説明

多孔質架橋重合体の製造方法、多孔質架橋重合体、多孔質架橋重合体粒子および吸着剤

【課題】疎水性物質吸着能力(疎水性相互作用)が高く、特に逆相クロマトグラフィー分離法に対する適用性に優れた化合物およびそれを用いて形成された多孔質架橋重合体粒子および吸着剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される構成単位を有する多孔質架橋重合体の製造方法であって、多孔質芳香族系架橋重合体に炭素数1以上20以下のアルキル基を導入する行程を有することを特徴とする多孔質架橋重合体の製造方法。


(一般式(I)中、Rは炭素数1以上20以下のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質架橋重合体の製造方法、多孔質架橋重合体粒子および吸着剤に関する。詳しくは、逆相クロマトグラフィー分離法に対する適用性に優れた新規化合物およびそれを用いて形成された多孔質架橋重合体粒子およびそれを用いて形成された吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリスチレン等の芳香族系架橋重合体粒子は、合成吸着剤として発酵物、食品や薬草等からの有用物質の抽出精製に工業的に用いられている。また、微小粒径の芳香族系架橋重合体粒子は液体クロマトグラフィー充填剤としても用いられ、特に逆相液体クロマトグラフィー分離法による分析及び分取に応用されている。
架橋ポリスチレン等の芳香族系架橋重合体粒子は、酸性、アルカリ性条件でも化学的耐久性に優れること、多孔質粒子を用いることにより高い吸着量が得られること、シリカゲル系吸着剤とは吸着選択性が異なること等、合成吸着剤として優れた特性を有している。
【0003】
このような架橋重合体粒子としては、例えば特許文献1〜6に挙げられるものが開示されているが、逆相液体クロマトグラフィー分離法における分離能向上の要求に伴い、疎水性物質吸着能力(疎水性相互作用)の更なる向上が望まれている。
一方、アルキル鎖を有する芳香族系架橋重合体粒子としては、核酸の分離・分析を目的として非多孔質重合体粒子が開示されている(特許文献7および8)。しかしながら、これらは物質拡散により分離バンドの広がりを回避するために非多孔質であるので、表面積が小さく分離対象物との相互作用が十分とは言えず、分子量2000以下の低分子量化合物を分離する逆相液体クロマトグラフィー分離法へ転用できるものではなかった。一方、従来の逆相液体クロマトグラフィー分離法では、粒子内部への有機化合物の物質拡散による分離バンドの広がりが生じないシリカゲル等の無機多孔質粒子を基体として用いていた。即ち、特許文献7,8における、分子量数万以上の巨大分子である核酸の分離・分析を目的とする上記分野とは異なり、分子量2000以下の低分子量化合物を対象とする逆相液体クロマトグラフィー分離では、特に多孔質芳香族系架橋重合体粒子の細孔内部への物質拡散による分離バンドの広がりが分離性能に悪影響を及ぼすため、アルキル鎖を有する多孔質芳香族系架橋重合体粒子を使用することは有利とはいえなかった。また当業者がこれを多孔質化した際の効果を予測することもできるものではなかった。
また、特許文献9には、アルキル鎖含有の多孔質ポリマー、およびこれを含有する液体クロマトグラフィー用充填剤が開示されている。しかしながら、これは、アルキルスチレン誘導体を含有するモノマー混合物をランダム共重合して得られるものであり、分離対象物との相互作用を利用するアルキル鎖の分布が粒子内部で均一となり、分離対象物がアルキル鎖と相互作用するためには、粒子内部まで拡散する必要があり、物質拡散による分離バンドの広がりの観点で問題があり、さらなる改善が求められていた。
【特許文献1】特許3626774号公報
【特許文献2】特開59−87089号公報
【特許文献3】特開54−163993号公報
【特許文献4】特開2002−30121号公報
【特許文献5】特開平4−292605号公報
【特許文献6】特許3842288号公報
【特許文献7】米国特許5585236号公報
【特許文献8】国際公開98/48913号公開パンフレット
【特許文献9】特開平11−193310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、疎水性物質吸着能力(疎水性相互作用)が高く、特に逆相クロマトグラフィー分離法に対する適用性に優れた多孔質架橋重合体の製造方法、多孔質架橋重合体およびそれを用いて形成された多孔質架橋重合体粒子および吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、特定の製法により得られた多孔質芳香族系架橋重合体が、疎水性物質吸着能力(疎水性相互作用)に優れることを見出した。即ち、本発明の要旨は以下に存する。
〔1〕下記一般式(I)で表される構成単位を有する多孔質架橋重合体の製造方法であって、多孔質芳香族系架橋重合体に炭素数1以上20以下のアルキル基を導入する行程を有することを特徴とする多孔質架橋重合体の製造方法。
【0006】
【化2】

【0007】
(一般式(I)中、Rは炭素数1以上20以下のアルキル基を示す。)
〔2〕前記〔1〕の製造方法によって製造された多孔質架橋重合体。
〔3〕前記〔1〕の製造方法によって製造された多孔質架橋重合体により形成された多孔質架橋重合体粒子であって、最頻度細孔半径が10Å以上300Å以下であることを特徴とする多孔質架橋重合体粒子。
〔4〕前記〔3〕の多孔質架橋重合体粒子を用いて形成された吸着剤。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、疎水性物質吸着能力(疎水性相互作用)が高く、特に逆相クロマトグラフィー分離法に対する適用性に優れた化合物およびそれを用いて形成された多孔質架橋重合体粒子および吸着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
[1]多孔質架橋重合体
本発明の多孔質架橋重合体(以下、単に「架橋重合体」と称することがある。)は、以下の(i)および(ii)を満たすことが主な特徴である。
(i)後述する一般式(I)で表される構成単位を有すること
(ii)多孔質芳香族系架橋重合体に炭素数1以上20以下のアルキル基を導入する行程を有すること
以下、各構成単位について詳述する。
[1−1]一般式(I)で表される構成単位
本発明における下記一般式(I)で表される構成単位について説明する。
一般式(I)中、Aは直接結合、または2価の有機基を示す。
【0010】
【化3】

【0011】
一般式(I)中、Rは炭素数が通常1以上、好ましくは4以上であり、通常20以下、さらに好ましくは18以下の直鎖または分岐状アルキルを示す。炭素数が多すぎると逆相クロマトグラフィー分離に利用可能な量を担持した架橋共重合体粒子の製造が困難である。
本発明における−Rの具体例としては、オクタデシル基、t-ブチル基等が挙げられる

【0012】
[1−2]製造方法
本発明の多孔質架橋重合体粒子は、炭素数1以上20以下のアルキル基を導入する行程を有することが必須である。前述のように、アルキルスチレン誘導体を含有するモノマー混合物を重合して得られる方法においては、分離対象物との相互作用を利用するアルキル鎖の分布が粒子内部で均一となり、分離対象物がアルキル鎖と相互作用するためには、粒子内部まで拡散する必要があり、物質拡散による分離バンドの広がりの観点で問題がある。本発明は、かかる問題点を解決した点で技術上の意義がある。
本発明の多孔質架橋重合体粒子は、具体的には後述する[2−4]の方法従って製造することができる。
【0013】
[2]多孔質架橋重合体粒子
本発明の多孔質架橋重合体粒子は、上述の本発明の化合物を用いて形成される。以下、本発明の多孔質架橋重合体粒子について説明する。
[2−1]重量平均粒子径
本発明の多孔質架橋重合体粒子は重量平均粒子径が通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上であり、通常3000μm以下、好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは800μm以下である。重量平均粒子径が小さすぎると液体クロマトグラフィーの逆相充填剤としてカラムに充填して用いた場合に送液抵抗が高くなり移動相の送液が困難となる、大きすぎると充填カラムの理論段数が下がる為、所望の分離性能が得られない。 重量平均粒子径は、対象とする粒子の粒径分布範囲に応じて、以下の方法から選択された方法によって測定される。
【0014】
<重量平均粒子径測定法1(水篩法)>
主に粒径分布範囲300μm〜1000μmの粒子に対して用いられる。
対象とする粒子の粒径分布の範囲に従って、篩目の径が1180μm、850μm、710μm、600μm、425μm、300μm、の篩を、下方になる程、篩目の径が小さくなる様に積み重ねる。この積み重ねた篩をバットの上に置き、最上段に積み重ねられた1180μmの篩の中に多孔質架橋重合体粒子を約100mL入れる。
【0015】
水道水につないだゴム管から樹脂上にゆるやかに水を注ぎ小粒を下の方へ篩別する。1180μmの篩の中に残った多孔質架橋重合体粒子は、さらに以下の方法により、厳密に小粒を篩別する。即ち、別のバットの1/2位の深さまで水を満たし、1180μmの篩
を前記バットの中で上下及び回転運動を与えて動揺させることを繰り返し、小粒を篩別する。
前記バットの中の小粒は次の850μmの篩の上へ戻し、また1180μmの篩の上に残った多孔質架橋重合体粒子はさらに別のバットに採取する。篩の目に多孔質架橋重合体粒子が詰まっていれば、篩をバットに逆に置き、水道水につないだゴム管に密着させ、水を強く流して篩の目に詰まった多孔質架橋重合体粒子を取り出す。取り出した多孔質架橋重合体粒子は、1180μmの篩上に残った多孔質架橋重合体粒子を採取したバットに移し、合計をメスシリンダーで容積を測定する。この容積をa(mL)とする。1180μmの篩を通っ多孔質架橋重合体粒子は850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩についてそれぞれ同様の操作を行い、メスシリンダーを用いて容積b(mL)、c(mL)、d(mL)、e(mL)、f(mL)を求め、最後に300μmの篩を通った多孔質架橋重合体粒子の容積をメスシリンダーで測定しg(mL)とする。
【0016】
V=a+b+c+d+e+f+gとし、a/V×100=a’(%)、b/V×100=b’(%)、c/V×100=c’(%)、d/V×100=d’(%)、e/V×100=e’(%)、f/V×100=f’(%)、g/V×100=g’(%)を算出する。
前記a’〜g’より片軸に各篩の残留分累計(%)、他の軸に篩目の径(mm)をとり、これを対数確率紙上にプロットする。残留分の多い順に3点を取り、この3点を出来るだけ満足するような線を引き、この線から残留分累計が50%に相当する篩目の径(mm)を求め、これを重量平均粒子径とする。
なお、上記重量平均粒子径の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオンI基礎編」第14版(平成11年9月1日)第139〜141頁に記載される公知の算出法である。
【0017】
<重量平均粒子径測定法2(ロボットシフター法)>
主に粒径分布範囲20μmから300μm以下の粒子に対して用いられる。
試料約3gをはかりとり、その中にホワイトカーボンを約0.06g入れ、使い捨てポリエチレン製手袋使用し、掌上で良くまぶし、試料表面の付着水分を取り除く。これを順次重ねた音波振動式自動篩分け粒度分布測定器(セイシン企業製ロボットシフターRPS−85)にセットされたJIS標準篩の最上部に入れる。尚、使用標準篩は、樹脂の粒度範囲に規定された篩を使用する。
【0018】
以下、粒径範囲が63μmから212μmの多孔質架橋重合体粒子サンプルの場合の具体的測定例を示す。
ロボットシフターの操作条件をLEVEL(強度)2、TIME(時間)10分、INTERVAL(間隔)1秒の条件で篩分ける。篩分けられた各フルイ上の樹脂の重量は、自動的に測定される。尚、前記ホワイトカーボンは、63μm以下の粒径な為63μm以上の篩上に残らない。
【0019】
各粒径での容積比率は、次の式により算出される。
V=a+b+c+d+e+f+gとし、a/V×100=a’(%)、b/V×100=b’(%)、c/V×100=c’(%)、d/V×100=d’(%)、e/V×100=e’(%)、f/V×100=f’(%)、g/V×100=g’(%)を算出する。
【0020】
ここで、a'(%)は、粒径212μm以上の容積比率、b'(%)は、180μm以上212μm未満の容積比率、c'(%)は150μm以上180μm未満の容積比率、d'(%)は、106μm以上150μm未満の容積比率、e'(%)は、75μm以上106μm未満 の容積比率、f'(%)は、63μm以上75μm未満の容積比率、g'(%)は、63μm未
満の容積比率を示す。
【0021】
前記a’〜g’より片軸に各篩の残留分累計(%)、他の軸に篩目の径(mm)をとり、これを対数確率紙上にプロットする。残留分の多い順に3点を取り、この3点を出来るだけ満足するような線を引き、この線から残留分累計が50%に相当する篩目の径(mm)を求め、これを重量平均粒子径とする。
なお、上記重量平均粒子径の算出法は、前記測定法1と同様、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオンI基礎編」第14版(平成11年9月1日)第139〜141頁に記載される公知の算出法である。
【0022】
<重量平均粒子径測定法3(コールターカウンター法)>
主に粒径分布範囲1μm以上200μm以下の粒子に対して用いられる。
試料を所定の塩化ナトリウム水溶液の分散液とし、測定する粒径の範囲がアパチャー径の2〜60%となるアパチャーを使用する。
コールターカウンター(ベックマンコールター社製)を用いて濃度計の数値が5〜10%になるように試料を7重量%の塩化ナトリウム水溶液に分散した懸濁液を用いて測定する。測定個数を30,000個とし、測定により得られる体積統計値の平均径を重量平均粒子径とする。なお、均一係数は、測定により得られる体積統計値の40%径および90%径より、次式(I)によって求める。
【0023】
均一係数={40%径(μm)}/{90%径(μm)}・・・(I)
上記重量平均粒子径を有する本発明の多孔質架橋重合体粒子は、例えば既知の分級方法により得られる。分級法としては、篩による分別、水流を用いる水篩、気流を用いる風篩、沈降速度差を利用した沈降分級、遠心力を利用した遠心分級などが利用できる。
【0024】
[2−2]均一係数
本発明の多孔質架橋重合体粒子は粒度分布がシャープであることが好ましく、下記算出法により示される均一係数が通常1.7以下、好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下である。均一係数が大きすぎると逆相クロマトグラフィー分離の為に多孔質架橋重合体粒子をカラムに充填した時、カラムの理論段数が上がらず、十分な分離性が得られない。
【0025】
<均一係数算出法>
[2−1]で前述した重量平均粒子径の算出法において算出した前記a’〜g’を用いて、片軸に各篩の残留分累計(%)、他の軸に篩目の径(mm)をとり、これを対数確率紙上にプロットする。残留分の多い順に3点を取り、この3点を出来るだけ満足するような線を引きこの線から残留分累計が90%に相当する篩目の径(mm)を求めこれを有効径とする。
【0026】
前記有効径と同一要領により、残留分累計40%に対応する篩目の径(mm)を求め、次式(I)によって均一係数を求める。
均一係数={残留分累計が40%に相当する篩目の径(mm)}/{有効径(mm)}・・・(I)
なお、上記均一粒係数の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオンI基礎編」第14版(平成11年9月1日)第139〜141頁に記載される公知の算出法である。
【0027】
上記均一係数を有する本発明の多孔質架橋重合体粒子は、例えば既知の分級方法により得られる。分級法としては、篩による分別、水流を用いる水篩、気流を用いる風篩、沈降速度差を利用した沈降分級、遠心力を利用した遠心分級などが利用できる。又、特願昭6
3−0116916に記載されている均一粒径製造技術によっても、上記均一係数を有する本発明の多孔質架橋重合体粒子を得ることが出来る。
【0028】
[2−3]その他物性
本発明の多孔質架橋重合体粒子は、比表面積を大きくすることにより分離対象物との相互作用を強くできることから、多孔質粒子である事が必要である。比表面積は、通常10m/g以上、好ましくは40m/g以上、さらに好ましくは200m/g以上である。比表面積が小さすぎると、高い吸着量は得られない。一方、高速液体クロマトグラフィーのように、高い分離性能を得たい場合は、分離対象物の孔内拡散によるカラムの理論段数の低下を避ける為に無孔状粒子を用いる事ができる。粒子表面積は、窒素ガスを用いたBET(Brunauer Emmett Teller)法により、測定される。
【0029】
吸着容量を高める為に多孔質化した場合、その細孔の半径は、逆相クロマトグラフィーにより分離する対象物が細孔内を拡散し、多孔質架橋重合体粒子細孔内表面と相互作用できる大きさが必要である。
従って、分離する対象物の大きさにより、好ましい最頻度細孔半径が適宜選択されるが、通常10Å以上、好ましくは20Å以上であり、通常300Å以下、好ましくは200Å以下である。最頻度細孔半径が大きすぎると比表面積が低下することとなり分離対象物とアルキル基との相互作用が低下し、小さすぎると分離対象化合物の細孔内部への拡散が困難となり分離バンドの広がりにより分離性能が低下す。
最頻度細孔半径は窒素ガスを用いたBET(Brunauer Emmett Teller)法における窒素分圧と窒素吸着量の関係から測定することができる。なお、この方法により各細孔径での細孔容積も測定することができる。
【0030】
[2−4]製造方法
本発明の多孔質架橋重合体粒子は、例えば公知の多孔質芳香族系架橋重合体粒子をベースとして、所望のアルキル基を導入することにより製造することができる。多孔質芳香族系架橋重合体粒子としては、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの共重合で得られる架橋構造骨格を有する多孔質架橋重合体粒子が挙げられる。モノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、モノビニルビフェニル、ベンジルスチレン、モノビニルビニルナフタレン、モノビニルアントラセン等の多環芳香族モノビニルモノマー類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。このうち、スチレン、エチルスチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタリン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ジビニルジフェニルメタン等が挙げられる。このうち、ジビニルベンゼンが好ましい。工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンも使用できる。
【0031】
具体的には、例えば多孔質スチレン−ジビニルベンゼン系架橋重合体粒子等を挙げることができる。
また、多孔質芳香族系架橋重合体粒子は市販のものを用いることができる。本発明の多孔質架橋重合体粒子に用いるベースとなる多孔質芳香族系架橋重合体粒子としては、例えば、例えば、ダイヤイオンHP21(商品名、三菱化学社製)、ダイヤイオンHP20(商品名、三菱化学社製)、ダイヤイオンHP20SS(商品名、三菱化学社製)、ダイヤイオンHP21SS(商品名、三菱化学社製)、MCI GEL CHP20P(商品名、三菱化学社製)、MCI GEL CHP20Y(商品名、三菱化学社製)、MCI GEL CHP20A(商品名、三菱化学社製)、MCI GEL CHP55Y(商品名、三菱化学社製)、MCI GEL CHP55A(商品名、三菱化学社製)、MCI
GEL CHP5C(商品名、三菱化学社製)、MCI GEL CHP10M(商品名、三菱化学社製)、セパビーズSP20SS(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP70(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP700(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP825(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP825L(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP850(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP207(商品名、三菱化学社製)、セパビースSP207SS(商品名、三菱化学社製)、アンバーライトXAD−2(商品名、スペルコ社製)、アンバーライトXAD−4(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−16(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−18(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−1180(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−1600(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−1800(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−2000(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバーライトXAD−2010(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムCG−161m(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムCG−161c(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムCG−300s(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムCG−300m(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムCG−1000s(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムXT−20(商品名、ロームアンドハース社製)、アンバークロムXT−30(商品名、ロームアンドハース社製)、ダウエックス L493(商品名、ダウケミカル社製)、ダウエックス オプティポアV493(商品名、ダウケミカル社製)、ダウエックス オプティポアV502(商品名、ダウケミカル社製)、ダウエックス オプティポアV503(商品名、ダウケミカル社製)、ダウエックス オプティポアSD−2(商品名、ダウケミカル社製)、ムロマック SAP−9516(商品名、室町ケミカル社製)、ムロマック SAP−9610(商品名、室町ケミカル社製)、ムロマック SAP−9630(商品名、室町ケミカル社製)、ムロマック SAP−9520(商品名、室町ケミカル社製)、レバチット VPOC 1064 MDPH(商品名、ランクセス社製)、レバチット VPOC 1163(商品名、ランクセス社製)、レバチット S
7768(商品名、ランクセス社製)、ソース15RPC(商品名、GEヘルスケア社製)等が挙げられる。
次に、上記多孔質芳香族系架橋重合体粒子にアルキル基を導入する方法を例を挙げて説明する。
一般式(I)で表される構成単位を有する多孔質架橋重合体を製造する方法としては、例えば、ベースとなる多孔質芳香族系架橋重合体のフェニル基にオクタデシル基、t-ブ
チル基等のアルキル基を導入する方法、ベースとなる多孔質芳香族系架橋重合体の架橋性モノマーに由来する未反応の二重結合へあらかじめオクタデシル基、t-ブチル基等のア
ルキル基が置換した芳香族系モノマーをグラフト重合する方法等を挙げることができる。
【0032】
多孔質芳香族系架橋重合体のフェニル基にオクタデシル基、t-ブチル基等のアルキル
基を置換させる方法としては、例えば、オクタデシル基を置換させる場合は、通常ジクロロエタン等の溶媒、および塩化第2鉄等のルイス酸触媒の存在下、オクタデシルクロライド等のアルキルハライドを反応させる方法が挙げられる。反応時の雰囲気温度は、通常30℃以上、好ましくは50℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0033】
また、反応させるオクタデシルクロライド等のアルキルハライドは、ベースとなる多孔質芳香族系架橋重合体に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。オクタデシルクロライド等のアルキルハライドの量が少なすぎると芳香族系架橋モノマーへ置換する量が少なく、十分な効果が得られない。
反応終了後、反応混合物を濾別し、希塩酸、アセトン、キシレンなどの溶媒で洗浄して芳香環にオクタデシル基が置換された多孔質架橋重合体を得る。
ベースとなる多孔質芳香族系架橋重合体の架橋性モノマーに由来する未反応の二重結合へあらかじめオクタデシル基、t-ブチル基等のアルキル基が置換した芳香族系モノマー
をグラフト重合する方法としては、例えば、オクタデシル基を有する多孔質芳香族系架橋重合体を製造する場合は、オクタデシル基が置換した芳香族系モノマーをトルエン等の溶媒に溶解させた溶液を過酸化ベンゾイル等のラジカル重合開始剤と共に多孔質芳香族系架橋重合体に吸収させた後、ラジカル重合開始剤の雲海温度以上の温度に加熱することにより、多孔質芳香族系架橋重合体の架橋性モノマーに由来する未反応の二重結合とオクタデシル基が置換した芳香族系モノマーをラジカルグラフト共重合する方法などが挙げられる。反応時の雰囲気温度は、使用するラジカル重合開始剤の半減期分解温度に応じて所定反応時間内で分解が生じる温度が適宜選択される。10時間半減期温度が73.6℃である過酸化ベンゾイルを用いた場合は、通常60℃以上、好ましくは80℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは100℃以下である。また、反応させるオクタデシル基が置換した芳香族系モノマーは、ベースとなる多孔質芳香族系架橋重合体に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。芳香族系モノマーの量が少なすぎると芳香族系架橋モノマーへ置換する量が少なく、十分な効果が得られない。芳香族系モノマーの量が多い場合は、そのまま溶媒として利用される場合がある。
【0034】
反応終了後、反応混合物を濾別し、アセトン、トルエンなどの溶媒で洗浄して芳香環にアルキル基が置換された多孔質架橋重合体を得る。
【0035】
[3]吸着剤
本発明の多孔質架橋重合体粒子は吸着剤として好適に用いられる。本発明の吸着剤は、分離剤及び液体クロマトグラフィー充填剤として好適に用いられ、特に液体クロマトグラフィー充填剤として用いる場合には逆相クロマトグラフィー分離方法での使用が好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により、本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
以下、実施例により、本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0037】
[1]多孔質架橋重合体の製造・物性評価
[1−1]実施例1
市販の多孔質芳香族モノマー架橋重合体であるダイヤイオンHP21(三菱化学社製)の小粒子品(重量平均粒子径54μm、均一係数1.29)100重量部を四つ口反応フラスコに入れ、1,2−ジクロロエタン500重量部を加え、室温にて1時間放置後、塩
化アルミニウム30重量部および1−ブロモオクタデカン100重量部を加えて80℃にて5時間反応を行った。反応終了後反応混合物を濾別し、2Lの2N-塩酸、2Lの脱塩
水、2Lのアセトンで洗浄した。得られたオクタデシル基が芳香環に置換した多孔質芳香族モノマーの架橋重合体を減圧乾燥機にて50℃に加熱することにより乾燥した。
得られた多孔質芳香族モノマーの架橋重合体の重量平均粒子径及び均一係数は、ロボットシフター法により測定した。比表面積は、BET吸着法により測定した。細孔容積は、窒素多点吸着法により測定した。最頻度半径はBET法により測定した。
重量平均粒子径、均一係数、アルキル化後の重量増加率、比表面積、細孔容積、および最頻度半径を表1に示した。
【0038】
[1−2]実施例2
アルキル化剤として1−ブロモオクタデカンの替わりにt−ブチルブロマイドを用いた以外は実施例1と同様に、t−ブチル基が芳香環に置換した多孔質芳香族モノマーの架橋重合体を得た。
重量平均粒子径、均一係数、アルキル化後の重量増加率、比表面積、細孔容積、および最頻度半径を表1に示した。
【0039】
[1−3]実施例3
アルキル化剤として1−ブロモオクタデカンの替わりに1−ブロモ−2−メチルプロパンを用いた以外は実施例1と同様に、イソブチル基が芳香環に置換した多孔質芳香族モノマーの架橋重合体を得た。
重量平均粒子径、均一係数、アルキル化後の重量増加率、比表面積、細孔容積、および最頻度半径を表1に示した。
【0040】
[1−4]実施例4
多孔質芳香族モノマー架橋重合体としてダイヤイオンHP21(三菱化学社製)の小粒子品(重量平均粒子径14.7μm、均一係数1.32)アルキル化剤として1−ブロモオクタデカンの替わりに1−ヨードオクタンを用いた以外は実施例1と同様に、オクチル基が芳香環に置換した多孔質芳香族モノマーの架橋重合体を得た。
重量平均粒子径、均一係数、アルキル化後の重量増加率、比表面積、細孔容積、および最頻度半径を表1に示した。
【0041】
[1−5]比較例1
多孔質芳香族モノマー架橋重合体粒子として市販のダイヤイオンHP21の小粒子品(重量平均粒子径54μm、均一係数1.29)を用い、同様に評価した。
【0042】
【表1】

【0043】
[2]逆相クロマトグラフィー分離方法による得られた架橋共重合体の疎水性評価
得られたアルキル基置換多孔質架橋重合体の疎水性を評価するために、送液ポンプ、オートサンプルインジェクタ、カラムオーブン、紫外吸収検出器、データ処理装置を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用い、逆相クロマトグラフィー条件でフタル酸ジエステル類の保持容量比を測定した。
実施例1〜4で得られたアルキル基置換多孔質架橋重合体および比較例1の多孔質架橋
共重合体を内径4.6mm、長さ150mmのステンレスカラムに充填し、水/アセトニトリルを体積比40/60で混合した混合溶媒を溶離液として流速0.5ml/minにて通液し、フタル酸ジメチルエステル及びフタル酸ジプロピルエステルおよび間隙容量算出用の試料である硝酸ナトリウム水溶液の逆相高速液体クロマトグラフィー分析を行った
。検出は254nmの紫外検出器にて行った。カラムオーブンの温度は40℃であった。
フタル酸ジメチルエステルとフタル酸ジプロピルエステルについての保持比(k’)及び保持容量比(α)は以下の式により算出した。 k’=[(各試料の溶離容量)−(硝酸ナトリウムの溶離容量)]/[(硝酸ナトリウムの溶離容量)]。 α=(フタル酸ジメチルエステルのk’)/(フタル酸ジメチルエステルのk’)。
得られた水/アセトニトリル混合溶離液における充填カラムのフタル酸ジメチルエステルとフタル酸ジプロピルエステルの保持比(k’)及び保持容量比(α)を表2に示す。
【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の多孔質架橋重合体の製造方法により製造された多孔質架橋重合体、多孔質架橋重合体粒子および吸着剤は、疎水性物質吸着能力(疎水性相互作用)が高く、特に逆相クロマトグラフィー分離法に対する適用性に優れる。よって、逆相クロマトグラフィー分離法を用いる必要のある食品分野、医薬分野、その他の発酵分野、バイオ分野等の各分野において、産業上の利用可能性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構成単位を有する多孔質架橋重合体の製造方法であって、多孔質芳香族系架橋重合体に炭素数1以上20以下のアルキル基を導入する行程を有することを特徴とする多孔質架橋重合体の製造方法。
【化1】


(一般式(I)中、Rは炭素数1以上20以下のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造された多孔質架橋重合体。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法によって製造された多孔質架橋重合体により形成された多孔質架橋重合体粒子であって、最頻度細孔半径が10Å以上300Å以下であることを特徴とする多孔質架橋重合体粒子。
【請求項4】
請求項3に記載の多孔質架橋重合体粒子を用いて形成された吸着剤。

【公開番号】特開2009−40972(P2009−40972A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210164(P2007−210164)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】