説明

多型

本発明は、活性医薬成分であるボリノスタットの結晶形、それらの調製方法および医薬組成物におけるそれらの使用に関する。式(I)。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性医薬成分であるボリノスタットの結晶形、それらの調製方法および医薬組成物におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性成分である有機化合物に、製造プロセス中に操作上の困難性があったり、最終医薬または投与形態に望ましくない特性が与えられるかもしれないとの事実によって、多くの医薬の製造方法が妨げられている。加えて、製造プロセスを通して、活性医薬成分の多型を制御することが困難であることがある。
【0003】
活性成分が1以上の多型で存在しうる医薬には、その活性成分の製造方法が一定の多型純度を有する単一で純粋な多型を供給することを保証することが、特に重要である。もし、その製造プロセスで多型純度が変化する多型が生成すれば、および/または、そのプロセスが多型変換を制御しない場合は、その活性成分を含有する最終医薬組成物には、溶解および/またはバイオアベイラビリティに重大な問題が生じうる。
【0004】
ボリノスタットは、構造式(I)で表され、化学的にN−ヒドロキシ−N’−フェニル−オクタンジアミドまたはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)と称され、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)を阻害する化合物の大きな分類の一種である。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDI)は、エピジェネティックな活動に対して広いスペクトルを有しており、ゾリンザ(登録商標)の商標名で、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)と呼ばれる皮膚ガンの一種の治療のために販売されている。他の医薬での治療の間またはその後に、その疾患が持続し、悪化しまたは再発した場合に用いることで、ボリノスタットが承認されている。ボリノスタットは、またセザリー病の治療にも用いられており、さらに、再発多形性膠芽腫に対して幾分かの活性を所有している。
【0005】
【化1】

【0006】
ボリノスタットは、米国特許第5369108号に初めて記載されたが、多型データについては言及されていなかった。それぞれI型〜V型と呼ばれる、ボリノスタットの5つの結晶形は、文献US2004/0122101およびWO2006/127319に開示されていた。しかし、これら文献に開示された5つの結晶形には、それらを医薬開発のための理想的な結晶形にはさせない、いくつかの不利な点がある。特に、先行技術のI型〜V型に伴われる不利な点には、変色、多型不純物および不安定性が含まれる。I型〜V型、特にIII型、を調製する先行技術の方法には、再現が一定せず、困難であるとの不利な点があり、その方法では多型的に不純な製品が製造される。先行技術の方法は、特に大量スケールの製造には不都合である。
【0007】
もし、結晶形が多型不純物を含んで製造されれば、これによって不安定になったり、他の多型への著しい変換が加速されうる。従って、この変換を避けるために、非常に高い多型純度を有する結晶形を製造することが、重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガン治療のためのボリノスタットによって獲得された重要性を考慮すると、代替的で、相対的に単純で、経済的でかつ商業的に実現可能で、商業的に許容可能な収率と高い多型純度と多型安定性とを有する、ボリノスタットの結晶形の合成方法を開発することが、非常に必要とされている。
【0009】
従って、本発明の目的は、製造しやすく、製剤開発のためにおよび販売される医薬組成物として適した改良された特性を有している、ボリノスタットの新規な結晶形を提供することにある。付加的な目的は、ボリノスタットの既存の多型の公知の調製方法を改良すること、および既存の多型の多型純度を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の先行技術で報告された多型に伴われる問題を回避する改良された特性を有し、VI型と呼ばれるボリノスタットの新規な多型を、本発明者らは驚くべきことに開発した。
【0011】
非常に再現性があり、ボリノスタットのIII型およびボリノスタットのVI型を非常に高い多型純度で製造する条件での、ボリノスタットのIII型およびボリノスタットの新規なVI型の簡便な調製方法をも、本発明者らは開発した。
【0012】
従って、本発明の第一の側面によって、5.01、7.50、9.23、9.92、10.51、12.46、14.90、17.32、19.35、19.86、22.36、23.85、24.20、24.74、25.81、26.93、27.85±0.2°の2θの3以上(好ましくは4以上、好ましくは5以上、好ましくは6以上、好ましくは7以上、好ましくは8以上、好ましくは9以上、好ましくは10以上、好ましくは12以上、好ましくは15以上、または好ましくは17すべて)の2θ値のピークを含むXRPDスペクトルで特徴付けられる、ボリノスタットのVI型結晶が提供される。好ましくは、本発明の第一の側面のボリノスタットのVI型結晶は、実質的に図1に示されるXRPDスペクトルを有する。
【0013】
本発明の第一の側面のボリノスタットのVI型結晶は、約148.2±2.0℃および約163.5±2.0℃に吸熱ピークを、好ましくは約148.18±2.0℃および約163.46±2.0℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量測定(DSC)の図で、さらに特徴付けることができる。好ましくは、本発明の第一の側面のボリノスタットのVI型結晶は、実質的に図2に示されるDSCの図を有する。
【0014】
好ましくは、本発明の第一の側面のボリノスタットのVI型結晶は、実質的に図3に示されるTGAの図を有する。
【0015】
本発明の第二の側面によって、以下の工程:
(a)有機溶媒およびアンモニア水溶液の中に、ボリノスタットまたはその塩を混合する工程;および
(b)その混合物からボリノスタットのVI型を単離する工程を含む、
ボリノスタットのVI型結晶の調製方法が提供される。
【0016】
好ましくは、有機溶媒は、アルコール、ニトリル、エステル、ケトン、アミドまたはこれらの混合物から選択される。
【0017】
好ましくは、有機溶媒は、アルコール、好ましくは直鎖、分岐鎖または環状のC〜Cのアルコールである。より好ましくは、アルコールは、メタノール、イソプロパノールまたはこれらの混合物から選択される。
【0018】
好ましくは、有機溶媒は、ケトン、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトンまたはこれらの混合物から選択される。
【0019】
好ましくは、有機溶媒は、アミド、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合物から選択される。
【0020】
好ましくは、有機溶媒は、エステル、好ましくは酢酸エチル、酢酸メチルまたはこれらの混合物から選択される。
【0021】
好ましくは、有機溶媒は、ニトリル、好ましくはアセトニトリル、プロピオニトリル、またはこれらの混合物から選択される。
【0022】
好ましくは、本発明の第二の側面の方法で用いられるアンモニア水溶液の濃度は、10〜50%(w/w)の間である。より好ましくは、アンモニア水溶液の濃度は、約25%(w/w)である。
【0023】
好ましくは、工程(a)で用いられる有機溶媒:アンモニア水の比は、5:1〜3:1であり、好ましくは、工程(a)で用いられる有機溶媒:アンモニア水の比は、約10:3である。
【0024】
好ましくは、工程(a)において、ボリノスタット1g当たり、約30〜50mlの溶媒(有機溶媒およびアンモニア水を一緒に)、好ましくは約35〜50mlの溶媒、好ましくは約39mlの溶媒が用いられる。
【0025】
好ましくは、本発明の第二の側面の方法において、混合物を加熱して、ボリノスタットまたはその塩を溶解させる。好ましくは、混合物を40〜100℃の間に、より好ましくは約60℃に加熱する。
【0026】
好ましくは、本発明の第二の側面の方法において、ボリノスタットのVI型を単離する前に、混合物を冷却する。好ましくは、混合物を5〜30℃の間に、より好ましくは約25℃に冷却する。
【0027】
本発明の第三の側面によって、本発明の第二の側面の方法で調製されるボリノスタットのVI型結晶が提供される。
【0028】
好ましくは、本発明の第一または第三の側面のボリノスタットのVI型結晶は、好ましくはXRPDまたはDSCの測定によって、好ましくはXRPDの測定によって、ボリノスタットの10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満、さらにより好ましくは0.5%未満、および最も好ましくは0.2%未満を、他の多型の形態で含む。
【0029】
本発明の第四の側面によって、好ましくはXRPDまたはDSCの測定によって、好ましくはXRPDの測定によって、ボリノスタットの10%未満を他の多型の形態で含む、好ましくはボリノスタットの5%未満を他の多型の形態で含む、より好ましくはボリノスタットの1%未満を他の多型の形態で含む、さらにより好ましくはボリノスタットの0.5%未満を他の多型の形態で含む、および最も好ましくはボリノスタットの0.2%未満を他の多型の形態で含む、ボリノスタットのVI型結晶が提供される。
【0030】
好ましくは、本発明の第一、第三または第四の側面のボリノスタットのVI型結晶は、好ましくはHPLCの測定によって、少なくとも95%の、より好ましくは少なくとも98%の、より好ましくは少なくとも99%の、より好ましくは少なくとも99.5%の、さらにより好ましくは少なくとも99.8%の、および最も好ましくは少なくとも99.9%の、化学純度を有する。
【0031】
好ましくは、本発明の第一、第三または第四の側面のボリノスタットのVI型結晶は、III型等のボリノスタットの既存の多型を含む、ボリノスタットの他の多型を調製するために用いることができる。
【0032】
好ましくは、本発明の第一、第三または第四の側面のボリノスタットのVI型結晶は、医薬における使用のために、好ましくはガンの治療のために、好ましくは皮膚ガンの治療のために、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のために、用いることができる。
【0033】
本発明の第五の側面によって、本発明の第一、第三または第四の側面のボリノスタットのVI型結晶を含有する医薬組成物が提供される。好ましくは、医薬組成物は、1またはそれ以上の薬学上許容される賦形剤をさらに含有する。好ましくは、本発明の第五の側面の医薬組成物は、ガンの治療に、好ましくは皮膚ガンの治療に、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療に適している。
【0034】
本発明の第六の側面によって、ガンの治療のための医薬の製造における、本発明の第一、第三または第四の側面のボリノスタットのVI型結晶の使用、または本発明の第五の側面の医薬組成物の使用が提供される。好ましくは、この医薬は、皮膚ガンの治療のため、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のためのものである。
【0035】
本発明の第七の側面によって、治療上有効な量の本発明の第一、第三または第四の側面のボリノスタットのVI型結晶、または治療上有効な量の本発明の第五の側面の医薬組成物を、その必要がある患者に投与することを含む、ガンの治療方法が提供される。好ましくは、この方法は、皮膚ガンの治療のため、より好ましくは皮膚T細胞リンパ種(CTCL)の治療のためのものである。好ましくは、患者は哺乳類であり、好ましくはヒトである。
【0036】
本発明の第八の側面によって、
(a)エタノールまたはアセトニトリルの一方およびアンモニア水の中に、ボリノスタットのVI型を混合して、スラリーを生成させる工程;および
(b)生成したボリノスタットのIII型を単離する工程を含む、
ボリノスタットのIII型結晶の調製方法が提供される。
【0037】
明細書および請求の範囲を通してここに記載されている、用語“ボリノスタットのIII型”は、US2004/0122101およびWO2006/127319に記載され、特徴付けられたボリノスタットのIII型を指す。好ましくは、ボリノスタットのIII型は、波長1.54ÅのCu放射線源を備えた、Siemens D500 Automated Power Diffractometerで測定した時、10.1、12.1、13.8、15.1、17.7、18.5、18.8、19.6、20.2、20.9、21.7、23.8、24.5、25.0、25.4、26.1、26.8、35.6、37.1、40.9、42.4、44.8±0.2°の2θの3以上(好ましくは4以上、好ましくは5以上、好ましくは6以上、好ましくは7以上、好ましくは8以上、好ましくは9以上、好ましくは10以上、好ましくは12以上、好ましくは15以上、好ましくは20以上、または好ましくは22すべて)の2θ値のピークを含むXRPDスペクトルで特徴付けられる。好ましくは、ボリノスタットのIII型は、るつぼとして標準のアルミニウムの皿と蓋を用いて、50℃から観測される融点の30℃上までの温度範囲を、10℃/分の加熱速度で、Perkin Elmer instrumentを用いて測定した時、約123.5℃±2.0℃および約148.9℃±2.0℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量測定(DSC)の図で、特徴付けられる。
【0038】
好ましくは、本発明の第八の側面の方法で用いられるアンモニア水の濃度は、10〜50%(w/w)の間である。より好ましくは、アンモニア水溶液の濃度は、約25%(w/w)である。
【0039】
好ましくは、工程(a)で用いられるエタノールまたはアセトニトリル:アンモニア水の比は、5:1〜3:1であり、好ましくは、工程(a)で用いられるエタノールまたはアセトニトリル:アンモニア水の比は、約10:3である。
【0040】
好ましくは、工程(a)において、ボリノスタット1g当たり、約10〜30mlの溶媒(有機溶媒およびアンモニア水を一緒に)、好ましくは約10〜25mlの溶媒、好ましくは約19.5mlの溶媒が用いられる。
【0041】
好ましくは、スラリーを加熱して、ボリノスタットを溶解させる。好ましくは、スラリーを40〜100℃の間に、より好ましくは約60℃に加熱する。
【0042】
好ましくは、ボリノスタットのIII型を単離する前に、スラリーを冷却する。より好ましくは、スラリーを5〜30℃の間に、最も好ましくは約25℃に冷却する。
【0043】
本発明の第九の側面によって、本発明の第八の側面の方法で調製されるボリノスタットのIII型結晶が提供される。
【0044】
好ましくは、本発明の第九の側面のボリノスタットのIII型結晶は、好ましくはXRPDまたはDSCの測定によって、好ましくはXRPDの測定によって、ボリノスタットの2%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.5%未満、さらにより好ましくは0.2%未満、および最も好ましくは0.1%未満を他の多型の形態で含む。
【0045】
本発明の第十の側面によって、好ましくはXRPDまたはDSCの測定によって、好ましくはXRPDの測定によって、ボリノスタットの2%未満を他の多型の形態で含む、好ましくはボリノスタットの1%未満を他の多型の形態で含む、より好ましくはボリノスタットの0.5%未満を他の多型の形態で含む、さらにより好ましくはボリノスタットの0.2%未満を他の多型の形態で含む、および最も好ましくはボリノスタットの0.1%未満を他の多型の形態で含む、ボリノスタットのIII型結晶が提供される。
【0046】
好ましくは、本発明の第九または第十の側面のボリノスタットのIII型結晶は、好ましくはHPLCの測定によって、少なくとも95%の、より好ましくは少なくとも98%の、より好ましくは少なくとも99%の、より好ましくは少なくとも99.5%の、さらにより好ましくは少なくとも99.8%の、および最も好ましくは少なくとも99.9%の、化学純度を有する。
【0047】
好ましくは、本発明の第九または第十の側面のボリノスタットのIII型結晶は、医薬における使用のために、好ましくはガンの治療のため、好ましくは皮膚ガンの治療のため、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のために、用いることができる。
【0048】
本発明の第十一の側面によって、本発明の第九または第十の側面のボリノスタットのIII型結晶を含有する医薬組成物が提供される。好ましくは、医薬組成物は、1またはそれ以上の薬学上許容される賦形剤をさらに含有する。本発明の第十一の側面の医薬組成物は、ガンの治療に、好ましくは皮膚ガンの治療に、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療に適している。
【0049】
本発明の第十二の側面によって、ガンの治療のための医薬の製造における、本発明の第九または第十の側面のボリノスタットのIII型結晶の使用、または本発明の第十一の側面の医薬組成物の使用が提供される。好ましくは、この医薬は、皮膚ガンの治療のため、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のためのものである。
【0050】
本発明の第十三の側面によって、治療上有効な量の本発明の第九または第十の側面のボリノスタットのIII型結晶、または治療上有効な量の本発明の第十一の側面の医薬組成物を、その必要がある患者に投与することを含む、ガンの治療方法が提供される。好ましくは、この方法は、皮膚ガンの治療のため、より好ましくは皮膚T細胞リンパ種(CTCL)の治療のためのものである。好ましくは、患者は哺乳類であり、好ましくはヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ボリノスタットのVI型の粉末X線回折(XRPD)スペクトルである。
【図2】ボリノスタットのVI型の示差走査熱量測定(DSC)の図である。
【図3】ボリノスタットのVI型の熱重量分析(TGA)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
概要を上述した通り、本発明によって、吸湿性がなく、多型的に純粋および安定であり、従来技術の結晶形に伴われる問題を回避する有利な特性を有する、ボリノスタットの新規な結晶形、VI型が提供される。
【0053】
加えて、III型を非常に高い多型純度で製造できる、新規なボリノスタットのIII型結晶の調製方法が開発された。
【0054】
本発明の方法の好ましい態様を、以下に記述する。
本発明の第二の側面の方法の好ましい態様において、1またはそれ以上の有機溶媒およびアンモニア水溶液(〜25%w/w)と、ボリノスタットを混合する。結果として生じる懸濁液を、好ましくは約60℃で約1時間、攪拌しながら加熱する。その後、透明な反応混合物を、好ましくは約25℃に冷却して、ろ過する。得られたボリノスタットのVI型結晶を、好ましくは、重量が一定になるまで、真空下、約60℃で乾燥する。
【0055】
好ましくは、有機溶媒は、アルコール、ニトリル、エステル、ケトン、アミドまたはこれらの混合物から選択される。好ましくは、有機溶媒は、アルコール、好ましくは直鎖、分岐鎖または環状のC〜Cのアルコールである。より好ましくは、アルコールは、メタノール、イソプロパノールまたはこれらの混合物から選択される。好ましくは、有機溶媒は、ケトン、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトンまたはこれらの混合物から選択される。好ましくは、有機溶媒は、アミド、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合物から選択される。好ましくは、有機溶媒は、エステル、好ましくは酢酸エチル、酢酸メチルまたはこれらの混合物から選択される。好ましくは、有機溶媒は、ニトリル、好ましくはアセトニトリル、プロピオニトリル、またはこれらの混合物から選択される。
【0056】
本発明の主たる有利な点は、その新規な多型を得る方法における再現可能な条件、ならびにボリノスタットのVI型の多型的な純度および安定性である。本発明の多型によって、ボリノスタットをより簡便に精製でき、非常に高い化学純度で得ることも可能にする。
【0057】
加えて、本発明者らは驚くべきことに、ボリノスタットの新規なVI型結晶を用いることでボリノスタットのIII型等の他の既知の結晶形を調製することができること、また、特に驚くべきことに、得られるIII型が非常に高い多型純度で特徴付けられることを、見出した。
【0058】
ボリノスタットのIII型の好ましい調製方法は、エタノール(またはアセトニトリル)およびアンモニア水にボリノスタットのVI型を混合する工程、約60℃にスラリーを加熱する工程、冷却する工程、ならびに生成するボリノスタットのIII型をろ過する工程を含む。その後、好ましくは、ボリノスタットのIII型を一定の重量まで乾燥する。
【0059】
好ましくは、得られたボリノスタットのVI型およびIII型を、水分含量が約1%未満、好ましくは約0.5%未満になるまで乾燥する。
【0060】
本発明の第五および第十一の側面の医薬組成物は、溶液または懸濁液であってもよいが、好ましくは固形経口投薬形態である。本発明に従った好ましい固体経口投薬形態としては、錠剤、カプセル等が含まれ、これらは必要に応じてコーティングを施してもよい。錠剤は、直接圧縮、湿式造粒および乾式造粒等の従来の技術に従って、製造することができる。カプセルは、一般にゼラチン材料から形成され、本発明に従って従来通り製造される顆粒状の賦形剤を含めることができる。
【0061】
本発明の医薬組成物は、典型的には、充填剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤を含む群から選択される1またはそれ以上の薬学上許容される従来の賦形剤を含み、任意に着色剤、吸着剤、界面活性剤、膜形成剤および可塑剤から選択されるの少なくとも1つの賦形剤をさらに含む。
【0062】
固形医薬製剤がコーティング錠の形態である場合、コーティングは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロシキプロピルセルロース、メタアクリレートポリマー等のフィルム形成剤の少なくとも1つから調製することができ、ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチル等の可塑剤の少なくとも1つ、および色素、充填剤等の膜コーティングにとって慣用的に用いられる、その他の医薬補助物質を任意に含んでもよい。
【0063】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、ボリノスタットの投与量が0.1mg〜100mg/kg/日となるように、ボリノスタットを1mg〜500mgの量含有する単位投与形態である。
【0064】
好ましくは、本発明の第五および第十一の側面の医薬組成物は、ガンの治療において、好ましくは皮膚ガンの治療において、最も好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療において使用するためのものである。
【0065】
本発明の詳細、その目的および有利な点を、制限をしない実施例によって、以下により詳細に説明する。
【実施例】
【0066】
すべてのXRPD分析は、波長1.54ÅのCu放射線源を備えた、Brucker D8 Advanced instrumentで行った。
【0067】
すべてのDSC分析は、るつぼとして小さな穴を有する閉じたアルミニウムの皿を用いて、25℃〜250℃の温度範囲を、10℃/分の加熱速度で、Perkin Elmer instrumentで行った。
【0068】
すべてのTGA分析は、るつぼとして開放じたセラミックの皿を用いて、25℃〜250℃の温度範囲を、10℃/分の加熱速度で、Perkin Elmer instrumentで行った。
【0069】
すべてのDrift IR分析は、KBrを用いて、25℃の温度で、Perkin Elmer instrumentで行った。
【0070】
実施例1:ボリノスタットのVI型結晶の調製
メタノール(300ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,90ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタット(10g)を加えて、その懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。結果として生じた透明な溶液を25℃に冷却して、ろ過することで、固体生成物を得た。これを一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=7.5g(75%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0071】
実施例2:ボリノスタットのVI型結晶の調製
アセトン(300ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,90ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタット(10g)を加えて、その懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。結果として生じた透明な溶液を25℃に冷却して、ろ過することで、固体生成物を得た。これを一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=8.1g(81%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0072】
実施例3:ボリノスタットのVI型結晶の調製
アセトニトリル(300ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,90ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタット(10g)を加えて、その懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。結果として生じた透明な溶液を25℃に冷却して、ろ過することで、固体生成物を得た。これを一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=8.3g(83%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0073】
実施例4:ボリノスタットのVI型結晶の調製
酢酸エチル(300ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,90ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタット(10g)を加えて、その懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。結果として生じた透明な溶液を25℃に冷却して、ろ過することで、固体生成物を得た。これを一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=7.8g(78%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0074】
実施例5:ボリノスタットのVI型結晶の調製
N,N−ジメチルホルムアミド(300ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,90ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタット(10g)を加えて、その懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。結果として生じた透明な溶液を25℃に冷却して、ろ過することで、固体生成物を得た。これを一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=7.9g(79%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0075】
実施例1〜5で得られた生成物のXRPDおよびDSC分析データを、図1および2にそれぞれ示す。これらから、得られた生成物がボリノスタットの新規な多型であったことが確かめられた。TGA分析データを、図3に示す。
【0076】
得られた新規な多型、VI型結晶は、他の結晶形が観測されず、実質的に多型的に純粋(>99.7%多型的に純粋)であった。特に、調製されたVI型結晶形は、I型およびIII型を含まないことがDrift IRで確かめられ、II型、IV型およびV型を含まないことがXRPDデータおよびDSCデータで確かめられた。
【0077】
VI型結晶は、6ケ月間、40℃±2℃の温度で75%±5%の相対湿度で保存したとき、他の多型への経時的変換が無く、非常に多型的に安定であることも、見出された。
【0078】
実施例6:ボリノスタットのIII型結晶の調製
エタノール(150ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,45ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタットのVI型(10g)を加えた。結果として生じた懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。反応混合物を25℃に冷却して、ろ過した。固体生成物を一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=6.2g(62%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0079】
実施例7:ボリノスタットのIII型結晶の調製
アセトニトリル(150ml)およびアンモニア水(〜25%w/w,45ml)が入った反応フラスコに、ボリノスタットのVI型(10g)を加えた。結果として生じた懸濁液を60℃で1時間、攪拌しながら加熱した。反応混合物を25℃に冷却して、ろ過した。固体生成物を一定の重量になるまで、60℃で真空下、乾燥した。
収量=6.4g(64%)。
化学純度≧99.9%(HPLC測定)。
【0080】
実施例6および7で得られた生成物のH−NMR分析によって、ボリノスタットの生成が示された。XRPDおよびDSC分析データから、US2004/0122101およびWO2006/127319に開示されたデータに従って、得られた生成物がボリノスタットのIII型であったことが確かめられた。
【0081】
実施例6および7で調製されたボリノスタットのIII型結晶のサンプルは、他の結晶形が観測されず、実質的に多型的に純粋(>99.7%多型的に純粋)であることがXRPDデータおよびDSCデータで確かめられ、見出された。
【0082】
調製されたボリノスタットのIII型結晶のサンプルは、6ケ月間、40℃±2℃の温度で75%±5%の相対湿度で保存したとき、他の多型への経時的変換が無く、非常に多型的に安定であることも、見出された。
【0083】
以上、本発明について説明してきたが、これは例示でしかないことが理解されるであろう。実施例は本発明の範囲を限定することを意図したものではない。さまざまな改変および態様は、以下の請求項のみによって規定される本発明の範囲および精神から逸脱せずに実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5.01、7.50、9.23、9.92、10.51、12.46、14.90、17.32、19.35、19.86、22.36、23.85、24.20、24.74、25.81、26.93、27.85±0.2°の2θの3以上の2θ値のピークを含むXRPDスペクトルで特徴付けられる、ボリノスタットのVI型結晶。
【請求項2】
約148.2±2.0℃および約163.5±2.0℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量測定(DSC)の図で特徴付けられる、請求項1記載のボリノスタットのVI型結晶。
【請求項3】
以下の工程:
(a)有機溶媒およびアンモニア水溶液の中に、ボリノスタットまたはその塩を混合する工程;および
(b)その混合物からボリノスタットのVI型を単離する工程を含む、
請求項1または2記載のボリノスタットのVI型結晶の調製方法。
【請求項4】
有機溶媒が、アルコール、ニトリル、エステル、ケトン、アミドまたはこれらの混合物から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
有機溶媒がアルコールである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
アルコールが、直鎖、分岐鎖または環状のC〜Cのアルコールである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
アルコールは、メタノール、イソプロパノールまたはこれらの混合物から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒がケトンである、請求項4記載の方法。
【請求項9】
ケトンが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトンまたはこれらの混合物から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
有機溶媒がアミドである、請求項4記載の方法。
【請求項11】
アミドが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合物から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
有機溶媒がエステルである、請求項4記載の方法。
【請求項13】
エステルが、酢酸エチル、酢酸メチルまたはこれらの混合物から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
有機溶媒がニトリルである、請求項4記載の方法。
【請求項15】
ニトリルが、アセトニトリル、プロピオニトリル、またはこれらの混合物から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
アンモニア水溶液の濃度が、10〜50%(w/w)の間である、請求項3〜15のいずれか記載の方法。
【請求項17】
アンモニア水溶液の濃度が、約25%(w/w)である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(a)において、ボリノスタットまたはその塩を溶解させるために、混合物を加熱する、請求項3〜17のいずれか記載の方法。
【請求項19】
混合物を40〜100℃の間に加熱する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
混合物を約60℃に加熱する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
ボリノスタットのVI型を単離する前に、混合物を冷却する、請求項3〜20のいずれか記載の方法。
【請求項22】
混合物を5〜30℃の間に冷却する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
混合物を約25℃に冷却する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項3〜23のいずれか記載の方法で調製される、ボリノスタットのVI型結晶。
【請求項25】
(a)ボリノスタットの10%未満を他の多型の形態で;または
(b)ボリノスタットの5%未満を他の多型の形態で;または
(c)ボリノスタットの1%未満を他の多型の形態で;または
(d)ボリノスタットの0.5%未満を他の多型の形態で;または
(e)ボリノスタットの0.2%未満を他の多型の形態で含む、
ボリノスタットのVI型結晶。
【請求項26】
医薬における使用のための、請求項1、2、24または25のいずれか記載のボリノスタットのVI型結晶。
【請求項27】
請求項1、2、24または25のいずれか記載のボリノスタットのVI型結晶を含有する医薬組成物。
【請求項28】
ガンの治療のための、請求項26記載のボリノスタットのVI型結晶または請求項27記載の医薬組成物。
【請求項29】
皮膚ガンの治療のための、請求項28記載のボリノスタットのVI型結晶または医薬組成物。
【請求項30】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のための、請求項29記載のボリノスタットのVI型結晶または医薬組成物。
【請求項31】
ガンの治療のための医薬の製造における、請求項26記載のボリノスタットのVI型結晶の使用、または請求項27記載の医薬組成物の使用。
【請求項32】
皮膚ガンの治療のための医薬の製造における、請求項31記載の使用。
【請求項33】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のための医薬の製造における、請求項32記載の使用。
【請求項34】
治療上有効な量の、請求項26記載のボリノスタットのVI型結晶または請求項26記載の医薬組成物を、その必要がある患者に投与することを含む、ガンの治療方法。
【請求項35】
方法が皮膚ガンの治療のためのものである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
方法が皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のためのものである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
患者が哺乳動物である、請求項34〜36のいずれか記載の方法。
【請求項38】
哺乳動物がヒトである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
(a)エタノールおよびアンモニア水の中に、ボリノスタットのVI型を混合する工程;および
(b)生成したボリノスタットのIII型を単離する工程を含む、
ボリノスタットのIII型結晶の調製方法。
【請求項40】
(a)アセトニトリルおよびアンモニア水の中に、ボリノスタットのVI型を混合する工程;および
(b)生成したボリノスタットのIII型を単離する工程を含む、
ボリノスタットのIII型結晶の調製方法。
【請求項41】
混合物を40〜100℃の間に加熱する、請求項39または40記載の方法。
【請求項42】
混合物を約60℃に加熱する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
ボリノスタットのIII型を単離する前に、混合物を冷却する、請求項39〜42のいずれか記載の方法。
【請求項44】
混合物を5〜30℃の間に冷却する、請求項43記載の方法。
【請求項45】
混合物を約25℃に冷却する、請求項44記載の方法。
【請求項46】
請求項39〜45のいずれか記載の方法で調製された、ボリノスタットのIII型結晶。
【請求項47】
(a)ボリノスタットの2%未満を他の多型の形態で;または
(b)ボリノスタットの1%未満を他の多型の形態で;または
(c)ボリノスタットの0.5%未満を他の多型の形態で;または
(d)ボリノスタットの0.2%未満を他の多型の形態で;または
(e)ボリノスタットの0.1%未満を他の多型の形態で含む、
ボリノスタットのIII型結晶。
【請求項48】
医薬における使用のための、請求項46または47記載のボリノスタットのIII型結晶。
【請求項49】
請求項46〜48のいずれか記載のボリノスタットのIII型結晶を含有する医薬組成物。
【請求項50】
ガンの治療のための、請求項48記載のボリノスタットのIII型結晶または請求項49記載の医薬組成物。
【請求項51】
皮膚ガンの治療のための、請求項50記載のボリノスタットのIII型結晶または医薬組成物。
【請求項52】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のための、請求項51記載のボリノスタットのIII型結晶または医薬組成物。
【請求項53】
ガンの治療のための医薬の製造における、請求項48記載のボリノスタットのIII型結晶の使用、または請求項49記載の医薬組成物の使用。
【請求項54】
皮膚ガンの治療のための医薬の製造における、請求項53記載の使用。
【請求項55】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療のための医薬の製造における、請求項54記載の使用。
【請求項56】
治療上有効な量の、請求項48記載のボリノスタットのIII型結晶または請求項49記載の医薬組成物を、その必要がある患者に投与することを含む、ガンを治療する方法。
【請求項57】
方法が皮膚ガンを治療するためのものである、請求項56記載の方法。
【請求項58】
方法が皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を治療するためのものである、請求項57記載の方法。
【請求項59】
患者が哺乳動物である、請求項56〜58のいずれか記載の方法。
【請求項60】
哺乳動物がヒトである、請求項59記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−509929(P2012−509929A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538053(P2011−538053)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051596
【国際公開番号】WO2010/061219
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(508116469)ジェネリクス・(ユーケー)・リミテッド (34)
【Fターム(参考)】