説明

多孔質基板上への酸化物薄膜及びその作製方法

【課題】酸素透過材料膜を有しながら、薄い膜であり、実用的な機械強度を得ることができる酸素透過膜の提供。
【解決手段】泳動電着法により電気絶縁性の管状多孔質支持体の表面に酸素分離膜材料粉末を堆積させ、熱処理により緻密に薄膜形成して得られる酸化物薄膜であり、前記酸素分離膜電気絶縁性の管状多孔質支持体は、その管状多孔質内部は泳動電着液と隔離され、材料粉末を含まない分散媒のみが存在した状態に保ち、その管状多孔質体外部は、酸素分離膜材料粉末の泳動電着液と接触した状態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物薄膜及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気のような酸素含有混合ガスから酸素成分のみを選択的に輸送する物質として、混合伝導性酸化物が広く知られている。これは酸素の分離回収用途や隔膜リアクター用途、火力発電所や高炉などの燃焼炉における燃焼効率向上のための高純度酸素供給、水素製造に用いる純酸素供給などに利用することが期待されている。
これらの物質を工業的な操業条件において使用する場合には、酸素イオン導電率として、0.1S/cm以上が必要とされている。
この混合伝導性酸化物として、La1−xSrCo1−yFe3−zといったペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物が知られている。
具体的には、寺岡らによると、非特許文献1において、La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.1によって表される緻密な混合伝導性酸化物は、約1mmの厚みとした際に、供給側に空気を、取出し側にHeを用いると900℃で約2cm・cm−2・min−1の酸素分離能を有するとしている。
この場合の膜は、約1mmの厚さを有しており、さらにその厚さを薄くすることが必要とされている。
【0003】
従来、混合伝導性酸化物は種々の方法により製造されてきた。
押し出し法による場合には、特許文献1によると、以下のことが記載されている。
0.3〜10μm粒度のペロブスカイト型酸化物粉体を100容積部と、300μm以下の粒径の結合剤微粉体5〜30容積部と、可塑剤10〜55容積部と、水100〜150容積部とからなる混合物に、同混合物中の前記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対し分散剤0.1〜2.0重量部を添加混合して坏土とし、同坏土を押出し成形し、同成形体中の成形助剤を加熱分解除去したのち焼成することによって、酸素透過速度が1.2cm3 /min・cm2 (800℃)で単位面積当たりの抵抗が10mΩ/mm2 (800℃)で、0.05〜2mmの膜厚を持つシート状物を得ることができる。
これによる場合には、酸素に対する透過速度の大きい緻密膜を得ることができ、燃料電池の電極とする際には、固体電解質等と一体成形、一体焼結させることのできるペロブスカイト型酸化物薄膜シートを押出し成形によって製造するための手段を得ることができる。
この場合には、膜厚が0.05〜2mmであり、比較的に厚いことが問題となる。ペロブスカイト型酸化物を用いた酸素透過膜の場合、膜厚が酸素ガスの膜透過性能に反比例するので、厚膜は酸素透過膜の性能を低下させる。また、膜厚比は原価に比例するので、膜厚の増加に伴い、コストが増加する。
【0004】
特許文献2によると、以下の「酸素分離膜」が記載されている。
酸素透過膜と支持体との間の反応によって酸素透過特性を損なうことがなく、かつ酸素透過膜と支持体との間の熱膨張率差に起因して酸素透過膜に亀裂や剥離が生じない酸素分離膜に関し、「化学式ABO3(Aは酸素で12配位される金属成分、Bは酸素で6配位される金属成分であり、モル比でA/B=1である)で表されるペロブスカイト型酸化物セラミックスからなる酸素透過膜と、当該酸素透過膜組成に対してABB′O3(B′は酸素で6配位される金属成分であり、モル比でB′/(A+B)<0.15)で表されるようにB′を添加したセラミックス多孔質体からなり、前記酸素透過膜を支持する支持体とによる酸素分離装置」
この場合には、支持体を酸素透過膜材料と類似の化合物で作製しているため、熱膨張率差に起因する亀裂などは抑制可能となる。しかし、支持体を酸素透過膜と類似の化合物で作製した場合、アルミナなどの安価な支持体材料に比べ、コストが大幅に増加するため、実用的ではない。
【0005】
電気泳動法による製造法は、以下の方法がある。
特許文献3によれば、「電気泳動法により多孔質支持体の孔部、または、孔部およびその周辺、または、孔部および表面に酸素透過性材料を堆積させ、加熱処理により薄膜形成して酸素透過体を得る。」ことができる。
この場合には、「電気泳動法(泳動電着法と同じ)」により、多孔質支持体表面に、酸素透過性材料を堆積させる手段を用いているが、電着装置の構造を、支持体基板上部が電着液から露出した形をとっている。この場合、支持体基板上に均一な薄膜を作製することができない。また、多孔質基板を管状電極(陰極または陽極)としている。この点が問題点として有している。
【0006】
同じく、電気泳動法による製造法は、以下の方法がある。
特許文献4では、電気泳動堆積法により貫通性多孔質電気絶縁性基材に粒子を堆積させるものであるが、「基材はアルミナ、シリカゲル成形体、アパタイトからなり、基材表面における細孔径が、該粒子の平均粒径より大きく、かつ該細孔が、細孔径が広がる室と細孔径が挟まる路とを有する。該粒子はガラス、セラミックス、酸化物、金属、金属化合物、有機生物体などからなり、該複合体は生体活性材料などに用いられる。」
この方法では、電気泳動堆積法(泳動電着法と同じ)により、導電性を有さない多孔質支持体表面に、ガラスなどの材料粉末を堆積させており、堆積させる手法は同じであるが、電着装置の構造を、棒状電極の外部に、管状多孔質支持体を配置しており、ここで、管状支持体基板上部が電着液から露出した形をとっているとともに、管状支持体の内部にも電着液が入る構造としている。この場合、支持体表面基板上に均一な薄膜を作製することができず、支持体内部にも粒子の付着が避けられないと共に、管状支持体の内部に設置した棒状電極にガラス等の材料粉末が電気泳動により堆積するため、電極が絶縁被覆されてしまい、電極の機能を失う結果となる。
【0007】
以上から明らかなように、従来の押し出し法による場合には、膜は比較的に厚いものとならざるを得ない。又、電気泳動法による場合には、泳動電着装置の構造を、支持体基板上部が電着液から露出した形をとっているので、支持体基板上に均一な薄膜を作製することができない。多孔質基板を管状電極(陰極または陽極)としているので、その結果、薄膜の形成を妨げることとなっている。
また、泳動電着装置の構造を、棒状電極の外部に、管状多孔質支持体を配置しており、ここで、管状支持体基板上部が泳動電着液から露出した形をとっているとともに、管状支持体の内部にも電着液が入る構造としている。この場合も、その結果、薄膜の形成を妨げることとなっている。
従来の問題点は、以下のとおりである。(1)酸化物の酸素分離膜は、薄膜ほど膜分離性能はよいが、従来法では、50μm以下の薄膜作製ができない。(2)安価な多孔質基板上に酸素分離膜を作製することができない。(3)管状多孔質支持体の外部表面に全面に薄膜形成ができず、内部にも材料が付着する。これらの問題点の解決が求められている。
【特許文献1】特公平5−217585号
【特許文献2】特開2003−210952号
【特許文献3】特開2004−16971号
【特許文献4】特許公開2003−13287号
【非特許文献1】電気化学会第68回大会予稿集(1J26、p.175、2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
混合伝導性酸化物を酸素の分離回収用途や隔膜リアクター用途に利用する場合、5cm・cm−2・min−1以上の酸素分離能が必要であるため、工業的に利用可能な選択的酸素分離能を得るには、前記組成物を膜厚100μm、好ましくは20μm程度まで、さらに薄膜化する必要があるが、この組成物は機械的強度が低く、割れ易いため、支持体なしの平板膜構造とする場合、1mm程度が薄膜化の限界厚さとなり、工業的に利用可能な酸素輸送速度を実現することができない。
このため、工業的に利用可能な酸素輸送速度を実現するためには、このような組成物の薄膜を多孔質支持体上に形成せざるを得ず、多孔質支持体表面に経済的に上記ペロブスカイト型組成物の薄膜を形成する場合にはドクターブレード、スクリーンプリント、ディッピング法などのいわゆる湿式法をとらざるを得ない。しかしながら、これら従来の湿式法による場合は、100μm以下の薄膜を制御・形成するのは困難であるという問題点がある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、本発明の課題は、酸素透過材料膜を有しながら、薄い膜であり、実用的な機械強度を得ることができる酸素透過体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を鋭意研究し、以下の事柄を見出して、本発明を完成させた。
(1)酸素分離膜を製造する場合には、電気絶縁性の管状多孔質支持体表面に酸素分離膜材料粉による膜形成を行う泳動電着法は膜の厚さを調整できるので、有効であり、その際に、酸素分離膜用電気絶縁性の管状多孔質支持体は、その管状多孔質内部は泳動電着液と隔離され、材料粉末を含まない分散媒のみが存在した状態に保ち、その管状多孔質体外部は、泳動電着液と接触した状態とし、泳動電着液中に浸した状態とすること、その結果、泳動電着液中において酸素分離膜材料が分散している状態の粉末(0.1〜10μm)を、電気絶縁性の管状多孔質支持体の表面に付着(1〜30μm)させることができる。これを取り出して、熱処理を行うと、緻密な薄膜(1〜20μm)が得られる。
用いる酸素分離膜材料粉末は、ペロブスカイト型結晶構造を有し、組成式がLa1-xSrxCo0.8Fe0.2O3-δ(ここで、x=0.2-0.8、δは前記化合物の電荷が中性になるような数。)である。これが付着した状態のもの(1〜30μm)を焼結処理すると、緻密な薄膜を得ることができる。
(2)電気絶縁性の管状多孔質支持体は、アルミナ、またはムライトから選ばれる材料で構成され、管状多孔質支持体の開気孔率が20〜40%であり、厚さが0.05〜2.0mm、外径が0.8〜20mmであること、管状多孔質支持体の細孔径の平均が1μm以下であることが必要である。
(3)泳動電着する際の泳動電着液の分散媒は、水を1%未満含有しているメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールであることが有効である。
(4)前記酸素分離膜材料粉末による粒子濃度は、泳動電着液の分散媒に対して、0.1〜10重量%である微粒子分散溶液からなる泳動電着液であること、粒子の結着材(バインダー)はポリビニルブチラールを0.1〜10重量%含有しているものであることが有効である。
(5)泳動電着装置は、電極が管状多孔質支持体の内部に挿入されており、対極は、多孔質支持体表面から2〜20mmの距離に均等に、酸素分離膜材料粉末が、泳動電着液の分散媒に対して、0.1〜10重量%であり、又、酸素分離膜材料粉末の結着材であるポリビニルブチラールを0.1〜10重量%含有している泳動電着液中に、設置されている構造であること、管状多孔質内部は泳動電着液と隔離され、酸素分離膜材料粉末を含まない泳動電着液分散媒(アルコール)のみであること、管状多孔質内部に設置した電極は、泳動電着浴と直接接しない構造であること、酸素分離膜材料粉末を付着させるための電着電圧が300V以下、電着時間が30分以下であることが有効である。
(6)得られた管状多孔質支持体の表面に酸素分離膜材料粉末を堆積させた状態で、取り出して熱処理することにより、緻密に薄膜形成して得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、泳動電着法により、酸素分離膜材料粉末を、電気絶縁性の管状多孔質支持基材表面に付着でき、熱処理することで、実用的な機械強度を有する酸素分離薄膜を提供することができる。これにより、酸素含有混合ガス中の酸素成分を選択的に輸送することによる酸素の分離回収・濃縮による、火力発電所や高炉などの燃焼炉における燃焼効率向上のための高純度酸素供給、水素製造に用いる純酸素供給などに利用することが期待できる。また、炭化水素(メタン、天然ガス、エタン等)の酸化や部分酸化といった隔膜リアクター用途等に使用される酸素分離装置の高性能化に大きく寄与する。
この製造には、管状酸素分離膜を構成する材料以外に、電着槽、溶媒、電極、直流電源があればよく、真空系などの大がかりな装置を必要としないため、コスト削減が図れる。これにより、酸素含有混合ガス中の酸素成分を選択的に輸送することによる酸素の分離回収・濃縮による、火力発電所や高炉などの燃焼炉における燃焼効率向上のための高純度酸素供給、水素製造に用いる純酸素供給などに利用することが期待できる。また、炭化水素(メタン、天然ガス、エタン等)の酸化や部分酸化といった隔膜リアクター用途等に使用される酸素分離装置の高性能化に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明により得られる酸化物薄膜は、泳動電着法により電気絶縁性の管状多孔質支持体の表面に酸素分離能を有する材料粉末を堆積させ、熱処理することにより得られる膜であり、酸素分離膜材料粉末が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、組成式がLa1-xSrxCo0.8Fe0.2O3-δ(ここで、x=0.2-0.8、δは前記化合物の電荷が中性になるような数。)である。
泳動電着法により堆積した前記酸素分離膜材料粉末の厚さは、1〜30μmであり、これを取り出して、熱処理を行った緻密な薄膜は厚さが、1〜20μmのものであり、膜厚は薄膜の厚さであり、調整が可能である。
【0012】
本発明の酸素膜分離材料粉末が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、組成式がLa1-xSrxCo0.8Fe0.2O3-δ(ここで、x=0.2-0.8、δは前記化合物の電荷が中性になるような数。)の混合伝導性酸化物(以下、、LSCF粒子ともいう)である。
この合成粉末をボールミルで48時間粉砕することにより、LSCF粒子を平均粒径0.5 μm程度の微粒子状に制御する。LSCF粉末の粒度分布は図1に示すとおりである。
【0013】
この粒子の平均粒径は、後で述べる電気絶縁性の管状多孔質支持体多孔質アルミナ管の粒径との関係で定まる。
LSCF粒子の平均粒径と多孔質アルミナ管の平均細孔径の関係は、緻密なLSCF膜の作製に大きな影響を与える。例えば、LSCF粒子の平均粒径が多孔質アルミナ管の平均細孔径より大きすぎた場合、(1)LSCF粒子が緻密に堆積しにくい、(2)電着液中でLSCF粒子が早く沈降してしまうため、電着浴の寿命が短くなる、(3)焼結した際に膜の緻密化が起こりにくい、ということが起こる。また、LSCF粒子の平均粒径が多孔質アルミナ管の平均細孔径より小さすぎた場合、LSCF粒子が堆積する際、細孔内へLSCF粒子が入り込んでしまう。そこで、まずLSCF粒子の平均粒径を多孔質アルミナ管の平均細孔径とほぼ同じ0.5 μmに制御することが行われる。
【0014】
本発明の、LSCF膜の製造を行う泳動電着装置について図5を用いて説明する。
泳動電着装置は、電極1が、管状多孔質支持体5の内部に挿入されて設けられており、
対極6は、管状多孔質支持体5の表面から2〜20mmの距離に均等に設置されている。
酸素分離膜材料粉末が、泳動電着液の分散媒に対して、0.1〜10重量%であり、又、酸素分離膜材料粉末の結着材であるポリビニルブチラールを0.1〜10重量%含有している泳動電着液中に、設置されている泳動電着装置であること、管状多孔質内部は泳動電着液と隔離され、酸素分離膜材料粉末を含まない泳動電着液の分散媒(アルコール)のみであること、管状多孔質内部に設置した電極は、泳動電着浴と直接接しない構造であること、酸素分離膜材料粉末を付着させるための電着電圧が300V以下、電着時間が30分以下であることが有効である。
管状多孔質支持体5の内部は泳動電着液と隔離され、LSCF粒子粉末を含まない泳動電着液分散媒(アルコール)のみが存在する。
管状多孔質支持体5内部に設置した電極1は、泳動電着液と直接接しない構造であること、膜厚を作製するための泳動電着電圧が300V以下、泳動電着時間が30分以下であることが有効である。
【0015】
電気絶縁性の管状多孔質支持体5は、アルミナ又はムライトから選ばれる材料で構成される。この材料からなる管状多孔質支持体の開気孔率が20〜40%であり、厚さが0.05〜2.0mm、外径が0.8〜20mmであること、管状多孔質支持体の細孔径の平均が1μm以下である。
【0016】
泳動電着する際の泳動電着液の分散媒が、水を1%未満含有しているメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールから選ばれるアルコールであることが有効である。
粒子の各種溶媒中でのゼータ電位と電気泳動移動度は図2に示すとおりである。メタノールが最も良好な結果を得ていることがわかる。
【0017】
前記酸素分離膜材料粉末は、粒子濃度が分散媒に対して、0.1〜10重量%である微粒子分散溶液からなる泳動電着液である。粒子の結着材(バインダー)はポリビニルブチラールを0.1〜10重量%含有しているものであることが有効である。
【0018】
前記酸素分離膜材料粉末を付着させる場合には、電気絶縁性の管状多孔質支持体は、電着液から露出することなく、液中に浸した状態とすることが重要である。
【0019】
電気絶縁性の管状多孔質支持体表面に膜形成を行う泳動電着法が膜の厚さを調整できるので、有効であり、その際に、電気絶縁性の管状多孔質支持体は、泳動電着液から露出することなく、液中に浸した状態とすること、その結果、泳動電着液中の酸素分離膜材料の分散している状態の粉末(0.1〜10μm)を、電気絶縁性の管状多孔質支持体の表面に付着(1〜30μm)させることができ、これを取り出して、熱処理を行うと、緻密な薄膜(1〜20μm)が得られる。
各種アルコールを用いたときの粒子の電着量と通電時間量の関係は図3に示すとおりである。
メタノール泳動電着液を用いたときの、泳動電着条件と泳動電着量の関係は図4に示すとおりである。
多孔質アルミナ管状へのLSCF粉末の泳動電着条件の影響は図7に示すとおりである。
LSCF粉末を電着した多孔質アルミナ管の状態は図6に示されている。
電着前後の多孔質アルミナ管の表面状態の変化は図8に示すとおりである。
これらの関係から条件を選択することにより膜の厚さを調整できることがわかる。
【0020】
得られる、酸素分離膜材料粉末が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、焼結処理を行うと、緻密な薄膜は組成式がLa1-xSrxCo0.8Fe0.2O3-δ(ここで、x=0.2-0.8、δは前記化合物の電荷が中性になるような数。)である。焼結処理は、1000から1500℃である。時間は3時間から7時間程度である。
多孔質基板上にLSCF粉末が泳動電着によって形成されるもの、或いは、多孔質基板上にLSCF粉末が泳動電着によって形成されるものの間に、中間層或いは多孔質金属層が形成されているもの、たとえば、多孔質アルミナ基板をニッケル微粒子で薄くコーティングしたものをとすると、LSCF中のCoの固体内拡散を抑制できるので有効である。
【実施例1】
【0021】
ランタンコバルタイトLa0.8Sr0.2Co0.8Fe0.2O3-δのX線回折パターンから相の同定を行い、合成できていることを確認した。この合成粉末をボールミルで48時間粉砕することにより、LSCF粒子を平均粒径0.5 μmに制御した。(図1)
LSCF粒子の平均粒径と多孔質アルミナ管の平均細孔径の関係は、緻密なLSCF膜の作製に大きな影響を与える。例えば、LSCF粒子の平均粒径が多孔質アルミナ管の平均細孔径より大きすぎた場合、(1)LSCF粒子が緻密に堆積しにくい、(2)電着液中でLSCF粒子が早く沈降してしまうため、電着浴の寿命が短くなる、(3)焼結した際に膜の緻密化が起こりにくい、ということが起こる。また、LSCF粒子の平均粒径が多孔質アルミナ管の平均細孔径より小さすぎた場合、LSCF粒子が堆積する際、細孔内へLSCF粒子が入り込んでしまう。そこで、まずLSCF粒子の平均粒径を多孔質アルミナ管の平均細孔径とほぼ同じ0.5 μmに制御することで、LSCF膜を作製した。
泳動電着を行うためには、まず始めに電着液に適した溶媒を決定する必要がある。そこで、各種アルコール中にLSCF粒子を分散させ、その分散性及び電気泳動特性を知るため、ゼータ電位と電気泳動移動度を測定した。その結果を図2に示した。図2から、どのアルコール中でもLSCF粒子は正に帯電していることがわかった。したがって、どのアルコールを用いても電着液が調整できることがわかる。また、メタノールを溶媒として用いた時に、ゼータ電位が+39 mVと最も大きな値を示すことがわかった。さらに、電気泳動移動度は、メタノールを用いた時に最も高いことがわかった。どのアルコールを用いても電着浴が調整できるが、メタノールを用いることで最も迅速に泳動電着できることが分かる。
各アルコールで調製した電着液を用いて、ステンレス管に印加電圧100 Vで泳動電着を行った。その結果を図3に示す。メタノールを電着液の溶媒として用いたときに、最も多く電着し、目視観察から平滑な電着が可能であった。他のアルコールでも電着可能であるが、泳動電着液の溶媒として好ましくは、メタノールであることがわかった。
泳動電着液の溶媒としてメタノールを用いて、一般的な電着基板で導電性のあるステンレス管へ泳動電着を行い、基本的な電着挙動を調べた。その結果を図4に示す。200V以下のどの印加電圧においても電着時間の増加に伴い、電着量が増加することがわかった。また、目視観察から印加電圧100 V以下で平滑な電着膜を作製可能であるが、印加電圧100 V以上では電着膜表面が粗くなることがわかった。
多孔質アルミナ管は導電性がないため、図5示すように、熱収縮チューブでステンレス管を覆い、電着浴とステンレス管が直接触れないようにして、ステンレス電極を多孔質アルミナ管内に挿入することにより、LSCF粒子を電気泳動した。なお、多孔質アルミナ管内へのLSCF粒子の付着を防ぐため、多孔質アルミナ管内にメタノールを充填させて泳動電着を行った。
その結果であるLSCF粉末を電着した多孔質アルミナ管を、図6に示す。堆積むらがなくなり、平滑な電着膜を得られることがわかった。
【実施例2】
【0022】
膜厚10 μmのLSCF膜を作製するためには、粒子の密度ρ=6.73 g / cm3と膜の堆積密度(気孔率 40 %と仮定)から、単位面積当たり10 mg以上の電着量が必要である。よって、単位面積あたり10 mg以上の電着量を得るために必要な電着時間と印加電圧を検討した。その結果を図7に示す。図7より100 V以下で平滑な電着膜を作製可能であり、電着時間により電着量が制御できた。これより、製膜するのに適した印加電圧は100 V以下であることがわかった。そこで、印加電圧100 V、電着時間10分間で泳動電着させた結果、焼結後の膜厚が20 μmと予想される平滑な電着膜(図8)が得られた。(電着浴:LSCF粉末1.5g、メタノール150ml)
【実施例3】
【0023】
LSCF電着膜(印加電圧100 V、電着時間 10分間)を、1500℃で5時間焼結した。1500 ℃では焼結が進み、緻密性の高いLSCF膜が作製できた。(図9)
図9のサンプルが緻密性が良いことがわかったため、この膜の断面をSEMで観察した。その結果を図10に示す。図10より、膜厚約30 μmのLSCF電着膜を焼結することにより、膜厚約20 μmの緻密なLSCF焼結膜を得られることがわかった。
【実施例4】
【0024】
LSCF粉末1.5g、メタノール150mlからなる泳動電着液にポリビニルブチラールを1.0gを添加し、印加電圧100V、電着時間10分間電着し、1,500℃で5時間焼結したところ、緻密性の高いLSCF膜が作成できた。
LSCF電着膜を1,500℃で焼結したものは、アルミナ基板へのLSCF中のCoの固体内拡散が観察されたため、多孔質アルミナ基板をニッケル微粒子で薄くコーティングし、中間層を形成した。この上に、LSCF粉末を電着し、1,500℃で5時間焼結したものは、Coの拡散が抑制されていることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】LSCF粉末の粒度分布を示す図
【図2】粒子の各種溶媒中でのゼータ電位と電気泳動移動度
【図3】各種アルコールを用いたときの粒子の電着量
【図4】メタノール電着浴を用いたときの、電着条件と電着量の関係
【図5】電着セルの構造
【図6】LSCF粉末を電着した多孔質アルミナ管
【図7】多孔質アルミナ管状へのLSCF粉末の電着量の電着条件の影響
【図8】電着前後の表面状態
【図9】焼結後の表面状態
【図10】焼結前後のサンプルの断面写真
【符号の説明】
【0026】
1 電極
2 シール材
3 電極の絶縁コート
4 溶媒(粒子なし)
5 管状多孔質支持体
6 対極
7 電着液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泳動電着法により電気絶縁性の管状多孔質支持体の表面に酸素分離膜材料粉末を堆積させ、熱処理により緻密に薄膜形成して得られることを特徴とする酸化物薄膜。
【請求項2】
前記酸素分離膜用電気絶縁性の管状多孔質支持体は、その管状多孔質内部は泳動電着液と隔離され、材料粉末を含まない分散媒のみが存在した状態に保ち、その管状多孔質体外部は、酸素分離膜材料粉末の泳動電着液と接触した状態であることを特徴とする酸化物薄膜。
【請求項3】
前記酸素分離膜材料粉末が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、組成式がLa1-xSrxCo0.8Fe0.2O3-δ(ここで、x=0.2-0.8、δは前記化合物の電荷が中性になるような数。)で表される混合伝導性酸化物であることを特徴とする請求項1又2記載の酸素分離膜。
【請求項4】
前記酸素分離膜材料粉末の粒径が、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項5】
泳動電着法により堆積した前記酸素分離膜材料粉末の厚さが、1〜30μmであり、これを取り出して、熱処理を行うと、緻密な薄膜(1〜20μm)が得られることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項6】
管状多孔質支持体がアルミナ、又はムライトから選ばれることを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項7】
管状多孔質支持体の開気孔率が20〜40%であり、厚さが0.05〜2.0mm、外径が0.8〜20mmであることを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項8】
管状多孔質支持体の細孔径の平均が1μm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項9】
前記酸素分離膜材料粉末を、泳動電着液の分散媒である、水を1%未満含有しているメタノール、エタノール、1-プロパノール、又は2-プロパノールから選ばれるアルコールに分散されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項10】
前記酸素分離膜材料粉末は、泳動電着液の分散媒に対して、0.1〜10重量%含まれることを特徴とする請求項1から9のいずれか記載の酸素分離膜。
【請求項11】
前記酸素分離膜材料粉末は、結着材(バインダー)であるポリビニルブチラールを0.1〜10重量%含有している泳動電着液の分散媒により分散されていることを特徴とする請求項9記載の酸素分離膜。
【請求項12】
電極が電気絶縁性の管状多孔質支持体の内部に挿入され、また、対極は多孔質支持体表面から2〜20mmの距離に均等の状態で、酸素分離膜材料粉末の濃度が分散媒に対して0.1〜10重量%であり、結着材であるポリビニルブチラールを0.1〜10重量%含有している泳動電着液中に設けられ、管状多孔質内部は泳動電着液と隔離され、材料粉末を含まない泳動電着液の分散媒のみであり、管状多孔質内部に設置した電極は、泳動電着液と直接接しない構造であり、電気絶縁性の管状多孔質支持体は、アルミナ、またはムライトから選ばれる材料であり、管状多孔質支持体の開気孔率が20〜40%、厚さが0.05〜2.0mm、外径が0.8〜20mmであること、及び細孔径の平均が1μm以下である条件下に泳動電着させ、電気絶縁性の管状多孔質支持体の表面に酸素分離膜材料粉末を堆積させ、次に熱処理することを特徴とする酸素分離膜の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図2】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−50358(P2007−50358A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237849(P2005−237849)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】