説明

多周波アンテナ

【課題】 パソコンあるいはPDA等の情報端末機器等の内部に組込むアンテナにおいて、低周波域での帯域幅不足を解消することにより、通信感度が改善された多周波アンテナを提供する。
【解決手段】給電点P1が付与されるエレメント部1とアースポイントP2が付与されるグランド板4とが短絡部3を介して接続され、且つ、エレメント部1が短絡部3に接続された高周波側放射エレメント1aと、その端部から折り返し状に延出し、高周波側放射エレメント1aとは逆方向に指向する低周波側放射エレメント1bとからなる2周波用アンテナにおいて、低周波側放射エレメント1bの一部1cとグランド板4からエレメント部1に延出した細幅状導体2aとで両端が開放されたスリットS1を形成する。なお、スリットSの開放部近傍の高周波側放射エレメント1aの端部の給電点P1と、グランド板4の縁部のアースポイントP2に、給電用同軸ケーブル5を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、PDA(携帯型情報機器)、携帯電話、あるいはVICS等の情報端末機器等に内蔵させるのに有用な多周波アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線LANあるいはBluetooth(近距離無線データ通信システム)搭載のPDA等においては、それらに採用されるアンテナについて、その多周波化とともに小型化の要求がますます強くなってきている。この要求に応えるため、本出願人は先に、小型化の可能な2周波アンテナを提案した(特願2004−101374号)。
【0003】
この2周波アンテナは、図5に示されるように、エレメント部(1)が短絡部(3)を介してグランド板(4)に接続され、その際、該エレメント部(1)は矩形状のグランド板(4)に並行に延出する細幅状の高周波側放射エレメント(1a)および該高周波側放射エレメント(1a)の先端に接続し且つ該高周波側放射エレメント(1a)と反対方向に延出する細幅状の低周波側放射エレメント(1b)を含んでいる。その結果、高周波側放射エレメント(1a)と短絡部(3)とグランド板(4)とで、片端が開放されたスリット(S)が形成されている。
【0004】
さらに、スリット(S)の開放端に面した高周波側放射エレメント(1a)の角に給電点(P1)が、そして、スリット(S)の開放端に面したグランド板(3)の角にアースポント(P2)が設けられる。そして、同軸ケーブル(5)の内部導体を給電点(P1)に、他方、該ケーブルの外部導体をアースポイント(P2)に接続したうえで、エレメント部(1)に給電することによりスリット(S)が高周波側放射エレメント(1a)の最大共振点近傍に共振点を有するスリットアンテナとして機能するように工夫されている。なお、(A)は高周波側放射エレメント(1a)と低周波側放射エレメント(1b)との接続部である。
【0005】
ところで、このようなアンテナにおいては、そこそこの通信品質は確保されるものの、使用環境によって、特に低周波域での帯域幅不足により通信感度不良が生じることが判明した。しかも、この問題は、上記の2周波アンテナに限らず、細幅状の高周波側放射エレメントと細幅状の低周波側放射エレメントとを含むエレメント部全般に共通する問題でもあることも確認された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、特に低周波域での帯域幅不足を解消することにより、通信感度がさらに改善された多周波アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、低周波側放射エレメントの先端部分と、グランド板から延出した導体とでスリット部を形成するとき、低周波域での共振周波数が低減し、もって帯域幅不足が解消されることを究明した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多周波アンテナ(以下、“アンテナ”と略記する)によれば、以下のような格別顕著な効果が奏される。
(1)低周波域での帯域幅が広がるので、より安定した通信感度が確保される。
(2)低周波側エレメント部の一部分をスリット形成に利用するので、該エレメント長が短縮化され、その分だけアンテナが小型化される。
(3)導体とエレメント部と短絡部とを同一平面に配置することにより、アンテナが薄型化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、添付図面を参照しながら説明する。
図1(a)および(b)はそれぞれに、本発明に係るアンテナの例を示す正面図である。
図2は、本発明に係るアンテナの別の態様を示す正面図である。
図3は、図2のアンテナに給電用同軸ケーブルを取り付けた際の斜視図である。
図4は、図2のアンテナの変形態様を示す正面図である。
図5は、2周波に対応した先願発明のアンテナの一例を示す斜視図である。
図6は、本発明のアンテナの周波数特性を示すグラフである。
【0010】
図1(a)〜(b)には、図5のアンテナに、以下に詳述する導体(2)が接続した例が示されている。図1(a)〜(b)において、(1)、(1a)、(1b)、(3)、(4)、(A)、(S)、(P1)および(P2)は、図5の場合と同じである。他方、(1c)は低周波側放射エレメント(1b)の先端部分、そして、(2)は、低周波側放射エレメント(1b)の先端部分(1c)に対向するグランド板(4)の端部近傍から延出した導体である。この導体(2)は、図1(a)では、短絡部(4)の一方端部(図面に向かって左端部)から延出し且つ細幅状導体(2a)と接続部(2b)とからなるL字状導体として、また、図1(b)では、短絡部(4)の一方の端部から延出したブロック形状の導体として例示されている。これら図1(a)〜(b)に特徴的なことは、導体(2)が、図5の低周波側放射エレメント(1b)とグランド板(4)との空間に完全に内包されていることである。
【0011】
さらに、(S1)は低周波側放射エレメント(1b)の先端部分(1c)と細幅状導体(2a)とで形成された両端開放型のスリット、(L1)はスリット(S1)の幅、そして、(L2)はスリット(S1)の長さである。
【0012】
本発明で特徴的なことは、低周波側放射エレメント(1b)の先端部分(1c)とグランド板(4)につながる導体(2)とで、新たに両端開放型のスリット(S1)が形成されていることにある。これにより、両端開放型スリット(S1)がそれを形成する導体間(低周波側放射エレメント(1b)の先端部分(1c)とグランド板(4)につながる導体(2)の間)の電解を強めるように作用し、しかも容量性結合部として機能するので、低周波域の共振周波数を低減させることができ、その結果、より低周波数域まで安定した送受信が確保される。しかも、この効果は、図5のアンテナ外形を増大させることなく奏されることも、本発明の特徴として強調される。この場合、導体(2)とエレメント部(1)と短絡部(3)とが同一平面上に位置していると、アンテナの厚さ方向の寸法も縮小される。
【0013】
ここで、スリット(S1)が電界を強める作用および容量性結合部として機能するためには、その幅(L1)が0.3mm〜3mmの範囲にあるのが好ましく、特に0.5mm〜1.5mmの範囲にあるのが好ましい。他方、その長さ(L2)については、低周波側放射エレメント(1b)の長さの10%〜80%にあればよい。勿論、このときの低周波側放射エレメント(1b)とは、それ単独で所定の周波域に対応する長さである。具体的には、低周波領域の共振周波数および帯域幅との関連で、5mm〜50mmの範囲にあるのが好ましい。また、その材質は接続部(2b)も含めて、後述するエレメント部(1)、短絡部(3)およびグランド板(4)と同じ材質とすることが好ましい。
【0014】
上記のスリット(S1)の特筆すべき利点として、低周波側放射エレメント(1b)の長さが短縮されることが挙げられる。すなわち、所定の波長域に対応するために必要とされる低周波側放射エレメント(1b)の本来の長さが、後掲の実施例にも示すように、大幅に短縮される。図2〜図3には、図1の低周波側放射エレメント(1b)の長さが短縮された状態で供される態様が示されている。このようなアンテナにあっては、その外形が増大することなく、低周波域の共振周波数が低減するので、通信感度の改善と外形の小型化とがより好ましく実現される。
【0015】
図4には、本発明のさらに別の態様が示されている。この態様では、図2〜図3のアンテナに、さらに、細幅状導体(2a)と細幅状導体(2c)とで形成した片端開放型スリット(S2)が付加されている。こうすることにより、スリット(S2)がスリット(S1)と相乗的に機能し、図1あるいは図2〜図3のアンテナに比べて、さらに共振周波数が低減し、より安定した通信感度が得られる。このスリット(S2)の幅、長さは、共振周波数の低減度に応じて設定される。一方、その材質は、スリット(S1)と同じでよい。勿論、このスリット(S2)は、図3の導体(2)にも同様に適用される。
【0016】
これまで、スリット(S1)は、低周波側放射エレメント(1b)とグランド板(4)との空間に内包された例について述べたが、スリット(S1)は、必ずしもそうされる必要はない。つまり、アンテナ外形の少々の増加が許容される場合は、例えば、図2の接続部(2b)を延長して、細幅状導体(2a)をエレメント(1a)の外側に配置しても、同様の効果が奏される。
【0017】
本発明のその余の構成について説明する。
【0018】
本発明においては、エレメント部(1)の高周波側放射エレメント(1a)の長さは採択しようとする波長の概ね1/4の長さに設定し、他方、その幅は1mm〜5mmの範囲から適宜採択する。さらに、その厚さについては格段の制約はないが、0.1mm〜1mm程度で十分である。また、高周波側放射エレメント(1a)と低周波側放射エレメント(1b)との間隔は、安定した動作を確保するため、それぞれに1mm以上であることが好ましい。これらの間隔が1mm未満では電磁干渉等の不安定現象が生じる懸念がある。
【0019】
これらの放射エレメント(1a)、(1b)の材質としては、洋白(白銅)、銅、鉄、黄銅等の導電性の金属が好ましく採用される。高周波側放射エレメント(1a)および低周波側放射エレメント(1b)の作成にあたっては、上述の金属の一枚板を打ち抜いて、導体(2)、短絡部(3)およびグランド板(4)と一体打ち抜き体としてもよい。あるいは、平板状絶縁性基板上に銅箔のような金属薄膜を貼り付けた状態で、該金属薄膜をエッチングして所望のアンテナ形状を得るのも有用である。
【0020】
また、グランド板(4)については、安定したアンテナ動作を得るためには、グランド板(4)の必要最低面積(mm2)は(λ/4)×(λ/4)以上を満足することが好ましい(λは波長)。この点に関して、図1〜図4に示すように、グランド板(4)につながる導体(2)が同時にグランド板の機能も呈するので、その分だけ本来のグランド板(4)の面積を縮小化できるという副次的効果も奏される。他方、短絡部(3)については、エレメント部(1)とグランド板(4)とを接続する機能を呈する限り、その形状は任意である。
【0021】
給電用同軸ケーブル(5)としては、周知のフッ素樹脂被覆等の高周波同軸ケーブルが採用される。このケーブル(5)の内部導体の終端は、スリット(S)の開放部近傍、すなわち該ケーブル(5)が該開放端を跨ぐ状態で給電点(P1)に接続し、外部導体はグランド板(4)上に設けられたアースポイント(P2)に接続する。同軸ケーブル(5)を給電点(P1)及びアースポイント(P2)に接続するには、ハンダ付あるいは超音波接続等を利用すればよい。
【0022】
以上に述べたアンテナには、必要に応じて変形や変更がなされる。例えば、上述の板金などの一体打ち抜きにより得られる平面アンテナは、その取付け空間の状況に応じて立体的に変形して配置されてもよいし、基板アンテナにも接続されてもよい。さらに、本発明のアンテナは、放射エレメントの構成本数に応じて3周波以上の多周波に展開できることは言うまでもない。
【実施例】
【0023】
以下に、図2〜図3に示した2周波対応の平面アンテナを、パソコン内蔵用として適用する例について示す。
【0024】
(1)図2のアンテナの作成
厚さが0.4mmの洋白(白銅)平板の一体打ち抜きして、以下の仕様のアンテナを得た。
a.高周波側放射エレメント(1a):長さ40mm×幅1.5mm(1.8GHzの波長に対応)
b.短絡部(3):長さ1.5mm×幅5mm
c.低周波側放射エレメント(1b):長さ70mm×幅2mm
d.接続部(A):幅2mm
e.低周波側放射エレメント(1b)と高周波側放射エレメント(1a)との間隔:2mm(平行配置)
f.導体(2):
f−1.細幅状導体(2a):長さ30mm×幅1mm
f−2.接続部(2b):長さ3.5mm×幅2mm
g.スリット(S1):(L1)0.5mm×(L2)25mm
h.グランド板(4):長さ80mm×幅2.5mm(パソコンの金属筐体に接続)
i.給電点(P1):スリット(S)の開放部に面した高周波側放射エレメント(1a)の右端角近傍
j.アースポイント(P2):スリット(S)に面したグランド板(4)の縁近傍(給電点(P1)に対向する位置)。
【0025】
(2)図3のアンテナの完成
給電用同軸ケーブル(5)として、外径1.13mm、内部導体径0.24mmのフッ素樹脂(PFA)被覆の高周波同軸ケーブルを用意し、その先端部で内部導体および外部導体を露出させた。そして、該ケーブルがスリット(S)の開放部を跨ぐ形で、該内部導体の終端部を給電点(P1)に、そして該外部導体をアースポイント(P2)にそれぞれハンダにより接続した。
【0026】
(3)アンテナの評価
得られたアンテナの周波数特性を測定した。この結果、図6の周波数特性に示すように、0.8GHz帯の低周波域でも十分な帯域幅が確保されていた。ここで特筆されるのは、上記0.8GHzの波長域に対応する低周波側放射エレメント(1b)の本来の長さは90mmであるが、本発明によれば、スリット(S1)が奏する共振周波数低減効果により70mmで済み、20mmも短縮されたことである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のアンテナはコンパクトで、しかもしかも、低周波域でも十分な帯域幅が確保され、安定した通信特性を具備するので、パソコンの他に、PDA、携帯電話、あるいはVICS等、各種情報端末機器のみならず、通信機能を有した情報家電、さらには自動車関連機器へも同様に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)および(b)はそれぞれに、2周波に対応した本発明のアンテナの例を示す正面図である。
【図2】本発明に係るアンテナの別の態様を示す正面図である。
【図3】図2のアンテナに給電用同軸ケーブルを取り付けた際の斜視図である。
【図4】図2のアンテナの変形態様を示す正面図である。
【図5】2周波に対応した先願のアンテナの一例を示す斜視図である。
【図6】図6は、本発明のアンテナの周波数特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 エレメント部
1a 高周波側放射エレメント
1b 低周波側放射エレメント
1c 低周波側放射エレメントの先端部
2 導体
2a 細幅状導体
2b 細幅状導体とグランド板との接続部
2c 細幅状導体
3 短絡部
4 グランド板
5 給電用同軸ケーブル
A 高周波側放射エレメント(1a)と低周波側放射エレメント(1b)との接続部
S、S1、S2 スリット
L1 スリット(S1)の幅
L2 スリット(S1)の長さ
P1
給電点
P2 アースポイント

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電点が付与されるエレメント部とアースポイントが付与される矩形状のグランド板とが短絡部を介して接続され、且つ、該エレメント部に細幅状の高周波側放射エレメントと細幅状の低周波側放射エレメントとを含む多周波アンテナであって、該低周波側放射エレメントの先端部分と該グランド板から延出した導体とで、両端が開放されたスリットが形成されていることを特徴とする多周波アンテナ。
【請求項2】
該エレメント部が、該短絡部に接続し且つグランド板に並行に延出する高周波側放射エレメントおよび該高周波側放射エレメントの先端に接続し且つ該高周波側放射エレメントと反対方向に延出する低周波側放射エレメントを含む請求項1に記載の多周波アンテナ。
【請求項3】
該高周波側放射エレメントと該グランド板と該短絡部とで、片端が開放されたスリットが形成されている請求項2に記載の多周波アンテナ。
【請求項4】
該片端が開放されたスリットの開放端に面した高周波側放射エレメントの角に給電点が、そして、該スリットの開放端に面したグランド板の角にアースポイントが設けられている請求項3に記載の多周波アンテナ。
【請求項5】
該両端が開放されたスリットが、該低周波側放射エレメントの長さの10%〜80%に相当する長さを有する請求項1〜4のいずれかに記載の多周波アンテナ。
【請求項6】
該両端が開放されたスリットが5mm〜50mmの長さを有する請求項1〜5のいずれかに記載の多周波アンテナ。
【請求項7】
該両端が開放されたスリットが0.3mm〜3mmの幅を有する請求項1〜6のいずれかに記載の多周波アンテナ。
【請求項8】
該エレメント部とスリットと短絡部とが同一平面に位置する請求項1〜7のいずれかに記載の多周波アンテナ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の多周波アンテナが内蔵されていることを特徴とする電子機器。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−129597(P2007−129597A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321652(P2005−321652)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
2.Bluetooth
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】