説明

多層フィルム、シート及びバッグ

【課題】ガスバリア層を含む多層シート又はフィルムにおいて、低温特性、バリア性が良好で、加熱殺菌適性があり非収縮性なものを提供すること。
【解決手段】ガスバリア層、接着性樹脂層及びポリオレフィン系樹脂層を有する未延伸の積層体からなる多層フィルム又はシートであって、ASTM−D3985に準じて測定される酸素透過度が1cc以上100cc以下(m/day・MPa at 23℃ 65%RH)であり、ASTM−D3420に準じて測定される5℃における低温衝撃吸収エネルギーが0.6J以上であり、積層体の各層が結晶性樹脂の場合には110℃以上の融点を、非晶性樹脂の場合には110℃以上の流出開始温度を有し、110℃におけるMD方向の熱収縮率及びTD方向の熱収縮率がともに0%以上2%以下であることを特徴とする多層フィルム又はシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスバリア層を含む多層フィルム、シート及びバッグに関するものである。本発明のシート又はフィルムは低温特性、バリア性能に優れ、非収縮性であり、医薬品などの液体を包装する用途に適している。
【背景技術】
【0002】
現在、ガスバリア層は、酸素、水蒸気、二酸化炭素等の気体に対するバリア性を活かして食品や医薬品等の包装材料として広く使用されている。
ガスバリア層としてはポリオレフィン系フィルムやポリエステル系フィルム、ポリアミド系フィルムにシリカやアルミナを蒸着した無機蒸着フィルムやエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層等があげられる。またそれらのガスバリア層は単層で使用されることは少なく、ヒートシール性の付与や機械特性の向上が目的で他樹脂との積層体で使用される場合が多い。
積層方法としては、共押出法、ドライラミネーション法、押出ラミネーション法等があるが、目標の層構成を一工程で得る事ができる共押出法は製造コストの面から有利な方法である。
【0003】
一方、透析用途や点滴用の液体薬剤の包装はその薬効を保つために包装材料にバリア性を必要とするものも多い。薬剤と直接接触する一次包装は接着剤の成分が薬剤に抽出するのを防ぐために、低分子量の接着剤を使用しない共押出法で作成されるのが好ましい。
また、これらの医薬品は包装後に110℃以上の加熱殺菌処理される場合がある。
加熱殺菌の際、包材が収縮性のシートであれば、熱収縮による変形や、例えば仕切り部分がイージーシールになっている2液タイプの腹膜透析用薬剤包装の場合、加熱殺菌時にバッグが収縮し、その応力によりイージーシール部が剥がれてしまう等の問題が起るので、非収縮性である未延伸系のシートが好まれる。
【0004】
共押出法で層形成が可能なガスバリア層の代表的なものとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層とポリ塩化ビニリデン系樹脂層があげられる。
この中でもポリ塩化ビニリデン系樹脂の未延伸シートは低温では非常に脆い性質があるために、これまでに低温特性を必要とする用途には適していなかった。
【0005】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層を含む未延伸系の多層共押出の技術としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体と塩化ビニリデン共重合体の積層フィルム構成のオストミー用多層フィルム(特許文献1)が一般的に知られている。しかしながら本構成では接着層に融点が110℃以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体層を使用しているために、110℃以上の加熱殺菌処理を行うと接着層が溶融して層間剥離が起る問題がある。
【特許文献1】特開平7−148192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては、ガスバリア層を含む多層シート又はフィルムにおいて、低温特性、バリア性が良好で、加熱殺菌適性があり非収縮性なものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、未延伸系のガスバリア層を含む多層シート又はフィルムについて鋭意検討したところ、各層を構成する樹脂がある一定以上の耐熱性を有し、またある特定の樹脂を選定することで、非収縮性で加熱殺菌適性、低温特性、バリア性が良好なものを提供できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1] ガスバリア層、接着性樹脂層及びポリオレフィン系樹脂層を有する未延伸の積層体からなる多層フィルム又はシートであって、ASTM−D3985に準じて測定される酸素透過度が1cc以上100cc以下(m/day・MPa at 23℃ 65%RH)であり、ASTM−D3420に準じて測定される5℃における低温衝撃吸収エネルギーが0.6J以上であり、積層体の各層が結晶性樹脂の場合には110℃以上の融点を、非晶性樹脂の場合には110℃以上の流出開始温度を有し、110℃におけるMD方向の熱収縮率及びTD方向の熱収縮率がともに0%以上2%以下であることを特徴とする多層フィルム又はシート。
[2] ガスバリア層はガラス転移温度が5℃以下のポリ塩化ビニリデン系樹脂層であり、且つポリ塩化ビニリデン系樹脂層を除く積層体の各層のうちガラス転移温度が5℃以下である層の厚みの合計が、積層体全体の厚みの30%以上を占めることを特徴とする、[1]記載の多層フィルム又はシート。
[3] ガスバリア層はガラス転移温度が5℃以下のポリ塩化ビニリデン系樹脂層であり、且つ積層体はさらにポリアミド系樹脂層を有することを特徴とする、[1]又は[2]記載の多層フィルム又はシート。
[4] ポリオレフィン系樹脂層、接着性樹脂層、ポリアミド系樹脂層、接着性樹脂層、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層がこの順で積層された構成を有する、[3]に記載の多層フィルム又はシート。
[5] [1]〜[4]の何れかに記載の多層フィルム又はシートから成るバッグ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱殺菌適性、非収縮性、低温特性、バリア性がバランス良く優れたガスバリア層を含む未延伸系の多層共押出シート及びフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に用いるガスバリア層はポリエステル系フィルムやポリアミド系フィルムにシリカやアルミナを蒸着した無機蒸着フィルムやエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層等があげられる。その中でも共押出法で層形成が可能なエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層とポリ塩化ビニリデン系樹脂層が好ましい。
【0011】
本発明に用いるガスバリア層の1種であるポリ塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデンを主成分とし、これと共重合し得る単量体、例えば塩化ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸アルキルエステル、イタコン酸、イタコン酸アルキルエステル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン等の不飽和単量体の一種以上から選ばれたものとの共重合体であり、主成分の塩化ビニリデン成分が70〜98重量%であることが一般的であり、80〜97重量%のものが好ましい。塩化ビニリデン成分が98重量%以下であると多層構成にした場合の低温特性が良好であり、70重量%以上であれば気体に対するバリア性能が十分である。
【0012】
本発明に用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂は110℃以上の結晶融点を有する必要がある。
【0013】
本発明に用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂のゲルパーミエ−ションクロマトグラフィー法(GPC法)で求めたポリスチレンを標準とした重量平均分子量(Mw)は5万〜15万が一般的であり、好ましくは6万〜12万である。重量平均分子量が5万以上であれば多層構成時のフィルム強度が十分であり12万以下であれば押出時の熱安定性が良好である。
【0014】
本発明で用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂層は前述の塩化ビニリデン共重合体の1種又は2種以上から形成することができる。
【0015】
また本発明に用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂には必要に応じて、各種の公知の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、有機滑剤、無機粉末、着色剤等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いるポリ塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度(Tg)はポリ塩化ビニリデンの共重合体比率と可塑剤等の液体添加剤の添加量で決まる。液体添加剤を無添加でTgを5℃以下にするためには、例えば塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の場合は塩化ビニリデンの比率を94%以上(アクリル酸メチルの比率を6%以下)にする必要がある。また液体添加剤はTgを下げる効果があり、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体樹脂に液体添加剤を1重量%添加した場合のTgの低下度合いは例えば、エポキシ化亜麻仁油では−1℃であり、セバシンサンジブチルでは−5℃である。
【0017】
本発明においては、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層のガラス転移温度が5℃以下であり、且つポリ塩化ビニリデン系樹脂層を除く積層体の各層のうちガラス転移温度が5℃以下である層の厚みの合計が、積層体全体の厚みの30%を占めることが好ましく、ポリ塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が0℃以下であり、且つポリ塩化ビニリデン系樹脂層を除く積層体の各層のうちガラス転移温度が5℃以下である層の厚みの合計が、積層体全体の厚みの50%以上であることがより好ましい。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂層のガラス転移温度が5℃以下であり、且つポリ塩化ビニリデン系樹脂層を除く積層体の各層のうちガラス転移温度が5℃以下である層の厚みの合計が、積層体全体の厚みの30%を占める場合は、5℃における低温衝撃吸収エネルギーが0.6J以上となるために低温特性に優れ、冷蔵保管や寒冷地での取り扱いにも十分に耐えることができる。
特筆すべきは、本発明者らは未延伸多層系の液体充填用バッグの低温特性を向上させるにはポリ塩化ビニリデン系樹脂層に関してはガラス転移温度が支配的であり、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層以外はガラス転移温度が5℃以下の層比率が支配的であることを見出したことである。
【0018】
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂層とは、結晶性樹脂の場合は110℃以上の融点をまた非晶性樹脂の場合は110℃以上の流出開始温度を有する必要があり、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンの単重合体、或いはそれら2種類以上の共重合体、或いは前記オレフィンの1種または2種以上と他のビニル系単量体の1種又は2種以上との共重合体を指す。110℃以上の融点をもつ、オレフィン系重合体の具体例としては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブチレン共重合体等を挙げることができる。
【0019】
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂層は前述したオレフィン単独重合体およびオレフィン共重合体の1種又は2種以上から形成することができる。
【0020】
本発明に用いる接着性樹脂層とは特に限定はないが、ポリオレフィン系樹脂層とガスバリア層、ポリオレフィン系樹脂層とポリアミド系樹脂層、ポリアミド系樹脂層とガスバリア層等を接着する樹脂を指し、結晶性樹脂の場合は110℃以上の融点を、非晶性樹脂の場合は110℃以上の流出開始温度を有する必要がある。
【0021】
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂層とポリ塩化ビニリデン系樹脂層間の接着性樹脂層としては110℃以上の結晶融点を有する変性ポリオレフィン系樹脂や、110℃以上の流出開始温度を有する熱可塑性ポリウレタン系樹脂、或いは熱可塑性変性ポリウレタン系樹脂、又はそれらの1種又は2種以上から形成することができる。
【0022】
上記変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレンやプロピレンに、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物、エステル等の誘導体を共重合、又はグラフト重合して変性した樹脂等を指す。
【0023】
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂とはポリオールとイソシアネートとの重付加物を使用することができる。ポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオールや、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオールまたはポリカーボネートポリオール等のポリエステルポリオール、またはポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール等を用いることができる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。また、イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート等を用いることができる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。さらに架橋鎖延長剤として、ジオールまたはトリオール等を用いることができる。
【0024】
上記熱可塑性変性ポリウレタン系樹脂とは熱可塑性ポリウレタンと他重合体のブロック共重合体、或いは該ブロック共重合体の水素添加物を指し、好ましくは熱可塑性ポリウレタン、並びに芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体及び該ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。
【0025】
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂層とポリアミド系樹脂層間の接着性樹脂層としては、変性ポリオレフィン系樹脂の1種または2種以上を併用するのが好ましく、110℃以上の結晶融点を有することが必須である。
【0026】
上記変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレンやプロピレンに、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物、エステル等の誘導体を共重合、又はグラフト重合して変性した樹脂等を指す。
【0027】
本発明に用いるポリアミド系樹脂層とポリ塩化ビニリデン系樹脂層間の接着性樹脂層は熱可塑性ポリウレタン系樹脂の1種または2種以上を併用するのが好ましく、110℃以上の流出開始温度を有することが必須である。
【0028】
上記熱可塑性ポリウレタン系樹脂とはポリオールとイソシアネートとの重付加物を使用することができる。ポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオールや、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオールまたはポリカーボネートポリオール等のポリエステルポリオール、またはポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール等を用いることができる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。また、イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート等を用いることができる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。さらに架橋鎖延長剤として、ジオールまたはトリオール等を用いることができる。
【0029】
本発明のフィルム又はシートはASTM−D3985に準じて測定される酸素透過度が1cc以上、100cc以下(m2/day・MPa at 23℃ 65%RH)であり、好ましくは1cc以上、20cc以下である。酸素透過度はガスバリア性の高い樹脂を選択して厚みを適宜調整することで、コントロールする。ガスバリア性樹脂層がポリ塩化ビニリデン系樹脂層の場合、酸素透過度を1cc以上、100cc以下にコントロールするためには例えば厚みを50μmとし、VDC/VC=85/15の樹脂を使用する場合、可塑剤として例えばセバシン酸ジブチルを0%〜5%添加することができる。またVDC/VC=85/15の樹脂を使用し、可塑剤としてセバシン酸ジブチル(DBS)を1%、熱安定剤としてエポキシ化亜麻仁油(ELO)を1%使用した場合、酸素透過度を100cc以下にコントロールするためにはポリ塩化ビニリデン系樹脂層の厚みを15μm以上にすればよい。酸素透過度が1cc以上であれば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層の厚みと樹脂組成が熱安定的に押出製膜が可能な範囲になり、100cc以下であればバリア性を必要とする内容物を包装しても実用に耐えることができる。
【0030】
本発明のフィルム又はシートの低温衝撃吸収エネルギー(ASTM−D3420による測定)は0.6J以上である必要があり1.2J以上であれば更に好ましい。
【0031】
低温衝撃吸収エネルギーを0.6J以上にするためには、全層で総合的に柔軟性を有する必要がある。例えばガスバリア層にポリ塩化ビニリデン系樹脂層を使用する場合、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層のガラス転移温度が5℃以下であり、且つポリ塩化ビニリデン系樹脂層を除く積層体の各層のうちガラス転移温度が5℃以下である層の厚みの合計が、積層体全体の厚みの30%以上を占める必要がある。
【0032】
低温吸収エネルギーが0.6J以上であれば、冷蔵保管や寒冷地での取り扱いにも十分に耐えることができる。
【0033】
本発明に用いる各樹脂は結晶性樹脂の場合は110℃以上の融点を非晶性樹脂の場合は110℃以上の流出開始温度を有する必要がある。各樹脂がこれらの性質を持つことで110℃以上の加熱殺菌処理中に樹脂が溶融せずに処理後のラミ強度も十分に有すことができる。
【0034】
本発明のフィルム又はシートは未延伸であり、110℃における熱収縮率が0%≦MD≦2%、0%≦TD≦2%である必要があり、好ましくは0%≦MD≦1%、0%≦TD≦1%である。ここでのMDとはシートの流れ方向を、TDとはシートの流れ方向に対して直角の方向をさす。ここでの未延伸の定義は、ダイから出てきた樹脂を巻き取る工程で、熱緩和処理(ヒートセット処理)なしに110℃での熱収縮率を0%≦MD≦2%、0%≦TD≦2%に納めることを指し、広議には樹脂をダイ下で溶融延伸するダイレクトインフレ法も含む。
【0035】
110℃での熱収縮率が0%≦MD≦2%、0%≦TD≦2%の範囲であれば110℃以上の加熱殺菌用途でもバッグが収縮することなく、例えば仕切り部分がイージーシールになっているような2液タイプの腹膜透析用薬剤の包装にも好適である。
【0036】
本発明に用いるポリアミド系樹脂とは主鎖中にアミド結合をもつ重合体をいい、脂肪族ポリアミドや芳香族ポリアミド等が挙げられ、結晶性樹脂の場合は110℃以上の融点を非晶性樹脂の場合は110℃以上の流出開始温度をもつ必要がある。
【0037】
脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン6、66、610、11、12、共重合ナイロン6/66、6/12、6/610、6/66/12、6/66/610、6/66/612等が挙げられる。
【0038】
また、芳香族ポリアミドとしては、メタもしくはパラキシリレンジアミンと炭素が4〜12程度のジカルボン酸とから重縮合されたポリキシリレン系重合体等を例示できる。
また、芳香族ポリアミドとしては、結晶性のもののみならず、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸と、ヘキサメチレンジアミン等のジアミンとの重合体などの非晶性のもの(6I/6T)も挙げられる。
【0039】
上記ポリアミド系樹脂層は前述したポリアミドの単独重合体およびポリアミドの共重合体の1種又は2種以上から形成することができる。
本発明のフィルム又はシートの厚みは100〜300μmが好ましく、更に好ましくは150〜250μmである。シート厚みが100μm以上であれば低温時に強度が十分であり、300μm以下であればシール特性が良好であると共に取り扱い性に優れている。
次に、本発明の液体充填用バッグを構成する未延伸シートの製法の一例について述べる。L/D=20、D=40mmφの8台の押出機でそれぞれの層を構成する樹脂を溶融して、D=150mmφのサーキュラー多層ダイで共押出し、水中にある1stローラーで引き取りながら水冷で急冷固化して多層シートを巻き取る。この時1stローラーと巻き取りローラーの速比は1であり、シートは未延伸の状態である。又、押出レートと巻き取り速度でシート厚みを100〜300μmに調整する。この設備で8種8層の層構成まで製膜することができるが、層構成を減らす場合には複数台の押出機に同樹脂を流し調整する。多層ダイとしてはTダイ、サーキュラーダイ等を使用することができる。
【0040】
本発明の液体充填用バッグは上記で得られた未延伸シートを製袋することによって得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限しない。実施例、比較例中の酸素透過率(OTR)、低温衝撃吸収エネルギー、融点(Tm)又は流出開始温度、熱収縮率、ガラス転移温度(Tg)を以下の方法によって求めた。
【0042】
1)酸素透過率(OTR)
ASTM D−3985準拠。測定はMocon OX−TRAN 2/20を使用して23℃、65%RHの条件の下で行った。
◎:1(cc/m2・day・MPa)≦OTR≦20(cc/m2・day・MPa)
バリア性を必要とする内容物を包装しても実用的に十分使用でき、オーバースペックであるレベル
○:20(cc/m2・day・MPa)<OTR≦100(cc/m2・day・MPa)
バリア性を必要とする内容物を包装しても実用的に十分使用できるレベル
×:100(cc/m2・day・MPa)<OTR
バリア性を必要とする内容物の包装には使用できないレベル
【0043】
2)低温衝撃吸収エネルギー
ASTM−D3420準拠。押出製膜した多層シートを100mm×100mmのサイズにサンプリングして5℃の雰囲気に30min暴露した後に5℃の雰囲気中において
フィルムインパクトテスター(テスター産業製)により測定した。
◎:1.2J≦低温衝撃吸収エネルギー
冷蔵保管や寒冷地での取り扱いで袋にクラックや破れが発生せず、実用的に十分使用でき、オーバースペックであるレベル
○:0.6J≦低温衝撃吸収エネルギー<1.2J
冷蔵保管や寒冷地での取り扱いで袋にクラックや破れが発生せずに実用的に十分使用できるレベル
×:0J≦低温衝撃吸収エネルギー<0.6J
冷蔵保管や寒冷地での取り扱いで袋にクラックや破れが発生し、実用的に使用できないレベル
【0044】
3)融点又は、流出開始温度
融点:
パーキンエルマー社のDiamond DSCを使用して示差走査型熱量計(DSC)法で測定した。まずそれぞれの樹脂を単層で押出製膜し、200μm厚の未延伸シートから5mg〜10mgのサンプルを取り出し、装置にセットした。
各樹脂について下記の条件で測定した。
PVDC系樹脂、PO系樹脂、酸変性PO系樹脂;
10℃〜190℃までサンプルを昇温して190℃で1分間保持した後、10℃まで降温して、再び10℃〜190℃まで昇温した時の融解ピーク温度から求めた。尚、昇降温は10℃/分の速度で行った。
ポリアミド系樹脂;
10℃〜250℃までサンプルを昇温して250℃で1分間保持した後、10℃まで降温して、再び10℃〜250℃まで昇温した時の融解ピーク温度から求めた。尚、昇降温は10℃/分の速度で行った。
流出開始温度:
DSC法にて融解ピークを持たない樹脂に関してフローテスタ法(島津製作所製フローテスタCFT500型)で樹脂が流出し始める温度を測定した。尚、フローテスタのノズル形状は直径が1mmで長さが10mmのものを使用し、断面積1cm2のシリンダー内に樹脂を充填して、荷重を100kgかけて80℃で5分間余熱した後に5℃/分の昇温速度で測定した。
【0045】
4)熱収縮率
押出製膜した多層シートを100mm×100mmのサイズにサンプリングして、110℃雰囲気のエアー中、シートにテンションがかからない状態で5分間暴露し、暴露前後のMD方向、TD方向のフィルム長を23℃50%RHの条件下測定して収縮率を求めた。
◎:0%≦MDの収縮率≦1%、0%≦TDの収縮率≦1%
110℃以上の加熱殺菌用途でもバッグが収縮することなく、実用的に十分使用でき、オーバースペックであるレベル
○:1%<MDの収縮率≦2%、1%<TDの収縮率≦2%
110℃以上の加熱殺菌用途でもバッグが収縮することなく、実用的に十分使用できるレベル
×:2%<MDの収縮率、2%<TDの収縮率
110℃以上の加熱殺菌用途でバッグが収縮してしまい、実用的に使用できないレベル
【0046】
5)ガラス転移温度(Tg)
PVDC系樹脂については示差走査型熱量計(DSC)法を、その他の樹脂については動的粘弾性法を使用した。
DSC法:
パーキンエルマー社のDiamond DSCを使用して測定した。まずそれぞれの樹脂を単層で押出製膜し、200μm厚の未延伸シートから5mg〜10mgのサンプルを取り出し、装置にセットした。まず−20℃から190℃までサンプルを昇温して190℃で1分間保持した後、−20℃まで降温した時の吸熱曲線から求めた。尚、昇降温は10℃/分の速度で行った。
動的粘弾性法:
それぞれの樹脂を単層で押出製膜し、200μmの未延伸シートからサンプル巾7mm×長さ40mmの短冊状のサンプルを切り出し、動的粘弾性試験機、商標「RSAII」(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製)を用いて10Hzの周波数にて−100℃〜100℃まで2℃/min昇温速度で測定した時のtanδ(動的損失正接)ピーク値の温度から求めた。
【0047】
6)層間の接着強度
押出製膜した多層シートを110℃のオイルバスに20分間浸漬させた後に23℃50%RHの条件下にて各接着層と樹脂間の接着強度を測定した。
サンプルは15mm巾で、テンシロンRTC−1210を使用して300mm/minの剥離速度で測定した。
例えば A/B/接着層/C/接着層/D/接着層/E構成の場合は、
B/接着層、接着層/C、C/接着層、接着層/D、D/接着層、接着層/Eの接着強度を測定した。
評価記号 評価尺度(15mm幅での測定値)
◎: 全て1000g以上
○: 500g以上、1000g未満の部分が1箇所以上あり、残りの箇所は1000g以上である
△: 200g以上、500g未満の部分が1箇所以上あり、残りの箇所は500g以上である
×: 200g未満の部分が1箇所以上あり、残りの箇所は200g以上である
【0048】
<実施例、比較例>
各樹脂について
PVDC1: 塩化ビニリデン(VDC)の共重合割合が85重量%、塩化ビニル(VC)の共重合割合が15重量%であり、重量平均分子量が10万の塩化ビニリデン系樹脂に対して、熱安定剤としてエポキシ化亜麻仁油(ELO)を樹脂組成物全重量に対して1重量%、可塑剤としてセバシン酸ジブチルを樹脂組成物全重量に対して1重量%添加した。この樹脂組成物のDSC測定によるTgは−6℃であり、Tmは145℃であった。
PVDC2: 塩化ビニリデン(VDC)の共重合割合が95重量%、アクリル酸メチル(MA)の共重合割合が5重量%であり、重量平均分子量が8万の塩化ビニリデン系樹脂に対して、熱安定剤としてエポキシ化亜麻仁油(ELO)を樹脂組成物全重量に対して2重量%添加した。この樹脂組成物のDSC測定によるTgは4℃であり、Tmは168℃であった。
PVDC3: 塩化ビニリデン(VDC)の共重合割合が90重量%、アクリル酸メチル(MA)の共重合割合が10重量%であり、重量平均分子量が8万の塩化ビニリデン系樹脂に対して、熱安定剤としてエポキシ化亜麻仁油(ELO)を樹脂組成物全重量に対して0.5重量%添加した。この樹脂組成物のDSC測定によるTgは8.5℃であり、Tmは135℃であった。
【0049】
PP1: 三菱化学(株)製のポリプロピレン樹脂、ゼラス7023を使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは−11℃であり、DSC測定によるTmは165℃であった。
PP2: 三菱化学(株)製のポリプロピレン樹脂、ゼラスMC717を使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは−22℃であり、DSC測定によるTmは160℃であった。
【0050】
接着性樹脂ad1: 三菱化学(株)製の無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、モディックF534Aを使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは−18℃でありTmは120℃であった。
接着性樹脂ad2: 日本ポリウレタン(株)製の熱可塑性ポリウレタン樹脂、E595を使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは−3℃であり、フローテスタ測定による流出開始温度は205℃であった。
接着性樹脂ad3: 日本ポリウレタン(株)製の熱可塑性ポリウレタン樹脂、E598を使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは7℃であり、フローテスタ測定による流出開始温度は215℃であった。
接着性樹脂ad4: (株)クラレ製のSEBS水素添加物変性熱可塑性ポリウレタン樹脂、S5265を使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは−42℃であり、フローテスタ測定による流出開始温度は145℃であった。
接着性樹脂ad5: ダウケミカル日本(株)製のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、NUC3765Dを使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは−25℃であり、DSC測定法によるTmは87℃であった。
【0051】
Ny: 三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の6ナイロン/66ナイロン共重合体樹脂のポリアミド(ナイロン)樹脂を使用した。この樹脂組成物の動的粘弾性測定によるTgは34℃であり、DSC測定法によるTmは194℃であった。
接着性樹脂ad6: 上記のad1とad4をad1:ad4=20:80で混合したものである。
【0052】
<実施例1>
L/D=20、D=40mmφの8台の押出機の内、4台にはPP1を流し、他の押出機に各樹脂を流すことで5層とし、D=150mmφのサーキュラー多層ダイで共押出し、水冷で急冷固化して未延伸系の筒状多層シートを巻き取った。シートの層構成はPP1(30μm)/ad1(40μm)/PVDC1(80μm)/ad1(40μm)/PP1(30μm)である。
<実施例2>
実施例1と同様にしてPP2(20μm)/ad6(10μm)/PVDC1(140μm)/ad6(10μm)/PP2(20μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
<実施例3>
実施例1と同様にしてPP1(100μm)/ad6(25μm)/PVDC1(20μm)/ad6(25μm)/PP1(100μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
【0053】
<実施例4>
実施例1と同様にしてPP1(40μm)/ad6(20μm)/PVDC2(130μm)/ad6(20μm)/PP1(40μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
<実施例5>
実施例1と同様の装置にて8台の押出機の内、2台にはPP1を流し、他の押出機に各樹脂を流すことで7層の未延伸の筒状多層シートを得た。シートの層構成はPP1(70μm)/ad1(50μm)/Ny(20μm)/ad2(30μm)/PVDC1(80μm)/ad2(20μm)/Ny(20μm)である。
<実施例6>
実施例1と同様の装置にて8台の押出機に各樹脂を流すことで8層の未延伸の筒状多層シートを得た。シートの層構成はPP1(30μm)/PP2(20μm)/ad1(10μm)/Ny(20μm)/ad2(10μm)/PVDC2(140μm)/ad2(10μm)/Ny(20μm)である。
【0054】
<比較例1>
実施例1と同様にしてPP1/ad6/PVDC1/ad6/PP1の未延伸の筒状多層シート得た後に連続的に90℃の雰囲気下、縦型のエアーインフレーション法によりシートの縦方向と横方向にそれぞれ3倍延伸し、PP1(30μm)/ad6(40μm)/PVDC1(80μm)/ad6(40μm)/PP1(30μm)の延伸系の筒状多層シートを得た。
<比較例2>
実施例1と同様にしてPP2(15μm)/ad6(10μm)/PVDC1(150μm)/ad6(10μm)/PP2(15μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
<比較例3>
実施例1と同様にしてPP1(30μm)/ad5(40μm)/PVDC1(80μm)/ad5(40μm)/PP1(30μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
【0055】
<比較例4>
実施例1と同様にしてPP1(100μm)/ad6(25μm)/PVDC3(20μm)/ad6(25μm)/PP1(100μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
<比較例5>
実施例1と同様にしてPP1(100μm)/ad6(25μm)/PVDC1(10μm)/ad6(25μm)/PP1(100μm)の未延伸系の筒状多層シートを得た。
<比較例6>
実施例1と同様の装置にて8台の押出機に各樹脂を流すことで8層の未延伸の筒状多層シートを得た。シートの層構成はPP1(20μm)/PP2(20μm)/ad1(20μm)/Ny(70μm)/ad2(10μm)/PVDC1(80μm)/ad2(10μm)/Ny(70μm)である。
<比較例7>
実施例1と同様の装置にて8台の押出機に各樹脂を流すことで8層の未延伸の筒状多層シートを得た。シートの層構成はPP1(20μm)/PP2(20μm)/ad1(20μm)/Ny(10μm)/ad3(50μm)/PVDC1(60μm)/ad3(50μm)/Ny(10μm)である。
【0056】
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られたシートの層構成等を表1に、酸素透過率(OTR)、低温衝撃吸収エネルギー、融点(Tm)又は流出開始温度、熱収縮率、ガラス転移温度(Tg)を表2にそれぞれ示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のバリア性の未延伸多層フィルム又はシートは加熱殺菌適性、非収縮性、低温特性、バリア性がバランス良く優れており、透析用途や点滴用の液体薬剤の包装に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア層、接着性樹脂層及びポリオレフィン系樹脂層を有する未延伸の積層体からなる多層フィルム又はシートであって、
ASTM−D3985に準じて測定される酸素透過度が1cc以上100cc以下(m/day・MPa at 23℃ 65%RH)であり、
ASTM−D3420に準じて測定される5℃における低温衝撃吸収エネルギーが0.6J以上であり、
前記積層体の各層が結晶性樹脂の場合には110℃以上の融点を、非晶性樹脂の場合には110℃以上の流出開始温度を有し、
110℃におけるMD方向の熱収縮率及びTD方向の熱収縮率がともに0%以上2%以下であることを特徴とする多層フィルム又はシート。
【請求項2】
前記ガスバリア層はガラス転移温度が5℃以下のポリ塩化ビニリデン系樹脂層であり、且つ当該ポリ塩化ビニリデン系樹脂層を除く前記積層体の各層のうちガラス転移温度が5℃以下である層の厚みの合計が、前記積層体全体の厚みの30%以上を占めることを特徴とする、請求項1記載の多層フィルム又はシート。
【請求項3】
前記ガスバリア層はガラス転移温度が5℃以下のポリ塩化ビニリデン系樹脂層であり、
且つ前記積層体はさらにポリアミド系樹脂層を有することを特徴とする、請求項1又は2記載の多層フィルム又はシート。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂層、接着性樹脂層、ポリアミド系樹脂層、接着性樹脂層、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層がこの順で積層された構成を有する、請求項3に記載の多層フィルム又はシート。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の多層フィルム又はシートから成るバッグ。


【公開番号】特開2010−120255(P2010−120255A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295832(P2008−295832)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】