説明

多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの製造方法および多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウム

【課題】 より大きな気孔率の多孔質チタン酸アルミニウムを製造しうる方法を提供する。
【解決手段】 本発明の製造方法は、Al源粉末、Mg源粉末、Ti源粉末およびSi源粉末並びに細孔形成剤を含む混合物を成形して成形体を得、得られた成形体を予備焼成した後、焼成することにより多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを製造する方法であり、Al源粉末、Mg源粉末、Ti源粉末およびSi源粉末の合計100質量部に対する細孔形成剤含有量が5質量部〜30質量部であり、Si源粉末は融点が600℃〜1300℃であり、混合物中のAl、Mg、TiおよびSiの元素組成比を組成式(1):
Al2(1−x)MgTi(1+x)+aAl+bSiO・・・(1)
で示したときに、xは0.05≦x≦0.15を、aは0≦a≦0.1を、bは0.05≦b≦0.15をそれぞれ満足し、予備焼成後の成形体を1300℃〜1560℃で焼成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの製造方法および多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウムマグネシウムは、Al、MgおよびTiを構成元素として含むセラミックスである。チタン酸アルミニウムマグネシウムの製造方法として特許文献1、特許文献2および特許文献3には、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末を含む混合物を成形して成形体を得、得られた成形体を焼成する方法が開示されている。具体的には混合物として、Al、Mg、TiおよびSiの元素組成比を組成式(1):
Al2(1−x)MgTi(1+x)+aAl+bSiO・・・(1)
で示したときに、xが0.50、aが0.01〜0.05、bが0.02〜0.25で示される混合物を用いた例が特許文献1に、xが0.25〜0.95、aが0.1、bが0.1で示される混合物を用いた例が特許文献2に、xが0.08、aが0.07、bが0.08で示される混合物を用いた例が特許文献3にそれぞれ開示されている。かかる製造方法によれば、焼成によりアルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびチタニウム源粉末が反応して、目的のチタン酸アルミニウムマグネシウムを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2005/105704号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2004/039747号パンフレット
【特許文献3】特開2009−196881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チタン酸アルミニウムマグネシウムを、内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレートを捕集するためのパティキュレート・フィルターなどのようなフィルターとして用いるには、多孔質であることが求められる。多孔質のチタン酸アルミニウムマグネシウムを製造する方法としては、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニア源粉末およびケイ素源粉末に加えて細孔形成剤を含む混合物を成形して成形体を得、得られた成形体を予備焼成することにより細孔形成剤を焼失させたのちに、焼成する方法が挙げられる。得られる多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、より大きな気孔率を有していることが望ましい。そこで本発明者は、より大きな気孔率を有する多孔質チタン酸アルミニウムを製造しうる方法を開発するべく鋭意検討した結果、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末並びに細孔形成剤を含む混合物を成形して成形体を得、得られた成形体を予備焼成することにより前記細孔形成剤を消失させた後、焼成することにより前記アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびチタニウム源粉末を反応させて、多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを製造する方法であり、
前記混合物は、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末の合計含有量100質量部に対する細孔形成剤の含有量が5質量部〜30質量部であり、
前記ケイ素源粉末は、融点が600℃〜1300℃であり、
前記混合物中のAl、Mg、TiおよびSiの元素組成比を組成式(1):
Al2(1−x)MgTi(1+x)+aAl+bSiO・・・(1)
で示したときに、xは0.05≦x≦0.15を、aは0≦a≦0.1を、bは0.05≦b≦0.15をそれぞれ満足し、
予備焼成後の前記成形体を1300℃〜1550℃で焼成することを特徴とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの製造方法を提供するものである。
【0006】
本発明の製造方法により得られる多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、Si元素を含有し、
Al、Mg、TiおよびSiの元素組成比を組成式(1):
Al2(1−x)MgTi(1+x)+aAl+bSiO・・・(1)
で示したときに、xは0.05≦x≦0.15を、aは0≦a≦0.1を、bは0.05≦b≦0.15をそれぞれ満足することを特徴とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、混合物における組成式(1)中のxが0.15以下であり、bが0.15以下であるので、より大きな気孔率を有する多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔アルミニウム源粉末〕
本発明の製造方法に用いられるアルミニウム源粉末は、目的とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを構成するアルミニウム成分となる原料粉末である。
【0009】
アルミニウム源粉末としては、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナの結晶型としては、α型、γ型、δ型、θ型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよく、好ましくはα型である。
【0010】
アルミニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる粉末であってもよい。かかる粉末としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどの粉末が挙げられる。
【0011】
アルミニウム塩は、アルミニウムと無機酸との無機塩であってもよいし、アルミニウムと有機酸との有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩として具体的には、例えば硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩、炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0012】
アルミニウムアルコキシドとして具体的には、例えばアルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0013】
水酸化アルミニウムとして具体的には、結晶型が例えばギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型のものが挙げられ、不定形(アモルファス)の水酸化アルミニウムであってもよい。不定形の水酸化アルミニウムとしては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物が挙げられる。
【0014】
アルミニウム源粉末は、それぞれ単独で、または2種以上を組合わせて用いられる。アルミニウム源粉末は、その原料に由来するか、あるいは製造工程において不可避的に混入する微量の不純成分を含有していてもよい。
【0015】
アルミニウム源粉末としては、アルミナ粉末が好ましく用いられる。
【0016】
アルミニウム源粉末の体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は、通常20μm〜60μm、好ましくは30μm〜60μmの範囲内である。アルミニウム源粉末のD50が上記範囲内であることにより、気孔率の大きな多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムが容易に得られるとともに、焼成における収縮率を低減させることができる。なお、アルミニウム源粉末のD50は、レーザー回折法により測定される。
【0017】
〔チタニウム源粉末〕
チタニウム源粉末は、目的とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを構成するチタニウム成分となる原料粉末である。
【0018】
チタニウム源粉末としては、例えば酸化チタンの粉末が挙げられる。酸化チタンとしては、例えば酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよく、好ましくはアナターゼ型、ルチル型である。
【0019】
チタニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる粉末であってもよい。かかる粉末としては、例えばチタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などの粉末が挙げられる。
【0020】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシドおよび、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0021】
チタニウム源粉末は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上を組合わせて用いられてもよい。チタニウム源粉末は、その原料に由来するか、あるいは製造工程において不可避的に混入する微量の不純成分を含有していてもよい。チタニウム源粉末としては、酸化チタン粉末が好ましく用いられる。
【0022】
チタニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、その体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は、通常0.1μm〜25μmの範囲内であり、焼成における収縮率を低減させるためには1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。なお、チタニウム源粉末のD50は、レーザー回折法により測定される。
【0023】
〔マグネシウム源粉末〕
マグネシウム源粉末は、目的とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを構成するマグネシウム成分となる原料粉末である。
【0024】
マグネシウム源粉末としては、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末が挙げられる。また単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる粉末、例えばマグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどの粉末も挙げられる。
【0025】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0026】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。
【0027】
マグネシウム源粉末は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上を組合わせて用いられてもよい。マグネシウム源粉末は、その原料に由来するか、あるいは製造工程で不可避的に混入する微量の不純物を含有していてもよい。
【0028】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、その体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は、通常0.5μm〜30μmの範囲内であり、焼成における収縮率を低減させる観点から3μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。マグネシウム源粉末のD50は、レーザー回折法により測定される。
【0029】
〔ケイ素源粉末〕
ケイ素源粉末の融点は600℃〜1300℃である。ケイ素源粉末は、焼成時に溶融状態となり、焼成後は通常、不定形(アモルファス)のケイ素酸化物成分となって、目的のチタン酸アルミニウムマグネシウム中に含まれる原料粉末である。
【0030】
上記融点のケイ素源粉末としては、例えばガラスフリットが挙げられる。ガラスフリットとは、ケイ酸〔SiO〕を主成分、すなわち全成分中50質量%以上の含有量とし、他の成分、例えばアルミナ〔Al〕、酸化ナトリウム〔Na〕、酸化カリウム〔KO〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕、ジルコニア〔ZrO〕を含有する、フレーク状または粉末状のガラスである。ガラスフリットは、例えばガラス塊を粉砕することにより得られるものである。ガラスフリットは、ケイ酸以外の他の成分の含有量が多いものほど、融点が低いガラスフリットとなる。
【0031】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されないが、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は通常0.5μm以上30μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下の範囲内であるものが用いられる。ケイ素源粉末のD50はレーザー回折法により測定される。
【0032】
〔細孔形成剤〕
細孔形成剤としては、例えばグラファイトなどの炭素材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチルなどの樹脂類、澱粉、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物系材料、などが挙げられる。上述した植物系材料のうち澱粉としては、例えばトウモロコシ澱粉、大麦澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ポテト澱粉、豆澱粉、米澱粉、エンドウ澱粉、サンゴヤシ澱粉、カンナ澱粉などが挙げられる。
【0033】
細孔形成剤の粒子径は通常、5μm〜50μm、好ましくは15μm以上である。
【0034】
〔混合物〕
本発明の製造方法に適用される混合物は、上記のとおりアルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末並びに細孔形成剤を含む混合物であるが、この混合物において、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末の合計含有量100質量部に対する細孔形成剤の含有量は5質量部〜30質量部、好ましくは20質量部以下である。
【0035】
この混合物におけるAl、Mg、TiおよびSiの元素組成比は、上記組成式(1)で示したときに、xは0.05≦x≦0.15、好ましくは0.06≦x≦0.13を、aは0≦a≦0.1、好ましくは0≦a≦0.05を、bは0.05≦b≦0.15、好ましくは0.06≦b≦0.12をそれぞれ満足する。上記元素組成比を満足するためには、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末の混合量を適宜調整すればよい。
【0036】
この混合物は通常、さらにバインダー、可塑剤、分散剤などの成形助剤や溶媒などを含む。
【0037】
〔バインダー〕
バインダーとしては、例えばメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、リグニンスルホン酸塩などの塩、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどのワックス、EVA、液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。バインダーの使用量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常1質量部〜20質量部、好ましくは15質量部以下である。
【0038】
可塑剤としては、例えばグリセリンなどのアルコール類、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。可塑剤の使用量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常0.1質量部〜10質量部、好ましくは1質量部〜5質量部である。なお、上記可塑剤は通常、潤滑剤としても機能する。
【0039】
分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などが挙げられる。分散剤の使用量はアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常20質量部以下、好ましくは2質量部〜8質量部である。
【0040】
溶媒としては、例えば水のほか、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類などを用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常10質量部〜100質量部、好ましくは20質量部〜80質量部である。
【0041】
このような混合物は、例えばアルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末、ケイ素源粉末および細孔形成剤をバインダー、可塑剤、潤滑剤、分散剤、溶媒などと共に混練することにより得ることができる。
【0042】
〔成形〕
本発明の製造方法では、このような混合物を成形して成形体を得る。混合物を成形するには、例えば通常用いられるものと同様の一軸プレス機、押出成形機、打錠機、造粒機などの成形装置を用いて、目的とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの形状に成形すればよい。
【0043】
〔予備焼成〕
次いで、成形により得られた成形体を予備焼成する。予備焼成は通常、成形体を200℃〜900℃の温度に加熱することにより行なわれる。予備焼成中は、一定温度に維持してもよいし、上記温度範囲であれば、昇温してもよい。成形体を予備焼成することにより、成形体中の細孔形成剤が消失して、成形体中に細孔が形成される。また、通常は同時にバインダー、可塑剤、分散剤などの成形助剤や溶媒なども消失する。
【0044】
予備焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉、ガス燃焼炉などの通常の加熱装置を用いて行なわれる。予備焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、予備焼成は静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0045】
予備焼成に要する時間は、成形体中に含まれる細孔形成剤が消失するのに十分な時間であればよく、通常は1分〜10時間、好ましくは1時間〜7時間である。
【0046】
予備焼成は、大気中で行なわれてもよいが、酸素濃度0.1モル%以下の雰囲気中で行なうことが、細孔形成剤の急激な消失が抑制できて、好ましい。
【0047】
〔焼成工程〕
本発明の製造方法では、成形体を予備焼成することにより細孔形成剤を消失させた後、焼成する。焼成は通常、予備焼成後の成形体を降温することなく、そのまま通常1300℃〜1560℃、好ましくは1450℃〜1530℃の焼成温度に昇温することにより行なわれる。
【0048】
焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。ケイ素源粉末を用いる場合には、焼成工程の前に、1100℃〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができる。
【0049】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉、ガス燃焼炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、焼成は静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0050】
焼成に要する時間は、成形体中のアルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびチタニウム源粉末が反応して、チタン酸アルミニウムマグネシウムとなるのに十分な時間であればよく、混合物の組成比、成形体の容積、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0051】
以上のようにして、目的の多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを得ることができる。得られる多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、成形体の形状をほぼ維持した形状である。得られた多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、研削加工等により、加工することもできる。
【0052】
この多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、Si元素を含有し、Al、Mg、TiおよびSiの元素組成比を上記組成式(1)で示したときに、xは0.05≦x≦0.15、好ましくは0.06≦x≦0.13を、aは0≦a≦0.1、好ましくは0≦a≦0.05を、bは0.05≦b≦0.15、好ましくは0.06≦b≦0.12をそれぞれ満足するものである。
【0053】
本発明の製造方法により得られる多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、例えば炉材などの焼成炉用冶具、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関から排出される排気ガスに含まれるパティキュレートを捕集して排気ガスを浄化する際に用いられる排ガスフィルター〔ディーゼル・パティキュレート・フィルターなど〕、表面に触媒成分を担持して用いられる多孔質の触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分、たとえば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素などを選択的に透過させるための選択透過フィルターなどのセラミックスフィルター、基板、コンデンサーなどの電子部品などに好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターなどとして用いる場合、本発明の製造方法により得られる多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムは、大きな気孔率を有することから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0055】
<実施例1>
〔混合物の製造〕
以下のアルミナ源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末および細孔形成剤を以下に示す質量比で混合した。
【0056】
(1)アルミニウム源粉末
体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が42μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末)
42.3質量部
(2)チタニウム源粉末
D50が1.5μmの酸化チタン粉末(ルチル型結晶)
35.6質量部
(3)チタニウム源粉末
D50が0.4μmの酸化チタン粉末(ルチル型結晶)
4.0質量部
(4)マグネシウム源粉末
D50が4μmの酸化マグネシウム粉末
2.4質量部
(5)ケイ素源粉末
D50が9μmであり、Na、K、MgおよびAlを含み、元素組成比(酸化物換算)がNaO:8.6質量%、KO:5.9質量%、MgO:1.0質量%、Al:11.5質量%、SiO:72.3質量%(その他不純物元素0.7質量%)であるガラスフリット(融点:645℃)
3.6質量部
(6)細孔形成剤
D50が20μmのポリエチレン粉末
12.2質量部
【0057】
得られた混合物において、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末の合計含有量100質量部に対する細孔形成剤の含有量は、13.9質量部である。また、この混合物におけるAl、Mg、TiおよびSiの元素組成比は、上記組成式(1)で示したときに、xが0.12、aが0.03、bが0.09である。
【0058】
上記で得た混合物100質量部に、以下の成形助剤〔バインダーおよび可塑剤〕並びに水を以下の質量比で加えて混合した。
【0059】
(7)バインダー
メチルセルロース〔信越化学工業(株)製「SM4000」〕
5.5質量部
(8)バインダー
メチルセルロース〔信越化学工業(株)製「60SH4000」〕
2.4質量部
(9)可塑剤
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル〔日油(株)製「50MB72」〕
4.64質量部
(10)可塑剤
グリセリン
0.4質量部
(11)イオン交換水
30.7質量部
【0060】
〔成形〕
得られた混合物を押出混練機にて混練しながら押出して成形を行い、外形が直径30mm、高さ50mmの円柱状で、高さ方向に多数の連通孔を有し、セル壁厚0.3mmのハニカム形状の成形体を得た。
【0061】
〔予備焼成〕
この成形体を加熱炉に入れ、徐々に昇温したところ、200℃に達するまでに水分は全て揮発し、900℃に達するまでに細孔形成剤〔ポリエチレン粉末〕、バインダー〔メチルセルロース〕、可塑剤〔ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルおよびグリセリン〕は全て消失した。
【0062】
〔焼成〕
予備焼成後も引き続き同じ昇温速度で加熱を続け、1450℃に加熱し、同温度に5時間保持して焼成を行い、ハニカム形状の多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを得た。この多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの気孔率は42.5%であった。
【0063】
上記で得た混合物を上記と同様に操作して成形し、得られた成形体を上記と同様に操作して予備焼成し、焼成温度を1550℃とした以外は上記と同様に操作して焼成を行って、ハニカム状の多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを得た。この多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの気孔率は35.8%であった。
【0064】
<実施例2および比較例1〜比較例2>
アルミナ源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末および細孔形成剤と成形助剤〔バインダーおよび可塑剤〕並びに水の使用量を下記表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に操作して、多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを得た。得られた多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの気孔率を下記表1に示す。
【0065】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したとおり、本発明の製造方法によれば、より大きな気孔率を有する多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末並びに細孔形成剤を含む混合物を成形して成形体を得、得られた成形体を予備焼成することにより前記細孔形成剤を消失させた後、焼成することにより前記アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびチタニウム源粉末を反応させて、多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムを製造する方法であり、
前記混合物は、アルミニウム源粉末、マグネシウム源粉末、チタニウム源粉末およびケイ素源粉末の合計含有量100質量部に対する細孔形成剤の含有量が5質量部〜30質量部であり、
前記ケイ素源粉末は、融点が600℃〜1300℃であり、
前記混合物中のAl、Mg、TiおよびSiの元素組成比を組成式(1):
Al2(1−x)MgTi(1+x)+aAl+bSiO・・・(1)
で示したときに、xは0.05≦x≦0.15を、aは0≦a≦0.1を、bは0.05≦b≦0.15をそれぞれ満足し、
予備焼成後の前記成形体を1300℃〜1560℃で焼成することを特徴とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウムの製造方法。
【請求項2】
Si元素を含有し、
Al、Mg、TiおよびSiの元素組成比を組成式(1):
Al2(1−x)MgTi(1+x)+aAl+bSiO・・・(1)
で示したときに、xは0.05≦x≦0.15を、aは0≦a≦0.1を、bは0.05≦b≦0.15をそれぞれ満足することを特徴とする多孔質チタン酸アルミニウムマグネシウム。


【公開番号】特開2011−207744(P2011−207744A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47636(P2011−47636)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】