説明

多孔体の製造方法

【課題】パーティクルの発生個数の低減化が図られている多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】100重量部のSiC粉末と、5重量部以下のカーボン粉末または5重量部以下のカーボンを含む有機系バインダーと、20重量部以上の金属シリコン粉末との混合粉末をプレス成形して成形体とする。成形体を非酸化雰囲気中、1200〜1350[℃]で熱処理することにより金属シリコンの粒子同士をネッキングさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や液晶パネルをはじめとするフラットパネルディスプレイ製造装置などに使用される露光装置のようにパーティクルの発生が問題となる工程を必要とする各産業分野に関わる。
【背景技術】
【0002】
セラミックス多孔体は耐熱性や耐蝕性に優れていることから半導体製造装置や液晶製造装置内のフィルター、雰囲気ガス等や洗浄液等をウエハやガラス基板等に供給するための給気部材や給液部材、およびウエハやガラス基板の吸着装置の吸着板等に使用されている。吸着装置としてはアルミニウムやステンレスなどの金属素材に溝や穴を開け、そこから吸引するものも多くある。
【0003】
しかし、近年、ウエハや基板ガラスの大型化、薄型化に伴い、溝や穴などの特定部位から吸引する場合、被吸着物であるウエハや基板ガラスが変形し、高精度の吸着が出来ないことや、吸着力が不足するなどの問題が発生する。そのため、吸着装置として全面吸着することができる多孔体が多く用いられている。なかでも、SiCはSiウエハとの熱膨張率差が少ないことからSiウエハの搬送装置などに多く使用されており、吸着装置以外でのSiCを用いた多孔体の活用も広がっている。
【0004】
このような多孔体に関する技術が種々提案されている。例えば、SiC粉末に、金属シリコン粉末とフェノールなどの有機物を添加し、それらを反応させてSiC化することによるSiC粒子間を接合するものや発泡剤をいれるものなどがある。多孔体の強度は通常の緻密体より低く、そのため粒子の脱粒も起こりやすくなっている。また、残留しているカーボンなどによりパーティクルが多く発生するという問題点がある。
【0005】
骨材となる耐火性粒子と金属珪素とを含む多孔体が開示されている(特許文献1参照)。この多孔体は、耐火性粒子原料に、金属珪素と有機バインダーを添加し混合及び混練して得られた坏土を成形し、得られた成形体を仮焼して成形体中の有機バインダーを除去した後、本焼成する製造方法により得られる。この方法によれば、バインダーを除去しているので、残留カーボンによるパーティクルの発生を抑制できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、バインダーを除去しても、パーティクルの発生を十分に抑制することはできなかった。したがって、このような多孔体を半導体製造装置等の部材として用いると、ウエハやガラス基板にパーティクルが付着し、処理精度の低下を招く。
【0008】
具体的には、給気部材や給液部材では、供給する気体や液体にパーティクルが紛れ込む場合があり、また、吸着装置でも直接接触するのでパーティクルがウエハ及びガラス基板に転移する場合があった。特に近年、半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ製造装置の分野では、処理精度の高度化が著しく、より低パーティクル性の多孔体が望まれていた。
【0009】
パーティクルの発生源として残留カーボンの脱粒及びSiCの脱粒があげられる。残留カーボンとしては、SiC多孔体の接合材として使用されているフェノールなどバインダーの有機物が起因と考えられる。上述のように、通常、SiCの多孔体を作製する場合、カーボン源及び金属シリコンを添加し、これらを反応させてSiC化させることによりSiCの粒子同士を接合させる。
【0010】
このとき、すべてのカーボンがSiC化せず、一部が微細な残留カーボンとして残るため、これがパーティクルとなってしまう。残留カーボンについては、本焼成後に、有機溶剤等により洗浄することにより、ある程度除去することができる。しかし、完全に除去することは困難なので、できるだけ減らすことが好ましい。
【0011】
したがって、特許文献1に記載された発明によれば、カーボンを除去しているのでパーティクルを低減できることが期待されたが、十分に低減することはできなかった。そこで、パーティクル成分を調べたところ、カーボンは低減されているものの、SiCの脱粒が著しい。
【0012】
ここで、通常、SiCには遊離炭素が含まれており、遊離炭素は、バインダーの除去温度である150℃から700℃では、除去することはできない。したがって、特許文献1に記載された発明のように、1400℃以上に加熱して金属シリコンを軟化させて結合させる場合、カーボンとの反応性が高まるため、SiCに含まれる遊離炭素と反応して、微細なSiCが生成する。これが、パーティクル源となったと考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、パーティクルの発生個数の低減化が図られている多孔体の製造方法を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、熱処理温度を下げることによりパーティクル発生量の少ない多孔体が得られることを知見した。
【0015】
当該知見に基づく本発明の多孔体の製造方法は、100重量部のSiC粉末と、5重量部以下のカーボン粉末または5重量部以下のカーボンを含む有機系バインダーと、20重量部以上の金属シリコン粉末との混合粉末をプレス成形して成形体とする工程と、前記成形体を非酸化雰囲気中、1200〜1350[℃]で熱処理することにより金属シリコンの粒子同士をネッキングさせる工程を含むことを特徴とする。
【0016】
熱処理温が1200〜1350[℃]の温度範囲で実行されるので、金属シリコンのカーボンとの反応によるSiC化が防止され、かつ、金属シリコンの粒子同士のネッキングが促進される。また、熱処理雰囲気が非酸化雰囲気であるため、金属シリコンの表面にネッキングを阻害する酸化膜は生じない。
【0017】
したがって、金属シリコンの粒子同士が強固に結合した多孔体が得られる。金属シリコンのネッキングを進行させることにより金属シリコン粒子間の距離が小さくなり、SiC粉末についても強固に締め付けられるため、脱粒を防ぐことができる。金属シリコンとSiC粉末とは反応しないと考えられるので、SiC粉末の固定が問題となるが、金属シリコンの粒子同士のネッキングにより、SiC粉末についても強固に締め付けられるため脱粒を防ぐことができる。ここで、有機系バインダーに含まれるカーボン量は、残留炭素量(コンラドソン法;JISK2270)である。
【0018】
多孔体の原料である混合粉末におけるカーボンの含有量は、SiC粉末100重量部に対して5重量部以下であることが望ましい。カーボンが多いと、それ自体がパーティクル源となりやすいためであり、また、金属シリコンのネッキングを阻害するおそれがあるためである。また、混合粉末におけるカーボンの含有量は、SiC粉末100重量部に対して1重量部以上であることが望ましい。それ以下の添加量では本焼成前の成形体の作製が困難である。さらに金属シリコンによるネッキングが発生するまで、成形体を保持できなくなる。
【0019】
多孔体の原料である混合粉末における金属シリコンの含有量は、SiC粉末100重量部に対して20重量部以上であることが望ましい。金属シリコンの含有量が20重量部に満たないと、多孔体全体の強度が低下するため好ましくない。また、金属シリコンの添加量の上限は60重量部以下が望ましい。60重量部よりも多く添加すると金属シリコンのネッキングにより、気孔率の制御が困難になる。
【発明の効果】
【0020】
上述のように、金属シリコンの粒子同士がネッキングした構造とすることにより、パーティクルの発生が抑えられ、半導体製造装置及びフラットパネルディスプレイ製造装置に好適な多孔体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
SiC粉末としては平均粒径(D50)が20〜200[μm]で、純度は99[%]以上のものを使用する。平均粒径が20[μm]より小さいと多孔体として十分な気孔径が確保できない。また、平均粒径が200[μm]より大きいと粒子の表面積が大きいため、多孔体としての十分な強度が確保できない。また、純度については98[%]以上であれば十分であり、市販の研磨材程度の純度で十分である。なお、ここで言う平均粒径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−920、堀場製作所(登録商標)製)を用いた測定値である。
【0022】
金属シリコンとしては平均粒径(D50)が10〜50[μm]で純度は99.9[%]以上のものを使用する。平均粒径が10[μm]より小さい金属シリコンを使用すると表面に酸化膜が多く形成されている可能性が高く、熱処理の段階で酸化膜の影響により多孔体の強度を発現するために必要なネッキングが発生しない。また、平均粒径が50[μm]よりも大きいと金属シリコンの分散に偏りが生じ、多孔体の強度が低下する。純度については、純度の低い金属シリコンを使用すると融点が低下するため、1200〜1350[℃]程度の温度で熔解し、カーボンと反応する恐れがある。
【0023】
カーボンとしては有機系のバインダーであれば液体でも粉末状のものでも構わない。ただし、高温での強度を考慮するとフェノール系のバインダーが望ましい。バインダーの残留炭素率(カーボン量)としては、40〜60重量部のものが混合粉末の成形に適している。
【0024】
混合粉末の成形方法は、公知の方法が採用できる。例えば、CIP、プレス成形、押し出し成形等が適用できる。添加するバインダーによっては、成形体の強度を高めるために熱を加えても良い。
【0025】
金属シリコンをネッキングさせるための熱処理の雰囲気は、非酸化雰囲気が望ましい。具体的には、真空中やAr等の不活性ガス中で熱処理することができる。
【0026】
本発明の多孔体は、気孔径が10[μm]以上とすることが好ましい。10[μm]未満では通風抵抗が大きく、フィルターとして使用する場合、好ましくない。また、上限については使用上の規定はないが、使用するSiC粉末の粒径などから100[μm]以上の平均気孔径は多孔体の強度上、作製が困難である。
【0027】
また、気孔率は、30〜60[%]であることが好ましい。この範囲の気孔率ならばフィルターなどとして使用する際の通風抵抗が最適である。気孔率が60%より大きいと多孔体の強度が低下するという問題が発生する。
【0028】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
[実施例1〜8、比較例1〜3]
市販のSiC粉末(粒径(D50)135[μm]、純度99[%])、Si粉末(粒径(D50)45[μm]、純度99.9[%])及びフェノール粉末(ノボラック型、残留炭素率50重量部)を表1に示されている割合で混合し、1時間にわたり乾式混合する。その後、20[kg/cm2]の圧力をかけながら150[℃]で1時間にわたり熱プレスを行った。熱プレス後、12時間−150℃で硬化処理を行い、その後、表1の温度で熱処理(Ar雰囲気)を行った。こうして得られた多孔体をパーティクルを測定するために□30[mm]×t3[mm]形状に加工した。加工後の洗浄はメタノールによる超音波洗浄(40[kHz])を15分間行った後、炭化水素系洗剤に30分間浸漬、超純水に10分間浸漬した。さらに超純水による超音波洗浄(40[kHz])を10分間にわたって行い、最後に超純水でシャワーを行った。その後、乾燥した後、測定を行った。
【0029】
パーティクルの発生個数の測定はリオン(登録商標)社製のKC−24を用いた。窒素ガスを、多孔体を介して吸引し、吸引したガスに含まれるパーティクルの発生個数を測定した。測定用の気体は液体窒素から取り出した窒素を使用し、窒素を満たした容器の出口に多孔体を取り付け、この多孔体と測定器から伸びているφ10[mm]の吸引部を接続して、更に測定器の計測部分に接続した。パーティクル測定器の吸引流量は28[l/min]とした。測定したパーティクルの粒子径は0.5[μm]以上で、10分間測定しパーティクルの量をカウントした。なお、ブランクのパーティクル数は平均で10個以下であった。パーティクルの測定結果を表1に示す。なお、気孔率はアルキメデス法で測定した。
[比較例4]
上記実施例と同様に成形したものを、熱処理において、700[℃]まで大気中にて加熱し、バインダー起因のカーボンを除去した後に、Ar雰囲気で加熱した。その他の工程は、上記実施例と同様に行った。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、すべての実施例でパーティクル数が50個以下であった。比較例1〜3では、実施例と比べて、パーティクル数は著しく多くなった。バインダーを除去した比較例4でもパーティクル数が多かった。したがって、100重量部のSiC粉末に対して、5重量部以下のカーボン及び20重量部以上の金属シリコンとからなり、1200〜1350℃の低温で熱処理して得られる多孔体により、パーティクルを低減できることが分かった。光学顕微鏡で、本発明の多孔体(実施例1〜8)を観察したところ、金属シリコン粒子は溶融せずに隣接する粒子とネッキングしており、SiC粉末粒子との濡れは見られなかった。
【0032】
以上より、本発明の多孔体は、金属シリコンのネッキング構造を有しており、パーティクルの発生が少なく、半導体製造装置及びフラットパネルディスプレイ製造装置に好適に使用できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のSiC粉末と、5重量部以下のカーボン粉末または5重量部以下のカーボンを含む有機系バインダーと、20重量部以上の金属シリコン粉末との混合粉末をプレス成形して成形体とする工程と、
前記成形体を非酸化雰囲気中、1200〜1350[℃]で熱処理することにより金属シリコンの粒子同士をネッキングさせる工程を含むことを特徴とする多孔体の製造方法。

【公開番号】特開2012−162452(P2012−162452A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69906(P2012−69906)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2007−201515(P2007−201515)の分割
【原出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】