説明

多層フィルム

【課題】良好なガスバリアー性、防汚染性、透明性、柔軟性等を有し、且つ非常に高い耐衝撃性や低温強度を有する多層フィルムを提供する。
【解決手段】最内層の第一層1をポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体、接着層である第二層2を変性ポリオレフィン、ガスバリアー性の第三層3をエチレン・ビニルアルコール共重合体、接着層である第四層4を変性ポリオレフィン、最外層の第五層5をポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体で構成する多層フィルムであり、両側の第一層1と第五層5で非常に高い耐衝撃性と低温強度を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば酸化等で変質しやすい薬液を収容する薬液容器などに用いる多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化等で変質しやすい薬液を収容する薬液容器に用いる多層フィルムとして、特許文献1の多層フィルムが知られている。特許文献1には、薬液と直接接する第一層をポリプロピレン系樹脂とスチレン系樹脂とを含む混合樹脂として、柔軟性・耐衝撃性・低温強度を確保し、接着層である第二層を変性ポリオレフィンとし、最外層の第三層をエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)として、ガスバリアー性を確保する多層フィルムや、前記第一層〜第三層に加え、第三層の外側の接着層である第四層を変性ポリオレフィンとし、第五層をポリプロピレン系樹脂とスチレン系樹脂とを含む混合樹脂として、更に柔軟性・耐衝撃性・低温強度を確保する多層フィルムが開示されている。
【0003】
尚、その他の本件の関連技術として、プロピレン単独重合体又はプロピレンとエチレン若しくは炭素数4以上のα−オレフィンが1モル%以下共重合された結晶性ポリプロピレン部分と、エチレンとプロピレンの組成が重量比でエチレン/プロピレン=20/80〜60/40であるエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とを有し、結晶性ポリプロピレン部分を、その極限粘度ηが0.8〜2.0dl/g、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量の比Q値(重量平均分子量M/数平均分子量M)が3.0〜5.0、20℃キシレン可溶分が1.5重量%以下であるものとし、エチレン−プロピレンランダム共重合体部分を、その極限粘度ηEPが3.5〜8.5dl/g、且つその全重量が全重合体の5〜20重量%であるものとするエチレン−プロピレン共重合体が特許文献2に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−33674号公報
【特許文献2】特開平5−194685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の多層フィルムは、耐衝撃性や低温強度の点で未だ十分なものとは言い難い。例えば上記第一層〜第五層で構成される多層フィルムで薬液容器(200mm×300mmの略長方形の薬液バッグ)を形成し、その薬液容器に1リットル(1kg)の水を充填し、5℃で24時間保存後に、1mの高さから落下したところ、約30%の確率で薬液容器が破裂してしまった。そのため、ガスバリアー性、防汚染性、透明性、柔軟性等を確保しつつ、耐衝撃性や低温強度を一層高められる多層フィルムが求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて提案するものであって、良好なガスバリアー性、防汚染性、透明性、柔軟性等を有し、且つ非常に高い耐衝撃性や低温強度を有する、薬液容器等の素材として好適な多層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多層フィルムは、最内層の第一層をポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体、第二層を変性ポリオレフィン、第三層をエチレン・ビニルアルコール共重合体、第四層を変性ポリオレフィン、最外層の第五層をエチレン−プロピレン共重合体若しくはポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体で構成することを特徴とする。尚、各層は前記各組成物を主成分とし、その他の成分を必要に応じて適宜付加することが可能である。
【0008】
更に、本発明の多層フィルムは、第一層と第五層若しくは第一層若しくは第五層のエチレン−プロピレン共重合体を、結晶性ポリプロピレン部分とエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とを有するエチレン−プロピレンブロック共重合体とし、該エチレン−プロピレンランダム共重合体を第一層若しくは第五層の重量に対して40重量%未満とすることを特徴とし、エチレン−プロピレンランダム共重合体を40重量%未満とすることで、多層フィルムの良好な透明性と耐衝撃性を確保することができる。
【0009】
また、エチレン−プロピレン共重合体をエチレン−プロピレンブロック共重合体とする場合に、エチレン−プロピレンブロック共重合体を、例えばプロピレンとエチレン若しくは炭素数4以上のα−オレフィンが1モル%以下共重合された結晶性ポリプロピレン部分と、エチレンとプロピレンの組成が重量比でエチレン/プロピレン=20/80〜30/70であるエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とを有するものとし、前記結晶性ポリプロピレン部分を、その極限粘度ηが0.8〜2.0dl/g、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量の比Q値(重量平均分子量M/数平均分子量M)が3.0〜5.0、20℃キシレン可溶分が1.5重量%以下であるものとし、前記エチレン−プロピレンランダム共重合体部分を、その極限粘度ηEPが3.5〜8.5dl/g、且つその重量が第一層若しくは第五層の全重合体の5〜40重量%未満、より好ましくは10〜30重量%であるものとすると、良好な透明性を確保し、非常に高い耐衝撃性や低温強度を向上することができて好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多層フィルムは、高い耐衝撃性と低温強度を有するポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体の層を有し、且つこれを両側に位置する最内層の第一層と最外層の第五層に設けるものであるから、非常に高い耐衝撃性と低温強度が得られ、同時に良好なガスバリアー性、防汚染性、透明性、柔軟性等を発揮することができる。従って、薬液容器等に要求される品質性能を備え、望ましい薬液容器等を形成することを可能にする。
【0011】
更に、エチレン−プロピレン共重合体を、結晶性ポリプロピレン部分とエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とを有するエチレン−プロピレンブロック共重合体とし、エチレン−プロピレンランダム共重合体を第一層や第五層の重量に対して40重量%未満とすることにより、一層高い耐衝撃性と低温強度が得られると共に、非常に高い透明性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の多層フィルムの実施形態を図に沿って説明する。
【0013】
実施形態の多層フィルムは、図1に示すように五層の積層構造であり、内側から外側へ第一層1、第二層2、第三層3、第四層4、第五層5の順に積層されている。第一層1はポリプロピレンとエチレン−プロピレンブロック共重合体で構成され、第二層2は変性ポリオレフィンで構成され、第三層3はエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)で構成され、第四層4は変性ポリオレフィンで構成され、最外層の第五層5はポリプロピレンとエチレン−プロピレンブロック共重合体で構成されている。前記多層フィルムは、薬液容器等の製品を形成する際に、薬液等に接する内面側に最内層の第一層1を配置し、大気等に接する外面側に最外層の第五層5を配置して用いられる。
【0014】
第一層1、第五層5のポリプロピレンは柔軟性と耐衝撃性に優れ、エチレン−プロピレンブロック共重合体は耐衝撃性と低温強度に優れており、ポリプロピレンとエチレン−プロピレンブロック共重合体で構成される第一層1、第五層5は柔軟性、耐衝撃性、低温強度に優れたものとなる。尚、エチレン−プロピレンブロック共重合体以外のエチレン−プロピレン共重合体を第一層1、第五層5に用いることも可能である。
【0015】
ポリプロピレンとエチレン−プロピレンブロック共重合体の組成比は、これらの特性を考慮して適宜設定することが可能であるが、例えば第一層1のポリプロピレンは10重量%〜50重量%、好ましくは20重量%〜40重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体は90重量%〜50重量%、好ましくは80重量%〜60重量%とすると好適であり、又、第五層5のポリプロピレンは0重量%〜30重量%、好ましくは10重量%〜20重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体は100重量%〜70重量%、好ましくは90重量%〜80重量%とすると好適である。また、第一層1、第五層5の厚さは、第三層のエチレン・ビニルアルコール共重合体等を保護し、且つ柔軟性を維持できる程度とし、例えば10μm〜30μm、好ましくは15μm〜25μmとするとよい。
【0016】
本実施形態の第一層1、第五層5のエチレン−プロピレンブロック共重合体は、プロピレンとエチレン若しくは炭素数4以上のα−オレフィンが1モル%以下共重合された結晶性ポリプロピレン部分と、エチレンとプロピレンの組成が重量比でエチレン/プロピレン=20/80〜30/70であるエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とを有し、前記結晶性ポリプロピレン部分を、極限粘度ηが0.8〜2.0dl/g、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量の比Q値(重量平均分子量M/数平均分子量M)が3.0〜5.0、20℃キシレン可溶分が1.5重量%以下であるものとし、前記エチレン−プロピレンランダム共重合体部分を、極限粘度ηEPが3.5〜8.5dl/gとし、且つエチレン−プロピレンランダム共重合体部分が第一層1や第五層5の全重合体に対して5重量%以上40重量%未満になるものとするが、その他のエチレンープロピレンブロック共重合体とすることも可能である。
【0017】
第二層2、第四層4の変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンとα、β−不飽和カルボン酸或いはその酸無水物と反応して得られるものであり、例えばエチレン無水マレイン酸共重合体、エチレン・エチルアクリルレート・無水マレイン酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル・無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等とする。前記変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン系の第一層1、第五層5と共通した成分を有するため第一層1、第五層5との良好な接着性が得られ、且つエチレン・ビニルアルコール共重合体の水酸基(−OH)のような極性のある官能基を有するため第三層3との良好な接着性が得られる。第二層2、第四層4の厚さは例えば10〜40μm、好ましくは20〜30μmとするとよい。
【0018】
第三層3のエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)は良好なガスバリアー性を有する。EVOHは剛性が高く、厚肉とすると軟質化が妨げられ、均一な排液速度を得ることができなくなるため、EVOHによる第三層3の厚さは例えば10〜30μm、好ましくは15〜25μmとするとよい。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の多層フィルムの実施例1〜6と比較例1〜4、及びこれらの薬液バッグの落下試験の結果について説明する。
【0020】
3種五層(或いは4種五層)水冷インフレーションフィルム成形機で、下記実施例1〜6及び比較例1〜4の第一層〜第五層で構成される多層樹脂フィルムのインフレーションチューブを成形した。尚、成形条件は、押出機の設定温度を第一層1と第五層5:210℃、接着層である第二層2と第四層4:215℃、第三層3:215℃、金型温度:215℃、フィルム引取速度:5m/分、折り径200mmとし、又、後述する第一層1の原料樹脂と第五層5の原料樹脂にはドライブレンドしたものを用いた。
[実施例1]
最内層の第一層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を50重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3725E、密度0.890g/cm、融点144℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を40重量%含有)を50重量%とで構成し、厚さを115μmとした。
【0021】
第二層は、変性ポリオレフィンであるエチレン無水マレイン酸共重合体(三井化学(株)製の商品名アドマー、密度0.890g/cm、MFR=5.7)で構成し、厚さを20μmとした。第三層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH、(株)クラレ製の商品名エバール(グレード名F101)、エチレン共重合モル比率44%)で構成し、厚さを20μmとした。第四層は、変性ポリオレフィンであるエチレン無水マレイン酸共重合体(三井化学(株)製の商品名アドマー、密度0.890g/cm、MFR=5.7)で構成し、厚さを20μmとした。
【0022】
最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を50重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3725E、密度0.890g/cm、融点144℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を40重量%含有)を50重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
[実施例2]
最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を30重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3725E、密度0.890g/cm、融点144℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を40重量%含有)を70重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0023】
第一層、第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
[実施例3]
最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を10重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3725E、密度0.890g/cm、融点144℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を40重量%含有)を90重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0024】
第一層、第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
[実施例4]
最内層の第一層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を50重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3725E、密度0.890g/cm、融点144℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を40重量%含有)を50重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0025】
最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を50重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E、密度0.890g/cm、融点143℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を50重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0026】
第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
[実施例5]
最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を30重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E、密度0.890g/cm、融点143℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を70重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0027】
第一層の構成及び厚さは実施例4と同一とし、第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1、4と同一とした。
[実施例6]
最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を10重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E、密度0.890g/cm、融点143℃、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を90重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0028】
第一層の構成及び厚さは実施例4と同一とし、第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1、4と同一とした。
[比較例1]
最内層の第一層と最外層の第五層を、それぞれポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を100重量%として構成し、それぞれの厚さを115μmとした。
【0029】
第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
[比較例2]
最内層の第一層と最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を50重量%、スチレン系ブロック共重合体((株)クラレ製の商品名ハイブラー7125、密度0.90g/cm、ガラス転移温度−15℃、MFR=4.0)を50重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0030】
第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
[比較例3]
最内層の第一層と最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を30重量%、スチレン系ブロック共重合体((株)クラレ製の商品名ハイブラー7311、密度0.89g/cm、ガラス転移温度−32℃、MFR=2.5)を70重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0031】
第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
[比較例4]
最内層の第一層と最外層の第五層を、ポリプロピレン(三井化学(株)製の商品名F−327、密度0.90g/cm、MFR=7.0)を10重量%、スチレン系ブロック共重合体(三菱化学(株)製の商品名ラバロンME6301C、密度0.90g/cm、硬度60(JIS−A)、MFR=0.7)を90重量%とで構成し、厚さを120μmとした。
【0032】
第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例1と同一とした。
《実施例1〜6及び比較例1〜4に関する薬液バッグの落下試験》
上記実施例1〜6及び比較例1〜4の多層フィルムのインフレーションチューブの開口を、シール温度180℃、シール時間2.5秒の設定条件でヒートシールして幅7mmのシール部11、12を形成し、容器サイズ200mm×300mmの密閉バッグを作製した。更に、密閉バッグ内への薬液の注入部や排出部となるポート部13を熱熔着し、薬液バッグ10(薬液容器)を作製した(図2参照)。
【0033】
そして、作製した各薬液バッグ10に、それぞれにポート部13から水を1リットル充填し、5℃で24時間保存後に、高さ1mの距離から落下させて落下試験を行った。落下試験について目視で検査確認した結果、表1から明らかなように、比較例1〜3はシール部の際に沿って多層フィルムに亀裂が生じ内容液が拡散し、比較例4は多層フィルムの内面同士が膠着して膠着部分が剥離不能になってしまったのに対し、実施例1〜6には異常が認められなかった。尚、実施例1〜6の薬液バッグは、日本薬局方のプラスチック製医薬品容器試験法の溶出物試験にも適合する。
【0034】
【表1】

従って、本発明の多層フィルムによる薬液バッグが高い耐衝撃性や低温強度を有することが分かる。
【0035】
次に、本発明の多層フィルムの実施例7、8と、透明性に関して実施例7、8のHAZE値の測定結果について説明する。
【0036】
3種五層水冷インフレーションフィルム成形機で、下記実施例7、8の第一層〜第五層で構成される多層樹脂フィルムのインフレーションチューブを成形した。尚、成形条件は、押出機の設定温度を第一層1と第五層5:200℃、接着層である第二層2と第四層4:205℃、第三層3:205℃、フィルム引取速度:10m/分、折り径300mmとし、又、後述する第一層1の原料樹脂と第五層5の原料樹脂にはドライブレンドしたものを用いた。
[実施例7]
最内層の第一層を、ポリプロピレン(住友化学(株)製の商品名FH3711A、密度0.89g/cm、MFR=2.5)を10重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E1、密度0.890g/cm、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を90重量%とで構成し、厚さを130μmとした。
【0037】
第二層は、変性ポリオレフィンであるエチレン無水マレイン酸共重合体(三井化学(株)製の商品名アドマー、密度0.91g/cm、MFR=3.0)で構成し、厚さを25μmとした。第三層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH、(株)クラレ製の商品名エバール、密度1.19g/cm、MFR=3.8)で構成し、厚さを20μmとした。第四層は、変性ポリオレフィンであるエチレン無水マレイン酸共重合体(三井化学(株)製の商品名アドマー、密度0.91g/cm、MFR=3.0)で構成し、厚さを25μmとした。
【0038】
最外層の第五層を、ポリプロピレン(住友化学(株)製の商品名FH3711A、密度0.89g/cm、MFR=2.5)を10重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E1、密度0.890g/cm、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を90重量%とで構成し、厚さを100μmとした。
[実施例8]
最内層の第一層を、ポリプロピレン(住友化学(株)製の商品名FH3711A、密度0.89g/cm、MFR=2.5)を30重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E1、密度0.890g/cm、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を70重量%とで構成し、厚さを130μmとした。
【0039】
最外層の第五層を、ポリプロピレン(住友化学(株)製の商品名FH3711A、密度0.89g/cm、MFR=2.5)を30重量%、エチレン−プロピレンブロック共重合体(住友化学(株)製の商品名エクセレンEPX3721E1、密度0.890g/cm、MFR=2.5、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%含有)を70重量%とで構成し、厚さを100μmとした。
【0040】
第二層、第三層、第四層の構成及び厚さはそれぞれ実施例7と同一とした。
《実施例7、8に関するヘーズ値の測定結果》
上記実施例7、8に関し、JIS K 7136(プラスチック透明材料のHAZEの求め方)に基づき、HAZE値(濁度)を測定した。測定器にはNDH−2000(日本電色株式会社製)を用い、D65光源を使用した。実施例7の測定結果を表2に、実施例8の測定結果を表3に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

実施例7(ポリプロピレン:10重量%、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%で含むエチレン−プロピレンブロック共重合体:90重量%)の積層フィルムは、HAZE値が20.07〜22.18%の範囲となり平均値が21.29%、全透過率が87.39〜88.50%の範囲となり平均値は88.22%であった。実施例8(ポリプロピレン:30重量%、エチレン−プロピレンランダム共重合体を38重量%で含むエチレン−プロピレンブロック共重合体:70重量%)の積層フィルムは、HAZE値が17.59〜19.47%の範囲となり平均値は18.45%、全透過率は89.21〜89.45%の範囲となり平均値は89.30%であった。
【0043】
薬液容器は、容器内の内容液の色の変化の検知や異物の検知のために透明性が重要であり、薬液容器に用いる積層フィルムとしては一般的にHAZE値は30%以下、全透過率は85%以上であることが求められる。実施例7、8はHAZE値の最大値が22.18%、全透過率の最小値が87.39%であるため、何れも前記HAZE値と全透過率の要求基準を十分に充足する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の多層フィルムは、例えば薬液容器等を形成する素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の多層フィルムの実施形態を示す部分縦断面図。
【図2】実施例の薬液バッグを示す平面図。
【符号の説明】
【0046】
1 第一層
2 第二層
3 第三層
4 第四層
5 第五層
10 薬液バッグ
11、12 シール部
13 ポート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最内層の第一層をポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体、第二層を変性ポリオレフィン、第三層をエチレン・ビニルアルコール共重合体、第四層を変性ポリオレフィン、最外層の第五層をエチレン−プロピレン共重合体若しくはポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体で構成することを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
第一層と第五層若しくは第一層若しくは第五層のエチレン−プロピレン共重合体を、結晶性ポリプロピレン部分とエチレン−プロピレンランダム共重合体部分とを有するエチレン−プロピレンブロック共重合体とし、該エチレン−プロピレンランダム共重合体を第一層若しくは第五層の重量に対して40重量%未満とすることを特徴とする請求項1記載の多層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−224482(P2006−224482A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41680(P2005−41680)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(502038989)中栄物産株式会社 (19)
【Fターム(参考)】