説明

外的な動き因子により誘発された加速に影響を受けない行動監視システム

本発明は、動きの間に対象に装着されているときに、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去するように構成された行動監視システムに関する。該計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含む。プロセッサが、該少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定する。該プロセッサは、該推定された重力成分に基づいて、該第1のセンサを該第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定する。該プロセッサは次いで、該第1のセンサを該第2のセンサに向けて回転するときに、該第1の動きセンサにより生成される計測値データを、該回転行列と乗算する。最後に、該プロセッサは、該第1の動きセンサを該第2の動きセンサに向けて回転するときに、該第2の動きセンサにより生成された計測値データから、該乗算の結果を減算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動きの間対象に装着されているときに少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成される計測値データを処理するように構成された行動監視システム及び方法であって、前記計測値データは、各動きセンサについて、重力成分、対象又は対象部分の能動的な動きにより引き起こされる動き成分、及び外力により引き起こされる受動的動き成分を含み、前記データを処理することが、前記受動的動き成分が除去されることに帰着する、行動監視システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加速度測定法に基づいた行動監視システムは、ますます広く利用されるようになっている。その用途は、医療及びヘルスケア、リハビリテーション、薬理学、並びにコンシューマライフスタイルの分野に広がっている。例えば患者監視においては、行動センサはコンテキスト情報を提供し、該情報は、はECG及びEMG信号のような患者の生体の症状の評価精度を改善するのに役立ち、コンシューマライフスタイルの分野においては、行動モニタ(AM)が、身体的な行動(PA)に関連するエネルギー消費(EE)の推定とともに、PAの識別及び分類を可能とする。ビデオ記録、筋電図及び質問のような他の方法に比べて、加速度測定法は、客観的で、信頼性が高く、長期間且つ低コストである、自由に生活する対象の監視のための、該対象の日常生活への非常に限られた制限しか伴わない、適切なツールを提供する。
【0003】
AMシステムは一般に、1つの(又は幾つかの)三軸加速度計とデータログユニットとから成る。時に、ジャイロスコープ及び/又は磁気計も存在する。加速度計が静止したままであるときは、該加速度計は、該加速度計の3つの感知軸に沿って分解される地球の重力gを測定する。計測値ベクトルは、
=(x,y,z) (1)
と示される。
【0004】
加速度計が動き始めると、重力加速度に加え、この動きに起因する慣性加速度が記録される。センサの動きは、該センサが取り付けられた身体部分の能動的な動きに加え、外力による「受動的な」動きによって引き起こされる。受動的な動きは例えば、車両に乗って移動するとき、でこぼこ道をサイクリングするとき、又は草刈り機で作業するときに生じ得る。それ故、動いている加速度計の測定値Vは、
=V+Vact+Vpas
act=(xact,yact,zact)、
pas=(xpas,ypas,zpas) (2)
と示され、ここでVactは能動的な動きから来る加速度を示し、Vpasは受動的な動きから来る加速度を示す。
【0005】
の存在は、EEに関連する行動(AEE)の予測の精度に著しい影響を与えないことが分かっているが、外的な動き因子により誘発された加速Vpasは、考慮に入れられるべきではないと考えられる。一般に信号VのDCであり、ローパスフィルタリングにより簡単に非常に適切に推定され得るVとは異なり、Vpasはしばしば、時間ドメインにおいて、更には通常は周波数ドメインにおいても、Vactと混ざってしまい、直接のフィルタリングが常にうまく動作するわけではない。
【0006】
幾つかの特殊な場合においては、Vに対するVactの寄与は無視できる。例えば、対象が車に座っている又は車を運転している場合、腰に装着された加速度計は、主に車により生成された加速度を測定するが、この加速度は路面の粗さ、モータの振動及び/又は速度変化に起因するものであり得、この場合にはVactは殆どゼロである。従って、行動が運転であると正確に認識され得る場合には、この行動に対応する加速度データはAEE算出から除外され得る。
【0007】
国際特許出願公開WO2004/052202A1においては、運転のような「偽の」事象の出現を示すユーザからの入力を許容する行動モニタのためのユーザインタフェースが提案されており、ここでは装置が主に外的な動きを記録し、それにより補正因子がAEE算出に適用されることができる。また、単一又は複数のセンサによるシステムに基づく自動的な方式が記載されており、これら事象が、センサの測定値を用いて行動分類アルゴリズムによって認識されることができる。同様に、米国特許US6280409B1及び米国特許出願公開US2002/0116080A1においては、閾値法のセットが導入されている。これら方法を用い、前者の場合には、日常生活の行動(ADL)のレベルの評価に対する運転の望ましくない影響が大きく削減されており、後者の場合には、人物の動きの変化を監視することにより、該人物が介助を必要としているのか、該人物が車両で移動しているときに誤って起動されたのかを判定することが可能な加速度測定法に基づくシステムにより、誤った警報が回避されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した方法には、幾つかの明らかな欠点がある。手動による事象の指定はユーザの介入を必要とし、実用においては不便さをもたらし、更には事象の不正確な継続時間情報をもたらし得る。自動的な行動認識方法(閾値法はその一部である)の信頼性は、通常は限られたサイズのものであるテストデータセットにおいては許容可能な性能を示しているものの、種々のユーザによる研究室外の環境における頑強さの点では、依然として疑わしいものである。更に重要なことに、共通する欠点は、これらの方法が、車両で移動している場合のように、VactがほぼゼロでありVpasが優位である場合においてしか、うまく動作しない点である。これら方法は、VactとVpasが大きさにおいて同等である状況又はVactが優位であってもVpasが無視できない影響を持つ状況には、対処することができない。
【0009】
本発明の目的は、受動的な動きにより引き起こされる加速度信号を除去し、真の行動により誘発された加速度信号を残すシステム及び方法を提供することにより、上述した欠点を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様によれば、本発明は、動きの間に対象に装着されているときに、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去するように構成された行動監視システムであって、前記計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含み、前記システムは、
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定し、
前記推定された重力成分に基づいて、前記第1のセンサを前記第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定し、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第1の動きセンサにより生成される計測値データを、前記回転行列と乗算し、
前記第1の動きセンサを前記第2の動きセンサに向けて回転するときに、前記第2の動きセンサにより生成された計測値データから、前記乗算の結果を減算する
ように構成されたプロセッサを有する、行動監視システムに関する。
【0011】
従って、前記2つ以上の動きセンサによる測定値を処理することにより、受動的な動きにより引き起こされた測定値データが打ち消され、即ち本システムは受動的動き成分とは独立したものとなりつつ、真の行動により誘発される加速度信号は残す。このことは、例えば加速度計に基づくPA評価システムに固有な、外的な動き因子に影響を受け易いという問題が解決されることに帰着する。従って、本システムの信頼性は大きく向上する。なぜなら、例えば能動的動き成分Vactと受動的動き成分Vpasとが大きさにおいて同等である場合、又は非常に粗い路面をサイクリングする場合のようなVactが優位であってもVpasが無視できない影響を持つ場合といった、全てのタイプの環境に対してシステムが頑強なものとなるからである。
【0012】
一実施例においては、前記動きセンサは、前記対象が動きを体験したときに、前記動きセンサの座標系のお向きが異なって変化するようなそれぞれの位置において前記対象に装着される。一実施例においては、前記それぞれの位置は、前記対象の異なる身体部分である。
【0013】
かくして、前記センサは、例えば腰部、胸部、腕、手首、大腿部及び足首に装着されることができる。提案される方法は、前記センサが、かなり異なる加速度信号を生成する身体部分に配置されることを必要とする。このことは、後により詳細に議論される。
【0014】
一実施例においては、前記動きセンサは3つ以上の動きセンサである。これらセンサは、各2つのセンサをグルーピングするか、又は1つのセンサを選択して該センサを残りのものとグルーピングすることによって、2つ以上の動きセンサ対を形成し、受動動き成分を除去するステップは、各動きセンサ対に対して実行される。
【0015】
従って、例えばセンサ対からの平均値を最終的な測定値として採用するなど、種々の方法で処理され得る複数の測定値が提供される。
【0016】
一実施例においては、前記動きセンサは、2つ以上の動きセンサ対を形成する3つ以上の動きセンサであり、前記処理は更に、前記第1及び第2の動きセンサとして、前記2つ以上の動きセンサ対から1つの動きセンサ対を選択することを含み、前記選択は、どの計測値データが前記3つ以上の動きセンサから最も異なるかの監視に基づく。
【0017】
従って、測定値データにおける差が大きいほど、最終的に処理される測定値データがゼロに近づく見込みが小さくなる。また、その結果は、測定がより安定し正確なものとなることである。
【0018】
一実施例においては、前記動きセンサは三軸加速度計である。一実施例においては、前記動きセンサは、前記システムに一体化され、ハンドヘルド型装置を形成する。
【0019】
従って、前記プロセッサがPDA、携帯電話、腕時計等に一体化され得るハンドヘルドシステムが提供される。
【0020】
一実施例においては、前記システムは更に、前記プロセッサに結合されるように構成された受信器を有し、前記動きセンサは、外部に配置され、前記計測値データを前記受信器に送信するように構成される。
【0021】
斯くして、前記処理は外部のコンピュータシステムにより実行されることができ、このことは本システムを対象にとってより経済的なものとする。一例として、外部のコンピュータシステムは、ヘルスケアプロバイダにおいて備えられても良く、ここで全ての処理ステップが行われても良い。斯くして、対象物により担持される必要があるものは動きセンサのみとなる。
【0022】
一実施例においては、前記システムは更に、前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成される計測値データを保存するためのメモリを有する。
【0023】
斯くして、前記少なくとも1つの第1及び第2の動きセンサは、前記プロセッサとは別個のセンサユニットアセンブリを形成し得る。それ故、測定値データは例えば、後に外部コンピュータへとアップロードされ、該外部コンピュータにおいて上述したデータ処理が実行されても良い。
【0024】
他の態様によれば、本発明は、行動監視用品であって、
プロセッサと、
前記プロセッサに結合されるように構成された少なくとも第1及び第2の動きセンサと、
を有し、前記プロセッサは、動きの間に対象に装着されているときに、前記動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去するように構成され、前記計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含み、前記受動的動き成分の除去は、
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定するステップと、
前記推定された重力成分に基づいて、前記第1のセンサを前記第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第1の動きセンサにより生成される計測値データを、前記回転行列と乗算するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第2の動きセンサにより生成された計測値データから、前記乗算の結果を減算するステップと、
を有する、行動監視用品に関する。
【0025】
更に他の態様によれば、本発明は、動きの間に対象に装着されているときに、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去する方法であって、前記計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含み、前記方法は、
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定するステップと、
前記推定された重力成分に基づいて、前記第1のセンサを前記第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第1の動きセンサにより生成される計測値データを、前記回転行列と乗算するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第2の動きセンサにより生成された計測値データから、前記乗算の結果を減算するステップと、
を有する方法に関する。
【0026】
更に他の態様によれば、本発明は、コンピュータ上で実行されるときに、処理ユニットに、請求項11に記載の方法ステップを実行するよう命令するためのコンピュータプログラムに関する。
【0027】
本発明のこれら態様は、それぞれ他のいずれの態様と組み合わせられても良い。本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明される実施例を参照しながら説明され明らかとなるであろう。
【0028】
本発明の実施例は、図面を参照しながら、単に例として、以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による行動監視システムの一実施例を示す。
【図2】図1における行動監視システムの他の実施例を示す。
【図3(a)】センサ装着位置の種々の組み合わせを図式的に示す。
【図3(b)】センサ装着位置の種々の組み合わせを図式的に示す。
【図3(c)】センサ装着位置の種々の組み合わせを図式的に示す。
【図4(a)】種々の状況におけるセンサ座標系の向きを図式的に示す。
【図4(b)】種々の状況におけるセンサ座標系の向きを図式的に示す。
【図4(c)】種々の状況におけるセンサ座標系の向きを図式的に示す。
【図5】図1及び2により議論された外的な動きの打ち消し方式のブロック図である。
【図6】本発明による方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、動きの間に対象104に装着されたときに、少なくとも1つの第1及び第2の動きセンサにより生成される計測値データ105から、外力により引き起こされた受動的動き成分を除去するように構成された、本発明による行動監視システム100の一実施例を示す。好適には、動きセンサ101、102は、対象の異なる身体部分において該対象に取り付けられ、それにより、対象104が動きを体験する際、動きセンサ座標系の向きが異なって変化する。このことは、図3及び4において、後により詳細に議論される。対象なる語は、人間、動物又は生物学的種、及びロボットのような空間を少なくとも部分的に自由に移動可能な何らかの手段を意味する。
【0031】
本システムは、少なくとも1つの第1の動きセンサ101、少なくとも1つの第2の動きセンサ102、及びこれら動きセンサに結合されたプロセッサ(P)103を有する。本実施例においては、本システムは、例えば携帯電話、PDA、ディジタル腕時計等のような、ユーザにより担持されるハンドヘルド型装置に一体化され、動きセンサが有線又は無線通信リンクを介してプロセッサに接続されている。
【0032】
一実施例においては、動きセンサは三軸加速度計であるが、超音波動きセンサのような他のタイプのセンサも同様に可能である。
【0033】
動きセンサの数が2(例えば第1及び第2の三軸加速度計)であるとすると、計測値データ105は、
(1)=V(1)+Vact(1)+Vpas(1) (3)
(2)=V(2)+Vact(2)+Vpas(2) (4)
と表現されることができ、ここでV(1)及びV(2)は2つの加速度計によるベクトルの加速度計測値を示し、V(1)及びV(2)はベクトルの重力加速度成分であり、Vact(1)及びVact(2)は能動的な動きによるベクトルの加速度であり、Vpas(1)及びVpas(2)は受動的な動きによるベクトルの加速度である。能動的な身体の動きと外的な動き因子とが共存し、いずれも無視できない場合には、Vact及びVpas成分のいずれもが、V(1)及びV(2)において大きな値を持つ。直接のローパス又はハイパスフィルタリングは、VactとVpasとがスペクトルにおいてオーバラップしないときにのみ適切に動作し、より一般的な場合には対処できない。オーバラップとは一般に、周波数におけるVactとVpasとのオーバラップを意味し、即ちVact及びVpasの両方が、スペクトルにおいて分離できない低及び/又は高周波成分を持つことを意味する。このことは、全ての軸について当てはまる。
【0034】
即ち、三軸加速度計のような動きセンサが静止したままである場合には、該センサの3つの感知軸に沿って分解される地球の重力を測定する。加速度計が動き始めると、重力加速度に加え、この動きに起因する慣性加速度が記録される。しかしながら、該加速度計のこの動きは、該センサが取り付けられた身体部分の能動的な動きに加え、外力による「受動的な」動きによって引き起こされ得る。斯かる受動的な動きは例えば、対象が車両に乗って移動するとき、でこぼこ道をサイクリングするとき、刈り機で作業するとき、電車で移動するとき、エレベータ又はエスカレータを利用するとき、遊園地で遊んでいるとき、等に生じ得る。これら受動的な動きは、能動的動き成分により引き起こされる、真の行動により誘発される加速度信号からの逸脱を形成するという意味において、加速度信号における「ノイズ」とみなされる。この受動的動き成分が、システム100が除去するものである。
【0035】
実用上は、2つの加速度計の感知軸は、通常は整合していない。即ち、式(3)及び(4)において、重力成分について、V(1)≠V(2)である。更に、2つのセンサ座標系の相対的な向きは、瞬間的な身体の姿勢及び実行されている行動に従って変化する(図3及び4を参照)。このことは、外的な動きにより誘発される加速度が、2つの加速度計によって異なって感知されること、即ちVpas(1)≠Vpas(2)となることを意味する。
【0036】
プロセッサ103の役割は、計測値データを処理し、外力により引き起こされた受動的動き成分Vpas(1)≠Vpas(2)を除去することである。このため、重力成分V(1)及びV(2)が推定される。ある時点の加速度ベクトルV(1)及びV(2)をV(1)[k]及びV(2)[k]と示すこととし、ここでkはサンプリング時間を示す(例えば秒又はミリ秒の単位で)ものとする。重力加速度ベクトルVについてのV(1)及びV(2)の時間的な推定値が、所与の瞬間kについて決定される。一実施例においては、これら時間的な推定値は、以下の式により決定される。
【数1】

ここで、V(1)[k−m]及びV(2)[k−m]は離散的な時間ドメインにおけるそれぞれ第1及び第2の動きセンサからの加速度計測値データのシーケンスであり、kはサンプリング時間であり、2K+1は平均化のためのV(1)[k]及びV(2)[k]のまわりのサンプルの数である。一例として、例えばサンプリング時間がk=3秒である場合、即ち重力及び慣性成分がVa[3秒]及びK=1について抽出さされるべき場合、式(5)及び(6)はそれぞれ、
1/(2*1+1)(V(1)[2]+V(1)[3]+V(1)[4])=V(1)[3]=V(1)、及び
1/(2*1+1)(V(2)[2]+V(2)[3]+V(2)[4])=V(2)[3]=V(2)
となる。これは明らかに、時間間隔2乃至4秒に亘るセンサ計測値の平均値である。該時間間隔が適当であると選択される場合には、該推定値は一般に非常に優れた推測となる。なぜなら、慣性力は、非常に長い間続く見込みは小さく、平均するとゼロに近くなる傾向があるからである。一例として、加速度計を装着した人物がジャンプする場合、慣性加速度ベクトルは最初は大きく、最高位置(該人物が停止する瞬間)でゼロとなり、該人物が地面に着いたときに負となる。サンプリング周波数が十分に高い場合には、これら慣性加速度ベクトルの時間に亘る合計はゼロとなり、加速度計の計測値の合計(又は平均)は重力加速度に等しくなる。ここで、適切なV(1,2)[k]が提供される適当な時間間隔を選択することが、勿論重要である。このことは、例えばスポーツのタイプのような、加速度計の用途又は実装に依存する。用途がジャンプである場合、適切な時間間隔は、例えば1乃至2秒となり得る。
【0037】
少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定した後、回転行列Rが、第1のセンサが第2のセンサと向きが整合するため必要とされる、又はその逆に第2のセンサが第1のセンサと向きが整合するため必要とされる回転を示す、推定される重力成分に基づいて決定される。従って、以下が成り立つ:
(1)=R(2)→(1)(2) (7)
(2)=R(1)→(2)(1) (8)
ここでR(2)→(1)及びR(1)→(2)は、それぞれV(2)からV(1)への及びV(1)からV(2)への回転の際の回転行列を示す。
【0038】
例として三軸加速度計の場合、基準座標系として地球をとると、回転行列Rは、3つのサブ回転行列R(θ)、R(φ)及びR(ψ)の乗算に分解され得る3×3行列である。これら3つの行列は、或るベクトルから別のベクトルへの回転における、それぞれx軸のまわりのθの平面回転、y軸のまわりのφの平面回転、及びz軸のまわりのψの平面回転を表す。式(7)又は(8)は、θ、φ及びψが全て非ゼロである場合、最大で3つの未知数を持ち、それ故可解である。
【0039】
次のステップは、第2の動きセンサにより生成された計測値データ(式(4))を、第2のセンサを第1のセンサに向けて回転させる場合の回転行列R(2)→(1)と乗算することである。その結果は:
(2)→(1)(2)=V(1)+R(2)→(1)act(2)+Vpas(1) (9)
となる。ここで、式(7)と外的な動きの効果
(2)→(1)pas(2)≒Vpas(1) (10)
が用いられる。
【0040】
第1のセンサなる語は、式(4)において計測値データを生成する動きセンサを意味し得ることは留意されるべきである。従って、上述したステップは、R(1)→(2)が式(3)により乗算されることを意味し得る。従って、その結果は、
(1)→(2)(1)=V(2)+R(1)→(2)act(1)+Vpas(2)
となり、ここでR(1)→(2)pas(1)≒Vpas(2)及び式(8)が用いられている。
【0041】
最後に、該乗算の結果を減算すること、即ち第1の動きセンサにより生成された計測値データから式(9)を減算すること、即ち(3)から(9)を減算することは、
【数2】

を与える。身体的な行動に関連するエネルギー消費の予測においてV(1)又はV(2)の代わりに
【数3】

が用いられている。
【数4】

は真の行動により誘発されるVact(1)及びVact(2)にのみ依存しており、外的な動き因子からの影響は除去されていることが分かる。斯くして、出力値は、真の行動により誘発された加速度信号のみを含む。
【0042】
式(11)は基本的に、2つのベクトルVact(1)及びVact(2)を線形結合することにより、新たなベクトル
【数5】

を生成する。前述したように、動きセンサは好適には、対象の異なる身体の部分のような、それぞれの位置において対象に取り付けられ、それにより、対象が動きを体験する際に動きセンサ座標系の向きが異なって変化する。それ故、種々の日常動作により誘発される加速度
【数6】

がゼロに近づかないことが確実にされる。実際には、
【数7】

の大きさの下限は、
【数8】

を満たす。
【0043】
1−ノルム
【数9】

は、ベクトル成分の大きさの合計を与え、即ちベクトルV=(x,y,z)については
【数10】

であり、加速度計の計測値からいわゆる活動カウント(activity count)を得るための最も良く採用されるノルムである。式(12)は、
【数11】

の活動カウントが、2つの個々のセンサから算出された活動カウント間の差の絶対値よりも小さくはならないことを示している。それ故、
【数12】

はこの方式により陳腐化されるものではない。
【0044】
新たなベクトル
【数13】

は、2つの直接の測定値V(1)及びV(2)を組み合わせ、従って行動に関連するエネルギー消費(AEE)又は身体的な行動レベル(PAL)との関連は異なると予想される。センサ装着位置の特定の組み合わせについて、AEE又はPALについての
【数14】

ベースの予測曲線は、実験的に得られ評価され得る。これを達成するための種々の方法があるが、本発明の開示の範囲外であり、ここでは議論されない。
【0045】
実装においては、加速度計は衣類、例えば衣服に一体化されても良い。これらの計測値の同期のため、これらセンサはリアルタイムに接続されても良いし、又はタイムスタンプを伴って若しくは伴わずに別個の動作しても良い。後者の場合、同期はデータ解析を活用して実現される。
【0046】
図2は、システム100の別の実施例を示し、処理がユーザ104の外部で、例えば臨床施設において実行される点で図1における実施例とは異なり、本システムは更に、例えば有線のリンク又はインターネットのような無線のリンクのような通信リンク2020を介して、センサ101、102から外部の処理局210へと計測値データを送信するための送信器(T)201を有する。外部の処理局210は、送信されたデータ105を受信するための、プロセッサ(P)204に結合された受信器(R)203を有する。プロセッサ(P)204は次いで、図1において以上に議論された、上述の処理ステップを実行する。
【0047】
このリアルタイム処理の状況は、常に必要とされるわけではない。別の実施例においては、動きデータが最初に感知装置(例えばハンドヘルド型装置)のメモリ205にローカルに保存され、後に外部のコンピュータにアップロードされて、該コンピュータにおいてデータ処理が実行される。この場合には、送信器が必要とされず、該装置のバッテリの寿命を長くする。
【0048】
一実施例においては、動きセンサは3つ以上であり、2つ以上の動きセンサ対を形成する。一般に、大きく異なる計測値信号を供給する位置に配置された2つの動きセンサのみが必要となる。しかしながら、2つ以上のセンサを利用することにより、計測値信号が最も異なる2つを選択することが可能となる。このことは、より高い精度に反映され得、即ち信号の計測値が異なるほど、最終的な計測値が陳腐化する可能性が小さくなる。従って、計測値がより安定し正確なものとなる。
【0049】
別の実施例においては、3つ以上のセンサが利用され、2つ以上のセンサ対を形成する。各センサ対について、上述した処理ステップが実行され、斯くして2つ以上の式(11)、及び従ってVact(1)及びVact(2)にのみ依存する2つ以上の計測値に帰着する。これら計測値は次いで、平均計測値を見出すために利用され得、このようにして最終的な計測値の精度が更に向上させられ得る。
【0050】
図3は、例えば2つの加速度計による行動監視(AM)システムにおける、センサ装着位置の種々の組み合わせを、図式的に示す。図示されるように、図3a及び3bはセンサのための好適な位置を示し、図3cに示されたセンサ位置は好ましくないセンサ位置を示す。動きの間の種々の身体の部分の運動学的な性質から、腕は腰部とは非常に異なる挙動を示し、一方で、殆どの日常動作において、胴体の剛性のために胸部と腰部とは一体的に動き、斯くして非常に類似する加速度を生成する。
【0051】
図4は、種々の状況におけるセンサ座標系401、402の向きを図式的に示し、ここで図4aは直立姿勢の間のセンサの向きを示し、図4bは座った姿勢の間のセンサの向きを示し、図4cは走っている間のセンサの向きを示す。
【0052】
図5は、図1において以上に議論された、外的な動きの打ち消し方式のブロック図であり、ここでは一例としてV(1)に向けたV(2)の回転の場合が選択されており、太線の矢印は行列形式の送信されるデータを示している。
【0053】
図6は、動きの間に対象に装着されているときに、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去するための、本発明による方法のフロー図である。該計測値データは、各動きセンサについて、重力成分と、対象又は対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含む。前述したように、動きセンサの装着位置は、対象の能動的な動きの間に動きセンサの感知軸の向きが大きく異なり、従って加速度計測値もまた大きく異なるように選ばれる。
【0054】
第1のステップ(S1)601においては、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成される第1及び第2の重力成分が、例えば式(5)及び(6)を用いて推定される。
【0055】
第2のステップ(S2)603において、該推定された重力成分を用いて回転行列が決定され、ここで該行列は、第1のセンサが第2のセンサと向きが整合するため、又はその逆のために必要とされる回転を示す。従って、このことはV(1)=R(2)→(1)(2)(式7)及びV(2)=R(1)→(2)(1)(式8)に帰着する。また、該回転行列は、2つの動きセンサの間の向きの差を示すため、外的な動きの効果の性質のため、R(2)→(1)pas(2)=Vpas(1)(式10)及びその逆R(1)→(2)pas(1)=Vpas(2)となる。
【0056】
第3のステップ(S3)605において、第1のセンサを第2のセンサに向けて回転させるときに、第1の動きセンサにより生成された計測値データが、回転行列と乗算される。このことは逆の態様で実行されても良く、即ち第2のセンサを第1のセンサに向けて回転させるときに、第2のセンサにより生成された計測値データを乗算しても良い。このことは、式(7)及び(10)が挿入された式(9)において数学的に示される。
【0057】
第4のステップ(S4)607において、第1の動きセンサを第2の動きセンサに向けて回転させるときに第2の動きセンサにより生成された計測値データから、ステップ(S3)からの結果即ち式(9)が減算される。即ち、式(9)が式(3)から減算される。その結果は斯くして、受動的動き成分が除去されることとなる(式(11)を参照)。
【0058】
開示された実施例の特定の詳細は、本発明の明確且つ完全な理解を提供するため、限定ではなく説明の目的のために開示されたものである。しかしながら、本発明は、本開示の精神及び範囲から大きく逸脱することなく、ここで開示された詳細に正確には一致しない他の実施例において実施され得ることは、当業者には理解されるべきである。更に、本明細において、簡潔さ及び明確さのため、不必要な詳細及び起こり得る混乱を避けるため、良く知られた装置、回路及び方法の詳細な説明は省略されている。
【0059】
参照記号が請求項に含まれているが、参照記号を含むことは単に明確さの理由のためであり、請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動きの間に対象に装着されているときに、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去するように構成された行動監視システムであって、前記計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含み、前記システムは、
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定し、
前記推定された重力成分に基づいて、前記第1のセンサを前記第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定し、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第1の動きセンサにより生成される計測値データを、前記回転行列と乗算し、
前記第1の動きセンサを前記第2の動きセンサに向けて回転するときに、前記第2の動きセンサにより生成された計測値データから、前記乗算の結果を減算する
ように構成されたプロセッサを有する、行動監視システム。
【請求項2】
前記動きセンサは、前記対象が動きを体験したときに、前記動きセンサの座標系のお向きが異なって変化するようなそれぞれの位置において前記対象に装着される、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項3】
前記それぞれの位置は、前記対象の異なる身体部分である、請求項2に記載の行動監視システム。
【請求項4】
前記動きセンサは3つ以上の動きセンサであり、各2つのセンサをグルーピングするか、又は1つのセンサを選択して該センサを残りのものとグルーピングすることによって、2つ以上の動きセンサ対を形成し、前記受動的動き成分を除去するステップが、各動きセンサ対に対して実行される、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項5】
前記動きセンサは、2つ以上の動きセンサ対を形成する3つ以上の動きセンサであり、前記処理は更に、前記第1及び第2の動きセンサとして、前記2つ以上の動きセンサ対から1つの動きセンサ対を選択することを含み、前記選択は、どの計測値データが前記3つ以上の動きセンサから最も異なるかの監視に基づく、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項6】
前記動きセンサは三軸加速度計である、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項7】
前記動きセンサは、前記システムに一体化され、ハンドヘルド型装置を形成する、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項8】
前記システムは更に、前記プロセッサに結合されるように構成された受信器を有し、前記動きセンサは、外部に配置され、前記計測値データを前記受信器に送信するように構成される、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項9】
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成される計測値データを保存するためのメモリを更に有する、請求項1に記載の行動監視システム。
【請求項10】
行動監視用品であって、
プロセッサと、
前記プロセッサに結合されるように構成された少なくとも第1及び第2の動きセンサと、
を有し、前記プロセッサは、動きの間に対象に装着されているときに、前記動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去するように構成され、前記計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含み、前記受動的動き成分の除去は、
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定するステップと、
前記推定された重力成分に基づいて、前記第1のセンサを前記第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第1の動きセンサにより生成される計測値データを、前記回転行列と乗算するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第2の動きセンサにより生成された計測値データから、前記乗算の結果を減算するステップと、
を有する、行動監視用品。
【請求項11】
動きの間に対象に装着されているときに、少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された計測値データから、外力により引き起こされる受動的動き成分を除去する方法であって、前記計測値データは、重力成分と、前記対象又は前記対象の一部の能動的な動きにより引き起こされる動き成分と、受動的動き成分とを含み、前記方法は、
前記少なくとも第1及び第2の動きセンサにより生成された第1及び第2の重力成分を推定するステップと、
前記推定された重力成分に基づいて、前記第1のセンサを前記第2のセンサに向きを整合させるために必要とされる回転を示す回転行列を決定するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第1の動きセンサにより生成される計測値データを、前記回転行列と乗算するステップと、
前記第1のセンサを前記第2のセンサに向けて回転するときに、前記第2の動きセンサにより生成された計測値データから、前記乗算の結果を減算するステップと、
を有する方法。
【請求項12】
コンピュータ上で実行されるときに、処理ユニットに、請求項11に記載の方法ステップを実行するよう命令するためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−515123(P2011−515123A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550297(P2010−550297)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際出願番号】PCT/IB2009/050896
【国際公開番号】WO2009/112981
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】