説明

多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法

【課題】発酵液や果実廃液等の多価フェノール含有液から、多価フェノールを選択的に回収できる多価フェノール回収方法を提供すること。
【解決手段】導電性電着基材上に多価フェノールを析出する電着工程と、該導電性電着基材上に析出した多価フェノールを分離する分離工程とを有する多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法であって、前記導電性電着基材として、導電性の炭素基材を用い、アルカリ条件下において多価フェノールを析出することを特徴とし、好ましくは、前記分離工程で分離された多価フェノールを精製する精製工程を有する多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法に関し、詳しくは多価フェノール含有液から選択的に多価フェノールを回収できる多価フェノール回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多価フェノールは、近年、健康機能素材として最も注目を集めている素材であり、種々の生理機能効果が開発されてきている。細菌、ウィルス等への抵抗力、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用、血中コレステロール低下作用、更には、高血圧、糖尿病、肥満、動脈硬化等、その効果は医療分野の多岐に及ぶ。
【0003】
また、食品分野においても、多価フェノールを利用して、飲食品の呈味改善や、劣化防止を図る手法等が提案されてきている。
【0004】
このように多価フェノール類は有用であるが、これを化学合成によって量産することは困難であり、ほとんどをバイオマスからの回収に頼っている。そのため、効率的な多価フェノールの回収方法が、強く求められている。
【0005】
特許文献1には、発酵液から有価物を回収する方法として、銀を付着させた導電性の炭素繊維集合体電極を用いて、該電極上に有価物を析出する方法が示されている。
【0006】
この方法によれば、多価フェノールを含む有価物を、析出により回収することが可能であるが、多価フェノール以外の有価物、特にクエン酸が優先的に析出し、それらの混合物として回収されるため、その後、クエン酸と多価フェノールを分離するための工程を別途設ける必要があるなど、解決すべき課題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−220310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、発酵液や果実廃液等の多価フェノール含有液から、多価フェノールを選択的に回収できる多価フェノール回収方法を提供することを課題とする。
【0009】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0011】
(請求項1)
導電性電着基材上に多価フェノールを析出する電着工程と、該導電性電着基材上に析出した多価フェノールを分離する分離工程とを有する多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法であって、
前記導電性電着基材として、導電性の炭素基材を用い、アルカリ条件下において多価フェノールを析出することを特徴とする多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
(請求項2)
前記分離工程で分離された多価フェノールを精製する精製工程を有することを特徴とする請求項1記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
(請求項3)
前記導電性電着基材上に析出した多価フェノールを分離する工程は、前記導電性電着基材の極性を電着時と逆転させることを特徴とする請求項1又は2記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
(請求項4)
前記導電性の炭素基材が、導電性の炭素繊維集合体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
(請求項5)
前記多価フェノール含有液が、発酵液又は果実廃液であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発酵液や果実廃液等の多価フェノール含有液から、多価フェノールを選択的に回収できる多価フェノール回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の回収方法を実施する装置の一例を示す説明図
【図2】本発明の回収方法を実施する装置の他の例を示す説明図
【図3】実験装置の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、詳述する。
【0015】
多価フェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を有する化合物を言い、例えば、フラバン類、カルコン類、フラバノン類、フラボン類、フラボノール類、フラバノノール類、フラバノール(カテキン)類、イソフラボン類、アントシアニジン類、スチルベノイド等のフラボノイド系や、リグナン、クマリン、クルクミン、クロロゲン酸、エラグ酸、タンニンの成分であるフェニルカルボン酸(没食子酸)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明に用いることができる多価フェノール含有液は、多価フェノールを少なくとも含み、それ以外に例えばクエン酸等のオキシカルボン酸類や、アミノ酸類等を含有する液であり、具体的には、焼酎発酵蒸留残渣や食品残渣メタン発酵消化液等の発酵液又は果実廃液等が挙げられる。
【0017】
本発明において、多価フェノールを選択的に回収するには、導電性電着基材として、導電性の炭素基材、好ましくは導電性の炭素繊維集合体を用い、アルカリ条件下において多価フェノールを析出する方法が採用される。
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は本発明の回収方法を実施する装置の一例を示す説明図であり、図に示す装置は、導電性電着基材に印加する電位を例えば反転させて電着と溶出を交互に行うバッチ式(回分式)の回収プロセスを示している。
【0020】
同図において、1は多価フェノール含有液導入管であり、2は電解槽である。
【0021】
電解槽2の内部には、作用極である導電性電着基材20と対極21を備え、両電極20、21の間には必要により隔膜22が設けられている。23は回収処理後の多価フェノール含有液を取り出す排出管である。
【0022】
導電性電着基材20に電着された多価フェノールは極性の反転やアルカリ洗浄により、電着された多価フェノールを分離する。分離された多価フェノールは溶出液と共に外部に取り出されて、晶析等の精製手段で精製される。
【0023】
図示の例では、多価フェノールを溶出した溶出液は溶出液配管24を介してタンク25に貯留され、溶出液ポンプ26により、図示しない精製手段に輸送される。なお溶出液の一部は溶出液ポンプ26により電解槽2に返送することができる。
【0024】
本発明において、電着、溶出を行う作用極として用いられる導電性電着基材20としては、導電性の炭素基材が用いられる。導電性の炭素基材の形状は、グラッシーカーボン板などの平板状、燃料電池電極などの多孔質極板状、カーボンクロスやカーボンフェルトなどの炭素繊維集合体が好ましく使用できる。多孔質炭素や炭素繊維集合体のように比表面積を大きくした導電性電着基材が効率よく多価フェノールを捕捉できる。ただし、被処理液が乳濁液や懸濁液の場合は、目詰まりが起こらない平板状とすることが好ましい。
【0025】
カーボンクロスやカーボンフェルトなどの導電性の炭素繊維集合体は、セルロース、ポリアクリルニトリル、ピッチ系などの炭素原子を含む繊維を用いて形成した織布又は不織布を、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1500℃以上で空気を遮断して焼成し、炭素質化あるいはグラファイト質化して導電性を付与することによって得られる。
【0026】
更に、導電性の炭素基材表面を、酸化処理等によって処理し、水素あるいは酸素過電圧を向上させて用いることも好ましい。
【0027】
かかる導電性電着基材20の形状は、基材表面に多価フェノールを電着することができ、それを溶出することにより容易に回収することができる形状であれば任意であり、例えば導電性の炭素繊維集合体を平板状、波板状等に賦形する態様が挙げられる。
【0028】
本発明では、導電性電着基材20として、導電性の炭素基材を用いているので、印加可能な電位幅が広く、多価フェノールの電着、及び、溶出に好適な電位幅をカバーすることができる。
【0029】
導電性電着基材として、従来のように銀を付着させた基材を用いた場合には、基材上に付着させた銀は、印加電位に対して不安定であり、0.2V(vs Ag/AgCl)以上において、銀が溶出し、−0.1V(vs Ag/AgCl)以下においては、銀が単体化し、析出有価物を剥離・溶出させてしまうため、使用範囲が限られている。この使用範囲では、多価フェノールの電着、及び、回収に適した電位幅をすべてカバーすることは不可能であり、効率的な方法ではない。
【0030】
対極21には、通常の電極として用いられるものを使用することができ、隔膜22を挟んで導電性電着基材20に対峙させる態様や、あるいは無隔膜式の態様が挙げられる。電流効率を重視しなくても良い場合は無隔膜式でも十分である。この無隔膜式の場合には膜の目詰まりの問題が回避できる効果がある。図2には無隔膜式の例が示されている。
【0031】
本発明における、多価フェノールの電着法例について説明する。
【0032】
まず、作用極である導電性電着基材20、及び対極21から成る電極系の少なくとも導電性電着基材20側に多価フェノール含有液を導入し、該多価フェノール含有液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを溶解してアルカリ条件とした後、多価フェノールを含む固形物を該導電性電着基材20上に電着させて回収する。
【0033】
前記アルカリ条件としては、pH7〜11程度の範囲とし、好ましくは、pH7〜9の範囲とする。
【0034】
電着時における導電性電着基材の電極電位は、−0.7V〜−1.5V(vs Ag/AgCl)の範囲に設定し、好ましくは、−0.9V〜−1.2V(vs Ag/AgCl)の範囲に設定する。
【0035】
次に、多価フェノールの精製・回収法例について説明する。
【0036】
まず、多価フェノールを含む固形分が電着した導電性電着基材上から多価フェノールを溶出させる。この操作は、電位を印加せずに、あるいは、+0.5V〜−0.5Vの範囲の印加で水洗、弱アルカリ水溶液、あるいは揮発性有機溶媒での洗浄によって行う。容易に溶出させるためには、0.5Nの水酸化ナトリウム溶液等によって洗浄することが好ましい。
【0037】
上記溶出操作の前に、電着固形分を水などにより洗浄することで、多価フェノール以外の固形分を除去してもよい。
【0038】
また、上記溶出操作を加温下で行うことは、多価フェノールの液側への溶解性を高める効果があるため好ましい。
【0039】
さらに、以上の電着、溶出を繰り返して、精製度を向上させること等が可能である。
【0040】
多価フェノールの洗浄液からの回収法としては、洗浄液にアルカリを用いた場合は、溶出成分を含む溶液を中和した後、温度を下げて、多価フェノールを析出させて回収することができる。また、洗浄液に揮発性有機溶媒を用いれば、溶媒の分離が容易になって多価フェノールを速やかに回収できる。有機性溶媒はn−ヘキサン、エーテル、アルコール等の極性、非極性溶媒を用いることができる。
【0041】
次に、導電性電着基材20への多価フェノールの選択的な析出例のメカニズムについて説明する。
【0042】
本発明者は、多価フェノール含有液から選択的に多価フェノールを析出させるために、酸解離定数に着目した。酸解離定数は、例えばクエン酸のpKa値が2.87であるのに対して、多価フェノールのpKa値は約10である。一般に、pKa値が小さいほど、強い酸であり、プロトンを放出してイオン化する傾向が強い。
【0043】
pH6〜9、好ましくはpH7〜9の領域において、導電性電着基材表面の電位を十分な還元状態に置くことによって、多価フェノール化合物のようなpKa値の大きい難解離性の分子は、いち早く溶解性が低下して、電離しない還元態で導電性電着基材上に電着される。
【0044】
一方、クエン酸等のオキシカルボン酸類や、アミノ酸類は、このようなpH領域では、まだイオン解離状態にあり、導電性電着基材に電着されずに液中に存在し続ける。
【0045】
つまり、導電性電着基材の表面電位や溶液のpHを特定の条件に設定することで、クエン酸等のオキシカルボン酸類や、アミノ酸類の大部分がイオン解離した状態(つまり溶液中に拡散した状態)で、多価フェノールのみを選択的に陰極に析出させることが可能である。
【0046】
また、これを極性反転やアルカリ洗浄することによって、多価フェノールを濃縮液として回収することができる。これをさらに晶析法などに供し、精製された多価フェノールを得ることもできる。
【0047】
以上、本発明に関して導電性電着基材を用いた電着法による多価フェノール回収方法について説明したが、上述したように導電性電着基材に印加する電位を反転させて電着と溶出とを交互に行うことにより多価フェノールを回収してもよいし、また反転によって電着と溶出とを交互に行うに際して、溶出液としてアルカリ水溶液を使用することは好ましい態様である。更に電着と溶出とを交互に行うに際して、反転させずにアルカリ洗浄のみで溶出させることも可能である。
【0048】
また晶析法によって多価アルコールの精製などを行える効果もある。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0050】
(実施例1)
試料として黒糖焼酎粕原液、及び麦焼酎粕エーテル抽出物を用い、それぞれに含まれる多価フェノールを回収する実験を行った。
【0051】
実験装置としては、図3に示す基礎試験用電気化学リアクター(小型シングルセル)を用いた。
【0052】
Aは導電性電着基材から成る作用極、Bは対極であり、共にリン酸型燃料電池用の多孔質溝切炭素電極を用い、それぞれに集電用炭素板Dを圧着して使用した。作用極室出口の配管に参照電極(銀塩化銀電極)を設けた。作用極Aと対極Bの間には、隔膜Cを配置した。隔膜は陽イオン交換膜(セレミオンCMV)用いた。Eは集積シートであり、Fは押さえ用樹脂板である。
【0053】
黒糖焼酎粕原液、麦焼酎粕エーテル抽出物ともに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7とし、この試料液Gを作用極Aのセルに導入し、−1.0V(vs Ag/AgCl)で電着を行った。Hは対極液(酢酸−酢酸ナトリウム水溶液)である。両極間の印加電圧は、1.1V、電流値は平均3mA程度であった。溶出は電位を印加せずに0.5Nの水酸化ナトリウム100mLを循環して、液中に多価フェノールを溶出させて回収した。
【0054】
電着所要電力は、本試験から推定すると、100Wh/m(焼酎粕)であり、所要電力の30%程度はポンプ動力である。
【0055】
(比較例1)
水酸化ナトリウム水溶液を添加せずに、そのまま−1.0Vで電着させた。その他の条件は溶出を含めて、実施例1と同様に行った。両電極間の印加電圧は1.3V、電流値は平均5mA程度であった。
【0056】
更に、実施例1、及び比較例1にて得られた電着回収物を1Lの水に溶解し、残存する共雑物量の目安として酸化還元当量値(COD)を測定した。
【0057】
さらに、原液(黒糖焼酎粕原液[FeIII滴定法:35mg/100mL、CODMn:52000mg/L]、又は、麦焼酎粕上澄エーテル抽出物[FeIII滴定法:220mg/100mL、CODMn:52000mg/L])のCODをもって、ポリフェノール含有量を推定した(ポリフェノール含有量の推定において、想定化学種をクロロゲン酸[2価の酸化還元当量、分子量350]とした。)。この推定値は、UV及び電気化学的検出器を有する液体クロマトグラフで定量した値とほぼ一致した。
【0058】
更に、UV及び電気化学的検出器を有する液体クロマトグラフによって、回収物を分析した結果、キノン−ヒドロキノン系酸化還元性物質と考えられる主ピークが2つ観察された。このことから、複数種のポリフェノールが回収されているものと考えられる。
【0059】
結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【符号の説明】
【0061】
1:多価フェノール含有液導入管
2:電解槽
20:導電性電着基材
21:対極
22:隔膜
23:排出管
24:溶出液配管
25:タンク
26:溶出液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性電着基材上に多価フェノールを析出する電着工程と、該導電性電着基材上に析出した多価フェノールを分離する分離工程とを有する多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法であって、
前記導電性電着基材として、導電性の炭素基材を用い、アルカリ条件下において多価フェノールを析出することを特徴とする多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
【請求項2】
前記分離工程で分離された多価フェノールを精製する精製工程を有することを特徴とする請求項1記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
【請求項3】
前記導電性電着基材上に析出した多価フェノールを分離する工程は、前記導電性電着基材の極性を電着時と逆転させることを特徴とする請求項1又は2記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
【請求項4】
前記導電性の炭素基材が、導電性の炭素繊維集合体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。
【請求項5】
前記多価フェノール含有液が、発酵液又は果実廃液であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の多価フェノール含有液からの多価フェノール回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−235992(P2010−235992A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83746(P2009−83746)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】