説明

外因性ポリペプチドを発現するヒト皮膚同等物

本発明は、一般に、創傷治癒のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチド(例えばTIMP-1ポリペプチド)を発現するように操作されたヒト皮膚同等物、ならびに、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を作製するための組成物および方法を提供する。さらに、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を用いて創傷を治療するための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、創傷治癒のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチド(例えば、メタロプロテイナーゼ-1の組織インヒビター(TIMP-1))を発現するように操作されたヒト皮膚同等物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を作製するための組成物および方法を提供する。さらに、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を用いて創傷を治療するための方法も提供する。
【0002】
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2005年3月1日に出願された仮特許出願番号第60/657,592号に対する優先権を主張する。
【0003】
本出願は、一部、STTR助成金2R42AG026174-02によって援助された。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
背景
米国では毎年300万人の人々が慢性創傷を発症する。慢性創傷は、一般に、長期に及ぶか、または頻繁に再発する、皮膚の任意の破壊または潰瘍形成を含む。慢性創傷は、組織を断裂させるか、切断するか、穴を開けるか、または壊すことによって、皮膚の完全性を混乱させる。原因は、損傷のような構造的なもの、または基礎疾患のような生理学的なものであり得る。
【0005】
慢性創傷は、医学的状態により、損傷された組織をそれ自体で修復する身体の能力が損なわれている、様々なタイプの基礎疾患を有する個体において生じる。様々な医学的治療および外科的治療が使用されているものの、慢性創傷が治癒するには数ヶ月または数年までも要する場合があり、かつ頻繁に再発し得る。これらの創傷は、しばしば大きく、かつ見苦しく、一部の患者では痛みを伴うことがある。
【0006】
このような創傷は、疼痛、機能損失を引き起こし、可動性の潜在的欠如により個人の生活の変化を余儀なくさせ、長期間に渡る回復期間を必要とし、かつ回復のためには患者の高いコンプライアンスを必要とする。
【0007】
慢性創傷は、実質的な病的状態を伴う深刻な健康問題である。これらはまた、極めて長い治療、治療の失敗、および長期に渡る患者のコンプライアンスの必要性により難易度が高いため、医師および患者の双方にとって欲求不満の源である。これらの創傷は治癒するまでに非常に長い時間を要するため、逆転が起こるか、または新しい潰瘍が出現した場合、コンプライアンスは低下し、かつ悪化する。
【0008】
慢性創傷には3つの主要なタイプ、すなわち、静脈性うっ滞、糖尿病性潰瘍、および圧迫潰瘍がある。静脈性潰瘍は、慢性血管疾患を有する患者の足首または下腿に発生する潰瘍である。これらの患者では、下肢中の血流が障害されて、浮腫(腫脹)および軽度の発赤、ならびに徐々に潰瘍に進行する皮膚の落屑が生じる。静脈性潰瘍は、米国内で500,000〜700,000人の患者、および先進国で130万人の人々が冒されている疾患である。
【0009】
糖尿病性潰瘍は、糖尿病患者において生じる慢性創傷である。これらの患者における潰瘍の実際の原因は、胼胝、水疱、または小石もしくは砕片などの異物などによる損傷であるが、患者を潰瘍発生の高いリスクにさらすのは、その患者の基礎疾患である。重要な危険因子には次のものが含まれる:損傷された組織を修復し、かつ感染を回避する能力を低下させる、不適切な局所的血液供給、および重篤な慢性創傷になるまで初期の損傷が認識されない原因となる、肢の感覚の低下。糖尿病性潰瘍は、米国内で500,000人弱の患者、および先進国で120万人の人々が冒されている疾患である。
【0010】
圧迫潰瘍は、身体の骨突起部上に位置する組織への連続的な圧力によって引き起こされる任意の病変と定義されている。圧迫潰瘍は、以前は、床擦れまたは褥瘡性潰瘍と呼ばれていた。圧迫潰瘍は、内側の骨および外側のベッドまたは椅子などの硬い表面からの継続的な圧力を組織が受けている、動けない患者において発生する。動けない上に、圧迫潰瘍の発生リスクがある患者は、典型的には、栄養状態が悪く、水分補給が不適切であり、かつ損傷を治癒する能力を損なう他の根源的な医学的状態を有している。米国内で160万人超、および先進国で410万人の人々が圧迫潰瘍に冒されている。これらの疾患の有病率の推定値は非常に様々である。先進諸国(industrialized market)の全タイプの慢性創傷の患者数について、1200万人もの高い推定値が報告されている。
【0011】
慢性創傷の大きさおよび深さは様々であり得る。一般に、創傷において潜在的に損傷を受ける可能性がある組織の4つの層が存在し、これらは、表皮または最外層;真皮;皮下組織;ならびに最下層にある筋肉、腱、および骨である。部分層潰瘍は、表皮、および潜在的に真皮の一部に限定された皮膚の損失を含む。これらの創傷は、上皮形成(上皮細胞の増殖および遊走)により治癒する。全層潰瘍は、表皮、真皮および皮下組織の損傷または壊死を含み、かつ真皮の下の結合組織中に達することもある。これらの創傷は、肉芽形成(結合組織による創傷の充填)、収縮、および上皮形成により治癒する。最も重度のカテゴリーの潰瘍は、表皮、真皮、皮下組織、および筋肉、腱、または骨への損傷を含む。創傷治癒のプロセスは、創傷が閉じた後でさえ完了していない。創傷における正常な皮膚および組織の再生のプロセスは、最初の損傷から最長で2年かかることもある。
【0012】
慢性創傷の治療は、創傷の重症度によって異なる。部分層創傷および全層創傷は、典型的には、被覆法および壊死組織切除法(壊死組織または死滅組織を除去するための化学物質または外科手術の使用)により治療される。感染症が発生した場合には、抗生物質を使用してよい。部分層から全層までの創傷は、慢性創傷患者の最大のカテゴリー、医学的ニーズが最も満たされていない領域、およびレピフェルミン(Repifermin)のような増殖因子処方療法による治療に最も適しているカテゴリーに相当する。筋肉、腱、または骨中に達する全層創傷を有する患者は、敗血症のリスクがかなり高く、典型的には外科手術によって治療される。
【0013】
利用可能な保存的療法の数にもかかわらず、慢性創傷は、治療計画が時間のかかる類のものであること、および患者のノンコンプライアンスが原因で、依然として医療従事者にとって非常にもどかしい問題のままである。必要とされているのは、従事者による慢性創傷治癒の成功例を増やし、かつ/または慢性創傷治癒の速度を速めることができる療法である。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、一般に、創傷治癒のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチド(例えば、メタロプロテイナーゼ-1の組織インヒビター(TIMP-1))を発現するように操作されたヒト皮膚同等物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を作製するための組成物および方法を提供する。さらに、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を用いて創傷を治療するための方法も提供する。
【0015】
したがって、いくつかの態様において、本発明は、以下の段階を含む、異種プロテイナーゼインヒビター(例えば、TIMP-1のようなメタロプロテイナーゼインヒビター)を発現する細胞を提供するための方法を提供する:宿主細胞(例えば、初代ケラチノサイト、ケラチノサイト前駆体、不死化ケラチノサイト、または分化転換ケラチノサイト)および調節配列に機能的に連結されたプロテイナーゼインヒビター(例えばTIMP-1)をコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;宿主細胞に発現ベクターを導入する段階;ならびにプロテイナーゼインヒビターが発現されるような条件下で宿主細胞を培養する段階。いくつかの態様において、宿主細胞は、層形成して扁平上皮になることができる。いくつかの態様において、本方法は、宿主細胞を患者由来の細胞と共培養する段階もさらに含む。いくつかの態様において、不死化ケラチノサイトは、NIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。いくつかの態様において、発現ベクターは、選択マーカーをさらに含む。特定の態様において、調節配列は、プロモーター配列(例えば、K14、ユビキチンもしくはインボルクリンのプロモーター、またはそれらの一部)である。好ましい態様において、プロモーター配列は、宿主細胞におけるプロテイナーゼインヒビターの発現を可能にする。好ましい態様において、TIMP-1は全長TIMP-1である。本発明はさらに、前述の方法によって作製される宿主細胞も提供する。
【0016】
本発明はさらに、異種プロテイナーゼ(例えばTIMP-1)インヒビターを発現する宿主細胞を含む組成物であって、それらの宿主細胞が、初代ケラチノサイト、ケラチノサイト前駆体、不死化ケラチノサイト、または分化転換ケラチノサイト(例えば、NIKS細胞もしくはNIKS細胞由来の細胞)である、組成物を提供する。いくつかの好ましい態様において、TIMP-1は全長TIMP-1である。いくつかの態様において、組成物は、第2の異種ポリペプチドを発現する第2の宿主細胞をさらに含む。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、以下の段階を含む、創傷を治療する方法を提供する:異種プロテイナーゼインヒビター(例えばTIMP-1)を発現する宿主細胞(例えば、初代ケラチノサイト、ケラチノサイト前駆体、分化転換ケラチノサイト、または不死化ケラチノサイト)(例えば、NIKS細胞もしくはNIKS細胞由来の細胞)および創傷を有する被験体を提供する段階;ならびにその創傷を、異種メタロプロテイナーゼインヒビターを発現する不死化細胞に接触させる段階。いくつかの態様において、接触させる段階は、局所適用、移植、または創傷被覆材を含む。いくつかの態様において、これらの創傷は、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、熱傷、潰瘍性大腸炎、粘膜損傷、内傷、または外傷である。特定の態様において、宿主細胞は、ヒト組織(例えばヒト皮膚同等物)中に組み入れられる。いくつかの態様において、ヒト皮膚同等物は、患者由来の細胞もさらに含む。いくつかの態様において、本方法は、接触させる段階の前に、異種プロテイナーゼインヒビター(例えばTIMP-1)を発現する宿主細胞を、被験体由来の細胞と混合する段階をさらに含む。
【0018】
さらに別の態様において、本発明は、異種プロテイナーゼインヒビター(例えばTIMP-1)をコードするDNA配列に機能的に連結されたケラチノサイト特異的プロモーターを含むベクターを提供する。いくつかの態様において、ケラチノサイト特異的プロモーターは、K14プロモーター、ユビキチンプロモーター、またはインボルクリンプロモーターである。いくつかの態様において、ベクターは、選択マーカーをさらに含む。いくつかの態様において、本発明は、ベクターを含む宿主細胞を提供する。他の態様において、本発明はさらに、宿主細胞を含むヒト組織(例えば皮膚同等物)も提供する。いくつかの態様において、ヒト皮膚同等物は、患者由来の細胞もさらに含む。
【0019】
定義
本明細書において使用される「増殖因子」という用語は、細胞表面に結合して、増殖、分化または他の細胞応答をもたらす細胞内シグナル伝達経路を始動させる細胞外分子を意味する。増殖因子の例には、増殖因子I、栄養因子、Ca2+、インスリン、ホルモン、合成分子、薬学的物質、およびLDLが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0020】
本明細書において使用される「プロテイナーゼインヒビター」という用語は、プロテイナーゼの活性(例えばプロテイナーゼ活性)を阻害するタンパク質または他の分子を意味する。いくつかの態様において、プロテイナーゼはメタロプロテイナーゼであり、インヒビターはメタロプロテイナーゼインヒビター(例えばメタロプロテイナーゼの組織インヒビターまたはTIMP)である。他の態様において、プロテイナーゼはセリンプロテイナーゼ(例えばエラスターゼ)であり、インヒビターはセリンプロテイナーゼインヒビター(例えばSLPI)である。
【0021】
本明細書において使用される「メタロプロテイナーゼ-1の組織インヒビター」または「TIMP-1」という用語は、タンパク質または核酸に関連して使用される場合、SEQ ID NO:2との同一性が約50%を上回り、かつ野生型TIMP-1の少なくとも1種の活性も有する、タンパク質またはそのタンパク質をコードする核酸を意味する。したがって、TIMP-1タンパク質という用語は、野生型TIMP-1タンパク質と同一であるタンパク質および野生型TIMP-1タンパク質由来のもの(例えば、TIMP-1タンパク質の変異体またはTIMP-1タンパク質コード領域の一部を用いて構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0022】
本明細書において使用される「TIMP-1の活性」という用語は、野生型TIMP-1タンパク質の任意の活性(例えばメタロプロテイナーゼの阻害)を意味する。この用語は、単独でまたは組み合わせて、TIMP-1タンパク質のあらゆる活性を包含することが意図される。
【0023】
特に、「TIMP-1遺伝子」という用語は、全長TIMP-1ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:1に含まれる)を意味する。しかしながら、この用語は、TIMP-1配列の断片、ならびに全長TIMP-1ヌクレオチド配列内の他のドメイン、ならびにTIMP-1の変異体を包含することも意図される。さらに、「TIMP-1遺伝子ヌクレオチド配列」または「TIMP-1遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNA、およびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0024】
本明細書において使用される「NIKS細胞」という用語は、細胞株ATCC CRL-12191として寄託されている細胞の特性を有する細胞を指す。
【0025】
本明細書において使用される「ケラチノサイト前駆体」という用語は、ケラチノサイトに分化することができる任意の細胞型(例えば多能性または全能性の細胞型)を意味する。
【0026】
本明細書において使用される「分化転換ケラチノサイト」という用語は、初代ケラチノサイトまたは不死化ケラチノサイトの分化転換の結果として生じる任意の細胞または細胞型を意味する。
【0027】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドまたは前駆体(例えばGKLF)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を意味する。ポリペプチドは、全長コード配列によって、または、全長もしくは断片の所望の活性もしくは機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達など)が保持される限りにおいてはコード配列の任意の部分によって、コードされ得る。この用語は、構造遺伝子のコード領域、ならびに遺伝子が全長mRNAの長さに対応するようにコード領域の5'末端および3'末端の双方に隣接して位置する、いずれの側も約1kbに及ぶ含有配列も包含する。コード領域の5'に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'または下流に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNA形態およびゲノム形態の双方を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」もしくは「介在配列」と呼ばれる非コード配列に割り込まれたコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される、遺伝子のセグメントである。イントロンはエンハンサーのような調節エレメントを含み得る。イントロンは核転写物または一次転写物から除去または「スプライスアウト」される。したがって、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物中には存在しない。mRNAは、翻訳の進行中、新生ポリペプチド中のアミノ酸の配列または序列を指定する機能を果たす。
【0028】
本明細書において使用される「コードする核酸分子」、「コードするDNA配列」、および「コードするDNA」という用語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの序列または配列を意味する。これらのデオキシリボヌクレオチドの序列により、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の序列が決定される。DNA配列は、このようにしてアミノ酸配列をコードする。
【0029】
本明細書において使用される場合、本明細書において使用される「組換えDNA分子」という用語は、分子生物学的技術を用いて相互に結合させたDNAのセグメントから構成されるDNA分子を意味する。
【0030】
「単離された」という用語は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」のように、核酸に関して使用される場合、その天然供給源において通常混在している少なくとも1種の混在核酸から同定し、かつ分離された核酸配列を意味する。単離された核酸は、天然にそれが存在する形態または設定とは異なる形態または設定で存在する。一方、単離されていない核酸とは、それらが天然に存在する状態で見出されるDNAおよびRNAなどの核酸である。例えば、所与のDNA配列(例えば遺伝子)は、宿主細胞の染色体上で隣接遺伝子に近接して存在し、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列のようなRNA配列は、多数のタンパク質をコードする他の多数のmRNAとの混合物として細胞中に存在する。しかしながら、TIMP-1をコードする単離された核酸には、例えば、TIMP-1を通常は発現する細胞中の核酸であって、天然の細胞での位置とは異なる染色体位置に存在するか、またはさもなければ、天然に存在するものとは異なる核酸配列が隣接している核酸が含まれる。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の形態で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドがタンパク質を発現するために使用される場合、そのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、最低でもセンス鎖もしくはコード鎖を含むと考えられるが(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖でよい)、センス鎖およびアンチセンス鎖の双方を含んでもよい。(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖でもよい)。
【0031】
本明細書において使用される「一部」という用語は、(「所与のヌクレオチド配列の一部」のように)ヌクレオチド配列に関する場合、その配列の断片を意味する。断片のサイズは、4ヌクレオチドから完全なヌクレオチド配列より1ヌクレオチド少ないものまで様々であり得る(10ヌクレオチド、20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、200ヌクレオチドなど)。
【0032】
本明細書において使用される「コード領域」という用語は、構造遺伝子に関して使用される場合、mRNA分子の翻訳の結果としての新生ポリペプチド中に存在するアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を意味する。真核生物において、コード領域の境界は、5'側は開始メチオニンをコードするヌクレオチドトリプレット「ATG」により、かつ3'側は停止コドンを指定する3種類のトリプレット(すなわちTAA、TAG、TGA)のうちの1つにより示されている。
【0033】
本明細書において使用される「精製された」または「精製する」という用語は、試料からの汚染物質の除去を意味する。
【0034】
本明細書において使用される「ベクター」という用語は、ある細胞から別の細胞にDNAセグメントを導入する核酸分子に関して使用される。「運搬体」という用語が、「ベクター」と同義的に使用されることがある。
【0035】
本明細書において使用される「発現ベクター」という用語は、所望のコード配列、および特定の宿主生物における機能的に連結されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含む、組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列は、通常、プロモーター、オペレータ(任意で)、およびリボソーム結合部位を、しばしば他の配列と共に含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを使用することが公知である。
【0036】
「調節配列」とは、ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたコード配列の発現の調節に必要であるポリヌクレオチド配列を意味する。このような調節配列の性質は、宿主生物に応じて異なる。原核生物では、このような調節配列は、一般に、例えばプロモーターおよび/または転写終結配列を含む。真核生物では、一般に、このような調節配列は、例えばプロモーターおよび/または転写終結配列を含む。「調節配列」という用語はまた、その存在が有利である付加的な構成要素、例えばそれに結合されたポリペプチを分泌するための分泌リーダー配列も含み得る。
【0037】
「機能的に連結された」とは、そのように記述された構成要素が所期の様式で機能することを可能にする関係にある並置を意味する。調節配列に適合した条件下でコード配列の発現が実現されるような様式で調節配列が結合されている場合、調節配列はコード配列に「機能的に連結」されている。
【0038】
「PCR」とは、 Saiki, et al., Nature 324:163 (1986)およびScharf et al., Science 233:1076-1078 (1986);米国特許第4,683,195号および米国特許第4,683,202号において記載されているポリメラーゼ連鎖反応の技術を意味する。本明細書において使用される場合、xが天然にはyに関連していないか、または、天然の状態で見出されるのと同じ様式ではxがyに関連していない場合には、xはyに対して「異種」である。
【0039】
「薬学的に許容される担体」とは、ヒトに投与するために当業者によって使用され、それ自体は、抗体産生、熱などのいかなる有害な副作用も誘発しない、任意の担体を意味する。適切な担体は、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、または不活性ウイルス粒子であり得る、大型で緩徐に代謝される高分子である。このような担体は、当業者には周知である。好ましくは、担体はチログロブリンである。
【0040】
本明細書において使用される「宿主細胞」という用語は、インビトロに位置しようとインビボに位置しようと、任意の真核細胞または原核細胞(例えば大腸菌(E. coli)のような細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を意味する。例えば、宿主細胞は、トランスジェニック動物中に位置してもよい。
【0041】
「過剰発現」および「過剰発現する」という用語、ならびに文法的な同義語は、mRNAのレベルに関して使用されて、対照動物または非トランスジェニック動物の所与の組織において典型的に観察されるレベルより高い(例えば少なくとも2倍、および好ましくは少なくとも3倍高い)発現レベルを示す。mRNAのレベルは、非限定的にノーザンブロット解析または逆転写解析を含む、当業者に公知のいくつかの技術のいずれかを用いて測定される。解析される各組織から添加されるRNAの量の差異を調整するために、ノーザンブロットでは適切な対照が含まれる(例えば、各試料中に存在する28S rRNA(すべての組織において本質的に同じ量で存在する豊富なRNA転写物)の量は、ノーザンブロットで観察されるTIMP-1 mRNA特異的シグナルを正規化または標準化する手段として使用することができる)。正確にスプライシングされたTIMP-1導入遺伝子RNAにサイズが対応するバンド中に存在するmRNAの量を定量する。導入遺伝子プローブにハイブリダイズする他の少数のRNA種は、トランスジェニックmRNAの発現の定量において考慮に入れない。
【0042】
本明細書において使用される「トランスフェクション」という用語は、真核細胞中への外来DNAの導入を意味する。トランスフェクションは、リン酸カルシウム−DNA共沈法、DEAE−デキストランを介したトランスフェクション、ポリブレンを介したトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、および微粒子銃を含む、当技術分野において公知の様々な手段により遂行することができる。
【0043】
「安定なトランスフェクション」または「安定にトランスフェクションされた」という用語は、トランスフェクションされた細胞のゲノム中への外来DNAの導入および組込みを意味する。「安定なトランスフェクタント」という用語は、ゲノムDNA中に外来DNAが安定して組み込まれた細胞を意味する。
【0044】
「一過性トランスフェクション」または「一過性トランスフェクションされた」という用語は、トランスフェクションされた細胞のゲノム中に外来DNAが組み込まれない、細胞中への外来DNAの導入を意味する。外来DNAは、数日間、トランスフェクションされた細胞の核中に存在し続ける。この間、外来DNAは、染色体中の内因性遺伝子の発現を支配する調節制御の影響を受ける。「一過性トランスフェクタント」という用語は、外来DNAを取り込んだが、そのDNAを組み込むのに失敗した細胞を意味する。
【0045】
「リン酸カルシウム共沈法」という用語は、細胞中に核酸を導入するための技術を意味する。細胞による核酸の取込みは、核酸がリン酸カルシウム-核酸共沈物として提供される場合、促進される。Grahamおよびvan der Ebの独自の技術(Graham and van der Eb, Virol., 52:456[1973])は、特定の細胞型に対して条件を最適化するために、いくつかのグループによって修正された。当業者は、これらの多数の修正を十分に承知している。
【0046】
「試験化合物」という用語は、疾患、疾病、病気、もしくは身体機能の障害を治療もしくは予防するために、またはそうでなければ、試料の生理学的状態もしくは細胞状態を改変するために使用することができる、任意の化学的実体、医薬品、および薬物などを意味する。試験化合物は、公知の治療的化合物および潜在的な治療的化合物の双方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング法を用いてスクリーニングすることによって、治療効果があるか判定することができる。「公知の治療的化合物」とは、そのような治療または予防において効果的であることが(例えば、動物試験またはヒトへの投与の過去の経験から)示されている治療的化合物を意味する。
【0047】
本明細書で使用される「試料」という用語は、最も広範な意味で使用される。ヒト染色体またはヒト染色体に関連する配列を含むと推測される試料は、細胞、細胞から単離された染色体(例えば中期染色体のスプレッド)、ゲノムDNA(溶液中のもの、またはサザンブロット解析用のもののように固体支持体に結合されたもの)、RNA(溶液中のもの、またはノーザンブロット解析用のもののように固体支持体に結合されたもの)、およびcDNA(溶液中のもの、または固体支持体に結合されたもの)などを含み得る。タンパク質を含むと推測される試料は、細胞、組織の一部、および1種または複数種のタンパク質を含む抽出物などを含み得る。
【0048】
本明細書において使用される「応答」という用語は、アッセイ法に関連して使用される場合、検出可能なシグナル(例えば、レポータータンパク質の蓄積、イオン濃度の上昇、検出可能な化学産物の蓄積)の生成を意味する。
【0049】
本明細書において使用される「レポーター遺伝子」という用語は、分析され得るタンパク質をコードする遺伝子を意味する。レポーター遺伝子の例には、ルシフェラーゼ(例えば、deWet et al., Mol. Cell. Biol. 7:725[1987]および米国特許第6,074,859号;同第5,976,796号;同第5,674,713号;および同第5,618,682号を参照されたい;これらはすべて、参照により本明細書に組み入れられる)、緑色蛍光タンパク質(例えばGenBankアクセッション番号U43284;いくつかのGFP変異体がCLONTECH Laboratories, Palo Alto, CAから市販されている)、クルラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、および西洋ワサビペルオキシダーゼが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0050】
詳細な説明
本発明は、一般に、創傷治癒のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチド(例えば、メタロプロテイナーゼ-1の組織インヒビター(TIMP-1))を発現するように操作されたヒト皮膚同等物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を作製するための組成物および方法を提供する。さらに、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚同等物を用いて創傷を治療するための方法も提供する。
【0051】
I.宿主細胞を作製する方法
いくつかの態様において、本発明は、外因性ポリペプチド(例えばプロテイナーゼインヒビターポリペプチド)を発現する(例えばNIKS細胞由来の)皮膚同等物のようなヒト組織を作製する方法を提供する。
【0052】
A)宿主細胞
一般に、層形成して扁平上皮になることができる任意の細胞供給源または細胞株が、本発明において有用である。したがって、本発明は、扁平上皮に分化できる細胞のいかなる特定の供給源の使用にも限定されない。実際、本発明は、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトの双方を含む、扁平上皮に分化できる様々な細胞株および供給源の使用を企図する。細胞の供給源には、ヒトおよび死体ドナーから採取されたケラチノサイトおよび真皮線維芽細胞(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる、Auger et al., In Vitro Cell. Dev. Biol.- Animal 36:96-103; 米国特許第5,968,546号および同第5,693,332号)、新生児包皮(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる、Asbill et al., Pharm. Research 17(9):1092-97 (2000); Meana et al., Burns 24:621-30 (1998);米国特許第4,485,096号;同第6,039,760号;および同第5,536,656号)、ならびにNM1細胞(Baden, In Vitro Cell. Dev. Biol. 23(3):205-213 (1987))、HaCaT細胞(Boucamp et al., J. cell. Biol. 106:761-771 (1988));およびNIKS細胞(BC-1-Ep/SL細胞株;参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,989,837号;ATCC CRL-12191)などの不死化ケラチノサイト細胞株が含まれる。これらの各細胞株は、外因性ポリペプチドを発現できる細胞株を作製するために、後述のように培養するか、または遺伝的に改変することができる。
【0053】
特に好ましい態様において、NIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞が使用される。NIKS細胞(BC-1-Ep/SL細胞株;それぞれ参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,989,837号、同第6514,711号、同第6,495,135号、同第6,485,724号、および同第6,214,567号;ATCC CRL-12191)。新規なヒトケラチノサイト細胞株(near-diploid immortalized keratinocytesすなわちNIKS)の発見により、新しい治療法のためにヒトケラチノサイトを遺伝的に操作する機会が提供される。NIKS細胞に特有の利点は、それらが、遺伝的に均一で、病原体を含まないヒトケラチノサイトの安定した供給源であることである。このため、これらは、ヒト皮膚により類似した特性を有する皮膚同等物培養物を提供するために遺伝子工学アプローチおよびゲノム遺伝子発現アプローチを適用するのに有用である。このようなシステムは、化合物および製剤を試験するための動物使用に対する重要な代替手段を提供すると考えられる。University of Wisconsinで同定され、かつ特徴付けがなされたNIKSケラチノサイト細胞株は、非腫瘍形成性であり、安定な核型を示し、かつ単層培養および器官培養のどちらでも正常な分化を経る。NIKS細胞は、培養状態で完全に層形成した皮膚同等物を形成する。これらの培養物は、これまで試験されたどの基準によっても、初代ヒトケラチノサイトから形成された器官培養物と区別することができない。しかしながら、初代細胞とは違って、不死化NIKS細胞は、単層培養において無期限に増殖し続けると考えられる。これにより、細胞を遺伝的に操作し、かつ有用な新しい特性を有する細胞の新規クローンを単離する機会が提供される(Allen-Hoffmann et al., J. Invest. Dermatol., 114(3):444-455 (2000))。
【0054】
NIKS細胞は、見かけ上正常な男性乳幼児から単離されたヒト新生児包皮ケラチノサイトのBC-1-Ep系統から生じた。初期の継代では、BC-1-Ep細胞は、培養された正常ヒトケラチノサイトに対して異型の形態学的特性も増殖特性も示さなかった。培養BC-1-Ep細胞は、層形成ならびにプログラム細胞死の特徴を示した。複製的寿命を決定するために、BC-1-Ep細胞を、標準的なケラチノサイト増殖培地中、100mm皿当り3×105細胞の密度にて老化するまで連続培養し、かつ1週間間隔で継代培養した(分割比約1:25)。15代継代までに、大型で扁平な細胞を示す多数の発育不全なコロニーの存在によって判断されるように、集団中の大半のケラチノサイトは老化していると思われた。しかしながら、16代継代の時点で、小型の細胞サイズを示すケラチノサイトが明らかになった。17代継代までには、サイズの小さなケラチノサイトのみが培養物中に存在し、大型の老化ケラチノサイトは明らかではなかった。結果として生じる、この推定上の危機期間を生き残った小型ケラチノサイトの集団は、形態学的に均一と思われ、かつ細胞-細胞接着および明らかな鱗屑(squame)生成を含む典型的なケラチノサイトの特徴を示すケラチノサイトのコロニーを生成した。老化を耐え抜いたケラチノサイトを、100mm皿当り3×105細胞の密度で連続的に培養した。典型的には、これらの培養物は、7日以内に約8×106細胞の細胞密度に達した。この安定した細胞増殖速度は、少なくとも59回の継代の間維持され、細胞が不死に達したことが実証された。元の老化集団から出現したこれらのケラチノサイトは、最初はBC-1-Ep/自然発生株(Spontaneous Line)と呼ばれたが、現在ではNIKSと呼ばれている。NIKS細胞株は、PCRまたはサザン解析のいずれかを用いて、HIV-1、HIV-2、EBV、CMV、HTLV-1、HTLV-2、HBV、HCV、パルボウイルスB-19、HPV-16、およびHPV-31のプロウイルスDNA配列の存在について、スクリーニングされた。これらのウイルスのどれも検出されなかった。
【0055】
3代継代時の親BC-1-Ep細胞ならびに31代および54代継代時のNIKS細胞において染色体解析を実施した。親BC-1-Ep細胞は46本、XYの正常な染色体対を有する。31代継代の時点で、すべてのNIKS細胞が、第8染色体の長腕の同腕染色体を余分に有する47本の染色体を含んだ。他の著しい染色体異常またはマーカー染色体は検出されなかった。54代継代の時点で、すべての細胞が第8染色体の同腕染色体を含んだ。
【0056】
NIKS細胞株およびBC-1-EpケラチノサイトのDNAフィンガープリントは、解析された12遺伝子座すべてにおいて同一であり、NIKS細胞が親BC-1-Ep集団から生じたことが実証される。ランダムな偶然によってNIKS細胞株が親BC-1-EpのDNAフィンガープリントを有する確率は4×10-16である。ヒトケラチノサイトの3種の異なる供給源である、ED-1-Ep、SCC4、およびSCC13yから得られるDNAフィンガープリントは、BC-1-Epのパターンと異なる。このデータはまた、他のヒトから単離されたケラチノサイトである、ED-1-Ep、SCC4、およびSCC13yが、BC-1-Ep細胞にも相互にも無関係であることを示す。NIKSのDNAフィンガープリントのデータにより、NIKS細胞株を同定する明確な方法が提供される。
【0057】
p53機能の損失は、培養細胞の増殖能力の増強および不死化の頻度の増加に関連付けられている。NIKS細胞のp53の配列は、公開されているp53配列(GenBankアクセッション番号:M14695)と同一である。ヒトでは、p53は、コドン72番のアミノ酸によって区別される2種類の主な多型の形態で存在している。NIKS細胞中のp53の対立遺伝子はどちらも野生型であり、かつコドン72番において、アルギニンをコードするCGC配列を有する。p53のもう一方の一般的な型は、この位置にプロリンを有する。NIKS細胞中のp53の全配列は、先祖細胞のBC-1-Epと同一である。Rbもまた、NIKS細胞において野生型であることが発見された。
【0058】
足場非依存性増殖は、インビボでの腫瘍形成能と強く相関している。このため、寒天含有培地またはメチルセルロース含有培地におけるNIKS細胞の足場非依存性増殖特性を調査した。4週間後、寒天含有培地またはメチルセルロース含有培地のいずれにおいても、NIKS細胞は単細胞として存続していた。アッセイは、増殖の遅いNIKS細胞変異体を検出するために、合計8週間継続した。変異体は全く観察されなかった。
【0059】
親BC-1-Epケラチノサイトおよび不死NIKSケラチノサイト細胞株の腫瘍形成能を判定するために、細胞を無胸腺ヌードマウスの側腹部に注入した。ヒト扁平上皮癌細胞株のSCC4を、これらの動物における腫瘍形成の陽性対照として使用した。試料の注入は、動物の一方の側腹部にSCC4細胞を与え、反対側の側腹部に親BC-1-EpケラチノサイトまたはNIKS細胞のいずれかを与えるように設計した。この注入戦略により、腫瘍形成の動物間格差が解消され、かつマウスが腫瘍形成性細胞の活発な増殖を支援することが確認された。親BC-1-Epケラチノサイト(6代継代)もNIKSケラチノサイト(35代継代)も、無胸腺ヌードマウスにおいて腫瘍を形成しなかった。
【0060】
NIKS細胞が分化を受ける能力を、表面培養および器官培養の双方において解析した。表面培養の細胞の場合、扁平上皮分化のマーカーであるコーニファイドエンベロープの形成をモニターした。培養ヒトケラチノサイトでは、コーニファイドエンベロープ組立ての初期段階で、インボルクリン、シスタチンα、および他のタンパク質から構成される未成熟な構造体が形成され、これは、成熟したコーニファイドエンベロープの最も内側の3分の1に相当する。接着性のBC-1-Ep細胞またはNIKS細胞株に由来するケラチノサイトの2%未満がコーニファイドエンベロープを産生する。この知見は、活発に増殖しているサブコンフルエントなケラチノサイトの5%未満がコーニファイドエンベロープを産生することを実証した以前の研究と一致している。分化を誘導された場合にNIKS細胞株がコーニファイドエンベロープを産生できるかどうか判定するために、細胞を表面培養から取り出し、かつメチルセルロースを用いて半固体にした培地中に24時間懸濁させた。ケラチンの示差的発現およびコーニファイドエンベロープの形成を含む、最終分化の多くの局面は、ケラチノサイトの細胞間接着および細胞−基質間接着の損失によって、インビトロで誘発することができる。NIKSケラチノサイトは、親ケラチノサイトと同数のコーニファイドエンベロープ、および通常、より多くのコーニファイドエンベロープを産生した。これらの知見により、NIKSケラチノサイトは細胞型に特異的なこの分化構造体の形成を開始する能力を欠損していないことが実証される。
【0061】
NIKSケラチノサイトが扁平上皮に分化できることを確認するために、これらの細胞を器官培養で培養した。プラスチック基層上で増殖させられ、かつ培地中に浸されたケラチノサイト培養物は、複製するが限定的な分化を示す。具体的には、ヒトケラチノサイトはコンフルエントになり、かつ限定的な層形成を経て、ケラチノサイトの3つまたはそれ以上の層からなるシートを形成する。光学顕微鏡および電子顕微鏡によると、組織培養において形成された多層状シートの構造物と完全なヒト皮膚の間には著しい差異がある。一方、器官培養技術は、インビボ様の条件下でのケラチノサイトの増殖および分化を可能にさせる。具体的には、細胞は、線維性コラーゲン土台内に埋め込まれた真皮線維芽細胞からなる生理学的基層に接着する。器官培養物は、空気と培地の界面で維持される。この方法では、上側のシート中の細胞は空気に曝露されるが、増殖中の基底細胞は、依然として、コラーゲンゲルを介した拡散により提供される栄養物の勾配に最も近い。これらの条件下で、正確な組織構造が形成される。正常に分化している表皮のいくつかの特徴が明らかである。親細胞およびNIKS細胞株のいずれにおいても、立方体の基底細胞の単層は、表皮および皮膚同等物の接合部に存在する。円形の形態および高い核細胞質比は、活発に分裂しているケラチノサイト集団を示す。正常なヒト表皮では、基底細胞は、分裂すると同時に娘細胞を生じ、これらの娘細胞は組織の分化中の層へと上方向に遊走する。娘細胞のサイズは増大し、かつ平らで扁平になる。最終的には、これらの細胞は脱核し、かつ角質化したケラチン化構造体を形成する。この正常な分化プロセスは、親細胞およびNIKS細胞の双方の上層において明らかである。平らな扁平細胞の出現はケラチノサイトの上層において明らかであり、これにより、これらの器官培養物中で層形成が起こったことが実証される。器官培養物の最上部では、脱核した扁平細胞が培養物の上表部から剥がれ落ちる。これまで、親ケラチノサイトと器官培養で増殖させたNIKSケラチノサイト細胞株との間に、光学顕微鏡レベルでの分化の組織学的差異は観察されていない。
【0062】
親(5代継代)の器官培養物およびNIKS(38代継代)の器官培養物のより詳細な特徴を観察し、かつ組織学的観察結果を確認するために、電子顕微鏡検査によって試料を解析した。親細胞、および不死化ヒトケラチノサイト細胞株のNIKSを、器官培養開始から15日後に採取し、かつ層形成の程度を示すために基底層に対して垂直に切片化した。親細胞およびNIKS細胞株のどちらも、器官培養において広範囲な層形成を経て、正常なヒト表皮の特徴である構造体を形成する。大量のデスモソームが、親細胞およびNIKS細胞株の器官培養物において形成される。親細胞および細胞株の双方の基底ケラチノサイト層における、基底層および随伴するヘミデスモソームの形成もまた注目された。
【0063】
ヘミデスモソームは、基底層へのケラチノサイトの接着を増加させ、かつ組織の完全性および強度の維持に寄与する特化した構造体である。これらの構造体の存在は、親細胞またはNIKS細胞が多孔質支持体に直接結合している領域において特に明らかであった。これらの知見は、線維芽細胞を含む多孔質支持体上で培養されたヒト包皮ケラチノサイトを用いた以前の超微細構造学的知見と一致している。光学顕微鏡レベルおよび電子顕微鏡レベルの解析のどちらでも、器官培養されたNIKS細胞株が、層形成し、分化し、かつ正常なヒト表皮中に存在するデスモソーム、基底層、およびヘミデスモソームなどの構造体を形成し得ることが実証される。
【0064】
B)プロテイナーゼインヒビター
いくつかの態様において、本発明は、外因性プロテイナーゼインヒビターまたは異種プロテイナーゼインヒビターを発現するヒト皮膚同等物を提供する。本発明は、特定のプロテイナーゼインヒビターに限定されない。例示的なプロテイナーゼインヒビターは、本明細書において説明する。
【0065】
i)メタロプロテイナーゼインヒビター
いくつかの態様において、プロテイナーゼインヒビターは、メタロプロテイナーゼインヒビターである。例えば、いくつかの態様において、本発明は、外因性TIMP-1または異種TIMP-1を発現するヒト皮膚同等物(例えばケラチノサイト)を提供する。ヒト皮膚は、細胞外マトリクス中に埋め込まれている線維芽細胞を含む、血管が新生した真皮層、および分化して最も外側の不浸透性皮膚層を形成するケラチノサイトから主になる表皮層から構成されている。分化したケラチノサイトは、表面から継続的に失われ、かつ基底のケラチノサイトの増殖によって置き換えられる。基底細胞がその分化プログラムを開始および完了する速度はしっかりと調節されているが、このような調節のための分子制御ははっきりしていない[Fuchs, J. Cell. Sci. Suppl., 1993. 17: p. 197-208]。インビボにおいて、最終分化プロセスの段階は、フィラグリンを媒介としたケラチン中間体フィラメント束形成(bundling)、および膜被覆顆粒(membrane-coating granule)に由来する脂質の細胞間空間中への放出を含む多数の変化を特徴とする[Schurer et al., Dermatologica, 1991. 183: p. 77-94]。コーニファイドエンベロープ、すなわちカルシウム依存性のトランスグルタミナーゼの作用によって共有結合的に架橋されたいくつかのタンパク質からなる別の最終分化構造体もまた、分化中のケラチノサイトにおいて形成される[Reichert et al., The cornified envelope: a key structure of terminally differentiating keratinocytes, Molecular Biology of the Skin, M. Darmon, Editor. 1993, Academic Press, Inc.: San Diego. p. 107-150;Aeschlimann et al., Thrombosis & Haemostasis, 1994. 71(4): p. 402- 15]。最終的に、ケラチノサイトは細胞内の細胞小器官を失い、かつ角質層において脱核して、引張り強さの強い殻を形成する。
【0066】
多数の分子的差異が、内因性の皮膚老化に関連付けられている[Gosain and DiPietro, World J Surg, 2004. 28(3): p. 321-6]。ケラチノサイトは、若い個体の場合よりも50%速い速度で、基底層から最も外側の皮膚層まで遊走する。さらに、真皮と表皮の接合部の平坦化が認められ、これにより、老化皮膚は分離しやすくなっている。さらに、老化皮膚中に存在するケラチノサイトおよび線維芽細胞の数はより少ない。真皮中のエラスチンの形態は異常であり、そのため弾性が減少し得る。コラーゲン産生は減少し、かつ分解が増加する。MMPの上方調節およびTIMPの下方調節の結果として生じるMMP活性の増加は、皮膚老化の進行中のエラスチン線維および皮膚コラーゲンの溶解に関与している。具体的には、TIMP-1およびTIMP-2のmRNAレベルは、若い皮膚の加齢と比べた場合、老化皮膚において有意に低いことが判明した[Hornebeck, Pathol Biol (Paris), 2003. 51(10): p.569-73;Ashcroft et al., J Pathol, 1997. 183(2): p. 169-76]。著者らは、TIMPレベルの低下に起因する皮膚組織の分解および創傷治癒の遅延が原因で、高齢者は慢性創傷の状態になりやすいと結論付けた。
【0067】
皮膚創傷治癒は、上皮細胞および真皮細胞、細胞外マトリクス、血漿由来タンパク質の複雑な相互作用、ならびに一連のサイトカインおよび増殖因子によって調整される、制御された血管形成を伴う。この動力学的なプロセスは、典型的には、次の3つの重複した段階に分けられる:炎症、増殖、および細胞外マトリクスのリモデリング([Martin, Science, 1997. 276(5309): p. 75-81;Diegelmann and Evans, Front Biosci, 2004. 9: p. 283-9.]に総説がある)。
【0068】
損傷されると、増殖因子は、循環している炎症細胞(主に好中球)を創傷部位に動員するための走化性刺激を提供することによって、創傷閉鎖応答を開始する。プロテアーゼは、急性の炎症期の間に放出され、かつ後続の増殖期に備えて、損傷および変性した細胞外マトリクス成分の除去(壊死組織切除)の面で援助する。表皮細胞が増殖し、かつ前方へ遊走して、露出された創傷表面を再上皮化する際、線維芽細胞は、創傷の縁をつなげるように引き寄せる収縮性の顆粒組織の形態で新しい細胞外マトリクスを産生する。露出された創傷表面が一旦ケラチノサイトの単層で覆われたら、表皮の遊走は止まり、かつ下に基底膜がある新しく層形成した表皮が、創傷の縁から内側に向けて再建される。真皮コンパートメント内でのコラーゲン産生は、創傷閉鎖後数週間継続し、かつそれに続く細胞外マトリクスリモデリングは、2年またはそれ以上継続し得る。
【0069】
多くの局所的因子および全身的因子が治癒不良の一因となる。前述したように、正常な皮膚治癒は、整然とした高度に調節された様式で進行する。慢性創傷の環境では、これらの複雑な細胞および分子プロセスは乱され、かつ誤って調節されて、結果として顆粒形成および再上皮化の失敗をもたらす。慢性創傷に共通するいくつかの特徴には、炎症誘発性サイトカインのレベルの上昇、増殖因子活性の低下、および細胞が分子調節因子に正確に応答できないことが含まれる(図1)[Agren et al., J Invest Dermatol, 1999. 112(4): p. 463-9;Mendez et al., J Vasc Surg, 1999. 30(4): p. 734-43;Mendez et al., J Vasc Surg, 1998. 28(6): p. 1040-50]。これらの細胞の差異および生化学的差異は、細胞機能障害および生化学的平衡異常と呼ばれている[Enoch and Harding, Wounds, 2003. 15(7): p. 213-229]。これらの因子はすべて、持続的な慢性創傷状態の一因となるが、異常に高レベルのプロテイナーゼ活性は、修復の典型的な順序からの重大な逸脱である[Mulder and Vande Berg, J Am Podiatr Med Assoc, 2002. 92(1): p.34-7]。本発明は、特定のメカニズムに限定されない。実際、このメカニズムを理解することは、本発明を実施するのに必要ではない。それでもなお、持続的な炎症誘発性応答が、炎症細胞の継続的な動員および活性化と共に、局所的なインヒビター防御を圧倒する大量のタンパク分解酵素の放出を招くと仮定されている[Barrick et al., Wound Repair Regen, 1999. 7(6): p. 410-22]。結果として生じる、プロテイナーゼとそれらのインヒビターとの生化学的平衡異常は、細胞外マトリクスの異常な分解、重要な可溶性増殖因子またはマトリクス結合型増殖因子の分解、および細胞機能障害にさらに寄与する、創傷環境内の各細胞レセプターの破壊を招き得る。
【0070】
細胞遊走、顆粒組織形成、血管新生、および細胞外マトリクスリモデリングはどれも、MMPによって主に媒介される周囲マトリクスの制御された分解を必要とする[Armstrong and Jude, J Am Podiatr Med Assoc, 2002. 92(1): p. 12-8]。MMPは、いくつかの特徴、すなわち不活性なチモーゲンとしての分泌、触媒部位での亜鉛イオンの存在、細胞外マトリクスの少なくとも1種の成分を分解する特異性、およびTIMPによる阻害を共有する酵素ファミリーである。MMPファミリーのメンバーは、遺伝子転写のレベルで、かつ活性な酵素型へのプロ酵素の制御された変換によって、ならびにTIMPの阻害活性によって、調節される[Nagase and Woessner J Biol Chem, 1999. 274(31): p.21491-4;Visse and Nagase, Circ Res, 2003. 92(8): p. 827-39]。次の4種の独特な酵素サブセットがMMPファミリー内に存在する:コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメライシン、および膜型メタロプロテイナーゼ(MT-MMP)。コラゲナーゼ(MMP-1、MMP-8、およびMMP-13)は、線維性コラーゲン(I型、II型、およびIII型)の3重らせんを切断する能力を有する唯一の哺乳動物酵素である。ゼラチナーゼ(MMP-2およびMMP-9)は、これらの変性したコラーゲン、ならびに他のコラーゲンタイプ(IV、V、VII、およびX)、エラスチン、および基底膜成分をさらに分解する。ストロメライシン(MMP-3、MMP-10、MMP-11、およびMMP-12)は、細胞外マトリクスの分解において様々な役割を果たす。その名前によって示唆されるように、膜結合型MT-MMP(MMP-14)は、細胞外空間中に分泌されない。MT-MMPは、他のMMPを活性化し、かつ組織微環境内にそれらの活性を局在化させることによって、機能する。
【0071】
近年、TIMPの多様性、生物学的役割、構造、および作用様式に関する知識に大きな進歩が認められている。TIMPは、治癒の進行中、細胞外マトリクスの制御された分解を維持するのに不可欠である。TIMPファミリーは、12個の保存されたシステイン残基を有し、かつMMP阻害活性を示す、少なくとも4種の独特なメンバーから構成されている([Gomez et al., Eur J Cell Biol, 1997. 74(2): p. 111-22;Brew and Nagase, Biochim Biophys Acta, 2000. 1477(1-2): p. 267-83]に総説がある)。TIMPは比較的小型の、2ドメインからなる分子であり、各ドメインは3つのジスルフィド結合によって安定化されている。TIMPは、活性なMMPの亜鉛結合部位に結合して、1:1の酵素-インヒビター複合体を形成する。活性化されたMMPを阻害するだけでなく、TIMPはまた、不活性なプロMMPチモーゲンにも結合し、それによって活性化のプロセスを遅くすることもできる。MMP阻害活性とは無関係な、TIMPに帰される他の生物活性には、細胞増殖の促進、マトリクス結合、血管形成の阻害、およびアポトーシスの誘導が含まれる[Baker et al., J Cell Sci, 2002. 115(Pt 19): p. 3719-27]。TIMPは、優性に作用する癌原遺伝子であることも腫瘍抑制遺伝子であることも示されておらず、かつ腫瘍形成におけるTIMP活性を検査する研究は結論に達していない[Jiang et al., Oncogene, 2002. 21(14): p. 2245-52;Rhee et al., Cancer Res, 2004. 64(3): p. 952-61]。
【0072】
したがって、いくつかの態様において、本発明は、外因性TIMP-1遺伝子を含む皮膚代用品を提供する。TIMP-1はMMP-1を優先的に阻害するが、これは、公知であるすべてのMMPの活性を阻害することができ、したがって、細胞外マトリクスの沈着と分解のバランスを維持する際に重要な役割を果たす[Gomez et al., Eur J Cell Biol, 1997. 74(2): p. 111-22]。TIMP-1レベルの低下は、慢性創傷状態の形成および永続化に強い影響を与えることが示されている。さらに、いくつかの報告では、意味深長なことにはヒトケラチノサイトを含む、様々な培養細胞に対するTIMP-1の増殖促進活性が実証された[Hayakawa et al., FEBS Lett, 1992. 298(1): p. 29-32]。
【0073】
TIMP-1は、ケラチノサイト、線維芽細胞、平滑筋細胞、および内皮細胞を含む様々な細胞型によって産生および分泌される、甚だしくグリコシル化されたタンパク質である。TIMP-1は、少なくとも2つの介在配列が割り込んだ、長さ約3kbの単一遺伝子によってコードされている[Hayakawa et al., 前記]。ヒトTIMP-1のmRNAは、207アミノ酸からなるタンパク質をコードしている。23アミノ酸からなるシグナルペプチドは切断されて、相対分子量が約29kDである、184アミノ酸からなる最終のタンパク質を生じる[Docherty et al., Nature, 1985. 318(6041): p. 66-9]。
【0074】
TIMP-1は、赤血球前駆体の増殖を刺激する赤血球増強活性として依然に同定された因子と同一であることが示された[Gasson et al., Nature, 1985. 315(6022): p. 768-71]。Bertauxらは、1〜10μg/mlの組換えTIMP-1が、単層培養されているケラチノサイトの増殖を刺激するのに対し、3次元器官培養における増殖は、5〜10μg/mlで刺激されることを発見した[Bertaux et al., J Invest Dermatol, 1991. 97(4): p. 679-85]。しかしながら、Pilcherらは、非常に高いレベルの組換えTIMP-1(50μg/ml)が、I型コラーゲン上での初代ケラチノサイトの増殖を阻害することを発見した[Pilcher et al., J Cell Biol, 1997. 137(6): p. 1445-57]。最近、Salonurmiらは、MMP-9プロモーターのもとでのTIMP-1の過剰発現が、おそらくは、TIMP-1を介したケラチノサイト遊走に影響を及ぼすことにより、トランスジェニックマウスモデルにおける創傷治癒を遅らせたことを報告した[Salonurmi et al., Cell Tissue Res, 2003]。特定のメカニズム(このメカニズムを理解することは、本発明を実施するのに必要ではない)に本発明を限定するわけではないが、この結果は、正常な創傷治癒環境において予想され得るが、タンパク質分解の著しい慢性創傷状態は、過剰なMMP活性を平衡させるためにTIMP-1の過剰発現を必要とする可能性があることが予想される。
【0075】
MMPおよびTIMPは、サイトカイン、増殖因子、細胞とマトリクスの相互作用の変化、および細胞間連絡の変化など、創傷治癒の進行中に生成される内因性シグナルに応答して誘導される。正常な創傷治癒の進行中、MMPおよびTIMPのmRNA発現は、空間的に仕切られている(図2)。MMPおよびTIMPの発現は、慢性創傷と対照的に、十分に特徴付けられている修復の炎症期および増殖期と時間的に同時に起こる(表1)[Trengove et al., Wound Repair Regen, 1999. 7(6): p. 442-52;Vaalamo et al., Hum Pathol, 1999. 30(7): p. 795-802;Vaalamo et al., J Invest Dermatol, 1997. 109(1): p. 96-101;Soo et al., Plast Reconstr Surg, 2000. 105(2): p. 638-47]。急性の創傷では、炎症期が終わり、修復が増殖期に進行する際、TIMPはMMPによる組織破壊を妨害する作用を果たす。しかしながら、慢性創傷では、TIMPレベルの著しい低下およびMMPレベルのかなりの大きさの上昇が報告されている(表2を参照されたい)。さらなる証拠が、圧迫潰瘍に由来する創傷滲出液中のMMP-9/TIMP-1の比が治癒の結果の予後指標となることを発見したLadwigらによって提供された[Ladwig et al., Wound Repair Regen, 2002. 10(1): p. 26-37]。プロテイナーゼの活性と阻害とのこの生化学的平衡異常は、慢性創傷環境の確立および永続化の一因となる[Bullen et al., J Invest Dermatol, 1995. 104(2): p. 236-40;Saito et al. J Vasc Surg, 2001. 34(5): p. 930-8;Ladwig et al., Wound Repair Regen, 2002. 10(1): p. 26-37;Soo et al., Plast Reconstr Surg, 2000. 105(2): p. 638-47;Weckroth et al., J Invest Dermatol, 1996. 106(5): p. 1119-24]。
【0076】
(表1)正常に治癒している皮膚創傷および慢性潰瘍におけるMMPおよびTIMPの一時的なmRNA発現。表皮コンパートメント(E)および真皮コンパートメントコンパートメント(D)の発現を別々に示す。

【0077】
(表2)MMP活性およびTIMP活性。慢性創傷滲出液と急性創傷(外科的創傷および外傷性創傷)滲出液の比較(NS-研究せず)。

【0078】
これまで、いくつかの広範囲のMMPインヒビターが、関節炎、癌、歯周病、および角膜潰瘍形成の治療のために開発されている[Gomez et al., Eur J Cell Biol, 1997. 74(2): p. 111-22;Nagase and Brew, Arthritis Res, 2002. 4 Suppl 3: p.S51-61;Herouy et al., Eur J Dermatol, 2000. 10(3): p. 173-80;Catterall and Cawston, Arthritis Research and Therapy, 2002. 5(1): p. 12-24]。これらの合成低分子MMPインヒビターは、臨床試験において限られた成功しかおさめておらず、有害な副作用を伴った[Jiang et al., Oncogene, 2002. 21(14): p. 2245-52]。例えば、癌の試験では、MMPインヒビターのMARIMASTATは、腱炎、関節痛、硬直、および可動性の低下によって顕在化する筋骨格の問題を引き起こした[Steward and Thomas, Expert Opin Investig Drugs, 2000. 9(12): p. 2913-22]。慢性創傷の治療に関してIlomastatおよびBB-3103を具体的に試験した場合、これらのインヒビターは、ほぼすべてのMMP活性を無効にして、表皮再生を大幅に減退させた[Agren et al., Exp Dermatol, 2001. 10(5): p. 337-48;Mirastschijski et al., J Invest Dermatol, 2002. 118(1): p. 55-64]。市販されているPROMOGRAN、すなわち創傷部位においてMMPに結合する、酸化再生セルロース/コラーゲンマトリクスは、湿らせたガーゼと比べた場合、糖尿病性足部潰瘍の治療においてわずかの成功しか示していない[Veves et al., Arch Surg, 2002. 137(7): p. 822-7]。最も有望な臨床結果は、MMPインヒビターのドキシサイクリンを用いて示された。この研究では、ドキシサイクリンによる糖尿病性潰瘍の局所的治療は、溶媒対照と比べて改善された治癒をもたらした[Chin et al., Wounds, 2003. 15(10): p. 315-323]。しかしながら、研究の規模が小さい(患者7例)ことが、決定的な結論を引き出す妨げとなった。前述のアプローチは過剰な細胞外マトリクス分解という問題に焦点をあわせているが、天然のMMPインヒビターであるTIMP-1は、慢性創傷治療法としてまだ調査されていない。
【0079】
いくつかの態様において、本発明は、TIMP-1タンパク質を過剰発現する遺伝的に操作された皮膚代用品を提供する。この皮膚代用品は、高齢の個体における慢性創傷のタンパク質分解の著しい環境を弱めることが企図される。この作製物は、内因性因子を分泌し、かつ創傷感染に対する物理的かつ生物学的バリアを提供するだけでなく、プロテイナーゼとそれらのインヒビターとの平衡を回復させる作用を果たすと考えられる。Terasakiおよび共同研究者らによって最近公表された研究は、この予想を支持する。これらの研究において、組換えTIMP-2の適用は、インビトロのケラチノサイト遊走を亢進させただけでなく、いくつかのげっ歯類動物モデルを用いて、全層創傷に組換えTIMP-2が適用された場合には、溶媒で処置された対照と比べてより速い創傷閉鎖も観察された[Terasaki et al., J Dermatol, 2003. 30(3): p. 165-72]。動脈瘤のラットモデルにおけるTIMP-1の過剰発現により、このモデルにおけるMMPの上方調節が、血管の構造的不安定化をもたらして、破裂を招くことが実証された。Allaireは、TIMP-1の局所的な過剰発現によりMMP-9、MMP-2、およびエラスターゼの活性が低下し、したがって血管組織の構造的完全性が大きく改善することを実証した[Allaire et al., J Clin Invest, 1998. 102(7): p. 1413-20]。多数の公表された報告書においてもまた、様々なプロモーター戦略を用いて、哺乳動物細胞株[Allaire et al., 前記;Li et al., Cancer Res, 1999. 59(24): p. 6267-75;Khokha, J Natl Cancer Inst, 1994. 86(4): p. 299-304;Roeb et al., J Cell Biochem, 1999. 75(2): p. 346-55]およびトランスジェニックマウス[Kruger et al., Blood, 1997. 90(5): p. 1993- 2000;Martin et al., Oncogene, 1996. 13(3): p. 569-76;Yoshiji et al., Hepatology, 2000. 32(6): p. 1248-54;Alexander et al., J Cell Biol, 1996. 135(6 Pt 1): p. 1669-77]におけるTIMP-1の過剰発現に成功したことが実証されている。TIMP-1は、MMPファミリーの全メンバーを阻害する能力とケラチノサイトの増殖を促進する能力の双方を有するため、TIMP-1は、慢性創傷に関連付けられている過剰なタンパク質分解活性を阻害する皮膚代用品の開発に好適となっている。
【0080】
ii)他のプロテイナーゼインヒビター
本発明は、メタロプロテイナーゼインヒビターまたはTIMP-1の使用に限定されない。本発明は、創傷治癒を助ける任意の数のプロテイナーゼインヒビターの使用を企図する。例えば、いくつかの態様において、セリンプロテイナーゼ(例えばエラスターゼ)インヒビターのインヒビターが使用される。いくつかの態様において、分泌性白血球プロテアーゼインヒビター(SLPI;SEQ ID NO:3)が使用される(例えばLai et al., Wound Repair Regen. 2004 Nov-Dec;12(6):613-7を参照されたい)。
【0081】
C)外因性ポリペプチドを発現する宿主細胞を作製する方法
いくつかの態様において、本発明は、1種または複数種の外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチド(例えばTIMP-1)を発現する宿主細胞(例えばケラチノサイト)および皮膚同等物を作製する方法を提供する。本発明は、このような細胞および皮膚同等物を作製するための特定の方法に限定されない。例示的な方法を後述する。さらなる方法が、当業者には公知である。
【0082】
特定の態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドcDNAは、クローニングベクター中にクローニングされる。発現ベクター中のプロテイナーゼインヒビターポリペプチドDNA配列に連結され得る調節配列は、プロテイナーゼインヒビターが発現される場となる宿主細胞において機能的なプロモーターである。任意で、他の調節配列、例えば1つまたは複数のエンハンサー配列、機能的なスプライス供与部位およびスプライス受容部位を有するイントロン、プロテイナーゼインヒビターの分泌を指示するためのシグナル配列、ポリアデニル化配列、他の転写ターミネータ配列、ならびに宿主細胞ゲノムと相同な配列などを、本明細書において使用することができる。複製起点のような他の配列もまた、所望のプロテイナーゼインヒビターの発現を最適化するためにベクターにさらに付加することができる。さらに、選択マーカーも、形質転換された宿主細胞においてその存在を選択するために、発現ベクター中に存在してよい。
【0083】
好ましい態様において、TIMPポリペプチドは、ポリペプチドの発現を駆動する調節配列(例えばプロモーター)に融合されている。好ましい態様において、調節配列は、インボルクリンプロモーターまたはケラチン-14プロモーターである。しかしながら、所望の宿主においてプロテイナーゼインヒビターポリペプチドの発現を指示する任意のプロモーターを、本発明において使用することができる。本明細書において使用され得る哺乳動物プロモーター配列は、高発現され、かつ宿主域の広い、哺乳動物ウイルス由来のものである。例には、SV40初期プロモーターサイトメガロウイルス(「CMV」)最初期プロモーターマウス乳癌ウイルス末端反復配列(「LTR」)プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、および単純ヘルペスウイルス(「HSV」)プロモーターが含まれる。さらに、マウスメタロチオネイン遺伝子のような非ウイルス性遺伝子、ユビキチン、および伸長因子α(EF-1α)に由来するプロモーター配列もまた、本明細書において有用である。これらのプロモーターはさらに、構成的なプロモーター、またはホルモン応答性細胞において糖質コルチコイドで誘導され得るもののような調節されたプロモーターのいずれかでよい。
【0084】
いくつかの好ましい態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する宿主細胞(例えばケラチノサイト)は、以下により詳しく考察するように、従来の遺伝子発現技術によって作製することができる。本発明の実施は、別段の定めが無い限り、分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技術を使用し、これらは当業者の技能の範囲内である。このような技術は、以下を含む文献において十分に説明されている。

【0085】
本発明は、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚同等物、ならびにそのような細胞を作製するための組成物および方法を企図する。いくつかの態様において、宿主細胞は、外因性ポリペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターを用いたトランスフェクションを通じて、外因性ポリペプチドを発現するように誘導される。プロテイナーゼインヒビターDNAを含む発現ベクターは、結果として生じるベクターが所望の宿主中で機能的になるように、プロテイナーゼインヒビターを1つまたは複数の調節配列に機能的に連結することによって作製することができる。本明細書における使用に適した細胞形質転換の手順は当技術分野において公知のものであり、かつ、例えば哺乳動物細胞系の場合には、デキストランを介したトランスフェクション、リン酸カルシウム共沈法、ポリブレンを介したトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソームへの外因性ポリヌクレオチドの封入、および核中へのDNAの直接的なマイクロインジェクションが含まれる。好ましい態様において、細胞は、プロモーター(例えばK14またはインボルクリン)DNAに機能的に連結された外因性プロテイナーゼインヒビターDNA(例えばTIMP-1)を含むpUB-Bsd発現ベクターでトランスフェクションされる。
【0086】
形質転換された宿主細胞が所望の外因性ポリペプチド(例えばTIMP-1)を発現しているかどうか判定するために、当技術分野において公知であるイムノアッセイ法および活性アッセイ法を本明細書において使用することができる。いくつかの態様において、形質転換された宿主細胞によるプロテイナーゼインヒビターポリペプチドの細胞内産生の検出は、免疫蛍光アッセイ法を用いて遂行される。好ましい態様において、形質転換された宿主細胞による外因性ポリペプチドの細胞内産生の検出は、RT-PCRスクリーニングによって遂行される。さらなる態様において、形質転換された宿主細胞によるプロテイナーゼインヒビターの分泌または細胞外産生の検出は、直接ELISAスクリーニングによって遂行される。いくつかの態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドは、ウェスタンブロット法によって検出される。
【0087】
他の態様において、外因性ポリペプチドを含む発現ベクターは、組織(例えばヒト皮膚同等物)中に直接導入される。発現ベクターは、エレクトロポレーション、パーティクルボンバードメント(例えば、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる第6,685,669号、第6,592,545号、および第6,004,286号)およびトランスフェクションを非限定的に含む任意の適切な技術を用いて組織中に導入することができる。
【0088】
II.外因性ポリペプチドをトランスフェクションされたケラチノサイト細胞を用いた創傷の治療
慢性皮膚創傷(例えば、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍)の治療の成功は、重要な課題である。このような創傷の治癒は、しばしば、一年を大幅に上回る治療を要する。現在、治療の選択肢には、被覆および壊死組織切除(壊死組織を除去するための化学物質もしくは外科手術の使用)、ならびに/または、感染症の場合には抗生物質が含まれる。このような治療の選択肢は、長期に渡る期間、および患者の高いコンプライアンスを要する。したがって、従事者による慢性創傷治癒の成功例を増やし、かつ創傷の治癒速度を速めることができる療法は、本分野において未達成のニーズを満たすと思われる。
【0089】
いくつかの態様において、本発明は、外因性プロテイナーゼインヒビターを発現するケラチノサイトおよび皮膚同等物を用いた皮膚創傷の治療を企図する。
【0090】
本発明は、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現するケラチノサイトまたは皮膚同等物を用いた皮膚創傷の治療を企図する。いくつかの態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞が、創傷部位に局所的に適用される。いくつかの態様において、ケラチノサイトはスプレーによって適用されるのに対し、他の態様において、ケラチノサイトはゲルによって適用される。他の態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞は、部分層創傷への移植用に使用される。他の態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞は、全層創傷への移植用に使用される。他の態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞は、限定されるわけではないが、胃腸管を裏打ちしている粘膜の内部創傷、潰瘍性大腸炎、および癌治療によって引き起こされ得る粘膜の炎症を含む、多数のタイプの内部創傷を治療するために使用される。さらに他の態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞は、一時的または永久的な創傷被覆材として使用される。
【0091】
プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞は、創傷閉鎖および熱傷治療への応用において使用される。熱傷および創傷閉鎖の治療のための自家移植片および同種移植片の使用は、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる、Myers et al., A. J. Surg. 170(1):75-83 (1995)ならびに米国特許第5,693,332号;同第5,658,331号;および同第6,039,760号に記載されている。いくつかの態様において、皮膚同等物は、DERMAGRAFTのような真皮代替品と組み合わせて使用され得る。他の態様において、皮膚同等物は、標準的なケラチノサイト供給源(例えばNIKS細胞)および移植得片を受け取る患者に由来するケラチノサイトの双方を用いて作製される。したがって、皮膚同等物は、2種の異なる供給源に由来するケラチノサイトを含む。さらに別の他の態様において、皮膚同等物は、ヒト組織単離物由来のケラチノサイトを含む。したがって、本発明は、火傷に起因する創傷を含む創傷の閉鎖のための方法であって、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞および創傷を有する患者を提供する段階、ならびに創傷が閉じられるような条件下で、それらの細胞を用いて患者を治療する段階を含む方法を提供する。
【0092】
本発明の皮膚同等物を作製するための詳細な方法は、以下の実験の項において開示される。しかしながら、本発明は、これらの方法による皮膚同等物の作製に限定されない。実際、いずれも参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,536,656号および同第4,485,096号に記載されている方法を含む様々な器官培養技術を用いて、皮膚同等物を作製することができる。いくつかの態様において、異なるケラチノサイト集団を用いて皮膚同等物を構築する。したがって、いくつかの態様において、本発明の皮膚同等物は、不死化細胞株(例えばNIKS細胞)由来のケラチノサイトおよび患者由来の細胞から形成される。他の態様において、本発明の皮膚同等物は、少なくとも、外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する不死化細胞株に由来するケラチノサイトの第1の集団、および外因性ポリペプチドを発現しない不死化細胞株に由来するケラチノサイトの第2の集団から形成される。これら2つの集団の比率を変更することにより、送達されるプロテイナーゼインヒビターの用量を変更できることが企図される。さらに他の態様において、これらの皮膚同等物は、少なくとも、第1の外因性プロテイナーゼインヒビターポリペプチド(例えばTIMP-1)を発現するケラチノサイトの第1の集団、少なくとも、第2の外因性ポリペプチドを発現するケラチノサイトの第2の集団、および/または患者由来のケラチノサイトから形成される。
【0093】
さらなる態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドまたはその複合体を薬学的に許容される担体と混合して、治療目的、例えば創傷治癒、ならびに乾癬および基底細胞癌など皮膚の過剰増殖性疾患および腫瘍の治療のために投与することができる治療用組成物を作製することができる。
【0094】
さらに別の態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞を操作して、被験体に治療物質を提供する。本発明は、いかなる特定の治療物質の送達にも限定されない。実際、限定されるわけではないが、酵素、ペプチド、ペプチドホルモン、他のタンパク質、リボソームRNA、リボザイム、およびアンチセンスRNAを含む、様々な治療物質が被験体に送達され得ることが企図される。これらの治療物質は、限定されるわけではないが、遺伝的欠陥を訂正する目的を含む、様々なの目的のために送達され得る。いくつかの特に好ましい態様において、治療物質は、遺伝性の先天性代謝異常(例えばアミノ酸症(aninoacidopathesis))の患者を解毒する目的で送達され、その際、移植片は野生型組織としての機能を果たす。治療物質の送達により欠陥が訂正されることが企図される。いくつかの態様において、プロテイナーゼインヒビターポリペプチドを発現する細胞は、治療物質(例えばインスリン、凝固因子IX、エリスロポエチンなど)をコードするDNA構築物でトランスフェクションされ、かつそれらの細胞が被験体に移植される。次いで、治療物質は、移植片から患者の血流または他の組織へと送達される。好ましい態様において、治療物質をコードする核酸は、適切なプロモーターに機能的に連結されている。本発明は、いかなる特定のプロモーターの使用にも限定されない。実際、限定されるわけではないが、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、およびケラチノサイト特異的プロモーターを含む、様々なプロモーターの使用が企図される。いくつかの態様において、治療物質をコードする核酸は、ケラチノサイト中に直接(すなわち、リン酸カルシウム共沈によって、またはリポソームトランスフェクションを介して)導入される。他の好ましい態様において、治療物質をコードする核酸はベクターとして提供され、かつこのベクターは、当技術分野において公知の方法によってケラチノサイト中に導入される。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミドのようなエピソームベクターである。他の態様において、ベクターはケラチノサイトのゲノム中に組み込まれる。組み込み型ベクターの例には、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、およびトランスポゾンベクターが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0095】
III.試験方法
本発明の宿主細胞および培養皮膚組織は、様々なインビトロ試験のために使用することができる。特に、宿主細胞および培養皮膚組織は、スキンケア製品、薬物代謝、試験化合物に対する細胞応答、創傷治癒、光毒性、皮膚刺激、皮膚炎症、皮膚腐食性、および細胞損傷の評価において使用される。宿主細胞および培養皮膚組織は、6ウェルプレート、24ウェルプレート、および96ウェルプレートを含む、試験用の様々な形態で提供される。さらに、培養皮膚組織は、標準的な切除技術によって分割し、次いで試験することができる。本発明の培養皮膚組織は、分化した角質層を伴う表皮層および真皮線維芽細胞を含む真皮層の双方を有し得る。前述したように、好ましい態様において、表皮層は不死化NIKS細胞に由来する。NIKS細胞を含む、他の好ましい細胞株は、i)不死化されていること;ii)非腫瘍形成性であること;iii)分化を誘導された場合にコーニファイドエンベロープを形成すること;iv)器官培養において正常な扁平上皮に分化すること;およびv)細胞型に特異的な増殖条件を維持することを特徴とし、ここで、該細胞型に特異的な増殖条件は、1)マイトマイシンCで処理した3T3フィーダー細胞の存在下、標準的なケラチノサイト増殖培地中で培養された場合に正常ヒトケラチノサイトの形態学的特徴を示すこと;2)増殖するために表皮増殖因子に依存すること;および3)トランスフォーミング増殖因子β1により増殖が阻害されることを含む。
【0096】
本発明は、様々なスクリーニングアッセイ法を包含する。いくつかの態様において、スクリーニングの方法は、本発明の宿主細胞または培養皮膚組織および少なくとも1種の試験化合物または試験製品(例えば保湿剤、化粧品、染料、もしくは芳香性化粧品などのスキンケア製品;これらの製品は、限定されるわけではないが、クリーム剤、ローション剤、液剤、およびスプレー剤を含む任意の形態でよい)を提供する段階、製品または試験化合物を宿主細胞または培養皮膚組織に適用する段階、ならびに宿主細胞または培養皮膚組織に対する製品または試験化合物の影響を分析する段階を含む。多種多様のアッセイ法が、培養皮膚組織に対する製品または試験化合物の影響を判定するために使用される。これらのアッセイ法には、炎症調節物質(例えばプロスタグランジンE2、プロスタサイクリン、およびインターロイキン-1-α)および化学誘引物質の放出を分析するためのMTT細胞毒性アッセイ法(Gay, The Living Skin Equivalent as an In Vitro Model for Ranking the Toxic Potential of Dermal Irritants, Toxic. In Vitro (1992))およびELISAが含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらのアッセイ法はさらに、化合物または製品の毒性、効力、または有効性を対象とすることができる。さらに、増殖、バリア機能、または組織強度に対する化合物または製品の影響も試験することができる。
【0097】
特に、本発明は、コンビナトリアルライブラリー(例えば104種を上回る化合物を含むライブラリー)から化合物をハイスループットにスクリーニングするための宿主細胞または培養皮膚組織の使用を企図する。いくつかの態様において、これらの細胞は、細胞表面受容体の活性化の後のシグナル伝達をモニターするセカンドメッセンジャーアッセイ法において使用される。他の態様において、これらの細胞は、転写/翻訳レベルでの細胞応答をモニターするレポーター遺伝子アッセイ法において使用することができる。さらに別の態様において、これらの細胞は、外部刺激に対する細胞の全体的な増殖/増殖の無い応答をモニターする細胞増殖アッセイ法において使用することができる。
【0098】
セカンドメッセンジャーアッセイ法では、宿主細胞または培養皮膚組織を(例えばコンビナトリアルライブラリーから得た)1種の化合物または複数種の化合物で処理し、かつセカンドメッセンジャー応答の有無に関して分析する。いくつかの好ましい態様において、培養皮膚組織を作製するために使用される細胞(例えばNIKS細胞)は、組換え細胞表面受容体、イオンチャンネル、電位依存性チャネル、またはシグナル伝達カスケードに関与している関心対象の他の何らかのタンパク質をコードする発現ベクターでトランスフェクションされる。コンビナトリアルライブラリー中の化合物のうち少なくともいくつかは、ベクターによってコードされる1種または複数種のタンパク質のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーター、またはインヒビターとしての機能を果たし得ることが企図される。また、コンビナトリアルライブラリー中の化合物のうち少なくともいくつかは、シグナル伝達経路において、ベクターによってコードされるタンパク質の上流または下流で作用するタンパク質のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーター、またはインヒビターとしての機能を果たし得ることも企図される。
【0099】
いくつかの態様において、セカンドメッセンジャーアッセイ法では、膜受容体およびイオンチャンネル(例えばリガンド依存性チャンネル;Denyer et al., Drug Discov. Today 3:323-32[1998];およびGonzales et al., Drug. Discov. Today 4:431-39[1999]を参照されたい)の刺激に起因する細胞内変化(例えばCa2+濃度、膜電位、pH、IP3、cAMP、アラキドン酸遊離)に応答するレポーター分子からの蛍光シグナルを測定する。レポーター分子の例には、FRET(florescence resonance energy transfer)系(例えばCuo脂質およびオキソノール、EDAN/DABCYL)、カルシウム感受性指示薬(例えばFluo-3、FURA2、INDO1、およびFLUO3/AM、BAPTA AM)、クロリド感受性指示薬(例えば、SPQ、SPA)、カリウム感受性指示薬(例えばPBFI)、ナトリウム感受性指示薬(例えばSBFI)、およびpH感受性指示薬(例えばBCECF)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0100】
一般に、化合物に曝露する前に、培養皮膚組織を含む細胞に指示薬を添加する。化合物による処理に対する宿主細胞の応答は、限定されるわけではないが、蛍光顕微鏡検査法、共焦点顕微鏡検査法(例えばFCSシステム)、フローサイトメトリー、マイクロ流体装置、FLIPRシステム(例えばSchroeder and Neagle, J. Biomol. Screening 1:75-80[1996]を参照されたい)、およびプレート読取りシステムを含む、当技術分野において公知の方法によって検出することができる。いくつかの好ましい態様において、活性が分かっていない化合物によって引き起こされる応答(例えば蛍光強度の増大)を、公知のアゴニストによって引き起こされる応答と比較し、かつ公知のアゴニストの最大応答に対するパーセンテージとして表す。公知のアゴニストによって引き起こされる最大応答を100%の応答と定義する。同様に、公知のアンタゴニストまたは試験アンタゴニストを含む試料にアゴニストを添加した後に記録される最大応答は、100%の応答よりも低く検出され得る。
【0101】
本発明の宿主細胞および培養皮膚組織はまた、レポーター遺伝子アッセイ法においても有用である。レポーター遺伝子アッセイ法は、レポーター遺伝子のコード配列に接合された標的遺伝子(すなわち、疾患標的または炎症応答の生物学的な発現および機能を制御する遺伝子)の転写制御エレメントを含む核酸をコードするベクターでトランスフェクションされた宿主細胞の使用を含む。したがって、標的遺伝子が活性化されると、レポーター遺伝子産物が活性化される。これは、炎症応答のような応答の指標としての機能を果たす。したがって、いくつかの態様において、レポーター遺伝子構築物は、レポーター遺伝子に機能的に連結されている、皮膚の炎症もしくは刺激が原因で誘導されるタンパク質、または炎症もしくは刺激に応答して産生される化合物の合成に関与しているタンパク質(例えばプロスタグランジンもしくはプロスタサイクリン)の5'調節領域(例えばプロモーターおよび/もしくはエンハンサー)を含む。本発明において使用されるレポーター遺伝子の例には、クロラムフェニコールトランスフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ホタルおよび細菌のルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、および緑色蛍光タンパク質が含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらのタンパク質の産生は、緑色蛍光タンパク質を除いては、特異的基質(例えばX-galおよびルシフェリン)の化学発光、比色、または生物発光産物の使用によって検出される。活性が公知である化合物と活性が未知である化合物の比較は、前述のようにして実施することができる。
【0102】
他の好ましい態様において、宿主細胞または培養皮膚組織は、経皮的な薬物導入の有効性、または皮膚を対象とする薬物の影響をスクリーニングするために使用される。これらの態様において、培養皮膚組織または宿主細胞は、薬物送達系または薬物で処理され、かつ皮膚同等物中への薬物の透過、浸透、または残留が分析される。薬物透過を分析するための方法は、Asbill et al., Pharm Res. 17 (9):1092-97 (2000)において提供されている。いくつかの態様において、培養皮膚組織は、改良されたフランツ拡散セルの上部に載せられる。培養皮膚組織を1時間水和させ、次いでプロピレングリコールで1時間、前処理する。次いで、プロピレングリコール中のモデル薬物の飽和懸濁液を培養皮膚組織に添加する。次いで、培養皮膚組織を所定の間隔で試料採取してよい。次いで、培養皮膚組織をHPLCによって解析して、試料中の薬物の濃度を決定する。薬物のログP値は、ACDプログラム(Advanced Chemistry Inc., Ontario, Canada)を用いて決定することができる。これらの方法は、経皮パッチまたは他の送達様式を介した薬物送達を研究するために適合させることができる。
【0103】
本発明の培養皮膚組織はまた、皮膚中で天然に発生する腫瘍の培養および研究、ならびに皮膚を冒す病原体の培養および研究にも有用であることが企図される。したがって、いくつかの態様において、本発明の培養皮膚組織は、悪性細胞を接種されることが企図される。非限定的な例として、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,989,837号に記載されているような悪性SCC13y細胞を培養皮膚組織に接種して、ヒト扁平上皮癌のモデルを提供することができる。次いで、これらの接種された培養皮膚組織を用いて、天然の環境にある腫瘍に対する有効性に関して、化合物または他の治療戦略(例えば放射線療法もしくはトモセラピー)をスクリーニングすることができる。したがって、本発明のいくつかの態様は、悪性細胞または腫瘍を含む培養皮膚組織および少なくとも1種の試験化合物を提供する段階、化合物で培養皮膚組織を処置する段階、ならびに悪性細胞または腫瘍に対する治療の効果を分析する段階を含む方法を提供する。本発明の他の態様において、悪性細胞または腫瘍を含む培養皮膚細胞および少なくとも1種の試験療法(例えば放射線療法もしくは光線療法)を提供する段階、その療法で培養皮膚組織を治療する段階、ならびに悪性細胞または腫瘍に対する療法の効果を分析する段階を含む方法が提供される。
【0104】
他の態様において、培養皮膚組織は、皮膚病原体の培養および研究のために使用される。非限定的な例としては、培養皮膚組織にHPV18のようなヒトパピローマウイルス(HPV)を感染させる。HPVに感染した培養皮膚組織を調製するための方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,115号に記載されている。したがって、本発明のいくつかの態様は、関心対象の病原体に感染した培養皮膚組織および少なくとも1種の試験化合物または治療法を提供する段階、ならびに培養皮膚組織をその試験化合物または治療法で処置する段階を含む方法を提供する。いくつかの好ましい態様において、これらの方法は、病原体に対する試験化合物または治療法の影響を分析する段階をさらに含む。このようなアッセイ法は、治療後の培養皮膚組織中の病原体の有無、または量を分析することによって実施することができる。例えば、病原体を検出または定量するためにELISAを実施することができる。いくつかの特に好ましい態様において、病原体はHPVのようなウイルス病原体である。
【0105】
実施例
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい態様および局面を実証し、かつさらに例示するために提供されるが、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0106】
以下の実施例の開示では、以下の略語が適用される;eq(当量);M(モル濃度);μM(マイクロモル濃度);N(規定濃度);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);U(ユニット)、mU(ミリユニット);min.(分);sec.(秒);%(パーセント);kb(キロベース);bp(塩基対);PCR(polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応));BSA(bovine serum albumin(ウシ血清アルブミン);Pfu(Pyrococcus furiosus(パイロコッカス・フリオサス))。
【0107】
実施例1
TIMP-1 DNA構築物の作製およびNIKSケラチノサイトの一過性トランスフェクション
本実施例は、TIMP-1を発現するNIKS細胞の構築を説明する。
【0108】
培養物:
TIMP-1の発現がケラチン-14(K14)プロモーターによって駆動される構築物を作製した(図3)。NIKSケラチノサイト内での導入遺伝子発現を確認するために、一過性トランスフェクション実験を実施した。市販されているcDNA (Clontech, Palo Alto, CA)および公開されているTIMP-1配列(GenBankアクセッション番号X03124)に基づくプライマーを使用するPCRによって、TIMP-1 cDNAを単離した。これらのプライマーは、Not I制限部位およびSal I制限部位をそれぞれ5'末端および3'末端に付加するように設計した。Not IおよびSal Iによる消化を用いて、増幅された遺伝子を有するpCR2.1-TOPO発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)からTIMP-1 cDNAを切り出した。次いで、K14プロモーターを含む発現ベクター中にTIMP-1 cDNAを連結した。制限分析およびDNA配列決定(UW Biotechnology Center)によってこの発現プラスミドを確認した。Endotoxin-Free Maxiprep Kit (Qiagen, Valencia, CA)を用いて、哺乳動物細胞中にトランスフェクションするための最終TIMP-1構築物を調製した。NIKSケラチノサイトを、60mm皿に4×105細胞の密度で播種した。5%CO2下、37℃で24時間インキュベーションした後(約50%コンフルエント)、TransItリポソームトランスフェクション試薬(Mirus, Madison, WI)を用いてケラチノサイト培養物をトランスフェクションした。合計4μgのDNAおよび12μlのTransItを、60mmプレート当たり200μlのF-12培地中に加えた。対照プレートは、偽トランスフェクションするか(TransItおよびF12のみ)、または空の発現ベクター(K14プロモーターを含む発現ベクター)でトランスフェクションした。空ベクターによるトランスフェクションを用いて、ベクター自体がタンパク質産生を改変しないことを確実にした。
【0109】
一過性トランスフェクションされた培養物におけるTIMP-1のmRNA発現の検出:
逆転写PCR(RT-PCR)を用いて、一過性トランスフェクションされたNIKS細胞における導入遺伝子発現を検出した。図3に示すように、導入遺伝子コード領域にアニールするようにフォワードプライマーを設計し、かつウサギβ-グロビン遺伝子に由来するベクター配列にアニールするようにリバースプライマーを設計した。これらのプライマーはβ-グロビン断片中のイントロンにまたがるため、このプライマー設計により、DNAから導入遺伝子mRNAを区別することが可能になった。一方のプライマーはウサギβ-グロビン断片にアニールするため、このプライマーセットでは、内因性TIMP-1のmRNAは増幅されなかった。この戦略を用いて、内因性TIMP-1のmRNA(240bp)を、発現ベクターDNAから増幅されたPCR産物(827bp)から容易に区別した。
【0110】
トランスフェクション後24時間目に、偽トランスフェクションされたNIKSおよび空ベクターまたはTIMP-1を含むプラスミドのいずれかで一過性トランスフェクションされたNIKS細胞の60〜70%コンフルエントな培養物から全RNAを単離した(TRIzol Reagent, Invitrogen, Carlsbad, CA)。試料をDNase Iで処理して、混入しているDNAを除去し(Promega, Madison, WI)、かつオリゴdTプライマーを用いて逆転写した(M-MLV RT, Invitrogen, Carlsbad, CA)。アガロースゲル電気泳動によってPCR産物を可視化した。図4に示すように、外因性TIMP-1のmRNA(240bp)は、TIMP-1を含むベクターでトランスフェクションされたNIKS細胞中で検出されたが、偽トランスフェクションされた細胞でも、空ベクターでトランスフェクションされた細胞でも検出されなかった(図4A)。不完全なDNase処置が原因で残存する発現ベクターDNAに由来する827bpでのかすかなバンドが、トランスフェクションされた細胞において検出された。375bpの産物であるGAPDH RNAに特異的なプライマーを、ローディングコントロールとして使用した(図4B)。
【0111】
外因性TIMP-1の発現およびNIKSケラチノサイトの遊走:
定量的な遊走アッセイ法を用いて、組織培養処理された表面をNIKSケラチノサイトが再上皮化する能力を測定した[Kim et al., Cancer Res, 2003. 63(17): p. 5454-61]。研究により、TIMP-1の過剰発現によって、特定の条件下で細胞遊走が妨害され得ることが示された[Pilcher et al., J Cell Biol, 1997. 137(6): p. 1445-57;Salonurmi et al., Cell Tissue Res, 2003]。このアッセイ法を用いて単層培養物を評価して、NIKS細胞のベースラインの遊走速度を確かめた。手短に言えば、コンフルエントな細胞をマイトマイシンC(25μg/ml)で1時間処理して、細胞増殖を不活性化した。培養プレート表面をひっかいて幅2mmの線状の傷を作り、かつ細胞を増殖培地と共にインキュベートした後、固定した。損傷部位の顕微鏡写真(5つの独立した視野)を撮影し、かつイメージングソフトウェア(NIH Image 1.62)を用いて、視野当たりの損傷サイズ(mm2)を算出した。損傷面積を時間の関数としてプロットして、ケラチノサイト遊走の程度を決定した(図5)。NIKSケラチノサイトは、約60時間で損傷領域を完全に再上皮化した。
【0112】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの単離および特徴付け:
K14-VEGF発現構築物を含むNIKSケラチノサイト(NIKSVEGF)の安定なクローンが首尾良く単離された。これらのクローンは、NIKS細胞をトランスフェクションし、かつブラストサイジンを含む培地中で増殖させることにより、安定にトランスフェクションされた細胞を選択することによって得た。NIKSVEGFゲノムDNAを特異的プライマーを用いて増幅させて、適切な発現構築物の存在を確認した。複数の独立したNIKSVEGFクローンをRT-PCR解析することにより、これらのクローンが、内因性VEGFレベルと比べてVEGF165アイソフォームを特異的に過剰発現することが確認された。
【0113】
トランスジェニック皮膚組織からのVEGFの発現および分泌:
安定なクローンから生じた皮膚組織におけるVEGF165mRNAの発現をRT-PCRによって検査した。全RNAを抽出し、かつVEGF165導入遺伝子から発現されたmRNAを検出するが、内因性VEGF遺伝子から発現されたmRNAは検出しないプライマーを使用するRT-PCRに供した。導入遺伝子に特異的なVEGF mRNAは、NIKSVEGFクローンから調製された皮膚組織においては検出されたが、非トランスフェクションNIKS細胞から調製された皮膚組織に由来するRNAにおいては検出されなかった。
【0114】
トランスジェニック皮膚組織からのVEGF分泌を評価するために、2種のNIKSVEGFクローンを、非トランスフェクションNIKS対照培養物と並行して器官培養した。細胞を皮膚同等物上に播種した後、馴化培地試料を定期的に採取した。図6は、ELISAによって決定した、各時点のVEGF含有量を示す。どの時点においても、非トランスフェクションNIKS組織と比べて高レベルのVEGFタンパク質がNIKSVEGF組織において観察された。
【0115】
分泌されたVEGFの生物活性:
VEGFは、ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)に対する強力なマイトジェンである。NIKSVEGF組織に由来する培地中で検出された高レベルのVEGFによってHMVECの増殖が促進され得るかどうかを判定するために、これらの細胞を、NIKS器官培養物またはNIKSVEGF器官培養物のいずれかに由来する馴化培地(対照の基本培地を含む)の存在下で6日間培養した。増殖因子を十分に添加した内皮細胞増殖培地を陽性対照として使用し、添加されていない基本培地が陰性対照の役目を果たした。HMVEC細胞の数を計数し、かつ対照に対するパーセンテージとして報告した(陽性対照を100%に設定した)。図7に示すこれらの結果により、NIKSVEGF細胞由来の馴化培地は、高レベルの分泌VEGFがおそらく寄与して、HMVEC増殖に対する促進効果を有したことが実証される。
【0116】
上記に示した結果によって実証されるように、NIKSVEGF細胞は、完全に形成されたトランスジェニック皮膚組織からこの生物学的に活性なタンパク質を分泌することができる。これらの結果により、特定の生物活性タンパク質を発現し、かつ分泌するように、皮膚組織を操作できることが実証される。
【0117】
実施例2
ヒトTIMP-1発現ベクターの設計および構築
本実施例では、ケラチノサイトにおいてTIMP-1を発現させるための発現ベクターの作製を説明する。
【0118】
発現ベクターの構築:
pUb-Bsd発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングされたK14、または代替戦略としてインボルクリンのプロモーターのいずれかによって駆動されるTIMP-1遺伝子を含むトランスジェニック構築物を作製する(図3)。このベクターは、ブラストサイジン遺伝子発現を駆動するユビキチンプロモーターを使用する薬物選択カセットを含む[Deng et al., Biotechniques, 1998. 25(2): p. 274-80]。実施例1で説明されるように、この薬物選択戦略は、正常な表皮構造物を再生することができる、遺伝的に改変されたNIKSクローン細胞株を作製するために成功裡に使用されている。ヒトK14プロモーターは、表皮基底層のケラチノサイトにおける構成的な組織特異的発現を指示する。ヒトインボルクリンプロモーターは、非増殖性の基底上ケラチノサイトを発現の標的にする。クローン化されたプロモーターPCR産物の完全性は、制限酵素分析、およびK14またはインボルクリンに特異的なプライマーを使用するDNA配列決定によって確認される。K14プロモーターおよびインボルクリンプロモーターの双方を使用することにより、NIKSケラチノサイトの単層培養物および器官培養物のいずれにおいても発現が支援されることが実証された。
【0119】
K14-TIMP-1発現構築物を組み立て、かつ確認した(実施例1を参照されたい)。TIMP-1のコード領域をK14プロモーターの下流に挿入し、かつウサギβ-グロビンイントロンおよびポリ(A)シグナルを含むDNA断片をTIMP-1コード領域の下流に挿入した。TIMP-1発現のためのインボルクリンプロモーターを用いた構築物の組立ては、同様の様式で完了する。これらの発現構築物に加えて、外因性タンパク質の同定を補助するために一般に使用されるインフルエンザ赤血球凝集素(HA)エピトープタグ(Clontech, Palo Alto, CA)を含むベクターを作製する。HAタグは、多数の発現系において成功裡に使用されている[Flanagan-Steet et al., Dev Biol, 2000. 218(1): p. 21-37;Lee et al., J Biol Chem, 2001. 276(39): p. 36404-10;Donelson Smith et al., The Journal of Biological Chemistry, 1999. 274(28): p. 19894-19900;Wang et al., Mol Cell Biol, 1999. 19(6): p. 4008-18]。構築物は、タンパク質のN末端およびC末端の双方に対するエピトープタグの部位(localization)を含む(図3)。適切な空ベクター構築物もまた、作製する。すべてのプラスミドの正確性は、制限分析およびDNA配列決定によって確認する。
【0120】
これらのベクターは、NIKSケラチノサイトの一過性トランスフェクションおよびその後の発現の研究のために使用される。非機能的なTIMP-1タンパク質を結果として生じる発現戦略は、さらなる解析から排除される。成功裡なベクターは、安定なトランスフェクタントの作製および評価において使用される。
【0121】
単層培養におけるNIKS細胞の一過性トランスフェクション:
実施例1で説明したようにTransIt-Keratinocyte試薬(Mirus, Madison, WI)を用いて、精製した発現ベクターDNAをNIKS細胞中に導入する。偽トランスフェクションされたNIKS細胞集団または空ベクター(TIMP-1無し)でトランスフェクションされたNIKS細胞集団を、RT-PCRのようなトランスジェニックに特異的なアッセイ法のための対照として準備する。偽トランスフェクションされた細胞または空ベクターでトランスフェクションされた細胞はまた、NIKSケラチノサイト中の内因性TIMP-1タンパク質のレベルを決定するのにも使用される。
【0122】
TIMP-1のmRNA発現レベルのアッセイ法:
トランスフェクションされた培養物はすべて、トランスフェクション後約24時間目に、実施例1で説明したようにmRNA発現レベルに関して分析して、導入遺伝子発現を確認する。ウサギβ-グロビン断片中のイントロンにまたがるように設計されたプライマーにより、それぞれ827bpおよび240bpである、導入遺伝子に特異的なDNAおよびmRNAのPCR産物が生じる(図3を参照されたい)。TIMP-1 cDNAの全長を増幅するプライマーの別個のセットは、全TIMP-1(トランスジェニックおよび内因性)を検出するために使用される。
【0123】
TIMP-1タンパク質発現レベルのアッセイ法:
一過性トランスフェクションされた細胞に由来する培地を、TIMP-1タンパク質産生に関して分析する。特異的なTIMP-1抗体(Oncogene Research Products, San Diego, CA)を使用するイムノブロット解析を使用してTIMP-1を検出する。HAに特異的なイムノブロッティングにより、タグ化された発現構築物でトランスフェクションされた試料における外因性TIMP-1発現を確認することが可能になる。タグ化されていない外因性TIMP-1の発現を確認するために、非トランスフェクションNIKS細胞および空ベクターでトランスフェクションされたNIKS細胞の内因性TIMP-1レベルを比較する。組換えTIMP-1は陽性対照としての機能を果たす(Oncogene Research Products, San Diego, CA)。
【0124】
市販されているヒトTIMP-1に特異的なELISAアッセイ法(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いて、全TIMP-1タンパク質を定量する。トランスジェニックTIMP-1でトランスフェクションされた試料におけるタンパク質レベルの上昇を確認するために、ベースライン、すなわち非トランスフェクションNIKS細胞および空ベクターでトランスフェクションされたNIKS細胞の内因性TIMP-1レベルとの比較を行う。
【0125】
一過性トランスフェクションされたNIKS培養物由来の培地において、TIMP-1タンパク質レベルの上昇がイムノブロット解析によって検出されない場合、この知見により、トランスジェニックTIMP-1が、培地中に自由に分泌され得ないことが示唆される。これは、内因性TIMP-1がヒトケラチノサイトの馴化培地中に分泌されることを発見したPetersenらの報告[Petersen et al., J Invest Dermatol, 1989. 92(2): p.156-9]に基づいている見込みは少ない。TIMP-1タンパク質が、培地中に分泌されるのではなく、細胞の外膜に結合したままである場合には、細胞溶解物が解析のために使用される。
【0126】
実施例3
一過性トランスフェクションされたNIKS細胞単層培養物のプロテイナーゼ阻害活性、増殖促進活性、および遊走特性
本実施例では、外因性TIMP-1のmRNA発現用のTIMP-1発現ベクターで一過性トランスフェクションされたNIKS細胞、全体的なTIMP-1タンパク質発現、および発現されたTIMP-1の生物活性の解析を説明する。
【0127】
プロテイナーゼ阻害のアッセイ法:
発現されたTIMP-1のプロテイナーゼ阻害活性が増大しているかを判定するために、TIMP-1発現構築物で一過性トランスフェクションされた細胞に由来する培地を、EnzChek Gelatinase/Collagenase Assay (Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて分析する。EnzChekアッセイ法は、水溶液中のインヒビターの存在を検出するための、蛍光プレートリーダーを使用する迅速かつ高感度の蛍光出力法を提供する。基質のDQゼラチンは、酵素によって切断された場合にのみ蛍光を発するため、プロテアーゼ活性のより正確な測定が実現する。これは、基質の不溶性を回避するためにベースライン測定を実施しなければならない従来のアゾコールアッセイ法と対照的である。市販されている活性なMMP-1またはMMP-9(Calbiochem, San Diego, CA)を、公知の濃度でアッセイ懸濁液(Sigma, St.Louis, MO)に添加する。次いで、TIMP-1で処理したNIKS細胞、空ベクターで処理したNIKS細胞、または非トランスフェクションNIKS細胞に由来する馴化培地の試料をこのプロテイナーゼ/基質懸濁液に添加し、かつMMP阻害の程度を決定する。合成のMMP-1およびMMP-9に特異的なインヒビターを陽性対照として使用し(Calbiochem, San Diego, CA)、かつTIMP-1中和抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)を特異性の対照として添加する。
【0128】
増殖促進アッセイ法:
一過性トランスフェクションされたNIKS細胞に由来するTIMP-1が増殖促進活性を示すか判定するために、細胞増殖の差異をインビトロで検出するように設計されたアッセイ法を使用する[Hayakawa et al., FEBS Lett, 1992. 298(1): p. 29-32]。正常なヒトケラチノサイト(Cambrex, East Rutherford, NJ)を、無血清最小増殖培地中で、またはTIMP-1で処理した細胞、空ベクターで処理した細胞、もしくは非トランスフェクション細胞に由来する無血清馴化培地を1:1の比で添加した最小増殖培地中で、5日間維持する。無血清最小増殖培地は、血清成分に由来する外因性TIMP-1がこのアッセイ法を妨害しないよう徹底するために使用する。TIMP-1がケラチノサイトの増殖を特異的に促進していることを確認するために、馴化培地試料にTIMP-1中和抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)を添加する。直接的な手作業での計数および分光光度的MTTアッセイ法の使用の双方によって、細胞数を評価する。手短に言えば、ミトコンドリア酵素活性によって、MTT基質をMTTホルマザンに変換する。次いで、この産物をイソプロパノール中に抽出し、かつ550nmで読み取る。MTTアッセイを用いて得られた細胞数を、視覚的な細胞計数と直接比較して、精度を評価する。
【0129】
細胞遊走アッセイ法:
前述したように、定量的アッセイ法を用いて、NIKSTIMP1ケラチノサイトが、組織培養処理された表面を再上皮化する能力を測定する。NIKSTIMP1細胞の単層培養物を評価し、かつ空ベクターでトランスフェクションされたNIKS細胞および非トランスフェクションNIKS細胞の遊走速度と比較する。
【0130】
一過性トランスフェクションされた細胞に由来する馴化培地を用いて、生物活性の増大を直接検出することができない場合は、マイクロコンフィルター(Millipore, Billerica, MA)を用いて、馴化培地試料を濃縮する。TIMP1タンパク質が、細胞培養培地中に自由に分泌されるのではなく、細胞膜に結合したままである場合には、細胞溶解物を直接分析する。
【0131】
実施例4
遺伝的に改変された安定なNIKS細胞クローンの開発
本実施例では、安定なNIKS細胞クローンの開発およびこれらの安定なクローンに由来するTIMP-1の生物活性の評価を説明する。前述の一過性トランスフェクション実験は、発現構築物の機能性を確認し、かつ必要な検出アッセイ法および生物活性アッセイ法を最適化するように意図される。本実施例では、これらのアッセイ法を用いて、TIMP-1発現ベクターで安定にトランスフェクションされたNIKS細胞を、外因性TIMP-1のmRNA発現、全体的なTIMP-1タンパク質発現、および発現されたTIMP-1の生物活性に関して解析し、かつ過剰発現の個々のレベルを、得られるNIKSTIMP1クローンに割り当てる。
【0132】
高レベルの外因性TIMP-1は、ケラチノサイトの遊走および再上皮化を潜在的に阻害し得るため、広範囲のTIMP-1レベルを発現しているNIKSTIMP1クローンを検査する。この戦略により、正常な細胞の増殖も遊走も妨害しない高レベルのTIMP-1を発現するクローンの同定が可能になる。特徴付けを支援するために、クローンをTIMP-1タンパク質の発現レベルによって分類する。単層培養におけるプレコンフルエントな初代ヒトケラチノサイトの内因性TIMP-1発現の公開されているレベルは、26±2ng/105細胞〜45±11ng/105細胞の範囲である[Petersen et al., J Invest Dermatol, 1989. 92(2): p. 156-9]。未改変NIKSにおいて認められるレベルの2〜10倍のTIMP-1タンパク質レベルを発現するクローンは、「低発現体(expressor)」と定義される。「中発現体」は、10〜25倍多いTIMP-1タンパク質レベルを示すクローンと定義され、かつ「高発現体」は、25〜50倍の内因性レベルのTIMP-1発現レベルを包含する。
【0133】
広範囲のTIMP-1タンパク質発現を有するクローンを検査する。NIKSTIMP1クローンと元のNIKS細胞株との間で、増殖および形態など重要な細胞パラメーターの比較を実施する。
【0134】
安定なトランスフェクタントの選択および特徴付け:
遺伝的に改変されたNIKSクローン細胞株を作製するために、TransIt-Keratinocyte試薬(Mirus, Madison, WI)を用いて、TIMP-1発現ベクターから精製したDNAをNIKS細胞中にトランスフェクションする。ゲノム中にプラスミドを組み入れていない任意のNIKS細胞を死滅させると考えられる、ブラストサイジンを含む培地における増殖によって、トランスフェクションされた細胞を選択する。ブラストサイジンで選択したトランスフェクション細胞を、組織培養処理した皿中のブラストサイジン耐性3T3細胞のフィーダー層上に低密度で播種することによって、安定にトランスフェクションされたNIKS細胞のクローン集団を単離する。プラスミド由来のジゴキシゲニン標識プローブを使用するサザンブロット解析によって、推定上のNIKSTIMP1クローンをさらに特徴付けて、遺伝子コピー数を明らかにし、かつ各細胞株が異なるクローン単離物に由来することを確認する。
【0135】
単層培養におけるTIMP-1 mRNAおよびタンパク質の安定な発現の解析:
TIMP-1導入遺伝子の存在を確認し、かつ外因性TIMP-1 mRNAレベルを評価するため、以前に説明したように、クローンNIKSTIMP1単離物の単層培養物を、播種後のいくつかの時点のmRNA発現レベルに関して分析する。前述したように予め最適化したプライマーおよびアッセイ条件を用いると、スプライシングされたRNA鋳型から生成されたTIMP-1導入遺伝子に特異的なPCR産物は、DNAから増幅された対応する断片より約600bp小さな断片となる。TIMP-1導入遺伝子のmRNA産物に特異的な予想されるPCR産物は240bpである(図3)。
【0136】
RT-PCRによって前もって確認したNIKSTIMP1クローンのTIMP-1タンパク質産生を前述したように分析する。単層培養におけるクローン単離物に由来する培地を分析し、かつ、非トランスフェクションNIKS細胞、および空ベクター構築物で安定にトランスフェクションされたNIKS細胞の内因性TIMP-1レベルと比較する。HAエピトープタグを用いた解析を、タグ化された発現構築物で安定にトランスフェクションされた細胞に対して実施する。前述したように、TIMP-1タンパク質の発現レベルによってNIKSTIMP1クローンを分類する。
【0137】
単層培養におけるNIKSTIMP1クローンのプロテイナーゼ阻害、増殖促進、および細胞遊走の解析:
クローン単離物を生物活性に関してスクリーニングするために、前述したように、単層培養におけるNIKSTIMP1クローン由来の培地のTIMP-1生物活性を分析する。NIKSTIMP1クローン由来の馴化培地、濃縮した馴化培地、または細胞溶解物を必要に応じて使用する。TIMP-1の生物活性レベルの上昇を検出するために、非トランスフェクションNIKS細胞、および空ベクター構築物で安定にトランスフェクションされたNIKS細胞の内因性TIMP-1レベルの双方と比較する。各クローン単離物のプロテイナーゼ阻害活性のレベルを決定する。ケラチノサイトの単層培養において細胞の遊走および複製は密接に結び付いているため、異常な遊走特性を示すNIKSTIMP1クローンは単離されないと考えられる[Barrandon and Green, Cell, 1987. 50(7): p. 1131-7]。それでもなお、各クローン単離物の遊走速度は前述したように決定される。正常な細胞遊走を妨害するレベルのTIMP-1を発現するNIKSTIMP1クローンは、さらなる研究からは除外される。
【0138】
実施例5
TIMP-1発現細胞の作製および解析
本実施例では、TIMP-1を発現するNIKS細胞の作製および解析を説明する。
【0139】
TIMP-1発現構築物の作製
市販されているcDNA(Clontech, Palo Alto, CA)および公開されているTIMP-1配列(GenBankアクセッション番号X03124)に基づくプライマーを使用するPCRによって、TIMP-1 cDNAを単離した。エピトープタグを有する構築物の場合、HAをコードする適切な配列を5'プライマーまたは3'プライマーのいずれかに組み入れた。増幅されたcDNAをpCR2.1-TOPO発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中に挿入し、かつDNA配列決定によって確認した(UW Biotechnology Center)。次いで、K14プロモーターを含む発現ベクターまたはINVプロモーターを含む発現ベクターのいずれかにTIMP-1 cDNAを導入した。最終の発現プラスミドの完全性は、制限酵素分析およびDNA配列決定によって確認した。
【0140】
ヒトK14プロモーターは、表皮基底層のケラチノサイトにおける構成的な組織特異的発現を指示する。ヒトインボルクリンプロモーターは、非増殖性の基底上ケラチノサイトを発現の標的にする。ヒトK14プロモーターおよびインボルクリンプロモーターの配列は、公開されている配列に基づいたPCRプライマーを用いて単離した(Leask et al., Genes Dev, 1990. 4(11): p. 1985-98)。発現ベクターは、TIMP-1コード領域の下流にウサギβ-グロビンイントロンおよびポリ(A)シグナルを含む。発現ベクターはまた、ブラストサイジン耐性遺伝子発現の発現を駆動するユビキチンプロモーターを使用する薬物選択カセットも含む(Deng et al., Biotechniques, 1998. 25(2): p. 274-80)。安定なクローンを作製するために使用されるベクターはすべて、FDAによって推奨されるように、アンピシリンカセットを除去されていた。
【0141】
一過性トランスフェクションされた培養物におけるTIMP-1のmRNA発現の検出:
逆転写PCR(RT-PCR)を用いて、一過性トランスフェクションされたNIKS細胞における導入遺伝子発現を検出した。図10に示すように、TIMP-1コード領域にアニールするようにフォワードプライマーを設計し、かつウサギβ-グロビン遺伝子に由来するベクター配列にアニールするようにリバースプライマーを設計した。これらのプライマーはβ-グロビン断片中のイントロンにまたがるため、このプライマー設計により、DNAから導入遺伝子mRNAを区別することが可能になった。一方のプライマーはウサギβ-グロビン断片にアニールするため、このプライマーセットでは、内因性TIMP-1 mRNAは増幅されなかった。この戦略を用いて、外因性TIMP-1のmRNA(240bp)を、発現ベクターDNAから増幅されたPCR産物(827bp)から容易に区別した。
【0142】
トランスフェクション後24時間目に、偽トランスフェクションしたNIKSおよび空ベクターまたはTIMP-1を含むプラスミドのいずれかで一過性トランスフェクションしたNIKS細胞の60〜70%コンフルエントな培養物から全RNAを単離した(TRIzol Reagent, Invitrogen, Carlsbad, CA)。オリゴdTプライマーを用いて、試料を逆転写した(M-MLV RT, Invitrogen, Carlsbad, CA)。アガロースゲル電気泳動によってPCR産物を可視化した。コード配列が正確であることが確認されたにもかかわらず、K14プロモーターによって駆動されるHAでタグ化されたTIMP-1構築物によるNIKSケラチノサイトの一過性トランスフェクションは、RNA発現をもたらさなかった。これらのベクターならびにタグ化されていないK14 TIMP-1ベクターおよびINV TIMP-1ベクターは、安定なトランスフェクタントの作製および評価に進んだ。
【0143】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの単離および特徴付け:
一過性トランスフェクションにおいてTIMP-1の発現を示したすべての発現構築物を含むNIKSケラチノサイトの安定なクローンを成功裡に単離した。これらのクローンは、当技術分野において公知の方法を用いてNIKS細胞をエレクトロポレーションすることによって得た。ゲノム中にプラスミドを組み入れていない任意のNIKS細胞以外を選択する、ブラストサイジンを含む培地における増殖によって、トランスフェクションされた細胞を選択した。ブラストサイジンで選択したトランスフェクション細胞を、組織培養処理した皿中のブラストサイジン耐性3T3細胞のフィーダー層上に低密度で播種することによって、安定にトランスフェクションされたNIKS細胞のクローン集団を単離した。全体として、208クローンを4つの発現構築物から単離した。複数の独立したNIKSTIMP-1クローンが、非トランスフェクションNIKSと比べてTIMP-1を過剰発現することが確認された。RT-PCR解析により、外因性TIMP-1のmRNA(240bp)は、TIMP-1を含むベクターでトランスフェクションされたNIKS細胞中で検出されたが、偽トランスフェクションした細胞でも、空ベクターでトランスフェクションした細胞でも検出されなかった。375bpの産物であるGAPDH RNAに特異的なプライマーを、ローディングコントロールとして使用した。これらのサブセットを図11に示す。
【0144】
外因性TIMP-1の発現:
単層培養における、HAでタグ化されたNIKSTIMP1の安定なクローンからの外因性TIMP-1タンパク質の発現を、ウェスタンブロットによって検査した。Cytobuster試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、細胞溶解物を回収した。BCAアッセイ法(Pierce, Rockford, IL)を用いて、タンパク質レベルを定量した。タンパク質15μgを12%トリス-グリシンゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)上に添加し、次いでPVDF膜(Invitrogen, Carlsbad, CA)に移した。HA抗体(Roche, Penzberg, Germany)により、外因性TIMP-1タンパク質は、適切なベクターで形質転換された細胞中で検出され得る(図12)。さらに、TIMP-1は、馴化培地中でも検出され得、これにより、TIMP-1が培地中に適切に分泌されていることが保証された。
【0145】
TIMP-1分泌を評価するために、NIKSTIMP1クローンを単層培養し、かつ24時間後に馴化培地を採取した。表3は、ELISA(R&D Systems, Minneapolis, MN)によって決定した、非トランスフェクションNIKSと比べた場合のTIMP-1含有量の倍率を示す。
【0146】
広範囲のTIMP-1タンパク質発現を有するクローンを検査した。次いで、タンパク質レベルから、単離されたクローンを「低(1〜3倍)」、「中(4〜6倍)」、または「高(7〜9倍)」発現体に分類した(表3)。
【0147】
(表3)

【0148】
NIKSケラチノサイトの遊走:
定量的な遊走アッセイ法を用いて、NIKSケラチノサイトが、組織培養処理された表面を再上皮化する能力を測定した(Kim et al., Cancer Res, 2003. 63(17): p. 5454-61)。研究により、TIMP-1の過剰発現によって、特定の条件下で細胞遊走が妨害され得ることが示された(Pilcher et al., J Cell Biol, 1997. 137(6): p. 1445-57;Salonurmi et al., Cell Tissue Res, 2003)。したがって、定量的な本遊走アッセイ法を使用した。本アッセイ法を用いて単層培養物を評価して、NIKS細胞のベースラインの遊走速度を確かめ、かつNIKSTIMP1の遊走速度と比較した。手短に言えば、コンフルエントな細胞のトリプリケートなクローン試料をマイトマイシンC(25μg/ml)で1時間処理して、細胞増殖を不活性化した。培養プレート表面をひっかいて幅2mmの線状の傷を作り、かつ細胞を増殖培地と共にインキュベートした後、24時間目、32時間目、48時間目、および56時間目に固定した。損傷部位の顕微鏡写真(2〜3つの独立した視野)を撮影し、かつイメージングソフトウェア(NIH Image 1.62)を用いて、視野当たりの損傷サイズ(mm2)を算出した。損傷面積を時間の関数としてプロットして、ケラチノサイト遊走の程度を決定した(表4)。この方法論によっては、細胞の遊走を妨害するクローンは示されなかった。すべてのクローンが、同じ様式で処理されたNIKSTMよりも亢進された遊走を示した。本発明は、特定のメカニズムに限定されない。実際、このメカニズムを理解することは、本発明を実施するのに必要ではない。それでもなお、Terasakiらは、TIMP2が正常なヒト表皮ケラチノサイトの遊走を亢進させることを発見し、これらの細胞の遊走の促進においてTIMPがある役割を果たし得るという概念に裏付けを与えた(Terasaki et al., J Dermatol, 2003. 30(3): p. 165-72)。
【0149】
(表4)

【0150】
外因性TIMP-1の増殖特性
安定なNIKSTIMP1細胞に由来するTIMP-1が増殖促進活性を示すか判定するために、細胞増殖の差異をインビトロで検出するように設計された2種のアッセイ法を使用した(Hayakawa et al.,前記)。直接的な手作業での計数および分光光度的MTTアッセイ法の使用の双方によって、細胞数をトリプリケートで評価した。手短に言えば、ミトコンドリア酵素活性によって、MTT基質をMTTホルマザンに変換する。次いで、この産物をイソプロパノール中に抽出し、かつ560nmで読み取る。生細胞数の直接的な測定ではないものの、このアッセイ法は、適切な対照と比べた相対的な細胞数を決定するための正確かつ迅速な方法を提供する。無血清最小増殖培地は、血清成分に由来するTIMP-1がこのアッセイ法を妨害しないよう徹底するために使用した。48時間後にNIKSTMおよびNIKSTIMP1の馴化培地を回収し、かつ双方のアッセイ法に使用した。
【0151】
直接的な細胞計数の場合、NIKSTMは、TIMP-1で処理した細胞、空ベクターで処理した細胞、または非トランスフェクション細胞に由来する馴化培地と最小増殖培地が1:1の無血清培地中で、5日間維持した。MTTアッセイの場合、TIMP-1で処理した細胞、空ベクターで処理した細胞、または非トランスフェクション細胞に由来する無血清馴化培地中で3日間、NIKSTMを維持した。
【0152】
図13の直接的な細胞計数値により、TIMP-1の安定なクローンから回収された馴化培地が、親NIKSTMの増殖特性と同程度の増殖特性を有していたことが示唆される。さらに、MTTアッセイ法は、非トランスフェクションNIKSに対する、クローン増殖の差異を示さなかった。組換えTIMP-1は、濃度1〜10μg/mlでケラチノサイトの増殖を促進することが示され、かつ安定なクローンはナノグラム量を生成した(Bertaux et al., J Invest Dermatol, 1991. 97(4): p. 679-85)。最も高発現するクローンは、一般に、24時間の期間当たり326ng/mlを生成する。
【0153】
分泌されたTIMP-1の生物活性:
発現されたTIMP-1がMMP阻害活性の上昇を示すことを確認するために、EnzChek Gelatinase/Collagenase Assay(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて、安定なTIMP-1クローンに由来する馴化培地を分析した。EnzChekアッセイ法は、水溶液中のプロテイナーゼ活性の程度を検出するための、蛍光プレートリーダーを使用する迅速かつ高感度の蛍光出力法を提供する。基質のDQゼラチンは、酵素によって切断された場合にのみ蛍光を発するため、プロテアーゼ活性のより正確な測定が実現する。これは、基質の不溶性を回避するためにベースライン測定を実施しなければならない従来のアゾコールアッセイ法と対照的である。市販されている活性なMMP-2(Calbiochem, San Diego, CA)を、公知の濃度にてアッセイ懸濁液(Sigma, St.Louis, MO)に添加した。次いで、TIMP-1で処理したNIKS細胞、空ベクターで処理したNIKS細胞、または非トランスフェクションNIKS細胞に由来する24時間馴化させた無血清培地のレプリケート試料をこのプロテイナーゼ/基質懸濁液に添加し、かつMMP阻害の程度を決定した(図14)。陽性対照として使用した、合成のMMP-2特異的インヒビター1である10-フェナントロリン(Calbiochem, San Diego, CA)は、プロテイナーゼ活性を30%阻害した。図14のデータは、クローンINV TIMP-1-HA:28が、非トランスフェクションNIKSと比べて、MMP-2プロテアーゼ活性の40%もの阻害を示したことを示す。本アッセイ法において、他の多くのクローンが単層状態で強いプロテアーゼ阻害活性を示した(図14)。MMP-2はTIMP-1によって優先的に標的とされないため、これは、NIKSTIMP1クローンによるプロテアーゼ阻害活性の最低閾値を示唆し得る。
【0154】
実施例6
器官培養におけるNIKSTIMP1クローンの特性の特徴付け
本実施例では、層形成した表皮を形成する能力、発現レベル、およびプロテアーゼ阻害活性に関してクローンを解析するための方法を説明する。
【0155】
器官培養物の調製:
器官培養技術および所有権を有する培地(STRATALIFE培地、StrataTech, Madison, WI)を用いて、単層状態である範囲のTIMP-1レベルを発現し、かつプロテアーゼ阻害を示すNIKSTIMP1候補クローンを使用して、ヒト皮膚代用品組織を調製する。器官培養物は、真皮コンパートメントおよび表皮コンパートメントの双方から構成され、以下のようにして調製する。
【0156】
ハムのF12ベースの培地中で正常なヒト新生児線維芽細胞(Cambrex, East Rutherford, NJ)をI型コラーゲンと混合し、かつ収縮させることによって真皮コンパートメントを形成させる。表皮コンパートメントは、空気と培地の境界のSTRATALIFE培地中の収縮されたコラーゲンゲル上にNIKS細胞またはNIKSTIMP1細胞を播種して、その下から培養物に栄養を供給させることによって、作製する。器官培養物は、37℃、5%CO2、湿度75%でインキュベートし、かつ2日毎に新鮮な培地を供給する。10日目までに、細胞は層形成して、基底層、有棘層、顆粒層、および角化層を形成すると考えられる。
【0157】
NIKSTIMP1細胞によって形成された皮膚代用品組織の組織学的切片を、未改変NIKS細胞から調製された培養物と比較する。組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色して、層形成された表皮層を可視化する。培養物を組織形態に関して検査し、かつ組織構造のより完全な解析として、ケラチノサイト分化の様々な段階に特異的な抗体のパネルを用いて、免疫組織化学的解析を実施する。組織切片内のインボルクリン、P-カドヘリン、ケラチン1、ケラチン2e、およびトランスグルタミナーゼの分布を、適切な組織分化に関して解析する。正常な組織構成および組織像を示すNIKSTIMP1クローンのみを、さらなる解析で使用する。
【0158】
器官培養物におけるTIMP-1 mRNA発現の解析:
器官培養物から作製した皮膚組織を、前述のRNA単離および半定量的RT-PCR手順を用いて、14日目の培養物におけるTIMP-1導入遺伝子の発現レベルに関して分析する。クローン細胞株は、分化した皮膚においてある範囲の発現レベルを示すことが確認されている。QPCRは、定量のために使用されている。qPCRでは、RNAをリアルタイムに解析するため、はるかに定量性が高く、したがって正確な、RNAレベルの評価が実現する。
【0159】
TIMP-1タンパク質発現レベルに関するアッセイ法:
安定なクローンから作製された皮膚組織に由来する培地を、TIMP-1タンパク質産生に関して分析する。特異的なTIMP-1抗体(Oncogene Research Products, San Diego, CA)を使用するイムノブロット解析を使用して、分泌されたTIMP-1を検出する。外因性TIMP-1の発現を確認するために、非トランスフェクションNIKS細胞の内因性TIMP-1レベルとの比較を行う。組換えTIMP-1は陽性対照としての機能を果たす(Oncogene Research Products, San Diego, CA)。
【0160】
市販されているヒトTIMP-1に特異的なELISAアッセイ法(R&D Systems, Minneapolis, MN)を用いて、全TIMP-1タンパク質を定量する。トランスジェニックTIMP-1で安定にトランスフェクションされた試料におけるタンパク質レベルの上昇を確認するために、ベースライン、すなわち非トランスフェクションNIKS細胞の内因性TIMP-1レベルとの比較を行う。
【0161】
プロテイナーゼ阻害のアッセイ法:
組織から分泌されたTIMP-1が機能的であるか判定するために、EnzChek Gelatinase/Collagenase Assay(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて、プロテイナーゼ活性を阻害する能力を分析する。EnzChekアッセイ法は、水溶液中のインヒビターの存在を検出するための、蛍光プレートリーダーを使用する迅速かつ高感度の蛍光出力法を提供する。基質のDQゼラチンは、切断された場合にのみ蛍光を発する。市販されている活性なMMP-2(Calbiochem, San Diego, CA)を、公知の濃度にてアッセイ懸濁液(Sigma, St.Louis, MO)に添加する。次いで、TIMP-1で処理したNIKS細胞または非トランスフェクションNIKS細胞に由来する馴化培地の試料をこのプロテイナーゼ/基質懸濁液に添加し、かつMMP阻害の程度を決定する。合成のMMP-2特異的インヒビターは、陽性対照として使用される(Calbiochem, San Diego, CA)。
【0162】
器官培養物に由来する馴化培地によっては生物活性の増大が直接観察されない場合は、マイクロコンフィルター(Millipore, Billerica, MA)を用いて、馴化培地試料を濃縮する。TIMP-1タンパク質が、細胞培養培地中に自由に分泌されるのではなく、細胞膜に結合したままである場合には、細胞溶解物を直接分析する。
【0163】
実施例7
核型および腫瘍形成能の予備研究
本実施例では、NIKS細胞を発現するTIMP-1の初期の腫瘍形成能の研究を説明する。
【0164】
組織工学の応用において使用され得る任意の細胞の好ましい局面は、それらが腫瘍形成性ではないことである。ヌードマウスおよびSCIDマウスに注入された場合にNIKSケラチノサイトは腫瘍を形成しないことが以前に実証され、FDAの基準が満たされた(Allen-Hoffmann et al., Journal of Investigative Dermatology, 2000. 114(3): p. 444-455)。TIMP-1の発現の増大により、NIKS細胞の潜在的な腫瘍形成能が増大する可能性を排除するために、いくつかのクローンを軟寒天懸濁液アッセイ法に供する。次いで、このアッセイ法において腫瘍形成性ではないクローンをヌードマウスに注入する。動物の腫瘍形成能の研究を2段階で実施する。第1段階において、様々なレベルのTIMP-1発現を示すNIKSTIMP1クローン5〜10個をそれぞれ5匹のマウスに注入する。第1段階においていかなる腫瘍も生じないクローンを、より多数のマウスに注入して、統計学的に有意な試料の検査を可能にする(下記参照)。注入後に腫瘍を形成するいかなるクローン細胞株も、臨床的開発のためには好ましくない。
【0165】
核型解析:
NIKSTIMP1クローンの核型解析を実施して、クローン選択の進行中に細胞遺伝学的変化を獲得した可能性がある珍しいクローンを排除する。非トランスフェクションNIKS細胞と同じ安定な核型を示すクローンのみを、さらなる開発のために検討する。
【0166】
軟寒天アッセイ法:
足場非依存性増殖は、インビボでの腫瘍形成能と強く相関している。(Shin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1975. 72(11): p. 4435-9)。このため、寒天またはメチルセルロースを含む培地において、NIKSTIMP1細胞の足場非依存性増殖特性を分析する。プレコンフルエントな培養物を無血清かつ無添加の、3:1のハムF-12/DMEおよびメチルセルロースまたは寒天中に、1ml当たり1×106細胞の濃度で懸濁させる。寒天またはメチルセルロースを含む培地中、インサイチューで細胞を写真撮影する。4週間後、非腫瘍形成性のNIKSTIMP1細胞は単細胞として残存する。これらのアッセイ法は、増殖の遅いNIKSTIMP1細胞変異体が作製されないことを観察するために、合計8週間継続する。非トランスフェクションNIKS細胞は同様に処理されて、対照の役割を果たす。
【0167】
無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍形成能(Tumorgenicity)の予備研究:
組織工学による製品において使用される細胞に対して腫瘍形成能の試験をすることが、FDAによって要求されている。細胞株の潜在的な腫瘍形成能を判定するための主要な標準法は、動物を丸ごと用いるバイオアッセイ手順である。ヌードマウス系統は、高レベルのTIMP-1を発現するNIKS細胞の腫瘍形成能を試験するための優れた動物モデルを提供する。ヌードマウスにおける劣性突然変異(以前はnu、次に、Hfh11nuに後ほど改められ、最も最近ではFoxn1nuに改められた)は、胸腺の発達のほぼ全面的な欠如をもたらし、かつ細胞免疫の不在下で腫瘍形成性増殖を研究するための厳密な哺乳動物系を提供する。ヌードマウスのT細胞性応答は本質的に存在せず、さらに、免疫系のもの以外の自然発生の癌および新生物の発生率は、非変異体の対照および一般の実験マウスと実際には違っていない(Stutman, Exp Cell Biol, 1979. 47(2): p.129-35)。
【0168】
正常なNIKS核型を有するNIKSTIMP1クローン5〜10個の腫瘍形成について、5匹のヌードマウスにおいて評価する。手短に言えば、ヌードマウス(4〜5週齢)を研究開始前に少なくとも1週間順化させる。これらの細胞は、皮下注射によって各動物の両方の後側腹に送達される。側腹部当たり0.1mlのF12培地中の各クローンに由来する細胞5×106個を動物に注入する。側腹部当たり0.1mlのF12培地を、陰性対照の動物5匹に注入する。側腹部当たり0.1mlのF12培地中の、2.5×106個のSCC4細胞(ヒト皮膚扁平上皮癌細胞株)を陽性対照の動物5匹に注入する。
【0169】
マウスの腫瘍形成を毎週検査する。12週間の研究期間の完了前に死亡する動物はすべて、徹底的に剖検して、死亡原因を決定する。12週間の研究期間の最後に、すべての動物を屠殺し、かつ写真撮影する。各動物から皮膚を取り除き、かつ注入部位の周囲の皮膚の腫瘍について注意深く検査する。各動物から得た皮膚組織は、以降の検査のために、緩衝ホルマリン中で保存する。
【0170】
NIKSTIMP1細胞を注入したマウスの注入部位における任意の腫瘍の存在により、これらのクローンが腫瘍形成性であることが示唆される。腫瘍形成能を示さないクローンが、さらなる開発のために好ましい。
【0171】
実施例8
移植の研究
本実施例では、急性創傷モデル、および様々なレベルのTIMP-1を発現するEXPRESSGRAFT Shield皮膚組織とSTRATAGRAFT組織の移植片生着(graft take)の比較を用いた移植研究を説明する。
【0172】
急性創傷モデルにおいて、STRATAGRAFT組織(Stratatech, Madison, WI)に匹敵する創傷収縮、移植片接着、および血管新生を促進する能力に関してクローンをスクリーニングする。これらのパラメーターは、急性創傷および慢性創傷の双方の治癒にとって重要である。これらはまた、実体的なエンドポイントも提供し、これを用いて移植片生着を評価することができる。この創傷モデルを用いて、様々なレベルのTIMP-1を発現するクローンのこれらの創傷治癒パラメーターを評価する。
【0173】
様々なレベルのTIMP-1を発現する皮膚組織を、無胸腺ヌードマウスの背部の全層切除創傷上に移植する。動物8匹を1群とする4群に、NIKSTIMP1クローンを含む以下の皮膚組織を移植する。
第1群−対照としての、NIKSTMから作製された皮膚組織
第2群−内因性レベルより2〜3倍多いTIMP-1を発現する皮膚組織
第3群−内因性レベルより4〜6倍多いTIMP-1を発現する皮膚組織
第4群−内因性レベルより7〜8倍多いTIMP-1を発現する皮膚組織
【0174】
移植部位を検査し、写真撮影し、かつ創傷面積を1週間間隔で測定する。移植後2週目、4週目、8週目、および12週目に、各群から2匹の動物を安楽死させる。移植片を摘出し、かつ前述したように、移植片生着、創傷治癒、および血管形成に関するいくつかのパラメーターを評価する。
【0175】
組織の作製:
STRATAGRAFT皮膚組織を作製するために、FDAに提出された標準業務手順書(Standard Operating Procedures)を用いて、皮膚組織を調製する。表面積44cm2の円形の組織を作製し、かつ移植する直前に、創傷に合うように形を整える。皮膚同等物にNIKSTIMP1細胞を播種し、かつSTRATALIFE培地と共に14日間培養することによって、上記に指定したレベルでTIMP-1を発現する皮膚組織を調製する。移植する24時間前に、STRATAGRAFTおよびNIKSTIMP1組織から回収した馴化培地におけるTIMP-1レベルをELISAにより評価して、タンパク質範囲を確認する。TIMP-1レベルは、同じ安定なクローンから構築した組織間では不変のままであるはずである。
【0176】
移植片の組織学:
動物の屠殺時に各移植片から採取した組織試料を組織学的検査用に処理し、かつヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色して、全体的な組織構造を決定する。ケラチノサイト分化の様々な段階に特異的な抗体のパネルを用いて、組織構造のより完全な解析、すなわち免疫組織化学的解析を実施する。各実験群から得た組織切片内のヒトインボルクリン、P-カドヘリン、ケラチン1、ケラチン2e、およびトランスグルタミナーゼの分布を、対照のSTRATAGRAFT皮膚組織と比較する。
【0177】
移植手順:
動物の処置はすべて、University of Wisconsin-Madisonで、動物福祉規則に従って実施する。無菌法によって、麻酔した無胸腺ヌードマウス32匹の背部に全層切除創傷(3×2cm、6cm2)を作り出す。皮膚組織(6cm2)を創床中に配置し、かつ縫合糸を用いて所定の位置に固定する。外科的部位を写真撮影し、かつ測定する。移植した部分を、抗生物質軟膏を十分に染み込ませた非粘着性ガーゼ包帯、続いて、閉鎖被覆材および圧迫被覆材で覆う。麻酔から回復後、動物を2時間観察して、これらの処置の任意の有害作用を検出する。承認されたプロトコールに従って、無痛法を施す。手術後の期間、必要に応じて包帯を交換する。移植片配置後2週目に、すべての動物から包帯を取り除く。
【0178】
急性創傷モデルの評価基準:
創傷収縮:
各移植部位の面積を、1週間間隔で撮影したデジタル写真から計算する。各時点の創傷面積を最初の創傷面積で割ることによって各動物の創傷収縮を計算し、かつ最初の創傷面積に対するパーセンテージとして表す。スチューデントのt検定を用いて、創傷収縮のデータを、群間で比較する。群間の差異は、p値が0.05未満である場合に、有意とみなされる。Suppらは、同様の評価法を用いて創傷治癒を定量した(Supp and Boyce, J Burn Care Rehabil, 2002. 23(1): p. 10-20)。移植片収縮がより小さいことは、安定な移植ならびにより優れた組織発達の信頼性が高い指標である。
【0179】
移植片接着:
ヒトの臨床的研究において移植片生着の評価に一般に使用される3ポイントスケールを用いて(Dr.Michael Schurr, Department of Surgery, University of Wisconsin Hospital)、各動物の移植部分の移植片生着を視覚的に評価する。移植された組織を手で軽く操作することにより創傷床内で動かすことができる程度を検査して、接触片の接着を評価する。桃色であり、かつ接着している移植片に2ポイントを付与し、桃色であるか、または接着しているが、両方は満たさない移植片に1ポイントを付与し、桃色でもなく、接着もしていない移植片にはポイントを与えない。コクラン・マンテル・ヘンツェルの検定によって、各群の移植片生着スコアを比較する。両側のp値が0.05未満である場合には、統計的有意性が明らかにされる。
【0180】
高いTIMP-1レベルを発現する皮膚移植片のうちの一部は、創傷収縮の遅延、移植片接着の促進、または(移植片の色によって判断される)血管新生の増大によって証明されるように、移植片生着の加速を示すことが予想される。このような結果は、TIMP-1発現の寄与による創傷治癒の改善または加速を示唆すると考えられる。広範囲のTIMP-1発現レベルを有するクローンを試験することによって、創傷治癒の改善に必要とされるTIMP-1発現の閾値レベルが特定されることも、さらに予想される。
【0181】
移植片の血管新生:
血管新生により、移植された材料が健康なままであり、それによって移植片生着に寄与していることが保証される。TIMPは内皮細胞遊走に対して、およびしたがって血管形成に対する影響を有することが示された(Baker et al., J Cell Sci, 2002. 115(Pt 19): p. 3719-27)。血管新生が損なわれないよう徹底するために、組織の血管新生の程度は、マウスCD31/血小板内皮細胞接着分子-1(CD31/PECAM-1, BD PharMingen, San Diego, CA)に対する抗体を用いて免疫組織化学によって決定する。血管新生の程度は、CD31/PECAM-1に対して陽性に染色される皮膚組織のパーセンテージを計算することによって決定する。各組織群に関して、陽性に染色される皮膚組織のパーセンテージをSTRATAGRAFT組織の場合の値と比較する。対照のNIKSTMと同程度の血管新生を示すか、または血管新生が増大しているクローンが、さらなる評価のために好ましい。
【0182】
実施例9
移植のさらなる研究
本実施例では、様々なレベルのTIMP-1を発現するEXPRESSGRAFT Shield皮膚組織とSTRATAGRAFT組織の間で創傷治癒およびプロテアーゼ阻害の速度を比較するための、慢性創傷モデルを用いた移植の研究を説明する。
【0183】
本実施例では、1)創傷滲出液中のプロテアーゼ活性の阻害によって示されるような生物学的に活性なTIMP-1を有する組織を生成し、かつ2)創傷治癒の速度を速める、クローンを同定するための方法を説明する。これらの研究のために、様々なレベルのTIMP-1を発現する皮膚組織を、無胸腺ヌードラットの背部に作り出した慢性創傷上に移植する。慢性病変の有効なラットモデルの作製は、Davidsonのグループによって標準化されている(Davidson, Arch Dermatol Res, 1998. 290 Suppl: p.S1-11)。
【0184】
この実験モデルは、病変が高レベルのMMP-1、MMP-3、およびMMP-9を示すため、移植片を試験するのに有用である。病変は、化学療法剤のアドリアマイシンを皮内に導入することによって、作製する。損傷は、この薬剤の導入によって引き起こされるフリーラジカルメカニズムが原因で形成すると考えられている。部位当たり合計12.5mgに対して25mg/mlの用量を500μl導入することにより、皮膚壊死性の病変が14日間の期間に渡って発達する。ラットにおいて、これらの病変は、50日を上回る期間持続することが示された(Davidson,前記)。動物8匹を1群とする4群に、以下のように皮膚組織を移植する。
第1群−内因性レベルのTIMP-1を発現する皮膚組織
第2群−内因性レベルより2〜3倍多いTIMP-1を発現する皮膚組織
第3群−内因性レベルより4〜6倍多いTIMP-1を発現する皮膚組織
第4群−内因性レベルより7〜8倍多いTIMP-1を発現する皮膚組織
【0185】
移植部位を検査し、写真撮影し、かつ創傷面積を1週間間隔で測定する。移植後1週目、2週目、4週目、および8週目に、各群から2匹の動物を安楽死させ、かつ検査する。8週間という時間枠は、慢性創傷が持続することが公知である期間の範囲内であるように、かつ、細胞ベースの療法による任意の短期間の影響を観察するために、選択する。創傷収縮、移植片接着、および移植片の血管新生によって、移植片を評価する。さらに、プロコラーゲンレベル、プロMMP-1レベル、およびHSP47レベル、ならびにプロテアーゼ阻害の程度の測定を含む、慢性創傷治癒に特異的に対応する基準を解析する。
【0186】
組織作製および移植手順:
前述のようにして、皮膚組織を調製する。動物の処置はすべて、動物福祉規則に従って実施する。500μlの25mg/mlアドリアマイシンを皮内注射して、麻酔した無胸腺ラット32匹の背部に慢性潰瘍のモデルとなる創傷を作り出す。創傷の状態をモニターするための創傷滲出液の回収を可能にする、吸収性のヒドロゲルをベースとする被覆材で、この創傷を覆う。これらの試料は、創傷の初期のプロテアーゼレベル(下記で考察)を確認するのに使用され、かつ細胞ベースの遺伝子療法の有効性に関する比較点として役立つ。14日間、創傷を形成させた後、皮膚組織(6cm2)を創床中に配置し、かつ縫合糸を用いて所定の位置に固定する。アドリアマイシン(Adrimycin)で誘導した創傷部位を写真撮影し、かつ測定する。移植した部分を、ヒドロゲル被覆材、抗生物質軟膏、および圧迫被覆材で覆う。麻酔から回復後の2時間、動物を頻繁に観察して、これらの処置の任意の有害作用を検出する。承認されたプロトコールに従って、無痛法を施す。手術後の期間、必要に応じて包帯を交換する。移植片配置後2週目に、すべての動物から包帯を取り除く。
【0187】
慢性創傷モデルの有効性基準の評価:
創傷収縮および移植片接着:
移植片収縮の減少は、安定な移植ならびにより優れた組織発達の信頼性が高い指標である。収縮は、前述したようにして測定する。手短に言えば、各移植部位の面積を、1週間間隔で撮影したデジタル写真から計算する。スチューデントのt検定を用いて、創傷収縮のデータを、群間で比較する。p値が0.05未満である場合、所与の群とNIKS対照の差異は有意とみなされる。Suppらは、同様の評価法を用いて創傷治癒を定量した(Supp and Boyce, 前記)。
【0188】
移植片接着は、前述したようにして測定する。手短に言えば、ヒトの臨床的研究において移植片生着の評価に一般に使用される3ポイントスケールを用いて(Dr.Michael Schurr, Department of Surgery, University of Wisconsin Hospital)、各動物の移植部分の移植片生着を視覚的に評価する。コクラン・マンテル・ヘンツェルの検定によって、各群の移植片生着スコアを対照組織と比較する。両側のp値が0.05未満である場合には、統計的有意性が明らかにされる。
【0189】
高いTIMP-1レベルを発現する皮膚移植片のうちの一部は、創傷収縮の遅延、移植片接着の促進、または(移植片の色によって判断される)血管新生の増大によって証明されるように、移植片生着の加速を示すことが予想される。このような結果は、TIMP-1発現の寄与による創傷治癒の改善または加速を示唆する。
【0190】
創傷治癒:
コラーゲンリモデリングのいくつかのマーカーが、慢性潰瘍の改善の指標として文献中で使用されている(Davidson, 前記;Tarlton et al., Wound Repair Regen, 1999. 7(5): p. 347-55)。線維性I型コラーゲンは、通常、皮膚中に豊富に存在する。プロコラーゲンの量は、コラーゲンが安定化して原線維になっているかどうかを示す。プロコラーゲンのレベルは、ELISA(Prolagen C, Quidel, Oxon, UK)を用いて、創傷滲出液または組織試料から容易に試験することができる。さらに、悪化中の創傷においては、治癒中の創傷と比べて、プロMMP-1の量は多い。創傷部位中に存在するプロMMP-1のレベルもまた、ELISA(R&D Systems, Minneapolis, MN)によって試験される。細胞外マトリクス代謝の減少を示す、プロコラーゲンおよびプロMMP-1のレベルの低下は、治癒の徴候を示している慢性創傷において見出されるはずである。プロコラーゲンおよびプロMMP-1の減少の程度は、各組織群を対照のNIKSTMと比較することによって評価する。その場合、各NIKSTIMP1群を、低(10%〜20%減少)、中(20%〜30%減少)、または高(30%〜50%減少)のいずれかにランク付けする。
【0191】
移植片および創傷床の組織学:
前述のように、組織学的に創傷部位を解析する。手短に言えば、動物の屠殺時に各移植片から採取した組織試料を組織学的検査用に処理し、かつH&Eで染色して、全体的な組織構造を決定する。各実験群から得た組織切片の表皮コンパートメント内のインボルクリン、P-カドヘリン、ケラチン1、ケラチン2e、およびトランスグルタミナーゼの分布を、対照のNIKSTMと比較する。
【0192】
さらに、線維芽細胞特異的マーカーのHSP47を用いて、創傷床を評価する。最近の研究により、HSP47染色は、正常組織に対して皮膚潰瘍においてずっと強いことが発見された(Kuroda and Tajima, J Cutan Pathol, 2004. 31(3): p. 241-6)。各組織群の創傷床におけるHSP47染色のレベルを、対照のNIKSTMと比較する。定量的ではないが、染色強度の減少は、創傷床内部の治癒を示している。
【0193】
移植片の血管新生:
TIMPは内皮細胞遊走に対して、およびしたがって血管形成に対する影響を有することが示された(Baker et al., J Cell Sci, 2002. 115(Pt 19): p. 3719-27)。血管新生が損なわれないよう徹底するために、組織の血管新生の程度は、ラットCD31/PECAM-1(BD PharMingen, San Diego, CA)に対する抗体を用いて免疫組織化学によって決定する。血管新生の程度は、CD31/PECAM-1に対して陽性に染色される皮膚組織のパーセンテージを計算することによって決定する。各組織群に関して、陽性に染色される皮膚組織のパーセンテージをSTRATAGRAFT組織の場合の値と比較する。対照のNIKSTMと同程度の血管新生を示すか、または血管新生が増大しているクローンが、さらなる評価のために好ましい。
【0194】
移植片のプロテアーゼ阻害:
創傷状態作製中の創傷滲出液の試料採取、および移植片への曝露中の創傷滲出液の試料採取を可能にする、吸収性のヒドロゲルをベースとする被覆材で、すべての慢性創傷を覆う。前述したようにEnzChek Gelatinase/Collagenase Assay(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いてこれらの試料を解析することによって、プロテアーゼ活性の程度を決定する。手術後7日目(POD7)およびPOD14に再び、創傷滲出液試料をすべての動物から採取する。プロテアーゼ阻害の程度は、各EXPRESSGRAFT Shield組織群由来の試料を対照のSTRATAGRAFT組織と比較することによって決定する。前述したようにELISAによっても滲出液試料を分析して、対応するTIMP-1レベルを得る。プロテアーゼ阻害の程度によって組織の能力を判定し、かつ各組織群を以下のようにランク付けする:低(10%〜20%阻害)、中(20%〜30%阻害)、高(30%〜50%阻害)。
【0195】
Davidsonによって確立された慢性創傷ラットモデルを使用することにより、ヒト条件に最も近い条件で、本発明のTIMP-1を発現する皮膚代用品の有効性を評価することができる。さらに、この病変においてMMP-1、MMP-3、およびMMP-9の発現レベルが上昇しており、理想的な実験モデルになっていることも既に確かめられている。NIKSTIMP1を用いて調製された移植片のうちの一部、おそらくはTIMP-1発現が低レベルであるものは、STRATAGRAFT組織を用いて作製された移植片を与えられたものと比べて、プロテアーゼ活性のわずかな減少しか示さないことが予想される。プロテアーゼ活性は、TIMP-1レベルが高いNIKSTIMP1移植片を移植された創傷に対して低いことが予想される。
【0196】
創傷滲出液の試料採取を通じて創傷中に存在するプロテアーゼ活性を確実に測定することができない場合には、慢性創傷の作製の前後の両時点において、生検パンチによって直接、創傷組織を試料採取する。さらに、PECAM染色がこの系に対する血管新生の指標として実施可能ではない場合には、屠殺前にFITC-デキストリンを静脈注射して、血管系を可視化する。
【0197】
実施例10
安全性の研究
本実施例では、腫瘍形成能に関する付加的なアッセイ法を説明する。注入後に腫瘍形成を促進しないクローン細胞株が、臨床的開発のために好ましい。
【0198】
NIKSTIMP1の腫瘍形成能の解析:
3群の動物を本研究において使用する。どの群も、同数の雄マウスおよび雌マウスを含む。第I群は、腫瘍形成性の陽性対照として、ヒト扁平上皮癌細胞株、すなわちSCC4を注入される26匹のマウスからなる。第II群は、無菌培地を注入される50匹の動物からなり、実験の陰性対照としての役割を果たす。第III群は50匹の動物からなり、プロテアーゼ阻害の増大を示し、かつ予備の腫瘍研究において腫瘍を形成しなかったNIKSTIMP1クローン由来の細胞1×107個をそれぞれ注入される。手短に言えば、ヌードマウス(4〜5週齢)を研究開始前に少なくとも1週間順化させる。注入の直前に、すべての動物を計量する。これらの細胞は、皮下注射によって各動物の両方の後側腹に送達される。側腹部当たり0.1mlのF12培地中のSCC4細胞2.5×106個を第I群の動物に注入する。側腹部当たり0.1mlのF12培地を第II群の動物に注入する。側腹部当たり0.1mlのF12培地中のNIKSTIMP1細胞5×106個を第III群の動物に注入する。
【0199】
マウスの腫瘍形成を毎週検査し、かつ注入後約6週目にマウスを計量する。注入後12週間、動物を飼育し、次いで計量し、写真撮影し、かつ徹底的に剖検する。12週間の研究期間の完了前に死亡する動物はすべて、徹底的に剖検して、死亡原因を決定する。注入部位の周囲の皮膚の異常について注意深く検査し、かつ以降の検査のために、緩衝ホルマリン中で保存する。陽性対照群で生じるすべての腫瘍、および実験群に由来する任意の腫瘍を測定し、計量し、かつ緩衝ホルマリン中で保存する。肺は、腫瘍転移が頻繁な部位であるため、すべての動物の肺を詳細に調べ、転移を検査する。さらに、肺を固定し、パラフィン中に包埋し、かつ組織学的評価のために切片化する。いかなる異常にも注意する。
【0200】
評価基準:
NIKSTIMP1細胞を注入したマウスの注入部位における任意の腫瘍の存在により、これらのクローンが腫瘍形成性であることが示唆され、かつ好ましくは、さらなる開発からそれらが除外される。ヌードマウスにおいて腫瘍は公知の出現率で自然発生的に生じるため、注入部位以外の部位での腫瘍の存在は予想され、かつ必然的に試験物質の腫瘍形成能を示す。実験群における遠隔腫瘍の発生率が、陰性対照群において観察される発生率、または公表されている腫瘍出現率より有意には高くない場合、これらの結果により、試験物質が高い潜在的腫瘍形成能を示さないことが示唆される。実験群のいずれかにおける遠隔腫瘍の発生率が、対照群において観察される発生率より有意に高い場合には、試験物質は、高い潜在的腫瘍形成能を有すると判断される。
【0201】
ウイルス性の外来性病原因子の存在に関するNIKSTIMP1細胞の試験
公知の病原体および未知の病原体の存在に関しても、試料を試験する。キャンプマスターセルバンクの作製のために選択したNIKSTIMP1細胞株(Weidman Center Clinical Biomanufacturing Facility, University of Wisconsin-Madison)を、FDAに認可された試験を用いて、HPV DNA配列の存在に関してスクリーニングする。これらのNIKSTIMP1細胞は、好ましくは、危険性の高いHPV亜型の16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、および68型に由来するHPV DNAを含まない。
【0202】
FDAの手引書「Points to Consider in the Characterization of Cell Lines Used to Produce Biologicals(1993)」に概説されているように、HIV-1、HIV-2、HTLV-I、HTLV-II、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトパルボウイルスB19、SV40、HHV-6、HHV-7、逆転写酵素を有するウイルス、ウシウイルス、およびブタウイルスを含む、個々のウイルス性病原体の存在について、候補のNIKSTIMP1細胞株をスクリーニングする。さらに、FDAに承認された発育鶏卵およびマウスにおける動物試験法を実施して、NIKSTIMP1ケラチノサイトが、未確認のウイルス性外来性病原因子を含まないことを実証する。また、NIKSTIMP1を同様に試験して、ヘキスト染色およびブロス培養によって判定されるマイコプラズマ汚染が無いことを確実にする。
【0203】
上記の明細書において言及するすべての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み入れられる。記述した本発明の方法および系の様々な修正および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者には明らかになると考えられる。特定の好ましい態様に関連して本発明を記述したが、添付の特許請求の範囲の本発明は、このような特定の態様に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際、分子生物学、生化学、または関連分野の当業者には明らかである、本発明を実施するために説明した様式の様々な修正は、添付の特許請求の範囲の範囲内であると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】正常な組織修復応答と長期的な組織修復応答の比較を示す。
【図2】正常な創傷治癒の進行中のMMPおよびTIMPの発現誘導を示す。
【図3】K14プロモーターまたはインボルクリンプロモーターのいずれかを用いた、TIMP-1発現構築物の設計を示す。
【図4】一過性トランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの逆転写PCRを示す。
【図5】単層培養におけるNIKSケラチノサイトの遊走を示す。
【図6】安定なクローンにおける、経時的なVEGFタンパク質発現を示す。
【図7】NIKSVEGF細胞に由来する馴化培地がHMVEC細胞の増殖を刺激することを示す。
【図8】TIMP-1の核酸配列(SEQ ID NO:1)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)を示す。
【図9】SLPIの核酸配列(SEQ ID NO:3)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)を示す。
【図10】TIMP-1発現構築物の設計を示す。
【図11】安定なNIKSTIMP1ケラチノサイトの逆転写PCRを示す。
【図12】外因的に発現されたTIMP-1は、HA抗体を用いて検出できることを示す。
【図13】大多数のNIKSTIMP1クローンの増殖特性はNIKS細胞に匹敵していることを示す。
【図14】非トランスフェクションNIKS細胞と比べた、NIKSTIMP1クローン馴化培地のプロテアーゼ活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種プロテイナーゼインヒビターを発現する宿主細胞を含む組成物であって、該宿主細胞が、初代ケラチノサイト、ケラチノサイト前駆体、分化転換ケラチノサイト、および不死化ケラチノサイトからなる群より選択される組成物。
【請求項2】
前記プロテイナーゼインヒビターがメタロプロテイナーゼインヒビターである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記メタロプロテイナーゼインヒビターがTIMP-1である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
第2の異種ポリペプチドを発現する第2の宿主細胞をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記宿主細胞が、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記TIMP-1が全長TIMP-1である、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
前記異種プロテイナーゼインヒビターをコードする遺伝子が、前記宿主細胞におけるプロテイナーゼインヒビターの発現を可能にするプロモーター配列に機能的に連結されている、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記プロモーター配列が、K14プロモーター、インボルクリンプロモーター、およびユビキチンプロモーターからなる群より選択される、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
請求項1記載の宿主細胞を含む、ヒト組織。
【請求項10】
ヒト皮膚同等物である、請求項9記載のヒト組織。
【請求項11】
以下の段階を含む、異種プロテイナーゼインヒビターを発現する細胞を提供するための方法:
a)初代ケラチノサイト、ケラチノサイト前駆体、分化転換ケラチノサイト、および不死化ケラチノサイトからなる群より選択される宿主細胞、ならびに、調節配列に機能的に連結されたプロテイナーゼインヒビターをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;
b)該宿主細胞に該発現ベクターを導入する段階;
c)該プロテイナーゼインヒビターが発現されるような条件下で該宿主細胞を培養する段階。
【請求項12】
前記プロテイナーゼインヒビターがTIMP-1である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記宿主細胞が、層形成して扁平上皮になることができる、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記宿主細胞を患者由来の細胞と共培養する段階をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記不死化ケラチノサイトがNIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、創傷を治療する方法:
a)異種プロテイナーゼインヒビターを発現する、初代ケラチノサイト、ケラチノサイト前駆体、分化転換ケラチノサイト、および不死化ケラチノサイトからなる群より選択される宿主細胞、ならびに、創傷を有する被験体を提供する段階;
b)該創傷を、異種プロテイナーゼインヒビターを発現する該宿主細胞に接触させる段階。
【請求項17】
前記プロテイナーゼインヒビターがメタロプロテイナーゼインヒビターである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記メタロプロテイナーゼインヒビターがTIMP-1である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記接触させる段階が、局所適用、移植、および創傷被覆材からなる群より選択される技術を含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記創傷が、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、熱傷、潰瘍性大腸炎、粘膜損傷、内傷、外傷を含む群より選択される、請求項16記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2008−531712(P2008−531712A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558185(P2007−558185)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/007298
【国際公開番号】WO2006/094070
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(507295048)ストラタテック コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】