体的には、入力部21は、第2太陽ギア38に連続する小径部21aと、これよりも直径が大きな大径部21bと、これよりも直径が大きな支持部21cと、を有している。小径部21aと大径部21bとの間には、回転軸Aに略直交する段差面を有する段差部21dが形成されている。なお、段差面は小径部21aから大径部21bに向かって傾斜する傾斜面であってもよい。
【0044】
入力部21の後端部分には、モータなどの回転駆動装置のシャフトを挿入して固定するシャフト取付部22が設けられている。出力シャフト1aやシャフト基部1b、第1キャリア31、第1内歯ギア33、第1太陽ギア34、第2キャリア35、第2内歯ギア37、第2太陽ギア38、入力部21は、いずれも回転軸Aと同軸に配置されている。
【0045】
図2に示すように、第2筐体部42は、略円筒形状を呈する金属の鋳造品であり、肉厚な略円筒状の筐体基部43と、筐体基部43の前端部分において、その外周縁から軸方向に張り出す略円筒状の第2周壁部44と、その内周縁から半径方向内側に向かって張り出す円環状の第1規制壁部45とを有している。第2周壁部44は、第1周壁部41aに突き合わせて一体に固定される。
【0046】
図3にも示すように、筐体基部43における第1規制壁部45の前側には、第2キャリア35の第1支持面35bと平行で平滑な第2支持面46が設けられている。すなわち、第1規制壁部45には第2キャリア35を支持する機能が備えられている。そして、各第2支持ピン35cに各第2遊星ギア36を差し込み、リング板状のスラスト軸受8bを介して第2支持面46で各第2遊星ギア36を受け止める。そうして、第2キャリア35や各第2遊星ギア36を、一対のスラスト軸受8a、8bを介して第1キャリア31と第2筐体部42との間に挟み込む。そうすることにより、第2キャリア35は回転軸Aを中心に回転自在に支持され、各第2遊星ギア36は回転軸Aを中心に公転自在に支持される。
【0047】
このように構成することで、第2キャリア35の構造を従来のキャリアに比べて簡素にすることができる。組み付けも容易にできるので、生産性が向上する。
【0048】
筐体基部43の内側は、後方に向かって拡がる多段筒状に形成されている。詳しくは、筐体基部43には、後側に開口する円筒状の大径穴部43a(嵌入穴)が形成されている。大径穴部43aの内径は第2ベアリング9(ベアリング)の外径と略同一に設定されている。そして、この大径穴部43aに連続して大径穴部43aよりも小径の円筒状の小径穴部43bが同軸に形成されている。この小径穴部43bの前側の底部分は第1規制壁部45によって構成されている。小径穴部43bはその中央部に開口する円形開口43cを通じてその前方の減速部3の領域と連通している。
【0049】
大径穴部43aには、開口側から順に第2ベアリング9、組付部材50が嵌め入れられている。これらは、止めリング10によって筐体基部43に抜け外れ不能に取り付けられる。そして、第2ベアリング9には入力部21の支持部21cが嵌め込まれている。すなわち、入力部21は、第2太陽ギア38を円形開口43cから減速部3側に突出させた状態で、第2ベアリング9を介して第2筐体部42に回転自在に支持されている。第1規制壁部45の先端は、入力部21の小径部21aと微小な隙間を隔てて対向している。
【0050】
図4に、組付部材50を示す。組付部材50は、金属板のプレス加工品であり、第2ベアリング9と略同一の外径寸法を有する円環形状に形成されている。組付部材50は、第2筐体部42と第2ベアリング9との間に挟まれて支持される外周側の挟持部50aと、挟持部50aと略平行にずれて位置する内周側の先端部50bと、挟持部50aと先端部50bとに連なるこれらの間の傾斜部50cとを有している。
【0051】
組付部材50は、第2ベアリング9における入力部21側の部分と干渉しないよう、先端部50bや傾斜部50c(内周側の部分)が第2ベアリング9から離して筐体基部43に組み付けられる(図5参照)。また、先端部50bは、微小な隙間を隔てて入力部21の大径部21bと対向している。そうすることで、組付部材50が第2ベアリング9や入力部21に接触して回転抵抗を生じるのを防いでいる。組付部材50を筐体基部43に組み付けることにより、第2規制壁部51が構成されている。
【0052】
小径穴部43bの前後に離れて第1規制壁部45と第2規制壁部51とを設けることにより、換言すれば、小径穴部43bの前後両側を第1規制壁部45と第2規制壁部51とで区画することにより、筐体基部43には、円形開口43cを通じて減速部3の領域と連通し、入力部21の前端部分に臨んで半径方向外側に環状に凹む環状空間47が形成されている。
【0053】
環状空間47は穴の内側をくり抜くような構造をしているため、筐体基部43に一体に形成するのは難しいが、筐体基部43に別部材の組付部材50を組み付けることで容易に形成できる。
【0054】
ところで、減速部3と入力部21との間には、オイルシールを設けてグリース漏れを防止するのが一般的である。それに対し、この減速機では、グリースの性状を考慮してオイルシールを設置しなくてもグリース漏れが防止できるように工夫している。
【0055】
まず、筐体基部43に上述した環状空間47を形成したことで、減速機の設置方向を選ばず、減速部3から漏れ出すグリースを環状空間47に安定して溜めることができ、筐体4の外に漏れ出すのを効果的に防ぐことができる。
【0056】
図5に示すように(同図においてグリースは符号Gで示す)、減速機が駆動され、せん断作用によってグリースの流動性が高まると、グリースは入力部21を伝い、円形開口43cを通じて第2連結部2側に漏れ出し易くなる。そして、グリースが漏れ出した場合、入力部21は高速で回転しているので、グリースは、第2規制壁部51の先端部50bを越える前に、その遠心力によって半径方向外側に形成された環状空間47に飛ばされる。
【0057】
環状空間47では、減速機の駆動時にもせん断力は作用しないため、そこに溜まるグリースは、固まって不動化する。遠心力の作用により、グリースを環状空間47の奥方からバランスよく溜め込むことができ、筐体基部43にしっかりと付着させることができる点でも有利である。
【0058】
入力部21に段差を形成することで、より安定してグリース漏れを防ぐことができる。具体的には、段差部21dは、軸方向において、第1規制壁部45と第2規制壁部51との間に位置している。小径部21aよりも大径部21bの方が遠心力が大きくなるので、入力部21を伝って漏れ出すグリースを安定して環状空間47に飛ばすことができる。
【0059】
回転軸Aの方向から見て、第1規制壁部45の先端を大径部21bの外周縁よりも内側に位置させて、円形開口43cの直径を、小径部21aの直径と大径部21bの直径の間の大きさに形成するのが好ましい。そうすれば、円形開口43cから漏れ出すグリースは、段差部21dの段差面で受け止められるので、第2規制壁部51と大径部21bとの隙間にグリースが直接入り込むのを防ぐことができ、グリースをより安定して環状空間47に飛ばすことができる。
【0060】
グリースには、所定の性状を有するグリースを用いるのが好ましい。具体的には、ちょう度が1以上のグリースが好ましく、2以上のものが特に好ましい。ちょう度は、グリースの性状を表す指標であり、JIS規格(JIS K 2220)に基づいて測定することができる。数値が大きくなるほど、グリースは硬い性状を呈する。
【0061】
ちょう度が1以上のグリースであれば、グリースの種類にもよるが、環状空間47を横向きや逆向きにしてもほとんど移動せず不動化し、普通の使用条件であれば安定して保持できる。それに対し、ちょう度が1より小さいグリースの場合、グリースの種類や環状空間47の向きによっては保持できないおそれがある。ちょう度が2以上であれば、ほとんどグリースの種類を選ばずに安定して環状空間47にグリースを保持できる。
【0062】
本発明の変速機は、前記の実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0063】
図6に示すように、1段型の変速機にも適用できる。この場合、第1キャリア31等は不要である。そのため、第1キャリア31に代えてシャフト基部1bに第2キャリア35が設けられている。その他の主な構成は上述した実施形態と同様であるため、同様の機能を果たす部材には同じ符号を用いてその説明は省略する。
【0064】
第1連結部1と第2連結部2とで、必ずしも回転軸を一致させる必要はない。ベベルギア等を介在させることにより、それぞれの回転軸を直交させてもよい。組付部材50はブロック状の部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の変速機は、産業ロボットや包装機等、各種産業機器に搭載される変速機に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 第1連結部
2 第2連結部
3 減速部(変速部)
4 筐体
9 第2ベアリング(ベアリング)
21 入力部(回転体)
21a 小径部
21b 大径部
21c 支持部
21d 段差部
31 第1キャリア
35 第2キャリア
35b 第1支持面
35c 第2支持ピン
36 第2遊星ギア
37 第2内歯ギア
38 第2太陽ギア
41 第1筐体部
42 第2筐体部
43 筐体基部
43a 大径穴部
43b 小径穴部
43c 円形開口
45 第1規制壁部
46 第2支持面
47 環状空間
50 組付部材
51 第2規制壁部
A 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持された第1連結部及び第2連結部と、
前記第1連結部と前記第2連結部との間に介在し、複数の遊星ギアを有する変速部と、
前記第1連結部、前記第2連結部及び前記変速部を収容する筐体と、
を含み、
前記変速部にグリースが注入されている変速機であって、
前記第2連結部は、
前記筐体にベアリングを介して回転自在に支持される回転体と、
前記回転体と同軸に設けられ、前記遊星ギアに係合する太陽ギアと、
を備え、
前記太陽ギアと前記ベアリングとの間に、全周にわたって前記筐体から前記回転体に向かって張り出す第1規制壁部と第2規制壁部とが回転軸方向に互いに離れて設けられている変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機において、
前記回転体が、
前記太陽ギアに連続する小径部と、
段差部を介して前記小径部に連続し、これよりも大きな直径の大径部と、
を有し、
軸方向における第1規制壁部と第2規制壁部との間に前記段差部が位置している変速機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の変速機において、
前記変速部は、
前記回転体と同軸に設けられ、回転自在に支持されたキャリア、
を備え、
前記キャリアは、
回転軸に直交して前記第2連結部側に面する第1支持面と、
前記第1支持面の周辺部から垂直に突出する複数の支持ピンと、
を有し、
前記筐体は、
前記第1連結部側を収容する第1筐体部と、
前記第2連結部側を収容し、前記第1筐体部に組み付けられる第2筐体部と、
を備え、
前記第2筐体部に前記第1規制壁部が設けられ、
前記第1規制壁部の前記第1連結部側には、前記第1支持面と平行な第2支持面が設けられ、
前記遊星ギアが、前記支持ピンに挿入されて前記第1支持面と前記第2支持面との間に挟んで支持されている変速機。
【請求項4】
請求項3に記載の変速機において、
前記筐体とは別に形成される組付部材を含み、
前記組付部材によって前記第2規制壁部が構成されている変速機。
【請求項5】
請求項4に記載の変速機において、
前記第2筐体部には、前記第1筐体部の反対側に開口する嵌入穴が形成され、
前記組付部材は、前記ベアリングと略同一の外径寸法を有する円環形状に形成され、
前記ベアリング、前記組付部材が、開口側からこの順に前記嵌入穴内に嵌め入れられて前記第2筐体部に取り付けられ、
前記第2規制壁部における前記回転体側の部分が、前記ベアリングから離れている変速機。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の変速機において、
前記グリースに、ちょう度が1以上のグリースが用いられている変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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