説明

多孔質マグネシアとその製造方法

【課題】 多孔質が要求される分野に使用される担体、消臭材料となるシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシア、さらに不快感を与える加齢臭を含めた脇臭、汗臭、足臭等の体臭を短時間で充分に脱臭し、なおかつ使用感の良い消臭用のシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシア、当該物質を含有する消臭剤および消臭化粧料を提供すること。
【解決手段】 マグネシウム化合物の薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する略球状体粒子をベースとし、その外層にシリカ水和酸化物を有する、略球状の多孔質マグネシア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消臭、抗菌、触媒、遅効作用、プラスチック添加用の担体、並びに体質顔料として使用しうるシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料としては、多孔質マグネシアや(特許文献1)、塩基性炭酸マグネシウムが知られている(特許文献2)。多孔質マグネシアには、炉材やサヤ材に適する焼結体としての用途があり、また塩基性炭酸マグネシウムには、各種フィラー、ゴム用充填材向け、農医薬品または触媒の担体、化粧品等への用途がある。
【0003】
近年、地球温暖化の影響で酷暑が続くこともあり、多孔質材料の用途としては、特に、不快な汗臭を消臭するデオドラント製品への要求が高まっている。この不快な汗臭を引き起こす悪臭成分としては、低級脂肪酸系、アミン系、不飽和脂肪酸が酸化されて発生する加齢臭のビニルケトン系に大きく分けられる(非特許文献1)。これまでのデオドラント製品に含まれる消臭剤は低級脂肪酸系、アミン系及び、加齢臭のビニルケトン系等それぞれに対して消臭効果を発揮するが、これらの悪臭成分を効率良く消臭する物はあまり無いのが現状である。
【0004】
特に、消臭速度及び消臭効率の高い点で、微粒子状酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機化合物が使用されているが(非特許文献2)、これらの消臭剤では、製造過程で分散に問題があり、また使用感も良くないという問題がある(非特許文献3)。
【0005】
体臭等の悪臭の構成成分である低級脂肪酸(プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、イソ吉草酸)を化学的に脱臭する無機化合物として水酸化アパタイトや、酸化亜鉛微細粒子をナイロンパウダーに担持させたハイブリッドパウダー、アルミノシリケート系消臭剤等が知られているが、これらは消臭速度及び消臭効率が不十分という問題があった。
【0006】
また、加齢臭として知られるビニルケトン系臭を消臭するものでは、消臭効率の良い物としては非晶質アルミナ−シリカや、層状ケイ酸化合物及び球状多孔質シリカにマグネシアを被覆させた消臭剤等が知られているが(特許文献3〜6)、これらは体臭成分の中で、特に足臭、腋臭の主成分であるイソ吉草酸やアミン類では消臭効率が低い物であった(非特許文献4)。
【0007】
酸化マグネシウムとシリカ(マグネシウムと珪素の元素の酸化物)から構成される消臭剤としては、二酸化珪素および酸化マグネシウムとを主原料として複合化したもの(特許文献7および8)や、酸化マグネシウムとアルミノケイ酸塩混合体(特許文献6)が報告されている。特許文献6では、酸化マグネシウムとアルミノケイ酸塩との混合物を消臭剤とするものであり、また特許文献7および8では、二酸化ケイ素/酸化マグネシウムの質量比で1〜14が好ましいとされ、そして二酸化ケイ素の質量が50重量%以上であることが記載されている。
【0008】
上記の様な化学的消臭方法においても、体臭を構成する酸性の低級脂肪酸や、加齢臭を構成するビニルケトン系成分や、塩基性のアミン類等の悪臭物質を、効率良く消臭する物は見出されていない。また、これらの公知技術は、人体に適用したときには使用感が充分なものではなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平4−338179号
【特許文献2】特開昭63−89418号
【特許文献3】特開平7−138140号
【特許文献4】特開平10−338621号
【特許文献5】特開2002−68949号
【特許文献6】特開2001−187721号
【特許文献7】特開2003−73249号
【特許文献8】特開2004−168668号
【非特許文献1】J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. 37(3) 195-201
【非特許文献2】J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. Vol. 29., No. 1., p55-63, 1995
【非特許文献3】J. 1.,Soc. 1.,Cosmet. Japan., Vol23(3), P217-224, 1989
【非特許文献4】J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. 37(3) P202-209 (2003))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、多孔質が要求される分野に使用される担体、特に、不快感を与える加齢臭を含めた脇臭、汗臭、足臭等の体臭を効率良く充分に脱臭し、なおかつ使用感の良い消臭用のシリカ層を有する多孔質マグネシア、当該物質を含有する消臭剤および消臭化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、マグネシウム化合物の薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する略球状体粒子をベースとし、更にシリカ水和酸化物を被覆させた多孔質マグネシアが、メソポア孔による占有面積が大きい多孔質であり、多孔質を要求する分野、特に、消臭剤に好適に使用できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、マグネシウム化合物の薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する略球状体粒子をベースとし、その外層にシリカ水和酸化物を有する、略球状の多孔質マグネシアに関する。
また、本発明は、更に最外層にマグネシウム化合物被覆層を有する、前記多孔質マグネシアに関する。
さらに、本発明は、シリカ水和酸化物が、全重量当たりSiOとして、5〜50重量%である、前記多孔質マグネシアに関する。
また、本発明は、マグネシウム化合物が、マグネシウムの水和酸化物、塩基性炭酸塩、および酸化物からなる群から選択される一種または二種以上であり、シリカ水和酸化物がシリカ水和酸化物および/またはシリカである、前記多孔質マグネシアに関する。
さらに、本発明は、マグネシウム化合物が、マグネシウムと、アルミニウム、亜鉛、および鉄からなる群から選択される一種または二種以上からなる他の金属成分との複合金属水酸化物、複合金属炭酸塩、及び/または複合金属酸化物である、前記多孔質マグネシアに関する。
また、本発明は、他の金属成分のマグネシウムに対する元素比M/Mg(ここでM:Al、Zn、Feの何れか、またはそれらの混合系)が0.95以下である、前記多孔質マグネシアに関する。
さらに、本発明は、平均粒子径が5〜50μmである、前記多孔質マグネシアに関する。
また、本発明は、全比表面積に対する孔径2〜50nmのメソポアによる比表面積の占める割合が80%以上である、前記多孔質マグネシアに関する。
さらに、本発明は、吸油量が300ml〜600ml/100gである、前記多孔質マグネシアに関する。
また、本発明は、KES摩擦試験機による摩擦係数が0.6以下である、前記多孔質マグネシアに関する。
さらに、本発明は、水中に、(A−1)マグネシウム金属塩単独の水溶液、またはマグネシウム金属塩と他の金属塩との混合水溶液と、(B−1)アルカリ性水溶液または炭酸塩水溶液とを同時に滴下し、それらの金属の水和酸化物および/または炭酸塩からなる薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する略球状体粒子を得、その表面に、(B−2)ケイ酸アルカリ金属塩水溶液と、(A−2)希鉱酸水溶液とからシリカ水和酸化物を被覆し、得られた懸濁液を分離・洗浄、乾燥し、所望により焼成する工程を含む、前記多孔質マグネシアの製造方法に関する。
また、本発明は、多孔質マグネシアの外層に、更に、(A−3)マグネシウム金属塩単独の水溶液、またはマグネシウム金属塩と他の金属塩との混合水溶液と、(B−3)アルカリ性水溶液または炭酸塩水溶液とを同時に滴下し、それらの金属の水和酸化物および/または炭酸塩を被覆し、得られた懸濁液を分離・洗浄、乾燥し、所望により焼成する工程を含む、前記製造方法に関する。
さらに、本発明は、マグネシウム金属塩単独の水溶液、又はマグネシウム金属塩と他の金属塩との混合水溶液が硫酸イオンを含むものであって、硫酸イオン/マグネシウムイオンのイオン濃度比、又は硫酸イオン/マグネシウムイオンおよび他の金属イオンのイオン濃度比が0.3〜2.0である、前記製造方法に関する。
また、本発明は、前記多孔質マグネシアの、抗菌、触媒、遅効作用、プラスチック添加用の担体、または体質顔料としての使用に関する。
さらに、本発明は、前記多孔質マグネシアの消臭剤としての使用に関する。
また、本発明は、前記多孔質マグネシアを含有する、消臭剤に関する。
さらに、本発明は、前記多孔質マグネシアを含有する、消臭化粧料に関する。
【0013】
本発明者らは、マグネシウム化合物の薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する粒子が、略球状の形状をとることができ、易崩壊性を有するため、化粧用体質顔料として、良好な滑り性、付着性、吸油性を有することを報告している(特開2003−261796)。本発明は、この特異な構造を有する多孔質の材料を出発点とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔質マグネシアは、極めて強い高い消臭効果を発揮し、アンモニア、アミン、ピリジン等のアルカリ性臭、イソ吉草酸等の低級脂肪酸等の酸性臭や加齢臭のビニルケトン、その他、エステル、アルデヒド等の中性臭からなる悪臭に対して優れた消臭効果を有する。また、本発明の多孔質マグネシアは、略球状の形状をとることができ、易崩壊性であるため、良好な滑り性、付着性、吸油性を有し、肌に対しての使用性にも優れ、化粧料への使用が好ましいものである。
特許文献3および4、ならびに非特許文献4に開示されるHP−MSパウダー(高多孔質のマグネシア・シリカ)は、特にイソ吉草酸およびメチルアミンの消臭率の点で満足できるものではなかったが、本発明の多孔質マグネシアは、ビニルケトンだけではなく、イソ吉草酸およびメチルアミンの消臭率も優れている。
また、本発明の多孔質マグネシアは、単位表面積の高い多孔性の構造を有しているため、抗菌、触媒、遅効作用、プラスチック添加用の担体、並びに体質顔料など、当該機能を要求する分野に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の略球状の多孔質マグネシアについて、その製造方法と共に、より詳細に説明する。本発明の略球状の多孔質マグネシアのベースとなる略球状粒子は、特開2003−261796に基づいて製造することができる。本発明の略球状の多孔質マグネシアにおいてマグネシウム化合物を、マグネシウム水和酸化物とする場合は、アルカリ水溶液を、または塩基性炭酸マグネシウムとする場合は、炭酸塩水溶液とを用いて析出する方法が採用される。さらにマグネシウム化合物が、本発明において酸化マグネシウム(マグネシア)とする場合は、上述の略球状の粒子であるマグネシウム水和酸化物、塩基性炭酸マグネシウムについて、後のシリカ水和酸化物層を被覆形成し、所望によりマグネシウム化合物を被覆した後、懸濁液から得られた略粒状の粒子を焼成する工程を経ることによって製造できる。
【0016】
本発明のシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアのベースとなる略球状粒子の製造方法について、より詳細に以下に示す。マグネシウム塩化合物の水溶液と、アルカリ水溶液または炭酸塩水溶液を用いて、同時滴下によりマグネシウム水和酸化物またはマグネシウム炭酸塩よりなる略球状の粒子を得ることができる。この際、他の金属塩と複合化する場合は、マグネシウム塩水溶液と当該他の金属塩水溶液を用いることにより略球状の粒子とすることができる。本製造方法で使用されるマグネシウム塩化合物としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、蓚酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0017】
本発明においてマグネシウム化合物と他の金属化合物とを複合化するために用いられる他の金属としては、アルミニウム、亜鉛、鉄が挙げられ、それらの各種塩をマグネシウム塩と共に水溶液に調製して用いることができる。
マグネシウム化合物と複合化させる他の金属化合物との比率M/Mg(ここでM:Al、Zn、Feの何れか、またはそれらの混合系)は、0.95以下が好ましく、0.7以下がさらに好ましい。0.95以上であると略球状体粒子が生成しなくなり、結果として使用感(摩擦性および伸展性)が低下するため、好ましくない。
【0018】
それらの他の金属塩として、アルミニウムでは、アルミニウム明礬、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムが、亜鉛では硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛が、鉄では塩化鉄、硫酸鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄及び硝酸第二鉄、鉄明礬等が採用され、水に溶解する金属塩の使用が推奨される。水溶性の塩を用いることが好ましいが、反応における加温の条件下で水溶性のもので有れば良い。本発明において、前もって調製されるマグネシウム塩、またはマグネシウム塩と他の金属塩とからなる金属塩水溶液の濃度は基本的には完全溶解される条件であれば何れでも良いが、一般に0.2〜1.0モル/リットルの濃度が採用される。
【0019】
本発明で加水分解に用いるアルカリ成分としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムが挙げられる。一方、炭酸塩とする場合には、上述のアルカリ成分の代わりに炭酸塩化合物が水溶液にして用いられる。その炭酸塩化合物としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムが採用される。当該略球状粒子ベースを調製する際には、中間体としての水和酸化物の形態よりも、塩基性炭酸塩とした形態の方が最終的な目的性状である多孔質で略球状の粒子形のものが得やすい傾向にある。さらに、当該ベースの略球状粒子を調製する際には、特開2003−261796で記載のように、硫酸イオンがマグネシウム化合物(他の金属塩との複合化するときも含む)の金属塩イオンに対し0.3〜2.0のイオン濃度比とすることにより、中間体として水和酸化物の形態を経た場合であっても、目的性状である多孔質の構造で略球状の粒子のものが得られ易くなる。
【0020】
本発明で採用されるベースとなる略球状粒子の製造方法は、予めマグネシウム金属塩の(他の金属塩と複合化する場合は、その金属塩とともに)水溶液と、アルカリ性水溶液または炭酸塩水溶液のいずれかとを別々に調製しておき、それらの水溶液を予め別に加熱しておいた温水中に、攪拌下、pHを7.5〜11の範囲、好ましくは8.0〜10.5の範囲で一定に保ちながら、同時に滴下する。この際、滴下前の温水は、上述のとおりアルカリ水溶液との滴下するケースでは特に、硫酸イオン濃度を調整しておくほうが好ましい。本発明で、採用される反応温度は、球状粒子の形成のしやすさから、50℃以上、70〜90℃付近の範囲が好ましい。
この滴下の段階において、金属塩水溶液と、アルカリ性水溶液または炭酸塩水溶液とを同時に添加することが必要である。同時滴下とせず、またpHを制御せずに添加した場合には、粒子の形状が球状からずれて、またその大きさが不揃いのものが得られ好ましくない。
【0021】
引き続き、シリカ水和酸化物の被覆工程について以下に示す。シリカ水和酸化物の被覆工程においては、上述で得られた略球状粒子ベースの懸濁液をそのまま、または略球状粒子をセディメンテーション(沈降させて上澄み液を除去)や、ろ過、遠心分離などの操作により濃縮させて、シリカ水和酸化物被覆工程に移行することができる。更には、ろ別、乾燥工程を経て、再度懸濁液とし、シリカ水和酸化物被覆工程に移行することもできる。このような濃縮や、ろ別して得られる略球状粒子ベースを用いることにより、次工程のシリカ水和酸化物の被覆工程での、反応槽の容積を小さくすることができ、製造効率向上の点で好ましい。このようにして略球状粒子ベースを所定の懸濁液(スラリー)濃度とする。
【0022】
次いで、当該スラリーの加温、攪拌下、ケイ酸アルカリ金属塩化合物の水溶液と希釈鉱酸とをpHを6.5〜10.0、好ましくは7.0〜9.0の範囲で一定に保ちながら、同時に滴下する。このようにして、略球状粒子ベースへシリカ水和酸化物粒子を均一に被覆することができる。本発明で用いるケイ酸アルカリ金属塩化合物としてはケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムが挙げられる。これらのケイ酸塩化合物からシリカ水和酸化物を析出させる鉱酸類としては塩酸、硝酸及び硫酸の希釈液が用いられる。
更に所望により、シリカ水和酸化物を被覆した後、さらに先に記載した略球状粒子ベースを調製する方法と同様にして、その外層にマグネシウム化合物を被覆する。このマグネシウム化合物被覆層では、マグネシウムに他の金属塩(アルミニウム、亜鉛、および/または鉄からなる群から選択される一種または二種以上からなる他の金属成分)を複合化(ドープ)する場合には、略球状粒子ベースの組成比と異なっていても良いが、最終のシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアの形態でマグネシウムに対する元素比M/Mg(ここでM:Al、Zn、Feの何れか、またはそれらの混合系)が0.95以下、好ましくは0.7以下であればよい。そして結果的に、最終形態として、シリカ水和酸化物層の量がシリカ(SiO)として5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%で有ればよい。5重量%より少ないときはアミン系の消臭効率が小さくなる傾向があり、反対に50重量%より大きいときは酸性系の消臭効果が低くなる傾向がある。
【0023】
得られた析出物をろ過や遠心分離機で濾別・回収し、洗浄し、乾燥する。乾燥工程の温度および乾燥時間を適宜選ぶことにより、水和酸化物の状態、炭酸塩の状態とすることができ、さらに、所望により酸化物とする場合は、乾燥温度よりも高温で焼成する方法が採用される。乾燥は105〜150℃の温度で行うことが出来、更に乾燥させた後、水酸化物や炭酸塩から焼成工程を経て酸化物とする場合は400℃以上、好ましくは400℃〜800℃の温度が採用される。
なお、本発明において、シリカ層とは、乾燥工程を経た状態では、シリカ水和酸化物および/又は酸化物であるシリカとの単独又は混合の状態、更には焼成によって得られた酸化物であるシリカの状態の層を指す意味である。
【0024】
本発明で得られるシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアの大きさは、使用上の違和感等を考慮し滑り性の良い5〜50μm、好ましくは10〜25μmの範囲の物が選ばれる。特にこの範囲のものが肌に対して感触性が良いものである。これより大きすぎると肌に対する付着性が低下し、また小さすぎると伸展性が低下する。当該粒子径の測定は、種々の粒度測定装置が用いて測定することができる。具体的には、レーザー散乱法に基づくMastersizer-2000(マルバーン社製)を用いて測定できる。
本発明で得られる略球状の多孔質マグネシアの表面は、細孔がメソポア(径:2〜50nm)とミクロポア(径:2nm以下)で主として構成される。そして、全比表面積に対して、メソポア(径:2〜50nm)で構成される比表面積の占める割合が80%以上、好ましくは85%以上であるものである。このメソポアとミクロポアは、比表面積測定装置を用いて測定することができる。具体的測定方法としてはBET多点法による吸着―脱着法が採用される。
【0025】
本発明で得られるシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアは、その吸油量が300〜600ml/100g、好ましくは、350〜500ml/100gのものである。当該吸油量は、亜麻仁油等を用いて、Rub−out method(練り合わせ法)により測定することができる。
本発明で得られるシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアは、肌に対する使用感として滑り性(サラサラ感)を示すKES−SE摩擦感測定器(「KES−SE−DC試験機」、カトーテック(株)製)で測定する。その摩擦係数(MIU)が0.6以下のものである。好ましくは0.3〜0.5のものである。本MIU値の測定方法は、具体的には、特開2003−261796に記載され、特に〔0046〕記載の方法を採用することができる。
【0026】
本発明で得られるシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアは、消臭、抗菌、触媒、遅効作用、プラスチック添加用の担体、並びに体質顔料などの各種用途に使用することができる。本発明の略球状の多孔質マグネシアは、特に消臭剤の素材として、各種形態・剤型に調製して用いることができる。即ちそのまま、必要に応じて、粉末状、顆粒状として、またはペレット状に加工しても使用できる。例えば液状、粉末状、乳液、ローション状、ジェル状、クリーム状、パウダースプレー状、スティクタイプ、泡状タイプ、また、エアゾール、消臭シート等にして各種消臭剤や、その消臭機能を有する化粧料として使用することもできる。
【0027】
当該各種消臭剤および消臭化粧料として使用する場合には、例えば、各種の油分、界面活性剤、殺菌剤、ビタミン類、アミノ酸、抗炎症剤、冷感付与剤等を配合させて使用することができる。このような成分としては、ヒマシ油、ゴマ油、大豆油、サフラワー油などの油脂類;ミツロウ、ラノリン、セラック等の炭化水素類;コハク酸、酒石酸、オレイン酸、クエン酸などの脂肪酸類;エタノール、イソプロパノール、セタノール、オレイルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;ブドウ糖、乳糖、ソルビトール、キシリトールなどの糖類;アジピン酸イソプロピル、酢酸ラノリン、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル類;ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどの石鹸類;アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カラギナン、ゼラチン、エチルセルロースなどの水溶性高分子;メチルフェニルポリシロキオサン、ポリオキシエチレン硬化ひまし油などの非イオン界面活性剤;アルキルアリルスルホン酸塩、高級アルキル硫酸塩などの陰イオン性界面活性剤;パラオキシ安息香酸アルキルなどの防腐剤;ビタミンA、Dなどのビタミン類;エストラジオールなどのホルモン剤;赤色2号、青色1号などの有機色素;マイカ、チタン、酸化亜鉛などの無機色材;ウロカニン酸などの紫外線吸収剤、その他、各種噴射剤、精製水、アルミニウムヒドロキシクロリドなどの制汗剤、殺菌剤などが挙げられる。
以下に実施例に基づいて更に詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
〔実施例−1〕
6リットルの脱イオン水を攪拌しながら80℃まで昇温する。それに水4000gに硫酸カリウム160g、硫酸ナトリウム40g、硫酸マグネシウム1400g(MgSO・7HO)とを溶解させた水溶液5600gを15wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて、pHを9.5に保ちながら同時に滴下する。これらの水溶液を滴下終了後、加温及び攪拌を止めて16時間静置させる。上澄み10リットルを抜き取り、次いで3リットルの水を添加し、攪拌しながら80℃まで昇温させ、5.6%ケイ酸ナトリウム水溶液1200gを希塩酸(1:2、即ち濃塩酸を2倍容積の水で希釈した。以下同じ。)を用いて、pHを9.3に保ちながら同時に滴下する。滴下終了後、さらに希塩酸(1:2)を滴下し、懸濁液のpHを8.5とする。その懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、110℃で乾燥し、550℃で焼成し、シリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアを調製した。得られた粉体はSEM観察の結果、薄片が異方向に結合または交叉した構造を有する略球状粒子で、その平均粒子径は21μmで有った。またEDX観察より、シリカが均一に被覆されていることが確認された。当該得られた略球状粒子のメソポアのみであった。また吸油量は510ml/100gであった。さらに、カトーテック社製、KES−SE摩擦感測定機で摩擦係数を測定した結果、0.39であった。
【0029】
〔実施例−2〕
1.8リットルの脱イオン水を攪拌しながら80℃まで昇温する。それに水1200gにカリウムミョウバン(KAlSO・9HO)40gと硫酸マグネシウム240g(MgSO・7HO)とを溶解させた水溶液1480gを15wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて、pHを8.5に保ちながら同時に滴下する。これらの水溶液を滴下終了後、加温及び攪拌を止めて16時間静置させる。上澄み1.5リットルを抜き取り、次いで、攪拌しながら80℃まで昇温させ、5.6%ケイ酸ナトリウム水溶液を希塩酸(1:2)を用いて、pHを8.0に保ちながら同時に滴下する。滴下終了後、さらに希塩酸(1:2)を滴下し、懸濁液のpHを6.5とする。その懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、110℃で乾燥し、500℃で焼成し、アルミニウム複合(ドープ)したシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアを調製した。得られた粉体はSEM観察の結果、薄片が異方向に結合または交叉した構造を有する略球状粒子で、その平均粒子径は40μmで有った。またEDX観察より、シリカが均一に被覆されていることが確認された。当該得られた略球状多孔質マグネシアはメソポアのみであった。また吸油量は460ml/100gであった。カトーテック社製、KES−SE摩擦感測定機で摩擦係数を測定した結果、0.44であった。
【0030】
〔実施例−3〕
1.8リットルの脱イオン水を攪拌しながら85℃まで昇温する。それに水1000gに硫酸カリウム40g、硫酸ナトリウム20g、硫酸マグネシウム346g(MgSO・7HO)とを溶解させた水溶液5600gを20wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて、pHを9.2に保ちながら同時に滴下する。滴下終了後、更に2.2%ケイ酸ナトリウム水溶液690gを希塩酸(1:2)を用いて、pHを9.2に保ちながら同時に滴下する。滴下後、さらに希塩酸(1:2)を滴下し、懸濁液のpHを8.0とする。その懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、110℃で乾燥し、500℃で焼成し、シリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアを調製した。得られた粉体はSEM観察の結果、薄片状片が異方向に結合または交叉した構造を有する略球状粒子で、その平均粒子径は22μmで有った。またEDX観察より、シリカが均一に被覆されていることが確認された。当該得られた略球状多孔質マグネシアの表面はメソポアのみであった。また吸油量は390ml/100gであった。さらに、カトーテック社製KES−SE摩擦感側定機で摩擦係数を測定した結果、0.37であった。
【0031】
〔実施例−4〕
6リットルの脱イオン水を攪拌しながら80℃まで昇温する。それに水4000gに硫酸カリウム160g、硫酸ナトリウム40g、硫酸マグネシウム1400g(MgSO・7HO)とを溶解させた水溶液5600gを15wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて、pHを9.5に保ちながら同時に滴下する。これらの水溶液を滴下終了後、加温及び攪拌を止めて16時間静置させる。上澄み10リットルを抜き取り、次いで3リットルの水を添加し、攪拌しながら80℃まで昇温させ、5.6%ケイ酸ナトリウム水溶液1200gを希塩酸(1:2)を用いて、pHを9.3に保ちながら同時に滴下する。滴下終了後、それに水300gに硫酸カリウム11g、硫酸ナトリウム4g、硫酸マグネシウム100g(MgSO・7HO)とを溶解させた水溶液415gを15wt%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて、pHを9.0に保ちながら同時に滴下する。さらに希塩酸(1:2)を滴下し、懸濁液のpHを8.5とする。
その懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、110℃で乾燥し、550℃で焼成し、シリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアを調製した。得られた粉体はSEM観察の結果、薄片が異方向に結合または交叉した構造を有する略球状粒子で、その平均粒子径は21μmで有った。また、シリカ水和酸化物被覆した後の焼成した粒子のEDX観察より、シリカが均一に被覆されていることが確認された。当該得られた略球状多孔質マグネシアのメソポアの比率は89.7%であった。また吸油量は480ml/100gであった。カトーテック社製、KES−SE摩擦感測定機で摩擦係数を測定した結果、0.42であった。
【0032】
消臭率の測定方法(J. Soc. Cosmet. Chem. Japan 37(3) 202-209 (2003))
24バイアル瓶に本実施例および比較例で調製された試料100mgを採取し、臭気成分(イソ吉草酸、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オン)溶液を30μlスパイク後、34℃で5分間放置し、ヘッドスペースGC−FID法にてPEG系カラムでのガスクロマトグラフィー分析を行い、ブランク測定(試料なしの系)のピーク面積を測定し、その減少率を算出した。
【0033】
その結果を表1に示す。
【表1】

表1より、本発明のシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアは消臭しにくい足臭のイソ吉草酸及びトリメチルアミンを含め、加齢臭の代表である1−オクテン−3−オンに対しても極めて高い消臭効果を示し、その消臭速度も極めて速いことが確認された。
【0034】
表2に本発明のシリカ層を有する略球状の多孔質マグネシアの組成、物性を示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
上記したように、本発明の多孔質マグネシアは、極めて強い高い消臭効果を発揮し、また吸油量が大きく、肌に対しての使用姓にも優れるため、化粧料、特に化粧用消臭剤に好適に使用できる。
また、本発明の多孔質マグネシアは、メソポア占有割合の高い多孔性の構造を有しているため、抗菌、触媒、遅効作用、プラスチック添加用の担体、並びに体質顔料など、当該機能を要求する分野に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム化合物の薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する略球状体粒子をベースとし、その外層にシリカ水和酸化物を有する、略球状の多孔質マグネシア。
【請求項2】
更に最外層にマグネシウム化合物被覆層を有する、請求項1に記載の多孔質マグネシア。
【請求項3】
シリカ水和酸化物が、全重量当たりSiOとして、5〜50重量%である、請求項1または2に記載の多孔質マグネシア。
【請求項4】
マグネシウム化合物が、マグネシウムの水和酸化物、塩基性炭酸塩、および酸化物からなる群から選択される一種または二種以上であり、シリカ水和酸化物がシリカ水和酸化物および/またはシリカである、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質マグネシア。
【請求項5】
マグネシウム化合物が、マグネシウムと、アルミニウム、亜鉛、および鉄からなる群から選択される一種または二種以上からなる他の金属成分との複合金属水酸化物、複合金属炭酸塩、及び/または複合金属酸化物である、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質マグネシア。
【請求項6】
他の金属成分のマグネシウムに対する元素比M/Mg(ここでM:Al、Zn、Feの何れか、またはそれらの混合系)が0.95以下である、請求項5に記載の多孔質マグネシア。
【請求項7】
平均粒子径が5〜50μmである、請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質マグネシア。
【請求項8】
全比表面積に対する孔径2〜50nmのメソポアによる比表面積の占める割合が80%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の多孔質マグネシア。
【請求項9】
吸油量が300ml〜600ml/100gである、請求項1〜8のいずれかに記載の多孔質マグネシア。
【請求項10】
KES摩擦試験機による摩擦係数が0.6以下である、請求項1〜9のいずれかに記載の多孔質マグネシア。
【請求項11】
水中に、
(A−1)マグネシウム金属塩単独の水溶液、またはマグネシウム金属塩と他の金属塩との混合水溶液と、
(B−1)アルカリ性水溶液または炭酸塩水溶液
とを同時に滴下し、それらの金属の水和酸化物および/または炭酸塩からなる薄片が二以上の異方向に結合及び/又は交差した構造を有する略球状体粒子を得、
その表面に、
(B−2)ケイ酸アルカリ金属塩水溶液と、
(A−2)希鉱酸水溶液
とからシリカ水和酸化物を被覆し、
得られた懸濁液を分離・洗浄、乾燥し、所望により焼成する工程を含む、請求項1に記載の多孔質マグネシアの製造方法。
【請求項12】
多孔質マグネシアの外層に、更に、
(A−3)マグネシウム金属塩単独の水溶液、またはマグネシウム金属塩と他の金属塩との混合水溶液と、
(B−3)アルカリ性水溶液または炭酸塩水溶液
とを同時に滴下し、それらの金属の水和酸化物および/または炭酸塩を被覆し、
得られた懸濁液を分離・洗浄、乾燥し、所望により焼成する工程を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
マグネシウム金属塩単独の水溶液、又はマグネシウム金属塩と他の金属塩との混合水溶液が硫酸イオンを含むものであって、硫酸イオン/マグネシウムイオンのイオン濃度比、又は硫酸イオン/マグネシウムイオンおよび他の金属イオンのイオン濃度比が0.3〜2.0である、請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の多孔質マグネシアの、抗菌、触媒、遅効作用、プラスチック添加用の担体、または体質顔料としての使用。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載の多孔質マグネシアの消臭剤としての使用。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかに記載の多孔質マグネシアを含有する、消臭剤。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の多孔質マグネシアを含有する、消臭化粧料。

【公開番号】特開2007−217201(P2007−217201A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36848(P2006−36848)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000114536)メルク株式会社 (4)
【Fターム(参考)】