説明

多層コイル、及び多層コイルの巻線方法

【課題】 2本以上の線材を巻芯に並列に整列巻きする場合において、線材に送りをかけ下層と上層の線材が交差する面における巻芯外径方向への膨らみが大きくならない多層コイル、多層コイルの巻線方法、及び多層コイルの巻線装置を提供すること。
【解決手段】 n本線(nは2以上の整数)の線材を断面が多角形状の巻芯2に整列巻きする多層コイルであって、線材が巻芯2を一周する間に線材n本分の送りがかけられることによって、線材の送りがかけられる面では下層と上層の線材が交差する交差部5が形成され、送りがかけられる面のうちの少なくとも1面の端部には、n本線の線材のうち2本の線材が捻られ線材の配列が入れ替わる捻れ部6が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層コイル、及び多層コイルの巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1本の線材を巻線用治具であるボビン、例えば巻芯の断面が4角形状のボビンに整列巻きする場合には、4面の内の1面で線材の線径分の送りをかけるのが一般的である。この場合、他の3面では送りをかけない。
【0003】
線材が巻芯端部まで巻線され、線材が上層へ巻線されるときには、線材に送りをかける面では、下層と上層との線材の巻き方向が逆になるため、図13に示すように斜線の部分は、下層と上層の線材が交差する交差部となる。このように、線材に送りをかけ下層と上層の線材が交差する面(以下、「線材送り面」と称する。)では線材は2重になる(例えば、特許文献1参照)。なお、線材送り面以外の面では、隣合う線材間の溝が上層の線材の案内溝となるため、線材は交差することはなく線材が2重になることはない。
【0004】
次に、2本の線材を巻芯の断面が4角形状のボビンに並列に整列巻きする場合について図14(a)を参照して説明する。この場合、4面の内の1面である線材送り面では、線材の送りは線材2本分となる(1)。この線材送り面端部では、線材は、線材0.5本分の隙間を残して上層へ乗り上がるようにして巻線させる(2)。そして、上層の線材は、下層の線材の巻き方向とは逆方向に線材2本分の送りがかけられる(3)。このように、2本の線材を整列巻きする場合においても、下層と上層の線材が交差する交差部が生じる。
【0005】
このとき、図14(a)に示す斜線部分は、線材が3重に巻き重ねられた状態となる。したがって、線材送り面では、外径方向への膨らみが大きくなる。同じように、3本及び4本の線材を巻芯の断面が4角形状のボビンに並列に整列巻きする場合においても、線材送り面では、図14(b),(c)に示すように斜線部分が、線材が3重に巻き重ねられた状態となる。
【特許文献1】特開平8−203720
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、2本以上の線材を並列に整列巻きする場合には、1本の線材を整列巻きする場合と異なり、線材送り面には、線材が3重に巻き重ねられた交差部が存在する。そのため、コイル外径が大きくなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、2本以上の線材を断面が多角形状の巻芯に並列に整列巻きする場合において、線材送り面における巻芯外径方向への膨らみが大きくならない多層コイル、及び多層コイルの巻線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、n本線(nは2以上の整数)の線材を断面が多角形状の巻芯に整列巻きする多層コイルであって、前記線材が前記巻芯を一周する間に線材n本分の送りがかけられることによって、線材の送りがかけられる面では下層と上層の線材が交差する交差部が形成され、前記送りがかけられる面のうちの少なくとも1面の端部には、n本線の線材のうち2本の線材が捻られ線材の配列が入れ替わる捻れ部が形成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、n本線(nは2以上の整数)の線材を断面が多角形状の巻芯に整列巻きする多層コイルの巻線方法であって、前記線材が前記巻芯を一周する間に線材n本分の送りをかけ、前記送りがかけられる面のうちの少なくとも1面の端部にて、n本線の線材のうち2本の線材を捻り線材の配列を入れ替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、線材送り面の端部において、2本の線材を捻って線材の配列を入れ替えるものである。したがって、本発明によれば、線材送り面において、外径方向への線材の膨らみが防止され、コンパクトな多層コイルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1、図2を参照して本発明の実施の形態1である多層コイル100について説明する。図1は、線材が巻芯に巻かれた状態の多層コイル100を示したものであり、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は背面図、(d)は底面図である。図2は、多層コイル100の巻芯端部における巻線方法を示す図である。なお、図中の矢印は、巻線方向を示すものである。また、図2については、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0013】
多層コイル100は、ボビン1に線材が多層に巻線されたものである。ボビン1は、線材が巻線される巻芯2と、巻芯2の両側に巻芯2と同軸上に設けられた鍔部3とからなる。巻芯2の断面は4角形状であり、その巻芯2に線径がほぼ同一である2本の線材4A、4Bを並列に整列巻きする。線材送り面は、対向する2面である正面2aと背面2cの2面であり、線材の送りは、それぞれの面にて線材の線径分(1本分)とする。他の2面の平面2b、底面2dでは送りをかけない。これにより、線材を巻芯2に多層に巻線する場合には、正面2aと背面2cとでは、下層と上層の線材の巻き方向が逆になる。このように、多層コイル100は、正面2aと背面2cとに下層と上層の線材が交差する交差部5を有する。
【0014】
また、多層コイル100は、背面2c端部に、下層から上層に乗り上がる線材4Aと、巻線の巻き方向が下層の線材と逆になる線材4Bとの2本の線材が捻られ、線材の配列が入れ替わる捻れ部6を有する。捻れ部6は、2本の線材4A、4Bが捻られ交差することによって生じるものであるため、線材は2重となる。また、背面2c端部において線材4A、4Bは捻れ部6を形成した後、一方の線材4Aは鍔部3と下層の線材間に乗り上げ、他方の線材4Bは下層の線材と交差して下層の線材間の溝に巻線される。このように、背面2c端部における捻れ部6及び交差部5は、2重であり3重に巻き重ねられることはない。なお、正面2a端部でも、交差部5は2重であり3重に巻き重ねられることはない。
【0015】
次に、図2を参照して多層コイル100の巻線方法について説明する。(a)、(e)、(i)は正面図、(b)、(f)は平面図、(c)、(g)は背面図、(d)、(h)は底面図である。なお、背面図(c)、(g)は、説明の便宜上、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。
(1)2本の線材4A、4Bを断面4角形状の巻芯2の同一の面から並列に巻始める。
(2)図2(a)〜(d)に示すように、正面2aと背面2cにて線材1本分の送りをかけ、平面2bと底面2dでは送りをかけない。
(3)正面2a端部では、図2(e)に示すように、線材1.5本分の隙間に対して、巻芯内側の線材4Aは、線材1本分の送りをかけ巻芯2に巻線されるとともに、巻芯外側の線材4Bは、線材4Aと鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げて上層に巻線される。
(4)次の平面2bでは、図2(f)に示すように、線材4Aと4Bは、送りをかけずに巻芯2端部に巻線される。
(5)次の背面2cでは、図2(g)に示すように、線材4A、4Bは、捻って巻線され線材4A、4Bの配列が入れ替わる。具体的には、巻芯内側の線材4Aは、下層の線材と鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げ上層に巻線される。また、巻芯外側の線材4Bは、巻き方向が下層の巻線とは逆に巻線され、線材4A上を交差することによって捻れ部6を形成するとともに、下層の線材とも交差し、下層に巻線された隣合う線材間の溝に巻線される。このように、背面2c端部には、線材4A、4Bを捻ることによって生じる捻れ部6と、線材4Bと下層の線材が交差することによって生じる交差部5とが存在する。この捻れ部6及び交差部5は、双方とも線材は2重であり3重に巻き重ねられることはない。なお、ここでいう線材4A、4Bの配列が入れ替わるとは、図2(g)に示すように、下層では線材の配列は図左から右に向かって4A、4B、4A、4B・・・という配列であるのに対して、上層では図左から右に向かって4B、4A、4B、4A・・・という下層の配列とは逆になることを意味する。
(6)次の底面2dでは、図2(h)に示すように、線材4A、4Bは、送りをかけずに下層の隣合う巻線間の溝に案内されて巻線される。
(7)次の正面2aでは、図2(i)に示すように、線材4A、4Bは、下層の線材の送り方向とは逆方向に送りをかけ巻線される。このように、正面2aでは、下層と上層の線材が交差する。しかし、交差部5は、いずれも2重であり3重に巻き重ねられることはない。
【0016】
以上の多層コイル100では、線材送り面を正面2aと背面2cにしたが、線材送り面は、巻芯の任意の2面に設定することができる。また、巻芯の断面は4角形状としたが、それ以外の多角形状であってもよい。
【0017】
なお、巻始めは、線材送り面においては、巻線される線材が動かないように、図3(a)に示すように、巻芯2端部に線材の送り分(多層コイル100では線材1本分)の突起7を設ける必要がある。また、突起を設ける代わりに、図3(b)に示すように、鍔部3に傾斜した切り欠き8を設け、その切り欠き8にて線材を保持するようにしてもよい。
【0018】
以上のように、多層コイル100は、任意の2面にて線材1本分の送りをかけ、かつ巻芯2端部において、下層から上層に乗り上がる線材4Aと、巻線の巻き方向が下層の線材と逆になる線材4Bとの2本の線材を捻って線材の配列を入れ替えるものである。これにより、多層コイル100は、線材送り面における外径方向への線材の膨らみが防止され、コンパクトな多層コイルとなる。
【0019】
(実施の形態2)
図4を参照して本発明の実施の形態2である多層コイル200について説明する。図4は、多層コイル200の巻芯端部における巻線方法を示す図であり、(a)、(e)、(i)は正面図、(b)、(f)は平面図、(c)、(g)は背面図、(d)、(h)は底面図である。なお、背面図(c)、(g)は、説明の便宜上、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。また、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0020】
多層コイル200における多層コイル100との相違点は、巻芯2に巻線する線材の本数が3本(4A、4B、4C)である点である。線材送り面は、正面2a、平面2b、及び背面2cの3面であり、線材の送りは、それぞれの面にて線材1本分とする。他の1面の底面2dでは送りをかけない。これにより、線材を巻芯2に多層に巻線する場合には、正面2a、平面2b、及び背面2cでは、下層と上層の線材の巻き方向が逆になる。このように、多層コイル200は、正面2a、平面2b、及び背面2cに下層と上層の線材が交差する交差部5を有する。また、多層コイル200は、平面2b及び背面2cの端部に、下層から上層に乗り上がる線材と、巻線の巻き方向が下層の線材と逆になる線材との2本の線材が捻られ、線材の配列が入れ替わる捻れ部6を有する。
【0021】
次に、多層コイル200の巻線方法について説明する。
(1)3本の線材4A、4B、4Cを断面4角形状の巻芯2の同一の面から並列に巻始める。
(2)図4(a)〜(d)に示すように、正面2a、平面2b、及び背面2cにて線材1本分の送りをかけ、底面2dでは送りをかけない。
(3)正面2a端部では、図4(e)に示すように、線材2.5本分の隙間に対して、巻芯内側の線材4A、4Bは、線材1本分の送りをかけ巻芯2に巻線されるとともに、巻芯外側の線材4Cは、線材4Bと鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げて上層に巻線される。
(4)次の平面2bでは、図4(f)に示すように、線材4Aは線材1本分の送りをかけて巻線され、線材4Bと線材4Cは、捻って巻線され線材4Bと4Cの配列が入れ替わる。具体的には、巻芯内側の線材4Bは、下層の線材と鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げ上層に巻線される。また、巻芯外側の線材4Cは、巻き方向が下層の巻線とは逆に巻線され、線材4B上を交差することによって捻れ部6を形成するとともに、下層の線材4Aとも交差し、下層に巻線された隣合う線材間の溝に巻線される。このように、平面2b端部には、線材4Bと4Cを捻ることによって生じる捻れ部6と、線材4Cと下層の線材4Aが交差することによって生じる交差部5とが存在する。この捻れ部6及び交差部5は、双方とも線材は2重であり3重に巻き重ねられることはない。
(5)次の背面2cでは、図4(g)に示すように、線材4Cは線材1本分の送りをかけて巻線され、線材4Aと線材4Bは、捻って巻線され線材4Aと4Bの配列が入れ替わる。具体的には、巻芯内側の線材4Aは、下層の線材と鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げ上層に巻線される。また、巻芯外側の線材4Bは、巻き方向が下層の巻線とは逆に巻線され、線材4A上を交差することによって捻れ部6を形成するとともに、下層の線材とも交差し、線材4Aと4Cの間に巻線される。これにより、下層と上層の線材の配列が入れ替わる。このように、背面2c端部には、線材4Aと4Bを捻ることによって生じる捻れ部6と、線材4Bと下層の線材が交差することによって生じる交差部5とが存在する。この捻れ部6及び交差部5は、双方とも線材は2重であり3重に巻き重ねられることはない。
(6)次の底面2dでは、図4(h)に示すように、線材4A、4B、4Cは、送りをかけずに下層の隣合う巻線間の溝に案内されて巻線される。
(7)次の正面2aでは、図4(i)に示すように、線材4A、4B、4Cは、下層の線材の送り方向とは逆方向に送りをかけ巻線される。このように、正面2aでは、下層と上層の線材が交差する。しかし、交差部5は、いずれも2重であり3重に巻き重ねられることはない。
【0022】
以上の多層コイル200では、線材送り面を正面2a、平面2b、及び背面2cにしたが、線材送り面は、巻芯の任意の3面に設定することができる。また、巻芯の断面は4角形状としたが、3角形状以上の多角形状であってもよい。
【0023】
なお、巻始めは、送りをかける面においては、巻線される線材が動かないように、多層コイル100と同じように、巻芯2端部に線材の送り分の突起を設ける必要がある。また、突起を設ける代わりに、鍔部3に傾斜した切り欠きを設けてもよい。
【0024】
以上のように、多層コイル200は、任意の3面にて線材1本分の送りをかけ、かつ、送りをかける3面のうちの2面の巻芯端部において、下層から上層に乗り上がる線材と、巻線の巻き方向が下層の線材と逆になる線材との2本の線材を捻って線材の配列を入れ替えるものである。これにより、多層コイル200は、線材送り面における外径方向への線材の膨らみが防止され、コンパクトな多層コイルとなる。
【0025】
(実施の形態3)
図5を参照して本発明の実施の形態3である多層コイル300について説明する。図5は、多層コイル300の巻芯端部における巻線方法を示す図であり、(a)、(e)、(i)は正面図、(b)、(f)は平面図、(c)、(g)は背面図、(d)、(h)は底面図である。なお、背面図(c)、(g)は、説明の便宜上、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。また、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0026】
多層コイル300における多層コイル100及び多層コイル200との相違点は、巻芯2に巻線する線材の本数が4本(4A、4B、4C、4D)である点である。線材送り面は、巻芯2の全ての面(正面2a、平面2b、背面2c、及び底面2d)であり、線材の送りは、それぞれの面にて線材1本分とする。これにより、線材を巻芯2に多層に巻線する場合には、全ての面において、下層と上層の線材の巻き方向が逆になる。このように、多層コイル300は、巻芯2の全ての面に下層と上層の線材が交差する交差部5を有する。また、多層コイル300は、平面2b、背面2c、底面2dの端部に、下層から上層に乗り上がる線材と、巻線の巻き方向が下層の線材と逆になる線材との2本の線材が捻られ、線材の配列が入れ替わる捻れ部6を有する。
【0027】
多層コイル300の巻線方法は、多層コイル100及び多層コイル200の巻線方法と同様の方法であるため、説明を省略する。
【0028】
以上の実施の形態1〜3では、線材の本数が2〜4本の場合について示した。しかし、本発明は、これに限られるものではなく、5本以上の場合でも巻芯の断面形状を5角形以上にすることによって可能となる。そこで、線材の本数をn本(nは2以上の整数)として、そのn本の線材を断面がN角形状(N≧n)の巻芯に整列巻きする場合について考える。この場合、巻芯のN個の面のうちの任意のn個の面にて、線材1本分の送りをかけて巻線する。そして、そのn個の面のうちのn−1個のそれぞれの面端部にて、下層から上層に乗り上がる線材と、巻線の巻き方向が下層の線材と逆になる線材との2本の線材を捻り線材の配列を入れ替える。このようにしてn本の線材を巻線することによって、n個の線材送り面では、外径方向への線材の膨らみが防止されるため、得られる多層コイルはコンパクトなものとなる。
【0029】
(実施の形態4)
次に、図6、図7を参照して本発明の実施の形態4である多層コイル400について説明する。図6は、線材が巻芯に巻かれた状態を示す多層コイル400の正面図であり、図7は、多層コイル400の巻芯端部における巻線方法を示す図である。なお、図中の矢印は、巻線方向を示すものである。また、図7については、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0030】
多層コイル400は、断面が4角形状の巻芯2に線径がほぼ同一である2本の線材4A、4Bを並列に整列巻きするものである。なお、ボビン1の構成は、多層コイル100と同様であり、鍔部3に巻始めの線材を保持する傾斜した切り欠き8が設けられている。
【0031】
線材送り面は正面2aの1面であり、線材の送りは、その正面2aにて線材2本分とする。他の3面では送りをかけない。これにより、線材を巻芯2に多層に巻線する場合には、正面2a面では、下層と上層の線材の巻き方向が逆になる。このように、多層コイル400は、正面2aに下層と上層の線材が交差する交差部5を有する。
【0032】
また、多層コイル400は、正面2aの端部に、下層から上層に乗り上がる2本の線材4A、4Bが捻られ線材の配列が入れ替わる捻れ部6を有する。この捻れ部6は、2本の線材4A、4Bが捻られ交差することによって生じるものであるため、線材は2重となる。また、捻れ部6は、巻芯2端部に寄って形成されるため、隣の線材と干渉することがない。上層に乗り上がった線材4A、4Bは、巻芯2端部を送りをかけずに3/4周した後、正面2aにて下層の線材とは逆方向に送りをかけて巻線させる。このとき、下層の捻れ部6は、巻芯2端部に寄って位置しているため、線材4A、4Bが捻れ部6と干渉することはない。したがって、下層と上層の線材は3重に巻き重ねられることはない。
【0033】
次に、図7を参照して多層コイル400の巻線方法について説明する。(a)、(e)、(f)は正面図、(b)は平面図、(c)は背面図、(d)は底面図である。なお、背面図(c)は、説明の便宜上、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。
(1)2本の線材4A、4Bを断面4角形状の巻芯2の同一の面から並列に巻始める。
(2)図7(a)〜(d)に示すように、正面2aにて線材2本分の送りをかけ、平面2b、背面2c、及び底面2dでは送りをかけない。また、巻芯2端部では、線材0.5本分の隙間を残して巻線される。
(3)線材送り面である正面2a端部では、図7(e)に示すように、下層から上層に乗り上がる線材4A、4Bは、捻られ線材の配列が入れ替わる。具体的には、巻芯内側の線材4Aは、下層の線材と鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げ上層に巻線される。また、巻芯外側の線材4Bは、巻き方向が下層の巻線とは逆に巻線され、線材4A上を交差することによって捻れ部6を形成するとともに、下層の線材とも交差し、下層に巻線された隣合う線材間の溝に乗り上げ巻線される。このように、正面2a端部には、線材4A、4Bを捻ることによって生じる捻れ部6と、線材4Bと下層の線材が交差することによって生じる交差部5とが存在する。この捻れ部6及び交差部5は、双方とも線材は2重であり3重に巻き重ねられることはない。
(4)次の平面2b、背面2c、及び底面2dでは、線材4A、4Bは、送りをかけずに下層と鍔部3との線材0.5分の隙間、及び下層の隣合う巻線間の溝に案内されて巻線される。なお、図示は省略する。
(5)次の正面2aでは、図7(f)に示すように、線材4A、4Bは、下層の線材の送り方向とは逆方向に送りをかけ巻線される。このとき、捻れ部6は、巻芯2端部に寄って形成されているため、線材4A、4Bは、捻れ部と干渉することはなく、下層の線材とのみ交差して巻線される。したがって、下層と上層の交差部5は、いずれも2重であり3重に巻き重ねられることはない。
【0034】
以上の多層コイル400では、線材送り面を正面2aにしたが、線材送り面は、巻芯の任意の1面に設定することができる。また、巻芯の断面は4角形状としたが、それ以外の多角形状であってもよい。
【0035】
以上のように、多層コイル400は、任意の1面にて線材2本分の送りをかけ、かつその送りをかける面の端部において、下層から上層に乗り上がる2本の線材を捻って線材の配列を入れ替えるものである。これにより、多層コイル400は、線材送り面における外径方向への線材の膨らみが防止され、コンパクトな多層コイルとなる。
【0036】
(実施の形態5)
次に、図8を参照して本発明の実施の形態5である多層コイル500について説明する。図8は、多層コイル500の巻芯端部における巻線方法を示す図であり、(a)、(e)は正面図、(b)は平面図、(c)は背面図、(d)は底面図である。なお、背面図(c)は、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。また、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0037】
多層コイル500における多層コイル400との相違点は、巻芯2に巻線する線材の本数が、2本線が2組の計4本(4A、4B、4a、4b)である点である。線材送り面は、対向する正面2aと背面2cの2面であり、線材の送りは、それぞれの面にて線材2本分とする。他の2面の平面2b、底面2dでは送りをかけない。これにより、線材を巻芯2に多層に巻線する場合には、正面2aと背面2cとでは、下層と上層の線材の巻き方向が逆になる。このように、多層コイル500は、正面2aと背面2cとに下層と上層の線材が交差する交差部5を有する。また、多層コイル500は、正面2aと背面2cの端部に、下層から上層に乗り上がる2本の線材が捻られ線材の配列が入れ替わる捻れ部6を有する。
【0038】
次に、図8を参照して多層コイル500の巻線方法について説明する。
(1)2組の2本線4A、4B、4a、4bを断面4角形状の巻芯2の同一の面から並列に巻始める。
(2)図8に示すように、正面2aと背面2cにて線材2本分の送りをかけ、平面2bと底面2dでは送りをかけない。また、巻芯2端部では、線材0.5本文の隙間を残して巻線される。
(3)線材送り面である正面2a端部では、図8(a)に示すように、巻芯内側の線材4A、4Bは、線材2本分の送りをかけ巻線される。また、巻芯外側の2本の線材4a、4bは、下層の線材4A、4Bに乗り上がる時に、捻られ線材の配列が入れ替わる。なお、線材4a、4bの具体的な巻線方法は、多層コイル400における捻れ部6の巻線方法と同じである。
(4)次の平面2bでは、図8(b)に示すように、4A、4B、4a、4bは、送りをかけずに巻芯2端部に巻線される。
(5)次の線材送り面である背面2cでは、図8(c)に示すように、下層の2本の線材4A、4Bが下層から上層に乗り上がる時に、捻られ線材の配列が入れ替わる。また、上層の2本の線材4a、4bは、下層の巻き方向とは逆に線材2本分の送りをかけ巻線される。なお、線材4A、4Bの具体的な巻線方法は、多層コイル400における捻れ部6の巻線方法と同じである。
(6)次の底面2dでは、図8(d)に示すように、線材4A、4B、4a、4bは、送りをかけずに下層の隣合う巻線間の溝に案内されて巻線される。
(7)次の正面2aでは、図8(e)に示すように、線材4A、4B、4a、4bは、下層の線材の送り方向とは逆方向に送りをかけ巻線される。このとき、線材4a、4bの捻れ部6は、巻芯2端部に寄って形成されているため、線材4A、4Bは、捻れ部と干渉することはなく、下層の線材とのみ交差して巻線される。したがって、下層と上層の交差部5は、いずれも2重であり3重に巻き重ねられることはない。
【0039】
以上の実施の形態4、5では、線材の本数が、2本線が1組と2組の場合について示した。しかし、本発明は、これに限られるものではなく、2本線の組数が3組以上つまり6本以上の場合でも可能である。例えば、2本線が3組の場合には、巻芯の4面のうちの3面にて線材2本分の送りをかけて巻線すればよいし、また、2本線が4組の場合には、巻芯4面の全ての面にて線材2本分の送りをかけて巻線すればよい。この場合、線材送り面の端部にて下層から上層に乗り上がる2本の線材を捻り線材の配列を入れ替えることによって、下層と上層と交差部は2重となり、3重に巻き重ねられることはない。
【0040】
さらに、2本線を5組以上巻線する場合には、巻芯の断面形状を5角形以上とすればよい。そこで、線材の本数を2本線がn組(nは1以上の整数)として、その2n本の線材を断面がN角形状(N≧n)の巻芯に整列巻きする場合について考える。この場合、巻芯のN個の面のうちの任意のn個の面にて、線材2本分の送りをかけて巻線する。そして、そのn個の面端部にて、下層から上層に乗り上がる2本の線材を捻り線材の配列を入れ替える。このようにして2n本の線材を巻線することによって、n個の線材送り面では、外径方向への線材の膨らみが防止されるため、得られる多層コイルはコンパクトなものとなる。
【0041】
(実施の形態6)
次に、図9を参照して、実施の形態5の他の態様である多層コイル600について説明する。図9は、多層コイル600の巻芯端部における巻線方法を示す図であり、(a)、(f)は正面図、(b)は平面図、(c)(d)は背面図、(e)は底面図である。なお、背面図(c)(d)は、説明の便宜上、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。また、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0042】
多層コイル600と多層コイル500との相違点は、2組の2本線である線材4A、4Bと線材4a、4bのそれぞれの巻始める巻芯の面が、多層コイル500では巻芯の同一面であるのに対して、多層コイル600では巻芯の異なる面である点である。
【0043】
線材4A、4Bと線材4a、4とは、それぞれ対向する正面2a、背面2cから同時に巻始められる。図9に示す(a)と(d)、(b)と(e)、(c)と(f)はそれぞれ同じ時間における対向する面を図示するものである。線材送り面は、対向する正面2aと背面2cの2面であり、線材の送りは線材2本分とする。他の2面の平面2b、底面2dでは送りをかけない。
【0044】
図9からもわかるように、2組の2本線(4A、4Bと4a、4b)をそれぞれ巻芯の異なる面から巻始めた場合でも、同一面から巻始めた多層コイル500と同一の構成の多層コイルを得ることができる。
【0045】
つまり、2n本(nが2以上の整数)の線材を断面がN角形状(N≧n)の巻芯に整列巻きする場合に、n組の2本線の線材を巻芯の異なるn個の面からそれぞれ巻始めることが可能である。
【0046】
以上にて説明したように、実施の形態1〜3では、ボビン1の1面における線材4の送りが線材1本分の場合について示し、また、実施の形態2〜6では、ボビン1の1面における線材4の送りが線材2本分の場合について示した。
【0047】
次に、ボビン1の1面における線材4の送りが1本及び2本以外の場合の多層コイルについて説明する。
【0048】
(実施の形態7)
図10を参照して本発明の実施の形態7である多層コイル700について説明する。図10は、多層コイル700の巻芯端部における巻線方法を示す図であり、(a)、(e)は正面図、(b)、(f)は平面図、(c)、(g)は背面図、(d)、(h)は底面図である。なお、背面図(c)、(g)は、説明の便宜上、正面からボビン1を透過して見た状態を示す。また、説明に関係する線材のみを図示し、その他の線材は図示しない。
【0049】
多層コイル700は、断面が4角形状の巻芯2に、線径がほぼ同一である線材4A、4Bが並列に整列巻きされたものである。線材送り面は、対向する2面である正面2aと背面2cの2面であり、線材の送りは、正面2aにて線材1.5本分、背面2cにて線材0.5本分とする。他の2面の平面2b、底面2dでは送りをかけない。このように、多層コイル700は、線材4A、4Bが巻芯2を一周する間に線材2本分の送りがかけられ、線材4A、4Bを巻芯2に多層に巻線する場合には、正面2a及び背面2cでは、下層と上層の線材の巻き方向が逆になる。これにより、多層コイル700の正面2a及び背面2cには下層と上層の線材が交差する交差部5が形成される。また、多層コイル700は、図10(e)に示すように正面2aの端部に、2本の線材4A、4Bが捻られ、線材の配列が入れ替わる捻れ部6を有する。
【0050】
次に、多層コイル700の巻線方法について説明する。
(1)2本の線材4A、4Bを断面4角形状の巻芯2の同一の面から並列に巻始める。
(2)図10(a)〜(d)に示すように、正面2aでは線材1.5本分の送りをかけ、背面2cでは線材0.5本分の送りをかけ、平面2bと底面2dでは送りをかけない。このように、線材4A、4Bが巻芯2を一周する間に合計で線材2本分の送りをかける。
(3)正面2a端部では、図10(e)に示すように、線材4A、4Bは捻って巻線され線材4A、4Bの配列が入れ替わる。具体的には、巻芯内側の線材4Aは、下層の線材と鍔部3との線材0.5本分の隙間に乗り上げ上層に巻線される。また、巻芯外側の線材4Bは、巻き方向が下層の巻線とは逆に巻線され、線材4A上を交差することによって捻れ部6を形成するとともに、下層の線材とも交差し、下層に巻線された隣合う線材間の溝に乗り上げ上層に巻線される。このように、正面2a端部には、線材4A、4Bを捻ることによって生じる捻れ部6と、線材4Bと下層の線材が交差することによって生じる交差部5とが存在する。この捻れ部6及び交差部5は、双方とも線材の重なりは2重であり3重に巻き重ねられることはない。
(4)次の平面2bでは、図10(f)に示すように、線材4Aと4Bは、送りをかけずに巻芯2端部に巻線される。
(5)次の背面2cでは、図10(g)に示すように、線材4A、4Bは、下層の線材の送り方向とは逆方向に線材0.5本分の送りをかけ巻線される。このように、背面2cでは、下層と上層の線材が交差する。しかし、交差部5は、いずれも2重であり3重に巻き重ねられることはない。
(6)次の底面2dでは、図10(h)に示すように、線材4A、4Bは、送りをかけずに下層の隣合う巻線間の溝に案内されて巻線される。
【0051】
以上の実施の形態7に係る多層コイル700では、線材送り面は正面2aと背面2cとし、線材の送りは正面2aにて1.5本分、背面2cにて0.5本分とした。しかし、本発明は、これに限られるものではなく、線材送り面は巻芯2の任意の面に設定することができ、かつ線材の送りも線材が巻芯2を一周する間に合計で線材2本分の送りをかければ、線材送り面における線材の送りは任意に設定することができる。例えば、巻芯2の全ての面(4面)にて、それぞれ0.5本分の送りをかけて巻線することも可能である。この場合、巻芯2の各面のうちの1面の端部に、2本の線材が捻られ線材の配列が入れ替わる捻れ部が形成され、線材送り面における外径方向への線材の膨らみが防止される。
【0052】
また、多層コイル700では、線材の本数が2本の場合について示したが、本発明は、これに限られるものではなく、3本以上とすることも可能である。そこで、線材の本数をn本(nは2以上の整数)として、そのn本の線材を断面がN角形状(N≧n)の巻芯に整列巻きする場合について考える。この場合、線材が巻芯を一周する間に、巻芯のN個の面のうちの任意の面にて、合計で線材n本分の送りをかけて巻線する。そして、送りがかけられる面のうちの少なくとも1面の端部にて、n本線の線材のうち2本の線材を捻り線材の配列を入れ替える。このようにしてn本の線材を巻線することによって、線材送り面では、外径方向への線材の膨らみが防止されるため、得られる多層コイルはコンパクトなものとなる。
【0053】
以上の実施の形態7からわかるように、n本線(nは2以上の整数)の線材を断面が多角形状の巻芯に整列巻きする場合において、線材が巻芯を一周する間に合計で線材n本分の送りをかけて巻線するのであれば、線材送り面における線材の送りは線材の整数分に限られない。
【0054】
次に、多層コイルの巻線装置について説明する。
【0055】
(実施の形態8)
図11を参照して、本発明の実施の形態8である巻線装置800について説明する。図11は、巻線装置800を示す斜視図である。
【0056】
巻線装置800は、軸中心に回転するスピンドル軸11とともに回転するボビン12に線材4を巻線するものである。巻線装置800は、図示しない線材源からの線材4をボビン12に導く複数のノズル14と、ノズル14をボビン12の巻芯12a軸方向に移動させる線材送り手段15と、ノズル14の配置を入れ替え線材4を捻る線材捻り手段16とを備える。
【0057】
スピンドル軸11は、スピンドル支持台20に支持され、スピンドル支持台20は基台21上に立設し、スピンドル軸11の一端に接続されたスピンドルモータ22により回転制御される。
【0058】
ボビン12は、スピンドル軸11の他端に固定された巻治具17に支持される。また、ボビン12は、線材4が巻線される巻芯12aと、巻芯12の両側に巻芯12と同軸上に設けられた鍔部12bとからなり、鍔部12bの一方には線材4の巻始めに線材4が案内される切り欠き12cが設けられている。なお、ボビン12は、巻芯12aの軸方向がスピンドル軸11の軸方向と一致するように固定される。
【0059】
ノズル14は、円筒形状であり、スピンドル軸11とほぼ直交する方向に、少なくとも線材の本数分配置され、ノズル支持部18によって支持される。
【0060】
ノズル支持部18は、複数のノズル14を貫通固定し一体に支持するものであり、ハウジング26内に軸中心に回転可能に収容される。また、ノズル支持部18は、円柱形状であり外周に歯を有する。
【0061】
線材送り手段15は、ベース板27上に配置された線材送りモータ28と、線材送りモータ28の出力軸に連結されスピンドル軸11の軸方向に延びるボールねじ29と、ボールねじ29と螺合しスピンドル軸11の軸方向に移動する軸方向移動台30と、ベース板27上に配置されスピンドル軸11の軸方向に延びるリニアガイド31と、ハウジング26を支持するとともに軸方向移動台30に固定されリニアガイド31に沿って移動する支持板32とを備える。これにより、線材送り手段15の作用によって、ハウジング26内に収容されたノズル支持部18は、巻芯12aの軸方向に移動することが可能となる。
【0062】
線材捻り手段16は、支持板32に連結されたノズル配置入替モータ33と、ノズル配置入替モータ33の出力軸に連結され、外周に形成された歯がノズル支持部18外周の歯と噛み合う回転部材34とを備える。このように、ノズル支持部18と回転部材34とは歯車を構成し、ノズル支持部回転手段として機能する。したがって、ノズル配置入替モータ33が動作することによって回転部材34が回転し、その回転がノズル支持部18に伝達されノズル支持部18が回転する。これにより、ノズル14がノズル支持部18の回転軸を中心として公転し、ノズル14a、14bから繰り出される線材4a、4bが捻られ交差する。
【0063】
また、巻線装置800は、線材送り手段15をスピンドル軸の直交方向(図11では上下方向)に移動させる軸直交方向移動手段35を備える。軸直交方向移動手段35は、基台21に立設しスピンドル軸11の直交方向に延びる支持台36と、支持台36上に配置された上下移動モータ37と、上下移動モータ37の出力軸に連結されスピンドル軸11の直交方向に延びるボールねじ38と、支持台36に固定されスピンドル軸11の直交方向に延びるリニアガイド39と、ボールねじ38と螺合しリニアガイド39に沿って移動する軸直交方向移動台40とを備える。軸直交方向移動台40は、線材送り手段15のベース板27に固定される。したがって、ベース板27は、軸直交方向移動台40とともにスピンドル軸11の直交方向に移動する。なお、軸直交方向移動台40及びベース板27の重量は、支持台36に取り付けられたスプリング41によって支持される。
【0064】
次に、巻線装置800の動作について説明する。なお、巻線の本数は、図示の通り2本線の場合を例にとって説明する。
(1)ボビン12を巻治具17に、ボビン12とスピンドル軸11の双方の軸方向が一致するように固定する。
(2)2本のノズル14a、14bをノズル支持部18に、ノズル支持部18の回転軸を中心として環状に貫通固定する。
(3)図示しない線材源からの線材4a、4bをそれぞれノズル14a、14bの先端から繰り出し、クランプ装置42のクランプ42aによって保持する。
(4)線材4を巻治具17上の係止ピン43に巻き付けた後、カッター44によってクランプ42と係止ピン43との間の線材を切断する。
(5)線材送り手段15、及び軸直交方向移動手段35の作用によって、ノズル14a、14bをスピンドル軸11の軸方向及び直交方向に移動させ、線材4a、4bをボビン12に設けられた切り欠き12cに通し巻芯12aに案内する。
(6)スピンドル軸11を回転させることによってボビン12を回転され、線材4a、4bを巻芯12aに巻線する。
(7)線材の送りは、ボビン12の1回転中の所定の面にて、線材送り手段15の線材送りモータ28を動作させ、ノズル支持部18をスピンドル軸11の軸方向に移動させることによって行う。なお、実施の形態1〜3に係る多層コイルの場合には、線材4a、4bの送りはスピンドル軸11の軸方向に線材1本分とし、また、実施の形態4〜6に係る多層コイルの場合には、線材4a、4bの送りはスピンドル軸11の軸方向に線材2本分となる。
(8)巻芯12a端部では、線材捻り手段16のノズル配置入替モータ33を動作させ、回転部材34を介してノズル支持部18を180°回転させ、2本のノズル14a、14bの配置を入れ替える。このようにして2本の線材4a、4bを捻り交差させることによって線材の配列を入れ替える。
(9)ボビン12への巻線が終了したら、線材送り手段15、及び軸直交方向移動手段35の作用によって、ノズル14a、14bをスピンドル軸11の軸方向及び直交方向に移動させ、線材4a、4bをボビン12に設けられた切り欠き12cに通す。その後、クランプ装置42によってクランプ42aをノズル14a、14bに向けて移動させ、ノズル14a、14b先端から繰り出されている線材4a、4bをクランプ42aにて保持し、ボビン12とクランプ42aとの間の線材4をカッター44によって切断する。
【0065】
以上の巻線装置800によれば、線材捻り手段16を備えるため、巻芯12a端部にて2本の線材を捻り配列を入れ替えることができる。したがって、巻線装置800によって製造される多層コイルは、線材送り面における外径方向への線材の膨らみが防止され、コンパクトな多層コイルとなる。
【0066】
(実施の形態9)
図12を参照して、本発明の実施の形態9である巻線装置900について説明する。図12は、巻線装置900を示す斜視図である。前述した巻線装置800と同様の構成には、同一の符号を付する。なお、巻線の本数は、図示の通り4本線(4a〜4d)の場合を例にとって説明する。
【0067】
巻線装置900における巻線装置800との相違点は、ノズル支持部18が複数のノズル14をそれぞれ独立に支持する点と、線材捻り手段16がノズル支持部18をそれぞれ独立に巻芯12aの軸方向に移動させる点である。以下に、巻線装置900について巻線装置800と相違する点を中心に説明する。
【0068】
ノズル支持部18a〜18dは、板状の部材であり、複数のノズル14a〜14dをそれぞれ独立に支持するものである。
【0069】
線材送り手段15は、ベース板27上に配置された線材送りモータ28と、線材送りモータ28の出力軸に連結されスピンドル軸11の軸方向に延びるボールねじ29と、ベース板27上に配置されスピンドル軸11の軸方向に延びるリニアガイド31と、ボールねじ29と螺合しリニアガイド31に沿って移動する軸方向移動台30とを備える。
【0070】
線材捻り手段16は、軸方向移動台30上に配置されたノズル配置入替モータ50と、ノズル配置入替モータ50の出力軸に連結されスピンドル軸11の軸方向に延びるボールねじ51と、ボールねじ51と螺合しノズル支持部18に固定された第2軸方向移動台52と、軸方向移動台30上に配置されスピンドル軸11の軸方向に延びるリニアガイド52とを一組とし、これらを複数組(巻線装置900では4組)備える。これにより、線材捻り手段16は、ノズル支持部18a〜18dをそれぞれ独立に巻芯12aの軸方向に移動させることが可能となる。
【0071】
次に、巻線装置900の動作について説明する。
(1)ボビン12を巻治具17に、ボビン12とスピンドル軸11の双方の軸方向が一致するように固定する。
(2)4本のノズル14a〜14dをそれぞれノズル支持部18a〜18dに貫通固定する。また、ノズル14a〜14dに対応するそれぞれのノズル配置入替モータ50を動作させ、ノズル14a〜14dの巻芯12a軸方向の間隔が線材1本分となるようにする(図12に示す状態)。
次の(3)〜(6)の工程は、巻線装置800の場合と同様である。
(7)線材の送りは、ボビン12の1回転中の所定の面にて、線材送り手段15の線材送りモータ28を動作させ、軸方向移動台30を巻芯12aの軸方向に移動させることによって行う。
(8)巻芯12a端部では、ノズル支持部18a〜18dのうち捻ろうとする2本の線材を支持するノズル支持部18に対応するノズル配置入替モータ50を動作させ、その2本の線材を支持するノズル支持部18の巻芯12a軸方向の相対位置を入れ替える。このようにして2本の線材を捻り交差させることによって線材の配列を入れ替える。
(9)の工程は、巻線装置800の場合と同様である。
【0072】
以上のように巻線装置900は、ノズル支持部18a〜18dをそれぞれ独立に巻芯12aの軸方向に移動させることができるため、同時に巻く線材の本数が多い場合には有効である。
【0073】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る多層コイルは、直流モータのステータコイル等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1における多層コイル100を示す図である。
【図2】多層コイル100の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図3】多層コイル100を示す正面図である。
【図4】本発明の実施の形態2における多層コイル200の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態3における多層コイル300の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態4における多層コイル400を示す正面図である。
【図7】多層コイル400の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態5における多層コイル500の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態6における多層コイル600の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態7における多層コイル700の巻芯端部における巻線方法を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態8における巻線装置800を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態9における巻線装置900を示す斜視図である。
【図13】従来の多層コイルを示す図である。
【図14】従来の多層コイルを示す図である。
【符号の説明】
【0076】
100,200,300,400,500,600,700 多層コイル
800,900 巻線装置
1,12 ボビン
2,12a 巻芯
2a 巻芯正面
2b 巻芯平面
2c 巻芯背面
2d 巻芯底面
3,12b 鍔部
4,4A,4B,4C,4D,4a,4b,4c,4d 線材
5 交差部
6 捻れ部
7 突起
8,12c 切り欠き
11 スピンドル軸
14,14a,14b,14c,14d ノズル
15 線材送り手段
16 線材捻り手段
17 巻治具
18,18a,18b,18c,18d ノズル支持部
26 ハウジング
27 ベース板
28 線材送りモータ
29,38,51 ボールねじ
32 支持板
33 ノズル配置入替モータ
34 回転部材
35 軸直交方向移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n本線(nは2以上の整数)の線材を断面が多角形状の巻芯に整列巻きする多層コイルであって、
前記線材が前記巻芯を一周する間に線材n本分の送りがかけられることによって、線材の送りがかけられる面では下層と上層の線材が交差する交差部が形成され、
前記送りがかけられる面のうちの少なくとも1面の端部には、n本線の線材のうち2本の線材が捻られ線材の配列が入れ替わる捻れ部が形成されることを特徴とする多層コイル。
【請求項2】
n本線(nは2以上の整数)の線材を断面が多角形状の巻芯に整列巻きする多層コイルの巻線方法であって、
前記線材が前記巻芯を一周する間に線材n本分の送りをかけ、
前記送りがかけられる面のうちの少なくとも1面の端部にて、n本線の線材のうち2本の線材を捻り線材の配列を入れ替えることを特徴とする多層コイルの巻線方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−67171(P2007−67171A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251242(P2005−251242)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】