外観及び品質の優れた餅又はだんご及びその製造方法
【課題】着色の美しさだけでなく、良好な呈味と機能性成分の付与、そして時間の経過による餅又はだんごの硬化を著しく抑制することのできる、新しい餅又はだんごの製造方法を提供すること。
【解決手段】米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、レモン等から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、餅又はだんごの製造方法を提供する。係る製造方法によれば、前記野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖及びグルタミン酸を含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2である、呈色性、呈味性、機能性および柔軟性に優れた餅又はだんごが得られる。
【解決手段】米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、レモン等から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、餅又はだんごの製造方法を提供する。係る製造方法によれば、前記野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖及びグルタミン酸を含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2である、呈色性、呈味性、機能性および柔軟性に優れた餅又はだんごが得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米加工食品及びその製造方法に関し、詳しくは、原料に野菜及び/又は果実を添加して加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、外観及び品質の優れた餅又はだんごの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餅やだんごは日本の伝統的米加工食品であり、多くの人に好まれている。これらの餅あるいはだんごは、基本的に白色であり、消費者に好感を与えるものの、多様性に富んでいるとは言えない。
また、餅やだんごの主成分はデンプンであり、加熱糊化させた後に成型して製造するが、製造後に糊化デンプンが老化することによる硬化がしばしば問題となる。
【0003】
従来、餅やだんごを着色する例としては、食紅による赤色や、ヨモギや抹茶の添加による緑色、黒米の配合による紫色、あるいは赤米の添加による橙色、カレー粉の添加による黄色などが知られている(例えば特許文献1及び2参照)。緑色や黄色はクロロフィル類により得られ、黄色の大半、橙色および一部の赤色はカロテンとして知られる色素により生成され、青色、紫色および大部分の赤色は、アントシアニンとして知られる一群の色素によって得られる。
【0004】
これらの先行技術は、着色という点ではその目的を達成しているが、デンプンの硬化抑制の効果は認められず、通常の餅やだんごと同様に、経時的に硬化し、電子レンジなどで再加熱した場合にも、直後は軟らかくなるが、時間とともに硬さが顕著に増加する。
さらに、従来の染色では、ヨモギによるクロロフィルなど、一部の機能性成分と呈色の増加は可能であるが、赤色、橙色、紫色、青色などの呈色が不可能である上に、食するときにえぐ味が生じ、食後の良好な呈味性と美しい呈色性とを同時に得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−121号公報
【特許文献2】特開平5−308904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、着色の美しさだけでなく、良好な呈味と機能性成分の付与、そして時間の経過による餅又はだんごの硬化を著しく抑制することのできる、新しい餅又はだんごの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴は、天然色素によって着色され、果糖0.1〜10g/100gおよびグルタミン酸0.05〜2.0g/100gを含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが12kg/cm2以下である餅又はだんごを提供することであり、かかる餅又はだんごは、美しい色調で味が良く、製造後に時間が経過しても軟らかくておいしく食することができる。
【0008】
本発明の第2の特徴は、米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行う、餅又はだんごの製造方法であり、これによって糖類などの甘味成分およびアミノ酸などの旨味成分を餅又はだんごに付加できるとともに、ポリフェノールを加えることが少ないので製品にえぐ味を生じることなく、しかも野菜及び/又は果実中の加水分解酵素による米成分の分解による米加工品の柔軟化が可能となる。
【0009】
本発明の第3の特徴は、野菜及び/又は果実を冷凍状態で原料に添加して加熱調理することであり、これによって野菜及び/又は果実中の加水分解酵素が加熱調理の前半には失活せず、デンプン、タンパク質、細胞壁などの酵素分解が進行し、やわらかい食感の餅やだんごとなる。さらに、野菜及び/又は果実を冷凍状態で添加することによって、原料米との共存加熱調理時に過度の加熱を受けることがないので、ビタミン類や酵素類を中心とする生理活性成分の失活を防止することが可能となる。
【0010】
すなわち、請求項1に係る本発明は、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を含み、該野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖及びグルタミン酸を含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが12kg/cm2以下であることを特徴とする、外観及び品質の優れた餅又はだんごである。
請求項2に係る本発明は、米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、請求項1に記載の餅又はだんごの製造方法である。
請求項3に係る本発明は、前記野菜及び/又は果実を冷凍状態で前記原料に添加して加熱調理することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
上述の如く、本発明によれば、着色の美しさだけでなく、良好な呈味と機能性成分の付与、そして時間の経過による餅又はだんごの硬化を著しく抑制することのできる、新しい餅又はだんごの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるトマトと米との混合蒸煮を示す図である。図1(a)は混合蒸煮前の様子を、図1(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【図2】実施例1でトマトを加えて製造した餅を示す図である。
【図3】実施例2におけるイチゴと米との混合蒸煮を示す図である。図3(a)は混合蒸煮前の様子を、図3(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【図4】実施例2でイチゴを加えて製造した餅を示す図である。
【図5】比較例1におけるブルーベリーと米との混合蒸煮を示す図である。図5(a)は混合蒸煮前の様子を、図5(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【図6】比較例1でブルーベリーを加えて製造した餅を示す図である。
【図7】実施例3で試作した団子を示す図である。図7(a)はトマト入りだんごを、図7(b)はイチゴ入りだんごを、それぞれ示す。
【図8】実施例3におけるレンジ再加熱後2時間経過後のだんごの物性を示す図である。図8(a)は硬さ(H1)の測定値を、図8(b)は付着量(L3)の測定値を、それぞれ示す。図8中、左から順に比較例、イチゴ入りだんご、トマト入りだんご、の結果を示す。
【図9】実施例4における餅の老化試験結果を示す図である。図9中、aはイチゴ入り餅、bはトマト入り餅、cは比較例の標準餅、の結果を示す。
【図10】実施例5におけるレンジ再加熱後2時間経過後の餅の硬さを示す図である。図10中、左から順にイチゴ添加餅、イチゴ無添加餅、食紅添加餅、の結果を示す。
【図11】実施例6におけるイチゴ又はトマト添加調理によるタンパク質の分解を示す図である。図11中、Mは分子量マーカー、aは原料粉、bは単独調理後、cはイチゴ添加調理後、dはトマト添加調理後、を示す。
【図12】実施例7におけるトマトに含まれるタンパク質分解酵素の検出結果を示す図である。図12中の各レーンは、4種類のトマト試料を示す。
【図13】実施例8におけるトマトとトマトケチャップの添加炊飯効果の相違を示す図である。図13(a)はbrittleness、図13(b)はpliability、の測定結果を示す。図13中、(a)、(b)共に、左から順にトマト混合炊飯、トマトケチャップ混合炊飯、の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
本発明の餅又はだんごは、野菜及び/又は果実を含み、該野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖及びグルタミン酸を含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明における「野菜及び/又は果実」の例としては、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を挙げることができる。これらの果実や野菜は、天然色素、果糖などの糖類、グルタミン酸などのアミノ酸、及び内在性酵素を含み、餅やだんごの呈色、加味、柔軟化の効果を得ることができる。
【0015】
本発明における「天然色素」としては、前記した野菜又は果実に含まれる、アントシアニン系又はフラボノイド系色素、およびカロテノイド系色素が挙げられる。アントシアニン系色素としては、たとえばイチゴのカリステフィン、ナスのナスニンおよびヒアシンが例示される。さらに、カロテノイド系色素としては、トマトやスイカに含まれるリコピン、ニンジンのβ−カロテン、温州ミカンのβ−クリプトキサンチンなどを挙げることができる。
【0016】
本発明の餅又はだんごは、前記した野菜又は果実に由来する果糖などの糖類を含有する。本発明の餅又はだんごにおける果糖含量は、餅又はだんご100g中、0.1g以上10g以下、好ましくは0.1〜7.5g、より好ましくは0.2〜5gであることが必要である。100g中の果糖含量が0.1g未満では甘みが不十分であり、10gを超えると甘みが強すぎるので不適当である。
【0017】
本発明の餅又はだんごは、前記した野菜又は果実に由来するグルタミン酸などのアミノ酸を含有する。本発明の餅又はだんごにおけるグルタミン酸含量は、餅又はだんご100g中、0.05g以上2g以下、好ましくは0.05〜2.0g、より好ましくは0.1〜1.5gであることが必要である。100g中のグルタミン酸含量が0.05g未満では呈味性が不十分であり、2gを超えると旨みが強くなりすぎるので不適当である。
【0018】
本発明における「電子レンジ加熱」又は「電子レンジ再加熱」としては、通常の家庭用または業務用の電子レンジによるマイクロ波加熱で充分である。本発明の餅又はだんごがデンプンの老化(β化)により硬化した場合でも、当該餅又はだんご100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱することで、当該餅又はだんごを再加熱してデンプンを再糊化するという目的を達成することができる。
【0019】
本発明における「硬さ」とは、テンシプレッサー(タケモト電機製)で測定した硬さ(H1)を指し、その単位は「kg/cm2」である。
本発明の餅又はだんごにおいては、老化した餅又はだんごのデンプンを電子レンジ再加熱によって充分糊化させた後に、20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2、好ましくは2〜11.5kg/cm2、より好ましくは2〜11kg/cm2であることが必要条件である。硬さが2kg/cm2以下では軟らかすぎてコシがないので不適当であり、12kg/cm2を超えると硬すぎるので不適当である。
なお、上記において、20℃で2時間保存してから硬さを測定するのは、製造直後又は電子レンジ加熱直後の餅又はだんごは、物性の変化が大きく、粘りも強すぎて、測定が不可能であるためである。
【0020】
しかしながら、単に果実や野菜をもち米やうるち米に添加混合するのみでは、本発明の餅やだんごを柔軟化する効果は得られない。すなわち、果実及び/又は野菜と米とを高水分条件下で混合加熱調理することによって、果実や野菜中の内在性プロテアーゼ、内在性セルラーゼ、内在性ペクチナーゼ、内在性キシラナーゼ、内在性アミラーゼなどの各種の加水分解酵素が、米のタンパク質、細胞壁、デンプンなどの主要構成成分を部分分解し、本発明の柔軟化効果が達成されるのである。
【0021】
この柔軟化効果は、米の加熱調理時に当該果実及び/又は野菜を冷凍状態で添加することで一層効果を高めることができる。すなわち、内在性酵素が加熱によって失活する前にデンプンの糊化、タンパク質の変性、細胞壁の膨潤が進行し、酵素分解を受けやすくなるという効果が得られる。
【0022】
本発明に係る餅又はだんごの製造方法は、米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする。
【0023】
本発明において「米を主体とする原料」とは、一般的な餅及び/又はだんごの主原料であるもち米及び/又はうるち米、水、並びに調味料、食品添加剤など必要に応じて使用する他の副原料、を指す。
これらの原料は、野菜及び/又は果実を添加する前に、必要に応じて練り合わせて生地としてあっても良い。
【0024】
上記の野菜及び/又は果実の原料米に対する添加割合としては、乾物質量として、米の0.05質量%以上50質量%以下、好ましくは0.8〜30質量%、より好ましくは1.3〜15質量%であることが必要である。0.05質量%未満では着色や老化抑制の効果が不十分であり、50質量%を超える場合は餅やだんごの成形が困難となるので不適当である。
【0025】
本発明においては、上記の野菜及び/又は果実を冷凍状態で原料に添加することが望ましい。その理由は、加熱調理開始から沸点に至るまでに、米デンプンの糊化やタンパク質の変性を先行させて酵素分解を受けやすい構造にし、酵素の熱失活の前にデンプン、タンパク質あるいは細胞壁の分解を促進することで、野菜や果実の添加効果が一層顕著となるためである。よって、野菜及び/又は果実を冷凍せずに添加加熱しても一定の効果は得られるものの、冷凍状態で添加した方がさらに好適である。
また、野菜及び/又は果実を冷凍状態で原料に添加した場合は、上記の理由から、添加後速やかに、例えば添加後約5分以内に、加熱調理を開始することが望ましい。
【0026】
本発明における餅又はだんごは、通常の加水浸漬、加熱調理、練り上げ又は餅つき、冷却、成形という工程で製造することができる。ここにおいて、家庭用電気炊飯器、業務用連続式炊飯装置、家庭用製餅器、業務用製餅装置などを用いることができる。
【0027】
本発明の餅又はだんごの製造方法における「加熱調理」工程とは、炊飯や蒸煮、蒸練、誘電加熱、油ちょう、オートクレーブ処理、レトルト処理などを指す。本工程において、高水分条件下にて加熱調理することにより、添加した野菜及び/又は果実中の各種の加水分解酵素が、デンプン、タンパク質、細胞壁などの米成分を分解し、米デンプンを糊化させる効果がある。
【0028】
このように、本発明における加熱調理工程は水分存在下で行う必要があるが、ここにおいて必要な水分量とは、例えば、原料米を予め1〜10時間程度加水浸漬しておくことや、原料米乾物質量に対して0.5〜2倍程度の水を加えて加熱調理を行うことにより、満足することができる。
【0029】
本発明における「製餅」とは、加熱調理したもち米を、杵搗き、練りだしあるいは攪拌によって餅とし、成形することを指す。
本発明おける餅の製造工程としては、例えば、洗米したもち米及び/又はうるち米を加水浸漬し、そこへ冷凍状態の野菜及び/又は果実を加えて蒸し器で蒸煮した後、搗いて、成形することができる。
【0030】
本発明における「だんご製造」とは、加熱調理したうるち米を練り合わせて均一な生地とし、成形することを指す。
本発明おける餅の製造工程としては、例えば、もち米及び/又はうるち米粉末に砂糖、水を加えて練ったものに、野菜及び/又は果実の凍結乾燥粉末を加えて更に練り、成形した後、蒸し器で蒸煮することができる。
【0031】
以上に述べた本発明の餅又はだんごの製造方法は、原料米をイチゴ等の野菜及び/又は果実と混合炊飯又は混合蒸煮した後に、製餅又はだんご製造することによって、色彩、機能成分、呈味性、耐老化性等の点で優れた米加工食品を提供できる点を特徴とする。
【0032】
特に、混合炊飯時に、野菜及び/又は果実を冷凍状態で添加することで、米デンプンが糊化温度を超えて分解可能となる温度帯まで、野菜及び/又は果実に含まれる加水分解酵素の活性が失われないので、米のデンプンやタンパク質が酵素分解を受け、餅やだんごが製造後に硬化しにくくなり、耐老化性向上効果が顕著となる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施内容について実施例等で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1(トマト添加餅、図1及び図2)
300gのもち米を洗米後室温、約15℃で純水に5時間浸漬し、8つ割にカットして冷凍したトマト150g(乾物質量として約9g)及び輪切りにして冷凍したレモン10g(乾物質量として約0.6g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮、図1)。ついで、トマト、レモンと共に蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、試食試験に供した(図2)。なお、比較例として、トマト、レモンを加えずに上記の方法で製餅した。
【0035】
その結果、上記でトマトを添加して製造した着色餅は、約15℃で1日放置しても硬くならなかった。一方、比較例のトマト無添加餅は、約15℃で1日保管後に著しく硬化した。
図1(a)は混合蒸煮前の様子を、図1(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【0036】
実施例2(イチゴ添加餅、図3および図4)
300gのもち米を洗米後約15℃で純水に5時間浸漬し、冷凍したイチゴ150g(乾物質量として約9g)及び輪切りにして冷凍したレモン10g(乾物質量として約0.6g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮、図3)。ついで、イチゴ、レモンと共に蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、試食試験に供した(図4)。なお、比較例として、イチゴ、レモンを加えずに上記の方法で製餅した。
【0037】
その結果、上記でイチゴを添加して製造した着色餅は、約15℃で1日放置しても硬くならなかった。一方、比較例のイチゴ無添加餅は、約15℃で1日保管後に著しく硬化した。
図3(a)は混合蒸煮前の様子を、図3(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【0038】
比較例1(ブルーベリー添加餅、図5および図6)
300gのもち米を洗米後約15℃で純水に5時間浸漬し、冷凍したブルーベリー150g(乾物質量として約9g)及び輪切りにして冷凍したレモン10g(乾物質量として約0.6g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮、図5)。ついで、ブルーベリー、レモンと共に蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、試食試験に供した(図6)。その結果、約15℃で1日保管することで餅は硬くなった。
図5(a)は混合蒸煮前の様子を、図5(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【0039】
実施例3(イチゴあるいはトマト添加だんごの低老化性、図7および図8)
もち米粉末(新潟県産「こがねもち」)350g、うるち米精米粉(新潟県産「コシヒカリ」)150g、砂糖50gに、水350gを少しずつ加水して練り合わせ、−20℃の冷凍庫で冷凍しておいた。次に、冷凍したイチゴ(新潟県産「越後姫」)150gあるいは冷凍した市販トマト(「桃太郎」)150g(いずれも乾物質量として約9g)を、直前に細かく砕いて、解凍した前記のだんご生地に加え、練り合わせてだんごの形に成形した。これらを家庭用蒸し器で15分間、中火で蒸して、果実野菜入りだんごを製造した(図7)。図7(a)はトマト入りだんごを、図7(b)はイチゴ入りだんごを、それぞれ示す。
なお、比較例として、イチゴ又はトマトを加えずに上記の方法でだんごを製造した。
【0040】
上記で製造したイチゴ又はトマト入りだんごは、それぞれ0.92g/100gおよび0.26g/100gの果糖、0.74g/100gおよび0.85g/100gのグルタミン酸を含んでいた。
【0041】
また、これらのだんごを約15℃で5日保管後に、電子レンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)し、約20℃で2時間放置後にタケトモ電機製テンシプレッサーで測定した硬さ(H1)は、それぞれ10.2kgw/cm2(イチゴ)および10.4kg/cm2(トマト)あった(図8(a))。
これに対し、比較例のイチゴあるいはトマトを加えずに製造しただんごの場合は、製造後約15℃で5日放置した後に電子レンジで再加熱(500W、30秒)し、約20℃で2時間放置後にタケトモ電機製テンシプレッサーで測定した硬さが、14.6kgw/cm2であり、本発明例のだんごに比べてきわめて硬かった(図8(a))。
これらの結果から、比較例のだんごでは、レンジ再加熱後2時間経過して老化が進み硬化したが、本発明によりイチゴ又はトマトを添加して製造しただんごは、再加熱後2時間経過しても老化が抑制され、軟らかさが持続することが分かった。
【0042】
さらに、上記で製造しただんごを約15℃で5日保管後にレンジ再加熱し、20℃で2時間放置したときの付着量(L3)を、タケトモ電機製テンシプレッサーで測定した(図8(b))。付着量とは、粘度を示す指標であり、値が大きいほど粘度が高いことを示す。
図8(b)より、イチゴあるいはトマトを添加して製造した場合は、5日後においても付着量(L3)が23.9mmあるいは23.8mmmと大きいのに対し、無添加の餅は付着量が17.9mmと、顕著に小さくなっており、時間経過とともに粘りを失うことが判った。
【0043】
図8(a)は硬さ(H1)の測定値を、図8(b)は付着量(L3)の測定値を、それぞれ示す。図8(a)、(b)共に、左から順に比較例、イチゴ入りだんご、トマト入りだんご、の結果を示す。
【0044】
実施例4(イチゴ添加餅およびトマト添加餅の低老化性、図9)
実施例1および2で試作した、トマトあるいはイチゴを添加して試作した着色餅および比較例の無添加餅について、製造後約15℃で15時間保管した後にタケトモ電機製テンシプレッサーで硬さ(H1)を測定した。
その結果、イチゴ添加餅の場合は8.5kgw/cm2であり、トマト添加餅の場合は8.4kgw/cm2であり、きわめて軟らかかった。一方、比較例の場合は16.8kgw/cm2であり、本発明例の餅に比べてきわめて硬かった(図9)。図9中、aはイチゴ入り餅、bはトマト入り餅、cは比較例の標準餅、の結果を示す。
これらの結果から、比較例の餅は15時間後に老化して硬くなるが、イチゴ又はトマト入り餅は硬化しないことが分かった。
【0045】
実施例5(イチゴ添加餅および無添加餅、食紅添加餅の老化性の比較、図10)
米に対してイチゴの代わりに食紅0.1質量%を添加して着色したこと以外は、実施例2と同様にして食紅添加餅を製造した。実施例2で試作したイチゴ添加餅およびイチゴ無添加の標準餅、並びに前記の食紅添加餅の3種類の餅を、試作後約15℃で5日保管した後、電子レンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)し、20℃で2時間保管した後にタケトモ電機製テンシプレッサーで硬さ(H1)を測定した結果を、図10に示す。
図10中、左から順にイチゴ添加餅、イチゴ無添加餅、食紅添加餅、の結果を示す。
【0046】
その結果、イチゴ添加餅の場合、8.1kgw/cm2と軟らかかったのに対し、イチゴ無添加の標準餅および食紅添加餅は、それぞれ14.3kgw/cm2、15.0kg/cm2を示し、本発明例の餅に比べてきわめて硬かった(図10)。このことから、イチゴ無添加餅および食紅添加餅では、レンジ再加熱後2時間経過して老化が進み硬化したが、本発明によりイチゴを添加して製造した餅は、再加熱後2時間経過しても老化が抑制され、軟らかさが持続することが分かった。
また、本発明例のイチゴ添加餅は、色調のみならず、味と物性において、無添加餅および食紅添加餅より格段に優れていた。食紅の添加は着色には有効であるが、本発明のような餅の柔軟化効果や味の向上効果は得られなかった。
【0047】
実施例6(イチゴ、トマトの添加炊飯によるタンパク質の分解、図11)
冷凍したイチゴあるいはトマトを、それぞれ150g(乾物質量として約9g)計量し、うるち米(「コシヒカリ」)精米300gに加えて家庭用炊飯器によって混合炊飯した。炊飯後、−80℃のディープフリーザー中で凍結した後、凍結乾燥し、イワタニ製コーヒーミルサーで粉砕して粉末を得た。この粉末を、5%メルカプトエタノール、1%SDSを含むpH6.8のトリス緩衝液に溶解し、Laemmliの方法(Laemmli U. K.: Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacterophage T4. Nature 227, 680-685, 1970.)に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。
なお比較例として、未調理の前記精米を粉砕した粉末(原料粉)、および前記精米をイチゴ又はトマトを添加せずに炊飯し、凍結乾燥後粉砕して得た粉末(単独調理後)についても、上記と同様にSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。
【0048】
その結果、図11に示すように、精米を単独で炊飯した場合(b)は、原料粉の場合(a)と同様にタンパク質のバンドが顕著に出現するが、イチゴあるいはトマトを混合して炊飯した場合(c、d)は、タンパク質が分解されており、バンドが薄くなっていた。このことから、単独調理ではタンパク質は不変だが、イチゴやトマトを添加して調理すると、タンパク質が分解されて減少することが分かった。
図11中、Mは分子量マーカー、aは原料粉、bは単独調理後、cはイチゴ添加調理後、dはトマト添加調理後、を示す。
【0049】
実施例7(トマトの内在性プロテアーゼ、図12)
市販されている4品種のトマトを試料とし、以下の方法で内在性プロテアーゼの存在を確認した。
すなわち、トマトを凍結乾燥して粉砕し、50mMトリス塩酸緩衝液(pH6.8)で5℃、2時間抽出した液を試料とし、1%SDSとして0.01%のゼラチンを含む15%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDSゲル電気泳動を行った。電気泳動の後、1%トリトンX−100を含むトリス塩酸緩衝液(pH8.0)でゲルを30分間、2回洗浄することによりSDSの洗浄除去を行い、次いでトリトンX−100を含まないトリス塩酸緩衝液(pH8.0)でトリトンX−100も洗浄除去し、さらにトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で30℃一晩酵素反応させた。その後、CBBで32℃、1時間タンパク質を染色した結果、図12に示すように、全ての試料においてゲル中のゼラチンが分解されたプロテアーゼのバンドが顕著に出現し、トマトには内在性プロテアーゼの存在することが示された。
図12中の各レーンは、4種類のトマト試料を示す。
【0050】
実施例8(トマト混合炊飯とトマトケチャップ混合炊飯との比較、図13)
実施例6と同様に冷凍トマトをうるち米精米に混合して炊飯した。比較のため、トマトと同量の市販のトマトケチャップを添加して同様に混合炊飯した。これらの米飯を炊飯後、20℃で2時間保管した後、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて積算荷重測定を行った。
【0051】
その結果、図13に示すように、トマトケチャップ炊飯米飯に比べて、トマト添加米飯は、もろさを示すbrittlenessは小さく、柔軟性を示すpliabilityが大きく、内在性酵素によってタンパク質が分解されることによって米飯が柔軟化していることが示された。一方、トマトケチャップ添加炊飯の場合は、着色と風味の添加は可能であるが、本発明のような米飯の柔軟化効果は認められなかった。
図13(a)はbrittleness、図13(b)はpliability、の測定結果を示す。図13中、(a)、(b)共に、左から順にトマト混合炊飯、トマトケチャップ混合炊飯、の結果を示す。
【0052】
実施例9(トマト及びイチゴの添加による米粉粘度特性の変化)
市販のうるち米精米粉(品種名「コシヒカリ」)にイチゴあるいはトマトの凍結乾燥粉末5質量%を添加し、大坪らの方法(K. Ohtsubo, H. Toyoshima and H. Okadome: Quality assay of rice using traditional and novel tools. Cereal Foods World, 43(4),203-206, 1998.)に従ってフォス・ジャパン製ラピッドビスコアナライザー(RVA)による糊化特性試験を行った結果を表1に示す。
表1に示されるように、トマトやイチゴの凍結乾燥粉末を添加することで、精米粉の最高粘度が増加し、最高粘度(Max. Visc.)と最低粘度(Min. Visc.)との差(breakdown)が増加した。日本型米はインド型米に比べて最高粘度が高く、breakdownの大きいことが報告され、良食味米は低食味米より最高粘度が高くてbreakdownの大きいことが報告されている。今回の糊化特性試験より、イチゴやトマトの添加によって、精米粉の糊化特性が変化し、柔軟な良質米に近い糊化特性となることが示された。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例10(各種の野菜果実の添加効果)
実施例1と同様にして、トマトに替えて、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソをそれぞれ冷凍し、もち米に対して10質量%(乾物比)添加して蒸煮(混合蒸煮)、混ねつ、練り上げ、成形を行って餅を試作した。これらの餅は、色調と風味に優れ、製造後約15℃で5日おいた後も電子レンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)することによって軟らかい餅となり、その後も軟らかさが持続した。
なお、比較としてこれらの野菜果実を加えずに試作した餅の場合は、電子レンジで再加熱しても、時間経過とともに老化が速く進行し、硬くなってしまった。
【0055】
実施例11(温州ミカン添加餅)
300gのもち米を洗米後室温、約15℃で純水に5時間浸漬し、8つ割にカットして冷凍した温州ミカン150gあるいは冷凍していない温州ミカン150g(それぞれ乾物質量として約9g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮)。ついで、温州ミカンとともに蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、5日後にレンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)したものを、試食試験に供した。なお、比較例として、温州ミカンを加えずに上記の方法で製餅した。
その結果、上記で温州ミカンを添加して製造した着色餅は、冷凍/非冷凍にかかわらず約15℃で1日放置しても硬くならなかった。一方、比較例の温州ミカン無添加餅は、約15℃で1日保管後に著しく硬化した。
【0056】
これら3種類の餅の5名の専門家による食味試験結果の平均値を表2に示す。なお、食味評価の基準は全ての項目において、5点:きわめて良い、4点:よい、3点:普通、2点:やや劣る、1点:劣る、とした。
表2から分かるように、温州ミカンを冷凍で添加して製造した餅の方が、冷凍せずに添加した温州ミカン添加餅よりも一層軟らかくて粘りがあり、色調、風味(香り、味)が優れていた。これは、冷凍して添加した方が、混合蒸煮の初期において、温州ミカンのプロテアーゼやペクチナーゼなどの内在性酵素が活性を良く保持するために、もち米のタンパク質や細胞壁を部分分解し、製造後の物性を軟らかく保持するとともに、ミカンのフレーバー成分や天然色素も良く保持されるためと考えられる。
【0057】
【表2】
表2中、5:きわめて良い、4:よい、3:普通、2:やや劣る、1:劣る、を示す。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、呈色性、呈味性、機能性および耐老化性に優れた米加工食品(餅又はだんご)を提供することにより、米加工食品の需要を促し、市場拡大への貢献が期待され、稲作農業や米加工食品産業の発展に寄与するものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、米加工食品及びその製造方法に関し、詳しくは、原料に野菜及び/又は果実を添加して加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、外観及び品質の優れた餅又はだんごの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餅やだんごは日本の伝統的米加工食品であり、多くの人に好まれている。これらの餅あるいはだんごは、基本的に白色であり、消費者に好感を与えるものの、多様性に富んでいるとは言えない。
また、餅やだんごの主成分はデンプンであり、加熱糊化させた後に成型して製造するが、製造後に糊化デンプンが老化することによる硬化がしばしば問題となる。
【0003】
従来、餅やだんごを着色する例としては、食紅による赤色や、ヨモギや抹茶の添加による緑色、黒米の配合による紫色、あるいは赤米の添加による橙色、カレー粉の添加による黄色などが知られている(例えば特許文献1及び2参照)。緑色や黄色はクロロフィル類により得られ、黄色の大半、橙色および一部の赤色はカロテンとして知られる色素により生成され、青色、紫色および大部分の赤色は、アントシアニンとして知られる一群の色素によって得られる。
【0004】
これらの先行技術は、着色という点ではその目的を達成しているが、デンプンの硬化抑制の効果は認められず、通常の餅やだんごと同様に、経時的に硬化し、電子レンジなどで再加熱した場合にも、直後は軟らかくなるが、時間とともに硬さが顕著に増加する。
さらに、従来の染色では、ヨモギによるクロロフィルなど、一部の機能性成分と呈色の増加は可能であるが、赤色、橙色、紫色、青色などの呈色が不可能である上に、食するときにえぐ味が生じ、食後の良好な呈味性と美しい呈色性とを同時に得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−121号公報
【特許文献2】特開平5−308904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、着色の美しさだけでなく、良好な呈味と機能性成分の付与、そして時間の経過による餅又はだんごの硬化を著しく抑制することのできる、新しい餅又はだんごの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴は、天然色素によって着色され、果糖0.1〜10g/100gおよびグルタミン酸0.05〜2.0g/100gを含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが12kg/cm2以下である餅又はだんごを提供することであり、かかる餅又はだんごは、美しい色調で味が良く、製造後に時間が経過しても軟らかくておいしく食することができる。
【0008】
本発明の第2の特徴は、米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行う、餅又はだんごの製造方法であり、これによって糖類などの甘味成分およびアミノ酸などの旨味成分を餅又はだんごに付加できるとともに、ポリフェノールを加えることが少ないので製品にえぐ味を生じることなく、しかも野菜及び/又は果実中の加水分解酵素による米成分の分解による米加工品の柔軟化が可能となる。
【0009】
本発明の第3の特徴は、野菜及び/又は果実を冷凍状態で原料に添加して加熱調理することであり、これによって野菜及び/又は果実中の加水分解酵素が加熱調理の前半には失活せず、デンプン、タンパク質、細胞壁などの酵素分解が進行し、やわらかい食感の餅やだんごとなる。さらに、野菜及び/又は果実を冷凍状態で添加することによって、原料米との共存加熱調理時に過度の加熱を受けることがないので、ビタミン類や酵素類を中心とする生理活性成分の失活を防止することが可能となる。
【0010】
すなわち、請求項1に係る本発明は、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を含み、該野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖及びグルタミン酸を含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが12kg/cm2以下であることを特徴とする、外観及び品質の優れた餅又はだんごである。
請求項2に係る本発明は、米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、請求項1に記載の餅又はだんごの製造方法である。
請求項3に係る本発明は、前記野菜及び/又は果実を冷凍状態で前記原料に添加して加熱調理することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
上述の如く、本発明によれば、着色の美しさだけでなく、良好な呈味と機能性成分の付与、そして時間の経過による餅又はだんごの硬化を著しく抑制することのできる、新しい餅又はだんごの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるトマトと米との混合蒸煮を示す図である。図1(a)は混合蒸煮前の様子を、図1(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【図2】実施例1でトマトを加えて製造した餅を示す図である。
【図3】実施例2におけるイチゴと米との混合蒸煮を示す図である。図3(a)は混合蒸煮前の様子を、図3(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【図4】実施例2でイチゴを加えて製造した餅を示す図である。
【図5】比較例1におけるブルーベリーと米との混合蒸煮を示す図である。図5(a)は混合蒸煮前の様子を、図5(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【図6】比較例1でブルーベリーを加えて製造した餅を示す図である。
【図7】実施例3で試作した団子を示す図である。図7(a)はトマト入りだんごを、図7(b)はイチゴ入りだんごを、それぞれ示す。
【図8】実施例3におけるレンジ再加熱後2時間経過後のだんごの物性を示す図である。図8(a)は硬さ(H1)の測定値を、図8(b)は付着量(L3)の測定値を、それぞれ示す。図8中、左から順に比較例、イチゴ入りだんご、トマト入りだんご、の結果を示す。
【図9】実施例4における餅の老化試験結果を示す図である。図9中、aはイチゴ入り餅、bはトマト入り餅、cは比較例の標準餅、の結果を示す。
【図10】実施例5におけるレンジ再加熱後2時間経過後の餅の硬さを示す図である。図10中、左から順にイチゴ添加餅、イチゴ無添加餅、食紅添加餅、の結果を示す。
【図11】実施例6におけるイチゴ又はトマト添加調理によるタンパク質の分解を示す図である。図11中、Mは分子量マーカー、aは原料粉、bは単独調理後、cはイチゴ添加調理後、dはトマト添加調理後、を示す。
【図12】実施例7におけるトマトに含まれるタンパク質分解酵素の検出結果を示す図である。図12中の各レーンは、4種類のトマト試料を示す。
【図13】実施例8におけるトマトとトマトケチャップの添加炊飯効果の相違を示す図である。図13(a)はbrittleness、図13(b)はpliability、の測定結果を示す。図13中、(a)、(b)共に、左から順にトマト混合炊飯、トマトケチャップ混合炊飯、の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
本発明の餅又はだんごは、野菜及び/又は果実を含み、該野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖及びグルタミン酸を含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明における「野菜及び/又は果実」の例としては、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を挙げることができる。これらの果実や野菜は、天然色素、果糖などの糖類、グルタミン酸などのアミノ酸、及び内在性酵素を含み、餅やだんごの呈色、加味、柔軟化の効果を得ることができる。
【0015】
本発明における「天然色素」としては、前記した野菜又は果実に含まれる、アントシアニン系又はフラボノイド系色素、およびカロテノイド系色素が挙げられる。アントシアニン系色素としては、たとえばイチゴのカリステフィン、ナスのナスニンおよびヒアシンが例示される。さらに、カロテノイド系色素としては、トマトやスイカに含まれるリコピン、ニンジンのβ−カロテン、温州ミカンのβ−クリプトキサンチンなどを挙げることができる。
【0016】
本発明の餅又はだんごは、前記した野菜又は果実に由来する果糖などの糖類を含有する。本発明の餅又はだんごにおける果糖含量は、餅又はだんご100g中、0.1g以上10g以下、好ましくは0.1〜7.5g、より好ましくは0.2〜5gであることが必要である。100g中の果糖含量が0.1g未満では甘みが不十分であり、10gを超えると甘みが強すぎるので不適当である。
【0017】
本発明の餅又はだんごは、前記した野菜又は果実に由来するグルタミン酸などのアミノ酸を含有する。本発明の餅又はだんごにおけるグルタミン酸含量は、餅又はだんご100g中、0.05g以上2g以下、好ましくは0.05〜2.0g、より好ましくは0.1〜1.5gであることが必要である。100g中のグルタミン酸含量が0.05g未満では呈味性が不十分であり、2gを超えると旨みが強くなりすぎるので不適当である。
【0018】
本発明における「電子レンジ加熱」又は「電子レンジ再加熱」としては、通常の家庭用または業務用の電子レンジによるマイクロ波加熱で充分である。本発明の餅又はだんごがデンプンの老化(β化)により硬化した場合でも、当該餅又はだんご100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱することで、当該餅又はだんごを再加熱してデンプンを再糊化するという目的を達成することができる。
【0019】
本発明における「硬さ」とは、テンシプレッサー(タケモト電機製)で測定した硬さ(H1)を指し、その単位は「kg/cm2」である。
本発明の餅又はだんごにおいては、老化した餅又はだんごのデンプンを電子レンジ再加熱によって充分糊化させた後に、20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2、好ましくは2〜11.5kg/cm2、より好ましくは2〜11kg/cm2であることが必要条件である。硬さが2kg/cm2以下では軟らかすぎてコシがないので不適当であり、12kg/cm2を超えると硬すぎるので不適当である。
なお、上記において、20℃で2時間保存してから硬さを測定するのは、製造直後又は電子レンジ加熱直後の餅又はだんごは、物性の変化が大きく、粘りも強すぎて、測定が不可能であるためである。
【0020】
しかしながら、単に果実や野菜をもち米やうるち米に添加混合するのみでは、本発明の餅やだんごを柔軟化する効果は得られない。すなわち、果実及び/又は野菜と米とを高水分条件下で混合加熱調理することによって、果実や野菜中の内在性プロテアーゼ、内在性セルラーゼ、内在性ペクチナーゼ、内在性キシラナーゼ、内在性アミラーゼなどの各種の加水分解酵素が、米のタンパク質、細胞壁、デンプンなどの主要構成成分を部分分解し、本発明の柔軟化効果が達成されるのである。
【0021】
この柔軟化効果は、米の加熱調理時に当該果実及び/又は野菜を冷凍状態で添加することで一層効果を高めることができる。すなわち、内在性酵素が加熱によって失活する前にデンプンの糊化、タンパク質の変性、細胞壁の膨潤が進行し、酵素分解を受けやすくなるという効果が得られる。
【0022】
本発明に係る餅又はだんごの製造方法は、米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする。
【0023】
本発明において「米を主体とする原料」とは、一般的な餅及び/又はだんごの主原料であるもち米及び/又はうるち米、水、並びに調味料、食品添加剤など必要に応じて使用する他の副原料、を指す。
これらの原料は、野菜及び/又は果実を添加する前に、必要に応じて練り合わせて生地としてあっても良い。
【0024】
上記の野菜及び/又は果実の原料米に対する添加割合としては、乾物質量として、米の0.05質量%以上50質量%以下、好ましくは0.8〜30質量%、より好ましくは1.3〜15質量%であることが必要である。0.05質量%未満では着色や老化抑制の効果が不十分であり、50質量%を超える場合は餅やだんごの成形が困難となるので不適当である。
【0025】
本発明においては、上記の野菜及び/又は果実を冷凍状態で原料に添加することが望ましい。その理由は、加熱調理開始から沸点に至るまでに、米デンプンの糊化やタンパク質の変性を先行させて酵素分解を受けやすい構造にし、酵素の熱失活の前にデンプン、タンパク質あるいは細胞壁の分解を促進することで、野菜や果実の添加効果が一層顕著となるためである。よって、野菜及び/又は果実を冷凍せずに添加加熱しても一定の効果は得られるものの、冷凍状態で添加した方がさらに好適である。
また、野菜及び/又は果実を冷凍状態で原料に添加した場合は、上記の理由から、添加後速やかに、例えば添加後約5分以内に、加熱調理を開始することが望ましい。
【0026】
本発明における餅又はだんごは、通常の加水浸漬、加熱調理、練り上げ又は餅つき、冷却、成形という工程で製造することができる。ここにおいて、家庭用電気炊飯器、業務用連続式炊飯装置、家庭用製餅器、業務用製餅装置などを用いることができる。
【0027】
本発明の餅又はだんごの製造方法における「加熱調理」工程とは、炊飯や蒸煮、蒸練、誘電加熱、油ちょう、オートクレーブ処理、レトルト処理などを指す。本工程において、高水分条件下にて加熱調理することにより、添加した野菜及び/又は果実中の各種の加水分解酵素が、デンプン、タンパク質、細胞壁などの米成分を分解し、米デンプンを糊化させる効果がある。
【0028】
このように、本発明における加熱調理工程は水分存在下で行う必要があるが、ここにおいて必要な水分量とは、例えば、原料米を予め1〜10時間程度加水浸漬しておくことや、原料米乾物質量に対して0.5〜2倍程度の水を加えて加熱調理を行うことにより、満足することができる。
【0029】
本発明における「製餅」とは、加熱調理したもち米を、杵搗き、練りだしあるいは攪拌によって餅とし、成形することを指す。
本発明おける餅の製造工程としては、例えば、洗米したもち米及び/又はうるち米を加水浸漬し、そこへ冷凍状態の野菜及び/又は果実を加えて蒸し器で蒸煮した後、搗いて、成形することができる。
【0030】
本発明における「だんご製造」とは、加熱調理したうるち米を練り合わせて均一な生地とし、成形することを指す。
本発明おける餅の製造工程としては、例えば、もち米及び/又はうるち米粉末に砂糖、水を加えて練ったものに、野菜及び/又は果実の凍結乾燥粉末を加えて更に練り、成形した後、蒸し器で蒸煮することができる。
【0031】
以上に述べた本発明の餅又はだんごの製造方法は、原料米をイチゴ等の野菜及び/又は果実と混合炊飯又は混合蒸煮した後に、製餅又はだんご製造することによって、色彩、機能成分、呈味性、耐老化性等の点で優れた米加工食品を提供できる点を特徴とする。
【0032】
特に、混合炊飯時に、野菜及び/又は果実を冷凍状態で添加することで、米デンプンが糊化温度を超えて分解可能となる温度帯まで、野菜及び/又は果実に含まれる加水分解酵素の活性が失われないので、米のデンプンやタンパク質が酵素分解を受け、餅やだんごが製造後に硬化しにくくなり、耐老化性向上効果が顕著となる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施内容について実施例等で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1(トマト添加餅、図1及び図2)
300gのもち米を洗米後室温、約15℃で純水に5時間浸漬し、8つ割にカットして冷凍したトマト150g(乾物質量として約9g)及び輪切りにして冷凍したレモン10g(乾物質量として約0.6g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮、図1)。ついで、トマト、レモンと共に蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、試食試験に供した(図2)。なお、比較例として、トマト、レモンを加えずに上記の方法で製餅した。
【0035】
その結果、上記でトマトを添加して製造した着色餅は、約15℃で1日放置しても硬くならなかった。一方、比較例のトマト無添加餅は、約15℃で1日保管後に著しく硬化した。
図1(a)は混合蒸煮前の様子を、図1(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【0036】
実施例2(イチゴ添加餅、図3および図4)
300gのもち米を洗米後約15℃で純水に5時間浸漬し、冷凍したイチゴ150g(乾物質量として約9g)及び輪切りにして冷凍したレモン10g(乾物質量として約0.6g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮、図3)。ついで、イチゴ、レモンと共に蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、試食試験に供した(図4)。なお、比較例として、イチゴ、レモンを加えずに上記の方法で製餅した。
【0037】
その結果、上記でイチゴを添加して製造した着色餅は、約15℃で1日放置しても硬くならなかった。一方、比較例のイチゴ無添加餅は、約15℃で1日保管後に著しく硬化した。
図3(a)は混合蒸煮前の様子を、図3(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【0038】
比較例1(ブルーベリー添加餅、図5および図6)
300gのもち米を洗米後約15℃で純水に5時間浸漬し、冷凍したブルーベリー150g(乾物質量として約9g)及び輪切りにして冷凍したレモン10g(乾物質量として約0.6g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮、図5)。ついで、ブルーベリー、レモンと共に蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、試食試験に供した(図6)。その結果、約15℃で1日保管することで餅は硬くなった。
図5(a)は混合蒸煮前の様子を、図5(b)は混合蒸煮後の様子を、それぞれ示す。
【0039】
実施例3(イチゴあるいはトマト添加だんごの低老化性、図7および図8)
もち米粉末(新潟県産「こがねもち」)350g、うるち米精米粉(新潟県産「コシヒカリ」)150g、砂糖50gに、水350gを少しずつ加水して練り合わせ、−20℃の冷凍庫で冷凍しておいた。次に、冷凍したイチゴ(新潟県産「越後姫」)150gあるいは冷凍した市販トマト(「桃太郎」)150g(いずれも乾物質量として約9g)を、直前に細かく砕いて、解凍した前記のだんご生地に加え、練り合わせてだんごの形に成形した。これらを家庭用蒸し器で15分間、中火で蒸して、果実野菜入りだんごを製造した(図7)。図7(a)はトマト入りだんごを、図7(b)はイチゴ入りだんごを、それぞれ示す。
なお、比較例として、イチゴ又はトマトを加えずに上記の方法でだんごを製造した。
【0040】
上記で製造したイチゴ又はトマト入りだんごは、それぞれ0.92g/100gおよび0.26g/100gの果糖、0.74g/100gおよび0.85g/100gのグルタミン酸を含んでいた。
【0041】
また、これらのだんごを約15℃で5日保管後に、電子レンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)し、約20℃で2時間放置後にタケトモ電機製テンシプレッサーで測定した硬さ(H1)は、それぞれ10.2kgw/cm2(イチゴ)および10.4kg/cm2(トマト)あった(図8(a))。
これに対し、比較例のイチゴあるいはトマトを加えずに製造しただんごの場合は、製造後約15℃で5日放置した後に電子レンジで再加熱(500W、30秒)し、約20℃で2時間放置後にタケトモ電機製テンシプレッサーで測定した硬さが、14.6kgw/cm2であり、本発明例のだんごに比べてきわめて硬かった(図8(a))。
これらの結果から、比較例のだんごでは、レンジ再加熱後2時間経過して老化が進み硬化したが、本発明によりイチゴ又はトマトを添加して製造しただんごは、再加熱後2時間経過しても老化が抑制され、軟らかさが持続することが分かった。
【0042】
さらに、上記で製造しただんごを約15℃で5日保管後にレンジ再加熱し、20℃で2時間放置したときの付着量(L3)を、タケトモ電機製テンシプレッサーで測定した(図8(b))。付着量とは、粘度を示す指標であり、値が大きいほど粘度が高いことを示す。
図8(b)より、イチゴあるいはトマトを添加して製造した場合は、5日後においても付着量(L3)が23.9mmあるいは23.8mmmと大きいのに対し、無添加の餅は付着量が17.9mmと、顕著に小さくなっており、時間経過とともに粘りを失うことが判った。
【0043】
図8(a)は硬さ(H1)の測定値を、図8(b)は付着量(L3)の測定値を、それぞれ示す。図8(a)、(b)共に、左から順に比較例、イチゴ入りだんご、トマト入りだんご、の結果を示す。
【0044】
実施例4(イチゴ添加餅およびトマト添加餅の低老化性、図9)
実施例1および2で試作した、トマトあるいはイチゴを添加して試作した着色餅および比較例の無添加餅について、製造後約15℃で15時間保管した後にタケトモ電機製テンシプレッサーで硬さ(H1)を測定した。
その結果、イチゴ添加餅の場合は8.5kgw/cm2であり、トマト添加餅の場合は8.4kgw/cm2であり、きわめて軟らかかった。一方、比較例の場合は16.8kgw/cm2であり、本発明例の餅に比べてきわめて硬かった(図9)。図9中、aはイチゴ入り餅、bはトマト入り餅、cは比較例の標準餅、の結果を示す。
これらの結果から、比較例の餅は15時間後に老化して硬くなるが、イチゴ又はトマト入り餅は硬化しないことが分かった。
【0045】
実施例5(イチゴ添加餅および無添加餅、食紅添加餅の老化性の比較、図10)
米に対してイチゴの代わりに食紅0.1質量%を添加して着色したこと以外は、実施例2と同様にして食紅添加餅を製造した。実施例2で試作したイチゴ添加餅およびイチゴ無添加の標準餅、並びに前記の食紅添加餅の3種類の餅を、試作後約15℃で5日保管した後、電子レンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)し、20℃で2時間保管した後にタケトモ電機製テンシプレッサーで硬さ(H1)を測定した結果を、図10に示す。
図10中、左から順にイチゴ添加餅、イチゴ無添加餅、食紅添加餅、の結果を示す。
【0046】
その結果、イチゴ添加餅の場合、8.1kgw/cm2と軟らかかったのに対し、イチゴ無添加の標準餅および食紅添加餅は、それぞれ14.3kgw/cm2、15.0kg/cm2を示し、本発明例の餅に比べてきわめて硬かった(図10)。このことから、イチゴ無添加餅および食紅添加餅では、レンジ再加熱後2時間経過して老化が進み硬化したが、本発明によりイチゴを添加して製造した餅は、再加熱後2時間経過しても老化が抑制され、軟らかさが持続することが分かった。
また、本発明例のイチゴ添加餅は、色調のみならず、味と物性において、無添加餅および食紅添加餅より格段に優れていた。食紅の添加は着色には有効であるが、本発明のような餅の柔軟化効果や味の向上効果は得られなかった。
【0047】
実施例6(イチゴ、トマトの添加炊飯によるタンパク質の分解、図11)
冷凍したイチゴあるいはトマトを、それぞれ150g(乾物質量として約9g)計量し、うるち米(「コシヒカリ」)精米300gに加えて家庭用炊飯器によって混合炊飯した。炊飯後、−80℃のディープフリーザー中で凍結した後、凍結乾燥し、イワタニ製コーヒーミルサーで粉砕して粉末を得た。この粉末を、5%メルカプトエタノール、1%SDSを含むpH6.8のトリス緩衝液に溶解し、Laemmliの方法(Laemmli U. K.: Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacterophage T4. Nature 227, 680-685, 1970.)に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。
なお比較例として、未調理の前記精米を粉砕した粉末(原料粉)、および前記精米をイチゴ又はトマトを添加せずに炊飯し、凍結乾燥後粉砕して得た粉末(単独調理後)についても、上記と同様にSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。
【0048】
その結果、図11に示すように、精米を単独で炊飯した場合(b)は、原料粉の場合(a)と同様にタンパク質のバンドが顕著に出現するが、イチゴあるいはトマトを混合して炊飯した場合(c、d)は、タンパク質が分解されており、バンドが薄くなっていた。このことから、単独調理ではタンパク質は不変だが、イチゴやトマトを添加して調理すると、タンパク質が分解されて減少することが分かった。
図11中、Mは分子量マーカー、aは原料粉、bは単独調理後、cはイチゴ添加調理後、dはトマト添加調理後、を示す。
【0049】
実施例7(トマトの内在性プロテアーゼ、図12)
市販されている4品種のトマトを試料とし、以下の方法で内在性プロテアーゼの存在を確認した。
すなわち、トマトを凍結乾燥して粉砕し、50mMトリス塩酸緩衝液(pH6.8)で5℃、2時間抽出した液を試料とし、1%SDSとして0.01%のゼラチンを含む15%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDSゲル電気泳動を行った。電気泳動の後、1%トリトンX−100を含むトリス塩酸緩衝液(pH8.0)でゲルを30分間、2回洗浄することによりSDSの洗浄除去を行い、次いでトリトンX−100を含まないトリス塩酸緩衝液(pH8.0)でトリトンX−100も洗浄除去し、さらにトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で30℃一晩酵素反応させた。その後、CBBで32℃、1時間タンパク質を染色した結果、図12に示すように、全ての試料においてゲル中のゼラチンが分解されたプロテアーゼのバンドが顕著に出現し、トマトには内在性プロテアーゼの存在することが示された。
図12中の各レーンは、4種類のトマト試料を示す。
【0050】
実施例8(トマト混合炊飯とトマトケチャップ混合炊飯との比較、図13)
実施例6と同様に冷凍トマトをうるち米精米に混合して炊飯した。比較のため、トマトと同量の市販のトマトケチャップを添加して同様に混合炊飯した。これらの米飯を炊飯後、20℃で2時間保管した後、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて積算荷重測定を行った。
【0051】
その結果、図13に示すように、トマトケチャップ炊飯米飯に比べて、トマト添加米飯は、もろさを示すbrittlenessは小さく、柔軟性を示すpliabilityが大きく、内在性酵素によってタンパク質が分解されることによって米飯が柔軟化していることが示された。一方、トマトケチャップ添加炊飯の場合は、着色と風味の添加は可能であるが、本発明のような米飯の柔軟化効果は認められなかった。
図13(a)はbrittleness、図13(b)はpliability、の測定結果を示す。図13中、(a)、(b)共に、左から順にトマト混合炊飯、トマトケチャップ混合炊飯、の結果を示す。
【0052】
実施例9(トマト及びイチゴの添加による米粉粘度特性の変化)
市販のうるち米精米粉(品種名「コシヒカリ」)にイチゴあるいはトマトの凍結乾燥粉末5質量%を添加し、大坪らの方法(K. Ohtsubo, H. Toyoshima and H. Okadome: Quality assay of rice using traditional and novel tools. Cereal Foods World, 43(4),203-206, 1998.)に従ってフォス・ジャパン製ラピッドビスコアナライザー(RVA)による糊化特性試験を行った結果を表1に示す。
表1に示されるように、トマトやイチゴの凍結乾燥粉末を添加することで、精米粉の最高粘度が増加し、最高粘度(Max. Visc.)と最低粘度(Min. Visc.)との差(breakdown)が増加した。日本型米はインド型米に比べて最高粘度が高く、breakdownの大きいことが報告され、良食味米は低食味米より最高粘度が高くてbreakdownの大きいことが報告されている。今回の糊化特性試験より、イチゴやトマトの添加によって、精米粉の糊化特性が変化し、柔軟な良質米に近い糊化特性となることが示された。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例10(各種の野菜果実の添加効果)
実施例1と同様にして、トマトに替えて、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソをそれぞれ冷凍し、もち米に対して10質量%(乾物比)添加して蒸煮(混合蒸煮)、混ねつ、練り上げ、成形を行って餅を試作した。これらの餅は、色調と風味に優れ、製造後約15℃で5日おいた後も電子レンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)することによって軟らかい餅となり、その後も軟らかさが持続した。
なお、比較としてこれらの野菜果実を加えずに試作した餅の場合は、電子レンジで再加熱しても、時間経過とともに老化が速く進行し、硬くなってしまった。
【0055】
実施例11(温州ミカン添加餅)
300gのもち米を洗米後室温、約15℃で純水に5時間浸漬し、8つ割にカットして冷凍した温州ミカン150gあるいは冷凍していない温州ミカン150g(それぞれ乾物質量として約9g)を加え、家庭用蒸し器を用いて中火で30分蒸した(混合蒸煮)。ついで、温州ミカンとともに蒸米を家庭用製餅器で15分間、搗いた。丸餅に成形し、5日後にレンジで各々50gずつ再加熱(500W、30秒)したものを、試食試験に供した。なお、比較例として、温州ミカンを加えずに上記の方法で製餅した。
その結果、上記で温州ミカンを添加して製造した着色餅は、冷凍/非冷凍にかかわらず約15℃で1日放置しても硬くならなかった。一方、比較例の温州ミカン無添加餅は、約15℃で1日保管後に著しく硬化した。
【0056】
これら3種類の餅の5名の専門家による食味試験結果の平均値を表2に示す。なお、食味評価の基準は全ての項目において、5点:きわめて良い、4点:よい、3点:普通、2点:やや劣る、1点:劣る、とした。
表2から分かるように、温州ミカンを冷凍で添加して製造した餅の方が、冷凍せずに添加した温州ミカン添加餅よりも一層軟らかくて粘りがあり、色調、風味(香り、味)が優れていた。これは、冷凍して添加した方が、混合蒸煮の初期において、温州ミカンのプロテアーゼやペクチナーゼなどの内在性酵素が活性を良く保持するために、もち米のタンパク質や細胞壁を部分分解し、製造後の物性を軟らかく保持するとともに、ミカンのフレーバー成分や天然色素も良く保持されるためと考えられる。
【0057】
【表2】
表2中、5:きわめて良い、4:よい、3:普通、2:やや劣る、1:劣る、を示す。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、呈色性、呈味性、機能性および耐老化性に優れた米加工食品(餅又はだんご)を提供することにより、米加工食品の需要を促し、市場拡大への貢献が期待され、稲作農業や米加工食品産業の発展に寄与するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を含み、該野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖0.1〜10.0g/100g及びグルタミン酸0.05〜2.0g/100gを含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2であることを特徴とする、外観及び品質の優れた餅又はだんご。
【請求項2】
米を主体とする原料に、前記野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことにより製造される、請求項1に記載の餅又はだんご。
【請求項3】
前記野菜及び/又は果実を冷凍状態で前記原料に添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことにより製造される、請求項2に記載の餅又はだんご。
【請求項4】
米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の餅又はだんごの製造方法。
【請求項5】
前記野菜及び/又は果実を冷凍状態で前記原料に添加して加熱調理することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項1】
イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を含み、該野菜及び/又は果実が持つ天然色素によって着色され、果糖0.1〜10.0g/100g及びグルタミン酸0.05〜2.0g/100gを含み、100gあたり500Wで1分間電子レンジで加熱した後に20℃で2時間保存した場合の硬さが2〜12kg/cm2であることを特徴とする、外観及び品質の優れた餅又はだんご。
【請求項2】
米を主体とする原料に、前記野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことにより製造される、請求項1に記載の餅又はだんご。
【請求項3】
前記野菜及び/又は果実を冷凍状態で前記原料に添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことにより製造される、請求項2に記載の餅又はだんご。
【請求項4】
米を主体とする原料に、イチゴ、トマト、バナナ、メロン、桃、ウメ、リンゴ、ミカン、夏蜜柑、グレープフルーツ、レモン、サクランボ、スイカ、キウイ、ホウレンソウ、ブロッコリー、ナス、キュウリ、ニンジン、シソからなる群から選ばれた1種類以上の野菜及び/又は果実を添加して、水分存在下で加熱調理した後に、製餅又はだんご製造を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の餅又はだんごの製造方法。
【請求項5】
前記野菜及び/又は果実を冷凍状態で前記原料に添加して加熱調理することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−170399(P2012−170399A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35511(P2011−35511)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
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