説明

外分泌障害処置剤

【課題】新規化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(II):


[式中、Lはオキソ、Mは水素;Aは−COOHまたはその塩、エーテル、エステルもしくはアミド、;Bは−CH−CH−;Zはオキソ;XおよびXはフッ素原子;R1は2価の炭素原子数6の脂肪族炭化水素基;R2は単結合;およびR3は炭素原子数4のアルキル基である]で示される化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外分泌障害の処置のための組成物、特にドライアイを含む涙液分泌障害およびドライマウスを含む唾液分泌障害の処置のための組成物に関する。本発明はさらに、外分泌障害の処置のための方法および、外分泌障害の処置のための医薬組成物の製造のための所定化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
外分泌とは、腺細胞から直接、または導管等を通じて体表面もしくは管腔内に出される分泌物をいう。涙液および唾液が典型的な外分泌であり、鼻粘膜および気道粘膜からの分泌、胃または腸からの分泌、膣からの分泌、汗等も含まれる。外分泌の障害から生じる疾患としては、「ドライアイ」(眼乾燥症)、「ドライマウス」(口腔乾燥症)、「ドライノーズ」(鼻乾燥症)、「ドライスキン」(皮膚乾燥症)および「ドライバジャイナ」(膣乾燥症)等の乾燥症状;および外分泌の低下による慢性膵炎、慢性胃炎および慢性気管支炎等の、体の種々の部分の乾燥が挙げられる。
【0003】
自己免疫疾患である「シェーングレン症候群」は、外分泌障害の要因となる可能性がある種々の公知および非公知の病的要因の一つである。シェーングレン症候群は、外分泌腺の腺房および導管周囲への炎症性細胞の浸潤、これに続く腺房および導管上皮細胞の破壊・萎縮により乾燥症状を呈することによって特徴付けられている。典型的な症状としては、眼および口腔の乾燥化が挙げられるが、皮膚、鼻、咽頭、気管支、陰門や膣の乾燥化も含まれる。例えば気道の乾燥は肺感染症を招き、ときには致死的肺炎に至る等、重篤な障害を導くものである。また、別の大きな病因としては、加齢も挙げられる。外分泌障害は前記のような重篤な疾患を引き起こす可能性があるにも関わらず、これらの外分泌障害に対しては、現在のところ、人工的な水分補給等の対症療法が行われているに過ぎない。それゆえ、低下した外分泌を改善するための根本的な処置法の開発が望まれている。
【0004】
近年、医療および製薬分野で特に関心の高まっている外分泌障害により引き起こされる疾患の一つに、ドライアイを含む涙液分泌障害が挙げられる。
ドライアイとは、「涙液の量の低下または質に異常を来した状態で、角膜および結膜の障害の有無は問わない」(Yamada, et al.,GANKI, 43, 1289-1293(1992))と定義されている。涙液減少症、欠涙症、眼乾燥症、シェーングレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンス−ジェンソン症候群、眼類天疱瘡、眼瞼縁炎症、糖尿病等の疾患にみられるドライアイ、白内障術後のドライアイ、アレルギー性結膜炎等に伴うドライアイ、および加齢に関連するドライアイが挙げられる。さらに、長期間のディスプレー端末(VDT)作業、冷暖房による部屋の乾燥等により引き起こされる涙液減少疾患等において観察される症状等も挙げられる。
【0005】
ドライアイの病因は、上記以外に不明のものも含め様々である。しかし現在のところ、その処置には、人工涙液の投与により結膜嚢内の貯留涙液量の増加をはかり、それにより患者の自覚症状の緩和を図る方法や乾燥から眼を守る方法等の対症療法が行われているに過ぎない。涙液分泌低下の改善といった抜本的な処置を成し得る組成物の提供が望まれている。
涙液の分泌は、涙液基礎分泌と涙液反射分泌に分けられる。涙液基礎分泌とは、開瞼時の通常状態における涙液の分泌で、主に副涙腺(Krause腺、Wolfring腺など)に由来すると考えられている。一方、涙液反射分泌とは、角結膜表面、鼻粘膜などに何らかの刺激が加わった場合や悲しみ・喜びなどの精神的変化に伴う分泌である。これは主涙腺由来と考えられている。ドライアイの症状を考慮すると、開瞼時の通常状態における涙液の分泌である涙液基礎分泌低下の改善が特に重要となる。
【0006】
さらに、外分泌障害により引き起こされる障害には唾液分泌障害が挙げられ、これは時にドライマウス(口腔乾燥症)を伴う可能性がある。ドライマウスの患者では、唾液の分泌量が減少することにより、唇・口腔が乾燥し、口渇感、口腔粘膜乾燥、灼熱感、咀嚼障害、嚥下障害等の様々な障害を引起こす。また、ドライマウスの患者では、口腔内に食物が残存し易く、虫歯の増殖を招く可能性もある。
ドライマウスの原因としては様々な要因が挙げられる。例えば、全身的要因としては、熱性疾患、脱水症、内分泌異常(粘液水腫、バセドー病、尿崩症等)、代謝障害(糖尿病、尿毒症、肝硬変等)、ビタミンA,B欠乏症、自己免疫疾患(シェーングレン症候群、進行性強皮症等)、貧血、出血、加齢、種々の薬剤(鎮静剤、副交感神経遮断剤、抗ヒスタミン剤等)等が挙げられる。局所的要因としては、唾液腺炎、唾液腺萎縮、放射線処置後の後遺症および先天異常(外胚葉形成異常等)等が挙げられる。
【0007】
この様にドライマウスの原因は公知のものおよび不明のものも含め様々である。しかし、現在のところ、その処置法としては、一日中液体を少しずつ飲む方法、チューインガム等を噛む方法、人工唾液を使用する方法等の対処療法が行われているに過ぎない。唾液分泌の減少を改善する為の抜本的な処置を確立し得る組成物の提供が切望されている。
通常、唾液の分泌は、健常人では左右一対の大唾液腺(耳下腺、顎下線、舌下腺)と小唾液腺(口唇腺、舌腺、口蓋腺、頬腺)から1日1〜1.5L程度行われる。唾液は、食物の咀嚼および嚥下に際して潤滑的に作用する他、人体に有毒な刺激性物質に反応して分泌され、これを希釈したり、生理的pHの維持を営む作用も有する。更に、唾液は食物を溶解したり味覚を成立させる作用を有する他、口腔内の湿潤により言語をも円滑にする作用もある。唾液には2タイプある。特別な分泌刺激がなくても絶えず少量の分泌が持続する固有唾液と、食物刺激、顎運動、味覚等によって生じる反射唾液とがある。いずれにしても唾液の分泌は重要な生理機能の1つであり、ドライマウスの処置においては、特に唾液分泌低下の改善が重要となる。
【0008】
従来、脂肪酸のいくつかは必須脂肪酸とされ、栄養学的観点からその十分な摂取量が必要とされてきた。近年、種々の脂肪酸の生理作用について研究が行われており、例えば、リノール酸、アラキドン酸、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の生理作用に注目が集まっている。生体内では、リノール酸はジ-ホモ−γ−リノレン酸さらにはアラキドン酸に変換され、α−リノレン酸はエイコサペンタエン酸(EPA)を経てさらにドコサヘキサエン酸(DHA)に変換され、ジ-ホモ−γ−リノレン酸は1型のプロスタグランジン(PG)に、アラキドン酸は2型のプロスタグランジン(PG)または4型のロイコトリエン(LT)に、エイコサペンタエン酸は3型のプロスタグランジンまたは5型のロイコトリエン(LT)に、それぞれ変換される。
【0009】
プロスタグランジン類(以後プロスタグランジンはPGとして示す)はヒトおよびほとんどの他の哺乳類の組織または器官に含有され、広範囲の生理学的活性を示す有機カルボン酸の1群である。天然に存在するPG類(天然PG)は一般に、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する。
【0010】
【化1】

【0011】
一方幾つかの合成類似体は修飾された骨格を持っている。天然PG類は5員環部分の構造によって、PGA類、PGB類、PGC類、PGD類、PGE類、PGF類、PGG類、PGH類、PGI類およびPGJ類に分類され、さらに炭素鎖部分の不飽和結合の数と位置によって、以下の3型、
下付1;13,14−不飽和−15−OH
下付2;5,6−および13,14−ジ不飽和−15−OH
下付3;5,6−、13,14−および17,18−トリ不飽和−15−OH
に分類される。
【0012】
さらに、PGF類は9位の水酸基の配置によってα型(水酸基がα配置である)およびβ型(水酸基がβ配置である)に分類される。
また、幾つかの15−ケト(すなわち、水酸基の代わりに15位にオキソ基を持つ)−プロスタグランジン類および13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジン類は、天然PGのインビボの代謝中に酵素の作用によって自然に産生される物質として知られている。15−ケト−PG類は、ヨーロッパ特許出願公開第0281239(特開平1−104040号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0284180(特開昭64−52753号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0289349(特開平1−151552号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0453127(特開平5−58992号に対応)およびヨーロッパ特許出願公開第0690049(特開平8−48665号に対応)に開示されている。上記文献はいずれも引用形態で本明細書に含まれる。
【0013】
例えば、脂肪酸誘導体であるPGEやPGFα等の天然型PGをその刺激性により結膜充血が発現する程度の高用量点眼投与した場合、結膜充血と共に流涙が発現する場合があることは知られている。しかしながら、PG化合物等の脂肪酸誘導体が結膜充血を発現しない低用量の投与において、涙液分泌にどのような影響を与えるか、あるいは刺激等に影響されない涙液基礎分泌にどのような影響を与えるか、さらには唾液分泌にどのような影響を与えるか等、外分泌への影響については、全く知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は、外分泌障害の処置のための組成物および方法、特に涙液分泌障害、ドライアイ、唾液分泌障害およびドライマウスから選ばれる少なくとも1つの疾患の処置に有効な組成物および方法を提供することを目的とする。
本発明者は、いかなる結膜充血をも発現しない低用量にて脂肪酸誘導体が涙液分泌を改善すること、刺激等に影響されない涙液基礎分泌を改善すること、およびドライアイ症状を改善し得ることを見出した。さらに本発明者は、脂肪酸誘導体が唾液分泌を改善すること、およびドライマウス症状を改善することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、この発明は、脂肪酸誘導体を有効成分として含む、外分泌障害の処置のための、特に涙液分泌障害、ドライアイ、唾液分泌障害、またはドライマウス処置のための組成物を提供するものである。
【0016】
この発明はまた、外分泌障害の処置を必要としている患者に有効量の脂肪酸を投与することを含む、外分泌障害の処置のための方法を提供するものである。
この発明はさらに、外分泌障害の処置のための医薬組成物を製造するための脂肪酸誘導体の使用を提供するものである。
この発明によれば、「脂肪酸」とは、前述のリノール酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のみならず、二重結合、環基または、置換基の存否、炭素原子の数、二重結合の位置または数、鎖上部分の変形に関わり無く、少なくとも1カ所のカルボン酸部分を含む化合物を意味する。加えて、脂肪酸誘導体とは、上記脂肪酸のみならず、該脂肪酸から誘導されるPG類を含むプロスタグランジン様化合物、ロイコトリエン様化合物、トロンボキサン、ヒドロキシエイコサテトラエン酸、ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸またはその誘導体を包含する。
【0017】
さらに本発明において、脂肪酸誘導体はさらに、二重結合、環基または置換基の存否、炭素原子の数、二重結合の位置または数、または鎖部分の変形に関わり無く、末端炭素原子に少なくとも−COOHまたは−CHOHまたはそれらの官能基性誘導体(塩、エステル、エーテル、アミドなど)を有する化合物を包含するする。
この発明において、「プロスタグランジン様化合物」(以下、「PG様化合物」と略称する)とは、5員環の構造、α鎖またはω鎖中の二重結合の数、水酸基およびオキソ基の有無、その他の置換基の存否およびあらゆる他の変形に関わり無く、プロスタン酸骨格を基本とする化合物のあらゆる誘導体または置換誘導体を包含する。この発明のPG様化合物はひとつの特性としてPGレセプター(例えばEP、FP、IP、TPまたはDPレセプター)アゴニストとしての作用を有する。したがって、この発明の「PG様化合物」とは、その構造にかかわりなく、PGレセプターアゴニストとして作用するあらゆる化合物を包含する。
【0018】
この発明のPG様化合物の命名に際しては、上記式(A)に示したプロスタン酸の番号を用いる。
式(A)はC−20の基本骨格を示すが、本発明のPG様化合物は、同数の炭素原子を有するものには限定されない。式(A)では、PG化合物の基本骨格を構成する炭素原子の番号はカルボン酸を1とし5員環に向かって順に2〜7までをα鎖上の炭素に、8〜12までを5員環の炭素に、13〜20までをω鎖上に付している。炭素数がα鎖上で減少する場合、2位から順次番号を抹消し、炭素原子数がα鎖上で増加する場合2位にカルボキシル基(1位)に代わる置換基がついたものとして命名する。同様に、炭素数がω鎖上で減少する場合、20位から炭素の番号を順次減じ、炭素原子数がω鎖上で増加する場合、21番目以後の炭素原子は置換基として命名する。立体配置に関しては、特に断りのない限り、上記式(A)の基本骨格の有する立体配置に従うものとする。
【0019】
該して、PGD、PGEおよびPGFのそれぞれは、9位および/または11位に水酸基を有するPG化合物をいうが、この発明では、9位および/または11位の水酸基に代えて他の基を有するものも包含する。これらの化合物を命名する場合、9−デヒドロキシ−9−置換−PG化合物あるいは11−デヒドロキシ−11−置換−PG化合物の形で命名する。水酸基の代わりに水素を有するPG化合物は、単に9−または11−デヒドロキシ化合物と称する。
【0020】
前述のように、この発明ではPG様化合物の命名はプロスタン酸骨格に基づいて行う。しかし、上記化合物がプロスタグランジンと同一の部分構造を有する場合には、「PG」の略名をも利用することがある。この場合、α鎖の骨格炭素数が2個延長されたPG化合物、すなわちα鎖の骨格炭素数が9であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(2−カルボキシエチル)−PG化合物と命名する。同様にα鎖の骨格炭素数が11であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(4−カルボキシブチル)−PG化合物と、また、ω鎖の骨格炭素数が10であるPG化合物は、20−エチル−PG化合物と命名する。なお、命名はこれをIUPAC命名法に基づいて行うことも可能である。
【0021】
この発明で使用するPG様化合物は、あらゆるPGの誘導体を包含してよい。従って、例えば13−14位に二重結合を有し、15位に水酸基を有するPG化合物、さらに5−6位にもう一つの二重結合を有するPG化合物、さらに17−18位に二重結合を有するPG化合物、15位の水酸基の代わりにオキソ基を有する15−ケト−PG化合物、15位の水酸基の代わりに水素を有する15−デヒドロキシ−PG化合物、あるいはこれらの13−14位の二重結合が単結合となった13,14−ジヒドロ−PG化合物もしくは13−14位の二重結合が三重結合となった13,14−ジデヒドロ−PG化合物のいずれであってもよい。また、置換体または誘導体の例としては、上記化合物のα鎖の末端カルボキシル基がエステル化された化合物、生理学的に許容し得る塩、α鎖またはω鎖の炭素数が減少あるいは延長された化合物、α鎖またはω鎖上に側鎖(例えば炭素数1〜3)を有する化合物、5員環上にヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキルおよびオキソ等の置換基あるいは二重結合を有する化合物、α鎖上にハロゲン、オキソ、アリールおよび複素環基等の置換基を有する化合物、ω鎖上にハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環および複素環‐オキシ基等の置換基を有する化合物、ω鎖が通常のプロスタン酸より短い化合物のω鎖末端に低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基および複素環−オキシ基等の置換基を有する化合物などが挙げられる。
【0022】
この発明に使用される好ましい化合物は、式(I):
【化2】

[式中、W、WおよびWは炭素または酸素原子、
L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキルまたはオキソ(ただし、LおよびMの基のうちの少なくとも1つは、水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい);
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは、
【0023】
【化3】

(RおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、またはヒドロキシ(低級)アルキル、(ただし、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシとなることはない));
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環−オキシ基で置換された、飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基、複素環−オキシ基]で表される化合物である。
上記化合物のうち、特に好ましい化合物の一群としては、一般式(II):
【0024】
【化4】

[式中、LおよびMは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキルまたはオキソ(ただし、LおよびMの基のうちの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい);
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは
【0025】
【化5】

(RおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、またはヒドロキシ(低級)アルキル(ただし、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシとなることはない));
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
は、単結合または低級アルキレン;および、
は、低級アルキル、低級アルコキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環または複素環−オキシ基]で表される化合物である。
この発明に使用される他の好ましい化合物は、式(III):
【0026】
【化6】

[式中、QおよびQは、水素または低級アルキル、またはQおよびQは共に結合して-(CH)-を形成し、このときnは1、2または0である、および6員環は少なくとも一つの二重結合を有していてもよい;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは
【0027】
【化7】

(RおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキル(ただし、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシとなることはない));
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環-オキシ基で置換された、飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基、複素環-オキシ基;および、
6員環は、1またはそれ以上の二重結合を有していてもよく、および共役系を形成していてもよい]で表される化合物である。
【0028】
上記化合物(III)のうち、好ましい化合物は6員環がベンゼン環タイプの化合物である。
上式中、RおよびRaにおける「不飽和」の語は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間に、少なくとも1つまたはそれ以上の二重結合および/または三重結合を孤立、分離または連続して含むことを意味する。通常の命名法に従って、連続する2つの位置間の不飽和は若い方の位置番号を表示することにより示し、連続しない2つの位置間の不飽和は両方の位置番号を表示して示す。好ましい不飽和は、2位の二重結合および5位の二重結合または三重結合である。
【0029】
「低〜中級脂肪族炭化水素」の語は、炭素数1〜14の直鎖または分枝鎖(ただし、側鎖は炭素数1〜3のものが好ましい)を有する炭化水素を意味する。好ましくはRの場合炭素数1〜10、より好ましくは1〜8の炭化水素であり、Raの場合炭素数1〜10、より好ましくは1〜8の炭化水素である。
「ハロゲン」の語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する。
「低級」の語は、特にことわりのない限り炭素原子数1〜6を有する基を包含するものである。
【0030】
「低級アルキル」の語は、炭素原子数1〜6の直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
「低級アルコキシ」の語は、低級アルキルが上述と同意義である低級アルキル−O−を意味する。
「ヒドロキシ(低級)アルキル」の語は、少なくとも1つのヒドロキシ基で置換された上記のようなアルキルを意味し、例えばヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシエチルおよび1−メチル−1−ヒドロキシエチルである。
【0031】
「低級アルカノイルオキシ」の語は、式RCO−O−(ここで、RCO−は上記のような低級アルキルが酸化されて生じるアシル、例えばアセチル)で示される基を意味する。
「低級シクロアルキル」の語は、炭素原子3個以上を含む上記のような低級アルキル基が閉環して生ずる基であり、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
「シクロ(低級)アルキルオキシ」の語は、式シクロアルキル−O−(ここでシクロアルキルは前記の意味)で示される基を意味する。
【0032】
「アリール」の語は、置換されていてもよい芳香性炭化水素基(好ましくは単環性の基)を包含し、例えばフェニル、トリルおよびキシリルを含む。この場合の置換基としては、ハロゲンおよびハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲン原子および低級アルキル基は前記の意味)が含まれる。
「アリールオキシ」の語は、式ArO−(ここで、Arは上記のようなアリール基)で示される基を意味する。
【0033】
「複素環基」の語は、置換されていてよい炭素原子および、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される1〜4、好ましくは1〜3の1または2種のヘテロ原子を有する5〜14、好ましくは5〜10員環である単環から三環、好ましくは単環複素環基を含む。複素環基の例には、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フラザニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジル、2−ピロリニル、ピロリジニル、2−イミダゾリニル、イミダゾリジニル、2−ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、モルホリノ、インドリル、ベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、プリル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナントリジニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイミダゾロニル、ベンゾチアゾリル、フェノチアジニルが含まれる。この場合の置換基の例には、ハロゲンおよびハロゲン置換低級アルキル基(ここでハロゲン原子および低級アルキル基は前記の意味)が含まれる。
【0034】
「複素環−オキシ」の語は、式HcO−、ここでHcは前記の複素環基である、により表される基を意味する。
Aの「官能性誘導体」の語は、塩(好ましくは、医薬上許容し得る塩)、エーテル、エステルおよびアミド類を含む。
適当な「医薬上許容し得る塩」としては、慣用される非毒性塩を含み、無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、有機塩基との塩、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、リジン塩、プロカイン塩、およびカフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩およびリジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の方法によってまたは塩交換によって製造し得る。
【0035】
エーテルの例としてはアルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテルおよび1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル、オクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテルおよびセチルエーテル等の中級または高級アルキルエーテル、オレイルエーテルおよびリノレニルエーテル等の不飽和エーテル、ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル、エチニルエーテルおよびプロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル、ヒドロキシエチルエーテルおよびヒドロキシイソプロピルエーテルのようなヒドロキシ(低級)アルキルエーテル、メトキシメチルエーテルおよび1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル、フェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテルおよびベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテルおよび、ベンジルエーテル、トリチルエーテルおよびベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルが挙げられる。
【0036】
エステルの例としては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステルおよび1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル、ビニルエステルおよびアリルエステル等の低級アルケニルエステル、エチニルエステルおよびプロピニルエステル等の低級アルキニルエステル、ヒドロキシエチルエステルのようなヒドロキシ(低級)アルキルエステル、メトキシメチルエステルおよび1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステルのような脂肪族エステルおよび例えばフェニルエステル、トシルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステルおよびベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステルおよび、ベンジルエステル、トリチルエステルおよびベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルが挙げられる。アミドとしては、メチルアミド、エチルアミドおよびジメチルアミド等のモノもしくはジ低級アルキルアミド、アニリドおよびトルイジド等のアリールアミド、メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキルもしくはアリールスルホニルアミド等が挙げられる。
【0037】
好ましいLおよびMの例は、ヒドロキシおよびオキソであり、特に好ましくはMがヒドロキシでありLがオキソであり、いわゆるPGEタイプと称される5員環構造を有するものである。
好ましいA基の例は−COOH、その医薬上許容し得る塩、エステルおよびアミドである。
式(I)および(II)において、Bは好ましくは−CH−CH−であり、いわゆる13,14−ジヒドロタイプと称される構造を有するものである。
式(III)において、Bは好ましくは単結合である。
【0038】
式(I)および(II)において、Zは好ましくは=Oであり、いわゆるケトタイプと称される構造を有するものである。
式(III)において、Zは好ましくはヒドロキシである。
およびXの好ましい例は、少なくとも一方がハロゲンであり、より好ましくは両方がハロゲン、特にフッ素であり、いわゆる16,16−ジフルオロタイプと称される構造を有するものである。
好ましいRは炭素数2〜10の炭化水素であり、特に好ましくは炭素数4〜8の炭化水素である。
【0039】
の具体例としては、例えば、次のものが挙げられる。
−CH−CH−CH−CH
−CH−CH=CH−CH
−CH−C≡C−CH
−CH−CH−CH−CH−CH
−CH−CH=CH−CH−CH-
−CH−C≡C−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH-CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH-CH−CH−CH−、
−CH−CH-CH−CH−CH-CH−CH=CH−、
−CH−CH≡C−CH−CH-CH−CH−CH−、
−CH−CH-CH−CH−CH-CH−CH(CH)−CH−、
など。
【0040】
好ましいRaは炭素数1〜10の炭化水素であり、より好ましくは炭素数1〜8の炭化水素であり、さらに炭素数1の側鎖を1または2有していてもよい。
上記式(I)中、環およびα−および/またはω鎖の配置は、天然のPG類の配置と同様かまたは異なっていてもよい。しかしながら、この発明は、天然型の配置を有する化合物および非天然型の配置を有する化合物の混合物も包含する。
この発明の典型的な化合物の例は、13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−PGE化合物またはその誘導体である。
この発明で用いる15−ケト−PG化合物において13,14位が飽和している場合、11位のヒドロキシと15位のケト間のヘミアセタール形成により、ケト−ヘミアセタール平衡を生ずる場合がある。
【0041】
このような互変異性体が存在する場合、両互変体異性体の存在比率は分子他の部分の構造または存在する置換基の種類により変動する。場合によっては一方の異性体が他方と比較して圧倒的に存在することもある。しかし、この発明においてはこれら両者を含むものとする。さらにこのような異性体の存在の有無にかかわりなくケト型の構造式または命名法によって本発明の化合物を表わすことがあるが、これはヘミアセタール型の化合物を排除しようとするものではないことに注意すべきである。
この発明においては、個々の互変異性体、その混合物または光学異性体、その混合物、ラセミ体、その他の立体異性体等の異性体はいずれも、同じ目的に使用することが可能である。
【0042】
この発明に使用する化合物のあるものは、ヨーロッパ特許出願公開第0281239(特開昭64−052753号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0284180(特開平1−104040号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0289349(特開平1−151519号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0453127(特開平5−58992号に対応)、ヨーロッパ特許出願公開第0690049(特開平8−48665号に対応)または米国特許第5369127等に記載の方法によって製造し得る。これらの文献はいずれも引用形態で本願明細書に含まれる。別法として、これらの化合物は、ここで記述したのと同様の方法または既知方法によって製造し得る。
【0043】
前述の如く、この発明のPG様化合物の1つの特性としてはPGレセプター(例えばEP、FP、IP、TPおよびDPレセプター)アゴニスト作用が挙げられる。従って、この発明に使用されるPG様化合物とは、その構造に関わりなく、PGレセプターアゴニスト作用を有するあらゆる化合物を包含するものとする。
【0044】
本発明の上記脂肪酸誘導体は、外分泌障害の処置、特に涙液基礎分泌に関する障害を含む涙液分泌障害の処置ならびにドライアイ症状(涙液分泌低下並びにそれに伴う角膜障害等)の改善および処置に関して有効である。さらに該化合物は唾液分泌障害に対する改善並びにドライマウス症状の改善および処置に関して有効である。それゆえ、外分泌障害の処置、特に涙液基礎分泌を含む涙液分泌における疾患および/またはドライアイ症状または唾液分泌障害および/またはドライマウス症状の処置のために有用である。
ここにいう「処置」または「処置すること」には、予防、処置、症状の軽減、および症状の減退または進行停止等、あらゆる管理手段が含まれる。
【0045】
本発明の方法により処置される対象としては、ドライアイ(眼乾燥症)、ドライマウス(口腔乾燥症)、ドライノーズ(鼻乾燥症)、ドライスキン(皮膚乾燥症)、ドライバジャイナ(膣乾燥症)等の乾燥症状;および外分泌の低下による慢性膵炎、慢性胃炎、および慢性気管支炎等を含む外分泌の障害に罹患している者である。特にドライアイが認められる疾患としては、涙液減少症、欠涙症、眼乾燥症、シェーングレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンス−ジョンソン症候群、眼類天疱瘡、眼瞼縁炎症、糖尿病等の疾患、白内障術後やアレルギー性結膜炎等が挙げられる。さらには加齢、長期のVDT、冷暖房による部屋の乾燥等によって引き起こされる可能性のあるドライアイを伴うものも挙げられる。
【0046】
また、ドライマウスが認められる全身性の要因としては、熱性疾患、脱水症、内分泌異常(粘液水腫、バセドー病、尿崩症等)、代謝障害(糖尿病、尿毒症、肝硬変等)、ビタミンA,B欠乏症、自己免疫疾患(シェーングレン症候群、進行性強皮症等)、貧血、出血、加齢、種々の薬物(鎮静剤、副交感神経遮断剤、抗ヒスタミン剤等)等が挙げられる。また、局所的要因として、唾液腺炎、唾液腺萎縮、放射腺処置後の後遺症、先天異常(外胚葉形成異常等)等が挙げられる。
外分泌障害とは、何らかの原因により引き起こされる外分泌の異常(低下あるいは停止)意味し、特に涙液基礎分泌を含む涙液分泌の異常、および唾液分泌の異常が挙げられる。
【0047】
本発明の方法は、脂肪酸誘導体を活性成分として含む組成物を患者に、経口または非経口のいずれかで投与することにより実施することができる。組成物の投与形態は、点眼剤、眼局所用軟膏、舌下剤、トローチ、咀嚼可能錠剤、うがい剤、スプレー、軟膏、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、坐薬および膣坐薬であってよい。局所適用のための投与製剤、例えば点眼剤、眼局所用軟膏、舌下剤および軟膏が好ましい。これらの投与製剤は、常套法により調製することができる。
【0048】
本発明の組成物へ、医薬上許容される適当な添加剤を含有させてもよい。本明細書では添加剤としては賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基材、座薬用基材、エアゾール材、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤および機能性剤(例えばシクロデキストリンおよび生体内分解高分子など)など本発明の不飽和脂肪酸誘導体と共に使用される化合物を総称して用いる。これらの添加剤は、製剤学に関する一般書籍に記載されているものから適宜選択すればよい。
さらに本発明の組成物には、本発明の目的に反しない限り、別種の薬効成分を適宜含有させることができる。
【0049】
本発明において、脂肪酸誘導体の「有効量」は、用いられる脂肪酸の種類、および処置されるべき症状、患者の年齢および体重、投与形態、処置期間、所望の処置効果等により異なる。例えば処置に用いられる組成物を点眼剤として調製するのであれば、脂肪酸誘導体を0.000001〜10.0重量%、好ましくは0.00001〜1.0重量%含有する製剤を、1日あたり数回、好ましくは1〜6回、1眼あたり数滴、好ましくは1〜4滴投与することができる。また、舌下剤として調製するのであれば、脂肪酸誘導体を0.000001〜10.0重量%、好ましくは0.00001〜1.0重量%含有する製剤を、1日数回、好ましくは1〜6回、口腔中に投与することができる。また、軟膏剤として調製するのであれば、脂肪酸誘導体を0.000001〜10.0重量%、好ましくは0.00001〜1.0重量%含有する製剤を、1日あたり数回、好ましくは1〜6回局所投与することにより、通常十分な効果が得られる。
【0050】
実施例
以下、この発明を試験例により、さらに詳細な説明をする。これらはこの発明を限定するものではない。
試験例1:正常ウサギの涙液全分泌量に及ぼす影響
(1)供試動物
日本白色種雄性家兎(Std:JW/CSK)を使用した。
(2)投与方法
本発明の有効成分として0.001%の13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−PGEを含む眼局所用溶液を調製し、被験組成物とした。対照としては、有効成分を除いた該溶液の基剤を用いた。
各組成物30μL/眼を8眼に対して単回点眼した。投与後、経時的な涙液全分泌量の変化を以下の方法に従い検査した。
【0051】
(3)検査
涙液全分泌量
点眼開始前(0時間)、点眼後0.5、2、4および6時間目に涙液全分泌量を測定した。
無麻酔下で、シルメル試験紙(昭和薬品化工株式会社、Lot No.70080)の先端を、各供試動物の結膜嚢内に挟んだ。1分後、試験紙を取り出し、試験紙上の目盛りから試験紙の濡れの長さを読みとり、涙液全分泌量とした。
【0052】
4)結果
涙液全分泌量検査の結果を表1に示す。また、被験群および対照群のいずれの群においても、点眼後、前眼部に発赤等の刺激反応は全く観察されなかった。
これらのデータを、統計学的解析結果と併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
以上の結果より、本発明の化合物を有効成分とする被験群は、前眼部に発赤等の刺激反応を全く示さない投与量において、有意に涙液全分泌量を増加した。従って、本発明の化合物は、刺激反応を有することなく、涙液分泌量を増加させる作用を有することが明らかとなった。
【0055】
試験例2:三叉神経切断によるウサギドライアイモデルにおける、涙液全分泌量低下、涙液基礎分泌量低下および角結膜上皮障害に及ぼす化合物の影響
(1)供試動物
日本白色種雄性家兎(Std:JW/CSK)15匹を使用した。
【0056】
(2)三叉神経切断によるウサギドライアイモデルの作成
i)手術方法
麻酔後頭部を剃毛した家兎に、ウレタン(ALDRICH)を1g/kgの投与量で腹腔内投与した。
剃毛部を消毒後、前頭骨から耳根部までの正中部より皮膚を切開し、同部の骨膜および側頭骨、下顎関節突起周辺の筋肉組織を剥離した。剥離後、手術用顕微鏡(株式会社コーナン、PMO−50)下で、頭頂部正中から側頭部にかけ、骨ドリル(浦和工業株式会社、MINITOR.C−130)により2×1.5cmの骨窓を形成した。続いて側頭骨と脳硬膜の間に脱脂綿を挿入しつつ、硬膜を頭蓋骨より剥離した。剥離が脳底まで達した後、さらに頭蓋腔内の側頭骨椎体部内側縁に向かって剥離を進め、椎体部内の三叉神経を確認した。その後、半月神経節鼻側約1〜2mmの脳硬膜を切開した。切開後、三叉神経第1枝(眼神経)および第2枝(上顎神経)の2枝の神経束を側方に牽引し、剪刀で切断した。切断直後に同側眼が縮瞳することを確認した後、留置した脱脂綿を取除き、頭部皮膚を縫合した。手術終了後、抗生物質(マイシンゾル:明治)を0.1mL/kgの投与量にて筋肉内投与した。
三叉神経切断は、左眼側として右眼側の三叉神経の切断および擬似手術(sham operation)は行わなかった。
手術後状態の安定した家兎について涙液全分泌量、涙液基礎分泌量の低下および角結膜上皮障害を認めたウサギを本試験に供試した。
【0057】
(3)投与方法
本発明の有効成分として13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−PGEを用い、0.0001%および0.001%の該化合物を含む被験点眼剤を調製した。対照薬物としては、有効成分を除いた点眼液の基剤を用いた。
各組成物を30μL/眼で1日2回(10:00および18:00)、2週間連続点眼した。被験群ならびに対照群、各5眼を処置し、次いで涙液全分泌量、涙液基礎分泌量および角結膜上皮障害を以下のように検査した。
【0058】
(4)検査
i)涙液全分泌量(Schirmer’s Test)
点眼開始前(0週)、点眼1週目、点眼2週目および点眼3週目において、それぞれの検査日における第1回目の点眼2時間後に涙液全分泌量を測定した。
無麻酔下で、シルメル試験紙(昭和薬品化株式会社、Lot No.70080)の先端を各供試動物の結膜嚢内に挟んだ。1分後、試験紙を取り出し、試験紙上の目盛から試験紙の濡れの長さを読み取り、涙液全分泌量とした。
【0059】
ii)涙液基礎分泌量
点眼開始前(0週)、点眼1週目、点眼2週目および点眼3週目において、それぞれの検査日における第1回目の点眼2時間後に涙液基礎分泌量を測定した。
4%リドカイン[キシロカイン(登録商標)4%点眼液用:藤沢薬品工業]で角結膜を点眼麻酔し、約5分後に眼瞼周囲の点眼液および涙液を拭き取り、Cochet−Bonnet型知覚計で角結膜の知覚が無くなったことを確認した。次いでシルメル試験紙の先端を結膜嚢内に挟み、5分間置いた。試験紙上の目盛から試験紙の濡れの長さを読み取った。
涙液基礎分泌量は、結膜嚢内に貯留していると考えられる涙液量を除くため、5分間のシルマーテスト値から最初の1分間の値を差引いた4分間の値から算出される1分間当たりの平均値により表した。
【0060】
iii)角結膜上皮障害
点眼開始前(0週)、点眼1週目、点眼2週目および点眼3週目において、それぞれの検査日の1回目点眼2時間後に角結膜上皮障害を調べた。
ウサギをステンレス製固定器に入れ、1%ローズベンガルおよび1%フルオレセイン混合色素液50μLを点眼し、角結膜上皮の生体染色を行った。染色された面積、即ち障害の範囲を表2に示すスコアにより評価した。
【0061】
【表2】

【0062】
(5)結果
涙液全分泌量検査の結果を表3に、涙液基礎分泌量検査の結果を表4に、角結膜上皮障害検査の結果を表5に示す。統計学的解析結果も併せて示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
以上の結果より、本発明の化合物を有効成分とする被験薬物投与群は、ドライアイモデルにおいて、低下した涙液全分泌量および涙液基礎分泌量ならびに涙液分泌低下に伴う角結膜上皮障害を有意に改善した。従って、本発明の組成物は、涙液基礎分泌障害を含む涙液分泌障害の処置並びにドライアイ症状(涙液分泌障害およびそれに伴う角結膜障害)の処置に有用であることが明らかである。
【0067】
試験例3:唾液分泌亢進作用
本発明の組成物の唾液分泌亢進作用について調べた。
(1)供試動物
雌雄性ラット(Crj:CD系)を使用した。被験群および対照群それぞれ16匹とした。
(2)投与方法
本発明の有効成分として13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロPGEを用いて、0.2mg/mlの該化合物を含む被検薬物を調製した。
5ml/kg(1mg/kgの化合物)の溶液を1日1回、強制的に経口投与した。対照群のラットには、活性成分を含まない5ml/kgの基剤を1日1回投与した。投与は、4週間続けた。
【0068】
(3)検査
被験群および対照群の唾液量を毎日目視観察した。
(4)結果
本発明の脂肪酸誘導体投与群において、投与開始後10日目に16例中8例に唾液分泌亢進が認められ、その後日が経つにつれてこの唾液亢進を示すラットが増加した。投与開始後22日以降では、組成物を投与した16匹のラット全例につき唾液分泌亢進が認められた。一方、対照群では、全例において全投与期間にわたって正常な唾液分泌が認められた。
【0069】
試験例4:唾液分泌亢進作用
本発明の組成物の唾液分泌亢進作用について調べた。
(1)供試動物
雄性ラット(SD系)を使用した。被験群および対照群それぞれ8匹とした。
(2)投与方法
本発明の有効成分として13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ-PGEを用いて、0.2mg/mlの該化合物を含む被検溶液を調製した。
5ml/kgの溶液(1.0mg/kgの化合物)を1日1回、強制的に経口投与した。対照群のラットには、5ml/kgの1%ポリソルベートを1日1回投与した。投与は、10日間続けた。
【0070】
(3)検査
10日目の投与1時間後に、被験群および対照群それぞれの唾液量を測定した。濾紙(シルメル試験紙、昭和薬品化工株式会社)の先端を、下歯肉と下顎骨の間に挟んだ。3分後、濾紙を取り出し、唾液の重量を以下の式より計測した。
唾液の重量=(唾液を含む濾紙の重量)−(濾紙のみの重量)
【0071】
(4)結果
唾液分泌の結果を表6に示す。
【表6】

本発明の脂肪酸誘導体を投与したラットの群において、唾液分泌が対照群と比較して有意に増加した。
【0072】
試験例5:正常ウサギの涙液全分泌量に及ぼす影響
(1)供試動物
日本白色種雄性家兎を使用した。
(2)投与方法
本発明の有効成分を含む眼局所用溶液を調製し、被験組成物とした。
各組成物を30μL/眼、単回点眼した。
【0073】
(3)検査
涙液全分泌量
点眼開始前(0時間)、点眼後2時間目に涙液全分泌量を測定した。
無麻酔下で、シルメル試験紙(昭和薬品化工株式会社)の先端を、各供試動物の結膜嚢内に挟んだ。1分後、試験紙を取り出し、試験紙上の目盛りから試験紙の濡れの長さを読みとり、涙液全分泌量とした。
点眼開始前(0時間)と比較して、点眼後2時間で増加した涙液全分泌量の割合(%)を算出した。
4)結果
涙液全分泌量検査の結果を表7に示す。表中のデータに加えて、被験化合物の投与後、前眼部に発赤等の刺激反応は全く観察されなかった。
【0074】
【表7】

化合物1:15-デヒドロキシ-13,14-ジヒドロ-14,15-デヒドロ-16-ケト-17,17-ジフルオロ-PGE-メチルエステル
化合物2:13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-20-エチル-PGE
化合物3:2-デカルボキシ-2-(2-カルボキシエチル)-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGE
化合物4:13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PG2α-メチルエステル
化合物5:11-デヒドロキシ-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGE
化合物6:13,14-ジヒドロ-15-ケト-PGE
化合物7:2-デカルボキシ-2-(2-カルボキシエチル)-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-20-エチル-PGE-イソプロピルエステル
化合物8:13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGE

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II):
【化1】

[式中、Lはオキソ、Mは水素;
Aは−COOHまたはその塩、エーテル、エステルもしくはアミド、;
Bは−CH−CH−;
Zはオキソ;
およびXはフッ素原子;
R1は2価の炭素原子数6の脂肪族炭化水素基;
R2は単結合;および
R3は炭素原子数4のアルキル基である]
で示される化合物。
【請求項2】
11-デヒドロキシ-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGEである、請求項1記載の化合物。

【公開番号】特開2009−7360(P2009−7360A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164252(P2008−164252)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【分割の表示】特願2001−510445(P2001−510445)の分割
【原出願日】平成12年7月13日(2000.7.13)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【Fターム(参考)】