説明

多回転角検出装置

【課題】電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置に送信可能な多回転角検出装置を提供することにある。
【解決手段】第1検出素子群7は、多回転体の角度検出範囲を角度検出範囲内における多回転体の回転数よりも大きな数で等分割する360°以下の角度を1セクタとし、各セクタ内の角度を所望の分解能で検出する角度検出用デジタルコード列Aを出力し、第2検出素子群8は、各セクタの前半部と後半部とを識別する前後識別用デジタルコード列Bを出力し、第3検出素子群9及び第4検出素子群10は、各セクタを識別する2つのセクタ識別用デジタルコード列C,Dを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多回転体の絶対角を検出する多回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のステアリングシャフトと車体との間に多回転角検出装置を備え、多回転角検出装置にて検出されたステアリングホイールの回転角度、操舵速度及び操舵方向等に基づいて、サスペンションの減衰力制御やオートマチックトランスミッションのシフトポジション制御それに四輪操舵車における後輪の操舵制御などを行う技術が知られている。ステアリングシャフトは、ニュートラル位置から右方向及び左方向にそれぞれ2乃至3回転するように構成された多回転体であるので、その回転角度等の検出には、1回転以上にわたって絶対角を検出可能な多回転角検出装置を必要とする。
【0003】
絶対角を一定の分解能で検出する装置としては、BCDコードを用いる装置、M系列コードを用いる装置及びグレイコードを用いる装置などが従来より知られているが、中でもグレイコードを用いる装置は、連鎖するグレイコードの各ステップの前後におけるビットの変化が常に1カ所であるように変化するので、読み出し用のタイミングパルスが不要でかつ高分解能化に有利であり、最も一般的に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、自動車用の多回転角検出装置では、ステアリングシャフトが可動する角度範囲(例えば、±720度〜±1080度)をセクタと呼ばれる一定の角度範囲に分割し、各セクタ内において一定の分解能で角度検出用デジタルコードを割り当てるのが一般的である。また、各セクタの識別は、1回転以上にわたってセクタの検出を可能にするため、複数の歯車列などを用いた機械的減速機構を介して、ステアリングシャフトに連結された回転ディスクの回転角を検出するものや、ステアリングシャフトに連結された回転ディスクに形成した渦巻き状の溝と、溝内に挿入するリニア型又はロータリ型の位置検出装置のアクチェエータとを用いた機械的減速機構を介して、回転ディスクの回転角を検出するものなどがある。
【特許文献1】特開2000−28396号公報(図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、そのような機械的な減速機構を使用すると、機械的減速機構に起因するバックラッシュを完全になくすことは不可能であるので、セクタ内の角度を検出するデジタルコードとセクタを識別するデジタルコードの切り換わりのタイミングにズレが発生する。そのズレ量αは、バックラッシュ等によるセクタの検出誤差をm度、減速機構の減速比をnとした場合、各セクタの境界においてα=±m・nとなり、減速比が大きくなるほど、即ち、検出角度範囲が広くなるほど大きくなる。
【0006】
このように、機械的減速機構を備えたセクタ識別手段をもつ多回転角検出装置は、各セクタを正確に検出することが困難であるので、多回転角検出装置への通電を開始した後、多回転体がイニシャライゼーションの完了に必要な所定のステップ数に相当する角度分だけ回転されるまでの間は、セクタ内の多回転体の絶対角を正確に確定することができない。
【0007】
ところで、多回転角検出装置を備えた自動車の制御システムの中には、多回転角検出装置への通電開始直後に角度位置情報の信号が入力されないと不具合を生じるシステムを有するものがあり、そのようなシステムが用いられる場合、従来の多回転体の回転角検出装置のように、ステアリングが回転されないと絶対角の情報が確定されない状態がいつもでも続くことが致命的な欠陥になるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置に送信可能な多回転角検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の目的を達成するため、多回転体に保持された第1回転ディスクと、該第1回転ディスクの異なる円周上に設けられた第1コードパターン列及び第2コードパターン列と、前記第1コードパターン列に対向して配置された複数個の検出素子からなる第1検出素子群と、前記第2コードパターン列に対向して配置された複数個の検出素子からなる第2検出素子群と、前記多回転体に対して機械的減速機構を介し減速回転する第2回転ディスクと、該第2回転ディスクの円周上に設けられた第3コードパターン列と、該第3コードパターン列に対向して配置されたそれぞれ複数個の検出素子からなる第3検出素子群及び第4検出素子群とを備え、前記第1検出素子群は、前記多回転体の角度検出範囲を前記多回転体の回転数以上の数で等分割する360°以下の角度を1セクタとし、各セクタ内の角度を所望の分解能で検出する角度検出用デジタルコード列を出力し、前記第2検出素子群は、前記各セクタの前半部と後半部とを識別する前後識別用デジタルコード列を出力し、前記第3検出素子群及び第4検出素子群は、前記各セクタを識別する2つのセクタ識別用デジタルコード列を出力するという構成にした。
【0010】
かかる構成により、次に示すような効果を奏する。
【0011】
まず、第1検出素子群から検出される角度検出用デジタルコード列と、第2検出素子群から検出される前後識別用デジタルコード列と、第3検出素子群及び第4検出素子群から検出されセクタを識別するための2つのセクタ識別用デジタルコード列とを組合せて、本来あるべき適正な組合せか否かを照合して許容できる誤差内の絶対角の情報を求めることができるので、後述の問題(1)、(2)の影響を排除でき、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置に送信できると共に、通電開始直後に絶対角の情報が入力されないと不具合を生じるシステムをもつ自動車制御システムに対して有効に適用できる。
【0012】
また、多回転角検出装置への通電を開始した後で、多回転体がイニシャライゼーションに必要な回転角度以上に回転されれば、多回転体の絶対角を正確に検知できる。
【0013】
上述の問題は、(1)機械的減速機構に起因するバックラッシュにより、第1回転ディスクの角度検出用デジタルコード列及び前後識別用デジタルコード列の切換部と、第2回転ディスクの第1,第2セクタ識別用デジタルコードの切換部とを切り換えるタイミングにズレが生じるため、角度検出用デジタルコード列及び前後識別用デジタルコード列に対して、検出されるべき第1,第2セクタ識別用デジタルコードコード列に隣接するコード列が検出されると、適正なコード列の組合せとして検出されないこと、(2)各検出素子に供給される電源電圧の変動、検出素子の出力特性のバラツキや経時変化、及び回転角検出装置を構成する部品の寸法・位置誤差等の原因によって各検出素子から出力される信号に揺らぎが生じるため、前後識別用デジタルコード列の切換部付近、第1セクタ識別用デジタルコード列の切換部付近、及び第2セクタ識別用デジタルコードの切換部付近において切り換えるタイミングにズレが生じ、角検出用デジタルコード列に対して、検出されるべき前後識別用デジタルコード列、第1セクタ識別用デジタルコード列及び第2セクタ識別用デジタルに隣接するコード列が検出されると、適性なコード列の組合として検出されない、ということである。
【0014】
また本発明は、前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の切換部とを同位相にするという構成にした。
【0015】
かかる構成によると、第1,第2セクタ識別用デジタルコード列を出力する検出素子のひとつが故障して誤ったコードを出した場合においても、その他の角度検出用デジタルコード列、前後識別用デジタルコード列との組合せを照合することによって、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置に送信できる。ここで、各セクタに割り当てる角度を、機械的減速機構によるバックラッシュなどに起因する最大ズレ角の2倍以上に設定することで、絶対角の情報の最大誤差を1/2セクタ以下に抑えることができる。
【0016】
さらに本発明は、前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の一方の切換部とを同位相とし、前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の他方の切換部とを1/2セクタ分ずらすという構成にした。
【0017】
かかる構成によると、前後識別用デジタルコード列、又は、第1,第2セクタ識別用デジタルコード列を出力する検出素子のひとつが故障して誤ったコードが出力された場合において、その誤ったコードを含むコード列とその他のコード列との組合せがたったひとつだけ存在するように構成できるので、その誤ったコード列を含むコード列とその他のコード列との組合せを照合することによって、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置に送信できる。
【0018】
また本発明は、前記角度検出用デジタルコード列、前後識別用デジタルコード列及び前記2つのセクタ識別用デジタルコード列が、グレイコード列であるという構成にした。
【0019】
かかる構成によると、Mコード等の他のデジタルコード列をもって構成する場合とは異なり、タイミングを読むためのタイミングパルスが不要であるので、多回転角検出装置の構成を簡略化することができ、多回転角検出装置の低コスト化を図ることができる。また、イニシャライゼーション完了前及び完了後において、角度検出用デジタルコード列を検出するための複数個の検出素子のうちの1つが故障し、正しい検出信号を出力できなくなった場合においても、各ステップ毎に変化する角度検出用デジタルコード列の並びをチェックすることによって出力エラーの発生を直ちに認識することができる。さらに、グレイコードに対応するテーブルの作成が容易となるので、多回転角検出装置の低コスト化を図ることができる。
【0020】
また本発明は、前記グレイコード列が循環性を有するという構成にした。
【0021】
このように、各デジタルコード列に循環性を付与すると、角度検出用デジタルコード列を出力する第1検出素子群、セクタ内角度範囲識別用デジタルコード列を出力する第2検出素子群、並びにセクタ識別用デジタルコード列を出力する第3及び第4検出素子群を構成する各検出素子を、コードパターン列の周方向に等間隔に配設できるので、多回転角検出装置の組立を容易化できる。
【0022】
さらに本発明は、前記セクタに割り当てる角度を90°、前記角度検出用デジタルコード列を6ビット、前記2つのセクタ識別用デジタルコード列をそれぞれ5ビットとし、±3.75回転する多回転体の絶対角を検出するという構成にした。
【0023】
1セクタを90°にすると、減速機構のバックラッシュ等に起因する角度検出用デジタルコード列とセクタ識別用デジタルコード列の切り換わりタイミングのズレを最大45°にすることができるので、減速比の大きな減速機構を用いることができる。さらに、1セクタを90°、角度検出用デジタルコード列を6ビット、セクタ識別用デジタルコード列を合計10ビットとすると、検出素子を第1及び第2の回転ディスクの回転中心に対しておよそ90°の範囲内に設定できる。よって、かかる構成によれば、多回転体の絶対角度を±3.75回転の範囲で正確に検出でき、かつ、数10分の1の減速比を有する大きな減速機構を備えた場合でも減速機構のバックラッシュの影響を除くことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の多回転角検出装置は、多回転体と一体回転する第1回転ディスクの回転から角度検出用デジタルコード列と前後識別用デジタルコード列とを出力し、多回転体に対して機械的減速機構を介し減速回転する第2回転ディスクの回転から2つのセクタ識別用デジタルコード列を出力するので、角度検出用デジタルコード列と、前後識別用デジタルコード列と、2つのセクタ識別用デジタルコード列との組合せが本来あるべき適正な組合せであるのか否かを照合することにより、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置に送信でき、通電開始直後に角度位置情報の信号が入力されないと不具合を生じるシステムをもつ自動車制御システムに対して有効に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る多回転角検出装置の一例を、図1乃至図7に基づいて説明する。図1は実施形態に係る多回転角検出装置の分解斜視図、図2は実施形態に係る第1回転ディスクの背面図、図3は実施形態に係る遊星歯車と内歯車と第2回転ディスクとの連結状態を示すケースの要部内面図、図4は実施形態に係る第1及び第2の回転ディスクと第1乃至第4の検出素子群を構成する各検出素子との組立状態を示す説明図、図5は実施形態に係る第1乃至第4の検出素子群と信号変換手段との接続状態及び実施形態に係る信号変換手段の構成を示すブロック図、図6は実施形態に係る角度検出用デジタルコード列、前後識別用デジタルコード列及び切換部が同位相の2つのセクタ識別用デジタルコード列の相関を示す表図、図7は図6に示す第1,第2セクタ識別用デジタルコード列の切換部を合致させた場合と1/2セクタずらした場合との効果の違いを説明する説明図である。
【0026】
図1に示すように、本発明による多回転角検出装置は、ケース1と、カバー2と、これらを組み合わせることによって構成されるハウジング内に回転可能に収納される第1回転ディスク3及び第2回転ディスク4と、前記カバー2の内面に設定される回路基板5と、当該回路基板5に取り付けられる信号検出素子受け6と、信号検出素子受け6内に所定の配列で収納され、端子部が前記回路基板5に形成された図示しない端子部と電気的に接続された第1検出素子群7を構成する6個の検出素子7a,7b,7c,7d,7e,7f、第2検出素子群7を構成する2個の検出素子8a,8b、第3検出素子群9を構成する5個の検出素子9a,9b,9c,9d,9e及び第4検出素子群10を構成する5個の検出素子10a,10b,10c,10d,10eと、第1回転ディスク3によって回転駆動され、第2回転ディスク4を所定の減速比で減速駆動する遊星歯車11と、一端が前記回路基板5に取り付けられ、他端が前記カバー2に開口されたコネクタ挿入孔2a内に挿入されたコネクタ12と、前記第1乃至第4の検出素子群7〜10によって検出されたデジタルコード列を第1回転ディスク3の回転角度に変換する信号変換手段13から主に構成されている。なお、この図においては、図が複雑化することを防止するため、検出素子群7〜10を構成する各検出素子が実際よりも少数に描かれている。
【0027】
ケース1は、図示しない多回転体を挿通するための中央開口21を有する底板22と、底板22の外周縁より起立された一定高さの周壁23と、円形の回転ディスク収納部24と方形の回路基板収納部25との間に起立された円弧状の隔壁26とからなり、回転ディスク収納部24の内面には、遊星歯車11が噛み合わされる内歯車27が多回転体(例えばステアリングシャフト)の回転軸と同心、即ち中央開口21と同心に形成されている。また、底板22の内面には、回路基板5をねじ止めるための回路基板取付ボス22aとケース1に対するカバー2の位置決めを行うための位置決め突起22bとが形成されており、周壁23の外面には、ケース1を所要のステータ部(例えば自動車の車体)にねじ止めするためのケース取付ボス23aとカバー2をケース1にスナップ結合するための係止爪23bとが形成されている。
【0028】
カバー2は、図示しない多回転体を挿通するための中央開口31を有する天板32と、天板32の内周縁より外向きに起立された円筒形のガイド部33と、天板32の外周縁より内向きに起立された周壁34とをもって、平面形状がケース1とほぼ同形同大に形成されている。天板32には、ケース1に形成された位置決め突起22bを嵌合する孔部2bが形成されており、周壁34には、ケース1に形成された係止爪23bを係止する係止孔34aが形成されている。
【0029】
ケース1と前記カバー2とは、ケース1に形成された係止爪23bをカバー2に形成された係止孔34aに係合することによって一体化され、他の部材3〜11を収納するためのハウジングを構成する。
【0030】
第1回転ディスク3は、図示しない多回転体を嵌合するための中央開口41を有し、その表面側(カバー2側)には、中央開口41より起立された円筒状の多回転体連結部42と、当該多回転体連結部42と同心に形成された第1コードパターン列43及び第2コードパターン列44とが形成されている。また、第1回転ディスク3の背面側(ケース1側)には、図3に示すように、ケース1に形成された内歯車27の内周で遊星歯車11を自転及び公転させるための環状の遊星歯車取付部45が、多回転体の回転軸Oに対して偏心して突出形成されている。なお、図1の例においては、第1コードパターン列43及び第2コードパターン列44が、遮光板の配列をもって構成されている。この第1回転ディスク3は、中央開口41内に貫通されたステアリングシャフトなどの図示しない多回転体に固着され、多回転体と一体に1回転以上回転する。
【0031】
第2回転ディスク4は、図示しない多回転体を挿通すると共に、第1回転ディスク3の外周側で第1回転ディスク3を回転自在に配置するための中央開口51を有し、その表面側(カバー2側)には、多数の信号検出用の遮光板の配列からなる第3コードパターン列52が形成されている。また、この第2回転ディスク23の背面側(ケース1側)には、図3に示すように、遊星歯車11を連結するための複数個の係合突起部53が周方向に等間隔に突設されている。
【0032】
図4に示すように、第1検出素子群7を構成する6個の検出素子7a〜7fは、第1回転ディスク3に形成された第1コードパターン列43と対向に配置され、第2検出素子群8を構成する2個の検出素子8a,8bは、第1回転ディスク3に形成された第2コードパターン列44と対向に配置され、第3検出素子群9を構成する5個の検出素子9a〜9e及び第4検出素子群10を構成する5個の検出素子10a〜10eは、第2回転ディスク4に形成された第3コードパターン列53と対向に配置される。これにより、第1検出素子群7からは6ビットの角度検出用デジタルコード列が出力され、第2検出素子群8からは2ビットのセクタ内角度範囲識別用デジタルコード列が出力され、第3及び第4の検出素子群9,10からはそれぞれ5ビットの異なる2つのセクタ識別用デジタルコード列が出力される。
【0033】
前記各検出素子7a〜7f、8a,8b、9a〜9e、10a〜10eとしては、発光素子と受光素子とを一体に組み合わせてなるフォトインタラプタが用いられ、フォトインタラプタを構成する発光素子と受光素子とは、それぞれ所定のコードパターン列43,44,53を介してその両側に配置される。かかる構成によると、第1回転ディスク3及び第2回転ディスク4の回転に伴ってフォトインタラプタを構成する発光素子と受光素子の間をコードパターン列を構成する遮光板が間欠的に通過するので、発光素子と受光素子の間に遮光板がある場合とない場合の受光素子の出力を信号として取り出すことにより、第1回転ディスク3及び第2回転ディスク4の回転を検出することができる。なお、コードパターン列43,44,53の具体的な構成及びコードパターン列43,44,53に対する検出素子7a〜7f、8a,8b、9a〜9e、10a〜10eの具体的な配列については、後に詳細に説明する。
【0034】
回路基板5は、ケース1の回路基板収納部25及びカバー2のこれと対応する部分に収納可能な形状に形成されており、所要の位置には、ケース1に形成された位置決め突起22bを貫通するための透孔5aが開設されている。そして、その表面には、検出素子7a〜7f、8a,8b、9a〜9e、10a〜10eの端子部及びコネクタ12を電気的に接続するための端子部を含む図示しない所要の回路パターンが形成されている。
【0035】
遊星歯車11は、図1及び図3に示すように、図示しない多回転体を挿通するための中央開口61を有し、その周囲に複数の円形の係合孔62が等間隔で形成されている。中央開口61の内周には、第1回転ディスク3の反面側に当該第1回転ディスク1の回転中心(多回転体の回転軸)に対して偏心して設けられた遊星歯車取付部45が係合し、各係合孔62には、第2回転ディスク4の背面に形成された係合突起部53が係合される。したがって、第1回転ディスク3が図示しない多回転体の回転に伴って回転すると、遊星歯車取付部45が中央開口61の内周に密に係合しながら回転するので、遊星歯車11がケース1に形成された内歯車27と噛み合いを保ったまま内歯車27の内周で自転及び公転する。ここで、遊星歯車11及び内歯車27の歯数は、第1回転ディスク3に対して第2回転ディスク4が減速回転するように設定され、例えば、内歯車27の歯数を31とし、遊星歯車11の歯数を30とすれば、第1回転ディスク3に対する第2回転ディスク4の減速比を1/30とすることができる。このように、遊星歯車11及び内歯車27は、多回転体の回転を第2回転ディスク4に伝達する回転伝達部として機能し、第1回転ディスク3に対して第2回転ディスク4を減速回転する。
【0036】
コネクタ12は、所要数のコネクタピン12aとこれらの各コネクタピン12aを所要の配列で保持する絶縁樹脂製の保持部12bとからなる。コネクタピン12aの一端は回路基板5に接続され、他端はカバー2に開口されたコネクタ挿入孔2aに臨んで配置される。
【0037】
信号検出素子受け6は、各検出素子7a〜7f、8a,8b、9a〜9e、10a〜10eを所定の配列で保持するものであって、各信号検出素子7a〜7f、8a,8b、9a〜9e、10a〜10eを個別に取り付けるための区画化された検出素子取付部6aを有しており、回路基板6にねじ止めされる。
【0038】
信号変換手段13は、図5に示すように、第1検出素子群7から出力される6ビットの角度検出用デジタルコード列、第2検出素子群8から出力される2ビットの前後識別用デジタルコード列、第3及び第4の検出素子群9,10から出力されるそれぞれ5ビットのセクタ識別用デジタルコード列を入力し、各デジタルコード列を第1回転ディスク3の回転角度に変換する。この信号変換手段13には、分解能に相当する多回転体の回転角を1ステップとする各ステップ毎のあるべき角度検出用デジタルコード列、前後識別用デジタルコード列、及び2つの異なるセクタ識別用デジタルコード列の関係を示すテーブルが記憶された記憶部13aを備えており、検出素子群7〜10から出力された各デジタルコード列と当該テーブルに記憶されたデジタルコード列とを照合することによって、検出素子群7〜10から出力された各デジタルコード列の適否をチェックしており、適正と判断される各コード列の組合せを見極めて求めた絶対角の情報を制御装置14に出力し、制御装置14から制御対象となる各種機器15(システムを含む)に制御信号を出力している。
【0039】
なお信号変換手段13は、検出素子の故障などによって、検出素子群7〜10から出力されるコード列が稀にあり得ない組合せとなるが、その場合には検出をエラーと判断して、制御装置14から各種機器15にエラー検出の情報を送信する。
【0040】
図6に示すように、6ビットの角度検出用デジタルコード列Aは、セクタ1〜セクタ24における各セクタにおいて、6ビットからなる60ステップのグレイコードをもって構成される。2ビットの前後識別用デジタルコード列Bは、各セクタの前半部と後半部を識別するためのものである。また、5ビットの第1セクタ識別用デジタルコード列C及び第2セクタ識別用デジタルコード列Dは、セクタを識別するためのものである。そして、各セクタの切換部は、第1,第2セクタの切換部と同位相に構成される。
【0041】
角度検出用デジタルコード列Aをグレイコード列をもって構成すると、Mコード等の他のデジタルコード列をもって構成する場合とは異なり、タイミングを読むためのタイミングパルスが不要であるので、多回転角検出装置の構成を簡略化することができ、多回転角検出装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。また、各ステップのコード列がセクタ内及び各セクタ間にわたり1ビットずつ変化するので、タイミングパルスなどを使用することなく簡単な信号処理によって高分解能に角度検出ができる。さらに、電源投入直後に行われるイニシャライゼーションの完了前及び完了後において、角度検出用デジタルコード列Aを検出する検出素子7a〜7fの1つが故障して正しい検出信号を出力できなくなった場合、そのステップ間で2ビット以上の変化が生じることになるので、各ステップ毎に1ビットだけ変化する角度検出用デジタルコード列の並びをチェックすることによって、出力エラーが発生したものと判断できる。さらに、信号変換手段13の記憶部13aに記憶されるグレイコードに対応するテーブルの作成が容易となるので、多回転角検出装置の低コスト化を図ることができる。
【0042】
なお、前後識別用デジタルコード列B及びセクタ識別用デジタルコード列C,Dも、角度検出用デジタルコード列Aと同様に、グレイコードをもって構成される。
【0043】
図6に示すグレーコードをなす角度検出用デジタルコード列Aは、後述する循環性を付与するために、どの桁から読み始めても1セクタ中で同一のコードが現れない6ビットのコード列のみをもって60ステップの循環型グレイコードを構成することができないため、どの桁から読み始めても同一のコードが現れない第1コード列と、読み始める桁を変えると同一のコードが現れる第2コード列との組合せをもって構成する。
【0044】
第1コード列は、ステップ1〜3、ステップ5〜13、ステップ15〜23、ステップ25〜33、ステップ35〜43、ステップ45〜53及びステップ55〜60に示すコード列であり、(100000)、(110000)、(101000)、(111000)、(110100)、(1011000)(111100)、(111010)、(111110)の9種類のコード列を用いて構成される。
【0045】
一方、第2コード列は、同一の2つのコード列が各セクタの前半部及び後半部のそれぞれにおいて同じ配置関係にある。すなわち、それらのコード列のうち前半部のコード列は前半部の最初のコード列(ステップ1)から数えて第4番目にあり、後半部のコード列は後半部の最初のコード列(ステップ31)から数えて第34番目に配置される。
【0046】
例えば図6に示すように、セクタ22の前半部のステップ4と後半部のステップ34に(100100)が配置され、セクタ22の前半部のステップ14と後半部のステップ44に(010010)が配置されると共に、セクタ22の前半部のステップ24と後半部のステップ54に(001001)が配置される。それらの第2コード列は、いずれもコード列(100100)を1桁ずつずらしてなるコード列である。なお、第2コード列をなす各コードは、6ビットコードの前半の3ビットと後半の3ビットのそれぞれが同一のコード列からなり、(011011)を1桁ずつずらした(01101),(110110)などを用いることもできる。
【0047】
なお、循環性をもつグレイコードをなす角度検出用デジタルコード列Aは、図6に示すように、1ステップごとに1ビットずつコードが変化し、かつ、セクタにおける最初のコード列と最後のコード列とが1ビット変化する関係をもつグレイコードであり、各セクタ内においてコード列の並びが所定のステップ数ごとに一定方向に1桁ずつずれていき、各セクタ内でコード列の並びが一定方向に最大にずれた状態からさらに一定方向に所定のステップ数だけずらすと、コード列の並びがさらに一定方向に1桁ずれて、元のコード列の並びに戻る。
【0048】
ここで所定数とは、各セクタのステップ数、即ち、1セクタ内の角度検出用デジタルコード列の数を、角度検出用デジタルコード列を構成するコード符号の数で割った商のことを示す。具体的には、1セクタの角度をB度、実現したい分解能をb度、1セクタ内の角度検出用デジタルコード列を構成するコード符号の数をn(偶数)とすると、各セクタのステップ数がB/bとなるので、そのステップ数B/bを1セクタ内の角度検出用デジタルコード列を構成するコード符号の数nで割った商B/(b×n)が所定数となる。なお、グレイコードが循環性を有するためには、各セクタのステップ数B/bを偶数とすることが必要である。
【0049】
具体的に説明すると、角度検出用デジタルコード列Aは、図6から明らかなように、1ステップごとに1ビットずつコードが変化し、かつ、最初(第1ステップ)のコード列(000100)と最後(第60ステップ)のコードのコード列(000110)とが1ビット変化する関係にある。また、例えばステップ7の(101111)に着目すると、10ステップごとに(110111)、(111011)、(111101)、という具合に、コードの並びが図の右方向に1桁ずつずれて、ステップ57において(011111)となり、ステップ7のコード列の並びに対して右方向へのずれが最大になる。そして、ステップ57の(011111)をさらに同一方向に10ステップずらすと、次セクタのステップ7の(101111)となるように、ズレのない元の状態のコード列の並びに戻る。
【0050】
このように、角度検出用デジタルコード列Aに循環性を付与すると、角度検出
用デジタルコード列を出力する第1検出素子群を、コードパターン列の周方向に等間隔に配設できるので、多回転角検出装置の組立を容易化できると共に、高精度かつ高分解能の角度検出を行うことができる。また、第1検出素子群7を構成する6個の検出素子7a〜7fのそれぞれに対して、第1コードパターン列43を構成する遮光板及び遮光板間のスペースの角度上の位置関係が同様の配置関係となるので、第1コードパターン列43に沿って第1検出素子群7を構成する6個の検出素子7a〜7fを周方向に沿って一定角度間隔で配置することができ、各検出素子7a〜7fの位置決めが容易になって多回転角検出装置の小型化を図ることができる。
【0051】
図6において、2ビットの前後識別用デジタルコード列Bは、各1セクタの前半部と後半部を識別するためのものであって、各セクタの前半部を示す(00)及び(11)と、後半部を示す(01)及び(10)から構成され、図6に示すようにセクタ1からセクタ24にかけて(00)、(01)、(11)、(10)の順に繰り返し割り当てられる。
【0052】
したがって、本例の多回転角検出装置は、角度検出用デジタルコード列Aと2ビットの前後識別用デジタルコード列Bとを組み合わせることによって、各セクタの前半部及び後半部にひとつずつ配置された同一の第2コード列が、各セクタの前半部に属するのか、あるいは後半部に属するのかを識別することができるので、各セクタの前半部及び後半部にひとつずつ配置された同一の第2コード列のそれぞれを異なる角度として検出することができる。
例えば、図6に示すように、セクタ22のステップ4とステップ34に対応する角度検出用デジタルコード列Aは同一の第2コード列(100100)であるが、ステップ4がセクタ22の前半部に属するので前後識別用デジタルコード列Bの(11)と組み合わされ、ステップ34がセクタ22の後半部に属するので前後識別用デジタルコード列Bの(10)とを組み合わされることによってステップ4の角度を(4.5度、具体的は814.5度)、ステップ34の角度を(49.5度、具体的には859.5度)としてを検出することができる。ステップ14とステップ44の(010010)、(001001)についても同様である。
【0053】
なお、本例の多回転角検出装置においては、2ビットの前後識別用デジタルコード列Bとして(00)、(01)、(10)、(11)を用いたが、(0)、(1)を用いることができるのは勿論、多回転角検出装置の分解能や、1セクタの大きさ、角度検出用デジタルコード列Aのビット数などに応じてその他のコード列を用いることもできる。
【0054】
図6に示すように、第3検出素子群9を構成する5個の検出素子9a〜9eから出力される5ビットの第1セクタ識別用デジタルコード列C、及び第4検出素子群10を構成する5個の検出素子10a〜10eから出力される5ビットの第2セクタ識別用デジタルコード列Dは、(10000)、(11000)、(10100)、(11100)、(11010)、(11110)のコード列を用いた循環性をもつグレイコードから構成される。これらの各セクタ識別用デジタルコード列C,Dは、分解能が90度のグレイコードをなし、1ステップごとにコードの並びが1ビットずつ変化すると共に、セクタ1のコード列の並びとセクタ24のコード列の並びも1ビット変化する関係にあり、多回転体の回転範囲内においては同一のコード列が表れないように構成されている。また、第1セクタ識別用デジタルコード列Cの切換部と第2セクタ識別用デジタルコード列Dの切換部とは、各セクタの切換部と同位相に設定される。
【0055】
次に、本発明による多回転角検出装置の作用を図6に基づいて説明する。
【0056】
第1例として、検出される角度検出用デジタルコード列Aが前後識別用デジタルコード列Bの前半部と後半部との切換部付近にある場合について説明する。
【0057】
例えば、セクタ22のステップ31の角度検出用デジタルコード列Aと、前後識別用デジタルコード列B、第1,第2セクタ識別用デジタルコード列C,Dとの組合せが、本来「(100000)(10)(10111)(00001)」であるところ、信号の揺らぎに起因して前後識別用デジタルコード列Bの(10)が(11)と検出されて、「(100000)(11)(10111)(00001)」として検出される例を説明する。
【0058】
信号変換手段13(図5)にそれらのコード列が入力されると、記憶部13aのテーブルに記憶された各デジタルコード列と照合され、角度検出用デジタルコード列A(100000)は、セクタの後半部のステップ31の角度であり、また、第1,第2セクタ識別用コード列C,Dが(10111),(00001)となる組合せはセクタ22以外にはあり得ないことが判るので、直ちにセクタ22であることを識別・判断し、「セクタ22のステップ31の角度45度」、即ち、855度に相当する絶対角の情報を制御装置14に出力することができる。
【0059】
なお、信号の揺らぎによって生じる角度検出用デジタルコード列A及び前後識別用デジタルコード列Bの切り換えタイミングの相対的なズレ量は、±1ステップ未満、即ち本発明の構成では±1.5度未満である。
次に第2例として、検出される角度検出用デジタルコード列Aがセクタの切換部付近にある場合について説明する。
【0060】
例えば、セクタ22のステップ60の角度検出用デジタルコード列Aと前後識別用デジタルコード列B及び第1,第2セクタ識別用デジタルコード列C,Dとの組合せが、本来「(000110)(10)(10111)(00001)」であるところ、信号の揺らぎにより前後識別用デジタルコード列B(10)が(00)、ズレ角により第1セクタ識別用デジタルコード列Cの(10111)が(10110)として検出されて、「(000110)(00)(10110)(00001)」として検出される例を説明する。
【0061】
信号変換手段13は、角度検出用デジタルコード列A(000110)がセクタの後半部のステップ60の角度であるため、前後識別用デジタルコード列Bが(00)や(11)となる組合せはあり得ないので、前後識別用デジタルコード列Bは(10)または(01)であると判断し、また、角度検出用デジタルコード列A(000110)が第1セクタ識別用デジタルコード列C(10110)及びD(00001)と組合わされておりズレ角がセクターの1/2未満であるため、角度検出用デジタルコード列A(000110)はセクタ22に属すると判断して、「セクタ22のステップ60の角度88.5度」、即ち、898.5度に相当する角度信号を制御装置14に出力することができる。
【0062】
次に第3例として、検出される角度検出用デジタルコード列Aがセクタ及び前後識別用デジタルコード列の切換部付近にない場合について説明する。
【0063】
第3例のその1として、例えば、セクタ22におけるステップ6のコード列Aとコード列B,C,Dとの組合せが、本来「(101110)(11)(10111)(00001)」であるところ、検出素子の故障によりコード列Bの(11)が(01)として検出されて、「(101110)(01)(10111)(00001)」として検出される例を説明する。
【0064】
信号変換手段13は、角度検出用デジタルコード列Aの(101110)が前半部のステップ6に対応する角度であるため、前後識別用デジタルコード列Bは(00)又は(11)でなければならず矛盾が生じるため、直ちに誤ったコード列の組み合わせであることが判別でき、上記「(101110)(01)(10111)(00001)」の検出をエラーと判断して、制御装置14にエラー検出の情報を送信する。
【0065】
次に、第3例のその2として、例えば、セクタ22におけるステップ4の角度検出用デジタルコード列Aと前後識別用デジタルコード列B及び第1,第2セクタ識別用デジタルコード列C,Dとの組合せが、本来「(100100)(11)(10111)(00001)」であるところ、検出素子の故障によりコード列Bの(11)が(10)として検出されて、「(100100)(10)(10111)(00001)」として検出される例を説明する。
【0066】
信号変換手段13は、検出された「(100100)(10)(10111)(00001)」がセクタ22の第34ステップに存在するので、その検出結果を誤りであるとは判別することができず、「セクタ22のステップ34の角度49.5度」、即ち、859.5度に相当する絶対角の情報を制御装置14に出力することになる。
【0067】
したがって、たとえ検出素子のひとつが故障して誤ったコードを出した場合であっても、本来の角度が「セクタ22のステップ4の角度4.5度」、即ち、814.5度に対して、45度分(1/2セクタ分)だけずれた角度を検出することになるので、最大エラー角度が45度以内で検出できる。なお、電源投入直後(即ちイグニッションキーをオンした直後)瞬間的に角度検出する誤差は、通常45度以内であれば許容できる範囲内である。その理由は、ハンドルが回転されて角度検出用デジタルコード列Aに続くコード列をチェックすれば、直ぐにそのエラーを修正できるからである。これは、角度検出用デジタルコード列Aが、第2コード列にあたる第4,34ステップの(100100)である場合であるが、第14,44ステップの(010010)、及び第24,54ステップの(001001)についても同様である。
【0068】
次に第4例として、検出される角度検出用デジタルコード列Aが前後識別用デジタルコード列Bの切換部付近にある場合について説明する。
【0069】
例えば、セクタ22のステップ28において、各コード列A,B,C,Dが「(110011)、(11)、(10111)、(00001)」であるところ、第1セクタ識別用コード列Cに対する検出素子の故障により(10111)が(10101)と検出されて、「(110011)(11)(10101)(00001)」として検出される例を説明する。
【0070】
角度検出用デジタルコード列A(110011)は、セクタの前半に属するステップ28の角度であり、前後識別用デジタルコード列Bが(11)、第1セクタ識別用デジタルコード列Cが(10101)であることから、それらのコード列の組合せに対応する第2セクタ識別用デジタルコード列Dの候補が、セクタ5の前後識別用デジタルコード列Bに対応する(110000)なるが、当初検出された第2セクタ識別用デジタルコード列D(00001)との組み合わが矛盾したものになるので、上記当初の「(110011)(11)(10101)(00001)」の検出はあり得ないコード列の組合せであると判断して、制御装置14にエラー検出の情報を送信する。
【0071】
このように、本発明によれば、信号の揺らぎや機械的減速機構のバックラッシュによるズレ角が生じても、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を得て制御装置に送信できると共に、通電開始直後に絶対角の情報が入力されないと不具合を生じるシステムをもつ自動車制御システムに対して有効に適用できる。
【0072】
また、第1,第2セクタ識別用デジタルコード列を出力する検出素子のひとつが故障して誤ったコードを出した場合においても、その他の角度検出用デジタルコード列、前後識別用デジタルコード列との組合せを照合することによって、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を得て制御装置に送信できる。ここで、各セクタに割り当てる角度を、機械的減速機構によるバックラッシュなどに起因する最大ズレ角の2倍以上に設定することで、絶対角の情報の最大誤差を1/2セクタ以下に抑えることができる。
【0073】
さらに、信号変換手段3において、検出素子の故障などによって、検出素子群7〜10から出力されるコード列の組み合わせが、あり得ない組合せとなることがあるが、その場合には、エラーと判断して制御装置14から各種機器15にエラー検出の情報を送信することによって、制御上のトラブルを回避できる。
【0074】
次に、図7に基づいて本発明に好適な変形例について説明する。図7(A)は、図6に示すセクタ1〜セクタ5と前後識別用デジタルコード列B,第1,第2セクタ識別用デジタルコード列C,Dの関係を示すものである。図7(B)は、本発明に好適な変形例を示すものであり、第1セクタ識別用デジタルコード列Cの切換部に対して第2セクタ識別用デジタルコード列Dの切換部を1/2セクタ分ずらした構成であり、その他の構成は図7(A)と同一である。
【0075】
まず、図7(A)について説明する。図7(A)において、セクタ1の最終ステップ60に対し、角度検出用デジタルコード列A,前後識別用デジタルコード列B及び第1,第2セクタ識別用デジタルコード列C,Dが本来「(000110)(01)(01000)(11101)」であるところを、信号の揺らぎに起因して前後識別用デジタルコード列Bの(01)が(11)、第1セクタ識別用コード列Cの(01000)が(11000)、第2セクタ識別用デジタルコード列Dの(11101)が(10101)と検出されて、「(000110)(11)(11000)(10101)」と検出されることがある。一方、セクタ2の最終ステップ60に対し、「(000110)(10)(11000)(10101)」であるところを、検出素子の故障に起因して前後識別用デジタルコード列Bの(10)を(11)と検出し、「(000110)(11)(11000)(10101)」と検出することがある。このような場合、信号の揺らぎや検出素子の故障によって、各コード列A,B,C,Dの組合せとして同一コード列のものが二つ現れて、検出する絶対角にエラーが生じるという危険性が稀にある。
【0076】
次に、図7(B)について説明する。図7(B)において、セクタ1の最終ステップ60に対し、各コード列A,B,C,Dが「(000110)(01)(01000)(11101)」であるところを、信号の揺らぎに起因して前後識別用デジタルコード列Bの(01)を(11)、第1セクタ識別用デジタルコード列Cの(01000)を(11000)と検出し、「(000110)(11)(11000)(11101)」と検出することがある。一方、セクタ2の最終ステップ60に対し、各コード列A,B,C,Dが「(000110)(10)(11000)(10101)」であるところを、検出素子の故障に起因して前後識別用デジタルコード列Bの(10)を(11)と検出し、「(000110)(11)(11000)(10101)」と検出する可能性がある。
【0077】
このように、図7(B)の構成は、たとえ信号の揺らぎや検出素子に故障が生じたとしても、信号の揺らぎや検出素子の故障によって、各コード列A,B,C,Dの組合せとして同一コード列のものが二つ現れないため、検出する絶対角にエラーが生じるという危険性がないので、図7(A)の構成に比べて安全性の点で好適である。
【0078】
したがって、各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の一方の切換部とを同位相にすると共に、前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の他方の切換部とを1/2セクタ分ずらすと、前後識別用デジタルコード列、又は、第1,第2セクタ識別用デジタルコード列を出力する検出素子のひとつが故障して誤ったコードが出力された場合であっても、全セクタ内において、その誤ったコードを含むコード列とその他のコード列との組合せがひとつだけ存在するよう構成できるので、その誤ったコード列を含むコード列とその他のコード列との組合せを照合することによって、電源投入直後に、許容できる誤差内で検出された絶対角の情報を制御装置14に送信できる。
【0079】
本実施形態に係る多回転角検出装置は、1セクタを90°、分解能を1.5°、角度検出用デジタルコード列を6ビット、前後識別用デジタルコード列を2ビット、セクタ識別用デジタルコード列を合計10ビットで構成したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、1セクタについては360°以下の任意の角度に設定することができ、分解能についても任意の角度に設定することができる。
【0080】
また、前記実施形態においては、信号の検出系を遮光板とフォトインタラプタの組合せをもって形成したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、透孔や切り欠きなどの光学パターンとフォトインタラプタとの組合せ、磁気パターンと磁気検出素子との組合せ、又は抵抗体パターンと集電ブラシとの組合せなどをもって構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施形態に係る多回転角検出装置の分解斜視図である。
【図2】実施形態に係る第1回転ディスクの背面図である。
【図3】実施形態に係る遊星歯車と内歯車と第2回転ディスクとの連結状態を示すケースの要部内面図である。
【図4】実施形態に係る第1及び第2の回転ディスクと第1乃至第4の検出素子群を構成する各検出素子との組立状態を示す説明図である。
【図5】実施形態に係る第1乃至第4の検出素子群と信号変換手段との接続状態及び実施形態に係る信号変換手段の構成を示すブロック図である。
【図6】実施形態に係る角度検出用デジタルコード列、前後識別用デジタルコード列及び切換部が同位相の2つのセクタ識別用デジタルコード列の相関を示す表図である。
【図7】図6に示す第1,第2セクタ識別用デジタルコード列の切換部を合致させた場合と1/2セクタずらした場合の効果の違いを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0082】
3 第1回転ディスク
4 第2回転ディスク
7 第1検出素子群
7a〜7f 検出素子
8 第2検出素子群
8a,8b 検出素子
9 第3検出素子群
9a〜9e 検出素子
10 第4検出素子群
10a〜10e 検出素子
11 遊星歯車(減速機構)
13 信号変換手段
A 角度検出用デジタルコード列
B 前後識別用デジタルコード列
C 第1セクタ識別用デジタルコード列
D 第2セクタ識別用デジタルコード列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多回転体に保持された第1回転ディスクと、該第1回転ディスクの異なる円周上に設けられた第1コードパターン列及び第2コードパターン列と、前記第1コードパターン列に対向して配置された複数個の検出素子からなる第1検出素子群と、前記第2コードパターン列に対向して配置された複数個の検出素子からなる第2検出素子群と、前記多回転体に対して機械的減速機構を介し減速回転する第2回転ディスクと、該第2回転ディスクの円周上に設けられた第3コードパターン列と、該第3コードパターン列に対向して配置されたそれぞれ複数個の検出素子からなる第3検出素子群及び第4検出素子群とを備え、
前記第1検出素子群は、前記多回転体の角度検出範囲を前記多回転体の回転数以上の数で等分割する360°以下の角度を1セクタとし、各セクタ内の角度を所望の分解能で検出する角度検出用デジタルコード列を出力し、
前記第2検出素子群は、前記各セクタの前半部と後半部とを識別する前後識別用デジタルコード列を出力し、
前記第3検出素子群及び第4検出素子群は、前記各セクタを識別する2つのセクタ識別用デジタルコード列を出力する
ことを特徴とする多回転角検出装置。
【請求項2】
前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の切換部とを同位相にしたことを特徴とする請求項1に記載の多回転角検出装置。
【請求項3】
前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の一方の切換部とを同位相とし、前記各セクタの切換部と前記2つのセクタ識別用デジタルコード列の他方の切換部とを1/2セクタ分ずらしたことを特徴とする請求項1に記載の多回転角検出装置。
【請求項4】
前記角度検出用デジタルコード列、前記前後識別用デジタルコード列及び前記2つのセクタ識別用デジタルコード列が、グレイコード列であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多回転角検出装置。
【請求項5】
前記グレイコード列が、循環性を有することを特徴とする請求項4に記載の多回転角検出装置。
【請求項6】
前記セクタに割り当てる角度を90°、前記角度検出用デジタルコード列を6ビット、前記2つのセクタ識別用デジタルコード列をそれぞれ5ビットとし、±3.75回転する多回転体の絶対角を検出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多回転角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−107200(P2008−107200A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290168(P2006−290168)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】