説明

外用貼付剤

【課題】 ロキソプロフェンナトリウムと有機酸との反応により生じる分解生成物の生成を抑制し、高い主薬の安定性を備えた、ロキソプロフェンナトリウム含有外用貼付剤を提供すること。
【解決手段】 ロキソプロフェンナトリウムと、有機酸、およびアルミニウムグリシネートを含有することを特徴とする外用貼付剤であり、特に有機酸が乳酸であり、アルミニウムグリシネートの配合量が、0.001〜5重量%であるロキソプロフェンの安定性を図った外用貼付剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェンナトリウムと有機酸、およびアルミニウムグリシネートを含有した貼付剤に関し、さらに詳しくはロキソプロフェンナトリウムと、主薬溶解剤としての有機酸と、ロキソプロフェンナトリウムの安定化剤としてのアルミニウムグリシネートを配合してなる外用貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ロキソプロフェンナトリウムはフェニルプロピオン酸系の非ステロイド消炎鎮痛剤として優れた消炎・鎮痛効果を示す薬物であり、従来から、水性貼付剤、油性貼付剤を問わず、貼付剤としての製剤化が検討されてきており、すでにパップ剤(販売名:ロキソニンパップ)、およびプラスター剤(販売名:ロキソニンテープ)が市販されている。
【0003】
ロキソプロフェンナトリウムなどの非ステロイド系消炎鎮痛薬を、油性貼付剤に配合する場合には、油性基剤中にロキソプロフェンナトリウムを安定的に溶解するために、従来から各種溶解剤の配合が検討されてきている。例えば、特許文献1には、溶解剤としてクロタミトンを配合したプラスター剤が記載されている。また、特許文献2には、溶解剤としてN−メチル−2−ピロリドンをはじめとするピロリドン類を配合したプラスター剤が記載されている。さらに特許文献3には、脂肪族ヒドロキシ酸及び高級脂肪酸を配合したプラスター剤が記載されている。
【0004】
有機酸、特に常温で液体である乳酸は、ロキソプロフェンナトリウムに対する良溶媒であるが、乳酸はロキソプロフェンナトリウムと製剤中で反応して、ロキソプロフェンナトリウムの分解生成物を生じる虞があった。したがって、乳酸等の有機酸を配合した油性基剤中にロキソプロフェンナトリウムを配合する場合には、分解生成物の生成を抑制する必要があった。
【0005】
また、ロキソプロフェンナトリウムを配合した油性貼付剤について、製剤中の薬物の安定性を高める試みも、従来からなされている。例えば、特許文献4には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム等の脂肪酸金属塩を配合した外用貼付剤が記載され、脂肪酸金属塩の配合により、併用するL−メントールと薬物のエステル化反応を抑制できることが示されている。
【0006】
また他にも、炭酸金属塩を配合した外用貼付剤(特許文献5)、金属酸化物を配合した外用貼付剤(特許文献6)、および金属水酸化物を配合した外用貼付剤(特許文献7)がそれぞれ提案されているが、ここに示されている金属塩、あるいは金属化合物を配合した油性貼付剤は、併用するL−メントールとロキソプロフェンナトリウムとの間で起こるエステル化反応によって生成する分解物に対しては生成抑制効果を示すが、上記した有機酸とロキソプロフェンナトリウムとの反応により生成する分解生成物の抑制に対する効果は、十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−043512号公報
【特許文献2】特開2008−163017号公報
【特許文献3】特開2011−20997号公報
【特許文献4】国際公開WO96/08245号公報
【特許文献5】特開2010−90098号公報
【特許文献6】特開2002−226366号公報
【特許文献7】特開2005−314328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、上記の問題点を解決するものであり、有機酸とロキソプロフェナトリウムを含有した外用貼付剤において、有機酸の配合に由来するロキソプロフェナトリウムの分解生成物の生成を抑制できる、安定性の高い外用貼付剤の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、通常はパップ剤等の架橋剤として多用されている、アルミニウムグリシネートを粘着基剤中に配合することによって、有機酸とロキソプロフェンの反応により生じる分解生成物の生成を抑えることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、その基本的態様は、ロキソプロフェンナトリウムと、有機酸、およびアルミニウムグリシネートを含有することを特徴とする外用貼付剤である。
【0011】
より具体的には、前記アルミニウムグリシネートの配合量が、0.001〜5重量%である外用貼付剤であり、前記有機酸が乳酸である外用貼付剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提供する外用貼付剤は、配合するアルミニウムグリシネートの作用により、ロキソプロフェンナトリウムと有機酸との反応により生じる分解生成物の生成を抑制するものである。
したがって、本発明により、高い主薬の安定性を備えた、ロキソプロフェンナトリウム含有外用貼付剤を提供することが可能となったものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試験例の分解生成物1の定量結果を示した図である。
【図2】試験例の分解生成物2の定量結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の外用貼付剤において、製剤中へのロキソプロフェンナトリウムの配合量は、製剤化が可能である限り特に限定はないが、好ましくは製剤総重量に対して、0.1〜10重量%、より好ましくは、0.5〜6重量%の範囲で配合するのがよい。
製剤中のロキソプロフェンナトリウム含量が0.1重量%未満であると経皮吸収性が不十分であり、また、10重量%を超えると貼付剤の物性を損なうばかりか、経済的にも不利であり好ましいものではない。
【0015】
本発明に配合される有機酸は、ロキソプロフェンナトリウムの溶解剤として機能する。使用できる有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、乳酸、マレイン酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、およびグリコール酸等を挙げることができる。そのなかでも、ロキソプロフェンナトリウムの溶解性を考慮した場合、乳酸を使用するのが好ましい。
【0016】
有機酸の配合量は、主薬であるロキソプロフェンナトリウムの配合量にもよるが、0.01〜10.0重量%、好ましくは0.3〜5重量%、より好ましくは0.3〜3重量%の範囲で配合するのがよい。有機酸の配合量が0.01重量%未満であると粘着基剤にロキソプロフェンナトリウムを十分に溶解させることが不可能であり、製剤の経皮吸収性の低下、あるいは保存中の製剤における主薬の結晶析出等が起こり、逆に有機酸の配合量が10重量%を超える場合には、分解生成物の生成量の増加、皮膚刺激性の問題、あるいは製剤の物性が低下する等の問題点が生じる。
【0017】
本発明の外用貼付剤に配合されるアルミニウムグリシネートの配合量は0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%である。0.001重量%未満であると分解生成物に対して、生成抑制効果が不十分であり、逆に5重量%を超えて配合しても、それ以上の効果は見られず、逆に製剤の物性が悪化する。
【0018】
本発明の外用貼付剤の粘着基剤には、ベースポリマーのほか、粘着付与樹脂、軟化剤、その他の添加剤を配合することができる。
【0019】
本発明の外用貼付剤に使用されるベースポリマーには、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤およびシリコン系粘着剤等が使用できるが、ゴム系粘着剤を使用するのが好ましい。ゴム系粘着剤としては天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴムが挙げられるが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用するのが好ましい。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、SISと称す)の配合量は、他の成分の配合量を考慮に入れて決定されるが、通常5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%配合される。上記配合量が5重量%未満であると基剤の凝集力や保型性が低下する。他方、上記の配合量が30重量%を超えると粘着力の低下、膏体の不均一化、および製造工程における作業性の低下を招く。
【0020】
粘着付与樹脂としては、貼付剤に一般的に配合されているものであれば特に限定されず、例えばロジンエステル、及び水添ロジングリセリンエステル等のロジン系樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂等の石油系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられる。粘着付与樹脂の配合量は、製剤化が可能である限り特に限定はないが、好ましくは製剤総重量に対して、10〜50重量%の範囲で配合する。より好ましくは15〜40重量%である。製剤中の粘着付与樹脂の含量が10重量%未満であると粘着力が弱く、貼付中に剥がれるといった問題が生じ、50重量%を超えて配合した場合には、製剤の粘着力が逆に強くなりすぎ、皮膚刺激性が高くなるといった問題が生じ、好ましくない。
【0021】
本発明の外用貼付剤に使用される軟化剤とは、他の基剤成分と相溶性がよく、基剤に柔軟性を与えるものであり、ポリイソブチレン、液状ポリイソプレン、ポリブテン、ラノリン、ひまし油、アーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ラッカセイ油、プロセスオイル、エキステンダーオイル、および流動パラフィン等が挙げられ、好ましくはポリブテン、および流動パラフィンである。軟化剤はそれぞれ単独で用いられることもできるが、2種以上組み合わせて配合してもよい。軟化剤の配合量は、製剤に配合される、その他の液状成分の配合量も考慮して決定されるが、通常10〜75重量%であり、好ましくは15〜50重量%である。
【0022】
本発明の外用貼付剤の粘着剤層においては、必要に応じて、溶解剤、その他の吸収促進剤を配合することも可能である。これらの溶解剤或いは吸収促進剤には、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、およびグリセリン等の多価アルコール、N−メチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドン等のピロリドン化合物、クロタミトン、その他各種界面活性剤等が例示できる。
【0023】
また本発明の外用貼付剤には、他に影響を与えなければ、通常の外用貼付剤に用いられる各種の基剤成分が使用できる。かかる基剤成分としては特に限定されないが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子;エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ハッカ油、L−メントール等の清涼化剤、無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸等のケイ素化合物、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸等の酸化防止剤;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化チタン、シリカ類、酸化マグネシウム、酸化鉄、ステアリン酸亜鉛等の無機充填剤等が挙げられる。更に必要に応じて防腐剤、殺菌剤、着香剤、着色剤等を添加することができる。
【0024】
外用貼付剤の支持体としては、フィルム、不織布、編布、および不織布とフィルムのラミネート複合体等が挙げられる。これらの支持体の材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、レーヨン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0025】
外用貼付剤に使用される剥離ライナーはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、紙等を用いることができ、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。剥離ライナーは剥離力を至適にするため必要に応じてシリコン処理を施してもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例]
SIS(クインタック3570C;日本ゼオン)、脂環族飽和炭化水素樹脂(アルコンP−100;荒川化学工業)、ポリブテン(HV−300F;JX日鉱日石エネルギー)、流動パラフィン(ハイコールM−352;カネダ)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)の各成分を窒素雰囲気下、加熱攪拌して溶解した。次いで、主薬であるロキソプロフェンナトリウム、L−メントール、乳酸、アルミニウムグリシネートを前記粘着剤中に添加し、さらに撹拌混合し、粘着剤を調製した。
調製された粘着剤を、シリコン処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、厚さ約150μmの粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に支持体としてのポリエステル製織布にラミネートし、本発明の外用貼付剤を得た。各成分の配合量は下記表1に示した。
【0028】
[比較例1〜2]
下記表1に示す組成により、実施例と同様の製法に従い、比較例1〜2の各外用貼付剤を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
単位:重量%
【0031】
試験例:安定性試験(分解生成物の定量試験)
上記で得た実施例と比較例1〜2の製剤について、60℃の保存温度条件下で保存し、0、1、および3ヶ月の各保存期間における保存試料(製剤)中の分解生成物量(生成量%)を測定した。
試料の調製法及びHPLC測定条件を下記に示す。
なお、有機酸由来の分解生成物として、下記に示すHPLC測定条件において、ロキソプロフェンナトリウムの保持時間を1としたときの、相対保持時間1.55〜1.60に検出される分解生成物(以下、分解生成物1と称す)、および相対保持時間1.65〜1.70に検出される分解生成物(以下、分解生成物2と称す)について、その生成量を測定した。
分解生成物1の定量結果を図1に、分解生成物2の定量結果を図2にそれぞれ示す。
【0032】
[試料の調製法]
各製剤を5×7cmサイズに打ち抜き、テトラヒドロフラン(以下、THFと称す)を添加し、超音波抽出及び振とう機による抽出を行った。得られた抽出液をTHFで100mLとし、抽出液とした。この抽出液3mLをとり、40%アセトニトリルを用いて50mLにメスアップし、メンブランフィルター(0.45μm)を用い、ろ過を行ない、得られた液を供試試料とした。
【0033】
[HPLC測定条件]
カラム:Unison UK−C18(3×150mm)
移動相:アセトニトリル:水:リン酸=400:600:1
流速 :0.5mL/分
波長 :223nm
注入量:10μL
【0034】
図1および図2に示した結果から明らかなように、各比較例では経時的に有機酸由来の分解生成物の生成量が飛躍的に増加しているのに対し、本発明実施例の製剤においては分解生成物の生成が大きく抑制されている。
【0035】
[具体的製剤例1〜9]
以下に、上記の実施例に示した本発明の外用貼付剤以外の具体的製剤例1〜9を、下記表2および表3に示した。なお単位は重量%である。
但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0038】
以上記載のように、本発明が提供する外用貼付剤は、配合するアルミニウムグリシネートの作用により、ロキソプロフェンナトリウムと有機酸との反応により生じる分解生成物の生成を抑制するものであり、高い主薬の安定性を備えた、ロキソプロフェンナトリウム含有外用貼付剤を提供される。
本発明が提供する外用貼付剤は、例えば、変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛などの予防、治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキソプロフェンナトリウムと、有機酸、およびアルミニウムグリシネートを含有することを特徴とする外用貼付剤。
【請求項2】
前記アルミニウムグリシネートの配合量が、0.001〜5重量%である請求項1に記載の外用貼付剤。
【請求項3】
前記有機酸が乳酸である請求項1又は2に記載の外用貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−18745(P2013−18745A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154102(P2011−154102)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【Fターム(参考)】