説明

多周波GNSS受信装置

【課題】
第1の衛星の第1の信号形式に対して測位用擬似距離が得られないときでも、第1の衛星の第2の信号形式または第2の衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号を利用して測位用擬似距離を得ることにより、効率且つ有効的な測位演算を行う多周波GNSS受信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
第1の衛星の第1の信号形式の測位信号から測位用擬似距離が得られない場合、得られた擬似距離を所定の距離未満の擬似距離の下位部を求めると共に、該衛星の信号形式または他の衛星の測位信号から得た上位部と統合することにより測位用擬似距離を生成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星から送信された複数の信号形式の測位信号を受信して、位置を求める測位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSの近代化により、従来のL5帯のL1-C/A信号に加え、L2帯のL2C信号やL5帯のL5信号を同一の衛星から放送することが計画されている。同一の衛星から複数の周波数帯域で多種の変調形式の信号が放送される場合、複数の信号形式の測位信号を利用することが計算処理、精度および早期測位で有効となる。
【0003】
GPS L1-C/A信号は、繰返し周期1msecのC/A拡散コードとビットレート50bpsの航法メッセージで位相変調されている。航法メッセージは1500ビットのフレームを5つのサブフレームに分割して送信しているため、300ビットの各サブフレームの先頭は6secごとに到来する。L1-C/A信号の場合、サブフレームの航法メッセージのビット周期は20msecであり、この期間でC/Aコードは20回繰り返される。
【0004】
GPS L2C信号は、航法メッセージが重畳されたデータチャンネルL2CM信号と、航法メッセージのないパイロットチャンネルL2CL信号とが時分割で送信される。L2CM信号は周期20msecの拡散コードと、ビットレート25bps(シンボルレート50sps)の航法メッセージで変調されている。航法メッセージは300ビット(600シンボル)のサブフレームで構成され、ビット周期40msec(シンボル周期20msec)であるから、各サブフレームの先頭は12secごとに到来する。また、L2CL信号は周期1.5secの拡散コードで変調されている。
【0005】
GPS L5信号は、データチャンネル信号L5I信号と、パイロットチャンネル信号L5Q信号が直交する構成となっている。L5I信号は、繰返し周期1msecのI5拡散コードと、ビットレート1Kbpsの10ビットのNH10コードで変調され、さらに50bps(シンボルレート100sps)の航法メッセージで変調されている。NH10コードの繰り返し周期は10msecであり、航法メーッセージのビット周期は20msecである。航法メッセージは300ビット(600シンボル)のサブフレームで構成され、ビット周期20msec(シンボル周期10msec)であるから、各サブフレームの先頭は6secごとに到来する。
【0006】
L5Q信号は、繰返し周期1msecのL5Q拡散コードで変調され、さらにビットレート1msecの20ビットのNH20コードで変調されている。NH20コードの繰り返し周期は20msecである。
【0007】
GNSSの測位の基本概念は、特許文献1や特許文献2に記述されているとおり、衛星の測位信号の送信時刻と受信機の受信時刻を知ることで衛星と受信機間の擬似距離を算出できる。受信時刻は拡散コードとレプリカコードの相関値のピーク位置を受信機クロック計測することで得られる。送信時刻はサブフレームに含まれるHOWワード情報と、サブフレームの先頭ビット時刻から相関ピーク位置までの経過時間を知ることで得られる。このためには、拡散コード同期後に、航法メッセージのビット同期(以下、ビット同期と呼ぶ)を行い、最後にサブフレーム同期(以下、フレーム同期と呼ぶ)の処理を必要とする。
【0008】
L1-C/A信号の場合を例にとって、送信時刻を算出する方法を図4を参照して説明する。図4において、サブフレームに同期し、HOWワードを復調すると、GPS時刻におけるサブフレーム先頭ビットの送信時刻Thowが分かる。Tcorは受信機クロックで計測したコード相関のピーク位置の時刻であり、該ピーク位置はm+1番目の航法メッセージのビット期間中にあるものとする。
【0009】
サブフレーム、航法メッセージのビットおよびC/Aコードはそれぞれ同期しているから、時刻Thowからコード相関のピーク位置までの経過時間のうち、20msecの整数倍の時間Tbitはビット同期後にビット数を計数することで分かる。20msecの端数はC/Aコードの繰り返し数を計数することで1msecの整数倍の時間Tcodeが分かる。そして、1msec未満の時間TchpはC/Aコードの相関処理で分かる。
【0010】
この結果、送信時刻TtrnはThow+Tbit+Tcode+Tchpで算出できる。受信時刻Tcorと送信時刻Ttrnより、擬似距離は(Tcor-Ttrn)×光速で計算できる。なお、Tcorは受信機クロックで計測されるからGPS時刻と同期が取れていないためにGPS時刻からオフセットしている。この受信クロックオフセットは、航法演算処理において、受信機位置および速度と共に推定される。
【0011】
以上はL1-C/A信号の場合について説明であるが、他の信号形式(L2CM信号、L5I信号)においても、同様の考え方で擬似距離が算出できる。しかし、いずれの信号形式においても、フレーム同期により、送信時刻Ttrnが求まらないと測位に供する擬似距離(以下、これを測位用擬似距離と呼ぶ)が求まらないから、測位演算を開始することができない。
【0012】
通常の受信機において、受信電波が強い場合、フレーム同期は取れるが、受信電波が弱い場合は、コード同期は取れるが、ビット同期、フレーム同期が取れないことがある。この場合、フレーム同期が取れない限り、Thowが未知であるから測位用擬似距離が得られず測位計算ができない。
【0013】
また、フレーム同期は取れたとしても、サブフレーム周期は6secであるために、HOWワードを復調するまでに少なくとも6sec以上を要し、測位結果を得るまでに時間がかかる。前記の特許文献1、特許文献2はこれらの欠点を克服するために、ビット同期、フレーム同期することなしに、コード同期で得られる擬似距離情報から測位を行うための技法を提示している。
【0014】
【特許文献1】米国特許第7,064,709号
【特許文献2】特開2001-59864
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1の技法はコード同期のみで測位できるが、最低5個の衛星を必要とする。特に、受信電波が弱い環境下において5個の衛星を必要とすることは厳しい制約となる。特許文献2の技法は拡散コード周期または航法メッセージのビット遷移タイミングの時刻を、GPS受信機の時計から計測する方法であるために、拡散コード周期の境目を計測する場合、受信機クロックは0.5msec以下の精度で計測することを必要とする。この要件は、特に安価な汎用受信機を提供する上で厳しい制約となる。
【0016】
前記特許文献1および特許文献2を含め公知の技法では、第1の衛星の第1の信号形式でフレーム同期が取れない場合、その衛星のその信号形式に対する擬似距離を算出することを諦めて、他の衛星の前記第1の信号形式に対する擬似距離を求めるようにしている。この場合、測位用擬似距離の観測数が減ることによる損失を被るか、場合によって測位できないことになる。
【0017】
また、従来の受信機では、航法メッセージが重畳されていないパイロットチャンネル信号は測位用擬似距離を求めることができないために、測位用擬似距離を得るために利用していない。
【0018】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、データチャンネルのみならずパイロットチャンネルを含む複数の信号形式の測位信号を利用することにより、第1の衛星の第1の信号形式に対して測位用擬似距離が得られないときでも、他の信号形式または他の衛星のある信号形式の測位信号を利用して測位用擬似距離を得ることにより、効率且つ有効的な測位演算を行う多周波GNSS受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するために、本発明は同一の衛星から送信される複数の信号形式の測位信号を受信し、少なくとも位置を出力する多周波GNSS受信装置において、前記複数の信号形式の測位信号に含まれる拡散コードに同期処理を行うコード同期部と、前記信号形式の測位信号に含まれる航法メッセージのビットに同期処理を行うビット同期部と、前記航法メッセージのフレームに同期処理を行うフレーム同期部と、前記コード同期部、前記ビット同期部および前記フレーム同期部から得た擬似距離情報に基づいて、測位用擬似距離を得るように調整する擬似距離調整部と、前記擬似距離調整部から得た測位用擬似距離に基づいて測位演算を行う測位演算部とを備え、
前記擬似距離調整部は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する擬似距離がフレーム同期部から得られた測位用擬似距離でない場合、前記擬似距離から所定の距離未満の下位部を求めると共に、前記第1の衛星の第2のデータチャンネル信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離から前記所定の距離以上の上位部とを求め、該上位部と前記下位部との合成を前記第1の信号形式に対する測位用擬似距離とすることを特徴とする。
【0020】
前記所定の距離は、使用する複数の信号形式の測位信号のうちで、最も短い拡散コードの周期に相当する距離とすることを特徴とする。所定の距離を最も同期確率が高い拡散コードの周期にすることによって、常に最も短い拡散コードの周期に相当する擬似距離情報が得られ、これを測位に利用することが可能となる。
【0021】
また、本発明は、同一の衛星から送信される複数の信号形式の測位信号を受信し、少なくとも位置を出力する多周波GNSS受信装置において、前記複数の信号形式の測位信号に含まれる拡散コードに同期処理を行うコード同期部と、前記信号形式の測位信号に含まれる航法メッセージのビットに同期処理を行うビット同期部と、前記航法メッセージのフレームに同期処理を行うフレーム同期部と、前記コード同期部、前記ビット同期部および前記フレーム同期部から得た擬似距離情報に基づいて、測位用擬似距離を得るように調整する擬似距離調整部と、前記擬似距離調整部から得た測位用擬似距離に基づいて測位演算を行う測位演算部とを備え、
前記擬似距離調整部は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する擬似距離がフレーム同期部から得た測位用擬似距離でない場合、前記擬似距離から所定の距離未満の下位部を求めると共に、第2衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離から前記所定の距離以上の上位部とを求め、該上位部と前記下位部との合成を前記第1の信号形式に対する測位用擬似距離とすることを特徴とする。これにより、多周波、多信号形式の擬似距離のあいまいさ統一を簡便に行うことができる。
【0022】
この結果、第1の衛星の第1の信号形式に対して測位用擬似距離が得られないときでも、第2の衛星のデータチャンネル信号形式の測位信号を利用して測位用擬似距離を得ることにより、効率且つ有効的な測位演算を行なえるようになる。
【0023】
また、本発明は、第1の衛星の第1の信号形式はデータチャンネルまたはパイロットチャンネルのいずれでもよいことを特徴とする。この結果、データチャンネル信号形式の拡散コードに比べて、より高い拡散コードの相関利得が期待でき、測位精度および性能面で利がある。また、少なくともフレーム同期処理は削除できるから、測位信号の追尾制御処理負荷が軽減ができるのみならず、フレーム同期処理処理に要する時間を待たずして測位演算が可能となる。
【0024】
また、本発明は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する擬似距離がフレーム同期部から得た測位用擬似距離でない場合において、第2衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離から所定の距離以上の上位部を求める場合、該所定の距離は、20msec相当の距離とすることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する擬似距離がフレーム同期部から得た測位用擬似距離でない場合において、第2衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離から所定の距離以上の上位部を求める場合、該所定の距離は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号のコード同期またはビット同期によって得られる擬似距離に、測位に供する各衛星と受信機間の幾何学的距離の最大距離偏差が含まれるか否かに基づいて決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対して所定の距離未満の下位部しか得られない場合、測位用擬似距離の所定の時間以上の上位部は、第1の衛星の第2の信号形式、または第2の衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号から得ることにより、測位用擬似距離の観測数の欠損の防止、または観測数の増加を図ることができる。この結果、測位率および測位精度の向上が期待できる。
【0027】
また、本発明によれば、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対して所定の距離未満の下位部しか得られない場合、測位用擬似距離の所定の時間以上の上位部は、第1の衛星の第2の信号形式、または第2の衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号から得ることにより、複数の周波数の信号形式の測位信号において独自に測位演算ができる機会が増す。この結果、測位精度の向上が期待できる。
【0028】
例えば、測位に供する衛星が4個の場合、L2周波数帯の信号形式に対しては4個の測位用擬似距離が得られるが、L1周波数帯では3個の測位用擬似距離しか得られないとき、L1周波数帯で不足した測位用擬似距離の上位部をL2周波数帯で得られた測位用擬似距離の上位部で補完することにより、L1周波数帯で4個の測位用擬似距離が得られる。
【0029】
また、本発明によれば、複数の周波数の信号形式の測位信号において独自に測位演算を行う場合、一方の周波数帯の信号形式で擬似距離の下位部のみ得るようにし、測位用擬似距離の上位部は他方の周波数帯の信号形式から得ることにより、下位部を得た周波数帯の信号形式では、ビット同期またはフレーム同期処理を省略できるため、処理負荷の軽減と共に処理時間の短縮が図れる。
【0030】
また、本発明によると、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対して所定の距離未満の擬似距離の下位部のみ決定すればよいから、該第1の信号形式はデータチャンネルに限定されるものではなく、パイロットチャンネルの信号形式も使用できる。この結果、測位用擬似距離の観測数の欠損の防止、または観測数の増加ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1に係る多周波GNSS受信装置について図1および図2を参照しながら説明する。なお、以下ではGPSシステムについて説明するが、本発明はGALILEOシステムにおけるE1、E5、E6などの複数の信号形式に対しても本発明技法は適用できる。
【0032】
図1は、本発明における多周波GNSS受信装置のベースバンド処理を説明する基本構成図であり、キャリアおよび拡散コードの同期を行うキャリア/コード同期部10、キャリア/コード同期制御部11、キャリアおよび拡散コードのレプリカを生成するレプリカ生成部12、航法メッセージのビットの同期を行うビット同期部13、航法メッセージのフレーム同期を行うフレーム同期部14、測位に必要な擬似距離を得るために調整する擬似距離調整部15、測位演算を行う測位演算部16などから構成される。
【0033】
キャリア/コード同期部10に入力される測位信号は、アンテナ(図示なし)で受信したL1周波数帯、L2周波数帯およびL5周波数帯などの複数の測位信号をそれぞれ、中間周波数に変換し、A/D変換された信号である。擬似距離調整部15と測位演算部16以外の各処理部は、複数の測位信号に対して、それぞれ個別に設けるか、または共通として各周波数帯で切り替えて使用してもよい。
【0034】
キャリア同期およびコードの同期は、キャリア/コード同期部10、キャリア/コード同期制御部11、およびレプリカ生成部12において、公知の方法で独自に行われる。すなわち、第1の衛星Vの第1の信号形式Siの測位信号と、レプリカ生成部12で生成されたキャリアのレプリカおよびコードのレプリカ信号はキャリア/コード同期部10に入力され、ここで夫々、キャリア相関およびコード相関処理される。
【0035】
キャリア/コード同期制御部11は、キャリア/コード同期部10の出力に基づいて、キャリア同期誤差およびコード同期誤差をそれぞれ生成し、該キャリアおよびコードの同期誤差をレプリカ生成部12に負帰還する。
【0036】
通常、キャリア同期はPLL追尾ループによって、またコード同期はDLL追尾ループで制御される。キャリア/コード同期制御部11は、コードの同期が完了すると、ビット同期部13にコード同期完了信号を送出すると共に、擬似距離調整部15にコード位相(相関ピーク位置)情報を送出する。
【0037】
ビット同期部13は、キャリア/コード同期制御部11からコード同期完了信号を受信すると、キャリア/コード同期部10の出力に含まれるビット列信号に同期するビット同期処理を開始する。ビット同期部13は、該ビット同期が完了すると、フレーム同期部14にビット同期完了信号を送出すると共に、擬似距離調整部15にビットタイミング情報を送出する。
【0038】
フレーム同期部14は、ビット同期部13からのビット同期完了信号を受信すると、サブフレーム同期の処理を開始しする。フレーム同期部14は、サブフレーム同期が完了するとサブフレーム先頭位置情報およびHOWワード情報を擬似距離調整部15に送出する。ここで、HOWワード情報は削除できるかもしれない。
【0039】
擬似距離調整部15は、コード位相情報、ビットタイミング情報、および少なくともサブフレーム先頭位置情報に基づいて、公知の方法で測位用擬似距離を算出し、保持する。しかし、ビット同期までは取れているが、フレーム同期が取れないために、測位用擬似距離が算出できない場合がある。
【0040】
例えば、第1の衛星Vの第1の信号形式Siの測位信号において、測位用擬似距離が算出できない場合、ビットタイミング情報とコード位相情報に基づいて、ビット周期未満の擬似距離(以下、ビット同期擬似距離と呼ぶ)を求める。そして、該ビット同期擬似距離を所定の距離以上の上位部と、所定の距離未満の下位部に分離する。所定の距離未満の下位部と、該下位部の算出に係る衛星番号および信号形式情報とは、擬似距離調整部15に保持される。
【0041】
ここで、所定の距離とは、使用したい複数の信号形式の測位信号の中で最小周期の拡散コード周期に相当する距離とする。例えば、使用したい信号形式にL1-C/A信号形式を含む場合は、所定の距離は光速×1msecの距離となる。
【0042】
また、第1の衛星Vの第1の信号形式Siの測位信号において、コード同期しか得られない場合は、拡散コード周期に相当する距離未満の擬似距離(以下、コード同期擬似距離と呼ぶ)しか得られない。この場合、擬似距離調整部15は、所定の距離未満の下位部としてコード同期擬似距離を求め、該下位部と、該下位部の算出に係る衛星番号および信号形式情報と共に保持する。
【0043】
擬似距離調整部15は、第1の衛星Vの第1の信号形式Siで測位用擬似距離が得られない場合、第1の衛星Vの第2の信号形式Sjに対して得た測位用擬似距離から、所定の距離以上の上位部を求める。そして、第2の信号形式Sjで求めた上位部と、第1の衛星Vの第1の信号形式Siで求めた下位部との和を第1の衛星Vの第1の信号形式Siに対する測位用擬似距離として測位演算部16に送出する。
【0044】
次に、実施の形態1における擬似距離調整部15の具体的な処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0045】
ステップ1において、測位に供する第1の衛星Vの第1の信号形式Siの擬似距離PR(V,Si)を求める。ここで、第1の衛星Vの第1の信号形式Siはデータチャンネルに限定されるものではなく、パイロットチャンネルの信号形式でもよい。なおここで、データチャンネルの場合において、データチャンネル信号形式Siのビット同期またはフレーム同期処理を故意に省略し、コード同期擬似距離のみを求めるようにしてもよい。
【0046】
これにより、例えば、L1とL2の周波数の信号形式の測位信号において、それぞれ独立に測位演算を行う場合、一方の信号形式の測位信号のビット同期およびフレーム同期処理が省略でき、処理時間の短縮できる。
【0047】
ステップ2において、コード同期擬似距離、ビット同期擬似距離または測位用擬似距離のいずれかの擬似距離PR(V,Si)を所定の距離以上の上位部PR(V, Si)_Uと所定の距離未満の下位部PR(V,Si)_Lの成分に分離し、保持する。なお、図2には示していないが、所定の距離未満の下位部が得られない場合は以下のステップは終了までジャンプし、次の衛星についてステップ1以降の処理を行う。
【0048】
ステップ3において、ステップ2で得られた上位部PR(V, Si)_Uが測位用擬似距離から得られたか否かを判定する。上位部PR(V, Si)_Uが測位用擬似距離から得らている場合、ステップ4において、上位部PR(V, Si)_U+下位部PR(V,Si)_Lを測位用擬似距離として、測位演算部16に送出する。測位用擬似距離による上位部でない場合、ステップ5において、第1の衛星Vの第2の信号形式Sjに対する擬似距離PR(V, Sj)を求める。ここで、Sjはデータチャンネルであればいずれの信号形式でもよい。
【0049】
ステップ6において、擬似距離PR(V, Sj)がフレーム同期後の擬似距離、すなわち測位用擬似距離か否かを判定する。擬似距離PR(V, Sj)が測位用擬似距離ならば、ステップ7において、該測位用擬似距離PR(V,Sj)から所定の距離以上の上位部PR(V, Sj)_Uを求める。そして、信号形式Sjで得られた擬似距離上位部PR(V,Sj)_Uと、信号形式Siで得られた擬似距離下位部PR(V,Si)_Lとの和を第1の衛星Vの第1の信号形式Siに対する測位用擬似距離として測位演算部16に送出する。
【0050】
ステップ6において、擬似距離PR(V, Sj)が測位用擬似距離が得られない場合は、ステップ5に戻り、衛星Vの可能な他の信号形式について擬似距離を求める。もし、いずれのデータチャンネルの信号形式でもフレーム同期擬似距離が得られない場合は、衛星Vに関する擬似距離を得るための調整処理を終了する。ステップ1からステップ7の処理は少なくとも測位に必要な衛星数の各衛星について繰り返す。
【0051】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態1に係る多周波GNSS受信装置について説明する。実施の形態1が、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号で測位用擬似距離が得られない場合、第1の衛星の第2のデータチャンネルの信号形式の測位信号を利用して測位用擬似距離を得る形態であった。
【0052】
これに対して、実施の形態2は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号で測位用擬似距離が得られない場合、第2の衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号を利用して、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離を得る技法である。なお、第2の衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式は、例えば、GALILEOシステムの衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式に対しても適用できる。
【0053】
実施の形態2は以下の根拠に基づいている。いずれの衛星においても、衛星と、概ね地球表面近傍に位置する受信機間の幾何学的距離の差は時間換算で20msec以内であるから、擬似距離の下位部と下位部を20msec相当の所定の距離で分離すると、どの衛星に対しても上位部は同じ距離(20msecの整数倍相当の距離)である。このことは、擬似距離上位部は異なる衛星の信号形式から得たもので代用できることを意味する。
【0054】
なお、測位に供する衛星によって受信機と衛星間の幾何学的距離は変るから、実施の形態2における所定の距離は20msec相当の距離に限定するものではない。原理的には、所定の距離は、測位に供する各衛星と受信機間の幾何学的距離の最大距離偏差、使用可能な信号形式に基づいて決定すればよい。
【0055】
すなわち、所定の距離は、測位に供する各衛星と受信機間の幾何学的距離の最大距離偏差が第1の衛星の第1の信号形式の測位信号のコード同期またはビット同期によって得られる擬似距離に含まれ距離として決定すればよい。例えば、測位に供する各衛星と受信機間の幾何学的距離の最大距離偏差が10msec相当距離とすると、これはL5IのNH10コードの同期擬似距離から得ることができるから、所定の距離は10msec相当距離とすればよい。
【0056】
本発明の実施の形態2における具体的な形態は、第1の衛星Vの第1の信号形式Siから所定の距離未満の下位部しかえられない場合、上位部は第2の衛星Wのいずれかのデータチャンネル信号形式に対する測位用擬似距離から得る。なお、実施の形態2においても、第1の衛星Vの第1の信号形式Siは所定の距離未満の擬似距離が得られるのであれば、データチャンネルまたはパイロットチャンネルの信号形式でもよい。
【0057】
実施の形態2における擬似距離調整部15の動作について、図3のフローチャートを参照して説明する。なお、擬似距離調整部15以外の構成および機能は実施の形態1で説明したとおりである。
【0058】
ステップ11において、擬似距離調整部15は第1の衛星Vの第1の信号形式Siの擬似距離を得る。ステップ12において、コード同期擬似距離、ビット同期擬似距離またはフレーム同期擬似距離のいずれかの擬似距離PR(V,Si)を所定の距離以上の上位部PR(V, Si)_Uと所定の距離未満の下位部PR(V,Si)_Lの成分に分離し、保持する。なお、図3には示していないが、所定の距離未満の下位部が得られない場合は以下のステップは終了までジャンプし、次の衛星についてステップ11以降の処理を行う。
【0059】
ステップ13において、ステップ12で得られた上位部PR(V, Si)_Uがフレーム同期完了後の、すなわち測位用擬似距離から得られた上位部か否かを判定する。測位用擬似距離による上位部の場合、ステップ14において、上位部PR(V, Si)_U+下位部PR(V,Si)_Lを測位用擬似距離として、測位演算部16に送出する。もし、測位用擬似距離による上位部でない場合、ステップ15において、第2の衛星Wのいづれかのデータチャンネル信号形式Sに対する擬似距離PR(W,S)を求める。
【0060】
ステップ16において、ステップ15で得られた擬似距離PR(W,S)が測位用擬似距離であるか否かを判定する。擬似距離PR(W,S)が測位用擬似距離ならば、ステップ17において、該測位用擬似距離PR(W,S)を所定の距離以上の上位部PR(W, S)_Uを求める。そして、第1の衛星Vの第1の信号形式Siで得られた擬似距離下位部PR(V,Si)_Lと、衛星Wのいずれかの信号形式Sで得られた擬似距離上位部PR(W,S)_Uとの和を第1の衛星Vの第1の信号形式Siに対する測位用擬似距離として、測位演算部16に送出する。
【0061】
ステップ16において、擬似距離PR(W,S)が測位用擬似距離でない場合は、ステップ15に戻り、他の衛星の信号形式Sについて擬似距離を求める。なお、ステップ15の繰り返し処理において、信号形式Sは異なっていてもよい。もし、いずれの信号形式Sでもフレーム同期擬似距離が得られない場合は衛星Vに関する擬似距離をえるための調整処理を終了する。
【0062】
ステップ11からステップ17の処理は少なくとも測位に必要な衛星数の各衛星について繰り返す。
【0063】
以上の処理により、第1の衛星Vの第1の信号形式Siに対して、フレーム同期が未完状態で得られる擬似距離に対して、第2の衛星Wのデータチャンネルの信号形式の測位信号Sを利用し、第1の衛星Vの第1の信号形式Siに対する測位用擬似距離を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態1による多周波GNSS受信装置の構成ブロック図
【図2】本発明の実施の形態1を説明するためのフローチャート
【図3】本発明の実施の形態2を説明するためのフローチャート
【図4】送信時刻を算出するための説明図
【符号の説明】
【0065】
10 キャリア/コード同期部
11 キャリア/コード同期制御部
12 レプリカ生成部
13 ビット同期部
14 フレーム同期部
15 擬似距離調整部
16 測位演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の衛星から送信される複数の信号形式の測位信号を受信し、少なくとも位置を出力する多周波GNSS受信装置において、
前記複数の信号形式の測位信号に含まれる拡散コードに同期処理を行うコード同期部と、
前記信号形式の測位信号に含まれる航法メッセージのビットに同期処理を行うビット同期部と、
前記航法メッセージのフレームに同期処理を行うフレーム同期部と、
前記コード同期部、前記ビット同期部および前記フレーム同期部から得た擬似距離情報に基づいて、測位用擬似距離を得るように調整する擬似距離調整部と、
前記擬似距離調整部から得た前記測位用擬似距離に基づいて測位演算を行う測位演算部とを備え、
前記擬似距離調整部は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する擬似距離がフレーム同期部から得られた測位用擬似距離でない場合、前記擬似距離から所定の距離未満の下位部を求め、前記第1の衛星の第2のデータチャンネル信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離から前記所定の距離以上の上位部とを求め、前記上位部と前記下位部との合成を前記第1の信号形式に対する測位用擬似距離とすることを特徴とする多周波GNSS受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多周波GNSS受信装置において、前記所定の距離は、使用する複数の信号形式の測位信号のうちで、最も短い拡散コードの周期に相当する距離とすることを特徴とする多周波GNSS受信装置。
【請求項3】
同一の衛星からから送信される複数の信号形式の測位信号を受信し、少なくとも位置を出力する多周波GNSS受信装置において、
前記複数の信号形式の測位信号に含まれる拡散コードに同期処理を行うコード同期部と、
前記信号形式の測位信号に含まれる航法メッセージのビットに同期処理を行うビット同期部と、
前記航法メッセージのフレームに同期処理を行うフレーム同期部と、
前記コード同期部、前記ビット同期部および前記フレーム同期部から得た擬似距離情報に基づいて、測位用擬似距離を得るように調整する擬似距離調整部と、
前記擬似距離調整部から得た前記測位用擬似距離に基づいて測位演算を行う測位演算部とを備え、
前記擬似距離調整部は、第1の衛星の第1の信号形式の測位信号に対する擬似距離がフレーム同期部から得られた測位用擬似距離でない場合、前記擬似距離から所定の距離未満の下位部を求め、第2の衛星のいずれかのデータチャンネル信号形式の測位信号に対する測位用擬似距離から前記所定の距離以上の上位部とを求め、前記上位部と前記下位部との合成を前記第1の信号形式に対する測位用擬似距離とすることを特徴とする多周波GNSS受信装置。
【請求項4】
請求項1および請求項3に記載の多周波GNSS受信装置において、
前記第1の信号形式は航法メッセージの有無に依存しない測位信号であることを特徴とする多周波GNSS受信装置。
【請求項5】
請求項3に記載の多周波GNSS受信装置において、前記所定の距離は、20msec相当の距離とすることを特徴とする多周波GNSS受信装置。
【請求項6】
請求項3に記載の多周波GNSS受信装置において、前記所定の距離は、前記第1の信号形式の測位信号のコード同期またはビット同期によって得られる擬似距離に、測位に供する各衛星と受信機間の幾何学的距離の最大距離偏差が含まれるか否かに基づいて決定することを特徴とする多周波GNSS受信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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