説明

多孔質構造体の製造方法、及び該製造方法から得られる多孔質構造体

【課題】逆ミセルの鋳型を利用して、有機ポリマーと両親媒性物質からなる多孔質構造体を形成する。
【解決手段】(i)両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる溶液を混合撹拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を得る工程(工程1)、(ii)疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストする工程(工程2)、及び(iii)基板上の疎水性有機溶媒溶液から、疎水性有機溶媒と親水性液体を蒸発させて多孔質の構造体を形成する工程(工程3)、を含む、疎水性有機溶媒溶液中に形成された逆ミセルの鋳型を孔の形成に利用する多孔質構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性物質を用いて疎水性有機溶剤溶液中に形成される逆ミセルの鋳型を孔の形成に利用する多孔質構造体の製造方法、及び該製造方法により得られる多孔質構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自己組織化を利用した直径1nm〜100μmの微細な孔を有する高分子多孔質膜の形成方法は、水滴の結露を利用する方法、ミセルの形成を利用する方法、ブロック共重合体を利用する方法などが知られている。水滴の結露を利用する方法としては、ポリマーの疎水性有機溶剤溶液を高湿度の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることによりハニカム構造を有するフィルムを作製する方法が知られている(特許文献1または特許文献2参照)。ミセルの形成を利用する方法は、オレフィン系単量体等からなる疎水性物質、水等の親水性液体体、及び重合性基を含む界面活性剤を含有する逆ミセル溶液を担体上に浸透させた後、該液体を重合して、支持体上に多孔性材料の被覆物を形成する方法である(特許文献3参照)。ブロック共重合体を用いる方法としては、例えば親水性ブロックと疎水性ブロックからなるブロック共重合体−ブロック−ポリスチレンを使う例が挙げられる (非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2002−335949号公報
【特許文献3】特許第3277233号明細書
【非特許文献1】サイエンス、1999年,第283巻,p.372
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記結露を利用する方法では、形成される膜が自己支持性を有する。しかしながら、結露を利用する方法では、相対的に高湿度の条件下で結露の形成による微小水滴の孔径や穴の密度制御が困難であり、また、孔の密度が増加すると隣接する孔間で連通する現象が必然的に生じ、使用目的によっては不都合を生ずる場合がある。更に、膜の高機能化のために膜の孔部へ機能性材料を導入する場合、これらの方法では膜作製とできた膜の孔部への機能性材料導入を別々の工程にて行わなければならず、工程がより複雑になる。さらに、孔径が小さいと孔部への機能性材料の選択的導入自体が困難になる。
一方、前記ミセルの形成を利用する方法においては、形成される膜に自己支持性がないため基板と一体で使用しなければならず、そのため、膜全体の性質が基板の性質に左右され、使用用途が濾過膜やバイオセンサーなどに限定されていた。
また、ブロック共重合体を用いた場合では、ハニカム構造体の自己支持性に劣ったり、経時的にハニカム構造が崩壊するなどの欠点を有する場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び疎水性有機溶媒からなる溶液中に逆ミセルを形成させたものを基板上にキャストし、基板から疎水性有機溶媒と親水性液体を蒸発させることにより、逆ミセルの鋳型を利用して形成される、微細孔でかつ孔の殆どは有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られていて該構造体の表面と平行方向に連通していない多孔質体の製造に関するものである。
すなわち本発明は、(1)下記(i)ないし(iii)に記載する工程を含む、疎水性有機溶媒溶液中に形成された逆ミセルの鋳型を孔の形成に利用する多孔質構造体の製造方法に関する発明である(以下、「実施形態1」ということがある)。
(i)少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる溶液を撹拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を得る工程(工程1)
(ii)前記疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストする工程(工程2)
(iii)前記基板上の疎水性有機溶媒溶液から、疎水性有機溶媒と親水性液体を蒸発させて多孔質の構造体を形成する工程(工程3)
【0006】
実施形態1においては更に下記(2)〜(20)の態様とすることができる。
(2)工程1における親水性液体と両親媒性物質の重量配合比Rw(親水性液体/両親媒性物質)が0.1ないし15であること、
(3)工程1における有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であること、
(4)前記疎水性有機溶媒が、20℃における誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1,2,-ジクロロエチレン、
並びに20℃における誘電率が5を越える、酢酸ブチル、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロルエタン、シス1,2−ジクロロエタン、及びイソブチルメチルケトン
から選ばれた少なくとも1種であること、
(5)前記両親媒性物質がビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた少なくとも1種であること、
(6)前記有機ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた少なくとも1種であること、
(7)前記基板がガラス、金属、セラミックス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレンから選ばれたいずれか1種あるいはこれらのいずれか1種以上を複合した基板であること、
(8)工程1で逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成した後、工程2で基板上に前記疎水性有機溶媒溶液の厚みが0.01〜5mmになるようにキャストすること、
(9)工程3における疎水性有機溶媒と親水性液体の蒸発を乾燥ガス流通下で行うこと、
(10)前記(9)において前記乾燥ガスが乾燥空気又は乾燥不活性ガスであること、
(11)工程3の蒸発温度における疎水性有機溶媒の蒸気圧が親水性液体の蒸気圧の0.3倍以上であること、
(12)前記(1)〜(11)のいずれかにおいて、工程1における20℃での誘電率が5以下で同温度での比重が0.65〜0.90である前記疎水性有機溶媒を使用し、かつ工程3における前記疎水性有機溶媒の蒸発を行うことにより、逆ミセルの鋳型から形成される孔が構造体内にほぼ均一に分布している構造体を形成すること、
(13)前記(12)において、前記工程3で形成される、前記孔(開口及び貫通している孔を除く、以下非開口孔ということもある)の径の平均値が0.1〜10μmであること、
(14)前記(1)〜(11)のいずれかにおいて、工程1における比重が親水性液体の比重よりも大きい前記有機ポリマー及び/又は前記疎水性有機溶媒を使用し、かつ工程3における前記疎水性有機溶媒の蒸発により、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面で開口(貫通を除く)している孔(開口孔)(以下、開口孔又は非貫通開口孔ということがある)の面積割合が60%以上、又は表面開口率が5%以上である構造体を形成すること、
(15)前記(14)において、前記工程3で形成される、前記開口孔の平均開口径が0.1〜100μmであること、
(16)前記(1)〜(11)のいずれかにおいて、工程1における前記Rw(親水性液体/両親媒性物質)を3ないし15とし、工程2において工程3における疎水性有機溶媒蒸発後の多層構造体の厚みが1〜50μmとなるように前記疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストし、かつ工程3における前記疎水性有機溶媒の蒸発により、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通している孔(貫通孔)の面積割合が60%以上、又は貫通孔に基づく表面開口率が7%以上である構造体を形成すること、
(17)前記(16)において、前記工程3で形成される、前記貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径が1〜50μm、又は前記貫通孔の平均開口径が1〜50μmであること、
(18)前記工程3で形成された基板上の多孔質構造体から基板を除去して得られる多孔質構造体が自己支持性を有すること、
(19)前記(1)〜(18)のいずれかにおいて、工程1の疎水性有機溶媒溶液が両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、疎水性有機溶媒、親水性液体、及び該親水性液体相中に分散した金属、合金又は金属化合物微粒子からなり、かつ工程3で得られた多孔質構造体の孔中に前記金属、合金又は金属化合物微粒子が含まれていること、
(20)前記(1)〜(18)のいずれかにおいて、工程1の疎水性有機溶媒溶液が両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、疎水性有機溶媒、親水性液体、及び該親水性液体相中に分散又は溶解した機能性材料からなり、かつ工程3で得られた多孔質構造体の孔中に該機能性材料が含まれており、該機能性材料がAu,Ag,Cu,Pt,Fe,Ni,Co,Mn,Cr及びTiの内の少なくとも1種の金属、半導体材料、酸化物、セラミックス材料、金属錯体、強誘電体材料、強磁性体材料、抵抗変化材料、相変化材料、光機能材料、並びに蛍光機能材料から選択される1種の機能性材料であること、
【0007】
また、本発明は、(21)前記(1)に記載する多孔質の構造体の製造方法で得られた開口又は貫通孔を有する多孔質構造体、あるいは前記(1)に記載する多孔質の構造体の製造方法で得られた開口又は貫通孔を有する多孔質構造体から両親媒性物質を除去した有機ポリマーからなる多孔質の構造体に、更に機能性材料を充填する方法であって、該機能性材料の充填方法が、(a)電着法による金属の充填方法、(b)ディッピング法もしくはスピンコート法による有機金属を充填後、前記有機金属を熱処理する金属酸化物の充填方法、(c)気相蒸着法による金属酸化物の充填方法、又は(d)スパッタリング法による相変化材料の充填を利用した充填方法であることを特徴とする有機ポリマーからなる多孔質構造体に機能性材料を充填する方法に関する発明である(以下、「実施形態2」ということがある)。
【0008】
また、本発明は、(22)少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる疎水性有機溶媒溶液であって、撹拌により逆ミセルが形成されることを特徴とする、多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液に関する発明である以下、「実施形態3」ということがある)。
実施形態3においては更に下記(23)〜(26)の態様とすることができる。
(23)前記親水性液体と両親媒性物質の重量配合比Rw(親水性液体/両親媒性物質)が0.01ないし15であり、有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であること、
(24)前記疎水性有機溶媒が、誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1,2,-ジクロロエチレン、から選ばれた少なくとも1種であること、
(25)前記両親媒性物質がビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた少なくとも1種であること、
(26)前記有機ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた少なくとも1種であること、
【0009】
また、本発明は、(27)疎水性を有する有機ポリマー、及び分子量が10000以下の親水基に陰イオン性基を有する両親媒性物質から構成される多孔質構造体であって、該両親媒性物質が孔の辺縁部を構成し、かつ各孔が該有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られていて該構造体の表面と平行方向に連通していないことを特徴とする多孔質構造体に関する発明である(以下、「実施形態4」ということがある)。
実施形態4においては更に下記(28)〜(39)の態様とすることができる。
(28)前記両親媒性物質がビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、及びジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムから選ばれた1種以上であること、
(29)前記有機ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた少なくとも1種であること、
(30)前記多孔質構造体中の有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であること、
(31)前記多孔質構造体が自己支持性を有する多孔質膜であること、
(32)前記(27)〜(31)において、前記構造体の孔が構造体内にほぼ均一に分布しており、その平均孔径(開口及び貫通している孔を除く)が0.1〜10μmであること、
(33)前記(27)〜(31)において、前記構造体の構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面で開口している孔(開口孔)の面積割合が60%以上、又は表面開口率が5%以上であり、かつ該開口孔の平均開口径が0.1〜100μmであること、
(34)前記(27)〜(31)において、前記構造体の構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通している孔(貫通孔)の面積割合が60%以上、又は貫通孔に基づく表面開口率が7%以上であり、かつ該貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径が1〜50μm、又は該貫通孔の平均開口径が1〜50μmであること、
(35)前記多孔質構造体が膜状であり、かつその厚みが0.001〜1mmであること、
(36)前記多孔質構造体の孔内に金属、合金又は金属化合物微粒子が存在すること、
(37)前記多孔質構造体の孔内に、Au,Ag,Cu,Pt,Fe,Ni,Co,Mn,Cr及びTiの内の少なくとも1種の金属、半導体材料、酸化物、セラミックス材料、金属錯体、強誘電体材料、強磁性体材料、抵抗変化材料、相変化材料、光機能材料、並びに蛍光機能材料から選択される1種の機能性材料が存在すること、
(38)前記多孔質構造体が基板上に形成されていること、
(39)前記基板がガラス、金属、セラミックス基板、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレンから選ばれたいずれか1種あるいはこれらのいずれか1種以上を複合した基板であること、
【0010】
また、本発明は、(40)前記(27)ないし(39)のいずれか1項に記載の多孔質構造体の表面に形成された孔とその孔以外の部分の厚みの差を利用した、光学フィルター又は回折素子に関する発明である(以下、「実施形態5」ということがある)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的容易な操作で疎水性有機溶媒溶液中で生成した逆ミセルの鋳型を孔の形成に利用して、有機ポリマーと両親媒性物質からなる多孔質構造体を得ることができる。
この際、疎水性有機溶媒、両親媒性物質、親水性液体、有機ポリマー等の成分の種類、及び配合割合を選択することにより、多孔質構造体中の孔の形態(該構造体中に孔がほぼ均一に分布する、該構造体表面で孔が開口状態で存在する、又は該構造体に孔が貫通孔として存在する等)、孔の大きさ径、及び孔の密度等を制御することが可能である。
本発明において得られる多孔質構造体中の孔の殆どは有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られていて、該孔が連通していないのが特徴である。
また、多孔質構造体の形成と該構造体の孔部への機能性材料の埋め込みを同時に行うことができるため、低コストにて高機能を有する多孔質構造体の形成が可能となる。
【0012】
以下、本発明の実施形態1〜5について説明する。
尚、本発明における疎水性有機溶媒溶液、多孔質構造体についての観察、形状測定等は、下記方法に基づく。
(イ)疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルのミセル径測定
レーザー回折装置を使用した測定による。
(ロ)多孔質構造体の表面及び断面観察
走査型電子顕微鏡を使用した観察による。表面観察はそのまま、断面観察は表面に垂直に切削し断面出しした後、観察を行う。
(ハ)ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス由来のS(イオウ)成分濃度分布の分析
エネルギー分散型蛍光X線分析装置をした観察による。
(ニ)下記非開口孔、非貫通開口孔、貫通孔等の各種形態の孔を特徴付けるパラメータの測定
走査型電子顕微鏡を使用して、以下に記載する方法により行う。
(i)非開口孔(構造体内で孔がほぼ均一に分布して開口していない孔)
非開口孔の平均孔径及び断面空孔率の測定
(i−1)平均孔径の測定
多孔質構造体の断面において、切断位置によるばらつきを考慮して孔部の略中心断面に相当する、孔部の孔径の大きなものを5個抽出し、それぞれの孔部の構造体表面と平行方向の孔径(平行方向の孔の最大長さ)を測定し、その平均値を平均孔径とする。
(i−2)断面空孔率の測定
多孔質構造体の断面において、孔部面積の断面積全体に占める割合を算出し、断面空孔率とする。
(ii)非貫通開口孔(非貫通でかつ開口している孔)
断面における孔の全面積に対する非貫通開口孔の面積割合、表面開口率、及び平均開口径の測定
(ii−1)断面における孔の全面積に対する非貫通開口孔の面積割合
多孔質構造体の任意の断面における孔の全面積のうち非貫通開口孔の面積割合を求める。
(ii−2)表面開口率
多孔質構造体の表面の非貫通開口孔の面積が表面積全体に占める割合を算出して表面開口率を求める。
(ii−3)平均開口径
多孔質構造体の表面の非貫通開口孔10点を無作為に抽出して開口径を測定し、その平均値を平均開口径とする。
(iii)貫通孔
断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合、表面開口率、平均開口径、及び構造体表面と平行方向の平均孔径
(iii−1)断面における孔の全面積に対する貫通孔の面積割合
多孔質構造体の任意の断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合を求める。
(iii−2)表面開口率
多孔質構造体の表面の貫通孔の開口面積が表面積全体に占める割合を算出して表面開口率を求める。
(iii−3)平均開口径
多孔質構造体の表面の貫通孔10点を無作為に抽出して開口径を測定し、その平均値を平均開口径とする。
(iii―4)貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径
孔部の略中心断面に相当する孔部の寸法の大きなものを5個抽出し、それぞれの孔部の構造体表面と平行方向の孔径(平行方向の孔の最大長さ)を測定し、その平均値を平均孔径とする。
【0013】
[1] 実施形態1
実施形態1に係る「多孔質構造体の製造方法」は、
下記(i)ないし(iii)に記載する工程を含む、疎水性有機溶媒溶液中に形成された逆ミセルの鋳型を孔の形成に利用することを特徴とする。
(i)少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる溶液を混合撹拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を得る工程(工程1)
(ii)前記疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストする工程(工程2)
(iii)前記基板上の疎水性有機溶媒溶液から、疎水性有機溶媒と親水性液体を蒸発させて多孔質の構造体を形成する工程(工程3)
ここで、正ミセルが例えば、親水性である水溶液中で両親媒性物質の疎水部は、水とは混ざらないためなるべく水から遠ざかって疎水的な性質のものと相互作用しようとして球状の集合体を作るのに対し、逆ミセルとは、例えば疎水性の有機溶媒中で正ミセルとは逆の構造になり、疎水部が溶媒に突き出した構造になる分子集合体である。
【0014】
本発明においては、先ず工程1において、少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び疎水性有機溶媒からなる溶液を攪拌して、疎水性有機溶媒中に比較的安定な逆ミセルを形成させる。この逆ミセルの分布状態(逆ミセルが溶液中に均一分布、相対的に上方に多く分布、もしくは相対的に下方に多く分布する等)、逆ミセル径、その密度等は、使用する疎水性有機溶媒(誘電率、比重、蒸発時の蒸気圧、有機ポリマーの溶解性、疎水性等の物性)、両親媒性物質、親水性液体、有機ポリマー(比重、疎水性等の物性)等の成分の種類、配合割合等によって制御することが可能である。
また、上記条件から、比重が親水性液体より大きい疎水性有機溶媒の使用、逆ミセル径が比較的大きくなる条件と、有機ポリマーの使用割合を相対的に少なくして多孔質構造体を薄膜形状にすることにより、工程3で疎水性有機溶媒を蒸発後に、それぞれ構造体表面で孔が開口している構造体、貫通孔が多く存在する構造体を形成することも可能である。
【0015】
工程2において、疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストするが、疎水性有機溶媒溶液中に逆ミセルを形成してから、基板上へのキャスト、更に有機溶媒の蒸発開始までの時間と、基板上への疎水性有機溶媒溶液の塗布厚み等の選択により、疎水性有機溶媒蒸発後の多孔質構造体におけるその厚みと孔の形態を制御することが可能になる。
次に工程3の前半で該基板の疎水性有機溶媒溶液から先ず親水性液体(例えば水)の蒸発除去を控えめにして疎水性有機溶媒(以下、「有機溶媒」ということがある。)を蒸発除去する。この場合、有機溶媒の蒸発に伴い、疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルの密度は増加してくるが、本発明において有機溶媒蒸発により形成される孔が有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られていて、連通していない孔が多く形成されるのが特徴である。
有機溶媒の蒸発時間は、数分間程度であるが、有機溶媒の蒸発が比較的短時間となる温度と圧力条件を選択することにより、構造体中に形成される孔をより立体的に均一に分布させることが可能になる。
多孔質構造体中に逆ミセルが均等に存在する場合に、親水性液体は逆ミセル中に閉じ込められていて有機溶媒にシールされた状態で存在するので、有機溶剤を蒸発する際に、該有機溶剤の蒸気圧が親水性液体より低くても該有機溶剤が選択的に蒸発する。しかし、逆ミセル中に存在する親水性液体の量が極めて少ないことと、親水性液体は有機溶剤と有機ポリマーへの微量の溶解を通して、結果的に蒸発するものと思われる。
有機溶剤の蒸発の際に形成される多孔質構造体中の孔が、結果的に開口又は貫通孔として形成される場合には親水性液体の蒸発除去は容易である。有機溶剤の蒸発後には、多孔質構造体中に形成された孔の辺縁部に両親媒性物質が存在している。
以下に工程1〜3について詳述する。
【0016】
(a)疎水性有機溶媒溶液を得る工程(工程1)
実施形態1においては先ず工程1で、疎水性有機溶媒溶液中に逆ミセルを形成する。
(イ)疎水性有機溶媒溶液の成分
工程1において、少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーからなる成分を使用する。工程1において使用可能なこれらの成分を以下に例示するが、本発明において使用可能なものはこれらに限定されるものではない。
(イ−1)有機ポリマー
本発明において使用可能な有機ポリマーは、疎水性でかつ有機溶媒に適度な溶解性を有していて、工程3において有機溶媒を蒸発除去後に自己集合した逆ミセルに基づく鋳型構造が維持できるものであればよく、使用目的によっては特に基板上に形成された多孔質膜が自己支持性を有する程度の剛性を有するものが好ましい。
有機ポリマーの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン塩素樹脂系ポリマー;ポリアルキレンオキサイド;ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合樹脂等のアルコール系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂;メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂等のアクリル系樹脂;ポリアミド樹脂(ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)等のエンジニアリングプラスチックから選ばれた1種、または相溶性を有する(疎水性有機溶媒蒸発後に相分離を生じない)2種以上の有機ポリマーである。
【0017】
その他、有機溶媒の選択、又は使用目的により、有機ポリマーとしてポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、セルロース系プラスチック、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド等も使用可能である。
中でもコスト面からポリスチレン、アクリル系樹脂、透明性の観点からポリカーボネート、シクロポリオレフィン、フッ素樹脂、また、耐熱性の観点から、ポリアミド、ポリイミドが好ましい。ポリスチレン、ポリカーボネート、シクロポリオレフィンはクロロホルムなどの有機溶媒に溶けやすく、膜状の多孔質構造体を容易に得ることができるため特に好ましい。
【0018】
(イ−2)両親媒性物質
実施形態1で使用する両親媒性物質は、疎水性基と親水性基を有するものであれば特に種類は限定されず、高分子両親媒性物質及び高分子以外の両親媒性物質でもよい。イオン性両親媒性物質において親水性基を構成する陰イオンとしては−COO、−SO等があり、また陽イオンとしてはジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオンなどがある。また、非イオン性両親媒性物質における親水基としては水酸基、エーテル結合などがある。
両親媒性物質の具体例としては、ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)(下記化学式1で示す)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス(下記化学式2で示す)、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0019】
【化1】



【0020】
(イ−3)疎水性有機溶媒
本実施形態1で使用する有機溶媒は、疎水性を有し、疎水性の有機ポリマーをある程度溶解し、逆ミセルを小さいミセル径である程度安定的に存在させる性質を有し、かつ工程3における蒸発が比較的容易である性質を有していればその種類は特に限定されるものではない。
本発明の疎水性有機溶媒の選択に当たっては、所望の逆ミセルの形態(溶液中での均一分散性、ミセル径等)、安定性、工程3での蒸発性等から、有機溶媒の疎水性、誘電率、有機ポリマーの溶解性、蒸気圧、比重等を考慮することが望ましい。
【0021】
本発明の工程1において、疎水性有機溶媒溶液中に逆ミセルを形成するので、使用する有機溶媒は疎水性であることが必要であり、親水性液体である水への溶解度が高い、酢酸メチル、テトラヒドロフランのような親水性有機溶媒は、良好な逆ミセルを形成しないため適当でない。
【0022】
上記工程1で掲載された疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルは、工程2のキャスティング、及び工程3の該有機溶媒が蒸発して多孔質構造体の基本骨格が形成されるまで、比較的安定していることが望ましい。一般に、逆ミセルは誘電率の低い無極性有機溶媒中の方が比較的安定である。
表1に20℃における誘電率(ε)が5以下の相対的に無極性である有機溶媒、表2に20℃における誘電率が5を越える相対的に極性である有機溶媒を例示してある。
20℃における誘電率の低いトルエン(ε:2.38)では逆ミセルが小さいミセル径で比較的安定に存在する傾向があり、混合キシレン(例えば、表1に示す組成において、ε:2.40)とクロロホルム(ε:4.81)では、ミセル径が多少変化する傾向があるが、ミセル径の経時的変化が把握できれば、それを多孔質構造体の孔径の制御に利用することが可能である。
このように、各疎水性有機溶媒中における逆ミセルのミセル径とその分布、経時的なミセル径の変化を把握することにより、疎水性有機溶媒の選択から所望の多孔質構造体を設計することが可能になる。
【0023】
疎水性有機溶媒は、有機ポリマーを適度に溶解して両親媒性物質の均一分散性に優れるものが望ましい。特に、疎水性有機溶媒として、使用する疎水性の有機ポリマー及び両親媒性物質を適度に溶解するものが望ましい。この場合に疎水性有機溶媒の該有機ポリマー及び両親媒性物質の溶解度が高過ぎると工程3の蒸発工程において、有機溶媒中の有機ポリマー及び両親媒性物質が高濃度に達した段階で多孔質構造体の基本構造が形成されると孔を均質に形成するのに不都合を生ずる場合がある、一方、疎水性有機溶媒の該有機ポリマー及び両親媒性物質の溶解度が低いと、比較的多量の有機溶媒の使用が必要となり、好ましくない場合がある。
疎水性有機溶媒の有機ポリマー及び両親媒性物質は、疎水性有機溶媒溶液で併せて0.01〜1g/ml、特に0.05〜0.5g/ml程度の濃度範囲にあることが望ましい。
【0024】
また、工程3において、疎水性有機溶媒溶液から有機溶媒と親水性液体を蒸発させて多孔質構造体を形成する際に、先ず有機溶媒を多く蒸発させ、次いで親水性液体を蒸発させる方が多孔質構造体を確実に形成することができる。そのためには記疎水性有機溶媒と親水性液体の蒸発温度における疎水性有機溶媒の蒸気圧が親水性液体の蒸気圧よりも高い方が望ましい。
前述したように、親水性液体は両親媒性物質により疎水性有機溶媒溶液中にシールされた状態で存在するので、工程3の疎水性有機溶媒の蒸発温度で、該有機溶媒の蒸気圧が親水性液体より低い場合でも、結果的にみて相対的に多量に存在する有機溶媒がある程度蒸発した時点で逆ミセル形状(又はその鋳型構造)が維持できる程度に溶液の粘度が上がっていれば、多孔質構造体の形成が可能となる。工程3の蒸発温度における疎水性有機溶媒の蒸気圧は親水性液体の蒸気圧の好ましくは0.3倍以上、より好ましくは0.7倍以上、特に好ましくは1.0倍以上である、従って、このような場合には親水性液体より沸点の高いトルエン、キシレン類等の有機溶媒を使用することが可能である。
【0025】
有機溶媒の比重は、形成される多孔質構造体中の孔の垂直方向の形成位置を制御するのに利用することが可能である。
一般に多孔質構造体中で孔を均一に分布させたい場合には、非極性溶媒を使用することが望ましい。一方、親水性液体として例えば水を使用する場合には、クロロホルムのような比重が水よりも大きいものを選択すると、逆ミセルを上方に多く分布させることが可能となり、他方、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素のような比重が水よりも小さいものを使用すると、逆ミセルを下方に多く分布させることが可能になる。
逆ミセルを上方に多く分布させる場合には、有機ポリマーの比重はポリエチレンとポリプロピレン等の一部のポリオレフィンを除いて殆どのものが水の比重よりも大きいことから、有機ポリマーの比重を利用して水の比重より小さい有機溶媒を使用することも可能である。
疎水性有機溶媒の比重が水よりも大きいものの具体例としては、ジクロルメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、1,2ジクロルエチレン、トリクロルエチレン等の塩素系溶媒;二硫化炭素が挙げられ、また、疎水性有機溶媒の比重が水よりも軽いものの具体例としては、ノルマルペンタンノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
これらの有機溶媒は単独で用いても、またはこれらの溶媒を組み合わせて均一の溶液を形成する場合等は混合溶媒を使用することが可能である。
【0026】
本発明で使用可能な疎水性有機溶媒としては、表1に示す、20℃における誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1,2,-ジクロロエチレン、
並びに表2に示す、20℃における誘電率が5を越える、酢酸ブチル、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロルエタン、シス1,2−ジクロロエタン、及びイソブチルメチルケトン
またはこれらの混合物が例示できるが、本発明で使用可能な疎水性有機溶媒はこれらに限定されるものではない。
疎水性有機溶媒は、有機ポリマーの溶解能が高く、水の溶解度が低く、蒸気圧が高いことが好ましく、さらに実用性の観点から化学的に安定であり、毒性が低いことが好ましい。これらの観点から、好ましい溶媒として、トルエン、クロロホルムが例示できる。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
(イ−4)親水性液体
また逆ミセルを形成する際に使用する親水性液体として、水の使用がもっとも好ましいが、本発明において両親媒性物質、有機ポリマー、疎水性有機溶媒及び親水性液体からなる疎水性有機溶媒を撹拌して、疎水性有機溶媒溶液中で逆ミセルを形成するものであれば、水以外の親水性液体、又は水に水以外の親水性液体を配合して、親水性液体の比重、蒸気圧、溶解性等を調整することが可能である。水以外の親水性液体として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ギ酸等が例示できる。
【0030】
(ロ)疎水性有機溶媒溶液成分の配合割合
工程1における親水性液体と両親媒性物質の重量配合比Rw(親水性液体/両親媒性物質)は、逆ミセルのミセル径の設計にもよるが、0.1ないし15が好ましく、0.25ないし15がより好ましく、0.5ないし10が特に好ましい。Rwを前記0.1以上とすることにより逆ミセルの形成を容易にし、前記15以下とすることにより逆ミセルが不可逆的に凝集するのを効果的に防止することができる。
更に前記割合の範囲内で疎水性有機溶媒溶液中に形成される逆ミセルの大きさを制御することができる。すなわち、Rwを大きくすると逆ミセルの径は大きくなり、一方、Rwを小さくすることにより逆ミセルの径を小さくすることができる。
【0031】
疎水性有機溶媒溶液中に溶解した有機ポリマーの濃度は、該有機溶媒と有機ポリマー中の有機ポリマーの濃度で表示すると0.01〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。この濃度範囲では孔径が均一になりやすく、更に孔が規則配列しやすい傾向がある。
また、工程1における有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合(有機ポリマーの有機ポリマーと両親媒性物質の合計に対する割合:有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)(以下、Rpということがある)が0.1ないし0.9が好ましく、0.1ないし0.6がより好ましい。
Rpを上記配合割合とすることにより、逆ミセルの形成をより確実なものとすることができる。
【0032】
多孔質膜における孔の密度、すなわち単位体積当たりに孔が占める割合は、親水性液体、有機ポリマーおよび両親媒性物質の相対的濃度により制御することが可能である。すなわち、溶質全体(親水性液体+有機ポリマー+両親媒性物質)に対する親水性液体の重量配合割合(親水性液体/[親水性液体+有機ポリマー+両親媒性物質])(以下、Rsということがある)が大きくなると孔の密度は相対的に大きくなる。この際、有機ポリマーおよび両親媒性物質の濃度を一定とすると孔径が大きくなりながら孔の密度が大きくなり、一方、水の濃度とともに両親媒性物質の濃度も大きくし、Rwを一定とすると、孔径は一定のまま孔の密度が大きくなる。
また、Rwによる孔径制御、および疎水性有機溶媒溶液中の有機ポリマーの濃度と基板上にキャストする溶液の厚み条件による膜厚制御が可能であることから、多孔質膜を貫通孔もしくは非貫通孔とすることの制御が可能である。すなわち、膜厚を孔径以下とすることで貫通孔となり、膜厚を孔径以上とすることで非貫通孔とすることができる。
【0033】
工程1において、両親媒性物質、有機ポリマー、親水性液体及び有機溶媒の配合順序はとくに制限はない。これらの成分を容器等の中で撹拌して逆ミセルを形成するが、撹拌法に特別な操作は必要でなく、ある程度の十分な撹拌が可能であれば、実験等に広く用いられているマグネチック・スターラー、回転翼、超音波を利用した撹拌等が例示できる。中でも孔径の微細化・均一化の観点から、超音波を利用した攪拌法が好ましい。
【0034】
(b)キャスト工程(工程2)
工程2は、工程1で形成された疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストする工程である。
このような疎水性有機溶媒溶液をキャストする基板は、使用する有機溶媒に対する耐溶剤性等の耐久性が要求されるが、これを満足する限り、特に限定されない。一例として、基板がガラス等の無機基板、金属、シリコン酸化物等のセラミックス基板、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレン等の耐有機溶剤性に優れた有機物基板から選ばれたいずれか1種あるいはこれらのいずれか1種以上を複合した基板を挙げることができる。
疎水性有機溶媒溶液を基板上にブレードコーター等を用い、所定の厚みに塗布することができる。この場合の溶液の厚みは、例えば0.01〜5mm程度が好ましく、さらに好ましくは0.05〜1mmである。この厚み範囲では有機溶媒は短時間で蒸発し、得られる膜状の多層構造体に十分な力学的強度を付与することが可能となる。また、この塗布の厚みは、疎水性有機溶媒溶液中の有機ポリマー濃度と共に多孔質構造体に形成される孔の密度と孔の配列を制御するうえで重要である。
【0035】
(c)蒸発工程(工程3)
工程3は、前記基板上の疎水性有機溶媒溶液から、有機溶媒と親水性液体を蒸発させて、逆ミセルを鋳型とした多孔質膜を得る工程である。親水性液体としては、水が特に好ましい。
(c−1)有機溶媒の蒸発操作
有機溶媒と親水性液体が蒸発する温度において、親水性液体の蒸気圧より高い蒸気圧の有機溶剤を用いることで、有機溶媒が相対的に多く蒸発し、その後逆ミセル内の親水性液体が蒸発することにより、逆ミセルの鋳型を利用した多孔質膜が形成される。しかしながら上記したように、疎水性有機溶媒溶液から有機溶媒と親水性液体が蒸発する際に、有機溶媒の蒸気圧が親水性液体の蒸気圧より低い場合でも、親水性液体は有機溶媒と両親媒性物質によりシールされた状態にあるので、疎水性有機溶媒がある程度蒸発した時点で逆ミセル又はその鋳型構造が維持できる程度に溶液の粘度が上昇すれば、多孔質構造体の形成が可能となる。
この溶媒蒸発過程において、逆ミセル同士に働くファンデルワールス力や静電気力、逆ミセルと基板との摩擦力、毛細管力などにより、逆ミセルは自己組織的に規則配列する。そのため、逆ミセルを鋳型とする多孔質構造体の孔は比較的規則配列したものとなる。
この工程3において、周囲の温度、圧力などを変化させることにより、孔の配列規則性は制御可能である。温度を低くすると溶媒の蒸発速度が下がり、逆ミセルの自己組織的な配列に費やされる時間が長くなる。そのため、配列規則性は上がる。圧力を上げると、溶媒の蒸発が抑制され、やはり溶媒の蒸発速度が下がるため、配列規則性は上がる。また、超音波を照射することによっても、配列規則性を上げることが可能である。
【0036】
前記疎水性有機溶媒溶液と親水性液体の蒸発方法は特に制限されるものではないが、疎水性有機溶媒溶液が静置された状態で乾燥不活性ガス流通下に行うことが望ましい。乾燥不活性ガスとしては、乾燥空気又は乾燥不活性ガスが例示できる。この場合の乾燥不活性ガスは、好ましくは相対湿度70%以下、より好ましくは相対湿度50%以下、特に好ましくは相対湿度30%以下の空気又は不活性ガスである。この蒸発操作は減圧下、常圧下及び加圧下のいずれでも行うことができるが、蒸発速度を上げる場合には減圧下で行うことが望ましい。
(c−2)多孔質構造体の形成
疎水性有機溶媒と親水性液体の蒸発除去後に基板上に形成された多孔質構造体は、通常膜状である。この場合の膜の厚みは0.001〜1mmの範囲が好ましく、0.005〜0.1mmがより好ましい。この厚み範囲では多孔質構造体は十分な力学的強度を有し、形成される孔の貫通もしくは非貫通とすることの制御が比較的容易となる。このような多孔質構造体の厚みは、工程1における疎水性有機溶媒溶液中の有機ポリマー濃度、及び工程2における基板上の疎水性有機溶媒溶液の厚みにより制御することが可能である。
【0037】
(i)微細孔が均一に分布した多孔質構造体の形成
工程1において誘電率が5以下である疎水性有機溶媒を使用し、かつ工程3において前記疎水性有機溶媒の約90質量%の蒸発を好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内、特に好ましくは1分以内に終了する温度と圧力条件下で行うことにより、逆ミセルの鋳型から形成される孔が構造体内にほぼ均一に分布している構造体を形成することが可能となる。疎水性有機溶媒の蒸発速度は、系内における温度と圧力条件により制御することが可能であるが、系内の減圧度又は分圧を制御して行うのが望ましい。この場合に疎水性有機溶媒として20℃における比重が0.65〜0.90であるのものを使用すると均一分布性は向上する。
上記操作により、前記孔の平均孔径を0.1〜10μmとすることが可能である。
(ii)開口を有する多孔質構造体の形成
工程1において比重がいずれも親水性液体の比重よりも大きい前記有機ポリマー及び前記疎水性有機溶媒を使用し、かつ工程3において前記疎水性有機溶媒の約90質量%の蒸発を好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上要する温度と圧力条件下で行うことにより、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面開口孔の面積割合が60%以上、又は表面開口率が5%以上である構造体を形成することが可能になる。疎水性有機溶媒の蒸発速度は、系内における温度と圧力条件により制御することが可能であるが、系内の減圧度又は分圧を制御して行うのが望ましい。
尚、上記表面開口率に関しては、前述したように、溶質全体(親水性液体+有機ポリマー+両親媒性物質)に対する親水性液体の重量配合割合(親水性液体/[親水性液体+有機ポリマー+両親媒性物質])(以下、Rsということがある)が大きくなると孔の密度を相対的に大きくすることが可能であり、この際、有機ポリマーおよび両親媒性物質の濃度を一定とすると孔径が大きくしながら孔の密度を大きくすることができ、一方、水の濃度とともに両親媒性物質の濃度も大きくしながらRwを一定とすると、孔径は一定のまま孔の密度を大きくすることができる。
親水性液体として水を用いる場合、この場合に疎水性有機溶媒として20℃における比重が1.0〜1.6程度のものを使用すると形成される孔のうち開口孔の割合を向上させることができる。
この場合、前記開口孔の平均開口径を0.1〜100μmとすることが可能である。
(iii)貫通孔を有する多孔質構造体の形成
工程1における前記Rw(親水性液体水/両親媒性物質)を3ないし15とし、かつ工程3における疎水性有機溶媒蒸発後の多層構造体の厚みが1〜50μmとなるように工程2において前記疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストすることにより、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合が60%以上、又は貫通孔に基づく表面開口率が7%以上である構造体を形成することが可能となる。
尚、貫通孔に基づく表面開口率については、上記「開口を有する多孔質構造体の形成」の表面開口率に関して記載したと同様である。
この場合、前記貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径を1〜50μm、又は前記開口孔の平均開口径を1〜50μmとすることが可能である。
(iv)自己支持性を有する多孔質構造体の形成
また、工程3で形成された基板上の多孔質構造体から基板を除去して得られる多孔質構造体は、作業性等から自己支持性を有することが望ましい。自己支持性とは、構造体自体が自立性を有することをいい、有機ポリマーの選択及び多孔質構造体の厚みの設計により自己支持性を付与することは可能である。
【0038】
(d)その他
本発明において、工程1の疎水性有機溶媒溶液中に両親媒性物質、有機ポリマー、有機溶媒、疎水性有機溶媒、水、及び該水相中に分散した金属、合金又は金属化合物粒子を含有させておくと、その後の上記工程2及び工程3を経て得られた多孔質構造体の孔中に前記金属、合金又は金属化合物微粒子を含ませることが可能となる。
同様に工程1の疎水性有機溶媒溶液中に機能性材料を含有させておくと、その後の上記工程2及び工程3を経て得られた多孔質構造体の孔中に該機能性材料を含ませることが可能となる。すなわち、工程1で使用する疎水性有機溶媒溶液を両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、疎水性有機溶媒、水、及び該水相中に分散又は溶解した機能性材料からなる組成とすると、工程3で得られた多孔質構造体の孔中に該機能性材料が含まれてくる。この場合、該機能性材料としては、Au、Ag、Cu、Pt、Fe、Ni、Co、Mn、Cr及びTi等の内の少なくとも1種の金属、半導体材料、酸化物、セラミックス材料、金属錯体、強誘電体材料、強磁性体材料、抵抗変化材料、相変化材料、光機能材料、並びに蛍光機能材料から選択される少なくとも1種が例示できるが、これら以外の機能性材料も使用することが可能である。尚、前記酸化物には、金属酸化物に限らず、必要に応じて、シリコン酸化物等の非金属の酸化物も含めることができる。
【0039】
[2] 実施形態2
実施形態2に係る「多孔質構造体に機能性材料を充填する方法」は、実施形態1で得られる多孔質構造体、あるいは該多孔質構造体から両親媒性物質を除去した有機ポリマーからなる多孔質の構造体に、機能性材料を充填することを特徴とする。
このような充填方法としては、(a)電着法による金属の充填方法、(b)ディッピング法もしくはスピンコート法による有機金属を充填後、前記有機金属を熱処理する金属酸化物の充填方法、(c)気相蒸着法による金属酸化物の充填方法、又は(d)スパッタリング法による相変化材料の充填を利用した充填方法が例示できる。尚、電着法による金属の充填法には、金属単体の他、交互にパルス電流を流すなどして合金を充填することも含まれる。前記(a)ないし(d)に記載する多孔質の構造体への充填方法については公知の方法を採用することができる。
工程3で得られる多孔質構造体から両親媒性物質の除去法としては、水等の溶媒を使用して洗浄することにより両親媒性物質を除去することが可能であるが、両親媒性物質が分子量10000以下の場合に特に水等の溶媒を使用した洗浄等による除去が容易になる。また、必要に応じて、両親媒性物質を除去せずに、機能性材料を充填することも可能である。尚、上記(a)〜(d)に記載する充填方法としては、公知の方法を採用することができる。
【0040】
[3] 実施形態3
実施形態3に係る「多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液」は、少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる疎水性有機溶媒溶液であって、撹拌により逆ミセルが形成される、ことを特徴とする。
実施形態3に係る多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液は、実施形態1の多孔質構造体の製造方法における、工程1に記載した方法により製造されるものであり、その成分は、少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなり、
該溶液を撹拌すると、逆ミセルが形成されものである。
【0041】
前記親水性液体が水である場合には、該水と両親媒性物質の重量配合比Rw(水/両親媒性物質)が0.01ないし15であり、有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であることを特徴とする。
上記RwとRpの好ましい範囲については、実施形態1の項に記載したのと同様である。
【0042】
実施形態3の疎水性有機溶媒溶液中の疎水性有機溶媒は、誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1,2,-ジクロロエチレン、から選ばれた1種以上であることが好ましい。
実施形態3で使用する疎水性有機溶媒については、実施形態1の項で記載したと同じである。
【0043】
実施形態3の両親媒性物質は、ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
実施形態3で使用する両親媒性物質については、実施形態1の項で記載したと同じである。
【0044】
実施形態3の有機ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた1種、または相溶性を有する(疎水性有機溶媒蒸発後に相分離を生じない)2種以上の有機ポリマーであることが好ましい。
実施形態3で使用する有機ポリマーについては、実施形態1の項で記載したと同じである。
【0045】
[4] 実施形態4
実施形態4に係る多孔質構造体(以下「多孔質構造体A」という)は、疎水性を有する有機ポリマー、及び分子量が10000以下の親水基に陰イオン性基を有する両親媒性物質から構成される多孔質構造体であって、該両親媒性物質が孔の辺縁部を構成し、かつ各孔が該有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られていて該構造体の表面と平行方向に連通していないことを特徴とする。
このような多孔質構造体Aは、実施態様1の工程1において特に親水基に陰イオン性基を有する両親媒性物質を使用することにより、親水基同士の静電反発力により、逆ミセル同士の距離が大きくなる。更に、分子量が10000以下の低分子量の両親媒性物質を用いることで、高分子量のものと比較してミセル同士が静電反発力でより分散し易くなる。その結果、形成された空孔同士の距離が最も小さい部分においてもある程度の厚みを有することから、該構造体の表面と平行方向に空孔同士で連通せず、各孔が該有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られている構造体となる。
【0046】
多孔質構造体Aの製造方法は、実施形態1の工程1ないし3に記載した方法と基本的に同様であり、使用する有機ポリマーは実施形態1の工程1に記載したものと同様のものを例示できる。
分子量が10000以下の親水基にイオン性基を有する両親媒性物質において、親水性基を構成する陰イオンとしては−COO、−SO等がある。尚、両親媒性物質として親水基に陰イオンを含む両親媒性物質は、親水基にジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオンなどの陽イオンを含む両親媒性脂質類等よりも一般にミセルの分散安定化作用が高く、耐熱性に優れるために工業的用途としてより好ましい。
分子量が10000以下の親水基に陰イオン性基を有する両親媒性物質としては、ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、及びジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムから選ばれた1種以上が例示できるがこれらに限定されるものではない。
実施形態4で得られる多孔質構造体として、下記(i)〜(iii)が例示できる。これらの形成については実施形態1に記載した通りである。
(i)前記構造体中の孔が構造体内にほぼ均一に分布しており、その平均孔径が0.1〜10μmである多孔質構造体
(ii)前記構造体の構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面の開口孔の面積割合が60%以上、又は表面開口率が5%以上であり、かつ該開口孔の平均開口径が0.1〜100μmである多孔質構造体
(iii)前記構造体の構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合が60%以上、又は貫通孔に基づく表面開口率が7%以上であり、かつ該貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径が1〜50μm、又は前記貫通孔の平均開口径が1〜50μmである多孔質構造体
【0047】
多孔質構造体Aにおいては、実施形態1に記載したと同様に、多孔質構造体が自己支持性を有する多孔質膜であること、多孔質構造体の孔の平均開口径が0.1〜100μmであること、及び、多孔質構造体が膜状であり、かつその厚みが0.001〜1mmであることが望ましい。
【0048】
多孔質構造体Aにおいては、実施形態2に記載した充填法を採用することにより、多孔質構造体の孔内に金属、合金又は金属化合物微粒子を存在させることが可能である。また、同様に多孔質構造体の孔内にAu、Ag、Cu、Pt、Fe、Ni、Co、Mn、Cr及びTi等の内の少なくとも1種の金属、半導体材料、酸化物、セラミックス、金属錯体、強誘電体材料、強磁性体材料、抵抗変化材料、相変化材料、光機能材料、並びに蛍光機能材料の1種からなる材料を微粒子又は水溶液等の形で存在させることが可能であるがこれら以外の機能性材料も使用することが可能である。尚、前記酸化物には、金属酸化物に限らず、必要に応じて、シリコン酸化物等の非金属の酸化物も含めることができる。
また、多孔質構造体Bにおいては、実施形態1に記載したと同様に、多孔質構造体Bが基板上に形成されていてもよく、該基板がガラス等の無機基板、金属、シリコン酸化物等のセラミックス基板、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレン等の有機物基板から選ばれたいずれか1種あるいはこれらのいずれか1種以上を複合した基板を用いることができる。
【0049】
[5] 実施形態5
実施形態5に係る光学フィルター又は回折素子は、実施形態4に記載の多孔質構造体Aの表面に形成された孔とその孔以外の部分の厚みの差を利用して、光学フィルターや回折素子等として利用するものである。
【0050】
実施形態1により製造される多層構造体、又は多孔質構造体Aは、半導体、キャパシタ、磁気メモリ、メモリ、DVD、発光デバイス、又はバイオチップ等の分野で広く使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(i)本実施例、比較例において以下の評価方法を採用した。
(イ)疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルのミセル径測定
レーザー回折装置(レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置、型式:LA-920、(株)堀場製作所製)を使用して測定を行った。
(ロ)多孔質構造体の断面観察
走査型電子顕微鏡(SEM)(型式:JSM−6330F、日本電子(株)製)を使用して、表面に垂直に切削し断面出しした構造体の観察を行った。
(ハ)ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス由来のS(イオウ)成分濃度分布の分析
エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて、S成分濃度分布の分析を行った。
(ニ)孔がほぼ均質に分布している多孔質構造体の孔の平均孔径及び断面空孔率の測定法
走査型電子顕微鏡による膜断面観察結果から、孔部のほぼ中心断面に近いものを任意に5個抽出し、それぞれの孔部の構造体表面と平行方向の孔径を測定し、その平均値を平均孔径とした。同様に、膜断面観察結果から、孔部面積の膜断面積全体に占める割合を算出し、断面空孔率とした。
(ホ)孔のうち開口孔が60%以上である構造体の、断面における孔の全面積に対する非貫通開口孔の面積割合、平均開口径、及び表面開口率の測定法
走査型電子顕微鏡による多孔質構造体の任意の断面における孔の全面積のうち非貫通開口孔の面積割合を求めた。膜表面観察結果から、非貫通開口孔10点を無作為に抽出して孔径を測定し、その平均値を平均開口径とした。同様に、膜表面観察結果から、非貫通開口孔の面積が膜表面積全体に占める割合を算出し、表面開口率とした。
(ヘ)孔のうち貫通孔が60%以上である構造体の、構造体表面と平行方向の平均孔径の測定法
上記(ホ)に記載したと同様の方法で測定を行った。
【0052】
(ii)本実施例、比較例において使用した試料、及びその略号を以下に示す。
(イ)ポリスチレン:出光石油化学(株)製(商品名:HH30)のものを使用した。
(ロ)ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)(AOT):アルドリッチ社製を使用した(分子量:444)。
(ハ)ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス(PIC):ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミド(東京化成製)1.0 gの2%超音波分散液とポリスチレンスルホン酸ナトリウム(アルドリッチ社製)0.24 gの0.5%水溶液を60℃において攪拌し、生じた白色沈殿を吸引ろ過により回収し、クロロホルムに溶解させた。このクロロホルム溶液に無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させ、自然ろ過により無水硫酸ナトリウムを除いた後、過剰量のエタノールと混合して再沈殿させた。デカンテーションにより無色透明なPIC(分子量:10000以上)の精製物を得た。
(ニ)混合キシレン:エチルベンゼン(15wt%)、オルソキシレン(22wt%)、メタキシレン(44wt%)、及びパラキシレン(19wt%)からなる混合溶液を使用した。
【0053】
[実施例1〜3]
実施例1〜3において、疎水性有機溶媒として、トルエン(誘電率:2.38)、混合キシレン(誘電率:2.40)、及びクロロホルム(誘電率:4.81)をそれぞれ使用して以下に示す疎水性有機溶媒溶液を調製し、該溶液中に存在する逆ミセルの平均孔径の経時変化を測定した。
実施例1において、有機ポリマーとしてポリスチレン1.00gと、両親媒性物質AOT1.00gとを混合し、この混合物をトルエン20.00mlに溶解し、さらに水0.50mlを添加して5分間超音波分散し(使用した超音波分散器:シャープ(株)製、型式:UT-204、以下の実施例において同じ超音波分散器を使用した)、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。この溶液中の有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(〔有機ポリマー〕/(〔有機ポリマー〕+〔両親媒性物質〕))は0.50、水と両親媒性物質の重量配合比Rw(水/両親媒性物質)は0.50である。得られた溶液を攪拌子により攪拌しながら5分ごとにミセル径分布をレーザー回折装置により測定した。その経時変化の測定を図1に示す。図1における平均ミセル径は、0分後に1.51μm、5分後に1.50μm、10分後に1.48μm、15分後に1.42μmであり、安定していた。
同様に実施例2、3において、疎水性有機溶媒として実施例1におけるトルエンの代わりに、実施例2では混合キシレン、実施例3ではクロロホルムを用いた以外は実施例1に記載したと同様の方法で疎水性有機溶媒溶液を調製した。得られた溶液を実施例1で行ったと同様の方法で逆ミセルの平均孔径の経時変化を測定した。その経時変化の測定結果をそれぞれ図2,3に示す。
図2における平均ミセル径は、0分後に14.69μm、5分後に8.38μm、10分後に3.19μmであった。また、図3における平均ミセル径は、0分後に159.10μm、5分後に174.49μm、10分後に151.86μm、15分後に129.46であった。
測定結果から疎水性有機溶媒の誘電率が低い方が、すなわち非極性溶媒の方が逆ミセルの平均孔径は小さくなり、またその経時変化が少ない傾向になることが確認された。
これらの平均孔径の経時変化を測定から、逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成後に、疎水性有機溶媒と親水性液体を蒸発させる工程の操作時間の目安を得ることができる。
【0054】
[実施例4、5]
実施例4において、実施例1で得た逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液をブレードコーターを用い厚さ300μmでポリエチレンテレフタレート(PET)基板(10cm×10cm)上に塗布した。撹拌により逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成してから、ほぼ30秒経過後にこの溶液を塗布したPET基板を蒸発用容器内で基板から3cm高い位置に設けられた乾燥空気吹込用パイプ(1mmφの孔が3cmの等間隔に斜め下方向に4個設けられたもの)を利用して該基板の一方の端の斜め上方向から基板に向かって、温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速1(L/min)で流しながら溶媒を約3分間で自然蒸発させ(以下の実施例において、工程3における乾燥用空気の流量と蒸発時間を変える以外は同様の蒸発方法を採用した。)、PET基板上に膜厚3.12μmの薄膜を得た。
光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜中にはほぼ均一に微細孔が分布しており、その平均孔径は1.66μmで、断面空孔率は22.2%であった。
実施例5において、水の使用量を0.25mlとしてRwを0.25、Rsを0.11とした以外は上記実施例4と同様にして逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成し、ガラス基板上にキャスト後、溶媒を自然蒸発させ、ガラス基板上に膜厚1.41μmの薄膜を得た。光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜中の微細孔分布は実施例4とほぼ同様で、その平均孔径が1.15μmで、断面空孔率が24.3%であった。これらの実験条件と結果をまとめて、表3に示す。
【0055】
[実施例6、7]
実施例6において、実施例2で得た逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液をブレードコーターを用いて厚さが300μmとなるようにポリエチレンテレフタレート(PET)基板(10cm×10cm)上に塗布した。撹拌により逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成してから、ほぼ30秒経過後にこの溶液を塗布したPET基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速1(L/min)で流しながら溶媒を約7分間で自然蒸発させ、PET基板上に膜厚2.90μmの薄膜を得た。
光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜中にはほぼ均一に微細孔が分布しており、その平均孔径は1.63μmで、断面空孔率は27.3%であった。
実施例7において、水の使用量を0.25mlとしてRwを0.25、Rsを0.11とした以外は上記実施例6と同様にして逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成し、PET基板上にキャスト後、溶媒を自然蒸発させ、ガラス基板上に膜厚1.10μmの薄膜を得た。光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜の微細孔分布は実施例6とほぼ同様で、その平均孔径は1.07μmで、断面空孔率は24.2%であった。これらの実験条件と結果をまとめて、表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
[実施例8、9]
実施例8において、実施例3で得た逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液をブレードコーターを用いて厚さが300μmになるようにポリエチレンテレフタレート(PET)基板(10cm×10cm)上に塗布した。撹拌により逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成してから、ほぼ30秒経過後にこの溶液を塗布したPET基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速1(L/min)で流しながら溶媒を約1分間で自然蒸発させ、PET基板上に膜厚3.41μmの薄膜を得た。
光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜中にはほぼ均一に微細孔が分布しており、その平均孔径は1.41μmで、断面空孔率は19.6%であった。
実施例9において、水の使用量を0.25mlとしてRwを0.25、Rsを0.11とした以外は上記実施例8と同様にして逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成し、PET基板上にキャスト後、溶媒を自然蒸発させ、PET基板上に膜厚4.88μmの薄膜を得た。光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜の微細孔分布は実施例6とほぼ同様で、その平均孔径は1.00μmで、断面空孔率は22.4%であった。これらの実験条件と結果をまとめて、表4に示す。
【0058】
[実施例10、11、12]
疎水性有機溶媒として、トルエンを使用して疎水性有機溶媒溶液から得られる多孔質構造体の断面空孔率の制御が可能であることの確認実験を行った。
実施例10において、有機ポリマーとしてポリスチレン0.54gと、両親媒性物質AOT0.06gとをトルエン6.00mlに溶解し、さらに水0.03mlを添加して3分間超音波分散し、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。この溶液中の有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(〔有機ポリマー〕/(〔有機ポリマー〕+〔両親媒性物質〕))は0.90、水と両親媒性物質の重量配合比Rw(水/両親媒性物質)は0.50である。
上記で得られた逆ミセルを含有する疎水性有機溶媒溶液をブレードコーターを用い厚さ300μmでポリエチレンテレフタレート(PET)基板(10cm×10cm)上に塗布した。撹拌により逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成してから、ほぼ30秒経過後にこの溶液を塗布したPET基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速1(L/min)で流しながら溶媒を約3分間で自然蒸発させ、PET基板上に膜厚7.80μmの薄膜を得た。光学顕微鏡による観察から、得られた薄膜中にはほぼ均一に微細孔が分布しており、平均孔径は1.22μmで、空孔率は4.32%であった。
実施例11、12において、有機ポリマー、両親媒性物質AOT、トルエン、及び水を表4に示す量使用した以外は、実施例10に記載したと同様の方法でPET基板上薄膜を得た。
有機溶媒の比重にかかわらず、蒸発時間が比較的短い場合には、溶液全体に均一にミセルが存在した状態のまま溶媒が蒸発するため、孔が膜全体に均一に分布し、膜上下の開口率が小さく膜内部に多数の空孔を有する多孔膜を得られたものと推定される。
これらの実験条件と結果をまとめて表4に示す。これらの実験から条件設定により、多孔質構造体の断面空孔率の制御が可能であることが確認された。
【0059】
【表4】

【0060】
[実施例13]
ポリスチレン(出光石油化学(株)製、商品名:HH30)0.03gと、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス(PIC)0.23gを混合し、この混合物をクロロホルム3mlに溶解し、さらに水0.1gを添加して約5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。水と両親媒性物質の重量配合比(Rw)は0.43、有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合(Rp)は0.1であった。
この溶液をブレードコーターを用いて厚さ100μmとなるようにガラス基板上に塗布した。疎水性有機溶媒溶液を調製してから約30秒経過後に、この溶液を塗布したガラス基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速3(L/min)で流しながら溶媒と水を約1分間で自然蒸発させ、ガラス基板上に開口を有する膜厚4μmの薄膜を得た。
走査型電子顕微鏡による膜断面観察結果から、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面の開口孔の面積割合が60%以上であった。
得られた膜の平均開口径は0.75μm、光学顕微鏡観察を用いて求めた表面開口率は、6.7%であった。得られた多孔質膜の光学顕微鏡観察図を図7(孔部は黒色で示す)に示す。また、エネルギー分散型蛍光X線分析装置による分析から、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス由来のS成分の濃度分布が孔辺縁部において特に高いことを確認した。これらの実験条件と結果をまとめて、表5に示す。
【0061】
[実施例14]
ポリスチレン(出光石油化学(株)製、商品名:HH30)0.67gと、ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)5.00gを混合し、この混合物をクロロホルム20mlに溶解し、さらに水5.0gを添加して約5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。この溶液中の有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(〔有機ポリマー〕/(〔有機ポリマー〕+〔両親媒性物質〕))は0.12水と両親媒性物質の重量配合比Rw(〔水/両親媒性物質〕)は1.0である。
この溶液をブレードコーターを用いて厚さ100μmでガラス基板上に塗布した。疎水性有機溶媒溶液を調製してから約30秒経過後に、この溶液を塗布したガラス基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速3(L/min)で流しながら溶媒を約1分間で自然蒸発させ、ガラス基板上に、貫通孔を有する膜厚1.18μmの薄膜を得た。
光学顕微鏡による観察から、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合が60%以上であり、得られた薄膜は平均開口径が10.89μmの微細孔を有し、表面開口率は36.6%であることを確認した。
得られた多孔質膜の斜め45度上方から見た光学顕微鏡で観察した斜視像を図8に示す。
【0062】
[実施例15〜18]
クロロホルムを有機溶媒に用いて、水と両親媒性物質の配合比Rwを0.50、1.0、3.0、5.0となる条件を選んで、貫通孔を多く有する薄膜を形成した。
実施例15において、ポリスチレン(出光石油化学(株)製、商品名:HH30)0.67gと、ビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)1gを混合し、この混合物をクロロホルム20mlに溶解し、さらに水0.5gを添加して約5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。この溶液中の有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(〔有機ポリマー〕/(〔有機ポリマー〕+〔両親媒性物質〕))は0.4、水と両親媒性物質の配合比Rw(〔水/両親媒性物質〕の重量比)は0.5である。
この溶液をブレードコーターを用い厚さ100μmでガラス基板上に塗布した。疎水性有機溶媒溶液を調製してから約30秒経過後に、この溶液を塗布したガラス基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速3(L/min)で流しながら溶媒を約1分間自然蒸発させ、ガラス基板上に膜厚9.1μmの薄膜を得た。
光学顕微鏡による断面観察から、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通している孔の面積割合が60%以上であり、表面観察からその貫通孔の膜表面と平行方向の平均孔径が10.9μm、平均開口径が8.2μmの微細孔を有し、表面開口率は8.9%であることを確認した。また、エネルギー分散型蛍光X線分析装置による分析から、ビス(2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)由来のS成分の濃度分布が孔辺縁部において特に高いことを確認した。
【0063】
実施例16ないし18において、両親媒性物質の添加量を一定として、水の添加量を1.00g(実施例16)、3.00g(実施例17)、5.00g(実施例18)とした。その他の条件は実施例15と同様にして膜を作製した。光学顕微鏡による断面観察から、得られた構造体の表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合が60%以上であり、また光学顕微鏡観察から平均開口径及び表面開口率を求めた。
逆ミセル溶液調製条件(各成分、Rw及びRp)、並びに平均開口径、表面開口率、及び膜厚の測定結果を表5にまとめて示す。
【0064】
【表5】

【0065】
[比較例1]
比較例1において、実施例15で用いたと同様の成分を使用して、両親媒性物質1.0g、有機ポリマー0.67g、水0.25g、クロロホルム20mlの配合割合とし、マグネチック・スターラーを用いて撹拌を約30秒間とした以外は実施例15と同様にして膜を作製した。
Rwは0.25、Rpは0.4であった。
得られた膜を光学顕微鏡で観察した。その結果、微細孔は確認されなかった。
比較的孔径の大きい逆ミセルが多く存在し、また有機溶媒として比重が比較的大きいクロロホルムを使用していたので、溶媒の蒸発時には表面に逆ミセルが多く分布して微細孔は殆ど形成されなかった。
【0066】
[実施例19〜21]
実施例19〜21において、有機ポリマー以外の配合量を一定として、有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(〔有機ポリマー〕/(〔有機ポリマー〕+〔両親媒性物質〕))が0.1〜0.6の範囲となる条件で多孔質構造体を作製した。
実施例19〜21において、水と両親媒性物質の添加量は一定(Rw:0.5)とし、有機ポリマーをRpが0.1(実施例19)、0.2(実施例20)、0.6(実施例21)となるように添加した。その他の条件は実施例15と全く同様にして多孔質膜を作製した。
光学顕微鏡による断面観察から、得られた構造体の表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通している孔の面積割合がすべて60%以上であり、また光学顕微鏡観察から平均開口径及び表面開口率を求めた。尚、表面観察から実施例19において貫通孔の膜表面と平行方向の平均孔径は13.6μmであった。逆ミセル溶液調製条件(各成分、Rw及びRp)、並びに平均開口径、表面開口率、及び膜厚の測定結果を併せて表6にまとめて示す。
【0067】
【表6】

【0068】
[比較例2]
比較例2において、実施例19で用いたと同様の成分を使用して、両親媒性物質1.0g、有機ポリマー9.0g、水0.5g、クロロホルム20mlの配合割合とし、マグネチック・スターラーを用いて撹拌を約30秒間とした以外は実施例19と同様にして膜を作製した。
Rwは0.50、Rpは0.90であった。
比較例2において、微細孔は確認されなかった。逆ミセルを形成する際の撹拌が不十分であり、また相対的に有機ポリマー量が多く、両親媒性物質が少ない条件であったために膜全体における逆ミセルの割合が少なくなり、微細孔が確認されなかったと思われる。
【0069】
[実施例22]
多孔質膜に機能性材料として銅微粒子を多孔質構造体に導入する実験を行った。
実施例15において、添加する水0.5gに更に銅微粒子(平均粒径50nm)3.5mgを配合して、スターラーで約5分間攪拌して分散させ、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。この溶液をブレードコーターを用い厚さ0.5mmでガラス基板上に塗布した後、実施例15と同様に有機溶媒と水を自然蒸発させ、貫通孔を多く有する膜厚6μmの薄膜を得た。光学顕微鏡による観察から、平均開口径5μmの微細孔を有し、該細孔内に選択的に銅微粒子が存在することを確認した。
【0070】
[実施例23〜25]
疎水性有機溶媒と水の配合量を一定として、有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(〔有機ポリマー〕/(〔有機ポリマー〕+〔両親媒性物質〕))が0.12〜0.6の範囲となる条件で、平均開口径を制御する実験を行った。
実施例13に記載したと同様に、実施例23〜25において、表7に示す量のポリスチレンと、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス(PIC)とをクロロホルム3mlに溶解し、さらに水0.1gを添加して5分間超音波分散し、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を調製した。それぞれの成分の配合比等は表7に示す。この溶液をブレードコーターを用いて厚さ100μmでガラス基板上に塗布した。疎水性有機溶媒溶液を調製してから約30秒経過後に、この溶液を塗布したガラス基板上に温度26℃で乾燥空気(相対湿度17%)を流速3(L/min)で流しながら有機溶媒と水を自然蒸発させ、ガラス基板上に膜厚4μmの薄膜を得た。
光学顕微鏡による断面観察から、得られた構造体の表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通孔の面積割合が60%以上であり、また光学顕微鏡観察から平均開口径及び表面開口率を求めた。
逆ミセル溶液調製条件(各成分、Rw及びRp)、並びに平均開口径、表面開口率、及び膜厚の測定結果を併せて表7に示す。
【0071】
【表7】

【0072】
[比較例3]
実施例15において、疎水性有機溶媒溶液に水のみを添加せず、その他は実施例15と全く同様にして成膜を行った。光学顕微鏡による観察を行ったが、フィルム表面は平滑であり、細孔は観察されなかった。
【0073】
本発明の方法により得られる多層構造体は、光学フィルターや回折素子等として利用することが可能であり、また半導体、キャパシタ、磁気メモリ、メモリ、DVD、発光デバイス、又はバイオチップ用の分野で広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1における疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルの孔径分布の経時変化を示す。
【図2】実施例2における疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルの孔径分布の経時変化を示す。
【図3】実施例3における疎水性有機溶媒溶液中の逆ミセルの孔径分布の経時変化を示す。
【図4】実施例4、5で作製した、Rwが0.25(図(A))及びRwが0.50(図(B))であるときの多孔質構造体の断面図を示す。
【図5】実施例6、7で作製した、Rwが0.25(図(A))及びRwが0.50(図(B))であるときの多孔質構造体の断面図を示す。
【図6】実施例8、9で作製した、Rwが0.25(図(A))及びRwが0.50(図(B))であるときの多孔質構造体の断面図を示す。
【図7】実施例13で作製した、開口孔を有する多孔質膜の光学顕微鏡観察図を示す。
【図8】実施例14で作製した、貫通孔を有する多孔質膜の斜め45度上方から見た光学顕微鏡観察による斜視像である。
【図9】実施例13、23〜25で得られた多孔性膜におけるRwと平均開口径の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)ないし(iii)に記載する工程を含む、疎水性有機溶媒溶液中に形成された逆ミセルの鋳型を孔の形成に利用する多孔質構造体の製造方法。
(i)少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる溶液を撹拌して、逆ミセルが形成された疎水性有機溶媒溶液を得る工程(工程1)
(ii)前記疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストする工程(工程2)
(iii)前記基板上の疎水性有機溶媒溶液から、疎水性有機溶媒と親水性液体を蒸発させて多孔質の構造体を形成する工程(工程3)
【請求項2】
工程1における親水性液体と両親媒性物質の重量配合比Rw(親水性液体/両親媒性物質)が0.1ないし15であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
工程1における有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性有機溶媒が、20℃における誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1,2,-ジクロロエチレン、
並びに20℃における誘電率が5を越える、酢酸ブチル、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロルエタン、シス1,2−ジクロロエタン、及びイソブチルメチルケトン
から選ばれた1種以上である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
前記両親媒性物質がビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた1種以上である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項6】
前記有機ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた1種以上である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項7】
前記基板がガラス、金属、セラミックス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレンから選ばれたいずれか1種あるいはこれらのいずれか1種以上を複合した基板であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項8】
工程1で逆ミセルを含む疎水性有機溶媒溶液を形成した後、工程2で基板上に前記疎水性有機溶媒溶液の厚みが0.01〜5mmになるようにキャストすることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項9】
工程3における疎水性有機溶媒と親水性液体の蒸発を乾燥ガス流通下で行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥ガスが乾燥空気又は乾燥不活性ガスであることを特徴とする請求項9に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項11】
工程3の蒸発温度における疎水性有機溶媒の蒸気圧が親水性液体の蒸気圧の0.3倍以上であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項12】
工程1における20℃での誘電率が5以下で同温度での比重が0.65〜0.90である前記疎水性有機溶媒を使用し、かつ工程3における前記疎水性有機溶媒の蒸発を行うことにより、逆ミセルの鋳型から形成される孔が構造体内にほぼ均一に分布している構造体を形成することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項13】
前記工程3で形成される、前記構造体の孔(開口及び貫通している孔を除く)の径の平均値が0.1〜10μmである請求項12に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項14】
工程1における比重が親水性液体の比重よりも大きい前記有機ポリマー及び/又は前記疎水性有機溶媒を使用し、かつ工程3における前記疎水性有機溶媒の蒸発により、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面で開口(貫通を除く)している孔(開口孔)の面積割合が60%以上、又は表面開口率が5%以上である構造体を形成することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項15】
前記工程3で形成される、前記開口孔の平均開口径が0.1〜100μmである請求項14に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項16】
工程1における前記Rw(親水性液体/両親媒性物質)を3ないし15とし、工程2において工程3における疎水性有機溶媒蒸発後の多層構造体の厚みが1〜50μmとなるように前記疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストし、かつ工程3における前記疎水性有機溶媒の蒸発により、構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通している孔(貫通孔)の面積割合が60%以上、又は貫通孔に基づく表面開口率が7%以上である構造体を形成することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項17】
前記工程3で形成される、前記貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径が1〜50μm、又は前記貫通孔の平均開口径が1〜50μmである請求項16に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項18】
前記工程3で形成された基板上の多孔質構造体から基板を除去して得られる多孔質構造体が自己支持性を有することを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項19】
工程1の疎水性有機溶媒溶液が両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、疎水性有機溶媒、親水性液体、及び該親水性液体相中に分散した金属、合金又は金属化合物微粒子からなり、かつ工程3で得られた多孔質構造体の孔中に前記金属、合金又は金属化合物微粒子が含まれていることを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項20】
工程1の疎水性有機溶媒溶液が両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、疎水性有機溶媒、親水性液体、及び該親水性液体相中に分散又は溶解した機能性材料からなり、かつ工程3で得られた多孔質構造体の孔中に該機能性材料が含まれており、該機能性材料がAu,Ag,Cu,Pt,Fe,Ni,Co,Mn,Cr及びTiからなる金属、半導体材料、酸化物、セラミックス材料、金属錯体、強誘電体材料、強磁性体材料、抵抗変化材料、相変化材料、光機能材料、並びに蛍光機能材料から選択される1種以上の機能性材料であることを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項21】
請求項1に記載する多孔質構造体の製造方法で得られた開口又は貫通孔を有する多孔質構造体、あるいは請求項1に記載する多孔質構造体の製造方法で得られた開口又は貫通孔を有する多孔質構造体から両親媒性物質を除去した有機ポリマーからなる多孔質の構造体に、更に機能性材料を充填する方法であって、該機能性材料の充填方法が、(a)電着法による金属の充填方法、(b)ディッピング法もしくはスピンコート法による有機金属を充填後、前記有機金属を熱処理する金属酸化物の充填方法、(c)気相蒸着法による金属酸化物の充填方法、又は(d)スパッタリング法による相変化材料の充填を利用した充填方法であることを特徴とする有機ポリマーからなる多孔質構造体に機能性材料を充填する方法。
【請求項22】
少なくとも両親媒性物質、疎水性を有する有機ポリマー、親水性液体及び該有機ポリマーを溶解する疎水性有機溶媒からなる疎水性有機溶媒溶液であって、撹拌により逆ミセルが形成されることを特徴とする、多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液。
【請求項23】
前記親水性液体と両親媒性物質の重量配合比Rw(親水性液体/両親媒性物質)が0.01ないし15であり、有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合Rp(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であることを特徴とする、請求項22に記載の多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液。
【請求項24】
前記疎水性有機溶媒が、誘電率が5以下であるノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルヘプタン、ノルマルデカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、混合キシレン、四塩化炭素、クロロホルム、及びトランス1,2,-ジクロロエチレン、から選ばれた少なくとも1種である請求項22又は23に記載の多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液。
【請求項25】
前記両親媒性物質がビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムとポリスチレンスルホン酸のポリイオンコンプレックス、エチレングリコールとプロピレングリコールから得られるブロックコポリマー、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドから得られるブロックコポリマーから選ばれた少なくとも1種である請求項22ないし24のいずれか1項に記載の多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液。
【請求項26】
前記有機ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた少なくとも1種である請求項22ないし25のいずれか1項に記載の多孔質構造体製造用疎水性有機溶媒溶液。
【請求項27】
疎水性を有する有機ポリマー、及び分子量が10000以下の親水基に陰イオン性基を有する両親媒性物質から構成される多孔質構造体であって、該両親媒性物質が孔の辺縁部を構成し、かつ各孔が該有機ポリマーからなる仕切壁により仕切られていて該構造体の表面と平行方向に連通していないことを特徴とする多孔質構造体。
【請求項28】
前記両親媒性物質がビス(2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、及びジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種である請求項27に記載の多孔質構造体。
【請求項29】
前記有機ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、シクロポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリアミドイミドから選ばれた少なくとも1種である請求項27又は28に記載の多孔質構造体。
【請求項30】
前記多孔質構造体中の有機ポリマーと両親媒性物質の重量配合割合(有機ポリマー/〔有機ポリマー+両親媒性物質〕)が0.1ないし0.9であることを特徴とする請求項27ないし29のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項31】
前記多孔質構造体が自己支持性を有する多孔質膜である請求項27ないし30のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項32】
前記構造体中の孔が構造体内にほぼ均一に分布しており、その平均孔径(開口及び貫通している孔を除く)が0.1〜10μmである請求項27ないし31のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項33】
前記構造体の構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち表面で開口している孔(開口孔)の面積割合が60%以上、又は表面開口率が5%以上であり、かつ該開口孔の平均開口径が0.1〜100μmである請求項27ないし31のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項34】
前記構造体の構造体表面に垂直な断面における孔の全面積のうち貫通している孔(貫通孔)の面積割合が60%以上、又は貫通孔に基づく表面開口率が7%以上であり、かつ該貫通孔の構造体表面と平行方向の平均孔径が1〜50μm、又は該貫通孔の平均開口径が1〜50μmである請求項27ないし31のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項35】
前記多孔質構造体が膜状であり、かつその厚みが0.001〜1mmであることを特徴とする請求項27ないし34のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項36】
前記多孔質構造体の孔内に金属、合金又は金属化合物微粒子が存在することを特徴とする請求項27ないし35のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項37】
前記多孔質構造体の孔内に、Au,Ag,Cu,Pt,Fe,Ni,Co,Mn,Cr及びTiの内の少なくとも1種の金属、半導体材料、酸化物、セラミックス材料、金属錯体、強誘電体材料、強磁性体材料、抵抗変化材料、相変化材料、光機能材料、並びに蛍光機能材料から選択される1種の機能性材料が存在することを特徴とする請求項27ないし35のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項38】
前記多孔質構造体が基板上に形成されていることを特徴とする請求項27ないし37のいずれか1項に記載の多孔質構造体。
【請求項39】
前記基板がガラス、金属、セラミックス基板、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレンから選ばれたいずれか1種あるいはこれらのいずれか1種以上を複合した基板であることを特徴とする請求項38に記載の多孔質構造体。
【請求項40】
請求項27ないし39のいずれか1項に記載の多孔質構造体の表面に形成された孔とその孔以外の部分の厚みの差を利用した、光学フィルター又は回折素子。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−46042(P2007−46042A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191742(P2006−191742)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】