説明

多孔性中空糸膜の製造方法、多孔性中空糸膜、多孔性中空糸膜を用いたモジュール、多孔性中空糸膜を用いたろ過装置及び多孔性中空糸膜を用いた水処理方法

【課題】高い連通性を確保でき、実液性能の高い多孔性中空糸膜を得ることができる多孔性中空糸膜の製造方法、高い連通性を有し、実液性能の高い多孔性中空糸膜、多孔性中空糸膜を用いたモジュール、多孔性中空糸膜を用いたろ過装置及び多孔性中空糸膜を用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を含む溶融混練物を中空糸成型用ノズル12の環状の吐出口16から吐出して中空糸状物を成型し、当該中空糸状物を冷却固化した後に有機液体及び無機微粉を抽出除去して多孔性中空糸膜1を製造する方法であって、熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を溶融混練してから溶融混練物を中空糸状に吐出して成型するまでの間の少なくとも1箇所にフィルター17を設け、溶融混練物をフィルター17に通過させてから中空糸状に吐出して成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性中空糸膜の製造方法、多孔性中空糸膜、多孔性中空糸膜を用いたモジュール、多孔性中空糸膜を用いたろ過装置及び多孔性中空糸膜を用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、限外ろ過膜、精密ろ過膜などの多孔膜は、電着塗料の回収、超純水からの微粒子除去、パイロジェンフリー水の製造、酵素の濃縮、発酵液の除菌・清澄化、上水・下水・排水処理などの幅広い分野で用いられている。特に、多孔性中空糸膜は、単位体積あたりの膜充填密度が高く、処理装置のコンパクト化に有効であるため広く用いられている。このような多孔性中空糸膜には、実用的な観点において、実液性能と機械的及び化学的強度とのバランスが高いレベルで取られていることが要求される。この一つの解決策として、例えば特許文献1には、無機微粉(疎水性シリカ)を添加することで高い機械的強度を発現する多孔性中空糸膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−215535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法にあっては、無機微粉が凝集し易く、また、無機微粉を均一に混練できない場合がある。これにより、ろ過に有効に利用されない独立孔が多く形成されるため連通性を確保することができず、実液性能が低い膜が得られることがある。したがって、独立孔の形成に関して更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高い連通性を確保でき、実液性能の高い多孔性中空糸膜を得ることができる多孔性中空糸膜の製造方法、高い連通性を有し、実液性能の高い多孔性中空糸膜、その多孔性中空糸膜を用いたモジュール、多孔性中空糸膜を用いたろ過装置及び多孔性中空糸膜を用いた水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂と有機液体、及び無機微粉を含む溶融混練物から熱誘起相分離法により多孔性中空糸膜を得る製造方法において、溶融混練工程と中空糸成型工程の間に少なくとも1箇所フィルターを設け、該溶融混練物をフィルターに通してから吐出することが、高い連通性、すなわち少ない独立孔を有する多孔性中空糸膜を得るために、極めて重要であることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を含む溶融混練物を中空糸成型用ノズルの環状の吐出口から吐出して中空糸状物を成型し、当該中空糸状物を冷却固化した後に有機液体及び無機微粉を抽出除去して多孔性中空糸膜を製造する方法であって、熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を溶融混練してから溶融混練物を中空糸状に吐出して成型するまでの間の少なくとも1箇所にフィルターを設け、フィルターに溶融混練物を通過させてから中空糸状に吐出して成型することを特徴とする多孔性中空糸膜の製造方法、
(2)溶融混練物がフィルターを通過してから吐出されるまでの時間が100秒以内であることを特徴とする(1)記載の多孔性中空糸膜の製造方法、
(3)フィルターのスリット幅は、無機微粉の一次粒子径の1000倍以上120000倍以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の多孔性中空糸膜の製造方法、
(4)熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を溶融混練する温度、及び溶融混練物を吐出口から吐出したときの樹脂温度のそれぞれは、プラストミルにより測定される溶融混練物のトルク変曲温度より高いことを特徴とする(1)〜(3)の何れか一項記載の多孔性中空糸膜の製造方法、
(5)無機微粉が疎水性シリカであることを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項記載の多孔性中空糸膜の製造方法、
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜の製造方法によって製造された多孔性中空糸膜、
(7)熱可塑性樹脂から成る多孔性中空糸膜であって、含浸した液体の重量から算出した空孔率Pwetを、乾燥重量から算出した空孔率Pdryで除した値が0.90以上1.00以下であることを特徴とする多孔性中空糸膜、
(8)等方的な3次元網目構造を有することを特徴とする(7)記載の多孔性中空糸膜、
(9)熱可塑性樹脂がポリオレフィン及びポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする(7)又は(8)に記載の多孔性中空糸膜、
(10)(6)〜(9)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜を用いたモジュール、
(11)(6)〜(9)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜を用いたろ過装置、
(12)(6)〜(9)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜を用いた水処理方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、独立孔が少なく高い連通性、すなわち高い実液性能を有する多孔性中空糸膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る多孔性中空糸膜の一例を示す概略図である。
【図2】多孔性中空糸膜を製造する中空糸膜製造装置の構成を示す図である。
【図3】中空糸成型用ノズルの吐出口の構成を示す断面図である。
【図4】フィルターの構成を示す図である。
【図5】等方的な3次元網目構造の模式図である。
【図6】等方的な3次元網目構造の顕微鏡写真である。
【図7】球状構造の模式図である。
【図8】中空糸膜モジュールの構成を示す図である。
【図9】加圧ろ過方式のろ過装置の一例を示す構成図である。
【図10】評価結果を示す表である。
【図11】評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0011】
本発明に係る多孔性中空糸膜の製造方法は、熱誘起相分離法を用いた多孔性中空糸膜の製造方法であり、高い強度を有する多孔性中空糸膜を得るために有利である。熱誘起相分離法とは、熱可塑性樹脂とこの熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが高温では溶解する潜在的溶剤(有機液体)とを高温で混練し、熱可塑性樹脂を潜在的溶剤に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、さらに潜在的溶剤を除去して多孔体を製造する方法である。熱誘起相分離法によれば、高温から急速に冷却固化させるため、高い機械的強度を有する多孔性中空糸膜を得やすい。
【0012】
[多孔性中空糸膜の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る多孔性中空糸膜の一例を示す概略図である。図1(a)は、多孔性中空糸膜の斜視図であり、図1(b)は、多孔性中空糸膜を長手方向から見た図である。各図に示すように、多孔性中空糸膜1は、中心部分に開孔2が設けられた略筒状の形状を呈している多孔性中空糸膜である。なお、図1においては、外周部及び内周部が略円形状を呈しているが、多孔性中空糸膜1は、異形であってもよい。すなわち、多孔性中空糸膜1は、外周部に周方向に沿って凹凸が形成されていてもよいし、内周部に周方向に沿って凹凸が形成されていてもよい。外周部とは、多孔性中空糸膜1の外表面部を意味しており、内周部とは、多孔性中空糸膜1の内表面部を意味している。
【0013】
[多孔性中空糸膜の製造方法]
多孔性中空糸膜の製造方法は、便宜的に三つの工程に区切ることができる。第一工程は、熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を均一に溶融混練して溶融混練物を生成する工程、第二工程は、溶融混練物を中空糸成型用ノズル12(後述)から吐出することで中空糸状成型物を得る工程、第三工程は、得られた中空糸状成型物から有機液体及び無機微粉を抽出除去して多孔性中空糸膜1を得る工程である。
【0014】
最初に、溶融混練物を生成する工程において溶融混練物を構成する熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉について詳細に説明する。
【0015】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂(熱可塑性高分子)は、常温(20℃±15℃(5−35℃))では変形しにくく弾性を有し塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を現して成型が可能になり、冷却して温度が下がると再びもとの弾性体に戻る可逆変化を行い、その間に分子構造など化学変化を生じない性質を持つ樹脂である(化学大辞典編集委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、860及び867頁、1963年)。熱可塑性樹脂の例としては、14705の化学商品(化学工業日報社、2005年)の熱可塑性プラスチックの頁(1069〜1125頁)記載の樹脂や、化学便覧応用編改訂3版(日本化学会編、丸善、1980年)の809〜810頁記載の樹脂などを挙げることができる。
【0016】
具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなどである。中でも、結晶性を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールなどは強度発現の面から好適に用いることができる。さらに、それら結晶性熱可塑性樹脂の中でも、疎水性ゆえに耐水性が高く、通常の水系液体のろ過において耐久性が期待できる、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンなどの疎水性結晶性熱可塑性樹脂は、さらに好適に用いることができる。さらに、これら疎水性結晶性熱可塑性樹脂の中でも、耐薬品性などの化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンは、特に好適に用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデン比率50モル%以上のフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン又はエチレンから選ばれた1種以上との共重合体を挙げることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが最も好ましい。
【0017】
(有機液体)
有機液体は、熱可塑性樹脂に対して潜在的溶剤となるものである。有機液体は、対象となる熱可塑性樹脂に対して常温では実質的に溶解力を持たないが、高温では高濃度に溶解力を持つ有機化合物である。有機液体は、熱可塑性樹脂との混練溶融温度にて液状であればよく、常温において必ずしも液体である必要はない。
【0018】
有機液体としては、例えば熱可塑性樹脂がポリエチレンの場合、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシルなどのフタル酸エステル類、セバシン酸ジブチルなどのセバシン酸エステル類、アジピン酸ジオクチルなどのアジピン酸エステル類、トリメリット酸トリオクチルなどのトリメリット酸エステル類、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルなどのリン酸エステル類、プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエートなどのグリセリンエステル類、流動パラフィンなどのパラフィン類、及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0019】
また、有機液体としては、例えば熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)などのフタル酸エステル類、メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイトなどの安息香酸エステル類、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジルなどのリン酸エステル類、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0020】
(無機微粉)
無機微粉としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニア、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、平均一次粒子径が0.5μm以下のシリカ微粉が好ましい。さらに、凝集しにくく分散性の良い疎水性シリカ微粉がより好ましく、さらに好ましくは粉体が完全に濡れ、メタノールの容量%を測定するメタノールウェッタビリティ(NW)法で測定したMW値が30容量%以上である疎水性シリカである。ここでいうMW値は、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを添加していったときに、シリカの50重量%が沈降したときの水溶液中におけるメタノールの容量%である。
【0021】
無機微粉の添加量は、溶融混練物中に占める無機微粉の質量比率が、5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。無機微粉の割合が5質量%以上であれば、無機微粉混練による効果が十分に発現でき、40質量%以下であれば、安定的に紡糸ができる。溶融混練における混合割合は、重量を比重で除した容量比率が、熱可塑性樹脂においては15〜50容量%の範囲、有機液体と無機微粉との両者の合計においては50〜85容量%の範囲であることが、得られる中空糸及び透水性能と強度のバランス、及び溶融押出し操作である紡糸操作の安定性の面から好ましい。熱可塑性樹脂の容量比率が小さすぎると、得られる多孔性中空糸膜の強度が低下する一方、熱可塑性樹脂の容量比率が高すぎると、得られる多孔性中空糸膜の透水性能が低下する。また、熱可塑性樹脂の容量比率が低すぎても高すぎても紡糸安定性が低下する。無機微粉を添加する際には、溶融混練物中に占める無機微粉の重量比率が、5重量%以上40重量%以下が好ましい。無機微粉の割合が少なすぎると無機微粉混練により発現すべき効果が薄れ、無機微粉の割合が多すぎると、溶融混練物がもろくなり、かえって紡糸安定性が低下する。
【0022】
次に、多孔性中空糸膜の成型について説明する。図2は、多孔性中空糸膜を製造する中空糸膜製造装置の構成を示す図である。図2に示すように、中空糸膜製造装置10は、熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を溶融混練して溶融混練物を押し出す溶融混練機11と、溶融混練機11の先端(押出)側に設けられた中空糸成型用ノズル12と、中空糸成型用ノズル12から吐出された溶融混練物に対して冷却風を発生させる吸引機13と、溶融混練部物を冷却して固化する冷却槽14と、固化した中空糸状物を巻き取る巻取ローラ15とから構成されている。
【0023】
中空糸膜製造装置10では、溶融混練機11から供給された溶融混練物が中空糸成型用ノズル12から吐出され、吸引機13による冷却風を受けながら空走された後、冷却槽14での冷却浴を経て溶融混練物が冷却固化し、この冷却固化後の中空糸状物が巻取ローラ15によって巻き取られる。
【0024】
(成型方法)
溶融混練機11は、上述の熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を溶融混練する部分であり、通常の溶融混練手段、例えば2軸押出機などの連続式混練機や、バンバリーミキサーなどのバッチ式混練機を用いることができる。これらの機器により溶融混練した溶融混練物を、同心円状に配置された吐出口16を有する中空糸成型用ノズル12から中空糸状に溶融成型することで、多孔性中空糸膜1の前駆体(中空糸状物)が好適に得られる。
【0025】
溶融混練工程と成型工程とは、連続であっても逐次であっても良い。すなわち、熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉をそれぞれ溶融混練機11に投入し、均一に溶融混練した後にそのまま連続して中空糸成型用ノズル12から押し出しても良いし、均一に溶融混練した後に一旦ペレット状などに固化させ、その後改めて得られたペレット状物を溶融混練機11等で溶融して中空糸成型用ノズル12から押し出しても良い。後者の工程を採用する場合は、一旦ペレット状などに固化させる段階においても吐出前にフィルターを設けることでより均一な多孔性中空糸膜1を得ることができる。
【0026】
図3は、中空糸成型用ノズルの吐出口の構成を示す図である。図3に示すように、吐出口16は、内装部16aと、この内装部16aを包囲するように配置された外装部16bとから構成されている。内装部16aには、中央部分に開孔Kが設けられている。図3に示すように、中空糸成型用ノズル12の吐出口16の形状は、図3(a)に示すような円環状であってもよいし、図3(b),(c)に示すような凹凸を付与した異形状であっても良い。また、2つ以上の溶融混練機11(押出機)からそれぞれ異なる組成の溶融混練物を共押し出しすることも好適に用いられる。
【0027】
(有機液体及び無機微粉の抽出方法)
続いて、有機液体の抽出除去及び無機微粉の抽出除去について説明する。有機液体の抽出除去及び無機微粉の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができるが、通常は別々に抽出除去を行う。
【0028】
有機液体の抽出除去は、混練した熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずに有機液体とは混和する液体である抽出用液体を用い、浸漬などの手法により抽出用液体に接触させることで行うことができる。抽出用液体は、抽出後に中空糸膜から除去しやすいように、揮発性であると便利である。抽出用液体の例としては、アルコール類や塩化メチレンなどがあり、有機液体が水溶性であれば水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0029】
無機微粉の抽出除去は、例えば無機微粉がシリカである場合、まずアルカリ性溶液と接触させてシリカをケイ酸塩に転化させ、次いで水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0030】
有機液体の抽出除去と無機微粉の抽出除去とは、どちらを先に行っても差し支えはない。ただし、通常、両者(有機液体及び無機微粉)は有機液体濃厚部分相に混和共存しているため、有機液体が水と非混和性の場合は、先に有機液体の抽出除去を行い、その後に無機微粉の抽出除去を行った方が、水系の抽出用液を用いる無機微粉の抽出除去をスムーズに進めることができ有利である。このように、冷却固化した中空糸状物から有機液体及び無機微粉を抽出除去することにより、多孔性中空糸膜1を得ることができる。
【0031】
なお、冷却固化後の中空糸状物に対し、(1)有機液体及び無機微粉の抽出除去前、(2)有機液体の抽出除去後で無機微粉の抽出除去前、(3)無機微粉の抽出除去後で有機液体の抽出除去前、(4)有機液体及び無機微粉の抽出除去後、のいずれかの段階で、中空糸状物の長手方向への延伸を延伸倍率3倍以内の範囲で行うことができる。一般に、多孔性中空糸膜1を長手方向に延伸すると、透水性能は向上するが耐圧性能(破裂強度及び圧縮強度)が低下するため、延伸後は実用的な強度の膜にならない場合が多い。しかし、熱可塑性樹脂と有機液体とに加えて無機微粉が混練されている溶融混練物を少なくとも1つの円環状の吐出口16から吐出して成型しているため、多孔性中空糸膜1は機械的強度が高い。そのため、延伸倍率3倍以内の低倍率の延伸ではあれば実施することが可能である。この延伸により、多孔性中空糸膜1の透水性能の向上を図ることができる。
【0032】
なお、ここで言う延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を示す。例えば、中空糸長10cmの中空糸を、延伸して中空糸長を20cmにした場合、延伸倍率は、20cm÷10cm=2(倍)である。また、必要に応じて延伸後の膜に熱処理を行い、耐圧強度を高めてもよい。熱処理温度は、通常は熱可塑性樹脂の融点以下で好適に行われる。
【0033】
(フィルター)
また、図2に戻って、中空糸膜製造装置10では、溶融混練機11の押出口11aと中空糸成型用ノズル12の吐出口16との間、すなわち溶融混練工程と中空糸状に溶融混練物を吐出する工程との間の少なくとも1箇所以上(図2においては2箇所)に、フィルター17が配置されている。このフィルター17に溶融混練物を通すことで、独立孔が少なく高い連通性、すなわち高い実液性能を有する多孔性中空糸膜1を得ることができる。一般的には、不溶物や焦げなどの異物を除去するために比較的目開き(スリット幅)が大きいフィルターを用いることは公知であるが、本実施形態のフィルター17は、この目的とは明確に異なる。
【0034】
溶融混練物においては、添加した無機微粉を均一に分散させることが難しく、無機微粉が凝集した部分を有している。これは従来の文献などに開示されているマクロなサイズ(数百μm〜)での不均一性ではなく、よりミクロなサイズ(数十〜100μm)での混練ムラであり、通常の溶融混練ではこのミクロなサイズにおいて均一に無機微粉を分散させることは難しい。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、溶融混練工程と中空糸状に吐出する工程の間に設けたフィルター17に溶融混練物を通過させた後に中空糸状に吐出することが連通孔を多く有する多孔性中空糸膜を得るために重要であることを見出した。これは、以下の2つの理由によるものと推察する。
【0035】
(1)無機微粉の分散性向上
溶融混練物をフィルターの開口部、すなわち狭いスリット部を通過させることで、スリットサイズ以下に凝集体が分散される。これにより、溶融混練工程で分散させた以上の均一性まで到達することができる。その結果、ポリマー濃度が低く(相対的に有機液体濃度が高く)吐出後の冷却過程での相分離が早く進み、独立孔ができやすい不均一領域ができにくくなる。
【0036】
(2)無機微粉の凝集体の配向
溶融混練物を狭いスリットに通すことで、無機微粉の凝集状態が変化する。具体的には、線状に凝集した状態が作り出される。このように、溶融混練物の流れ方向に配向した無機微粉の凝集体が吐出口16から吐出される際のバラス効果により、無機微粉の凝集体が中空糸膜厚方向に配向する。吐出後の冷却過程において相分離が起こる際には、相分離の開始は無機微粉を基点として発生し、相分離が進行していくため、この基点となる無機微粉が膜厚方向に(均一に)配向していることになる。その結果、連通性が高い多孔性中空糸膜となる。
【0037】
ここで、本実施形態の製造方法の効果を表す一つの指標として、得られた多孔性中空糸膜の物性のバラツキ(統計でいう標準偏差)が挙げられる。例えば、得られた多孔性中空糸膜の物性は、ある一定の標準偏差(バラツキ)を有している。本実施形態の製造方法によれば、標準偏差が小さい、すなわち分布としてより均一な膜が得られる。より小さい標準偏差であることは、生産において、また膜を設計する上で大きなメリットである。通常、ある製品における規格(物性値)を考えた場合、規格の上限と下限とは、多孔性中空糸膜の分布を考慮して決定される。標準偏差は、例えば得られた膜について十分な数(本実施形態の多孔性中空糸膜では100点ぐらいで十分である)のサンプルをサンプリングし、その後、実施例の「(11)最大孔径の標準偏差率」に記載の式(11)にて算出することができる。
【0038】
フィルター17には、市販されている焼結フィルターやステンレスワイヤーを織ったもの、あるいはセラミックフィルターなどを好適に用いることができる。高温での耐久性が高く、且つ微細なスリットを有するフィルターを作りやすいステンレスワイヤーを織ったものが好ましい。また、薄いフィルターを用いる場合は、フィルター同士を重ね合わせる構成も好ましく用いることができる。例えば、スリット幅が小さい場合は、線径の細いステンレスワイヤーを用いるため、線径が太くスリット幅が大きいフィルターを裏からあてて二重にすることも、フィルター破れなどのリスクを回避する目的で好適に用いることができる。また、よりフィルターが目詰まりするまでの寿命を延ばすために、スリット幅が大きいフィルターから小さいフィルターまで複数枚重ね合わせる構成も好適に用いることができる。
【0039】
図4は、フィルターの構成を示す図である。同図に示すように、フィルター17のスリット幅Dは、無機微粉の一次粒子径の1000倍から120000倍程度(1000倍以上120000倍以下)の幅が好ましい。フィルター17の幅Dが無機微粉の一次粒子径の1000倍以上であれば、フィルター17の目詰まりを防止してフィルター17前後の圧力上昇を小さくできるため、交換までの寿命を十分に長くすることができ、実用的に多孔性中空糸膜1の製造に用いることができる。また、フィルター17の幅Dが無機微粉の一次粒子径の12000倍以下であれば、上記の無機微粉が十分に分散して連通性が高い多孔性膜を得ることができる。スリット幅Dとは、例えばステンレスワイヤーを織ったフィルターの場合、ワイヤーとワイヤーとの間の目開きの幅である。また、縦と横のスリット幅Dが異なる場合は、算術平均により算出した値をそのフィルター17のスリット幅Dとすればよい。スリット幅Dを無機微粉の一次粒子径で除した値は、好ましくは1200以上107000以下、更に好ましくは3000以上24000以下、最も好ましくは5000以上1000以下である。
【0040】
また、溶融混練物が最後(最下段)のフィルター17を通過してから吐出されるまでの時間は、0.1秒から100秒以内が好ましい。時間が0.1秒以上であれば、フィルター17で起こる流れの乱れの影響を受けることなく安定的に吐出することができる。また、時間が100秒以内であれば、フィルター17を通すことで作り出した無機微粉の状態(凝集状態、凝集体の配向)を十分に維持することができる。溶融混練物がフィルター17を通過してから吐出されるまでの時間は、より好ましくは75秒以下、更に好ましくは60秒以下、最も好ましくは30秒以下である。
【0041】
また、フィルター17の設置箇所を2箇所以上とすることも好ましい。例えば、溶融混練工程直後の位置に1つ目のフィルターを設置して、溶融混練物の均一性を向上させるとともに溶融混練物中の不溶物や焦げや大きな凝集物を除去し、更に吐出口16直前の位置に設置した2つ目のフィルターにより、更に溶融混練物の均一性を向上させて吐出する、といった方法も好適に用いることができる。なお、フィルター17は、溶融混練物が通過するスリットを有しているものであれればよく、その形状、厚さ等は適宜選択されるものであり、特に限定されない。つまり、図4に示すようなメッシュ状のものであってもよいし、セラミックフィルターなどに見られるハニカム状のものであってもよいし、さらにオリフィスなどのように狭い流路状のものであってもよい。特に、複数のスリットを有しているメッシュ状やハニカム状が分散性の観点からは好ましく、圧力損失が少ない薄いメッシュ状のフィルターが最も好ましい。
【0042】
(プラストミルの温度)
多孔性中空糸膜1を製造するにあたり、溶融混練する際の樹脂温度Tm及び吐出口(紡口)から吐出するときの樹脂温度Tsの両方をトルク変曲温度Tp以上とすることも、高い連通性を有する多孔性中空糸膜1を得るために好ましい。ここで、トルク変曲温度とは、シリカを含んだ溶融混練物において有機液体がブリードする(例えば、冷却時では熱可塑性樹脂からも無機微粉の凝集体からも有機液体が独立して存在し始める)温度である。このトルク変曲温度は、例えば、以下の方法で測定することができる。すなわち、溶融混練物(一度溶融混練して固化したもの)をプラストミルで融点以上の温度(ポリフッ化ビニリデン樹脂なら190℃程度が目安)で均一に融解するまで練り、その後昇温することで有機液体が熱可塑性樹脂と混ざりトルクが上昇する。そして、ある温度を超えると有機液体と熱可塑性樹脂が均一となり、その後は熱可塑性樹脂の粘度低下が支配的となってトルクは逆に低下する。このとき、トルクが極大になる温度をトルク変曲温度とする。
【0043】
上述のように、樹脂温度Tm及び樹脂温度Tsをトルク変曲温度Tp以上とすることで、連通性がより高い膜を得ることができる。これは、溶融混練する際の樹脂温度Tmを、有機液体がブリードし始めるトルク変曲温度Tpよりも高くすることで、より均一な溶融混練物を得ることができ、結果としてより連通性が高い膜となる。また、吐出する際の樹脂温度Tsについても、トルク変曲温度Tpより高くすることで、吐出前のブリード、すなわち相分離の開始を行わせない。これにより、吐出後に無機微粉を膜厚方向に配列した状態のみから相分離させて多孔構造を形成することで、より効率良く連通性が高い膜を得ることができる。樹脂温度Tm及び樹脂温度Tsは、トルク変曲温度Tpよりも5℃以上、更に好ましくは10℃以上であることが上記の効果を好適に発現させる観点からより好ましい。
【0044】
(多孔性中空糸膜の特徴)
次に、本実施形態の多孔性中空糸膜の製造方法により得られる多孔性中空糸膜1の構造的な特徴について詳細に説明する。多孔性中空糸膜1は、連通孔を多く有することが大きな特徴である。多孔性中空糸膜1の連通性は、純水透水率などでは多少独立泡(液体が通らない部分)があっても、ほとんど差異が出ないため、次の方法にて測定をおこなった。連通性は、多孔性中空糸膜1に含浸した液体の量から算出した空孔率Pwetを、ドライ状態の多孔性中空糸膜1の質量(乾燥重量)から算出した空孔率Pdryで除した値である連通率により評価することができる。空孔率Pwet及び空孔率Pdryは、図10に示す実施例7に記載の方法で精度良く測定することができる。後述の実施例に記載のとおり、連通性はその数値の差(比)以上に大きく実液性能に寄与する。これは、連通性が低くなる部分が膜厚方向の中央部に集中しており、膜厚全体から見ると差異は小さいが、実際のろ過における流路の数としては、数値以上に大きく影響していると推察される。なお、多孔性中空糸膜1に含浸した液体の量から算出した空孔率Pwetを、ドライ状態の多孔性中空糸膜1の質量から算出した空孔率Pdryで除した値は、0.90以上1.00以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態の多孔性中空糸膜の製造方法によれば、連通率が0.90以上の膜を好適に得ることができ、その結果、高い実液性能を有する膜を得ることができる。連通率は、より好ましくは0.95以上、更に好ましくは0.97以上である。
【0046】
(等方的な3次元網目構造)
また、本実施形態の多孔性中空糸膜1は、3次元網目構造を有している。ここで3次元網目構造とは、樹脂が無数の柱状になり、その両端で互いに接合することで3次元構造を形成している構造をいう。3次元網目構造では、樹脂のほぼ全部が柱状物を形成しており、いわゆる球晶構造で無数に見られる樹脂の塊状物がほとんど見られない。3次元網目構造の空隙部は、熱可塑性樹脂の柱状物に囲まれており、空隙部の各部分は互いに連通している。このように、用いられた樹脂のほとんどが、多孔性中空糸膜1の強度に寄与し得る柱状物を形成しているので、高い強度の支持層を形成することが可能になる。また、耐薬品性も向上する。耐薬品性が向上する理由は明確ではないが、強度に寄与し得る柱状物の数が多いため、柱状物の一部が薬品に侵されても、層全体としての強度には大きな影響が及ばないためではないかと考えられる。
【0047】
一方、球晶構造では、塊状物に樹脂が集まっているため相対的に柱状物の数が少なく強度が低い。そのため、柱状物の一部が薬品に侵されると層全体の強度に影響が及びやすいのではないかと考えられる。また、高い強度を発現できる3次元網目構造は、液−液型の相分離により得られる構造である。液−液型相分離とは、相分離時に有機液体がリッチな相と熱可塑性樹脂がリッチな相に分離する際に両相とも液状で分離する形態の相分離のことをいう。もう一つの相分離形態である固−液型相分離(固体の熱可塑性樹脂がリッチな相と液体の熱可塑性樹脂がリッチな相に分かれるモードの相分離形態)に比べると、この液−液型相分離では液滴が独立になり易く、その結果、得られる多孔質膜が独立孔を有しやすい。従って、本実施形態の多孔性中空糸膜1の製造方法は、高い強度を得るために好適な、液−液型相分離による3次元網目構造を有する膜を作製する場合に最も効果が高く、好ましい製法である。
【0048】
また、本実施形態の多孔性中空糸膜1は、等方的な3次元網目構造であることが最も好ましい。ここでいう等方的とは、多孔性中空糸膜1の長手方向、及び長手方向に垂直な方向(以下、膜膜厚方向)のどちらについても多孔体の構造(孔径)変化が小さく、均質な構造であることをいう。等方的な3次元網目構造であれば、用いられた樹脂が無駄なく柱状物に使用され、且つ支持層全体に柱状物が均質に分布するため強度的に弱い部分が生じにくく、高い強度の支持層が得られると考えられる。その結果、この支持層を有する多孔性中空糸膜の機械的強度が高くなり、また、耐薬品性も向上する。このような等方的な3次元網目構造の模式図を図5に示す。図5に示すように、等方的な3次元網目構造では、柱状物aの接合により、空隙部bが形成されていることがわかる。また、後述の実施例14で得られた実際の多孔性中空糸膜例における等方的な3次元網目構造の顕微鏡写真を図6に示す。なお、参考のため、球状構造の模式図を図7に示す。図7に示すように、球状構造では、球晶cが部分的に密集しており、その球晶cの密集部分間の間隙が空隙部dであることがわかる。
【0049】
具体的な等方性の評価としては、次のような方法により測定することができる。まず、多孔質膜を中空糸長手方向に割断した膜断面の写真を測定に用いる。写真の倍率は、測定精度向上のため、多数の孔が見えるサイズが好ましく、例えば0.1μm程度の孔サイズの膜であれば、5000倍程度の倍率であれば十分に測定できる。この断面の中央部において、多孔体の孔が明確に見える倍率の走査型電子顕微鏡写真を用い、多孔性中空糸膜の長手方向の孔の平均孔径を長手方向に垂直な方向(すなわち膜厚方向)の孔の平均孔径で除した値を中空糸長手方向の等方率として用いる。平均孔径の測定方法としては、画像解析で2値化して求めても良いし、写真上で中空糸長手方向及び膜厚方向に複数の線を引き、この線が孔を横切る長さをそれぞれの孔径とし、その平均値を求めても良い。この等方率の値が0.3から3であれば、等方的と言うことができ、高い強度を発現することができる。より好ましくは0.5〜2、更に好ましくは0.75〜1.25である。
【0050】
(モジュール、ろ過装置及びろ過方法)
以上のようにして得られた多孔性中空糸膜1は、中空糸膜モジュール、この中空糸膜モジュールが取り付けられたろ過装置、及びろ過装置による水処理(水処理方法)等に用いられる。
【0051】
以下、中空糸膜モジュール、この中空糸膜モジュールを用いたろ過方法及びろ過装置について説明する。なお、中空糸膜モジュールとしては、種々の態様が想定されるが、以下の説明においては、ケーシングタイプの加圧ろ過方式の膜モジュールを一例として説明する。
【0052】
図8は、中空糸膜モジュールの構成を示す図である。図8(a)に示すように、中空糸膜モジュール20は、上述の多孔性中空糸膜1の束(以下、中空糸膜束)21を備えている。中空糸膜束21は、その上端部と下端部とが固定部22a,22bにて固定されている。さらに、中空糸膜束21及び固定部22a,22bは、パイプ状のケース23に収納されている。このような構成を有する中空糸膜モジュール20においては、ケース23と中空糸膜束21の間に下部(図示下方向)から被ろ過液Lが供給され、圧力をかけることによって多孔性中空糸膜1により被ろ過液Lをろ過し、中空糸膜モジュール20の上方に配置されたヘッダ管などを介してろ過液が輸送される。図8(b)に示すように、ろ過時には、中空糸膜モジュール20内の被ろ過液Lが多孔性中空糸膜1の外表面側から内表面側に向けて多孔性中空糸膜1を透過してろ過される。また、固定部22a,22bには、被ろ過液L及び空気をケース23と中空糸膜束21の間に供給する貫通孔24が設けられており、中空糸膜モジュール20では、貫通孔24から空気を供給することで中空糸膜束21のエアースクラビングが行われる。
【0053】
上述の多孔性中空糸膜1を集積したモジュールとしては、その他の態様も想定され、例えば、上述のケーシングタイプに限定されず、非ケーシングタイプでもよい。また、モジュールの断面形状も上述の円型(いわゆる円筒型モジュール)だけでなく、角型(いわゆるカセ型モジュール)などでもよい。さらに、被ろ過液である原水を直接的に多孔性中空糸膜1によりろ過してもよいし、あるいは凝集剤やオゾン等の酸化剤の添加を前処理としておこなった後に多孔性中空糸膜1によりろ過してもよい。ろ過方式(ろ過方法)としては、全量ろ過方式でもクロスフローろ過方式であってもよいし、加圧ろ過方式あるいは吸引ろ過方式でもよい。さらに、運転方法として、膜表面に堆積した被ろ過物を除去する目的で用いられるエアースクラビングや逆圧洗浄を別々に行ってもよいし、それらを同時に行ってもよい。また、逆圧洗浄に用いられる液体としては、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素、オゾン等の酸化剤なども好適に用いることができる。
【0054】
続いて、加圧ろ過方式のろ過装置について説明する。図9は、加圧ろ過方式のろ過装置の一例を示す構成図である。同図に示すように、ろ過装置30としては、中空糸膜モジュール20に圧力を供給するポンプ31、被ろ過液を貯めるタンク32、ろ過液とを貯めるタンク33、また必要に応じて逆圧洗浄に用いる薬液タンク34及び送液ポンプ35、エアースクラビングに必要なエアーを送るポンプ36、エアースクラビングや逆洗時の排液をドレインする配管37等を具備した装置を好適に用いることができる。
【0055】
本実施形態に係るろ過方法では、上述の多数の多孔性中空糸膜1を備えた中空糸膜モジュール20、ろ過装置30、ろ過方法を利用することにより、低コストを実現でき、さらに長期的な安定運転が可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。以下の測定においては、特に記載がない限り全て25℃で行った。以下では、評価方法について説明した後、実施例及び比較例の製造方法及び評価結果について説明する。
【0057】
<評価方法>
(1)多孔性中空糸膜の内径(mm)、外径(mm)の測定
中空糸膜を膜長手方向に垂直な向きにカミソリなどで薄く切り、顕微鏡を用いて断面の内径の長径と短径、外径の長径と短径を測定し、以下の式(1)、(2)により、それぞれ内径と外径を決定した。
【数1】


【数2】

【0058】
(2)純水透水率(l/m/hr/0.1MPa/25℃)
約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、以下の式(3)により純水透水率を決定した。
【数3】

【0059】
(3)破断強度(MPa)、破断伸度(%)
インストロン型引張試験機(島津製作所製AGS−5D)により、湿潤中空糸膜をチャック間距離5cm、引張り速度20cm/min.にて引張り、破断時の荷重と変位から、以下の式(4)、(5)により破断強度及び破断伸度を決定した。
【数4】


【数5】


ここで、膜断面積は以下の式(6)により求められる。
【数6】

【0060】
(4)フィルターのスリット幅の測定
使用するフィルターのスリット幅を、スリット幅が十分に測定できる倍率にてマイクロスコープにより撮影した。その後、撮影した写真から20個のスリット幅を測定し、平均した値をスリット幅とした。
【0061】
(5)溶融混練物のトルク変曲温度(℃) 固化した溶融混練物110gをラボプラストミル(東洋精機製、モデル30C150)に入れ、190℃に昇温した。昇温後、50rpmで約10分間混練し、その後、14℃/分の昇温速度で270℃まで昇温して、トルクが極大となった樹脂温をトルク変曲温度とした。
【0062】
(6)押出機吐出樹脂温度Tm(℃)、紡口吐出樹脂温度Ts(℃)
押出機吐出樹脂温度及び紡口吐出樹脂温度は、K型熱伝対温度計を差し込んで測定した。
【0063】
(7)連通率
まず、完全に乾燥した多孔性中空糸膜10cm×20本の質量を、デイオナイザーを稼動させたブースの中で(膜に静電気が帯電するのを防ぐため)精密天秤を用いて測定した。得られた質量Wdryと熱可塑性樹脂の密度ρ(例えば本願で用いているポリフッ化ビニリデン樹脂の場合は1.78g/cm)、及び(1)で測定した外径、内径から以下の式(7)によりPdryを求めた。
【数7】

【0064】
更に、同じ中空糸膜サンプルを用いて揮発しにくく、且つ多孔質内に含浸し易い溶媒、今回はプロピレン,1,2,3,3,3,酸化ヘキサフッ素(商品名:Galwick)を用いて、中空糸膜内部に液体を含浸させた。その後、外表面に付着した液体を布で丁寧に拭いて除去すると共に、サンプル両端の中空部を布に押し当てることにより毛細管現象で中空部の液体を除去した後、中空糸の質量Wwetを質量Wdryの測定と同様にして測定した。含浸させた液体の密度ρ(今回使用したGalwickは、1.70g/cm)から、以下の式(8)によりPwetを求めた。
【数8】


更に上記のPdryとPwetを用いて、以下の式(9)にて連通率を算出した。
【数9】

【0065】
(8)加圧型中空糸膜モジュールの作製
以下のようにして、膜面積50mの加圧型中空糸膜モジュールを作製した。複数の多孔性中空糸膜を束ねた後、中空糸束の片側端部面中空部を目止め処理し、内径150mm、長さ2000mmのポリスルフォン製円筒状モジュールケースに収納した。目止め処理を行った端部には、接着治具のみを取り付け、他方端部には、多孔性中空糸膜と平行に外径11mmのポリプロピレン製棒状物を合計24本配置した後に液密的に接着治具を取り付けた。
【0066】
上記接着治具が両側に取り付けられたモジュールケースを2液性エポキシ樹脂により、遠心注型した。そして、遠心注型後、接着治具、ポリプロピレン製棒状物を取り除き、エポキシ接着部が充分に硬化した後、封止処理を行った側の接着端部を切断し、中空糸中空部を開口させた。以上のようにして、中空糸膜束から成る加圧型の中空糸膜モジュールを得た。
【0067】
(9)中空糸膜モジュールの透水量測定実験1(加圧)
(8)で得られた中空糸膜モジュールを使用し、原水として濁度が5〜10度、水温が18〜25℃の河川表流水を用いた。透水量は、ポンプによる加圧により、外圧の全量ろ過方式で段階的に透水量を上げていき、膜間差圧が急激に上昇しない(25℃換算で10kPa/週を越えない)限界の透水量を測定した。
【0068】
上記のろ過運転は、ろ過/(逆洗とエアバブリング)のサイクル運転とした。それぞれのサイクルは、ろ過/(逆洗とエアバブリング)タイムサイクル:29分/1分であり、逆洗時の逆洗流量は、2.3L/分/モジュール、エアバブリング時のエアー流量は、4.6NL/分/モジュールとした。
【0069】
(10)最大孔径(μm)
ASTM:F316−86に記載されている最大孔径の測定方法(別称:バブルポイント法)に準拠して測定した。測定は、5cm長の中空糸膜に対し、液体としてエタノール、加圧用気体として圧縮空気を用い、25℃、昇圧速度0.05atm/秒で行った。得られたバブルポイント圧力に対して、下記式(10)により最大孔径を算出した。
【数10】


なお、使用液体がエタノールの場合、25℃における表面張力は21.97dynes/cmである。(日本化学会編、化学便覧基礎編改定3版、II−82頁、丸善、1984年)
【0070】
(11)最大孔径の標準偏差率(%)
(10)記載の最大孔径の測定を、サンプリング箇所を変えて採取したサンプルを用いて計100点測定した。測定したデータについて、ある1サンプルの最大孔径をD、100点の算術平均をDave.として、下記式(11)により最大孔径の標準偏差率(%)を算出した。
【数11】

【0071】
[原材料]
実施例で用いた原材料を下記に示す。
<可塑性樹脂>
(R−1)フッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製、商品名:KF#1000)
(R−2)高密度ポリエチレン樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:SH800)
(R−3)ポリプロピレン樹脂(トクヤマ株式会社製、商品名:PN110G)
<有機液体>
(L−1)フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(シージーエスター株式会社製)
(L−2)フタル酸ジブチル(シージーエスター株式会社製)
(L−3)トリアセチン(アルドリッチ社製)
(L−4)グリセリン(和光純薬株式会社製)
<無機微粉>
(P−1)微粉シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL−R972、平均1次粒子径が約16nmのもの、)
(P−2)微粉シリカ(株式会社トクヤマ製、商品名:ファインシールX−45、一次粒子径15nm)
<凝集剤>
(S−1)モノラウリン酸ヘキサグリセリル(日光ケミカルズ株式会社製、Hexalglyn l-L)
各実施例での配合や製造条件は図10に示す。
【0072】
[実施例1]
熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製、商品名:KF#1000)、有機液体としてフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)とフタル酸ジブチルとの混合物、無機微粉として微粉シリカ(日本アエロジル社製、商品名:AEROSIL−R972)を用い、溶融押出しを行った。吐出する溶融混練物としては、組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ビス(2−エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=25.0:38.5:7.7:28.8(質量比)の溶融混練物を用い、中空部形成用流体としては空気用いた。そして、2つの円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズルにおいて、外側の円環状吐出口(図3に示す「吐出口16」)から溶融混練物を吐出させ、内側の円環状吐出口(図3に示す「開孔K」)から空気吐出させることにより中空糸状成型物を得た。
【0073】
フィルターは、150メッシュ(平織、スリット幅109μm:太陽金網株式会社製)とバックアップとして40メッシュ(平織、スリット幅390μm:太陽金網株式会社製)を重ねたものを用い、押出機吐出直後と、ノズルの吐出口から樹脂が移動する時間で10秒上流側(押出機側)の位置に設置した。この原料組成のトルク変曲温度をプラストミルで測定したところ、トルク変曲温度Tpは235℃であったため、溶融混練の際の樹脂温度Tmと紡口吐出の際の樹脂温度Tsを共に250℃の条件で溶融混練及び吐出した。
【0074】
得られた中空糸状成型物は、30cmの空中走行を経た後に30℃の水浴中に導き入れることで冷却固化させ、30m/分の速度でかせに巻き取った。得られた中空糸状押出し物を塩化メチレン中に浸漬させてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)及びフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、40質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を湿潤化した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に60℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。
【0075】
上述の方法により、フィルターの目詰まりによる圧上昇が小さく、且つ連通性が高く、実液性能も高い多孔性中空糸膜が得られた。また、紡糸した中空糸膜15000m中にシリカ凝集物による欠陥は存在しなかった。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図10に示す。
【0076】
[実施例2〜5]
紡口吐出口に近い側の最終フィルターを、それぞれ635メッシュ(綾織、スリット幅20μm)、200メッシュ(平織、スリット幅45μm)、40メッシュ(平織、スリット幅390μm)、12メッシュ(平織、スリット幅1720μm)を用いた(バックアップとして40メッシュを重ねたのは共通)以外は、実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。
【0077】
スリット幅が小さい635メッシュ、200メッシュは実施例1と比較してフィルターの圧上昇が大きかったが連通性が高く、実液性能も高い多孔性中空糸膜が得られた。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図10に示す。
【0078】
[実施例6]
押出機直後のフィルターを除いた以外は、実施例1と同様に多孔性中空糸膜を作製した。フィルターの目詰まりによる圧上昇は若干実施例1より大きかったが、連通性が高い多孔性中空糸膜が得られた。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図10に示す。
【0079】
[実施例7]
吐出部直前のフィルターを除いた以外は、実施例1と同様多孔性中空糸膜を作製した。フィルターから吐出までの樹脂の移動時間は75秒であった。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図10に示す。
【0080】
[実施例8〜10]
吐出部に近い位置のフィルター(最終フィルター)の流路中の位置を調整して最終フィルターから吐出までの樹脂の移動時間を15秒、30秒、60秒となるように設置した以外は、実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0081】
[実施例11]
樹脂温度Tm及び樹脂温度Tsを共に210℃にした以外は実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。紡糸した中空糸膜15000m中にシリカ凝集物による欠陥が10個発生した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0082】
[実施例12]
樹脂温度Tsを210℃にした以外は実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。紡糸した中空糸膜15000m中にシリカ凝集物による欠陥が3個発生した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0083】
[実施例13]
樹脂温度Tmを210℃にした以外は実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0084】
[実施例14]
吐出する溶融混練物として、組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ビス(2−エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:R972=34.0:33.8:6.8:25.4(質量比)とした以外は実施例1と同様に多孔性中空糸膜を作製した。フィルターの目詰まりによる圧上昇が小さく、且つ連通性が高く、実液性能も高い多孔性中空糸膜が得られた。また、紡糸した中空糸膜15000m中にシリカ凝集物による欠陥は存在しなかった。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0085】
[実施例15]
吐出する溶融混練物を、熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン樹脂、有機液体としてフタル酸ジブチル、無機微粉としてR972を用い、ポリエチレン樹脂:フタル酸ジブチル:R972=18.5:54.3:27.2(質量比)とし、樹脂温度Tsを230℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0086】
[実施例16]
吐出する溶融混練物を、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂(トクヤマ社製、商品名:PN110G)、有機液体としてフタル酸ジブチル(シージーエスター株式会社製)、無機微粉としてR972を用い、ポリエチレン樹脂:フタル酸ジブチル:R972=34.0:40.6:25.4(質量比)とし、樹脂温度Tsを230℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0087】
[実施例17]
吐出する溶融混練物を、熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー、有機液体としてトリアセチンとグリセリンの混合物、無機微粉としてR972を用い、フッ化ビニリデンホモポリマー:トリアセチン:グリセリン:R972=30.0:38.2:6.4:25.4(質量比)とし、樹脂温度Tmと樹脂温度Tsを180℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0088】
[実施例18]
熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製、商品名:KF#1000)、有機液体として安息香酸ヘキシル、無機微粉として微粉シリカ(株式会社トクヤマ製、商品名:ファインシールX−45、一次粒子径15nm)、凝集剤としてモノラウリン酸ヘキサグリセリルを用い、溶融押出しを行った。吐出する溶融混練物としては、組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:安息香酸ヘキシル:微粉シリカ:=20:60:10:10(質量比)の溶融混練物を用い、中空部形成用流体としては空気を用いた。
【0089】
フィルターは、12メッシュ(平織、スリット幅1720μm:太陽金網株式会社製)を用い、押出機吐出直後と、ノズルの吐出口から樹脂が移動する時間で10秒上流側(押出機側)の位置に設置した。
【0090】
得られた中空糸状成型物は、15cmの空中走行を経た後に30℃の水浴中に導き入れることで冷却固化させ、5m/分の速度でかせに巻き取った。更に、80℃の熱水中で膜長手方向に約2倍に延伸し、100℃の熱水中にて熱固定をおこなった。溶融混練の際の樹脂温度Tmと紡口吐出の際の樹脂温度Tsを共に230℃の条件で溶融混練及び吐出した。その後、20質量%NaOH水溶液中に60℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0091】
[比較例1]
フィルターを設置しないこと以外は実施例1と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。得られた多孔性中空糸膜は、連通性が低く、実液性能も低い膜となった。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【0092】
[比較例2]
フィルターを設置しないこと以外は実施例14と同様にして多孔性中空糸膜を作製した。得られた多孔性中空糸膜は、連通性が低く、実液性能も低い膜となった。中空糸膜の作製条件と得られた多孔性中空糸膜の諸物性及び実液性能の評価結果を図11に示す。
【符号の説明】
【0093】
1…多孔性中空糸膜、12…中空糸成型用ノズル、16…吐出口、17…フィルター、20…中空糸膜モジュール、30…ろ過装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、有機液体及び無機微粉を含む溶融混練物を中空糸成型用ノズルの環状の吐出口から吐出して中空糸状物を成型し、当該中空糸状物を冷却固化した後に前記有機液体及び前記無機微粉を抽出除去して多孔性中空糸膜を製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂、前記有機液体及び前記無機微粉を溶融混練してから前記溶融混練物を中空糸状に吐出して成型するまでの間の少なくとも1箇所にフィルターを設け、前記フィルターに前記溶融混練物を通過させてから中空糸状に吐出して成型することを特徴とする多孔性中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
前記溶融混練物が前記フィルターを通過してから吐出されるまでの時間が100秒以内であることを特徴とする請求項1記載の多孔性中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
前記フィルターのスリット幅は、前記無機微粉の一次粒子径の1000倍以上120000倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂、前記有機液体及び前記無機微粉を溶融混練する温度、及び前記溶融混練物を前記吐出口から吐出したときの樹脂温度のそれぞれは、プラストミルにより測定される前記溶融混練物のトルク変曲温度より高いことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の多孔性中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
前記無機微粉が疎水性シリカであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の多孔性中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔性中空糸膜の製造方法によって製造された多孔性中空糸膜。
【請求項7】
熱可塑性樹脂から成る多孔性中空糸膜であって、含浸した液体の重量から算出した空孔率Pwetを、乾燥重量から算出した空孔率Pdryで除した値が0.90以上1.00以下であることを特徴とする多孔性中空糸膜。
【請求項8】
等方的な3次元網目構造を有することを特徴とする請求項7記載の多孔性中空糸膜。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン及びポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項7又は8に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の多孔性中空糸膜を用いたモジュール。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の多孔性中空糸膜を用いたろ過装置。
【請求項12】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の多孔性中空糸膜を用いた水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40461(P2012−40461A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181338(P2010−181338)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】