説明

多孔質セラミックス

【課題】多孔質セラミックスにおいて、より黒色に近く、またESD対策となりえる電気抵抗率を有する、連続した開気孔を持つものを得ること。
【解決手段】アルミナとムライトを主成分とし、チタニアと炭化チタンを副成分としてなる多孔質セラミックスを作製することで、課題を解決した。出発原料の組成や焼結の雰囲気などを制御することにより、連続した開気孔を持つセラミックスに、十分に低い面粗度、ESDを引き起こさない半導電性、光学機器でのハレーション対策となる黒に近い色調を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体中を連続した開気孔を有するアルミナ、ムライト、炭化チタン、チタニアからなる多孔質焼結体、並びにその多孔質セラミックスを用いた真空チャックなどに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナやムライトなどの多孔質焼結体は、現在までに多数提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、AlおよびAl−MgO系の多孔質焼結体を、平均粒子径のピークを2つもつ粉末を用いて制作する方法が示されている。
【0004】
特許文献2には、アルミナをはじめ、酸化物系セラミックスを主とする多孔質セラミックスが開示されている。
【0005】
特許文献3には、TiO(1.5≦x<2.0)を0.1〜10質量%含有し、残部がAlからなる連続した開気孔を有する暗色多孔質焼結体が示されている。暗色にするのはハレーション対策が目的である。
【0006】
また、特許文献4および5には、本発明の多孔質セラミックスと成分が重なる多孔質セラミックスが開示されているが、本発明で開示するような詳細は全く示されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−315358号公報
【特許文献2】特開昭62−82047号公報
【特許文献3】特開2006−182595号公報
【特許文献4】特公平6−85026号公報
【特許文献5】特公平6−72667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルミナ基の材料は、基本的に白色を基とする材料であるために、白色に近い色のウェハー、素子、粉末、塵などを肉眼及びセンサーにて見分けるのが難しい。また、白色は光の大部分を吸収することなく反射するために、領域の検出などが難しい。目視での検出も難しいが、特にCCDカメラを用いた光学センサーで物体の境界を検知する際に、ハレーションを起こすために適していない。
また、電気抵抗については静電気が発生した際に、各種デバイスを破壊する恐れがあるために、絶縁性でも導電性でもなくその中間に位置する半導電性とするのが最もよい。半導電性の範囲としては、装置や素子の種類、各社の規格により異なるが、大まかに1×10〜1×1011(Ω・cm)である。
【0009】
特許文献2に示される技術は、褐色のコーディライト焼結体を作ることはできるが、耐食性や耐薬品性、耐摩耗性に劣るFe,Mn、Coの酸化物を添加するため、半導体製造用途や酸性やアルカリ性の薬液を濾過するフィルター、および成膜用治具に使用は望ましくない。
【0010】
特許文献3に示される技術では、暗色の多孔体を得ることができるが、センサーによっては白と判別するものもあり、問題は残る。また、静電気対策の視点から見れば、ほぼ絶縁体であるためにESD(electrostatic discharge、静電気放電)対策の必要な部材としては使用が難しい。
【0011】
特許文献4には開放気孔に潤滑剤を充填したセラミックスを有する回転多面鏡が示されている。この文献には本願発明の必須成分であるアルミナ、ムライト、チタニア、炭化チタンが請求項2にてあげられているが、これらの系に対する記述は皆無である。
【0012】
引用文献5には開放気孔が5〜55%のセラミックスにフッ化カーボンを充填した弁体が示されている。この文献にも本願発明の必須成分であるアルミナ、ムライト、チタニア、炭化チタンが請求項2にてあげられているが、これらの系に対する記述は皆無である。
【0013】
そこで、本発明は、アルミナ、ムライト基の多孔質セラミックスにおいて、より黒色に近く、またESD対策となりえるものを得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は第一成分であるアルミナとムライトがそれぞれ最低5質量%で合計50〜98質量%と、炭化チタンとチタニアが合計2〜50質量%で、チタニアの質量をチタニアと炭化チタンの合計の質量で割った値が0.001〜0.5の範囲である第2成分からなる連続した開気孔を有する多孔質セラミックス、または、第一成分であるアルミナとムライトの一部が、0.01〜20%の酸化ケイ素で置換された同多孔質セラミックスである。
【0015】
第一成分であるアルミナとムライトは化学的に安定した酸化物であり、原材料となるアルミナ、ムライトや酸化ケイ素、チタニアなどは安定的に入手でき、価格も高くない。また、多孔質セラミックスとして使用しても、一定の強度を保つことができる。
【0016】
アルミナとムライトの各成分の下限を5質量%としたのは2つの酸化物による固溶、分散強化を行ない、強度を確保するためである。また、合計量が50〜98質量としたのは、この範囲より小さければ第2成分が主相となるために、連続した開気孔が得にくくなり、また、炭化チタンやチタニアの特性が強くなりすぎ、強度や電気抵抗率の面で求める値が得られにくいからである。
【0017】
第2成分はチタニアと炭化チタンからなり、多孔質セラミックスの2〜50質量%を占める。炭化チタンは導電体であり、体積電気抵抗率は1×10−3(Ω・cm)程度である。チタニアも炭化チタンほどではないが、導電性を有する。また、チタニアは一般的にTiOで表されるが、本発明の組成ではTiOに加えて化学量論比から外れたTiOx(x≠2)も微量有していた。チタニアは焼結体中に微量でも存在することで、研削後の面粗さを小さくするという機能を有する。炭化チタンは導電性が高く、黒色が強いために本発明の多孔質セラミックスを形成する上で重要な要素であるが、それ自体の焼結性がよくないために50%を超えて含有すると多孔質セラミックスが十分な強度が得られず、脆くなる。チタニアと炭化チタンの比は、一種の平衡論的な移動も見られるが、チタニアとムライト及び炭化チタン間には酸素のやり取りがあり、炭化チタンが多い領域で安定する。その場合のチタニアの量は炭化チタンとチタニアの和に対して0.001〜0.5の範囲がよい。0.001よりも小さければ、前述の研削後の面粗さ特性が見られなくなる。また、0.5を超えるとチタニア量が多いために、焼結から冷却の過程にて炭化チタンとの間で不安定なまま焼結を終了するために、全体で均一な組成となりにくく、外観や気孔の均一性が得られにくく、強度や科学的安定性の面で好ましくない。この第2成分は、多孔質セラミックスの2〜50質量%を占めるが、もし2質量%よりも少量であれば、ムライトやアルミナ同士のネッキングにのみ焼結がゆだねられるために、連続気孔を有する十分に強度の高い多孔質セラミックスは得られにくい。また、逆に50質量%よりも多ければ炭化チタンが増えすぎるために、本発明で想定している焼結温度範囲では焼結が著しく進行しにくくなる。
【0018】
請求項2に記載の本発明は、第1成分であるアルミナとムライトの一部が、0.01〜20質量%の酸化ケイ素で置換されている請求項1に記載の多孔質セラミックスである。酸化ケイ素は出発原料として投入することができるが、ケイ素と酸素はムライトを構成するために一部または全部が分解して焼結後にはムライトの一部となってしまう。ムライトの一部となる量を超える酸化ケイ素を投入していれば、酸化ケイ素として多孔質セラミックス中にも残存する。この量は雰囲気や焼結条件により異なる結果が出ている。この多孔質セラミックス中の酸化ケイ素は0.01%以上残存すると多孔質セラミックスの焼結を進める働きを持ち、製造が容易になる。それ以下であれば、焼結を進める働きは見られない。また、20質量%を超えると酸化ケイ素自体は脆いために、多孔質セラミックスの破壊が起こりやすくなるために好ましくない。よって、酸化ケイ素は0.01質量%〜20質量%が適当な量である。
【0019】
請求項3に記載の本発明は、気孔率が15〜45%である請求項1または請求項2に記載の多孔質セラミックスである。多孔質セラミックスは、気孔率が小さいほど機械的強度は強いものが得られるが、その際の気孔を用いた気体や液体の移動量は小さくなる。例えば、真空チャックとして使用する場合には吸着力が比較的弱くなる。そのために、気孔率が15%未満の多孔質セラミックスは、用途が限定されてしまう。また、気孔率が高ければ気体や液体の移動は大きくすることができる。その反面、多孔質セラミックスの機械強度は落ちるためにやはり使用できる対象が限られることになる。これは気孔率が45%を超えると急激にその傾向が強まる。よって、気孔率は15〜45%がより適当な範囲といえる。
【0020】
請求項4に記載の本発明は、平均気孔径が2〜20μmである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の多孔質セラミックスである。気孔径は水銀圧入法にて測定した値である。平均気孔径が小さければ、機械的強度が比較的高いものが得られるが、気孔率が低いものと同様に気孔を用いた気体や液体の移動量は小さくなる。また、用途にもよるが平均気孔径が20μm以上と大きなものは、表面の凹凸が激しくなり、面粗さを低くすることができない。本発明の多孔質セラミックスは平滑性を求められる真空チャックなどでも使用できるものを得ることをひとつの目的としているが、そのような用途の場合には、前述のように平均気孔径が2〜20μmであることが望ましい。もちろん用途が一定の面粗さなどを必要としない場合は、この範囲に限定するものではない。
【0021】
請求項5に記載の本発明は、L*a*b*表色系で示した色調が、a*とb*の積の絶対値が10以下、かつ、L*が45以下であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の多孔質セラミックスである。L*a*b*表色系は、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている、色を表す値である。
【0022】
a*とb*の積の絶対値が10以下というのは、色調としては特に赤や青などの特徴のない範囲である。本発明の多孔質セラミックスは、白と黒色、灰色などのセラミック粒子からなるために、殆どがこの範囲に入る。また、L*の値は45以下であり前述のa*、b*の値とあわせて、濃い灰色〜黒色に近い範囲を示す。
【0023】
電子部品などの検査や光学機器の使用による寸法の測定などは、バックグラウンド(例えば吸着部材)と被検査物(例えば電子部品)との色の差がはっきりしているほど検出が行ないやすく、測定誤差を小さくすることができる。現在まではセラミックス真空チャックとしては白色や暗色のものが主に用いられてきたが、これらをより改善することができる。
【0024】
この色調(黒色化)にもっとも大きく影響するのは炭化チタンの含有量であり、このような用途に用いる際は、炭化チタンを請求項1範囲で含有するのが望ましい。
【0025】
請求項6に記載の本発明は体積電気抵抗率が1×10〜1×1011(Ω・cm)の範囲にあることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれかに記載の多孔質セラミックスである。本請求項で示した範囲は、ESD(静電気放電)対策としての多孔質セラミックスの電気抵抗率の範囲である。なお、値は体積抵抗率で示している。各種部材が絶縁体の場合、製造や検査の最中に摩擦や剥離により静電気が発生し、それが各種素子を直撃して破壊することがある。また、静電気でなくとも意図しない異常な電流が発生し、導電体を通じて各種素子が破壊されることもある。このような電気的な素子の破壊に対しては、素子と接している物体が、電気をある程度流す「半導電性」を有することが望ましい。電気抵抗率がこの範囲よりも小さければ、大電流が直撃したときのダメージが大きく、逆に大きければそれ自体が静電気を帯電しやすくなる。
そのために、各種素子などと接する部材はある程度の電気抵抗率を持ち、少しずつ電流を流せるものがよい。本発明であげた1×10〜1×1011(Ω・cm)という範囲は、この範囲に順ずるものである。
【0026】
請求項7に記載の本発明は、前記請求項1から請求項6のいずれかの多孔質セラミックスからなる真空チャックである。真空チャックに求められる特性はその面粗さ、吸着力、色調、対ハレーション特性、電気的特性などである。請求項1から6に記載の本発明の多孔質セラミックスは、その面粗さ、吸着力などは所望の特性を選択することができる。また、炭化チタン量などを調整することにより対ハレーション特性、色調では灰色から黒色に近い範囲、電気抵抗率は1×10〜1×1011(Ω・cm)の範囲を含む領域から選択することができ、より多くの真空チャック用途に使用可能である。
【0027】
請求項8に記載の本発明は、前記請求項1から請求項6のいずれかの多孔質セラミックスからなるハレーション対策部材である。前記のように、本発明では請求の範囲内で組成を調整することにより、灰色から黒色まで色調を変化させることができる。そのために、被検査物に応じて適当な色を選択、ハレーション対策を行なうことができる。このハレーション対策部材は、前記の真空チャックとして使用することももちろんできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は以下に示す課題のうち、少なくともひとつ以上を解決する。
【0029】
1.アルミナとムライトを主とした、加工面の粗さを低く抑えやすい、連続した開気孔を有する多孔質セラミックスを得ることができる
2.電気抵抗率を制御でき、ESD対策用としての連続した開気孔を有する多孔質セラミックを得ることができる。
【0030】
3.色調を黒色に近い連続した開気孔を有するセラミックスを得ることができる

【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の多孔質セラミックスの製造方法の一例を示す。
【0032】
まず、出発原料として合計で50〜98質量%のアルミナ粉末およびムライト粉末を準備する。連続した開気孔を得たうえで、気孔率や気孔径を制御するためには、これらの粉末の平均粒子径は10〜200μm程度がよい。また、粉末の形状としては、開気孔を残しやすい球状に近いものがよい。
【0033】
炭化チタンとチタニアは合計で2〜50質量%となるように添加する。これらの平均粒子径は0.1〜4μm程度が適当である。
【0034】
酸化ケイ素を添加する場合は、全量の0.01〜20重量%をアルミナ及びムライトを置換するように添加する。この平均粒子径は0.1〜3μm程度が適当である。
【0035】
前記のように平均粒子径を大きく変えるのは、大きいほうの粉末(アルミナ、ムライト)同士のネッキングを小さい粉末(チタニア、炭化チタン、酸化ケイ素)が受け持つことにより、全体的な緻密化を防いだ上で連続した開気孔を得るためである。
【0036】
これらの粉末をできれば水やアルコールを加えた湿式条件にてボールミル、アトライター、らいかい機などで均一に混合を行なう。得られたスラリーに1〜10外部質量%の成形用の有機バインダーを加えた上で、静置乾燥やスプレードライヤー、篩網などで乾燥、造粒を行なう。混合粉末は以上のようにして得られる。
【0037】
次に、得られた混合粉末を30〜300MPaの圧力でプレス成形し、必要な場合は中間加工を行なう。
【0038】
中間加工後には、還元または真空雰囲気にて300〜700℃で有機バインダーの脱脂を行なう。この際、プレス体には炭化チタンが含まれているために、酸化雰囲気、大気雰囲気での脱脂は不適当である。
【0039】
次に、脱脂体を焼結する。焼結は、炉壁や治具などに由来するカーボンによる還元雰囲気、還元ガスまたは不活性ガスによる還元雰囲気、真空雰囲気のいずれかにて行なうことができる。適正温度は1400℃〜1700℃である。
【0040】
得られた焼結体の組成については、原料粉末投入時とは異なり、化学変化が起こっていた。具体的には、アルミナとチタニア、投入した場合の酸化ケイ素の酸化物成分が減少し、変わりにムライトの量が増えていた。また、一部のチタニアが、ムライトの生成により還元し、雰囲気中のカーボンを取り込んで炭化チタンが生成していた。
【0041】
焼結後には多孔質セラミックスが得られる。この多孔質セラミックスの特徴は、チタニアがあることから、面精度を高くすることができ、精密部材を取り扱う用途にも十分適している。また同時に、前記成分や製法を制御することにより、黒色に近い色調のものや、半導電性や、気孔については、平均気孔径が2〜20μmで10〜45%の気孔率を得ることも可能である。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
出発原料として、平均粒子径が68μmのアルミナ粉末70質量%と、平均粒子径が45μmのムライト粉末20質量%、平均粒子径が1μmの炭化チタン粉末5質量%、平均粒子径が1μmのチタニア2質量%、平均粒子径が1μmの酸化ケイ素3質量%とをボールミルに投入し、アルミナボールを用いて湿式にて10時間混合した。混合後に成型用の有機バインダーとして分子量が約2万のポリエチレングリコールを外部分率で3質量%とともにスプレードライヤーにて造粒を行い造粒粉を得た。
【0043】
つぎに、造粒粉末を金型にて100MPaで加圧して成型し、円盤状のグリーン体を得た。このグリーン体をカーボン雰囲気にて脱脂を行なった後、焼結炉に投入し、カーボン介在中、アルゴンガスフローの還元雰囲気中にて1500℃で焼結を行った。
【0044】
得られた焼結体である多孔質セラミックスは、黒に近い濃い灰色の外観をもち、連続した開気孔を有する多孔質体であった。組成は分析により、焼結体はアルミナが68質量%、ムライトが25質量%、炭化チタンが6質量%、チタニアが1質量%、酸化ケイ素が0%の組成へと変化していた。これは、アルミナと酸化ケイ素の一部からムライトが新たに生成し、チタニアの一部が炭化チタンと変化する反応が起こったと考えられる。この試料を試料1とする。
【0045】
試料1に対して調査を行なったところ、下記の特性を有していた。

気孔 気孔率は寸法と重量から求めたところ、完全に焼結した理想焼結体の58%であり、気孔率は42%であった。平均気孔径は水銀圧入法により測定し18μmであった。
色彩 色度計により測定したところ L*=35.0 a*=−0.8 b*=1.5 であった。
電気抵抗率 体積電気抵抗率を測定したところ、2×10(Ω・cm)であった。
【0046】
次に出発原料の組成を変え、試料2〜114とし、出発原料や製造方法を基本的に試料1と同一にした上での作製、測定を行なった。出発原料の組成を表1〜3に、焼結後の組成を表4〜6に、特性の値を表7〜9に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】

表3で番号に*の付したものは、本発明範囲外の比較試料である
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
表6で番号に*の付したものは、本発明範囲外の比較試料である
【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
表9で番号に*の付したものは、本発明範囲外の比較試料である
【0059】
なお実施例において、番号に「T」を付した3試料は、アルミナとムライトの原料粉末の平均粒子径を10μmとしており、比較的小さい気孔径を狙った試料である。
【0060】

本発明の試料は試料1をはじめ、すべての試料にて機械的特性が通常取り扱う上で問題ないものであった。具体的には亀裂やチッピングは起こっておらず、表面からの粒子の剥離が無く、色調も試料の位置にかかわらず一定であった。3点曲げ強度は最低でも40MPaを確保していた。
【0061】
組成については、投入原料とは異なる組成となっているものが多かった。これは主に焼結時のムライトの生成によるものであり、アルミナと酸化ケイ素からAl、Si、Oの成分を奪って形成するために、アルミナと酸化ケイ素の量が低減し、ムライトが生成または増加する反応が起こっていると思われる。この際は、酸化ケイ素が完全にムライトの一部となる場合と、残留する場合が両方見られた。また、チタニアについてはすべての実施例にて減少していた。これは雰囲気中のカーボンの存在と、前記ムライトへのOの供給により起こると考えられる。原料投入量やムライト、炭化チタンへの変化などにより、0.1%以下と微量にまで減少する場合もあった。チタニアの一部が炭化チタンと変化することにより、炭化チタンの特徴である高電気伝導性や黒色化の働きがより顕著に現れている傾向が見られた。
【0062】
チタニアの有無に関する面粗さの影響について、試料30の1%のチタニアを炭化チタンにした試料を、焼結の高温維持時間を長くすることにより得ることができた。この試料を比較試料*112とし、この両者について比較する。これらの試料の平均気孔径は16μmと比較的大きいために、通常の面粗さ計では、一度気孔に進入した端子が面に沿って戻れなくなるために、そのままでは測定できない。そのために試料と端子との間に厚さ20μmのポリマーシートを敷き、それを裏面より真空引きを行った状態で保持し、それを介して測定した。最大高さなどは測定できないために、比較は同方法により中心線平均粗さRa(1982年度版JIS)を用いて行った。
試験は、両試料を同時に平面研削盤で、#200番のダイヤモンド砥石を用いて研削加工した試料を用いた。その結果試料30でのRaは0.5(μm)であるのに対し、比較試料*112では同値が2.3(μm)となった。チタニアの有無により加工後の面粗さは低い値に抑えられることが確認された。
【0063】
本発明の試料について、体積電気抵抗率が1×10〜1×1011(Ω・cm)の範囲(請求項6)に収まるものは、試料1〜7、試料21〜30の各試料であった。その他の試料は、ESD対策用の部材としては使用は難しいと考えられる。
【0064】
一方、本発明の範囲外の試料について述べる。
比較試料*103、*104、*105は、アルミナとムライトの総量が98質量%を超えており、焼結の進行が粒子の大きいアルミナとムライトのネッキングに終始し、非常に大きく連続した開気孔は得られたが、全体の強度が非常に弱く、加工などは不可能であった。
【0065】
比較試料*101、*102、*109、*110は、アルミナとムライトの総量が50質量%(酸化ケイ素を含む場合はそれも含めて)より低い試料である。この状態では、粒子径の大きいアルミナとムライトの隙間に、チタニアや炭化チタンが隙間無く入り込むような構造となる。炭化チタンはアルミナやムライトと異なり焼結温度が高いために、この状態では焼結が十分に進みにくく、十分な強度を持たない試料となった。
【0066】
比較試料*106、*107は、チタニアが0質量%の試料である。チタニアは前述のように、TiOや場合によっては炭酸化物TiCOとなるが、これが焼結体中に含まれていると、機械加工時に表面の面粗度を著しく小さくすることができる。加工工具に対してドレスの役割を果たしているとの説もある。そのためにこの比較例は機械加工による表面粗さが十分にえられずに、本発明の趣旨から離れたものであった。
【0067】
比較試料*8は、チタニア量が炭化チタン量よりも多く、安定していない組織であった。そのために、全体に色ムラや面粗さの違う部分が目立つものとなった。
【0068】
比較試料*111は、酸化ケイ素を21質量%含むが、酸化ケイ素は他の成分と比較して脆いために、分量が多くなると焼結は進行しやすいものの、試料全体が脆いものとなる。この比較試料は、容易に手で折ることができた。
【0069】
(実施例2) 真空チャックへの実施例
実施例1で述べた試料*4を用いて、機械加工やシールを行なったうえで、気体を制御するポンプとジョイントを解して一体化して、真空チャックを作製した。この真空チャックは必要十分な吸着力を示した。また、洗浄によってもチャック表面の組織が破壊したり、変色するなどの不具合はなかった。
【0070】
また、この真空チャックは4×10(Ω・cm)と半導電性を示し、ESD対策部材としても同時に使用することが可能である。また、色調がL*が37と黒色に近く、吸着した白色や薄い色の被検査物(「素子など」と表す)との目視及び検査装置での判別によって判別は的確に行なわれた。
【0071】
この真空チャック上に素子などが吸着やリリースされた際、チャック上に摩擦が起こった場合、意図しない電流が真空チャック上に流れた場合など、電気を徐々に流す電気抵抗値の範囲であるために、素子などにとって電気的な破壊が起こることもない。
【0072】
さらにまた、この真空チャックはその面粗さを十分に低く抑えることが可能である。そのために、吸着やリリースの際に素子などを傷つけることが無く、またセラミック質であるために寿命も長い。
【0073】
そのために、各種素子などはもちろん、ウェハー、チップ、コンデンサ、ガラス板、フィルムなど様々な用途に真空チャックとして良好に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分であるアルミナとムライトがそれぞれ最低5質量%で合計50〜98質量%と、
残部が炭化チタンとチタニアであり、チタニアの質量をチタニアと炭化チタンの合計の質量で割った値が0.001〜0.5の範囲である第2成分からなる、
連続した開気孔を有する多孔質セラミックス。
【請求項2】
第1成分であるアルミナとムライトの一部が、0.01〜20%の酸化ケイ素で置換されている請求項1に記載の多孔質セラミックス。
【請求項3】
気孔率が15〜45%である請求項1または請求項2に記載の多孔質セラミックス。
【請求項4】
平均気孔径が2〜20μmである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の多孔質セラミックス。
【請求項5】
L*a*b*表色系で示した色調が、a*とb*の積の絶対値が10以下、かつ、L*が45以下であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の多孔質セラミックス。
【請求項6】
体積電気抵抗率が1×10〜1×1011(Ω・cm)の範囲にあることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれかに記載の多孔質セラミックス。
【請求項7】
前記請求項1から請求項6のいずれかの多孔質セラミックスからなる真空チャック。
【請求項8】
前記請求項1から請求項6のいずれかの多孔質セラミックスからなるハレーション対策部材。

【公開番号】特開2010−235394(P2010−235394A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85421(P2009−85421)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】