説明

多導体送電線用スペーサ

【課題】簡単な構造により溶接が不要で部品点数の削減と軽量化とを実現でき、支持物や作業者の負担を軽減して電線を正しく保持できる多導体送電線用スペーサを提供する。
【解決手段】本発明の多導体送電線用スペーサは、方形(多角形)の枠体辺に連結する間隔体14と、この方形の各角部に配置されて円筒状で肉厚外周Xを有した円筒面13aを外側に向けて中心孔13bを方形の中心に向かって開口させた基台部13A〜Dと、を軽量な材質で一体に形成する枠体をなし、この枠体の鋳造型に、基台部13A〜D外側の円筒面13aから有低円筒状に延在して有低面12aを外側に配置してクランプを取り付ける穴12bを開口した高強度、耐摩耗性の材質からなるチャンバ12A〜Dを設置することで、枠体とともに鋳ぐるんで一体に形成させた鋳ぐるみ鋳造による軽量複合材枠体10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多導体送電線用スペーサに係り、より詳細には、送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の各電線を規定間隔に保持する多導体送電線用スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多導体送電線用スペーサは、送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の電線径間方向に鉛直する面に設置されて、各電線の位置に同数配置されるチャンバと当該各チャンバに溶接されて相互を連結して多角形の枠体にする間隔体とを有し、この複数のチャンバに同数のクランプを取り付けて各電線を把持して規定間隔に保持させる多導体送電線用スペーサが多く使用されていた(例えば、下記の特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0003】
前述した構造による多導体送電線用スペーサの実施の形態を、図3〜図5を参照して説明する。図3は、従来の多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図である。また、図4は、図3に示したクランプ20A〜D以外の構成を示す図である。また、図5は、図3に示したA部の詳細を示す拡大図である。
【0004】
図3に示すように、従来の多導体送電線用スペーサの一実施形態は、架空送電線が、例えば、4導体送電線の素導体間隔を一定の間隔に保持する場合、送電線路の径間方向に鉛直する面に設置されて、この4導体送電線の各電線1位置に4つ配置された有低円筒状のチャンバ30A〜Dと、当該チャンバ30A〜Dに溶接して相互を各々連結して方形とする間隔体40と、を有し、この4つのチャンバ30A〜Dに各々取り付けられて当該4箇所で各電線1を把持して規定間隔に保持させる4つのクランプ20A〜Dを有して構成されている。
このような従来の多導体送電線用スペーサは、図示されていないが、送電鉄塔などの支持物間に延在する送電線路において複数(20〜60mの間隔で複数)配置されて取付けられる。
【0005】
また、この従来の4導体送電線用スペーサは、図4に示すように、間隔体40である丸鋼材を、有底円筒状のチャンバ30A〜Dの側面に溶接して方形の枠体として形成されている。即ち、曲げ加工や鍛造により形成された鋼材部品からなる間隔体40及び有底円筒状のチャンバ30A〜Dを、お互いに溶接して一体方形の4導体スペーサ枠体を予め形成している。尚、図3及び4では、方形の4導体送電線用のスペーサを形成したが、例えば、下記の特許文献2のように、8導体送電線用、または6導体送電線用に設けることも可能であり、この場合、正八角形または正六角形の枠体に形成される。
【0006】
ここで、チャンバ30A〜Dは、図4に示したように、有底円筒状に形成されて、この有低面30aを多角形の外側に配置して、当該有低面30aにクランプ20A〜D(図3参照)を取り付ける穴30b(特に、チャンバ30A参照)を開口している。そして、クランプ20は、図5に示すように、チャンバ30の有低面30aの穴30bに挿入させる基部側に軸状のターミナル22を有しており、このターミナル22を穴30bに挿入して円筒状のチャンバ30内側方向よりコイルばね24および平座金26を順次装着して、溝付きナット28の締付け量を調整した後、割りピン29を装着することで、図3に示した4導体送電線用スペーサとしての組み立てが完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−173626号公報(図2参照)
【特許文献2】特開2009−055659号公報(図1及び図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の多導体送電線用スペーサは、図4に示した丸鋼材を曲げ加工した間隔体40と、鍛造により形成された鋼材のチャンバ30A〜Dと、をお互い溶接してなる鋼材枠体であってその質量が重く、鉄塔などの支持物間の架空送電線に所定の間隔で複数個所取り付けると支持点において荷重として負担になるとともに、支持物の高所でのスペーサ取り付け作業においても作業者の負担となるという不具合があった。また、スペーサの主要部品である枠体が重いと、前述した支持物(鉄塔)への負担、作業者への負担のほか、電線動揺時に枠体質量による慣性力で生じるスペーサ自体の連結部への負担にもなるという不具合があった。
【0009】
また、従来の多導体送電線用スペーサは、前述した間隔体40とチャンバ30A〜Dとを溶接により連結してなる構造のため、組み立て時の部品点数と溶接箇所とが多くなり、例えば、溶接不良などがあった場合、電線に取り付けた後で、腐食や径時変化により間隔体40とチャンバ30A〜Dとが外れて、各電線を正しい規定間隔に保持できなくなる可能性があるという不具合があった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、その目的は、簡単な構造により溶接が不要で部品点数の削減と軽量化とを同時に実現でき、支持物や作業者への負担を軽減して電線を正しく規定間隔に保持できる多導体送電線用スペーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の電線径間方向に鉛直する面に設置されて、各電線の位置に近接して同数配置されるチャンバと、当該各チャンバ間に溶接されて相互を連結して多角形の枠体をなす間隔体とを有し、複数のチャンバに各々取り付けられて前記各電線を把持して規定間隔に保持するクランプを備えてなる多導体送電線用スペーサであって、多角形に連結する間隔体と、この多角形の各角部に配置されて円筒状で肉厚外周を有した円筒面を外側に向けて中心孔を多角形の中心に向かって開口させた基台部と、を軽量な材質で一体に形成する枠体をなし、この枠体の鋳造型に、基台部外側の円筒面から有低円筒状に延在して有低面を外側に配置してクランプを取り付ける穴を開口した高強度、耐摩耗性の材質からなるチャンバを設置することで、枠体とともに鋳ぐるんで一体に形成させた鋳ぐるみ鋳造による軽量複合材枠体を設ける。
【0012】
ここで、クランプは、一端に延在する棒状のターミナルを有し、このターミナルをチャンバの穴から基台部の中心穴に挿通させて内側の先端からコイルばね、平座金、ナットを取り付けることでチャンバに圧接させて取り付けられることが好ましい。また、枠体が軽量な材質としてアルミ合金材からなり、チャンバが高強度、耐摩耗性の材質として絶縁でないアルミ基複合材からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明による多導体送電線用スペーサによれば、スペーサの主要部品である間隔体及び基台部を軽量材で一体に形成した枠体により軽量化できるため、支持物への負担、作業者への負担のほか、電線動揺時に枠体質量による慣性力で生じるスペーサ自体の負担も軽減することができる。また、鋳ぐるみ鋳造によりチャンバのみが高強度及び耐磨耗性を保持した状態の軽量複合材枠体に形成できるため、取り付け後の耐久性が向上する。
【0014】
また、本発明による多導体送電線用スペーサによれば、間隔体、基台部、及びチャンバを、一体に接合させた軽量複合材枠体として形成されるため、部品点数が削減されて溶接の必要もないため、溶接不良などがなく、腐食や径時変化にも耐久性があり、各電線を正しく規定間隔に保持できる。また、この軽量複合材枠体にクランプを取り付けるだけで多導体送電線用スペーサを得ることができ、製造工数及び製造コストを十分に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図。
【図2】図1に示した軽量複合材枠体の構成を示す図。
【図3】従来の多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図。
【図4】図3に示したクランプ以外の構成を示す図。
【図5】図4に示したA部の詳細を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付図面を参照して本発明による多導体送電線用スペーサの実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図である。また、図2は、図1に示した軽量複合材枠体10の構成を示す図であり、図2(a)は枠体10の正面図を、図2(b)は枠体10の側面図を、図2(c)はチャンバ12A〜Dの穴12bの正面図を、各々示している。
【0017】
図1に示すように、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態は、図4に示した従来技術と同様に、例えば、架空送電線が4導体送電線の素導体間隔を一定の間隔に保持するスペーサ構造であって、送電鉄塔などの支持物間に4本張架される多導体送電線1(送電線路)の径間方向に鉛直する面に設置されて、この4導体送電線の各電線1位置に近接して4つ配置される有低円筒状のチャンバ12A〜Dと、当該チャンバ12A〜Dの相互を各々連結して方形の枠体とする間隔体14と、を有し、この4つのチャンバ12A〜Dに各々取り付けられて当該4箇所で各電線1を把持して規定間隔に保持させるクランプ20A〜Dを有して構成されている。
【0018】
また、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態は、図4に示した従来技術と異なり、チャンバ12A〜Dと間隔体14とを溶接した構造でなく、図2(a)に示すように、多角形(方形)状に連結する間隔体14と、この多角形の各角部に配置される基台部13A〜Dと、を軽量な材質のアルミ合金材により一体に形成した枠体をなし、この枠体の鋳造型に、高強度、耐摩耗性に優れた絶縁でないアルミ基複合材からなるチャンバ12A〜Dを設置して、枠体とともに鋳ぐるんで一体に形成させた鋳ぐるみ鋳造による軽量複合材枠体10を設けている。
【0019】
即ち、本実施の形態は、多導体送電線用スペーサを軽量化するために主要部の間隔体14及び基台部13A〜Dの枠体をアルミ合金鋳造の軽量材で形成し、且つ、この枠体の強度及び耐摩耗性が要求されるチャンバ12A〜Dを高強度、耐摩耗性に優れた絶縁でないアルミ基複合材で形成し、この絶縁でないアルミ基複合材部品をアルミ合金で鋳ぐるんで軽量で高強度、耐磨耗性を有した軽量複合材枠体10に一体形成したものである。
【0020】
ここで、軽量複合材枠体10は、図2に示すように、方形の枠辺を連結する間隔体14と、この方形の各角部に配置されて図2(a)に示した円筒状で肉厚外周Xを有した円筒面13aを外側に向けて中心孔13bを方形の中心に向かって開口させた基台部13A〜Dと、を軽量なアルミ合金材で一体に形成した軽量な枠体をなしている。また、軽量複合材枠体10は、軽量な枠体の基台部13A〜D外側の円筒面13aから有低円筒状に延在して有低面12aを外側に配置してクランプ20(図1参照)を取り付ける穴12bを開口した高強度、耐摩耗性に優れた絶縁でないアルミ基複合材からなるチャンバ12A〜Dを、間隔体14及び基台部13A〜Dの枠体とともに鋳ぐるんで一体に形成している。
【0021】
具体的に、この間隔体14及び基台部13A〜Dの枠体と、チャンバ12A〜Dと、の異なる材質からなる部品を鋳ぐるみ鋳造によって鋳ぐるんで形成する場合、まず、絶縁でないアルミ基複合材によりなるチャンバ12A〜Dを複数備える。そして、このチャンバ12A〜Dを、間隔体14及び基台部13A〜Dの枠体を一体に形成する鋳造型に設置して、当該鋳造型内に溶解したアルミ合金材を注入させて鋳ぐるんで形成する。
【0022】
この際、チャンバ12A〜Dは、鋳造型内の基台部13A〜D外側の円筒面13aに接するように設置することで、溶解したアルミ合金材と接合(融合)されて一体に形成される。また、この基台部13A〜Dは、チャンバ12A〜Dを溶解したアルミ合金材に十分に接合させるため、図2(a)に示した肉厚外周Xを有しており、鋳造時の押湯位置を考慮して十分な肉厚に形成されている。この基台部13A〜Dは、製品の仕上げ加工時に無くしても良いが、その手間(工数)を避けて、図2(a)に示したように方形の4箇所(四隅)に対称になるように中心から外側に向けて円筒面13aを配置して中心孔13bを開口した形状としている。
【0023】
そして、チャンバ12A〜Dは、穴12bに、図5に示した従来技術と同様にクランプ20の基部側に軸状に形成されたターミナル22を挿入して、円筒状の内側方向よりコイルばね24および平座金26を順次装着して、溝付きナット28の締付け量を調整した後、割りピン29を装着することで、4導体送電線用スペーサとしての組み立てが全て完成する。
【0024】
ここで、クランプ20は、一端に延在する棒状のターミナル22をチャンバ12A〜Dの穴12bから基台部13A〜Dの中心穴13bに挿通させて内側の先端からコイルばね24、平座金26、ナット28を取り付けることで、このコイルばね24の付勢によりターミナル22が方形中心に向かって引っ張られるため、チャンバ12A〜Dに圧力を加えて圧接させた状態で取り付けられる。
【0025】
このような構成からなる本発明の多導体送電線用スペーサの一実施形態によると、スペーサの主要部品である間隔体14と基台部13A〜Dとをアルミ合金により形成して軽量化できるため、支持物への負担、作業者への負担のほか、電線動揺時に枠体質量による慣性力で生じるスペーサ自体の負担も軽減することができる。また、軽量複合材枠体10は、鋳ぐるみ鋳造によりチャンバ12A〜Dのみが高強度及び耐磨耗性を保持した状態に形成されるため、取り付け後の耐久性も向上する。
【0026】
また、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態によると、間隔体14、基台部13A〜D、及びチャンバ12A〜Dを、一体に接合された軽量複合材枠体10として形成されるため、部品点数が削減されて溶接の必要もないため、溶接不良などがなく、腐食や径時変化にも耐久性があり、各電線を正しく規定間隔に保持できる。即ち、この高強度及び耐磨耗性を保持した軽量複合材枠体10にクランプ20A〜Dを取り付けるだけで多導体送電線用スペーサを得ることができ、製造工数及び製造コストを十分に低減することが可能になる。
【0027】
以上、本発明による多導体送電線用スペーサの実施の形態を詳細に説明したが、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、4導体送電線用スペーサの実施の形態を具体的に説明したが、これに限定されるものはなく、8導体送電線用(下記の特許文献2参照)、または6導体送電線用などの多導体送電線用に採用することも可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 電線(4導体送電線)
10 軽量複合材枠体
12A〜D チャンバ
12a 有低面
12b 穴
13 基台部
13a 円筒面
13b 中心孔
14 間隔体
20A〜D クランプ
22 ターミナル
24 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の電線径間方向に鉛直する面に設置されて、各電線の位置に近接して同数配置されるチャンバと、当該各チャンバ間に溶接されて相互を連結して多角形の枠体をなす間隔体とを有し、前記複数のチャンバに各々取り付けられて前記各電線を把持して規定間隔に保持するクランプを備えてなる多導体送電線用スペーサにおいて、
前記多角形に連結する間隔体と、この多角形の各角部に配置されて円筒状で肉厚外周を有した円筒面を外側に向けて中心孔を多角形の中心に向かって開口させた基台部と、を軽量な材質で一体に形成する枠体をなし、この枠体の鋳造型に、前記基台部外側の円筒面から有低円筒状に延在して有低面を外側に配置して前記クランプを取り付ける穴を開口した高強度、耐摩耗性の材質からなるチャンバを設置することで、前記枠体とともに鋳ぐるんで一体に形成させた鋳ぐるみ鋳造による軽量複合材枠体を設けることを特徴とする多導体送電線用スペーサ。
【請求項2】
請求項1に記載の多導体送電線用スペーサにおいて、
前記クランプは、一端に延在する棒状のターミナルを有し、このターミナルを前記チャンバの穴から前記基台部の中心穴に挿通させて内側の先端からコイルばね、平座金、ナットを取り付けることで前記チャンバに圧接させて取り付けられることを特徴とする多導体送電線用スペーサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多導体送電線用スペーサにおいて、
前記枠体が軽量な材質としてアルミ合金材からなり、前記チャンバが高強度、耐摩耗性の材質として絶縁でないアルミ基複合材からなることを特徴とする多導体送電線用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−223683(P2011−223683A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87924(P2010−87924)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000117010)旭電機株式会社 (127)
【Fターム(参考)】