説明

多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置

【課題】VAD法によって光ファイバ用多孔質ガラス母材を合成する際に、多孔質ガラス母材の特性が長手方向で安定しかつ中に気泡が混入しにくい多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】反応容器11に設けられた少なくとも一本以上のバーナ13によりガラス原料ガスおよび燃焼ガスを含む反応ガス15を噴き出し、反応ガス15が反応して生成したガラス微粒子をターゲット17に堆積させて多孔質ガラス母材19を作製する。多孔質ガラス母材19の製造方法反応容器11の壁面21aに、原料投入量の最も多いバーナ13の下端部23より下方位置に噴出口下端部25が位置するようにクリーンエア噴出口27を設置する。クリーンエア噴出口27を、バーナ13と対向する壁面21bに位置しかつバーナ13より上方に開口する排気口29に向かった上向きに設定し、クリーンエア噴出口27よりクリーンエア31を反応容器11に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置に関し、特に気泡の混入しにくい多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
VAD法によりガラス母材を合成する際、合成用バーナヘ四塩化珪素などの原料、四塩化ゲルマニウムなどのドーパント、酸素、水素ガスなどを送り込み、加水分解反応によってガラス微粒子を合成して、ターゲットに堆積させるが、この時、多孔質ガラス母材として堆積されずに余剰となったガラス微粒子が存在するため、これを反応容器に取り付けられた排気口より排気して除去することが行われている。
しかしながら、余剰となったガラス微粒子が十分に排気されずに反応容器内に滞留すると、合成中の多孔質ガラス母材に再付着し、合成後の多孔質ガラス母材を焼結炉でガラス化させる際に、再付着した余剰ススが核となって内部に気泡が発生する問題があった。
また、ススが詰まるなどして反応容器の排気口からの排気圧が変化すると、反応容器内のガラス微粒子の気流が乱れて、多孔質ガラス母材に安定してガラス微粒子を堆積させることができなくなり、堆積速度が合成中に変化して、合成後の多孔質ガラス母材の特性が長手方向で変化する問題があった。
【0003】
特許文献1にはバーナの火炎を安定させて堆積効率を向上させ、高品質な多孔質ガラス母材を効率良く生産することを目的として、バーナの周囲から流す清浄ガスの流速を規定する技術が開示されている。また、特許文献2には反応容器の内壁に付着したガラス微粒子が剥がれ落ちて、多孔質ガラス母材に付着するのを防ぐために、バーナ近傍に空気を導入する空気流入手段を設け、バーナに流れる反応ガスの供給量に対して空気の流量を制御する技術が開示されている。
【0004】
上記した問題に対し、上記特許文献1,2の技術では、バーナ近傍から清浄な空気(クリーンエア)などを流し、排気口に向けて空気の流れを作ることにより、気流を安定させ、また、不要なガラス微粒子を排気口に導くようにしている。
【0005】
しかしながら、VAD法において、クリーンエア噴出口をどの位置に、また、どの方向に向けて取り付けたら、多孔質ガラス母材の特性が長手方向で安定しかつガラス母材の中に気泡が混入しにくいかについての知見はなく、クリーンエアを流していても、コアとクラッドの界面などに気泡が発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−248884号公報
【特許文献2】特開2005−179077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、VAD法によって光ファイバ用多孔質ガラス母材を合成する際に、多孔質ガラス母材の特性が長手方向で安定し、かつ多孔質ガラス母材の中に気泡が混入しにくい多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 反応容器に設けられた一本以上のバーナによりガラス原料ガスおよび燃焼ガスを含む反応ガスを噴き出し、該反応ガスが反応して生成したガラス微粒子をターゲットに堆積させ、上方に引き上げて軸方向に多孔質ガラス母材を堆積させる多孔質ガラス母材の製造装置であって、
原料投入量の最も多い前記バーナが設置されている前記反応容器の壁面と同一の壁面に前記反応容器内にクリーンエアを供給するクリーンエア噴出口を設置し、
前記原料投入量の最も多いバーナと対向する壁面でかつ該バーナの下端より上方に開口部下端が位置する排気口を設け、
前記原料投入量の最も多いバーナの下端部より下方位置に前記クリーンエア噴出口下端部が位置するように前記クリーンエア噴出口を設置し、かつ前記クリーンエア噴出口の下端部が上方に向いていることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【0009】
この多孔質ガラス母材の製造装置によれば、原料投入量の最も多いバーナの取り付けられている反応容器の壁面と同じ壁面にクリーンエア噴出口を設置して、このクリーンエア噴出口からクリーンエアを反応容器内に送り込む。ここで、バーナの下端部より低い位置にクリーンエア噴出口の下端部を設置することで、バーナ火炎の下側からクリーンエアを出し、クリーンエアにガラス微粒子を乗せて運ぶ気流を反応容器内に発生させることができる。これにより、ガラス微粒子の気流が乱れることなく、安定してターゲットに堆積される。また、余剰ススの量は、原料の最も多いバーナの火炎が支配的になることから、反応容器内の余剰ススをこのクリーンエアの流れに乗せて排気口に至るまで効率的に排気し、多孔質ガラス母材に再付着しにくくすることができる。
【0010】
(2) (1)の多孔質ガラス母材の製造装置であって、
前記クリーンエア噴出口下端部の前記反応容器の水平方向に対する角度を、前記原料投入量の最も多い前記バーナの前記反応容器の水平方向に対する角度よりも大きい角度とすることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【0011】
この多孔質ガラス母材の製造装置によれば、クリーンエア噴出口の下端部の反応容器の水平方向に対する角度(上下方向の角度)を、バーナの水平方向に対する角度より大きくしているので、クリーンエアの流れにガラス微粒子を乗せて、余剰ススを効率よく排気口に流し込むことができ、気泡の発生が防止される。
【0012】
(3) (1)または(2)の多孔質ガラス母材の製造装置であって、
前記クリーンエア噴出口は、前記原料投入量の最も多いバーナを挟む両側の位置にも開口されていることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【0013】
この多孔質ガラス母材の製造装置によれば、バーナ火炎の下側から出るクリーンエアが火炎両側からも噴出されて排気口に向かう気流を形成し、ガラス微粒子は両側の気流に挟まれてより安定的に運ばれる。また、余剰ススも反応容器内で左右から挟まれて拡散しにくくなり、より効率的に排気される。
【0014】
(4) 反応容器に設けられた一本以上のバーナによりガラス原料ガスおよび燃焼ガスを含む反応ガスを噴き出し、該反応ガスが反応して生成したガラス微粒子をターゲットに堆積させ、上方に引き上げて軸方向に多孔質ガラス母材を堆積させる多孔質ガラス母材の製造方法であって、
原料投入量の最も多い前記バーナが設置されている前記反応容器の壁面と同一の壁面にクリーンエア噴出口を設置して、前記クリーンエア噴出口よりクリーンエアを前記反応容器内に供給するとともに、前記原料投入量の最も多いバーナと対向する壁面でかつ該バーナの下端より上方に開口部下端が位置する排気口を設けて前記反応容器内の気体を排気し、
前記原料投入量の最も多いバーナの下端部より下方位置に前記クリーンエア噴出口下端部が位置するように設置して前記排気口に向けて前記クリーンエアを供給することを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【0015】
この多孔質ガラス母材の製造方法によれば、原料投入量の最も多いバーナの取り付けられている反応容器の壁面と同じ壁面にクリーンエア噴出口を設置して、このクリーンエア噴出口からクリーンエアを反応容器内に送り込む。ここで、バーナの下端部より低い位置にクリーンエア噴出口の下端部を設置することで、バーナ火炎の下側からクリーンエアを出し、クリーンエアにガラス微粒子を乗せて運ぶ気流を反応容器内に発生させることができる。これにより、ガラス微粒子の気流が乱れることなく、安定してターゲットに堆積される。また、余剰ススの量は、原料の最も多いバーナの火炎が支配的になることから、反応容器内の余剰ススをこのクリーンエアの流れに乗せて排気口に至るまで効率的に排気し、多孔質ガラス母材に再付着しにくくすることができる。
【0016】
(5) (4)の多孔質ガラス母材の製造方法であって、
前記クリーンエア噴出口下端部の前記反応容器の水平方向に対する角度を、前記原料投入量の最も多い前記バーナの前記反応容器の水平方向に対する角度よりも大きい角度とすることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【0017】
この多孔質ガラス母材の製造方法によれば、クリーンエア噴出口の下端部の反応容器の水平方向に対する角度(上下方向の角度)を、バーナの水平方向に対する角度より大きくしているので、クリーンエアの流れにガラス微粒子を乗せて、余剰ススを効率よく排気口に流し込むことができ、気泡の発生が防止される。
【0018】
(6) (4)または(5)の多孔質ガラス母材の製造方法であって、
前記クリーンエア噴出口より供給するエア圧力を、前記反応容器の内部圧力に対して25Pa以上、30Pa以下とすることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【0019】
この多孔質ガラス母材の製造方法によれば、クリーンエアが適度な圧力で噴出されるので、ガラス微粒子の搬送効果(整流効果)の著しい低下がなく、またクリーンエアの気流によるバーナ火炎の乱れやこれによる成長速度の変動などがなくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置によれば、ガラス微粒子を含む気流を乱れなく流すことができるので、VAD法によって光ファイバ用多孔質ガラス母材を合成する際に、多孔質ガラス母材の特性を長手方向で安定させ、かつ多孔質ガラス母材の中に気泡を混入しにくくできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る多孔質ガラス母材の製造方法に用いられる製造装置の模式図である。
【図2】図1に示す製造装置の一部を正面方向から見た模式図である。
【図3】図1に示す製造装置の一部を正面方向から見た他の模式図の例(a)(b)(c)である。
【図4】クリーンエア供給圧力と気泡発生数との相関図である。
【図5】クリーンエア供給圧力とガラス合成時の引き上げ速度との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る多孔質ガラス母材の製造方法に用いられる製造装置の模式図である。
本実施の形態に係る多孔質ガラス母材19の製造装置100は、回転するターゲット17を収容する反応容器11と、ガラス原料ガスと燃焼ガスとの反応ガス15から火炎加水分解反応により生成するガラス微粒子を出発材となるターゲット17に向けて噴き付けるバーナ13と、ターゲット17を引き上げる引き上げ装置41と、反応容器11の中に清浄化ガスであるクリーンエア31を供給するためのクリーンエア供給手段(清浄化ガス供給手段)であるクリーンエア発生装置43とを備えている。
【0023】
反応容器11の上壁45には貫通穴47が設けられており、ターゲット17に接続される支持棒がこの貫通穴47を上下方向に挿通するように配置される。ターゲット17は、上端が回転チャック49に把持されて回転されるとともに、引き上げ装置41により上下方向に移動するようになっている。ターゲット17を回転させながら上方向に引き上げることにより、ターゲット17にガラス微粒子を軸方向に堆積させて多孔質ガラス母材19を製造するようにしている。すなわち、多孔質ガラス母材19の製造装置100は、VAD法により多孔質ガラス母材19を製造する装置構成となっている。
【0024】
反応容器11の下部には一本以上のバーナ13が、ターゲット17の引き上げ軸方向上向きの設置角度θ2にて取り付けられ、先端は反応容器11内部に突出している。本実施の形態では、VAD法にてコア部とクラッド部のそれぞれを合成する二本のバーナ13a,13bを用いている。バーナ13はガスを噴き出すポートが同心円状に形成され、ガスの種類毎に噴き出すポートが決められた多重管(例えば8重管)バーナが使用される。バーナ13は、ポートごとに設けられた不図示の配管により不図示のガス供給装置に接続されており、水素及び酸素の燃焼・助燃ガスや四塩化珪素(SiCl4)などのガラス原料ガスが供給されるようになっている。ガス供給装置は燃焼・助燃ガス供給装置および原料ガス供給装置からなり、不図示の制御部のガス流量制御部によって制御されて、燃焼・助燃ガスやガラス原料ガスの供給量がバーナ13のそれぞれのポート毎で調整されるようになっている。また、その他のシールガス等の供給装置も適宜設けられ、バーナ13の所定のポートに供給される。
【0025】
反応容器11の、バーナが取り付けられている側壁51には、クリーンエア発生装置43から配管53を介してクリーンエア31が供給されるクリーンエア噴出口27が設けられている。クリーンエア31は、清浄化された空気である。清浄化の度合は特に限られず、多孔質ガラス母材19に不良箇所を発生させない程度に清浄であれば良い。
【0026】
反応容器11の、バーナが取り付けられている壁面と対向する側壁55には、反応容器11内の気体を吸い込んで排気する排気口29が設けられており、排気口29はダクトにて不図示の廃ガス処理装置に接続されている。また、ダクトの内部には排気量を調整するための不図示の排気弁が設けられている。排気弁の開度は、反応容器11内の気圧が一定となるように、不図示の制御部内の排気弁制御部によって調整されるようになっている。
【0027】
製造装置100は、以上の基本構成を備えることで、バーナ13a,13bによりガラス原料ガスおよび燃焼ガスなどを含む反応ガス15を噴き出し、反応ガス15が反応して生成したガラス微粒子をターゲット17に堆積させて多孔質ガラス母材19を作製する。
【0028】
製造装置100では、反応容器11の壁面21aに設けたバーナ13a、クリーンエア噴出口27、及び壁面21bに設けた排気口29を、所定の相対位置関係に設定している。すなわち、図2により、製造装置の一部を正面方向から見た模式図にも示すように、クリーンエア噴出口27は、反応容器11の壁面21aにおいて、原料投入量の最も多いバーナ13aの下端部23よりも下方位置に、噴出口下端部25が位置するよう配設されている。また、排気口29は、バーナ13aと対向する壁面21bに位置し、かつバーナ13aの下端部より上方に開口部下端が位置するように設定されている。
【0029】
さらに、クリーンエア噴出口27は、噴出口下端部25の角度θ1を、原料投入量の最も多いバーナ13aの設置角度θ2よりも大きい角度θ1としている(θ1>θ2)。ここで、角度θ1,θ2とは、反応容器11の水平方向と、バーナ13aおよびクリーンエア噴出口下端面との挟角とする。つまり、噴出口下端部25の傾きはクラッドバーナよりも大きな傾斜(立った)勾配となる。バーナ13aの設置角度とクリーンエア噴出口27の噴出口下端部25の角度をこのような相対関係に設定することで、クリーンエア31の流れにガラス微粒子を乗せて、余剰ススを効率よく排気口29に流し込むことができ、気泡の発生が防止されるようになっている。
【0030】
クリーンエア噴出口27は、原料投入量の最も多いバーナ13aに対して一つ、或いは複数設けても良い。また、クリーンエア噴出口27は、クリーンエア噴出口27の上部とバーナ13aの下部が重なっていても良い。複数ある場合には、図2の製造装置の一部を正面方向から見た模式図のように、クリーンエア噴出口27を、バーナ13aを挟んだ両側に配置すると、バーナ火炎の下側から出るクリーンエアと、火炎両側から出るクリーンエアとで排気口29に向かう気流を形成し、ガラス微粒子は両側の気流に挟まれてより安定的に運ばれる。また、余剰ススも反応容器11内で左右から挟まれて拡散しにくくなり、より効率的に排気される。
【0031】
図3は、本発明に係る多孔質ガラス母材の製造装置の一部を正面方向から見た他の模式図の例(a)(b)(c)である。
図3(a)は、クリーンエア噴出口27が、原料投入量の最も多いバーナ13aを取り囲むように設けられている。図3(b)は、クリーンエア噴出口27が、二本のバーナ13a,13bを取り囲むように設けられている。また、図3(c)は、クリーンエア噴出口27は楕円状に開口されてバーナ13a,13bを挟んだ両側に配置されている。また、各例とも、クリーンエア噴出口27は、噴出口下端部25(図1参照)が原料投入量の最も多いバーナ13aの下端部よりも下方に位置し、かつ噴出口下端部25の角度が、原料投入量の最も多いバーナ13aの設置角度よりも小さい角度とされている。
これらの例においても、余剰ススはクリーンエアの流れに乗って排気口に流され、効率的に排気される一方、ガラス微粒子は気流に挟まれて安定的に運ばれ、ターゲット17に堆積される。
【0032】
また、クリーンエア噴出口27より供給するエア圧力は、反応容器11の内部圧力に対して25Pa以上、30Pa以下とすることが望ましい。
これにより、クリーンエア31が適度な圧力で噴出されるので、ガラス微粒子の搬送効果(整流効果)の著しい低下がなく、またクリーンエア31の気流によるバーナ火炎の乱れやこれによる成長速度の変動などがなくなる。換言するとクリーンエア31の供給圧が低すぎると効果がなくなり、また、供給圧が高すぎると気流が強すぎて火炎を乱し、バーナ13aから出たガラス微粒子の多孔質ガラス母材19への安定した堆積を妨げる。
【0033】
次に、上記構成の製造装置100を用いた多孔質ガラス母材19の製造方法について説明する。
製造装置100を用いた多孔質ガラス母材19の製造方法では、反応容器11内において回転する出発材となるターゲット17に対して、バーナ13から噴き出されるガラス原料ガスおよび燃焼ガスの火炎加水分解反応により生成するガラス微粒子を堆積させて上方向に引き上げ、多孔質ガラス母材19を製造する。この際に、バーナ13の周囲から整流されたクリーンエア31を供給する。
【0034】
クリーンエア31は、原料投入量の最も多いバーナ13aの下端部23より下方位置に噴出口下端部25が位置するように壁面21aに設置されるとともに、原料投入量の最も多いバーナ13aと対向する壁面21bに位置しかつ原料投入量の最も多いバーナ13aの下端部より上方に開口部下端が位置する排気口29に向かけて上向きに設定されるクリーンエア噴出口27より、反応容器11に供給される。
【0035】
原料投入量の最も多いバーナ13aの下端部より低い位置にクリーンエア噴出口27の噴出口下端部25を設置することで、バーナ火炎の下側からクリーンエア31を出し、クリーンエア31にガラス微粒子を乗せて運ぶ気流を反応容器11内に発生させることができる。これにより、ガラス微粒子の気流が乱れることなく、安定して出発材となるターゲット17に堆積される。また、余剰ススの量は、原料の最も多いバーナ13aの火炎が支配的になることから、反応容器11内の余剰ススをこのクリーンエア31の流れに乗せて排気口29に至るまで効率的に排気することができ、多孔質ガラス母材19に再付着しにくくすることができる。
【0036】
したがって、本実施の形態に係る多孔質ガラス母材19の製造方法および製造装置100によれば、原料投入量の最も多いバーナ13aの下端部23より下方位置に噴出口下端部25が位置するようにクリーンエア噴出口27を設置し、クリーンエア噴出口27を、バーナ13と対向する壁面21bに位置しかつバーナ13の下端部より上方に開口部下端部が位置する排気口29に向けた上向きに設定するので、VAD法によって光ファイバ用多孔質ガラス母材19を合成する際に、多孔質ガラス母材19の特性を長手方向(軸方向)で安定させ、かつ多孔質ガラス母材19の中に気泡を混入しにくくできる。
【実施例】
【0037】
次に、図1に示した実施の形態と同様の構成の製造装置を製作し、条件を変えて気泡の発生を調べた結果を比較例と共に説明する。
【0038】
<実施例>
VAD法にてコア部とクラッド部のそれぞれを合成する二本のバーナを用いて光ファイバ用ガラス母材の合成を行った。コア部を合成するバーナヘは0.5リットル/分、クラッド部を合成するバーナヘは6リットル/分の流量で原料となる四塩化珪素ガスを投入し、80mm/hrの速度で引き上げながら合成した。
【0039】
反応容器内の引き圧が大気圧に対して−20Paになるように、反応容器に接続された排気管から排気を行い、クラッド部を合成するバーナの下端位置から150mm下の位置を噴出口下端部として、高さ250mm、幅100mmの大きさのクリーンエア噴出口をクラッドバーナの両サイドに2つ設置した。この時、排気口はクリーンエア噴出口の上端から120mm高い位置に開口部の下端が来るように取り付け、クラッドバーナの設置角度を反応容器の水平方向に対して30度とし、クリーンエア噴出口下端部の角度を45度とした。このクリーンエア噴出口にクリーンエア発生装置を接続し、大気圧に対して+5Paの圧力で噴き出し口から反応容器内ヘクリーンエアを供給した。
この条件で連続して多孔質ガラス母材を二十本合成し、多孔質ガラス母材の中に混入した気泡の個数を測定した。その結果、気泡の個数は多孔質ガラス母材一本あたり0.3個であった。
【0040】
<比較例1>
実施例に記載の反応容器からクリーンエア噴出口を取り外して多孔質ガラス母材を二十本合成して、多孔質ガラス母材の中に混入した気泡の個数を測定した結果、図4に示すように、多孔質ガラス母材一本あたり3個と気泡発生頻度が大幅に増加した。
【0041】
<比較例2>
実施例に記載のクリーンエア噴出口から反応容器の底面に平行の角度でクリーンエアを供給して多孔質ガラス母材を合成し、多孔質ガラス母材の中に混入した気泡の個数を測定した結果、多孔質ガラス母材一本あたり2個であった。
【0042】
<比較例3>
反応容器内の引き圧を大気圧に対して−20Pa、クリーンエアの圧力を0.4Paとして実施例と同様に多孔質ガラス母材を二十本合成し、多孔質ガラス母材の中に混入した気泡の数を測定した結果、多孔質ガラス母材一本あたり1.5個であった。
なお、図4に、クリーンエア供給圧力と気泡発生数との相関図を示す。この図より、クリーンエアの圧力を5Pa以上とすることで、極端に気泡の数が減少していることが分かる。
【0043】
<比較例4>
反応容器内の引き圧を大気圧に対して−20Pa、クリーンエアの圧力を15Paとして実施例と同様に多孔質ガラス母材を合成したが、図5に示すように、多孔質ガラス母材の引き上げ速度が80mm/hrから60mm/hrに低下し、良好な多孔質ガラス母材を得ることができなかった。
なお、図5に、クリーンエア供給圧力とガラス合成時の引き上げ速度との相関図を示す。この図より、クリーンエアの圧力が10Paを超えると、極端に引き上げ速度が低下することが分かる。
【0044】
以上の結果から、本実施例のように、バーナ火炎の下側からクリーンエア31を出し、クリーンエア31にガラス微粒子を乗せて運ぶ気流を反応容器11内に発生させ、ガラス微粒子を安定してターゲット17に堆積させ、かつ余剰ススの量はこのクリーンエア31に乗せて効率的に排気することにより、多孔質ガラス母材19の特性を長手方向で安定させ、かつ中に気泡が混入しにくくなることが確認できた。
【符号の説明】
【0045】
11 反応容器
13 バーナ
15 反応ガス
17 ターゲット
19 多孔質ガラス母材
21 壁面
23 下端部
25 噴出口下端部
27 クリーンエア噴出口
29 排気口
31 クリーンエア
100 製造装置
θ1、θ2 設置角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に設けられた一本以上のバーナによりガラス原料ガスおよび燃焼ガスを含む反応ガスを噴き出し、該反応ガスが反応して生成したガラス微粒子をターゲットに堆積させ、上方に引き上げて軸方向に多孔質ガラス母材を堆積させる多孔質ガラス母材の製造装置であって、
原料投入量の最も多い前記バーナが設置されている前記反応容器の壁面と同一の壁面に前記反応容器内にクリーンエアを供給するクリーンエア噴出口を設置し、
前記原料投入量の最も多いバーナと対向する壁面でかつ該バーナの下端より上方に開口部下端が位置する排気口を設け、
前記原料投入量の最も多いバーナの下端部より下方位置に前記クリーンエア噴出口下端部が位置するように前記クリーンエア噴出口を設置し、かつ前記クリーンエア噴出口の下端部が上方に向いていることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質ガラス母材の製造装置であって、
前記クリーンエア噴出口下端部の前記反応容器の水平方向に対する角度を、前記原料投入量の最も多い前記バーナの前記反応容器の水平方向に対する角度よりも大きい角度とすることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の多孔質ガラス母材の製造装置であって、
前記クリーンエア噴出口は、前記原料投入量の最も多いバーナを挟む両側の位置にも開口されていることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項4】
反応容器に設けられた一本以上のバーナによりガラス原料ガスおよび燃焼ガスを含む反応ガスを噴き出し、該反応ガスが反応して生成したガラス微粒子をターゲットに堆積させ、上方に引き上げて軸方向に多孔質ガラス母材を堆積させる多孔質ガラス母材の製造方法であって、
原料投入量の最も多い前記バーナが設置されている前記反応容器の壁面と同一の壁面にクリーンエア噴出口を設置して、前記クリーンエア噴出口よりクリーンエアを前記反応容器内に供給するとともに、前記原料投入量の最も多いバーナと対向する壁面でかつ該バーナの下端より上方に開口部下端が位置する排気口を設けて前記反応容器内の気体を排気し、
前記原料投入量の最も多いバーナの下端部より下方位置に前記クリーンエア噴出口下端部が位置するように設置して前記排気口に向けて前記クリーンエアを供給することを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の多孔質ガラス母材の製造方法であって、
前記クリーンエア噴出口下端部の前記反応容器の水平方向に対する角度を、前記原料投入量の最も多い前記バーナの前記反応容器の水平方向に対する角度よりも大きい角度とすることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の多孔質ガラス母材の製造方法であって、
前記クリーンエア噴出口より供給するエア圧力を、前記反応容器の内部圧力に対して25Pa以上、30Pa以下とすることを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−36014(P2012−36014A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174752(P2010−174752)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】