説明

多導体送電線用スペーサ

【課題】簡単な構造で軽量化して支持物や作業者の負担を軽減でき、チャンバのみの腐食や摩耗を抑え同時に抵コストで取り替え可能な多導体送電線用スペーサを提供する。
【解決手段】本発明の多導体送電線用スペーサは、方形(多角形)に連結する間隔体14と、この方形の各角部に配置されて円筒状で肉厚外周を有した円筒面12aを外側に向けて中心孔12bが方形の中心に向かって開口した基台部12と、を軽量な材質で一体に形成した枠体10を有し、この枠体10の基台部12外側から円筒面12aに接合させる有低円筒状で有低面30aを外側に配置してクランプ20を取り付ける穴30bを開口した高強度、耐摩耗性の材質からなるチャンバ30A〜Dを備え、クランプ20一端の棒状のターミナル22をチャンバ30A〜Dの穴30bと基台部12の中心穴12bとに挿通させてクランプ20と枠体10の基台部12との間にチャンバ30A〜Dを介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多導体送電線用スペーサに係り、より詳細には、送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の各電線を規定間隔に保持する多導体送電線用スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多導体送電線用スペーサは、送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の電線径間方向に鉛直する面に設置されて、各電線の位置に同数配置されるチャンバと当該各チャンバに溶接されて相互を連結して多角形の枠体にする間隔体とを有し、この複数のチャンバに同数のクランプを取り付けて各電線を把持して規定間隔に保持させる多導体送電線用スペーサが多く使用されていた(例えば、下記の特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0003】
前述した構造による多導体送電線用スペーサの実施の形態を、図3〜図5を参照して説明する。図3は、従来の多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図である。また、図4は、図3に示したクランプ20A〜D以外の構成を示す図である。また、図5は、図3に示したA部の詳細を示す拡大図である。
【0004】
図3に示すように、従来の多導体送電線用スペーサの一実施形態は、架空送電線が、例えば、4導体送電線の素導体間隔を一定の間隔に保持する場合、送電線路の径間方向に鉛直する面に設置されて、この4導体送電線の各電線1の位置に近接して4つ配置された有低円筒状のチャンバ40A〜Dと、当該チャンバ40A〜Dに溶接して相互を各々連結して方形とする間隔体50と、を有し、この4つのチャンバ40A〜Dに各々取り付けられて当該4箇所で各電線1を把持して規定間隔に保持させる4つのクランプ20A〜Dを有して構成されている。
このような従来の多導体送電線用スペーサは、図示されていないが、送電鉄塔などの支持物間に延在する送電線路において複数(20〜60mの間隔で複数)配置されて取付けられる。
【0005】
また、この従来の4導体送電線用スペーサは、図4に示すように、間隔体50である丸鋼材を、有底円筒状のチャンバ40A〜Dの側面に溶接して方形の枠体として形成されている。即ち、曲げ加工や鍛造により形成された鋼材部品からなる間隔体50及び有底円筒状のチャンバ40A〜Dを、お互いに溶接して一体方形の4導体スペーサ枠体を予め形成している。尚、図3及び4では、方形の4導体送電線用のスペーサを形成したが、例えば、下記の特許文献2のように、8導体送電線用、または6導体送電線用に設けることも可能であり、この場合、正八角形または正六角形の枠体に形成される。
【0006】
ここで、チャンバ40A〜Dは、図4に示したように、有底円筒状に形成されて、この有低面40aを多角形の外側に配置して、当該有低面40aにクランプ20A〜D(図3参照)を取り付ける穴40b(特に、チャンバ40A参照)を開口している。そして、クランプ20は、図5に示すように、チャンバ40の有低面40aの穴40bに挿入させる基部側に軸状のターミナル22を有しており、このターミナル22を穴40bに挿入して円筒状のチャンバ40内側方向よりコイルばね24および平座金26を順次装着して、溝付きナット28の締付け量を調整した後、割りピン29を装着することで、図3に示した4導体送電線用スペーサとしての組み立てが完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−173626号公報(図2参照)
【特許文献2】特開2009−055659号公報(図1及び図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の多導体送電線用スペーサは、図4に示した丸鋼材を曲げ加工した間隔体50と、鍛造により形成された鋼材のチャンバ40A〜Dと、をお互い溶接してなる鋼材枠体であってその質量が重く、鉄塔などの支持物間の架空送電線に所定の間隔で複数個所取り付けると支持点において荷重として負担になるとともに、支持物の高所でのスペーサ取り付け作業においても作業者の負担となるという不具合があった。また、スペーサの主要部品である枠体が重いと、前述した支持物(鉄塔)への負担、作業者への負担のほか、電線動揺時に枠体質量による慣性力で生じるスペーサ自体の連結部への負担にもなるという不具合があった。
【0009】
また、従来の多導体送電線用スペーサは、図5に示したクランプ20がコイルばね24により付勢されてチャンバ40外側の有低面40aに当接して、当該クランプ20の当接によりチャンバ40が腐食して磨耗が進行する。そのため、例えば、チャンバ40の有低面40aに高強度または耐腐食性や耐摩耗性に優れた部位を溶接またはメッキなどの加工処理で対処すると部品コストがかかるとともに、この腐食や磨耗したチャンバ40のみの取り替えも間隔体50との溶接を外してバラバラに分解して再度組み立てる必要があるため、工数がかかり結果的に部品コストが増加するという不具合があった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、その目的は、簡単な構造により軽量化して支持物や作業者への負担を軽減でき、且つ、チャンバのみの腐食や摩耗を抑え同時に抵コストで取り替え可能な多導体送電線用スペーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の電線径間方向に鉛直する面に設置されて各電線の位置に近接して同数配置されるチャンバと、当該各チャンバ間に溶接されて相互を連結して多角形の枠体をなす間隔体とを有し、複数のチャンバに各々取り付けられて各電線を把持して規定間隔に保持するクランプを備えてなる多導体送電線用スペーサであって、多角形に連結する間隔体とこの多角形の各角部に配置されて円筒状で肉厚外周を有した円筒面を外側に向けて中心孔が多角形の中心に向かって開口した基台部とを軽量な材質で一体に形成した枠体を有し、この枠体の基台部外側から円筒面に摩擦圧接で接合されて延在する有低円筒状で有低面を外側に配置してクランプを取り付ける穴を開口した高強度、耐摩耗性の材質からなるチャンバを備え、クランプの一端に棒状に延在させたターミナルをチャンバの穴と基台部の中心穴とに挿通させてクランプを枠体の基台部に取り付ける間にチャンバを介在させる。
【0012】
ここで、クランプは、ターミナルをチャンバの穴と基台部の中心穴とに挿通させた内側の先端からコイルばね、平座金、ナットを取り付けてチャンバに圧接させて取り付けられることが好ましい。また、枠体が軽量な材質としてアルミ合金材からなり、チャンバが高強度、耐摩耗性の材質として絶縁でないアルミ基複合材からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明による多導体送電線用スペーサによれば、スペーサの主要部品である間隔体及び基台部を軽量材で一体に形成した枠体により軽量化できるため、支持物への負担、作業者への負担のほか、電線動揺時に枠体質量による慣性力で生じるスペーサ自体の負担も軽減することができる。
また、本発明による多導体送電線用スペーサによれば、枠体とクランプとの間に高強度または耐摩耗性、耐腐食性に優れた材質からなるチャンバを単体(別体)で介在させた構造のため、クランプが当接するチャンバの腐食による摩耗の進行を抑制してスペーサ自体の腐食による取り替え寿命も向上できるとともに、このチャンバが摩耗して取り替え寿命になった場合でも、高所から回収して接合した枠体から切り離して容易に新たなチャンバを摩擦圧接して取り替え可能なため、枠体を再利用でき、製造工数及び部品コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図。
【図2】図1に示したクランプを取り付ける前の状態を示す分解図。
【図3】従来の多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図。
【図4】図3に示したクランプ以外の構成を示す図。
【図5】図4に示したA部の詳細を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、添付図面を参照して本発明による多導体送電線用スペーサの実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態を示す構成図である。また、図2は、図1に示したクランプ20A〜Dを取り付ける前の状態を示す分解図である。尚、図1に示したクランプ20A〜Dは、図3に示したクランプと同じ構成要素であり、同一構成要素には同じ符号を記載する。
【0016】
図1に示すように、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態は、図3に示した従来技術と同様に、例えば、架空送電線が4導体送電線の素導体間隔を一定の間隔に保持するスペーサ構造であって、送電鉄塔などの支持物間に4本張架される多導体送電線1(送電線路)の径間方向に鉛直する面に設置されて、この4導体送電線の各電線1の位置に近接して4つ配置される有低円筒状のチャンバ30A〜Dと、当該チャンバ30A〜Dの相互間に延在して方形の枠体を構成する間隔体14と、を有し、この4つのチャンバ30A〜Dに各々取り付けられて当該4箇所で各電線1を把持して規定間隔に保持させるクランプ20A〜Dを有して構成されている。
【0017】
また、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態は、図3に示した従来技術と異なり、チャンバ30A〜Dと間隔体14とを品質面で管理が困難な溶接で接合するのではなく、図2に示すように、複数の間隔体14と基台部12とで一体に形成された枠体10を備え、この枠体10の基台部12に摩擦圧接で接合するチャンバ30A〜Dを単体で複数設けている。
【0018】
即ち、本実施の形態は、多導体送電線用スペーサを軽量化するために主要部である枠体10を軽量材により間隔体14と基台部12とで一体形成し、且つ、チャンバ30A〜Dを高強度または耐腐食性や耐摩耗性に優れた材質で形成して枠体10に摩擦圧接で接合して設けることで、チャンバ30A〜Dでの腐食及び摩耗を抑制し、このチャンバ30A〜Dが腐食及び摩耗しても枠体10から切り離して低コストで容易に新たなチャンバに取り替えられるように形成したものである。
【0019】
ここで具体的に、枠体10は、図2に示すように、多角形(方形)に枠を連結するための間隔体14と、この多角形の各角部に配置されて円筒状で肉厚の外周を有した円筒面12aを外側に向けて中心孔12bが多角形の中心に向かって開口するように形成した基台部12と、を軽量な材質で一体に形成している。この枠体10は、例えば、軽量な材質として、アルミ合金材からなることが最も軽量で好ましい。
【0020】
また、チャンバ30A〜Dは、図2のチャンバ30Aのように、枠体10の基台部12の外側から肉厚の円筒面12aに摩擦圧接で接合されて延在する有低円筒状で、その有低面30aを外側に配置してクランプ20を取り付けるための穴30bを開口して高強度、耐腐食性、耐摩耗性に優れた材質により形成されている。このチャンバ30A〜Dは、枠体10体と材質が異なり、例えば、高強度、耐腐食性、耐摩耗性の材質として、絶縁でないアルミ基複合材からなることが最も高強度、耐腐食性、耐摩耗性に優れて好ましい。
【0021】
そして、チャンバ30A〜Dは、図2に示したように、クランプ20の一端に棒状に延在させて設けたターミナル22を、外側の有低面30aに開口する穴30bと、基台部12の中心穴12bと、に各々挿通させることで、クランプ20と枠体10の基台部12との間に介在するように形成されている。
【0022】
この際、チャンバ30A〜Dは、図示していないが枠体10の基台部12に予め、例えば、品質面での管理が困難な従来の溶接でなく、品質が安定している摩擦圧接によりコンパクトに接合されており、枠体10と一体で軽量複合材枠体を形成している。
即ち、この軽量複合材枠体は、枠体10の基台部12にチャンバ30A〜Dを摩擦圧接により予め接合することで、多導体送電線用スペーサの組み立て時に、部品点数が減ってクランプ20のみを取り付けるだけで構成できる構造にして、製造工数を削減して部品コストも低減できるように形成している。
【0023】
また、枠体10の基台部12にチャンバ30A〜Dを摩擦圧接によりコンパクトに接合した構造のため、チャンバ30A〜Dが摩耗して取り替え寿命でも、高所から回収して従来構造のように溶接を外してバラバラに分解しなくても簡単に接合した枠体10から容易に切り離しでき、新たなチャンバ30A〜Dを摩擦圧接することで取り替えが可能であって、結果的に、枠体10を再利用でき、スペーサの製造工数及び部品コストを大幅に低減することができる。
【0024】
また、クランプ20は、図2に示したように、ターミナル22をチャンバ12の穴30bと基台部12の中心穴12bとに挿通させた内側の先端からコイルばね24を挿通させ、平座金26を通して、最後にナット28を締結させて取り付けることで、基台部12に接合したチャンバ30A〜Dに圧接させて取り付けられる。
即ち、チャンバ30A〜Dは、クランプ20が圧接して取り付けられるため、高強度、耐腐食性、耐摩耗性に優れた絶縁でないアルミ基複合材からなり腐食による摩耗の進行を防止するとともに、仮に、摩耗して取り替え寿命でも、前述した新たなチャンバに取り替え可能なように枠体10に摩擦圧接でコンパクトに接合した構造に形成している。
【0025】
ここで図示していないが、ナット28とターミナル22とは、図5に示した従来技術のように、溝付きナットを用いて締付け量を調整した後、ターミナル22に割りピンを装着して固定することも可能である。
【0026】
このような構成からなる本発明の多導体送電線用スペーサの一実施形態によると、図2に示したスペーサの主要部品である間隔体14及び基台部12をアルミ合金材で一体に形成した枠体10により軽量化できるため、支持物への負担、作業者への負担のほか、電線動揺時に枠体質量による慣性力で生じるスペーサ自体の負担も軽減することができる。
【0027】
また、本発明による多導体送電線用スペーサの一実施形態によると、図2に示した枠体10とクランプ20との間に高強度または耐摩耗性、耐腐食性に優れた絶縁でないアルミ基複合材からなるチャンバ30A〜Dを単体(別体)で介在させた構造のため、クランプ20が当接するチャンバ30A〜Dの磨耗による腐食の進行を抑制してスペーサ自体の腐食による取り替え寿命も向上できるとともに、このチャンバ30A〜Dが腐食及び摩耗して取り替え寿命になった場合でも、高所から回収して接合した枠体10から切り離して容易に新たなチャンバを摩擦圧接して取り替え可能なため、枠体10を再利用でき、製造工数及び部品コストを大幅に低減することができる。
【0028】
以上、本発明による多導体送電線用スペーサの実施の形態を詳細に説明したが、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、4導体送電線用スペーサの実施の形態を具体的に説明したが、これに限定されるものはなく、8導体送電線用(特許文献2参照)、または6導体送電線用などの多導体送電線用に採用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 電線(4導体送電線)
10 枠体
12 基台部
12a 円筒面
12b 中心孔
14 間隔体
20A〜D クランプ
22 ターミナル
24 コイルばね
26 平座金
28 ナット
30A〜D チャンバ
30a 有低面
30b 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電鉄塔などの支持物間に複数本張架される多導体送電線の電線径間方向に鉛直する面に設置されて、各電線の位置に近接して同数配置されるチャンバと、当該各チャンバ間に溶接されて相互を連結して多角形の枠体をなす間隔体とを有し、前記複数のチャンバに各々取り付けられて前記各電線を把持して規定間隔に保持するクランプを備えてなる多導体送電線用スペーサにおいて、
前記多角形に連結する間隔体と、この多角形の各角部に配置されて円筒状で肉厚外周を有した円筒面を外側に向けて中心孔が多角形の中心に向かって開口した基台部と、を軽量な材質で一体に形成した枠体を有し、
前記枠体の基台部外側から円筒面に摩擦圧接で接合されて延在する有低円筒状で有低面を外側に配置して前記クランプを取り付ける穴を開口した高強度、耐摩耗性の材質からなるチャンバを備え、
前記クランプの一端に棒状に延在させたターミナルを前記チャンバの穴と前記基台部の中心穴とに挿通させて、前記クランプを前記枠体の基台部に取り付ける間に前記チャンバを介在させることを特徴とする多導体送電線用スペーサ。
【請求項2】
請求項1に記載の多導体送電線用スペーサにおいて、
前記クランプは、前記ターミナルを前記チャンバの穴と前記基台部の中心穴とに挿通させた内側の先端からコイルばね、平座金、ナットを取り付けて前記チャンバに圧接させて取り付けられることを特徴とする多導体送電線用スペーサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多導体送電線用スペーサにおいて、
前記枠体が軽量な材質としてアルミ合金材からなり、前記チャンバが高強度、耐摩耗性の材質として絶縁でないアルミ基複合材からなることを特徴とする多導体送電線用スペーサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−223684(P2011−223684A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87929(P2010−87929)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000117010)旭電機株式会社 (127)
【Fターム(参考)】