説明

外壁構造

【課題】制振機能を備えつつ美観に優れた外壁を実現することが可能な外壁構造を提供する。
【解決手段】建物の躯体に取り付けられた複数の外壁下地材と、前記外壁下地材のうちの互いに隣接する前記外壁下地材間に跨って設けられた外装材と、を有し、前記躯体と前記外壁下地材との間、及び、前記外壁下地材と前記外装材との間に、それぞれ粘弾性部材が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス等の非構造部材の板材を、柱や梁等との間に粘弾性体を介在させて固定することにより制振機能を備えた外壁構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、外壁の下地材として例えば定尺のALC板やECP板(押出成形セメント板)等が板材として用いられることがある。
【特許文献1】特開2002−309798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ALC板やECP板等を外壁の下地材として用いる場合には、下地材の表面にタイルなどの外装材が設けられることがある。ところで、外壁の下地材を柱や梁等の間に粘弾性体を介在させて固定し制振機能を備えた建物に、地震・風等により振動が入力された場合には、互いに隣接する下地材同士の相対変位が粘弾性体により抑制される。しかしながら、相対変位が抑制されたとしても、異なる下地材間に外装材を跨らせて直接設けると、外装材が破損したり剥がれる畏れがある。また、定尺のALC板やECP板等は壁面に対し比較的小さいため、ALC板やECP板からはみ出さないように外装材を備えると、切断されてサイズの異なる外装材が発生したり、下地材同士のつなぎ目(目地)が壁面に多く露出して美観が損なわれる畏れがあるという課題があった。
【0004】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、制振機能を備えつつ美観に優れた外壁を実現することが可能な外壁構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、本発明の外壁構造は、建物の躯体に取り付けられた複数の外壁下地材と、前記外壁下地材のうちの互いに隣接する前記外壁下地材間に跨って設けられた外装材と、を有し、前記躯体と前記外壁下地材との間、または、前記外壁下地材と前記外装材との間に粘弾性部材が備えられていることを特徴とする。
【0006】
このような外壁構造によれば、建物の躯体と外壁下地材との間に粘弾性部材が備えられている場合には、地震・風等により建物に入力された振動エネルギーを粘弾性部材の粘性により吸収させることが可能である。また、互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けられた外装材と外壁下地材との間に粘弾性部材が備えられている場合には、互いに隣接する外壁下地材同士の、地震・風等による相対変位を粘弾性部材により抑制するとともに振動エネルギーを吸収させることが可能である。このとき、外壁材が跨って設けられている、互いに隣接する外壁下地材の相対変位が小さく抑えられることにより、外壁下地材と外装材との相対変位も抑えられるので、互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けられた外装材が剥がれたりひび割れたりすることを防止することが可能である。このように、外装材を互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けることにより、外壁下地材のつなぎ目部分であっても繋がった外壁を形成することが可能であり、美観に優れた外壁を実現するとともに制振機能を向上させることが可能である。
【0007】
かかる外壁構造であって、前記粘弾性部材は、前記躯体と前記外壁下地材との間、及び、前記外壁下地材と前記外装材との間に、それぞれ備えられていることが望ましい。
このような外壁構造によれば、建物の躯体と外壁下地材との間、及び、互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けられた外装材と外壁下地材との間に粘弾性部材が備えられているので、建物の躯体と外壁下地材との間に備えられた粘弾性部材の粘性により地震・風等により建物に入力された振動エネルギーを吸収させ、互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けられた外装材と外壁下地材との間に備えられた粘弾性部材により、互いに隣接する外壁下地材同士の、地震・風等による相対変位を抑制するとともに振動エネルギーを吸収させることが可能である。また、外壁材が跨って設けられている、互いに隣接する外壁下地材の相対変位が小さく抑えられることにより、外壁下地材と外装材との相対変位も抑えられるので、互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けられた外装材が剥がれたりひび割れたりすることを防止することが可能である。このように、外装材を互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けることにより、外壁下地材のつなぎ目部分であっても繋がった外壁を形成することが可能であり、より美観に優れた外壁を実現するとともに制振機能を向上させることが可能である。
【0008】
かかる外壁構造であって、前記外壁下地材と前記外装材との間に介在された前記粘弾性部材は、前記外壁下地材及び前記外装材に直接当接されていることが望ましい。
このような外壁構造によれば、外壁下地材及び外装材が粘弾性部材に直接当接されているので、粘弾性部材により振動エネルギーを吸収させるとともに互いに隣接する外壁下地材の相対変位が抑制され、外装材の剥がれや破損等をより効果的に抑えることが可能である。
【0009】
かかる外壁構造であって、互いに隣接する前記外壁下地材間に前記粘弾性部材が備えられていることが望ましい。
このような外壁構造によれば、互いに隣接する外壁下地材間に備えられた粘弾性部材によっても、振動エネルギーを吸収させ、かつ隣接する外壁下地材間の相対変位を抑えることが可能である。
【0010】
かかる外壁構造であって、前記粘弾性部材が互いに隣接する前記外壁下地材を跨いで備えられていることが望ましい。
このような外壁構造によれば、互いに隣接する前記外壁下地材を跨いで粘弾性部材が備えられているので、互いに隣接する外壁下地材同士の、地震・風等による相対変位を抑制するとともに振動エネルギーを吸収させることが可能である。互いに隣接する外壁下地材の相対変位が小さく抑えられることにより、互いに隣接する外壁下地材間に跨って設けられた外装材が剥がれたりひび割れたりすることを防止することが可能である。
【0011】
かかる外壁構造であって、前記外装材は、前記外壁下地材の外面側に突出する複数の突出部が形成されるように塗布された前記粘弾性部材に押圧されて備えられることが望ましい。
このような外壁構造によれば、外壁下地材の外面側に複数の突出部が形成されるように塗布された粘弾性部材に外装材が押圧されるので、外装材の外壁下地材と対向する側の面が凹凸を有する場合であっても、外装材を粘弾性部材に押圧させることにより外装材の凹部に粘弾性材を入り込ませ外装材と粘弾性部材とを密着させることが可能である。
【0012】
かかる外壁構造であって、前記複数の突出部のうちの互いに隣接する突出部間は、前記外装材が押圧される側の間隔が前記外壁下地材の表面側の間隔より広いことが望ましく、のこぎり状の形状がさらに好ましい。
このような外壁構造によれば、外装材が押圧される側の間隔が外壁下地材の表面側の間隔より広く突出部が形成されているので、外装材を押圧すると、外装材の凹凸部に粘弾性部材が入り込み易いため、外装材と粘弾性部材とをより密着させることが可能である。
【0013】
かかる外壁構造であって、前記外壁下地材と前記外装材との間に備えられる前記粘弾性部材は、粘弾性を有するシート状の部材であることが望ましい。
このような外壁構造によれば、互いに隣接する外壁下地材間にはシート状の粘弾性部材が備えられているので、シート状の粘弾性部材により互いに隣接する外壁下地材の相対変位を抑制するとともに振動エネルギーを吸収させることが可能である。
【0014】
かかる外壁構造であって、前記粘弾性部材は、粘弾性を有する接着剤であることが望ましい。
このような外壁構造によれば、粘弾性部材の他に接着剤を用いることなく、互いに隣接する外壁下地材間に跨らせて外装材を直接接着することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制振機能を備えつつ美観に優れた外壁を実現することが可能な外壁構造を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態としての建物の外壁構造について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る外壁構造を示す縦断面図である。
本発明の建物の外壁構造は、例えば鉄骨により躯体が構成された鉄骨構造の建物の外壁構造である。
本実施形態では、外壁下地材としてALCパネル10を用い、ALCパネル10の表面に外装材としてタイル20を設けた外壁構造について説明する。
【0018】
図1に示すように、鉄骨構造の建物の躯体を構成するH型鋼の鉄骨梁3に、取付金具30を介してALCパネル10が取り付けられている。鉄骨梁3は、各階床の床スラブ5が各々載置される位置に配置されており、上下に隣接する鉄骨梁3間に各階の空間が形成される。
ALCパネル10は、例えば、幅が約600mm、長さが約2500mmの大きさを有し、上下に隣接する各鉄骨梁3間には複数のALCパネル10が並べて配置される。
【0019】
取付金具30は、H型鋼でなる鉄骨梁3の上側フランジ3aの上面に溶接された断面L字状の定規アングル31と、鉄骨梁3上に設けられた床スラブ5にて形成される階の外壁1を構成するALCパネル10が載置される受けプレート32と、定規アングル31に溶接されて上方に向かって立設された上取付プレート33と、定規アングル31に溶接されて下方に向かって垂設された下取付プレート34と、を有している。ここで、定規アングル31は、鉄骨梁3に沿って左右方向にALCパネル10の幅より長く形成され、複数のALCパネル10に亘るように設けられており、受けプレート32、上取付プレート33、下取付プレート34は、ALCパネル10の取り付け位置に間隔を隔てて設けられている。
【0020】
具体的には、定規アングル31のL字状に形成された2枚の板部31a、31bのうちの一方の板部31a(以下、水平板部という)が、鉄骨梁3の上側フランジ3aの上面に溶接されている。このとき、定規アングル31の他方の板部31b(以下、鉛直板部という)は、上側フランジ3aの端部より外壁1側に配置されると共に、上方に向かって立設されている。
【0021】
鉛直板部31bにおける外壁1側の面には、ほぼ半分より上側に受けプレート32が、また、下側に下取付プレート34がそれぞれ溶接されている。受けプレート32は、L字状に曲げられた板材であり、定規アングル31における鉛直板部31bの外壁1側の面に当接されて溶接されている当接部32aと、定規アングル31の鉛直板部31bの上下方向におけるほぼ中央から水平方向に外方に向かって延出された受け部32bとを有している。
【0022】
下取付プレート34は、平板状の部材であり、上部側が定規アングル31の鉛直板部31bにおける外壁1側の面に当接されて溶接され、定規アングル31より下方に垂下された部位には、下側のALCパネル10を固定するためのセットボルト40が貫通される固定孔(不図示)が設けられている。
【0023】
また、定規アングル31における鉛直板部31bの躯体側の面には、上取付プレート33の下部が溶接されている。上取付プレート33の上部側は、定規アングル31の鉛直板部31b及び受けプレート32の当接部32aより上方に延出されるとともに、外壁1側の面が下部より定規アングル31の鉛直板部31b及び受けプレート32の当接部32aの板厚分だけ外壁1側に位置するように折り曲げられている。
【0024】
そして、上取付プレート33の上部側には、上側のALCパネル10を固定するためのセットボルト40が貫通される固定孔(不図示)が設けられている。このように定規アングル31、受けプレート32、上取付プレート33、下取付プレート34が溶接された取付金具30は、鉄骨梁3に溶接された状態で、受けプレート32の当接部32aの外壁1側の面、上取付プレート33の上部における外壁1側の面、下取付プレート34の外壁1側の面が、いずれも同一の平面を成すように固定されている。
【0025】
ALCパネル10は、受けプレート32の受け部32b上に下端が載置された状態で、下取付プレート34及び上取付プレート33の固定孔を貫通されたセットボルト40が螺合される固定部(不図示)が設けられている。そして、ALCパネル10は、受けプレート32の当接部32aの外壁側の面、上取付プレート33の上部における外壁側の面、及び下取付プレート34の外壁側の面との間に粘弾性部材50が介在されてセットボルト40にて取り付けられている。ここで、粘弾性部材50とは、例えば、Scotchdamp(登録商標:住友スリーエム(株)製 VEM)等を示している。
【0026】
上下方向に隣接されたALCパネル10間は、僅かに間隔を隔てて配置され、それらの間には受けプレート32の受け部32bが挿入されるとともに粘弾性部材が充填されており、ALCパネル10の外方側にバックアップ材44とシーリング材45とが充填されている。
【0027】
図2は、本実施形態に係る外壁構造を示す横断面図である。
各ALCパネル10の左右方向における一方の側面部には、厚さ方向におけるほぼ中央に、ALCパネル10の内方に向かって凹設された溝部10aが上下方向の全長に亘って設けられ、他方の側面部には、厚さ方向におけるほぼ中央に、ALCパネル10の左右方向における外方に向かって突出された突部10bが上下方向の全長に亘って設けられている。そして、図2に示すように左右方向に隣接するALCパネル10間は、左側に位置するALCパネル10の右側面部に設けられた溝部10aに、右側に位置するALCパネル10の左側面部に設けられた突部10bが入り込むと共に、左右のALCパネル10間に粘弾性部材50が介在されている。また、左右のALCパネル10間に介在された粘弾性部材50は、各ALCパネル10における躯体側の面にも繋がっており、左右に隣接するALCパネル10間に跨るように上下方向に沿って設けられている。
【0028】
一方、各ALCパネル10における外壁1側の面には、全面に粘弾性部材としての粘弾性を有する接着剤52が塗布されており、外装材としてのタイル20が貼り付けられている。
【0029】
図3(a)は、ALCパネルにタイルが貼り付けられた状態を示す横断面図である。図3(b)は、タイルを貼り付けるためにALCパネルに塗布された粘弾性を有する接着剤を示す概念図である。
【0030】
タイル20のALCパネル10側の面には、図3(a)に示すように所定方向に沿って複数の溝部20aが形成されている。図1及び図2の場合には、溝部20aは、タイル20が貼り付けられた際に上下方向に沿うように形成されている。このため、タイル20をALCパネル10に貼り付ける際には、櫛状に形成された鏝等を用いて図3(b)に示すように上下方向に沿って連なり、ALCパネル10から建物の外側に向かう方向に突出する複数の突出部52aが形成されるように粘弾性を有する接着剤52を塗布する。このとき、塗布される接着剤52は、形成された複数の突出部52aのうちの互いに隣接する突出部52a間において、タイル20が押圧される側の間隔X2がALCパネル10側の間隔X1より広くなるように塗布される。そして、タイル20を接着剤52に押圧してALCパネル10に貼り付ける。
【0031】
一般に接着剤を塗布する場合、塗布量を一定にするために、凹凸のあるくし目ゴテでほぼ矩形状の突部が形成されるように塗られるが、裏面に凹凸があるタイル等を貼り付けた場合、タイル裏面の凹部に接着剤が充填されない畏れがあった。しかし、図3(b)に示すように先端側が狭くなるような突出部52aが形成されるように接着剤52を塗布しておけば、タイル裏面の凹部に接着剤が入り込みやすい。さらに、突出部52aの先端及び凹部の平坦な部分が狭くなるような、のこぎり状の形状に接着剤52を塗布しておけば、接着剤の突出部52aがつぶれやすく、つぶれた接着剤52がタイル20裏面の凹部にも接触しやすい。
【0032】
また、粘弾性を有する接着剤52は隣接するALCパネル10間も繋がって塗布されているので、タイル20は隣接するALCパネル10間に跨って貼り付けられる。また、各ALCパネル10の躯体側の面においても、左右方向に隣接するALCパネル10間に跨るように粘弾性部材50が設けられている。
【0033】
このような、外壁構造によれば、鉄骨梁3とALCパネル10との間に粘弾性部材50が備えられているので、地震・風等により建物に入力される振動エネルギーを粘弾性部材50の粘性により吸収させることが可能である。
【0034】
また、外装材としてのタイル20を互いに隣接するALCパネル10間に跨がらせて粘弾性を有する接着剤52で接着したので、互いに隣接するALCパネル10同士の、地震・風等による相対変位を接着剤52により抑制しつつ振動エネルギーを吸収させることが可能である。
【0035】
また、ALCパネル10とタイル20との間に粘弾性を有する接着剤52が設けられて、ALCパネル10とタイル20との相対変位が抑えられることにより、ALCパネル10間の相対変位を接着剤の粘弾性により吸収することが可能となる。このため、互いに隣接するALCパネル10間に跨ってタイル20が設けられたとしても、タイル20が剥がれたりひび割れたりすることを防止することが可能である。このように、タイル20を互いに隣接するALCパネル10間に跨って設けることにより、ALCパネル10のつなぎ目部分が繋がった外壁1を形成することが可能であり、美観に優れた外壁1を実現することが可能である。
【0036】
また、ALCパネル10が粘弾性部材50に、タイル20が粘弾性を有する接着剤52に、それぞれ直接当接されているので、互いに隣接するALCパネル10の相対変位を粘弾性部材50及び接着剤52にて抑え、かつ振動エネルギーを吸収させるとともに、タイル20の剥がれや破損等をより効果的に抑えることが可能である。このときタイル20は、ALCパネル10の外面側に複数の突出部52aが形成されるように塗布された接着剤52に押圧されるので、タイル20のALCパネル10と対向する側の面に形成された溝部20a内に接着剤52が入り込みやすいため、タイル20を接着剤52に押圧させることによりタイル20と接着剤52とを密着させることが可能である。特に、接着剤52の突出部52aは、隣接する突出部52a間が、タイル20が押圧される側の間隔X2がALCパネル10側の間隔X1より広く形成されているので、タイル20を押圧すると、タイル20の溝部20aに粘弾性を有する接着剤52がより入り込み易いため、タイル20と接着剤52とをより密着させることが可能である。
【0037】
さらに、互いに隣接するALCパネル10の側部間にも粘弾性部材50が備えられているので、互いに隣接するALCパネル10の側部間に備えられた粘弾性部材50によっても、隣接するALCパネル10間の相対変位をより抑えることが可能であり、かつ振動エネルギーをより吸収させることが可能である。
【0038】
本実施形態においては、外壁1の下地材であるALCパネル10の全面に粘弾性を有する接着剤52を塗布した例について説明したが、隣接するALCパネル10の周縁部にはALCパネル10間に跨るように粘弾性部材50を設け、ALCパネル10の平面のうち周縁部以外の部位とタイル20とが対面する部位には周知の接着剤を塗布し、粘弾性部材50と接着剤とに押圧させてタイル20を貼り付けても良い。
【0039】
上記実施形態においては、外壁下地材としてALCパネル10を用いる例について説明したが、外壁下地材は、ALCパネル10に限らず例えば押出成形セメント板であっても良い。図4は、外壁下地材として押出成形セメント板を用いた例を示す縦断面図である。図5は、外壁下地材として押出成形セメント板を用いた例を示す横断面図である。以下の説明においては、上記実施形態と同様の部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0040】
本実施形態の押出成形セメント板12は、躯体に取り付けられた際に鉛直方向に沿って貫通する複数の開口12aが左右方向に一列に形成されている。
図4に示すように、押出成形セメント板12を用いる場合には、上下に隣接する2枚の押出成形セメント板12が、2枚の押出成形セメント板12の境界部近傍に設けられた鉄骨梁3を用いて固定されている。上下に隣接する2枚の押出成形セメント板12のうちの下側の押出成形セメント板12の上部が、鉄骨梁3の下側フランジ3bに溶接された下取付金具60にセットボルト40にて固定され、上側の押出成形セメント板12の下部が、鉄骨梁3の上側フランジ3aに設けられた上取付金具65に係合されて、押出成形セメント板12が固定されている。
【0041】
具体的には、下取付金具60は、鉄骨梁3の下フランジ3bの下面に溶接された、断面L字状の下固定プレート61と、下固定プレート61に溶接されて下側の押出成形セメント板12を固定するためのセットボルト40が貫通する穴(不図示)を備えた保持プレート62とを有している。下固定プレート61は、L字状に形成された2枚の板部のうちの水平面を形成する下水平板部61aが、鉄骨梁3の下側フランジ3bの下面に溶接されている。このとき、下固定プレート61の鉛直面を形成する下鉛直板部61bは、下側フランジ3bの端部より外壁1側に位置されると共に、下方に向かって垂設されている。
【0042】
上取付金具65は、鉄骨梁3の上フランジ3aの上面に溶接された、断面L字状の上固定プレート66と、上固定プレート66に溶接されて上側の押出成形セメント板12が載置される載置プレート67とを有している。上固定プレート66は、L字状に形成された2枚の板部のうちの水平面を形成する上水平板部66aが、鉄骨梁3の上側フランジ3aの上面に溶接されている。このとき、上固定プレート66の鉛直面を形成する上鉛直板部66bは、上側フランジ3aの端部より外壁1側に位置されると共に、上方に向かって立設されている。ここで、載置プレート67は、鉄骨梁3に沿って左右方向に押出成形セメント板12の幅より長く形成されて、複数枚の押出成形セメント板12に亘るように設けられており、上固定プレート66は押出成形セメント板12の取り付け位置に互いに間隔を隔てて設けられている。
【0043】
載置プレート67は、鉛直方向に沿うように配置されて上固定プレート66の上鉛直板部66bと対面する状態で溶接される対面鉛直板部67aと、対面鉛直板部67aの下端から外壁1方向に向かって突出され、押出成形セメント板12が載置される載置水平板部67bとを有している。
【0044】
また、押出成形セメント板12の下部には、係合プレート68が粘弾性部材50を介してセットボルト40にて固定されている。係合プレート68は、押出形成セメント板12が躯体に取り付けられた際に、固定されている部位から下方に延出されているとともに、延出された部位が載置プレート67における対面鉛直板部67aの躯体側の面より躯体側に位置して、対面鉛直板部67aの躯体側の面と対面するように折り曲げられている。
【0045】
押出成形セメント板12は、上下方向に隣接する2本の鉄骨梁3に取り付けられる。押出成型セメント板12は、載置プレート67の載置水平板部67b上に下端が載置されるとともに、下側の鉄骨梁3の上側フランジ3aに固定された載置プレート67の躯体側に係合プレート68が差し込まれる。このとき、係合プレート68の延出された部位の外側の面と載置プレート67における対面鉛直板部67aの躯体側の面との間に粘弾性部材50が介在される。
【0046】
押出成形セメント板12の上部側には、上側の鉄骨梁3の下側フランジ3bに固定されている保持プレート62に設けられた穴を貫通されたセットボルト40が螺合されている。そして、押出成形セメント板12と保持プレート62との間に粘弾性部材50が介在されてセットボルト40が押出成形セメント板12内に設けられたプレートナット41に螺合されて押出成形セメント板12が固定されている。
【0047】
上下方向に隣接された押出成形セメント板12間は、僅かに間隔を隔てて配置され、それらの間には載置プレート67の載置水平板部67bが挿入されており、押出成形セメント板12の外方側にバックアップ材44とシーリング材45とが充填されている。また、図4に示す例では、床スラブ5の下面から押出成形セメント板12の躯体側の面に、鉄骨梁3及び押出成形セメント板12の取り付け部分を覆うように耐火被覆46が設けられている。
【0048】
図5は、押出成形セメント板を用いた外壁構造を示す横断面図である。
各押出成形セメント板12にも、上述したALCパネル10と同様に、左右方向における一方の側面部には、厚さ方向におけるほぼ中央に、押出成形セメント板12の内方に向かって凹設された溝部12bが上下方向の全長に亘って設けられ、他方の側面部には、厚さ方向におけるほぼ中央に、押出成形セメント板12の左右方向における外方に向かって突設された突部12cが上下方向の全長に亘って設けられている。
【0049】
そして、図5に示すように左右方向に隣接する押出成形セメント板12間は、右側に位置する押出成形セメント板12の左側面部に設けられた溝部12bに、左側に位置する押出成形セメント板12の右側面部に設けられた突部12cが入り込むと共に、左右の押出成形セメント板12間に粘弾性部材50が介在されている。また、各押出成形セメント板12の躯体側の面においても、左右方向に隣接する押出成形セメント板12間に跨るように粘弾性部材50が設けられている。
【0050】
押出成形セメント板12における建物の外側の面には、粘弾性を有する接着剤52を介して複数の外装材としてのタイル20が全面に貼り付けられている。押出成形セメント板12に貼り付けられるタイル20も、ALCパネル10を用いた外壁1の場合と同様に、押出成形セメント板12の接着される面に上下方向に沿って連なる突出部52aが形成されるように粘弾性を有する接着剤52が塗布される。そして、タイル20を接着剤52に押圧して押出成形セメント板12に貼り付ける。
【0051】
一般に接着剤を塗布する場合、塗布量を一定にするために、凹凸のあるくし目ゴテでほぼ矩形状の突部が形成されるように塗られるが、裏面に凹凸があるタイル等を貼り付けた場合、タイル裏面の凹部に接着剤が充填されない畏れがあった。しかし、図3(b)に示すように先端側が狭くなるような突出部52aが形成されるように接着剤52を塗布しておけば、タイル裏面の凹部に接着剤が入り込みやすい。さらに、突出部52aの先端及び凹部の平坦な部分が小さくなるような、のこぎり状の形状に接着剤52を塗布しておけば、接着剤突出部52aがつぶれやすく、つぶれた接着剤52がタイル20裏面の凹部にも接触しやすい。
【0052】
また、粘弾性を有する接着剤52は、隣接する押出成形セメント板12間も繋がって塗布されているので、タイル20は隣接する押出成形セメント板12間に跨って貼り付けられる。
【0053】
本実施形態においては、外装材をタイル20としたがこれに限るものではない。図6は、外装材として大型の仕上げ材を用いた外壁構造の一例を示す図である。図7は、外装材として塗壁材料を用いた外壁構造の一例を示す図である。以下の説明においては、外壁下地材としてALCパネル10を用いた例について説明し、ALCパネル10の取り付け等については、上述した実施形態と同じであり、外装材の取り付け方法が異なる。
【0054】
外装材として大型の仕上げ材22を用いた場合には、図6に示すように、上下左右に隣接するALCパネル10間に跨るように粘弾性部材50を備えておく。そして、ALCパネル10と大型の仕上げ材22とが対面する部位であって、粘弾性部材50が設けられていない部位に接着剤54を塗布して大型の仕上げ材22を接着する。
【0055】
このように、上下左右に隣接するALCパネル10間に跨るように粘弾性部材50を備えることにより、地震・風等により建物に入力された振動エネルギーを粘弾性部材50により抑制させると共に、互いに隣接するALCパネル10間の相対変位量を小さく抑えることが可能である。このため、ALCパネル10に跨って設けられた大型の仕上げ材22とALCパネル10との相対変位が抑えられることにより、互いに隣接するALCパネル10間に跨って大型の仕上げ材22を設けたとしても大型の仕上げ材22が剥がれたりひび割れたりすることを防止することが可能である。本実施形態においては、外装材を大型の仕上げ材22としたがこれに限るものではない。
【0056】
外装材として塗壁材料24を用いた場合には、図7に示すように、上下左右に隣接するALCパネル10間に亘ってシート状の粘弾性部材56を備え、シート状の粘弾性部材56上に塗壁材料24を塗布して外壁1を完成させる。
【0057】
このように上下左右に隣接するALCパネル10上に備えられたシート状の粘弾性部材56の上に塗壁材料24を塗布することによっても、地震・風等による振動エネルギーを吸収させ、かつ、塗壁材料24にて形成された壁面が剥がれたりひび割れたりすることを防止することが可能である。本実施形態においては、外装材を塗壁材料24としたがこれに限るものではない。
【0058】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係る外壁構造を示す縦断面図である。
【図2】本実施形態に係る外壁構造を示す横断面図である。
【図3】図3(a)は、ALCパネルにタイルが貼り付けられた状態を示す横断面図である。図3(b)は、タイルを貼り付けるためにALCパネルに塗布された粘弾性の接着剤を示す概念図である。
【図4】外壁下地材として押出成形セメント板を用いた例を示す縦断面図である。
【図5】外壁下地材として押出成形セメント板を用いた例を示す横断面図である。
【図6】外装材として大型の仕上げ材を用いた外壁構造の一例を示す図である。
【図7】外装材として塗壁材料を用いた外壁構造の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 外壁、3 鉄骨梁、10 ALCパネル、12 押出成形セメント板、
20 タイル、22大型の仕上げ材、24 塗壁材料、50 粘弾性部材、
52 接着剤、56 シート状の粘弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の躯体に取り付けられた複数の外壁下地材と、
前記外壁下地材のうちの互いに隣接する前記外壁下地材間に跨って設けられた外装材と、
を有し、
前記躯体と前記外壁下地材との間、または、前記外壁下地材と前記外装材との間に粘弾性部材が備えられていることを特徴とする外壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の外壁構造であって、
前記粘弾性部材は、前記躯体と前記外壁下地材との間、及び、前記外壁下地材と前記外装材との間に、それぞれ備えられていることを特徴とする外壁構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の外壁構造であって、
前記外壁下地材と前記外装材との間に介在された前記粘弾性部材は、前記外壁下地材及び前記外装材に直接当接されていることを特徴とする外壁構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の外壁構造であって、
互いに隣接する前記外壁下地材間に前記粘弾性部材が備えられていることを特徴とする外壁構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の外壁構造であって、
前記粘弾性部材が互いに隣接する前記外壁下地材を跨いで備えられていることを特徴とする外壁構造。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の外壁構造であって、
前記外装材は、前記外壁下地材の外面側に突出する複数の突出部が形成されるように塗布された前記粘弾性部材に押圧されて備えられることを特徴とする外壁構造。
【請求項7】
請求項6に記載の外壁構造であって、
前記複数の突出部のうちの互いに隣接する突出部間は、前記外装材が押圧される側の間隔が前記外壁下地材の表面側の間隔より広いことを特徴とする外壁構造。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の外壁構造であって、
前記外壁下地材と前記外装材との間に備えられる前記粘弾性部材は、粘弾性を有するシート状の部材であることを特徴とする外壁構造。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の外壁構造であって、
前記粘弾性部材は、粘弾性を有する接着剤であることを特徴とする外壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−75363(P2008−75363A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256881(P2006−256881)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】